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国際援助計画手法を参加型授業に 活用して

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国際援助計画手法を参加型授業に 活用して
国際交流学習の成功の秘訣
国際援助計画手法を参加型授業に
活用して
― 教育PCM手法によるコミュニケーション力育成からのアプローチ ―
武 田
抄
録
正 則
析し,解決策を探り,その実施計画をプロジェクトとし
国際援助計画に用いられる PCM 手法の参加型ワークシ
て形成する。これは問題解決型のアプローチといわれて
ョップを授業に活用し,問題解決 のための技法・手法を
いる。ODA や NGO 等の援助分野では,一般的に広く(1996
生徒に習得させる。これにより,コミュニケーション能
年以降)用いられ,途上国の地域における問題から,組
力を育成し,広く国際感覚を養う。
織内部の問題まで,多くの状況で活用されている。きわ
<キーワード>
めて視覚的な手法であるため関係者が一堂に会してプロ
国際援助計画,参加型授業,PCM ワークショップ,
ジェクトを計画する手法としての 認知度が高く,コミュ
コミュニケーション能力,ナラティヴ・ストリー
ニケーションおよびプレゼンテーション ・ツールとして
も優れている。複雑なプロジェクトの構成を一目で理解
1
はじめに
私は,ジャマイカの教育プロジェクトに,調査官およ
び JICA 専門家として3年間従事 した。このプロジェクト
させる手段としても広く用いられている。このような利
点を持つ PCM 手法を教育分野に適用し,授業形態を確立
したいと考えている。(教育 PCM 手法) 4)
の立ち上げには,基礎・事前・長期・実施協議の計4回
の基礎調査が行われた。私が派遣された長期調査では,
国際援助計画手法である PCM(Project Cycle Management)
手法を用いて,ロジカルフレームワーク (以下,ログフ
レームと記す)というプロジェクトの計画概要表を作成
するのが主な任務であった。後に,作成された計画書を
もとにわが国の調査団長とジャマイカ国の教育大臣との
間で,R/D(Record of Discussion )というプロジェ
クトの仮契約が締結された。この計画書の中心的な内容
はたった一枚の表(ログフレーム)であった。これが,
その後5年間のプロジェクトの行方を決めたといっても
過言でない。帰国後,教育現場に復帰した私は,この論
理的な手法を教育分野 に適用できないかと 考え,「教育
PCM 手法」1) を 考案し,学校運営・授業マネジメントに活
用し,検証を重ねている。
2 国際援助協力に用いられている PCM 手法とは
3
PCM ワークショップ
本授業では PCM ワークショップ(教育 PCM 手法による
ワークショップ)を用い,7つの行程(STEP1∼7)で順
次進めていく。
① STEP1
学習者(関係者)分析
学習者の先行知識・経験・関心等について 強制連結法
を 用いて,クラスを班分けする。この強制連結法は発端
部と帰結部の2つの異なるキーワードを与え,途中に関
連するスキーマ(概念:カード内容)を挿入しながら2
つのキーワードをリンクすることにより ,学習者のレデ
ィネスを測定するフロー形図解法 である。
② STEP2
問題分析
中心問題(望ましくない状況)を解決するために行わ
れ,現状における 問題を因果関係 (原因−結果)で整理
し,わかりやすく
ロジックツリー
結果
中心
問題
とは,プログラム・セオリーに裏付けら
(問題系図)に整
れたログフレームを中心にする評価プログラムである。
理する。学習者が
この手法は,参加型計画手法とモニタリング・評価手法
カードに自分の意
の2つから構成される。特に,参加型計画手法は現状に
見を書き,因果関
おける問題を特定し,ロジックツリーを用いて原因を分
係が成立するようにスキーマを整理する。
PCM 手法
TAKEDA
2) 3)
5)
原因
∼でない
リンク
スキーマ
図1 問題系図
図1
問題系図
Masanori:山形県立東根工業高校(山形県東根市中央 西 1-1)
- 13 武田正則:国際援助計画手法を参加型授業に活用して
③ STEP3
目的分析
表1
中心目的(望ましい状況)と,その状態に導くための
手段−目的の関係をわかりやすくロジックツリー(目的
系図)に整理する。
これにより,具体的
な方策を検討する。
一般的に,問題系図
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ログフレーム
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中心
目的
目的
∼である
手段
リンク
スキーマ
のスキーマは否定的
図2 目的系図
図2
目的系図
な内容になっている
ため,これを肯定的な内容に置き換え,目的系図とする。
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? ? ?? ? ? ? ? ? ?
ただし,手段−目的の関係に不都合が生じた場合には,
学習者の了解を得な
がら意見を集約し,
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選択された
アプローチ
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中心
目的
調整をする。
④ STEP4
プロジェ
⑥ STEP6
クト選択
プロジェクトの各活動に関して,期待される結果・ス
目的分析で出され
たスキーマを目的に
ケジュール・責任者・実施者・必要となる資機材・経費
図3
図 3 プロジェクト選択
プロジェクト選択
従い分類する。各分類に特徴を生かしたアプローチ名を
つけ,その中から最優先すべきアプローチ案を選択する。
⑤ STEP5
活動計画表
ログフレーム作成
プロジェクトが選択されたら,スキーマ の配置からロ
グフレームのプロジェクト要約に落とし込む。指標を設
等,具体的な作業行程を示す。
⑦ STEP7 発表会(プロポーザル型)
班ごとに発表を行う。発表は 10 分程度の短いプレゼン
テーション を行う。内容は,(a)アプローチの数・内容,
(b)選択されたアプローチ,(c)ログフレーム の3つに絞
り,メンバー全員で発表する。
定し,具体的な活動内容を書き込む。
4
実践例紹介
●[現状と対応策]
― コミュニケーション実践学(学校設定科目)―
本校では学校設定科目として「コミュニケーション実
践学」を設定している。その理由は,
「教育目標の具現化
であり,問題を解決できる生徒を育てるために,すべて
の教科に共通するコミュニケーション能力の育成を目指
す」という方針による。
一般的に,学校
の現状として,生
図4
ロジックツリーからログフレーム
徒の主体性・コミ
ュニケーション能
コミュニケーション実践学
(学校設定科目)
PCMワークショップ
の活用
ログフレームはプロジェクトが有する複数の目標を階
力は薄くなりつつ
層別に表示したマトリクスである。各欄は互いに関連し
ある。教師の指示
ているため,1つの欄の内容変更 は,他の欄の内容変更
待ち状態,あるい
に連鎖する。
「上位目標」はロジックツリーの中心目的で
はいわれたことだ
あり,
「プロジェクト目標」は中心目的の下位のスキーマ
けやるという会話
になる。プロジェ クトのインパクトを示す「上位目標」,
を持とうとしない
直接目標を示す「プロジェクト目標」,戦略を示す「成
態度をとる生徒も増えてきた。本授業では,PCM ワーク
果」,主要な活動を示す「活動」から構成される。
ショップを活用し,生徒に討議の方法・手法を習得させ,
- 14 学習情報研究 2007.3
主体性
批判的思考力
論理的思考力
討議力
伝達表現力
図6 本研究の3段階構成
本研究の3段階構成
図5
コミュニケーション能力の育成を目指す。
【問題3】 ロジックツリー(問題系図)を作りましょう。
●[授業マネジメント]
[解答例]
授業マネジメント[授業設計(P)
・模擬授業(D)
・授業
評価(S)]で計画し,実施をする。
(1)授業設計(PLAN)[単元の学習指導計画 ]
①
指導目標
PCM ワークショックを行い,コミュニケーション 能力
を主体性,討議力,批判的思考力,論理的思考力,伝達
表現力の観点から養う。
②
図6
ロジックツリー(問題系図)
指導内容
PCM ワークショップを行い,課題解決学習(イソップ
物語の継続物語の作成授業)をする。
③
【問題4】 ロジックツリー(目的系図)を作りましょう。
[解答例]
教材(開発)
イ ソ ッ プ 物語
「キツネ とブド
ウ」の継続物語を
考えるテキストを
自作する。また,
「コミュニケーシ
図7
ロジックツリー(目的系図)
ョン実践学」(ぎ
ょうせい)を副読
本として使用する。
【問題5】
写真
PCM ワークショップ
プロジェクトの選択をしましょう。
[解答例]
(2)模擬授業(DO)
[PCMワークショップ による課題解決学習]
①
調査対象
本校3年生1クラス 36 名,各班6名を対象に実施する。
②
授業内容
自作テキストを用い,手順に従いながら PCM ワークシ
図8
プロジェクト選択
ョップを行う。これにより,学習者のコミュニケーショ
ン能力を育成する。なお,準備知識(宿題)として,キ
【問題6】
ツネの習性,ブドウの特徴等を調べさせる。
[解答例]
[授業内容]
表2
ログフレームを作りましょう。
ログフレーム(キツネとブドウ)
【問題1】 次のイソップ物語を読みましょう。
キツネとブドウ(酸っぱい葡萄)
お腹をすかしたキツネがブドウ棚の下にやってきて,
ブドウを取ろうと,飛び上がりました。けれど,何度
やっても,とどきません。キツネはブドウをにらみつ
け,「まだ,酸っぱくて,食べられやしないのさ。」と
負けおしみを言って,立ち去りました。ほんとうは,
うれて甘いブドウ なのに・・。(教訓:自分に能力が
ないのをたなにあげて,負けおしみをいう人がいる。)
【問題2】
プロジェクト内容を理解しましょう。
上記(イソップ物語「キツネとブドウ」)のブドウを取
ることの 失敗を踏まえ,キツネが,空腹を満たすプロ
ジェクト(企画)を考えます。
中心問題は「キツネはお腹がすいている」とします。
- 15 武田正則:国際援助計画手法を参加型授業に活用して
【問題7】
活動計画表を作りましょう。
[解答例]
はこのような面がある(自尊感情)」という気づきを促し,
表3
意識しないうちに,自分という人間を再発見することな
活動計画表(キツネとブドウ)
どが挙げられる。また,学習者はこの授業プロセスによ
り,計画をより論理的に高めて行く過程を身をもって体
験できる。
(2) ナラティヴ・ストリー的な考え方
ログフレームの欄である「プロジェクト要約」は英語
【問題8】
プロポーザル型発表をしましょう。
発表は要点を押さえた短いプレゼンテーションを各班
で行う。学習者は“同じ物語を扱ったのに,なぜ違いが
生じたのか,自分たちの班とどこが異なるのか”などを
吟味する。発表後,各班のログフレームを教室に掲示し,
よいログフレームを参加者全員で審査(投票)する。
(3) 授業評価 (SEE)
評価は次の3点を中心に行う。
① 自己評価(アンケート)
学習者自身が目に見える結果だけでなく,参加者の目
で「Narrative Summary」と訳される。このナラティヴの
意味は,
「客観的かつ絶対的な事実とは存在せず,それを
語る人間によって ,物語(Story)が構築される」と捉え
られる。つまり,途上国の援助においても絶対的に正し
い援助はなく,さまざまな 分野の援助が積み重なって社
会を順次発展させるという考えになる。このような考え
から,我が国の援助は物質供給援助から,自立発展性
(Sustainability)を重視したコンサルタント型の援助
が増えつつある。
本授業モデルは思考ツールであるロジックツリーを用
い,よく知られている教材(イソップ物語)を通して,
に見えにくい成果を評価する視点から重要である。
次のプロジェクト(企画)を論理的に考えることをテー
② 集団的評価(アンケート・投票)
マにした。このような授業は,途上国の発展・援助のあ
教室に掲示した各グループのログフレームを学習者全
員で審査(投票)する。また,授業のアンケートをとる。
り方を理解する上で意義があり,創造的思考,マネジメ
ント手法の理解も加味した新しい学習形態といえる。
③ 個人的評価(観点別学習評価 )
観点別学習評価(関心・意欲・態度/思考・判断/技
能・表現/知識・理解)を行う。
以上の3つの評価を総合し,教師が生徒に適確な助
言・支援をする。
5
まとめと整理
(1) PCMワークショップの効果
情報化と多様化が進む現代において,「個人の尊重」
6
おわりに
国際的にも認められている PCM 手法を通して,問題お
よび対応方法の確認,現実的な行動範囲 ,アクションプ
ラン作成という一連の行程・手法を生徒が習得すること
は,問題解決・集団意志決定の方法を理解させることに
なり,国際感覚が養われる。
このような授業が,最も身近な,どこの学校でもでき
る国際交流学習と考える。
(スキーマ)と「コミュニケーションによる創造」(リン
ク)を同時に達成する能力が求められている。自分を知
【参考文献・URL】
り,お互いの多様性を尊重しながら,共に,新しい価値
1)武田正則,『教育 PCM 手法を活用した評価プログラ
を創造する精神が社会通念とならなければ,社会の発展
ム』,日本教育情報学会
は望めないのではと思われる。
第 22 回年回論文集, pp112-115,2006
この精神を具現化する1つの方法がワークショップ
2)FASID,
『PCM 手法の理論と活用』,PCM 読本編集委員
(Workshop)による学習形態と考える。ワークショップ
会,2001
は,「工房」「作業場」等,協働で何かを作る場所を意味
3)PCM-Tokyo
する。課題解決策としての意味合いが強く,相手の考え
4)武田正則,
『教育 PCM 手法を活用したプロポーザル型授
を理解するなど多面的な見方ができ,学習者に気づき(メ
業モデルの開発研究』山口大学,山口大学教育実践総
タ認知を含む)を促し,最終的に問題の最適解を全員で
見つけようとする意図を持つ。この学習効果は,自然に
コミュニケーションを図れるようになること,「自分に
- 16 学習情報研究 2007.3
http://pcmtokyo.tripod.com/
合センター研究紀要第 22 号,pp1-16,2006
5)林德治,『強制連結法を活用した大学の授業設計』,
日本教育情報学会 第 19 回年回論文集,pp15-24,2003
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