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生理活性物質 - 成和脳神経内科医院

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生理活性物質 - 成和脳神経内科医院
生理活性物質
「生活リズム」を乱す要因の1つ
Migraine
成和脳神経内科医院
田草川
良彦
生理活性物質
「生活リズム」を乱す要因の1つ
目次
はじめに
第1章
痛みの発生機序
第2章
生理活性物質
第3章
脂肪酸由来物質の「エイコサノイド」
第4章
現代栄養学からみた生理活性物質
第5章
生理活性物質のバランスをとるために
第6章
健康の鍵・油の摂り方
はじめに
前回は、セロトニンには”生理活性物質”と”神経伝達物質”の2つの役割が
あることを述べました。そして、セロトニンの場合は、”神経伝達物質”とし
ての脳内セロトニンが片頭痛の場合には、とくに重要であると述べました。
”生理活性物質”には、セロトニンだけではなく各種のものがあり、慢性頭
痛とくに片頭痛発症要因として、脂肪酸由来物質(エイコサノイド)があり
ます。これは、頭痛だけでなく、痛み全般の発症要因ともなるものです。
慢性頭痛を引き起こす基本的な要因として、
「ホメオスターシスの乱れ」、
「体
の歪み(ストレートネック)」、「ミトコンドリア」がありますが、このなかの
「ホメオスターシスの乱れ」の原因となるもののなかには、自律神経系の調
節には、”セロトニン神経系”が関与し、内分泌系は”ホルモン”と”生理活
性物質”が関与し、免疫系には”腸内環境”が重要な位置を占めています。
この内分泌系の要因として、”生理活性物質”としての脂肪酸由来物質(エ
イコサノイド)があります。
脂肪酸由来物質(エイコサノイド)は、必須脂肪酸のオメガ3とオメガ6
で作られ、この摂取バランスがよくないと、局所ホルモンのエイコサノイド
・プロスタグランジンのバランスを乱すことになります。必須脂肪酸は生体
膜(細胞膜)を構成しており、オメガ3とオメガ6の摂取バランスがよくな
いと、ミトコンドリアの機能・セロトニン神経系の機能にも影響を及ぼし、
結果的に、細胞機能のバランスを欠くことになります。
今回は、脂肪酸由来物質(エイコサノイド)を中心に述べることにします。
これまでの臨床頭痛学では、このような”生理活性物質”の観点から論じら
れることは全くありません。このため、このような立場から食事摂取上の注
意点が言及されることは皆無でした。
今後、このような観点から、「臨床頭痛学」は見直す必要があると思い、今
回は取り上げてみることに致しました。
第1章
痛みの発生機序
どうやって痛みが起こるの?
痛みのメカニズム
「痛み」の定義
痛みは,傷や心が絡み合って脳が感じています。
「痛み」は単純な反射的感覚ではなく、心の動きや情動を伴った苦しみ、
不安など、ヒトが「感じる」体験だと考えられています。
(国際疼痛研究学会(International Association for the Study of Pain ; IASP)
ヒトは痛みを感じることで、自分の体を正常に維持し、細菌などの敵から
自己を守っています。しかし、痛みの原因は単なる炎症の反射ではなく、ヒ
トを取り巻く様々な環境因子や神経の反応で成り立っているのです。ですか
ら、炎症を抑えることで痛みを取
るだけの一般的な痛み止めでは、
ヒトが「感じている痛み」に、全
く効果がない場合があります。
その結果、効かない痛み止めを
大量に飲んでしまい、その副作用
の可能性を増加させるという、悪
循環に陥ってしまう可能性も!
痛み治療は、痛みの原因別に応じた治療が必要であり、痛み止め、神経ブロ
ック注射治療、抗うつ剤、医療麻薬、理学療法などを上手に組み合わせた、
総合的な治療方法を行う必要があるのです。
痛み治療の基礎となる「痛み」のメカニズムを説明し、皆さんに一番馴染
-1-
みのある炎症を抑える痛み止めについてお話します。痛みの原理を理解する
ことは、積極的に痛み治療に取り組むヒントになり、治療成績を向上させる
可能性があります。上手な痛み止めの使い方ができるようになれば、痛み止
めの乱用を防ぎ、その副作用を減少できます。
痛みのメカニズム・役割
痛みの原因は、大きく
以下の 4 つに分けられま
す。
■ 傷から末梢神経を通
じて脳へ伝えられる痛み
膝 を すりむいたり、熱
いヤカンに触れたときの
痛みなど。外傷。
■ 末梢神経そのものの痛み
帯状疱疹後神経痛、糖尿病によるシビレや痛みなど。外傷はないが、神経そ
のものが原因で起きる。(片頭痛の場合もそうです)
■ 心因性の痛み
神経や体には問題があまりないのに感じる痛み。心理的な問題、社会的要
因など、多くの要素で成り立っている痛み。(精神的ストレスによる緊張型頭
痛の場合です)
-2-
■ 脳や脊髄の痛み
交通事故などで、脳や脊髄が損傷して感じる痛み。
一般的な「痛み」は、ほとんどが、傷から末梢神経を通じて脳に伝わった
痛みです。
まずは、痛み止めがなぜ効くかを理解するために、痛みの伝わ
り方について理解しましょう。
なぜ、ヒトは痛みを感じるのでしょうか?
例えば、ケガをした場合、最初に皮膚にある痛
みを感じるセンサーが反応します。このセンサー
は末梢神経線維の末端に存在し、切り傷や針で刺
された刺激、45 ℃以上の熱さ、15 ℃以下の冷た
さ、酸やアルカリなどの化学に反応します。この
センサーが感じた情報は、末梢神経を通って脊髄
神経に伝えられ、最終的に、脳で「痛み」として認識されます。脳はその情
報から、痛みの部位、鈍痛・鋭い痛みの質、痛みの強さを判定します。画ビ
ョウを間違って踏んだ時に、反射的に足をはねのける逃避行動を起こしたり、
鈍く重い痛みを苦々しく感じたりすることも、この情報伝達がもととなって
います。
次に、「痛い」と感じている傷の場所では、どういう現象が起こっているの
でしょうか?
1. 傷や熱、酸・アルカリの刺激を受けると、細胞が傷つきます。
2. 傷ついた細胞から、カリウムが放出されます。それがきっかけとなり、痛
みを感じやすくするプロスタグランジンやロイコトリエンといった、体の働
-3-
きを調節する物質が作られます。
3. 神経からは、サブスタンス P という痛み増強物質が放出されます。サブス
タンス P によって、傷の痛みや腫れ、赤みなどが増強します。
4. また、血液中の肥満細胞からはセロトニン、血小板からはヒスタミンとい
った、さらなる痛み物質が誘発されます。
5. 痛みセンサーはますます興奮し、痛みが拡大します。
拡大した「痛み」情報は、体の損傷や不具合を脳に伝えられ、その対策を
立てるよう脳に促します。痛みがある時には、自然と安静を取り、冷やして
炎症を抑えようとするのは、痛みを感じ取った脳が傷を癒すアクションを起
こしているからなのです。
組織が損傷を受けた時、細胞膜にあるリン脂質はアラキドン酸に変わり、
シクロオキシゲナーゼ(COX)の作用によってプロスタグランジンが生成され
ます。このプロスタグランジンの作用によって引き起こされる「痛み、熱、
腫れ」などの症状が引き起こされる現象を炎症といいます。一方、組織損傷
時に血漿から遊離したブラジキニンは、知覚神経を興奮させることにより、
-4-
痛みを発生させます。プロスタグランジンは、ブラジキニンと比較して直接
的な発痛作用は弱いのですが、ブラジキニンによる発痛を増強させます。こ
のように疼痛は両者の関わりから起こります。
発痛物質には、ブラジキニン、セ
ロトニン、ヒスタミン、アセチルコ
リンなどがありますが、その中で最
強とされるのはブラジキニンです。
セロトニンは皮膚や筋肉に分布する痛覚受容器に作用して痛みを起こしま
す。
セロトニン濃度が低いと、物理的刺激や他の発痛物質(たとえばブラジキ
ニン)の発痛作用を増強します。
セロトニンの濃度を急に低下させるものはすべて頭痛を起こし、その際、
絶対的な濃度よりも、減少のスピードが重要となってきます。
プロスタグランジンの合成量を左右しているのは細胞膜にある脂肪酸(リ
ン脂質)からのアラキドン酸の遊離の程度によります。
細胞に物理的な刺激が加わった場合や炎症などはアラキドン酸が遊離する
きっかけとなるため、いったんプロスタグランジンが産生され、炎症が起き
ると、アラキドン酸の遊離が促進され更にプロスタグランジンが産生される
という悪循環が生じることになりま
す。
これは雪球を坂の上からころがした
時にたとえる事が出来ます。、はじめ
は小さな雪球でもころがっていくうち
にだんだん大きくなっていきます。お
そらく、小さなうちには簡単に止める
ことが出来るのでしょうが、大きくなり勢いのついた状態では止めようとし
ても逆に押し潰されてしまうかもしれません。
-5-
炎症の初期にプロスタグランジンの産生をしっかりブロックすることは、
痛みを悪化させないための重要なポイントです。プロスタグランジンの原料
になるのは食物の中に含まれる脂肪です。脂肪は蛋白質、糖質と並んで重要
な栄養素ですが肥満をはじめとして動脈硬化や乳癌の発生に密接に関与して
いることが知られており、あまり良いイメージはないようです。
このように、脂質というとダイエットの大敵のイメージがありますが、実
際には体内で体の構造成分となったり、ホルモンの原材料として重要な役割
を担っています。普段食べているバター、サラダ油、豚や牛の脂肪、魚の油
などの油脂(中性脂肪)の栄養学的な性質を決めているのは脂肪酸といわれ
る物質です。「コレステロール上昇予防に植物油がいい」という宣伝もこの脂
肪酸の種類のことを言っているのです。
脂肪酸には大きく分けて飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸があります。
その中でも必須脂肪酸は動物の体内ではほとんど合成がされず、食事から
摂る必要がある栄養素です。必須脂肪酸が欠乏したネズミでは皮膚からの水
の漏出、成長の停止、生殖機能低下などが起きることが知られています。
動物性脂肪には飽和脂肪酸が多く含まれ、たくさん食べるとコレステロー
ル値を上げ、動脈硬化や心臓病の原因になることが知られています。不飽和
脂肪酸は植物油や魚に多く含まれ、コレステロール値を下げるので良い言わ
れています。ところが植物油信仰も過信しすぎると落とし穴があります。
植物性脂肪は不飽和脂肪酸を多く含むと述べましたが大きく分けて3つの
系統に分類されます。
一価不飽和脂肪酸
オレイン酸に代表されます。オリーブ油に多く含まれ、動脈硬化を促進す
る LDL を下げ、動脈硬化を予防する HDL を上昇させる作用を持っています。
オメガ6系統多価不飽和脂肪酸
-6-
リノール酸に代表されます。サ
フラワー油、紅花油、ひまわり油
に多く含まれ LDL も HDL も共に
減らしてしまう作用があります。
体内でアラキドン酸となり生理痛
の原因物質であるプロスタグラン
ジンの原料となります。またアレ
ルギーや喘息発作に関与するロイ
コトリエンの原料ともなると言わ
れており、過剰摂取には注意が必要です。
オメガ3系統多価不飽和脂肪酸
α-リノレン酸→魚の脂肪に多く含まれエイコサペンタエン酸(EPA)やドコ
サヘキサエン酸(DHA)に代謝されます。EPA や DHA の動脈硬化、心筋梗塞
予防効果はしばしばマスコミでも耳にしますが、これらの n-3 系列の必須脂
肪酸は n-6 系列の脂肪酸が細胞に取り込まれるのを阻害したり、プロスタグ
ランジン合成酵素の働きを邪魔することが知られています。
オメガ3系多価不飽和脂肪酸であるα-リノレン酸、エイコサペンタエン酸
はリノール酸、アラキドン酸がプロスタグランジン、ロイコトリエンなどの
エイコサノイドに変換することを競合的に阻害することが知られています。
EPA 由来エイコサノイドは生理活性が弱いので、プロスタグランジンの産生
過剰による症状を抑制すると考えられます。
プロスタグランジンがたくさん出来ないように工夫することは痛みの治療
にとって重要です。そのためにプロスタグランジンの合成を阻害する鎮痛剤
-7-
やピルなども使用するのですが、食生活を工夫することによってプロスタグ
ランジンの過剰な産生をコントロールすることも有効と考えられます。具体
的には魚を積極的に食事に取り入れる、衣の厚い揚げ物は減らすなどを工夫
を続ける事が良いと思います。
痛み止めの仕組み
普段、皆さんが病院や薬局で処方される痛み止めは、ほとんどが非麻薬性
鎮痛薬(NSAIDs)です。代表的な薬には、ロキソニン、ボルタレン、ロピオ
ン、アスピリンなどがあります。
痛み止めの作用
痛みセンサーを興奮させ、痛みを引き起こす痛み物質には、カリウム、セ
ロトニン、ブラジキニン、ヒスタミンなどがあります。一方で、痛みセンサ
ーを直接には興奮させず、痛み物質の作用を強める物質があります。サブス
タンス P、ロイコトリエン、プロスタグランジンなどがあげられます。非麻薬
-8-
性鎮痛薬(NSAIDs)は、このプロスタグランジンを作りにくくすることで、
痛み止めの効果を発揮します。
シクロオキシゲナーゼ(COX)はアラキドン酸を原料としてプロスタグラン
ジンを合成します。
しかし、シクロオキシゲナーゼ(COX)に
よって合成される物質はプロスタグランジン
以外にもトロンボキサン A2(TXA2)という
物質もあります。
このトロンボキサン A2(TXA2)の重要な
作用としては血小板凝集作用があります。つ
まり、血液が固まりやすくなります。
そのため、シクロオキシゲナーゼ(COX)
を阻害することによってトロンボキサン A2
(TXA2)の合成を抑制することができれば、血小板凝集を抑えることができ
ます。
このようにして、片頭痛の引き金となる”血小板凝集を抑える”ことがで
きます。
非ステロイド性抗炎症薬 NSAID の主作用であるシクロオキシゲナーゼ
(COX)活性阻害作用にあり、これによって鎮痛効果を発揮しています。
こうしたことから非ステロイド性抗炎症薬 NSAID の有効性を最大限に引き
出すためには、食生活を工夫することによってプロスタグランジンの過剰な
-9-
産生をコントロールすることが重要であるということを意味しています。
このようにして、食生活上の問題から、非ステロイド性抗炎症薬 NSAID
の効果を十分に引き出させることなく、これが過剰な服用に繋がり、このよ
うな薬剤そのものは、本来、私達の体には異物そのものであり、これを代謝
・解毒させるには大量の活性酸素を発生させ、このためにミトコンドリアの
働きを悪化させることになります。
さらに、過剰に服用された非ステロイド性抗炎症薬 NSAID は”化学的ス
トレス”となり、「脳内セロトニンの低下」をもたらすことによって「痛みを
感じやすく」させることによって、頭痛を誘発してくるものと考えるべきで
す。
これとは別に、「頭痛」の観点から「痛み」を考えてみましょう。
”痛み”とは、いわば”火災警報”
痛みとは、そもそも、体が、異常を私たちに
知らせるために発するものです。
- 10 -
もし、人間に痛みというものが無ければ、発病にはなかなか気づかず、気
がついたときには、もう手遅れということばかりになってしまうでしょう。
痛みは、大事なサインであり、警報なのです。痛みの根本原因を突き止め
られず、元々の原因の是正もせず、痛みだけを和らげる頭痛診療は、警報の
電源だけ切って、それでよし、とするものです。警報が知らせる深刻な事態
は、そのまま放っておくのですから、ますます悪化してしまい、結局のとこ
ろ「薬剤乱用頭痛」に至ってしまいます。
たとえば、火災が起きたときの火災警報が、痛みに当たります。火災警報
だけを止めてどうするのかということです。頭痛の大半を占める筋肉が原因
の緊張型頭痛では、筋肉がもうこれ以上、無理できないというので頭痛とい
う警報を出しているのです。この警報だけを止めると、筋肉にはさらに無理
な力が加わって、治すことがますます困難になります。
近年は、ペインク
リニックという、痛みをとることを専門にした診療科もあります。また、一
般の病院ではブロック注射がよく行われています。
適切な治療をすれば治るはずの病気に、ブロック注射を施すと、それ以上
無理が出来ず働けなくなった筋肉に痛みがなくなるために、さらに無理をか
けて、筋肉の状態はより重症となり、治しにくくなります。
(緊張型頭痛は中には、筋肉が原因でない精神的な要因が関与しているもの
が存在しますが、これは脳内セロトニンの低下によって起きてくるものです)
それでは、片頭痛の場合は、何のため
の危険信号なのでしょうか?
片頭痛は、何らかの引き金により、最
初に脳の一部に小さな興奮が起こり、徐々に周囲に拡大します(閃煇暗点な
ど)。そのままでは脳に障害が起こります。そこで、脳周囲の血管が拡張し血
流が増加します。脳に酸素と栄養を供給している血管が、脳への架け橋のグ
リア細胞を介し脳を守ると考えられます。脳の血管拡張は強い痛みを起こし
- 11 -
ますが、脳の障害を必死に守り、また危険信号を発しているとも考えられま
す。
片頭痛の場合、一般の鎮痛薬で痛みを抑えていると、一部の脳の活性が高
まり、そこにつながる血管が異常拡張して、痛みが生じ、血管の異常拡張が
さらに脳の活性をもたらし、それが再び血管の異常拡張へとつながり、つま
り、悪循環が終わらなくなると宣われ、それによって常に片頭痛がある状態
になり、血管の拡張が繰り返されると、血管自体に炎症やむくみが残って、
さらに頭痛を起こしやすくなるとされます。
こういった馬鹿な見解を一部の先生方は述べられ、極めて軽い片頭痛発作
でも「トリプタン製剤」を使用すべきと勧めておられます。
(薬剤乱用頭痛の根源になってきます。)
しかし、このような見解は、”何らかの引き金”によって、頭蓋内で起きた
現象を抑える目的で、痛み止めの代わりにトリプタン製剤が使われただけに
過ぎません。
「片頭痛体質(酸化ストレス・炎症体質)」を基盤として、”ちょっとした
こと”で(ストレスなど何らかの理由で)「活性酸素」や「遊離脂肪酸」が過
剰に発生することによって(これが何らかの引き金の本態です)、血小板が凝
集することによって、血小板から血管外へセロトニン(生理活性物質として
のセロトニンです)が放出され、血管を収縮させます。その後、役割を果た
したセロトニンは減少しやがては枯渇し、今度は逆に血管を拡張させます。
その作用機序そのものは、”鎮痛薬と大差はなく、多少効果のある薬剤”で
しかなく、結局は”対症療法”に過ぎません。何か、基本的に欠如した部分
が存在しています。
このように、多くの頭痛診療が、痛みを一時的にとることしか考えていな
いのは、その原因をよく”理解”していないからです。頭痛の専門家がこの
ようなことに気がつけば、頭痛医療は、飛躍的に実効性のある診療が行える
- 12 -
ずです。けれど、残念なことに、多くの頭痛の専門家はそのことに気づかず、
旧態依然の診察と鎮痛薬・トリプタン製剤の処方を繰り返すだけです。ここ
に、薬剤乱用頭痛を醸し出す要因があります。
片頭痛と緊張型頭痛は、明確に区別できるものではありません。その境界
に、どちらの特徴を持っていて、どちらとも区別できない頭痛がほとんどで
す。
頭痛には大別して2種類あります
頭痛を引き起こすものには大きく分けて、2つの原因があります。
それは、”脳の中に異常のある頭痛”と原因が”脳のなかに異常のない頭痛
”です。
脳の中に異常のある頭痛は、医学用語で「二次性頭痛」と呼ばれています。
この中には、クモ膜下出血や脳腫瘍や脳出血、慢性硬膜下血腫などの命にか
かわる頭痛もあります。
- 13 -
これに対して、”脳のなかに異常のない頭痛”があります。医学用語では「一
次性頭痛」(慢性頭痛)と呼ばれています。
これらには、緊張型頭痛、片頭痛、群発頭痛、その他の一次性頭痛があり
ます。
これらの一次性頭痛の大半(9割)は緊張型頭痛と片頭痛で占められてい
ます。
そして、緊張型頭痛も片頭痛も同じ病態(要因)から引き起こされ、一連
のものと考えるべき頭痛です。
ここでは、一次性頭痛の大半(9割)を占める緊張型頭痛と片頭痛につい
て、述べますが、これらを合わせて、慢性頭痛とも呼ばれています。
慢性頭痛は「生体のリズムの乱れ・歪み」によるものです
脳のなかに異常のない「慢性頭痛」は「健康的な生活」を送ることができ
ないことに根本的な原因があり、”慢性頭痛”とは、「不健康な生活を送って
いる」という生体の警告の信号”サイン”と考えなくてはなりません。
慢性頭痛を引き起こす原因として
1.「ホメオスターシスの乱れ」
2.「体の歪み(ストレートネック)」
3.ミトコンドリア
この3つの原因があります。このように慢性頭痛には”3つの柱”があり
ます。
このなかで1に関して、ここでは考えてみましょう。
- 14 -
「ホメオスターシスの乱れ」・・生体には”恒常性維持機構”があります
健康的な生活とは、生まれつき体に備わっている「生体リズム」に沿った
生活ということを意味しています。この生活のリズムは「ホメオスターシス」
によって維持され、体内時計により刻まれ、ミトコンドリア・セロトニンに
より制御されています。
経験的に、ストレスは慢性頭痛を増
悪させる原因と知られています。
そして、このストレスが、「ホメオ
スターシス」を乱す根源になります。
先程の「恒常性(ホメオスターシス)」
の維持には自律神経、内分泌系、免疫
系の 3 つの働きが深く関わっており、
それはストレスなどに大きく影響され
ます。例えば、ストレスは自律神経を
失調させ、内分泌系を乱し、免疫力も
低下させてしまいます。
「ホメオスターシス三角」を形成する3つのなかの、自律神経系の調節には、
”セロトニン神経系”が関与し、内分泌系は”ホルモン”と”生理活性物質
”が関与し、免疫系には”腸内環境”が重要な位置を占めています。
”セロトニン神経系”の機能低下に、生活習慣の不規則・ストレス・生理
周期や、“小麦、乳・乳製品、肉食に偏った食事”をとり続け、“運動不足”
が重なると「脳内セロトニンの低下」が引き起こされてくることになります。
今回取り上げる、内分泌ホルモンに相当する”生理活性物質”は、必須脂
肪酸のオメガ3とオメガ6で作られ、この摂取バランスがよくないと、局所
ホルモンのエイコサノイド・プロスタグランジンのバランスを乱すことにな
- 15 -
ります。必須脂肪酸は生体膜(細胞膜)を構成しており、オメガ3とオメガ
6の摂取バランスがよくないと、ミトコンドリアの機能・セロトニン神経系
の機能にも影響を及ぼし、結果的に、細胞機能のバランスを欠くことになり
ます。
”腸内環境”は、欧米型の食事に偏り、肉や脂肪・砂糖などを大量に摂取
すると、間違いなく腸内環境は悪化します。
また「ストレス」や「過労」も腸内環境に深刻な影響を与えます。「運動不
足」も問題です。さらには「抗生物質」などの化学薬剤も、腸内細菌に決定
的なダメージを与えます。
このように、この3つは、生活習慣とくに食生活・ストレスによって影響
を受けています。この「ホメオスターシスの乱れ」が慢性頭痛を起こしやす
い状態を作ってきます。
片頭痛は、約3割が自然に治癒し、約4割が症状は変わらず、残りの3割
が慢性化して増悪してきます。
自然治癒した3割は、ホメオスターシス、すなわち”恒常性を維持するた
めの「環境に対する適応力」により治癒したものです。
”セロトニン神経系””生理活性物質””腸内環境”の問題点が持続して存
在すれば、「ホメオスターシスの三角形」の”歪み”が継続され、4割の方々
が、症状が変わらない状態(発作がいつまでも繰り返される)が持続するこ
- 16 -
とになります。
すなわち、脳内セロトニンの低下を引き起こす生活習慣があったり、必須
脂肪酸のオメガ3とオメガ6の摂取バランスの悪い食生活があったり、腸内
環境を悪化させる要因が持続するような生活習慣が継続していることを意味
しています。
「ホメオスターシスの三角形」の”歪み”が継続された状態に、さらに「ミ
トコンドリアの問題」、「脳内セロトニンの低下」、さらに「体の歪み(ストレ
ートネック)」等々の慢性化の要因が加わることによって、2~3割の方々が
慢性化に至ってきます。
このように片頭痛は”未病”の段階にあり、緊張型頭痛を起点として、さ
まざまな生活習慣の問題点が重なることによって、
「いろいろな段階の片頭痛」
へと進行し、最終的に「慢性片頭痛」という難治な段階に至ることになりま
すので、常に自分の生活習慣に気を配り、何か問題があれば、その都度改善
に努める必要があります。このように進行性疾患です。
このように慢性頭痛とくに片頭痛は生活習慣病、そのものということです。
- 17 -
このため、片頭痛に至るまでに生活習慣の問題点が、それぞれどのように
関与しているかを具体的に知ることが重要になってきます。そして、このよ
うな生活習慣の問題点を改善・是正しないことには片頭痛を治すことはでき
ないということです。
このように、片頭痛・緊張型頭痛ともに同じ病態によって発症してきます。
これまで学会で論じられたことはといえば、生まれて初めて経験する極く
軽い頭痛から緊張型頭痛まで、これらはまさに取るに足らない頭痛として完
全に無視され、このような頭痛に対する「市販の鎮痛薬」の服用を野放しに
したことによって、ミトコンドリアの働きを悪くさせ、さらに「脳内セロト
ニン」の低下を引き起こさせる結果となり、これに様々な生活習慣の問題が
加わることによって、緊張型頭痛から片頭痛へと移行させることになります。
このように片頭痛の起点ともなるはずの極く軽い頭痛から緊張型頭痛を無
視することによって、原因を曖昧なものとさせてきました。
このことが、片頭痛の発症の起点を見失わせた結果、片頭痛を作り出し・
熟成させてきた根源と考えるべきものです。
生まれて初めて経験する極く軽い頭痛とは、こうした「生活のリズム」の
乱れから引き起こされた頭痛です。しかし、専門家にはこのような考え方は
ありません。
今回、取り上げる”生理活性物質”は、必須脂肪酸のオメガ3とオメガ6
で作られ、この摂取バランスがよくないと、局所ホルモンのエイコサノイド
・プロスタグランジンのバランスを乱すことになります。必須脂肪酸は生体
膜(細胞膜)を構成しており、オメガ3とオメガ6の摂取バランスがよくな
いと、ミトコンドリアの機能・セロトニン神経系の機能にも影響を及ぼし、
結果的に、細胞機能のバランスを欠くことになります。
- 18 -
このようなことから、最初に頭痛が起きた場合、安易に「市販の鎮痛薬」
を服用することなく、頭痛を緩和させる”スベ”を会得することが大切にな
ります。その上で先程の慢性頭痛を引き起こす原因が、あなたの生活習慣の
なかに存在しないかどうかを点検しなくてはなりません。このように根本的
に改善させておくことが重要になってきます。こうした要因はすべて、あな
たの生活習慣のなかにあります。
以上のようなことから、慢性頭痛の発症要因として、”生理活性物質”は、
必須脂肪酸のオメガ3とオメガ6で作られ、この摂取バランスがよくないと、
局所ホルモンのエイコサノイド・プロスタグランジンのバランスを乱すこと
になります。必須脂肪酸は生体膜(細胞膜)を構成しており、オメガ3とオ
メガ6の摂取バランスがよくないと、ミトコンドリアの機能・セロトニン神
経系の機能にも影響を及ぼし、結果的に、細胞機能のバランスを欠くことに
なることから、極めて重要な位置を占めております。
- 19 -
第2章
生理活性物質
生理活性物質とは、わずかな量で生き物の
生理や行動に何らかの特有な作用を示し、身
体の働きを調節する役割をもった物質のこと
です。例えばビタミンやミネラル、核酸、酵
素などがそうです。また、アミノ酸から作り
出されるホルモン、神経伝達物質、サイトカインなども生理活性物質のうち
の1つです。
生理活性物質は、体内でタンパク質やアミノ酸などから合成されます。ま
た、ある種のビタミンやミネラルのように体内で合成できないものは、食物
から摂取する必要があります。さらに、自然界に広く生息する微生物が、ヒ
トにとって有益な生理活性物質を作り出すことも知られています。アオカビ
の作り出す抗生物質ペニシリンなどはその代表的な例です。
私たちのカラダの中では、食べ物を分解したり、エネルギーを作り出した
-1-
り、侵入してきた敵から身体を守ったりなど、絶えず、さまざまな生命活動
が行われています。それらをうまく調節するために欠かせないのが生理活性
物質です。生理活性物質の主なはたらきには、次のようなものがあります。
生理活性物質が正常に働くことによって、細胞や臓器など、体内の各器官
が一定のバランスを保ちながら、健康な体を作り上げているのです。生理活
性物質が不足すると、それらの正常な機能は乱れ、さまざまな器官に疾患が
現れます。生理活性物質は、私たちのカラダがきちんと働くために欠かせな
い物質なのです。
生理活性物質の種類
生体調節物質(生理活性物質)には下記のように3つあります。
作用範囲
運命
神経伝達物質
狭い(20 ~ 30nm)
極めて短い(mm 秒単位)
オータコイド
中間(近傍の細胞)
中間(分単位)
ホルモン
広い(全身?)
長い(時間単位)
-2-
オータコイド(Autacoid)とは、動物体内で産生され微量で生理・薬理作用
を示す生理活性物質のうち、ホルモン(特定の器官で分泌され体液で輸送さ
れて他の器官に作用する)および神経伝達物質(シナプスでの情報伝達に与
る)以外のものの総称です。オータコイドは、身体に異常が加わったとき、
それに対処するように動員され、これが動員されること自体で新たな病態を
生じることがあります。次のようなものが知られています。
ヒスタミン
セロトニン
エイコサノイド(プロスタグランジンなど)・・脂肪酸由来物質
アンジオテンシン
ブラジキニン
一酸化窒素(NO)
また、サイトカイン(細胞から分泌され免疫応答や増殖など各細胞の機能に
作用する)を含めることもあります。
オータコイドは局所ホルモンとも呼ばれ、比較的局所にのみ働く傾向があり
ますが、ホルモンや神経伝達物質と厳密に区別されるものではありません。
アンジオテンシンやブラジキニンはホルモン的遠隔作用も持ちます。またセ
ロトニンは神経伝達物質としても働くことが知られています。機能としては
炎症・アレルギー反応(ヒスタミン、エイコサノイド)や平滑筋への刺激(セ
ロトニン、アンジオテンシン、ブラジキニン、NO)などがあります。物質と
してはアミン(ヒスタミン、セロトニン)、脂肪酸由来物質(エイコサノイド)、
ペプチド(アンジオテンシン、ブラジキニン)、ガス状物質(NO)に分けら
れます。NO は細胞内におけるセカンドメッセンジャーであるとともに、隣接
する細胞にも容易に拡散してオータコイドとして働きます。ヒスタミンやセ
ロトニンなどは細胞内に貯蔵されていて刺激に応じて細胞外に放出されます
-3-
(神経伝達物質と同様)が、その他のものは刺激に応じて合成されます。
この生理活性物質には、以下の大きな3つの働きがあります。
①炎症を悪くする、
②その炎症を調整する、
③それらの働きを抑制する
たとえば、血管を広げる生理活性物質があれば、それを収縮させる逆の作用
を持つもの、さらにそれぞれの作用を抑制するものが存在します。この3つ
がバランスよく保たれていれば何も心配ありませんが、バランスが狂ってし
まうと、「酸化ストレス・炎症体質」を形成してくる、ということになってし
まいます。
セロトニンの2つの側面
セロトニンは”生理活性物質”であり、”神経伝達物質”でもあるのです。
化学構造式から、生理活性物質として考える場合は「インドールアミン」
と呼ばれ、神経伝達物質として考える場合は「モノアミン」と呼ばれる傾向
があります。また、その構造式からの名称である 5-ヒドロキシトリプタミン
の略字として 5-HT とも表記されます。
セロトニンは、人体には、10mg 程度存在します。セロトニンの 90 %以上
は、腸(小腸)に存在します。小腸のエンテロクロマフィン細胞(EC 細胞)
が産生して放出したセロトニンを、血小板が、腸の血管内で取り込みます。
血小板(濃染顆粒)には、セロトニンの約8%が存在し、血小板が凝集する
と放出されます。消化管のセロトニンは平滑筋を収縮させ消化管運動を亢進
させます。血小板から放出されるセロトニンは血管を収縮させる働きがあり
ます。また、セロトニンは炎症のときの発痛物質(ブラジキニンなど)によ
る発痛作用(痛み)を増強させます。血液中のセロトニン(血小板に含まれ
-4-
るセロトニンなど)は、血液脳関門を通って、脳に移行することはありませ
ん。
これが、セロトニンの”生理活性物質”としての役割です。
セロトニンは、ストレスが高まると、神経終末からの分泌が増加し、セロ
トニンは中枢神経系にも生体内の 2 %程度と少ないですが存在し、「神経伝達
物質」として他の神経伝達物質のドーパミン(喜び、快楽)、ノルアドレナリ
ン(恐れ、驚き)の情報を制御し、精神を安定させる、重要な働きをしてい
ます。このように神経伝達物質としてのセロトニンは、不安感情、衝動、性
行動、食欲、体温などを調節を行っていると考えられています。
そして、慢性頭痛とくに片頭痛の発症に重要な位置を占めています。
セロトニンの大部分は「腸」で作られる
よく腸内環境は大事といわれていますが、その意味の一つとして「セロト
ニンの生成が行われているから」ということも考えられます。
脳に存在し、精神を安定させる神経伝達物質、セロトニンの 95 %が腸で作
られることが指摘されています。
なぜ大事にしたいかといいますと、常在細菌もトリプトファンからナイア
シン(ビタミン B3)をつくってくれるからです。常在細菌がナイアシンをた
くさんつくってくれれば、その分を体内でつくる必要がなくなって、脳内セ
ロトニン用の材料となるトリプトファンを余分に確保できるのです。
脳と腸は神経でつながっているので脳にしかないと思われているセロトニ
ンは腸にも存在します。
腸の状態が悪いとセロトニンもスムーズに分泌されないことが判明してい
ます。便秘や暴飲暴食による腸の疲労状態を改善することが、幸せかどうか
を感じることに大きく関係しています。
-5-
腸の疲労状態を改善することが、幸せかどうかを感じることに大きく関係
しています。
しかし、腸で作られたセロトニンが「脳関門」を通過できるのか? という
疑問が当然湧いてきます。
腸で生成されたセロトニンは、果たしてきちんと脳へと送り届けられるの
でしょうか?
中枢神経系においては、セロトニンそのものは血液脳関門を通過できない
ため脳内で合成されなければなりません。基本的に脳で使われるセロトニン
は、脳内で合成されます。
セロトニンのほとんどは腸で作られますが、脳のセロトニンは脳内で作ら
れ、また腸のセロトニンは脳の中に入れません。
ということは、腸のセロトニンと脳のセロトニン別物として考えなくては
なりません。
それでは「腸」でセロトニン増やしても無意味ないのではないか、という
-6-
ことになります。
脳に作用できないのであれば精神安定に対して有効に作用できないので
は?ということになりますが、答えはどうなのでしょうか。
腸の神経細胞は、独立したネッ
トワークで他の消化管と協調して
働いているととともに、他の臓器
にも直接司令を出す重要な器官
で、脳と同様に自律神経回路によ
って、神経細胞と神経細胞の間に
神経伝達物質を飛ばしながら情報
を伝達しています。
つまり、腸は脳とは別に全身の
自律神経を管理しているというこ
とになります。
脳と腸、両者が全身の神経を管理し合っているということです。
ホルモンのように(”生理活性物質”として)働き、消化器系や気分、睡眠
覚醒周期、心血管系、痛みの認知、食欲などを制御しています。
セロトニンは、脳内だけではなく、”生理活性物質”として、様々な体内機
能に関与していることが分かっています。
例えば、下痢や便秘などの大腸の不調は、自律神経を介して脳のストレス
になります。
つまり、ストレスの悪循環がおきやすいのです。
セロトニン云々関係なく、腸の状態は脳に反映されやすいので、腸内環境
の良し悪しは情緒の安定に必要不可欠なのです。。
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生理活性物質としてのセロトニン
血小板凝集との関与・・セロトニン
血小板は、小腸のエンテロクロマフィン
細胞が産生・放出したセロトニンを能動的
に取り込み、濃染顆粒に蓄えます。血小板
のセロトニンは、血小板が凝集すると放出
されます。
この血小板を凝集させる引き金が、「活性酸素」あるいは「遊離脂肪酸」で
す。
片頭痛の特徴である前兆や予兆は、血管の中にセロトニンが増加し、血管
が収縮した際に起きることがわかっています。目がチカチカしたり、過食に
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なったり、また肩が凝ったりという症状が起き、その後、セロトニンが枯渇
して血管が拡張したときに痛みが起きます。
神経伝達物質としての脳内セロトニン
神経伝達物質であるセロトニンは、広い意味で、以下のようにドーパミン、
ノルアドレナリンとの均衡関係を保っていますが、脳内セロトニンの低下は、
このバランスを乱すことになって慢性頭痛とくに緊張型頭痛発症要因に関与
することになってきます。
神経伝達物質は、実は 100 種類以上あるということです。そのなかでも主
要なものは 10 種類ほどに絞られますが、神経細胞によって、シナプスから放
出される神経伝達物質の種類が決まっています。そして、その種類によって
興奮や抑制など心身に対しての働きが異なります。
代表的な神経伝達物質には、ノルアドレナリン、ドーパミン、セロトニン
などがあります。それぞれがもたらす効果として、ノルアドレナリンは「意
欲」、ドーパミンは「興奮」、セロトニンは意欲や興奮などの「抑制」と考え
られています。
ドーパミンは、体の動きを調整す
る神経の機能と、心の領域として「舞
い上がるような心地よさ」を感じる
「快の情動回路」といわれる神経の
機能とがあります。セロトニンと深
く関わりがあるのは、後者の機能で
す。このドーパミン神経を活性化さ
せるのは「報酬」です。人間社会に
おいて、私たちが「試験で良い点数を取る」
「試合で勝つ」
「高い給料を取る」
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などの目標を持つと、ドーパミン神経は興奮し、私たちに一種の「渇望した
ストレス状態」を作り出します。この状態ではドーパミン神経が活性化して
いるので、私たちはちょっとしたストレスでも努力するようになるのです。
そして目標が達成されると「舞い上がるような心地よさ」を感じることがで
きます。ですからドーパミン神経は、意欲の神経なのです。
達成されないことで一番問題になるのは、ドーパミン神経が暴走し始める
ことです。実際に、世の中は上手くいかないことが多いわけですが、上手く
いかないことが続くと「何が何でも達成するぞ!」と異常行動を起こし始め
るのです。いわゆる依存症で、周囲に迷惑をかけてしまう。これはドーパミ
ン神経の悪い面です。
ドーパミン神経には興奮した際、良い面と悪い面があるわけですが、この
ドーパミン神経にコントロールをかけることができる神経回路がセロトニン
神経である、ということです。
ノルアドレナリンはストレスに
関係する神経になります。不快な
ストレッサーが、外部から人間の
内部に加わった場合、最初に反応
するのがノルアドレナリン神経で
す。わかりやすく言えば、脳内の
危機管理センターです。危機を察
知すると、体の面では即座に血圧
を上げたり、心の面では不安を感じさせたりするわけです。
ノルアドレナリン神経も重要な神経ですが、暴走するとどうなるかといい
ますと、大したことではないにもかかわらず、「大変だよ!」と興奮してしま
うのです。いわゆる「パニック障害」です。
ドーパミン神経をコントロールするのと同じく、セロトニン神経がコントロ
ールすることができます。ですから、ドーパミン神経の「快」で舞い上がる
- 10 -
ことと、ノルアドレナリン神経の「不快」で落ち込むこととの両方を抑える
という点で、セロトニン神経を活性化させることは重要だと言えます。
要約しますと、セロトニンは心の面では、
クールな覚醒、つまり平常心を保つはたらき
をします。セロトニン以外にも心の状態を演
出する神経には、快感や陶酔感を増幅する「ド
ーパミン神経」と、様々なストレスによって
覚醒反応を引き起こす「ノルアドレナリン神
経」があります。セロトニン神経は、この2
つの神経に対して抑制作用を及ぼし、興奮と不安のバランスを図り、心の状
態を中庸に保つはたらきをするということです。
このことは、前回の繰り返しに過ぎませんが、生理活性物質がどのような
ものかを理解して頂くために繰り返しました。
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第3章
脂肪酸由来物質の「エイコサノイド」
「ホメオスターシスの三角形」の一角に”内分泌系”があり、全身のさまざ
まな生理機能を調節するもの(生理活性物質)には、「ホルモン」があります
が、特定の内分泌腺でつくられ、全身を支配しているのに対して、局所ホル
モン(エイコサノイド)がこれとは別にあります。こうした調節物質を、こ
こではまとめて「プロスタグランジン」と呼ぶことにしますが、プロスタグ
ランジンは個々の細胞でつくられ、細胞レベルでの調節を行っています。(そ
のため局所ホルモンと呼ばれています)しかし、その働きはきわめて重要で、
身体全体の機能に関係していると言ってもよいほどです。
ここでは、脂肪酸由来の生理活性物質であるエイコサノイドについて述べ
ます。
局所ホルモン(プロスタグランジン)の働き
プロスタグランジンとは?
必須脂肪酸であるオメガ3とオメガ6は、全身のさまざまな生理機能を調
節する局所ホルモンの原料になります。この脂肪酸からつくられる局所ホル
モンはエイコサノイドと言われ、
「プロスタグランジン」
「ロイコトリエン」
「ト
ロンボキサン」などの種類があります。
そうした調節物質を、ここではま
とめて「プロスタグランジン」と呼ぶことにします。
従来のホルモンが特定の内分泌腺でつくられ、全身を支配しているのに対
して、プロスタグランジンは個々の細胞でつくられ、細胞レベルでの調節を
行っています。しかし、その働きはきわめて重要で、身体全体の機能に関係
していると言ってもよいほどです。
プロスタグランジンの生成過程と種類
-1-
プロスタグランジンは、次のようなプロセスで生成されます。
図で示したように、必須脂肪酸であるオメガ3とオメガ6が体内で化学変
化を繰り返し、各種の「プロスタグランジン」が生成されていきます。(※食
物として体内に吸収されたオメガ3・オメガ6の大部分は、他の脂肪酸と同
じく燃焼に回されますが、細胞膜からピックアップされた一部がプロスタグ
ランジンに変換されます。)
プロスタグランジンは原料である脂肪酸の違いによって、3つのグループ
に分けられます。そして、そのグループ内でさらに複雑な変化をして数十種
類のプロスタグランジンがつくられます。
プロスタグランジンによる生理調節作用
ここで大切なことは、プロスタグランジンは大きく3つのグループに分か
れ、グループごとに異なる働きをしているということです。なかでも「オメ
ガ3系のEPA」からつくられるプロスタグランジンと、「オメガ6系のアラ
-2-
キドン酸」からつくられるプロスタグランジンは、相反する働きをして細胞
機能のバランスをとっています。
もう少し詳しく見てみると、オメガ6系からは2つのグループのプロスタ
グランジンがつくられ、互いに相反する働きをしています。現在、その材料
となる「オメガ6」は大量に摂取されています。そのうえ大半の人々は、肉
・乳製品・卵などの動物性食品
を多く摂っていますが、そうし
た食品には直接「アラキドン酸」
が含まれています。そのためア
ラキドン酸由来のプロスタグラ
ンジンが大量につくられること
になります。つまり1グループ
目に比べ、2グループ目のプロ
スタグランジンだけが過剰に生
成され、細胞機能のバランスを
欠くことになります。
2グループ目のプロスタグランジンと、オメガ3系からつくられる3グル
ープ目のプロスタグランジンも、相反する働きをしています。しかもこの2
つは、オメガ6系のグループ同士より強力な競合関係にあり、一方が大量に
つくられると、他方はその分だけつくられなくなります。ということは、現
在のような「オメガ3欠乏」の状態では、圧倒的に「アラキドン酸」由来の
プロスタグランジンが生成されることになるのです。「オメガ6」と「動物性
食品」の過剰摂取から2グループ目のプロスタグランジンだけが異常に多く
生成され、「オメガ3」の欠乏から3グループ目のプロスタグランジンが極端
に不足してしまっているということです。そのために細胞機能のバランスが
大きく崩れ、さまざまな障害・病気が引き起こされているのです。
-3-
例えば“炎症”という作用の場合、それを抑制するプロスタグランジンが
「オメガ3」からつくられるのに対して、アラキドン酸由来の「オメガ6」
からは炎症を激化させるプロスタグランジンがつくられます。このように―
「血栓を減らしたり、増やしたり」「発ガンを抑制したり、促進したり」「子
宮を弛緩させたり、収縮させたり」「血管を拡げたり、狭めたり」して、互い
に相反する働きかけをしています。車にたとえれば、アクセルとブレーキの
ようなものです。1つの生理作用に対して、それぞれ反対の働きかけをしな
がらコントロールしているのです。多種類のプロスタグランジンが互いに関
係をもちながら、身体全体の機能を維持しているのです。
「オメガ3」と「オメガ6」の脂肪酸は、単なるカロリー源や組織の構成成
分となるだけでなく、細胞機能を調節するプロスタグランジンの材料となっ
ています。プロスタグランジンは、神経系・ホルモン系に続く「第3の調節
系」と言われ、油の中でも最新の研究分野となっています。1982 年には、欧
州の3人の研究者がノーベル医学生理学賞を受けています。
生体膜の構成・・・脂肪酸の種類の違い
-4-
脂肪酸は体を構成している約 60 兆個の細胞の膜と、細胞内のミトコンドリ
アなどの小器官の膜をつくるのに使われています。体の働きを行う酵素は、
細胞膜の助けを借りて働いています。また細胞膜は物質輸送の場でもありま
す。細胞膜には食べた脂肪酸がそのまま使われますので、どのような種類の
脂肪酸を含む脂質を食べたかにより、細胞膜の状態が大きく異なり、細胞の
働きが左右されます。
例えばミトコンドリアで働く酵素はリノール酸型の脂肪酸により膜に支え
られていますが、もし、これがリノレン酸型などの他の脂肪酸だと酵素は膜
から離れてしまい、エネルギーをつくることができません。
神経細胞はナトリウムイオンとカリウ
ムイオンを入れ換えることで神経を伝達
しています。このナトリウムイオンとカ
リウムイオンを入れ換えるたんぱく質を
挟み込むように固定しているのがDHA
やEPAです。もし、この脂肪酸がリノ
ール酸型であれば、たんぱく質は固定で
きず神経は伝達できません。
-5-
脂肪酸の種類によるもう一つの大きな違いは、膜の柔らかさです。融点が
低い脂肪酸の方が体温では柔らかいのです。これらの脂肪酸がさまざまな組
合せで膜をつくるのですが、その組合せにより膜の硬さ、つまり動きやすさ
が異なるのです。どのような組み合わせがよいのかはそれぞれの細胞が決め
ます。
「酸化ストレス・炎症体質」と生理活性物質(エイコサノイド)の働き
・3 種類の生理活性物質が作られる道のり!
「酸化ストレス・炎症体質」は、次のような3種類の生理活性物質(エイコ
サノイド)の働きによりコントロールされています。
①炎症を悪くするもの
②その炎症を調整するもの
③それら両方の働きを抑制するもの
そして、そのバランスが色々な場面において臨機応変に、非常に精密にコ
ントロールされ、体の機能を調整しているのですが、このバランスが狂って
しまった状態が「酸化ストレス・炎症体質」でもあります。
これら3種の生理活性物質が作られる道のりは、一般的に、次のように言
われています。
①炎症を悪くするオメガ-6炎症系経路(アラキドン酸カスケード)
②その炎症を調整するオメガ-6調整系経路(γ-リノレン酸経路)
③それら両方を抑制するオメガ-3抑制系経路(EPA経路)
①炎症を促進するオメガ-6炎症系経路(アラキドン酸カスケード)
-6-
この経路で作られる生理活性物質は炎症を悪くする、いわゆる「錆び体質」
を誘発するものですから、この経路での代謝をいかに抑制するかが重要です。
この経路の出発物質は「アラキドン酸」ですが、この「アラキドン酸」は
おもに 3 つの経路、
①「リノール酸」が体内で変換されて「アラキドン酸」となり生成される、
②動物性の高脂肪高タンパク質食品から直接摂取される、
③体を構成する細胞膜の新陳代謝により生成されます。
しかし、その大部分の「アラキドン酸」は、体を構成する細胞膜の新陳代
謝や炎症により破壊された細胞膜から供給されます。
「アラキドン酸」は細胞膜の重要な構成成分の一つで、細胞の柔らかさや電
気信号の伝わりやすさにかかわっています。通常、細胞は新陳代謝(細胞の
破壊と再生の繰り返し)されていますので、
「アラキドン酸」は常に生成され、
新たな細胞膜として再利用されています。体に炎症がおきますと、破壊され
る細胞が多くなりますので遊離した「アラキドン酸」の量は増加することに
なります。遊離したアラキドン酸はアラキドン酸カスケードという代謝経路
を経て、炎症性の生理活性物質(エイコサノイド)に変換されます。
-7-
炎症性の生理活性物質としては、2系のプロスタグランジン(PG)、2系
のトロンボ
キサン(TX)および4系のロイコトリエン(LT)などがあります。
これらの生理活性物質が生成する過程で強力な活性酸素であるヒドロキシ
ラジカル(・
OH)が生成されます。ということは、この経路から片頭痛発症にかかわる、
「炎症性の物質」や「活性酸素」が作り出されるということです。
そのため、この経路が活性化されますと、炎症作用が高まり、活性酸素の
発生も増加しますので「酸化ストレス・炎症体質」を益々悪化させることに
なります。
アラキドン酸から合成される生理活性物質(エイコサノイド)には多くの
種類があり、
その各々は異なった働きがあります。
た
とえば、プロスタグランジンE2は胃粘膜を保護するという私達の健康にと
って好ましい作用がりますが、炎症を起こせば発熱を起こし、ブラジキニン
-8-
という生理活性物質とともに疼痛を起こし、腫脹(はれ上がる)を酷くする
などの炎症促進作用を示します。
因みに、片頭痛の痛みはこのプ
ロスタグランジンE2やブラジキ
ニンなどの発痛物質により引き起
こされることになります。
また、この経路で生成されるト
ロンボキサンA2は、血管を収縮
させるとともに血小板を凝固させ、片頭痛発症の引き金となる生理活性物質
です。
このように、トロンボキサンA2は非常に悪い生理活性物質のようなイメ
ージがありますが、一方では怪我などで血管が破れ止血する際には必要不可
欠な物質でもあります。
同じ生理活性物質であっても、その場面によって、人にとって好都合にも
不都合にも働くのですが、この経路で合成される生理活性物質は、片頭痛を
はじめ多くの疾患に対して、炎症性、血管収縮、血栓促進、免疫力低下、ア
レルギー病状増悪、癌化促進などの好ましくない作用が多くあることから、
一般的に「炎症性」または「悪性」として扱われます。
このオメガ-6炎症系経路(アラキドン酸カスケード)の代謝活性を抑制
するためには、次のことが重要です。
・オメガ3系の油(α-リノレン酸、EPA,DHAなど)をとる
・軽い空腹感を作る(グルカゴンや副腎皮質ホルモンの分泌を促す)
・血糖値が上がり過ぎない食事をする(インスリンの過剰分泌を抑える)
・アラキドン酸の多い食品をとり過ぎない
また、副腎皮質ホルモンやアスピリンの服薬はこの代謝を非常に効果的に
-9-
抑制することができますが、いずれも副作用が強く体質改善には用いること
はできません。
これら以外には、効果のほどは定かではありませんが、以下のものが有効
であったという報告があります。
・共役リノール酸(牛乳・乳製品に含まれる)をとる
・エクストラバージンオリーブ油(有効成分:オレオカンタール)をとる
・ゴマ(有効成分:ゴマリグナン)を摂る
・赤ワイン(有効成分:レスベラトール)
「酸化ストレス・炎症体質」が改善されれば、炎症細胞からのアラキドン
酸の生成が抑制され、さらに炎症体質が改善されるという、良い循環が起き
るようになります。
②炎症を調整するオメガ- 6 調整系経路(γ-リノレン酸経路)
この経路の生理活性物質は炎症作用が強くなりすぎないように調整するも
のですから、
この経路をいかに活性化させるかが「酸化ストレス・炎症体質」の改善に重
要となります。
この経路の出発物質は「リノール酸」ですが、体内酵素により「γ-リノ
レン酸」(正確にはジホモγリノレン酸)に変換された後に、プロスタグラン
ジン1系、トロンボキサン1系、ロイコトリエン3系の調整系生理活性物質
を生成します。
いわゆる、先の「オメガ-6炎症系経路(アラキドン酸カスケード)」で生
成する生理活性物質が炎症作用を「活性化する働き」であったのに対し、こ
の「オメガ- 6 調整系経路(γ-リノレン酸経路)」で生成する生理活性物
質は生理作用全体をバランスさせるために、炎症作用を「調整する働き」を
- 10 -
します。
例えば、免疫系への作用としては、白血球の中でも抑制や調整作用のある
レギュラトリーTリンパ球という白血球を活性化させ免疫系の過剰な暴走を
抑制しアレルギー疾患などを改善します。
また、アラキドン酸カスケ
ードの引き金である脂質分解
酵素の働きを阻害し、炎症性
の生理活性物質の生成を抑制
するなどの作用があります。
この経路を活性化すること
により、「アラキドン酸」の
代謝は抑制されるとともに傷
害性の強い活性酸素である
「ヒドロキシルラジカル」の
発生も抑制されますので「酸化ストレス」の状態を改善することができます。
また、この経路で生成する生理活性物質は炎症を引き起こすヒスタミン(片
- 11 -
頭痛の痛みの原因物質の一種)の放出を抑制するなどの抗炎症作用を示すこ
とや血管拡張、血栓抑制、免疫力増強、アレルギー症状寛解、癌化抑制、血
糖調整などの作用があることから、この代謝経路で生成される生理活性物質
は「良性」として扱われています。
この経路の代謝を活性化するためには、次のことが重要です。
・オメガ-6系の植物油(リノール酸)をとり過ぎない
・トランス脂肪酸を摂取しない(精製植物油、マーガリン、ショートニング
など)
・腸内細菌を健全に保つ(ビオチン不足を起こさない)
・過剰ストレスを避け、アルコール、タバコ、牛乳・乳製品のとり過ぎない
・ビタミンC、ビタミンB3(ナイアシン)の不足を起こさない
リノール酸は通常の食事をしているかぎり穀類や豆類から充分に摂取する
ことができますので、さらなる植物油の摂取はリノール酸のとり過ぎになる
ということです。
また、マーガリンや精製植物油に含まれている「トランス脂肪酸」はリノ
ール酸がγ-リノレン酸への変換を抑制し、「良性」の生理活性物質の生成を
妨害します。
特に「トランス脂肪酸」は、「遊離脂肪酸」として体の組織を傷害するとと
もに「活性酸素」も発生させやすく、一般に市販されている加工・精製植物
油には注意が必要です。
昔ながらの圧搾製法で造られた植物油はトランス脂肪酸を含みませんので
とり過ぎでなければ健康上の問題となることはありません。
加工・精製植物油植物油は、パンやクッキー、ケーキ、マヨネーズ、ドレ
ッシング、チョコレート、レトルトカレー、・・・・・・などにも含まれます。
また、リノール酸は体内で非常に酸化されやすく過酸化脂質の生成原因と
もなりますし天ぷら等で加熱されたリノール酸はヒドロキシルノネナールと
- 12 -
いう有毒な物質を生成しますので、天ぷら油のリサイクルは絶対に行はない
ことが重要です(特に、アルコールの代謝の悪い下戸の方や子どもは気をつ
ける必要があります)。
③炎症経路を抑制するオメガ-3抑制系経路(EPA経路)
この経路の代謝はオメガ-6系経路の代謝と競合しますので、結果的にオ
メガ-6炎症系経路の代謝を抑制することになります。オメガ-6系の生理
活性物質はかなり生理作用の強いものばかりですので、その作用を鎮めるの
がおもな役割ということもできます。
オメガ-3系
の経路は「α-
リノレン酸」か
らスタートし、
体内酵素により
「EPA」
に変換されます。
EPAはさらに
DHAに変換さ
れますが、DH
Aは必要に応じ
てEPAにも変換されます。
この「EPA」からオメガ-3系の抑制系の生理活性物質である3系プロ
スタグランジン、3系トロンボキサンおよび5系ロイコトリエンが作られま
す。
このオメガ-3系EPA経路を活性化することにより、炎症性のアラキド
ン酸カスケードの代謝を抑制し、「酸化ストレス」を弱めることができます。
このようなことから、この経路で産生される生理活性物質は「良性」として
- 13 -
扱われています。
「酸化ストレス・炎症体質」の改善た
めにはこのオメガ-3系EPA経路の
代謝を活性
化させることも重要となります。
そのためには、次のことが重要とな
ります。
・オメガ-3系の油分(α-リノレン酸やE
PA,DHAなど)の摂取量を増やす
・トランス脂肪酸を摂取しない(精製植物油、
マーガリン、ショートニングなど)
「α-リノレン酸」を多く含むシソ油(エゴ
マ油)や亜麻仁油は、そのほとんどが工業的
に造られたものではなく、圧搾製法で造られた植物油ですので「トランス脂
肪酸」は含まれません。
青魚に多く含まれ、また同時に、体内でα-リノレン酸からも変換される
「EPA」は体内でのアラキドン酸の生成を抑制し、アラキドン酸が炎症性
の生理活性物質を生成することを抑制する作用があります。オメガ-3系脂
肪酸は、今日の平均的な食生活でむしろ不足しがちな脂肪酸ですので、積極
的にとることをお勧めします。
・自然界に存在しない有害なトランス脂肪酸!
トランス脂肪酸は構造がトランス型(直鎖状の構造)になった脂肪酸のこ
とをいいます。
- 14 -
トランス脂肪酸は自然界に存在しない有害物質が、工業的に油脂を精製し
たり、加工している時にできてしまったというものです。
昔ながらの圧搾法による植物油や、天然の植物、魚や家禽などの油脂分に
含まれる脂肪酸は全てがシス型(折れ曲がった構造)という構造をしていま
す。
牛などの反芻動物は胃の中で草や藁(わら)を消化する際にバクテリアによっ
てトランス型(直鎖状の構造)をした構造の脂肪酸ができますが、これはバ
クセン酸や共役リノール酸(ルーメン酸)という構造も明らかな、人体に害
を及ぼすことのない脂肪酸です(むしろ、健康サプリメントとして利用され
ている)。
工業的に副生される有害なトランス脂肪酸は、おもに次の2つの生成過程
を経て生成されます。
①植物油からマーガリンやショートニングを作ることや揚げ油として「持ち」
の良い油を作るために、植物油に水素を添加するなどして、油を加工する際
に副生物として生成されます。
本来、室温で液状であった植物油に水素を添加することにより、マーガリ
- 15 -
ンやショー
トニングのように常温でも固形油脂状にすることができ、長時間の使用に適
した酸化劣化の少ない揚げ油を製造することができます。からっと揚がる油
もこのようにして造られます。
ショートニングの中には50%を超えるトランス脂肪酸を含むものあるとい
われています。また、これらのマーガリンやショートニングを使用したビス
ケット、パン、ケーキ類などの加工食品にも有害なトランス脂肪酸は含まれ
ることになります。市販のフライドポテト、フライドチキンなどに使用され
る揚げ油の中にも有害なトランス脂肪酸は多く含まれていますので、これら
の揚げ物にもトランス脂肪酸は含まれることになります。
②植物種子などを圧搾して製造した植物油は、その植物油に含まれる不純物
などにより
腐敗や変色などの品質劣化をおこすため、市販されているほとんどすべて
の植物油は工業的に精製・脱臭されています。脱臭工程では高温・高真空下
で水蒸気を吹き込むなどの処理がおこなわれますが、この精製・脱臭工程で
- 16 -
トランス脂肪酸が副生されます。
市販のサラダ油などのほとんどの精製植物油には有害なトランス脂肪酸が
含まれています。
・ダイオキシン類にも似た、トランス脂肪酸の有害性!
植物油とともに体に取り込まれた有害なトランス脂肪酸はある程度はエネ
ルギーに転換(異化)されます。しかし、生理活性物質など体の重要な構成
成分となることは起こりえません。体のもとなる細胞や生理活性物質の生成
- 17 -
などの代謝は非常に緻密に特定された構造のものだけが酵素反応にかかわり
ますので、自然界にあるシス体とは異なり自然界に存在していないトランス
体が体の一部となることはありません。
しかし、体は無理にでも代謝し続けようとしますので代謝酵素を誘導し続
け、補酵素やビタミン、ミネラルを無駄に消費してしまうことになると考え
られます。人間が新たに作り出したダイオキシンやPCBのような残留性環
境汚染物質を代謝できないのと同じようなことが体内で起きるのです。
代謝されない脂肪酸は遊離脂肪酸として血流を通して全身の組織・器官に
達し、他の重要な代謝にかかわる酵素の働きを妨害するとともに、脂肪酸毒
として組織・器官に傷害(又は障害)を与えることになります。
実際には、血液中に放出された遊離脂肪酸は血液中のたんぱく質(アルブ
ミン)と結合し、その毒性の悪影響が抑制されるのですが、許容限界量(閾
値)を超えてしまうと脂肪酸毒として作用することになります。片頭痛や花
粉症、アレルギーなどの症状が現れている場合は既にこの閾値を超えた状態
であると考えられます。
また、トランス脂肪酸はエネルギーに転換されることはあるにしても代謝
速度は遅く、一部は血流中や組織・器官の細胞内、脂肪組織(皮脂、内臓脂
肪、皮下脂肪)などに遊離脂肪酸として蓄積されると考えられます(一部は
母乳としてや皮脂腺などを通して排出されると思われます)。
トランス脂肪酸は、一般的な
急性毒性や亜急性毒性的なリス
クの心配はほとんどありません
が、心臓病や脳梗塞を始め多く
の病気の原因物質として疫学的
にも世界的に証明されている有
害な物質なのです。心臓病や脳
梗塞の影響が明らかなことから、
日本を除く先進国ではトランス脂肪酸に対し何らかの規制や含有量の表示義
- 18 -
務などが課せられています。
しかし、日本ではこのような規制などは全くないため食品に含まれるトラ
ンス脂肪酸の量さえ知ることさえ出来ないのが現状なのです。マーガリンや
ショートニングなどの硬化油や硬化油を使用した菓子類などの食品や市販の
精製植物油、マヨネーズ、ドレッシングなどには必ずトランス脂肪酸が含ま
れています。これらの食品を極力摂取しないこと。
家庭で植物油を使用する場合はエクストラバージンオイルや圧搾法による植
物油を用いることにより、トランス脂肪酸の摂取は避けられます。
・植物油(リノール酸)の摂取を控え、オメガ3系脂肪酸を摂る(オメガ6/
オメガ3比を1.0以下に)!
植物油のとり方が生理活性物質のバランスを整えるために重要な要因であ
ることは理解できたところで、どの程度の割合が最も良いのかということを
ご説明します。
オメガ6系リノール酸は穀類や豆類、芋類、野菜類などに多く含まれてい
ますので、通常の食生活をするかぎりにおいて摂取不足を起こすことはあり
ません。
むしろ植物油をさまざまな形で摂
取する機会が多い今日では、オメガ
-6系脂肪酸のとりすぎが問題とな
ります。一方、オメガ-3系の油分
は魚介類を除く食品には極少量しか
含まれていませんので、魚をあまり
摂らない食生活では不足しがちな油分といえます。
オメガ-6系脂肪酸のとりすぎは「良性」の生理活性物質を抑制し、
「悪性」
の生理活性物質を活性化させます。オメガ-3系脂肪酸の摂取量が少ないと
炎症をより悪化させます。
- 19 -
簡潔に言い換えますと、オメガ-6系脂肪酸のとりすぎが炎症体質を悪化
し、オメガ-3系脂肪酸をとると炎症体質は改善されるということになりま
す。
これらのことから、摂取する「オメガ- 6 系油とオメガ- 3 系油の比」を
もって炎症体質や酸化ストレス体質にならないための油脂の摂取量の目安量
を知ることができます。
いわゆる、オメガ-6系/オメガ- 3 系の比が大きな値を示すほど「酸化ス
トレス・炎症体質」は悪い状態に向かい、逆に小さな値であるほど「酸化ス
トレス・炎症体質」は良好な状態に向かうということなのです。
厚生労働省では実経済への影響を考慮し、望ましいオメガ-6/オメガ-3
の比を4.0としていますが、日本脂質栄養学会では健康であるためにはオ
メガ-6/オメガ-3の比は2.0以下を提案しています。
「酸化ストレス・炎症体質」の改善のためには、厚生労働省のオメガ-6/オ
メガ-3の
比4.0は論外としても、日本脂質栄養学会の提案する2.0以下であることが好ま
しいように思われます。
私は体質改善の開始当初は1.0以下を目標とし、体質が改善されてくれば2.0
以下を維持することを推奨しています。
- 20 -
そのためには、オメガ-3系のEPAやDHA含有量の高い青魚を積極的
に摂取するとともに、植物油の使用に際してはα―リノレン酸含有量が高い
シソ油(エゴマ油)を日常的に用いることを推奨しています。
ただし、オメガ-3系の油のとり過ぎは免疫系の活性を弱めますので、「酸
化ストレス・炎症体質」を改善するためには必須のオメガ-3系の油であっ
てもとり過ぎには注意が必要となります。またオメガ-3系の油は血液をさ
らさらにする効果はありますが、逆に出血した時には血が止まりにくくなっ
てしまうことがあります。内科医は EPA や DHA の摂取を薦めても、手術の
機会の多い外科医はそうでないかもしれません。
なお、エゴマ油(シソ油)は空気中での加熱安定性が良くありませんので、
加熱調理用としては適していません。ドレッシングやマヨネーズなど加熱し
ないものに限定するか、そのまま頂くことが好ましいでしょう。
また、オリーブ油の主成分であるオレイン酸はオメガ-9系脂肪酸であり、
生理活性物質の代謝には直接関与することはありませんので、加熱用や菓子
類の植物油として幅広く利用することができます。
いずれにしろ、
「酸化ストレス・炎症体質」の改善には、マヨネーズ(卵黄、
植物油、酢)やドレッシング(植物油、酢)は有害なトランス脂肪酸を含ま
ないシソ油やオリーブ油を用いた自家製に変え、加熱用としてはエクストラ
バージンオリーブ油か圧搾法の植物油を使用するなどの工夫が必要だといえ
ます。
また、リノール酸をとり過ぎると体内でのリノール酸の代謝が遅延するた
め血中のリノール酸濃度が高まり、トランス脂肪酸と同様に血中の遊離脂肪
酸濃度を上げることになります。血中や組織の遊離脂肪酸の濃度が高くなれ
ば器官や組織の細胞を傷害するだけでなく、その結果として発生する活性酸
素などにより過酸化脂質などの過酸化物を生成しやすくなります。そのため、
- 21 -
体は常に酸化ストレスが増大した状態になってしまうのです。
片頭痛を起こしやすい体質、いわゆる活性酸素を生じやすく、血中の遊離
脂肪酸濃度の高い状態は、このようにして作られていくのです。
オメガ3とオメガ6のアンバランスを引き起こす原因
では、どうしてこのような異常な事態を引き起こすようになったのでしょ
うか。「オメガ3」も「オメガ6」も、植物性食品や植物油の中に多く含まれ
ています。そして、その植物油がアメリカや日本において大量に摂取される
ようになったのは、1960 年以降のことです。食事が欧米型に向かい、油料理
・揚げ物料理が多くなった時期ということです。
食事の欧米化の中で摂取量が増え続けてきた油と言えば、コーン油・大豆
油・サフラワー油(紅花油)などです。そして、それらをベースにしたマヨ
ネーズやドレッシング・マーガリンなどです。実は、こうしたどこの家庭で
- 22 -
も毎日のように使う油には、「オメガ6(リノール酸)」が豊富に含まれてい
るのです。
(一般に使われる油の中には、45 ~ 75 %もの「オメガ6」が含まれていま
す。)
一方、「オメガ3(アルファ・リノレン酸)」を多く含む油としては、シソ
油・エゴマ油があり、欧米では亜麻仁油があります。しかし現代人のほとん
どは、これらの油を料理に使うことはありませんでした。(日本ではあまりな
じみのない「亜麻仁油」ですが、食用に用いられた歴史は古く、ギリシャ・
ローマ時代からだと言います。北欧諸国では第2次世界大戦の前まで、どこ
の家庭でも使われていました。)
- 23 -
また食品によっては、オメガ3を比較的多く含むものもあります。野菜(特
に緑の濃い冬野菜)・海藻・魚(背の青い大衆魚)などです。そしてこれらの
食品は、昔の日本人は日常的によく食べていました。そのためかつては、か
なり「オメガ3」を摂取することができていたのです。油料理をひんぱんに
摂るような現代とは違って、オメガ3とオメガ6のバランスは自然に良好だ
ったのです。
現代人は、オメガ3の摂取源となる野菜・海藻・魚などをあまり摂らなく
なっているのに対し、オメガ6の摂取量は激増しています。食事が欧米型に
傾けば傾くほど、「オメガ6」だけが多くなってしまうのです。こうして必然
的に、「オメガ3」と「オメガ6」のバランスは大きく崩れてしまいました。
現代人の深刻な「オメガ3脂肪酸欠乏」
食生活の欧米化が深刻な「オメガ3欠乏」を招いていますが、その一因とし
ては、次のようなことも挙げられます。一般に現代人は、寒い地域の食物よ
り、温かい地域の食物を好んで食べるようになっています。温室栽培や輸入
によって、冬でも、トマトやキュウリ・ピーマンなどの夏野菜が食べられる
ようになりました。実は、「オメガ6」が暖かい地域の農作物に多く含まれて
いるのに対して、「オメガ3」は寒い地域の農作物に多いのです。ホウレン草
・シュンギク・小松菜・白菜・ブロッコリーなどの冬野菜は、よいオメガ3
の摂取源となっています。
また精白技術の進歩が、オメガ3不足に拍車をかけています。穀類の胚芽
にはオメガ3とオメガ6がともに含まれているのですが、精白することで「オ
メガ3」が失われてしまいます。
さらにオメガ3不足の大きな原因として現代式の製油方法が挙げられます。
食用油といえば、かつては手絞り的な圧搾法「コールド・プレス(低温圧搾
- 24 -
法)」で製造されていました。しかし現代では、そうした方法でつくられてい
るのは亜麻仁油・オリーブ油などの一部の油のみです。それ以外のほとんど
の食用油は、化学的溶剤で原料の中の脂肪を溶かし出し、その後に溶剤を除
去するといった方法でつくられています。そして最後の脱臭工程では、230 ℃
以上もの高温処理がなされています。取り出された油には、部分的に水素が
添加されます。“水素添加”とは、不飽和脂肪酸の二重結合部分に、高温高圧
下で強引に水素をつなげて油を飽和状態に変えてしまうことです。こうする
と油は酸化しにくくなって日もちがよくなり、商品寿命が延びるからです。
こうした製油過程で真っ先に失われてしまうのが、水素と最も反応しやす
い「オメガ3」なのです。原料となる大豆やゴマなどの種子類には、わずか
ですがオメガ3が含まれていますが、今述べたような製油方法では、ほとん
どなくなってしまいます。そのうえ「トランス型脂肪酸」という有害な脂肪
酸が生成されることになります。(「溶剤使用」「高温処理」「水素添加」とい
う現代式の製油方法の中では、オメガ3だけでなく、ビタミンなどの栄養素
- 25 -
も失われてしまいます。
このような原因が重なって、現代人の「オメガ3不足」は、きわめて深刻
な状態になっています。
そして、ミトコンドリアの働きまで悪化させることになります。その理由は
・・
脂肪酸の種類の違い
脂肪酸は体を構成している約 60 兆個の細胞の膜と、細胞内のミトコンドリ
アなどの小器官の膜をつくるのに使われています。体の働きを行う酵素は、
細胞膜の助けを借りて働いています。また細胞膜は物質輸送の場でもありま
す。細胞膜には食べた脂肪酸がそのまま使われますので、どのような種類の
脂肪酸を含む脂質を食べたかにより、細胞膜の状態が大きく異なり、細胞の
働きが左右されます。
例えばミトコンドリアで働く酵素はリノール酸型の脂肪酸により膜に支え
られていますが、もし、これがリノレン酸型などの他の脂肪酸だと酵素は膜
から離れてしまい、エネルギーをつくることができません。
神経細胞はナトリウムイオンとカリウムイオンを入れ換えることで神経を
伝達しています。このナトリウムイオンとカリウムイオンを入れ換えるたん
ぱく質を挟み込むように固定しているのが DHA や EPA です。もし、この脂
肪酸がリノール酸型であれば、たんぱく質は固定できず神経は伝達できませ
ん。
脂肪酸の種類によるもう一つの大きな違いは、膜の柔らかさです。融点が
低い脂肪酸の方が体温では柔らかいのです。これらの脂肪酸がさまざまな組
合せで膜をつくるのですが、その組合せにより膜の硬さ、つまり動きやすさ
が異なるのです。どのような組み合わせがよいのかはそれぞれの細胞が決め
ます。
- 26 -
~必須脂肪酸について~
必須脂肪酸に含まれるものにはリノール酸、アラキドン酸、αリノレン酸、
EPA、DHA などがあります。これらは細胞膜のリン脂質の構成要素で、プロ
スタグランディン、ロイコトリエン、トロンボキサンなどのエイコサノイド
を産生します。
「リノール酸」は成長、生殖生理や皮膚の状態を正常に維持するうえで必須
です。摂取されたリノール酸は人の体の機能を保つために必要なアラキドン
酸に変換されます。しかし、アラキドン酸が過剰になると血圧を上げ、血液
の凝固を促進し、アレルギー症状を悪化させます。
「αリノレン酸」は学習機能や網膜機能を高く保つうえで必須です。αリノ
レン酸はリノール酸系列の代謝を阻害し、アラキドン酸由来のエイコサノイ
- 27 -
ドからの影響を和らげます。αリノレン酸が EPA、さらに DHA に変換される
と血小板凝集の抑制、血管拡張、アラキドン酸作用を抑制します。DHA は脳、
神経細胞の機能を働かせる作用を持っています。
「エイコノサイド」は細胞膜をつくっているリン脂質の多価不飽和脂肪酸
からつくられます。そして材料になる脂肪酸の種類により正反対の指令を出
すエイコサノイドになります。大まかにいうと、リノール酸型(主にアラキ
ドン酸)は血管の収縮や血液を固めるエイコサノイドを、リノレン酸型(主
に EPA)はその逆の作用をするものをつくります。他にもアレルギーに敏感
にさせるのはリノール酸型で、ストレスも誘発します。
こうしてみるとリノール酸型は好ましくない脂肪酸のように見えますが、
リノレン酸型が多すぎると怪我をしたときに血が止まりにくくなり、内出血
も止まりません。リノール酸型とリノレン酸型の適度なバランスが重要です。
第6次改定栄養所要量の中で、リノール酸型とリノレン酸型の摂取比を4:
1、さらに飽和脂肪酸:オレイン酸:多価不飽和脂肪酸の比率を、おおむね
3:4:3と推奨されています。
戦後の日本人の脂肪摂取量は1日 20 gぐらいであったものが、1960 年以降
は約3倍に増え、オメガ6系脂肪酸(リノール酸)も1日 5 ~ 6 gが 14 ~ 15
gに増えていますが、オメガ3系脂肪酸(αリノレン酸)はそれほど増えて
- 28 -
いません。
~調理に使う油脂~
大きく分けて動物性脂肪の飽和脂肪酸(獣肉油脂、牛乳、卵に含まれる)、
一価不飽和脂肪酸、多価不飽和脂肪酸(野菜、種子、芋類、海藻、魚に含ま
れる)などに分かれます。
多価不飽和脂肪酸には、必須脂肪酸のオメガ(ω)6 系不飽和脂肪酸(リノー
ル酸)とオメガ(ω)3 系不飽和脂肪酸(αリノレン酸)が含まれます。
①植物性油脂(不飽和脂肪酸)に人工的に水素を添加し固化させた硬化油脂
(マーガリン、ショートニング)、
②ヘキサンなどの溶媒を使った植物性油脂(市販の大豆油、コーン油、米油、
ナタネ油、綿実油など)、
③高温の植物性油脂を使って調理した食品(揚げ物、フライ、天ぷら)、
④植物性油脂を含み高温で調理された食品(スナック菓子、冷凍食品など)
には、「トランス脂肪酸」が多く含まれていることがわかりました。
トランス脂肪酸は反芻動物の腸内細菌によってつくられ、反芻動物(牛、
羊、馬、ヤギなど)の肉や乳脂肪中に含まれますが、それ以外の自然な状態
では存在しない脂肪酸です。
細胞膜をつくるためには不飽和結合部で折れ曲がった天然に存在するシス
型の構造が必要です。直線構造をしたトランス型では細胞膜は弱く、壊れや
すくなります。
トランス脂肪酸の摂取量が多くなると、血管内皮、気道粘膜、消化管粘膜、
皮膚などの細胞を含め体内の細胞機能が障害されて生物反応が正常に行えな
くなり、アレルギー症状・神経系の症状・腸管の症状を悪化させ、病気を引
き起こします。
- 29 -
第4章
現代栄養学からみた生理活性物質
脂肪・油の摂り過ぎによる弊害と、油に関する考え方
■1.動物性脂肪と植物性油
■2.脂質についての、新しい分類――分子構造の違いによる分類
■3.各脂肪酸の摂取状況(飽和脂肪酸・オメガ9・オメガ6・オメガ3)
■4.体内での各脂肪酸の変換
■5.「オメガ3」と「オメガ6」のバランス
■6.局所ホルモン(プロスタグランジン)の働き
1.動物性脂肪と植物性油
動物性脂肪の害
牛や豚など陸上動物の脂肪は、ラードやヘット(牛脂)のように常温では
固体です。スーパーに並ぶ牛肉の脂肪が白く固まっているところから、それ
がよく分かります。またミルクからつくられるバターも固体状です。それに
対し、野菜や魚に含まれる油は液体です。
まず「動物性脂肪の害」が指摘されます。常温では固体であるということ
は、それが溶け出す温度(融点)が高いということです。つまり動物性脂肪
は、低い温度では固まりやすい性質をもっているのです。むろん体温が約 39
℃の陸上動物の体内では支障はないのですが、体温がやや低い人間の体に入
ると問題が起きることになります。(※人間の体温は 36 ~ 37 ℃です。)
動物性脂肪は、私たちの血液の粘度を高め、血流を悪化させます。人間の
体温が低いために、固体化の方向に向かうからです。動物性脂肪を摂ると、
血液の粘度が増し、毛細血管の先端部分に赤血球が行き渡りにくくなります。
-1-
事実、肉をたくさん食べた後、血液を電子顕微鏡で見ると、赤血球がベタベ
タとくっつき合っているのが確認されます。血流の悪化が直接観察されるの
です。
血流が悪くなるということは、細胞への酸素の供給量が減るということで
す。実験によれば、動物性脂肪を摂って数時間後には、細胞全体に対する酸
素の供給量が 20 ~ 30 %も減少することがあると言われます。酸素の供給量
が減れば、細胞での燃焼効率は低下し、エネルギーの供給量も減ることにな
ります。酸素が運ばれないということは、栄養素も運ばれないということで
す。
肉を摂ると元気になると思っている人がいますが、本当はエネルギー不足
の状態になり、グッタリするということです。肉食はエネルギーを高め、パ
ワフルにするのではなく、逆に活力を奪い去ってしまうのです。「血流を悪化
させる」という問題点もあるのです。
動物性脂肪の過剰摂取は、血液をネバネバにし、中性脂肪やコレステロー
ル(※よく言われる悪玉コレステロール・LDL)を増やします。そして細胞
や組織を硬化させ、脳卒中や心臓病などの循環器系疾患を引き起こします。
また肥満を招き、糖尿病をはじめ、さまざまな現代病・成人病を生み出しま
す。こうしたことは現在では、一般の人々にもかなり知られるようになって
います。
欧米では早くから「動物性脂肪の害」が認識され、肉食を減らす人々が増
えてきました。また肉を食べるときは、できるかぎり脂肪をそぎ落とし、赤
身の部分だけを食べるようにしたり、牛肉や豚肉ではなく、脂肪の少ない七
面鳥を使うなど、意識が変わってきました。
一方、日本ではどうかというと、肉の摂取量はいまだに増加の一途をたど
っています。しかも“霜降肉”などという、赤身の中にわざわざ脂肪を散ら
した肉をありがたがっています。そもそも健康な牛なら、赤身と白身がはっ
きり分かれるはずです。霜降肉は明らかに病的な肉なのですが、それが異常
な高値で売買されています。そして日本人は一様に、口の中でとろけるよう
-2-
においしいと、その肉を賛美しています。まさに日本だけの“狂った食習慣
”の実態があるのです。
植物性油の害
アメリカでは、動物性脂肪の摂り過ぎが動脈硬化や心臓病を引き起こすこ
とが知られるようになると、人々は植物油へと向かうようになりました。植
物油がコレステロールを下げるといった実験結果が発表されると、その傾向
は一気に進んだのです。なかには植物油を薬として、スプーンで飲むような
人まで現れました。「植物油は健康によい」というある種の神話が、先進諸国
の間に広まりました。
そうした情報は日本にも伝わり、植物油ブームが起こり、油料理がひんぱ
んに食卓にのぼるようになりました。バターに代わってマーガリンが好まれ
るようになり、植物油が贈答品として多く用いられるようになりました。植
物油は体によい、植物油は成人病を防ぐと、誰もが信じていました。
日本に植物油の流行が定着し始めた頃(1981 年)、アメリカでは、非常にシ
ョッキングな研究結果が発表されました。アメリカ国立ガン研究所が 20 年に
わたる研究の末、植物油はコレステロール値や心臓病発生の確率を下げるこ
とはなく、それどころか「ガンの発生率を高める」ことを公表したのです。
今まで最高の薬であると思っていたのに、それが心臓病の予防にならない
だけでなく、ガンを引き起こす原因であることを知って、アメリカは大混乱
に陥りました。その後、このアメリカ国立ガン研究所の発表内容は、他のさ
まざまな研究機関によって確かめられました。そしてアメリカの食品医薬局
は、植物油が心臓病の予防や治療に効果があると主張するのは違法と見なす、
との警告を発するに至るのです。こうした一連の状況は、日本の製油会社に
は当然知られていたはずですが、日本国内では相変わらず、植物油は健康に
よいと宣伝され続けてきました。
植物油を摂取すると、一見コレステロール値が下がったように見えること
-3-
があります。
しかし、それは植物油がコレステロールを肝臓や筋肉に付着させるため、
血液中の値がいっとき減ったように見えるだけなのです。コレステロールの
代謝の問題が、根本的に解決されたわけではありません。
植物油は酸化しやすく、細胞・組織を変性させ、その過剰摂取がガンを発
生させることが明らかされています。また植物油は血栓をつくり、脳卒中や
心臓病を引き起こすことも知られています。さらにはアレルギーや炎症性疾
患をひどくし、免疫力を抑制してあらゆる病気にかかりやすくします。植物
油も動物性脂肪と同様に、健康を害することが明確にされているのです。
こうした「植物性油の害」については、いまだに日本国民の中に十分浸透
しているとは言えません。今もお歳暮やお中元の季節になれば、健康によい
食品との触れ込みで、植物油がPRされ店頭に並んでいます。
※最近では、「体に脂肪がつきにくい!」を謳い文句に、次々と健康によい
という植物油が売り出されています。コレステロールの吸収を抑え、これま
での植物油に比べて体に脂肪がつきにくいので、安心して油料理・揚げ物料
理に使えると言うのです。
現代病が蔓延する背景に「油の過剰摂取」がありますが、こうした油を使
えば、本当に健康になれるのでしょうか?
現代病・成人病から守られるの
でしょうか?
高脂血症(高コレステロール)は、油脂の摂取を減らし、健全な食事に変
えれば、自然に治るものなのです。そのうえ他の病気にもかからなくなり、
健康になれるのです。
健康によいとPRされる油の問題点を1つ1つ挙げるまでもなく、一面の
利点だけを取り上げ、油の摂取を勧めることは間違っています。
2.脂質についての、新しい分類――分子構造の違いによる分類
脂肪・油の新しい分類法
-4-
脂肪・油に対する科学的な研究が進むにつれ、新たな事実が次々と明らか
にされるようになりました。これまでは脂質を、脂肪(動物)と油(植物・
魚)に分類していましたが、それとは別に、分子構造の違いによる分類が行
われるようになりました。
脂質は、元素である炭素と水素と酸素の組み合わせによって成立していま
すが、その組み合わせ・分子構造の違いが大きな性質の違いを生み出します。
新しい分類法では、脂質は分子構造の違いから、大きく「飽和脂肪酸」と「不
飽和脂肪酸」の2つに分類されます。
そして不飽和脂肪酸は、「一価不飽和
脂肪酸」と「多価不飽和脂肪酸」に分類されます。
さらに多価不飽和脂肪
酸は、
「オメガ6不飽和脂肪酸」と「オメガ3不飽和脂肪酸」に分類されます。
食品中の脂質は、こうした脂肪酸のいくつかが組み合わさってできていま
す。それぞれの脂肪酸の含有比率はさまざまですが、大半の食品にはすべて
の脂肪酸が含まれています。
先に述べた動物の脂肪には「飽和脂肪酸」が
多く含まれ、植物や魚の油には「不飽和脂肪酸」が多く含まれています。
脂肪酸の二重結合とは?
脂肪酸は、炭素(C)・水素(H)・酸素(O)の3つの元素からなる化合
物です。炭素には、他の元素と結び付くための4つの手があります。水素に
-5-
はその手が1つ、酸素には2つあります。脂肪酸は炭素同士が手をつないで
鎖をつくり、それに水素と酸素がつながった構造をしていますが、その炭素
と水素の結合の仕方で種類が分けられます。酸素については、どの脂肪酸で
も同じような結合になっています。
次の図のように、炭素同士が1つの手で結合しているのを「一重結合」と
言い、2つの手で結合しているのを「二重結合」と言います。この二重結合
があるかないか、あるとしたら1つか複数か、また複数あるならどの位置に
あるか、ということによって脂肪酸の種類が決められます。
脂肪酸の分子構造と性質の違い
それぞれの脂肪酸の、分子構造と性質の違いを見ていきます。
-6-
(1)飽和脂肪酸(ex.ステアリン酸)
図1には、二重結合はなく、炭素の手がすべて水素と結合しています。こ
れが「飽和脂肪酸」です。飽和脂肪酸は、肉・乳製品・卵などの動物性食品
に多く含まれています。私たちが肥満して「お腹につく脂肪・中性脂肪」の
主成分が、この脂肪酸です。
飽和脂肪酸は、エネルギーとして消費されないかぎり、どんどん蓄積され
-7-
ていきますから、摂取は控えめにするべきです。摂取エネルギーが消費エネ
ルギーを超過すれば肥満を招き、現代病・成人病の引き金となります。(※他
の脂肪酸や糖質・タンパク質を含めてのエネルギー総量が問題です。)
(2)一価不飽和脂肪酸(ex.オレイン酸)
図2には、二重結合が1つだけあります。これが「一価不飽和脂肪酸」で
す。そして二重結合の位置がメチル基(左側)から9番目の炭素にあるので、
「オメガ9不飽和脂肪酸」と言います。この脂肪酸は、動物性食品やオリー
ブ油に多く含まれています。
一価不飽和脂肪酸は、体内で飽和脂肪酸からつくられます。
(3)多価不飽和脂肪酸(ex.リノール酸)
図3には、二重結合が2つあります。これが「多価不飽和脂肪酸」の「リ
ノール酸」です。そして二重結合の位置がメチル基から6番目の炭素にある
ので、「オメガ6不飽和脂肪酸」と言います。この脂肪酸は、穀類や種子、コ
ーン油・大豆油・紅花油などの食用油に多く含まれています。
リノール酸は、細胞の成長・維持に不可欠で、体内では合成されない「必
須脂肪酸」です。局所ホルモンの材料として、さまざまな生理機能のコント
ロールのために使われます。
(4)多価不飽和脂肪酸(ex.アルファ・リノレン酸)
図4には、二重結合が3つあります。これが「多価不飽和脂肪酸」の「ア
ルファ・リノレン酸」です。そして二重結合の位置がメチル基から3番目の
炭素にあるので、「オメガ3不飽和脂肪酸」と言います。この脂肪酸は、野菜
(特に冬野菜)や海藻・豆・ナッツ類などに含まれています。亜麻仁油・シ
-8-
ソ油・エゴマ油には多く含まれています。
アルファ・リノレン酸は、リノール酸と同じく「必須脂肪酸」で、細胞の
成長・維持にかかわり、局所ホルモンの材料として重要な働きをしています。
アルファ・リノレン酸は、細胞や組織を柔軟にし、現代病・成人病を防いで
くれる大切な脂肪酸です。
またアルファ・リノレン酸からつくられ、魚の油に多く含まれているのが、
オメガ3系列の「EPA」「DHA」です。EPA(エイコサペンタエン酸)
は、肉の脂肪とは逆に、血液の粘度を下げてサラサラにし、血流をよくしま
す。近年、EPAの動脈硬化や心臓病を防ぐ働きが注目されています。DH
Aは脳をはじめとする神経組織に多く含まれ、脳や神経組織の成長・維持に
重要な役割を果たしています。DHAが不足すると、学習や記憶能力に障害
が起きるようになります。EPA・DHAを多く含んでいるのは、イワシ・
サバ・サンマ・サケ・ブリなどの大衆魚(青魚)です。
各脂肪酸の酸化スピードの違い
図で分かるように「飽和脂肪酸」は、すべての炭素が水素で飽和されてお
り、最も酸化しにくい脂肪酸と言えます。分子構造が飽和状態にあるので、
他の水素や酸素などの原子がくっつきにくいのです。飽和脂肪酸についで酸
化しにくいのが、「一価不飽和脂肪酸」です。二重結合が1つだけで、飽和度
がかなり高いからです。
それとは反対に「多価不飽和脂肪酸」は、酸化が速く進みます。二重結合
が複数あって、他の原子と化合しやすいためです。なかでも「オメガ3」は、
不飽和度が最も高く酸化しやすい脂肪酸です。しかし酸化が速いからといっ
て、「オメガ3」が悪い脂肪酸というわけではありません。酸化が速いという
のは、それだけ活性が高く反応性に優れているということです。
人間の体の中で“脳”は最も重要な器官の1つですが、その構成成分の 60
%は脂肪が占めています。そして、このうち一番量が多いのが「オメガ3」
-9-
です。無数の神経細胞から成り立っている脳は、神経刺激を伝達したり、外
からの刺激を受け取ったり、いつも活発な活動をしていますが、その動きに
鋭敏に反応し、素早く対応しているのが「オメガ3」なのです。脳では「オ
メガ3」が最も大切な脂肪酸なのです。(※空気中と体内では脂肪酸の酸化の
スピードは異なり、体内ではオメガ6よりもオメガ3の方が酸化されにくい
ことが分かっています。脂肪酸の酸化による害については、後で述べていま
す。)
3.各脂肪酸の摂取状況(飽和脂肪酸・オメガ9・オメガ6・オメガ3)
過剰摂取の「飽和脂肪酸」
食生活の欧米化によって、
「飽和脂肪酸」の摂取量は大幅に増加しています。
飽和脂肪酸を多く含むラード(豚脂)は、これまで家庭ではあまり使われて
きませんでしたが、安価で酸化しにくい(腐りにくい)ために、業務用とし
てよく利用されてきました。植物の油にも、飽和脂肪酸を多く含んでいるも
のがあります。南方地域のヤシの実から採れるパーム油・ココナッツ油です。
(※動物の脂肪は、飽和脂肪酸・一価不飽和脂肪酸がかなりの割合を占めて
いますが、リノール酸やアルファ・リノレン酸も少し含まれています。その
脂肪酸バランスも、家畜の生産システムの変化によって崩れてきています。
牧草で飼育された牛には「アルファ・リノレン酸」が多いのですが、穀物飼
料で育てられた牛には「リノール酸」が増えているということです。)
オリーブ油に多く含まれる「オメガ9」
一価不飽和脂肪酸の「オメガ9」は、オリーブ油に大量に含まれています。
全体の 70 ~ 80 %がオメガ9(オレイン酸)で占められています。このため
オリーブ油は植物油の中で、特に酸化しにくい油ということになります。ま
- 10 -
たオリーブ油には、血管系統のトラブルを予防する働きがあることが確かめ
られています。こうした点から調理用としては、オリーブ油が最も安全性の
高いものとして勧められます。他にオメガ9を多く含む油として、キャノー
ラ油(新品種の菜種油)があります。
極端に過剰摂取の「オメガ6」
多価不飽和脂肪酸のうち「オメガ6」は、サラダ油・テンプラ油などに多
く含まれ、最も一般的に使われています。また、そうした精製油をベースに
したマヨネーズ・ドレッシングなどは、毎日の食卓に欠かせないものとなっ
ています。
オメガ6は「リノール酸」と呼ばれ、現代人が極端な過剰摂取に陥ってい
る油です。
(※先に「植物性油の害」について述べましたが、それはこの「リノール酸」
のことです。)
深刻な欠乏状況にある「オメガ3」
すべての脂肪酸中、最も不飽和度が高い「オメガ3」は、ブロッコリー・
芽キャベツ・小松菜などの冬野菜や海藻などに含まれています。また最近知
られるようになった亜麻仁油・シソ油・エゴマ油には、オメガ3が大量に含
まれています。
植物に含まれるオメガ3を「アルファ・リノレン酸」と言います。現代人
の大半は、「オメガ3」を大きく欠乏させています。現在、食事の中に“亜麻
仁油”を取り入れることを勧めています。(※海の野菜と言われる海藻には、
生であれば少し「オメガ3」が含まれていますが、残念ながら乾燥後には失
われてしまいます。しかし海藻は、ミネラル・繊維源として欠かせない食品
です。)
- 11 -
食用植物油中の脂肪酸組成
次に、一般に最も多く使われている食用植物油の脂肪酸組成率を挙げてお
きます。
4.体内での各脂肪酸の変換
体内に吸収された脂肪酸は、酵素を触媒として次のように変換していきま
す。
体内での脂肪酸の変換には――「飽和脂肪酸系列」「リノール酸系列」「ア
- 12 -
ルファ・リノレン酸系列」の3つがあります。そして重要なことは、これら
3つの系列の脂肪酸は「体内で相互変換しない」ということです。つまり、
どれだけ大量の飽和脂肪酸を摂っても、ガンマ・リノレン酸に変わることは
ありません。またリノール酸が、EPAやDHAに変わることもありません。
このように「体の脂肪酸バランス」は、食べ物として摂った脂肪酸によっ
て決まってしまいます。すべての細胞の脂肪酸の状態が、摂取した脂肪酸に
よってストレートに決定してしまうのです。
5.「オメガ3」と「オメガ6」のバランス
新しい油に関する考え方
油に関する研究が進むにつれ、より詳しい油の働きが分かってくるように
なりました。 必須脂肪酸である「アルファ・リノレン酸(オメガ3)」と「リ
ノール酸(オメガ6)」は、単なるカロリー源ではなく、細胞膜の構成成分に
なったり、体のほとんどすべての機能を調節するホルモン様物質(局所ホル
モン)の原料となる不可欠な脂肪酸です。
- 13 -
栄養学で問題となるのは、「オメガ3」と「オメガ6」の摂取比率について
です。この2種類の脂肪酸の「摂取比率・体内比率」が崩れると、現代人の
多くが抱えているような病気が引き起こされるということです。必須脂肪酸
のアンバランスは、ガン・心臓病・脳卒中・糖尿病・関節炎・不妊や生理の
トラブル・アレルギー・喘息・精神疾患など、さまざまな病気にかかわって
います。最新の栄養学によって、「オメガ3」と「オメガ6」の摂取比率が、
私たちの健康を大きく左右するということが明らかにされてきました。
現代栄養学では、「オメガ3」と「オメガ6」の理想的な摂取比率を、およ
そ1:1~1:3くらいであると考えています。これはアメリカで言えば、
百年ほど前の食事の内容です。それが現代では、極端に崩れてしまっていま
す。オメガ3は、必要量の 20 %程度しか摂られていません。
その状況は日本においても同様です。我が国では 1960 年頃までは、かなり
よい比率を保っていたと思われますが、その後急速に悪化してしまいました。
今ではオメガ3とオメガ6の摂取比率は、1:10 ~1:50 というような、ひ
どいアンバランス状態にあります。オメガ3の著しい不足に対して、オメガ
6は極端な過剰摂取に陥っています。
オメガ3とオメガ6のアンバランスを引き起こす原因
では、どうしてこのような異常な事態を引き起こすようになったのでしょ
うか。「オメガ3」も「オメガ6」も、植物性食品や植物油の中に多く含まれ
ています。そして、その植物油がアメリカや日本において大量に摂取される
ようになったのは、1960 年以降のことです。食事が欧米型に向かい、油料理
・揚げ物料理が多くなった時期ということです。
食事の欧米化の中で摂取量が増え続けてきた油と言えば、コーン油・大豆
油・サフラワー油(紅花油)などです。そして、それらをベースにしたマヨ
ネーズやドレッシング・マーガリンなどです。実は、こうしたどこの家庭で
も毎日のように使う油には、「オメガ6(リノール酸)」が豊富に含まれてい
- 14 -
るのです。(※食用植物油の脂肪酸組成を参照してください。一般に使われる
油の中には、45 ~ 75 %もの「オメガ6」が含まれています。)
一方、「オメガ3(アルファ・リノレン酸)」を多く含む油としては、シソ
油・エゴマ油があり、欧米では亜麻仁油があります。しかし現代人のほとん
どは、これらの油を料理に使うことはありませんでした。(※日本ではあまり
なじみのない「亜麻仁油」ですが、食用に用いられた歴史は古く、ギリシャ
・ローマ時代からだと言います。北欧諸国では第2次世界大戦の前まで、ど
この家庭でも使われていました。)
また食品によっては、オメガ3を比較的多く含むものもあります。野菜(特
に緑の濃い冬野菜)・海藻・魚(背の青い大衆魚)などです。そしてこれらの
食品は、昔の日本人は日常的によく食べていました。そのためかつては、か
なり「オメガ3」を摂取することができていたのです。油料理をひんぱんに
摂るような現代とは違って、オメガ3とオメガ6のバランスは自然に良好だ
ったのです。
- 15 -
現代人は、オメガ3の摂取源となる野菜・海藻・魚などをあまり摂らなく
なっているのに対し、オメガ6の摂取量は激増しています。食事が欧米型に
傾けば傾くほど、「オメガ6」だけが多くなってしまうのです。こうして必然
的に、「オメガ3」と「オメガ6」のバランスは大きく崩れてしまいました。
現代人の深刻な「オメガ3脂肪酸欠乏」
食生活の欧米化が深刻な「オメガ3欠乏」を招いていますが、その一因と
しては、次のようなことも挙げられます。一般に現代人は、寒い地域の食物
より、温かい地域の食物を好んで食べるようになっています。温室栽培や輸
入によって、冬でも、トマトやキュウリ・ピーマンなどの夏野菜が食べられ
るようになりました。実は、「オメガ6」が暖かい地域の農作物に多く含まれ
ているのに対して、「オメガ3」は寒い地域の農作物に多いのです。
ホウレ
ン草・シュンギク・小松菜・白菜・ブロッコリーなどの冬野菜は、よいオメ
ガ3の摂取源となっています。
また精白技術の進歩が、オメガ3不足に拍車をかけています。穀類の胚芽
にはオメガ3とオメガ6がともに含まれているのですが、精白することで「オ
メガ3」が失われてしまいます。
さらにオメガ3不足の大きな原因として現代式の製油方法が挙げられます。
食用油といえば、かつては手絞り的な圧搾法「コールド・プレス(低温圧搾
法)」で製造されていました。しかし現代では、そうした方法でつくられてい
るのは亜麻仁油・オリーブ油などの一部の油のみです。それ以外のほとんど
の食用油は、化学的溶剤で原料の中の脂肪を溶かし出し、その後に溶剤を除
去するといった方法でつくられています。そして最後の脱臭工程では、230 ℃
以上もの高温処理がなされています。取り出された油には、部分的に水素が
添加されます。“水素添加”とは、不飽和脂肪酸の二重結合部分に、高温高圧
下で強引に水素をつなげて油を飽和状態に変えてしまうことです。こうする
と油は酸化しにくくなって日もちがよくなり、商品寿命が延びるからです。
- 16 -
こうした製油過程で真っ先に失われてしまうのが、水素と最も反応しやす
い「オメガ3」なのです。原料となる大豆やゴマなどの種子類には、わずか
ですがオメガ3が含まれていますが、今述べたような製油方法では、ほとん
どなくなってしまいます。そのうえ「トランス型脂肪酸」という有害な脂肪
酸が生成されることになります。(※「溶剤使用」「高温処理」「水素添加」と
いう現代式の製油方法の中では、オメガ3だけでなく、ビタミンなどの栄養
素も失われてしまいます。トランス型脂肪酸の害については、後で述べてい
ます。)
このような原因が重なって、現代人の「オメガ3不足」は、きわめて深刻
な状態になっています。
- 17 -
第5章
生理活性物質のバランスをとるために
以下は、分子化学療法研究所の後藤日出夫先生の提唱されることです。
悪い植物油(市販のサラダ油など)や加工油(マーガリンなど)をとらない
脂質のとり過ぎが活性酸素の発生原因に!
「酸化ストレス・炎症体質」の人は、体内
で過酸化脂質が生成されやすく、これが活
性酸素を過剰に発生させる原因物質となっ
ています。
過酸化脂質というのは、コレステロール
や中性脂肪が活性酸素によって酸化されて
できたものです。これらは体内で作られる
のですが、それ以上に、過酸化脂質を多く含む加工食品などを過剰にとる食
習慣のほうに問題があると考えられます。
ポテトチップスなどのスナック菓子、インスタントラーメン、ピーナッツ、
マヨネーズ、マグロの缶詰(缶を開けたあと)、黒くなった古い油分には注意
が必要です。また、新しいものでもチキンフライなどの揚げ物を電子レンジ
で加熱すると、とがった部分や角の部分が過酸化されることがあります。
ところで、精神的なストレスを受
けてアドレナリンが分泌されると、
血糖値(血液中のブドウ糖濃度)を
高めるために体脂肪が分解されま
す。このとき、体脂肪から遊離脂肪
酸が生成され、血液中に溶け出して
全身に送られます。
-1-
通常、体脂肪は空腹時のエネルギー不足を補うために分解されます。とこ
ろが、精神的なストレスからアドレナリンが分泌されて遊離脂肪酸が生成さ
れますと、エネルギーとして消費されることがほとんどありませんので、そ
の後ストレスから解放されると、血中の遊離脂肪酸濃度だけが高くなった状
態になってしまいます。この遊離脂肪酸は、血小板の凝集を促進したり脳血
管壁を傷つけたりしますから、これが活性酸素を発生させる原因となってし
まいます。
遊離脂肪酸には細胞を傷つける性質が強いという特徴があります。通常は
血液中のアルブミンというタンパク質成分と結合して毒性が弱められた状態
で存在しているのですが、遊離脂肪酸が毒性を発揮して細胞を傷つけるとい
うことは、アルブミンとの結合可能な限界量(閥値)を超えてしまっている
ということです。
このような状態を招く原因は、間違った日々の食習慣なのです。特に、植
物油(リノール酸)やトランス脂肪酸を多くとり過ぎると、体内での脂質代
謝が充分に行われず、血液中の遊離脂肪酸濃度が高い状態になることがわか
っています。
このような状態になれば、ストレスなどのわずかな刺激であっても、片頭
痛の引き金となる脳血管内の血小板凝集が起きてしまいます。
低血糖にも注意が必要
ところで、皆さんは甘い清涼飲料水やお菓子
をよく召し上がりますか?
これらに含まれる
糖質は、私たちの体が短時間に分解・処理可能
なレベルを超える量が含まれているものが数多
く見受けられます。
-2-
体内でどのような変化が起きるかを見てみると、清涼飲料水やお菓子を過
剰に摂取すると急激に血糖が上がり、その
上昇を抑制するために、膵臓からインスリ
ンが分泌されます。インスリンには血中の
ブドウ糖濃度を調整してくれる働きがある
ことはご存知のとおりです。清涼飲料水な
どの消化吸収のよい糖質を短時間でとると、
体はたくさんの糖質が摂取されたと認識してインスリンを過剰に分泌します。
その結果、血糖値が必要以上に下がり過ぎるという現象が起きます。これが
低血糖です。
急激な血糖値の低下も、体がストレスを感じている状態です。そうなると、
今度はそれを適正なレベルにまで戻そうと体が働き、アドレナリンなどのホ
ルモンが分泌されます。すると、体脂肪が分解されて遊離脂肪酸が血液中に
放出されて濃度が高まり、これが活性酸素を発生させて片頭痛の原因となる
わけです。
スポーツドリンクや清涼飲料水などを大量
に飲み続けることにより引き起こされる「ペ
ットボトル症候群」という現代病もこのよう
にして発症します。体がだるい、のどか渇く、
トイレに行く回数が増えるなどの急性糖尿病
的な症状や、ひどい場合には血液が酸性にな
り昏睡状態に陥ることもあります。
清涼飲料水やお菓子のとり過ぎ以外にも、過激な運動や無理な絶食なども
血液中の遊離脂肪酸の濃度を高めることにつながります。ご注意ください。
精製・加工処理された植物油をとらない
片頭痛にはいろいろな症状の違いがあり、発症の原因もさまざまです。で
-3-
も、どのようなタイプの片頭痛の人にも共通した発症要因が「酸化ストレス
・炎症体質」です。
「それはなぜ?」は前半の部分で説明しました。、ここでは、どうすれば改善
できるのかを解説することにしましょう。その筆頭に挙げたいのが食習慣の
見直し、その中でも特に「食用油に気をつけること」です。
皆さんの中には、「植物油は健康によい」と思っている方も多いのではない
でしょうか?
もしあなたが「植物油は健康によい」と信じているのであれ
ば、「植物油のとり過ぎが、じつは健康を害する最大の原因である」と認識を
変えてほしいのです。
もちろん、植物油の中にも「よい植物油」
と「悪い植物油」があるので一概にはいえ
ないのですが、悪い油のとり過ぎが、片頭
痛発症の引き金となる「活性酸素」と「遊
離脂肪酸」を発生させることにつがなって
いることは確かです。よいものと悪いもの
を見極める目を持つことが大切です。このことも、前半の部分で説明致しま
した。
私かお勧めする植物油は、昔ながらの製法「低
温圧搾」で造られたシソ油(エゴマ油)や亜麻仁
油などのオメガー3系脂肪酸を多く含む植物油と、
エクストラバージンオリーブ油、低温圧搾で作ら
れたゴマ油やナタネ油などの植物油です。これら
以外の市販されているサラダ油など多くの植物油
は、いずれも「悪い油」といってもよく、多くとってはいけないものばかり
です。また、マーガリンやショートニングなどの脂もダメです。
こうした「悪い油」を原材料とするマヨネーズやドレッシング、植物性ヨ
ーグルト、ケーキ、ビスケット、クッキー、チョコレート……なども、でき
るだけ避けたい食品といえます。加工食品の成分表を見ればわかるのですが、
-4-
植物油が加えられていない加工食品はまれにしかありません。これらの植物
油のほとんどは悪い油です。注意してください。
危険な「トランス脂肪酸」について
悪い植物油というのは、工業的に精製・加工されたもので、その製造過程
で副産物として生成されるトランス脂肪酸という非常に危険な有害物質を含
んでいます。トランス脂肪酸は悪玉コレステロールを増やし、善玉コレステ
ロールを減らす働きがあることがわかっていて、動脈硬化や心臓病につなが
るなど、健康被害の原因となります。海外では、加工食品にトランス脂肪酸
がどれくらい含まれているかを表示する義務や含有量の制限がある国もある
ほどです。
このトランス脂肪酸をとることと、植物油の主成分であるリノール酸のと
-5-
り過ぎが、片頭痛やさまざまな生活習慣病を発症させる原因となる「酸化ス
トレス・炎症体質」の最大の誘発因子となっています。ですから、悪い植物
油を料理などに極力使用しないこと、こうした植物油を使って作られた加工
食品を極力とらないことが大切です。
ところで、今でもマーガリンが「健康によい」と信じている人は結構多い
ようです。
もし、料理にマーガリンを使う必要があるのであれば、ただちにバターに
切り替えてください。バターのとり過ぎも体にはよくないのですが、それで
もマーガリンよりは健康上の問題は少ないといえます。
マーガリンやショートニングを使用している市販のケーキやクッキー、お
菓子類なども極力とらないようにすることが、「酸化ストレス・炎症体質」に
至らないためには大事です。
市販の揚げ物を食べてはダメ’・
市販の揚げ物にも、油の”持ち”をよくするために、トランス脂肪酸を多
く含む硬化油という植物油が使用されています。硬化油を使用した鶏の唐揚
げやポテトフライなどの揚げ物類も極力とらないようにしたほうがよいでし
ょう。揚げ物を食べたい場合は家庭で作るようにしてください。その際には、
圧搾製法で造られたナタネ油やゴマ油、またはオリーブ油を使うようにしま
しょう。
また、悪い植物油はドレッシングやマヨネーズをはじめ、多くの加工食品
に使用されています。ですから、加工食品を手にとったら、必ず成分表を見
るようにしたいものです。「植物油使用」と書かれているものは、いずれも悪
い植物油が使われていると思ってください。マヨネーズやドレッシングは、
エクストラバージンオイルやシソ油を使った自家製のものにすると、健康に
もいいし、美味しく安心していただくことができます。
-6-
日常の調理には加熱用としてエクストラバージ
ンオリーブ油を使い、ドレッシングやマヨネーズ
などの非加熱用途には、シソ油(エゴマ油)また
はエクストラバージンオリ-ブ油を用いるとよい
でしょう。
また、穀類、種実類(ナッツ)、豆類、芋類な
ど、天然の植物に含まれる油分にはリノール酸が多く含まれていますが、こ
れらはよい油分であり、有害なトランス脂肪酸は含まれていません。
なお、リノール酸は必須脂肪酸です。摂取不足が気になるところですが、
通常の食事(穀類や豆類を含む)をしているかぎり、あえて植物油や植物油
を含む加工食品をとらなくても摂取不足を起こすことはありません。
また、穀類や豆類を中心とした通常の食事では、リノール酸のとり過ぎを
起こすこともありません。知らず知らずのうちに加工食品から摂取されるト
ランス脂肪酸やリノール酸のとり過ぎ、ドレッシングやマヨネーズ、唐揚げ
などからの直接的な植物油のとり過ぎが問題です。
脂肪酸の種類
たとえばビタミンにもいろいろな種類があるように、脂質(油脂)にもい
くつかの種類があります。これらは、分子構造上・脂肪酸として次のように
分類できます。
I.飽和脂肪酸……酸素などと反応しやすい「二重結合」を持たないもの
(ヤシ油や牛乳・バターに多く含まれる)
Ⅱ.一価不飽和脂肪酸……「二重結合」がひとつだけあるもの
(オリーブ油の主成分であり、ナタネ油や牛脂に多く含まれるオレイン
酸など)
Ⅲ.多価不飽和脂肪酸……複数の「二重結合」を持つもの
-7-
(シソ油に多く含まれるα-リノレン酸や植物油に含まれるリノール酸、青
魚に含まれるEPA・DHAなど)
飽和脂肪酸や一価不飽和脂肪酸は、おも
に体を構成する細胞膜に使用されたり、中
性脂肪として体に必要なエネルギーとなっ
たりするものです。ただし、体をコントロ
ールしている生理活性物質(私たちの生理
活動に影響を与えるホルモン様物質)の合
成に使用されることはありません。
一方の多価不飽和脂肪酸には、細胞膜の
構成やエネルギーの供給源となるほかに、「酸化ストレス・炎症体質」を決定
する生理活性物質の原料になるという重要な役割があります。
最近注目されているのが、多価不飽和脂肪酸の中の「オメガー3系脂肪酸」
です。シソ油(エゴマ油)、亜麻仁油の主成分であるαーリノレン酸をはじめ、
青魚に含まれるEPA(エンコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエ
ン酸)などが代表です。サプリメントとしても発売されていますから、皆さ
んもご存知のことでしょう。
多価不飽和脂肪酸には、このほかにもリノール酸やアラキドン酸などのオ
メガー6系脂肪酸のグループがあります。体内でEPAやDHAはα-リノ
レン酸からも合成され、アラキドン酸はリノール酸からも合成されます。こ
のように、同じグループ内の脂肪酸は体内で必要に応じて作りかえられるの
ですが、オメガー6系からオメガー3系などグループを超えての合成は決し
て起こりません。
大切なのは「オメガー3系脂肪酸」
一般にオメガー6系脂肪酸をとり過ぎると「酸化ストレス・炎症体質」を
-8-
形成し、逆にオメガー3系脂肪酸は「酸化ストレス・炎症体質」の形成を抑
制する働きがあります。
今日の食生活では、オメガー6系脂肪酸はとり過ぎとなり、逆にオメガー
3系脂肪酸は不足しがちです。これは近年急激に摂取量が増えた植物油に、
リノール酸などのオメガー6系脂肪酸が多く含まれること、さらに私たちが
主食とする米をはじめ、小麦やトウモロコシ、そばなどの穀類の油分にもオ
メガー6系脂肪酸が多く含まれるからで
す(オメガー3系脂肪酸の 15 ~ 30 倍)。
当然、片頭痛にならないためには、オ
メガー3系脂肪酸を含む食べ物を積極的
にとるようお勧めするわけですが、なか
でもEPAやDHAを多く含む青魚が有
望です。
ただし、ここで注意しておきたいことがひとつ。青魚のうち、ブリやマク
ロなどの大型魚には、メチル水銀やダイオキシン類といった環境汚染有害物
質を多量に含むものが多いということです。小さければ小さいほど、こうし
た有害物質をわずかしか含みませんから、目安としては「手先から肘までよ
り小さな魚」であるイワシやアジ、サバなどの小型の青魚がお勧めです。
また、オメガー6系脂肪酸とオメガー3系脂肪酸の摂取比率は、体質改善
当初は[1:1]、改善後は[2:1]が望ましく、私はシソ油(エゴマ油)
や亜麻仁油を日常の食生活に取り入れることを勧めています。
ところで、もしあなたが花粉症やアレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎な
どのアレルギー疾患で悩んでいるのであれば、これまで述べてきた植物油に
かかわる注意事項を忠実に守るだけで、その悩みは解消に向かうことでしょ
う。
片頭痛の場合には、残念ながらこれだけでは充分な改善効果を実感するこ
とはできないのですが、まずはこの植物油の問題をクリアすることが、片頭
痛体質にならないための第一歩です。ぜひお試しください。
-9-
第6章
健康の鍵・油の摂り方
脂質(油)の役割について
1.栄養素としての脂質
2.細胞膜の構成成分
3.生理活生物質
健康の鍵・油のとり方
片頭痛と脂質の関与
脂質(油)の役割について
脂質(油)は私たちの「命の燃料」とな
る無二の栄養素といわれ、とても大切な役
割を担っています。特に、次の 4 点がポイ
ントです。
1.エネルギーを産生する
食べ物に含まれる脂質は体内で分解され、細胞の中で 1g あたり 9kcal のエ
ネルギーを産生します。エネルギーは炭水化物やたんぱく質からも作られま
すが、これらのエネルギー産生量が 1 g当たり 4kcal ということと比べると、
脂質はエネルギー効率が高い栄養素といえます。
2.燃料として貯蔵される
-1-
使い切れなかった脂質は他のエネルギー源同様、中性脂肪に変えられ、体
脂肪として蓄えられます。そのため脂質をとりすぎると肥満や脂肪肝の原因
となり、さらに血液中の中性脂肪やコレステロールが増える脂質異常症や、
メタボリックシンドローム、動脈硬化、心筋梗塞や脳梗塞などの原因にもな
ります。
3.身体を作る成分となる
脂質は細胞膜の構成成分になります。脂質は水を弾くため、細胞の内外に
必要以上に水が出入りしないよう作用します。脂質はそのほかホルモンや生
理活性物質といった、体の仕組みに働きかける物質の材料にもなっています。
このように細胞レベルでも重要な働きをするので、ダイエットだからといっ
て極端に脂質を制限するのは厳禁です。
4.脂溶性ビタミンの吸収をよくする
ビタミンの中には、水には溶けず油脂に溶けるものがあります。脂質はこ
れらのビタミンを溶かし込んで、吸収しやすくします。脂溶性のビタミン A
・D・E・K などの吸収を助けたりします。
他にも、熱の発散を防いで体温を保ったり、太陽の光を利用してビタミン D
を合成したりする働きもあります。
これらについて、もう少し詳しく説明致します。
1.栄養素としての脂質
私たち人間は、油を栄養素として食事から摂取します。摂取された脂質は、
-2-
腸管で酵素により分解され、小腸から吸収されて栄養源として利用されます。
牛霜降り肉やマグロのトロ、フォアグラ、脂のよくのった魚、バター、マヨ
ネーズ、乳脂肪分の多いアイスクリーム、チョコレートなど、私たち人間は
脂質のたっぷりと入った食品が大好きです。ダイエットの敵とは知りながら
つい食べてしまいます。これはどうやら人間は脂質を美味しいと感じるよう
なしくみがあるようです。これは人間に限った話ではありません。脂質の入
った水を飲ませる実験から、ラットやマウスはただの水よりも、コーンオイ
ルやミネラルオイルを混ぜた水を好んで飲むことが判明し、少なくとも哺乳
類は脂質に対して高い嗜好性を示すことが分かっています。
また、脂質は単位重量当たりの栄養価が高いため、その取り過ぎがメタボ
リックシンドロームなどを引き起こすことが大きな問題となっています。同
じ量の食事をしても脂っこい食事を続けるとメタボリックシンドロームの原
因となってしまうのはこのためです。このように脂質は、栄養素として重要
ですが、その過剰な摂取は大きな問題です。
体の中で消費されずにたまって脂肪分は、プロスタグランジンの原料にな
ります。体の中には脂肪分があまっていますから、プロスタグランジンも多
くつくられてしまいます。
そのため、多く作られたプロスタグランジンは、生理のときに必要以上に出
すぎて、子宮内膜に収縮しなさいと命令をたくさん送ってしまい、生理痛が
ひどくなってしまうのです。ですから女性の場合、脂肪分の多い食事になら
ないように調整すると、生理痛をやわらげることにつながります。
脂質のとり過ぎと片頭痛の関与・・活性酸素の発生原因に!
ところで、「酸化ストレス’炎症体質」の人は、体内で過酸化脂質が生成さ
れやすく、これが活性酸素を過剰に発生させる原因物質となっています。
過酸化脂質というのは、コレステロールや中性脂肪が活性酸素によって酸
化されてできたものです。これらは体内で作られるのですが、それ以上に、
-3-
そもそも過酸化脂質を多く含む加工食品などを過剰にとる食習慣のほうに問
題があると考えられます。
ポテトチップスなどのスナック
菓子、インスタントラーメン、ピ
ーナッツ、マヨネーズ、マクロの
缶詰(缶を開けたあと)、黒くなっ
た古い油分には注意が必要です。
また、新しいものでもチキンフラ
イなどの揚げ物を電子レンジで加熱すると、とがった部分や角の部分が過酸
化されることがあります。
精神的なストレスを受けてアドレナリンが分泌されると、血糖値(血液中
のブドウ糖濃度)を高めるために体脂肪が分解されます。このとき、体脂肪
から遊離脂肪酸が生成され、血液中に溶け出して全身に送られます。
通常、体脂肪は空腹時のエネルギー不足を補うために分解されます。とこ
ろが、精神的なストレスからアドレナリンが分泌されて遊離脂肪酸が生成さ
れると、エネルギーとして消費されることがほとんどありませんので、その
後ストレスから解放されると、血中の遊離脂肪酸濃度だけが高くなった状態
になってしまうのです。この遊離脂肪酸は、血小板の凝集を促進したり脳血
管壁を傷つけたりしますから、これが活性酸素を発生させる原因となってし
まいます。
遊離脂肪酸には細胞毒性(細胞を傷つける性質)が強いという特徴があり
ます。通常は血液中のアルブミン(Lカルニチン)というタンパク質成分と
結合して毒性が弱められた状態で存在しているのですが、遊離脂肪酸が毒性
を発揮して細胞を傷つけるということは、アルブミンとの結合可能な限界量
(間値)を超えてしまっているということです。
このような状態を招く原因は、間違った日々の食習慣なのです。特に、植
物油(リノール酸)やトランス脂肪酸を多くとり過ぎると、体内での脂質代
謝が充分に行われず、血液中の遊離脂肪酸濃度が高い状態になることがわか
-4-
っています。
このような状態になれば、ストレスなどのわずかな刺激であっても、片頭
痛の引き金となる脳血管内の血小板凝集が起きてしまいます。
脂肪からエネルギーが産生される仕組み
体についた脂肪は、そのままでは燃えません。まず、燃えやすい遊離脂肪
酸に変化し、血液の中に流れ出します。そして、各細胞内のミトコンドリア
へと流れていきます。ミトコンドリアは、エネルギーを生み出す場所です。
遊離脂肪酸を燃料としてエネルギーを生み出すのです。こうして、脂肪は燃
焼します。ところが、遊離脂肪酸は” L-カルニチン”がないと、ミトコンドリ
アの中に入ることができません。つまり、L-カルニチンがミトコンドリアの
鍵を開けることで、はじめて遊離脂肪酸はミトコンドリアに入ることができ
るというわけです。
L-カルニチンは遊離脂肪酸をミトコンドリアに運ぶ役割を果たしています。
つまり、L-カルニチンが不足していては、体についた脂肪を燃やしてなくす
ことはできないのです。
-5-
L-カルニチンには、もう一つ重要な働きがあります。
それは、健康な脳機能を維持することです。L-カルニチンが不足すると、
脳のアセチル-カルニチンが不足します。アセチル-カルニチンが不足すると、
脳の細胞が壊れやすくなり、痴呆症になりやすくなります。このことは、数
多くの臨床研究から明らかにされています。L-カルニチンは、ボケ防止にも
-6-
役立つというわけです。
L-カルニチンは、ミトコンド
リアの中で脂肪を燃焼して肥満
を防止し、脳の中でアセチル化
してボケを防止してくれる、私
達には欠かせない物質なので
す。
L-カルニチンのパワーは CoQ10
なしでは発揮されません!
肥満を解消したいからと、いくら L-カルニチンを摂っても、それだけでは
効果はあまり期待できません。その優れた体脂肪の燃焼効果を発揮させるた
めには、CoQ10 が欠かせないのです。
L-カルニチンだけがたくさんあっても、CoQ10 が不足していては、脂肪は
うまく燃焼されません。逆に、CoQ10 だけがたくさんあっても、L-カルニチ
ンが不足していては、脂肪はうまく燃焼されません。つまり、この二つの相
乗効果で、片頭痛改善・肥満が解消できるというわけなのです。
L-カルニチンは CoQ10 と一緒にしっかり摂ってこそ意味があるのです。
遊離脂肪酸と片頭痛の関与のしかた
このように、脂肪がうまく燃焼されませんと遊離脂肪酸は血液中に残るこ
とになります。
これ以外にも、精神的なストレスによりアドレナリンが分泌されると、血
糖値(血液中のブドウ糖濃度)は上がり、体脂肪も分解され始めるため体脂肪
からの遊離脂肪酸が生成されるようになります。
-7-
本来、これらの体の変化は獣(外敵)などに襲われた時に人間が外敵と戦
ったり逃げたりする時にエネルギー不足を起こさないための緊急的体勢の備
えとして身に付いたものと考えられます。
通常、体脂肪のエネルギーへの利用は空腹時(食事を摂らない時)にエネ
ルギーの不足分を補うために生じ、生成した遊離脂肪酸は直ちに体に必要な
エネルギーとして使用されます。
しかし、エネルギーとして必要性がほとんどなく、単に精神的なストレス
だけによる緊張のためだけに生成した遊離脂肪酸は血中の遊離脂肪酸濃度を
高めるだけの結果となります。ストレスから開放されると消費されるあての
ない遊離脂肪酸は一時的に血中の濃度を高めるだけの結果となってしまうの
です。
その結果、血小板に直接作用して血小板の凝集を促進することや脳血管壁
を傷つけ活性酸素を発生させるなどの現象を引き起こすと考えられます。
このため、ストレスを受けている時に発症するのではなくストレスから開
放された時に片頭痛を発症しやすくなるのです。
また、植物油(リノール酸)の摂りすぎやトランス脂肪酸を摂ると、体内で
の脂質代謝が遅延することになりますので、血液中の遊離脂肪酸濃度をいつ
も高い状態にしてしまうことになります。
このように、血液中の遊離脂肪酸濃度が常に高い状態であれば、ストレス
などのわずかな刺激であっても血小板の凝集や活性酸素の発生が起こり易く
なると考えられます。
一方、糖飲料などを飲みすぎにより急激に血糖値が上がりすぎますと、血
糖の急激な上昇を抑制するためにインスリンが過剰に分泌されることになり
ます。
過剰に分泌されたインスリンは血糖を下げすぎることになります。
血糖値が下がりすぎると、血糖を適正なレベルに戻そうとするからだの仕
組みが働き、体脂肪から遊離脂肪酸がエネルギー源として放出されるように
なります。
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体脂肪からブドウ糖などエネルギー源としての生成とその消費がバランス
していれば問題を生じることはありませんが、急激な血糖値の変化にそのバ
ランスが崩れてしまうと血液中の遊離脂肪酸濃度を高めることになります。
特に片頭痛持ちの人はミトコンドリアの活性が低く(冷え性や低体温症な
ど)、ブドウ糖の生成とその消費のバランスは乱れやすい傾向にあります。
糖飲料の摂りすぎ以外にも、過激な運動や絶食(長い間の空腹)なども糖へ
の代謝とその消費のバランスを乱しますので血液中の遊離脂肪酸の濃度を高
めることになります。
このようにして放出された遊離脂肪酸が血小板に直接作用して血小板の凝
集を引き起こすことにより脳血管内のセロトニン濃度が上昇することで片頭
痛を発症すると考えられます。
または、遊離脂肪酸が脳血管壁を傷つけ活性酸素を発生させ、その活性酸
素が三叉神経や脳細胞を傷つけることにより片頭痛を発症させると考えるこ
ともできます。
このように活性酸素は、片頭痛発症の”引き金(トリガー)”になってきま
す。
2.細胞膜の構成成分
一方、脂質は栄養素以外の役割も持っています。私たち生物は基本単位で
ある細胞で構成されていますが、体の乾燥重量(水を除いた成分の重量)の
数割(3 ~ 5 割)は脂質です。細胞の中で、脂質はどこに存在するのでしょ
うか?
脂肪細胞(お肉の脂身)では、脂質は細胞内の油滴に蓄えられています。
しかし、このような例外を除くと脂質は、細胞膜に含まれています。細胞膜
とは一つ一つの細胞を区切る仕切りのようなものであり、脂質がなければ細
胞は形を作ることができません。
このように、脂質は細胞膜としても重要
な役割を持っています。
-9-
生体膜の構成・・・脂肪酸の種類の違い
脂肪酸は体を構成している約 60 兆個の細胞の膜と、細胞内のミトコンドリ
アなどの小器官の膜をつくるのに使われています。体の働きを行う酵素は、
細胞膜の助けを借りて働いています。また細胞膜は物質輸送の場でもありま
す。
細胞膜には食べた脂肪酸がそのまま使われますので、どのような種類の脂
肪酸を含む脂質を食べたかにより、細胞膜の状態が大きく異なり、細胞の働
きが左右されます。
例えばミトコンドリアで働く酵素はリノール酸型の脂肪酸により膜に支え
られていますが、もし、これがリノレン酸型などの他の脂肪酸だと酵素は膜
から離れてしまい、エネルギーをつくることができません。
神経細胞はナトリウムイオンとカリウムイオンを入れ換えることで神経を
伝達しています。このナトリウムイオンとカリウムイオンを入れ換えるたん
ぱく質を挟み込むように固定しているのがDHAやEPAです。もし、この
脂肪酸がリノール酸型であれば、たんぱく質は固定できず神経は伝達できま
せん。
- 10 -
脂肪酸の種類によるもう一つの大きな違いは、膜の柔らかさです。融点が
低い脂肪酸の方が体温では柔らかいのです。これらの脂肪酸がさまざまな組
合せで膜をつくるのですが、その組合せにより膜の硬さ、つまり動きやすさ
が異なるのです。どのような組み合わせがよいのかはそれぞれの細胞が決め
ます。
細胞膜と過酸化脂質
生体膜は、細胞の外側を構成しているだ
けでなくミトコンドリアなどの細胞内小器官の構成物としても重要な役割を
もっています。細胞膜の脂質の中にはリン脂質として不飽和脂肪酸エステル
(少々不正確ですが、以下、単に不飽和脂肪
酸といいます)が多く含まれています。リン
脂質の中に適度に不飽和脂肪酸が含まれてい
ることは膜の柔軟性のために必要です。しか
し、不飽和脂肪酸は酸化障害を容易に受ける
分子でもあります。
活性酸素ラジカルやその他のラジカルと不
飽和脂肪酸との反応の結果脂肪酸ラジカルが
出来て、それが酸素と反応したものが過酸化脂質です。過酸化脂質ができる
と生体膜の機能(柔軟性など)が変化す
るばかりでなく、それから生じる反応性
の高いアルデヒドが周囲の蛋白質などを
修飾する危険があると考えられていま
す。細胞や血清中の過酸化脂質は、加齢
で増加すると言われています。不飽和脂
肪酸は酸化されやすい(ラジカルと反応
しやすい)ので脂溶性のビタミンEが膜
- 11 -
の中に存在して酸化を防いでいます。
すなわち、ビタミンEは自らラジカ
ルと反応してラジカルが不飽和脂肪酸と反応するのを未然に抑えています。
この他、加齢によって細胞膜に起こる変化として構成成分の比率の変化が
あります。
すなわち、リン脂質の中の不飽和脂肪酸エステル対飽和脂肪酸エステルの
比率の低下、
コレステロール対リン脂質の比率の増加が起こります。これらの変化は、い
ずれも膜を硬くするので膜機能に有害となる可能性があります。
ミトコンドリアの働きの悪さに、マグネシウム不足が加わると・・
マグネシウムイオンは細胞内小器官(ミトコンドリア)の膜構造ならびに
細胞膜構造において膜の安定性を保つ役割をしています。
細胞膜にはミネラルイオンが通過できる小さな「穴」があり、透過できる
イオンの種類によって、「ナトリウムチャネル」とか「カルシウムチャネル」
といった名がつけられています。これを使って必要なミネラルを自在に出入
りさせることで細胞内のミネラルイオン濃度の調整をするのです。ミトコン
ドリアには、細胞内のカルシウムイオン濃度を適正に調整する作用がありま
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す。
マグネシウムイオンが不足すると細胞内小器官(ミトコンドリア)の”膜構
造ならびに細胞膜構造”のイオンポ
ンプの力が弱くなり、細胞内小器官
であるミトコンドリア膜の透過性も
亢進し、ミトコンドリア内に入り込
んだカルシウムイオンは、ミトコン
ドリア外へ出ていけません。カルシ
ウムはミトコンドリア内に少しずつ
蓄積してきます。ミトコンドリア内
カルシウムイオンの増加が起こりま
す。それを薄めるために細胞浮腫、つまり水ぶとりの状態になります。
細胞内のカルシウムイオン濃度が異常に高くなり過ぎると、ミトコンドリ
アの調整機能は破壊されてしまいます。調整機能が壊れたミトコンドリアは
死滅してしまいます。
このように必須脂肪酸の摂り方に問題があれば、ミトコンドリアの膜構造
ならびに細胞膜構造において機能が果たせなくなり、これにマグネシウム不
足が加わることによって、ミトコンドリアの働きがさらに悪化することにな
ります。
3.生理活生物質
最後に脂質にはもう一つ重要な役割があります。これは、緊急時に細胞が
脂質を分解して、私たちの体を守る物質を作ってくれることです。例えば、
私たちの体に病原菌などが感染してしまったとき、病原菌が感染した周囲の
細胞からプロスタグランジンやロイコトリエンという物質が、細胞膜の脂質
から作られます。プロスタグランジンやロイコトリエンは、病原菌を退治し
- 13 -
てくれる白血球という細胞を病原菌が感染した部位に集める役割を持ちます。
しかし、これらの物質は発熱や痛みを生じさせたりしてしまうことがありま
す。
普段の食生活で不足しがちなα-リノレン酸やEPAを補うことで、炎症促
進系の生理活性物質の生成が相対的に減り、炎症をマイルドにすることが期
待されています。
以上、脂質には重要な役割があり
ます。そして片頭痛では、特に重要
な位置を占めており、片頭痛の病態
を理解するためには大切になってい
ます。
- 14 -
~健康の鍵・油のとり方~
すっかり食卓に定着した感の「オリーブオイル」。
さらには、フラックスオイル(亜麻仁油)、グレープシードオイル等々
いろんな種類の油が出回っています。
「脂肪がつきにく~い!」 なんて CM している油もありますが・・・・
普段使っている「油」を見直してみましょう。
皆さんは、どんな油を選び、どのようにお使いでしょうか?
どんな油を摂っていますか?
■油の種類・分類
私たちが普段摂取している油(脂肪)はこのように分類されます。
みなさんが普段つかっている油脂はどこに属しますか?
・油=脂肪酸の分類
脂肪酸は、大きく 3 種類に分けることができます。
- 15 -
。
●
動物性
さらに
●
植物性
●
魚の油分
植物性油脂は、3つに分けられます。
高オレイン酸油
高リノール酸油
オメガ9系
オメガ6系
高αリノレン酸油
オメガ3系
それぞれバランスが取れていると良いのですが・・。
■植物油の脂肪酸組織
植物油といっても
その脂肪酸の構成比はかなり違います。
・現代の日本人にとっての問題
■リノール酸(オメガ6系)の摂りすぎで、バランスが崩れています。
1.現在の食生活では、オメガ6系が過剰摂取されています。
現在よく使われている油は、ほとんどが「オメガ6」を含む油です。家庭
はもちろん、外食時もきっと・・・。(さらに、溶剤を使い高温精製で化学的
- 16 -
に抽出された油は、栄養価も失われています。)
リノール酸は、体内でアラキドン酸に変化し、炎症を起こす物質となり、
炎症やアレルギーの原因になりますし、大腸がん、乳がん、動脈硬化、心臓
病などの危険因子になります。
2.α-リノレン酸(オメガ3)の不足
リノール酸の働きと反対の性質を持つ油、オメガ3が充分とれていません。
α-リノレン酸は、炎症を抑えたり、血液を流れやすくしたり、ガンの増殖
をとめる作用など、リノール酸の危険因子を中和してくれます。
また、α-リノレン酸は、学習能力を高める作用もあるという
うれしい油
です。
★オメガ 6 系を減らすとともに、
オメガ 3 系の脂肪を積極的にとるようにお勧めします。
オメガ3系:亜麻仁油(フラックスオイル)、シソ油、いわし、あじ、さば、
カツオ、マグロ、サケなど青魚
オメガ6系:コーン油、サフラワー油、月見草オイル、ひまわり油、牛肉、
豚肉、鶏肉など
オメガ9系:オリーブ油、キャノーラ油、高オレイン酸サフラワー油など
実際の使い方は
●
加熱料理には、オリーブオイル(有機栽培・低温抽出法のエクスとラバ
ージンオイルが BEST)
●
低温料理には、亜麻仁油(有機・低温抽出)。サラダなどにお使いくださ
- 17 -
い。
※
オメガ3は、酸化しやすいので、低温・遮光保存し、早く使いきるこ
とが大切。光による酸化にも注意!
●
新鮮な青魚を食べる。
■脂肪の通信簿
- 18 -
■現実と理想
油の摂取についてのポイントは、【オメガ3】と【オメガ6】
この比率が問題点です!
理想は、1:2
オメガ6の油をひかえ、フラックスオイル(亜麻仁油)を摂取することで、
この比率を理想値に近づけることができます!
片頭痛と脂質の関与
リノール酸(植物油)の摂りすぎによる弊害
唐揚げ・てんぷら・フライに使用される油(リノール酸)は人間にとって
必要な栄養素、必須脂肪酸なのですが、これは摂りすぎ注意です。リノール
酸は非常に酸化しやすいという特徴のある油です。
なぜ、油が酸化すると片頭痛に関係するのでしょうか?
過酸化脂質は、コレステロールや中性脂肪が活性酸素によって酸化されて
できたものです。これらは体内で作られるのです。
は、てんぷら油を使用後に長時間放置すると、油が酸化して悪臭を放つよ
うな油になるのですが、まさにこれが
体内で起こっている状態です。
食べた物の油は体内で酸化すると、
「過酸化脂質」という非常に厄介なも
のを生み出してしまいます。これは、
活性酸素を発生させて、体内の細胞を
傷つけたり、過酸化脂質自体が、臓器
- 19 -
などの奥底に侵入して、内臓を破壊・傷つけて行ってしまう、「不要物・毒」
みたいなものです。
過酸化脂質が作られると血液の流れも悪くなり、脳内に必要な栄養や酸素
が届かなくなりますが、過酸化脂質の分解が進むことによって、脳内の細胞
に、酸素やマグネシウム、カルシウム、脳のエネルギー源のブドウ糖などが
スムーズに供給されるようになり、老廃物も排泄されやすくなるので、頭痛
を引き起こしにくくなります。
われわれが生きてゆくために必要不可欠である酸素は、一方で体内の脂肪
を酸化させ、体に害のある過酸化脂質を作りだすのですが、この過酸化脂質
ができますと動脈硬化を促進し、血管に血栓が生じやすくなったりします。
すなわち過酸化脂質は心筋梗塞や脳梗塞
を引き起こすようにも働くのです。
ビタミンEはこの過酸化脂質の発生を
予防する他、動脈硬化を防ぐ善玉コレス
テロールを増やすように働きます。
ビタミンB 2 は、グ
ルタチオンペルオキシダーゼという酵素と一緒に働いて、過
酸化脂質の分解を促進する効果があります。動脈硬化は、高
血圧や脳卒中、心臓病などの生活習慣病の原因にもなるため、
ビタミンB 2 を摂ることは片頭痛・生活習慣病の予防にもなります。
過酸
化脂質の生成を抑えるビタミンEも一緒に摂ると、より効果的です。
片頭痛・生活習慣病のような「酸化ストレス’炎症体質」の人は、体内で
過酸化脂質が生成されやすく、これが活性酸素を過剰に発生させる原因物質
となっています。
過酸化脂質が多い体内では、このような細胞の破壊や傷が多く発生し、多
- 20 -
くのストレスが発生しています。
このストレスや活性酸素によって、血管神経周辺が炎症を起こして、痛み
を発生させ、片頭痛を引き起こしていきます。
さらに、血液がドロドロになって、脂質代謝に時間がかかるので、血液中
に溶け出している「遊離脂肪酸」の濃度がいつも高い状態になります。
この状態ではちょっとしたストレスや刺激でも、すぐに反応して血小板が
凝集し、活性酸素の発生が促進されてしまいます。
脂質の摂りすぎが片頭痛を引き起こす
あなたが片頭痛になりやすい体質の場合は、特に過酸化脂質を多く含む加
工食品を食べすぎる事は避けたほうが良いと言えます。
それは、ただでさえ体内で過酸化脂質が生成されやすい体質の上に、さら
に食べ物からも摂り入れてしまうと、完全に頭痛に拍車をかける体質になっ
てしまうからです。
この過酸化脂質は、体内で「活性酸素」を過剰に発生させる原因物質です。
この「活性酸素」が脳内のセロトニン濃度の変化を引き起こし、それが脳
の血管の収縮・拡張を引き起こしているのです。
ですから、片頭痛持ちの場合は特に、この様な過酸化脂質を多く含む加工
食品はなるべく食べない様にした方が良いのです。
このように、過酸化脂質は体内で作られるのですが、それ以上に、そもそ
も過酸化脂質を多く含む加工食品などを過剰にとる食習慣のほうに問題があ
ると考えられます。
ポテトチップスなどのスナック菓子、インスタントラーメン、ピーナッツ、
マヨネーズ、マグロの缶詰(缶を開けたあと)、黒くなった古い油分には注意
が必要です。また、新しいものでもチキンフライなどの揚げ物を電子レンジ
で加熱すると、とがった部分や角の部分が過酸化されることがあります。
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過酸化脂質を作り出すのは揚げ物だけではありません。
スナック菓子・コンビニ弁当・インスタントラーメン、お惣菜など、油で
揚げてから時間がたっているものは、すでに空気によってかなり酸化が進ん
だ食べ物です。これらを摂取することで、なお一層体内の過酸化脂質が発生
しやすくなりますので、控えるようにして下さい。
過酸化脂質を多く含む食べ物
ポテトチップスなどのスナック菓子
インスタントラーメン
ピーナッツ
マヨネーズ
スナック菓子にしてもカップラーメンにしても、またピーナッツもマヨネ
ーズも、好きな人は多いと思います。
何にでもマヨネーズをかけて食べたり、その手軽さのあまりカップラーメ
ンばかり食べてしまうと、ちょっとした事で頭痛を発症してしまう体質にな
ってしまうので、今までの食生活を振り返って見直してみてください。
植物油(リノール酸)やトランス脂肪酸はなるべく避ける
植物油(リノール酸)やトランス脂肪酸を摂りすぎる生活をしていると、
体内での脂質代謝が充分に行われず、血液中の遊離脂肪酸の濃度が高い状態
になる事がわかっています。
この遊離脂肪酸には細胞毒性(細胞を傷つける性質)が強いという特徴が
あり、血小板の凝集を促進したり脳血管壁を傷つけたりして、これが「活性
酸素」を発生させる原因となってしまうのです。
ただ、遊離脂肪酸は、通常は血液中のアルブミンというたんぱく質成分と
- 22 -
結合して、毒性が弱められた状態で存在していますので、あまり問題にはな
らないのですが、リノール酸やトランス脂肪酸などの「悪い油」を摂り続け
ていると、このバランスが崩れて遊離脂肪酸の濃度が高くなってしまうわけ
です。
そしてこのような状態になると、
ちょっとしたストレスなどのわずか
な刺激であっても、片頭痛の引き金
になってしまいますので、特に「悪
い油」は注意して避けるようにした
いものです。
では、具体的にどの様なものが「悪い油」で、「良い油」とはどんなものな
のでしょうか?
精製・加工処理された植物油は「悪い油」
上にあげた低温圧搾で作られた植物油以外の、市販されているサラダ油な
どの多くは「悪い油」と言えます。
また、マーガリンやショートニングなどの脂もダメです。
こうした「悪い油」を原材料とする以下のような食べ物は特に注意したい
ものです。
マヨネーズやドレッシング
植物性ヨーグルト
ケーキ
ビスケットやクッキー
チョコレート
- 23 -
などなど…
これらの加工食品の成分表を見るとわかりますが、植物油が加えられてい
ない加工食品はほとんどありません。
そして、これらに使われている植物油は、ほとんどが「悪い油」なので、
注意してください。
では、逆にどのような油をとれば良いのでしょうか?
まず、一般的に安心して使えるのは、オリーブオイルと低温圧搾絞りのご
ま油、菜種油
ポイントは、「低温圧搾絞り」と言う点です。
これは、コールドプレス製法とも呼ばれ、悪くならないように極力熱を加
えず、光を当てずに絞るだけという単純な製法です。
新鮮な油は、熱でも光でも酸化してしまうので、熱も光もできるだけ避け
ながらの製造がポイントなのです。
そして、一番おススメなのが、亜麻仁油です。
特に必須脂肪酸の「オメガ3」を摂り入れるという意味でも、この亜麻仁
油はとてもおススメです。
トランス脂肪酸も要注意!
他にもトランス脂肪酸はかなり注意が必要です。
味付きのポップコーン・マーガリン・ショートニング・お菓子パイにはも
のすごく多くのトランス脂肪酸が含まれています。マーガリン・ショートニ
ングはダントツに多いです。
- 24 -
トランス脂肪酸の摂りすぎは、血液中の善玉コレステロールを減らして悪
玉コレステロールの増加を促し、がんの発生や動脈硬化、心疾患、糖尿病の
リスクを高めてしまいます。
トランス脂肪酸は活性酸素と相乗して、体内の細胞を傷つけてしまいます。
ですから、こういうものを普段からよく食べている方は、コレステロールに
よって肥満傾向になり、さらに、片頭痛を引き起こす活性酸素などの発生が
非常に多いというわけなのです。
あなたは「植物油は健康に良い」と思っていませんか?
もちろん、植物油の中にも「健康に良い植物油」と「健康に悪い植物油」
がありますが、特にこの「健康に悪い植物油」を摂りすぎると、片頭痛の引
き金となる「活性酸素」と「遊離脂肪酸」を発生させる事につながります。
「健康に悪い植物油」というのは、工業的に精製・加工されたもので、その
- 25 -
製造過程で、副産物として生成される「トランス脂肪酸」というとても危険
な有害物質を含んでいます。
この「トランス脂肪酸」は、世界的にも問題になっていて、通称“狂った
油”とも言われるほど危険なものです。
このトランス脂肪酸を摂ってしまうと、がんになるリスクが高まったり、
病原菌やウイルスに対して抵抗力がなくなると言われています。
また、善玉コレステロール(HDL)を減らし悪玉コレステロール(LDL)
を増やすため、冠動脈性心疾患の発症リスクも高まることがわかっています。
このトランス脂肪酸を含んでいる「悪い油」の代表例としては、サラダ油
以外にも次のものがあります。
マーガリン
体に良い植物性だからって、バターをやめて積極的にマーガリンを摂って
いませんか?
マーガリンは植物性ではありますが、液体ではなく半固形です。実は、こ
れが大きな問題なのです。
通常、植物性の油は液体です。(なので、「良い油」のオリーブオイルやご
ま油は液体です)もともとの液体の植物油を固形にするために使われる、様
々な化学薬品が問題となるのです。薬品を加えながら加工していく過程で「ト
ランス脂肪酸」ができてしまいます。
ショートニング
このショートニングについても、マーガリンと同様の理由でおススメでき
ない油といえます。
- 26 -
という事で、「トランス脂肪酸」などの高熱で処理され、人工的・化学的に
加工・精製された危険な油は極力避け、自然の必須脂肪酸を積極的に補うよ
うにしたいものです。
油の摂取のしかた
あなたは「サラダ油」(植物油)を料理に使つていますか?
サラダ油とい
うネーミングは健康的なイメージがありますが・・・
いまから半世紀も前、「植物油はコレステロール値を下げる」という実験結
果がアメリカで発表され、「植物油=健康にいい」というイメージが先進各国
に広まりました。ところが 30 年前、「植物油にはコレステロール値や心臓病
の発生確率を下げる効果はなく、むしろがんの発生確率を高める」という発
表が、アメリカの国立がん研究所からあったのです。そうした発表を受けて、
各国でさまざまな規制が導入されました。サラダ油はカラダによいものでは
なかったのです。しかし、日本ではいまだに「植物油=健康にいい」と信じ
られています。
酸化ストレスを悪化させる危ないやつ!
植物油に多く含まれるのが「リノール酸」です。リノール酸は「必須脂肪
酸」で、わたしたちのカラダには欠かせません。でも、穀類や豆類中心の食
事をしていれば、充分に必要量がとれます。
リノール酸は、活性酸素の発生などを抑える「生理活性物質」(体内でのさ
まざまな生命活動を調整したり影響を与えたりする)の原料になりますが、
とり過ぎてしまうと逆にそれを抑制してしまいます。現代人の食生活は植物
油を多くとり過ぎなので、むしろ活性酸素を過剰に発生させてしまっている
のです。
それから問題なのが「トランス脂肪酸」。これは天然の植物油(昔ながらの
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低温圧搾でつくられたもの)にはほとんど含まれません。
大量生産で工業的につくられる場合にできる副産物で、いわば人工的な有
害物質です。
ですから、精製・加工された植物油には多くのトランス脂肪
酸が含まれています。このトランス脂肪酸も酸化ストレス・炎症体質を悪化
させます。
トランス脂肪酸は多くの国で使用が制限され、表示義務があります。とこ
ろが、日本ではほぼ“Free”という状況です。ほとんどの人がその危険性をよ
く知りません。あなたは知っていましたか?
トランス脂肪酸は、マーガリンやショートニングにもたくさん含まれてい
ます。マーガリンは即やめたほうがいいし、ショートニングを使っているお
菓子なども、やはり気をつけたほうがいいです。そのほかでは、市販の揚げ
物なども要注意です。何度も使い回しができる“持ぢのよい「硬化油」とい
う植物油が使われていて、これにはトランス脂肪酸がいっぱいです。
健康によい油
リノール酸は「生理活性物質」の原料になります。この生理活性物質には、
①「炎症を悪くする」、
②「炎症を抑える」、
③「両者の働きを調整してバランスをとる」
の3種類があり、リノール酸はとり過ぎると①になってしまいます。
大事なのは③です。「酸化ストレス・炎症体質」にならないようにコントロ
ールしてくれるからです。その原料となるのが「α-リノレン酸」や「EP
A・DHA」です。
サプリメントのCMで見たことがあると思いますが、EPAやDHAは青
魚に多く含まれています。「α-リノレン酸」。α-リノレン酸は、体内でE
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PAやDHAに変わってくれるのです。α-リノレン酸は「エゴマ油(シソ
油)」や「亜麻仁油」に多く含まれています。 αーリノレン酸やEPA・D
HAは「オメガ3系脂肪酸」といいます。健康の決め手はオメガ3です。
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