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~多言語環境で育つ子どもたち~親が母語で子育てする意義 お話
~多言語環境で育つ子どもたち~親が母語で子育てする意義 お話:ヴィルマ・レイモンドさん ※以下は講演録の日本語訳(意訳部分あり) トロント市の移民人口―バイリンガリズムと多文化主義の背景として 2006 年のカナダの統計(2006Coummunity Profiles)によれば人口の 11.9%が家庭/家族で英語 とフランス語を除いた他の言語を話しているという。 Census のデータによるとトロント市では人口の 32%が家庭で英語とフランス語を除いた言語を 話しているという。これはトロント市が移民の町であるという証拠である。250 万人の住民は 449,535 の子どもを抱える世帯で構成されそのうちの 8%は 0-6 歳の幼児である。またこのうち の 5%は英語とフランス語の知識がなく 32%は母語として英語以外の言語を話す。 トロントの住民の 50%は移民でありそのうちの 22%は 2001 年から 2006 年の間に移住してきた 移民である。彼らが主に話している三つの言語は中国語、タミル語、ペルシャ語でありそれに 続き韓国語ウルドゥ語グジャラティ語アラビア語ロシア語フィリピン語イタリア語スペイン語 が話されている。 幼児期と家族の支援 2001 年オンタリオ政府は Ontario Early Years Centres(OEYC)を州のいたるところに設置した。 この OEYC は子どもの健全な育成のため家族や子どものニーズに柔軟に対応できるよう地域目線 で設計されている(地域レベルで対応できる仕組み)。OEYC では子供の学習への意欲を高めるた め家族にフレンドリーな環境で幅広い活動を行っており 9 つの核となるプログラムが共通で利 用できる: 1. 子ども、親、介護者の為の幼少期学習 2. 子どもの健全な育成のためのトレーニングと援助 3. 出生前後の援助 4. 他のコミュニティーや社会サービスに関するウェブリンクや情報 5. 子どもの識字に関する専門家、専門的なアドバイス 6. コミュニティーから切り離されたような家族への社会奉仕 7.スピーカーの案内(所) :育児で一番良いとされる方法や実践の共有または育児経験の共有 8.地域内で幼少期のプログラムにボランティアとして参加できる人材の調整/手配 9.幼少期のサービスの効率化、主導性、そして子どもへの影響を測るためのデータ収集、経営、 監視の援助 これらのプログラムを最大限利用できるようすべてのセンターでプログラムは提供されている。 地域レベルでの取り組み Don Valley East Ontario Early Years Centre は 103 個あるセンターの中で英語以外の言語を しゃべる家族の需要にいち早く触れたセンターの一つである。センターでは言語間の障壁をな くそうとバイリンガルあるいはその地域で主に話されていることをしゃべれるスタッフを雇用 している。成人ボランティアも通訳やプログラムの支援のため雇用されている。センターでは 親や介護者に対して子どもに母語で話すよう呼びかけると同時に親に対して自分の子どもに幼 児教育やトレーニングを与えるよう促し親の子どもの理解を促している。 トロントにおいて幼い子どもを抱えた移民は増加傾向にあり移民の多くは移住先で適応してい くために必要な周囲との連係/協力していくきっかけそして社会サービスを求めている。これら の移民は友人との関係が切れ、孤独感やカルチャーショックを経験しているとされている。 Early Years Centre のように家族/家庭支援プログラムを提供している場所を利用すれば同じ境 遇で同じような体験をしている他の家族/家庭に会うことができそこで新たなネットワークを 構築することができる。 Don Valley East Valley Years Centre ではトロントの保健機関、幼稚園/保育園、幼稚園/保 育園の Speech and Language(スピーチと語学)、トロント教育委員会、図書館、公園やレクレー ションセンター、働くための女性のコミュニティーセンターといった子育てを支援する地域の エージェント(業者、代理人)と連携を取り合っている。 バイリンガリズムの支援 幼い子供を抱える移民はカナダに移住すると母語を控えようと考える。それは彼らが母語を控 えることが英語学習の早期上達につながると考えているからである。しかしこれは長年続く誤 った見解である。センターでは幼少期の識字に関する専門家と一緒に子供に母語を教える/保つ 必要性を促している。トロント大学の Jim Cummins 氏のリサーチによれば母語を教えることは 幼児の言語と認知能力向上に効果があるとされている。また母語を教えることは次の言語学ぼ うとする意欲を高め、子どもの脳を発達させ他の言語もうまくしゃべれるようになるといわれ ている。 マカレー幼児発達センター(Macaulay Child Development Centre)の Using Your First Language(第一言語を使おう)というプログラムでは二つの言語を混ぜて話すことは二つの言 語を修得しようとしている証拠であり、大人が考えているような二つの言語を使うことが子供 を混乱させるという見解に対して相反的な立場を示している。1 つの言語で学んだことはほかの 言語でも応用できるのである。実際言語を学ぶ速度や変化は子どもによって差異が幅広く今日 まで赤ん坊に対して 1 つ以上の言語で話すことが子どもに悪影響を与えたというリサーチはな い。King と Mackey(2007 年)によれば他の言語を学び始めるのが早すぎるということはなく、 バイリンガルの子もモノリンガルの子もほぼ同時期に語学を学ぶ節目(転換点)を迎えること が分っている。 Ontario Early Years Centre(OEYC)では親や介護人、大人が母語を促進する実用的なガイド ライン(指標)を提供されている。このガイドラインでは食事の時間や遊ぶ時間、お風呂の時 間や着替えといった家族のさまざまな時間を有効的に使って子どもに母語を使うよう呼びかけ ている。また親は子どもに対して毎日最低でも 20 分は読書(朗読)するよう勧めている。親が ジェスチャーを交え、母語をゆっくり話してあげることで子どもも親が話している言語を理解 できるはずである。歌や朗読、や韻を踏んで一緒にリズムをとることを通して新しい単語を学 ぶこともできる。 親同士がそれぞれの第一言語をどのようにして日々の活動の中に織り交ぜているかといった 情報交換も行われている。彼らは子どもに母語で歌を聞かせたりテレビや映画を見せたりして 2 (ヴィルマさん講演「親が母語で子育てする意義」2012/6/7@東京都武蔵野市) いる。また彼らは彼らの祖国の文化に関するフェスティバルや特別なイベントがあれば家族で 参加したりしている。子どもを学校や地域コミュニティーにある継承語のクラスに登録する親 もいる。中には自分の子どもを祖国へ直接連れて行くことで自分たちの真の故郷の文化に触れ させるものもいる。 このようにして自分たちの母語を保つ/支える動きが親の中で起きているがそれは決して英語 を学ばなくていいというわけではない。第二言語を学ぶのも母語を学ぶのと同じ要領でするべ きである。家族科学の専門家である Sean Brotherson(2005)は子どもが言語を学ぶのが一番い いのは生まれてから 10 年の間であるということを指摘した。また彼は言語を学ぶのがもっとも いい期間は生まれて最初の 3 年であるということを強調し、そのうえで Early Literacy Specialist(幼児識字専門家)同様に親は子どもに絶えず話かけ、朗読し、歌を歌ってあげる ことを勧めている。 幼児期の学習と学校への準備 オンタリオの幼稚園は幼児期のいい学習/体験が小学校への準備ひいては生涯学習につながる という信念のもとデザインされている。幼児期の教育専門家はカリキュラムのプランニング、 実行、評価に関して教育を受けてきたものである。 (Best Start-ELECT 2007) 子どもは遊びを通して学び成長する。子どもは遊んでいるときにこそ自分のペースで問題解決 法や指示に従うこと、意思決定、集中すること、社交、意思疎通を学び、発見する。 (Elkind2007) “遊ぶ“環境は興味ごとに複数に分かれておりそこで子どもは学ぶ機会や発達に関して五つの 領域で支援を受ける: 1. 意思疎通スキルと一般教養 2. 感情面での健康と成熟 3. 語学と認知の発達 4. 肉体の健康と安定 5. 社会的知識と力量(The Early Development Instrument: EDI) EDI は先生が自分たちで査定した幼稚園の子どもが学校で学ぶのにどれだけ準備ができている かを測る評価である。EDI は上記の 5 つの領域における子どもの学校で学ぶ準備を測ることがで きる。OEYC のデータ分析コーディネーターはこの EDI の評価を地域レベルで共有している。EDI を使ってプランニングをするとき、EDI の価値は情報が共有される地域を理解することによって 初めて意味を持つ。EDI は地域レベルで子どもや家族を支援できるような計画作りと行動プラン の作成のため議論されている。 終わりに 脳の発達に関する様々なデータやリサーチによって出産から 6 歳までの間が子供にとって一番 重要な時期だということが分っている。なかでも 3 歳までの経験が一番重要であり子どもの脳 の発達や 3 歳を過ぎた後の学習や行動、健康に影響を与えるといわれている。子どもが幼いう ちに親が一番よく知っている言語で子どもと意思疎通をとることは長期的に見て子どもに有益 なのである。子どもの成長と発達に関与する親、介護者、教育者などは子どもが自分の潜在能 力を活かすうえで欠かせない確かな基礎能力を身に着けるための重要なカギを握っている。 3 (ヴィルマさん講演「親が母語で子育てする意義」2012/6/7@東京都武蔵野市)