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半導体シーケンサによる分泌型miRNAの網羅的定量解析

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半導体シーケンサによる分泌型miRNAの網羅的定量解析
アプリケーションノート
Ion Torrent
半導体シーケンサによる分泌型 miRNA の網羅的定量解析
- 血清サンプルから簡便・迅速・安価な解析を実現 石垣靖人 * 1、中村有香 * 1、東きょう * 2 、石倉隆 * 2 、花岡秀樹 * 2、友杉直久 * 1 ( * 1金沢医科大学総合医学研究所、* 2ライフテクノロジーズジャパン株式会社テクニカルサポート)
要旨
血中に存在する分泌型マイクロ RNA(miRNA)を疾患バイオマーカーとして利用するための
基礎研究として、半導体シーケンサ Ion PGM™ システムで成人男性の血中 miRNA の定量を
行った。まず最初に、血清 2 mlから、キットで smallRNA を抽出してシーケンサで解析したとこ
ろ、20bp 付近をピークにヒトゲノムにマップされる 38 万タグのリードが得られた。そのうち
の 69%、26 万リードが miRBase に登録されている既知の miRNA 配列にマップされることを
確認した。また、このうち既知の miRNA は 449 種類であり、同じシーケンスをカウントする
ことで各 miRNA の発現定量を行った。ハイブリダイゼーションを基本とする従来法のマイク
ロアレイによる定量では、実験条件の設定で結果が左右されやすいが、シーケンスベースの
定量では配列を一つひとつ確認しつつ定量できるため、確証的な結果が得られる。また実験
後に、新しいアノテーション情報を追加して再解析できるなど、柔軟性に富む解析法と言える。
今後、血中の miRNA によるバイオマーカー検索に、もっとも有望な手法になると考えられる。
イントロダクション
近年、
マイクロ RNA
(miRNA)
をはじめとする、
低分子の機能性 RNA が注目を集めている。
miRNA 以外にも、アンチセンス RNA、二本
、タンパク質をコードしな
鎖 RNA(dsRNA)
い mRNA 型 RNA(non-coding RNA)など
があり、遺伝情報の発現調節に大きな役割を
果たしていることが明らかになりつつある。
特に約 22 ヌクレオチドの miRNA は発生期の
形態形成、細胞分化、アポトーシスなど細胞
の高次機能発現の調節に重要な役割を果たす
として注目されている。
これまでの miRNA の発現解析では、もっぱ
ら細胞内の miRNA が対象とされてきた。と
ころが最近になって、細胞外に分泌されるタ
イプの miRNA(分泌型 miRNA)に注目が
集まっている。たとえば、がん患者と健常者
とでは分泌型 miRNA のプロファイリングに大
きな違いがみられ、その違いががんの新たな
マーカーとして診断や治療に応用できることが
わかってきた。
一方、臨床においては、疾患のバイオマーカー
として患者への負担が低い血液がもっとも汎
用的に用いられてきたが、その多くは病因と
は直接関係しない、いわば「サロゲートマー
カー」
だった。これに対して機能性 miRNA は、
他の遺伝子の発現調節に関わったり、細胞内
のシグナル伝達に直接関わることより、病因と
直接関連するバイオマーカーとなる可能性を
秘めている。
今回、我々は高速の半導体シーケンサ、Ion
PGM ™ システムを用い、血清サンプルから
miRNA の網羅的解析を実施し、その有効性
を検証した。
方法
1. miRNA の調製
ヒト血清 2 ml より市販のキットを用い、small
RNA を精製した。得られた small RNA サン
プ ルを吸 光 高 度 計により定 量したところ、
12ng/ul で 20ul、総量にして 240ng であっ
た。 ま た Bioanalyzer、small RNA キット
による品質チェックを行ったところ miRNA/
smallRNA 比は 88% であった。
5. データ解析
機械付属のソフト Torrent Suite v2.2 を用
い、標準ヒトゲノム hg19 および、miRBase
v16 に登録された miRNA に基づくリファレ
ンスを作成し、合わせてマッピングも行った。
また、CLC genomics workbench を用い、
miRBase へのマッピング結果をエクセルで
出力し、発現レベルの解析等を行った。
結果
2. ライブラリの作成
上 記 の 全 量を用 い、Ion Total RNA-Seq
kit でプロトコールに従いライブラリを作成し
た。得られたライブラリをリアルタイム PCR
により定量し、テンプレート調製に供した。
なお現在では、RNA kit は新バージョン(v2)
の キットが 販 売 さ れ て おり、1-100ng の
small RNA な いし は 1-1000ng の Total
RNA から 4 時間でライブラリ調製を行うこ
とができる。
今回のランで得られたシーケンスリード長の
分布を図1に示す。 20bp 付近に高いピーク
が観察され、miRNA が正しく読まれている
ことが確認された。
得られたリードをヒトゲノムにマップしたとこ
ろ、およそ 38 万タグのリードがマッピングさ
れた。
3. テンプレート調製
テンプレート自動調製機器 Ion OneTouch™
システムを用い、シーケンス用サンプルを調
製した。ライブラリの最終反応濃度は標準プ
ロトコールに従った。
4. シーケンス
Ion PGM ™ システムを用い、35bp 相当の
シーケンスを行った。ラン時間はわずか 40
分だった。
図1 得られたリード長の分布
横軸:リード長 縦軸:リード数
miRNA 相当の長さのリードが得られている。
5%
1%
9%
0%
図 4 に、複数の miRNA 間での発現レベルを
比較した図を示す。 このように各 miRNA の
発現量を配列の数として得ることができる。
イクロアレイにはある程度の互換性があると考
えられる。
今後の展望
16%
69%
図 4 各 miRNA の発現レベル
低部の青いバーが個々の miRNA 領域に対応して
いる。
図 2 マップされたリードの内訳
既知の miRBase 配列にマップされたのは 69%,
26 万リードであった。
マップされたリードの内訳を図 2 に示す。全
体の 69%, 26 万リードが miRBase に登録さ
れている既知の miRNA 配列にマップされる
ことが確認された。
また図 5 に示すように、今回、CLC における
解析では 449 種類の既知 miRNA を検出する
ことができた。
得られた miRNA のデータ例を図 3 に示す。
今回のサンプルでは miR160 に相当する配
列が大量に得られていることが観察された。
Ion PGM ™ システムでは、個々の配列とし
てデータが得られるので成熟型およびスター
(*)型 miRNA を区別して検出することも
可能である。
今回、血清中の miRNA の網羅的な定量解
析が 2 日弱の作業時間で容易にできることが
示された。また miRNA の解析に要した費用
は 9 万円弱であり、効率だけでなくコストパ
フォーマンス的にも優れていることが示され
た。さらに、バーコードと呼ばれるサンプルご
とに指標となる配列を付加する方法を用いれ
ば、複数サンプルをまとめた網羅的解析も可
能となる。
図 5 検出された miRNA の一覧表
検出されたタグ数が多かったものの一部を示す。
さらに、ゲノム上で miRNA と定義されてい
ない領域にマップされた新規 miRNA 候補を
検出することもできた(非表示)
。
図 3 検出された miRNA 例
miR160 の配列に相当するリードが観察されている。
すでに同じサンプルを DNA マイクロアレイ
により解析していたが、オーバーラップした
miRNA も見出せたことから、シーケンサとマ
Ordering information
製品番号
The RNase III Enzyme DROSHA Is Essential for
MicroRNA Production and Spermatogenesis.
Personal Genome Machine™ システム
Ion PGM™ システム テンプレート調製自動化システム付
Wu Q, Song R, Ortogero N, Zheng H, Evanoff R,
Small CL, Griswold MD, Namekawa SH, Royo H,
Turner JM, Yan W.
PGM-410M
半導体マイクロチップ
Ion 316™ Chip Kit(4 pack)
4466616
Ion 318™ Chip Kit(4 pack)
4466617
J Biol Chem. 2012 Jul 20;287(30):25173-90.
試薬キット
4475936
Ion Total RNA-Seq Kit v2(12 reactions)
公式 Facebook ページもチェック ! 取扱店
facebook.com/LifeTechnologiesJapan
研究用にのみ使用できます。診断目的およびその手続き上での使用は出来ません。
記載の社名および製品名は、弊社または各社の商標または登録商標です。
The trademarks mentioned herein are the property of Life Technologies Corporation or their
respective owners.
© 2012, Life Technologies Japan Ltd. All rights reserved. Printed in Japan. ION050-A1209OB
販売条件はこちらをご覧ください。 www.lifetechnologies.com/TC
ライフテクノロジーズジャパン株式会社
TEL.03(6832)9300 FAX. 03(6832)9580
www.lifetechnologies.com
半導体シーケンサ Ion PGM™ システムを
用いた研究応用例は日々、増加しつつある。
miRNA 研究の分野においても既に論文が発
表されている(参考文献)
。2012 年秋には、
さらに処理能力が向上した、Ion Proton™ シ
ステムも上市予定であり、ヒトゲノム解析を可
能とする高速かつ簡便、低コストな半導体次
世代シーケンサとして今後もあらゆる研究分
野における活用が期待される。
参考文献
製品名
本社:〒108-0023 東京都港区芝浦 4-2-8
臨床的には、血清中の miRNA の網羅的な解
析は、患者の日々の状態を示すバイオーマー
カーとして有望だと考えられる。 なぜなら、
患者の状況は、病歴や治療方法や体調によっ
て日々変化するので、個人の体質に関わるゲ
ノム配列の違いだけでなく、一人の患者の変
化を miRNA 量で経時的にモニターすること
が有効と考えられるからである。miRNA は、
他の遺伝子の発現制御に関わり、体調の変化
や臓器の不調な状況を刻々と反映できる可能
性がある。また従来見出されたタンパク質等
のマーカーは病因と関連性のないサロゲート
マーカーも多かったが、miRNA マーカーは
病因や治療法開発への発展性も今後十分に期
待される。
大阪:〒564-0052 大阪府吹田市広芝町 10-28
TEL.06(6389)1201 FAX. 06(6389)1206
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