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ブラックホールを記述する新理論を コンピュータで検証

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ブラックホールを記述する新理論を コンピュータで検証
平 成 26 年 4 月 23 日
報道関係者各位
大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構
国立大学法人 京都大学
国立大学法人 茨城大学
ブラックホールを記述する新理論を
コンピュータで検証
本研究成 果のポ イン ト
○ホログラムが立体図形を平面上に記録できるように、ブラックホールのように
曲がった時空で起こる力学現象を平坦な時空上で厳密に記述できる新理論に
基 づ き 、重 力 の 量 子 力 学 的 効 果 が 無 視 で き な い 条 件 下 で の ブ ラ ッ ク ホ ー ル の 質 量 と
温度の関係をコンピュータで計算
○従来の検証は、重力の量子力学的効果が無視できる状況下で多く行われてきたが、
本 研 究 で 得 ら れ た 結 果 は 、新 理 論 が 重 力 の 量 子 力 学 的 効 果 が 無 視 で き な い 領 域 で も
正しいことを強く示唆
○この研究手法の発展により、ブラックホールの蒸発に関連した様々な謎の解明に
つながるものと期待
【概
要】
大 学 共 同 利 用 機 関 法 人 高 エ ネ ル ギ ー 加 速 器 研 究 機 構 ( KEK) 素 粒 子 原 子 核 研 究 所 の 西
村淳准教授は、京都大学の花田政範特定准教授、伊敷吾郎特任助教、茨城大学の百武慶
文准教授と共同で、ブラックホールで起こる力学現象を厳密に記述できる新理論を、コ
ンピュータによって数値的に検証した。
ブラックホール※1は、一度中に落ち込むと光の速さをもってしても外に出られない
と い う 、 宇 宙 空 間 に ぽ っ か り 開 い た 「 黒 い 穴 」 で あ る 。 こ れ に 対 し て 1974 年 、 英 国 の
ホ ー キ ン グ 博 士 は 、ブ ラ ッ ク ホ ー ル の 周 り で 粒 子 と 反 粒 子 が 対 を な し て 生 成 し た り 消 滅
し た り す る 微 視 的 な 効 果 を 考 慮 す る こ と に よ り 、ブ ラ ッ ク ホ ー ル が 輻 射 を 出 し な が ら ゆ
っ く り と 蒸 発 し て い く こ と を 理 論 的 に 導 い た 。こ の こ と か ら ホ ー キ ン グ は 、ブ ラ ッ ク ホ
ールが一定の「温度」 ※2を持った物体と見なせることを示した。 一方で、このような
ブ ラ ッ ク ホ ー ル の 性 質 を 、ブ ラ ッ ク ホ ー ル の 内 部 か ら 精 密 に 理 解 す る こ と は 、こ れ ま で
困 難 と 考 え ら れ て き た 。そ れ は 、ブ ラ ッ ク ホ ー ル の 中 心 に 近 づ く に つ れ 、時 空 の 曲 が り
具合が大きくなり、一般相対性理論 ※3に基づく重力の記述が破綻するためである。
こ の 問 題 を 解 決 す る 新 し い ア プ ロ ー チ と し て 、1997 年 米 国 プ リ ン ス ト ン 大 の マ ル ダ セ
ナ 教 授 は 、ブ ラ ッ ク ホ ー ル の 中 心 を 含 め て 正 し く 重 力 を 記 述 す る 理 論 を 提 唱 し た 。こ の
理 論 に よ れ ば 、ち ょ う ど ホ ロ グ ラ ム が 立 体 図 形 の 情 報 を 平 面 上 に 記 録 で き る の と 同 様 に 、
ブ ラ ッ ク ホ ー ル の よ う に 曲 が っ た 時 空 で 起 こ る 力 学 現 象 を 、平 坦 な 時 空 上 で 精 密 に 記 述
できる。
今 回 の 研 究 で は 、マ ル ダ セ ナ の 理 論 を 用 い て ブ ラ ッ ク ホ ー ル の 質 量 と 温 度 の 関 係 を コ
ンピュータで数値的に計算。様々な大きさのブラックホールに対して計算した結果が、
従来の超弦理論※4に基づく重力の量子力学的な効果※5の近似計算(別の研究)の結果
と 一 致 す る こ と を 確 認 し た 。こ れ ま で の 多 く の 検 証 は 重 力 の 量 子 力 学 的 な 効 果 が 無 視 で
き る 状 況 下 で 行 わ れ て き た が 、本 研 究 の 検 証 は そ れ ら を 越 え る 結 果 を 与 え る も の で あ る 。
マ ル ダ セ ナ の 理 論 は 、従 来 の 超 弦 理 論 に 基 づ く 近 似 計 算 よ り も 適 用 範 囲 が 広 い と 考 え ら
れ 、本 研 究 に よ っ て 確 立 さ れ た 数 値 的 な 手 法 を さ ら に 発 展 さ せ る こ と に よ り 、ブ ラ ッ ク
ホールの蒸発に関連した様々な謎の解明につながるものと期待される。
こ の 研 究 成 果 は 、 2014 年 4 月 17 日 ( 米 国 東 部 時 間 ) 付 の 米 国 科 学 誌 「 Science」
のオンライン版に掲載された。
【背
景】
一 般 相 対 性 理 論 は 、重 力 の 起 源 を 時 空 の 曲 が り 具 合 に 由 来 す る と す る 、ア イ ン シ ュ タ
イ ン の 理 論 で あ り 、重 力 に ま つ わ る 巨 視 的 な 現 象 の 記 述 に お い て 、大 き な 成 功 を お さ め
て き た 。こ の 理 論 に よ り 、宇 宙 が 膨 張 し て い る こ と や 、宇 宙 に ブ ラ ッ ク ホ ー ル な る も の
が 存 在 し う る こ と な ど が 理 解 さ れ て き た 。一 方 、宇 宙 の 始 ま り や ブ ラ ッ ク ホ ー ル の 蒸 発
などを考えるには、重力の量子力学的な効果 を取り入れた微視的な記述が必要である。
そのため、一般相対性理論を超えた理論が探求されてきた。
ブ ラ ッ ク ホ ー ル を 含 む 重 力 理 論 に つ い て 、「 ホ ロ グ ラ ム 」の よ う な 見 方 を 最 初 に 議 論
し た の は 、1993年 ト ホ ー フ ト と 1995年 の サ ス カ イ ン ド の 論 文 で あ る 。マ ル ダ セ ナ は 重 力
の量子力学的な効果を取り入れた微視的な記述方法として 最有力候補である超弦理論
の 研 究 に 基 づ き 、「 ホ ロ グ ラ ム 」に 相 当 す る 物 理 系 を 具 体 的 に 予 想 し た の で あ る 。マ ル
ダ セ ナ の 理 論 の 正 し さ は 、こ こ 十 数 年 に わ た る 研 究 に よ り 、様 々 な 角 度 か ら 検 証 さ れ て
き た 。し か し 、こ れ ま で の 解 析 的 な 研 究 は 、ブ ラ ッ ク ホ ー ル 周 辺 の 重 力 の 量 子 力 学 的 な
効 果 が 無 視 で き る 状 況 下 の も の が 中 心 で あ り 、こ の 制 約 を 越 え て マ ル ダ セ ナ の 理 論 が 正
し い か ど う か に つ い て は 、ほ と ん ど 手 が か り が 得 ら れ て い な か っ た 。コ ン ピ ュ ー タ を 用
い た 数 値 的 な 手 法 は 、こ う し た 制 約 を 越 え て マ ル ダ セ ナ の 理 論 に 関 す る 具 体 的 な 計 算 を
可 能 に す る も の で あ り 、重 力 の 量 子 力 学 的 な 効 果 を 含 め た 検 証 と い う ブ レ ー ク ス ル ー が
期待されていた。
【研究内 容と成 果】
マルダセナによれば、ブラックホールの「ホログラム」に相当する理論を用いること
により、ブラックホールの質量と温度の関係をはじめ、ブラックホールの様々な性質を
調べることができる。
そこで本研究では、この理論に基づいてブラックホールの質量をコンピュータで計算
し、重力の量子力学的な効果を正しく含む、 従来の超弦理論に基づいて近似的に計算し
て得られた結果と比較した(図1)。
図1
ブラックホールの質量と温度の関係
縦軸、横軸は、それぞれブラックホールの質量と温度に相当する量を表し、通常の質
量 や 温 度 を 表 す kgや ℃ と い っ た 単 位 と は 異 な る 単 位 を 用 い て い る 。 □ 、 ○ 、 ♢の シ ン
ボ ル は そ れ ぞ れ 、 ブ ラ ッ ク ホ ー ル の 構 成 要 素 の 数 N が 3、 4、 5の 場 合 に つ い て 、 マ ル
ダセナの理論によりブラックホールの質量を計算した結果を温度に対してプロット
したものである。一方、一点鎖線、破線、実線の3種類の曲線は、やはりブラックホ
ー ル の 構 成 要 素 の 数 N が 3、 4、 5の 場 合 に つ い て 、 従 来 の 超 弦 理 論 に 基 づ い て 重 力 の
量 子 力 学 的 効 果 を 近 似 的 に 取 り 入 れ て 計 算 し た 別 の 研 究 (Y. Hyakutake, Prog.Theor.
Exp.Phys. (2014) 033B04)か ら の 結 果 で あ る 。 両 者 は 異 な る 理 論 計 算 に 基 づ く が 、 よ
く一致していることがわかる。
ブラックホールを構成する要素の数をNとすると、先行研究では主に、Nが十分大き
く、重力の量子力学的効果が無視できる場合の解析がなされており、Nが小さい場合に
この理論が本当に正しくブラックホールを記述しているかどうかは、未解決の問題であ
った。
図 1 で は 、 ブ ラ ッ ク ホ ー ル を 構 成 す る 要 素 の 数 を N と し 、 N = 3、 4、 5の 場 合 に つ い
て結果を示した。Nが小さいほど小さなブラックホールを表し、ブラックホール表面で
の時空の曲がり方が激しくなるため、重力の量子力学的効果が顕著になる。この効果に
よりブラックホールが不安定になるため、計算が困難になることが知られていたが、 今
回、新しい計算法を考案することにより、計算上の技術的な困難を克服し、質量の値を
求めることに成功した。
2つの異なる理論計算が一致したこと により、マルダセナの理論の計算から得られた
結果が、従来の超弦理論と同様、重力の量子力学的効果を正しく含んでいると結論づけ
られた。
【本研究 の意義 、 今 後 への期 待 】
この研究では、「ホログラム」を用いたブラックホールの新しい記述法に関するマル
ダセナの理論を検証した。これまでの研究では、重力の量子力学的効果が無視できる状
況下で様々な検証がなされてきたが、今回の研究ではこれをさらに一歩進めて、重力の
量子力学的効果を含めた検証に成功した点において、大きな意義がある。 従来の超弦理
論に基づく計算は、量子重力的効果がさらに顕著になるような 状況には適用できないこ
とが知られているが、マルダセナの理論を用いた計算手法は、そのような状況にも適用
可能と考えられており、今後、本研究をさらに発展させることにより、ブラックホール
の蒸発に関連した様々な謎が解明できるものと期待される。
例えば、ホーキングが用いた近似の範囲内では、ブラックホールから発せられる輻射
から、そこに落ち込んだ物体の情報を読み取ることはできない。これはブラックホール
の 蒸 発 に 伴 う「 情 報 喪 失 問 題 」と 呼 ば れ 、20世 紀 に 確 立 し た 現 代 物 理 学 の 二 大 柱 で あ る 、
一般相対性理論と量子力学の間の深刻なパラドックスと考えられてきた。マルダセナの
理論によるブラックホールの新しい記述法は 、ブラックホールが時間的に変化していく
状 況 に も 適 用 で き る と 期 待 さ れ 、こ の「 情 報 喪 失 問 題 」の 解 明 に つ な が る 可 能 性 が あ る 。
本研究は多くの先行研究を受け継いたものであり、その研究の流れの中で得られた研
究成果の一つである。また「ホログラム」を表す物理系を具体的に実現するマルダセナ
の理論は、重力の量子論の最有力候補である 超弦理論に対する新しい研究手法の一つと
見なすこともできる。今回の研究成果を契機に、マルダセナの理論あるいは超弦理論の
研究がさらに進展し、重力の量子力学的な効果が重要となる、宇宙の始まりや宇宙の成
り立ちについても新しい知見が得られることが期待される。
な お 、 本 研 究 で 使 用 し た 計 算 機 は 、 KEKが 保 有 す る PCク ラ ス タ ー な ら び に 、 HPCI一 般
利 用 課 題 「 ス ー パ ー コ ン ピ ュ ー タ で 解 き 明 か す 超 弦 理 論 の 物 理 」 (一 般 財 団 法 人 高 度 情
報 科 学 技 術 研 究 機 構 ( RIST)神 戸 セ ン タ ー 課 題 番 号 hp120162、 課 題 代 表 者 :花 田 、 副 代
表 者 :伊 敷 )に よ り 提 供 さ れ た 大 阪 大 学 の PCク ラ ス タ ー で あ る 。
雑 誌 名 : Science
( オ ン ラ イ ン 版 : 4 月 17 日 号 )
論 文 題 名 : ”Holographic Description of a Quantum Black Hole on a Computer”
(和訳:量子ブラックホールのホログラム的記述の数値的検証)
著 者 名 : M. Hanada, Y. Hyakutake, G. Ishiki and J. Nishimura
DOI: 10.1126/science.1250122
【用語解 説 】
※1
ブラックホール
大 き な 質 量 を 持 っ た 物 体 が 、非 常 に 小 さ な 領 域 に 押 し 込 め ら れ た と き に 形 成 さ れ る 時 空
構 造 。重 力 の 起 源 を 時 空 の 曲 が り 方 と す る 一 般 相 対 性 理 論 か ら 、そ の 存 在 が 予 言 さ れ た 。
ブ ラ ッ ク ホ ー ル を 直 接 的 な 観 測 に よ り 確 認 す る こ と は 難 し い が 、様 々 な 間 接 的 な 証 拠 に
よ り 、宇 宙 に は た く さ ん の ブ ラ ッ ク ホ ー ル が 存 在 す る こ と が わ か っ て い る 。生 成 過 程 と
し て は 様 々 な も の が 考 え ら れ て い る が 、例 え ば 、太 陽 の 30倍 以 上 の 質 量 を 持 っ た 星 が 超
新 星 爆 発 を 起 こ し た 後 に 生 成 す る と 考 え ら れ る 。天 の 川 銀 河 の 中 心 部 に も 巨 大 な ブ ラ ッ
クホールが存在すると考えられているが、その生成過程は明らかになっていない。
※2
ブラックホールの温度
ホ ー キ ン グ の 研 究 に よ り 、ブ ラ ッ ク ホ ー ル は す べ て の 物 を 飲 み 込 ん で し ま う だ け で は な
く 、少 し ず つ 粒 子 な ど を 放 出 す る こ と が 理 論 的 に 示 さ れ た 。放 出 さ れ る 粒 子 な ど の エ ネ
ル ギ ー 分 布 は 、熱 せ ら れ た 黒 体( 電 磁 波 を 完 全 に 吸 収 す る よ う な 物 体 )か ら 発 せ ら れ る
も の と 一 致 し て お り 、そ の 黒 体 の 温 度 が 何 度 の 場 合 に 一 致 し て い る か 、と い う こ と を も
っ て 、そ の ブ ラ ッ ク ホ ー ル の 温 度 を 定 義 す る こ と が で き る 。ホ ー キ ン グ の 計 算 は 、ブ ラ
ッ ク ホ ー ル の 表 面 で 起 こ る 粒 子・反 粒 子 の 対 生 成 、対 消 滅 と い う 量 子 力 学 的 な 現 象 の 考
察 に 基 づ い て お り 、ブ ラ ッ ク ホ ー ル の 内 部 に 存 在 す る 物 体 の 温 度 と 解 釈 で き る も の か ど
う か は 明 ら か で な か っ た 。こ れ は ブ ラ ッ ク ホ ー ル の 内 部 を 正 し く 取 り 扱 う た め に 、量 子
重 力 的 な 記 述 が 必 要 不 可 欠 で あ る た め で あ る 。マ ル ダ セ ナ の 理 論 に お い て は 、ブ ラ ッ ク
ホールの温度は、「ホログラム」を表す物理系の温度と同定できる。
※3
一般相対性理論
ア イ ン シ ュ タ イ ン が 提 唱 し た 重 力 の 理 論 。そ れ ま で 重 力 の 理 論 と し て は 、ニ ュ ー ト ン の
万 有 引 力 の 法 則 が 知 ら れ て い た 。ア イ ン シ ュ タ イ ン は 光 の 速 度 が 、ど の よ う な 速 さ で 動
いている人から見ても一定であることを原理として、 いわゆる特殊 相対性理論を構築。
時 間 と 空 間 を 完 全 に 独 立 し た 概 念 と す る 従 来 の 考 え 方 を 修 正 し た 。さ ら に こ れ を 11年 か
け て 発 展 さ せ 、重 力 を 時 空 の 曲 が り 方 に よ っ て 記 述 す る 一 般 相 対 性 理 論 を 構 築 し た 。重
力 が 十 分 弱 い 状 況 で は 、ニ ュ ー ト ン の 万 有 引 力 の 法 則 が 再 現 さ れ る が 、重 力 が あ る 程 度
以 上 強 い 状 況 で は 、違 う 結 果 を 予 言 す る 。そ の よ う な 状 況 で 、一 般 相 対 性 理 論 の 方 が正
し い 予 言 を 与 え る こ と は 、水 星 の 近 日 点 移 動 な ど の 観 測 か ら 確 認 さ れ て い る 。ま た 重 い
天 体 に よ っ て 時 空 が 実 際 に 曲 が る こ と は 、そ の 重 い 天 体 の 背 後 に あ る 天 体 の 像 が 二 重 に
見 え る「 重 力 レ ン ズ 効 果 」に よ っ て も 確 認 さ れ て い る 。一 方 、重 力 が 極 端 に 強 く な る 状
況下では、一般相対性理論に基づく時空の描像が破綻することが知られている。
※4
超弦理論
素粒子を大きさのない点ではなく「弦」、すなわち紐状の広がりを持ったものと考え
る 素 粒 子 の 理 論 。 そ の 原 型 は 、 核 力 を 微 視 的 に 記 述 す る 模 型 と し て 、 1970年 前 後 に ベ ネ
チアーノ、南部、後藤をはじめとする研究者によって提唱された。一般相対性理論を越
え て 、 重 力 を 微 視 的 に 記 述 す る 理 論 の 候 補 と し て 考 え ら れ る よ う に な っ た の は 、 1980年
代前半頃からであり、これにはグリーン、シュワルツ、ウィッテンをはじめとする多く
の 研 究 者 が 貢 献 し た 。1990年 代 半 ば に な る と「 D ブ レ ー ン 」と 呼 ば れ る「 弦 の 凝 縮 状 態 」
がポルチンスキーによって解明され、これが超弦理論におけるブラックホールに相当す
る こ と が わ か っ た 。マ ル ダ セ ナ の 理 論 は 、こ の D ブ レ ー ン の 研 究 に 基 づ い て 提 唱 さ れ た 。
※5
重力の量子力学的効果
量 子 力 学 と は 、20世 紀 初 頭 に 確 立 し た 新 し い 力 学 法 則 。量 子 力 学 に お い て は 、一 般 に
物 理 量 は 不 確 定 性 を 持 っ て お り 、ど の よ う な 確 率 で ど の よ う な 測 定 結 果 が 得 ら れ る 、と
い っ た 確 率 的 な 予 言 し か で き な い 。巨 視 的 な 現 象 に お い て は 、こ う し た 不 確 定 性 が 無 視
で き る ほ ど 小 さ く 、従 来 の 古 典 力 学 が 近 似 的 に 再 現 さ れ る こ と が わ か る が 、微 視 的 な 現
象 の 記 述 に お い て は 、正 し く 量 子 力 学 的 な 効 果 を 取 り 入 れ る 必 要 が あ る 。一 般 相 対 性 理
論 は 、重 力 の 古 典 力 学 的 な 記 述 の し か た を 与 え る も の で あ り 、量 子 力 学 的 な 効 果 は 取 り
入 れ ら れ て い な い 。従 っ て 、重 力 が 極 端 に 強 く な り 、そ の 結 果 と し て 時 空 の 曲 が り 方が
極 端 に 大 き く な る と 、量 子 力 学 的 な 効 果 が 無 視 で き な く な り 、一 般 相 対 性 理 論 に 基 づ く
時 空 の 記 述 の し か た は 破 綻 す る 。超 弦 理 論 は 、重 力 の 量 子 力 学 的 効 果 を 正 し く 記 述 す る
理 論 の 最 有 力 候 補 と し て 40年 以 上 に わ た り 研 究 さ れ て き た が 、現 時 点 で 確 立 し て い る 超
弦 理 論 の 計 算 手 法 で は 、重 力 の 量 子 力 学 的 効 果 が 比 較 的 小 さ い と き に 、こ れ を 近 似 的 に
取 り 入 れ る こ と し か で き な い 。こ れ に 対 し て 、超 弦 理 論 か ら 発 展 し た マ ル ダ セ ナ の 理 論
は 、重 力 の 量 子 力 学 的 効 果 を 完 全 に 取 り 入 れ る こ と が で き る と 予 想 さ れ て お り 、そ の よ
うな効果が非常に大きい状況にも適用可能な計算方法として期待されている。
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