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NICT電離圏観測の概要(PDF)

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NICT電離圏観測の概要(PDF)
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“宇宙への玄関” 電離圏の観測
空がいつしか宇宙に変わるところ、そこには電波の伝搬に影響を与える電離圏があります。NICT電波伝搬障害研究プロ
ジェクトでは国内(中緯度)、東南アジア(低緯度)、南極(高緯度)と様々な地域で電離圏観測を展開しています。
電離圏とは
空高く上っていけば、いつかは宇宙になるはずですが、
一体どこからが宇宙と言えるのでしょう?実は、科学的
には厳密な定義は無いのですが、国際航空連盟の規定に
では大気の密度が急激に薄くなる高さ100km以上が宇宙
とされています。「宇宙への玄関」と考えられるこの高
さの大気は「電離圏」と呼ばれ、地球の中性大気が太陽
の極端紫外線によって電離され、電気を帯びた状態(プ
ラズマ状態)になっています。電離圏のもつプラズマの
濃さ(電子密度)は、一般的に高さ約300km付近にピー
クを持ち、赤道近くで濃くなり、極に近づくに従って薄
くなります。
地球を直径1mの球とすると、電離圏は地球表面の外側
2∼3cm離れたところを取り巻く薄い「殻」になりま
す。ちなみに、飛行機、スペースシャトル、静止軌道に
ある通信・放送衛星は、それぞれ地球表面から0.8mm
3.1cm、2.8mの所を飛んでいることになります。遠くか
らみれば、電離圏はほとんど地球に張り付いた薄い殻に
しか見えませんが、実際は太陽や磁気圏、下層大気の活
動等のさまざまな影響を受けて常に変動しており、しば
しば人工衛星との通信などに障害を与えます。
電離圏観測の概要 NICTは50年前から電離圏観測を継続的に
行っています。初期の目的は短波による長距離通信でしたが、現在
はカーナビに代表される衛星測位の利用などで注目されつつありま
す。電離圏は電子密度に応じた周波数の電波を反射する性質があ
り、地上から周波数を変えながら電波を発射し、電離圏からの反
射エコーの帰ってくる時間を計測することにより電子密度高度分布
がわかります。観測された反射エコーはイオノグラムと呼ばれる画
像データとして保存されます。電離圏の状態は低緯度・中緯度・高
緯度で特徴的な違いがあり、我々はこれらに対応する東南アジア
∼日本∼南極という世界の様々な場所で観測を展開しています。
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日本(中緯度)
中緯度の電離圏では電離圏嵐がしばしば発生し
ます。これは、カーナビを始めとする人工衛星
の測位利用に大きな影響を及ぼします。また、
スポラディックE層の発生は、TV放送や無線に
影響を及ぼすことがあります。
電離圏嵐による衛星電波の遅延や障害
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います。Es層が発生すると地域の防災無線や、航空無線、
FMラジオ、テレビ放送波などVHF帯電波の混信や異常伝
搬を引き起こします。一方でアマチュア無線の愛好家の間
ではこの現象を利用して普段通信出来ない場所との交信を
楽しんでいるようです。Es層の基本的な成因は分かってい
ますが、突発的に発生し、その持続時間も数十分から数時
間とまちまちで、また毎日の変化が激しいため発生を予測
することは大変困難です。NICTでは国内の電離圏観測網を
利用してEs層の発生をリアルタイムでモニターし、特に強
いEsが発生したときには宇宙天気予報の一部として情報を
発信しています(詳しくはHPをご覧ください)。
日本国内の観測
電離圏は太陽活動や季節などによる周期的な変動を繰り
返していますが、これらの変動の他に太陽表面の爆発現象
などに伴って、急激に電子密度が減少・増加する電離圏嵐
と呼ばれる現象があります。電子密度が急激に減少すると
電波が反射されず短波通信を途絶ます。また逆に増加する
と電離圏を通過してくる衛星電波の遅延量が増大し、測位
情報などに影響を与えます。NICTでの電離圏観測網ではつ
ねに国内4地点(稚内、国分寺、山川、沖縄)で電離圏の
2007年7月12日に稚内で発生した非常に強い
スポラディックE層(矢印部分 : 高度100 km)
をとらえたイオノグラム
日本では落雷や台風によるアンテナへの被害対策に加え
て、海に近い観測所では塩害の対策も必要となってきま
す。
国内電離圏観測網
様子を監視しており、電離圏嵐が起こると警報を出した
り、太陽活動の様子から電離圏嵐の予測を行ったりする研
究を進めています。また国土地理院のGPS観測網を利用し
稚内
国分寺
山川
大宜味(沖縄)
て、日本上空の電離圏全電子数(TEC: toral electron contents)
を算出して公開しています。(HP参照)
スポラディックE層によるVHF帯電波の異常伝搬
日本では毎年5月半ばから8月頃にかけてスポラディッ
クE層 (Es層) と呼ばれる非常に電子密度が高く厚みの薄い
層が、高度100 km 付近に突発的に発生することが知られて
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東南アジア(低緯度)
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プラズマバブルの発生予測
電子密度が高くなる赤道域では、「プラズマバブル」と呼
ばれる局所的に電子密度の低い領域が発生して衛星電波を
かげろうのように散らす「シンチレーション」という現象
低緯度では、磁気赤道の両側に「赤道異常」と呼ば を起こすことがあります。太陽活動が活発になると、プラ
れる電子密度の高い領域が現れます。赤道異常は常 ズマバブルは日本上空にも達することがあります。プラズ
マバブルは衛星通信に障害を与え、時には衛星電波を受信
に発生する現象ではありますが、日々の変化が非常 することが出来ない「ロックオフ」と呼ばれる現象を引き
に大きく、その状態を予測することは難しい現象で 起こすこともあります。プラズマバブルは日によって発生
す。また、夕方にはプラズマバブルと呼ばれる電離
変動が激しく、発生の原因はまだ未解明な部分が多く残さ
層内の「泡」が発生するという特徴があります。こ れています。NICTでは東南アジアの電離圏観測網を利用し
て、プラズマバブルの発生原因を解明し予測に役立てよう
れらは衛星測位の精度の低下や衛星通信に障害をひ と研究を進めています。イオノゾンデ観測(チェンマイ、
きおこしますが、発生メカニズムが充分解明されて チュンポン、コトタバン、フーツイ、バクリウ)では観測
いないことからその研究が進められています。
点の真上の電離圏を観測します。ハイナン、フーツイでは
シンチレーションを逆に利用して、プラズマバブルの移動
赤道異常
速度を観測します。磁力計(プーケット)はプラズマバブ
電離圏は太陽の極端紫外線による電離によって生成されま
ルを引き起こすと考えられる赤道ジェット電流の変動を観
すが、電子密度が最も高くなる場所は赤道の真上ではな
測し、発生メカニズムの研究を行っています。
く、磁気赤道の両側に分かれて存在します。この電子密度
の高い領域を「赤道異常」と呼びます。赤道異常は昼間の
東向きの電場(昼間は東向き、夜は西向き)と、地球の持
つ磁場による効果で赤道上空の電離層が持ち上げられ、磁
力線に沿って噴水のように磁気赤道の南北に落ちてくるた
め起こります。赤道異常の発達具合はGPSなどを用いた衛
星測位の精度に大きな影響を与えます。しかしながらこの
現象の発達の度合いは日によって大きく異なり、予測する
ことが難しいのが現状です。日本では沖縄や鹿児島付近が
この磁気赤道北側に当たります。東南アジア観測網のうち
磁気赤道北側、直下、及び南側にそれぞれ位置するチェン
マイ、チュンポン、コトタバンにおいて、赤道異常の発達
を観測しています。
東南アジアの観測
東南アジアでは落雷対策に加え、不安定な電源供給に対
する停電対策、高い温度湿度対策、ネズミなどによるケー
ブル破損に対する対策が必要となってきます。
電離圏全電子数の分布図
コトタバン
(インドネシア)
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南極(高緯度)
高緯度電離圏はオーロラが発生する場所。観測点が
他の緯度に比べて少ないため、世界全体の電離圏モ
デルを作る際に昭和基地のデータは貴重な情報とな
ります。また最近の研究では、高緯度の電離圏は地
球温暖化の影響を受けて変化しているとも言われ、
長期データの解析により温暖化の状況を知ることが
出来る可能性があることから注目をあびています。
太陽活動とオーロラの出現
オーロラは実は電離圏で発
生していることはご存知で
すか?太陽表面でフレアと
呼ばれる爆発現象などが起
きると、その莫大なエネル
観測隊員の撮影した南極の美しい風景の数々。
当プロジェクトのHPで紹介しています。
ギーが地球に流入して来て
地球大気と反応し美しく発
光します。オーロラの発生
の様子はイオノゾンデ観測で
得られるイオノグラムにも見ることが出来ます。イオノグ
ラム上では通常の電離層トレースが激しく散乱を起こしま
す。オーロラが出現すると電波伝搬にも影響があり、極域
最後に
NICTでは高緯度から低緯度までの広い地域で観測され
たデータをもとに衛星測位、無線通信への寄与に関する研
究を通じて国民の生活の質の向上に貢献しています。
では短波通信の障害が頻繁に発生します。
地球温暖化の監視
国内の観測網と同様に、昭
和基地での電離圏観測も50
年という長期に亘って観測
を続けています。南極では
昭和基地を含む世界各国の
様々な観測が共同で行われ
ています。長期的な気候変
動の研究や地球温暖化の監視の為に、これらの共同観測が
これからも長く続けられることが望まれています。
南極での観測
南極では極端な乾燥による
静電気の発生や、雪原によ
るアースの難しさから電子
機器の扱いに注意が必要と
なってきます。
〒184-8795
東京都小金井市貫井北町4­2­1
独立行政法人 情報通信研究機構
第三研究部門 電磁波計測研究センター
宇宙環境計測グループ
電波伝搬障害研究プロジェクトHP http://wdc.nict.go.jp/IONO/ 
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