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page1~243(4.66MB) - 新エネルギー・産業技術総合開発機構
「ナノ計測基盤技術」
事後評価報告書
平成20年9月
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
研究評価委員会
平成20年9月
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
理事長 村田 成二 殿
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
研究評価委員会 委員長 西村 吉雄
NEDO技術委員・技術委員会等規程第32条の規定に基づき、別添のとおり
評価結果について報告します。
目
次
はじめに
分科会委員名簿
審議経過
評価概要
研究評価委員会におけるコメント
研究評価委員会委員名簿
第1章
評 価
1.プロジェクト全体に関する評価結果
1.1 総論
1.2 各論
2.個別テーマに関する評価結果
2.1 微小要素物理特性の計測基盤
2.2 空孔の計測基盤
2.3 表面構造の計測基盤
2.4 熱物性の計測基盤
3.評点結果
1
2
3
4
7
8
1-1
・
・
・
第2章
評価対象プロジェクト
1.事業原簿
2.分科会における説明資料
参考資料1
参考資料2
評価の実施方法
評価に係る被評価者意見
2-1
2-2
参考資料 1-1
参考資料 2-1
はじめに
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構においては、被評価プロジェクト
毎に当該技術の外部の専門家、有識者等によって構成される研究評価分科会を研究評価
委員会によって設置し、同分科会にて被評価対象プロジェクトの研究評価を行い、評価
報告書案を策定の上、研究評価委員会において確定している。
本書は、「ナノ計測基盤技術」の事後評価報告書であり、第16回研究評価委員会に
おいて設置された「ナノ計測基盤技術」(事後評価)研究評価分科会において評価報告
書案を策定し、第18回研究評価委員会(平成20年9月24日)に諮り、確定された
ものである。
平成20年9月
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
研究評価委員会
1
「ナノ計測基盤技術」
事後評価分科会委員名簿
(平成20年7月現在)
氏名
分科
会長
分科
会長
代理
ながしま
長島
すが
菅
おおたに
大谷
たけうち
委員
あきら
昭
しげまさ
滋正
よしお
吉生
かずお
武内
一夫
ふじなみ
まさのり
ふるた
かずよし
やまね
つねゆき
藤浪
古田
山根
眞紀
一吉
常幸
所属、肩書き
横浜国立大学
理事
大阪大学大学院
基礎工学研究科
金沢大学理工学域
自然システム学類
独立行政法人理化学研究所
千葉大学工学部
教授
上席研究政策企画員
共生応用化学科
セイコーインスツル(株)
技術本部
(株)東レリサーチセンター
教授
准教授
部長
材料物性研究部
室長
敬称略、五十音順
2
審議経過
z
第1回 分科会(平成20年7月4日)
公開セッション
1.開会、分科会の設置について、資料の確認
2.分科会の公開について
3.評価の実施方法について
4.評価報告書の構成について
5.プロジェクトの概要
6.プロジェクトの詳細
7.全体を通しての質疑
8.纏め、講評
9.今後の予定、その他、閉会
z
現地調査会(平成20年7月2日)
産業技術総合研究所 つくばセンター(茨城県つくば市)
z
第18回
研究評価委員会(平成20年9月24日)
3
評価概要
1.総 論
1)総合評価
本プロジェクトでは、計測標準や標準物質を先導的に整備する必要性と緊急性がある
ナノ技術に関して、微小要素の物理特性、空孔、表面構造及び熱物性の4つのテーマを
取り上げ、民間では対応できない基礎データや国家標準の整備を推進したことは時宜に
かなったものであった。
トップダウン的な発想に基づく研究展開に加えて加速資金の投入などを実施して、プ
ロジェクト開始時にはほとんど存在しなかったナノ計測技手法の開発と標準物質の供給
のほか、ベンチャー企業による装置の市販化まで達成するなど優れた成果を挙げている。
特に、エアロゾル粒子質量分析器(APM)、普及型陽電子寿命測定装置、薄膜熱物性
測定装置及び微小変異量検出用レーザー干渉計は、従来の結果を飛躍的に向上させた世
界最高性能の技術である。
ただ、全体的に個々のテーマが独立して推進され、テーマ間の相互関係の整理と連携
が十分に行われたとはいえない。
ナノ技術は産業的にはまだ未成熟で、今後の発展によっては標準の要求も多岐にわた
る可能性があるので、スケールの範囲や標準物質材料の種類を柔軟に考えておくことが
望ましい。
2)今後に対する提言
開発した計測技術について企業等の幅広い研究機関における利用を促進するために、
仕組みや手続きの整備、広報活動の推進を期待する。また、国際標準化の推進にも期待
する。また、研究に参加した人材の移動を積極的に進め、ノウハウを広く普及すること
が望まれる。ナノ技術の産業化のためには、今回取り上げられなかった機械的性質、光
学的性質などの標準整備も必要であろう。
開発した計測装置の実用化は、メーカーに任せきりにすることなく、研究者とメーカ
ーが共同で開発を進め、装置自体を国際的なデファクトスタンダードにする努力が望ま
れる。一部の計測装置では、さらに普及型の装置の開発へ向けた研究も必要であろう。
本プロジェクトで開発された計測装置および技術は、非常にレベルの高い最先端のも
のであり、今後は、各装置で測定された特性の相互関係を整理し、これらの要素測定技
術を統合した総合的なシステム的なナノ計測基盤技術の確立が望まれる。
また、開発した計測技術が真に国際的な成果であることを判断するためには、今後数
年間にわたって諸外国における利用状況をフォローすべきである。
4
2.各 論
1)事業の位置付け・必要性について
ナノテクノロジー分野の計測基盤と標準整備は、公共性の高い課題であり、民間では
成し得ない NEDO の関与すべき重要な事業である。ナノ領域の計測技術の標準化は技
術展開の土台となるもので、本プロジェクトはそのニーズを把握し、そのための基盤技
術の整備という点で高く評価される。なかでも環境計測技術とエレクトロニクス材料向
けの計測技術は、わが国のナノテクの優位性を保障する重要な技術となろう。
国際標準化の推進も事業目的として掲げ、国際的な標準機関との連携を見据えた活動
も評価できる。
事業目的は妥当と考えるが、その手段となる要素技術においては、必ずしもその目的
が妥当ではないと判断できるサブテーマも含まれ、予算規模からすると、もう少しナノ
テクノロジーの他の主要課題に取り組めなかったのかとの疑問が残る。
2)研究開発マネジメントについて
研究開発目標は、他のナノテクノロジープログラムとの連携を睨んだ概ね適切なもの
であった。また、研究遂行におけるマネジメントは、各課題の間の直接の連携は少ない
ものの、方向性をしっかりと保持しつつ柔軟性もあり、全体を通じての統率は優れてい
たと認められる。
開発した計測技術の装置化、ライセンス契約による販売あるいはベンチャー企業の立
ち上げ、技術研究推進委員会や標準化委員会などで他機関や産業界からの意見を広く取
り入れるなど、研究開発マネジメントとして高く評価できる。また、研究の進捗に応じ
ての加速資金の投入も適切に行われた。
一方、一部に目標が戦略的に設定されたようには思えない課題があった。先進的課題
であるため、中間評価に加え、期間中途での目標の見直し・再確認を制度として組み込
むほうがよい。また、一部のサブテーマでは研究の主体が一部の研究者の成果に偏って
いて、それ以外の研究者のコミットメントや、サブテーマ内の連携が見えない。プロジ
ェクト全体としての連携による相互作用あるいは相乗効果が強く望まれる。
3)研究開発成果について
何れのテーマも概ね目標値をクリアし、全体として優れた成果といえ、特に幾つかの
課題で、国際的水準を超えた優れた成果を挙げている。その成果は、今後のナノテクノ
ロジーの発展に大きく寄与するものと推察される。
特に、APM(エアロゾル粒子質量分析装置)、陽電子寿命測定装置、パルスレーザ
ーによるサーモリフレクタンス法は世界初の計測技術であり、しかも製品化もされてい
ることから高く評価できる。
一方、論文や特許あるいは受賞等の点で十分評価できるテーマがある一方で、予算投入
に見合っていないテーマもあった。
知的財産については適切に出願されているが、今後、国際標準化をするときの障害と
5
ならないように、権利行使に配慮も必要である。
4)実用化、事業化の見通しについて
本プロジェクトで開発されたナノ粒子の質量測定,薄膜の熱拡散率測定のための計測
装置は市販に至っており、国内のみならず国際的に普及する可能性が大きい。これらは、
ナノテクに於いて専門分野の異なる技術者が共通の尺度で要素技術を議論できる基盤
を与えるものであり、今後の利用が期待される。
本プロジェクトの成果の知的基盤としてのニーズは十分にあると考えられ、国内のみ
ならず国外への情報発信に努めれば、当該分野の国際標準化におけるリーダーシップを
取れると考える。
将来にわたって、本プロジェクトの成果を知的基盤として維持し、その優位性を確保
するには、国と産業界のバックアップが必要である。
6
研究評価委員会におけるコメント
第18回研究評価委員会(平成20年9月24日開催)に諮り、了承された。研究評
価委員からのコメントは特になし。
7
研究評価委員会
委員名簿(敬称略、五十音順)
職
位
氏
名
所属、肩書き
委員長
西村
吉雄
国立大学法人東京工業大学
委
員
伊東
弘一
早稲田大学
委
員
稲葉
陽二
日本大学
委
員
大西
優
委
員
尾形
仁士
三菱電機エンジニアリング株式会社
委
員
小林
直人
独立行政法人産業技術総合研究所
委
員
小柳
光正
国立大学法人東北大学大学院
工学研究科バイオロボティクス専攻
委
員
佐久間一郎
監事
理工学術院総合研究所
法学部
客員教授(専任)
株式会社カネカ
教授
顧問
取締役社長
理事
教授
国立大学法人東京大学大学院
工学系研究科精密機械工学 精密機械工学専攻
委
員
菅野
純夫
国立大学法人東京大学大学院
メディカルゲノム専攻 教授
委
員
冨田
房男
放送大学
委
員
架谷
昌信
愛知工業大学 工学部機械学科
教授・総合技術研究所所長
委
員
平澤
泠
委
員
吉原
一紘
教授
北海道学習センター
新領域創成科学研究科
所長
東京大学名誉教授
アルバック・ファイ株式会社
8
技術開発部
理事
第1章
評価
この章では、分科会の総意である評価結果を枠内に掲載している。なお、枠の
下の○、●、・が付された箇条書きは、評価委員のコメントを原文のまま、参考と
して掲載したものである。
1.プロジェクト全体に関する評価結果
1.1 総 論
1)総合評価
本プロジェクトでは、計測標準や標準物質を先導的に整備する必要性と緊急
性があるナノ技術に関して、微小要素の物理特性、空孔、表面構造及び熱物性
の4つのテーマを取り上げ、民間では対応できない基礎データや国家標準の整
備を推進したことは時宜にかなったものであった。
トップダウン的な発想に基づく研究展開に加えて加速資金の投入などを実施
して、プロジェクト開始時にはほとんど存在しなかったナノ計測技手法の開発
と標準物質の供給のほか、ベンチャー企業による装置の市販化まで達成するな
ど優れた成果を挙げている。
特に、エアロゾル粒子質量分析器(APM)、普及型陽電子寿命測定装置、薄
膜熱物性測定装置及び微小変異量検出用レーザー干渉計は、従来の結果を飛躍
的に向上させた世界最高性能の技術である。
ただ、全体的に個々のテーマが独立して推進され、テーマ間の相互関係の整
理と連携が十分に行われたとはいえない。
ナノ技術は産業的にはまだ未成熟で、今後の発展によっては標準の要求も多
岐にわたる可能性があるので、スケールの範囲や標準物質材料の種類を柔軟に
考えておくことが望ましい。
<肯定的意見>
○ナノに対する共通の物差し(標準)を作成するために,7年前にはほとんど
存在しなかったナノ計測手法の開発から着手し,開発した計測装置の校正法と
校正手順,そしてナノ標準物質の開発へと繋げている。現存するものを標準化
するのではなく,トップダウン的知的基盤整備により,計測装置技術に関し,
先端的で顕著な研究成果を挙げている。
○事業の趣旨に合致した課題であり、また社会的・産業的なニーズに合ってい
る。ナノ技術は計測標準や標準物質を先導的に整備する必要と緊急性が認めら
れる。所期の目標を十分に達成し、優れた成果を挙げている。
○計測手法の開発において,チャンピオンデータの取得という観点ではなく,
いかにして再現性よく安定して測定でき,不確かさを小さくするという点に注
力し,ある意味では非常に難しい課題に対しての問題点の解決策を提示し,計
測技術を形にしていることは素晴らしい。さらには,市販装置化・企業ベンチ
ャーまで達成している手法があることは成功例といえる。特にトップダウン的
な発想に基づく研究展開がサブテーマの大半にみられることは高く評価でき
る。
1-1
エアロゾル粒子質量分析器,普及型陽電子寿命測定装置,薄膜熱物性測定装
置,微小変位量検出用レーザー干渉計は,従来結果を飛躍的に向上させた世界
最高性能の技術である。また,それを利用した標準物質供給も達成しており高
く評価できる。その他のサブテーマもほぼ目標を達成しており,総合的には妥
当な成果と認められる。
○研究環境と進捗により、加速資金の投入などを実施し、より大きな成果を追
及した望ましいプロジェクトである。
○ナノテクノロジーの課題は多数ある。本「ナノ計測基盤技術」で扱う内容は
それら多くの課題で取り扱われない項目に限定するという説明があったので、
これを前提とするのであれば、取り扱われたテーマとその成果はおおむね妥当
であると判断できる。
○民間では対応できない、ナノ計測に関係する科学技術の基礎データや国家標
準の整備を推進したことは評価される。本プロジェクトで開発された技術をも
とに実用装置が製品化される等、産業界や研究開発機関への貢献も期待される。
標準化活動強化の一環として標準化委員会を設置したことや、国際シンポジウ
ムを開催し広報活動に努めたことも評価される。
○21世紀の日本を支える基幹技術として、ナノテクノロジーに対する期待は
大きい。このようなナノテクノロジーが産業に利用されはじめれば、それに特
化した計測技術の開発、標準化が国内外向けに必要とされると考えられ、ナノ
計測基盤技術について、このようなプロジェクトを推進したことは、きわめて
時宜にかなったものであった。
このような基盤技術は、産業の発展を促進するだけでなく、新しいナノテクノ
ロジーの進展を促し、この分野で国際競争力のある技術とそれに関する特許を
獲得する意味でも、きわめて重要である。
<問題点・改善すべき点>
●なぜ,微小要素の物理特性,空孔,表面構造,熱物性の4テーマを取り上げ
たかについて疑問が残る。プロジェクト全体として,4つのテーマの相互関係
の整理と,各テーマの連携に関する検討が望まれる。
●一部のテーマについて、他のナノテクノロジープログラムとの連携が少ない
ものがあった。また、本プロジェクトにおける4つのテーマ間での連携につい
て、説明が少ないとの印象であった。
●内容的には問題点は特に認められないが、このような変化の早い課題では、
推進のプロセスに目標そのものの見直し確認を制度として組み込んでおくこ
とが望ましい。
●ただしここには含まれないとされているナノテクノロジーの主要課題は他に
1-2
多数有るのではないか。これらが NEDO 支援の枠内でどう展開しているのか
を把握して比較検討することが国策評価のためには必要と思われる。すくなく
とも NEDO としては本課題の単独評価だけでなく他の課題と比較した総合評
価を行って欲しい。
●全体的に個々のテーマが独立しており,寄せ集めプロジェクトという感はぬ
ぐえない。また,一部には他から見て目標(志向)が異なっている技術課題も
ある。
7 年間の開発期間で 54 名の研究者が関与しており,かつそれまでの技術蓄積
があったことを考慮すると,平均的には成果が少ない。限定した 10 人程度の
特定研究者が中心となって本事業の成果をあげており,他の研究者は別の仕事
を主としていて本事業には大きな貢献をしていないという印象である。それは
論文等の著者をみても認められる。それとも他の多くの成果が原簿には表れて
いないのであろうか?どちらにしても投入したマンパワーを考えると成果と
しては少なく,最も大きな研究資源である人的投入や研究運営に関して研究マ
ネージメントとしての課題が残る。
成果としては,標準物質の供給やその計測技術の開発(計測装置)が実績とし
て残ればよいのであろうが,成果の報告書の中で各項目と対応する論文や知的
財産権(特許)との関係が明示されていない。研究に関与した研究者の名前が
入った論文を単に並べたような印象である。本来であれば事業が推進されるに
つれ関連論文は増加していくのが本来かと思うが,必ずしもそうはなっていな
いことがその理由である。成果フォーマットにおいて,報告文と発表論文およ
び特許の関係が表示されるように修正すべきである。
●4 つのテーマの連携がもう少しあってもよかった。
<その他の意見>
・標準物質として市場に投入した例がいくつかみられた。それらは自らが製造
したものなのか,あるいは市場に流通している物質をより不確かさを小さくし
て値付けしたものなのかが不明であった。前者であれば,なおその成果は高い
であろう。
素晴らしい成果を挙げているサブテーマと評価できないサブテーマが混在し
ている。本事業は数種類のサブテーマ間でそれほどのつながりはなく,全体の
マネージメントとして特筆すべき事項がないのであるから,全体の総合評価と
して採点してもあまり意味がないのではないか。サブテーマごとの採点とその
結果を踏まえて総合的に判断した総合評点を示して評価しないと意味がない。
総合判定で B でも自分の研究テーマは A で他テーマで点がさがったのか,逆
の場合なのか判定できない。NEDO および国民からは全体だけあればよいと
1-3
思うが,実施者としては各テーマの判定がわからないと自分たちの研究実績の
評価にはならない。
本事業において計測標準になりえるための判定基準,標準試料となりえる判
定基準を示していただける(あると思うのですが)と定量的な評価ができてよ
いと思いました。質疑における回答では,「不確かさ」が表示できればよいと
いう程度のものだったと記憶しておりますが。
幾つかのテーマでナノ領域の科学的知見の萌芽を期待させる様な結果が得ら
れており、これらがナノ科学の新しい分野として発展する様期待する。
・ナノ技術は産業的にはまだ未成熟で、今後の発展によっては標準の要求も多
岐にわたる可能性があるので、スケールの範囲や標準物質材料の種類を柔軟に
考えておくことが望ましい。
1-4
2)今後に対する提言
開発した計測技術について企業等の幅広い研究機関における利用を促進する
ために、仕組みや手続きの整備、広報活動の推進を期待する。また、国際標準
化の推進にも期待する。また、研究に参加した人材の移動を積極的に進め、ノ
ウハウを広く普及することが望まれる。ナノ技術の産業化のためには、今回取
り上げられなかった機械的性質、光学的性質などの標準整備も必要であろう。
開発した計測装置の実用化は、メーカーに任せきりにすることなく、研究者
とメーカーが共同で開発を進め、装置自体を国際的なデファクトスタンダード
にする努力が望まれる。一部の計測装置では、さらに普及型の装置の開発へ向
けた研究も必要であろう。
本プロジェクトで開発された計測装置および技術は、非常にレベルの高い最
先端のものであり、今後は、各装置で測定された特性の相互関係を整理し、こ
れらの要素測定技術を統合した総合的なシステム的なナノ計測基盤技術の確立
が望まれる。
また、開発した計測技術が真に国際的な成果であることを判断するためには、
今後数年間にわたって諸外国における利用状況をフォローすべきである。
<今後に対する提言>
・本プロジェクトで開発された個々の計測装置,技術は,非常にレベルの高い
最先端のものであり,今後のナノマテリアル・プロセスでその活用が大いに見
込めるものである。今後は,各装置で測定された特性の相互関係を整理し,こ
れらの要素測定技術を統合した総合的なシステム的なナノ計測基盤技術の確
立が望まれる。
・標準試料、データベース、規格等の成果物が得られており、これらが広く企
業等の研究機関で活用されるべく、仕組みや手続きの整備、広報活動の推進を
期待する。
・ナノ技術の産業化には、今回取り上げられなかった標準、例えば機械的性質、
光学的性質などについても、さらに整備が必要であろう。
開発された一部の計測装置は、さらに普及型の装置の開発へ向けた研究も必要
と思われる。
・4 つのテーマのうちいくつかはユニークな成果を上げたと判断する。但し、こ
れらが真に国際的な成果であったかどうかの判断は、今後数年間にわたって諸
外国がこれらの基盤技術の利用に追随するかによっても判断できると思われ
るので今後数年間の follow をお願いしたい。
また成果が上がったものについては実用化と市販品の製造という形でのノウ
ハウの提供を積極的に勧めて欲しい。また研究に参加した人材のグループ外へ
1-5
の移動を積極的に進めノウハウを所外に普及させることを積極的に推進する
ことが望まれる。ノウハウを抱え込むことで死蔵することは避けるべきである。
・装置化可能な技術はすでにプロトタイプ機あるいは実機化まで進んでいる。
そのような技術テーマの中で,さらに進展させることにより社会ニーズに連動
していけるものは,さまざまな機器開発事業に応募していくべきと考える。
今回のテーマ設定は社会・産業ニーズからのものではなく,人ありきでのテー
マ設定であったと考えられ,そこに無理やり押し込んだテーマもみられ,評点
の低下を招いたり,研究マネージメントの困難さがあったと思われる。今後は
社会・産業ニーズを標準テーマに置き換え,その中で適材適所の人材で事業を
構築すべきと考える。プロジェクトリーダーの回答にあった「どこにもあては
ならない要素技術を集めた事業である」というものは正直なところかもしれな
いが,それをリーダーが言ってはもともこもないであろう。それなりのロジッ
クを用意すべきであった。
・本プロジェクトで開発された計測器のいくつかは、すでに試作レベルの開発
を終え、商品として市場に出ようとしている。これらの計測器の開発において
は、装置の優位性をさらに増すため、装置を製造販売するメーカーに任せきり
にすることなく、研究者とメーカーが共同で、開発を進め、装置自体が国際的
なデファクトスタンダードとなるように努力してほしい。計測技術を国産技術
として持たない国に、経済発展は望めないし、わが国がナノテクノロジーの進
展に貢献をしたとの国際的な評価を得ることは期待できない。
・今後、国際標準化を進めるために、新規開発技術の普及に努めてもらいたい。
<その他意見>
・本プロジェクトで得られたナノ計測の成果がナノテクノロジー研究の問題解
決に結びつき、今後更にナノテクノロジー分野への貢献する様期待する。
・成果が上がったとは思われないものについては、原因解明を行うことが望ま
しい。
・標準整備を超えて学術研究として興味深い課題も今回の研究で浮かび上がっ
ているが、それらは科学研究費等で対応するのがふさわしい。
1-6
1.2 各 論
1)事業の位置付け・必要性について
ナノテクノロジー分野の計測基盤と標準整備は、公共性の高い課題であり、
民間では成し得ない NEDO の関与すべき重要な事業である。ナノ領域の計測
技術の標準化は技術展開の土台となるもので、本プロジェクトはそのニーズを
把握し、そのための基盤技術の整備という点で高く評価される。なかでも環境
計測技術とエレクトロニクス材料向けの計測技術は、わが国のナノテクの優位
性を保障する重要な技術となろう。
国際標準化の推進も事業目的として掲げ、国際的な標準機関との連携を見据
えた活動も評価できる。
事業目的は妥当と考えるが、その手段となる要素技術においては、必ずしも
その目的が妥当ではないと判断できるサブテーマも含まれ、予算規模からする
と、もう少しナノテクノロジーの他の主要課題に取り組めなかったのかとの疑
問が残る。
<肯定的意見>
○このプロジェクトで得られた成果は、ナノテクノロジープログラムの目標達
成のための重要な基盤技術であり、大きく寄与するものと予想される。
このような基盤技術は、公共性が高くNEDOの関与は、むしろ必須である。
得られた成果の国際標準化を進めることも事業目的に入っており、ナノテクノ
ロジー分野の発展を促進する基盤技術としての位置づけも妥当である。
○ナノテクノロジーにおいて,この分野の全ての技術者が共通の「ものさし」
で議論できる基盤を提供することは,民間では成し得ない NEDO の関与すべ
き重要な事業である。さらに,ナノテクに関する国内外の政策動向に沿って,
現在あるものを積み上げて標準を作るのではなく,ナノテクで不可欠な特性を
評価するために新たな計測手法を開発して「ものさし」を作るというトップダ
ウン的知的基盤整備の取り組みは,いくつかの先端的なナノ物性計測装置の開
発に繋がっており,今後,ナノテクで日本がリードしていくために不可欠なツ
ールを得たとも言え,大いに評価される。
○標準化業務というのはまさしく公共機関が実施するべきものであり,その観
点では推進者は最適な研究開発部隊であり,事業目的としては妥当である。事
業の出口も国内産業のみならず,国際的な標準機関との連携を常に見据えての
活動は評価できる。
○ナノテクノロジー研究の進展にとって、ナノ領域の計測技術の標準化は、技
術展開の土台となるもので、本プロジェクトはそのニーズを把握し、そのため
の基盤技術を整備した点で高く評価される。また、本プロジェクトの様な計測
1-7
基盤技術は、直接的に民間活動での利益に結びつきにくい分野であり、公共性
の高い NEDO 事業として実施したことは適当である。
○この種の計測基盤技術の推進には、NEDOから産総研への委託事業という
形態が、国家が重点を置く施策の実行方法として最も妥当であり、今後わが国
のナノテクノロジーの成果を普及する上でも、特に重要である。なかでも、環
境計測技術は、環境汚染が進む開発途上国に向けて、またエレクトロニクス材
料向けの計測技術は、日本のメーカーが拠点を移しつつある東アジア諸国向け
にも利用されるであろうと見られ、わが国のナノテクの成果の優位性を保障す
る重要な技術となろう。
○課題を極めて限定した枠内での事業としては、ナノテクノロジープログラム
の部分的目標の達成に一定程度の寄与していると言える。
○ナノ技術に関わる標準整備は公共性の高い課題であり、民間では難しい。標
準の整備は先導的でなければならないので、現在のナノ技術の開発研究の重要
性を考えると、今回の目的設定はよく対応している。
熱物性計測はじめ他国のレベルを超えた成果がいくつもあり、今後の国際的ニ
ーズは高いと考えられるので、国際貢献が期待できる。
<問題点・改善すべき点>
●しかしこれだけの予算を投下したのであるからもっとナノテクノロジープロ
グラムの主要課題に取り組めなかったのかとの疑問は残る。
せめて得られたノウハウを積極的に国内外に提供することで本投資が人類の
未来に役立つことを期待したい。
●期間7年間は長いので、中間での目標見直し・再確認をプロセスに予め組み
込んでおくことが重要である。第1期を5年間として、特に必要なものを7年
間にする方法もよいであろう。
●事業目的は妥当と考えるが,その手段となる要素技術においては,必ずしも
その目的が妥当ではないと判断できるサブテーマも含まれている。おそらく中
間評価でも問題になったサブテーマがあると考えられるため,無理に残さず,
ステアリングを大胆に実施すれば,本事業としてはより高い評価が得られたと
思う。
投じた予算の使途が明示されていないので,その適合性は不明である。開発
装置の数から見積もると総額 14.9 億円だから一つの装置に約 1 億円が投じら
れているとすると,他の事業の規模と比較すると費用対効果はよくはない。先
述したが人も研究資源であり,企業では一人当たり年間 2 千万円から 3 千万
円のコスト計算で考えており,54 名の研究者投入はエフォート概念を導入し
ても,その成果とは見合うものではない。
1-8
●本プロジェクトで整備したナノ計測に関わる標準試料等の基盤技術を国内の
みならず国外にも情報発信し、当該分野でのリーダーシップを取る様期待する。
<その他の意見>
・産業技術総合研究所の高レベルな研究資源(設備、人材)を有効活用するこ
とで、高い成果を達成したと考える。
・産業界の今後の動向にもよく留意されたい。しかし、ナノ技術の関わる産業
は広く、まだ産業的には未成熟の分野もあるので、産業効果をあまり短期的に
見過ぎない配慮が必要である。
・基盤技術としての成果は、利用すべき人々に知られねば意味がなく、さらに、
継続的に関係各署への周知に努めて欲しい。
1-9
2)研究開発マネジメントについて
研究開発目標は、他のナノテクノロジープログラムとの連携を睨んだ概ね
適切なものであった。また、研究遂行におけるマネジメントは、各課題の間
の直接の連携は少ないものの、方向性をしっかりと保持しつつ柔軟性もあり、
全体を通じての統率は優れていたと認められる。
開発した計測技術の装置化、ライセンス契約による販売あるいはベンチャ
ー企業の立ち上げ、技術研究推進委員会や標準化委員会などで他機関や産業
界からの意見を広く取り入れるなど、研究開発マネジメントとして高く評価
できる。また、研究の進捗に応じての加速資金の投入も適切に行われた。
一方、一部に目標が戦略的に設定されたようには思えない課題があった。
先進的課題であるため、中間評価に加え、期間中途での目標の見直し・再確
認を制度として組み込むほうがよい。また、一部のサブテーマでは研究の主
体が一部の研究者の成果に偏っていて、それ以外の研究者のコミットメント
や、サブテーマ内の連携が見えない。プロジェクト全体としての連携による
相互作用あるいは相乗効果が強く望まれる。
<肯定的意見>
○課題の選定は妥当で、取り上げるべき課題、わが国として強化すべき課題を
すべてカバーしている。研究リーダーの人選も適切で、それぞれの分担を責任
感と情熱を持って実行している。
○目標は、意欲的とも言えるレベルであり、国のプロジェクトとしてふさわし
い。
○当初は政策動向に沿った目標の設定であったが,7年間の技術動向の推移に
よりダイナミックに具体的な目的を設定して,ナノテクで必要な測定装置の開
発に取り組んできている。
○当初の目標設定は妥当と考えられる。研究遂行におけるマネジメントについ
ては、各課題の間の直接の連携は少ないものの、全体を通じての統率は優れて
いたと認められる。方向性をしっかりと保持しつつ柔軟性もあり、優れたマネ
ジメントである。
○各サブテーマ(一部のテーマを除き)において,装置化そして企業へのライ
センス契約による販売あるいはベンチャー企業の立上げなど,研究開発マネー
ジングを高く評価できる。どの程度の市場規模があるのか,販売戦略などの見
通し(ロードマップ)があるとなおよい。
技術研究推進委員会や標準化委員会などで他機関の研究者の意見や産業界か
らの意見を広く取り入れてステアリングされていることもよいことである。本
来はすべてのサブテーマでその活動はすべきであったとも考える。
1-10
○研究開発目標は他のナノテクノロジープログラムとの連携を睨んだ適切なも
のであり、テーマ毎に目標が設定され、有効にマネジメントされていたと考え
る。また、研究の進捗に応じて加速資金の投入を図った点も評価される。
<問題点・改善すべき点>
●一部のテーマについて、他のナノテクノロジープログラムへの貢献が少ない
と感じたものがあった。また、本プロジェクトにおける4つのテーマ間での連
携について、明確な説明が少ないとの印象であった。
●課題の選定について、委員の中から質問があったが、産総研としてどのよう
な選定を行ったか聞かせてもらえれば、プロジェクトの目標がより明確になっ
たと思う。ほかのプロジェクト内で実行済みまたは実行中であるなどの理由で
取り上げられなかったもの、本プロジェクトでなければ対応できなかったもの
などがあったことは承知しているが、
「なぜ、ここで取り上げた課題に落ち着
いたのか」という質問に答えるような事前の検討のプロセスがわかると、もっ
とよかった。
●個々のテーマの連携については、それぞれの装置で計測されたデータの相互
関係の整理など、より綿密な連携が望まれる。
●先進的課題であるので、期間中途での目標再確認あるいは中間評価時の目標
見直しを手順として予定しておく方がよい。今回は、結果的には妥当な目標設
定となった。
●標準物質の認定数など、無理に数値目標を設定したところ見受けられるとこ
ろがある。数値目標は、ブレークスルーを起こすスレッシュホールドの位置づ
けであってほしい。
●目標がそれほど戦略的に設定されたようには思えない課題が複数有る。結果
的にすべての課題で一見定量的なデーターが出ていることは認めるが、目標自
身が内外の技術動向を十分に把握した上で高い定量性を持って設定されたよ
うには感じられない課題があった。7 年間のうちでこれらを見直す機会はたび
たびあったはずであり、見直しが適切に行われるような研究マネジメントが出
来ることが望まれる。
●先述したが,サブテーマの研究の主体がごく一部の研究者の成果に偏ってい
る。その開発成果は非常に高い評価であるが,それ以外の研究者のコミットメ
ント,サブテーマ内の連携がみえない。多くの人間が組織として関わっている
ことはよいが,今回成果の見られない研究者が次世代の研究の芽を育てていて,
次の事業を立ち上げるネタをもっているのであれば研究マネージメントはう
まくいっているといえるが,それがないとすれば,研究運営そのものに問題は
なかったか検討すべきである。例えば大学や企業で同じ分野の研究者が数名以
1-11
上いるケースはなく,せいぜい 2 名が限界であろう。産総研のように同じ要素
技術をもつ研究者が数名おられる環境にありながら,そこでの人的相互作用が
アウトプットにみられないサブテーマがある。それは,産総研の特徴を全く生
かせておらず,本事業へのパフォーマンスを落としている要因になっている。
すべてのテーマにおいて達成度が○もしくは◎というのは,目標設定に問題
はなかったであろうか?できるところ,あるいはもう目処が立っているところ
での目標設定ではなかったのか?これは評価において○以上を求められるた
めの設定であると思うので,これは評価の仕方にも問題があろう。もっとチャ
レンジングなところでの夢が必要であろう。表面構造の計測基盤においては,
素人からみても明らかに開発目標が低いサブテーマがある。
<その他の意見>
・個別技術テーマがうまくいけば必須ではないと思うが,本事業におけるプロ
ジェクトリーダーの存在感が薄く,実際にどのような活動をして事業を推進し
ていったのかというリーダーのマネージングが疑問点として残った。例えば,
予算や人員についての傾斜配分,研究計画のステアリング,国際的な標準化研
究機関との連携など推進者の立場と管理者の立場からの具体的な判断があっ
たのであれば,紹介すべきであった。
実施に関しては,社会ニーズから標準化研究課題があって推進したのではな
くて,担当する研究者の現在のテーマを標準化研究テーマとして位置づけたの
であるから研究環境等の整備が整っているのは当然である。一部の開発技術に
関しては装置メーカーとタイアップするなどして製品化できたのであるから,
その技術開発力と事業化能力はあったのだと判断する。
予算配分や各個別テーマの配分額と成果を評価するという項目があるが,そ
のための詳細な資料が配布されていないため予算関係の評価はできない。ただ
し加速資金による一部の装置(絶対分子量測定装置)による研究の加速が事業
原簿からは明確に読取れず,問題があると感じた。
・予算的に“加速”を柔軟に行なうのは、このような先端分野では必要であり、
今回その実施例とその成果が示されたことは結構である。
・中間評価以外に、外部評価者の入った研究推進委員会を設け、本プロジェク
トの運営を管理した点は実用化推進に有効であったと考える。
・課題間のインタラクションがほとんど無かったかのような印象を受ける。
プロジェクトを行う限り全体としての相互作用あるいは相乗効果が強く望ま
れる。
1-12
3)研究開発成果について
何れのテーマも概ね目標値をクリアし、全体として優れた成果といえ、特に幾
つかの課題で、国際的水準を超えた優れた成果を挙げている。その成果は、今後
のナノテクノロジーの発展に大きく寄与するものと推察される。
特に、APM(エアロゾル粒子質量分析装置)、陽電子寿命測定装置、パルスレ
ーザーによるサーモリフレクタンス法は世界初の計測技術であり、しかも製品化
もされていることから高く評価できる。
一方、論文や特許あるいは受賞等の点で十分評価できるテーマがある一方で、
予算投入に見合っていないテーマもあった。
知的財産については適切に出願されているが、今後、国際標準化をするときの
障害とならないように、権利行使に配慮も必要である。
<肯定的意見>
○目標をクリアしたものが複数課題有る一方で、もともと目標設定が曖昧なも
の、あるいは目標に到達したとは言い難いものも複数個有る。
○目標は達成できていると判断される。全体として優れた成果といえるが、特
に幾つかの課題で、国際的水準を超えた優れた成果を挙げている。
○成果は、おおむね目標値に達しているか目標をしのいでいる。この種の計測
技術開発においては、技術を使いたいという人たちが現れれば、成功であるが、
その見込みも十分ある。
成果は、わが国の研究のプライオリティを示すだけでなく、特許によってその
権利を世界に主張するものになっている。一部の研究では、世界をリードする
ユニークな研究と評価されており、世界標準の計測技術となりつつある。
○目標は、十分に達成しており、その成果は、今後のナノテクノロジーの発展
に大きく寄与するものと推察される。
基盤技術として、普及するための重要な要件である周知、認知のための発表は
十分に行われている。
○どの課題も目標をクリアしており,またさらに展開するものもあることから
成果は高いと判定できる。少なくとも,APM,陽電子寿命測定装置,パルス
レーザーによるサーモリフレクタンス法は世界初の計測技術であり,しかも製
品化されていることから高く評価できる。
○ナノ粒子の質量測定,薄膜の熱拡散率測定のために開発された計測装置は市
販に至っており,研究成果が実用化されている。
特許、論文発表も十分行われている。
○何れのテーマも目標値をクリアし、一部テーマについては目標値を上回る成
果を上げており、投入された予算に見合った成果が得られている。得られた成
1-13
果の知的財産件取得および論文等に成果普及にも努めており、一部テーマにつ
いては実用化段階に進みつつあるものがある。国際シンポジウムを開催し、国
内外への情報発信にも努めていた。
<問題点・改善すべき点>
●標準としての信頼性をどう利用者に納得させるかには、その表現方法を含め
十分工夫されたい。
●プロジェクト参加者の間での相互刺激と切磋琢磨が必要と思う。
●特に問題視すべきではないが、それぞれの課題の担当チームはきわめてまじ
めにプロジェクトの目標達成しているが、せっかくこれだけの努力をしたので
あるから、新しい科学的な発見等にも、少し興味をもつくらいの脱線は許され
るべきであろう。公的機関での技術開発は、常に新しい原理、科学上の発見な
どの上に築かれるものであるので、科学者としての好奇心を持ち続けられるよ
うなプロジェクト運営における懐の深さがあるといいと思う。
●受賞・論文等の成果において直接的には関係ない(と思われる)ものも多く
含まれている。計測基盤であるからどれにでも関係あるのかもしれないが,直
接成果と間接成果でわけるべきである。事業の成果と共に論文や受賞などが増
加するはずと思うが,ほとんどの課題で少なくなっている(中には後半 3 年間
で論文数 0 のサブテーマもある)。これでは適切な成果公開がなされているか
疑問である。
知的財産化について対応ができているサブテーマ(粒子質量計測,空孔標準,
熱物性)と全く対応していないテーマ(液中粒子計測,表面構造)がある。こ
の偏りは事業を推進する途中で,改善可能ではなかったか。
●目標未達ではないものの、一部テーマで達成度が目標値に留まり、目標値を
上回る成果が得られていないものがあった。
<その他の意見>
・知的財産も取得可能性のあるものについては、適切に出願されている。ただ
し、今後、国際標準化をするときの障害とならないように、権利行使に配慮も
必要である。
・本プロジェクト自体の成果が直接新たな市場の創造につながる可能性は低い
ものの、本プロジェクトでの成果物であるナノ計測基盤は、他のナノテクノロ
ジー研究分野での新たな市場の創造を下支えするものと考える。
・知的財産権ならびに成果レベルの優位性の保持ということと、標準の公開原
則や普及・応用の方針とは、国益を考えたときに両立し難い部分もある。
・論文や特許あるいは受賞等の点で十分評価できるテーマがある一方で、それ
1-14
らの点で多額の予算投入に見合っていないテーマもある。中間評価時点でそれ
らがある程度予測されていたはずであり、その点を考慮したマネージメントが
あっても良かったのではないか。
1-15
4)実用化、事業化の見通しについて
本プロジェクトで開発されたナノ粒子の質量測定,薄膜の熱拡散率測定のため
の計測装置は市販に至っており、国内のみならず国際的に普及する可能性が大き
い。これらは、ナノテクに於いて専門分野の異なる技術者が共通の尺度で要素技
術を議論できる基盤を与えるものであり、今後の利用が期待される。
本プロジェクトの成果の知的基盤としてのニーズは十分にあると考えられ、国
内のみならず国外への情報発信に努めれば、当該分野の国際標準化におけるリー
ダーシップを取れると考える。
将来にわたって、本プロジェクトの成果を知的基盤として維持し、その優位性
を確保するには、国と産業界のバックアップが必要である。
<肯定的意見>
○開発成果は波及効果が高いと考える。産総研として,このような成功例を継
続し,トップダウン的な装置開発が可能なような研究開発マネージメントを実
施すべきであろう。
○実際に計測装置として販売をすでに実施しており、また、普及型、小型化装
置を研究段階から考慮して取り組むなど実用化の見通しは高い。
○知的基盤としての利用は十分にあると考えられる。ただし、ナノ技術の産業
が成熟しているわけではないので、波及効果をすぐに判定できるわけではない。
○ナノ粒子の質量測定,薄膜の熱拡散率測定のために開発された計測装置は市
販に至っており、これらは、ナノテクに於いて専門分野の異なる技術者が共通
の尺度で要素技術を議論できる基盤を与えるものであり、今後の利用が期待さ
れる。
国際標準整備については、実施者が TC229、TC24 などに参加し、積極的に取
り組んでいる。
○開発された標準試料は頒布され活用が図られている。工業標準化に関しては、
標準化委員会を設置し検討を進めている。一部テーマについては、装置メーカ
ーによる商品化を目指した開発にも取り組んでおり、確実な成果を上げており、
展示会等を通じて、これら開発品等の広報活動にも取り組んでいる。
○複数課題については既に実用化が出来ているものがある一方で、実用化には
ほど遠い課題も複数個有る。同じことはJIS化、標準整備等に向けた見通し
についても同様である。
○すべての課題について成果の実用化が可能である。特にAPMと熱測定装置
は国内のみならず国際的に普及する可能性が大きい。現在の進展状況から判断
すると、まずISOにおいて国際的な規範作りをおこない、それを逆輸入する
かたちでJIS化するのが最も適切であろう。又、開発途上国向けのナノ計測
1-16
技術として、世界展開が期待できるものもある。又、各課題に付き、延べ数十
名の研究者、技師、ポスドクが関与して、この課題を卒業していると聞いてい
るので、いずれ関係者が社会に出てこの経験を生かし活躍することも期待でき
る。
<問題点・改善すべき点>
●諸外国のみならず国内他研究者の動向を逐一把握した上での研究展開が望ま
れる。
●将来にわたって知的基盤として維持し、成果のレベルの優位を挙げてゆくこ
とは容易でないが、産総研だけの体制では限界があるので、産業界のバックア
ップを得て継続する必要がある。
●プロジェクトとしては、実施しにくいかもしれないが、他の研究機関との共
同化するテーマもあっても良かったと思う。当該分野において、活躍すべき拠
点が増えていけば、人材も、より活発に育成されていくと思われる。
●事業原簿には単に「波及効果は高い」とあるだけで定量性がないことが残念
である。市場調査などを含めた技術のロードマップはプロジェクトリーダーお
よびサブテーマリーダーの役割と考えるが,その取り組みは全く見えない。
要素技術開発であるからアカデミックポジションへの流出や企業への転出と
いった人材の流動化はないとの回答があったが,特に若手の流動化には積極的
に動いていただきたい。
●本プロジェクトの成果は、国内のみならず国外への情報発信に努めれば、当
該分野標準化におけるリーダーシップを取れると考える。
<その他の意見>
・新しい計測技術の問題点として、常に、
「せっかく開発した優れた技術が知ら
れていないので、普及しない」という点がある。ナノ関係のシンポジウムに積
極的にセッションを設けて発表の場を確保するとか、国際的なワークショップ
を開くとか、工夫が必要だろう。
・本プロジェクトで取り組んだテーマが計測技術の開発であることから、本分
野で養った専門性を有する人材は幅広い分野での活躍が期待される。また、本
プロジェクトで研究に携わった人材が、他分野での研究に携わることで本テー
マの成果普及が図られることを期待する。
・今回のプロジェクトは、ナノ標準やナノ計測技術の興味を若い人の意識中に
かきたてる効果はあった。
人材育成については、ナノ技術については大学が取り組むであろうが、標準と
か知的基盤という意味での人材育成は大学では難しい。国と産業界の両方によ
1-17
る財政的支援が必要である。
・今後の課題としては,標準の国際化といったフェーズになるであろうが,そ
の時こそプロジェクトリーダーの力の発揮というところであろうか。
1-18
2.個別テーマに関する評価結果
2.1 微小要素物理特性の計測基盤
1)成果に関する評価
気中における粒子の質量分析については静電噴霧法により精度良い計測法が
確立でき、投入された予算に見合った成果が得られている。気中に浮遊する粒子
の質量を、粒子形状とは無関係に計測できる技術は革新的なもので、本研究の成
果としてすでに装置として市販されており、十分に当初目標を達成し、計測技術
としては世界最高と理解できるレベルを達成している。この技術は、今後、様々
な動力学的径を評価する際にも大いに役立つものと期待される。特許申請、論文
発表も十分に行われている。
さらに、濃度や粒径分布など、従来の手法では対応できなかった性質について
もチャレンジして成果を挙げている。ナノサイズ粒子の質量(1~1000fg)、サ
イズ(1~1000nm)範囲での校正技術と標準試料供給の体制を整備し、本プロ
ジェクトで掲げた成果を達成したと評価される。
ただし、気中、液中での粒子径の計測結果が、ほぼ一致するところまで追及で
きたとのことだが、気中と液中でのナノ粒子の挙動の違いについてはさらに研究
を深める必要がある。
また、環境やバイオ安全、人体安全などの応用で今後強いニーズがあると予想
されるので、材質や粒径、形状など、より広い標準が必要である。
<肯定的意見>
○気中における粒子の質量分析については静電噴霧法により精度良い計測法が
確立できたと思われる。投入された予算に見合った成果が得られていると思わ
れる。
○目標は達成している。計測技術としては世界最高と理解できるレベルを達成
している。
濃度や粒径分布など、従来の手法では対応できなかった性質についてもチャレ
ンジして成果を挙げている。
○質量標準計測技術については、十分目標を達成し、標準物質の値づけについ
ても、早晩目標が達成されると思われる。APMと呼ばれる装置は、国外の自
動車排ガス計測の国際学会で取り上げられており、むしろ国外できわめて有名
である。
特許、市場発表などの実績も申し分ない。
○目標は十分に達成しており、従来、不可能であったナノ粒子の質量を知る有
力な方法を確立した意義は大きい。
気中、液中での両者の計測結果が、ほぼ一致するところまで追及できたことは、
1-19
本技術の信頼性を上げ、成果の普及にも貢献すると思う。
○粒子質量校正技術はその測定原理が明瞭であり,精度向上の方策も工夫がこ
らされており,初期目標も大きく凌駕する結果が得られ目標達成度は高く評価
できる。
粒子数濃度校正技術と濃度標準物質の開発については蛍光粒子であるからこ
そできた技術ではあるが,1 名という少ない人員での成果であり,高く評価で
きる。
○気中に浮遊する粒子の質量を、粒子形状とは無関係に計測できる技術は革新
的なもので、すでに装置として市販されており、十分に当初目標を達成してい
る。この技術は、今後、様々な動力学的径を評価する際にも大いに役立つもの
と期待される。また、本装置は、粒子個数から粒子質量に変換するために不可
欠な粒子密度を与えるものであり、粒子質量では計測不可能な超清浄空間の粒
子質量濃度の計測に利用できる。
また、標準粒子の校正法、標準物質の整備についても、気中粒子径と液中粒
子径が一致することを示しており、信頼できる標準粒子の提供に大きく貢献し
ている。
特許申請、論文発表も十分に行われている。
○ナノサイズ粒子の質量(1~1000fg)、サイズ(1~1000nm)範囲での校正技
術と標準試料供給の体制を整備し、本プロジェクトで掲げた成果を達成したと
評価される。
<問題点・改善すべき点>
●他のテクノロジープロジェクトへの関与が期待されるテーマであり、より積
極的なアプローチが提案されたと考えられる。
●気中と液中でのナノ粒子の挙動の違いについてはさらに研究を深める必要が
あるように思われる。単に測定値が両者で一致すればよいという説明では十分
でない。
●有効密度測定技術については粒子形状が球状でない場合の補正法が確立した
とは言えない。
●粒子質量校正技術については特になし。
液中ナノ粒子粒径測定においては DLS 測定の工夫として恒温測定と振動抑制
をあげているが,測定原理から当然すべき事項と思える。PFG-NMR での拡
散係数を求める際の対流抑制セルの使用も当然である。説明の際にあった「技
術を磨いた」とか「気をつけて測定した」というので不足である。もしそれら
がこれまでされていないとすれば,従来は大きな問題点があったためであり,
その具体的な解決策を定量的にあげ,その効果を前後での測定結果とあわせて
1-20
示すべきである。
「それぞれの手法で測定結果が一致しているからお互いの測定技術が担保さ
れるという戦略」は,筋の通った戦略であろうか?片方が SI 単位系で測定可
能な手法(電顕,光顕などでの粒径測定など)で,片方がそうでないのであれ
ば,言えるかもしれないが,今回のような DLS と NMR では両方とも SI 単
位系の測定手法ではなくそれは当てはまらないのではないか。基本的には SI
単位系に落とし込める計測技術にする必要があるのではないか。
加速財源として「絶対分子量評価装置(内容も不明)」の購入があるが,それ
による成果が不明である。デンドリマー試料中の不純物分析などが関連した成
果は事業原簿にほとんど記載されておらず,またこれによる認証標準物質の開
発もどのように関連があるのか事業原簿では不明であった。加速資金として投
入時の判断基準やその成果への貢献に疑問が残る。
液中のナノ粒子計測においてデンドリマーといった高分子などへの取組み目
標が現段階では適切であったのだろうか。
<その他の意見>
・液中ナノ粒子粒径測定の事業原簿のそれぞれの図でわかりにくいものが多か
ったので,もう少し素人にもわかりやすくしてほしい。
・環境やバイオ安全、人体安全などの応用で今後強いニーズがあると予想され
るので、材質や粒径、形状など、より広い標準が必要であろう。
・異なる計測法間でのデータの同等性を確認していること、中間評価以降汎用
性の向上を図ったことは評価される。
・光励起による散乱光と発光の同時計測による粒子数と気泡の同時計測のアイ
デアは面白い。しかし最終的に得られているデータから実用化レベルで利用す
るには精度的に不足と判断する。
1-21
2)実用化の見通しに関する評価
ナノ粒子標準物質は、環境技術やバイオ産業などでの利用がさらに高まるであ
ろうから、その意味で波及効果は非常に大きいと考えられる。また、微小質量の
計測装置APMに関する技術は、わが国発のナノ計測技術として、世界に普及す
べき優れた技術であり、今後様々な分野で応用が見込まれる。成果の普及に努め、
技術をさらに高度化して、わが国のナノ計測技術の柱にすべきと考える。
30~100nm の粒径標準、SEC-LC による分子量分布標準物質等は、産業界と
して需要の高い分野であり、今後利用が拡大してゆくことが期待される。
有効密度測定装置の実用化に向けては、バルク密度と非球形粒子での有効密度
の違いの定量的な説明が必要である。また、粒子数と気泡の同時計測についても、
現状では、実用化するには精度が不足していると思われる。
<肯定的意見>
○微小質量の計測装置APMに関する技術は、わが国発のナノ計測技術として、
世界に普及すべき優れた技術である。すでに世界の主要な研究室では、この技
術と装置に関心を示し始めているので、成果の普及に努め、技術をさらに高度
化して、わが国のナノ計測技術の柱にすべきと考える。
○当該分野では、今回得られた成果が有力な基盤技術として普及すると見込ま
れる。
ISO への規格提案を進めており、実用化に向けた布石が打たれている。
○30~100nm の粒径標準、SEC-LC による分子量分布標準物質等は、産業界と
して需要の高い分野であり、今後利用が拡大してゆくことが期待される。
○特に環境技術やバイオ産業などで、ナノ粒子標準物質の利用はさらに高まる
であろう。その意味で波及効果は非常に大きいと考えられる。
○気中における粒子の質量分析については精度良い計測装置が開発できたと思
われる。
○すでに装置、標準粒子として実用化されており、研究成果の活用は十分に行
われている。浮遊状態の粒子の質量計測装置は、今後様々な分野で応用が見込
まれる。
○APM の製品化,そのための標準物質開発と事業シナリオに準じた成果をあげ
ており,高く評価できる。
<問題点・改善すべき点>
●液中ナノ粒子計測において事業原簿によると特許取得がなく適切な知的財産
権を確保できていない。ポリスチレン多分散標準物質での分子量分布と粒子サ
イズとどのような関係があるのか。途中で目標を粒径から分子量分布にすり替
1-22
えているような印象である。
●ほかのプロジェクトで実行中と聞いているが、気相中のナノ粒子の個数標準
についてまとまった見解が得られ次第、このプロジェクトの成果を公表する時
点で、気相中の個数濃度標準についての情報の所在場所を同時に公表していた
だきたい。
●産業界に向けて、本プロジェクトの成果物である標準物質の広報活動を推進
する様期待する。
●有効密度測定技術についてはバルク密度と非球形粒子での有効密度の違いの
定量的な説明が得られるまでは装置の実用化は難しいと思われる。
粒子数と気泡の同時計測についても現状では精度不足で実用化は困難と思わ
れる。
<その他の意見>
・より広汎な分野への展開が図れる技術であるので、本件に携わった研究者の
他分野との交流等が推進される様期待する。
・今後、多くの研究機関で本技術が利用されるときの混乱を避けるため、さら
に多くの国際標準化の取り組みを行って欲しい。
・装置がベンチャー等によって販売されるようになっても、最も装置を改良で
きるのは、ユーザーの声であるから、担当チームは継続的に装置改良にかかわ
っていただきたい。商品になったからといって、担当チームの見識なしには、
使いやすい「日本発の世界標準」となるナノ計測装置は誕生しない。
1-23
3)今後に対する提言
粒子質量分析に関しては、粒子の凝集状態、液や気体の種類の影響あるいはバ
イオ影響に関連する粒子材料など多くの研究課題があり、さらに粒径が 1 桁のナ
ノ粒子への拡張が望まれる。また、汎用性、操作性を向上した小型化、低コスト
化装置、微小質量以外の測定も同時にできるような複合装置への発展を期待す
る。今後とも、開発のロードマップを作成し、他の競争的資金を獲得してトップ
レベルの研究を推進することが期待される。
1~30nm の粒径標準は、産業界からの要請が今まで以上に高まると予想され、
この領域での標準供給が推進されることを期待する。
また、標準化活動を支える体制を構築し、国際標準化に向けて標準物質に関す
る知見を今後とも充実させることも重要である。
<今後に対する提言>
・粒子質量分析に関しては今後のロードマップを作成していただき,他の競争
的資金を獲得して,トップレベルの研究を進展していただきたい。
液中ナノ粒子計測については SI 単位系での測定基準の導入が不可欠であり,
それに向かった対応もされている。粒子数濃度校正技術と濃度標準物質の開発
に特化して実施を推進すべきではないか。
・装置が微小質量以外の測定も同時にできるような、複合装置へ進化する方法
はないだろうか。その場合は、たとえば自動車排ガス中のナノ粒子分析等の具
体的な目標にあわせた開発が必要だろう。
・バイオ影響に関連する粒子材料についてはさらに研究を行う必要がある。
研究者や標準物質の取扱者を含めて、ナノ粒子に関係する安全面の配慮にも留
意されたい。
・1~30nm の粒径標準は今後産業界からの要請が今まで以上に高まると予想さ
れることから、この領域での標準供給が推進されることを期待する。
・国際標準化に向けて、標準物質に関する知見も充実させて欲しい。また、国
際標準化活動をささえる体制の構築も重要である。
・基本的な粒子物性である粒子密度の計測装置なので、さらに汎用性、操作性
を向上するとともに、小型化、低コスト化が期待される。
・光励起による散乱光と発光の同時計測による粒子数と気泡の同時計測につい
ては、たとえば全体を加圧することで気泡のサイズを小さく制御する際の散乱
光の変化などを解析に取り入れるなどの、何らかの新しい発想を導入すること
が望まれる。
1-24
<その他の意見>
・より広汎な分野への展開が図れる技術であるので、本プロジェクトで確立し
た技術の拡大を推進する様期待する。
・今後の課題として、液や気体の種類を変えた研究も行う方がよい。粒子の凝
集は完全に防げているか。
・粒子質量計測装置は、さらに 1 桁のナノ粒子への拡張が望まれる。
1-25
2.2 空孔の計測基盤
1)成果に関する評価
陽電子消滅法という新しい原理を用いて、直径数ナノ以下の空孔計測技術を確
立し、世界トップの時間分解能を持つ普及型陽電子寿命測定装置を開発した。ラ
イセンス供与による製品化、それによって校正した認証標準物質の開発、標準仕
様書(TS)案の作成など、将来を見据えた活動がなされている。さらに、中間評価
の指摘にあわせて装置を小型化するなど普及のための努力や、論文発表、特許出
願など成果発表のための努力がなされ、目標を十分達成している。
研究者間の交流による推進もなされており、機関外の研究者の参加によりその
成果について評価も受けており、成果の信頼性も高い。一つの目標に対して、複
数の研究者が同じベクトルを意識しながら、研究開発を実施している姿になって
おり、研究マネジメントも高く評価できる。
ただし、標準試料に付与された特性値が陽電子寿命となっており、異なる計測
法間での比較も視野にいれると、特性値として空孔サイズが付与されることが望
ましいと考えられる。また、陽電子寿命から空孔サイズを求める根拠の妥当性に
ついては、小角 X 線散乱法などとの比較を試みていることは評価できるが,ま
だ弱さが残り、さらに空孔形状の問題もある。国際的な標準物質として納得させ
るにはそこのロジックを強化する必要がある。
<肯定的意見>
○世界トップレベルの保有技術を活用し、また他機関との連携も図りながら、
目標である直径数 nm 以下のナノ空孔の校正技術を確立し、標準化を進めたこ
とは高く評価される。
○新しい計測方法の開発と消滅時間としての目標は達成している。成果の市場
性であるが、直接の計測機器市場へのほか、広い産業分野の品質向上に貢献が
期待できる。
○空孔標準といった観点は世界でも類がないであろうし,設定した目標も妥当
であり,それをクリアしていることから高く評価できる。また,装置の製品化
(ライセンス供与),標準試料供給を達成し,測定法に関して標準仕様書(TS)
案の作成など,将来を見据えた活動がなされている。それぞれの開発テーマに
関して,本事業には珍しく研究者間の交流による推進もなされており,機関外
の研究者の参加によりその成果について評価も受けており,成果の信頼性も高
い。一つの目標に対して,複数の研究者が同じベクトルを意識しながら,研究
開発を実施している姿になっており,研究マネージメントも高く評価できる。
○微小空孔を観察する手段として確立した技術は、トップレベルにあり十分に
大きな成果である。
1-26
標準物質の提供は、本技術の普及に貢献するとともに、当該分野の技術、産業
を底上げするのに大きく寄与するものと考えられる。
○直径数 nm の微細空孔の測定において十分な時間分解能を持つ装置の開発に
成功しており、それによって校正した微細孔認証標準物質を開発しており、目
標を十分達成している。
新たな電子用薄膜材料の評価に大いに利用できると考えられ、特許、論文発
表も十分に行われている。
○普及型陽電子寿命測定装置で世界トップの時間分解能を出せたことは評価で
きる。
論文の発表も十分な数に達している。
○陽電子消滅法という新しい原理を用いて、ナノ領域の空孔測定技術を確立し
ている。この目的の計測技術として、絶縁膜の計測などの目的によく適合して
おり、世界的な水準にあると判断される。装置を中間評価にあわせて小型化す
るなど、普及のための努力も認められる。論文、特許ともに成果発表には努力
していると判断できる。
<問題点・改善すべき点>
●陽電子寿命から空孔サイズを求めるということであるからその根拠の妥当性
についての弱さはまだ残っている。小角 X 線散乱法などとの比較を試みてい
ることは評価できるが,その方法自体もまた問題がある。さらに空孔形状の問
題もある。国際的な標準物質として納得させるにはそこのロジックを強化する
必要があるのではないか。
標準試料としてのサブナノ空孔の形状均一性やサイズ分布などの観点からこ
のサブナノ多孔質として酸化ケイ素系薄膜が最適であったのかという懸念が
ある。小角 X 線散乱法との比較で,陽電子寿命から空孔分布が求められてい
るが,どのような手法(解析)で求めているのか,その妥当性・問題点などに
ついての考察をすべきであろう。
●放射線安全の規制と応用の場での利用し易さとのかねあいは、今後も使いや
すい装置への改良に努めてほしい。
●小型化とした装置の製作は、小型化した場合の課題を把握するのに有用であ
ったが普及型と比べて、大きなメリットはないように思う。
●標準試料に付与された特性値が陽電子寿命となっており、異なる計測法間で
の比較も視野にいれると、空孔サイズが付与されるのが望ましいと考えられる。
<その他の意見>
・層間絶縁膜、金属配線等の半導体分野に直結した計測技術であるので、今回
1-27
のプロジェクトの成果を積極的に公開し、当該分野の研究開発を支援する様期
待する。
・学術研究としても興味深い。
1-28
2)実用化の見通しに関する評価
普及型陽電子寿命測定装置の製品化は世界初でインパクトが高く、それを小型
化したことは、本技術の産業界での活用を推進するものであり、高く評価できる。
開発された装置は、薄膜電子デバイスの開発段階、および作成した薄膜の評価
装置として実用が期待される。また、あわせて陽電子寿命測定用の標準試料供給
を開始し、一部機関での利用が進んでおり、確実な成果を挙げている。ただし、
空孔を直接計っているわけではないので利用者の正しい理解が必要である。気体
吸着法、小角X線散乱法との比較は行っているものの、絶対精度は今後も継続的
な研究が望ましい。
陽電子寿命測定装置の販売のネックになっているのは、放射性同位元素の使用
による手続きの問題とデータ解釈にある。普及のためには、管理区域の設定や放
射性同位元素の管理があまり大きな負担でないことを周知するなど、ユーザーへ
の広報活動が必要であろう。
<肯定的意見>
○普及型・小型化陽電子寿命測定装置の製品化は世界初であり非常にインパク
トが高い。陽電子寿命の工業標準化も標準仕様書(TS)の素案作成の段階までき
ており,ユーザー拡大に大いに資するものである。
○開発された装置は、薄膜電子デバイスの開発段階、および作成した薄膜の評
価装置として実用が期待される。バルク測定のための TS 素案、標準物質の開
発により標準化にも十分取り組んでいる。
○小型の普及型陽電子寿命測定装置の開発は産業界でも用いられる装置として
積極的に評価できる。理想的な球形空孔であればある程度定量評価に耐えられ
ると思われる。
○科学的に知られた原理を利用して、良く装置レベルまで開発を進めたと評価
できる。
○製造ラインで in situ 測定が可能になると、品質管理に貢献するので、産業応
用は拡大するであろう。
○Na-22 を利用する装置としたことで、利用制限が低くなり、実用化への意欲
を感じられる。また、その可能性も高い。
○中間評価以降、普及型陽電子寿命測定装置の小型化を推進したことは、本技
術の産業界での活用を推進するもので有り、高く評価される。また、あわせて
陽電子寿命測定用の標準試料供給を開始し、一部機関での利用が進んでおり、
確実な成果を挙げている。
<問題点・改善すべき点>
1-29
●測定法の原理からみて、放射性同位元素を使用することが不可避であるが、
普及のためには、今後は、管理区域の設定や、放射性同位元素の管理などにな
れていないユーザーに、管理がさほど大きな負担でないことを納得してもらう
ことが必要であろう。
したがって、この装置の普及には、このような心理的なバリアーをユーザーに
乗り越えてもらうための広報活動が必要ではないか。使ってみれば、危険でも
なく、大げさな施設の変更も不要だと判るであろうが。使う前のユーザーの心
理的バリヤーの対策を講じれば、普及する技術であろう。本技術には、管理区
域の指定のみ必要で、排気や排水の処理装置が不要なことも、普及の視点から
見ると有利な点である。せいぜい、注意すべきは放射性同位元素を紛失しない
ように管理体制を整える程度のことであろう(放射性同位元素を少量でも紛失
すると、大きな社会問題となって実施者は責任を問われる)。どうやって、放
射性同位元素を使ったこともない人たちに、この空孔測定法が便利なものだと
納得させるかが、普及のための課題だろう。
●普及型・小型化陽電子寿命測定装置の販売のネックになっているのは,放射
性同位元素の使用による手続きの問題とデータ解釈にある。前者は法的な問題
であるが,データ解釈については,陽電子寿命測定での TS 作成作業と同様に
サブテーマ内で解決すべきはないか。
●普及型装置、標準試料の供給などが推進されたものの、高い専門性を有する
計測法である感は否めず、産業界での活用を進めるにより一層の規格汎用化が
進められる様期待する。
●しかしこれから非球空孔のサイズと数の評価を行うことは相当に困難と思わ
れる。
この手法を実用化するにはまだ相当のブレークスルーが必要であろう。
●空孔を直接計っているわけではないので、利用者の正しい理解が必要であろ
う。
●放射線源 Na-22 の使用は、今後の装置の普及においては負の要因である。
<その他の意見>
・3方法の比較は行っているものの、絶対精度は今後も継続的な研究が望まし
い。
・陽電子寿命測定法は本プロジェクトで対象としたナノ空孔以外にも、高分子
自由体積の評価等に活用され、今回の成果はより広汎な分野での活用が期待さ
れる。
・HP や国際会議など通じて陽電子寿命測定用標準試料の頒布に努めていただき
たい。空孔(原子空孔からサブナノ空孔)測定手法およびニーズのロードマッ
1-30
プがあるとよい。
1-31
3)今後に対する提言
放射線安全の規制と応用の場での利用し易さとのかねあいの改良、および、よ
り低コストでコンパクトな汎用装置の開発を視野にいれた活動の推進を期待す
る。放射性同位元素使用という法的な問題もあることから、装置販売の観点のみ
にしばられず、測定依頼受託ということでの産業界への浸透も推進すべきである。
実用上はサイズのばらついた系や空孔が球でない系を扱わねばならないことも
多いが、それをどう扱うかを検討して欲しい。また、平面内の分布測定も要請の
高い課題であるので、可能性の検討を継続して欲しい。
<今後に対する提言>
・特定の具体的な空孔測定の必要な場合に、どのようにこの測定技術が適応さ
れて問題を解決したかがわかるような事例が積み重ねられれば、普及は促進さ
れるであろうと思われる。現場の声を聞いて、測定法と装置にさらに磨きをか
けることもできる。
・放射性同位元素使用という法的な問題もあることから,装置販売の観点のみ
にしばられず,測定依頼受託ということでの産業界への浸透を推進すべきかと
考えます(すでに取り組んでいることかもしれませんが)
。陽電子寿命測定に
関しては,金属・半導体の原子空孔測定を目指した仕様書まで踏み込んで基盤
整備を進めていただきたい。
・普及型陽電子寿命測定装置、標準試料をエレクトロニクス分野を中心とした
産業界での活用を推進することが課題であり、広報活動の推進に期待する。ま
た、平面内の分布測定も要請の高い課題であるので、可能性の検討を継続して
欲しい。
・標準試料としてはサイズのそろった空孔を対象とするだけで良かったが、実
用上はサイズのばらついた系をも扱う必要があると思われる。それをいかに扱
うかが聞き取れなかった。また空孔が球でない系を扱わねばならないことも多
いが、それをどう扱うかも不明であった。放出ガンマ線の角度分布等の計測を
行うこと等の検討が望まれる。
・小型化して生産現場で利用することよりも、研究開発の場での利用を想定し
て、普及をもくろむ方がより現実的であると考える。
・さらなる小型化は今後の課題であろう。
・放射線源を使用しない装置の開発、装置のさらなる小型化と低コスト化。
<その他の意見>
・本研究のように、他国に比較対象が無い場合には、必ずしも国際比較にこだ
わる必要はない。
1-32
・普及型陽電子寿命測定装置の開発により、当該計測法の産業界における利用
の目処がたったものの、より低コストでコンパクトな汎用装置開発を視野にい
れた活動の推進を期待する。
・空間率の測定は可能なのか。
・陽電子寿命測定においての寿命値算出の精度を悪化する実験(含む計測器)
上の要因,スペクトル解析上のなどの特定をしていただけるとよい。
1-33
2.3 表面構造の計測基盤
1)成果に関する評価
表面から 2nm 以下の深さに対し、波長可変 XPS 装置を用い、組成の情報が得
られる深さを厳密に決定するとともに、深さの方向の組成分析が可能になること
を示した。また、金属等 22 元素の化合物 52 物質について統計的 500 本以上の
スペクトル取得を完了するなど自前のデータベース構築などに取り組み、目標は
一応達成している。しかし、10 名の研究者が関与している研究テーマとしては
アウトプットが少なく、何がどこまでわかればよいかという最初の目標設定がや
やあいまいであったと考えられる。
深さ可変光電子分光では、放射光を用いてエネルギーを変えた測定がは唯一の
手法であるが、それだけでは新規性があるとは言えない。IMFP の測定でも、SR
を使って,そのための独自の分光器を開発するなどのチャレンジが欲しかった。
また、知的基盤的な課題では特許出願はゼロでもよいわけだが、理由の説明は
必要である。他のテーマと比較して、他のナノテクノロジープログラムとの連携
も不足していた。
<肯定的意見>
○目標は一応達成しているが、「標準」としての視点から考えるとややあいま
いな印象を受ける。重要な成果であることは間違いない。
○中間評価時点より、目標が整理され、現実的な設定になったと見られるので、
達成度も向上した。本課題は、KEKのフォトンファクトリの使用を前提とし
ているので、装置的な改良を目指さず、XPSデータ処理のためのソフト開発
に力点を置き換えた方針は、支持できる。投入した予算も、当初案よりはかな
り現実的で、中間評価を巧みに取り込んでいる。
プロジェクトの課題の中には、店の間口を広げすぎたものがあることも多い
が、この課題は、プロジェクトの中に占める本来の役割を担保しつつ、予算配
分の適正化を通じて、できることを納得できる程度に実行することができた点
は評価できる。
○金属等 22 元素の化合物 52 物質について統計的 500 本以上のスペクトル取得
を完了し、データベースとして整備したことは、本プロジェクトで掲げた成果
を概ね達成したと評価される。
○表面から 2nm 以下の深さに対し、波長可変 XPS 装置を用い、組成の情報が
得られる深さを厳密に決定するとともに、深さの方向の組成分析が可能になる
ことを示している。
○投入した予算に対して、十分な成果が得られていると思う。
○取組みが非常に難しい課題に対して,特に IMFP の実験からの見積りは,従
1-34
来知見を置き換えるものであり,また自前のデータベース構築などの取り組み
は社会ニーズにもマッチしており,評価できる。
<問題点・改善すべき点>
●まずもって目標がどこにあるのかがはっきりしない。深さ可変光電子分光と
うたっているが、光エネルギーを変えた光電子分光はもう既に十数年来行われ
ており、これに新たに何を付け加えたいのかが読み取れない。表面から 2nm
以下で 0.2nm 以下の不確かさでの光電子分光という書き方から判断すると、
表面から 2nm までの範囲での 0.2nm より良い精度での光電子分光と読み直す
ことができる。
そうであれば試料の表面状態がスペクトルの形状を支配するので、スパッタリ
ングといえども同じ表面を作ることは困難であり、標準データーの提供は極め
て困難と言わざるを得ない。特に酸化物などではスパッタリングによって表面
付近の電子状態は内部のそれとは変ると思われる。それに加えてこの範囲では、
スパッタリングによらない清浄表面作成法を用いたとしても、物質にもよるが
表面 1,2 格子面と内部の電子状態が異なる場合も多くこれを分離すること無
しには議論は進まない。従って表面から 2nm 以内に in-situ で作られた超格
子などの試料を対象にした測定でなければ定量的な議論は困難である。
放射光を用いてエネルギーを変えた測定は唯一の手法であるが、それだけでは
新規性があるとは言えない。
●試行版のデータベースの利用を、もう少し多くの研究者に促したほうが良か
った。
●テーマ名であるが「表面構造」というよりは「表面組成」の方が適切ではな
いか?
10 名の研究者が関与している研究テーマとしてはアウトプットが非常に少な
い。最も成果が発表されるべき最後の 3 年間で論文発表が 0 というのは大問
題である。それぞれの開発技術に関してのサブテーマ内の横のつながりも全く
認められず,研究運営に問題があるのではないか。課題そのものが表面分析全
体に関係する重要なものであり,非常に難しい問題にあるにもかかわらず,研
究運営が個人研究の域を脱していない状況にあるとなかなか活路を見出せな
いであろう。
バックグラウンド解析の最適化が実現できるとどんなよいことがあるのか(定
量の精度がどの程度よくなるのか)
,といった達成後の姿が不明であり,標準
化への貢献を示せていないのは問題である。
データベース開発は,特に技術開発が必要であったという記述がなく,本事業
で推進する必要はなかったのではないか。また 15 元素 40 化合物 400 本のデ
1-35
ータというのは,7 年間での目標としては非常に低い目標値である。1 年間で
6 化合物であり,ひとつの化合物の測定に 2 ヶ月要すという常識的に考えられ
ない設定である。データベースそのものは早期に公開に供して,ユーザーの意
見を取り入れながら,順次改善しユーザーフレンドリーなものにしていくこと
が必要であろう。
IMFP の測定に関しては,どのような工夫があったのか(技術課題を解決した
のか)が不明である。発表時に紹介のあったブレークスルー(午前中の全体説
明の viewgraph51/59)と成果の因果関係が理解できない。方法論としての新
規性の欠如は特許が累計で 0 になって表れている。SR を使って,そのための
独自の分光器の開発などチャレンジ要素があったのではないか。また,バック
グラウンド補正に組み込むなどの相互作用があってしかるべきではないか。
特許などの出願が 0 であり,知的財産権を適切に確保できていないか,その
ようなものがなかったと判断する。
●他のテーマと比較して、成果物普及のための活動が少ないとの印象であった。
●何がどこまでわかればよいかという最初の目標設定がややあいまいであった
かと思われる。
“以下”という表現は“以深”の意味か“以内”の意味か誤解を生むのではな
かろうか。
<その他の意見>
・現状の世界の流れは、ここで報告されたような 1100eV までの光エネルギーの
測定からさらに 10 倍ほどエネルギーの高い測定へと向かっている。報告され
た範囲では本研究に新規性はなく、新たな市場等は期待できない。
・他のテーマと比較して、他のナノテクノロジープログラムとの連携に関する
説明が不足しているとの印象であった。
・バックグラウンド補正についての論文成果をみると単名での研究成果となっ
ている。10 名の専門家が所属するサブテーマ内でその結果について十分に吟
味されたものになっているのか懸念がある。サブテーマリーダーでさえ,その
結果に貢献していない。標準化ということについては,まずはテーマ内で十分
な検討がなされて初めて,他の研究機関の研究者に提案できるものと考える。
・知的基盤的な課題は特許出願はゼロでもよいわけだが、理由の説明は必要で
ある。
1-36
2)実用化の見通しに関する評価
ナノメータオーダーの膜厚の計測法は、半導体の分野で今後の利用が期待され
る。方法はあるレベルまで完成し、興味あるデータも得られ、ここまででもこの
方法の応用のニーズは強いと考えられる。しかし、不確かさはデータのばらつき
が主たる論拠で絶対的な不確かさは課題として残り、標準として供給するにはま
だ早いと思われる。
これらの成果が当該技術分野にどの程度受け入れられているかは,論文の引用
数や広くユーザーに使ってもらえるのかで判定されるが、今後国際的な取組みを
主導できるようにアウトプットの確度を向上させ,存在価値を高めていただきた
い。
<肯定的意見>
○データベースの試行版としての運営がすでになされており、実用化の見通し
は高い。
○ナノメータオーダーの膜厚の計測法は、半導体の分野で今後の利用が期待さ
れる。
○データベースおよびソフトウエアをインターネット上で公開し、利用の推進
に努めている。
○興味あるデータは得られている。方法はあるレベルまで完成し、ここまでで
もこの方法の応用のニーズは強いと考えられる。
<問題点・改善すべき点>
●ほかの課題と異なり、装置開発の要素がないことが当初からの問題であるほ
か、膜の深さ方向のスケールは確かにナノメートルであるが、だからといって
ナノ計測で重要視すべき課題かというと、現時点でも疑問が残る。この課題は
特に、課題の選定と、内容の検討が十分でないままスタートしてしまった感は
否めないが、にもかかわらず、中間評価以降は、予算をカットして、プロジェ
クトの力点を他の課題に移し、うまく事態を収拾したことは評価できる。
●他のテーマと比較して、標準試料等の成果物の供給が少ないとの印象であっ
た。
●今回の 3 つの課題への取組みにより定量精度にどの程度資するのかという目
標がないのがそもそも問題である。これらの成果が当該技術分野にどの程度受
け入れられているかは,論文の引用数や広くユーザーに使ってもらえるのかで
判定するしかない。ただ,データベースなどその本格公開への着手が遅れてい
るので,評価できない部分が多い。
知的財産関連のアウトプットが現時点ではない。国際的な取組みを主導でき
1-37
るようにアウトプットの確度を向上させ,存在価値を高めていただきたい。
●データも興味深いが、標準として供給するにはまだ早いかと思われる。不確
かさはデータのばらつきが主たる論拠で絶対的な不確かさは課題として残っ
ている。
●特許が未提出である。
<その他の意見>
・データベースの拡張をする道筋がつけられていると、さらに有用度が増すと
考えられる。
・いずれにせよ 1100eV までの光電子分光であれば極めて表面敏感な測定である
ので、スパッタリングによるとは言ってもスパッタ条件によって表面の状態に
はばらつきがあり世界標準としてのデータベースの構築は困難である。
・公開されたデータベースおよびソフトウエアの利用促進のための広報活動の
推進を希望する。
・計測された膜厚が、膜の物理的特性にどのように影響するかも検討が必要。
・事業原簿に記載されている実用化へのロジックを理解することができません
でした。
1-38
3)今後に対する提言
データベースの新奇性はわかりにくい。過去に使われなくなったデータベース
の例との違いを意識しつつ、継続的な充実・維持に留意されたい。データベース
として集積するなら、あらかじめデータベースをどのように利用してほしいかを
ユーザーと十分議論すべきである。さらに、利用促進のためには、利用者向けの
広報活動をさらに強化すべきである。
当該計測法は他機関でも検討が推進されている計測法であり、他機関との密な
連携が必要であった。まずはサブグループ内でのお互いの成果に関しての十分な
議論、結果に対してのロジックの確立、それを知的財産化する発想、それらを実
施していく研究運営体制を構築すべきであろう。
<今後に対する提言>
・約 10 倍の光エネルギー範囲までの計測を行い 10nm までの範囲で 0.2nm 程
度の分解能で深さ依存の電子状態解明を demonstrate することが望ましい。
すくなくとも表面効果の小さな内部の領域で 0.2nm の分解能の実現を確かめ
ることが出発点ではないかと思う。
・データベースを集積するなら、データベースをどのように利用してほしいか
をユーザーと十分議論してからにすべきであろう。
・公開されたデータベースおよびソフトウエアが産業界からの要請に応えて更
新され、他の機関の研究活動の一助となる様期待する。
・データベース構築は本事業で推進すべきものとは思わないが,その構築意義
は大きい。技術課題もほとんどないように思えるので,英語化も含めて,早期
の構築を期待する。
表面分析にとって重要な課題であり,多くの取組み結果がある中で困難な問題
を解決しようとするのであるから,サブテーマ全体で取り組めるような新たな
切り口で研究運営を行い,観測深さや定量性の向上へ資する研究をしていただ
きたい。
・データベースは、世間に認知され、普及しなければ、その効果を発揮できな
いので、利用促進を促す、利用者向けの広報をさらに強化すべきである。
・データベースの新奇性はわかりにくい。過去に使われなくなったデータベー
スの例との違いを意識しつつ、継続的な充実・維持に留意されたい。
・測定されたシリコン酸化膜の厚みと漏洩電流の関係など、検討する必要があ
ると考えられる。
<その他の意見>
・本エネルギー領域にとどまるのであれば超高真空中で作成した超格子試料な
1-39
どでの議論を行うことが望まれる。
・当該計測法は他機関でも検討が推進されている計測法であり、他機関との連
携を密にし、必要な成果物について議論すべきであったと考える。
・まずはサブグループ内でのお互いの成果に関しての十分な議論,結果に対し
てのロジックの確立,それを知的財産化する発想,それらを実施していく研究
運営体制を構築すべきであろう。
1-40
2.4 熱物性の計測基盤
1)成果に関する評価
世界トップレベルのピコ秒およびナノ秒サーモリフレクタンス法によるナノ
メータオーダーの薄膜の熱拡散率の計測法を開発し、あまり例のないナノ領域の
移動現象量の計測技術を生み出した意味からも評価できる。
加えて、フェムト秒サーモリフレクタンス法の開発にも取り組み、ナノメート
ルにおける熱エネルギー輸送機構の本質に迫ろうとする姿勢は、ナノテクノロジ
ーのプロジェクトのなかでも最先端分野に位置付けられる。この厚さの膜厚まで
高い測定精度で測定できる方法を達成したことは画期的といえる。国際的に最高
のレベルを達成した。技術的なブレイクスルーも特許化され,装置化もなされ,
研究マネージングもよい。国際特許出願している点も評価できる。
ナノ試料薄膜の非均質性については、今後の研究でさらなる検討を期待した
い。
<肯定的意見>
○本技術は、実施者が想定しているように、半導体素子、磁気デバイスなどの
特性を向上させる基礎データを得るために、極めて有用な技術となりうる。
○ピコ秒までの薄膜界面熱特性を裏面加熱・表面測温から測定するユニークな
手法を考案した点は評価できる。熱拡散率標準の確立は産業に役立つと思われ
る。
○ナノ領域の熱拡散率を実測する技術を開発でき、目標は達成した。この種の
ナノ領域の移動現象量の計測技術は、あまり例がなく、このティームは優れた
技術を生み出したと評価できる。
○世界トップレベルのピコ秒およびナノ秒サーモリフレクタンス法を整備し、
ナノスケールオーダ薄膜材料の計測基盤技術を確立した点は高く評価される。
加えて、フェムト秒サーモリフレクタンス法の開発にも取り組み、ナノメート
ルにおける熱エネルギー輸送機構の本質に迫ろうとする姿勢は、ナノテクノロ
ジープロジェクトなかでも最先端分野に位置付けられる。得られた成果は論文、
国際学会・シンポジウム発表、等で積極的な公開に努めており、当該分野の専
門家からもその活動は高く評価されている。ナノコーティングの熱物性および
熱光学特性の基盤技術についても、標準物質、解析手順を整備し、目標で掲げ
た成果を達成している。
○ナノメータオーダーの薄膜の熱拡散率の計測法を開発し、特許申請、論文発
表も十分に行われている。今後の本装置の活用が期待できる。
○目標は達成している。この厚さの膜厚まで高い測定精度で測定できる方法を
達成したことは画期的といえる。国際的に最高のレベルを達成した。熱拡散率
1-41
も熱膨張率も、最も基本的な熱物性としての重要性が高く、しかも産業応用に
強いニーズがある。
○熱物性に関しての計測技術としては世界トップレベルにあり,不確かさも小
さいことからその技術は高く評価できる。その精度向上に特化し,技術的なブ
レイクスルーも特許化され,装置化もなされ,研究マネージングもよい。国際
特許出願している点も評価できる。
<問題点・改善すべき点>
●指摘すべき問題点は無い。敢えて言えば、より広い範囲での他のナノテクノ
ロジープログラムへの寄与が期待されるテーマであるので、広い分野に向けた
本計測法の成果の発信を継続して欲しい。
●透明材料について計測する場合は、不透明材料ではさんだ多層膜にして測定
を行うとのことであったが、界面の影響等をどう取り除くかが、この技術をど
のような材料にでも使えるかどうかを左右すると思う。
●23 名の研究者が従事したことになっているが,成果(論文など)で明示され
ている方は極少数に限られている。これでは投入した人員に対してのアウトプ
ットパフォーマンスが非常に低いという印象である。論文に名前が出現しない
研究者の成果を記載していただきたい。
パルスレーザーを用いたサーモリフレクタンス法では論文発表がなされてい
るが,微小変位量検出用レーザー干渉計の開発では論文発表にいたっておらず,
早期に当該研究領域での評価を受けるべきである。
米国,フランスへの特許は出願はされているが,権利化されたのであろうか?
●ナノ試料薄膜の非均質性については、今後の研究でさらなる検討を期待した
い。
<その他の意見>
・熱拡散に関して一次元の物性評価となっている。熱拡散であるから等方的と
も思えるが薄膜になるほど異方性も出現すると考えられ,今後その技術の発展
も考慮したらよいと考える。
・フェムト秒サーモリフレクタンス法により得られる現象は、従来のマクロス
ケールの伝熱理論の延長線上に無い、ナノスケール固有の新たな解釈を必要と
する可能性を秘めており、ナノ熱物性計測という新たな学術分野の萌芽を期待
させるものである。
1-42
2)実用化の見通しに関する評価
サーモリフレクタンス法による装置の実用化は本プロジェクトの成果として
既に終了しており、ベンチャー企業も立ち上がっている。100~1000 nm の薄膜
熱拡散率標準を確立し、標準試料も供給されており、実用化の観点で高く評価で
きる。ナノ領域の熱拡散率を測定するための一般的な装置として、普及が進むこ
とを望む。
産業界から求められる計測対象材料は多種多様であるため、幅広いニーズに応
えるべく標準試料の整備を継続するよう期待する。
<肯定的意見>
○装置の実用化はすでに終了しており、100 – 1000 nm の薄膜熱拡散率標準を
確立している。
○サーモリフレクタンス法については標準試料が供給され、依頼試験、実用機
の開発に到っており、既に実用化段階まで進んでいると判断される。標準化委
員会を設置し、標準化への検討を進める等、産業界への貢献を進めようとして
いる点からも、様々な分野での活用が期待される。
○装置を実用化するときには、部品数を減らし、レーザー実験の専門家でなく
ともビーム・アラインメントなど面倒な技術を習得せずに、実験できることが
望まれる。ナノ領域の熱拡散率を測定するための一般的な装置として普及が進
むことを望む。
○パルスレーザーによるサーモリフレクタンス法についての成果は 2 種類の装
置化として具現化(ベンチャー企業の立上げ)されており,標準試料も提供さ
れ,実用化の観点で高く評価できる。特に国際特許化等の国際的な取組みがな
されている。装置の市場調査などできているとさらによかったが。
○実用化はすでに対応している。
サーモリフレクタンス法は、巨視的材料で原理の理解は確立しているので利
用者が理解しやすいことは実用上の大きなメリットである。
○実用化されて既に産業にも役立っていると理解される。広汎な産業への波及
効果も大いにあると思われる。
○基盤技術の確立のみではなく、実際の測定装置を市販化しているので、実用
化はすでに達成されているといえる。
<問題点・改善すべき点>
●産業界からの求められる計測対象材料は多種多様に上ることから、幅広いニ
ーズに応えるべく、標準試料の整備を継続する様期待する。
1-43
<その他の意見>
・国際的な標準測定法として早く承認されるよう関係者に対応を望みたい。
・産業総合技術総合研究所における資源が有効に運用されることで、高い成果
が得られたものと判断される。
1-44
3)今後に対する提言
産業界で使い易い標準的な装置を国際的に供給する強い努力を期待したい。
また、本プロジェクトの成果を国内外に積極的に情報発信し、日本がナノレベ
ルの熱物性計測基盤のリーダーシップを取れるよう活動することを期待する。
サーモリフレクタンス法については、既存のマクロスケール材料向けの計測法
と比較して、汎用性の観点から依然改善の余地があると考えられるので、更なる
技術開発の進展を期待する。また応用ニーズの広がりを考えた多数の専門技術者
の育成が必要である。
ナノメートル領域で起こる特異現象は、ナノ科学の中心課題であるから、本課
題のような輸送現象量の測定において、ナノ領域特有の物理現象が見えているな
ら、科学的発見として、慎重な取り扱いが必要である。
<今後に対する提言>
・産業界で使い易い標準的な装置の国際的な供給への強い努力を期待したい。
人材育成はこれからと思われるが、応用ニーズの広がりを考えると、多数の専
門技術者が必要であろう。
・100 nm 以下の薄膜の熱拡散率の計測と標準の作成。
・当該分野における基盤技術として、多くの分野で利用がなされていくものと
推察される。個々の分野の発展が、他の分野で活かされるよう、継続的な先端
研究がされることが望ましい。
・物理化学的な過渡現象を観察するポンプ・プローブ法では,別の観点から優
れた励起技術(例えば過渡格子法など)が開発されているし,現象もさらに短
い時間領域である。それらは,より高精度な測定や熱拡散異方性測定などにも
利用できると考えられ,本手法の更なる発展を期待します。
・サーモリフレクタンス法については、既存のマクロスケール材料向けの計測
法と比較すると、汎用性といった観点からは依然改善の余地が有ると考えるの
で、更なる技術開発の進展を期待する。
・ナノ秒サーモリフレクタンス測定に置いてはプローブレーザー波長を大幅に
変えることで、格子温度と電子温度を分離する手法の確立が出来れば興味深い。
・ナノメートル領域で起こる特異現象は、ナノサイズ効果と呼ばれ、ナノ科学
の中心課題である。本課題のような輸送現象量の測定において、ナノ領域特有
の物理現象が報告されたことはない。もし仮に、そのような現象が見えている
なら、プロジェクトを離れて、科学的発見として、報告に値すると思われるの
で、軽視されないよう慎重に取り扱ってほしい。もちろん、それが単なるアー
ティファクトでないこともしっかり検証して、輸送現象的なナノサイズ効果の
発見の機会があるなら、チャンスとしてしっかり捕まえてほしい。
1-45
天然に含まれる炭素の安定同位体C-13をほぼ完全に取り除いたダイアモ
ンドは非常に大きな熱伝導を示すという報告がある。これでも明らかなように、
原子スケールにおけるフォノンの散乱現象の異常は、学術的興味以外に、実用
的な意味でも重要であろう。
<その他の意見>
・理解しやすい原理のサーモリフレクタンス法をせっかく採用したので、巨視
的材料に利用されている装置などとの、試料スケール的あるいは不確かさ解析
などの連続性の検討も期待する。
・本プロジェクトでの成果を国内のみならず国外にも積極的に情報発信し、日
本がナノレベルの熱物性計測基盤のリーダーシップを取れる様、積極的に活動
展開することを期待する。
1-46
3.評点結果
3.1 プロジェクト全体
2.6
1.事業の位置付け・必要性
2.1
2.研究開発マネジメント
3.研究開発成果
2.6
4.実用化、事業化の見通し
2.3
0.0
1.0
評価項目
2.0
平均値
3.0
素点(注)
1.事業の位置付け・必要性について
2.6
A
A
A
A
A
B
C
2.研究開発マネジメントについて
2.1
A
A
A
B
B
C
C
3.研究開発成果について
2.6
A
A
B
A
A
A
C
4.実用化、事業化の見通しについて
2.3
A
B
A
A
B
B
C
(注)A=3,B=2,C=1,D=0 として事務局が数値に換算し、平均値を算出。
〈判定基準〉
(1)事業の位置付け・必要性について
・非常に重要
・重要
・概ね妥当
・妥当性がない、又は失われた
→A
→B
→C
→D
(2)研究開発マネジメントについて
・非常によい
・よい
・概ね適切
・適切とはいえない
(3)研究開発成果について
・非常によい
・よい
・概ね妥当
・妥当とはいえない
→A
→B
→C
→D
(4)実用化、事業化の見通しについて
→A
→B
→C
→D
・非常に明確
・明確
・概ね明確
・見通しが不明
1-47
→A
→B
→C
→D
第2章
評価対象プロジェクト
1.事業原簿
次ページ以降に当該事業の推進部室及び研究実施者から提出された事業原簿
を示す。
2-1
資料 5
「ナノ計測基盤技術」
事業原簿
【公開版】
担当部室
新エネルギー・産業技術総合開発機構
ナノテクノロジー・材料技術開発部
―目次―
概要
プログラム・プロジェクト基本計画
プロジェクト用語集
Ⅰ.事業の位置付け・必要性について
Ⅰ-1. NEDOの関与の必要性・制度への適合性 ................................ Ⅰ-(1) ~(3)
Ⅰ-1.1 NEDOが関与することの意義 ....................................... Ⅰ-(1)
Ⅰ-1.2 実施の効果......................................................... Ⅰ-(1)
Ⅰ-2. 事業の背景・目的・位置づけ .................................................. Ⅰ-(1)
Ⅱ.研究開発マネジメントについて
Ⅱ-1. 事業の目標.................................................................. Ⅱ-(1)
Ⅱ-2. 事業の計画内容.............................................................. Ⅱ-(2)
Ⅱ-2.1 研究開発の内容..................................................... Ⅱ-(2)
研究開発の実施期間
------ Ⅲ-1-(2)
研究開発予算
------ Ⅲ-1-(2)
研究全体の計画内容
------ Ⅲ-1-(4)
研究開発項目毎の詳細計画内容(1) ------ Ⅲ-1-(5)
研究開発項目毎の詳細計画内容(2) ------ Ⅲ-1-(8)
研究開発項目毎の詳細計画内容(3) ------ Ⅲ-1-(10)
研究開発項目毎の詳細計画内容(4) ------ Ⅲ-1-(13)
Ⅱ-2.2 研究開発の実施体制................................................ Ⅱ-(17)
Ⅱ-2.3 研究の運営管理.................................................... Ⅱ-(22)
Ⅱ-3. 情勢変化への対応........................................................... Ⅱ-(26)
体制
------ Ⅲ-1-(26)
加速財源
------ Ⅲ-1-(27)
プロジェクト内の標準化委員会設置
------ Ⅲ-1-(26)
材料特性の計量標準整備と標準化に向けての国際的取り組み ------ Ⅲ-1-(32)
Ⅱ-4. 中間評価結果への対応....................................................... Ⅱ-(34)
Ⅱ-5. 評価に関する事項........................................................... Ⅱ-(40)
Ⅲ.研究開発成果について
Ⅲ-1. 事業全体の成果 ...................................................... Ⅲ-1-(1)~(6)
目標の達成度
------ Ⅲ-1-(1)
成果の意義
------ Ⅲ-1-(3)
特許・発表等
------ Ⅲ-1-(6)
目次-(1)
Ⅲ.研究開発成果について(続き)
Ⅲ-2. 研究開発項目毎の成果
Ⅲ-2.1 微小要素物理特性の計測基盤
Ⅲ-2.1.1 粒子質量校正技術と粒子質量標準物質の開発 ..................... Ⅲ-2-1-(1)
研究開発の概要
------ Ⅲ-2-1-(1)
中間目標
------ Ⅲ-2-1-(1)
最終目標
------ Ⅲ-2-1-(1)
本研究開発の構成
------ Ⅲ-2-1-(2)
これまでの成果
------ Ⅲ-2-1-(3)
H16 年度までの研究成果のまとめ ------ Ⅲ-2-1-(3)
H17-H19 の研究成果
------ Ⅲ-2-1-(4)
粒子質量分析技術の高度化
------ Ⅲ-2-1-(4)
絶対測定用粒子質量分析装置の開発
------ Ⅲ-2-1-(4)
走査モード運転による APM 測定の高度化
------ Ⅲ-2-1-(9)
伝達関数の厳密解と APM スペクトル解析への応用 ------ Ⅲ-2-1-(17)
微小粒子用高速回転型装置の開発
------ Ⅲ-2-1-(18)
電気移動度分析法による高精度粒径計測技術の開発 ------ Ⅲ-2-1-(21)
粒子質量標準物質の開発
------ Ⅲ-2-1-(28)
粒子のブラウン拡散の効果
------ Ⅲ-2-1-(28)
不確かさの偶然的成分の評価
------ Ⅲ-2-1-(30)
粒子密度測定技術への応用
------ Ⅲ-2-1-(34)
目標の達成状況
------ Ⅲ-2-1-(37)
参考文献
------ Ⅲ-2-1-(38)
Appedix エアロゾル粒子質量分析装置による準単分子粒子の質量校正技術基準(試案) Ⅲ-2-1-(38)
Ⅲ-2.1.2 微小要素校正サイズ構成技術とサイズ標準物質の開発 ............ Ⅲ-2-1-(46)
研究開発の概要
------ Ⅲ-2-1-(46)
中間目標
------ Ⅲ-2-1-(46)
最終目標
------ Ⅲ-2-1-(46)
プロジェクト全体を通じた成果
------ Ⅲ-2-1-(46)
基本戦略
------ Ⅲ-2-1-(46)
動的光散乱(DLS)技術基準の確立
------ Ⅲ-2-1-(48)
パルス磁場勾配核磁気共鳴(PFG-NMR)技術基準の確立
------ Ⅲ-2-1-(50)
液中サイズ計測での技術基準確立(30-100nm)
------ Ⅲ-2-1-(55)
液中サイズ計測での技術基準確立(1-30nm)
------ Ⅲ-2-1-(57)
微小要素サイズ分離技術の開発
------ Ⅲ-2-1-(58)
高分子分子量分布計測技術と標準物質開発技術の開発
------ Ⅲ-2-1-(62)
SEC-LS の高精度化と標準物質作成技術の開発
------ Ⅲ-2-1-(65)
目標の達成状況
------ Ⅲ-2-1-(66)
参考文献
------ Ⅲ-2-1-(67)
Ⅲ-2.1.3 粒子数濃度校正技術と濃度標準物質の開発 ...................... Ⅲ-2-1-(68)
研究開発の概要
------ Ⅲ-2-1-(68)
中間目標
------ Ⅲ-2-1-(69)
最終目標
------ Ⅲ-2-1-(69)
本研究開発の構成
------ Ⅲ-2-1-(70)
これまでの成果
------ Ⅲ-2-1-(71)
液中粒子数計測のための気泡識別技術と計数法の開発
------ Ⅲ-2-1-(71)
蛍光検出型光散乱式液中粒子計数装置の開発
------ Ⅲ-2-1-(71)
目次-(2)
気泡識別粒子計数技術の開発
------ Ⅲ-2-1-(74)
バックグラウンドの削減技術の開発
------ Ⅲ-2-1-(75)
液中粒子数濃度校正評価技術の開発
------ Ⅲ-2-1-(75)
全量計数のための装置開発
------ Ⅲ-2-1-(76)
試料溶液サンプリングによる不確かさ評価
------ Ⅲ-2-1-(77)
蛍光検出型光散乱式液中粒子計数装置の計数効率評価------ Ⅲ-2-1-(79)
計数領域の設定範囲の変動による計数値の変動量評価------ Ⅲ-2-1-(81)
まとめ
------ Ⅲ-2-1-(81)
気泡識別式液中粒子計数技術開発
------ Ⅲ-2-1-(81)
粒子数濃度標準の確立
------ Ⅲ-2-1-(82)
目標の達成状況
------ Ⅲ-2-1-(82)
Appedix 液中粒子数濃度計数手順書(試案) ------ Ⅲ-2-1-(83)
Appedix 標準供給を開始した液中粒子数濃度標準の不確かさ評価 ------ Ⅲ-2-1-(88)
Appedix 液中粒子数濃度標準の不確かさバジェットシート
------ Ⅲ-2-1-(89)
目次-(3)
Ⅲ.研究開発成果について(続き)
Ⅲ-2.2 空孔の計測基盤
研究開発の概要
------ Ⅲ-2-2-(1)
中間目標
------ Ⅲ-2-2-(1)
最終目標
------ Ⅲ-2-2-(1)
本研究開発の構成
------ Ⅲ-2-2-(1)
これまでの成果
------ Ⅲ-2-2-(1)
普及型陽電子消滅測定技術の開発 ------ Ⅲ-2-2-(1)
普及型装置の改良、最適化
------ Ⅲ-2-2-(1)
空孔測定用標準試料による装置校正、信頼性評価 ------ Ⅲ-2-2-(6)
小型装置開発
------ Ⅲ-2-2-(7)
空孔測定用標準試料の開発
------ Ⅲ-2-2-(9)
サブナノ多孔質薄膜の作製技術開発
------ Ⅲ-2-2-(10)
PECVD/PP 装置
------ Ⅲ-2-2-(10)
低速陽電子寿命測定
------ Ⅲ-2-2-(12)
ポロジェン 法による プラズマ 化学気相堆積層/プラズマ 重合膜への サブナノ 空孔形成 -- Ⅲ-2-2-(13)
TEOS 系プラズマ化学気相堆積膜
------ Ⅲ-2-2-(14)
HMDSO 系プラズマ重合膜
------ Ⅲ-2-2-(15)
その他のモノマーから作製したプラズマ重合膜 ------ Ⅲ-2-2-(17)
サブナノ空孔測定用標準候補材料の作製と特性値評価 ------ Ⅲ-2-2-(17)
候補材料の選定
------ Ⅲ-2-2-(17)
候補材料の作製
------ Ⅲ-2-2-(18)
均一性評価
------ Ⅲ-2-2-(20)
経時安定性評価
------ Ⅲ-2-2-(21)
標準試料の特性値と不確かさ
------ Ⅲ-2-2-(22)
陽電子消滅測定の標準化
------ Ⅲ-2-2-(23)
エネルギー可変陽電子ビームを用いた陽電子消滅測定の標準化 ------ Ⅲ-2-2-(23)
普及型装置による陽電子寿命測定の技術基準
------ Ⅲ-2-2-(23)
陽電子3光子消滅型測定の技術基準
------ Ⅲ-2-2-(33)
バルク陽電子寿命測定の標準化
------ Ⅲ-2-2-(39)
陽電子寿命測定比較委員会
------ Ⅲ-2-2-(39)
試験所間比較試験の結果概要
------ Ⅲ-2-2-(39)
バルク陽電子寿命測定の標準仕様書(TS)素案
------ Ⅲ-2-2-(45)
陽電子寿命測定と気体吸着、X線散乱測定の比較 ------ Ⅲ-2-2-(55)
精密高分子技術プロジェクトとの連携
------ Ⅲ-2-2-(59)
実験法
------ Ⅲ-2-2-(60)
実験結果
------ Ⅲ-2-2-(60)
目標の達成度
------ Ⅲ-2-2-(64)
参考文献
------ Ⅲ-2-2-(65)
目次-(4)
Ⅲ.研究開発成果について(続き)
Ⅲ-2.3 表面構造の計測基盤
概要 (1) ............................................................. Ⅲ-2-3-(1)
2.3.1 表面分析法の精密化校正技術 .................................. Ⅲ-2-3-(3)
研究開発の概要
------ Ⅲ-2-3-(3)
中間目標
------ Ⅲ-2-3-(3)
最終目標
------ Ⅲ-2-3-(3)
本研究開発の構成
------ Ⅲ-2-3-(4)
これまでの成果
------ Ⅲ-2-3-(4)
薄膜試料の作製および膜厚評価
------ Ⅲ-2-3-(4)
光電子有効減衰長の高精度化
------ Ⅲ-2-3-(11)
有効減衰長データベースの開発
------ Ⅲ-2-3-(31)
深さ方向分析用標準薄膜試料の開発
------ Ⅲ-2-3-(31)
調査報告
------ Ⅲ-2-3-(32)
放射光を利用した励起エネルギー可変X線光電子分光法標準化のための検討委員会 -- Ⅲ-2-3-(34)
まとめ
------ Ⅲ-2-3-(35)
参考文献
------ Ⅲ-2-3-(36)
2.3.2 表面分析法標準スペクトルデータの確立 ....................... Ⅲ-2-3-(37)
2.3.2.1 表面分析法標準スペクトルデータの確立 ................. Ⅲ-2-3-(37)
概要
------ Ⅲ-2-3-(37)
中間目標
------ Ⅲ-2-3-(38)
最終目標
------ Ⅲ-2-3-(38)
本研究開発の構成
------ Ⅲ-2-3-(38)
これまでの成果
------ Ⅲ-2-3-(38)
H16 年度までの成果
------ Ⅲ-2-3-(38)
H17-19 年度の成果
------ Ⅲ-2-3-(43)
概要
------ Ⅲ-2-3-(43)
標準スペクトルデータの取得とデータベース化 ------ Ⅲ-2-3-(43)
電子分光法の標準化のための諸検討
------ Ⅲ-2-3-(48)
WEBサーバ上でのスペクトルデータベース閲覧環境の提供------ Ⅲ-2-3-(52)
成果のまとめ
------ Ⅲ-2-3-(54)
2.3.2.2 バックグラウンド解析法の開発 ......................... Ⅲ-2-3-(55)
概要
------ Ⅲ-2-3-(55)
開発経緯と現在の機能
------ Ⅲ-2-3-(55)
問題の難易度
------ Ⅲ-2-3-(57)
アルゴリズム
------ Ⅲ-2-3-(58)
アルゴリズムの拡張
------ Ⅲ-2-3-(61)
プログラムと使用法
------ Ⅲ-2-3-(63)
結果
------ Ⅲ-2-3-(66)
調査出張
------ Ⅲ-2-3-(71)
目標の達成状況と今後の課題 ------ Ⅲ-2-3-(72)
達成状況と今後の課題
------ Ⅲ-2-3-(73)
目次-(5)
Ⅲ.研究開発成果について(続き)
Ⅲ-2.4 熱物性の計測基盤
2.4.1 薄膜・界面熱物性の高精度校正技術の開発(1) ....................... Ⅲ-2-4-(2)
はじめに
------ Ⅲ-2-4-(2)
中間目標
------ Ⅲ-2-4-(2)
最終目標
------ Ⅲ-2-4-(2)
薄膜・界面熱物性の高精度校正技術の開発(1)における成果
------ Ⅲ-2-4-(3)
ナノ秒サーモリフレクタンス法における成果
------ Ⅲ-2-4-(20)
加速資金によるテーマ:フェムト秒サーモリフレクタンス法の開発 ------ Ⅲ-2-4- (34)
目標の達成度
------ Ⅲ-2-4-(43)
2.4.2 薄膜・界面熱物性の高精度校正技術の開発(2) ...................... Ⅲ-2-4-(45)
はじめに
------ Ⅲ-2-4-(45)
中間目標
------ Ⅲ-2-4-(46
最終目標
------ Ⅲ-2-4-(46)
薄膜・界面熱物性の高精度校正技術の開発(2)における成果
------ Ⅲ-2-4-(46)
レーザフラッシュ法によるコーティングの熱拡散率測定方法の開発------ Ⅲ-2-4-(46)
DSC 法によるコーティングの比熱容量測定
------ Ⅲ-2-4-(58)
熱伝導率の算出
------ Ⅲ-2-4-(63)
実用測定装置の開発 ------ Ⅲ-2-4-(63)
目標の達成度
------ Ⅲ-2-4-(65)
成果の意義
------ Ⅲ-2-4-(66)
2.4.3 熱物性標準物質の開発 ........................................... Ⅲ-2-4-(67)
研究開発の概要
------ Ⅲ-2-4-(67)
中間目標
------ Ⅲ-2-4-(67)
最終目標
------ Ⅲ-2-4-(68)
熱物性標準物質の開発における成果
------ Ⅲ-2-4-(68)
標準物質の開発
------ Ⅲ-2-4-(68)
標準物質の特性評価
------ Ⅲ-2-4-(72)
目標の達成状況
------ Ⅲ-2-4-(87)
成果の意義
------ Ⅲ-2-4-(87)
2.4.4 周期加熱サーモリフレクタンス法の標準化 ......................... Ⅲ-2-4-(89)
はじめに (89)
周期加熱サーモリフレクタンス法における測定法の評価-表面粗さとの相関 (89)
周期加熱サーモリフレクタンス法の標準化 (92)
2.4.5 熱光学物理特性の高精度校正技術の開発 ........................... Ⅲ-2-4-(94)
はじめに
------ Ⅲ-2-4-(94)
中間目標
------ Ⅲ-2-4-(95)
最終目標
------ Ⅲ-2-4-(95)
本サブテーマにおける開発------ Ⅲ-2-4-(95)
熱・光学特性精密測定システムの開発 ------ Ⅲ-2-4-(95)
微小変位検出用レーザ干渉計の開発
------ Ⅲ-2-4-(96)
単結晶シリコンの熱膨張率測定による測定妥当性の検証 ------ Ⅲ-2-4-(99)
光路長(nL 積)測定における迷光の影響低減化 ------ Ⅲ-2-4-(101)
光学ガラスの熱膨張率および nL 積の標準データの取得と評価------ Ⅲ-2-4-(105)
目標の達成状況
------ Ⅲ-2-4- (111)
成果の意義
------ Ⅲ-2-4- (111)
目次-(6)
Ⅳ.実用化の見通しについて
Ⅳ-1. 微小要素物理特性の計測基盤 .............................................. Ⅳ-(1)
1.1 成果の実用化.......................................................... Ⅳ-(1)
エアロゾル粒子質量分析器の商品化
30 nm から 100 nm の粒径標準の供給
1 - 1000 fg の粒子質量標準物質の開発
液中分散粒子に対する粒径測定サービス
粒径分布標準物質の開発
分子量分布標準物質
SEC-LS の ISO 規格
液中粒子数濃度標準供給
液中粒子数濃度測定校正技術の標準化
液中粒子数濃度計数技術の高度化
液中粒子数濃度測定技術の実用化
--------------------------------------------------------
Ⅳ-(1)
Ⅳ-(1)
Ⅳ-(2)
Ⅳ-(2)
Ⅳ-(2)
Ⅳ-(2)
Ⅳ-(2)
Ⅳ-(3)
Ⅳ-(4)
Ⅳ-(4)
Ⅳ-(4)
1.2 関連分野への波及効果 .................................................. Ⅳ-(4)
エアロゾル粒子質量分析器の利用
------ Ⅳ-(4)
標準粒子メーカにおける 30 nm 粒径標準粒子の販売 ------ Ⅳ-(5)
粒径分布標準
------ Ⅳ-(5)
ナノリスクプロジェクト
------ Ⅳ-(5)
分子量分布標準物質
------ Ⅳ-(5)
SEC-LS 共同測定
------ Ⅳ-(5)
標準粒子メーカによる液中粒子数濃度標準の販売の品質向上 ------ Ⅳ-(5)
気泡識別液中粒子計数技術
------ Ⅳ-(5)
分光分析型液中粒子計数の校正技術
------ Ⅳ-(6)
Ⅳ-2. 空孔の計測基盤.......................................................... Ⅳ-(7)
2.1 普及型・小型化陽電子寿命測定装置 ...................................... Ⅳ-(7)
2.2 陽電子寿命測定用標準物質 .............................................. Ⅳ-(7)
2.3 陽電子寿命測定方法の工業標準化の見通し ............................... Ⅳ-(10)
2.4 高感度気体吸着法と偏光解析装置 ....................................... Ⅳ-(10)
2.5 精密高分子技術プロジェクトへの貢献 ................................... Ⅳ-(10)
Ⅳ-3. 表面構造の計測基盤 ..................................................... Ⅳ-(11)
Ⅳ-4. 熱物性の計測基盤....................................................... Ⅳ-(14)
4-a 薄膜・界面熱物性の高精度校正技術の開発 ............................... Ⅳ-(14)
薄膜・界面熱物性計測技術の開発 ....................................... Ⅳ-(14)
薄膜熱物性に関する実用測定装置の開発 ............................. Ⅳ-(14)
実用器 1
薄膜熱物性測定装置 株式会社ベテル .......................... Ⅳ-(14)
実用器 2
薄膜熱物性測定装置 NanoTR ................................. Ⅳ-(16)
薄膜熱拡散標準物質 ............................................... Ⅳ-(17)
薄膜・界面熱物性計測技術の標準化 ................................. Ⅳ-(17)
コーティングの熱物性値測定技術の開発 ................................. Ⅳ-(18)
目次-(7)
成果の実用化 ..................................................... Ⅳ-(18)
関連分野への波及効果 ............................................. Ⅳ-(18)
4-b 熱物性標準物質の開発(JFCC) ........................................... Ⅳ-(18)
成果の実用化......................................................... Ⅳ-(18)
関連分野への波及効果 ................................................. Ⅳ-(19)
4-c 熱光学特性の高精度校正技術の開発 ..................................... Ⅳ-(19)
解説・技術文書....................................................... Ⅳ-(19)
波及効果............................................................. Ⅳ-(19)
4-d 周期過熱サーモリフレクタンス法の標準化 ............................... Ⅳ-(20)
(別紙) ナノ計測基盤技術成果リスト(2008/07/04)
目次-(8)
概 要
作成日
平成20年5月30日
ナノテクノロジープログラム
制度・施策(プログラム)名
ナノ計測基盤技術
事業(プロジェクト)名
プロジェクト番号
P01023
ナノテクノロジー・材料技術開発部 / 岩下徹幸
担当推進部/担当者
ナノテクノロジーに必要となる共通的計測技術を開発するとともに、信頼性確保の為
のナノ材料用新標準物質を国家標準に基づいて整備することにより、超微細物質構
造の創成技術開発を促進する。
【NEDO が関与することの意義】
知的基盤の公的に明確な一貫性、共通基盤性を確保するために、開発される校
正技術は上位の国家計量標準にトレーサブルな計量標準に基づくものであること、
また標準物質の供給技術整備に関しては、その供給体制の整備・維持を目的とする
ことから、実施に当たっては、関係の公的機関による整備方針又は、計量法の方針
に沿い、実施主体は関係の公的機関との密接な協力に基づくか又は公的機関その
ものによるものでなければならない。以上の理由により、民間投資に任せるのでは
なく、NEDO による国家的、集中的な実施が必要である。
【事業の背景・目的・位置付け】
本プロジェクトでは、ナノテクノロジープログラムで実施されるプロジェクトに共通な
超微細・高精度な計測基盤技術を構築するとともに、新たな標準物質を開発するこ
Ⅰ . 事 業 の 位 置付 け ・ とを目的とする。これにより、材料ナノテクノロジープログラムで実施されるプロジェク
トの計測基盤技術を提供して材料開発の知識体系の信頼性向上に寄与するととも
必要性について
に、産業界でのナノ材料開発を支える知的基盤整備の推進に資する。これにより、
情報通信、建築、運輸、環境等の広範な分野に利用される基盤技術の形成に資す
る。科学技術基本計画(2001年3月閣議決定)における国家的・社会的課題に対
応した研究開発の重点化分野であるナノテクノロジー・材料分野、分野別推進戦略
に(2001年9月総合科学技術会議)における重点分野であるナノテクノロジー・材
料分野に位置づけられるものである。また、産業技術戦略(2000年4月工業技術
院)における革新的、基盤的技術(材料・プロセス技術及び融合的・横断的・統合的・
新技術)の涵養、知的な基盤の整備への対応を図るものである。さらに、「産業発掘
戦略-技術革新」(「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2002」(2002年
6月閣議決定)に基づき2002年12月取りまとめ)のナノテクノロジー・材料分野に
おける戦略目標(10年後に、世界市場を主導できる我が国初の企業をナノテクノロ
ジー・材料分野の‘5つの産業’で創出する。)に対応するものである。
0.事業の概要
Ⅱ.研究開発マネジメントについて
事業の目標
平成19年度までに、ナノ粒子・ナノ空孔の力学・構造特性、ナノ表面の組成、ナノ界
面・膜等の熱物性の超高精度計測技術を開発するとともに、これらに関する8種類
以上の新たな標準物質を開発する。
主な実施事項
H13fy
H14fy
H15fy
H16fy
H17fy
H18fy
H19fy
H13fy
H14fy
H15fy
H16fy
H17fy
H18fy
H19fy
159
146**
219**
300**
169**
微小要素物理特性の計
測基盤
事業の計画内容
空孔の計測基盤
表面構造の計測基盤
熱物性の計測基盤
開発予算
(会計・勘定別に実績
額を記載)
(単位:百万円)
会計・勘定
一般会計
特別会計
(電多・高度化・石油)
210
228
概要-(1)
総額
993
438
総予算額
210
228
159 146**
*) 採択時の要求額
(211*) (211*) (210*) (210*)
**) 限度額変更後契約額
経産省担当原課 産業技術環境局 知的基盤課
開発体制
情勢変化への対応
運営機関
プロジェクトリーダー
サブリーダー
219**
(214*)
300**
(209*)
169**
(129*)
743
(1,394*)
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
独立行政法人産業技術総合研究所 計測標準研究部門 部門長 田中 充
独立行政法人産業技術総合研究所 計測標準研究部門 上席研究員 馬場哲也
委託先
独立行政法人産業技術総合研究所、(財)ファインセラミックスセンター
平成15年度、特別会計から一般会計への移行に伴い、当初予定の予算額の確保が困
難となったため、中間目標達成時期の見直しを行ったが、その後の進捗が良好であった
ため、予定通り目標を達成した。
平成16年度3月、NEDO技術開発機構の独立行政法人化に伴い、名称および根拠法
等を改訂した。
平成16年度に、外部委員による中間評価を実施した結果、高い評価を得て、さらなる加
速をともないプロジェクトを継続することが決まった。
平成16年度に、研究開発項目「(4)熱物性の計測基盤」について、加速資金を投入
した。
平成17年度に、研究開発項目「(1)微小要素物理特性の計測基盤」について、加
速資金を投入した。
平成18年度に、研究開発項目「(4)熱物性の計測基盤」について、加速資金を投入し
た。またナノテクロノジー標準化に関する社会的要請に対応するために、標準化検討の
ための外部有識者委員会を発足させた。
【事業全体の成果】
本研究プロジェクトは平成13年度に開始され、4つのサブテーマにより構成されている。研究
は、各サブテーマとも順調に進展しており、平成16年度末に中間目標を達成し、平成19年末には
最終目標を達成した。
【サブテーマ毎の成果】
Ⅲ.研究開発成果につ
いて
(1)微小要素物理特性の計測基盤
(1-a)粒子質量校正技術と粒子質量標準物質の開発
H16 年度までに、気体中に浮遊する 1 - 1000 fg の範囲の粒子の質量分布を測定する実用的な
技術を開発した。H17 から H19 年度ではこの技術に基づく2つの測定装置を開発した。一つは粒
子 質 量の 絶対測 定 が可能なも ので、これを用い て 100 nm から 500 nm ま での3 種類の
Polystyrene latex(PSL)粒子に対して、相対拡張不確かさ(包含係数 2) が 3.3% 以下で個数平均
質量の値づけを行った。また、値づけを行うための手順を校正技術基準として整理した。もう一つ
の装置は電極が 9800 RPM までの高速で回転可能なもので、これにより 0.01 fg までの微小粒子
の質量分析が可能であることを実証した。開発した測定器を用いた粒径/粒子質量同時測定系を
構成し、これにより粒子密度の測定が可能であることを実証した。これらと同時に、30 - 100 nm の
粒径域で PSL 粒子をバックグラウンド粒子の発生なしに気中発生させる技術、及び電気移動度分
析によりその粒径分布パラメータを正確に測定する技術を開発した。開発した技術に基づき粒径
の校正サービスを H17 年度から開始した。また粒径値づけの手順を粒径校正技術基準として整
理した。
(1-b)微小要素サイズ校正技術とサイズ標準物質の開発
液中に分散する 30-100 nm のサイズを有するナノ粒子(ポリスチレンラテックス単分散試料:
PSL)に対して動的光散乱(DLS)による粒径計測技術を確立した。1-30 nm のサイズ領域でのナノ
粒子(PSL とデンドリマー)に対しては DLS とパルス磁場勾配核磁気共鳴とを組み合わせた粒径
計測技術をほぼ確立した。将来の粒径校正サービスと標準物質供給のために、技術基準の文書
化と 1-30 nm での高精度化を課題としている。一方、高分子の分子量分布計測技術については
光散乱検出器つきサイズ排除クロマトグラフィー(SEC-LS)を中心とする技術基準を完成し、多分
散高分子標準物質を開発、供給することができた。また、SEC-LS の ISO 規格案を 2007 年に新規
提案として認めてもらうことができた。
概要-(2)
(1-c)粒子数濃度校正技術と濃度標準物質の開発
気泡識別計数法開発として、2 μm 以下の粒径域におけるバックグランド計数を低減した清浄
水中微小粒子計数装置を作成し、微弱蛍光を用いた気泡識別粒子計数特性を評価した。また、粒
子数濃度標準確立として、気泡識別を行う粒子数濃度計測技術の 2-10 μm 粒径域での不確か
さ評価を行った。市販粒子への値付けや市販計数器の校正に粒子数濃度標準液を使用するため
の技術基準を設定するため、500 nm までの粒径域の気泡抑制技術の開発を行い、粒子数濃度計
測技術の不確かさ評価を行った。サンプリングした試料溶液中の粒子を全数計数可能な手法を開
発し、これを用いて液中粒子数濃度の国家標準を確立し、標準供給を依頼試験の形で開始した。
顕微鏡法との比較による計数効率評価のために、フィルター法によるものに加え、高濃度試料を
用いた間接比較を行った。
Ⅲ.研究開発成果につ
いて
(2)空孔の計測基盤
次世代半導体用の低誘電率絶縁膜などの開発において、薄膜中の微細空孔の大きさを測定す
る技術のニーズが高まっていることから、産業界で広く利用できる信頼性の高い微細空孔計測技
術を提供するため、普及型の陽電子消滅測定技術、標準試料・標準物質を開発するとともに、陽
電子寿命測定の標準文書を作成した。プロジェクト5年目、6年目、7年目の平成17年度、平成1
8年度、平成19年度には、普及型陽電子寿命測定装置の性能評価を行い、目標を上回る時間分
解能 170 ps が得られることを確認した。装置の全長が約 1.5 m の小型化陽電子寿命測定装置を
構築し、薄膜試料の空孔測定に十分な性能を有することを明らかにした。また、プラズマ重合法に
より安定性に優れた多孔質ポリシロキサン薄膜を作製する技術を開発し、この技術を用いて陽電
子寿命測定用のサブナノ空孔標準試料(付与された陽電子寿命の特性値 = 7.4 ns±0.2 ns)を開
発し、供給技術を整備した。さらに、陽電子消滅法を空孔測定法として普及させるための標準化に
取り組み、バルク試料の陽電子寿命測定のための認証標準物質および標準仕様書、薄膜試料測
定のための技術基準を作成した。
(3)表面構造の計測基盤
表面深さ方向分析法の精密化においては、放射光を用いて SiO2 薄膜試料の光電子分光スペ
クトルから 100eV から 900eV のエネルギー範囲で SI トレーサブルな方法で膜厚を決定された
SiO2 薄膜 (NMIJ CRM 5207-a 極薄シリコン酸化膜)の有効減衰長(EAL)を求めた。その有効減衰
長の値を用いて、より薄い SiO2 薄膜の膜厚を不確かさ 0.2 nm 以下で値付けすることができた。
表面分析法標準スペクトルデータの確立としては、データベースを構築するのに必要な、清浄表
面のスペクトルデータを取得するため、高精度スペクトルの取得技術を開発した。具体的には試料
帯電の除去方法について検討を行うとともに従来から用いられている、イオンスパッタリング法の
スペクトル形状への影響について定量的に検討し、帯電補償法およびスパッタリング条件の適正
化についてノウハウを得た。また装置のエネルギー軸校正及び透過関数評価の手法についての
検討成果を「標準化のための技術指針」として取りまとめた。開発したデータベースをインターネッ
ト経由でユーザーがWEBブラウザを使用して閲覧表示するためのインタラクティブな表示ソフトウ
エアの開発を行い、サーバーに実装して運用を開始した。実スペクトル解析では、X 線光電子分光
(XPS)、オージェ電子分光(AES)に共通な非弾性バックグラウンド解析法を開発した。これにより、
物質の種類、ピークの種類など、その系に固有の情報がわからなくても解析ができるようになっ
た。これから、ピーク強度比、散乱機構の詳細が求まる。この目的のために開発したウィンドウズ
で動作するプログラムをネット上で公開した。
概要-(3)
Ⅲ.研究開発成果につ
いて
(4)熱物性の計測基盤
ピコ秒およびナノ秒サーモリフレクタンス法(以下ピコ秒法、ナノ秒法)を用いた薄膜熱物性標準
を整備し、ピコ秒法については 2005 年度末から、ナノ秒法については 2007 年度末から依頼試験
を開始した。
室温における熱拡散時間を校正するサービスであり、最大校正能力(2σ)においてそれぞれ
4.2 %及び 3.6 %を達成した。校正可能な熱拡散時間の範囲は、ピコ秒法において 100 ps から 6.5
ns、ナノ秒法において 40 ns から 1000 ns である。本技術により、厚さ 100 nm から 1 μmまでの
幅広い膜厚に対応した薄膜熱物性の標準供給体制が確立した。さらに、ナノ秒法の校正範囲を
10 ns までに拡張するためにモードロックファイバレーザの導入を行った。
また、本課題の波及効果として開発されたナノ秒実用器を校正するために TiN 薄膜にナノ秒法
で熱拡散率を値付けした標準薄膜を開発した。本標準薄膜については GUIDE34 に準拠した品質
システムを整備し、2008 年度中に頒布する予定である。
ナノスケールにおける熱エネルギー輸送機構の本質的理解を目的として加速整備されたフェム
ト秒サーモリフレクタンス法では、面内分解能 500 nm、膜厚 40 nm の熱拡散率測定を実現する計
測システムを開発し、さらに 10 K まで低温測定を可能とする機能の追加を行った。
基材と一体化したコーティングの熱物性値を決定するために、レーザフラッシュ法による熱拡散率
測定と示差走査熱量法(DSC)による比熱容量測定を組み合わせてコーティングの熱伝導率を決
定するための基盤技術を整備した。レーザフラッシュ法では、多層モデルによる解析の手順を確立
し、ファインセラミックスセンターが開発したコーティング標準物質であるジルコニア緻密体/多孔
体の各単層、2 層試料の測定データを用いて、室温から 800 ℃の温度範囲で、標準不確かさ(1
σ)10 %以下で 2 層試料のコーティングの熱拡散率を算出した。また、黒化処理について、従来の
カーボンスプレー塗布が及ぼす影響の定量的な検討や、新しい黒化処理方法の開発を行った。
DSC でもコーティング標準物質の測定を行い、コーティングの比熱容量を測定するために十分な
分解能があることを確認した。コーティング標準物質の開発においては、作製方法の確立、均質
性・安定性の評価に加えレーザフラッシュ法による熱拡散率参照値の決定を行い、ジルコニア系
標準試料(コーティング材:ジルコニア多孔体、基材:ジルコニア緻密体)、アルミナ系標準試料
(コーティング材:アルミナ多孔体、基材:アルミナ緻密体)、溶射材料系標準試料(コーティング材:
ジルコニア、基材:ハステロイ)を完成した。開発した標準試料の特性評価として、超音波探傷試
験、走査電子顕微鏡による観察、レーザフラッシュ法による熱拡散率測定、DSC による比熱容量
測定を行った。熱光学特性の高精度校正技術の開発では、標準試料(シリコン単結晶)の熱膨張
率の実測試験により測定システムの測定性能の妥当性を検証した。nL 積測定における迷光を原
因とした信号の非線形成分について理論モデル・測定データ分析に基づく検討を行い、非線形成
分の除去を可能とするデータ選別法を確立した。標準的な光学ガラスである合成石英ガラスとホ
ウ珪酸ガラスについて-60 ℃~+80 ℃の温度範囲での熱膨張率および nL 積の温度依存性の測
定を行い、標準的参照データを取得した。
投稿論文
特
Ⅳ. 実用化の見通しにつ
いて
Ⅴ.評価に関する事項
Ⅵ.基本計画に関する事
項
許
「査読付き」80件、「その他」187件
「出願済」20件、「登録」3件、「実施」0件
ナノテクノロジープログラムにおけるプロジェクトとして、その他プロジェクトとの連携を図りつつ、
またその取り組み方等を討議して、プログラム横断的な知識の構造化の円滑な推進を促進すると
ともに、標準物質の供給、商品化を目指した計測器メーカとの共同研究、プログラムの公開、デー
タベースの公開、校正技術基準の策定・公開、ISO 規格、及び JIS 規格の制定等を進めた。
評価履歴
平成13年度 事前評価書 平成16年度 中間評価実施
評価予定
平成20年度 事後評価実施予定
策定時期
平成13年3月
策定
平成14年3月
材料ナノテクノロジープログラムからナノテクノロジープログラムへ
の改編を受け、研究開発の目的、内容、目標を統一的に明記する
等、改訂
平成15年3月
研究開発の目的、内容、目標を統一的に明記する等、改訂
変更履歴
平成16年3月、独立行政法人化に伴い、名称及び根拠法等、改訂。
平成18年3月、本研究によって得られた知的財産、成果についての取り扱いについ
て記載。
概要-(4)
平成17・03・25産局第4号
平 成 1 7 年 3 月 3 1 日
ナノテクノロジープログラム基本計画
1.目的
物質をナノレベルで制御することにより、物質の機能・特性を飛躍的に向上させ、また、
大幅な省エネルギー化、大幅な環境負荷低減を実現し得るなど、広範な産業技術分野に革新
的発展をもたらし得るキーテクノロジーである「ナノテクノロジー」を確立し、得られた成
果等の知識の体系化を図ることで、我が国の産業競争力の源泉として、我が国経済の持続的
発展に寄与する技術的基盤の構築を図る。
2.政策的位置付け
科学技術基本計画(2001年3月閣議決定)における国家的・社会的課題に対応した研究
開発の重点化分野であるナノテクノロジー・材料分野、分野別推進戦略に(2001年9月総
合科学技術会議)における重点分野であるナノテクノロジー・材料分野に位置づけられるもの
である。また、「産業発掘戦略-技術革新」(「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2
002」(2002年6月閣議決定)に基づき2002年12月取りまとめ)のナノテクノロ
ジー・材料分野における戦略目標(10年後に、世界市場を主導できる我が国初の企業をナノ
テクノロジー・材料分野の‘5つの産業’で創出する。)に対応するものである。
さらに、「新産業創造戦略」(2004年5月経済財政諮問会議)において、新産業群の創
出を支える共通基盤技術として位置づけられているナノテクノロジー・材料分野に対応するも
のである。
3.目標
超微細な物質構造を創製するプロセス技術及び計測技術を開発するとともに、産業化に向
け、得られる物質機能を向上・維持する成形・加工技術、評価技術を開発し、超微細構造制
御機能創製、加工、計測に係る基礎・基盤的技術の構築を図りつつ、得られたデータ、知識
(既存の知識を含む)について構造、機能、プロセスの視点から体系化し、標準化等広範な
分野において活用可能な知識基盤を2007年度までに整備する。これにより、波及効果と
して、2010年には市場規模19兆1000億円、雇用規模51.6万人の波及効果が想
定される。
4.研究開発内容
【プロジェクト】
Ⅰ.ナノマテリアル・プロセス技術の開発
ⅰ.ナノマテリアル・プロセス技術
超微細構造等を制御することで発現する新機能を有するマテリアルの創製を図る。
(1)精密高分子技術(運営費交付金)
ナノテクノロジープログラム基本計画 P.1
①概要
有機高分子材料の性能・機能の飛躍的な高度化及び環境調和を目指し、高分子の一次
及び高次構造を精密に制御する技術基盤を構築し、実用化を目指す。この一部について
は、ナノレベルでの物質制御により材料の性能・機能を高度化することによる石油の生
産及び流通の合理化を図るために行うものである。
②技術目標及び達成時期
2007年度までに、高分子材料のナノスケールでの規則性を反映した構造制御を実
現する設計指針及び製造技術の基盤を確立し、その実用化を目指す。技術を体系化する。
③研究開発期間
2001年度~2007年度
④中間・事後評価の実施時期
中間評価を2004年度に、事後評価を2008年度に実施。
⑤実施形態
民間企業、大学、公的研究機関等から、最適な研究体制を構築し実施。
(2)ナノガラス技術(運営費交付金)
①概要
無機非晶質材料の原子・分子レベルでの構造を制御して新機能を付加したり、異質相
を材料表面や材料内に並べる技術等の開発を行うことにより、ナノガラスに関する新材
料開発に必要な技術の基盤を構築する。
②技術目標及び達成時期
2005年度までに、レーザー照射やCVD等により、原子・分子レベルの構造制御、
超微粒子分散等構造制御、高次構造制御及び3次元光回路材料技術に関するガラス構造
制御技術を確立するとともに、技術を体系化する。
③研究開発期間
2000年度~2005年度
④中間・事後評価の実施時期
中間評価を2003年度に、事後評価を2006年度に実施。
⑤実施形態
民間企業、大学、公的研究機関等から、最適な研究体制を構築し実施。
(3)ナノメタル技術(運営費交付金)
①概要
金属材料の組成、組織を超精密・超微細に制御することで機械的特性(強度、延性
等)、機能的特性(耐食性、電気特性等)を向上させるとともに、これらの知識を体系
化し、ナノメタラジー(金属材料の不純物や組織をナノレベルで制御する技術体系)を
構築することによって新規金属材料創製技術の基盤を確立する。
②技術目標及び達成時期
2006年度までに、金属材料について、超精密な結晶組成制御技術(高純度化、有
用元素添加等)、超精密な結晶組織制御技術(結晶粒子制御、析出制御等)及び組成分
析・計測技術等を確立するとともに、技術を体系化する。
③研究開発期間
ナノテクノロジープログラム基本計画 P.2
2001年度~2006年度
④中間・事後評価の実施時期
中間評価を2003年度に、事後評価を2007年度に実施。
⑤実施形態
民間企業、大学、公的研究機関等から、最適な研究体制を構築し実施。
(4)ナノカーボン技術(運営費交付金)
①概要
単層カーボンナノチューブの持つ高い潜在能力を、幅広い産業での応用に結びつける
ために、ナノカーボン材料の構造制御並びに合成技術を開発するとともに、物理的・化
学的機能並びに電気的機能を引き出す材料技術の基盤を構築する。
②技術目標及び達成時期
2006年度までに、単層カーボンナノチューブの構造制御並びに合成技術を開発す
るとともに、物理的・化学的機能並びに電気的機能の相関を明らかにし、それら機能の
制御技術を開発する。
③研究開発期間
2002年度
④中間・事後評価の実施時期
本事業の成果全般については、「ナノカーボン応用製品創製プロジェクト(フォーカ
ス21)」において活用されることとなるため、本事業の事後評価は、当該事業の事後
評価において併せて実施。
⑤実施形態
民間企業、大学、公的研究機関等から、最適な研究体制を構築し実施。
(5)ナノカーボン応用製品創製プロジェクト(フォーカス21)(運営費交付金)
①概要
ナノカーボン材料(カーボンナノチューブ)の持つ高い潜在能力を、幅広い産業での
応用に結びつけるために、ナノカーボン材料の構造制御及び合成技術、物理的・化学的
機能並びに電気的機能を引き出す材料技術を開発するとともに、ナノカーボン応用製品
の実用化開発を行う。
②技術目標及び達成時期
2005年度までに、ナノカーボン材料の構造制御技術を開発するとともに、ナノ
カーボン材料を用いた小型・軽量・長寿命の携帯機器用燃料電池の電極、ナノカーボン
材料を用いた高性能、高信頼のLSIビア配線技術の開発等の電子デバイス応用技術等
を開発する。
③研究開発期間
2003年度~2005年度
④中間・事後評価の実施時期
事後評価を2006年度に実施。
⑤実施形態
民間企業、大学、公的研究機関等から、最適な研究体制を構築し実施。
ナノテクノロジープログラム基本計画 P.3
(6)ナノ粒子の合成と機能化技術(運営費交付金)
①概要
ナノ構造の生成やナノ機能の発現に重要なナノ粒子の合成技術及びナノ粒子への機能
付加プロセス技術等の基盤を構築する。
②技術目標及び達成時期
2005年度までに、シングルナノサイズで均一粒子径を有し、かつ安定な粒子を合
成する基盤技術、秩序構造を有する安定な機能素子の創製技術及びデバイスの作成・評
価技術を確立するとともに、技術を体系化する。
③研究開発期間
2001年度~2005年度
④中間・事後評価の実施時期
中間評価を2003年度に、事後評価を2006年度に実施。
⑤実施形態
民間企業、大学、公的研究機関等から、最適な研究体制を構築し実施。
(7)ナノコーティング技術プロジェクト(運営費交付金)
①概要
無機材料、金属材料などの基板材料に新機能を付加するため、コーティングにおける
ナノ構造を制御する技術の基盤を構築する。
②技術目標及び達成時期
2006年度までに、コーティングプロセス制御技術、コーティング材料を構成する
最適構造設計・制御技術及びコーティング解析・評価技術を確立するとともに、技術を
体系化する。
③研究開発期間
2001年度~2006年度
④中間・事後評価の実施時期
中間評価を2003年度に、事後評価を2007年度に実施。
⑤実施形態
民間企業、大学、公的研究機関等から、最適な研究体制を構築し実施。
(8)ナノ機能合成技術(運営費交付金)
①概要
ナノスケールにおける構造と機能との相関を明らかにすることにより、電子・スピン
機能及び分子機能を設計・合成する技術を開発する。
②技術目標及び達成時期
2005年度までに、超微細な構造を制御することによって生ずる特異な電子・スピ
ン機能及び分子機能において極限機能を発現させる合成技術を確立するとともに、技術
を体系化する。
③研究開発期間
2001年度~2005年度
④中間・事後評価の実施時期
中間評価を2003年度に、事後評価を2006年度に実施。
ナノテクノロジープログラム基本計画 P.4
⑤実施形態
民間企業、大学、公的研究機関等から、最適な研究体制を構築し実施。
ⅱ.ナノ計測基盤技術研究
(1)ナノ計測基盤技術(運営費交付金)
①概要
ナノテクノロジーに必要となる共通的計測技術を開発するとともに、信頼性確保の為の
ナノ材料用新標準物質を国家標準に基づいて整備することにより、超微細物質構造の創成
技術開発を促進する。
②技術目標及び達成時期
2007年度までに、ナノ粒子・ナノ空孔の力学・構造特性、ナノ表面の組成、ナノ界
面・膜等の熱物性の超高精度計測技術を開発するとともに、これらに関する8種類以上の
新たな標準物質を開発する。
③研究開発期間
2001年度~2007年度
④中間・事後評価の実施時期
中間評価を2004年度に、事後評価を2008年度に実施。
⑤実施形態
民間企業、大学、公的研究機関等から、最適な研究体制を構築し実施。
ⅲ.材料技術の知識の構造化
(1)材料技術の知識の構造化(運営費交付金)
①概要
各プロジェクトで開発した技術、得られたデータ、知識(既存の知識を含む)につい
て、構造、機能、プロセスの視点から構造化、体系化を図り、知識基盤を構築する。
②技術目標及び達成時期
2007年度までに、知識基盤データベースの構築、モデリングの開発、知識基盤プ
ラットフォームの開発をすることにより、知識の構造化を図る。
③研究開発期間
2001年度~2007年度
④中間・事後評価の実施時期
中間評価を2004年度に、事後評価を2008年度に実施。
⑤実施形態
民間企業、大学、公的研究機関等から、最適な研究体制を構築し実施。
Ⅱ.ナノ加工・計測技術の開発
超微細・微小領域で物質構造を制御することで生じる効果を活用したナノ物質材料の機能
増幅技術、及び生産技術への橋渡しに向けた高度化のためのデバイス・システム化技術であ
る”ナノ加工・計測技術”の基盤的技術を確立する。
(1)次世代量子ビーム利用ナノ加工プロセス技術(運営費交付金)
①概要
多数の原子・分子からなるビームを発生し、そのクラスターサイズやエネルギーを高精
ナノテクノロジープログラム基本計画 P.5
度に制御する技術を確立し、これを用いて、半導体・磁性体材料などのナノ加工技術(無
損傷ナノ加工技術、超高速・高精度ナノ加工技術)を確立する。
②技術目標及び達成時期
2006年度までに、エッチングしたときの損傷深さが1nm 以下の無損傷ナノ加工技
術等を開発し、無損傷ナノ加工技術や超高速・高精度ナノ加工技術の基盤を確立する。
③研究開発期間
2002年度~2006年度
④中間・事後評価の実施時期
中間評価を2004年度に、事後評価を2007年度に実施。
⑤実施形態
民間企業、大学、公的研究機関等から、最適な研究体制を構築し実施。
(2)ナノ機能粒子のカプセル成形技術(運営費交付金)
①概要
ナノスケールで構造制御されたナノ機能粒子の機能を損なうことなく安定な高分子ナ
ノ薄膜で内包するカプセル成形技術を確立するとともに、画像書換可能な薄膜画像表示
デバイスを開発する。
②技術目標及び達成時期
2006年度までに、カプセル径 1μm、膜厚 50nm の高分子カプセル成形技術の基盤
を確立するとともに、画像書換可能なフルカラー画像表示デバイスを試作する。
③研究開発期間
2002年度
④中間・事後評価の実施時期
中間評価を2004年度に実施。なお、本事業の成果全般については、「機能性カプ
セル活用フルカラーリライタブルペーパープロジェクト(フォーカス21)」において
活用されることとなるため、本事業の事後評価は、当該事業の事後評価において併せて
実施。
⑤実施形態
民間企業、大学、公的研究機関等から、最適な研究体制を構築し実施。
(3)機能性カプセル活用フルカラーリライタブルペーパープロジェクト(フォーカス2
1)(運営費交付金)
①概要
エネルギー需給構造の高度化を図る観点から行うものであり、電場応答する磁性顔料
粒子を耐候性に優れた透明高分子薄膜で包み込んだ機能性カプセルを活用して、画像書
換時にのみ電力を消費する新たな画像表示媒体であるフルカラーリライタブルペーパー
の創成を図る。
②技術目標及び達成時期
2005年度までに、カプセル径 1μm、膜厚 50nm の高分子カプセル成形技術の基盤
を確立するとともに、画像書換可能なフルカラーリライタブルペーパーを試作する。
③研究開発期間
2003年度~2005年度
ナノテクノロジープログラム基本計画 P.6
④中間・事後評価の実施時期
事後評価を2006年度に実施。
⑤実施形態
民間企業、大学、公的研究機関等から、最適な研究体制を構築し実施。
(4)ナノレベル電子セラミックス材料低温成形・集積化技術(運営費交付金)
①概要
アクチュエータ素子、高周波素子、光学機能素子などに応用される電子セラミックス
材料の結晶組織や界面構造をナノレベルで制御するとともに、低温でマイクロ部材レベ
ルに成膜、集積化できる高速噴射成形技術を確立する。
②技術目標及び達成時期
2006年度までに、衝撃によるセラミックス微粒子の固化現象など熱非平衡な反応
を利用して、ナノサイズの微細組織を持つ高密度な電子セラミックス材料を高速低温成
形(常温~500℃)、部材レベルで集積、微細構造化(5~50μm)するための基
盤技術を開発する。
③研究開発期間
2002年度~2006年度
④中間・事後評価の実施時期
中間評価を2004年度に、事後評価を2007年度に実施。
⑤実施形態
民間企業、大学、公的研究機関等から、最適な研究体制を構築し実施。
(5)3Dナノメートル評価用標準物質創成技術(運営費交付金)
①概要
ナノテクノロジーによって加工・成形されるナノ形状・構造(面内方向及び深さ方向)
測定の校正に利用できる、ナノスケール(計測用ものさし)の創成技術を開発する。
②技術目標及び達成時期
2006年度までに、最小目盛り25nm 以下の面内方向スケール校正用標準物質、及
び深さ方向に10nm 程度以下の単位構造を有する深さ方向スケール校正用標準物質を開
発するとともに、それぞれの校正技術を確立する。
③研究開発期間
2002年度~2006年度
④中間・事後評価の実施時期
中間評価を2004年度に、事後評価を2007年度に実施。
⑤実施形態
民間企業、大学、公的研究機関等から、最適な研究体制を構築し実施。
Ⅲ.ナノテク実用化開発
実用化前段階にある技術シーズを早期市場投入する。
(1)ナノテク・先端部材実用化研究開発(運営費交付金)
①概要
新産業創造戦略の趣旨に則り、革新的なナノ技術を活用し、川上と川下の連携、異業
ナノテクノロジープログラム基本計画 P.7
種・異分野の連携で行うデバイス化開発によって絞り込みを行うことを前提に支援を行う
ため、
○ナノテク活用による材料・部材の高度化を図る先端的研究開発(ステージⅠ)
○ナノテク研究成果の部材等への実用化を目指した開発支援(ステージⅡ)
について提案公募を実施する。
②技術目標及び達成時期
2010年頃に想定される半導体微細加工の限界を克服するため、分子・原子を1つず
つ制御し部品部材に組み上げる「ボトムアップ型」のナノテクノロジーなど革新的なナノ
テクノロジー等の活用により、情報家電・ロボット、燃料電池等新規産業5分野におい
て、従来の性能・効率を大幅に改善するナノテク・先端部材技術を開発し、我が国が優位
にあるナノテクノロジーを基盤とした国際的な産業競争力を強化することを目標とする。
③研究開発期間
2005年度~2010年度
④中間・事後評価の実施時期
中間評価を2008年度に、事後評価を2011年度に実施。
⑤実施形態
提案公募により、適切な研究課題、実施企業等を選定し実施。
なお、本プロジェクトは、新産業創造戦略の趣旨にのっとり、川上と川下の連携、異
業種・異分野の連携を前提としている。
(2)炭素系高機能材料技術
①概要
物質創製技術(高度で多様な特性を有する新規な炭素系物質等の合成技術)及び材料
化プロセス技術(物質創製技術によって合成された新規な炭素系物質等を、電気的高機
能材料及び機械的高機能材料へと展開するための、材料化プロセス技術)を確立する。
②技術目標及び達成時期
2002年度までに、新規な炭素系物質等の合成技術の開発を行うとともに、これら
を産業利用へと展開させるための材料化プロセス技術の開発を行い、従来材料にない優
れた電気的及び機械的機能(耐食性を含む)を有する炭素系高機能材料の産業化のため
の基盤技術を確立する。
③研究開発期間
1998年度~2002年度
④中間・事後評価の実施時期
中間評価を2001年度に、事後評価を2003年度に実施。
⑤実施形態
民間企業、大学、公的研究機関等から、最適な研究体制を構築し実施。
(3)ダイヤモンド極限機能プロジェクト(フォーカス21)(運営費交付金)
①概要
シリコン等の既存あるいは開発中の半導体デバイスに比べ、電子放出・高周波特性等に
おいて、高い性能を発揮するダイヤモンド半導体を実用化するための基盤技術を確立する。
ナノテクノロジープログラム基本計画 P.8
さらに、ダイヤモンドの特性を活かしたダイヤモンドデバイスの特性評価を行い、技術課
題を明確化することにより、実用化の可能性を判断する。
②技術目標及び達成時期
2005年度までに、ダイヤモンド半導体の最も重要な課題とされるナノドーピング
技術やナノ表面・界面制御技術を確立するとともに、放電灯陰極、ナノスケール加工用
電子源、高周波トランジスタへのダイヤモンド特性を活かした製品の実用化への試作・
評価を行う。
③研究開発期間
2003年度~2005年度
④中間・事後評価の実施時期
事後評価を2006年に実施。
⑤実施形態
民間企業、大学、公的研究機関等から、最適な研究体制を構築し実施。
(4)カーボンナノチューブFEDプロジェクト(フォーカス21)(運営費交付金)
①概要
高効率な電子放出能等の優れた特性を持つカーボンナノチューブを用い、薄型、低消費
電力、高輝度、高画質のフィールドエミッションディスプレイ(FED)の開発を目指す。
②技術目標及び達成時期
2005年度までに、高効率な電子放出特性を有するカーボンナノチューブをエミッタとし
て使用する均質電子源の開発と、パネル化及びディスプレイ性能評価技術の開発を行い、試
作パネルで性能評価を行う。
③研究開発期間
2003年度~2005年度
④中間・事後評価の実施時期
事後評価を2006年度に実施。
⑤実施形態
民間企業、大学、公的研究機関等から、最適な研究体制を構築し実施。
(5)デバイス用高機能化ナノガラスプロジェクト(フォーカス21)(運営費交付金)
①概要
エネルギー需給構造の高度化を図る観点から行うものであり、スパッター技術、プラ
ズマCVD等の手法により、(a)半導体レーザー照射に対する可逆的屈折率変化幅を増大
させ、かつその応答速度を高速化させた、高密度DVD用集光機能ガラス薄膜材料、(b)
光回路に利用可能な伝送損失の低い光導波デバイス用ガラス材料及び(c)高効率で偏波依
存性が小さい高波長分散デバイス用ガラス材料を開発する。DVDの高密度化により、
読み取り、書き込み処理の効率化によるエネルギー消費量の削減及び光回路等の小型化
による製造エネルギーの削減が図られる。
②技術目標及び達成時期
2005年度までに、(a)高密度DVDに適用可能な集光機能ガラス薄膜材料及びそ
の成膜・積層技術、(b)光導波デバイス用ガラス材料を作製するための成膜技術及び超微
細加工技術及び(c)高波長分散デバイス用ガラス材料を作製するための成膜技術及び超微
ナノテクノロジープログラム基本計画 P.9
細加工技術を開発する。
③研究開発期間
2003年度~2005年度
④中間・事後評価の実施時期
事後評価を2006年度に実施。
⑤実施形態
民間企業、大学、公的研究機関等から、最適な研究体制を構築し実施。
(6)ディスプレイ用高強度ナノガラスプロジェクト(フォーカス21)(運営費交付金)
①概要
エネルギー需給構造の高度化を図る観点から行うものであり、種々のディスプレイ用
基板ガラスの軽量化を実現させるために、超短パルスレーザー等を用いてガラス内に異
質相を形成させることにより、薄板化を可能とする超高強度薄板ガラスを開発する。ガ
ラスの薄板化により、光透過率の上昇による消費電力の節減及びガラス製造にかかるエ
ネルギー消費量の抑制が図られる。
②技術目標及び達成時期
2005年度までに、ガラス中に異質相を形成させることにより、従来では不可能で
あった薄板ガラスの高強度化を可能とする技術を開発する。
③研究開発期間
2003年度~2005年度
④中間・事後評価の実施時期
事後評価を2006年度に実施。
⑤実施形態
民間企業、大学、公的研究機関等から、最適な研究体制を構築し実施。
(7)高効率UV発光素子用半導体開発プロジェクト(フォーカス21)(運営費交付金)
①概要
ワイドバンドギャップを有する窒化物半導体を用い、小型・高効率・高精度・低価格
かつ省エネである深紫外ハイパワー・レーザーダイオード等の用途に使える半導体材料
を創製する。
②技術目標
2006年度までに、大口径・高品質バルク基板材料を得るための単結晶育成技術及
びナノ積層技術等を開発し、深紫外領域のレーザー発振等を実証する。
③研究開発期間
2004年度~2006年度
④中間・事後評価の実施時期
事後評価を2007年度に実施。
⑤実施形態
民間企業、大学、公的研究機関等から、最適な研究体制を構築し実施。
(8)超高純度Cr-Fe合金の実用化技術(運営費交付金)
ナノテクノロジープログラム基本計画 P.10
①概要
発電用施設による電気の供給の円滑化を図る観点から行うものであり、ナノメタル技
術で開発された高強度・高靱性の超高純度Cr-Fe合金を発電用部材として製品適用
するための量産化技術を開発する。
②技術目標
2004年度までに、超高純度Cr-Fe合金を製品適用するための量産化に対応し
た溶解設備を設計して基礎データを取得するとともに、発電プラントで実用化するため
に実機に近い環境下での暴露試験等を実施して材料データベースを構築する。
③研究開発期間
2004年度
④中間・事後評価の実施時期
ナノメタル技術の事後評価時に併せて実施。
⑤実施形態
民間企業、大学、公的研究機関等から、最適な研究体制を構築し実施。
(9)超高純度金属材料の産業化研究(運営費交付金)
①概要
耐食性、耐久性、加工性など従来の素材から遙かに優れた特性を示す「超高純度金属
材料」を産業化し、我が国の発電、素材産業の競争力の大幅向上、環境負荷低減(発電
機器の高効率化によるCO2削減)、ならびに安全・安心社会への貢献(発電設備の信
頼性向上)を図る。超高純度金属材料の低コスト・量産化に必要となる各種製造技術を
開発し、開発プロセスで製造する超高純度金属材料の本質や、産業化する上で必要とな
る各種特性データを明らかにする。また、超高純度金属材料の産業への適用性の明確化
を行う。
②技術目標及び達成時期
2009年までに、超高純度金属材料の低コスト・量産化製造技術を開発する。また、
製造された超高純度材が、現用材以上の優れた材料特性を有し、鍛造、圧延などの加工
性も良いことを確認するとともに、製品に組み込んだ実環境での耐久試験、並びに性能
試験によって、産業(発電プラント等)への適用性を明らかにする。
③研究開発期間
2005年度~2009年度
④中間・事後評価の実施時期
中間評価を2007年度に、事後評価を2010年度に実施。
⑤実施形態
民間企業、大学、公的研究機関等から、最適な研究体制を構築し実施。
Ⅳ.ナノバイオテクノロジープロジェクト(フォーカス21)
(1)先進ナノバイオデバイスプロジェクト(フォーカス21)(運営費交付金)
①概要
ナノ微細加工技術及びナノ流動エンジニアリング技術の活用により、少量試料・短時
間・同時多項目の分析を可能にする超小型マルチセンサーや1分子DNA計測システム
ナノテクノロジープログラム基本計画 P.11
などを可能とするナノバイオデバイスを開発し、分析機器の革新的な高速化や高感度化、
低価格化等を図る。
②技術目標及び達成時期
2005年度までに、超小型マルチセンサーや1分子DNA計測システム等解析機器
の実用化のための、各種構成ユニットを開発する。
③研究開発期間
2003年度~2005年度
④中間・事後評価の実施時期
事後評価を2006年度に実施。
⑤実施形態
民間企業、大学、公的研究機関等から、最適な研究体制を構築し実施。
(2)ナノ微粒子利用スクリーニングプロジェクト(フォーカス21)(運営費交付金)
①概要
ナノ微粒子を用いて、莫大なタンパク質や化学物質の中から産業上有用な物質を高
速・高度に選別する技術を開発するとともに、スクリーニング技術のロボット化や選別
物質の情報処理により、画期的な新薬開発や診断・治療等への応用につながる基盤を作
る。
②技術目標及び達成時期
2005年度までに、磁性等の特性を有する高機能・高性能なナノ微粒子の構築技術
を開発するとともに、本微粒子を活用したスクリーニングシステムを開発する。
③研究開発期間
2003年度~2005年度
④中間・事後評価の実施時期
事後評価を2006年度に実施。
⑤実施形態
民間企業、大学、公的研究機関等から、最適な研究体制を構築し実施。
(3)タンパク質相互作用解析ナノバイオチッププロジェクト(フォーカス21)(運営費
交付金)
①概要
膜タンパク質の機能を保持したままでウイルス表面に発現する技術や、超微細加工技
術等を用いて、高速・高感度なタンパク質相互作用解析を可能とするタンパク質チップ
を作製する。また、ウイルスを用いて簡便に高親和性の抗体を作製し、微量のタンパク
質を高感度に検出する抗体チップの開発を行う。
②技術目標及び達成時期
2005年度までに、高速、高感度なタンパク質相互作用解析を可能とするため、機
能を保持した形で発現したタンパク質を用い、ナノバイオチップを作製する。
③研究開発期間
2003年度~2005年度
④中間・事後評価の実施時期
事後評価を2006年度に実施。
ナノテクノロジープログラム基本計画 P.12
⑤実施形態
民間企業、大学、公的研究機関等から、最適な研究体制を構築し実施。
(4)ナノカプセル型人工酸素運搬体製造プロジェクト(フォーカス21)(運営費交付
金)
①概要
ナノテクノロジーを用いることにより、鮮度との関係で2割近くが期限切れにより処
分されている血液の有効成分を活用し、長期間保存可能で、誤った血液型の輸血や、輸
血によるウイルス感染の心配のない人工酸素運搬体(人工赤血球)の製造技術を開発す
る。
②技術目標及び達成時期
2005年までに、人工酸素運搬体の製造技術を確立する。
③研究開発期間
2003年度~2005年度
④中間・事後評価の実施時期
事後評価を2006年度に実施。
⑤実施形態
民間企業、大学、公的研究機関等から、最適な研究体制を構築し実施。
(5)微細加工技術利用細胞組織製造プロジェクト(フォーカス21)(運営費交付金)
①概要
近年、重要性の増している再生医療の実用化に向け、移植用細胞・組織を臨床現場へ
安定的に供給するため、ナノテクノロジーを活用し、ヒト幹細胞の増殖・分化過程を遺
伝子レベルで人為的に制御・培養する技術及び装置等の基盤技術を確立する。
②技術目標及び達成時期
2005年度までに、心筋細胞を対象に、再生医療を支援するために必要となる技術
及び機器の開発を実施する。
③研究開発期間
2003年度~2005年度
④中間・事後評価の実施時期
事後評価を2006年度に実施。
⑤実施形態
民間企業、大学、公的研究機関等から、最適な研究体制を構築し実施。
(6)ナノ医療デバイス開発プロジェクト(フォーカス21)(運営費交付金)
①概要
今後、疾病ごとの遺伝子やタンパク質解析が進む中、その成果を活用することにより
医療技術の高度化を実現させるべく、我が国の強みであるナノテクノロジーや光学技術
等の先端技術を活用した診断機器を開発する。
②技術目標及び達成時期
2006年度までに、ナノテクノロジーを活用した光学基盤技術や、生体における光
解析技術を確立することにより、細胞やタンパク質レベルの組織診断を可能とする機器
ナノテクノロジープログラム基本計画 P.13
を開発する。
③研究開発期間
2004年度~2006年度
④中間・事後評価の実施時期
事後評価を2007年度に実施。
⑤実施形態
民間企業、大学、公的研究機関等から、最適な研究体制を構築し実施。
Ⅴ.高度情報通信機器・デバイス基盤プログラム
豊かな社会の実現を目指す高度情報通信ネットワーク社会の構築に向け、その基盤となる
半導体微細加工技術等の情報通信機器・デバイス等に関する基盤的技術の開発を行う。
5.研究開発の実施に当たっての留意事項
事業の全部又は一部について独立行政法人の運営費交付金により実施されるもの(事業名に
(運営費交付金)と記載したもの)は、中期目標、中期計画等に基づき、運営費交付金の総額
の範囲内で、当該独立行政法人の裁量によって実施されるものである。
【フォーカス21の成果の実用化の推進】
フォーカス21は、成果の実用化に向け、研究開発成果を迅速に事業に結び付け、産業競争
力強化に直結させるため、次の要件の下で実施。
・技術的革新性により競争力を強化できること。
・研究開発成果を新たな製品・サービスに結びつける目途があること。
・比較的短期間で新たな市場が想定され、大きな成長と経済波及効果が期待できること。
・産業界も資金等の負担を行うことにより、市場化に向けた産業界の具体的な取組が示されて
いること。
具体的には、成果の実用化に向け、実施者による以下のような取組を求める。
・ナノカーボン応用製品創製プロジェクト
燃料電池の超小型実装技術等の開発及びLSI配線技術の層間絶縁膜の成膜・加工技術等
の研究開発を同時並行的に実施し、早期実用化を図る。
・機能性カプセル活用フルカラーリライタブルペーパープロジェクト
画像書き換え可能なフルカラーリライタブルペーパーの開発を同時並行的に実施し、早期
実用化を図る。
・ダイヤモンド極限機能プロジェクト
ダイヤモンド半導体を実用化するための基盤技術を確立するとともに、放電灯陰極、ナノ
スケール電子源、高周波トランジスタの研究開発を同時並行的に実施し、早期実用化を図る。
・カーボンナノチューブFEDプロジェクト
映像処理回路、画像品質向上回路等の開発を同時並行的に実施し、CNT-FEDの早期実
現化を図る。
・デバイス用高機能化ナノガラスプロジェクト
高密度記録媒体の周辺技術を同時並行的に開発し、高密度DVDの早期実用化を図る。また、
光導波デバイス用ガラス材料及び高波長分散デバイス用ガラス材料の早期実用化のため、これ
らのデバイス用ガラス材料を利用した応用製品の研究開発を同時並行的に実施する。
・ディスプレイ用高強度ナノガラスプロジェクト
ナノテクノロジープログラム基本計画 P.14
高強度化に適したガラス組成の研究開発を同時並行的に実施し、ガラス基板の早期実用化を
図る。
・高効率UV発光素子用半導体開発プロジェクト
①事業費の2分の1負担により、代表的な3工法(①フラックス法②昇華法③HVPE法)を
比較検討しつつ、AIN系レーザーダイオードのキーマテリアルである大口径・高品質バル
ク基板用のAIN単結晶の育成技術を確立する。
②事業費の2分の1負担により、AIN系のドーピング技術およびナノ積層技術を開発し、
発振波長250nm クラスのレーザー発振を実証し、深紫外レーザー、凡用精密レーザー加工
機、医療用レーザーの実用化を図る。
・先進ナノバイオデバイスプロジェクト
超小型マルチセンサーや1分子DNA計測システム等解析機器の開発を同時並行的に実施
し、早期実用化を図る。
・ナノ微粒子利用スクリーニングプロジェクト
スクリーニング用ロボット等の開発を同時並行的に実施し、早期実用化を図る。
・タンパク質相互作用解析ナノバイオチッププロジェクト
高速・高感度なタンパク質相互作用解析を可能とするナノバイオチップを同時並行的に開
発し、早期実用化を図る。
・ナノカプセル型人工酸素運搬体製造プロジェクト
事業費の2分の1負担により、人工酸素運搬体の製造技術を確立する。また、事業終了後、
早期に人工酸素運搬体の実用レベルでの供給を図る。
・微細加工技術利用細胞組織製造プロジェクト
心筋細胞を対象に、臨床応用可能なレベルまで大量に目的の細胞や組織をウイルスフリー
で安全に安定供給できる自動培養装置等を同時並行的に開発し、早期実用化を図る。
・ナノ医療デバイス開発プロジェクト
事業費の2分の1負担により、ナノテクノロジーを活用した光学基盤技術や、生体におけ
る光解析技術を確立することにより、細胞やタンパク質レベルの組織診断を可能とする機器
を開発する。
なお、適切な時期に、実用化・市場化状況等について検証する。
6.プログラムの期間、評価等
プログラムの期間は、2000年度から2007年度までとし、プログラムの中間評価を
2004年度までに、事後評価を2008年度に行うとともに、研究開発以外のものについ
ては2011年度に検証する。また、中間評価を踏まえ、必要に応じ基本計画の内容の見直
しを行う。
7. 研究開発成果の政策上の活用
・プログラム期間中にナノ材料に関する標準物質を順次整備し、プログラム期間終了後3年
を目途に標準物質を提供できる体制を整える。
・各プロジェクトで得られた成果のうち、標準化すべきものについては、適切な標準化活動
(国際規格(ISO/IEC)、日本工業規格(JIS)、その他国際的に認知された標
準の提案等)を実施し、標準化を通じて、研究開発成果を広く社会へ提供する。特に、ナ
ノ加工、ナノ計測、評価技術の標準化を図る。
ナノテクノロジープログラム基本計画 P.15
・ナノ材料、ナノ加工・計測、評価にかかる各種データベースの拡充を図り、広く社会へ提
供する。
8.政策目標の実現に向けた環境整備
・基礎・基盤的領域であることから学協会との連携を確立するとともに、学協会の年会等で
公開討論を行う。
・横断的・融合的技術領域でもあることから参加研究機関の研究者のネットワーク(シミュ
レーション、構造制御、計測等の大括りテーマ別)を構築する。
・毎年、研究成果を公開するフォーラムを開催するとともに、実用化に向けた調査・討論を
実施する。
・各プロジェクトの成果を、愛知万博等の展示会において積極的に紹介する。
・各プロジェクトのうち、研究開発を効率的・効果的に推進する観点から、関係機関との連
携が必要なものについては、これを積極的に行う。特に、先進ナノバイオデバイスプロ
ジェクト、ナノ微粒子利用スクリーニングプロジェクト、ナノカプセル型人工酸素運搬体
製造プロジェクト、微細加工技術利用細胞組織製造プロジェクト、タンパク質相互作用解
析ナノバイオチッププロジェクトは、総合科学技術会議の科学技術連携施策群「ナノバイ
オテクノロジー」として各府省と連携して実施する。
・超微細技術関連産業発掘戦略調査等委託事業(2005年度)
民間事業者の自主的かつ計画的なナノテクの研究成果を事業化する取り組みを促進する
観点から、ナノテクの特性に配慮した市場環境整備等を内容とする産学官連携によるナノ
テクビジネスの創出戦略に関する調査等を行う。
・NEDO-NBCIサンプルマッチング事業
NEDOが実施するナノテクノロジープログラム各プロジェクトの成果としてのサンプ
ルを対象に、ナノテクビジネス推進協議会(NBCI)とNEDOが協力してそれらを活
用した製品化提案を有する企業とのマッチングを図ることで、プロジェクトの事業化を促
進する。
・ナノバイオテクノロジー産業化推進調査等事業(2004年度)
ナノバイオテクノロジーに関し、我が国における研究実態や産業応用の方向性・可能性、
また、新産業創出のための基盤整備等について、戦略的な取り組みを行うために必要な調
査を行う。
・技術経営人材育成
技術経営人材育成プログラム導入促進事業を活用し、ナノテクノロジー分野に関して、
大学や民間企業における、企業のイノベーション促進のためのシステム改革を担う技術経
営(MOT)人材の育成を図る。
・ナノテクの社会影響の検討
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構による国内調査及び国外調査を20
04年5月に実施。また、産業技術総合研究所は「ナノテクと社会」と題してナノテクの
社会影響に関する勉強会を開催中。
・標準体制の推進
経済産業省の委託により日本規格協会は、「ナノテク標準化調査委員会」を設置し、ナノ
テク標準化戦略の検討を開始。諸外国の動向にあわせ、①用語・命名法②計測に加え③安
全性試験標準化の進め方について検討中。
ナノテクノロジープログラム基本計画 P.16
9.改訂履歴
(1)平成12年12月28日付け制定。
(2)平成14年2月28日付け制定。材料ナノテクノロジープログラム基本計画(平成12・
12・27工総第16号)は、廃止。
(3)平成15年3月10日付け制定。ナノテクノロジープログラム基本計画(平成14・0
2・25産局第8号)は、廃止。
(4)平成16年2月3日付け制定。ナノテクノロジープログラム基本計画(平成15・03・
07産局第1号)は、廃止。
(5)平成17年3月31日付け制定。ナノテクノロジープログラム基本計画(平成16・0
2・03産局第7号)は、廃止。
ナノテクノロジープログラム基本計画 P.17
P01023
(ナノテクノロジープログラム/
ナノマテリアル・プロセス技術/
ナノ計測基盤技術研究開発)
「ナノ計測基盤技術」基本計画
ナノテクノロジー・材料技術開発部
1.研究開発の目的・目標・内容
(1)研究開発の目的
物質をナノレベルで制御することにより、物質の機能・特性を飛躍的に向上させ、また、大幅な省
エネルギー化、大幅な環境負荷低減を実現し得るなど、広範な産業技術分野に革新的発展をもたらし
得るキーテクノロジーであるナノテクノロジーは、産業技術戦略(平成12年4月)における将来の
フロンティアを切り拓く技術の研究開発(革新的・基盤的技術の涵養)に位置づけられる技術領域と
して経済産業省によりプログラム化され、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下、
「NEDO技術開発機構」という。)が、研究開発の運営管理を行うに至った。さらに、同技術領域は、
総合科学技術会議の分野別推進戦略(平成13年9月)においても、「産業競争力の強化と経済社会
の持続的発展」等に不可欠な重点領域として改めて位置づけられた。
本研究開発は、超微細な物質構造を創製するプロセス技術及び計測技術を開発するとともに、産業化
に向け、得られる物質機能を向上・維持する成形・加工技術、評価技術を開発し、超微細構造制御機
能創製、加工、計測に係る基礎・基盤的技術の構築を図りつつ、得られたデータ、知識(既存の知識
を含む)について構造、機能、プロセスの視点から体系化し、広範な分野において活用可能な知識基
盤を平成19年度までに整備することを目標とする「ナノテクノロジープログラム」のうち、ナノマテ
リアル・プロセス技術の一環として、実施するものである。
ナノ材料開発においては、超微細構造要素の属性及びそれに係わるプロセスの情報を的確に把握す
ることと、その結果として生み出される新たな材料の機能の客観的な評価がその成否を左右する重要
な課題である。このため、この新たな技術分野に対応する信頼性の高い計測技術を整備する必要があ
る。求められる計測技術は、ナノからマクロまで一貫した尺度、個別材料に拠らない共通的な測定量
を元にすると同時に、ナノ材料開発、ナノ材料製造、ナノ材料利用の各局面を通して普遍な評価基準
を与えること、つまり、標準物質・計測技術基準などのナノ材料知的基盤の形成と維持に直結するこ
とが重要である。
超微細構造制御のための計測においては、微細化するとともに膨大な数で存在する要素の物理特性
とそれらの分布を把握するニーズ、微細構造を新たな観点から分析・同定するニーズがどの材料分野
にも共通して高い。また一方、光学的、電子的特性等従来注目の機能の他に実用上の設計において組
み込まれねばならない基盤的な熱的機能評価項目を計測対象とすることが分野共通的に求められて
いる。
本研究開発では、ナノテクノロジープログラムで実施されるプロジェクトに共通な超微細・高精度
な計測基盤技術を構築するとともに、新たな標準物質を開発することを目的とする。これにより、材
料ナノテクノロジープログラムで実施されるプロジェクトの計測基盤技術を提供して材料開発の知
識体系の信頼性向上に寄与するとともに、産業界でのナノ材料開発を支える知的基盤整備の推進に資
する。
これにより、情報通信、建築、運輸、環境等の広範な分野に利用される基盤技術の形成に資する。
なお、本プロジェクト基本計画は、技術課題の策定にあたり次に示すワークショップ、審議委員会
を開催し、関連技術分野における有識者の議論を反映したものである。
・材料ナノテクノロジープログラムワークショップ(平成12年11月13日)
・材料技術審議委員会(平成13年2月16日)
プロジェクト基本計画 P.1
(2)研究開発の目標
平成19年度までに、ナノテクノロジープログラムで実施されるプロジェクトに共通な機能特性、
構造の計測基盤技術を確立する。また、ナノ材料に関する8種類以上の新たな標準物質を確立する。
なお、プロジェクト第3年度終了時点までの研究成果として、研究開発目標の一部の特性あるいは
機能を有する物質あるいは材料について、少なくとも1点を試用に供し得る段階まで作製し、企業、
大学等の外部機関に対して試料を提供するものとする。
次項に定める個別研究開発の達成目標については、別紙研究開発計画の記述にしたがう。
(3)研究開発内容
上記目標を達成するために、以下の研究項目について、別紙の研究開発計画に基づき研究開発を実
施する。
① 微小要素物理特性の計測基盤
② 空孔の計測基盤
③ 表面構造の計測基盤
④ 熱物性の計測基盤
2.研究開発の実施方式
(1)研究開発の実施体制
本研究開発は、NEDO技術開発機構が企業、民間研究機関、独立行政法人、大学等(委託先か
ら再委託された研究開発実施者を含む。)から公募によって委託先を選定後、共同研究契約等を締結
する研究体を構築し、実施する。
共同研究開発に参加する各研究開発グループの有する研究開発ポテンシャルの最大限の活用によ
り効率的な研究開発の推進を図る観点から、NEDO技術開発機構が指名した研究開発責任者(プロ
ジェクトリーダー)独立行政法人 産業技術総合研究所 計測標準研究部門 副部門長 田中 充の下で、
研究者を可能な限り結集して効果的な研究開発を実施する。
知的基盤の公的に明確な一貫性、共通基盤性を確保するために、開発される校正技術は上位の国家
計量標準にトレーサブルな計量標準に基づくものであること、また標準物質の供給技術整備に関して
は、その供給体制の整備・維持を目的とすることから、実施に当たっては、関係の公的機関による整
備方針又は、計量法の方針に沿い、実施主体は関係の公的機関との密接な協力に基づくか又は公的機
関そのものによるものでなければならない。
(2)研究開発の運営管理
研究開発全体の管理・執行に責任を有する NEDO 技術開発機構は、経済産業省及び研究開発責任
者と密接な関係を維持しつつ、プログラムの目的及び目標、並びに本研究開発の目的及び目標に照
らして適切な運営管理を実施する。具体的には、必要に応じて、技術検討委員会等における外部有
識者の意見を運営管理に反映させる他、四半期に一回程度プロジェクトリーダー等を通じてプロジ
ェクトの進捗について報告を受けること等を行う。
3.研究開発の実施期間
本研究開発の期間は、平成13年度から平成19年度までの7年間とする。
4.評価に関する事項
NEDO技術開発機構は、技術的及び政策的観点から、研究開発の意義、目標達成度、成果の技術
的意義並びに将来の産業への波及効果等について、外部有識者による研究開発の中間評価を平成16
年度、事後評価を平成20年度に実施する。なお、評価の時期については、当該研究開発に係る技術
動向、政策動向や当該研究開発の進捗状況に応じて、前倒しする等、適宜見直すものとする。
5.その他の重要事項
(1)研究開発成果の取扱い
①成果の普及
プロジェクト基本計画 P.2
得られた研究成果のうち下記共通基盤技術に係る研究開発成果については、NEDO技術開発機構、
実施者が協力して普及に努めることとする。
a)実現手法の確立、体系的整理
b)新たな特性データの取得
c)試験・評価方法、ツールの提供
d)標準(デファクトスタンダードへを含む)への提案、取得
②知的基盤整備事業又は標準化等との連携
得られた研究成果については、知的基盤整備または標準化等との連携を図るため、データベースへ
のデータの提供並びに、必要に応じて標準情報(TR)制度への提案等を積極的に行う。
③知的財産権の帰属
委託研究開発の成果に関わる知的財産権については、「独立行政法人新エネルギー・産業技術総合
開発機構新エネルギー・産業技術業務方法書」第26条の規定等に基づき、原則として、全て委託先
に帰属させることとする。
(2)基本計画の変更
NEDO技術開発機構は、研究開発内容の妥当性を確保するため、社会・経済的状況、内外の研究
開発動向、産業技術政策動向、プログラム基本計画の変更、第三者の視点からの評価結果、研究開発
費の確保状況、当該研究開発の進捗状況等を総合的に勘案し、達成目標、実施期間、研究開発体制等、
基本計画の見直しを弾力的に行うものとする。
(3)根拠法
本プロジェクトは、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構法第15条第1項第2号に
基づき実施する。
(4)その他
研究開発成果の実施について、プロジェクトの参加者は、他の参加者の有する特許、ノウハウ等に
関して、実施許諾を求める話し合いをすることができるものとする。ただし、その情報の開示等につ
いては、その情報に係る権利を有する参加者との交渉に依ることは当然とする。
本研究によって得られたあらゆる知的財産、また本研究の過程または成果に基づき開発したプログ
ラム、サンプルもしくは装置などの成果物について、本プロジェクト外(国内外)への供試・開示に
ついては、事前にプロジェクトリーダーとNEDO技術開発機構に連絡する。
その際に、NEDO技術開発機構が申請書の提出を求めた場合は、これに応じ速やかに提出する。
6.基本計画の改訂履歴
(1)平成13年3月、制定。
(2)平成14年3月、材料ナノテクノロジープログラムからナノテクノロジープログラムへの改編
を受け、研究開発の目的、内容、目標を統一的に明記する等、改訂。
(3)平成15年3月、研究開発の目的、内容、目標を統一的に明記する等、改訂。
(4)平成16年3月、独立行政法人化に伴い、名称及び根拠法等、改訂。
(5)平成18年3月、本研究によって得られた知的財産、成果についての取り扱いについて記載。
プロジェクト基本計画 P.3
(別紙)研究開発計画
研究開発項目①「微小要素物理特性の計測基盤」
1.研究開発の必要性
ナノ粒子や高分子などの微小要素のサイズや各種物性の計測技術は、これらを原材料として利用
するプロセス、およびこれらを用いて高次微細構造を形成するプロセスの双方で、技術開発や工程
診断を行うために不可欠である。また一方、これらのプロセス中で副次的に生成する粒子や原材料
中に含まれていた微量不純物が、本来の工程に深刻な悪影響を及ぼすことがあるため、汚染管理の
目的でも微小要素の信頼度の高い計測が課題となる。
微小要素のサイズ、質量、密度等の物理特性を、産業界の広範な分野で計測する技術を提供する
ために、実用化に至っていない計測技術の精度の向上や測定方法の妥当性の確認を行い校正法を確
立し実用化や標準化を図ること、粒子質量や密度など技術的困難のため従来から適切な計測方法さ
え存在しない特性の校正技術を開発すること、および計測器の校正・試験に利用するための計測標
準を整備することが必要である。
2.研究開発の具体的内容
(1)粒子質量校正技術と粒子質量標準物質の開発
粒子形状に依存しない普遍的物理量としての粒子質量の高精度校正装置を開発、これを用いた粒
子質量標準物質、計測技術の信頼性向上への利用技術を確立する。
(2)微小要素サイズ校正技術とサイズ標準物質の開発
粒径、高分子分子量の高精度校正システムを開発するとともに、これを用いた粒径、高分子分子
量標準物質を確立する。
(3)粒子数濃度校正技術と濃度標準物質の開発
粒子個数の高精度校正システムを開発するとともに、これを用いた粒子数濃度標準物質を確立す
る。
3.達成目標
(1)1fgから1000fg(fg = フェムトグラム)の質量範囲で適用可能な粒子質量校正技術
基準作成と粒子質量標準の供給技術整備。
(2)1nmから100nmのサイズ範囲における粒径および高分子分子量の校正技術基準作成と粒
径標準物質、高分子分子量標準物質の供給技術整備。
(3)500nmから10000nmの粒径範囲における粒子数濃度校正技術基準の作成とその標準
物質の供給技術整備。
プロジェクト基本計画 P.4
(別紙)研究開発計画
研究開発項目②「空孔の計測基盤」
1.研究開発の必要性
金属、高分子、ガラスなど各種材料中に含まれるナノ空孔は、機能発現に直接関係するとともに、
材料の特性に影響を与える。また、薄膜や三次元ナノ構造では空孔の深さ方向分布が特性や機能に
影響する。このため、材料合成により発生するナノ空孔を制御することが極めて重要である。この
ナノ空孔を目標どおりに制御した材料を合成するためには、信頼性の高い計測技術による測定結果
を材料開発段階に即座にフィードバックしなければならない。しかし、現在の所、ナノ空孔計測法
の校正技術や測定技術の標準やそのための標準試料が整備されていない。そこで、この目的の為に
微細な空孔を計測する手法として有力な陽電子消滅法を中心とした校正技術を開発することが必要
である。
2.研究開発の具体的内容
陽電子空孔計測装置に対して陽電子エネルギーの広帯域校正機能、ビームパルス法による寿命の
高精度校正機能を付加することにより高精度空孔校正装置を整備・評価すると共に、陽電子の3光
子消滅割合の定量化のための技術基準の作成を実施する。これらを用いて、スパッタリング法等に
より作製された薄膜に対して材料内部の空孔分布を含めた校正を行い空孔標準試料を確立する。さ
らに、高分子系多孔性材料、低誘電率材料内部の空孔評価への高精度計測技術の利用に関する標準
化を行う。
3.達成目標
・ 直径数nm以下の微細空孔の測定に十分な時間分解能を有する陽電子寿命測定校正技術の確立。
・直径数nm以上の空孔での陽電子3光子消滅割合の校正のための技術基準の作成。
・ナノ空孔標準試料の供給技術整備と高精度計測技術基準の作成。
プロジェクト基本計画 P.5
(別紙)研究開発計画
研究開発項目③「表面構造の計測基盤」
1.研究開発の必要性
ナノ材料開発の高度化には、材料の構造・化学状態を正しく把握し材料設計に反映できるような
高度な評価解析技術が必要である。殊にナノ粒子、薄膜、三次元ナノ構造等ではバルク部分に比べ
表面・界面が大きな割合を占め、表面・界面の構造・化学状態の解析が重要である。この手法とし
て最も有力なX線光電子分光法をナノ材料に適用し、信頼の置ける知見を獲得する為には、表面感
度の向上や光電子放出位置の特定といった精密化技術と対象表面に関する分析結果を補正し目標と
する構造・化学状態を正しく抽出する技術を確立しなければならない。精密化技術については、低
エネルギー域を含む励起エネルギー可変システムとして最適のシンクロトロン放射光利用の表面分
析の基本的校正技術の確立が求められている。また、対象表面固有の構造を抽出する技術としては、
理想的な参照表面に対する高精度分光スペクトルデータの蓄積と、固体内部で放出される光電子の
寄与を系統的に補正する技術の確立が求められている。
2.研究開発の具体的内容
(1)表面分析法の精密化校正技術
シンクロトロン光源を利用した光電子分光装置・X線吸収分光装置に対して、膜厚さ校正機能、
広域エネルギー校正機能を付加することにより波長可変表面構造校正装置とし整備・評価するとと
もに、電子の平均自由行程の解析を通して広い入射エネルギー範囲、広い材料範囲に対する不確か
さ評価技術を開発する。さらに膜構造試料の整備と上記校正の実施により表面深さ分析用標準試料
を開発する。また高精度表面の組成、構造、状態計測への同上技術の利用法の標準化を行う。
(2)表面分析法標準スペクトルデータの確立
破断法や高真空蒸着法により作製する清浄表面に対する高精度分光標準スペクトルデータを取得
するとともに、また光電子の弾性散乱によるエネルギースペクトルの歪みを補正するための解析技
術を開発する。あわせて、ナノテクノロジープログラムに於いて開発された材料等についても高精
度な標準スペクトルデータの取得並びに整備を行う。
3.達成目標
(1)波長可変の高精度表面組成の深さ方向分析法について、表面から2nm以下の領域について深
さの不確かさ0.2nmを達成、さらにナノ材料評価技術基準の作成と深さ方向分析用標準試料の
供給技術を整備。
(2) X線光電子分光標準スペクトルデータの整備を15元素50化合物について実施する。
プロジェクト基本計画 P.6
(別紙)研究開発計画
研究開発項目④「熱物性の計測基盤」
1.研究開発の必要性
熱拡散率、比熱容量、熱伝導率、熱膨張率などの熱物性値は熱設計・構造設計を行うために不可
欠である。しかし、従来の熱物性計測技術は主にバルク材料を対象としており、ナノ構造を対象と
する信頼性の高い計測技術は極めて未成熟な段階にある。従って、ナノコーティング等の断熱性・
耐熱衝撃性、微小なアサーマルガラスの熱膨張率およびnL積(光学的長さ)・屈折率の温度変化
など、薄膜、微小領域、界面などのナノ構造を対象とする熱物性計測の校正技術を開発する必要が
ある。さらに、熱物性値の標準値が与えられた標準物質を用いてその信頼性評価を行うことが必要
である。
2.研究開発の具体的内容
(1)薄膜・界面熱物性の高精度校正技術の開発
ピコ秒パルスレーザー光加熱薄膜・コーティング熱物性計測装置に対して、光反射率法及び高速
赤外放射法による高精度測温校正機能を付加することにより高精度熱物性校正装置システムを整
備・評価すると共に、これを用いて薄膜の熱拡散率及び薄膜間界面熱抵抗を校正する技術を確立す
る。
(2)熱物性標準物質の開発
コーティング標準物質として熱拡散率・比熱容量・熱伝導率の熱物性の均一性、安定性に優れた
ものを作製する技術を開発し、その製造プロセスを管理しキャラクタを公開した OMS(Open Material
System)の概念に基づく技術を確立する。
(3)熱光学特性の高精度校正技術の開発
レーザー干渉式熱膨張率測定装置に対して、温度、屈折率、レーザー波長の校正機能を付与する
ことにより、固体材料の熱膨張率、nL積膨張率・屈折率温度変化率などの熱光特性を高精度で校
正するシステムを確立する。また、これらの標準物質を整備し、上記で開発したシステム適用によ
る校正を施し標準物質を確立する。あわせて、ナノテクノロジープログラムに於いて開発された材
料の上記諸特性の高精度評価を行う。
3.達成目標
(1)薄膜・コーティングの熱拡散率を合成標準不確かさ(1σ)10%以内で絶対測定する技術基
準の作成。
(2)熱拡散率・比熱容量・熱伝導率標準物質の供給技術整備。
(3)膨張率等の熱光学特性を0.02×10 -6K -1 の分解能で校正する技術基準作成。
プロジェクト基本計画 P.7
プロジェクト用語集
微小要素物理特性の計測基盤
【エアロゾル粒子】
気体中に含まれる固体もしくは液体の微小な粒子。大きさはおよそ 1 ナノメートルから
10 マイクロメートル程度のものを指すことが多い。
【電気移動度】
静電場中に置かれた帯電エアロゾル粒子の運動速度の指標(単位電場強度あたりの
速度)。粒径が小さいほど周囲気体からの流体抵抗が小さいため、電気移動度は大き
くなる。電気移動度と粒径のこの関係を利用して、粒径についての分級を行う微分型
電気移動度分析器(DMA)がある。
【polystyrene latex 粒子】
スチレンの乳化重合反応により作成されるサイズが良く揃った粒子。これに粒径や質
量を値づけることで、標準粒子として利用可能となる。
【静電噴霧式粒子発生】
静電噴霧(エレクトロスプレー)の方法により液中懸濁粒子を気中発生させる技術。通
常利用される圧縮空気式噴霧乾燥法と比べると噴霧液滴径をより小さくできるため、
液中の微量不純物による粒子被覆の影響や蒸発残渣による背景粒子の発生を低減
できる。
【凝縮核式粒子計数器】
アルコールなどの過飽和蒸気中に粒子を導入することにより、粒子を核とする液滴を
成長させ、これを計数することにより粒子の個数を測定する装置。およそ 5nm 以上の
粒子に対する高精度計数が可能である。
【動的光散乱法】
溶液系における光散乱法には静的光散乱法と動的光散乱法があり、静的光散乱法が
散乱の角度依存性などをもとに分子量や回転半径を計測可能なのに対し、動的光散
乱法は散乱電場の時間相関関数を計測することにより、微粒子の分子運動速度を計
測できる。準弾性光散乱法と同義。Dynamic Light Scattering. Quasi Elastic Light
Scattering
【パルス磁場勾配 NMR 法】 通常の NMR 装置に、数 mm 程度の勾配磁場を発生することのできるプローブを装着
し、時間間隔を変えて磁場勾配パルスを印加することにより、微粒子の運動速度を計
測する方法。パルス磁場勾配スピン・エコーNMR と同義。Pulsed Field Gradient
NMR. Pulse-Gradient Spin Echo NMR, PFG-NMR.
【Stokes-Einstein の法則】 ブラウン運動粒子に関する粒径 R(半径)と拡散速度 D の関係を現わしている法則で、
媒体の粘度をηとするとき R=kT/(6πηD)で与えられる。ここで k はボルツマン定数、
T は絶対温度である。
【フィールド・フロー・フラクショネーション(FFF) 】流動場分離とも。液体クロマトグラフィーの一種。薄層中を流れる液
体の速度が壁付近ほど遅くなることを利用している。薄層に対し垂直に場をかけると、
小さな粒子は拡散係数が大きいため壁から離れて流速の大きい中心付近まで移動す
ることができる。そのため、粒子が小さいほど先に溶出してくる。
【多角度光散乱検出器】
溶液からの散乱光を複数(10 角度以上)の角度で同時に計測できる検出器。SEC の
オンライン検出器として使用され、分子量と回転半径の情報を得ることができる。
プロジェクト用語集 P.1
【ストークスシフト】
発光スペクトルの位置が、励起光の波長より長い方にずれること。周波数の異なる光
は、異なるエネルギーをもつので、このエネルギーの変化は、光と物体を構成する分
子との間にエネルギーの交換が起こっていることを示している。
【液中光散乱式粒子計数器】 溶液中に含まれる粒子に光を照射すると光が散乱される。ミー散乱理論により散乱
強度を測定することにより、粒子の径が測定でき、散乱光パルスの数を数えることによ
り粒子の数を数えることができる。
【フローサイトメーター】
細胞等を含んだ試料溶液流に光を照射し発生する散乱光を測定することにより、各細
胞等を解析研究する装置。
【Good Manufacturing Practice(GMP)】 医薬品の製造管理および品質管理規則のこと。医薬品、医療器具の供
給に対し、製造時の管理、尊守事項を定めたもの。
プロジェクト用語集 P.2
空孔の計測基盤
【陽電子】
電子の反粒子。記号 e+。電子と同じ質量・スピン、正の電気素量を持つ。加速器など
で発生した高エネルギーのガンマ線を金属ターゲット照射した時に放出される陽電子
やベータプラス崩壊する放射性同位元素から得られる陽電子が利用されている。
【陽電子消滅】
陽電子と電子が互いに消滅してガンマ線を放出する現象。運動していない陽電子と電
子が消滅時に放出するガンマ線の全エネルギー(E)はアインシュタインの関係 E=2mc2
(m:電子の質量、c:光速)で与えられ、1.022MeV となる。
【ポジトロニウム】
陽電子と電子が互いに結合した束縛状態。陽電子と電子のスピンが互いに反平行の
パラポジトロニウムとスピンが互いに平行なオルトポジトロニウムがある。真空中のオ
ルトポジトロニウムの寿命は 142ns であるが、空孔中で消滅するオルトポジトロニウム
の寿命は空孔サイズに依存して短縮されるため、その消滅寿命を計測して空孔サイズ
を得ることができる。
【2光子消滅】
物質中で陽電子が電子と消滅する際、陽電子と電子のスピンが互いに反平行であれ
ば、2本のガンマ線がほぼ反対方向に放出される。これを2光子消滅という。2光子消
滅で放出されるガンマ線のエネルギーは、ドップラー効果を無視すれば、0.511MeV と
なる。
【3光子消滅】
スピンが互いに平行な陽電子と電子が消滅すると3本のガンマ線が放出される。これ
を3光子消滅という。3光子消滅で放出されるガンマ線は、低エネルギー領域に広い分
布を持つ。物質中の陽電子やポジトロニウムは2光子消滅するが、オルトポジトロニウ
ムが物質表面から真空中に放出されたり、物質中のナノ空孔に捕獲されたりすると、3
光子消滅が生じる。
【チョッピング】
時間的に連続的な荷電粒子ビームにパルス状の電場等を印加することにより、ある短
い時間のみビームを切り出すこと。これにより、パルス状のビームが形成される。
【バンチング】
パルス状ビームを高周波電場等を用いて圧縮し、より短いパルス幅のビームを形成す
ること。
プロジェクト用語集 P.3
表面構造の計測基盤
【X線光電子分光法(XPS)】 固体にX線を照射すると、それまで固体内の原子に束縛されていた電子がエネルギー
を得て飛び出してくる。この電子を「光電子」と呼ぶ。この光電子のエネルギーや空間
分布を調べて試料表面近傍の元素の種類、化学状態、存在量を求める測定方法のこ
と。光電子は物質表面近傍のごく浅い領域からしか飛び出してこられないので本来的
に表面敏感な測定手段である。
【オージェ電子分光法(AES)】 固体に電子を照射すると、内殻電子が励起され「オージェ過程」とよばれるエネルギ
ー授受の連鎖反応が生じ、外殻の電子がエネルギーを得て飛び出してくる。この電子
を「オージェ電子」と呼ぶ。このオージェ電子のエネルギーや空間分布を調べて試料表
面近傍の元素の種類、化学状態、存在量を求める測定方法のこと。X線光電子分光よ
りも表面敏感であり、微小領域(<1μm)の分析にも適した測定手段である。
【同心円筒アナライザー(CMA)】 同軸に配置された半径の異なる2個の金属円筒間に電場をかけることで特定の
運動エネルギーの電子だけを透過させる構造の電子エネルギー分光器。単純な電子
光学系が構成できるため、理論強度と実際の感度の差が少ないが、エネルギー分解
能は劣る。主にオージェ電子分光に使用される。
【静電半球アナライザー(CHA)】 共通の中心点を有する半径の異なる2個の金属半球間に電場をかけることで特
定の運動エネルギーの電子だけを透過させる構造の電子エネルギー分光器。エネル
ギー分解能が優れていると言う特長があるが、事前に電子を減速させる必要がるため
電子光学系が複雑になり、理論強度と実際の感度の差が大きくなる場合がある。XPS、
オージェ両方に使用される。
【透過関数】
一般に装置の感度特性を指す。電子分光では「アナライザー(電子分光器)に一定量
の電子が入射したときの信号強度」が「電子の運動エネルギー」に対してどのように変
化するか、という形で記述される。透過関数が異なる装置で測定すると、同じ組成の合
金を測定しても、見かけ上組成比が異なった結果となる。透過関数の形状は主に電子
光学系の設計思想に依存するため、メーカー間や装置の開発時期の差により異なって
くる。
【試料帯電(チャージアップ)】 荷電粒子を励起又は検出に使用して絶縁性の試料の分光測定を行う際に試料の表
面が電荷を帯びる現象。光電子分光ではフォトン励起・電子検出なので正の帯電が生
じる。オージェでは励起・検出とも電子なので条件により正負いずれの帯電も生じる。
特に分析領域内で不均一な帯電が生じる場合はスペクトルの形状が変化するので注
意が必要。
【イオンスパッタリング】
アルゴンなどの不活性ガスイオンを高電圧(1~5kV 程度)で加速して試料表面に叩き
付けて表面の元素をはじき飛ばす手法。試料表面の吸着物の除去法として一般的で
あり、層状試料の深さ方向組成を順次分析することにも使用される。試料表面の還元
や原子配列の変化を生じる場合はスペクトルの形状が変化するので注意が必要。
【非弾性散乱】
その前後で散乱される粒子のエネルギーが異なっている散乱過程。固体中の電子の
場合、通常エネルギーが小さくなる(失われる)場合のことを指す。エネルギーが変わら
ない場合は弾性散乱と言う。
プロジェクト用語集 P.4
【非弾性散乱バックグラウンド】 固体のX線光電子分光の光電子ピークに重畳して観測される、固体を脱出するまで
にエネルギーを失った(非弾性散乱)光電子による成分のこと。本来のピークの形状を
歪めて強度の算出を困難にするため、正確な定量分析を行う上での最大の障害となっ
ている。
【非弾性散乱確率】
電子が媒質中を単位時間、単位距離進む間に非弾性散乱を受けてエネルギーを失う
確率。失うエネルギーDE の大きさに依存するため K(DE) と書くことが出来、一般に
物質によって異なる。文献中では同じ意味で「損失関数」という用語もよく用いられる。
【プラズモン】
固体内に自由に動ける多数の電子があると、それらはあたかも全体として気体や液体
のように振舞うことが知られている。そのため、固体内には通常の気体や液体中に存
在する音波(疎密波)に類似した電子集団のさざ波(振動)が存在し、これをプラズマ振
動という。プラズマ振動は量子力学的には、1個、2個...と数えられる粒子とみなす
ことができ、この見方による個々の振動に対応する「粒子」をプラズモンと呼ぶ。光電子
がこのような領域を通過すると、新たなプラズモンを生成して(さざ波を起こして)その
分だけエネルギーを失うことになる。このときの非弾性散乱確率 K(DE) では DE が
この振動数に対応するところに鋭いピークが立つ。アルミニウムは自由に動ける電子
が多くあり、電子の振る舞いをプラズモンとして記述できる典型的な物質である。
【シンクロトロン放射光】
シンクロトロンとは電子または陽電子を円軌道形(厳密には多角形)に配置された真空
ダクト中の軌道上に磁場により閉じ込め、高周波で加速することにより周回させるタイ
プの加速器である。シンクロトロン中で電子が軌道を曲げられると、その接線方向へ電
磁波が放出される。これをシンクロトロン放射といい、非常に指向性の高い光束が得ら
れる。シンクロトロンで発生する放射光は遠赤外線から X 線まで広い波長範囲の連続
スペクトルを有し、偏向性やパルス性などの優れた特徴を有する光源である。
【有効減衰長】
電子は物質内部から表面へと移動していくあいだに原子や分子による散乱を受けてエ
ネルギーを失う。ある一定の減衰を受けるまで電子が物質中を進む距離を考えこれを
有効減衰長といい、電子の運動エネルギーと物質の種類により定まる。すなわち有効
減衰長が大きければ内部の深いところからの光電子も表面に到達し、小さければ浅い
部分からの光電子しか表面に到達しない。
プロジェクト用語集 P.5
熱物性の計測基盤
【熱物性】
熱拡散率、比熱容量、熱伝導率など物質・材料の熱的特性を表す数値。
【熱拡散率】
物体内における温度分布の変わりやすさ。熱拡散率=熱伝導率/(比熱容量×密度)
により定義される。
【比熱容量】
単位質量の物体を単位温度だけ上昇させるのに必要な熱量。圧力一定条件下で定義
される定圧比熱容量と体積一定条件下で定義される定積比熱容量がある。
【熱伝導率】
物体内に単位の温度勾配があるとき、単位時間中に単位断面積を通って流れる熱エ
ネルギーにより定義され、熱の流れ易さを表す。
【界面熱抵抗】
2種類の物質が接合されたとき界面で生じる熱抵抗。
【熱膨張率】
圧力一定のもとで物体が熱膨張するとき、単位温度変化あたりの長さの変化率(線膨
張率)または体積の変化率(体膨張率)。
【nL 積】
光を透過する物質において、試料の長さと屈折率の積。光学的長さ。
【サーモリフレクタンス法】
物質の光に対する反射率が温度の関数として変化することに基づき、物体表面に入射
させた測温光の反射強度を検出し、その物体の温度を非接触で求める測温技術。
【放射測温法】
すべての物体が温度の関数として出している熱放射を検出し、熱放射の強度やスペク
トルからその物体の温度を非接触で求める測温技術。
【レーザフラッシュ法】
平板状試料の表面を空間的に均一な光パルスで加熱し、裏面の温度応答から試料の
熱拡散率を求める計測技術。金属、半導体、セラミックスなどの緻密な固体の熱拡散
率を計測し熱伝導率を求めるのに最も一般的に用いられる。
【ピコ秒サーモリフレクタンス法】 透明基板上に形成された薄膜の表面をピコ秒光パルスで加熱し、薄膜裏面の温
度応答をサーモリフレクタンス法により観測することにより薄膜の膜厚方向の熱拡散率
を求める計測技術。厚さ数 10nm~数 100nm の導電性薄膜の膜厚方向の熱拡散率と
薄膜間の界面熱抵抗が定量的に測定可能な唯一の計測技術。
【周期加熱放射測温法】
平板状試料の表面を空間的に均一な光を強度変調して加熱し、裏面の周期温度応答
の加熱光に対する位相遅れと振幅から試料の熱拡散率と比熱容量を求める計測技
術。
【示差方式レーザフラッシュ法】 通常のレーザフラッシュ法が1個の円板状試料を測定するのに対して、被測定試料
と参照試料を隣接して設置し同時にパルス加熱したときの温度応答を同時に観測する
計測技術。参照試料の熱容量が既知であれば、被測定試料の熱容量を求めることが
できる。コーティングの熱物性計測にも有用である。
【遮熱コーティング】
高温環境下で使用される耐熱合金などの基材表面に付けられた耐熱セラミックスなど
の膜で断熱機能により基材の温度を低下させ機器の作動温度を高温化するために用
いられる。ナノテクノロジープログラムにおいてはナノ構造により断熱性を向上させるナ
ノコーティングの開発が進められている。
【アサーマルガラス】
nL 積の温度変化が非常に小さいガラス。光ファイバに同時に多波長を通したとき波長
の異なる光に分ける分波器では温度など外部環境が変化しても nL 積が変化しないこ
とが要請される。
プロジェクト用語集 P.6
Ⅰ.事業の位置付け・必要性について
Ⅰ-1. NEDO の関与の必要性・制度への適合性
Ⅰ-1.1 NEDO が関与することの意義
知的基盤の公的に明確な一貫性、共通基盤性を確保するために、開発される校正技術は上位の国家
計量標準にトレーサブルな計量標準に基づくものであること、また標準物質の供給技術整備に関して
は、その供給体制の整備・維持を目的とすることから、実施に当たっては、関係の公的機関による整
備方針又は、計量法の方針に沿い、実施主体は関係の公的機関との密接な協力に基づくか又は公的機
関そのものによるものでなければならない。以上の理由により、民間投資に任せるのではなく、独立
行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下、「NEDO 技術開発機構」という)による国家的、
集中的な実施が必要である。
Ⅰ-1.2 実施の効果(費用対効果)
<費用>
表 1.2-1 開発予算
年度
石特会計(エネ高)
一般会計
H13
210
-
H14
228
-
H15
-
159
H16
-
146
H17
-
219
H18
-
300
H19
-
169
単位:百万円
合計
1,431
<効果>
本研究開発は、ナノテクノロジープログラムで実施されるプロジェクトに共通な超微細・高精度な
計測基盤技術を構築するとともに、新たな標準物質を開発することを目的とする。
ナノテクノロジープログラム全体では、超微細な物質構造を創製するプロセス技術及び計測技術を
開発するとともに、産業化に向け、得られる物質機能を向上・維持する成形・加工技術、評価技術を
開発し、超微細構造制御機能創製、加工、計測に係る基礎・基盤的技術の構築を図りつつ、得られた
データ、知識(既存の知識を含む)について構造、機能、プロセスの視点から体系化し、標準化等広
範な分野において活用可能な知識基盤を2007年度までに整備することにより、波及効果として、
2010年には市場規模19兆1000億円、雇用規模51.6万人の波及効果が想定される。
Ⅰ-2. 事業の背景・目的・位置づけ
Ⅰ-2.1 事業の背景・目的・意義
【事業の背景】
ナノ材料開発においては、超微細構造要素の属性及びそれに係わるプロセスの情報を的確に把握す
ることと、その結果として生み出される新たな材料の機能の客観的な評価がその成否を左右する重要
な課題である。このため、この新たな技術分野に対応する信頼性の高い計測技術を整備する必要があ
る。求められる計測技術は、ナノからマクロまで一貫した尺度、個別材料に拠らない共通的な測定量
を元にすると同時に、ナノ材料開発、ナノ材料製造、ナノ材料利用の各局面を通して普遍な評価基準
を与えること、つまり、標準物質・計測技術基準などのナノ材料知的基盤の形成と維持に直結するこ
とが重要である。
Ⅰ-(1)
超微細構造制御のための計測においては、微細化するとともに膨大な数で存在する要素の物理特性
とそれらの分布を把握するニーズ、微細構造を新たな観点から分析・同定するニーズがどの材料分野
にも共通して高い。また一方、光学的、電子的特性等従来注目の機能の他に実用上の設計において組
み込まれねばならない基盤的な熱的機能評価項目を計測対象とすることが分野共通的に求められてい
る。
以下、内外の技術開発動向について説明する。
・次世代産業のための基盤整備
ライフサイエンス、情報通信、環境及びナノテクノロジー・材料の各重点分野において技術開発が
進められているが、このような未知の領域、微小、微量、高精度等が求められている領域においては、
その研究開発自身の促進と迅速・確実な実用化の基盤となる計量標準が重要である。そのため、我が
国の次世代産業として期待されるこれらの分野において計量標準の整備を急ぐ必要がある。
・国際競争力の状況
我が国の計量標準の開発・供給は米国に比して大きく遅れているのが現状。今後、国際経済、研究
開発におけるフロントランナーとして、過酷な国際競争に勝ち抜くことのできる事業環境と技術力を
確保するためには、海外に頼らない計量標準供給体制の確保が重要である。
・政策動向
2010 年までに当該分野において世界のトップレベルの規模及び質を目指すべく、物理系の計量標準
250 種類程度(2005 年には 180 種類程度)、標準物質 250 種類程度(2005 年には 180 種類程度)の整
備を目指す。
(知的基盤整備目標(平成 15 年度見直し))
・最近の動向
平成16年5月18日に、自民党ナノテクノロジー推進議員連盟、総合科学技術会議、日本経済団
体連合会、ナノテクノロジービジネス推進協議会が合同で開催したナノテクサミットでのナノテクサ
ミット・大会宣言では、以下の7項目に重点を置いて全力で取り組むと宣言されている。
一.研究開発の戦略的推進
二.研究成果の事業化・産業化の推進
三.ナノテクノロジーによる製造業の競争力強化
四.ナノテクノロジーによる地域再生支援
五.スピンオフベンチャー支援
六.ナノテク人材育成の強化
七.ナノテクノロジーに関する研究開発インフラの整備
第二項目においては、「産学官が連携して日本発のナノテクノロジーに関する標準化を促進す
る。」とあり、また第七項目では、「我が国にポテンシャルのある計測機器及び標準物質の国産化を
促進し、計測または評価を請け負うネットワークを作り上げて計測インフラを整備し、我が国におけ
るナノテクノロジーの新たな強みとする。」と宣言している。
【事業の目的】
本プロジェクトでは、ナノテクノロジープログラムで実施されるプロジェクトに共通な超微細・高
精度な計測基盤技術を構築するとともに、新たな標準物質を開発することを目的とする。これにより、
材料ナノテクノロジープログラムで実施されるプロジェクトの計測基盤技術を提供して材料開発の知
識体系の信頼性向上に寄与するとともに、産業界でのナノ材料開発を支える知的基盤整備の推進に資
する。これにより、情報通信、建築、運輸、環境等の広範な分野に利用される基盤技術の形成に資す
る。
Ⅰ-(2)
【事業の位置付け】
物質をナノレベルで制御することにより、物質の機能・特性を飛躍的に向上させ、また、大幅な省
エネルギー化、大幅な環境負荷低減を実現し得るなど、広範な産業技術分野に革新的発展をもたらし
得るキーテクノロジーであるナノテクノロジーは、産業技術戦略(平成12年4月)における将来の
フロンティアを切り拓く技術の研究開発(革新的・基盤的技術の涵養)に位置付けられる技術領域と
して経済産業省によりプログラム化され、新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下、「NED
O」という。)が、研究開発の運営管理を行うに至った。さらに、同技術領域は、総合科学技術会議
の分野別推進戦略(平成13年9月)においても、「産業競争力の強化と経済社会の持続的発展」等
に不可欠な重点領域として改めて位置付けられた。
本研究開発は、超微細な物質構造を創製するプロセス技術及び計測技術を開発するとともに、産業
化に向け、得られる物質機能を向上・維持する成形・加工技術、評価技術を開発し、超微細構造制御
機能創製、加工、計測に係る基礎・基盤的技術の構築を図りつつ、得られたデータ、知識(既存の知
識を含む)について構造、機能、プロセスの視点から体系化し、広範な分野において活用可能な知識
基盤を平成19年度までに整備することを目標とする「ナノテクノロジープログラム」のうち、ナノマ
テリアル・プロセス技術の一環として、実施するものである。
「ナノカーボン技術」
「ナノ機能合成技術」
「ナノガラス技術」
「ナノコーティング技術」
「精密高分子技術」
「ナノメタル技術」
「ナノ粒子の合成と機能化技術」
「ナノ計測基盤技術」
「材料技術の知識の構造化」
図Ⅰ.1 ナノテクノロジープログラム
Ⅰ-(3)
Ⅱ.研究開発マネジメントについて
Ⅱ-1.事業の目標
【事業の全体目標】
ナノ材料開発という新たな技術分野に対応できる信頼性の高い計測技術を整備するために、標
準物質・計測技術基準などのナノ材料計測基盤技術の構築を行う。具体的には、高分子や微粒子
などの微小要素の質量・サイズ・濃度といった物理特性、各種材料に含有されるナノ空孔、ナノ
材料の特性を支配する表面構造、およびナノ構造の熱物性の各々について、高精度計測・校正技
術を開発し、これらの特性に関わる標準物質を開発する。これにより、材料ナノテクノロジープ
ログラムで実施される各プロジェクトの計測基盤技術を提供するとともに、産業界でのナノ材料
開発を支える知的基盤整備の推進に資する。
具体的には平成19年度までに、ナノテクノロジープログラム・マテリアルプロセス技術にお
いて実施されるプロジェクトに共通な機能特性、構造の計測基盤技術を確立する。また、ナノ材
料に関する8種類以上の新たな標準物質を確立する。
【中間目標】
なお、プロジェクト第3年度終了時点までの研究成果として、研究開発目標の一部の特性ある
いは機能を有する物質あるいは材料について、少なくとも1点を試用に供し得る段階まで作製し、
企業、大学等の外部機関に対して試料を提供するものとする。
尚、具体的な目標(値)については、ワークショップ、審議委員会を開催し、関連技術分野に
おける有識者の議論を反映した。
Ⅱ-(1)
Ⅱ-2.事業の計画内容
Ⅱ-2.1 研究開発の内容
上記目標を達成するため、以下の研究項目について、研究開発を実施する。
① 微小要素物理特性の計測基盤
② 空孔の計測基盤
③ 表面構造の計測基盤
④ 熱物性の計測基盤
◆微小要素物理特性の計測基盤
V
試料粒子
電極
回転
質量が揃った粒子
パルス化装置
・微細な空孔を
計測するため、
陽電子消滅法
を中心とした
校 正技術を
開発、利用法
の 標準化
加速電極
磁場発生コイル
試料
γ線検出器
磁場発生コイル
真空ポンプ
真空ゲージ
真空ポンプ
真空ゲージ
試料準備室
真空ポンプ
真空ゲージ
22Na
・粒子質量校正技術と粒子
質量標準物質の開発、微
小要素サイズ校正技術と
サイズ標準物質の開発、
粒子数濃度校正技術と濃
度標準物質の開発
◆空孔の計測基盤
減速材
【粒子質量分析装置】
鉛遮蔽
【エネルギー可変パルス化陽電子寿命計測装置】
超微細・高精度な計測基盤技術の構築
新たな標準物質の開発
◆表面構造の計測基盤
◆熱物性の計測基盤
・光記録メディア等の 多層薄膜熱物性計測技術、アサーマ
ルガラス等の熱光学特性の計測技術と標準物質の開発
・シンクロトロン放射光(波長の幅が広く、表面からの
深さ方向の情報が得られる。)を用いた表面分析手
回折
法に必要な校正技術の確立、標準化
計測装置の説明
蛍光
シンクロトロン加速器
測温パルス光
試料
20
加熱パルス光
放射光
10
5
200 nm
0
硬X線
光電子
薄膜 透明基板
表面
ピコ秒パルス加熱後の温度変化を測定する
【放射光を用いた複合的な高度解析システム】
Thermoreflectance s
軟X線
100 nm
2ps
透過
二次電子
70 nm
15
2ps
0
100
200
300
400
500
600
Time / ps
モリブデン薄膜裏面の超高速温度変化
図Ⅱ. 1 研究開発項目
【研究開発の実施期間】
本研究開発の期間は、平成13年度から平成19年度までの7年間とする。
【研究開発予算】
予算の推移を表Ⅱ-2.1-1 に、研究開発項目別の予算配分を図Ⅱ-2.1-2、その詳細を表Ⅱ-2.1-2 に
示す。
(単位:百万円)
会計・勘定
H13fy
H14fy
一般会計
特別会計
(電多・高度化・石油)
総予算額
*) 採択時の要求額
**) 限度額変更後契約額
H15fy
H16fy
H17fy
H18fy
H19fy
合計
159
146**
219**
300**
169**
993
210
228
210
228
159
146**
219**
300**
169**
1,431
(211*)
(211*)
(210*)
(210*)
(214*)
(209*)
(129*)
(1,394*)
表Ⅱ-2.1-1 予算推移
Ⅱ-(2)
350
300
200
① 微小要素
物理特性の計
測基盤
② 空孔の計
測基盤
150
③ 表面構造
の計測基盤
配分予算(百万円)
250
④ 熱物性の
計測基盤
100
50
0
H13
H14
H15
H16
年度
H17
H18
H19
図Ⅱ-2.1-2 テーマ別予算推移
(単位:百万円)
研究開発項目(サブテーマ)
①
微小要素物理特性の計測
基盤(AIST)
空孔の計測基盤(AIST)
配分比
③
表面構造の計測基盤(AIST)
配分比
④
熱物性の計測
基盤
56
H14
43
H15
34
H16
36
(加速)
配分比
②
H13
AIST
59
合計
H19
計
59
30
334
人数
11
34%
25%
27%
23%
41%
20%
22%
27%
30
30
22
25
45
71
39
262
18%
17%
17%
16%
24%
25%
28%
21%
29
33
22
17
12
20
14
147
18%
19%
17%
11%
6%
7%
10%
12%
32
48
35
36
39
85
40
368
18
14
113
5
(+33)
17
18
13
11
10
10
(+17)
13
(加速)
配分比
H18
(+17)
(加速)
JFCC
H17
27
(+9)
30%
38%
38%
51%
28%
48%
39%
40%
164
172
126
158
185
288
137
1230
表Ⅱ-2.1-2 テーマ別予算推移
Ⅱ-(3)
54
【研究全体の計画内容】
ナノ材料開発においては、超微細構造要素の属性及びそれに係わるプロセスの情報を的確に把
握することと、その結果として生み出される新たな材料の機能の客観的な評価がその成否を左右
する重要な課題である。このため、この新たな技術分野に対応する信頼性の高い計測技術を整備
する必要がある。求められる計測技術は、ナノからマクロまで一貫した尺度、個別材料に拠らな
い共通的な測定量を元にすると同時に、ナノ材料開発、ナノ材料製造、ナノ材料利用の各局面を
通して普遍な評価基準を与えること、つまり、標準物質・計測技術基準などのナノ材料知的基盤
の形成と維持に直結することが重要である。
超微細構造制御のための計測においては、微細化するとともに膨大な数で存在する要素の物理
特性とそれらの分布を把握するニーズ、微細構造を新たな観点から分析・同定するニーズがどの
材料分野にも共通して高い。また一方、光学的、電子的特性等従来注目の機能の他に実用上の設
計において組み込まれねばならない基盤的な熱的機能評価項目を計測対象とすることが分野共通
的に求められている。
図Ⅱ. 2 に各サブテーマの研究項目、開発技術、成果物が示されている。
テーマ
研究項目
開発技術
成果物
微小要
素物理
特性
①粒子質量
②サイズ校正技術
③粒子数濃度
①エアロゾル粒子質量分析装置
②拡散係数法微粒子粒径計測技術
③気泡・粒子・識別計数装置
①質量標準物質(1000 fg - 1 fg)
①②粒径標準物質(100nm以上, 50-100 nm, 1-50nm)
②高分子分子量標準物質(多分散)
③粒子数濃度標準物質(20μm- 500 nm)
空孔
④空孔
④普及型陽電子寿命測定技術
④低速陽電子寿命測定の校正技術基準
④陽電子3光子消滅率測定の校正技術基準
④バルク寿命測定の標準仕様書(TS: 素案)
④陽電子寿命による超微細空孔測定用石英ガラス
(NMIJ CRM 5601-a)
④高分子中の超微細空孔標準物質
(平成20年度認証予定)
④空孔測定用薄膜標準(サブナノ・ナノ空孔)
④小型化陽電子寿命測定技術
表面構
造
表面分析法
⑤精密化校正技
術
⑥スペクトルデータ
⑤深さ可変X線光電子分光技術
⑥スペクトル高精度測定技術
⑥バックグラウンド解析プログラム
⑥X線光電子分光スペクトルデータベース
熱物性
⑦薄膜界面熱物
性
⑧標準物質
⑨熱光学特性
⑦ピコ秒サーモリフレクタンス法
⑦ナノ秒サーモリフレクタンス法
⑦フェムト秒サーモリフレクタンス法(微小領域・
低温)
⑦レーザフラッシュ法熱拡散率計測技術
⑦周期加熱法熱物性計測技術
⑧熱物性均質性安定性評価技術
⑨レーザ熱膨張/nL積計測技術
⑦薄膜熱拡散依頼試験(対象例100 nm金属膜)
⑦薄膜熱拡散依頼試験(対象例1 μm 窒化チタン膜)
⑦⑧薄膜熱拡散率標準物質(平成20年度認証予定)
⑦⑧コーティング標準物質(セラミックス系4種類)
⑧周期加熱サーモリフレクタンス法測定方法(TS:素案)
⑨熱膨張率測定5-35℃
⑨光学ガラス熱膨張率/nL積標準データ(SQG, BK7)
図Ⅱ. 2 各サブテーマの研究項目、開発技術、成果物
Ⅱ-(4)
【研究開発項目毎の詳細計画内容(1)】
(1)微小要素物理特性の計測基盤
(1-a)粒子質量校正技術と粒子質量標準物質の開発
ナノ粒子の生成・成長過程の解析と制御、あるいはナノ粒子が様々な材料生産プロセスに及ぼ
す影響の評価等のために、粒子の正確なキャラクタリゼーションが必要である。凝集や破砕等に
より生成した粒子はしばしば不定形であるため、粒子形状に依存しない普遍的物理量としての粒
子質量の高精度計測がこの目的に有効である。粒子質量の計測方法はこれまで知られていなかっ
たが、最近、粒子に働く遠心力と静電気力の平衡を利用する方法が提案された。これは高速回転
する円柱型電極間に帯電粒子を含む気体を流し、遠心力と静電気力が平衡する粒子のみが電極間
を通過できることを利用して特定の質量を有する粒子を選択的に取り出す原理に基づいている。
しかし、装置内部における粒子の拡散沈着や試料気体流れの制御の困難さ等により、実験データ
と理論との定量的比較はまだ困難な段階にあり、実用的計測技術として確立するに至っていない。
本研究開発では、この原理に基づく粒子質量計測技術を実用化するため、装置内部における粒
子運動と装置動作特性の詳細を実験的および理論的に解明し、この知見に基づいた信頼度の高い
実用的粒子質量計測技術を開発する。複雑な装置内各部形状に配慮した電場、試料気体流れ場、
およびこれらのもとでの粒子運動の理論的計算と実験的確認にもとづき装置設計の最適化を行う。
この原理に基づく粒子分級特性を評価し、分級分解能の幅の影響を考慮したデータ解析方法を確
立する。また、この方法が粒子質量の絶対計測を可能とすることから、これを利用して単分散粒
子の質量値づけを行い、標準試料として利用できるようにする。さらに、粒子のキャラクタリゼ
ーションのために、粒子密度の決定も粒子物性同定の観点から有効であるため、電気移動度分析
等による高精度粒径計測技術と本方法との併用による粒子密度計測技術を確立する。
(a)粒子質量校正技術と粒子質量標準物質の開発
試料粒子
V
頻
度
粒子質量
粒
電極
径
回転
粒子キャラクタリゼー
ションへの利用
粒子質量分析装置
粒子質量標準物質
質量が揃った粒子
1 fg
粒子質量による分級
図Ⅱ. 3 粒子質量校正技術と粒子質量標準物質の開発
【中間目標】
装置内粒子運動の詳細を明らかにし、粒子質量計測装置のプロトタイプを完成する。
【最終目標】
1 fg から 1,000 fg(fg=フェムトグラム)の範囲において、単分散粒子の質量の値づけを行い、
標準物質として確立する。
Ⅱ-(5)
(設定理由)
粒子の運動特性に質量が大きな影響を及ぼすと考えられる粒径 50 nm から 1000 nm の範囲(粒
子密度を 1,000 kg/m3 から 10,000 kg/m3 と想定)において、粒子質量の標準試料を提供すること
が可能となる。これを用いて、粒子キャラクタリゼーションのニーズの高い範囲の質量計測技術
の信頼性を確立する。
(1-b)微小要素サイズ校正技術とサイズ標準物質の開発
高分子の広がりを含め微粒子の平均サイズを計測する方法として、動的光散乱(DLS)や核磁気
共鳴(NMR)から得られた拡散係数をストークス-アインシュタイン式(SE 式)に代入して求め
る方法がある。また、微粒子から散乱される光の散乱パターンから平均サイズを求める方式もあ
り、拡散係数法とあわせ粉体の粒子径計測によく用いられている。しかし、これらの方法により、
目標となる 100 nm 以下の微粒子の平均サイズやその分布を正確に決定しようとする場合、装置系
の性能の不完全さに起因する問題、SE 式の理論的適用限界、小角領域での光散乱パターンモデル
の正確さ、また時間相関関数からサイズ分布を求める解析上の問題など理論的、技術的に未評価
の問題があり、信頼性の高いサイズ計測技術確立の障害となっている。
これらの評価に総合的に取り組むことにより、溶液中での高分子およびナノ粒子の拡散係数を
DLS と NMR により高精度に計測し、平均粒子径を決定する方法を確立する。具体的には、SE 式の
適用限界を理論的あるいは動力学的計算機シミュレーションにより評価し、その結果を特に小さ
い粒子径の不確かさ評価に適用する。また、均一粒子径混合試料などを用いて DLS および NMR に
よる拡散測定を行い、時間相関関数からサイズ分布を逆ラプラス変換により決定する際の不確か
さ評価を行う。さらに、拡散測定では直接得られないサイズ分布や高分子の分子量分布を決定す
るために、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)およびフィールドフロー分離(FFF)によるサ
イズ分離を行ったあと多角度光散乱検出器(MALLS)による散乱パターン計測を行い、分布そのも
のを高精度に計測する校正系を確立する。これらの校正計測系に基づき、平均値と分布とが決定
された粒子径標準物質と高分子分子量標準物質の開発を行う。
(b)微小要素サイズ校正技術とサイズ標準物質の開発
高分子/ナノ粒子径の分布
高分子/ナノ粒子径の分布
と平均サイズ
と平均サイズ
頻度
高精度計測技術の確立
NMRパルス波
高分子・サイズ
標準物質開発
液体中での拡散係数
液体中での拡散係数
光散乱パターン
光散乱パターン
レーザー光
1~100nm
*分子からサブミクロン粒子まで
Log (分子量/粒子径)
図Ⅱ. 4 微小要素サイズ校正技術とサイズ標準物質の開発
【中間目標】
① 50~100 nm の領域においては相対誤差 5 %以下の不確かさで、20~50 nm の領域においては相対誤差 10 %以
Ⅱ-(6)
下の不確かさで動的光散乱法により微粒子粒径を計測する技術基準を確立する。
②
0.2~20 nm の領域において、核磁気共鳴(PFG-NMR)法により相対誤差 10 %以下の不確かさで微粒子径を計
測する技術基準を確立する。
【最終目標】
①1 nm から 100 nm の範囲での粒径計測基準と粒径標準物質の開発
②高分子分子量標準物質(多分散)を少なくとも1件開発
(設定理由)
ナノ粒子や高分子を利用する技術において、100 nm 以下の粒子径や相応する分子量を高精度に
計測する技術とそれを校正するための標準物質が不可欠である。
(1-c)粒子数濃度校正技術と濃度標準物質の開発
液相中粒子の個数濃度の計測方法として、液中光散乱式粒子計数法、コールターカウンター法、
光遮断法などによる各種計測器が広く使用されるようになっている。しかし、粒子数濃度の校正
技術が存在しないため、これらにより得られる測定値の信頼性が確立していない。特に液体中で
容易に発生・消滅する気泡が粒子として誤って計数される現象が深刻な偽計数をもたらすと考え
られているが、このような現象がどのような条件下でどの程度の影響を有するかは解明されてい
ない。本研究開発では、試料液体の状態やサンプリングに伴って生じる気泡と粒子とを、粒子か
ら放出される蛍光を利用することにより識別する技術、および計数器の粒子計数効率とその信頼
性を評価する技術を開発し、これらを利用して粒子数濃度標準液の値づけと不確かさ評価を行う。
さらに粒子数濃度標準液を用いた粒子計数器の校正技術を確立する。
【中間目標】
2 μm から 10 μm の粒径範囲において、試料粒子からの蛍光を計測する装置を試作する。
【最終目標】
500 nm から 10 μm の粒径範囲における粒子数濃度校正技術基準の作成とその標準物質を開発す
る。
(設定理由)
半導体製造過程などナノテクの現場では、高度清浄水を洗浄に用いており、100 ml 中の 500 nm
粒子の個数でギャランティーをしているが、規格が統一されていなく、また、国家標準が無いた
め校正技術を確立できていない。日本薬局方による清浄度管理においても、500 nm 以上の粒子数
を制御することを求めている。ほとんどの洗浄水のもととなる水道水供給においても、水道法に
より 500 nm から 10 μm の間の粒子数を制御することが求められている。この範囲の校正技術の
確立により、半導体製造プロセスの清浄度管理等で利用されている光散乱式液中粒子計数器の校
正など、産業界で広く利用されている粒子関係計測器の信頼性向上に大きな貢献を果たせる。
Ⅱ-(7)
【研究開発項目毎の詳細計画内容(2)】
(2)空孔の計測基盤
薄膜材料中にナノ空孔を導入することにより、その光学的、電気的、熱的、化学的、機械的特
性を制御することができる。ナノ空孔を測定する手法として、従来から気体吸着法や透過電子顕
微鏡などが用いられてきた。しかし、気体吸着法では、薄膜に対する感度が十分でない上に、密
閉した孤立ナノ空孔を検出できず、透過電子顕微鏡では、試料調整に時間がかかる上、軽元素か
ら構成されるアモルファス材料では像のコントラストがつきにくい。
陽電子は、
材料中のサブ nm-10 nm の微細空孔に選択的に入りやすいという特性を持っている。
このため、試料中で消滅した陽電子から放出されるガンマ線のエネルギー分布や、ガンマ線放出
時間の測定から求めた陽電子寿命により、ナノ空孔の平均サイズおよびサイズ分布に関する情報
を得ることができる。物質中の陽電子寿命は陽電子位置の電子密度に反比例するので、大きな空
孔ほど長くなる。また、大部分の陽電子はエネルギー0.511 MeV のガンマ線を2本放出して消滅
するが、電子との束縛状態であるポジトロニウムを形成し、開放空孔をとおって真空中に飛び出
して消滅した場合は、エネルギーの低いガンマ線を3本放出して消滅する。このため、陽電子の
3光子消滅率を測定することにより、開放空孔に関する情報を得ることができる。陽電子消滅法
は、試料内部の空孔を非破壊的に測定でき、また、入射陽電子のエネルギーを変化させることに
よりナノ空孔の試料中付加分布が測定できるなど他の手法にはない大きな利点を有している。し
かしながら、現在のところ、陽電子消滅実験には大型施設が必要であり材料開発現場に即座に応
用することができず、また、標準的な装置や市販装置がないので得られたデータの信頼性や定量
性が保証されていないといった問題がある。
以上のような背景のもとに、本研究では、放射性同位元素から得られる陽電子線を用いるコン
パクトな普及型陽電子寿命測定装置を開発するとともに、3光子消滅および陽電子寿命データの
妥当性を確認するための標準試料や測定に関する技術基準を作成し、陽電子消滅法によるナノ空
孔計測のための標準化技術開発を行う。
普及型陽電子寿命測定装置の開発のために、高効率で陽電子ビームをパルス化する陽電子ビー
ムチョッパーおよびバンチャーから構成される陽電子パルス化技術を開発する。この技術を用い
て放射性同位元素
22Na
から得られる陽電子ビームに時間変調を与え、陽電子さらに、バルク試
料の陽電子寿命のための標準物質の開発、標準仕様書の作成を行う。パルスの試料への到達時刻
と試料中で陽電子が消滅した時に放出されるガンマ線の検出時刻との時間差を測定することによ
り陽電子寿命を計測する。このために、まず半径 1 - 10 nm 空孔の計測のための時間分解能 500 ps
以下で測定時間範囲 500 ns のパルス化陽電子寿命測定装置を試作し、その性能確認や高度化の
ための試験を行う。その後、サブ nm 空孔計測用の高分解能陽電子寿命測定技術(時間分解能 300
ps 以下)の開発を行う。
陽電子消滅法の専門外技術者への普及を想定した場合、測定装置の校正および得られたデータ
の妥当性確認を可能にする標準試料開発の意義は大きい。そのため、ゾル・ゲル法、化学気相堆
積・プラズマ重合法によりナノ多孔質薄膜を作製する技術を開発し、ナノ空孔測定用標準試料を開
発する。最初に 1 nm 以上の比較的大きな空孔計測用の標準試料を開発し、その後サブ nm 空孔
測定用の標準試料開発を行う。標準試料開発とともに、陽電子寿命測定と陽電子 3 光子消滅のた
めの技術基準を策定する。
Ⅱ-(8)
【中間目標】
①ナノメートル(1 – 10 nm)サイズの空孔計測のための普及型陽電子寿命測定装置(測定時間範囲 1 – 1000 ns)
の開発
②ナノメートル(1 – 10 nm)サイズの空孔計測のための酸化ケイ素系薄膜空孔標準試料の開発
【最終目標】
①サブナノメートル(<1 nm)サイズの空孔計測のための普及型陽電子寿命測定装置(時間分解
能 250 ps の開発
②ナノメートル(<1 nm)サイズの空孔計測のための酸化ケイ素系薄膜空孔標準試料の開発
(設定理由)
ナノテクノロジー分野やナノ材料開発分野においては、サブ nm から数 nm の空孔を導入する
技術が極めて重要な課題となっている。このため、この範囲の大きさのナノ空孔を計測できる普
及型陽電子寿命測定装置および信頼性の高い測定のための標準試料、技術基準が要求されている。
技術開発課題
陽電子寿命測定によるナノ空孔評価のニーズ
気体分子
陽電子
陽電子
e+
e+
表面層
空孔
0.4~1.0nm
高分子
1.薄膜材料に適用するための
陽電子の低エネルギー化
γ線
γ線
空孔
2.時間情報抽出のための
陽電子ビームのパルス化
基板
透過気体分子
気体分離膜・包装材
パルス化装置
磁場発生コイル
3.材料開発現場への応用する
ための普及型装置の開発
堆積薄膜・多層膜
加速電極
試料 γ線検出器
陽電子寿命データの例
磁場発生コイル
真空ポンプ
真空ゲージ
真空ポンプ
真空ゲージ
試料準備室
Counts
104
空孔サイズ: 0.3 (nm3)
103
真空ポンプ
真空ゲージ
22Na
空孔サイズ: 0.25 (nm3)
102
2
減速材
[バルブ、電源類は省略されている]
鉛遮蔽
図Ⅱ. 5 空孔の計測基盤
Ⅱ-(9)
4
6
Time (ns)
8
【研究開発項目毎の詳細計画内容(3)】
(3)表面構造の計測基盤
(3-a) 表面分析法の精密化校正技術
薄膜や触媒、センシングデバイスといった表面に機能を持つ機能材料に対する表面組成、電子
状態等のキャラクタリゼーションの手段としてX線光電子分光法(XPS)が広く使われている。従来
の XPS 装置の光源として主に用いられている Mg と Al の Ka 線の励起波長は 1.2~1.5 keV に限定
されており、電子の脱出深さが数 nm に限定される。そのため、表面近傍での深さ方向分析を行う
ためには、スパッタにより表面を削るか、検出角度を変えるかのいずれかの方法がとられてきた。
このような方法では、スパッタにより表面の状態が変わったり、検出角度による電子の見かけの
脱出深さが表面の状態に依存するため、正確な測定はできなかった。
本研究ではシンクロトロン放射光のエネルギー可変性を生かして、従来の XPS ではできなかっ
た励起エネルギーを変えることによる非破壊分析深さ方向分析の測定および解析法の開発を行い、
高精度化、標準化を図る。従来用いられてきた Mg や Al の Ka 線より低い励起エネルギーを用いる
ことにより分析深さを 1 nm のオーダーの最表面にまで拡張し、種々の物質中の低エネルギー電子
の非弾性散乱平均自由行程を標準薄膜試料の作成、測定により正確に決定し、深さ方向の定量性
の精度を向上させる。また特定の元素の吸収端近傍で起こる共鳴現象を利用することで、特定の
放射光を用いた複合的な高度解析システム
試料
高分解能、高強度、マイクロビーム、偏光の利用
粒子
フォトンファクトリー
SPring-8
ESRF(欧州)
CLS(加)
etc.
Absorption
膜
回折
シンクロトロン加速器
Fourier Transform (arb. units)
元素の電子状態についてもより詳細に解析する技術を確立する。
高分子
メタル
蛍光
触媒
0
Photon Energy
2
3
4
5
EXAFS
放射光 二次電子
軟X線
1
R/Å
etc.
透過
光電子
表面
硬X線
バルク
特定元素の周りの局所構造(配位
数、結合距離、構造の乱れ)
In situ
Photoelectron Yield
XPS
二次
電子
XPS
表面原子の電子状態、組成
蛍光
励起エネルギー可変XPSによる
非破壊深さ方向分析
回折
共鳴光電子分光
Binding Energy
XAFS
構造解析、電子状態解析、定量分析の融合
図Ⅱ. 6 表面分析法の精密化校正技術
【中間目標】
遷移金属材料について 2 nm~10 nm の膜厚を有する薄膜試料を作成し、光電子分光スペクトルの励起エネルギー
および検出角度の依存性のデータを測定するとともに、電子顕微鏡など他の評価方法によって得られた薄膜の物
性値と比較検討することにより、薄膜中の光電子の平均自由行程のエネルギー依存性を求める。そのデータを元
Ⅱ-(10)
に一ないし二種類の遷移金属材料について薄膜試料の作製条件について膜厚の精度や不確かさについて検証し、
標準化のための最適条件を決定する。
【最終目標】
不確かさ 0.2nm 以下で表面から 2 nm 以下の非破壊組成深さ方向分析技術の高精度化を行う。ま
た、ナノ材料評価のための深さ方向分析用標準試料を作成する。
(設定理由)
ナノ材料開発で必要となる表面機能評価において、これらの深さ領域での分析手法が求められ
ている。
(3-b)表面分析法標準スペクトルデータの確立
X線光電子分光(XPS)およびオージェ電子分光スペクトル測定により、試料表面近傍数 nm 程
度の領域に存在する元素の種類、化学状態(酸化数)およびその存在量を評価することができる。
これらの分析法はその分析深さが小さく、表面の汚染(吸着)や化学変化に影響されやすいため、
バルク試料の組成を分析するときには通常イオンスパッタリングなどの前処理を行う。この前処
理工程により試料の物理・化学的性状が変化し、定量分析を校正するための標準参照分光スペク
トルとして利用することができないことが、提案者らの研究で判明している。本研究課題におい
ては、この前処理段階での試料の物理・化学的性状の変化を最小限にした表面分析スペクトル取
得技術を開発し、そのような条件で多様な試料を測定した標準スペクトルデータベースを構築す
る。
固体の XPS スペクトルのピーク形状は一般に、非弾性バックグラウンドの存在により歪んでい
るため、定性的にも定量的にも解析が困難である。さらに、仮にバックグラウンドが正しく差し
引けたとしても,ピーク強度はその元素の表面付近における深さ方向の分布形状に大きく依存す
るので、分布が一様でない場合はその分布形状を仮定する必要がある。第一の問題点を解決する
ために,光電子と試料固体中の電子系との非弾性散乱相互作用を記述する Tougaard の理論式を
用いて,非弾性散乱バックグラウンドを求める手法を今まで開発してきた。本提案では、シンク
ロトロン光源の特長である波長可変性を利用し、第二の問題点である分布が一様でない場合の解
析を可能にするための拡張をおこなう。さらに、これを用いて実際のスペクトルを解析し,非弾
性散乱機構に関するデータベースを構築する。
【中間目標】
①最終目標の 40 物質中金属元素 5~7 元素の酸化物、窒化物、ハロゲン化物など約 20 物質について、100 種の
遷移のスペクトルを取得しデータベース化する。
②任意の装置を任意のアナライザー分解能で運転した際のスペクトル強度比を補正可能にする技術の開発を行
う。
③表面に存在する数 nm 厚の層状構造(Si 上の SiO2 極薄膜等)の表面層と下地からの信号を識別し、元素分布、
及び、非弾性散乱機構の変化を決定できるアルゴリズムを開発し、このモデルを適用し、実スペクトルを解析す
る。
Ⅱ-(11)
図Ⅱ. 7 表面分析法標準スペクトルデータの確立
【最終目標】
7年間で金属等 15 元素の化合物 40 物質について 400 本の標準スペクトルを取得する。非弾性
散乱機構解析法を組成分布が一般の場合に発展させ,表面近傍にナノメートルオーダーの構造を
もつ材料を解析してデータベースを構築する。
(設定理由)
当初2年間のデータの問題点を再検討し前処理装置の改良、より高分解能な装置での再測定な
ども含め、後半5年間、年 10 物質程度、合計 50 物質について平均で各手法5本のスペクトル取
得を達成する。非弾性散乱機構の解析に関しては,複雑な組成分布と入射エネルギーが可変であ
ることに起因する解決すべき課題の本質的な点は上記 3 年経過時の目標の中に含まれ、その後は、
もっぱら効率的な計算をいかに行うかが問題となると予想される。
Ⅱ-(12)
【研究開発項目毎の詳細計画内容(4)】
(4)熱物性の計測基盤
(4-a)薄膜・界面熱物性の高精度校正技術の開発
熱拡散率、比熱容量、熱伝導率、熱膨張率などの熱物性値は熱設計・構造設計を行うために不
可欠である。しかし、従来の熱物性計測技術は主にバルク材料を対象としており、ナノ構造を対
象とする信頼性の高い計測技術は極めて未成熟な段階にある。その理由は従来の熱工学では 1 mm
程度より長い距離のマクロなエネルギー移動の考察が主要課題であったためでもあるが、技術的
観点からはバルク材料の熱物性計測に対してミクロ・ナノ領域の熱物性計測が格段に困難なこと
に帰着される。
ナノ材料にとって重要な薄膜の熱拡散率や薄膜間の界面熱抵抗を計測するためには、薄膜の膜
厚方向に表面から裏面まで熱が拡散するより十分短い幅でパルス加熱するか短い変調周期で周期
加熱し、その温度応答を高速で測定する必要がある。膜厚 100 nm 程度の金属薄膜では、膜厚方
向の熱拡散時間は数 10 ps であり、従来の熱物性計測技術で用いられたヒータによる通電加熱や
放射温度計による測温では対応できない。
本研究課題では、膜厚 100 nm 程度の金属薄膜の熱拡散率および薄膜間界面熱抵抗から、膜厚
200 μm 以下のコーティング膜の熱拡散率およびコーティング/基板間の界面熱抵抗まで、広範な
ナノ材料の熱物性を計測対象とする。従って、ピコ秒パルスレーザによる超高速加熱技術に加え
て高速周期変調レーザビーム加熱技術の開発、サーモリフレクタンス法超高速測温技術に加えて
高速放射測温技術の開発に取り組む。
これらの要素技術開発の成果に基づき、ピコ秒パルスレーザ光加熱法薄膜熱物性計測装置に対し
て、光反射率法及び高速赤外放射法による高精度測温校正機能を付加して高精度熱物性校正装置
システムを整備・評価する。これを用いて薄膜の熱拡散率、薄膜間界面熱抵抗、コーティングの
熱拡散率、及びコーティング/基板間の界面熱抵抗を校正する技術を確立し、薄膜・コーティング
の熱拡散率を標準不確かさ 10 %以内で絶対測定する技術基準を作成する。
20
測温パルス光
加熱パルス光
70 nm
15
2ps
100 nm
2ps
10
5
薄膜 透明基板
200 nm
0
Thermor
0
100
200
300
400
Time / ps
図Ⅱ. 8 薄膜・界面熱物性の高精度校正技術の開発
Ⅱ-(13)
500
600
【中間目標】
ピコ秒サーモリフレクタンス法薄膜熱拡散率計測技術を改良し、金属薄膜のみならず、半導体薄膜、酸化物薄
膜など非金属薄膜の熱拡散率と薄膜間界面熱抵抗の計測を実現するために、サーモリフレクタンス信号の検出感
度の向上、局所的・過度的温度上昇絶対値の評価技術の開発、及びピコ秒パルス加熱後の過度温度変化観測時間
領域の拡大を実現する。
レーザフラッシュ法および周期加熱放射測温法の要素技術である赤外高速放射測温技術、高速周期加熱技術を
開発するとともに、要素技術をシステム化して変調周波数 1 Hz~100 kHz 以上の周期加熱放射測温法熱物性測定
装置を試作する。開発された技術により(財)ファインセラミックスセンターにおいて作成されたコーティング
標準物質の熱拡散率とコーティング/基材間界面熱抵抗を値付ける。
【最終目標】
ピコ秒サーモリフレクタンス法薄膜熱拡散率計測技術を改良し、金属薄膜のみならず、半導体
薄膜、酸化物薄膜など非金属薄膜の熱拡散率と薄膜間界面熱抵抗の計測法を実現する。
示差方式レーザフラッシュ法および周期加熱放射測温法により、膜厚 200μm に至るコーティン
グ膜の熱拡散率およびコーティング/基材間の界面熱抵抗を室温から 800 ℃以上の温度範囲で計
測する技術を開発する。さらに、上記の技術を体系化し、コーティングの熱拡散率を標準不確か
さ 10 %以内で絶対測定する技術基準を作成する。開発された技術により(財)ファインセラミッ
クスセンターにおいて作成されたコーティング標準物質の熱拡散率とコーティング/基材間界面
熱抵抗に加えてコーティングの比熱容量を値付ける。
上記の技術を体系化し、薄膜の熱拡散率を標準不確かさ 10 %以内で絶対測定する技術基準を作
成する。
(設定理由)
現在、ピコ秒サーモリフレクタンス法は、膜厚 100 nm 程度の金属薄膜に対してのみ計測技術
が確立されており、定量的に信頼できる熱拡散率が求められている。実用的に重要な種々のナノ
材料の熱物性を評価するためには上記の技術を開発することが不可欠である。
(4-b)熱物性標準物質の開発
ナノ材料開発を促進するためには、信頼性の高い計測技術の開発、標準物質の開発、計測
技術基準の確立など、ナノ材料計測基盤技術の構築が必要である。そのなかでも、ナノ構造
を対象とする熱物性(熱拡散率、比熱容量、熱伝導率、平均線膨張率)計測技術の信頼性を
評価するため、均質性、安定性に優れる熱物性計測用コーティング標準物質が必要とされる。
そこで、本研究項目ではコーティング材料の熱物性に関する標準物質の開発を行うことを目
標としている。主なコーティング処理目的が断熱性、耐熱性、耐摩耗性、耐食性向上である
ことを念頭に、コーティング標準物質材料としてはジルコニア、アルミナ等のセラミックス
とし、その後、材料ナノテクノロジープログラムのプロジェクトと連携した対象材料とする。
また、製造方法としては、膜厚の精密制御が可能な湿式法等を適用する。
さらに、標準物質として重要な熱物性と膜構造等の物性の均質性、安定性を実用的な計測
Ⅱ-(14)
技術にて評価し、標準物質としての健全性を把握する。また、コーティング材料の膜面方向
における熱物性の均質性を評価するために、周期加熱法などによる評価手法について研究開
発する。
【中間目標】
均質性および安定性に優れるセラミックス系コーティング標準物質、1種類の開発を完了することを中間目標
とする。
【最終目標】
中間目標でのセラミックス系コーティング標準物質に加え、材料ナノテクノロジープログ
ラムの各プロジェクトの連携にて抽出された新規ナノ材料と対応した新規セラミックス系標
準物質の開発を最終目標とする。
(設定理由)
この新規材料系コーティング標準物質は、プログラムの成果として得られたナノ構造の熱
物性評価に寄与すると考えられ、プログラム成果の活用を促進すると予想される。
(4-c)熱光学特性の高精度校正技術の開発
固体材料の熱膨張率は、材料の熱変形・熱応力の発生に直接関係する基盤的熱物性値であり新
規機能材料の開発過程における評価が不可欠である。熱膨張率計測には試料寸法変化量および温
度変化量の精密な計測が必要であるが、原理的に精密計測に不向きな温度変動環境下における微
小な寸法変化量を検出するため、試料や低熱膨張材料の高精度評価・校正が困難となっている。
また固体材料(特にガラス材料のような光機能性材料)の nL 積(光学的長さ)・屈折率について
も同様な問題がある。
この問題を解決するには、非接触で高感度な変位量の絶対測定が可能であるのに加え、寸法変
化と nL 積(光学的長さ)が同一のシステムで計測可能となる光干渉法を応用した試料寸法変化量
検出技術、と高精度温度計測・制御技術を融合した、超高精度測定・校正技術を開発することが
有用である。
そこで高感度・高分解能で安定性な変位計測が可能な光ヘテロダイン方式に基づいた寸法変化量
検出技術の開発を行う。産業界のニーズが高くまた、比較的温度制御が困難な室温を挟んだ領域
での高精度な温度制御を可能とするため、熱電デバイス等を用いた温度制御技術・装置の開発も
併せて行う。これらの技術の融合により、熱膨張率等の熱光学特性の絶対測定が可能な計測シス
テムの整備・開発を行う。これにより室温を中心にした温度領域で分解能:0.02×10-6K-1 以上
(試料長 20 mm の場合)で固体材料の熱光学特性(熱膨張率および nL 積・屈折率(の温度依存
性))の校正技術を確立し、併せて熱膨張率の標準物質の供給体制の整備を行う。
【中間目標】
精密恒温槽とレーザ干渉絶対測長装置を中心として構成される熱光学特性計測システムの開発を行い、温度範
囲:-100 ℃〜+80 ℃の任意の温度において温度安定度:±2 mK/h の温度制御可能とする熱電冷却(加熱)式精
Ⅱ-(15)
密温槽の開発を行う。また、変位検出感度が 1 nm よりよい光ヘテロダイン式レーザ干渉絶対測長装置の詳細設計
および試作を完了する。
【最終目標】
精密恒温槽とレーザ干渉絶対測長装置を中心として構成される熱光学特性計測システムの開発
を完了し、本システムの測定可能温度領域において固体材料の熱光学特性(熱膨張率および nL
積・屈折率(の温度依存性))を分解能:0.02×10-6K-1 以上(試料長 20 mm の場合)で校正可能と
する。また、熱膨張率については絶対測定・校正技術を基盤とした標準物質等の供給体制の整備
をする。
(設定理由)
精密光学機器の基盤材料であるアサーマルガラス、低膨張ガラス等の固体材料の熱光学特性(熱
膨張率および nL 積・屈折率の温度変化率)は通常 1×10-6K-1 以下であるため、各特性値を不確か
さ 10 %以内で決定・校正するためには、0.1×10-6K-1 以上の分解能を有する計測技術の開発によ
る技術基準の確立が必要である。また、標準物質の整備により比較測定法・装置の校正、および
測定精度の維持・向上が可能となる。
評価項目
光検出器(干渉信号)
光検出器
(参照信号)
音響光学変調器
(AOM)
測定例
光学ガラスの熱膨張率
FK03
15
10
1.5
BK7 1
5
FS
0
周波数安定化レーザ
・光ヘテロダイン法による高分解能
・AOMによる高品質なレーザソース
0.5
0
-0.5
-5
0
50 100 150 200 250 300
Temperature /K
アサーマルガラス等、各種ガラス材料の熱膨張率/NL積の特性評価
図Ⅱ.9 熱光学特性の高精度校正技術の開発
Ⅱ-(16)
2.5
HE2 2
LTEC /10 -6K -1
試料
☆計測におけるパラメータ☆
○温度 ○時間 等
微小変位を絶対測定!
☆熱膨張率
☆NL積
☆屈折率
☆寸法の時間安定性
LTEC /10 -6K -1
光ヘテロダイン式レーザ干渉計の構成
Ⅱ-2.2 研究開発の実施体制
2.2.1
実施体制
●研究開発責任者(プロジェクトリーダー)
独立行政法人産業技術総合研究所 計測標準研究部門 部門長 田中 充
●研究開発副責任者(サブプロジェクトリーダー)
独立行政法人産業技術総合研究所 計測標準研究部門 上席研究員 馬場 哲也
●業務管理責任者:独立行政法人産業技術総合研究所 計測標準研究部門 部門長 田中 充
●経理責任者:独立行政法人産業技術総合研究所 財務会計部門経理室長 佐野 武文
研究体組織図
経済産業省(METI)
交付金
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)
新エネルギー・産
研究推進委員会
委託
(独立行政法人)
産業技術総合研究所
(AIST)
●業務管理責任者 田中 充
●経理責任者 佐野武文
●
プロジェクトリーダー
田中 充
(産総研 計測標準研究部門長)
サブプロジェクトリーダー
馬場哲也
( 産総研
計測標準研
(産総研 計測標準研究部門
(産総研
計測標準研 上席研究員)
委託
(財団法人)ファインセラミックス
センター(JFCC)
●
計測標準研究部門 物性統計科 応用統計研究室
●研究責任者 水野峰男
「熱物性の計測基盤」
★サブテーマリーダー 榎原研正 「微小要素物理特性の計測基盤」
計測標準研究部門 先端材料科 高分子標準研究室
計測標準研究部門 先端材料科 材料分析研究室
★サブテーマリーダー 小林慶規 「空孔の計測基盤」
計測フロンティア研究部門 極微欠陥評価研究グループ
計測標準研究部門 先端材料科 無機標準研究室
★サブテーマリーダー 松林信行 「表面構造の計測基盤」
計測標準研究部門 先端材料科 材料評価研究室
共同研究
計測標準研究部門
熱物性標準研究室
計測標準研究部門物性統計科
物性
★サブテーマリーダー 馬場哲也 「熱物性の計測基盤」
計測標準研究部門
放射温度標準研究室
計測標準研究部門 温度湿度科
温度湿
Ⅱ-(17)
2.2.2
研究項目と開発担当者
★サブテーマリーダー
サブテーマ
小テーマ
担当者
所属
(1)微小要素物 (1-a)粒子質量校正技術と粒子 榎原研正★ 計測標準研究部門
理特性の計
質量標準物質の開発
高畑圭二
桜井
測基盤
博
(1-b)微小要素サイズ校正技術 衣笠晋一
とサイズ標準物質の開発
松山重倫
高橋かより
物性統計科
応用統計研究室
計測標準研究部門
先端材料科
高分子標準研究室
加藤晴久
板倉正尚
岸根加奈
(1-c)粒子数濃度校正技術と濃 坂口孝幸
度標準物質の開発
物性統計科
応用統計研究室
(2)空孔の計測 (2-a)普及型・空孔計測装置の 小林慶規★ 計測標準研究部門
基盤
富樫
開発
寿
平田浩一
先端材料科
材料分析研究室
伊藤賢志
佐藤公法
(2-b)ナノ空孔標準試料の開発 岡
壽崇
何
春清
鈴木良一
計測フロンティア研究
大平俊行
部門
村松
研究グループ
誠
極微欠陥評価
(3)表面構造の (3-a)表面分析法の精密化校正 松林信行★ 計測標準研究部門
計測基盤
今村元泰
技術の開発
先端材料科
材料評価研究室
(3-b)表面分析法標準スペクト 城
ルデータの確立
昌利
福本夏生
田中智章
小林英一
佐藤剛一
音田悦子
Thi Thi Lay
Fan Jiangwei
Ⅱ-(18)
(4)熱物性の計 (4-a)薄膜・界面熱物性の高精 馬場哲也★ 計測標準研究部門
測基盤
加藤英幸
度校正技術の開発
竹歳尚之
物性統計科
熱物性標準研究室
阿子島めぐ
み
八木貴志
山下雄一郎
池内賢朗
根田雅美
小林謙一
津川弘美
中村文滋
藤井賢一
流体標準研究室
早稲田篤
山本泰之
石井順太郎
清水祐公子
温度湿度科
放射温度標準
研究室
(4-b)熱物性標準物質の開発
水野峰男
財団法人
ファインセ
小川光恵
ラミックスセンター
小川秋水
材料技術研究所
早川一幸
横江大作
(4-c)熱光学特性の高精度校正 山田修史
技術の開発
計測標準研究部門
物性統計科
熱物性標準研究室
2007年4月1日における開発担当者と所属
Ⅱ-(19)
2.2.3
1)
研究グループのプロフィール
産業技術総合研究所 計測標準研究部門 物性統計科 応用統計研究室
当研究室では、気体中および液体中粒子の粒子径測定や粒子数計数技術、および粒子運動制御
技術と、これらに関連する粒子標準の開発を行ってきた。粒径標準については、各国の計測標準
研究所と連携をとりつつ開発を進めてきており、現在 100 ナノメートル以上の粒径範囲で世界最
高精度の粒径絶対測定技術を有している。
2)
産業技術総合研究所 計測標準研究部門 先端材料科 高分子標準研究室
主に高分子分子特性解析の研究、高分子系標準物質の開発、あるいは標準スペクトルデータベ
ースの運営を行っている。すでに3物質を供給した実績がある。また特性解析に関する研究発表
を行ない、ISO 規格作成にも携わっている。長年培ってきた高分子計測技術をベースに、液相中
に分散されたナノ粒子の粒子径、あるいは高分子の分子量分布を精確に決定する計測技術基準の
確立と標準の供給を目指している。
3)
産業技術総合研究所・計測標準研究部門・先端材料科・材料分析研究室
放射性同位元素から得られる陽電子線を用いた高分子分離膜、ガスバリアー材、次世代半導体
絶縁膜、イオン注入半導体など先端材料中の超微細空孔・欠陥の分析で実績がある。現在、高信
頼性空孔・欠陥分析のための普及型陽電子消滅測定装置および標準試料の開発を進めている。表
面分析のための高感度質量分析法の開発も行っている。
4)
産業技術総合研究所・計測フロンティア研究部門・極微欠陥評価研究グループ
電子線形加速器で得られる高強度陽電子線をパルス化し、超微細空孔・欠陥分析のための陽電
子寿命測定法、3次元局所空孔計測のための陽電子マイクロビーム寿命測定法、表面高感度元素
分析のためのオージェ電子分光法を開発した。これらの先端ビーム技術開発のノウハウをもとに、
実験室サイズの普及型陽電子消滅測定装置の開発を進めてきた。
5)
産業技術総合研究所 計測標準研究部門 先端材料科 材料評価研究室
放射光を利用した高度計測技術の開発を目的として、放射光分光システムから測定装置、デー
タ解析法までの一貫した研究開発を行い、X線吸収分光法、X線光電子分光法の高度測定解析手
法の確立を進めており、機能材料、触媒等の研究に応用した実績もある。また、市販装置での光
電子分光、オージェ電子分光による表面の精密評価技術の開発のための表面処理法の研究、分光
器特性の校正の研究、標準スペクトルデータベース、公設試験研究機関と協力した共同分析試験
データベースの構築、拡充を行っている。また、これら電子分光データの解析法の技術開発とし
てデータの定量性向上のため、スペクトルに見られる非弾性バックグラウンドの除去法の研究を
行っている。
6)
産業技術総合研究所 計測標準研究部門 物性統計科 熱物性標準研究室
熱伝導率、熱拡散率、比熱容量、熱膨張率などの計測技術とその標準の開発を担っている。主
Ⅱ-(20)
に固体材料について室温付近を中心に液体ヘリウム温度から2000℃以上の温度範囲の熱物性とそ
の計測技術・標準を扱う。標準物質の開発、熱物性データベースの整備、計測技術の標準化を併
せて進めており、最近では薄膜や微小領域の熱物性計測技術に係る先端実用計測器の開発研究で
も実績を挙げている。
7)
産業技術総合研究所 計測標準研究部門 温度湿度科 放射温度標準研究室
放射温度計測・高温度計測に関わる国家標準の開発および高度化、高精度の校正サービスの供
給を行っている。現在-30 ℃から100 ℃,400 ℃から2000 ℃までの標準目盛の供給を行っており、
中温域および高温域への範囲の拡張に向け研究開発を行っている。特に金属炭素共晶点を標準温
度定点として世界に先駆け研究開発を行っている。また先端熱物性計測に関しては、微小空間分
解能をもつ高速赤外放射測温技術およびサーモリフレクタンス法測温技術の開発を行っている。
8)
財団法人 ファインセラミックスセンター 材料技術研究所
セラミックス材料の製造・解析・評価に関する研究を行っており、製造プロセス、製造条件、
製造ノウハウを持つと共に広く社会から認められる熱物性、機械特性等の計測技術を培っている。
特に、熱拡散率の計測に関しては、不確かさを大きく低減させた測定が可能であり、バルク材料
の標準物質の熱拡散率値付けが可能なレベルに到達している。また、標準物質の研究開発にも取
り組んでおり、熱拡散率標準物質や共通焼結体等の供給を行っている。
Ⅱ-(21)
Ⅱ-2.3
研究開発の運営管理
研究開発全体の管理・執行に責任と決定権を持つNEDOは、経済産業省及び研究開発責任者
と密接な関係を維持しつつ、プログラムの目的及び目標、並びに、本プロジェクトの目的及び目
標に照らして適切な運営管理を実施する。また、必要に応じて、外部有識者の意見を運営管理に
反映させる。
NEDOが実施・管理を行う当該プロジェクトの、より効率的な研究開発の推進を図るため、
研究開発の現場において指示・指導・調整の任にあたる研究者であり、実施者の一員として自ら
研究開発に携わる他、研究開発計画原案の策定、研究成果のとりまとめ等の役割を担う研究開発
責任者(プロジェクトリーダー)として独立行政法人産業技術総合研究所 計測標準研究部門 部
門長 田中 充、また平成15年度からはサブプロジェクトリーダーとして独立行政法人産業技術
総合研究所 計測標準研究部門 物性統計科長 馬場哲也を指名し、本プロジェクトを推進している。
本プロジェクトの実施者は、独立行政法人産業技術総合研究所と財団法人ファインセラミック
スセンターであり、両者は「共同研究契約」を締結すると共に、プロジェクトリーダーのもとに
有機的に結合し研究を実施している。
このプロジェクトの運営に当たっては、実施の効率化や研究開発内容の高度化とともに、多く
の技術分野の視点に基づいてナノ領域での計測技術を体系的に整理し、必要とされる知的基盤を
最適化することが重要である。実際、ナノテクノロジー技術及びその利用技術開発からの時々刻々
と変幻する要望に対して、このプロジェクトのアウトプットがどのような意味を持つかを常に問
い返えしながら、個別の技術開発を進めねばならない。
また更に、ナノテクノロジー技術開発
全体に携わる材料技術分野ごとの個別評価課題への計測技術提供への方策、さらに新たな標準物
質候補などの材料技術分野からの最新の成果物をこのプロジェクトに反映することも検討されね
ばならない。そしてまた、標準物資供給に関する国際協調及び国際競争を有利に展開することも
検討する必要がある。
【プロジェクトリーダーの役割】
プロジェクトリーダーの役割を以下に挙げる。
1.組織関係
(1) 研究体のサブプロジェクトリーダー、サブテーマリーダーの選任と解任。
(2) 研究体所属研究者の任期の設定および変更に関する調整。
(3) 研究体所属研究者の担当研究項目の決定。
(4) その他研究体所属研究者の総合的な統括。
2.予算、研究場所、研究設備および装置等
(1) 実施時における予算の配分の調整。
(2) 研究設備および装置等の使用範囲等の調整。
3.研究計画および報告
(1) 年度毎概算要求案の策定。
① 年間研究計画書案の策定。
② 実施計画書案の策定。
Ⅱ-(22)
(2) 研究計画の変更
① 実施計画書変更申請案の策定。
(3) 軽微な研究計画の変更
① 実施計画書変更届出書の策定。
(4) 研究経過の報告
① 成果報告書案の策定。
② その他必要に応じた研究報告書案の策定。
(5) 研究終了報告
① 研究終了報告書案の策定。
4.研究評価
(1) 研究内容の研究体内での評価。
(2) 研究者の研究体内での評価。
5.研究成果
(1) 別途定める研究体知的財産権取扱規程の施行およびその遵守に関する指導管理。
(2) 論文発表等による公開を、知的所有権による保護に優先させるか否かの判断。
6.第三者との共同研究、研究者等の招聘
(1) 第三者との共同研究の実施と管理。
① 共同研究および共同研究契約に対する要望事項の取り纏め。
② 共同研究契約書案の策定。
③ 各種報告書案の策定。
(2) 外部からの協力の調整および選任。
7.標準整備計画との調整
8.研究推進委員会の設置
9.その他
(1) 研究体の研究活動推進のための総合調整。
(2) 経済産業省、NEDOおよび産総研に置かれた各種関係会議への対応、総括。
(3) ワークショップ、シンポジウム等、の策定および実施。
【サブプロジェクトリーダーの役割】
サブプロジェクトリーダーはプロジェクトリーダーを補佐するとともに、必要に応じてプロジ
ェクトリーダーの職務を代行する。
上述したプロジェクトリーダーのミッションの一部は、以下のように実施されている。
【研究計画の策定】
本プロジェクトの運営に当たっては、実施の効率化や研究開発内容の高度化とともに、多くの
技術分野の視点に基づいてナノ領域での計測技術を体系的に整理し、必要とされる知的基盤を最
適化することが重要である。実際、ナノテクノロジー技術及びその利用技術開発からの時々刻々
Ⅱ-(23)
と変幻する要望に対して、このプロジェクトのアウトプットがどのような意味を持つかを常に問
い返えしながら、個別の技術開発を進めねばならない。
また更に、ナノテクノロジー技術開発
全体に携わる材料技術分野ごとの個別評価課題への計測技術提供への方策、さらに新たな標準物
質候補などの材料技術分野からの最新の成果物をこのプロジェクトに反映することも検討されね
ばならない。そしてまた、標準物資供給に関する国際協調及び国際競争を有利に展開することも
検討する必要がある。
【研究管理】
① 各サブグループは随時研究報告会を開き、プロジェクトリーダー、サブプロジェクトリーダ
ー、サブテーマリーダーが研究員と研究成果について議論し、進捗チェックと研究の方向付
けを行う。
② プロジェクトリーダーおよびサブプロジェクトリーダーは、必要に応じ適宜、電話、e-mail に
てサブテーマリーダー及び研究者から情報を受け、それに対して指示する。
③ 予算作成時、プロジェクトリーダーはサブプロジェクトリーダーならびにとサブテーマリー
ダーと相談し予算を作成する。
【成果報告】
論文、新聞発表に際しては、プロジェクトリーダーが承諾の最終判断をする。
【研究推進委員会】
このプロジェクトの運営に際して、必要とされる専門的な技術内容、産業社会へのナノテクノ
ロジー技術開発成果の定着、国際協調と競争力確保、ナノテクノロジー技術開発全体との連携な
どの観点を取り入れる為の知見は出来るだけ幅広い技術専門家の調査・討論に基づいたものとす
ることによってのみ、わが国の産業技術政策上有意なものとなり得る。
また、その知見の公平
性・客観性、運営からの独立性を確保しながら、その成果を運営に迅速に反映させる上で運営担
当者との強い連携をはかり得る様な組織がこれに当たる必要がある。
本プロジェクトではこれに対応する組織として研究推進委員会「ナノ計測基盤技術プロジェク
ト」を設置し、調査・討論及びその調整と報告を行う。委員会は研究担当者及び参加研究機関に
属していない第三者(外部評価者)から構成され、その成果物は、委員長を経由してプロジェク
トリーダーへ提出されその運営および年間計画の策定へ反映される。
委員の役割:委員会会合への参加、プロジェクト推進方法に関するアドバイス、技術専門家とし
ての調査に基づく目標達成と成果活用・成果公表・外部連携などに関するアドバイ
ス
委員長:委員会会合の運営統括及びその際の意見の調整と取りまとめ、委員の中から承認
事務局:プロジェクト産総研事務局職員、委員長の補佐、委員の調査活動への補助
オブザーバー:産総研の担当研究者など、経済産業省知的基盤課、NEDO
Ⅱ-(24)
表Ⅱ-2.3-1 技術研究推進委員会の委員
氏名
所属
委員長
松尾 陽太郎
東京工業大学大学院理工学研究科
委員
内藤 牧男
大阪大学接合科学研究所
委員
福嶋 信彦
日本カノマックス株式会社
委員
石切山 一彦
委員
鈴木 峰晴
アルバック・ファイ株式会社
委員
芦田 純生
株式会社 東芝 研究開発センター
株式会社 東レリサーチセンター
※研究推進委員の任期は平成15年12月1日から平成20年3月31日
表Ⅱ-2.3-2 技術研究推進委員会の開催履歴
年度
No.
開催日
主な議題
場所
プロジェクト全体説明、各サブテーマの説明
1
12 月 25 日
H15
H16
H17
H18
H19
中間評価に向けての説明・成果報告会
産総研
見学会
2
3 月 19 日
3
12 月 16 日
4
8 月 30 日
5
2月7日
6
9 月 26 日
7
3月8日
8
10 月 16 日
9
3月4日
プロジェクト運営に対する推進委員からのアドバイス
産総研臨海副都心センタ
当委員会15年度活動の取りまとめについて
ー
中間評価結果の報告と分析、今後の方針検討
NEDO 会議室
サブテーマ報告、ナノテクロードマップ紹介と今後の取り組み
NEDO 日比谷オフイス
研究の進捗状況と平成 18 年度の研究計画、
ナノ計測標準に対するニーズ
NEDO 日比谷オフイス
研究の進捗状況と技術の標準化
学術総合センター
目標達成の見通しと技術の標準化の進捗
NEDO 白金台研修センター
最終目標達成の見通しと技術の標準化の進捗
学術総合センター
最終目標達成に向けての進捗状況
午前中見学会
産総研
【その他】
研究推進委員会はプロジェクトリーダー、サブプロジェクトリーダー、各サブテーマリーダー、
担当研究員、経済産業省知的基盤課担当者、外部評価者により、2~3回/年開催される。ここで
の成果は、計画策定以外に、実用化推進と研究環境構築に寄与される。
Ⅱ-(25)
Ⅱ-3. 情勢変化への対応
3.1 体制
本プロジェクトでは関連する技術動向の変化に常に留意するとともに、本プロジェクトの効率
的かつ厳密な推進のため運営に関する技術的な助言を行うことを木邸として設置された「研究推
進委員会」における調査・討論により組織的かつ継続的に情勢変化を把握し対応している。研究
推進委員会は研究担当者及び参加研究機関に属していない第三者(外部評価者)から構成され、
その成果物は、委員長を経由してプロジェクトリーダーへ提出されその運営へ反映される。
また、NEDOでは、「技術評価実施規定」(平成15年10月制定)に基づき、事業期間の中
間段階に外部委員による中間評価委員会を実施することを定めており、本プロジェクトにおいて
も、平成16年度に中間評価委員会を実施して、研究開発の進捗評価を受けるとともに、委員か
らの提言をその後のプロジェクト運営に反映させた。
平成18年度以降には、ナノテクノロジー標準化に関する社会的要請の顕在化に対応するため
に、標準化検討委員会を設置した。
ナノ計測基盤プロジェクトの目標設定と運営:
ナノ計測基盤技術プロジェクトは、ナノテクノロジー技術開発に使用されるさまざまな評価方
法の信頼性向上、その技術開発成果の産業への迅速な定着の観点から必要とされる計測技術であ
って知的基盤として体系的に成果普及・標準供給ができるものに関する技術開発である。これは
計測技術をナノテクノロジー技術開発やその産業化に携わる人々がいつでもどこでも利用でき、
十分にその信頼性を享受できる様に整備することを意味し、このプロジェクトの実施を通して計
測分析機器、計測分析・校正技術基準の作成、標準物質の作成及び標準データベースの整備等を
アウトプットとすることを目的とするものである。この観点から、本プロジェクトの主目標は設
定された。
このプロジェクトの運営に当たっては、実施の効率化や研究開発内容の高度化とともに、多く
の技術分野の視点に基づいてナノ領域での計測技術を体系的に整理し、必要とされる知的基盤を
最適化することが重要である。実際、ナノテクノロジー技術及びその利用技術開発からの時々刻々
と変幻する要望に対して、このプロジェクトのアウトプットがどのような意味を持つかを常に問
い返えしながら、個別の技術開発を進めねばならない。また更に、ナノテクノロジー技術開発全
体に携わる材料技術分野ごとの個別評価課題への計測技術提供への方策、さらに新たな標準物質
候補などの材料技術分野からの最新の成果物をこのプロジェクトに反映することも検討されねば
ならない。そしてまた、標準物質供給に関する国際協調及び国際競争を有利に展開することも検
討する必要がある。
以上の観点から、本プロジェクトでは発足時の平成13年度(2001年)の後にも、ナノテクノ
ロジーの重要性の顕在化に鑑みて、実施課題のいくつかにおいて加速資金を投入し、成果の拡大
を図った。
Ⅱ-(26)
3.2 加速財源
本研究プロジェクトにおいては平成16年度、17年度、18年度に研究を加速して実施する
ための加速資金が充当された。加速資金の投入実績とその成果の一覧を示す。
表Ⅱ-3.2-1
年
サブテ
度
ーマ名
加速資金による成果一覧表
小テーマ名
加速資金
追加資金による効果
平
熱 物 性 (4-a) 薄膜・界面 熱物性値分 中間評価の提言に基づき、ナノスケールにおける熱エネル
成
の 計 測 熱物性の高精度 布分析装置
ギー輸送機構の本質的理解を目的としてフェムト秒サーモ
16
基盤
リフレクタンス法を整備した。本計測システムでは、パル
校正技術の開発
33,126,000
年
①ピコ秒サーモ 円
ス幅 110 fs のレーザを用いることで、従来のピコ秒サーモ
度
リフレクタンス
リフレクタンス法(同 2 ps)と比較して 20 倍の時間分解能
法薄膜熱拡散率
を達成し、膜厚 40 nm の薄膜の熱拡散現象を計測すること
計測技術
が可能となった。また、レーザ波長を 420 nm の青色光とす
ることで、面内分解能 500 nm を実現する微小レーザスポッ
トを実現した。さらに液体ヘリウムによる薄膜の低温保持
機能の追加を行い、10 K までの極低温における熱移動計測
システムを完成した。
平
微 小 要 (1-a) 粒 子 質 量 高速回転型 ナノテクノロジーや大気環境分野における粒子研究者の要
成
素 物 理 校正技術と粒子 粒子質量分 望に応えるため、分級可能粒子の微小化を目的として、電
17
特 性 の 質量標準物質の 析装置
極部が 7000 RPM 以上の高速回転が可能な高速回転型粒子質
年
計 測 基 開発
量分析装置を設計・試作し、その性能評価を行った。その
度
盤
8,286,000
①粒子質量分析 円
結果、0.01 フェムトグラム(密度 1 g/cm3 として約 27 ナ
技術の実用化
ノメートル)の粒子の質量分布測定が可能であることを実
証した。
(1-b) 微 小 要 素 絶対分子量 NMIJ 認証標準物質「ポリスチレン(多分散)NMIJCRM 5008-a」
サイズ校正技術 評 価 装 置 を始めて開発・供給(販売)することができた。また、1 nm
とサイズ標準物 8,650,000
質の開発
付近のサイズであるデンドリマーの合成試料の不純物分析
円
が当該装置によりなされ、1 nm 付近での DLS と PFG-NMR の
②サイズ分布分
比較実験の妥当性を確保でき液中粒径計測の技術基準を確
離・計測法の確立
立できた。
平
熱物性
(4-b) 熱 物 性 標
示差走査熱
成果を拡大するために、示差走査熱量計を導入して標準試
成
の計測
準物質の開発
量計の導入
料開発品の低温(室温~200℃程度)における比熱容量の値
18
基盤
10,000 千円 付けを可能とした。これにより、NEDO 委託事業「耐熱コー
年
ティング膜の特性評価試験方法に関する標準化事業」にお
度
ける測定方法・解析方法検証用の標準試料として、本プロ
ジェクト開発材を提供することができた。
熱物性
(4-c) 熱 光 学 特
超精密熱膨
産業界への波及拡大のために、ASETにて開発されたゼ
Ⅱ-(27)
の計測
基盤
性の高精度校正
張率校正シ
ロ膨張材の膨張特性評価のための高精度 CTE 測定装置を移
技術の開発
ステムの導
設し、ユーザ技術支援の体制を強化した。また、周波数基
入
準であるヨウ素安定化 He-Ne レーザによる周波数校正機能
9,300 千円 を合わせることにより国家計量標準にトレーサブルな熱光
学特性計測が可能となった。
熱物性
(4-b) 熱 物 性 標
高速レーザ
産業界のニーズに対応するために、薄板状のコーティング
の計測
準物質の開発
フラッシュ
を単体で測定する目的で、レーザフラッシュ法の高速化を
装置開発
試みた。従来のレーザフラッシュ法装置よりもパルス幅が
基盤
10,000 千円 短いキセノンフラッシュランプ一式、応答速度が速いと期
待できる高速ディテクタ(MCT素子)
、高速データストレ
ージ(A/D変換とデータ集録用)一式、信号モニタ用高
速オシロスコープを導入した。これらを用いて、テスト用
の試料(φ10mm 厚さ 1mm の等方性黒鉛)で信号を確認した。
今後、製品化も視野に入れて、装置として完成させる予定
である。
Ⅱ-(28)
3.3 プロジェクト内の標準化委員会設置
国内外のナノテクノロジー研究開発の進展に伴い、ナノ計測技術に関しても工業標準化の必要
性が強く認識されるようになった。例えば、平成17年(2005 年)に、国際標準化機構(ISO)
の中にナノテクロノジーを専門に扱う技術委員会(TC229)が発足し、3つある作業グループの
一つとして、計測キャラクタリゼーションWGも設置されたことは、その一例である。
本プロジェクトにおいても、このような社会的要請に対応するために、標準化活動を強化する
こととし、平成18年度以後に、空孔の計測基盤、表面構造の計測基盤、熱物性の計測基盤の標
準化推進を目的とした外部有識者委員会を設置した。
【陽電子寿命測定比較委員会】
高分子やガラス中の微細空孔、半導体や金属中の空孔型格子欠陥の測定法として利用されてい
る陽電子寿命測定の標準化を目的とし、外部有識者を委員とする陽電子寿命測定比較委員会を設
置した。本委員会の目的は、構成委員の協力によりバルク試料の陽電子消滅寿命測定に関する試
験所間比較試験を実施し、 (1) データ取得法および解析の手順を確立することにより、高精度計
測技術基準としての標準仕様書 (素案) を作成する、 (2) 陽電子寿命測定用の標準物質の開発を
行う、ことの二つである。
氏名
所属
委員長
白井 泰治
大阪大学大学院 工学研究科マテリアル科学専攻
委員
上殿 明良
筑波大学 物質工学系
委員
斎藤 晴雄
東京大学大学院 総合文化研究科
委員
榊
産業技術総合研究所・エネルギー技術研究部門
委員
佐藤 公法
委員
島津 彰
委員
永井 康介
東北大学金属材料研究所 附属材料試験炉利用施設
委員
平出 哲也
日本原子力研究開発機構 原子力基礎工学研究部門耐照射性
浩司
東京学芸大学 自然科学講座環境科学分野
日東電工㈱ 基幹技術センター信頼性評価技術部
原子力材料開発グループ
委員
藤浪 真紀
千葉大学工学部 共生応用化学
委員
細見 博之
㈱東レリサーチセンター 材料物性研究部
委員
誉田 義英
大阪大学 産業科学研究所
本委員会では平成18年度および平成19年度に合計4回の委員会を開催し、各年度に1回ず
つ、合計2回の試験所間比較試験を実施した。
Ⅱ-(29)
【放射光を利用した励起エネルギー可変 X 線光電子分光法標準化のための検討委員会】
放射光を利用した励起エネルギー可変 X 線光電子分光法標準化に関する助言のための検討委員
会を設置し、以下の5名の委員を選任。
氏名
委員長
田沼 繁夫
所属
(独)物質・材料研究機構
分析支援ステーション
委員
委員
鈴木
河合
峰晴
潤
ステーション長
アルバック・ファイ(株)
馬場 祐治
フェロー
京都大学大学院工学研究科材料工学専攻
プロセス設計学教室
委員
分析室
教授
(独)日本原子力研究開発機構
量子ビーム応用研究部門 グループ リーダー
委員
間瀬
一彦
大学共同利用機関法人
高エネルギー加速器研究機構
物質構造科学研究所 放射光科学第一研究系
准教授
H18 年度は、放射光を利用した励起エネルギー可変光電子分光法に関して、測定、解析、試料
作成、データベース等の関連技術に関して、標準化の必要性、可能性について調査検討を行い、
研究成果の標準化に関する助言を得た。
H19 年度は放射光を利用した励起エネルギー可変 X 線光電子分光法に関して、測定、解析、試
料作成、データベース等の関連技術に関して、ナノ計測基盤プロジェクトで得られた技術的知見
の成果を他の研究者と共有し、将来の標準化に向けて生かすべく、詳細な技術報告としてまとめ
るために、励起エネルギー可変 X 線光電子分光法による深さ方向分析技術報告案を作成し委員会
で検討し、ご意見をいただいた。報告案はいただいと意見をもとにさらに精査し、まとめたもの
を何らかの形で公表することにした。
Ⅱ-(30)
【周期加熱サーモリフレクタンス法の標準化検討委員会】
周期加熱サーモリフレクタンス法の標準化に関する助言のための検討委員会を設置し、以下の 6 名の
委員を選任した。
氏名
委員長
太田
弘道
所属
茨城大学工学部マテリアル工学科
准教授
課長
委員
前田 幸男
株式会社アルバック理工 開発部
委員
三宅
株式会社コベルコ科研
修吾
技術本部
エレクトロニクス事業部
委員
遠藤
亮
技術部
主任研究
株式会社東レリサーチセンター
材料物性研究部 材料物性第2研究室
委員
岡村
健生
株式会社日産アーク
物性解析グループ
マイクロ熱機械物性チーム
委員
松井 源蔵
研究員
株式会社ベテル ハドソン研究所 主幹研究員
平成 19 年度は、大学、研究所、企業からの委員で構成される標記委員会を開催し、同法を用いた熱
物性計測技術に関する標準化の検討を進める。測定及び解析プロトコルの妥当性を検証するための手
段として、同等な参照試料を用いた比較試験と有限要素法による伝熱シミュレーションを実施する。標準
仕様書(TS/タイプII)までの取りまとめを行った。
Ⅱ-(31)
3.4 材料特性の計量標準整備と標準化に向けての国際的取り組み
メートル条約における国際単位系(SI)の整備と普及を担う執行機関である国際度量衡委員会
(CIPM)では基本単位の各量毎に諮問委員会(Consultative Committee, CC, CCM(質量関連量諮
問委員会, CCT(測温諮問委員会)など)を設置して国際標準とトレーサビィリティの整備を進
めている。物質量に関しては物質量諮問委員会(CCQM)が設置されたが、物質・材料の性質を定
量的に記述する物性値に関しては既存の諮問委員会のもとで(密度、粘度は CCM, 熱物性は CCT
等)で取り組まれてきた。
近年の産業のグローバル化により
1)、鉄鋼からカーボンナノチューブに至る多様な材料の国境
を越えた利用が加速され、普遍的・客観的な万国共通の尺度で材料の品質・機能・信頼性・安全
性などを評価することが要請されている。このような要請に応え、国際度量衡委員会に材料計量
作業部会 (CIPM ad hoc Working Group on Material Metrology, WGMM)が設置された。
WGMM の役割 (Terms of Reference) は以下のように規定されている。
1. 科学的、産業的に、重要な材料特性を明らかにする。
2. 上記のなかで既存の諮問委員会では未対応の特性を特定する。
3. ユーザーニーズを明らかにする。
4. 材料計量分野に参加する研究所の能力を調べる。
5. トレーサビィリティを確立するための手法と方法論を開発する。
6. 材料計量分野で現在実施されている取り組みを調査する。
7. 材料計量に関心を持つ組織とリエゾンする。
8. 2007 年 10 月までに国際度量衡委員会に報告する。
WGMM は期限 2 年間で設置され、議長は NPL 副所長のベネット博士である。
調査は材料特性を力学物性、熱物性など分野別に作業部会(TG1~5)を組織して実施した。
各作業部会の調査内容の要約は以下の通りである。
TG1 Report: Mechanical Properties
TG Leader: Graham Sims (NPL, 英国)
硬さ hardness, 靱性 toughness, 弾性率 modulus, 強度 strength, クリープ creep
疲労 fatigue などが含まれる。
•
規制上の要請がある(e.g. EU Pressure Vessels Directive)
複数の諮問委員会(CCM と CCL など)の標準へのトレーサビィリティが要請される。
TG2: Thermophysical (Phys-chem) Properties TG Leader: Tetsuya Baba (NMIJ, 日本)
熱伝導率 Thermal Conductivity, 熱拡散率 Thermal Diffusivity, 熱膨張 Thermal
Expansion, 比熱容量 Specific Heat Capacity, 放射率 Emissivity などが含まれる。
科学技術、エネルギー利用の高度化、安全、通商において広範なニーズがある。
熱物性は材料固有の物性 (inherent property)で SI traceable な組み立て単位である。
測温諮問委員会熱物性作業部会(CCT WG9)においてすでに取り組まれており、
既存の CC と材料計量標準活動との望ましい協力の例となることが期待される。
Ⅱ-(32)
TG 3: Composition and micro-structural
グレインサイズ Grain Size,
TG Leaders: Rich Kayser/Eric Amis (NIST, 米国)
界面 Boundaries, 相 Phase, 空孔率 Porosity,
テクスチャー Texture, 粒径 Particle Size, 欠陥 Defects などが含まれる。
産業ニーズが強い(粒径など)
TG4. Functional Properties
TG Leader: Graham Sims (NPJ, 英国)
誘電特性 dielectric (CCEM), 光学特性 optical (florescence),磁気特性 magnetic
(CCEM), 音響特性 acoustic (CCAUV) properties などが含まれる。
既存の諮問委員会(CC)との連携が重要である。
TG5. Electrochemical Properties TG Leader:
Juergen Lexow (BAM, ドイツ)
局所的微構造が腐食に及ぼす影響 local microstructure on corrosion performance
腐食に強い材料を開発するために重要である。
上記の調査結果は 2007 年 10 月に報告書としてまとめられ 2)、CIPM に報告された。
報告書は国際度量衡委員会(CIPM)に対して、新材料及び標準に関するベルサイユプロジェク
ト(VAMAS)との協力のもとに材料計量に対する取り組みを進めること、独立した材料計量諮問委
員会(CCMM)の設立ではなく、各諮問委員会(CC)において材料計量を担う作業部会(CC)
を明示して取り組むことを勧告している。
本プロジェクトの研究対象である薄膜熱物性・コーティング熱物性は測温諮問委員会熱物性作
業部会(CCT WG9、議長 馬場哲也)が取り組むべき課題となっている。ナノ微粒子の粒径と粒子質
量ならびに空孔サイズは TG 3: Composition and micro-structural における重要な対象としてあ
げられている。現時点では対応する CC は明確でなく、VAMAS における取り組みが先行するも
のと予想される。
表面構造のサブテーマにおける取り組みは材料計量ではなく、物質量諮問委員会の活動(CCQM
Working Group on Surface Analysis)との関連が深いものと思われる。
以上のように、本プロジェクトの成果は CIPM が重点的に取り組みつつある材料計量・物質量
計量に関する先導的な成果であり、我が国が当該分野の国際標準とトレーサビィリティ整備に世
界に先駆けて寄与するために、本プロジェクトのサブリーダ(馬場哲也)が WGMM の会合にす
べて参加し動向を把握するとともに我が国の意見を発言し、下記の報告書[1]作成に寄与した。
材料計量に関する取り組みは VAMAS におけるナノ材料計測のプレ標準化活動および、ISO
に2006年に新しくナノテクノロジーの標準化を目的として設置された TC229とも連携しつつ進
められている。
参考文献
1.
“Evolving Needs for Metrology in Trade, Industry and Society and the Role of BIPM”,
edited R. Kaarls, 2007.
2.
“Evolving Needs in Material Property Measurements”, Report of the CIPM ad hoc
Working Group on Materials Metrology (WGMM) edited S. Bennett, 2007.
Ⅱ-(33)
Ⅱ-4.中間評価結果への対応
中間評価を平成 16 年度に実施した。その結果、着実に技術成果が得られており、引き続き、事
業を継続すべきであるとの評価を受けた。また、幾つかの提言を得て、プロジェクトの運営に反
映した。
【事業の位置付け・必要性】
コメント:ナノマテリアル・プロセス技術の共通的基盤的計測技術という観点からテーマを構成
しているが、4つのテーマは広範囲であるので、必要に応じて他機関との連携にも重点をおくべ
きである。
対応:産総研計測標準計測部門は計測技術とその標準の研究に関して豊富な経験と高い技術力を
有しているが、標準試料・標準物質の作製(材料の合成)は専門分野ではないので、物質・材料
分野の大学・研究機関・企業との連携を積極的に進めた。なかでも薄膜熱拡散率標準物質に関し
ては代表的な成膜技術であるスパッタリング法に関して高い研究実績を有している大学と連携し
て標準物質に必要とされる均質性と安定性を備えた標準薄膜を開発することができた。
研究推進委員会に加えて平成18年度より、空孔の計測基盤、表面構造の計測基盤、熱物性の
計測基盤の標準化推進を目的とした外部有識者委員会を設置し、他機関との連携を加速した。
【研究開発マネジメント】
コメント:一部のテーマでは、目標の設定は良いとしても、その方法、実行に問題があると考え
る。研究計画、進捗については、研究推進委員会において点検・管理されているが、内部的にも、
もう少し詳細に行うべきである。また、4つの個別課題の取り上げ方の必然性が必ずしも明確で
はない点も問題である。今後は、より多くの査読付き論文や特許によって、成果還元することを
期待する。
対応:研究推進委員会は本プロジェクトを構成する4つのサブテーマのそれぞれの専門家を含む
よう構成されている。さらに微粒子と熱物性、空孔と表面構造、空孔と熱物性、表面構造と熱物
性など複数の分野を専門とする委員も多く、本プロジェクトのサブテーマ間の連携の促進に貢献
した。特に半導体層間絶縁膜(Low-k 膜)においては誘電率を低減するために空孔を導入するの
でそれに伴い熱伝導率が低下する。従って、Low-k 膜においては空孔径と熱伝導率の情報が共に
重要であり両者をともに取り上げる必然性が実証された。
プロジェクトの4件のサブテーマ責任者とは月に一回程度は進捗について打ち合わせた。一年
に2回実施した研究推進委員会以外に年に2回プロジェクト参加者全員と打ち合わせる機会を持
った。サブテーマ毎の会合はサブテーマ責任者が機動的に実施した。
研究成果の還元については査読付き論文の執筆と特許の取得に努めた。
【研究開発成果】
①微小要素物理特性の計測基盤:
コメント:粒子質量校正技術の汎用性については、今後の検討が必要である。
対応:装置上は、電圧・回転数の制御およびデータ収集を計算機制御下で自動的に実行できる工
Ⅱ-(34)
夫をした他、電圧を連続的に走査する走査モード運転法が実用的であることを確認した。また、
微小粒子に対して分級分解能を落とした運転条件下でのデータ解析にも適用できる伝達関数(分
級分解能関数)を計算する手法を開発するなどにより、汎用性の向上を図った。
測定対象については、広い質量分布を有する測定対象について、粒子質量分析装置(APM)の上流
側に微分側電気移動度分析装置(DMA)を配置して、粒径・粒子質量の2次元平面上でのスペクトル
をとることにより、密度等の情報を含む詳細な情報を得られることを示し、単分散の PSL 粒子だ
けでなく一般のエアロゾル粒子にも適用可能な汎用性を有することを確認した。また一般の大気
エアロゾルに対して APM を適用した事例について文献調査することによっても装置の汎用性を確
認した。
②空孔の計測基盤:
コメント:標準試料の作成については、異なる計測装置や、他の計測手法で測定する場合に対す
る検討も重要である。
対応:加速器を用いた陽電子寿命測定により値決めを行った標準試料を用いて、普及型陽電子寿
命測定装置で得られたデータの客観性・妥当性を確認した。また、陽電子寿命比較測定委員会で
行った試験所間比較試験の結果に基づいてバルク試料の陽電子寿命測定のための認証標準物質
(CRM)を開発した。さらに、多孔質薄膜試料について、高感度気体吸着法、X線散乱法による空
孔サイズ測定を行い、陽電子寿命測定の結果とほぼ一致することを確認した。
③表面構造の計測基盤:
コメント:計量標準に近づける実験計画が、ほとんどないのは問題である。有効減衰長に関する
検討で用いた試料の表面粗さの把握とその影響に対する検討が不十分である。標準スペクトルデ
ータ確立に関する成果は、幾つかの点で中間目標値をクリアしているか否かに疑問が残る。また、
特許申請、論文発表なども十分ではない。
対応:有効減衰長を用いた励起エネルギー可変 X 線光電子分光法による深さ方向分析技術により、
SI トレーサブルな NMIJ 認証膜厚標準物質であるシリコン酸化薄膜を測定し有効減衰長を決定し
た。また、金薄膜については、X 線吸収端ジャンプ法による非破壊膜厚(面密度)定量法を新た
に開発し、標準液により校正し、国家標準へのトレーサビリティーを取ることができた。
X 線反射率法、エリプソメトリー、SEM、TEM、AFM 等の種々の手法を用いて試料の表面状態を解
析し、不均一な表面状態が測定結果に与える影響について定量的に評価した。
標準スペクトルデ-タの確立については、最終目標を超える22元素、52物質数を達成した
のみならず、できるだけ異なる条件での多くの測定スペクトルを400本以上取得した。電子エ
ネルギーの校正を ISO の手法を用いて厳密に行い、また、スペクトル強度比に関しては透過関数
の補正およびバックグランド解析法の開発により信頼性を向上させた。さらに、ISO フォーマッ
トの採用と Web の改良によりデータの互換性と操作性を改良するとともに、試料に関する詳細デ
ータを取り込み、信頼性、参照性の高いデータベースとすることができた。
X 線光電子分光標準スペクトルデータベース、およびバックグラウンド解析プログラムはイン
ターネットにより公開し、ユーザからのフィードバックを得て、改良を行っている。
Ⅱ-(35)
④熱物性の計測基盤:
コメント:装置性能(信頼性、安定性、操作性、等)の確保が重要である。また、薄膜標準物質
の開発段階では、様々な研究機関によるラウンドロビンテストが不可欠と思われる。
対応:ピコ秒サーモリフレクタンス法は 2005 年度に国家標準の依頼試験としてサービスが開始
されるにいたった。標準供給を開始するために厳密な装置性能の不確かさ評価を行い、世界最高
水準での薄膜の熱物性評価が可能となった。
平成 17-18 年度に、実用薄膜熱物性測定装置を保有する 2 機関、および開発段階のナノ秒サー
モリフレクタンス法を保有する産総研との間でラウンドロビンテストを行い、各機関で同一の薄
膜試験片を持ち回り評価した。この結果、実用測定器と標準器(開発中)による評価結果はデー
タのばらつき範囲内で一致し、本測定手法の安定性が確認された。
薄膜標準物質の候補材料として、Mo 薄膜および TiN 薄膜を選択し、経年変化評価、均質性評
価、各種物性評価、製造プロセスの検討を進め、Mo 薄膜試供品の製造や TiN 薄膜標準物質の開発
を行った。
【実用化、事業化の見通し】
①微小要素物理特性の計測基盤:
コメント:粒子の形状に対する効果についてや、使用(採用)している材料の安定性(変質、環
境依存性等による)についての検討が必要である。
対応:粒子の形状については、PSL 粒子が複数個凝着した非球形の粒子を対象として、質量分布
スペクトルのピーク位置が予想される位置に出現されることを確認した。また、食塩粒子、NiO
粒子、カーボンナノチューブなどの非球形粒子に対して、微分型電気移動度分析器(DMA)と粒子質
量分析装置(APM)を組み合わせて、粒径によって密度が大きく変化しないなどの妥当なデータが得
られることを確認した。
また、標準粒子として用いる PSL 粒子については、粒子の気中発生条件や実験日による粒子質
量のばらつきを調べ、発生方法として静電噴霧法を用いることにより質量値が十分安定した粒子
が得られることを確認した。
②空孔の計測基盤:
コメント:標準試料については、経時変化の検討が必要だが、実用化はできると思われる。
対応:多孔質薄膜標準試料開発においては、異なる条件で作成された試料の中から、スクリーニ
ングにより特に安定性に優れた材料を選択し、標準試料とした。バルク試料の陽電子寿命測定用
認証標準物質(CRM)開発では、均一性や信号強度の大きさに加えて安定性を考慮して石英ガラス
を選択し、陽電子寿命の値決めを行って CRM とした。本 CRM の有効期限は 5 年間である。
③表面構造の計測基盤:
コメント:本研究は、電子分光法の標準化のための大切な第一歩ではあるが、目的地はかなり先
にあると思われる。測定法/試料ともにその正確さ(トレーサビリティー)を向上させる必要が
あり、その方向が「計測基盤」の研究として望ましい。また、多様な材料があるので、表面粗さ、
表面組成分布ならびに材料依存性を考慮して、深さ方向解析の手法をより具体的に検討する必要
Ⅱ-(36)
がある。
対応:試料の膜厚と表面状態の解析を X 線反射率法、X 線吸収分光法、化学分析、エリプソメト
リー、SEM、TEM、AFM 等の手法により評価した。NMIJ 認証標準物質および標準液を用いることに
より、国家標準にトレーサブルな方法を用いて膜厚を評価し、有効減衰長を決定した。
電子の有効減衰長の変化を利用した深さ方向解析の考え方そのものは、材料の多様性と関係な
く一般的に適用できるものと認識しているが、実際の材料に応用するために表面が不均一な試料
についても、解析法の再検討を行い、有効減衰長および深さ方向の解析精度を向上させた。
④熱物性の計測基盤:
コメント:産業界での活用を勧めるよう、より多様な材料系を対象とした実証を、追求する余地
があると考える。
対応:単純な金属膜よりも化合物や無機物質からなる先端薄膜材料に対する評価は企業からのニ
ーズが大きい。ナノ秒サーモリフレクタンス法は、多層膜や無機薄膜など比較的長時間の熱拡散
時間を有する薄膜でも正確な評価ができる。これまでに企業、研究機関からの問い合わせや共同
研究を通じて各種薄膜材料の評価が可能であることを実証している。
基材から剥がすことなくコーティングの熱物性値を測定するニーズがある。ナノコーティング
PJ との横の連携も意識して、このニーズに合った技術開発を進めた。コーティングの評価用に試
作した周期加熱法放射測温の実用測定装置を評価した。その結果から製品化に必要な実用装置の
仕様を検討した。
(検討後の改良はこのプロジェクトとは別に進め、製品化の目処が立っている。)
材料の多様性に対して、実際の遮熱コーティングと同様に溶射で作製する熱物性標準物質の開発
を行った。
企業などから新しいニ-ズなどの要請がある場合、本研究においては多様な材料系をできるだ
け取り込みながらできるだけこれらに対応、柔軟に開発計画を実行し、実用化、事業化に貢献し
ていく。
【今後に対する提言】
①微小要素物理特性の計測基盤:
コメント:粒子質量校正技術は、多様な粒子の混合系での粒子質量分布を測定できるように検討
することで、より汎用性が高くなると考える。最終目標までは、さらに大きな技術的困難がある
ように思えるが、高レベルの完成度を目指した、集中的な開発研究を追加し、問題点が明らかに
なった課題は、学術的知見の整理と発展に重点を置いたまとめを行うのが適当と考える。一方、
気相中のナノ粒子の個数濃度標準について他のプロジェクト(環境省)が進行中であるので、双
方が完成に近づいた時点で、溶液中の標準化と気相中の標準化の関係を整理する必要が生じる可
能性がある。
対応:粒子の混合系への適用可能性の検討については重要な指摘と捉え、微分型電気移動度分析
器(DMA)と粒子質量分析器(APM)を組み合わせて、粒径/質量の同時スペクトルをとる方法を検討
した。これにより、密度等の情報を含む詳細な情報が得られ、単分散の PSL 粒子だけでなく一般
のエアロゾル粒子にも適用可能な汎用性を有することを確認した。また一般の大気エアロゾルに
対して APM を適用した事例について文献調査することによっても装置の汎用性を確認した。
Ⅱ-(37)
また、完成度の向上をめざして、粒子質量の絶対測定可能を目的としたタイプ(質量約 0.55-60
fg の粒子[粒径で約 100-500 nm]に対して 3.3%以下の相対拡張不確かさを実現)、および微小粒子
への適用を目的としたタイプ(約 1.6 ag[移動度等価径が約 12 nm の食塩粒子]まで妥当なスペク
トルが得られることを確認)の装置を開発した。さらに、測定方法として精度はやや劣るが2分
程度の迅速な測定ができる電圧連続走査モード運転の実証、データ解析技術として、一定条件下
での伝達関数(分級分解能関数)の厳密解の解法、及びこれを用いたスペクトルあてはめにより
粒子質量分布パラメータ(個数平均質量、質量分布の標準偏差など)を決定するプログラム開発
などを行い、これらを総合してより汎用性を高めることを目指した。
問題点としては、APM 電極の回転数を上昇させていった際に、一定の回転数以上(高速回転タ
イプでおよそ 9500RPM 程度)でスペクトルが突発的に不安定化する場合があることがわかった。
これは、高速回転に伴う電極内空気流れの不安定性に起因する可能性があり、流れの数値計算の
専門家等の意見を聞いているが、まだ明確な原因は不明である。今後さらなる微小粒子への適用
を図る際には解決すべき重要な課題である。
粒子数濃度標準については、本プロジェクトで開発した液中粒子数濃度標準(粒径範囲 500 nm
から 20 ・m)と、別プロジェクトで開発した気中粒子数濃度標準(粒径範囲 10 nm から 200 nm)
とは、残念ながらまだ粒径範囲がオーバーラップするに到っていない。今後これらの間で粒径範
囲が部分できにオーバーラップするまで両者の開発が進展した際には、両者の整合性を確認する
とともに、関係を整理することを考えたい。
②空孔の計測基盤:
コメント:原理的には既知のものであるので、装置性能(信頼性、安定性、操作性等)の確保が
重要である。標準試料の開発を加えて、多くの人々が利用しやすいハードとソフトを兼ね備えた
計測システムを築いてほしい。また、平面内の分布測定(微小領域)の可能性を検討されたい。
広範囲の分野の技術者や研究者に使っていただくためには、コンパクトな装置にし、コストを下
げる一層の工夫も必要だと考える。
対応:計測システムとして実用的にする、という点からの諸課題を、これまで通り克服していき、
計測装置および標準試料ト-タルとしての開発を行った。細かな知識がなくても操作でき、専門
家がいつもいなくても正しいデ-タが出せる、そのためには標準試料での校正により、装置が常
に信頼でき得る状態にある、というようなシステムを開発した。また、これらをさらに安価に提
供すべく装置の一層の小型化を行った。
ビ-ム走査による平面内空孔分布測定の可能性については、本プロジェクトでも一部検討を行
ったが、本格的な研究開発は平成18年度から開始された陽電子顕微鏡に関するプロジェクトで
行うこととした。
③表面構造の計測基盤:
コメント:大変困難な目的にチャレンジしている計画であるから、行う意義は大きく評価できる
が、ねらいと手法を、十分にキャラクタライズされた試料のデータベースに絞って、質の向上に
努力されるほうがよいのではなかろうか。強度軸の校正、試料作製など、どれひとつをとっても
大変な仕事だが、試料のキャラクタリゼーションをしっかりやらないと、とても標準を目指した
Ⅱ-(38)
物とはなり得ないと考える。範囲が広いため、他機関の専門家との一層の連携も必要ではないだ
ろうか。また、成果の volume としては、必ずしも大きくなく、2次標準、実用標準に属する成果
物も検討していただきたい。
対応:電子エネルギーの校正を ISO の手法を用いて厳密に行い、また、スペクトル強度比に関し
ては透過関数の補正およびバックグランド解析法の開発により信頼性を向上させた。
標準化検討委員会を開催するとともに学会等においても大学等の他機関の広範囲な専門家との
一層の連携を行った。
本プロジェクトにおいて作成した 2 nm 程度の金およびシリコン酸化膜の標準試料を2次標準、
実用標準に属する成果物として検討している。
測定法と試料を絞って、標準を目指して国家標準へのトレーサビィリティを向上させるために、
NIMJ 認証標準物質や標準液を用いて校正を行い、国家標準へのトレーサビリティーをとった。ま
た、測定法と解析法の不確かさ要因の再検討と改良を行い、また、試料の膜厚と表面状態の解析
を X 線反射率法、X 線吸収分光法、化学分析、エリプソメトリー、SEM、TEM、AFM 等の手法により
解析し、十分にキャラクタライズされた試料において有効減衰長を決定した。さらに、得られた
結果の不確かさの評価を行った。
④熱物性の計測基盤:
コメント:原理的には既知のものであるので、装置性能(信頼性、安定性、操作性、等)の確保
が重要である。また、薄膜標準物質の開発段階では、様々な研究機関によるラウンドロビンテス
トが不可欠と思われる。今後、数 nm~数 10 nm の熱物性測定への取り組みや、ナノサイズ特有の
熱移動現象がないのかどうか、さらには、産業界での利用についての便益の追求等にも目を向け
られることを期待する。
対応:ピコ秒サーモリフレクタンス法とナノ秒サーモリフレクタンス法の両技術は国家標準とし
て確立し、厳密な不確かさ評価が可能なレベルに達した。また基本計画での目標より小さな不確
かさでの測定が実現されている。また別途、ナノ秒サーモリフレクタンス法標準器と実用測定器
間で薄膜標準物質の候補材料である窒化チタン薄膜を対象として行われたラウンドロビンテスト
により本計測技術の信頼性と標準物質としての適格性(安定性、信号強度など)を確認した。
ナノサイズ特有の熱移動現象の発現とその観察を目的として、加速資金によりフェムト秒サー
モリフレクタンス法計測システムを開発した。本測定手法によりピコ秒サーモリフレクタンス法
では捉えることが出来なかった膜厚 40nm の金属薄膜における熱移動現象の観察に成功した。さら
に、熱移動の素過程に関する知見を得るために、液体 He により 10K に冷却した金属薄膜の熱移動
現象の観察にも成功しており、現在その温度変化曲線を平均自由行程と膜厚との関係の観点から
解析中である。
本技術の産業利用を促進することを目的として産総研においてベンチャー開発タスクフォー
ス(平成18年度~19年度)が組織され実用測定器の開発が進められた。開発された実用測定
器は、2008年度に設立されたピコサーム社(産総研技術移転ベンチャー)において製品化されて
おり、産業界での利用が進展すると期待される。
Ⅱ-(39)
Ⅱ-5. 評価に関する事項
NEDOは、国が定める技術評価に係わる指針、及びNEDOが定める技術評価実施要領に基
づき、平成12年度には、事前評価書を策定して、技術的及び実用化の観点から、研究開発の意
義、目標達成度、成果の技術的意義並びに将来の産業への波及効果等について、外部有識者によ
る研究開発の中間評価を平成16年度、事後評価を平成20年度に実施することとした。
そのうち、中間評価の日程と、評価委員(分科会)は下記の通り。
表Ⅱ-5-1 中間評価日程
日程
第1回分科会
平成16年6月8日
第2回分科会
平成16年8月24日
研究評価委員会
平成16年9月22日
備考
分科会の評価書(案)を承認
表Ⅱ-5-2 中間評価委員
氏名
分科
会長
分科
会長代理
二瓶 好正
鈴木 健訓
池澤 直樹
武内 一夫
委員
田沼 繁夫
長坂 雄次
原田 明
所属・肩書
東京理科大学 理工学部 工業化学科 教授
高エネルギー加速器研究機構
大強度陽子加速器計画推進部 教授
株式会社 野村総合研究所 コンサルティングセクター
チーフ・インダストリー・スペシャリスト
理化学研究所
武内ナノ物質工学研究室 主任研究員
物質・材料機構
分析ステーション ステーション長
慶應義塾大学
理工学部 システムデザイン工学科 教授
九州大学
大学院 総合理工学研究院 物質科学部門 教授
(平成16年8月当時)
Ⅱ-(40)
Ⅲ.研究開発成果について
Ⅲ-1.事業全体の成果
1. 目標の達成度
表 Ⅲ-1.1-1 目標達成度一覧
研究開発項目
①
微
要
物
特
の
測
盤
小
素
理
性
計
基
面
造
計
基
④
熱物
性の
計測
基盤
達
成
度
目標
(1) 粒 子 質
量校正技術
と粒子質量
標準物質の
開発
(2) 微 小 要
素サイズ校
正技術とサ
イズ標準物
質の開発
1fg から 1000fg(fg = フェムト
グラム)の質量範囲で適用可能な
粒子質量校正技術基準作成と粒
子質量標準の供給技術整備
(3) 粒 子 数
濃度校正技
術と濃度標
準物質の開
発
500nm から 10000nm の粒径範囲に
おける粒子数濃度校正技術基準
の作成とその標準物質の供給技
術整備
② 空孔の計測
基盤
③
表
構
の
測
盤
(◎:目標を大きく上回る成果、○:目標達成、×:目標未達)
(1) 表 面 分
析法の精密
化校正技術
(2) 表 面 分
析法標準ス
ペクトルデ
ータの確立
(1) 薄膜・界
面熱物性の
高精度校正
技術の開発
1nm から 100nm のサイズ範囲にお
ける粒径および高分子分子量の
校正技術基準作成と粒径標準物
質、高分子分子量標準物質の供給
技術整備
直径数nm以下の微細空孔の測
定に十分な時間分解能を有する
陽電子寿命測定校正技術の確立
直径数nm以上の空孔での陽電
子3光子消滅割合の校正のため
の技術基準の作成
ナノ空孔標準試料の供給技術整
備と高精度計測技術基準の作成
波長可変の高精度表面組成の深
さ方向分析法について、表面から
2nm以下の領域について深さ
の不確かさ0.2nmを達成、さ
らにナノ材料評価技術基準の作
成と深さ方向分析用標準試料の
供給技術を整備
X線光電子分光標準スペクトル
データの整備を15元素50化
合物について実施
薄膜・コーティングの熱拡散率を
合成標準不確かさ(1σ)10%
以内で絶対測定する技術基準の
作成
Ⅲ-1-(1)
◎
○
○
◎
○
◎
○
○
◎
成果
1 - 1000 fg の範囲で粒子質量を 3.3 %以下の
相対拡張不確かさで値づけ可能であることを
実証し、その手順を粒子質量校正技術基準とし
てまとめた。
粒径標準については、30-100nm の範囲で粒径標
準供給し、1-30 nm の範囲では異なる計測法間
でのサイズデータの同等性確認し計測プロト
コルを完成した。分子量標準については、分子
量分布標準物質(“NMIJ CRM 5008-a、ポリスチ
レン(多分散)”を開発・供給し、並行して SEC-LS
計測法案を ISO 新規提案として通過させた。
液中粒子数濃度校正技術基準として測定・粒子
取扱の手順書群 4 編を作成した。また、蛍光同
時検出型液中粒子計数器を用いて 500nm までの
バックグランドを削減し粒子計数を行い、顕微
鏡法との比較結果で妥当性を評価した。合わせ
て計数範囲変化による計数値変化の評価を行
うことで、標準物質の供給技術整備をした。
目標時間分解能を上回る普及型陽電子寿命測
定装置を開発し、校正技術基準を作成した。
陽電子3光子消滅割合校正のための技術基準
を作成した。本技術基準は、開放ナノ空孔の検
出に適用可能である。
ナノ空孔測定認証標準物質・標準試料の開発と
供給を行った。標準仕様書(TS)素案を作成し
た。
放射光 X 線光電子分光実験により Si 酸化物薄
膜について励起エネルギーを変えた場合に平
均 1.83nm 測定標準偏差 0.06nm(拡張不確かさ
0.12nm(k=2))の値を得た。このことにより、
2nm 以下のシリコン酸化膜の深さ方向分析の値
付けに目途がついた。
金属等 22 元素の化合物 52 物質について総計約
500 本以上のスペクトル取得を完了し、データ
ベースとして整備した。
熱拡散時間の拡張不確かさ(2σ)において 3.6
~7.3%を達成。当初予定のピコ秒 TR 法に加え
てナノ秒 TR 法が開発され、膜厚に換算して
100nm~1000nm に及ぶ標準供給体制を確立。基
材と一体化したコーティングの熱拡散率を、室
温~800℃の温度領域で測定する技術基準を確
立し、標準物質の実測結果において、標準不確
かさ(1σ)10%以下を達成。
共通
(2) 熱 物 性
標準物質の
開発
熱拡散率・比熱容量・熱伝導率標
準物質の供給技術整備
(3) 熱 光 学
特性の高精
度校正技術
の開発
膨張率等の熱光学特性を0.02
×10-6K-1 の分解能で校正す
る技術基準作成
○
○
平成19年度までに、ナノテクノ
◎
ロジープログラムで実施される
プロジェクトに共通な機能特性、
構造の計測基盤技術を確立する。
また、ナノ材料に関する8種類以
上の新たな標準物質を確立する。
コーティング、基材の2層からなる熱物性(熱
拡散率・比熱容量・熱伝導率)評価用の標準物
質を開発した。また、標準物質の作製手順書を
作製し、供給技術を整備した。
開発した熱光学特性測定装置における単結晶
シリコンや合成石英ガラスの熱膨張率および
nL 積の実測試験により左記の数値目標を達成
した。併せて、室温熱膨張率校正試験マニュア
ルとして技術基準を作成した。
ナノテクノロジーに共通な構造(粒子質量、粒
径、粒子濃度、空孔径、表面構造)および機能
特性(薄膜熱拡散率、コーティング熱拡散率、
熱膨張率、nL 積の温度変)に関する計測基盤技
術を確立し、技術基準を作成した。粒子質量計
測技術、薄膜熱物性計測技術に関しては本部プ
ジェクトの成果に基づき実用計測器が開発さ
れて普及しつつある。ナノ材料に関する新たな
標準物質として粒径標準物質(30-100nm)、分
子量分布標準物質、液中粒子数濃度標準物質、
ナノ空孔標準物質、薄膜熱拡散率標準物質、コ
ーティング標準物質(4種類)の9種類の標準
物質と多孔質薄膜標準試料(2種類)を整備し
た。粒子質量標準物質、サブナノ空孔標準物質、
薄膜熱拡散率標準物質、および深さ方向分析用
標準試料に関しては開発を完了し、供給体制を
整備している。
特に、
① 微小要素物理特性の計測基 (3) 粒子数濃度校正技術と濃度標準物質の開発 について、
500nm から 10000nm の粒径範囲における粒子数濃度校正技術基準として、液中粒子計数器の取
扱や粒子数濃度試料溶液の取扱をふくめた、粒子計数の手順を定めた「液中粒子数濃度計数手順
書」を作成した。計数効率評価のための顕微鏡法による計数には、粒子計数の手順を定めた「走
査型電子顕微鏡画像データを用いた粒子計数手順書」、試料作成の手順を定めた「シリコン基板を
用いた顕微鏡法試用料作成手順書」
、電子顕微鏡で画像データを作成する手順を定めた「走査型電
子顕微鏡使用手順書」を作成した。また、500 nm 粒径域までのバックグランドノイズ削減を行な
うとともに、蛍光同時検出型光散乱法式液中粒子数計数器の計数妥当性評価を行った結果 10 % 以
内での一致を見た。合わせて、計数を行う粒径範囲の変化による計数値の評価も行ったことで、
標準物質の供給技術整備をした。
③ 表面構造の計測基盤
(1) 表面分析法の精密化校正技術 について、
SI トレーサブルな膜厚認証値を有する認証標準物質(膜厚認証値 3.49±0.19 nm)を標準試料と
して用いて、放射光を利用した励起エネルギー可変光電子分光スペクトルから各エネルギーでの
有効減衰長を求め、得られた有効減衰長を用いて、別の SiO2 薄膜試料(約 2 nm の酸化膜)の光
電子分光スペクトルから膜厚を決定し、複数の励起エネルギーで、また同じ実験を複数回行うこ
とで得られた多数の膜厚値から平均値 1.83 nm と測定標準不確かさ 0.06 nm を得た。拡張不確か
さは包含係数 k=2 として 0.12 nm となる。このことは励起エネルギーを変えたときの変動がこの
不確かさの範囲で収まっていることを意味し、励起エネルギーを変えて深さ方向分析を行ったと
きの深さ方向がこの不確かさで決定できることになる。従ってシリコン酸化膜系の深さ方向分析
用標準試料の値付けに技術的な目途がついたと言える。
Ⅲ-1-(2)
2. 成果の意義
① 微小要素物理特性の計測基盤
(1) 粒子質量校正技術と粒子質量標準物質の開発
本プロジェクトで開発したエアロゾル粒子の質量分析器(APM)は、気中浮遊粒子の質量分布を実
用的に測定できる装置として世界初のものである。装置は市販化され、大気環境保全、地球環境、
工業ナノ粒子や新規粉体の特性評価などの研究に利用されつつある。このような研究の中で、本
装置は粒子質量分布の測定だけでなく、既存の粒径分布測定器や電子顕微鏡などと併用すること
により、粒子密度(有効密度あるいは真密度)、粒子形状の指標であるフラクタル次元、凝集粒
子中の1次粒子数、浮遊粒子状物質(PM)の質量濃度などの測定に応用されるようになっており、
新たな技術領域の開拓が進んでいる。
(2) 微小要素サイズ校正技術とサイズ標準物質の開発
本研究で確立された液中での粒径計測技術(1-100 nm)は、異なった計測法(動的光散乱と
PFG-NMR)でクロスチェックされていること、各測定法が高精度化されていること、不確かさ評価
が確かなことにより世界最高精度の計測技術である(論文等で発表)。この技術をトレーザビリ
ティのトップとすることにより産業分野で多用されている汎用粒径計測装置(特に動的光散乱)
の性能評価を行うことが可能となり、各種の工業ナノ粒子に付与されている粒径値の妥当性評価
が可能になる。また、産業界から要望の強い粒径分布計測法の開発時にトレーサビリティソース
として役立てられる。一方、開発した分子量分布標準物質は NIST の相当品以上のものである上に、
元となった分子量分布測定技術の ISO 規格は企業現場で多用されている SEC-LS という測定法の信
頼性向上に寄与すると期待されている。
(3) 粒子数濃度校正技術と濃度標準物質の開発
1 次標準としての液中粒子数濃度標準を供給している計量機関は他には無く世界で初めての標
準供給である。この標準の確立により、標準粒子メーカー、校正事業者は、新たに 1 次標準にト
レーサブルな校正事業を行なうことが可能になる。液中粒子数を測定する装置は、水道水、薬用
清浄水、注射薬、半導体等の洗浄液の清浄度を求める際に広く使用されているので、校正を行な
うための 1 次標準と校正技術基準が確立することによる波及範囲は広く、安全性や生産性の向上、
環境負荷の低減に貢献できる。さらに、医療診断計測という新分野において校正基準確立の要望
があり、この分野への貢献が期待できる。
② 空孔の計測基盤
世界最高の時間分解能 170 ps を有する普及型陽電子寿命測定装置を開発した。本装置は、多孔
質薄膜や気体分離膜、逆浸透膜、高分子ナノコンポジット中の微細空孔の測定だけでなく、金属
や半導体中の原子空孔の検出にも用いることができる。さらに、普及型装置をさらにコンパクト
にした時間分解能 250 ps の小型陽電子寿命測定装置の開発も行った。こられの装置は企業とのラ
イセンス契約により市販化されており、高分子、半導体、金属など種々の素材産業での利用が可
能である。
世界初の陽電子寿命測定用認証標準物質の開発を行うとともに、薄膜測定用の標準試料、標準
仕様書(TS)素案、技術基準を作成し、陽電子消滅法を専門外技術者などが汎用的に利用するた
めの技術基盤を整備した。認証標準物質は、バルク材料の陽電子寿命測定において、装置の校正、
測定の妥当性確認に有用であり、すでに企業、大学などで利用されている。標準仕様書素案に関
しては、陽電子寿命測定を行うための装置、手順などがわかりやく記載されており、本素案を TS
化および JIS 化することにより、多くの利用者がトーレサビリティの確保された陽電子寿命測定
を行うことができるようになる。薄膜測定用の標準試料や技術基準は、高度な知識や技術、経験
が必要とされる普及型陽電子寿命測定装置、小型陽電子寿命測定装置、陽電子消滅3光子消滅測
定装置の校正、調整およびデータ解析を専門外の技術者が行うことを可能にする。これにより、
陽電子寿命測定法や3光子消滅測定法のより広範な利用が可能になり、ナノ空孔制御技術を利用
Ⅲ-1-(3)
した新規材料の創出による化学・高分子産業、半導体産業、分析サービス産業での市場の拡大あ
るいは市場の創造が期待できる。
③ 表面構造の計測基盤
(1) 表面分析法の精密化校正技術
非弾性散乱自由行程や有効減衰長は電子と物質の関わりの基本をなすものであるが、物質や電
子のエネルギーに依存し、多体問題を含むことから現象として複雑で理論的な扱いも定まってお
らず、電子の運動エネルギー依存性に関して標準という観点から精密に得られた実験データもほ
とんどなかった。本研究プロジェクトにおいて種々の手法により試料の評価を行い、放射光によ
り励起エネルギーを変えて測定し、電子の運動エネルギーと有効減衰長との関係が限られた系と
はいえ、実験的に得られたことは意義が大きい。
放射光を用いて同時に非破壊で定量分析と化学状態分析が行えることを利用して、これまでに
触媒や機能材料の解析に定性的な深さ方向分析手法として応用してきたが、本研究によって得ら
れた有効減衰長に関するデータと計測技術と、現在用いられている NIST Database などを組み合
わせることにより、表面の構造モデルと実験データとの比較から高精度で深さ情報が得られるよ
うになり、より高い精度で深さ方向の定量、化学状態分析が可能になると考えられる。ナノテク
ノロジーの発展に伴って、材料最表面の評価は機能の実現のための制御技術にとって非常に重要
な情報であり、深さ方法の精度が高くなることで、ナノレベルでの制御が可能になる。このこと
は新規高機能材料の開発に直接結びつく可能性がある。放射光という特殊な光源を用いた研究で
あるが、得られた電子の有効減衰長は電子が関わる分析法や物理現象に広く関わっており、波及
効果が期待される領域は広い。1つの表面分析手法としてではなく、得られる知見を含めた波及
効果を考えると特にナノテクノロジーを展開する産業界に与える影響は非常に大きいと考えられ
る。
(2) 表面分析法標準スペクトルデータの確立
本研究ではスペクトル測定とデータベース開発の基盤的技術を開発した。本成果を適用する事
で、電子分光測定を伴う研究が継続する限り、データベースを成長させ続ける事が出来る。特に
標準化を意識した単一機関でのデータに限定したデータベースは他に作られていないため、収録
データ量を充実させれば利用価値が向上し利用者の増加が期待できる。
新材料開発などの材料技術分野において、電子分光法を利用する際に参照データの入手がネッ
クとなっている現状を考慮すると、電子分光分析の適用範囲の拡大も期待できる。したがってデ
ータベースの拡充の及ぼす波及効果は大きいと考えられる。更に本研究で開発された基盤的技術
は、データベース開発に限定せず電子分光を応用する各種の研究開発に適用可能である。
表面分析の進歩自体が何か特定の大量生産される最終製品を生み出し、市場の拡大や創造に直
接つながるとは考えにくい。また、表面分析の信頼性向上は分析を希望する顧客を増やすかも知
れないが、規模としてはあまりに小さい。さらに、表面分析装置の総数は国内において数百台程
度(1台数千万円)と言われており、本方法を組み込んだ、または本方法に最適な仕様の新製品
が仮に発売されても市場と呼べるほどのものにはならない。
したがって、市場に対する影響は先に挙げたさまざまな産業分野での貢献を介した間接的なも
のになる。製品に近いところのイメージは、例えば、自動車・環境分野で触媒の活性中心の電子
状態の解明、金属分野での粒界観測の信頼性向上、等である。
バックグラウンドを解析する手法自体は世界にも他にあるが、測定データのみで解析可能な技術
は他にない。
現在、標準的な装置で測定された光電子スペクトル、オージェ電子スペクトルを対象にしてい
るが、試料から発生する電子を測定するその他の手法にも応用できる可能性がある。他の励起源
(例えば陽電子)、測定方法の違い(例えば操作型顕微鏡など)を組み合わせると従来は不可能で
あった議論ができるツールとなると期待される。
また、用いた解析法を一言で表現すると「未知関数を含む線形の積分方程式を最適化によって
解く」ものであると言える。この定義は非常に一般的なものであり、同じアプローチで解ける問
題は他の(全く)異なる分野にも存在すると期待される。
Ⅲ-1-(4)
④ 熱物性の計測基盤
(1) 薄膜・界面熱物性の高精度校正技術の開発
ピコ秒およびナノ秒サーモリフレクタンス法(以下ピコ秒法、ナノ秒法)を用いた薄膜熱物性
標準を整備し、ピコ秒法については 2005 年度末から、ナノ秒法については 2007 年度末から依頼
試験を開始した。室温における熱拡散時間を校正するサービスであり、最大校正能力(2σ)にお
いてそれぞれ 4.2 %及び 3.6 %を達成した。校正可能な熱拡散時間の範囲は、ピコ秒法において
100 ps から 6.5 ns、ナノ秒法において 40 ns から 1000 ns である。本技術により、厚さ 100 nm
から 1 μmまでの幅広い膜厚に対応した薄膜熱物性の標準供給体制が確立した。これにより、基
本計画での開発目標を十分に達成した。さらに、TiN 薄膜にナノ秒法で熱拡散率を値付けした標
準薄膜を開発した。本標準薄膜については GUIDE34 に準拠した品質システムを整備し、2008 年度
中に頒布する予定である。
ナノスケールにおける熱エネルギー輸送機構の本質的理解を目的として加速整備されたフェム
ト秒サーモリフレクタンス法では、面内分解能 500 nm、膜厚 40 nm の熱拡散率測定を実現する計
測システムを開発し、さらに 10 K まで低温測定を可能とする機能の追加を行った。
基材と一体化したコーティングの熱拡散率を、基材から剥がすことなく測定する技術を、具体
的な形としては初めて確立した。本技術成果は、NEDO「耐熱コーティング膜の特性評価試験方法
に関する標準化調査事業」の一環として、コーティングの熱伝導率に試験方法として取り上げら
れ、JIS 素案骨子の検討・作成が進んでいる。国内のガスタービンや溶射材料のトップメーカー
の関係者からは、材料の試験・評価および設計用の熱物性値生産の技術として高く評価され、ま
た期待されている。さらに、本研究では、実測検証を行い、標準不確かさ(1σ)10%以下を達成
した。このような層状試料で不確かさ評価を行った例は世界初である。一方、本研究では、レー
ザフラッシュ法における黒化処理の検討・開発を行い、従来方法による測定値への影響の定量的
な見積(不確かさ評価)および新しい処理方法を成果として得た。従来方法の定量的な不確かさ
評価も他に例がない。また、新しい黒化処理方法は、コーティングに限らずレーザフラッシュ法
全般に寄与するもので、学会等で簡単に報告したが、大きな反響があった。コーティングの評価
のために、周期加熱法の実用測定の試作機を検討・試作した。この試作機の測定適用範囲は、最
近は試料サイズ・材料の面でニーズが高い領域かつ実用測定機が未開拓の領域である。したがっ
て、市場拡大が期待できる装置であり、製品化を進めたいと考えている。
(2) 熱物性標準物質の開発
コーティングと基材の2層からなり、それぞれの熱拡散率、比熱容量、熱伝導率の値がつけら
れた熱物性評価用標準物質を世界で初めて開発した。開発した標準物質の中でも、セラミックス
の多孔体と緻密体を組み合わせたものは、測定の健全性を検証するための標準試料で、界面熱抵
抗が最小限であり、各層の厚さが十分な精度で定義できることを必要条件として開発したもので
ある。この標準物質は、NEDO 委託事業「耐熱コーティング膜の特性評価試験方法に関する標準化
調査事業」の一環として進められているコーティングの熱伝導率の試験方法の規格化において基
準試料として用いられており、評価方法・評価機関間の比較ができる試料として評価されている。
また、基材と一体化したコーティングの熱拡散率をそのままの状態で評価を行っている依頼測定
機関や装置メーカーなどからも、測定の不確かさ、健全性を評価する上で、2層からなる標準物
質が求められている。本研究開発の標準物質の供給により、コーティングの熱物性値の信頼性が
向上し、コーティング材料開発や実用化の促進に貢献することが期待される。
(3) 熱光学特性の高精度校正技術の開発
複数の熱光学特性(熱膨張率、nL 積)について同一対象に関して高精度(10-7K-1 オーダー以
下)での絶対測定を可能とした校正システムは他に類を見ない。これにより、高精度な参照値を
つけた標準物質、高精度標準データの生産・供給が可能となった。現在、次世代半導体プロセス
の精密加工ではゼロ膨張材料が微細化、集積化のキーマテリアルとなっており、これらの材料の
特性開発・評価が可能となることによる当該分野に対する貢献は非常に大きいと考えられる。ま
た、熱変形フリー材料の活用による省エネ効果にも注目が集まっており、熱対策に係る技術分野
への貢献が期待できる。
Ⅲ-1-(5)
3. 特許・発表等
以下の表の通り、計画的に知的財産(特許)を取得するとともに、成果の普及についても、各
種学会等における口頭発表、雑誌の論文掲載等により、積極的に推進してきた。
表 Ⅲ-1.3-1 特許・論文件数の一覧
(詳細は別紙の成果リスト参照)
H13
(2001)
微小
要素
空孔
表面
構造
熱物性
H14
(2002)
H15
(2003)
H16
(2004)
H17
(2005)
H18
(2006)
H19
(2007)
2
0
0
13
3
受賞 2
4
2
0
19
3
受賞1
0
0
0
9
1
42
8
0
96
21
3
0
0
11
0
29
8
9
93
24
論文発表
特許出願(国内)
特許出願(国外)
口頭発表,講演
その他発表
その他
論文発表
特許出願(国内)
特許出願(国外)
口頭発表,講演
その他発表
その他
論文発表
特許出願(国内)
特許出願(国外)
口頭発表,講演
その他発表
その他
論文発表
特許出願(国内)
特許出願(国外)
口頭発表,講演
その他発表
3
1
1
9
1
受賞1
4
0
0
6
1
3
3
0
11
2
5
0
2
13
0
8
0
0
9
0
1
0
0
10
2
6
1
0
10
6
12
1
0
28
3
5
4
0
5
5
1
0
0
9
4
7
0
0
12
4
2
0
0
9
4
1
0
0
5
2
5
0
0
9
2
受賞1
0
0
0
6
3
3
0
0
13
3
受賞1
6
0
0
19
1
受賞1
0
0
0
8
1
7
2
2
8
3
4
2
0
16
6
7
1
3
13
3
2
0
0
13
1
2
1
1
13
1
その他
受賞1
書籍1
4
2
3
19
10
受賞1
書籍1
合計
25
4
3
78
11
11
0
0
58
19
また、本表に含まれる活動以外にも、下記の活動を行い、情報の発信および情報交換を行った。
1) 国際ナノテクノロジー総合展(nano tech 2003~2008:計 6 回) への出展。
2) International Symposium on Standard Materials and Metrology for Nanotechnology
の共催。
(ナノテクノロジーのための標準物質と計測に関する国際シンポジウム)
概要:ナノ関係標準物質及び計測に関する国際的に著名な研究者約20名を含む参加者による発表およ
び討論。ナノ計測基盤プロジェクトからは各回10数件のポスター展示をするとともに、会議の運営
に中心的に寄与した。
第1回
第2回
2004年5月15,16日(東京ビッグサイト)
2006年5月25,26日(秋葉原コンベンションホール)
3) 1st International Symposium on Thermal Design and Thermophysical Property for
Electronics ( e-Therm )の開催
(エレクトロニクスに関する熱設計と熱物性に関する第1回国際シンポジウム)
2008年6月18日~20日(つくば国際会議場)
概要:近年重要性が高まっているエレクトロニクス分野における熱問題の解決に向けて、広い分野の研
Ⅲ-1-(6)
究者が研究発表と討議を行う場を提供することを目的として開催された。熱物性値の計測技術、熱物
性標準とトレーサビリティ、熱物性データベースの整備から、半導体デバイスや相変化記録メモリの
熱設計・熱対策のための伝熱シミュレーション技術の進展、ダイヤモンド薄膜やカーボンナノチュー
ブなど新材料の活用に関する39件の講演が行われた。ナノ計測基盤技術プロジェクトのサブテーマ
「熱物性の計測基盤」の成果から6件の発表がなされた。本シンポジウムは熱物性の計測基盤のサブ
テーマを担当した研究者によって運営された。
Ⅲ-1-(7)
Ⅲ-2. 研究開発項目毎の成果
Ⅲ-2.1 微小要素物理特性の計測基盤
Ⅲ-2.1.1 粒子質量校正技術と粒子質量標準物質の開発
(1)研究開発の概要
ナノ粒子の生成・成長過程の解析と制御、あるいはナノ粒子が様々な材料生産プロセスに及ぼ
す影響の評価等のために、粒子の正確なキャラクタリゼーションが必要である。凝集や破砕等に
より生成した粒子はしばしば不定形であるため、粒子形状に依存しない普遍的物理量としての粒
子質量の高精度計測がこの目的に有効である。粒子質量の計測方法はこれまで知られていなかっ
たが、我々は粒子に働く遠心力と静電気力の平衡を利用する方法を最近提案した 1) 。これは図
III-2-1-1.1に示すように、高速回転する円柱型電極間に帯電粒子を含む気体を流し、遠心力と静電
気力が平衡する粒子のみが電極間を通過できることを利用して特定の質量を有する粒子を選択的
に取り出す原理に基づいている。しかし、装置内部における粒子の拡散沈着や試料気体流れの制
御の困難さ等により、実験データと理論との定量的比較はまだ困難な段階にあり、実用的計測技
術として確立するに至っていない。
本研究開発では、この原理に基づく粒子質量分布計測技術を実用化するため、装置内部におけ
る粒子運動と装置動作特性の詳細を実験的および理論的に解明し、この知見に基づいた信頼度の
高い実用的粒子質量分布計測技術を開発する。複雑な装置内各部形状に配慮した電場、試料気体
流れ場、およびこれらのもとでの粒子運動の理論的計算と実験的確認にもとづき装置設計の最適
化を行う。この原理に基づく粒子分級特性を評価し、分級分解能の幅の影響を考慮したデータ解
析方法を確立する。また、この方法が粒子質量の絶対計測を可能とすることから、これを利用し
て単分散粒子の質量値づけを行い、標準試料として利用できるようにする。この目的で、単分散
粒子を含むエアロゾルの発生技術を開発する。さらに、粒子のキャラクタリゼーションのために、
粒子密度の決定が粒子物性同定の観点から有効であるため、電気移動度分析等による高精度粒径
計測技術と本方法との併用による粒子密度計測技術を確立する。
(2)中間目標(平成15年度末まで)
①粒子質量分析装置のプロトタイプとして以下の性能を有する装置を完成する。
・10 fg の粒子を 20%より良い相対分解能で分級可能
・回転ベアリング等の摺動部からの試料気体の漏洩量が 10%以下
②準単分散粒子に対する電気移動度分析データから、粒径範囲 10-500 nm において粒径分布モーメントを求める解
析手法を確立
(3)最終目標
①0.01 fg から 1000 fg(fg=フェムトグラム)を含む範囲に適用可能な粒子質量分析技術を実用化する。
②1 fg から 1000 fg の範囲において、不確かさ 15%以下で単分散粒子の質量の値づけを行い、標準
物質として確立する。
③質量-粒径同時測定により、1 g/cm3 から 10 g/cm3 の範囲に適用可能な粒子密度計測技術を開発
Ⅲ-2-1-(1)
する。
(4)本研究開発の構成
上記目標を達成するため、H13~16年度は次の項目について研究を行ってきた。
・粒子質量分析技術の開発
・粒径分布特性評価技術の開発
・粒子発生技術の開発
H17~H19年度は次のようにさらに詳細化した項目について研究を行う。
(i)粒子質量分析技術の高度化
(i-1)絶対測定用粒子質量分析装置の開発
(i-2)走査モード運転による APM 測定の高速化
(i-3)伝達関数の厳密解と APM スペクトル解析への応用
(i-4)微小粒子用高速回転型装置の開発
(ii)電気移動度分析法による高精度粒径計測技術の開発
(iii)粒子質量標準物質の開発
(iv)粒子密度測定技術への応用
(i)は、粒子質量分析技術開発の中核をなす部分である。装置の動作原理を図 III-2-1-1.1 に示
す。高速回転する円柱型電極間に帯電粒子を導入し、遠心力と静電気力が平衡する粒子のみが電
極間を通過できることを利用して特定の質量を有する粒子を選択的に取り出すものである。(i
i)は粒子質量標準物質の候補から、単分散性や分布の対称性に優れたものを選別するとともに、
最終的に開発する標準物質の高精度キャラクタリゼーションを行うために必要なものである。こ
の中では同時に粒子の気中発生技術についても検討を行う。
(iii)は以上の技術を総合して粒
子質量標準物質の開発を行うものである。最後に(iv)は(i)の応用として粒子質量と粒径
の同時測定による粒子密度測定技術の開発を行うものである。
図 III-2-1-1.1
エアロゾル粒子質量分析の基本原理
Ⅲ-2-1-(2)
(5)これまでの成果
(5-1)H16年度までの研究成果のまとめ
1)エアロゾル粒子質量分析装置の時間応答特性異常の解消
エアロゾル粒子質量分析装置(APM)では印加電圧を変化させることにより装置から取り出され
る粒子の質量中心値を制御する。従って、電圧をステップ状に変化させた後の分級粒子濃度が迅
速に平衡値に達することが、実用的な粒子質量分析の実現のために必須である。予想される応答
時間は、粒子の装置内平均滞留時間と同程度の約 30 s であるが、これまでに開発した装置につい
ての実験では、設定電圧の変更順序を含む実験条件によっては応答時間がこの 10 倍以上になりえ
ることが観測された
2)
。同時に、分級後粒子数濃度が漸近値に近づく方向(減少か増加か)が直
前の設定電圧の大きさに依存するヒステリシス現象も同時に観測された。この時間応答特性の異
常は、装置内空気流速分布や電圧変更時の粒子運動の過渡応答特性では説明できないことが、数
値流体力学を利用した解析や、非定常粒子軌跡の数値解析によりまず明らかとなった。
そこでこの現象を詳細に調査した結果、観測される幾つかの異常現象を少なくとも定性的には
説明可能な、電荷蓄積モデルと我々が名づけたモデルを提唱した。さらにこのモデルにもとづい
て、応答時間異常を解消可能と予想される装置設計を行い、新たな装置を試作した。試作装置に
ついて実証実験を行い、応答時間異常の現象が実際に解消されていることを確認した。
2)粒子質量分析装置の伝達関数に対する理論的枠組み
APM による質量分級特性は、特定の質量を有する粒子について、APM から出てくる粒子数流
束の APM に導入された粒子数流束に対する割合として定義される APM 伝達関数で特徴づけられ
る 1)。APM 電極中での粒子の運動軌跡に対して、分級分解能が高い場合に成立する一定の条件下
で妥当な近似的解を求め、これに基づいて伝達関数を理論的に計算する枠組みを確立した。計算
機プログラムとして、伝達関数及び伝達関数と粒子の質量分布関数の重ね合わせ積分により求ま
る質量分布スペクトルを計算するプログラムを開発した。
3)粒径分布パラメータ評価技術の開発
標準粒子の開発のためには粒径の良く揃った単分散粒子が必要であるが、これまでナノ粒径域
においては、粒径分布特性を高精度・定量的に評価し得る評価技術が確立していなかった。ここ
では微分型電気移動度分析装置により得られるデータから、装置内での粒子のブラウン運動の影
響を考慮に入れることにより、ナノ粒子への適用が可能な、粒径分布パラメータ評価手法を確立
した。
4)単分散粒子の気体中粒子発生技術
100 nm 以下の粒径域において,従来の噴霧乾燥法による粒子発生では,粒子同士の凝集や懸濁
液中の極微量防黴剤の影響のために,単一ピークを示す粒径分布が得られなかった。この問題に
対して,以下の研究を実施してきた。
(a) 噴霧液滴径を高い精度で測定する方法を開発した。これは,噴霧液体に微量の不揮発性物質を
添加し,その液滴が乾燥した後に残る蒸発残渣粒子の粒径分布から噴霧液滴の粒径分布を高精度
Ⅲ-2-1-(3)
に推定する方法である。
(b) 超臨界流体からの気体への状態変化の際に爆発的な膨張を生ずる超臨界流体を粒子懸濁媒体
として利用して,凝集粒子や蒸発残渣の低減を狙った粒子発生技術を独自に着想した。装置の試
作,実行可能性の確認などを行い,単一ピークを示す粒径分布が得られることを実証した。しか
しながら,粒子発生の十分な時間安定性を得ることが困難であり,改善を要することがわかった。
(c) 静電噴霧による粒子発生を検討し,バックグラウンド粒子の存在しない単一ピークを示す粒径
分布を得ることに成功した。この静電噴霧法を用いることにより,100 nm 以下の標準粒子発生技
術を確立した。
(5-2)H17-H19の研究成果
(i)粒子質量分析技術の高度化
(i-1) 絶対測定用粒子質量分析装置の開発
エアロゾル粒子質量分析装置(APM)による粒子質量分析の不確かさ3)は、以下の3群の不確かさ
成分に分けて検討することができる。
[1a] 系統的成分のうち、粒子のブラウン拡散に依存しない部分
[1b] 系統的成分のうち、粒子のブラウン拡散に依存する部分
[2] 偶然的成分
絶対測定を目的とした装置設計では、まず[1a]に対する配慮が重要である。これについては、電
極印加電圧 V、電極回転数ω の運転条件下で質量 m、電荷 q の粒子に働く遠心力と静電気力の平
衡を表す次の式から理論的に検討することができる。
qV
mrc ω 2 =
rc ln(r2 r1 )
(1.1.1)
ここで、r1, r2は円環状電極空間の内側及び外側半径で、 rc = (r1 + r2 ) / 2 である。式(1.1.1)では、粒
子は電極中央に対応する動径座標に位置するものを考えている。[1a]の要因による粒子質量の不確
かさ成分を us(m)とすると、式(1.1.1)に不確かさの伝播則3)を適用することにより次式を得る。
2
2
2
2
⎡ u (rc ) ⎤
⎡ u s ( m) ⎤
⎡ u (V ) ⎤
⎡ u (δ ) ⎤
⎡ u (ω ) ⎤
⎢ m ⎥ = ⎢ V ⎥ + ⎢ r ⎥ + ⎢2 ω ⎥ + ⎢ δ ⎥
⎣
⎦
⎣
⎦
⎣
⎦
⎣
⎦
⎣ c ⎦
2
(1.1.2)
ただし、 δ = (r1 − r2 ) / 2 は電極間隔の半幅を示す。式(1.1.2)の右辺において、パラメータの代表的
な数値を代入することにより、us(m)に対して主要な寄与は u(δ)/δ から来ることがわかる。これは
粒子質量についての分級分解能を高い値に維持するためには、δ /rc を小さな値に選択する必要が
あり、その結果、相対不確かさ u(δ)/δ の分母が小さな値となるためである。
以上の解析と後述する電極歪みの解析にもとづき、機械加工精度及び電極の組立精度を高くす
るとともに、電極間隔2δ を装置組立後に評価可能な絶対測定用粒子質量分析装置を設計・試作し
た。図 III-2-1-1.2にその設計を、図 III-2-1-1.3にその写真を示す。電極円環部の内側及び外側半径
はそれぞれ100 mm, 102 mm (電極間隔2 mm)、長さ250 mm で、電極は垂直に配置され、試料エア
ロゾルは上側から導入し、分級後エアロゾルは下側から取り出される構造となっている。回転部
と非回転部の間の摺動部における空気シールは、試料入口部と排出部の2箇所に設けた磁性流体
ベアリングにより行われる。電極は、試料排出管を軸とするブラシレースモータにより回転され
る。回転のための軸受は、回転安定性に配慮して当初空気軸受を採用したが、内外電極の絶縁の
Ⅲ-2-1-(4)
ために使用している樹脂部品に起因すると考えられる一定の運転時間経過後の軸ずれのため、空
気軸受が要求する回転軸部分の機械的精度を長期的に実現することが困難であることが判明した。
従って、空気軸受の代わりに通常の機械式軸受を採用することとした。
図 III-2-1-1.2の拡大挿入図に示すように、電極上蓋部、下蓋部の各4箇所にねじによる封止可能
な、直径が2 mm をわずかに上回る穴があけられており、この穴を通じてボールゲージを挿入する
ことにより、電極上下端計8箇所で電極間隔を点検することが可能であるようにしてある。内外
の電極を組み立てる前に、3次元測定器及びハイトゲージを利用して、図 III-2-1-1.4に示す偏角方
向の各箇所で軸方向に10箇所の点で、内側電極の外径及び外側電極内径を測定した。また2 mm
を中心に10 μm 間隔で直径が異なるボールゲージを準備し、電極組立後に電極端の8箇所の点(上
下端のそれぞれ A, D, G, J)における電極間隔を測定した。
図 III-2-1-1.2 絶対測定用エアロゾル粒子質量分析装置の電極部の設計
Ⅲ-2-1-(5)
図 III-2-1-1.3 絶対測定用エアロゾル粒子
質量分析装置電極部の外観
A
L
K
図 III-2-1-1.4 内側電極外面及び外側電極内面
のプロファイルに対する偏角方向
測定箇所
B
C
Inner
electrode
J
D
Outer
electrode
E
I
H
F
G
Electrode gap (mm)
A
2.030
2.020
2.010
2.000
B
C
D
E
F
1.990
1.980
1.970
G
H
I
J
0
50
100
150
200
250
Distance from top plate [mm]
図 III-2-1-1.5 電極組立後の電極間間隔の電極面全面にわたる評価
Ⅲ-2-1-(6)
K
L
以上の2種類の測定から、電極組立後の電極間間隔を、電極面全面にわたって再構成した結果
を図 III-2-1-1.5に示す。この結果は後述の不確かさ評価において利用するが、平均電極間隔はほぼ
厳密に設計通りの2 mm となっているとみなして差し支えないことが図 III-2-1-1.5よりわかる。
電極間隔に対する以上の見積もりは APM 電極が静止時のものであるが、電極回転時には遠心力
により電極歪みが生じて電極間隔が変化する可能性を考慮する必要がある。電極回転時に電極間
隔を実測することは極めて困難であるため、数値計算によりこの効果を見積もることとした。図
III-2-1-1.6にこの計算において用いた電極のモデルの例を示す。図は電極間に挿入する絶縁体を固
定するために内側電極外側に軸方向に切った4本の溝の深さが5 mm、幅が8 mm の場合の例を示
す。電極厚さは内側、外側ともに10 mm である。回転軸まわりに4回の回転対称性があり、また
軸方向に鏡映対称性があるため、計算は図 III-2-1-1.6に示すモデルの1/8の領域を対象に行った。
計算には有限要素法のプログラム ANSYS を用いた。図 III-2-1-1.7にこの領域に対して設定した計
算用メッシュを示す。計算は、溝深さ2 mm, 5 mm の2通り、回転数5000 RPM, 10000 RPM の2通
りの計4通りについて実施した。電極材料の物性値は、アルミニウムの典型的な値として、ヤン
280
250
グ率 7×104 MPa, ポアソン比0.345, 密度2.6989 g/cm3を用いた。
220
204
200
dum
5
180
Inner
electrode
dumm
8
図 III-2-1-1.7 電極モデルに対して
Outer
electrode
設定したメッシュ
図 III-2-1-1.6 電極歪みの数値計算において
用いた電極モデル
Ⅲ-2-1-(7)
図 III-2-1-1.8
溝深さ5 mm, 回転速度5000 RPM
における電極歪みの計算結果
r2 - r1 (mm)
2.04
図 III-2-1-1.9
2.02
2.00
1.98
Groove location
1.96
溝深さ5 mm, 回転速度5000 RPM
0
における z = 125 mm の点での電極
π/4
π/2
Azimuth (radian)
間隔の計算結果
図 III-2-1-1.8に溝深さ5 mm, 回転速度5000 RPM における電極歪みの計算結果を示す。予想される
ように歪みが顕著な部分は内側電極に切った溝の周辺であることがわかる。この計算結果から求
めた、電極高さ z = 125 mm の平面上における電極間隔の値を図 III-2-1-1.9に示す。溝付近では内
側電極が半径方向に膨張するため結果的に電極間隔がおよそ8 μm 程度減少するが、溝からπ /4 ず
れた地点では内側電極の歪みが外側電極に比較して小さいため、逆に6.2 μm 程度増加しているこ
とがわかる。10000 RPM ではこの傾向はさらに顕著となり、電極間隔は設計値2 mm に対して、-31
μm から24 μm 程度まで変化し得ることがわかった。溝深さが2 mm の場合、電極間隔は偏角方向
にかかわらず増加する傾向にあり、設計値2 mm に対して+2.2 μm から+3.6 μm(5000 RPM)、及び
+9 μm から+15 μm(10000 RPM)であった。
一方、rc の値の設計値101 mm からのずれの大きさは、9.7 から11 μm (溝深さ2 mm, 5000 RPM)、
8.4から16 μm (溝深さ5 mm, 5000 RPM)、39から42 μm (溝深さ2mm, 10000 RPM)、34から62 μm (溝
深さ5 mm, 10000 RPM)の範囲であった。
Ⅲ-2-1-(8)
Particle mass (fg)
100
500
10
1
100
0.1
50
図 III-2-1-1.10 エアロゾル流量1.0 L/min,
回転速度3000 RPM での
10
理論分級特性
100
1000
APM voltage (V)
Particle diameter (nm)
1000
3000 RPM, 1.0 L/min
10000
回転速度3000 RPM、試料エアロゾル流量1.0 L/min の条件下で、理論分級特性は図 III-2-1-1.10
のように計算できる1)。図の実線は伝達関数のピーク位置を、破線は伝達関数の端の位置を示す。
これより1 fg 粒子の分級は3000 RPM においても十分な分級分解能をもってできることがわかる。
従って溝深さの選択は5000 RPM において顕著な電極間隔のずれを生じないことを根拠に5 mm の
深さとすることとした。図 III-2-1-1.2の設計は以上の検討に基づくものである。
(i-2)走査モード運転による APM 測定の高速化
これまで APM の運転は、図 III-2-1-1.11に示すように、回転数を固定した上で、一定の電圧値(Vi)
において APM に入った粒子数に対する APM 出口より取り出される粒子数の比である粒子通過率
(ni)を、数から数十段階の電圧値において求める方法で行われてきた。粒径分布測定の目的でしば
しば利用される微分型電気移動度分析器(DMA)でも同様の運転方法(ステッピングモード)が一
般的であったが、1990年に DMA 電圧を時間的に走査する走査モードでの運転方法が提案された4)。
電圧が時間的に連続に変化するために DMA 電極内部での粒子軌跡が時間依存する可能性を考慮
する必要があり、観測データの解析はステッピングモード運転よりも複雑となる。しかしこの方
法は DMA を用いた測定の高速化に大変有効であることが実証され、凝縮粒子計数器(Condensation
Particle Counter; CPC)と組み合わせた走査型移動度粒径分析器(SMPS)が広く普及している。
APM への走査モード運転の適用可能性を検討する。ステッピングモードと走査モードの電圧変
化方法は図 III-2-1-1.12のように比較される。APM 装置内の粒子の平均滞留時間は典型的な運転条
件においておよそ30秒弱であるため、ステッピングモードにおいては、電圧設定値を取り替えた
後、APM 出口での粒子数濃度が安定するまでに30秒程度を要する。この期間は図 III-2-1-1.12左に
示すようなアイドリング運転とし、その後およそ30秒程度をかけて粒子通過率を測定するのが一
般的である。その結果、図10のようにおよそ30点の電圧設定値に対してステッピング型運転で
スペクトルを得るには30分程度もの長い時間を要することとなる。従って走査モードの導入によ
り測定の高速化を図ることは、APM 測定の実用性を向上させる上で大きな意味がある。
Ⅲ-2-1-(9)
2003 RPM, 0.6 L/min, 208 nm PSL
図 III-2-1-1.11
208 nm PSL に対する
ステッピングモード運転による
Particle escape rate (-)
0.06
観測 APM スペクトルとあては
( ρp = 1.054 g/cm3, m = 4.97 fg )
+
0.05
calculated
0.04
+ +
0.03
0.02
∫ G (m) Ω(m;V ) dm
+++
G(m) : mass distribution
Ω(m; V) : transfer function
+
0.01
0.00
0
100
200
300
400
500
600
700
Voltage (V)
めにより得られた理論スペクトル
Stepping mode
Scanning mode
idling
(~ 30 s)
APM voltage
APM voltage
measuring
(~ 30 s)
Time
図 III-2-1-1.12
Time
APM でのステッピングモードと走査モードにおける電圧走査方法の比較
APM への走査モード運転の適用可能性を検討するために、DMA と APM における粒子の電極内運
動軌跡の比較を図 III-2-1-1.13に示す。DMA の場合、特定の移動度を有する粒子の選別は、電極出
口において他の移動度を有する粒子が捕捉されることで生じ、DMA 電極内部では捕捉機構が働い
ていないため、電極印加電圧を時間的に連続に変化させても、何らかの移動度の値を有する粒子
が電極出口を通過し得ることはかわらない。一方、APM では、静電気力と遠心力が平衡して電極
内を軸方向に直線的に運動する粒子のみが電極を通過する。すなわち粒子の捕捉機構が電極出口
でなく中間の電極壁で働いているため、印加電圧を時間的に連続に変化させると直線的に運動で
きる粒子がなくなり、粒子通過率が低下することが予想される。電圧変化速度が十分に速いと、
通過率がゼロとなり、意味のある測定はできなくなる。すなわち、仮に走査モードによる運転が
可能であるとしても、電圧走査速度を測定の高速化に有効であるほど十分に速くできるかどうか
が検討の中心課題となる。
Ⅲ-2-1-(10)
DMA
(Differential mobility analyzer)
APM
(Aerosol particle mass analyzer)
250 mm
図 III-2-1-1.13
DMA と APM にお
ける粒子の電極内運動軌跡の
比較
Wang and Flagan (1990)
2 mm
そこで、印加電圧を時間的に連続的に変化させたときの粒子運動がどのようになるかをまず理
論的に検討することとした。電圧の時間依存性を V(t)とし、時刻 t において静電気力と遠心力が平
衡する動径座標を rb(t)と表記すると、rb(t)は次式を満たす。
qV
mrb (t )ω 2 =
.
ln(r2 r1 )
(1.1.3)
これを解いて、
⎡
⎤
qV (t )
rb (t ) = ⎢
⎥
2
⎣⎢ mω ln(r2 r1 ) ⎥⎦
12
.
(1.1.4)
rb(t)を用いると、粒子の運動方程式は、動径方向と軸方向のそれぞれについて次のように書ける。
dr
= 2τ p ω 2 (r − rb (t )),
dt
(1.1.5)
dz
= v air (r ).
dt
ただし τ p = mB (ここで B は機械的移動度) は粒子の緩和時間であり、
vair(r)は軸方向空気流速で、
電極内の空気は軸方向成分のみを有するとする。以下では、特定の指定を市内限り vair(r)は Poiseulle
流(r 依存性が放物線状)で表されるものとする。これは、電極間隔(2 mm)が電極長(250 mm)およ
び電極半径(101 mm)に比べて十分小さいため、妥当な仮定である。運動方程式を無次元化するた
めに r, z, t に代えて次の無次元の座標及び時間を導入する:
ρ = (r − rc ) δ ,
ζ = z L,
τ = t ( L / v ).
(1.1.6)
ここで、 rc = (r1 + r2 ) / 2 、 δ = (r1 − r2 ) / 2 、L は電極長、 v は平均空気流速である。さらに rb(t)に対
応するρ をρb(t), 無次元の空気流速分布を w( ρ ) = v(r ) v とし、分解能パラメータを次で定義する。
λ ≡ 2 Lτ p ω 2 v
(1.1.7)
すると式(1.1.5)は次のようになる。
Ⅲ-2-1-(11)
dρ
= λ ( ρ − ρ b (τ )),
dτ
(1.1.8)
dζ
= w( ρ ).
dτ
初期条件として、粒子がτ = τi にρ = ρi を出発したとし、τ = τ i + τ とおく。式(1.1.8)のρについての
方程式は幾つかの変形のうえ、次のように解くことができる。
τ
ρ (τ i + τ ) − ρ b (τ i + τ ) = exp(λτ )[ρ i − ρ b (τ i )] − exp(λτ ) ρ b′ exp(−λτ )dτ
∫
(1.1.9)
0
ここでρb’はρb の時間微分である。印加電圧の時間依存性が指数関数で表される場合を考える:
V (τ ) = V0 exp(τ τ V ) .
(1.1.10)
このとき式(1.1.9)は次のようになる。
ρ (τ i + τ ) = [ρ i − ρ d (~s )]exp(λτ ) + [ρ d (~s ) + ~
rc ]exp(λV τ ) − ~
rc .
ここで次のような変数を導入している。
~
r =r δ ,
s = m / q , s (τ ) =
c
c
c
s (τ )
~
,
sc (τ ) = c
sc (τ i )
λV = 1 (2τ V ) ,
V (τ )
ω 2 rc 2 ln(r2 / r1 )
λ
~
λV = V ,
λ
,
~
s =
(1.1.11)
s
,
s c (τ i )
⎡
⎤
⎥.
−
1
~
⎢ ~
⎥
(
1
−
)
s
λ
V
⎣
⎦
ρ d (~s ) = ~
rc ⎢
1
(1.1.12)
詳細を省くが、式(1.1.11)を式(1.1.8)に用いて積分を実行することによりζについても解析的に解
を求めることができる。代表的な条件下で以上をもとに計算した粒子の運動軌跡の例を図
III-2-1-1.14に示す。この図で最も上はλ V = 0.0としたもので、ステッピングモードの場合を表す。
λ V がゼロでない場合は走査モードを表すが、図からわかるように、一度外側方向に運動を始めた
粒子が、途中で向きを変えて内側方向に運動を行うことがある場合がわかる。また電圧の変化速
度が比較的大きくなると(λ
V
= 0.05)電極を通過することのできる粒子がなくなることがうかがえ
る。
r/δ
stepping mode
scanning mode
1
λ = 1.0, λV = 0.0, ~s = 1.0
rb(t) = const.
0
-1
0.0
0.2
0.4
0.6
z/L
r/δ
1
rb(tinit)
1.0
0
-1
0.0
0.2
0.4
z/L
0.6
0.8
1.0
λ = 1.0, λV = 0.05, ~s = 1.0
1
r/δ
0.8
λ = 1.0, λV = 0.02, ~s = 1.0
0
-1
0.0
0.2
0.4
0.6
0.8
1.0
z/L
図 III-2-1-1.14 ステッピングモード及び走査モードでの粒子の電極内運動軌跡の計算結果
Ⅲ-2-1-(12)
走査モードでの伝達関数Ω(t, m)は、APM に導入する粒子数流束が時間的に一定と仮定するとき、
時刻 t における APM 出口での粒子数流束と導入流束の比として定義され、時刻 t の関数となる。
図 III-2-1-1.15に模式的に示すように、APM 入口を同時刻 tin に出発した粒子であってもその初期動
径座標によって出口を異なる時刻に通過する可能性があり、逆に異なる時刻に出発した粒子であ
っても出口を同時刻に通過する可能性がある。従って走査モード伝達関数の計算では、あらかじ
め様々な tin に出発した粒子の運動を求めておき、その内特定の tout に出口を通過した粒子の個数
を集計するという手順が必要となる。この点で、粒子運動軌跡の時刻依存性を考慮する必要がな
いステッピングモードでの伝達関数の計算に比べて、計算プログラムが極めて複雑となることは
避けられない。
図 III-2-1-1.16のように APM 印加電圧を指数関数的に増加し、ついで減少するときの伝達関数を
上述の方法を用いて計算した。粒子質量は、密度1.91 g/cm3、粒径約210 nm の食塩粒子を想定した
m = 9.26 fg とし、電極回転数1000 RPM, エアロゾル流量は1 L/min と仮定している。電圧上昇(お
よび下降)は10 V から1800 V の間を tscan = 435 s, 135 s, 90 s の時間で走査したときの結果を図
III-2-1-1.17に示す。走査速度を十分遅くした tscan = 435 s の場合は、実質上ステッピングモード運
転での伝達関数と大きく違わないことが期待される。走査時間をさらに短くしても、伝達関数高
さがゼロになることはないことから、粒子質量の分級は可能と考えられる。
Exit
t = tin
t = tout
t = t’out
tin
Voltage (V)
Entrance
up scan
down scan
1800
10
0
tscan
Time
(entering time)
tout
(exiting time)
図 III-2-1-1.15 走査モード運転での
図 III-2-1-1.16
走査モード運転における
APM 印加電圧の時間走査
伝達関数計算のスキーム
以上を実験で確認するため、図 III-2-1-1.18に示す装置を用いて走査モードでの APM スペクトル
を求める実験を行った。実験で観測される APM スペクトルはϕ (m)を質量分布とすると、理論的
には次で与えられる。
∫
Fout (t ) = Ω(t ; m)ϕ (m)dm
(1.1.13)
食塩粒子を DMA により移動度径210 nm で分級した粒子を試料としたときの、実験及び理論スペ
クトル(式(1.1.13))の比較を図 III-2-1-1.19に示す。ここでϕ (m)は m についての正規分布と仮定し、
tscan = 450 s のスペクトルにあてはめて分布パラメータを決定したものを他のスペクトルでも用い
た。図から明らかなように、tscan = 135 s 及び 90 s の観測スペクトル位置は理論的予想より若干の
時間遅れを伴っており、また粒子通過率は高くなる傾向がうかがえる。しかしこのような比較的
速い走査速度においても、当初心配された粒子通過率がゼロとなることは、理論的にも実験的に
Ⅲ-2-1-(13)
Escape rate (-)
1.0
0.0
0.0
0.5
1.0
Normalized time, t / tscan
Escape rate (-)
図 III-2-1-1.17
m=9.26 fg, Ω = 1000 RPM,
Q = 1.0 L/min での走査モード
down scan
Escape rate (-)
up scan
伝達関数の計算結果
0.5
tscan = 450 s
1.0
0.5
1.5
2.0
tscan = 135 s
0.0
0.0
0.5
1.0
Normalized time, t / tscan
1.0
1.5
2.0
tscan = 90 s
0.5
0.0
0.0
0.5
1.0
1.5
2.0
Normalized time, t / tscan
NaCl solution
Atomizer/dryer
DMA
TSI 3076
Polystyrene
latex particles
TSI 3081
Atomizer/dryer
JSR Aeromaster
CPC
N1
APM
TSI 3010
Particle escape rate =
図 III-2-1-1.18
APM の走査モード運転の可能性の実証
N2
N1
N2
CPC
に用いた実験装置
TSI 3010
生じていないことから、走査モード運転が実用的に利用できる可能性があると考えられる。そこ
で、これが実際に可能であることを確認するため、走査モード観測スペクトル F(tout)の質量分布
ϕ(m)への変換方法を検討した。理論伝達関数を用いることにより F(tout)を直接ϕ(m)に変換すること
は原理的に可能であるが、図 III-2-1-1.20に示すように、F(tout)を一旦スキャニングモード運転での
スペクトル G(V) に変換することができれば、G(V)をϕ(m)に変換するためにこれまでに開発した
方法が使えて好都合である。F(tout)と G(V)を関係づけるために、粒子が検出される時刻 tout と粒子
が電極内で晒される電圧の代表値 trep の間に
tout = trep + tdelay
(1.1.14)
の関係が成り立つとし、tdelay を図 III-2-1-1.20に示す方法で決定することとした。すなわち、電圧
の下向き走査の際のデータを形式的に時間反転すると、粒子数濃度のピークが全体で2tdelay ずれる
Ⅲ-2-1-(14)
ことからピークの時間的ずれの半分を tdelay とみなすことができる。この方法により NaCl を対象
とする理論及び実験スペクトルから求めた tdelay を図 III-2-1-1.21に示す。理論スペクトルについて
は、電極回転速度及び電圧走査の時定数 tV の長さによらずほぼ8 s であるのに対し、実験スペクト
ルについては、tV が小さいときには理論とほぼ同じ値となるものの、tV が大きくなるにつれて、
理論値よりも大きめとなる傾向がうかがえる。この理由は現在のところわかっていない。ただし、
tV が大きい場合、V の時間変動が遅いため、tdelay の小さな違いは対応する電圧値に大きな違いをも
たらさない。
図 III-2-1-1.19 走査モード運転に
よる APM スペクトルに対する
理論と実験の比較
Escape rate (-) Escape rate (-)
Escape rate (-)
Experimental
Theoretical
0.5
tscan = 450 s
0.0
0.0
0.5
1.0
1.5
2.0
Normalized time, t / tscan
0.5
tscan = 135 s
0.0
0.0
0.5
1.0
1.5
2.0
Normalized time, t / tscan
0.5
tscan = 90 s
0.0
0.0
0.5
1.0
1.5
2.0
Normalized time, t / tscan
Voltage
up scan
down scan
V0
0
Time
tscan
2 × tdelay
folding
図 III-2-1-1.20 時間遅れ tdelay を
決定する方法
以上の方法を用いて、観測された F(tout)を電圧 V(tout - tdelay)に対応づけて得たスペクトル G(V)を
図 III-2-1-1.22に示す。tscan = 450 s では、走査モードスペクトルはステッピングモードで得られる
Ⅲ-2-1-(15)
と予想される理論スペクトルを忠実に再現しており、tscan が小さくなるとともに、ピーク高さの減
少とピーク幅の増加が生じることがわかる。しかし tscan = 90 s のような比較的速い走査でも、十分
実用に耐えるスペクトルが得られていることから、APM の走査モード運転は、質量値に対する高
い絶対精度を要求されない場合には、測定の高速化を図る上でたいへん有効であることが実証さ
れた。
20
NaCl, Dm= 100 nm
Delay time (sec)
18
experiment, 2000 RPM
16
14
12
theory, 4000 RPM
10
8
6
4
theory, 2000 RPM
theory, 1000 RPM
2
図 III-2-1-1.21 理論及び実験スペクトル
0
0
から求めた遅延時間 tdelya の大きさ
100
200
300
tV (sec)
NaCl, Dm = 210 nm ( m = 9.26 fg )
Scan from 10 V to 1800 V
Observed (up scan)
Observed (down scan)
Escape rate (-)
Escape rate (-)
Theoretical, stepping mode
0.6
0.4
tscan = 450 s
(tV = 86.7s)
0.2
0.0
0
100
200
300
400
0.4
tscan = 135 s
(tV = 26.0 s)
0.2
0.0
500
Theoretical, stepping mode
Observed (up scan)
Observed (down scan)
0.6
0
100
APM Voltage (V)
0.4
tscan = 90 s
(tV = 17.3 s)
0.0
0
100
200
300
400
Escape rate (-)
Escape rate (-)
Observed (up scan)
Observed (down scan)
0.2
300
400
500
Theoretical, stepping mode
Theoretical, stepping mode
0.6
200
APM Voltage (V)
500
0.6
Observed (up scan)
Observed (down scan)
0.4
tscan = 60 s
(tV = 11.6 s)
0.2
0.0
0
100
200
300
400
500
APM Voltage (V)
APM Voltage (V)
図 III-2-1-1.22 移動度径約210 nm の NaCl 粒子に対する走査モード測定でによる APM スペクトル
Ⅲ-2-1-(16)
(i-3)伝達関数の厳密解と APM スペクトル解析への応用
これまで APM スペクトルの解析は、分級分解能が高いときに妥当な近似のもとで理論的に
導かれた伝達関数を用いていた。微小粒子に APM を適用する場合には、十分な分級分解能を確保
できない可能性があるため、分解能が低い場合にも適用可能な伝達関数を求めることが望ましい。
ここでは、分級分解能の大きさによらず適用可能な伝達関数の理論的導出を検討した。
質量 m, 帯電量 q の粒子が、角速度ωで回転する同軸円筒型電極中に導入されるものとする。円
環 状 電 極 間 空 間 の 内 径 と 外 径 を そ れ ぞ れ r1 、 r2 と し 、 さ ら に rc と δ を rc = (r1 + r2 ) / 2 ,
δ = (r2 − r1 ) / 2 と定義する。また電極とともに回転する円筒座標系の動径及び軸方向座標を(r, z)
とする。試料エアロゾルは速度分布 v(r)で z 方向に流れるものと仮定し、さらに v(r)は平面ポアズ
イユ流で表されるものとする。これらの仮定は、実際の APM の設計においてδ /rc << 1が成立して
いるため妥当である。ブラウン運動が無視し得るとき、粒子の運動方程式は次のように書ける。
dr dt = mω 2 B(r − r 2 (m) r ) ,
(1.1.15)
dz dt = v(r ) ,
(1.1.16)
ここで t は時間、B は粒子の移動度、r(m)は静電気力と遠心力が平衡する動径座標である。条件
r − r (m) << δ
(1.1.17)
が満足される際には、式(1.1.15)の右辺で r を r(m)の周囲で Taylor 展開し、その最低次だけを残す
近似をすることができる。従来の伝達関数の計算は、この近似のもとで得られる粒子軌跡を用い
ていた。以下ではこの近似なしで粒子軌跡を求めることを検討する。
今、式(1.1.15), (1.1.16)から t を消去すると次を得る。
2
2
dz
3v δ − (r − rc )
=
rdr 2mBω 2 r 2 − r 2 (m)
(1.1.18)
ここで v はエアロゾルの平均流速である。変数 r を y = r 2 に変換することにより式(1.1.18)は解析
的に解けることを示すことができる。最終的な解は次で与えられる。
2λζ / 3 = ( ρ − ρ i )[2~
rc − ( ρ + ρ i )] + (1 − ρ 2 (m)) ln[( ρ − ρ (m)) /( ρ i − ρ (m))]
2~
r + ρ + ρ ( m)
− ( 2~
rc + ρ (m)) 2 − 1 ln ~c
,
2 r + ρ + ρ ( m)
[
]
c
(1.1.19)
i
ここで λ = 2mBω L v であり、L は電極長さ、(ρ, ζ ) はそれぞれ ρ = (r − rc ) / δ ,
2
ζ = z / L で定義さ
れる無次元の座標, ρ(m) は r(m)に対応する無次元の動径座標, ρi はρの初期値(粒子が電極入口を
出発したときの値)で、 ~
r = r /δ である。無次元パラメータλは、分級分解能を特徴づける。
c
c
厳密解(1.1.19)に基づいて計算した伝達関数と不等式(1.1.17)のもとで妥当な近似解にもとづく
伝達関数の比較を図 III-2-1-1.23に示す。分解能パラメータλが比較的大きいときには二つの伝達関
数は実質上一致するが、λが小さくなるとともに近似的伝達関数は小質量側にシフトする。λが顕
著に小さくなると、近似的伝達関数は厳密な伝達関数と比べて特に m=0の近傍で明瞭に違うふる
まいをすることがわかる。この結果は、λが顕著に小さい場合には、APM スペクトルの解析で近
似的な伝達関数を用いることにより、質量を大きめに見積もる可能性があることを示唆する。
Ⅲ-2-1-(17)
0.8
λ=0.322
0.6
0.4
0.2
0.0
0.0
1.0
Approximate
Rigorous
0.8
λ=0.116
0.6
0.4
0.2
0.5
1.0
1.5
Relative mass, m/mc (-)
2.0
0.0
0.0
1.0
Transfer function
Approximate
Rigorous
Transfer function
Transfer function
1.0
Approximate
Rigorous
0.8
λ=0.064
0.6
0.4
0.2
0.5
1.0
1.5
2.0
0.0
0.0
Relative mass, m/mc (-)
0.5
1.0
1.5
2.0
Relative mass, m/mc (-)
図 III-2-1-1.23 厳密な伝達関数と従来使われてきた近似的伝達関数の比較
(i-4)微小粒子用高速回転型装置の開発
可測粒子質量の下限を0.01 fg まで拡張することを目標として、高速回転可能な APM の装置開
発を行った。装置の設計を図 III-2-1-1.24に、その写真を図 III-2-1-1.25に示す。電極寸法は長さ250
mm, 電極円環状空間の内径50 mm, 外径52 mm(電極間隔2 mm)で、特に磁性流体シール部のメ
ンテナンスの容易さを考慮して電極軸を水平に配置している。電極の最高回転速度は9800 RPM で
ある。
図 III-2-1-1.24 高速回転型 APM の設計
Ⅲ-2-1-(18)
図 III-2-1-1.25 高速回転型 APM の電極部(左)と全体(右)
微小粒子への適用可能性を実証するため、飽和蒸気圧の低い油である Santovac の液滴粒子を気
中発生し、DMA により特定の粒径の粒子を分級した上で、APM スペクトルを走査モード運転で
求めた。電極回転速度は9800 RPM とした。Santovac の密度が1.20 g/cm3と既知であるため、この
値と粒径より粒子質量が別途推定可能(DMA 推定質量と呼ぶ)である。図 III-2-1-1.26の(A),(B),(C)
はそれぞれ、DMA での分級粒径を63 nm, 39 nm, 25 nm と設定した場合で、DMA 推定質量は0.157
fg, 0.037 fg, 0.0098 fg である。図よりわかる通り、DMA 推定質量と APM スペクトルのピーク位置
は概ね良い一致を示していることから、APM により、およそ0.01 fg までの小粒子の質量分布測定
が可能であると考えられる。
(A)
(B)
Santovac 1%: 9800rpm Scan
Santovac 5%: 9800rpm Sc an
0.4
0.2
1% 9800rpm Up (24.134V)
1% 9800rpm Down (23.621V)
5% 9800rpm Down (106V)
0.15
Escape rate (-)
Es cape rate (-
5% 9800rpm Up (108V)
0.1
DMA推 定 質量
0.05
0.3
0.2
DMA推定質量
0.1
0
0
0
0.05
0.1
0.15
0.2
0.25
0
0.3
0.01
0.02
0.03
0.04
0.05
0.06
Particle mass (fg)
Particle m as s (fg)
(C)
Santovac 0.2%: 9800rpm Scan
図 III-2-1-1.26
Escape rate (-)
0.4
DMA 推定質量が既知の Santovac 粒子
に対する APM スペクトル
0.2% 9800rpm Up (5.9V)
0.2% 9800rpm Down (5.1V)
0.3
DMA推定質量
0.2
0.1
0
0
0.01
0.02
Particle mass (fg)
Ⅲ-2-1-(19)
0.03
図 III-2-1-1.26 (B), (C)において、小粒径になるほど APM スペクトルが DMA 推定質量よりも小
さくなる傾向がうかがえる。この原因は現時点では明かではないが、Kelvin 効果のため小粒子ほ
ど DMA と APM の間の粒子輸送の間に蒸発が進行し液滴が縮小することが原因である可能性があ
る。そこで、蒸発現象を考慮する必要のない固体粒子として噴霧乾燥法により発生した NaCl 粒子
を DMA 分級し、その質量分布スペクトルと DMA による移動度等価径から計算した有効密度を求
めた。図 III-2-1-1.27は移動度等価径12 nm の NaCl 粒子に対する APM スペクトルであり、単一の
明瞭なピークが観測されている。APM スペクトルから得られた個数平均質量と移動度等価径から
求めた有効密度を移動度等価径の関数として図 III-2-1-1.2に示す。20 nm 以下の微小粒子について
も有効密度が比較的安定して求められていることから、妥当な APM スペクトルが得られているも
のと推測できる。移動度径12 nm の NaCl 粒子に対する質量値は1.62 ag であることから、およそ
1.6 ag 程度までの質量測定が可能と考えられる。
なお APM を高速回転で運転したとき、突発的に分級分解能が大きく低下する現象の発生が見ら
れた(例えば図 III-2-1-1.26(C)に見られるブロードなスペクトル)
。現在のところこの現象が発生
する原因は不明である。
0.6
NaCl, Dm=12 nm
8374 RPM, 1.0 L/min
APM-301H
Escape rate (-)
0.5
Calculated (m = 1.62 ag)
0.4
(ρp = 1.85 g/cm3)
0.3
0.2
0.1
図 III-2-1-1.27 移動度等価径
12 nm の NaCl 粒子に対す
0.0
0.0
0.5
る APM スペクトル
1.0
1.5
2.0
APM voltage (V)
NaCl density measurements
2.5
Density [g/cm3]
2.0
1.5
1.0
Date: 2007.4.10
0.5
Date: 2007.4.11 (Reproducibility)
0.0
0
20
40
60
80
100
120
140
160
Particle diameter (um)
図 III-2-1-1.28 噴霧乾燥法により発生した NaCl 固体粒子の有効密度の移動度等価径依存性
Ⅲ-2-1-(20)
(ii)電気移動度分析法による高精度粒径計測技術の開発
静電噴霧を用いて発生させた単一ピークの標準粒子に対して,微分型電気移動度分析器
(Differential Mobility Analyzer; DMA)と凝縮粒子計数器(Condensation Particle Counter; CPC)を用い
る電気移動度分析法により,モーメントから厳密に個数平均径の決定し,さらに基準粒子を利用
して補正することで高い精度の粒径値づけが実現できる。これに基づき,30 nm から 100 nm の範
囲の粒径標準を確立し,粒径校正サービスを開始した。国家計量標準機関における 30 nm の粒径
校正サービスは世界初である。以下には,この粒径校正サービスの校正原理,不確かさ評価を記
す。
(a) 校正原理
DMA は,帯電粒子をある特定範囲の電気移動度で取り出すことのできる装置である。DMA に
よって分級される粒子の電気移動度 Z は,
Q ln(b / a )
1
(1.1.20)
Z= C
=
2πLV
ΛV
ここで, QC はシースエア流量, a および b は DMA 電極空間の内径および外径, L は入口および
2πL
出口スリットの中心間の距離, V は中心ロッドの印加電圧であり,とくに, Λ =
とす
QC ln(b / a )
る。また,+1 に帯電した球形粒子の電気移動度 Z は,その粒径 D の関数として表され,
eC ( D)
(1.1.21)
Z=
3πηD
ここで, e は電気素量, η は空気の粘性係数, C ( D) はすべり補正係数である。式(1.1.20)および
(1.1.21)から次式を得る。
D
eΛ V
=
C ( D ) 3πη
(1.1.22)
粒径が既知の基準粒子を用いると,粒径相対測定ができる。基準粒子(添字:R)および試料粒
子(添字:T)に対して,同じ DMA の同じ流量条件下の測定から導かれる,
DT
V
DR
= T
C ( DT ) VR C ( DR )
(1.1.23)
を利用することにより,粒径校正値 DT を求めることができる。
(b) 不確かさ評価
測定の不確かさの推定は,ISO 国際文書「計測における不確かさの表現ガイド(GUM)」に則
って行う。n 回の測定の平均値を校正値 DT とすると,求める校正値の不確かさ u ( DT ) は,
(1.1.24)
⎡ 1
∂C ( D ) ⎤
1
−
⎢
⎥
⎡ u (C ( D ) ) u (C ( D ) ) ⎤
C ( D ) ∂D ⎦
1
1
1 u (v~ ) ⎣ D
u (D ) =
+
+
u (D ) +
⎢
⎥
2
R
2
2
T
2
⎡ 1
∂C ( DT ) ⎤ n
1
−
⎢
⎥
⎢⎣ DT C ( DT ) ∂DT ⎥⎦
v~ 2
R
R
R
2
⎡ 1
∂C ( DT ) ⎤
1
−
⎢
⎥
⎢⎣ DT C ( DT ) ∂DT ⎥⎦
2
2
R
T
2
2
⎡ 1
∂C ( DT ) ⎤ ⎣⎢ C ( DT )
1
−
⎢
⎥
⎢⎣ DT C ( DT ) ∂DT ⎥⎦
2
R
C ( D R ) 2 ⎦⎥
で与えられ,ここで,偶然的成分である右辺第一項を,実験計画法で評価した不確かさ u Exp ( DT ) お
よび実験データにあてはめる関数の違いの不確かさ u Fit ( D T ) に置き換えて次式を得る。
2
⎡ 1
1 ∂C ( DR ) ⎤
(1.1.25)
−
⎢
⎥
⎡ u 2 (C ( DT ) ) u 2 (C ( DR ) ) ⎤
DR C ( DR ) ∂DR ⎦ 2
1
u 2 ( D ) = u 2 Exp ( D ) + u 2 Fit ( D ) + ⎣
u (D ) +
+
⎢
⎥
T
T
T
⎡ 1
1 ∂C ( DT ) ⎤
−
⎢
⎥
⎣ DT C ( DT ) ∂DT ⎦
2
R
2
2
⎡ 1
1 ∂C ( DT ) ⎤ ⎣⎢ C ( DT )
−
⎢
⎥
D
C
(
D
)
D
∂
T
T
⎣ T
⎦
Ⅲ-2-1-(21)
C ( DR ) 2 ⎦⎥
(1.1.26)
2
⎡ 1
1 ∂C ( DR ) ⎤
−
⎢
⎥
⎡ u 2 C ( DT ) u 2 (C ( DR ) ) ⎤
DR C ( DR ) ∂DR ⎦ 2
1
+
u ( DT ) = u 2 Exp ( DT ) + u 2 Fit ( DT ) + ⎣
u ( DR ) +
⎥
2
2 ⎢
2
C ( DR ) 2 ⎦⎥
⎡ 1
⎡ 1
1 ∂C ( DT ) ⎤
1 ∂C ( DT ) ⎤ ⎣⎢ C ( DT )
−
−
⎢
⎥
⎢
⎥
⎣ DT C ( DT ) ∂DT ⎦
⎣ DT C ( DT ) ∂DT ⎦
(
)
また,校正値 DT の拡張不確かさ U は包含係数 k を 2 として求められる。
U = k u ( DT )
(1.1.27)
= 2 u ( DT )
(ア)実験計画法で評価した不確かさ u Exp ( DT )
校正値の偶然的変動の効果は,実験計画法に基づいて評価した。図 III-2-1-1.29 に示すように基
準粒子には,粒径絶対測定法である計数ミリカン法で値づけした 100.8 nm の PSL 粒子を用いた。
試料粒子には,粒子製造メーカ 2 社(J 社および D 社)の 30 nm および 50 nm の 4 種の PSL 粒子
を用いた。また,3 組の装置を用いて,シースエア流量(Qc = 10 L/min, 20 L/min),流量比(r = Qa/Qc
= 1/20, 1/10)の 4 通りの DMA の流量条件で,異なる 3 日にわたって測定を実施した。図 III-2-1-1.30
には DMA スペクトルの一例を,図 III-2-1-1.31 には得られた DT を示す。
Pneumatic nebulizer
(JSR Aeromaster V)
Reference PSL particles
(100.8 nm: J社)
DMA
(30 nmおよび50 nm: J社および D社)
Instrument
set
A
B
C
Electrospray
(TSI 3480)
DMA*
CPC
Site
TSI 3081
TSI 3071A
TSI 3071A
TSI 3025A
TSI 3022A
TSI 3022A
AIST
AIST
JSR
The relative size measurement
were repeated on three days.
aerosol flowrate (L/min)
Target PSL particles
CPC
10:1
2
20:1
1
0.5
10
20
sheath air flowrate (L/min)
* Four flow conditions
図 III-2-1-1.29 実験計画法の概要
Ⅲ-2-1-(22)
50 nm PSL particles (J社)
30 nm PSL particles (J社)
50 nm PSL particles (D社)
30 nm PSL particles (D社)
図 III-2-1-1.30 DMA スペクトルの一例
Particle count (normalized)
1.2
1.0
0.8
0.6
0.4
(Data; Instrument set B,
0.2
r = 1/20, S = 20 L/min, Day 2)
0.0
0
500
1000
1500
DMA voltage (V)
55
55
■ Instrument set A
■ Instrument set B
45
40
35
50
■ Instrument set C
Dp2 (nm)
Dp2 (nm)
50
Day 1
Day 2
20 : 1
10 : 0.5
Day 3
20 : 2
45
40
35
10 : 1
35
30 nm PSL: J 社
35
10 : 0.5
20 : 2
10 : 1
30 nm PSL: D 社
30
Dp2 (nm)
Dp2 (nm)
30
25
20
15
20 : 1
Flowrate ratio
Sheath flow(L/min) : Aerosol flow(L/min)
Flowrate ratio
Sheath flow(L/min) : Aerosol flow(L/min)
25
20
20 : 1
10 : 0.5
20 : 2
15
10 : 1
Flowrate ratio
Sheath flow(L/min) : Aerosol flow(L/min)
20 : 1
10 : 0.5
20 : 2
10 : 1
Flowrate ratio
Sheath flow(L/min) : Aerosol flow(L/min)
図 III-2-1-1.31 実験計画法により得られた粒径校正値
Ⅲ-2-1-(23)
4 種の試料粒子および基準粒子から得られた粒径校正値に対して,分散分析を行い,表 III-2-1-1.1
に示すように偶然効果の不確かさ u Exp ( DT ) を求めた。
表 III-2-1-1.1 実験計画法で評価した不確かさ u Exp ( DT )
DT nm
粒子製造メーカ
u Exp ( DT ) nm
100.79
J社
0.231
47.07
J社
0.341
47.51
D社
1.436
30.30
J社
0.251
27.02
D社
2.683
また,実際の粒径校正において,校正値 DT は,n 回の測定の平均値であるが,繰り返しによる
実験標準偏差は十分に小さいと考えられるので,
u Exp ( DT ) = u Exp ( DT )
(1.1.28)
と見なすことができる。さらに,偶然効果の不確かさ u Exp ( DT ) は,実験計画法で評価した J 社の
30.30 nm, 47.07 nm, 100.79 nm のうち,校正値に最も近い粒径に対して得られたものを用いること
にする。
(イ)実験データにあてはめる関数の違いの不確かさ u Fit ( DT )
DMA 電圧対粒子数の実験データは,ほぼ連続的な曲線とみなせるように非対称ガウス分布のよ
うな関数があてはめられる。ある 1 つの実験データに対して,便宜的に数種類の関数のあてはめ
を行なう。得られた DT の最大値 DT(Max) と最小値 DT(Min) の差を半幅とする矩形分布を想定して,あ
てはめた関数の違いによる不確かさ u Fit ( DT ) を求める。
u Fit ( DT ) =
DT(Max) − DT(Min)
(1.1.29)
3
(ウ) 基準粒子の粒径の不確かさ u ( D R )
基準粒子の粒径の不確かさ u ( D R ) は,校正証明書に記載された合成標準不確かさ 0.33 nm であ
る。また,感度係数は,
1
1 ⎡ 2λ ⎛
⎛
1
1 ∂C ( DR )
⎜ α + β exp⎜ − γ
−
−
⎢−
DR C ( DR ) ⎣ DR2 ⎜⎝
⎝
DR C ( DR ) ∂DR
=
1
1 ∂C ( DT )
⎡
⎛
1
1
2λ ⎛⎜
−
α + β exp⎜⎜ − γ
−
⎢−
DT C ( DT ) ∂DT
DT C ( DT ) ⎣⎢ DT2 ⎜⎝
⎝
DR ⎞ ⎞ 2λ ⎛ βγ
⎛
⎜−
exp⎜ − γ
⎟⎟ +
2λ ⎠ ⎟⎠ DR ⎜⎝ 2λ
⎝
⎛
DT ⎞ ⎞⎟ 2λ ⎛⎜ βγ
⎟ +
exp⎜⎜ − γ
−
2λ ⎟⎠ ⎟⎠ DT ⎜⎝ 2λ
⎝
DR ⎞ ⎞⎤
⎟ ⎟⎥
2λ ⎠ ⎟⎠⎦
(1.1.30)
DT ⎞ ⎞⎟⎤
⎟ ⎥
2λ ⎟⎠ ⎟⎠⎦⎥
となる。
(エ) すべり補正係数の不確かさ u (C (D) )
すべり補正係数 C (D)
C ( D) = 1 +
2λ ⎡
D ⎞⎤
⎛
α + β exp⎜ − γ
⎟
⎢
D ⎣
2λ ⎠⎥⎦
⎝
(1.1.31)
Ⅲ-2-1-(24)
の不確かさ u (C (D ) ) は,数種の表式の中から便宜的に表 III-2-1-1.2 に示す 3 種の表式を選定し,こ
れら 3 種のすべり補正係数により得られる C (D) の最大値 C ( D ) ( Max ) と最小値 C ( D) ( Min ) の差を半幅
とする矩形分布を想定して,すべり補正係数の不確かさ u (C (D ) ) を求める。
u (C ( D) ) =
C ( D) ( Max ) − C ( D) ( Min)
(1.1.32)
3
また,感度係数は,
1
1
=
1
1 ∂C ( DT )
⎡ 2λ ⎛
⎛
⎛
⎞⎞
⎛
⎞ ⎞⎤
1
1
−
⎜ α + β exp⎜ − γ DT ⎟ ⎟ + 2λ ⎜ − βγ exp⎜ − γ DT ⎟ ⎟⎥
−
⎢−
⎜
⎟ ⎟ D ⎜ 2λ
⎜
⎟⎟
DT C ( DT ) ∂DT
DT C ( DT ) ⎣⎢ DT2 ⎜⎝
2
λ
2
λ
T ⎝
⎝
⎠⎠
⎝
⎠ ⎠⎥⎦
(1.1.33)
で与えられる。
表 III-2-1-1.2 すべり補正係数の表式
α
β
γ
Allen and Raabe (1985)
1.142
0.558
0.999
Hutchins et al. (1995)
1.231
0.469
1.178
Kim et al. (2005)
1.165
0.483
0.997
不確かさ評価の例として,30 nm PSL 粒子に対する結果を表 III-2-1-1.3 にまとめる。
表 III-2-1-1.3 30 nm PSL 粒子の不確さ評価
要因
記号
評価方法
標準不確かさ
校正値(粒径)の不確かさへの寄与
説明
DT = 30.30 nm の
u Exp ( DT ) = 0.251 nm を採用
実験計画法
Exp
A
u Exp ( DT ) = 0.251 nm
u Exp ( DT ) = 0.251 nm
15回の繰り返し測定の実験標
準偏差0.07 nmであり,その不
確かさは
0.071
15
= 0.018 nm
と十分に小さい
関数のあてはめ
基準粒子の粒径
Fit
DR
A
B
u Fit ( DT ) = 0.433 nm
u Fit ( DT ) = 0.433 nm
10種の関数のあてはめ
u ( D R ) = 0.33 nm
⎛ 1
1 ∂C ( D R ) ⎞
⎜
⎟
−
⎜ D R C ( D R ) ∂D R ⎟
u (DR )
⎜ 1
1 ∂C ( DT ) ⎟
⎜⎜
⎟⎟
−
⎝ DT C ( DT ) ∂DT ⎠
= 0.247 × 0.33 = 0.0815 nm
校正証明書
⎡ u 2 (C ( DT ) ) u 2 (C ( DR ) )⎤
1
+
⎢
⎥
2
⎡ 1
C ( DR ) 2 ⎦
1 ∂C ( DT ) ⎤ ⎣ C ( DT )
−
⎢
⎥
⎣ DT C ( DT ) ∂DT ⎦
C (D)
B
試料粒子
C ( DT )
B
u (C ( DT )) = 0.105
3種のすべり補正係数
基準粒子
C ( DR )
B
u (C ( D R )) = 0.0237
3種のすべり補正係数
すべり補正係数
合成標準不確かさ
⎛ 0.112 0.0242 ⎞
⎟
= 1.60 × 10 −8 ⎜⎜
+
2
2.852 ⎟⎠
⎝ 8.24
= 0.244 nm
u ( DT ) = 0.56 nm
DT = 29.25 nm
不確かさの主な要因は,関数のあてはめである。この関数のあてはめの不確かさを小さくする
ためには,粒子の粒径分布が重要である。DMA 電圧対粒子数の実験データに非対称の Gauss 関数
Ⅲ-2-1-(25)
がよくあてはまる,粒径分布幅が狭いなどの粒径分布特性をもち,かつ DMA スペクトルを表す
データ点数が多い粒子の測定に対しては,小さな不確かさが実現できる。
また,電気移動度分析により,30 nm の同一 PSL 粒子に対して,個数平均径,5 乗重み付け平
均径および DMA 電圧ピーク径の異なる 3 つの粒径値づけを行ない,それらの粒径の比較から,
粒径の均一性の欠如がもたらす異なる 3 つの粒径の相違について検討した。図 III-2-1-1.32 には 30
nm PSL 粒子の DMA スペクトルを,図 III-2-1-1.33 には 3 つの粒径値の比較を示す。
Particle count (normalized)
1.2
30 nm PSL
J社
D社
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
0
500
1000
DMA voltage (V)
図 III-2-1-1.32 30 nm PSL 粒子の DMA スペクトル
0 10
20
30
40
50
Particle Size (nm)
30 nm PSL: J 社
45
30
20
N
o
va min
lu al
e
N
um
b
di er
am av
et era
er g
No
va min
lu al
e
DM
A
p
di ea
am k
et volt
er ag
e
20
e
25
ei
gh
di ted
am a
et ver
er a
ge
25
ge
DM
A
p
di ea
am k
et volt
er ag
e
30
35
ei
gh
di ted
am a
et ver
er a
35
W
Diameter (nm)
40
W
Diameter (nm)
40
30 nm PSL: D 社
Nu
m
b
di er
am av
et era
er g
e
45
図 III-2-1-1.33 個数平均径,5 乗重み付け平均径および DMA 電圧ピーク径の比較
各データの信頼限界は,拡張不確かさ(包含係数 k = 2)を表す
比較した 3 つの粒径値のうち,個数平均径は,最も基本的な粒径値のひとつであり,標準粒子
の粒径値づけに使用している。図 III-2-1-1.32 に示す DMA スペクトルにおいて,小さい粒径に相
当する低い DMA 電圧の実験データは,ばらつきが大きく,関数のあてはめおよび実験計画法の
各要因に大きな影響を及ぼすため,個数平均径の不確かさは大きくなった。5 乗重み付け平均径
は,動的光散乱法(Dynamic Light Scattering: DLS)により得られる粒径に相当する粒径値である。図
Ⅲ-2-1-(26)
III-2-1-1.34 には,DLS により得られた粒径値との比較を示す。両者の粒径値は,不確かさの範囲
内で一致していることがわかる。DMA 電圧ピーク径は,実験データに対する関数のあてはめが大
きく影響する他の 2 つの粒径値に比べ,ばらつきが小さなピーク電圧から算出するため,最も小
さな不確かさが達成できる粒径値である。
図 III-2-1-1.34 粒径値の比較
Weighted average diameter (nm)
50
Differential mobility analysis
Dynamic light scatterring
40
30
20
J社
D社
100 nm 以下の粒径域においては,PSL 粒子の優れた粒径の均一性が損なわれる傾向にある。図
III-2-1-1.33 の 3 つの粒径値の比較に示すように,粒子によっては,個数平均径と 5 乗重み付け平
均径が不確かさの範囲内で一致しない場合があることから,DMA と DLS の測定結果の単純な比
較はできず,粒径分布の考慮が必要であることがわかる。
Ⅲ-2-1-(27)
(iii)粒子質量標準物質の開発
単分散の Polystyrene latex (PSL)粒子の質量を絶対測定することにより、粒子質量標準物質が作
成される。この際、値づけした粒子質量の不確かさ評価が必要となる。以下では、まず不確かさ
の成分毎の評価について述べ、次にこれらの合成と粒子質量の値づけ結果について述べる。
(a)粒子のブラウン拡散の効果
質量測定の不確かさの系統的成分は、前節で述べたように式(1.1.2)で評価可能な成分と、粒子の
ブラウン拡散に起因する成分に分割して評価可能である。ブラウン拡散の効果は確率微分方程式
によって扱う方法が提案されているが5)、ここではより簡便に評価できる方法として、Monte Carlo
シミュレーションによりブラウン運動を行う粒子の電極中での運動軌跡を求める方法を採用した。
図 III-2-1-1.35に、ブラウン拡散のない場合(A)とある場合(B)の粒子の運動軌跡の計算結果の例の
比較を示す。
outlet
Inlet
(A)
1
ρ
(B)
0
-1
0.0
0.2
0.4
ζ
0.6
0.8
1.0
図 III-2-1-1.35 電極内の粒子の運動軌跡の計算例: (A)ブラウン拡散のない場合、
(B) ブラウン拡散がある場合
0.8
4536 RPM, 1.0L/min, 4.24V
(mpeak=14.9 ag, Dpeak = 30 nm)
Transfer function (-)
Transfer function (-)
1.0
Without diffusion
With diffusion
0.6
0.4
0.2
0.0
0
5
10
15
20
25
30
1.0 8032 RPM, 1.0 L/min, 0.492 V
(mpeak=0.552 ag, Dpeak = 10 nm)
0.8
Without diffusion
With diffusion
0.6
0.4
0.2
0.0
Prticle mass (ag)
0.2
0.4
0.6
0.8
1.0
1.2
Prticle mass (ag)
図 III-2-1-1.36 APM 伝達関数に対するブラウン拡散の効果
電極内の空気流速は Poiseuille 流と仮定して、電極入口において粒子数流束に比例する確率密度
関数からの乱数を発生し、その初期座標を出発した粒子の内、電極出口を通過した粒子の割合を
積算する。以上から、Monte Carlo シミュレーションによる APM 伝達関数が求まる。中心質量14.9
Ⅲ-2-1-(28)
ag (密度1.054 g/cm3として粒径30 nm に相当)および中心質量 0.552 ag (粒径10 nm に相当)の場合
について、ブラウン拡散がない場合とある場合の APM 伝達関数を比較したものが図 III-2-1-1.36
である。ブラウン拡散のために伝達関数は拡がりが増加するとともに、高さが低下することがわ
かる。その効果は小粒子ほど顕著である。
印加電圧 V のときの伝達関数をΩ(m, V)とし、粒子質量分布を f(m)とすると、APM スペクトル
は次式で計算される。
N (V ) =
∫ f (m) Ω(m; V ) dm
(1.1.34)
粒子密度を1.054 g/cm3として、中心粒径 Dp = 30 nm と Dp = 10 nm の場合のスペクトルの比較を図
III-2-1-1.37に示す。ただし、粒径分布の相対標準偏差はいずれも σ/Dp = 0.05として粒径分布は正
規分布に従うと仮定している。図よりわかるように、Dp = 30 nm ではスペクトルの高さはブラウ
ン拡散により多少減少するものの、スペクトル位置に顕著な違いは生じない。一方、Dp = 10 nm
4536 RPM, 4.24 V, 1.0L/min
0.04 Gaussian dist. (D = 30 nm, σ/D =0.05)
p
p
without diffusion
with diffusion
0.03
8032 RPM, 0.492 V, 1.0 L/min
0.04 Gaussian dist. (Dp = 10 nm, σ/Dp=0.05)
0.02
0.02
Escape rate (-)
Escape rate (-)
では、
0.01
0.00
0
2
4
6
8
0.03
0.01
0.00
0.0
APM voltage (V)
図 III-2-1-1.37
without diffusion
with diffusion
0.5
1.0
1.5
2.0
2.5
3.0
APM voltage (V)
APM スペクトルに対するブラウン拡散の効果
粒径分布の範囲内で、より小さい粒子がブラウン拡散の効果をより顕著に受けて電極を通過する
粒子数の割合が低下するためるため、スペクトルの位置が全体として大粒径側にシフトすること
がわかる。このような場合にはブラウン運動の効果を考慮してスペクトルの解析を行わないと、
粒子質量推定値に誤差が生じることとなる。そこで、ブラウン運動の効果を考慮せずにスペクト
ル解析を行ったときに得られる粒子質量の個数基準平均の値に生じる相対誤差
(mapparent − m true ) / m true の大きさを、幾つかの条件について計算した結果を図 III-2-1-1.38に示す。
σ/Dp = 0.05の場合は、いずれの条件下においても顕著な誤差は生じないが、σ/Dp = 0.2の場合、
すでに30 nm から無視し得ない誤差が生じていることがわかる。また、この効果は試料エアロゾ
ル流量にも依存し、流量が0.6 L/min の場合は1 L/min の場合に比べて相対誤差がより大きくなるこ
とがわかる。これは、流量が少ないほど、粒子の装置内滞留時間が長いため、ブラウン拡散の効
果を受けやすくなるためである。
今回の実験の対象粒子は、Dp = 100 nm (密度1.054 g/cm3として質量約0.55 fg)以上かつσ/Dp <
0.03の粒子であるため、以上の計算にもとづき、ブラウン拡散の効果は無視し得る。
Ⅲ-2-1-(29)
APM スペクトルの解析において
Relative error in mass (-)
図 III-2-1-1.38
0.5
1 L/min
0.6 L/min
0.4
0.3
0.2
0.1
0.0
ブラウン拡散の効果を無視する
Dp = 30 nm
ことにより個数平均質量の推定値
σ/Dp = 0.05
に生じ得る相対誤差
Vent
Polystyrene
latex particles
(PSL)
z 500 nm
z 200 nm
z 100 nm
20 nm 10 nm 30 nm 20 nm 10 nm
Aerosol
generator
(241Am)
(31A)
Bipolar
charger
APM
z Pneumatic type A
z Pneumatic (JSR Aeromaster)
z Electrospray (TSI 3480)
DMA
(TSI 3081)
σ/Dp = 0.2
Vent
(RION KC21)
OPC
CPC
Computer
(TSI 3010)
図 III-2-1-1.39 不確かさ評価のための実験装置の配置
図 III-2-1-1.40
500 nm PSL 粒子に対する
走査型運転による APM スペクトル
Particle count (arbitrary units)
500 nm PSL
800
ω=1007 RPM, Q=1.0 L/min, λc=0.4
ν=1
600
ν=2
400
ν=3
200
0
ν=4
100
doublets
1000
APM voltage (V)
(b)不確かさの偶然的成分の評価
不確かさの偶然的成分を A タイプ評価するための実験装置の配置を図 III-2-1-1.39に示す。試料
粒子は粒径約500 nm, 200 nm, 100 nm の polystyrene latex 粒子とし、これらを噴霧乾燥型粒子発生
Ⅲ-2-1-(30)
器(A), 市販の噴霧乾燥型粒子発生器(JSR Aeromaster V)、及び静電噴霧型粒子発生器(TSI 3480)
の3種の装置により気中発生した。発生した粒子は241Am を利用した双極荷電装置により平衡帯
電状態にした後、APM で質量分級し、これを最小可測粒径80 nm の光散乱式粒子計数器 (Rion
KC21)により計数した。APM 入口での粒子数濃度は微分型電気移動度分析器(DMA; TSI 3081)と
凝縮粒子計数器(CPC; TSI 3010)を用いてモニターし、入口濃度変動の効果をデータ解析において
補正した。
走査モードで APM を運転することにより得たスペクトルを図 III-2-1-1.40に示す。図に明らかな
ように、最大のピーク高さをもつ1価荷電の粒子の他に、一般に n 価荷電の粒子による寄与が1
価荷電の電圧位置の1/n の位置に観測される。1及び2価荷電のピークは100 nm 粒子についても明
瞭に観測されたため、以下の実験では、1価及び2価に対応するピークを解析対象とした。
測定結果のばらつきが生じ得る要因として、表 III-2-1-1.4に示す因子を取り上げて実験を行った。
走査モードでのスペクトルに観測されるν=1, 2のピークの各々について、ステッピングモードによ
るスペクトルを求め(図 III-2-1-1.41)、これに理論スペクトルをあてはめて、個数平均径を算出し
た。ただし PSL の質量分布として非対称正規分布を仮定した。100 nm 粒子及び200 nm 粒子に対
して各条件下で求まった個数平均質量をそれぞれ図 III-2-1-1.42と図 III-2-1-1.43に整理する。
得られた個数平均径を分散分析した結果(表 III-2-1-1.5)によると、各測定条件の効果は反復誤
差(1次誤差 e1)に対して統計的に有意でなく、また短時間の繰り返しの誤差(2次誤差 e2)は、e1の
効果と比べて無視し得る程度に小さかった。測定条件の効果をプールした後の反復誤差の推定標
準偏差は、 σe1 = 0.47 fg (500nm), 0.13 fg (200nm) であり、相対標準不確かさでそれぞれ、
80
singly charged 500 nm PSL
1423 RPM, 1.0 L/min, λc=0.8
Best fit
(mave = 58.60 fg)
60
40
20
0
1400
図 III-2-1-1.41
1600
1800
APM voltage (V)
2000
Particle count (arbitrary units)
Particle count (arbitrary units)
0.80 %(500nm), 2.5 %(200nm)であった。
singly charged 100 nm PSL
3517 RPM, 0.6 L/min, λc=0.8
100
80
60
Best fit
(mave = 535.8 ag)
40
20
0
40
60
80
100
120
140
APM Voltage (V)
100 nm 及び500 nm PSL 粒子に対する観測スペクトルと理論的あてはめ
表 III-2-1-1.4 粒子質量測定の不確かさ
評価実験で取り上げた因子
とその水準
Factor
Levels
Aerosol flow rate (Q)
0.6 L/min
1.0 L/min
Resolution parameter (λ)
0.4
0.8
Charge number (ν)
1
2
Replicate (R)
Day 1
Day 2
Repetition (short-term)
#1
#2
Ⅲ-2-1-(31)
Number average mass (fg)
図 III-2-1-1.42
JSR-95, Aeromaster, Day 1
JSR-95, Aeromaster, Day 2
JSR-95 ES
0.58
0.57
0.56
0.55
(Aeromaster)
0.54
(Electrospray)
0.53
0.52
0.51
ν=1
100 nm PSL に対する
個数平均質量の測定結果
λ=
0.4
Q=
2
1
2
0.8
Number average mass (fg)
個数平均質量の測定結果
2
0.4
0.6 L/min
1.0 L/min
Pneumatic (Day1-1)
Pneumatic (Day1-2)
Pneumatic (Day2-1)
Pneumatic (Day2-2)
Electrospray (Day1)
Electrospray (Day2)
5.6
図 III-2-1-1.43 200 nm PSL に対する
1
5.5
5.4
5.3
5.2
5.1
5.0
4.9
4.8
λ = 0.4
ν=
Q=
0.8
0.4
0.8
2
1
0.6 L/min
0.4
0.8
0.4
1
0.8
2
1.0 L/min
図より明らかなように粒子発生方法間により粒子質量の違いがあることがうかがえる。この効
果は特に200 nm 粒子では顕著で、噴霧乾燥法による粒子発生は静電噴霧方式の場合と比較して常
に質量が大きめに出ている。これは、噴霧乾燥法では噴霧で生成される液滴径が大きく、これが
乾燥した際に粒子懸濁液中に含まれていた不揮発性不純物が粒子表面に残留付着するためと考え
られる。噴霧乾燥型発生器 A ではさらに、発生される粒子質量のばらつきも大きいことが図
III-2-1-1.43からわかる。試料エアロゾル流量、分解能パラメータ、粒子荷電の効果はこれらと比
べて顕著ではない。なおこれらの値は、粒子発生器として同じ方式のものを利用した場合の計数
ミリカン法(EAB; Electro-gravitational Aerosol Balance)6)による質量値と、不確かさの範囲で一致
するが、APM 値が EAB 値に比べて多少小さめに出る傾向がうかがえた。今回の実験では、超純
水による希釈で作成する懸濁液の濃度の影響を考慮に入れなかったが、特に噴霧乾燥法による粒
子発生では濃度の影響を考慮に入れる必要があると考えられる。
Ⅲ-2-1-(32)
表 III-2-1-1.5 噴霧乾燥型発生器(A)で発生した500 nm PSL 粒子
の質量測定データに対する分散分析
(fg2)
Sum of
Degrees of Variance, Expectation
Source
squares, S freedom, f
V
of V
Replicate (R)
1.2117
1
1.2117
0.1095
1
0.1095
Charge number (ν)
1.2665
1
1.2665
Resolution parameter (λ)
Aerosol flow rate (Q)
1.0308
1
1.0308
0.3317
1
0.3317
νxλ
0.0037
1
0.0037
νxQ
0.1650
1
0.1650
λxQ
0.1920
1
0.1920
ν xλ xQ
1st order error (e1)
2.3674
7
0.3382
(e1, pooled)
(6.6784)
(15)
2nd order error (e2)
Total
0.0332
6.7116
16
31
(0.4452) σe22 + 2σe12
0.0021
2
σe2
表 III-2-1-1.6 静電噴霧型発生器で発生した100 nmPSL
に対する粒子質量測定の不確かさ評価のまとめ
x (input quantity)
u(x)
u(x)/x
δ (at rest)
12.5 μm
1.25E-02
1
1.25E-02
Type B
5.0 μm
5.00E-03
1
5.00E-03
Type B
δ (due to rotation)
ci
|ci | * u(x)/x
Remarks
12.5 μm
1.25E-04
1
1.25E-04
Type B
rc (due to rotation)
0.011 mm
1.09E-04
1
1.09E-04
Type B
rc (due to thermal exp.)
0.117 mm
1.16E-03
1
1.16E-03
Type B
ω (rotational velocity)
2.31 RPM
6.60E-04
2
1.32E-03
Type B
random variation in m
5.00 ag
9.17E-03
1
9.17E-03
Type A
rc (at rest)
Relative combined standard uncertainty, uc(m)/m
1.64E-02
実験で生じ得るばらつきを評価するために分散分析を行った。表 III-2-1-1.5に噴霧乾燥型発生器
(A)で発生した500 nm PSL 粒子に対する分散分析の結果を示す。繰り返しのばらつき(2nd order
error とあるもの)は測定日や条件を変えたときの再現性(1st order error とあるもの)と比べて無
視し得る程度に小さく、また再現性と比較して表 III-2-1-1.4で取り上げた要因の効果は統計的に有
意ではない。従ってすべての要因を再現性に付随するばらつきにプールして評価することとした。
(c)不確かさの合成と粒子質量の値づけ
不確かさは、式(1.1.2)による系統的成分と上述のように評価した偶然的成分を合成することによ
り得られる。静電噴霧法で発生した100 nm PSL に対する不確かさのバジェット表を表 III-2-1-1.6
に整理する。最大の成分は電極間隔(2δ)の機械加工精度による不確かさであり、次いで偶然的
成分の効果が大きい。以上を整理すると、静電噴霧法による100 nmPSL 粒子に対する質量測定の
不確かさは合成標準不確かさで u c (m) = 8.9 ag , 相対合成標準不確かさでおよそ u c (m) m = 0.016
で あ っ た 。 こ れ は 粒 径 に 換 算 す る と 、 uc(Dp) = 0.54 nm, 相 対 合 成 標 準 不 確 か さ で お よ そ
u c ( Dp ) Dp = 0.0055 に相当する。表 III-2-1-1.7に100 nm, 200 nm, 500 nm の PSL 粒子の質量値づけ
Ⅲ-2-1-(33)
結果とその不確かさ、及びこれを粒径の不確かさとして換算した値を示す(ただし密度の不確か
さは、粒径の不確かさには含めていない)。不確かさはいずれも包含係数を2としたときの拡張不
確かである。相対不確かさは、対象粒径に大きく依存せず、ほぼ同様の大きさであった。得られ
た不確かさの大きさは、質量標準粒子の値づけに用いるのに十分な小ささと考えられる。ただし、
計数ミリカン法による値よりやや小さめに出る傾向があること、および粒子発生法の違いによっ
て質量値に系統的な違いがあることなど、不確かさの系統成分については、今後さらに低減可能
な部分があると考えられる。
APM を用いた粒子質量の値づけのための技術基準を Appnedix 2.2.1に記載する。
表 III-2-1-1.7 粒子質量標準物質の値づけと拡張不確かさ
PSL species
Expanded
uncertainty in mass
Relative expanded
uncertainty in mass
Expanded uncertainty
in diameter
100 nm (545 ag)
18 ag
3.3%
1.1 nm
200 nm (4.97 fg)
70 ag
1.4%
2.0 nm
500 nm (59 fg)
1.9 fg
3.2%
5.2 nm
(iv)粒子密度測定技術への応用
本プロジェクトで開発した粒子質量分析技術を既存の粒径分析技術と組み合わせることにより、
粒径/質量の同時測定が可能となり、これから粒子密度が評価可能である。粒子密度からは粒子
の組成についての情報が得られることが期待される。利用可能な粒径分析技術としては、微分型
電気移動度分析器(DMA)、光散乱式粒子計数器(OPC)、エアロダイナミック粒径分析器(APS)など
が考えられる。ここでは DMA を APM と組合せたものとして、図 III-2-1-1.44のような装置を構成
した。粒子は DMA により粒径(厳密には電気移動度)について分級され、ついで APM で質量に
ついて分級される。APM を通過した粒子は、凝縮粒子計数器(CPC)により検出される。この方式
では、非球形粒子に対して DMA により得られる粒径は移動度等価径 Dm であるため、得られる密
度は質量を、同じ移動度を有する球形粒子の体積(移動度等価球体積)で割った有効密度
m
ρ eff =
(1.1.35)
πD m 3 6
となる。
Ⅲ-2-1-(34)
粒子質量分級
Neutralizer
HV
DMA
粒径分級
APM
CPC
CPC
粒子検出
図 III-2-1-1.44 粒径/粒子質量の同時測定のための実験装置
NiO 粒子に対して、上記の構成で得た粒径/質量同時スペクトルを図 III-2-1-1.45に示す。DMA
の分級粒径が大きくなるとともに、APM で分級される質量も大きくなる様子が明瞭に観察される。
そこで各 APM スペクトルに対して、質量分布を対数正規分布と仮定して、式(1.1.34)にもとづい
た最小二乗あてはめを行い、これから個数平均質量をまず求めた。50 nm 粒子に対するあてはめ
の例を図 III-2-1-1.46に示す。以上から求めた有効密度の粒径依存性を図 III-2-1-1.47に示す。
以上のように、DMA と APM の組合せによる有効密度の評価により、気中粒子の特性評価が行
い得ることが実証された。
Particle count (#/cm3)
800
700
70 nm
50 nm
600
500
100 nm
400
300
200
150 nm
100
M
ob
di ility100
am e 200
et qu 300
er iva
(n le 400 0.01
m nt
)
200 nm
300 nm
10
1
0.1
ss (fg)
Particle ma
図 III-2-1-1.45 粒径/質量の
同時スペクトルの例
Ⅲ-2-1-(35)
100
NiO, 50 nm, heated, upscan
700
3
Particle count (#/cm )
800
図 III-2-1-1.46
移動度等価径50 nm の粒子に
対する観測された APM スペク
Observed
Best fit
600
500
400
300
200
100
トルと最小二乗あてはめによる
0
理論スペクトルの比較
0
20
40
60
80
100
120
140
Voltage (V)
図 III-2-1-1.47
粒径/質量同時スペクトル
から求めた有効密度の粒径依存性
60
Effective density
Average mass
4.0
50
3.5
40
3.0
2.5
30
2.0
20
1.5
1.0
10
0.5
0.0
0
50
100
150
200
250
300
Mobility equivalent diameter (nm)
Ⅲ-2-1-(36)
0
350
Average mass (fg)
3
Effective density (g/cm )
4.5
(6)目標の達成状況
本サブテーマは次の目標に沿って研究開発を進めてきた。
①粒子質量分析技術の実用化
─ 1 fg から1000 fg を含む範囲で適用可能な粒子質量分析技術を
実用化する。なお、H17年度加速資金により、適用質量下限の目標を0.01 fg まで拡張した。
②粒子質量標準物質の確立 ─ 1 fg から1000 fg の範囲において、不確かさ15%以下で単分散粒子
の質量の値づけを行い、標準物質として確立する。
③粒子キャラクタリゼーションへの応用 ─ 質量-粒径同時測定により、1g/cm3から10 g/cm3の範
囲で適用可能な粒子密度測定技術を開発する。
粒子質量分析技術の実用化にあたって最も大きな障害となったのが、エアロゾル粒子質量分析
装置(APM)通過粒子数濃度の時間応答特性に見られた異常現象であった。これは応答時間が理論
的に予想される値より1桁以上長く、また平衡濃度値への漸近方法が直前の電圧設定値に依存す
るというヒステリシス現象を呈するなど、理解が困難な現象であった。この現象は絶縁体表面へ
の電荷蓄積モデルにより説明可能であることが判明した。このモデルに基づいて装置設計の修正
を行い、試作装置によって異常現象が解消されることを実証した。
この成果に基づきH17年度から粒子質量の絶対測定が可能な装置開発を進めた。電極間隔の
プロファイルを評価可能な絶対測定用 APM の開発、回転による遠心力に伴う電極歪みの数値計算、
ブラウン運動の不確かさへの寄与の評価、APM スペクトルの変動の実験計画法を用いた評価など
を行い、およそ500 nm, 200 nm, 100 nm の Polystyrene latex(PSL)粒子に対して質量値の値づけとそ
の不確かさ評価を実施した。質量値の相対拡張不確かさは、いずれについても3.3%以下であり、
粒子質量標準物質についての目標②は達成された。質量値づけの手順は、質量校正技術基準とし
てまとめた。
本装置で測定可能な質量下限はおよそ0.5 fg であったが、さらに微小な粒子への適用を図るため、
H17年度NEDO加速資金を利用して、電極が高速回転可能な APM の開発を行った。本 APM
は電極径が約100 mm と従来の半分であるが、9800 RPM までの回転が可能である。本装置により
0.0016 fg の NaCl 粒子の質量測定が可能であることを実証し、加速資金導入後の目標①は達成さ
れた。
APM による粒子質量測定と、微分型電気移動度分析器(DMA)による粒径測定を組み合わせた粒
径/質量の同時測定から粒子密度の評価を行うことが可能な系を開発し、実証実験を行った。こ
れにより目標③の達成を確認した。
質量標準粒子の開発にあたって、100 nm 以下の PSL 粒子の気中発生技術と粒径分布評価技術の
開発を進めてきた。この中で、静電噴霧法を利用して 30 - 100 nm の PSL 単分散粒子を発生する技
術、およびその粒径分布パラメータを高精度に評価する技術を開発した。本方法で決定した粒径
値は、液中 PSL 粒子に対する動的光散乱法による値と良く整合することを確認し、30 - 100 nm の
範囲での粒径標準を開発することができた。本標準は 2005 年度より標準粒子メーカに対して供給
サービスを行っている。
Ⅲ-2-1-(37)
参考文献(Ⅲ─ 2 ─ 1 ─ 1.)
1) K. Ehara, C. R. Hagwood, and K. J. Coakley: Novel Method to Classify Aerosol Particles Accoding to
Their Mass-to-Charge Ratio - Aerosol Particle Mass Analyzer -, J. Aerosol Sci., 27 (1996) 217-234.
2) K. Worachotekomjorn and K. Ehara: Performance Evaluation of the Aerosol Particle Mass Analyzer,
Proc. 1st Asian Conference on Particle Technology, (Bangkok, December 4, 2000), 201-206.
3) International Organization for Standardization (Geneva, Switzerland.), “Guide to the Expression of
Uncertainty in Measurement” (初版1993、修正版1995).
4) Wang, S-C. and Flagan, R. C. (1990). Aerosol Sci. Technol. 13, 230-240.
5) C. R. Hagwood, K. J. Coakley, A. Negiz, and K. Ehara: Stochastic Modelling of a New Mass
Spectrometer, Aerosol Sci. Technol., 23 (1995) 611-627.
6) K. Ehara, K. Takahata, M. Koike: Absolute Mass and Size Measurement of Monodisperse Particles Using a
Modified Millikan’s Method. II: Application of Electro-Gravitational Aerosol Balance to Polystyrene Latex
Particles of 100 nm to 1μm in Average Diameter, Aerosol Sci. Technol., 40, 521–535 (2006).
Appendix III-2-1-1.1 エアロゾル粒子質量分析装置による準単分散粒子の質量校正技術基準
(試案 Ver. 2008-04-20)
1. 適用範囲
この技術基準は、エアロゾル粒子質量分析装置(APM)を利用して準単分散粒子1)の個数平均
質量を絶対測定する方法について規定する。
Note 1) 技術基準のこの版では、準単分散粒子として、液中懸濁粒子の形で提供される Polystyrene latex 粒子(PSL)
のみを対象とする。
2. 装置
2.1 装置の構成
装置は図 III-2-1-1.A.1に示すように粒子発生器、双極荷電器、微分型電気移動度分析器(DMA)、
APM、凝縮粒子計数器(CPC)、および制御用の計算機から構成する。
Note 2) 対象粒子の粒径が比較的大きく、この粒子をほぼ100%計数可能な光散乱式粒子計数器(OPC)が利用可能
である場合は、CPC に代えて OPC を用い、2DMA を省いた構成を用いることができる。技術基準のこの
版では、OPC を用いた構成については記載しない。
Note 3) 技術基準のこの版では、APM 内部圧力が陽圧(周囲空気よりも圧力が高い)状態となるような操作条
件の場合のみについて記述する。他に陰圧状態で用いることも可能である。
シースエア 余剰エア
(Qc)
(Qm)
フィルタ
バルブ(V1)
粒子発生器
Qg Qa
双極荷電器
DMA1通過前
粒径分布測定用
V2
Qd2
V3
微分型電気
Qs
移動度分析器
(DMA1)
V4
DMA1通過後
粒径分布測定用
V5
凝縮粒子
計数器
(CPC2)
QAPM エアロゾル粒子
質量分析器
Qa2
微分型電気
移動度分析器
(DMA2)
図 III-2-1-1.A.1 装置の構成
(シースエア循環系の詳細は省略)
Ⅲ-2-1-(38)
Qd1
凝縮粒子
計数器
(CPC1)
計算機
2.2 構成機器の性能
(1) 粒子発生器
静電噴霧式粒子発生器、もしくは噴霧乾燥式粒子発生器を用いる。
(2) 双極荷電器
粒子を平衡帯電状態にすることのできるものとする。なお、本技術基準では、微分型電気移
動度分析器は、双極荷電器を含まない部分を意味するものとする。
(3) 微分型電気移動度分析器(DMA)
1台(DMA1)は、蒸発残渣等の極微小粒子の内の無帯電のものが APM を通過して APM スペ
クトルに寄与することを防止するため、無帯電粒子を除去する目的で使用するものである。台
形の伝達関数を実現するため、シースエア流量と余剰エア流量を独立に設定できる方式のもの
とする。シースエアを循環する方式の DMA は、循環用ブロア(もしくはポンプ)の上流側で
循環流路を切断するか、もしくはブロアに代えてコンプレッサ等により粒子を含まない乾燥空
気をシースエアとして供給するように改造することにより、DMA1として利用できる。
他の1台(DMA2)は、DMA1通過前後で対象粒子の粒径分布に変化が無いことを確認する目的
で、CPC と組み合わせて移動度分布測定を行うために使用するものである。シースエアは循環
して利用するタイプのものとする。シースエアの循環のために必要なブロア(もしくはポンプ)
、
粒子フィルタ、熱交換器などの流体回路系の詳細についてはここでは記載しない。
(4) エアロゾル粒子質量分析装置(APM)
円筒型電極の極板間隔が電極の全面にわたって事前に評価されているものを用いる。極板間
隔を2δ とするとき、電極の加工精度、回転に伴う電極変形、δの測定の不確かさを含めたδの標
準不確かさを u(δ)とするとき、 u (δ ) δ ≤ 0.02 であることが確認されているものとする。
(5) 凝縮粒子計数器(CPC)
対象粒子の粒径に対する計数効率が95%以上のものとする。1台(CPC1)は APM 入口での粒子
数濃度を、他の1台(CPC2)は APM を通過した粒子数濃度を求めるために用いる。
3. DMA1の運転条件の決定
3.1 流量及び印加電圧の1次候補値の決定
DMA1のシースエア流量(Qc), 余剰エア流量(Qm), 導入エアロゾル流量(Qa), 分級後エアロゾル
流量(Qs)及び印加電圧(V)のそれぞれに対する1次候補値を以下のように決定する。
(1) DMA デザインファイル DESIGN.DMA(図 III-2-1-1.A.2参照)の存在するディレクトリをカレ
ントディレクトリとし、プログラム FLOWSET2.EXE を起動する。
## Length of DMA (m): 0.4444
## Inner Diameter (m): 0.01874
## Outer Diameter (m): 0.03916
図 III-2-1-1.A.2 ファイル DESIGN.DMA の記載データの例
Ⅲ-2-1-(39)
(2) プ ロ グ ラ ム の 指 示 に 従 い 、 シ ー ス エ ア 流 量 Qc, 電 気 移 動 度 に つ い て の 相 対 分 解 能
rtransfer = (Qa + Qs ) (Qc + Qm) , 台形型伝達関数の上底と下底の比 q transfer = (Qa − Qs) (Qa + Qs )
の値の暫定値を入力する。これにより、Qc, Qm, Qa, Qs の1次候補値が出力される。
(3) プログラムの指示に従い、温度、気圧、対象とする粒子の帯電数と中心粒径を入力する。これ
により、DMA 設定電圧 V の1次候補値が出力される。
3.2 理論的調整による流量及び印加電圧の2次候補値の決定
Qc, Qm, Qa, Qs 及び V の1次候補値から出発して、対象とする粒径分布が DMA の通過前後で変
化しない Qc, Qm, Qa, Qs 及び V の値(2次候補値)を次の手順で求める。
(1) Qc, Qm, Qa (Qs は Qs = Qc + Qa - Qm より自動的に決まる)の値を記載したファイル
sample.OPG を準備する(図 III-2-1-1.A.3参照)。
DMA operation parameters used in SIM_FILT.EXE
(Qm should be given in this file)
!!! Edit only parameters, and DO NOT modify the texts preceding the parameters !!!
コメント行
## T_C (sheath flow temperature in Celsius) : 20.0
## P_mmHg (pressure inside the DMA in mmHg) : 760.0
## Qc (sheath air flow rate in L/min) : 16.0
## Qa (aerosol flow rate in L/min) : 6.0
## Qm (main outgoing air flow rate in L/min) : 20.0
図 III-2-1-1.A.3
指定すべき値
sample.OPG の記載データの例
(2) PSL 粒径分布を非対称 Gauss 分布と仮定し4)、分布を指定するパラメータの値を記述したファ
イルを sample.AGP として準備する5)。sample.AGP の記述方法を図 III-2-1-1.A.4に示す。
コメント行
<Np> <mu (μm)>
1.0
0.1000
<sigma (μm)> <delta (μm)>
0.0020
0.0000
粒子数濃度(任意の値でよい)
非対称パラメータ(μm)
最頻径(μm)
非対称Gauss分布の左右の標準偏差の平均(μm)
図 III-2-1-1.A.4
sample.AGP における非対称 Gauss パラメータの記述例
Note 4) プログラム SIM_FILT.EXE の現バージョン(2008/4/20現在)では、非対称ガウス分布のみが選択可能で
ある。必要に応じてこれを対数正規分布、および確率密度関数を数値データとして与えた任意分布に拡張
することは比較的容易に可能である。
Note 5) 本技術基準を通して、ファイル名の内、小文字で表記した部分は作業者が任意に指定可能、大文字で表
記した部分は変更不可部分を表すものとする。
(3) sample.OPG, sample.AGP, DESIGN.DMA を含むディレクトリをカレントディレクトリとして、
Ⅲ-2-1-(40)
次を実行する(Ëは ENTER)。
SIM_FILT sample.AGP Ë
これにより、次の4つのファイルが出力される。
sample.F
・・・仮定した粒径分布(双極荷電器入口での粒径分布)
sample.W
・・・帯電数1, 2, 3の粒子に対する DMA 伝達関数
sample.PW
・・・DMA 伝達関数×帯電確率
(帯電確率は平衡帯電状態下での帯電数1, 2, 3に対する値)
sample.FPW
・・・粒径分布×DMA 伝達関数×帯電確率
(4) 4ファイルの各々に出力された(x, y)データを図 III-2-1-1.A.5のように同一グラフ上にプロッ
トする。ただし、sample.F と sample.FPW はピーク高さが1となるよう規格化した上でプロッ
トするものとする。
F(Dp)
F(Dp)*p(Dp)*w(Dp)
w(Dp)
1.0
Normalized
0.8
w(D) for singly-charged particles
w(D) for doubly-charged particles
0.6
0.4
0.2
0.0
0.08
0.10
0.12
0.14
Dp (um)
図 III-2-1-1.A.5
sample.F, sample.W, sample FPW の図示
(5) DMA 入口側粒径分布 F(Dp)と出口側粒径分布 F(Dp)・p(Dp)・w(Dp)が、図 III-2-1-1.A.5の例のよ
うに同一の分布形状を有することを確認する。もしこれらが違う形状を呈する場合は、Qc, Qm,
Qa, Qs 及び V の値を再調整し、これらが一致するまで上記手順を繰り返す。その際、横軸を電
気移動度としてあらわしたときの台形状伝達関数の下底の幅は、FLOWSET2.EXE の実行にお
いて指定した rtransfer の値に、また上底対下底比は qtransfer の値に比例することを考慮すると調整
が容易に行える。
3.3
DMA1運転条件の実験的確認
対象とする PSL 粒子を下に記述する手順で発生させ、DMA1通過前と通過後の粒径分布を、
DMA2と CPC を用いてステッピングモードで測定する。これにより通過前後の個数平均径が、
0.5%
以上変化していないことを確認する。
Ⅲ-2-1-(41)
4. 試料粒子の発生
PSL 粒子懸濁原液を超純水により適当な倍率に希釈する。静電噴霧式粒子発生器を用いる場合
は、さらに酢酸アンモニウム等の電解質溶液を安定な噴霧のために必要量加えた上で、粒子を気
中発生する。噴霧乾燥式粒子発生器を用いる場合は、PSL 粒子の懸濁原液に含まれる不揮発性成
分が、発生粒子の粒径に有意な影響を与えていないことを確認するため、PSL 粒子の希釈懸濁液
を超純水でさらに5倍に希釈し、DMA と CPC の組合せによるステッピングモード運転による粒
径分布の比較を行う。個数平均径が0.5%以上変化していないことを確認する。
5.
APM 印加電圧及び試料流量の校正
5.1 APM 印加電圧の校正
APM 印加電圧は、SI トレーサブルな電圧計を用いて校正する。
5.2 APM 試料流量の校正
APM の試料流量 QAPM は0.5~1.2 L/min の範囲で使用する。事前に SI トレーサブルな流量計を
用いて、QAPM が流れているときの APM 入口と出口の間の差圧の値を APM 電極回転数毎に読み取
り、記録する。質量値づけ実験中の QAPM はこの差圧値により制御する。
6. 粒子質量測定
6.1 APM スペクトルの取得
APM スペクトルはステッピングモード運転により取得する。電極回転数および試料流量は、分
解能パラメータλ が0.1以上の大きさとなるように選択する。APM 入口側粒子数濃度の時間的変動
の影響を最小にするため、設定電圧は図 III-2-1-1.A.6に示すようにスペクトルのピーク付近の電圧
値から開始し、順次低圧側、高圧側に測定し、最後に開始値と同じ設定電圧で終了する。開始電
圧値と終了電圧値において、通過粒子数濃度に顕著に差異がないことを確認する。顕著な差異が
認められるときは、発生粒子数濃度の安定性を向上させた上で、再度実験を行う。測定の繰り返
図 III-2-1-1.A.6
APM スペクトルの取得
における電圧設定順序
Particle count (arbitrary units)
しは2回以上行う。
100
singly charged 100 nm PSL
3517 RPM, 0.6 L/min, λc=0.8
2
80
60
1
20
4
3
40
6
20
0
40
5
79
8
18
60
80
100
120
APM Voltage (V)
6.2 APM スペクトルの解析
取得した APM スペクトルは次の手順に従って解析し、個数平均質量を決定する。
Ⅲ-2-1-(42)
19
140
(1) 取得した APM スペクトルをもとに、図 III-2-1-1.A.7の例に示す spectrum.DAT ファイルを作成
する。
(2) 補助ファイル FIT_APM.INF を図 III-2-1-1.A.8のように作成する。
(3) spectrum.DAT, FIT_APM.INF を含むディレクトリをカレントディレクトリとし、次を実行する。
FIT_APM spectrum.DAT Ë
これにより、
図 III-2-1-1.A.9の例に示すファイル spectrum.OUT が出力される。個数平均径は number
average (fg)の欄に出力される6)。
Note 6) プログラム FIT_APM.EXE は、対象粒子の質量分布として、(質量について)非対称正規
分布、粒径について非対称正規分布、もしくは(質量かつ粒径について)対数正規分布と仮定
した上で、理論的 APM スペクトルを実験スペクトルに最小二乗法を適用してあてはめること
で、分布のパラメータを決定するものである。なお対象粒子として、密度一定で既知(PSL 粒
子のような場合)もしくは移動度一定で既知(APM の上流側に DMA を設置した場合)のい
ずれかから選択するようになっている。
(4) 繰り返し測定の平均値より個数平均径を決定する。
-------- FIT_APM.exe input parameters -----------------------------------------## Do NOT modify the text part below !! Edit only the numbers.
## APM Design Parameters
Inner_Radius_(mm) : 100
dimensions of APM electrodes
Outer_Radius_(mm) : 102
Cylinder_Length_(mm) : 250
## Operating Conditions
Rotational_Velocity_(RPM) : 3517
Aerosol_Flow_Rate_(L/Min) : 0.5984
Temperature_(Celsius)
: 25.0
Atmospheric_Pressure_(mmHg) : 760.0
operating condtions
Type_of_Particles : 1
## = 1, if density is assumed constant (such as PSLs)
## = 2, if mobility is assumed constant (such as DMA-selected particles)
Density_or_diameter : 1.065
particle density
// Density_or_diameter : 1.06 <- Exapmle for Type_of_particles = 1
// Density_or_diameter : 100.0 <- Example for Type_of_particles = 2
## Specify density(g/cm3) or mobility-equivalent diameter (nm),
## depending on 'Type_of_Particles'.
(g/cm3)
charge number
Number_of_Charges : 1
-------------------------------------------------------------------------------Voltage [V]
N [#/cm^3]
53.2
1.40E+00
57.844
8.08E-01
62.489
1.17E+00
spectrum data
67.133
1.97E+00
71.778
4.21E+00
76.422
1.05E+01
81.067
2.61E+01
85.711
5.97E+01
90.356
8.88E+01
95
8.26E+01
95
8.17E+01
99.644
4.96E+01
104.289
1.53E+01
108.933
3.93E+00
113.578
1.15E+00
118.222
6.31E-01
122.867
3.18E-01
127.511
1.93E-01
図 III-2-1-1.A.7 spectrum.DAT
132.156
1.11E-01
136.8
9.31E-02
Ⅲ-2-1-(43)
ファイルの記述方法
=== <INF file> to control the operation of Fit_APM.EXE ===
!!! Edit only numerals. Do not edit text characters !!
Number of integration steps : 30
// The number of segmention of the smass range corresponding to singly charged
// particles, (Sl, Sh).
// The actual integration range is set from Sl/(maximum number of charges) to Sh, when
// ChargeDistributionConsideration is set at 1. The number of integration steps is
// accordingly increased automatically.
// If the smass distribution for singly charged particles is a moderately varying
// function, the step number of 50 is more than enough.
Threshold of y : 0.05
// Threshold of y relative to the peak height.
// Spectrum data with heights below this value will be excluded from fitting.
// If this value = 0, all data will be considered in fitting.
ChargeDistributionConsideration : 0
// Assumption on charge distribution
// 0 : if particles are assumed to carry only a specific number of charges
// 1 : if the equilibrium charge distribution is assumed
//
When this number is 0, the "number of Charge" specified
//
in <DESIGN.APM> is used as the charge number.
//
When it is 1, the charge number in <DESIGN.APM>
//
is used only to determine the range of voltage in the output file.
MaximumChargeNumber : 1
// The maximum charge number considered in calculation, in the case
// where ChargeDistributionConsideration is set at 1.
// When ChargeDistributionConsideration is 0, this number plays no role.
KnutsonLikeApproximation : 0
// 0 : only the normal predicted spectrum is calculated
// 1 : Approximation assuming transfer func. is much sharper than mass dist.
Number of output points : 100
// The number of output points in the spectrum file.
図 III-2-1-1.A.8
FIT_APM.INF の記載内容
Ⅲ-2-1-(44)
### <sample.DAT> =(fit_apm.exe)=>
==== Parameters used in the calculation =====
r1 (inner radius) : 100.00 mm
r2 (outer radius) : 102.00 mm
delta (half the electrode spacing) :
1.00 mm
electrode length : 250.00 mm
number of charges :
1
omega (rotational velocity) : 3517.000 RPM
flow (aerosol flow rate) :
0.598 L/min
v_ave (average air velocity : 7.858 mm/sec
t_C
:
25.00 (Celsius)
p_mmHg
: 760.00 (mmHg)
Density is assumed constant.
density (g/cm3) : 1.0650
===============================================
Distribution assumed: Asymmetric Gaussian in mass
## The best fit parameters:
num_ag_mass
: 4.747817e+02
mod_ag_mass (fg) : 5.396644e-01
sig_ag_mass (fg) : 3.862872e-02
del_ag_mass (fg) : -2.971278e-03
## Residual fitting error (in std. dev.): 1.900388e+00
[Degrees of freedom ( 8 - 4)= 4 ]
( 8 out of 20 data were used in fitting.)
## Mass distrib. parameters (Exact zero means 'not calculated')
Np
: 4.74782e+02
number average (fg) : 5.34923e-01
std. dev. (fg)
: 3.86805e-02
skewness in mass (-) : -0.12231965
kurtosis in mass (-) : 3.01067646
個数平均径
lambda at the average mass: 0.794
## Size distrib. parameters (Exact zero means 'not calculated')
Np
: 4.74784e+02
Number average (nm) : 98.56571686
Std. dev. (nm)
: 2.39129023
skewness in size (-) : 0.00000000
kurtosis in size (-) : 0.00000000
## APM spectrum calculated for the best fit parameters:
<Voltage(V)> <Escape rate(-)>
53.200 0.000000e+00
54.036 1.044412e-05
54.872 5.372768e-05
55.708 1.555781e-04
56.544 3.514608e-04
あてはめ後の理論スペクトル
(途中略)
125.096 2.169922e-04
125.932 8.981674e-05
126.768 2.973392e-05
127.604 5.487434e-06
128.440 0.000000e+00
図 III-2-1-1.A.9 出力ファイル spectrum.OUT の書式
Ⅲ-2-1-(45)
Ⅲ-2.1.2 微小要素サイズ校正技術とサイズ標準物質の開発技術
(1)研究開発の概要
本サブテーマは、以下の2研究テーマに大別されて実施された:①液体中に分散されたナノ粒子の拡
散係数から粒子径を高精度に決定する測定基準の作成とナノ粒子径標準の供給を目指す研究、および、
②高分子とナノ粒子のサイズ分布を多角度光散乱検出器付きサイズ排除クロマトグラフィー
(SEC-MALS)等により計測する方法の高精度化をはかり、分子量分布およびサイズ分布技術基準の作
成と多分散高分子標準物質の開発を目指す研究、である。
(2)中間目標(平成15年度末まで)
① 50~100nm の領域においては相対誤差 5%以下の不確かさで、20~50nm の領域においては相対誤差 10%以下の不
確かさで動的光散乱法(DLS)により微粒子粒径を計測する技術基準を確立する。
② 1~20nm の領域において、核磁気共鳴(PFG-NMR)法により相対誤差 10%以下の不確かさで微粒子径を計測する技
術基準を確立する。
(3)最終目標
①1 nm から 100 nm の範囲での粒径計測基準と粒径標準物質の開発
②高分子分子量標準物質(多分散)を少なくとも1件開発
(4)プロジェクト全体を通じた成果
(4-1) 基本戦略
成果を述べる前に本研究テーマを推進する上で私達が考えた2つの基本戦略、すなわち “相補的戦
略”と“段階的戦略”を以下に述べておく。図Ⅲ-2-1-2.1 に基本戦略の概念を示す。
(100)
(30)
液相拡散係数計測技術基準
(20)
(10)
(1)
nm
PFG-NMR(パルス磁場勾配核磁気共鳴)
整合することを確認する
DLS(動的光散乱)
粒径分布
FFF
(流動場分離法)
整合することを確認する
DMA(微分型電気移動度分析器)
図Ⅲ-2-1-2.1 基本戦略の概念図。30-100 nm を第一段階とし、1-30 nm を第二段階とする。
DLS と DMA、あるいは DLS と PFG-NMR とを比較する際には DMA から得られた粒径分
布情報を、PFG-NMR の場合には FFF から得られた分布を使った。
Ⅲ-2-1-(46)
まず“相補的戦略”は、モデル的な液中ナノ粒子分散系に異なった粒径計測法を適用し、その結果得
られた観測粒径を互いに比較し、目標とする不確かさの範囲内で一致するなら互いの測定技術の信頼
性が担保されるものとする戦略である。具体的には、30-100 nm では DLS と気相計測である微分型電気
移動度計測法(DMA)とで数種類のサイズの同じポリスチレン標準物質を測定し、平均粒径を比較するも
のである。同様に 1-30 nm においては、DLS と PFG-NMR との間で測定結果を比較した。
比較の前提として DLS にせよ、PFG-NMR にせよ、あるいは DMA にせよ、計測系それ自体での高精
度化、すなわち不確かさの極小化と不確かさ評価法の確立が独自に一定程度行われなければならない。
ここではそれぞれの計測系が持つ独自の構造を不確かさ評価による要因分析という手法を用いて解析す
る。次に、各要因の不確かさの程度を評価し、不確かさの程度が大きい要因(例えば温度などの実験パラ
メータ)から順次不確かさを小さくしていく。その過程では測定系自体の修正も伴う。
次に、“段階的戦略”は目標を達成すべきサイズ領域を段階的に設定し、あるサイズ領域で目標技術
基準を達成したら次のサイズ領域で目標の技術基準を達成するというプロセスである。具体的には、(1)
30-100 nm では DLS と DMA とを比較しつつ DLS の技術基準を確立する、(2)1-30 nm では DLS と
PFG-NMR とを比較しつつ DLS と PFG-NMR の技術基準を確立するというプロセスをとった。ただし、それ
ぞれのサイズ領域では適当なサイズ間隔で共通試料を選び、その粒径を異なった計測法間で比較した。
本サブテーマでは表Ⅲ-2-1-2.1 に示す8つの共通試料を用いて比較評価を行った。比較するサイズの
間の間隔は稠密であったほうがよいが実施するには時間的な制約がある。そこで、20 nm 以上では6つの
ポリスチレンラテックス(PSL)を、10 nm 以下では2つのデンドリマーを用いた。実際には試行錯誤を積み
重ねる中でここに挙げた以外の試料、例えば JSR 社の PSL 試料(平均粒径 20nm)を予備実験的に使用
したりしている。
表Ⅲ-2-1-2.1 DLS、DMA、あるいは PFG-NMR 間の比較に用いた共通試料
試料名
詳細
粒径
相互比較する
nm
測定法
備考
PSL100 a)
STADEX SC-010-S
100
DLS と DMA
テスト試料(JSR)
PSL70 a)
STADEX SC-0070-R
70
同上
テスト試料(JSR)
a)
STADEX SC-0050-D
50
同上
市販試料(JSR)
A TRIAL BATCH 1
30
同上
テスト試料(JSR)
30
同上
テスト試料(JSR)
20
DLS と
市販試料(Duke)
PFG-NMR
粒径分布が広い
同上
市販試料(アルド
PSL50
PSL30-1 a)
(SX8721D-old)
PSL30-2
a)
A TRIAL BATCH 2
(SX8721D-new)
Duke20
デンドリマー2
3020A (Lot. 22396)
b)
2-hand PAMAM タイプ
約7
C3578H6132N1018O1276、
リッチ社製)
Ⅲ-2-1-(47)
分子量 83806.1
デンドリマー3
c)
3-hand PAMAM タイプ
-
同上
合成試料
C39H69N7O15、分子量 876.00
a) 比較に必要な粒径分布は DMA によって決定した。b) 若干の欠陥があり、純粋な試料ではない。c) 3
分岐のオリゴマー。
(4-2) 動的光散乱(DLS)技術基準の確立
DLS を粒径測定技術として取り上げ、その計測技術基準を目指した理由は、(ア)標準物質による校正
を必要としない絶対法であること、(イ)試料に光を照射するだけなので基本的に非破壊測定であること、
(ウ)最も得意とするサイズ範囲が数 nm~数百 nm と広い範囲に当たってナノ粒子を対象とできること、そ
して何より、(エ)極めて汎用な計測法であること、の4点である。特に最後の点は計測のトレーサビリティ
ーを確保する上で重要である。計測の正確さを評価して欲しいユーザーの測定法が同じ DLS であれば、
通常大きな不確かさ発生要因となる測定法間の偏りを抑制することができる。また、拡散係数から
Stokes-Einstein 式を通じて粒径を決定する絶対法であることも重要で、算出に用いられるモデル式が極
めて簡単で校正を必要としないことも不確かさを小さくする上で重要な役割を果たしている。
技術基準の確立に当たり、まず DLS における測定モデルを確立した。すなわち、粒径値として出すべ
き Measurand として散乱角度 0°および試料濃度 0 への外挿により(無限希釈状態への外挿)DLS の平均
粒径 d LS を定義した:
d LS = lim d LS,app (c, θ )
(1.2.1)
c→0 ,θ →0
ここで、 d LS,app は粒子濃度 c と散乱角度 θ に依存する見かけの光散乱強度平均粒径であり、やはり粒子
濃度と散乱強度に依存する見かけの z-平均拡散係数 Dz,app を用いて、
d LS,app (c, θ ) =
k BT
3πηDz ,app (c, θ )
(1.2.2)
と表現される。ここで Dz,app は DLS により決定される。上式は拡散係数から粒径を求める Stokes-Einstein
式である。
次に、不確かさの小さい粒径計測を実現するため、温度変動の極めて小さい恒温室を設計しその中に
DLS 光学系を設置することで極めて精確な測定が可能な測定系を実現した。実際に恒温室の温度は
25.0±0.1℃に設定することができた。その概念図を図Ⅲ-2-1-2.2 に示す。
Ⅲ-2-1-(48)
図Ⅲ-2-1-2.2 高精度動的光散乱(DLS)装置の光学系。温度変化を極力抑えるために光
学系全体を±0.1℃以下の恒温室に設置している。装置全体は ALV-6010/160(ALV 社)で
ある。光源は、波長が 532 nm、最大出力が 2 W の YAG レーザーである。散乱光強度の
速い時間相関を取るために Dual correlation の 2 つの検出器を使っている。
DLS によって測定した PSL の測定結果の典型を図Ⅲ-2-1-2.3 に示す。粒径 70nm の PSL70 を測定し
た“Zimm プロット”である。PSL100 および PSL50 も同様の“Zimm プロット”が得られた。この例では、粒径
が小さくなると角度依存性が線形でなくなることが分かる。この原因については散乱光の粒子間干渉減少
によるものと思われるが詳細は現在検討中である。
4.4E-08
R h app /m
4.2E-08
4.0E-08
3.8E-08
0.04616 wt%
0.03682 wt%
0.02752 wt%
0.01846 wt%
0.00932 wt%
Theta=0
3.6E-08
3.4E-08
0
1
2
3
4
sin2( θ /2)+6000c
図Ⅲ-2-1-2.3 ポリスチレンラテックス PSL70 の見かけの流体力学的半径 Rh,app の粒子濃
度と散乱角度依存性(“Zimm プロット”)。 Rh,app のちょうど2倍が見かけの粒径値 d LS,app に
なる。濃度と角度の二重0外挿で得られた粒径値は 80.18±1.32 nm(±後の数値は標準不
確かさ)である。ただし、不確かさの中には粒子表面吸着水層の厚さも考慮されている。
Ⅲ-2-1-(49)
次に粒径値の不確かさ評価法を確立した。具体的には、式 1.2.2 そのものではなく、Stokes-Einstein 式
を別の表現にした次式に基づいて不確かさ評価を行う:
k BT
⋅φ
c →0 ,θ →0 3πη Γ q 2
d LS = f (T , η, Γ, q ) = lim
(
(1.2.3)
)
ここで、 Γ(c, θ ) は初期緩和速度、 q は散乱ベクトルで q = (4πn λ ) sin (θ 2 ) と定義される。 Γ(c, θ ) は現象と
して粒子濃度と散乱角度に依存すると現象論的にはみなされる。 φ は粒子表面の吸着水の厚さに起因
する粒径の変動であり、不確かさ評価のために便宜上定義している。値としては1をもつとした。
評価すべき不確かさ u (d LS ) は、散乱角 θ 、入射光の波長 λ 、溶媒の屈折率 n 、および散乱ベクトルの
大きさ q との関係を考慮して、以下のようになる。
2
2
2
2
2
⎡
⎧⎪ u n (n )2 u λ (λ )2
u η (η )
uθ (θ ) ⎫⎪⎤
u (T )
u Γ (Γ )
2 u (k )
2
2
4
u 2 (d LS ) = d LS ⎢ k B2 + T 2 +
+
+
+
+
⎬⎥ + d LS ⋅ u (φ)
⎨ 2
2
2
2
2
(
)
n
λ
θ
Γ
4
tan
2
T
η
⎪
⎪
k
⎭⎦⎥
⎩
⎣⎢ B
(1.2.4)
厳密には、上式中の Γ は濃度 c が0の極限で0になるが、小さい θ で
u Γ (Γ ) Γ ≅ u Γ (Γ(c, θ )) Γ(c, θ )
(1.2.6)
とみなして不確かさの算出を行う。
この不確かさ評価法を用いて実際に標準粒子の粒径値の不確かさを実施した例を表Ⅲ-2-1-2.2 に示
す。今後、粒径計測の校正サービスを行う場合には、ここで示した不確かさ評価法を実施する予定であ
る。
表Ⅲ-2-1-2.2 光散乱強度平均粒径 d LS の不確かさバジェットシートの例(PSL100)
不確かさ成分 xi
ボルツマン定数 k B (J K-1)
温度 T (K)
u (k B )
u (T )
感度係数
各成分の標準不確
(∂f
かさ評価 ui (x )
∂xi )
(∂f
∂xi ) ⋅ u (xi )
R kB
2.3×10-29
8.6×10-14
RT
1.76×10-2
3.06×10-12
溶媒粘度 η (Pa s)
u (η)
R η
5.19×10-11
溶媒屈折率 n
u (n )
9.4×10-7
R n
u (θ )
R tan (θ 2 )
2.0×10-3
1.543×10-10
u (λ )
3.0×10-5
4.1×10-13
2R λ
3.23×10-11
粒径分布 Γ (s-1)
u (Γ )
1.67×10-10
R Γ
2.007×10-10
合成標準不確かさ R (m)
u (R )
8.75
散乱角 θ (rad)
レーザー波長 λ (m)
d LS の合成不確かさ(m)
u (d LS )
d LS の拡張不確かさ(m) ( k = 2 )
U (d LS )
2.60×10-10
5.21×10-10
1.0×10-9
(4-3) パルス磁場勾配核磁気共鳴(PFG-NMR)技術基準の確立
PFG-NMR 測定を取り上げたのは DLS と同じく拡散係数を測定する手法であり、同一試料溶液に対し
Ⅲ-2-1-(50)
て適用でき互いに比較できるからである。このサイズ領域では DLS でも PFG-NMR でもほぼ同じ試料調
製条件で拡散係数という同じ物理量を測定できるので(実際は感度の関係でまったく同じ調製条件という
わけではないが)、たとえ粒子が真球でなくても拡散係数自体は比較対象となりうるという利点がある。ま
た、PFG-NMR の技術自体もかなり高精度化が進んでいるという背景もある。
まず DLS と同じく Stokes-Einstein 式をもとに見かけの数平均拡散係数 Dn,app から平均粒径を算出する
モデルを確立した。すなわち、NMR から求められる平均粒径を d NMR とし、次式で定義されるものとした:
d NMR = lim d NMR,app (c, Δ )
(1.2.7)
c →0 ,Δ →0
ただし、見かけの平均粒径 d NMR,app は見かけの拡散係数 Dn,app を用いて、次式で定義した:
d NMR,app (c, Δ ) =
k BT
3πηDn,app (c, Δ )
(1.2.8)
ここで、見かけの拡散係数は次式で実験的に求められるとした:
Ln(I I 0 ) = − Dn,app γ 2 g 2 δ 2 (Δ − δ 3)
(1.2.9)
ここで、 I と I 0 はそれぞれパルス磁場勾配を印加したときとしないときの NMR 信号面積であり、 γ 、 g 、 δ 、
そして Δ はそれぞれ、磁気回転比、パルス磁場勾配強度、パルス磁場勾配印加時間、そしてパルス間隔
である。
次に拡散係数に偏りをもたらす要因を検討した。DLS と同じように Dn,app に偏りをもたらす要因はいくつ
かあり、よく考えなければならないものが、(ア)NMR の感度、(イ)適切なパルス系列の設定、(ウ)対流効
果とバックグラウンド効果の低減、そして(エ)試料自体がもつ要因、例えば粒子間相互作用から起因する
粒子濃度依存性である。このうち、NMR の感度を稼ぐには高分解能の装置を用いる必要がある。これに
ついては装置の性能によるが、600MHzの高分解能の NMR 装置を使うことで解決した。また、パルス系
列については高分子化合物用のものを用いることにしている。
まず、対流効果は拡散係数に偏りをもたらす効果としては重要であり、その低減を目指して高精度拡
散係数測定用の特殊セル(特殊な NMR 管)を試作し、実際に対流効果を低減できることを示した。図
Ⅲ-2-1-2.4 に特殊セルの様子を示す。試料の量を極めて少なくし対流を抑制している。また、試料溶液量
を通常の 20 分の 1 に減らすことにも成功し、測定不確かさも通常の NMR 管に比べ 5 分の 1 に減らすこ
とができた。
図Ⅲ-2-1-2.4 NMR 特殊セルの下部の拡大図。試料溶液と磁化率を一致させたガラスで
試料溶液を上下で挟む構造になっている。セルの内径は通常の NMR 管と同じ(4.965
mm)であるが、溶液を封じ込めるため多重管構造となっていて試料溶液の高さも数 mm
Ⅲ-2-1-(51)
程度しかないのが特長である。
特殊セルは試料部分の上下に試料溶液とほぼ同じ磁化率のガラス部分が配置されており、バックグラ
ウンドを低減することにも成功した。バックグラウンドを低減することでシグナルの S/N 比を上げ、より高精
度の測定を実現した。
特殊セルを用いることで PFG-NMR の妥当性を高め、併せて高精度化もできることを低分子化合物の
拡散係数を測定することで確認した。もともと PFG-NMR は低分子化合物の拡散係数測定を得意とし、低
分子化合物の拡散係数も PFG-NMR 法を用いて測定されてきた。しかしながら、これまでの文献に掲載さ
れている実験条件などを見ると観測された拡散係数は対流等の影響を受けていると推定された。そこで
上記の特殊セルを用いた PFG-NMR 測定が妥当な拡散係数法であることを確認するために上記の特殊
セルを用いて低分子化合物の拡散係数を測定した。その結果、単純な系については当該の拡散係数測
定が妥当であることを確認した。表Ⅲ-2-1-2.3 にその結果を示す 4)。
表Ⅲ-2-1-2.3 高精度 NMR 管を用いた PFG-NMR により決定した低分子化合物の拡散係数
a)
物質名
測定値
文献値 b)
文献値 c)
水
校正用
2.299
ベンゼン
2.219
2.15,2.13,2.2,2.23,2.18,2.27,2.207
2.26,2.21,2.1
メタノール
2.295
2.34, 2.21, 2.37, 2.32, 2.27, 2.425
3.50, 2.41, 2.415, 2.3
エタノール
1.070
1.05, 1.02, 1.01
1.08, 1.07, 1.0, 1.085
クロロホルム
2.332
2.42
2.83
シクロへキサン
1.457
1.475,1.43
1.47,1.42
アセトニトリル
4.291
4.34,5.4
4.37,4.39
ジクロロメタン
3.482
ヘキサン
4.283
4
4.13,4.263
4.25,4.2,4.21
a) 採用したパルス系列は PFGSE、b) ダイアフラム法、またはキャピラリセル法、c)PFG-NMR 法。
実際には拡散係数の値だけでなく、その不確かさ評価も行い、我々の方法がナノ粒子のサイズ計測だけ
ではなく低分子化合物の正確な拡散係数を決定する基盤的技術となりうること示した。
温度の設定など測定環境条件の設定が十分でないとやはり対流効果を評価しておかなければならな
いので、対流効果の影響を除く手法を確立した。対流効果の影響を受けた見かけの拡散係数 Dn,app は、
対流速度 v と次のような関係があることが知られている:
Dn,app = Dn +
v 2Δ
2
(1.2.9)
実際このような関係が得られるかどうかを評価した結果を図Ⅲ-2-1-2.5 に示す。
Ⅲ-2-1-(52)
2 -1
10 Dn,app (m s )
1.7
11
1.6
1.5
50
60
70
80
90
100
Δ (ms)
図Ⅲ-2-1-2.5 PSL30(平均粒径 30 nm)の見かけの拡散係数 Dn,app の拡散時間 Δ 依存性。データ
には対流効果が反映している。 Δ → 0 における Dn,app の外挿値から真の拡散係数 Dn が求められ
る。また、同じ直線の傾きから対流速度 v が推定でき、この場合は 4.9 μm/s と決定された。
見かけの拡散係数 Dn,app の濃度依存性から濃度0外挿をすることで本来求めたい単独粒子としての拡
散係数を決定する手法を確立した。PFG-NMR から求められる拡散係数の濃度依存性はよく知られた現
象であり、一般には濃度の減少関数である。これは DLS から求められる拡散係数とは逆の依存性である。
図Ⅲ-2-1-2.6 に PSL30 の見かけの拡散係数から算出した見かけの粒径の濃度依存性を示す。
50
45
dNMR,app (nm)
40
35
30
25
20
15
10
0
1
2
3
4
5
Concentration of PSL30 (mg/mL)
図Ⅲ-2-1-2.6 ポリスチレンラテックス PSL30(30 nm)の見かけの平均粒径 d NMR,app の粒子
濃度依存性。
PFG-NMR によって得られる平均粒径に対する不確かさ評価法を確立した。すなわち、PFG-NMR によ
って与えられる平均粒径値の相対標準不確かさは DLS に似た形で式より次式で与えられる:
u 2 (d NMR ) u (k B ) u (T )
u (η ) u (Dn )
=
+
+ 2 +
+ u 2 (φ)
2
2
2
2
T
η
d NMR
kB
Dn
2
2
2
2
(1.2.10)
ここでも DLS の場合と同様に粘度と温度は独立とした。拡散係数以外の要因については DLS と同様の
Ⅲ-2-1-(53)
不確かさ評価がされる。
実験的に得られる Dn の標準不確かさは次式のように、水の拡散係数の不確かさ、試料と装置校正に用
いた水の実験パラメータの不確かさ、そして濃度依存性の不確かさの総和として表される 5):
2
⎛ ADH O ⎞ 2
⎛ A
2
⎟ u A
⎜
u (Dn ) = ⎜
H 2O +
2
⎜ AH O
⎜ AH O ⎟
⎝ 2
2
⎝
⎠
2
(
)
2
2
⎛ 2 ADH2O
⎞ 2
ADH2O
⎟ u DH O + ⎜
−
2
⎜ δ ⋅ AH O 3(Δ − δ 3)AH O
⎟
2
2
⎝
⎠
(
)
2
2
⎞ 2
⎟ u δH O +
2
⎟
⎠
(
)
2
⎛
ADH 2O
+⎜
⎜ (Δ − δ 3)AH O
2
⎝
⎞ 2
⎛D ⎞
⎛ 2 ADH 2O
⎞ 2
ADH 2O
⎟ u Δ H O + ⎜ H 2 O ⎟ u 2 ( A) + ⎜
⎟ u (δ ) +
−
2
⎟
⎜ AH O ⎟
⎜ δ ⋅ AH O 3(Δ − δ 3)AH O ⎟
2
2
⎠
⎝ 2 ⎠
⎝
⎠
⎛
ADH 2O
+⎜
⎜ (Δ − δ 3)AH O
2
⎝
⎞ 2
⎟ u (Δ ) + u 2 (D0 )
⎟
⎠
(
)
2
(1.2.11)
ここで、パルス間隔 Δ とパルス磁場勾配印加時間 δ が試料と水とで同じだとしている。また、 A は次式で
定義される“傾き“である:
ln (I I 0 ) = −2 τ1 T2 − A ⋅ g 2
(PFGSE: PFG spin echo)
ln (I I 0 ) = − τ1 T1 − 2 τ 2 T2 − ln 2 − A ⋅ g 2
(PFGSTE:PFG stimlated echo)(1.2.13)
(1.2.12)
ここで、 τ1 、 T1 、 τ 2 、および T2 はそれぞれ第二と第三パルスの時間間隔、縦緩和時間、最初の2つのパ
ルス間隔、および横緩和時間である。低分子化合物の拡散係数測定は PFGSE により、ラテックスなどの
粒子の場合は PFGSTE により測定された。 A 、 δ 、 Δ は試料に関する、そして AH 2 O 、 DH 2 O 、 δH 2 O 、 Δ H 2 O
は水に関するものである。なお、右辺最後の項は濃度依存性の切片 D0 (これが単独粒子の拡散係数
Dn )の不確かさを反映している。
不確かさ評価法を実施した例として、代表的な溶媒についての結果を図Ⅲ-2-1-2.7 に示す
4)
。実験パ
ラ メ ー タ Δ と δ の 不 確 か さ は 非 常 に 小 さ く 図 に は 反 映 さ れ て い な い 。 実 際 、 Δ = 50 ms に 対 し
u (Δ ) = 14.4-17.6 ns、 δ = 1 ms に対し u (δ ) = 7.22 ns であると見積もられた。水の拡散係数は文献値であり、
(
)
その不確かさは無視できない。そこで相対標準不確かさ u DH 2O DH 2O = 0.3%を文献値から引用している
6)
。クロロホルムを除き、拡散係数の合成標準不確かさは 0.3-0.4%程度となっている。ちなみに、もし通常
の NMR 管を用いた場合には、拡散係数の相対標準不確かさは 1%程度とかなり大きくなる 4)。
現時点では切片 D0 の不確かさを入れた最終的な不確かさ評価法は確立していないが、暫定的な不
確かさ評価として濃度依存性に関わる不確かさ以外の評価を採用している。濃度依存性がない場合、例
えば低分子化合物のような場合は上記の不確かさ評価法で問題がない。
Ⅲ-2-1-(54)
図Ⅲ-2-1-2.7 代表的な溶媒の拡散係数の相対標準不確かさに対する不確かさ要因の
寄与 4)。左から、ベンゼン、メタノール、エタノール、クロロホルム、シクロヘキサン、アセト
ニトリル、ジクロロメタン、そしてヘキサン。縦軸は相対標準不確かさ。
(4-4) 液中サイズ計測での技術基準確立(30-100 nm)
サイズ領域 30-100 nm において DMA との比較を通じた DLS の技術基準を確立した。DMA との比較
において最も注意すべき点として、DLS から得られる光散乱強度平均粒径と DMA から得られる数平均
粒径とを比較するには、どちらか一方の平均粒径を他方の平均粒径に変換しなければならないことが挙
げられる。できるだけ粒径分布の小さい PSL 試料を選んでも本サブテーマの目標とする不確かさレベル
では粒径分布の影響は無視できない。一方、DMA などの粒径分布計測では分布そのものよりも分布の
モーメントのほうがデータとして安定であるという事情から、分布それ自体ではなく、そのモーメントを利用
して相互比較することにした。
DMA からの平均粒径から求められる光散乱強度平均粒径に相当する平均粒径は、粒子数分布関数
の 5 次モーメントに対する 6 次モーメントの比、略して M6/M5 換算粒径として求められることを示した。こ
のことは以下に示す。以下、ここでは特別に粒径を ρ と表現する。粒径が ρ から ρ + dρ にある粒子の数を
“粒径分布関数” f n ( ρ ) を使って f n ( ρ )dρ とする。一方、拡散係数 D が D + dD にある粒子の数を“拡散係
数分布関数” Fn (D ) を使って Fn (D )dD とすると、 f n ( ρ ) と Fn (D ) との間には次式が成立する:
Fn (D ) = f n ( ρ )
⎛ 3πη ⎞ 2
k T
dρ
⎟⎟ ρ
= f n ( ρ ) ⋅ B 2 = f n ( ρ )⎜⎜
dD
3πηD
⎝ k BT ⎠
(1.2.14)
ここで ρ と D の関係に Stokes-Einstein 式を使った。 Dz は、もともとの定義から、
∫ D ⋅ M (D ) F (D )dD = ∫ D
=
∫ M (D ) F (D )dD ∫ D
2
Dz
−5
Fn (D )dD
−6
Fn (D )dD
n
2
n
(1.2.15)
のように与えられる。ここで、 M (D ) は拡散係数 D をもつ粒子の質量であり、 ρ の3乗、つまり D のマイナ
ス3乗に比例することを使っている。以上の結果を d LS の定義式に代入すれば、
Ⅲ-2-1-(55)
d LS
−6
6
k BT
k BT ∫ D Fn (D )dD ∫ d f n (d )dρ
=
=
×
=
3πηDz 3πη ∫ D −5 Fn (D )dD ∫ d 5 f n (d )dρ
(1.2.23)
が得られる。すなわち d LS は M6/M5 換算粒径 d M6/M5 と等価である。今回のサブテーマ全体では、5 次およ
び 6 次のモーメントは DMA 測定によって実験的に求められたものである。
30 nm から 100 nm の4種類の PSL 粒子について DMA から求めた M6/M5 換算粒径と DLS から求め
た光散乱強度平均粒径とは不確かさの範囲内でよく一致し、30-100 nm の範囲では私達の DLS 技術が
DMA 技術と同等の粒径決定技術であることが確認された。その結果を図Ⅲ-2-1-2.8 に示す。また、DMA
と DLS について得られた結果を表Ⅲ-2-1-2.4 に示す。実際に得られた d LS の相対標準不確かさ (k = 1) は、
大きい場合(PSL30-1)で 6.5%、小さい場合(PSL100)で 1.3%であり、目標とした 10%よりも小さく、不確
かさの面でも目標を達成することができた。
120
110
100
分布換算粒径 /nm
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
JSR STADEX JSR STADEX JSR STADEX JSR A TRIAL JSR A TRIAL
SC-010-S
SC-0070-D SC-0050-D
BATCH 1
BATCH 2
PSLの試料名
図Ⅲ-2-1-2.8 DLS(右の棒グラフ)から得られたポリスチレンラテックスの平均粒径と DMA
(左の棒グラフ)から得られたそれとの比較。各棒グラフについている不確かさは拡張標準
不確かさ( k = 2 )。不確かさの範囲内で一致していることが分かり、DLS の計測技術が妥当
なものであることが補完的に分かる。
表Ⅲ-2-1-2.4 DMA と DLS によって得られた PSL 粒子の平均粒径とその不確かさ(30-100 nm)
d M6 M5 ± 2uc b) nm
u p 以 外 の 標 準 不 確 u p , nm
d DMA , nm
d LS ± 2uc b) nm
PSL 粒子 a)
かさの和, nm c)
PSL100
100.80
100.96±0.66
103.02±2.60
0.61
1.15
PSL70
76.71
77.11±0.74
80.18±2.64
0.64
1.15
PSL50
47.07
50.08±0.74
49.78±2.66
0.66
1.15
PSL30-1
30.30
32.89±0.74
31.73±4.09
1.69
1.15
PSL30-2
29.18
31.47±0.74
31.04±3.58
1.37
1.15
Ⅲ-2-1-(56)
a) 詳細な情報は表 2.3.2 にある。 b) uc は合成標準不確かさなので、 2uc は包含係数 k = 2 とした拡張標
準不確かさとなる。 c) 吸着水に起因する不確かさ u p 以外の不確かさ(例えば温度変動など)の和:
∑ (∂d
∂xi ) u 2 (xi ) 。
2
i
(4-5) 液中サイズ計測での技術基準確立(1-30 nm)
1-30 nm のサイズ領域では、DLS と PFG-NMR とを比較しながら補完的に技術基準を確立した。このサ
イズ領域で連続的に DLS と PFG-NMR とを比較することは試料の調達などの理由から無理であったので、
30nm 付近、20nm 付近、10 nm 付近、そして 1nm 付近の4点で DLS と PFG-NMR とが整合しているかど
うかの検討を行い、整合を確認することをもって技術基準が技術的に確立したこととした。
4つの共通試料を用いて DLS と PFG-NMR とを比較した結果を表Ⅲ-2-1-2.5 に示す。表に示されるよう
に、PSL30-1、Duke20、およびデンドリマー3では不確かさの範囲内で粒径値、または流体力学的な直径
が一致しており、私達のもつ測定技術が互いに整合していること、つまり計測技術基準としての能力を持
っていることを示している。しかし、最も小さいデンドリマー3については、測定温度が若干異なるものの
(2℃)、PFG-NMR と DLS とでは残念ながら不確かさの範囲内では一致していない。
表Ⅲ-2-1-2.5 30 nm 以下の粒径測定結果
d DMA ± 2u c ,nm d M6 M5 ± 2uc ,nm
試料名
d NMR ± 2u c ,nm
d LS ± 2uc , nm
PSL30-1
30.30±0.78
32.89±0.78
31.80±2.90
31.73±4.09
Duke20
17.78±3.62
26.99±3.62
15.86±3.62
23.19±2.63
デンドリマー2
-
-
7.59±0.58
6.80±1.80
デンドリマー3
-
-
0.92±0.10
1.26±0.19
ちなみに、Duke20 標準粒子に対して DLS で平均粒径を決定した例を図Ⅲ-2-1-2.9 に、デンドリマー2に
対して PFG-NMR で平均粒径を決定した例を図Ⅲ-2-1-2.10 に示す。
Ⅲ-2-1-(57)
1.20E-08
R h app /m
1.15E-08
1.10E-08
1.05E-08
0.08414 w t%
0.06738 w t%
0.05067 w t%
0.03355 w t%
0.001673 w t%
Th t 0
1.00E-08
9.50E-09
0
1
2
3
4
sin 2 (θ/2)+3000 C
図Ⅲ-2-1-2.9 DLS で得られたポリスチレンラテックス Duke20(粒径約 20nm)の Zimm プロ
ット。濃度と角度の0外挿点が単独粒子の流体力学的半径を与える。
0.10
0.06
-1
11
Dapp 10 , s m
-2
0.08
0.04
0.02
0.00
0.00
0.05
0.10
0.15
0.20
0.25
0.30
concentration c, g/ml
図Ⅲ-2-1-2.10 PFG-NMR により測定されたデンドリマー2の純水中での見かけの拡散係数
(25.0℃)の濃度依存性。一般的に見られるように濃度が増えると拡散係数も減少する。無
限希釈で得られた粒径は d NMR = 7.59 ± 0.58(k = 2 ) nm である。
(4-6) 微小要素サイズ分離技術の開発
Asymmetrical Flow-FFF 法の分離最適化の検討を行った。Asymmetrical Flow-FFF 法において分離に
関わるパラメータのうち、チャネルスペーサー厚(125 μm→750 μm)、クロスフロー流量(0.1→3.0 ml/min)、
クロスフローの変化の方法(コンスタント・グラディエント)、界面活性剤の種類・添加の有無・濃度、粒子の
表面電化の違いによる FFF 分離の違いについて条件を振り、分離の最適条件について検討を行った。
ここでは最適化条件決定の際の一例として、まず図Ⅲ-2-1-2.11 に JSR 製単分散ポリスチレンラテックス
標準粒子(STADEX SC-0030A)について、界面活性剤の添加の有無の違いによる分離検討を実施した
結果を示す。図Ⅲ-2-1-2.11a に示されるように溶離液として純水を用いた際にはフォーカス時(図
Ⅲ-2-1-2.11a 参照)において粒子同士が会合してしまい、結果として粒径の大きな試料分布を明白に観
測することとなる。 一方 sodium dodecyl sulfate(SDS)を添加した水溶液を溶離液として粒径分離を試み
Ⅲ-2-1-(58)
ると、会合を制御できることが確認される(図Ⅲ-2-1-2.11b)。これは SDS を添加することにより、粒径が小さ
く且つ静電反発相互作用の小さいような、一般的に分散安定性の低い粒子同士の会合を防ぐことができ
たことを示唆したと考えられた。そこで JSR 製単分散ポリスチレンラテックス標準粒子のゼータ電位の SDS
濃度依存性について当仮説を証明するために検討した。結果を図Ⅲ-2-1-2.11c に示す。 SDS の添加量
を増加させるに従って、ゼータ電位は増加していくことから、フォーカス時における粒子間の会合の制御
が SDS を添加することにより実行されていることが確認された。
a)
Geometric Radius vs. Volume
jsr30_108_anal
Geometric Radius (nm)
200
150
100
50
0
20
30
40
50
60
70
Volume (mL)
b)
Geometric Radius vs. Volume
jsr30_127_anal
Geometric Radius (nm)
200
150
100
50
0
30
40
50
60
70
Volume (mL)
c)
-10
Zeta potential / mV
-15
-20
-25
-30
-35
0.0
0.2
0.4
0.6
SDS conc. (mg/ml)
0.8
1.0
図Ⅲ-2-1-2.11 JSR 製単分散ポリスチレンラテックス標準粒子(STADEX SC-0030A:公称
粒径 29 nm) における Asymmetrical Flow-FFFMALS 測定結果とゼータ電位測定結果。
a) 超純水を溶離液として使用した測定結果。 b) SDS 0.25 g/ml 水溶液を溶離液として
使用した測定結果。 c) ポリスチレンラテックス標準粒子( SC-0030A)水溶液における粒
子ゼータ電位の SDS 濃度依存性。
Ⅲ-2-1-(59)
図Ⅲ-2-1-2.11a に示されるように FFF 分離における初動段階でのフォーカスは非常に重要である。これ
はより効果的なフォーカスを行うことで、異なる粒子径の試料が同じ場所からの自己拡散に基づく高さ方
向での粒径分離を効果的に行うことができるためである。 当結果から粒子の表面電荷を添加剤によって
コントロールすることでフォーカス時に生じる会合という問題点をクリアできることが明らかとなった。
次にゼータ電位と異なる粒径のポリスチレンラテックス標準粒子の純水中における関係を確認した。こ
れは添加剤を有る無しにかかわらず、粒子表面電荷が高い粒子ならば前述したようにフォーカス時にお
ける会合形成が抑制される可能性があるためである。図Ⅲ-2-1-2.12 に示されるように、粒子の種類によっ
てゼータ電位が大きく異なることが確認された。このため、純水中において大きなゼータ電位を持つポリス
チレンラテックス粒子について Asymmetrical Flow-FFF による分離を試みたところ、期待されたとおりフォ
ーカス時における会合は観測されなかった(図Ⅲ-2-1-2.13、図Ⅲ-2-1-2.14)。
これらの結果から、分級目的粒子のゼータ電位測定を実施することは Asymmetrical Flow-FFF の初動
段階におけるフォーカス時において非常に重要な情報を持っていることが示唆され今後のさらに詳細な
検討が必要である。
Zeta potential / mV
-10
-15
-20
-25
-30
JSR100
JSR70
JSR50
JSR30
-35
-40
図Ⅲ-2-1-2.12 各粒径サイズ JSR 製単分散ポリスチレンラテックス標準粒子(JSR100:
STADEX SC-0100D,公称粒径 100 nm、JSR70:STADEX SC-070D,公称粒径 70 nm、
JSR100:STADEX SC-0050D、公称粒径 48 nm、JSR30:STADEX SC-0030A、公称粒
径 29 nm) におけるゼータ電位測定結果。
Geometric Radius vs. Volume
jsr70_550_anal
200
Geometric Radius (nm)
150
100
50
0
15
20
25
30
35
40
45
Volume (mL)
図Ⅲ-2-1-2.13 JSR 製単分散ポリスチレンラテックス標準粒子(STADEX SC-070D:公称
粒径 70 nm) における Asymmetrical Flow-FFF-MALS 測定結果。
Ⅲ-2-1-(60)
最後に式 2.3.24 におけるクロスフロー流量・チャネル流量・チャネルのスペーサー厚を変化させ
Asymmetrical Flow-FFFMALS 分級について最適化した結果を図Ⅲ-2-1-2.14a、b に示す。 また当分級
結果に基づき、粒径分布を算出した結果を図Ⅲ-2-1-2.14c、d に示す。 STADEX SC-0030A における粒
径と粒径分布はそれぞれ 28.5 ± 4.31 nm と求まり、一方 STADEX SC-0100D における粒径と粒径分布は
それぞれ 99.8 ± 2.42 nm と算出された。 differential mobility analyzer (DMA)により各対応サンプルに
ついて値付けされた値は、それぞれ 29.0 ± 3.97 nm、100.0 ± 2.47 nm と非常に良い一致を示したといえ
る。
しかしながら FFF 自身の分離能についてはチャネルや条件のさらなる最適化を行うことで、さまざまな
粒子について粒径分布が計測できるようになることが期待され、また計測された粒径値の信頼性向上の
ためにも他検出器(動的光散乱、PFG-NMR など)によるクロスチェックを行うことで不確かさ評価などを正
確に行っていく展開を考えている。
a)
Geometric Radius vs. Volume
jsr30_204
40
Geometric Radius (nm)
30
20
10
0
16.0
20.0
24.0
28.0
32.0
Volume (mL)
relative concentration
b)
15
20
25
30
d / nm
Ⅲ-2-1-(61)
35
40
45
c)
Geometric Radius vs. Volume
jsr100_616
60
Geometric Radius (nm)
55
50
45
40
12.0
16.0
20.0
24.0
28.0
Volume (mL)
d)
図Ⅲ-2-1-2.14 異なる粒径サイズ JSR 製単分散ポリスチレンラテックス標準粒子(JSR100:
STADEX SC-0100D,公称粒径 100 nm、JSR30:STADEX SC-0030A,公称粒径 29 nm、) に
おける粒径分布計測結果。 a) JSR 製単分散ポリスチレンラテックス標準粒子( STADEX
SC-0030A)における Asymmetrical Flow-FFF-MALS 測定結果、b) JSR 製単分散ポリスチレ
ンラテックス標準粒子(STADEX SC-0030A)における粒径分布解析結果、c) JSR 製単分散
ポ リ ス チ レ ン ラ テ ッ ク ス 標 準 粒 子 ( STADEX SC-0100D ) に お け る Asymmetrical
Flow-FFF-MALS 測定結果、d) JSR 製単分散ポリスチレンラテックス標準粒子(STADEX
SC-0100D) における粒径分布解析結果。
(4-7) 高分子分子量分布計測技術基準と標準物質開発技術の確立
本サブテーマにおける“分子量分布計測技術基準”とは具体的には SEC-MALS の技術基準であり、共
同測定を経て ISO 規格案へとつながる汎用計測技術基準と、高精度化プロセスを経て多分散高分子標
準物質へとつながる高精度計測技術基準とに分けられる。これら対極にある2種類の技術基準はいずれ
も高分子の分子量分布を SEC-LS で計測する際に、精度を担保するのに必要なものである。プロジェクト
の最終的な成果は ISO 規格と標準物質であり、これらの技術基準が成果を生み出す根幹を形成している
Ⅲ-2-1-(62)
とはいえ必要なすべてではない。いくつかの重要な要素技術は別の機会に構築され成果を出すために
利用された。その関係を図Ⅲ-2-1-2.15 に示す。
これら2つの技術基準作成は終了し、ISO 規格については規格化へ向けて国際的な活動が進行中で
あり、高精度計測技術基準については多分散標準物質として結実している。
分子量分布計測技術基準の開発(本プロジェクト)
汎用SEC-LS
共同測定による精度評価
ISO規格案(WD)
高精度化
成果
ISO規格
標準物質
MALDI-TOFMS
静的光散乱による平均分子量決定
NMR、およびIRによる同定
図Ⅲ-2-1-2.15 本サブテーマにおける高分子分子量分布計測技術基準の研究フロー。
汎用 SEC-LS を出発技術として、大きく2つの研究プロセスに分かれる。一方は ISO 規格
化に伴う研究、他方は標準物質につながる研究である。
ISO 規格における具体的な技術的目標の第一は、一般の計測現場で使われている測定手順の最大
公約数を把握し、その手順に基づいた測定精度を追認し評価することであった。この目標を達成するた
めに SEC-LS の国内共同測定を実施し、その結果を解析した。その成果については平成 16 年度以前の
報告に詳細されているのでここでは述べない。ただ、予想以上によい測定精度が得られ、この共同測定
をもとに ISO 規格案をまとめることができた。
第二の目標は、SEC-LS 固有の問題(絶対測定、校正曲線、そして装置校正)を盛り込んだ作業文書
(WD:Working Draft)を作成することであった。WD は従来の SEC 規格(ISO 16014-1-4)を基にしつつ、
(ア)SEC-LS を絶対分子量測定法として位置づけ、従来の SEC の測定規格とは一線を画したこと、(イ)
光散乱に感度がない低分子量領域でも分子量分布情報が出せるように L-ポイントという特別な点を導入
したこと、(ウ)光散乱検出器の校正法を選択できるようにしたこと、が特徴であった。第一の点については
下記に述べるように路線変更しつつある。
L-ポイントを使った校正曲線作成法は低分子量領域でも SEC-LS により分子量分布を算出できる折衷
的な手法であり、本 WD での核心部分である。L-ポイントとは、“溶出時間-分子量平面”上における既知
分子量の低分子化合物の溶出時間と分子量を座標とする点である。高分子量領域で得られた校正曲線
と L-ポイントを結ぶことにより、全分子量領域にわたって校正曲線を描ける。これは完全ではないが次善
の策である。L-ポイント自体は光散乱検出器で得られるものではないので、この点を導入することは従来
の SEC との折衷案を作成することを意味する。図Ⅲ-2-1-2.16 にその一例を示す。
Ⅲ-2-1-(63)
8
1.0
7
Log M
0.6
5
0.4
4
4
6
concentration cx10 g/mL
0.8
0.2
3
2
0.0
11
12
13
14
15
16
Elution Time (min)
17
18
19
20
図Ⅲ-2-1-2.16 国内共同測定に使用されたポリスチレン共通試料 PS-1 の RI クロマトグラム
と校正曲線。低分子量領域では平均分子量既知のポリスチレン標準物質5点のピーク溶出
時間を使ってより現実的な校正曲線(点線)を引いている(ISO WD N1106 より引用)。この
図では溶出時間(Elution Time)の大きい4点が L ポイントに相当する。
L-ポイントの使用も含み、校正曲線の作成法はいくつかの方法を選択できるようになっていることも重
要な点であり、選択するに当たってフローチャートを用意した。実際に WD に掲載されたフローチャートを
図Ⅲ-2-1-2.17 に示す。
Results of SEC-LS and the L point
Calculate Molecular mass vs.
elution time or calibration curve
Polydisperse
Mw/Mn>1.2
NO
Calculate and report Mw only
YES
1. Construct calibraton curve
2. Determination of the L point
L point is on the
calibration curve ?
YES
Molecular mass standards
NO
Universal calibration curve
NO
L point is on the
calibration curve ?
Calibration curve
coupled with L
point
Calculate;
1. Average molecular mass
2. Molecular mass distribution
3. Calibration curve
4. Deviation of L point from calibration curve
5. Chromatograms (SEC and LS)
Report
図Ⅲ-2-1-2.17 L-ポイント使用を含む校正曲線の作成フロー(ISO WD N1106 より)。
Ⅲ-2-1-(64)
企業現場での作業実態に合わせ、光散乱検出器と RI 検出器の校正法を3通りの方法から選べるよう
にしたことも重要な点である。現在認められている校正法は、光散乱検出器はトルエンのレイリー比をもと
に、RI 検出器は NaCl などの塩の水溶液をもとに校正する方法である。この方法は原則にかなった方法
である。しかし、校正のたびに SEC の流路を絶ち検出系をトルエンや水溶液で満たさなければならないと
いう不便さがある。そこで、トルエンによる校正法に加え、(ア)既知の示差屈折率増分 dn dc の試料を既
知注入量入れて校正する方法、あるいは(イ)既知の dn dc と重量平均分子量値をもつ高分子試料を注
入して校正する方法を容認した。例えば、前者の方法では、RI 検出器の装置定数 k RI は、
k RI =
WTotal
(dn dc ) 1
v
∑ Hi
(2.3.27)
i
のように決定される。ここで、 WTotal 、 v 、そして H 1 はそれぞれ試料注入量、クロマトグラム検出時間間隔、
そして溶出位置 i での RI 検出器の応答である。このような校正は原則的な方法に比べ精度は落ちるもの
の実用レベルでは問題ないと考えられた。
技術的な目標を達成する作業とは別に規格案を認めさせる国際的な活動を行い必要なステップを達
成していくことが必要である。幸いにも本サブテーマでの研究をもとに作成した SEC-LS の ISO 規格案が
新規提案(New Work Item)として 2007 年に認められた。最初の非公式提案は 2004 年の ISO TC61(プラ
スチックス)SC5(中国、成都)で行われた。その後、2005 年の会議(韓国、済州島)では共同測定の結果
が報告されるとともに WD(作業文書:Working Draft)として提案するよう勧告された。2006 年には WD を
新規提案として提出するよう勧告され、2007 年には国際回覧の結果 5 カ国以上の賛成が得られ新規提
案 N として承認された。参考資料として新規提案として承認されたことを示す ISO 文書 N1111 を付属資
料2として示す。規格案の文書自体は長いので本報告書には掲載しない。なお、この提案は日本プラス
チック工業連盟内の国内委員会である、SC5/WG5D 委員会により審議され、ISO に提案されたものであ
る。
当初は独立した規格案として提出したが、他国からのコメントなどに基づき既存の規格 ISO 16014 シリ
ーズの1パートとして提案する方向で規格案を修正しいる。当初、光散乱検出器により絶対分子量を計測
できるので、相対分子量を決定する既存の規格とは一線を画すものという認識で独立した規格案としたが、
実際には規格の中では相対的な分子量決定法も折衷されており、またユーザーの利便性を鑑みて他国
からの勧告にしたがった。現在は国際回覧に付する CD 案を作成中であり、回覧の結果に基づき 2008 年
の TC61 会議の場で次の段階に行くべきかどうかが審議される予定である。
(4-8) SEC-LS の高精度化と標準物質作製技術の開発
標準物質を開発するための基礎技術として SEC-LS の高精度化を行い、他の分子量測定法(光散乱)
とを合わせて特性値を算出する方法を確立した。その方法は計量標準総合センター(NMIJ)の品質シス
テムにもとづく技術文書、生産手順マニュアル(NMIJ-OPRM-D5008)としてまとめられた。
この生産手順マニュアルに基づいて(実際には生産手順マニュアル作成と並行して)NMIJ 認証標準物
質“5108-a ポリスチレン(多分散)”を開発した。現在(独)産業技術総合研究所から販売供給されている。
Ⅲ-2-1-(65)
なお、平成17年度の加速資金により導入した絶対分子量評価装置(MALDI-TOFMS)により、これまで
困難であり明瞭でなかった多分散ポリスチレンの低分子量領域の成分がポリスチレンであることが明瞭に
示された。具体的な分析例を図Ⅲ-2-1-2.18 に示す。
図Ⅲ-2-1-2.18 NMIJ 認証標準物質 5008-a“ポリスチレン(多分散)”の SEC クロマトグ
ラム低モル質量分画(溶出時間 17.5 min~18.5 min)の MALDI-TOFMS スペクトル。
繰返し単位の質量(104.15)間隔でピークが出現していることから、この分画成分もポリ
スチレンであることが始めて分かった。
この事実を元に、候補標準物質の分子量分布を SEC クロマトグラムから決定することが可能となり、最終
的に始めて分子量分布を認証した標準物質を開発することができた。また、同装置を用いて合成したデ
ンドリマー3、および市販デンドリマー2の構造解析と不純物分析も行った。
(5) 目標の達成状況
図Ⅲ-2-1-2.18 に各研究項目の達成状況と成果を掲載する。
図Ⅲ-2-1-2.18 研究の達成度状況とその成果のまとめ
技術項目
達成度 a)
得られた成果のリスト
液相粒径計測技術基準
○
依頼試験品質マニュアル
30-100 nm 領域
◎
論文(査読付)5 報
1-30 nm 領域
○
等磁化率 NMR セル
粒子径分布技術基準
○
粒径標準物質
○
高分子分子量計測技術基準
◎
ISO Working Draft N1106 (2007)
ISO 規格案作成
◎
生産手順マニュアル NMIJ-OPRM-D5008
標準物質開発手順
○
NMIJ 認証標準物質 NMIJ CRM 5008-a
Ⅲ-2-1-(66)
標準物質開発
本サブテーマ全体
○
論文(査読付)1 報
○
a) ◎:当初目標以上達成、○:当初目標達成。
(6) 参考文献
1) 加藤 晴久, 産総研計量標準報告, 6, 185-200(2007).
2) シグマ・アルドリッチジャパンのホームページ(http://www.sigma-aldrich.co.jp/)より一部引用.
3) シグマ・アルドリッチジャパンのホームページ(http://www.sigma-aldrich.co.jp/)より一部引用.
4) Haruhisa Kato, H., Saito, T., Nabeshima, M., Shimada K., and Kinugasa, S.: J. Magn. Reson., 180,
266-273(2006).
5) 文献 4)では実験パラメータの不確かさが詳細に考慮されている。ここではそれらに濃度依存性の不確
かさを便宜上加えた。
6) Mills, R.: J. Phys. Chem. 77, 685-88 (1973).
Ⅲ-2-1-(67)
Ⅲ-2.1.3 粒子数濃度校正技術と濃度標準物質の開発
(1)研究開発の概要
半導体素子製造・液晶やプラズマ発光を用いたフラットディスプレイパネル、大容量化したハ
ードディスク製造等のナノテクノロジーが用いられるようになってきた現場では、環境からの汚
染を防ぐための清浄度管理や、洗浄のために使用する薬液水の清浄度管理のため、液中粒子数濃
度を測定制御する必要がある。品質管理においても粒子数濃度の定まった試験溶液を使用したい
という要望がある。また、血液検査や細胞計測等においても、BIPM、国際臨床化学連合(IFCC)、
世界保健機関(WHO)、ILAC により医学検査のトレーサビリティーに関する合同委員会(JCTML)
が設置され、計数が SI トレーザブルであることが求められている。水道水や医薬・医療用精製水
や注射用水においても、各国薬局方による規制がかけられている。さらに、ナノサイズ部品を組
み立てていく新しい構造の開発も広まってきているが、部品の数量管理の指標として個数濃度に
よる標準化が必要になる。このための、これまでに液相中粒子の個数濃度の計測方法として、液
中光散乱式粒子計数法、コールターカウンター法、光遮断法、顕微鏡法などによる各種計測器が
広く使用されるようになっている。しかし、粒子数濃度の 1 次標準が存在せず、粒子数濃度校正
技術が存在しなかったため、多くの計数装置により得られる測定値の信頼性が確立していない。
特に液体中で容易に発生・消滅する気泡が粒子として誤って計数される現象が深刻な偽計数をも
たらすと考えられているが、このような現象がどのような条件下でどの程度の影響を有するかは
解明されていない。
本研究では、試料液体の状態やサンプリングに伴って生じる気泡等により発生する測定時のバ
ックグランドノイズと粒子とを、粒子から放出される蛍光の検出を利用して識別する技術、およ
び計数器の粒子計数効率を評価する技術を開発し、これらを利用して粒子数濃度標準液の値づけ
を行う。さらに粒子数濃度標準液を用いた粒子計数器の校正技術を開発することを目標としてい
る。
そのための具体的成果目標として、500 nm から 10000 nm の粒径範囲における粒子数濃度校正
技術基準の作成とその標準物質の供給技術整備を本プロジェクトにおいて開発する計画である。
この成果目標の設定は、以下の産業界からの要請に基づいている。
洗浄液の管理指標として NASA 規格 (NAS1636) において 2.5 µm 以上の粒子数濃度で規定され
ている。しかしながら、国家標準が存在せず、ナノテクノロジーの現場における洗浄の正確な評
価が行えていない。また、半導体製造過程などナノテクの現場では、高度清浄水を洗浄に用いて
おり、100 ml 中の 500 nm 粒子の個数でギャランティーをしているが、規格が統一されていなく、
また、国家標準が無いため校正技術を確立できていない。日本薬局方による製薬用水の清浄度管
理においても、500 nm 以上の粒子数を制御することを求めている。ほとんどの洗浄水のもととな
る水道水供給においても、水道法により 500 nm から 10 µm の間の粒子数を制御することが求め
られている。この範囲の校正技術の確立により、半導体製造プロセスの清浄度管理等で利用され
ている光散乱式液中粒子計数器の校正など、産業界で広く利用されている粒子関係計測器の信頼
性向上に大きな貢献を果たせる。このプロジェクトを通じて開発される新たな 1 次標準を供給す
ることで、多数存在する液中粒子計数器のメーカー、それらの装置の校正サービス業者、実際に
製造・検査・試験をおこなう液中粒子計数装置のユーザーは、トレーサビリティーを確保した標
Ⅲ-2-1-(68)
準溶液を使用することで、より高度な校正を行うことが可能になる。
上記目標を達成することにより、現状の濃度標準計測分野で、十分な計数精度が出ない、部分
サンプリングによる統計的誤差が大きい等の他、試料液体が計数器内で生じる気泡の寄与が評価
できないことから校正用標準溶液の利用技術が未確立である等の、数々の問題点の解決手段を提
示できる。この範囲の校正技術の確立により、半導体製造プロセスの清浄度管理等で利用されて
いる光散乱式液中粒子計数器の校正など、産業界で広く利用されている粒子関係計測器の信頼性
向上に大きな貢献を果たせる。この技術の適用範囲として、国家標準の確立、医薬品製造工程に
対するGMP(Good Manufacturing Practice)、日本薬局方で規定されている校正技術の確立、液晶デ
ィスプレイ製造プロセスや半導体製造プロセスの清浄度管理の確立など、産業界で広く利用され
ている粒子関係計測器の高度化および清浄管理技術の高度化等、粒子関係計測器の信頼性向上や
性能高度化による波及効果は幅広いと考えられる。図 III-2-1-3.1。
液中粒子数濃度標準
液中粒子計数器の校正
清浄水の清浄度評価
水道水の濁度評価
洗浄水の清浄度
・半導体製造
・食品製造
医療用精製水の清浄度評価
・安全性の向上
注射液の清浄度評価
・事故防止
排水の清浄度
・環境対策
・水のリサイクル使用
図III-2-1-3.1 粒子濃度標準の利用
液中粒子数濃度 1 次標準およびバックグランドノイズと粒子を識別可能な液中粒子数濃度計数
の校正技術は、当プロジェクト以前には現存しない技術なので、これらを早急に確立することに
より、液中粒子数濃度計測法での主導権を持てる事が期待される。計量標準整備計画においては、
“粒子数濃度”として上げられており、順次整備していく予定である。
(2)中間目標(平成15年度末まで)
2 µm から 10 µm の粒径範囲において、試料粒子からの蛍光を計測する装置を試作する。
(3)最終目標
500 nm から 10 µm の粒径範囲における粒子数濃度校正技術基準の作成とその標準物質を開発す
る。
Ⅲ-2-1-(69)
(4)本研究開発の構成
上記目標を達成するため、H13~16年度は次の項目について研究を行ってきた。
・散乱光と蛍光を利用した粒子と気泡の識別技術の開発
・顕微鏡法との比較による光散乱法による計数の検証
H17~H19年度は次の項目について研究を行う。
(i)気泡識別技術と計数法の開発
(ii)粒子数濃度標準の確立
(i)気泡識別技術と計数法の開発として、平成 17 年度は、200 nm までの粒径のコンタミネー
ションの影響を削減することにより、2 µm 以下の粒径域におけるバックグランド計数を削減する
ことを目的に、清浄水中微小粒子計数装置の作成を計画した。平成 18 年度は、高感度蛍光検出計
数装置を開発し、微弱蛍光を用いた気泡識別粒子計数特性を評価することを計画した。
(ii)粒
子数濃度標準の確立として、平成 17 年度は、平成 16 年度までに開発した蛍光検出による気泡識
別粒子数濃度計測技術の 2 µm -10 µm 粒径域での不確かさ評価を行い、粒子数濃度標準液値付け
試験を行うことを計画した。平成 18 年度は、市販粒子への値付けや市販計数器の校正に粒子数濃
度標準液を使用するための技術基準を設定するため 500 nm までの粒径域の気泡抑制技術の開発
を行うことを計画した。平成 19 年度は、500 nm までの粒径域の粒子数濃度計測技術の不確かさ
評価を行う。さらに、標準供給環境の設定と維持のために計数環境モニタリング装置を導入し、
500 nm までの粒径域の粒子数濃度標準液値付け実験を行うことを計画した。
以上により、500 nm から 10000 nm の粒径範囲における粒子数濃度校正技術基準の作成とその
標準物質の供給技術整備を目指す。粒子濃度標準の値付けに必要な要素を図 III-2-1-3.2 に示す。
不確かさ要因
値付けの方法
1.
2.
3.
・光散乱式粒子計数器による値付け
気泡
コンタミネーション
サンプリング
気泡の影響を取り除く
I.
II.
III.
蛍光色素含有試料粒子を使用
粒子と気泡を識別して計数
気泡を抑制する条件を見つける
実験計画法による
サンプリング試験
顕微鏡法との比較
y
y
光散乱法の計数効率
コンタミネーションの数
標準粒子の値付け
不確かさ
①
光散乱法計数
②
サンプリング
図III-2-1-3.2 粒子濃度標準の値付け
Ⅲ-2-1-(70)
(5)これまでの成果
(5-1)液中粒子数計数のための気泡識別技術と計数法の開発
液中の微小粒子の計数方法としては光散乱パルスを利用する計数方法が最も使用しやすく高精
度と考えられ、また実際に現場において広範囲に用いられている。そこで本研究では、光散乱法
を用いた粒子数濃度計測技術の標準校正技術を開発する。そのため、粒子数濃度標準液の値づけ
を行う技術や計数器の粒子計数効率を評価する技術を開発するために、試料液体の状態やサンプ
リングに伴って生じる気泡と粒子とを、粒子計数の際の蛍光の有無を検出することにより、識別
する技術を開発してきた。これは、試料粒子が発生する蛍光スペクトルを検出することにより、
計数域に流れてきたものが試料粒子なのか、それともその他の物体や気泡なのかを識別するもの
である。さらに、散乱光の検出イベントと蛍光の検出イベントのコインシデンス解析法をこれま
でに開発し、より高精度の気泡・試料粒子識別計数技術を可能にしてきた。本研究では、平成1
6年度までに、光散乱法式液中粒子数計数器において計数精度低下要因である液中に発生する気
泡を、本来計数すべき粒子から識別し、試料粒子のみを計数することを目的に、粒子径 2 µm -10
µm の蛍光色素を試料として、粒子と気泡の識別試験、散乱光・蛍光同時計数において、試料サン
プル中の粒子汚染によるバックグラウンド計数を低減する事を行ってきた。平成 17 年度は、200 nm
領域のコンタミネーションを抑制した清浄水中微小粒子計数装置を作成、平成 18 年度は、粒径
500 nm 粒子まで適用可能な高感度蛍光検出計数装置及び気泡抑制技術を開発した。
1)蛍光検出型光散乱式液中粒子計数装置の開発
これまでに開発してきた粒子・気泡識別による粒子計数に用いた蛍光検出型光散乱式液中粒子
計数装置は、以下のような構成になっている。
粒子数濃度標準
色フィルター
二色鏡 1
サンプル流
二色鏡 2
サンプルセル
蛍光
検出器2
バンドパス
フィルター
シース流
粒子識別計数技術の確立
散乱光と蛍光強度を同時に計測。
散乱光と蛍光を同時に検出すれば粒子。
散乱光のみならば、バックグランドノイズ。
側方散乱光
検出器1
488nm
レーザー光
気泡抑制条件の確立
粒子気泡識別式光散乱型液中粒子計数装置
粒子数濃度校正技術基準
図III-2-1-3.3 蛍光・散乱光利用によるバックグランドノイズ・粒子識別計数
気泡識別に使用するため検出される蛍光強度は、蛍光色素を含ませた試料粒子を用いてもかな
Ⅲ-2-1-(71)
り微弱である。このためCCDを用いる分光器よりも、さらに高感度な検出方法が多数のイベン
トがランダムに発生する粒子計数の為には有利である。この微弱光検出装置として、光電子増倍
官を検出器として用いる。粒子計数、蛍光励起に用いるレーザー光源、試料粒子を含む溶液を流
すサンプル流路、計数に用いる散乱光及び気泡識別に用いる蛍光の検出光学系をそれぞれコンパ
クトにまとめて持っているフローサイトメーター(Partec 社製 CyFlow
Space)をもとに、標準
粒子値付けに適応できるよう改造した装置を用いた。装置の概略を、図 III-2-1-3.3 に示す。
LB
LB
SM
SM
SM
ShF
SaF
ShF
レーザービーム軸方向から見た図
SC
SM
ShF
SaF
SC
ShF
レーザービーム直交方向から見た図
SM : 試料粒子または気泡, SaF : 試料粒子を含んだ試料溶液流, ShF :全ての
試料溶液がレーザービーム(LB)で作る測定領域内を通過する事により、全粒
子を計数出来る様に、試料溶液を包む清浄水によるシース流
図III-2-1-3.4 シース流を用いた粒子計数概略図
複数の粒子が同時に散乱光を発生させると正確な粒子計数が出来なくなるので、試料粒子を流
れに乗せて、1つずつ検出領域においてレーザービームに照射される様に試料粒子を含む溶液を
細流にする。レーザービームを粒子が横切る時に散乱光を発生させ、また、蛍光を励起する。前
方散乱光、側方散乱光、蛍光をここの粒子について計測し、このデータから、粒子の粒径と個数
の計数、気泡か試料粒子かの識別を行う事を目的に実験を行った。 フローサイトメーターでは、
試料粒子が1つずつレーザービームを通過するようにするために、試料粒子を含んだサンプル液
を、シース液の流れに包み、試料粒子が1列に並んで流れるようになっている。また、シースフ
ローを用いる事により、レーザービームの中心付近のビーム強度が均一な部分のみを用いて計測
する事が出来るため、同一粒径の粒子から発生する散乱光強度をそろえる事が出来、計測の安定
Ⅲ-2-1-(72)
性を増す事が可能になる。さらに、試料粒子を含んだ溶液が細く絞られる事により、全ての試料
粒子が、レーザービームの作る観測領域を通過する事になり、粒子の全数計測が可能になる。試
料溶液の一部を観測領域とするサンプリング法では、溶液内での粒子の分布の不均一差に起因す
る不確かさや、観測領域の体積を正確に決定する事が出来ないために起きる濃度への換算の不確
かさが大きくなる。これらの不確かさを抑制するためにも、試料粒子を含んだ溶液を細流に縛り、
清浄水によるシースフローで包む必要が有る。シースフローの概略を、図 III-2-1-3.4 に示す。
本装置での励起波長は 488nm のため、蛍光ラベルした粒子からの蛍光の中心波長は 590nm 付
近にあると考えられる。粒子の径を測定するための側方散乱光は、488nm のダイクロイック長波
長通過フィルターを通して光電子増倍管に導入され測定された。蛍光は、560nm のダイクロイッ
ク長波長通過フィルターにより短波長成分を取り除いた後、620nm のダイクロイック長波長通過
フィルターで長波調整分を取り除いた光のうち、バンドパスフィルターにより 570nm-620nm の光
を選択し光電子増倍管へ導入し検出を行った。
フローサイトメーターでは、粒径は一意的に決まらず、検出系のアンプによる増幅率や光電子
像倍管の増幅率により変化するため、既知の粒子による粒径の校正が必要である。粒径の校正に
は、国家標準にトレーサブルな粒子(JSR 社製
SC-051-S, SC-103-S, SC-200-S, SS-052-P, SS-103-P,
SS203-P)を用いた。この粒子は蛍光ラベルされておらず、バックグランドノイズの影響がないこ
とを確認することにより、正確な粒径の設定を行った。
無気泡時の散乱光ヒストグラム
35
35
散乱光検出の回数 (個)
散乱光検出の回数 (個)
気泡混入時の散乱光強度ヒストグラム
30
25
20
15
10
5
0
30
25
20
15
10
5
0
1
5
10
20
1
(個)
35
30
25
20
15
10
5
0
0
200
400
600
800
10
20
無気泡時の蛍光強度ヒストグラム
蛍光検出の回数
蛍光検出の回数
(個)
気泡混入時の蛍光強度ヒストグラム
5
35
30
25
20
15
10
5
0
1000
蛍光強度 Arb. Unit in Log
0
200
400
600
800
蛍光強度 Arb. Unit in Log
図III-2-1-3.5 散乱光計数に気泡がない事の確認
Ⅲ-2-1-(73)
1000
2)気泡識別粒子計数技術の開発
粒子・気泡識別による粒子計数による測定結果の例を図 III-2-1-3.5 に示す。このヒストグラム
の、横軸は散乱光強度または蛍光強度を示す。散乱光強度は、試料粒子の粒径を表す。散乱光強
度、蛍光強度はログスケールで表示されている。ヒストグラムの縦軸は、イベントの有った個数
を表している。5 µm 以上の粒径域に含まれる散乱光強度による計数結果は、171 個であった。蛍
光強度による計数結果は、113 個であった。試料粒子からは、蛍光色素を添加して有るため必ず
蛍光が検出されるので、計数効率評価を除いた評価では、113 個が試料粒子の個数と考えられる。
これを、市販の光散乱式粒子計数器と同じ測定である散乱光強度の結果と比較すると、散乱光強
度のほうが 51.3 % 大きな値を示している。これは気泡等によるバックグランドノイズの存在が、
粒子計数に与える不確かさの増大要因で有る事を表している。このバックグランドノイズが一定
に安定しているものならば、簡易的にバックグランドノイズの値を測定結果から引いてしまう方
法も考えられる。また、実際に液中粒子計数の現場では、そのような事も行われている。しかし、
このような方法を採用すると、粒子計数の値が変化したとき、実際に粒子数に変化が有ったのか、
それとも、バックグランドノイズの量に変化が有ったのか、判断する事は難しい。それに対して、
我々が開発してきた粒子識別による粒子計数技術では、計数一つ一つを、試料粒子か、否かを識
別しているため、そのような不確かさが入る事は無い。
120
100
80
側方散乱光強度
60
40
20
0
20
蛍光強度
40
60
E2
E1
80
E1 : 散乱光と蛍光を同時に検出した事象
E2 : 散乱光のみを検出し、蛍光が検出されなかった事象
図III-2-1-3.6 信号検出事象における側方散乱光と蛍光の強度の時系列
図 III-2-1-3.5 の蛍光強度のヒストグラムから粒子計数を行ってしまう事も考えられる。しかし、
試料粒子に含まれる蛍光色素からの蛍光強度は、同じ粒径の粒子でもあってもばらつきを持って
いる。さらに、異なるロットの粒子では、同じ粒径の試料粒子でも異なる蛍光強度を示す。蛍光
Ⅲ-2-1-(74)
波長の異なる粒子では、当然蛍光強度は異なる。このため、気泡との識別、つまり、個数の決定
には利用できるが、粒径の決定が出来ない。粒径の決定は、散乱光強度から導き出す必要が有る。
このため、散乱光強度と蛍光強度のコインシデンス解析を行う事により、正確な気泡・粒子識別
能力を持つ粒子計数を行う事が可能になる。信号検出事象におけるコインシデンスの様子を図
III-2-1-3.6 に示す。
標準粒子数濃度溶液に値付する場合や、実際に標準粒子数濃度溶液を用いて、粒子計数器の校
正を行う場合には、この気泡によるバックグランドの存在は重要な問題である。本プロジェクト
においては、そのため、標準粒子を用いた計数校正技術基準の設定も目標になっている。
3)バックグランドの削減技術の開発
バックグランドノイズとして観測されるものの同定は難しいが、その多くは気泡であると考え
られてきた。後述する計数効率評価の際に、粒子以外の粒子サイズの固体が検出されなかったこ
とから、気泡画技計数の主役であると推定できる。気泡が主であるとするならば、計数される試
料自身および計数に用いるシース液の取扱を工夫することにより、バックグランドノイズは低減
可能である。試料溶液は、2.4.3.2 で後述するように試料容器内全量を計数するのではなく、その
一部をサンプリングすることにより全体の濃度を推計することになる。したがって粒子を均一に
分散させるための撹拌が必要である。この撹拌の際に、気泡を試料溶液内に発生させないように
撹拌することが試料溶液取扱では重要である。そのために、震盪回転撹拌装置を使用した。また、
サンプリングした試料を試験管にピペッティングする際にも、試験管の底や液面をピペッティン
グされる液体がたたくことにより気泡が発生するため、試験壁に添わせてゆっくりと充填する必
要がある。シース液の取扱についても、シースボトルに超純水を充填する際に気泡を発生混入さ
せないようにすることが重要である。超純水自身を脱気装置により予め脱気した後超純水を作成
し、充填の際にシース液面やボトル壁面に超純水を衝突させることで気泡が発生するので、ボト
ルの底面際から充填を行うことにより気泡の発生を抑えることが可能になった。図 III-2-1-3.5 に
おいて示されたように、気泡を抑制したことにより、粒径 5 µm 以上の計数は、散乱光によるもの
が 114 個、蛍光とのコインシデンス解析によって得られたものが 114 個と一致をした。このよう
に、散乱光だけの計数と、コインシデンス解析による計数が一致したということは、バックグラ
ンドノイズが存在しないということになる。この条件下で、非蛍光の液中粒子数濃度標準溶液の
値付けを行う。
(5-2)液中粒子数濃度校正評価技術の開発
平成 17 年度は、液中粒子数濃度標準設定のために、2 µm -10 µm 粒径域における液中粒子数濃
度の測定の不確かさ評価の試験を行った。平成 18 年度は、市販装置でよく見られるサンプリング
したのに計数されない試料がないように、サンプリングした試料溶液の全量を計数可能にした新
しい測定方法を開発した。また、2 µm-20 µm の粒径範囲において、市販粒子数濃度標準液値づけ
試験を行った。特に、10 µm −20 µm の粒径域においては、
「液中粒子数濃度」の国家標準を確立
し、依頼試験の形式で配布を開始した。
Ⅲ-2-1-(75)
1)全量計数のための装置開発
通常のフローサイトメーターでは、計数開始前に計数地点を試料溶液が通過する、計数停止時
に試料溶液を入れた試験管と計数地点間に試料溶液取り残されるなどの、計数されない試料溶液
が存在する。また、通常の液中粒子計数器は、計数されている試料溶液の体積を正確に測定でき
るものは少ない。我々は、測定用にサンプリングした試料溶液の質量を測定することにより測定
されるよう液量を正確に測定できるようにし、この溶液中の粒子を全て計数することが可能な測
定方法を開発した。
<A : 測定開始前>
フローセル
<B : 測定開始ープレラン>
フローセル
計数位置
計数位置
Sheath
Waste
流路内は、全て純水で充填。
Sheath Waste
測定開始のために、サンプル流路に加圧。
サンプル流路途中までサンプル液が充填される。
<D : 測定中ー粒子検出>
<C : 測定中ー定常流(計数0)>
フローセル
フローセル
計数位置
計数位置
Sheath Waste
流路内を、サンプル液が流れるが、
測定部まで達していない。
<E : 測定中ーサンプル流停止>
Sheath Waste
流路内を、サンプル液が流れ、
測定部に達する
<F : 測定終了ーサンプル液を戻す>
フローセル
フローセル
計数位置
計数位置
Sheath Waste
Sheath Waste
サンプル液の流れを停止。
フローセル内の粒子を、全て測定し終
わると、計数は0になる。
サンプル流路内に残ったサンプル液
を、試験管に逆流させる。
図III-2-1-3.7 試料溶液中粒子の全数計数手順
Ⅲ-2-1-(76)
図 III-2-1-3.7 に試料溶液中粒子の全数計数手順を示した。まず、サンプル管、シース液管を超
純水で充填し、サンプルポートに試料溶液の入った試験管を着装する。測定開始のためサンプル
管に加圧後、シース液をフローセルに流し始める。サンプル管に試料溶液を送り込み計数を開始
する。試験管の残液量が少なくなったらサンプル流を止め、フローセル内から試料液を全て計数
後流す。サンプル管内に残った試料溶液を試験管に逆流させ、試験管内を純水で充填する。この
リンス作業を粒子が検出されなくなるまで繰り返すことにより、サンプリングされた溶液中の粒
子を全て計数することが可能になった。試験管にサンプリングされた試料溶液中粒子の全数計数
の様子を図 III-2-1-3.8 に示す。清浄水によるリンス作業を繰り返すことにより試験管壁やサンプ
ル送液用の管内に残留していた粒子が計数され、はじめにサンプリングした溶液内の全粒子を計
数していくことがわかる。
リンスの繰り返しによる粒子回収
1000.0
清浄水を加えてリンス
系列1
系列2
系列3
系列4
系列5
系列6
系列7
...
100.0
0
5
10
液中粒子計数回数 (回)
図III-2-1-3. 8 試験管にサンプリングされた試料溶液中粒子全数計数
2)試料溶液サンプリングによる不確かさ評価
試料溶液サンプリングを行うことにより、試料容器内での粒子数濃度の不均一による計数のば
らつきが発生する。できるだけ均一に撹拌したいが、気泡の混入を避けるためにゆっくりと撹拌
する必要がある。そのため、試料容器を超音波洗浄器内に設置し、超音波を一定時間照射した後、
震盪回転機により一定時間震盪回転運動をさせ撹拌する。超音波洗浄器には、照射時間照射強度
を変更できるアズワン社製 US-1A を、震盪回転機には、回転速度を変更できるアズワン社製ビッ
クローターBR-2 を用いた。図 III-2-1-3.9 に撹拌の様子とサンプリング計測場所を示す。超音波の
照射時間は、1 分間と 6 分間、震盪回転時間は 10 分間と 20 分間、試料容器内に攪拌子を入れた
ものと入れないもので比較を行った。試料容器中心部液面上面付近と底面付近、試料容器壁面近
傍の液面上面付近と底面付近の 4 箇所のサンプリング場所のばらつきを求めた。試料容器により
粒子数濃度の差があるため、ポアソン分布による統計的ばらつきに対する比で攪拌の程度を評価
した。サンプリングによるばらつき結果は、図 III-2-1-3.10 に示した。回転子を入れたほうがやや
Ⅲ-2-1-(77)
良好な結果を得られたが、試料の汚染や濃度の変化を避けるために今回は攪拌子の採用は見送っ
た。試料容器に 40Hz 38W の超音波を 1 分間照射した後、10 分間震盪回転運動をさせ撹拌するこ
とで十分な攪拌が行われることを確認した。
粒子数濃度分布の均一性測定
粒子計数
試料容器内での粒子数濃度分布の
均一性を見るため、容器内の
A:中央上部、
B:中央底部、
C:側面上部、
D:側面底部
A
の濃度を測定。
C
B
D
Waste
試料容器
分布を均一化分布を均一化
震盪
((((
((((
回転
回転震盪器での撹拌
水槽内での超音波照射
図III-2-1-3. 9 サンプリングによる計数のばらつきの対策と評価
1.6
1.4
1.2
1.0
0.8
この条件を採用
0.6
0.4
0.2
0.0
回転10分
回転10分
回転子入り
回転20分
回転20分
回転子入り
回転20分
超音波6分
撹拌方法
図III-2-1-3. 10 撹拌方法の違いによるサンプリングによるばらつきの評価
Ⅲ-2-1-(78)
3)蛍光検出型光散乱式液中粒子計数装置の計数効率評価
これまで粒子計数開発では、気泡等のバックグランドノイズによる偽計数の削減に取り組んで
きて、それに成功を収めてきた。しかしながら、一つの方法による計数では、上位になる一次標
準が無いため、その装置の計数効率が評価できない。光散乱法は、リアルタイム計測であり、精
度の高い方法として発展してきたが、光の散乱を電気的に検出して計数する方法である以上、そ
の計数効率を評価しておく必要が有る。試料粒子が、レーザー光の波長に近づくに従い散乱光強
度は弱くなり、また、粒径の減少に伴い、試料粒子中に含まれる蛍光色素の量が減少していく事
により、発生する蛍光量も減少していく。迷光や不必要な波長の光を取り除くために用いる多く
のフィルター群による信号光強度の減衰も有り、検出器に到達する信号は非常に弱くなる。微弱
信号を増幅検出する事によりノイズによる妨害を受けやすくなる。粒径の減少に伴い、計数効率
の評価はより重要になっていく事が予想される。計数効率評価に用いる粒子計数法は、実時間計
測法である必要はなく、光散乱方式に用いた試料粒子を含む溶液を計数出来る方法ならば良い。
我々は、フィルター上に越し取った試料粒子を顕微鏡法により全数計数することでの検証を行っ
た。
粒子識別による粒子計数と微小粒子画像計数装置による顕微鏡下粒子計数の比較を行うことに
より、光散乱法による計数の妥当性評価を行った。その概略を図 III-2-1-3.11 に示す。試料粒子を
含む溶液は、光散乱法式液中粒子数計数器で粒子計数を行った後、装置外に排出される。このと
き試料粒子を含んだ溶液とシースフローに用いられた清浄水は混合されているため、計数に用い
た試料粒子を含んだ溶液よりも増量している。この混合液をろ過用のフィルターファンネルに受
け、粒子をメンブレンフィルター上に漉し取る。フィルター上に試料粒子をろ過するため、粒子
計数を行った後、清浄水を光散乱法式液中粒子数計数器に流し、0 計数の状態で廃液流路中に滞
留している粒子を洗い流し、メンブレンフィルター上に送った。またろ過用のフィルターファン
ネルも繰り返し清浄水で洗浄し試料粒子が途中に滞留したままにならないよう工夫した。その後
に、フィルター上に保持された試料粒子の全数計数を行った。これは、サンプリングによる不確
かさを抑えるためで、試料粒子のフィルター上での分散状況は、ランダムではなく、図 III-2-1-3.11
に見られるようにかなりの偏りを持ったものになっているためである。走査にかかる時間を減少
するため、直径 4 mm の領域にろ過面積を限定するよう工夫を加えた。
光散乱法による計数
Isopore Filter
試験管
シース
廃液
試料粒子
Isopore Filter
図III-2-1-3. 11 光散乱法の妥当性評価
Ⅲ-2-1-(79)
光散乱法と顕微鏡法との比較の結果を図 III-2-1-3.12 に示す。粒径 10 µm の粒子においては、
5 %以内で、計数が一致する事が確かめられた。これは、光散乱法での計数の拡張不確かさの範
囲内であった。これにより蛍光同時検出型光散乱式液中粒子計数装置の計数の妥当性が検証され
た。
1200
1000
800
顕微鏡計数
FCM計数
600
400
拡張不確か
さ( k = 2 )
200
0
1
2
3
フィルターナンバー
図III-2-1-3. 12 光散乱法と顕微鏡法との比較
計数
(個/µL)
粒径500 nm 蛍光粒子計数結果
1400
1200
1000
800
600
400
200
0
1
蛍光検出法1
2
蛍光検出法2
3
SEM
試料粒子
Si基板上の試料粒子SEM像
図III-2-1-3. 13 500 nm 領域での計数効率評価
Ⅲ-2-1-(80)
500 nm 領域での顕微鏡法の試料を作成する際には、減圧ろ過によるろ過速度が問題になった。
計数装置からの廃液量が吸引ろ過量を上回り、清浄な全数計数手順の遂行が困難なためである。
ろ過面積を増大させればろ過速度を大きくすることは可能だが、顕微鏡法での計数すべき面積が
増え、高倍率でのろ過領域全面走査による全数計数は難しくなる。このため、一般に行われてい
る試料溶液を直接サンプリングして顕微鏡法で計数する方法(直顕法)を用いることとした。こ
れまで用いていた 103 個/mL から変更し、 103 個/µL の高濃度の試料溶液を使用した。1 µL をサ
ンプリングしたのち、シリコン基板上に作成した親水化スポットに滴下し、乾燥させる。これを
電子顕微鏡により計数した。比較に用いる光散乱式計数起用試料は、試験管に同じ 1 µL をサンプ
リングした試料溶液を滴下し、1 mL に希釈して計数した。図 III-2-1-3.13 に示したように、光散
乱法による計数と顕微鏡法による計数は 10%以内の一致を見た。これにより、光散乱法の妥当性
が検証できた。
4)計数領域の設定範囲の変動による計数値の変動量評価
平均粒径
603 nm 粒径の拡張不確かさ 14 nm (k=2)の標準粒子 (JSR 社製 060-1K,)を測定し
たときの、最低粒径の設定値の違いによる粒子計数は、図 III-2-1-3.14 に示されたように、最低粒
径を 500 nm、530 nm、560 nm と変化させたとき、それぞれ、1037 個/ mL、978 個/ mL、974 個/ mL
となる。計数積算対象粒径域を 560 nm から 500 nm へ変化させることで、6.5%の計数増がある
のに対し、530 nm へ広げたときの計数変化は、0.4% である。標準供給を行う際や校正を行う際
の標準粒子の利用方法には、この様な計数範囲を変えたことによる計数の変化を情報として記載
する予定である。
計数域の最小粒径の違いによる計数の変化
平均粒径 603 nm (拡張不確かさ 14 nm (k=2))
1200
1037
1000
978
974
530nm
560nm
800
600
400
200
0
500nm
計数の最小粒径
図III-2-1-3. 14 標準粒子への値付け
(5-3)まとめ
1)気泡識別式液中粒子計数技術開発
気泡識別技術と計数法の開発として、平成 17 年度は、200 nm までの粒径のコンタミネーショ
ンの影響を低減した、清浄水中微小粒子計数装置を作成した。これにより、2 µm 以下の粒径域に
Ⅲ-2-1-(81)
おけるバックグランド計数を低減することが可能になった。平成 18 年度は、高感度蛍光検出計数
装置を開発し、微弱蛍光を用いた気泡識別粒子計数特性を評価した。これにより 500 nm までの
気泡識別式液中粒子計数が可能なことが検証できた。
2)粒子数濃度標準の確立
粒子数濃度標準の確立として、平成 17 年度は、平成 16 年度までに開発した蛍光検出による気
泡識別を行う粒子数濃度計測技術の 2 µm -10 µm 粒径域での不確かさ評価を行い、粒子数濃度標
準液値付け試験を行った。その結果を米国フロリダ州で開催された国際粉体工学会に発表した。
平成 18 年度は、市販粒子への値付けや市販計数器の校正に粒子数濃度標準液を使用するための技
術基準を設定するため 500 nm までの粒径域の気泡抑制技術の開発を行った。また、サンプリング
のための試料溶液攪拌方法を確立し、サンプリングした試料溶液中の粒子を全数計数可能な手法
を開発した。さらに、光散乱法と顕微鏡法との比較による計数妥当性評価技術を開発し、蛍光同
時検出型光散乱式液中粒子計数装置の計数妥当性を評価した。これらを用いて液中粒子数濃度の
国家標準を確立し、標準供給を依頼試験の形で開始した。産業技術総合研究所計測標準総合セン
ターのウェッブサイト( http://www.nmij.jp/service/calibration/ )に、依頼試験の申し込み方
法等が記載されている。平成 19 年度は、500 nm までの粒径域の粒子数濃度計測技術の不確かさ
評価を行った。顕微鏡法との比較による計数効率評価のために、平成 18 年度までに行ってきたフ
ィルター法によるものに加え、高濃度試料を用いた間接比較を行った。これにより 500 nm 領域
までの光散乱法の計数の妥当性を評価した。さらに、標準供給環境の設定と維持のために計数環
境モニタリング装置を導入し、500 nm までの粒径域の粒子数濃度標準液値付け実験を行った。こ
れらの開発により、液中粒子数濃度標準物質の供給技術整備を行った。
(6)目標の達成状況
500 nm から 10 µm の粒径範囲における粒子数濃度校正技術基準の作成とその標準物質を開発す
ることを最終目標として研究を進めてきた。
500 nm から 10 µm の粒径範囲における液中粒子数濃度標準技術の開発として、試料粒子から
の蛍光と散乱光を同時検出することにより、粒子と気泡を識別して計数する技術を確立した。さ
らに、蛍光同時検出型液中粒子計数器を用いて、試料溶液および洗浄方法を含めた取り扱い方法
を検討することにより 500nm までのバックグランドノイズを削減した粒子計数を行い、顕微鏡法
との比較結果で妥当性を評価した。計数の不確かさを評価し、合わせて計数範囲変化による計数
値変化の評価を行うことで標準粒子への値付け技術を確立し、標準物質の供給技術整備をした。
また、液中粒子数濃度校正技術基準として測定・粒子取扱の以下の手順書群 4 編、液中粒子計数
器の取扱や粒子数濃度試料溶液の取扱をふくめた、粒子計数の手順を定めた「液中粒子数濃度計
数手順書」(Appendix Ⅲ-2-1-3-1)、計数効率評価のための顕微鏡法による粒子計数の手順を定め
た「走査型電子顕微鏡画像データを用いた粒子計数手順書」、試料作成の手順を定めた「シリコン
基板を用いた顕微鏡法試用料作成手順書」、電子顕微鏡で画像データを作成する手順を定めた「走
査型電子顕微鏡使用手順書」を作成した。
以上により、最終目標は達成された。
Ⅲ-2-1-(82)
Appendix Ⅲ-2-1-3
液中粒子を計数する場合の技術基準として、液中粒子計数器の取扱や粒子数濃度試料溶液の取
扱をふくめた粒子計数の手順を定めた「液中粒子数濃度計数手順書」を作成した。計数効率評価
のための顕微鏡法による計数には、粒子計数の手順を定めた「走査型電子顕微鏡画像データを用
いた粒子計数手順書」、試料作成の手順を定めた「シリコン基板を用いた顕微鏡法試用料作成手順
書」、電子顕微鏡で画像データを作成する手順を定めた「走査型電子顕微鏡使用手順書」を作成し
た。
Appendix Ⅲ-2-1-3-1 液中粒子数濃度計数手順書
「試案
Ver. 2008-04-21」
1. 蛍光同時検出型液中粒子計数装置(以下計数装置と略)の準備
1.1
一般的な取り扱い方法は、計数装置付属取扱説明書による。取扱説明書と異なる説明が本
手続きにあるときは、本手続きを優先する。
1.2 計数装置は、クリーンベンチ等清浄環境内(以下クリーンベンチと略)に設置する。また、
クリーンベンチ内は、光学系の安定のため、20〜30℃に保つ。作業中にクリーンベンチ内の温度
が 30 ℃を超えたときは、速やかに作業を中止する。
1.3
クリーンベンチ内での作業をする際には、汚染防止のため、防塵衣、清浄手袋、フード、
マスクを着用する。
1.4 計数装置に使用するシースボトル及びシースボトルと装置を連結する外部シースラインは、
シース液に用いる脱気済超純水(以下純水と略)を用いて洗浄する。純水の品質は、JIS K0557
で規定されている水質 JIS A4 クラスを満たし、さらに、比抵抗 18.2 MΩcm 以上、最終段ろ過
フィルターろ過粒径 100 nm 相当以下、TOC(全有機炭素)が 5 ppb 以下のものを用いる。
1.5
測定等で計数装置のサンプルポート(以下サンプルポートと略)が汚れた場合には、洗浄
液をサンプルポートから流し洗浄する。
1.6
計数装置フローセル(以下フローセルと略)が汚れた場合には、計数装置シース導入口か
ら洗浄液を入れ洗浄する。
1.7 シースボトル、外部シースラインの汚れが多い場合には、超音波洗浄器を用いて洗浄する。
1.8 計数装置内部配管が汚染された場合には適宜分解洗浄を行う。
1.9 シースボトルに純水を注水充填する場合には、外部シースラインを用いて、シースボトル内
部底面側から給水する。満水後、シース
1.10 ボトル内の水が 1 回以上入れ替わる時間給水を続ける。
1.11 給水しながらシースボトルキャップを閉める。このとき、シースボトル加圧用の空気供給
用チューブを外しておく。給水停止後、空気供給用チューブを接続し、外部シースラインを接続
する。接続の再、外部シースラインに空気が残らないようにする。
1.12 給水中に液滴や流水が液面をたたいて気泡が発生した場合は、シースボトル内の純水を全
Ⅲ-2-1-(83)
て廃棄した後改めて充填作業を行う。
1.13 計数装置光学基盤を取り外して装置の調整を行った場合には、光学系のアライメント調整
を行う。
2. 計数装置の起動
2.1 計数装置本体部の電源、レーザー電源を順次投入し、さらに制御用 PC(以下 PC と略)の電
源を入る。
2.2 フローセルモニター用の CCD 制御プログラムを起動し、レーザーが点灯していることを確認
する。
2.3 計数装置制御用プログラム FloMax(以下 FloMax と略)を起動する。
2.4 Systems Setup パネルを開き、 機種が CyFlow に設定されている事、バイオセーフティー
及び液面検出がオフになっている事を確認する。設定が指定と異なっていた場合は設定を設定し
直す。機種が CyFlow に設定されていなかった場合に際しては、設定後 FloMax を終了させ PC 電
源、レーザースイッチ、主電源の順番でオフにし、起動手順を始めから繰り返す。
2.5 Service Login を行い、計数装置の加圧用圧力を確認する。圧力が通常と異なる異常高圧を
示していたときは、FloMax を一時終了後、再起動し加圧用圧力を確認する。再確認後異常がある
場合は、FloMax を終了し、PC 電源、レーザースイッチ、主電源の順番でオフにし、起動手順を始
めから繰り返す。
2.6 Instrument Calibration パネルを開き、ポンプスピード及びオフセットを確認する。起動
時の確認で異常動作が見られた場合で、Instrument Calibration パネルの設定値が変化していた
時及び装置の再組立を行った場合は、キャリブレーションを行う。
2.7
洗浄用測定設定ファイルをロードする。洗浄用測定設定ファイルは、予め純水を用いて散
乱光および蛍光の感度調整を行ったものを作成し、識別のための名前を付け保存しておく。
2.8
試験管がサンプルポートに設置されていない事を確認した後、シースプライムを作動させ
シース液を 1 分間送液し、シースラインに新しいシース液を充填する。さらに、クリーン動作と
シースプライムを各 5 秒間 4 回繰り返しサンプルラインの洗浄を行う。
2.9
洗浄した試験管に純水を入れ、クリーン動作後サンプルポートに着装し、測定系の洗浄作
業を行う。この際、サンプルポート上部および計数装置試験管ホルダー(以下試験管ホルダーと
略)に液滴が付いていないことを確認する。液滴が付いていた場合は、取り除いた後試験管を着
装する。
2.10 洗浄用測定設定ファイルに基づき、純水を試料として測定をすることにより洗浄作業を行
う。
2.11 測定に必要な粒径範囲のバックグランドが十分削減されるまで、繰り返し、2.10 の洗浄
作業を行う。洗浄の効果が現れないときは、適宜、1.蛍光同時検出型液中粒子計数装置の準備で
規定された洗浄作業を行う。
3. 蛍光同時検出型液中粒子計数装置の停止
3.1 計数装置の使用終了時には、2.10 の洗浄作業を行い、サンプルポートやフローセルに試料
Ⅲ-2-1-(84)
が付着残留していないことを確認する。
3.2 計数装置の終了時には、加圧用圧力を確認する。
3.3 FloMax を終了し、PC 電源、レーザースイッチ、主電源の順番でオフにしていく。
4.測定試料溶液の準備
4.1
測定試料溶液は以下の手順で試料を準備する。以下の作業は、測定用試料を暴露した状態
で使用するため、異物混入を避けるためクリーンベンチ内で行う。
4.2
被測定用試料溶液の入った試料ボトル(以下試料ボトルと略)を作業のため、クリーンベ
ンチ外に取り出す際には、クリーンボックス内に封じて行うか、クリーンベンチ内に再取り入れ
する際に試料ボトル外部の汚れを取り除く。これらの作業の際に衝撃を与えないようにする。
4.3
試料溶液を入れた試験管を計数装置のあるクリーンベンチ内へ移動する際、クリーンベン
チの外に取り出す必要がある場合には、クリーンボックス内に封じ込めて異物の混入がおこらな
いようにする。また、移動の際飛沫の飛び散りを避けるため衝撃を与えないようにする。
4.4 試料ボトルは、20〜26℃の環境中に静置保管したものを用いる。
4.5
測定に使う試験管、ピペットチップ、試験管設置用ビーカー、試料ボトル保持用ビーカー
等は、予め純水を用いて洗浄を行い乾燥させておく。
4.6
試料溶液質量測定用の電子天秤(以下天秤と略)は国家標準にトレーサブルな校正を受け
たものを用いる。天秤の安定化のため電源投入後 1 時間以上たった後試料溶液質量測定を行う。
5.試料溶液のサンプリング
5.1
試料ボトルのふたが密封されている事を確認した後、試料ボトル保持用ビーカー内に設置
し、試料ボトル内の試料液面より上になるまで、試料ボトル口に純水がかからないよう注意しな
がら注水した後、撹拌用超音波洗浄器に設置する。
5.2 撹拌用超音波洗浄器の出力が、40 kHz 38 W の場合超音波の照射時間は 1 分間とする。撹
拌用超音波洗浄器の温度設定が保管環境温度に合致していることを確認した後動作させ撹拌する。
5.3 撹拌用超音波洗浄器が停止した後すぐに試料ボトルをとり出し外面の水滴をふき取った後、
撹拌用ローターに設置する。
5.4 試料容器が 250 mL 程度のものである場合は、10 分間回転振動撹拌する。撹拌中に気泡を
発生させないため、毎分 20〜25 の回転および毎分 20〜25 の震盪により撹拌を行う。試料ボトル
取扱中に試料ボトルに衝撃を与えないようにする。衝撃を与えた場合は、静置後上記撹拌操作を
始めから行う。
5.5 測定用試験管を用意し、天秤で風袋の量を取り除いた 0 点を設定する。
5.6 撹拌作業が終了した試料ボトルからピペットにより約 1mg サンプリングした試料を試験管
に入れ、測定される試料の質量を天秤で測定する。試料蒸発の影響を避けるため、質量測定は、
サンプリングから 1 分以内で行う。
5.7 サンプリングは、5 mL 用チップを着装したピペットを用いる。ピペットから試験管に試料
溶液を移す際には、溶液を試験管壁面に沿わせゆっくりと充填する。ピペットからの溶液が直接
試験管の底や液面をたたいて気泡の混入があった場合は、新たなサンプリングを行う。また、サ
Ⅲ-2-1-(85)
ンプルポート汚染防止と測定精度確保のため試験管上部 10 mm 以内には試料溶液ピペットチップ
を接触させない。接触した場合は新たなサンプリングを行う。
5.8 試料ボトルからサンプリングを行う場所は、試料ボトルの中心液面下約 1 センチメートル
(以下中央上と略)、同底面から約1センチメートル上(以下中央下と略)、壁面から約 1 センチ
メートル離れ液面下約 1 センチメートル(以下壁面上と略)、同底面から約 1 センチメートル上(以
下壁面下と略)の 4 ヶ所の内あらかじめ決めた順番の 1 ヶ所から行う。
5.9
サンプリングの際、試料ボトル内部からの水分蒸発を避けるため、1 回のサンプリングで
フタを開けておく時間は 1 分以内とする。また、フタに付いた水滴を試料ボトル外部に漏らすこ
とのないよう注意して取り扱う。
6.試料溶液の計数
6.1
FloMax 上で測定用設定ファイルをロードする。測定設定ファイルは、予め試料溶液と同
等のサンプルを用いて散乱光および蛍光の感度調整を行ったものを作成し、識別のための名前を
付け保存しておく。パラメーターパネル、計測パネル、ページレイアウトが所定の設定値である
事を確認する。
6.2
試験管に純水を入れ測定を行い、計数領域にバックグランドがない事を確認する。バック
グランドがあった場合は、2.計数装置の起動で規定した洗浄(以下装置洗浄と略)を適宜行い、
計数領域にバックグランドがない事を確認する。
6.3 計数装置の安定化のため、測定用設定ファイルをロード後、20 分以上経過した後測定を行
う。
6.4
サンプルポートに試料溶液をいれた試験管を設置し計数を行う。この時、試験管設置前に
計数装置でクリーン動作を行い、サンプル送液管内に気泡が入らないようにする。また、異物混
入を避けるため試験管ホルダーに液滴が付いていないことを確認する。
6.5 サンプル流速 0µL/秒で測定を開始し、試料が計数装置フローセル(以下フローセルと略)
内に流れていない事を確認した後、サンプル流速を 3µL/秒にし、計数を開始する。
6.6 試料溶液が試験管内から全て送液される直前にサンプル流速を 0µL/秒にし、送液を停止す
る。2分間この状態を維持しフローセル内から試料を排出する。
6.7 試験管をサンプルポートから引き下げ試料溶液を試験官側に逆流させた後計数を停止する。
さらにクリーン動作を行う事によりサンプル送液管内に試料溶液が残らないようにする。
6.8
クリーン動作により試験管内に送られてきた純水により試験管をリンスする。このリンス
液を 6.5 から 6.7 までと同様にして計数し、粒子が計数されなくなるまで計数作業を繰り返す。
6.9 繰り返しにより得られた粒子計数の総和を試験管内にサンプリングされた粒子数とする。
6.10 試験管内の試料溶液やリンス液を全量液送して、計数装置サンプル管内に多量の空気が送
り込まれると、サンプル管内の気泡の除去が十分に行えずバックグランドが増大する場合がある。
測定領域のバックグランドが増大した場合は計数を中止する。
6.11 サンプル管内またはシース液送管内にあった気泡がフローセルに流れてきた場合に、パル
ス的にバックグランドが増大する。このときは計数を中止する。
6.12 計数作業を中止した場合は、装置洗浄を行う。
Ⅲ-2-1-(86)
7.計数の評価
7.1
試験管内にサンプリングされた試料溶液の質量を 23 ℃の純水の密度を用いて容積に変換
し、6.試料溶液の計数で得られた試料粒子数(以下試料粒子数と略)をこの容積で除する事によ
り粒子数濃度を求める。
7.2 試料容器内 4 ヶ所で行うサンプリングを 3 セット行うことにより、サンプリングによる不
確かさを含んだ粒子数を求める。
7.3 粒径の校正は、SI トレーザブルな粒径標準粒子を測定し得られた粒径校正曲線を用いて行
う。
7.4
粒径校正曲線は、光学系の調整、感度の変更等計数装置光学系出力特性に変更が見られる
作業を行った際には、新たに測定し直す。
8.計数効率の評価
8.1 計数装置の計数効率の評価は、顕微鏡法との比較で行う。
8.2
顕微鏡法での計数は、計数装置で測定した試料を含む廃液を全量、メンブレンフィルター
上に吸引ろ過をし、これを走査型電子顕微鏡(以下 SEM と略)で全数計数することにより行う。
8.3
ろ過作業のためにフィルターファンネル(以下ファンネルと略)を用いる。ファンネルを
取り外す際には、フィルターに負圧をかけ、ファンネルとフィルターが分離するようにする。ま
た、ファンネルは、フィルター面に垂直方向に取り外しフィルター面上の粒子を払いのけること
がないようにする。
8.4 走査型電子顕微鏡(以下 SEM と略)を用いて、フィルター上の粒子を計数する方法は、走
査型電子顕微鏡使用手順書による。
8.5
SEM により得られた SEM 画像データ(以下データと略)から粒子計数をする方法は、顕微
鏡画像を用いた粒子計数手順による。
8.6 上記方法で十分な精度のデータのとれない場合は、間接的な顕微鏡法との比較を行う。
8.7
間接的な顕微鏡法との比較は、同じ試料ボトルから計数装置用にサンプリングしたものと
顕微鏡法用にサンプリングしたものとの計数の比較で行う。
8.8
濃度 103 個/ µL 程度の試料溶液を用い、マイクロピペットを用いて 1 µL サンプリング
する。同じ試料溶液からサンプリングした試料を、計数装置で測定するための試験管と SEM 像を
撮るためのシリコン基板にそれぞれ 1 µL 取り分ける。
8.9 1 µL の試料が入った試験管に純水を試験管壁面沿いに静かに 1 mL 注入し濃度 103 個/ mL
程度の試料を作成し、これを 6.試料溶液の計数で規定された方法で計数する。
8.10
SEM 像を撮るために 1 µL 取り分けられた試料溶液の計数は、シリコン基盤を用いた顕微
鏡法試料作成手順による。
Ⅲ-2-1-(87)
Appendix Ⅲ-2-1-3-2 標準供給を開始した液中粒子数濃度標準の不確かさ評価
粒子数濃度 C( 個 / mL)は、粒子計数値 N(個)を、測定に使用した試料溶液体積 V( mL )でわ
ることにより、個 / mL で求められる。
C=
N
V
(2.1.3.1)
試料溶液体積 V( mL )は、測定に使用した試料溶液質量 m ( g )を、純水の密度ρ( g /
mL )で
わることにより求められる。
V=
m
(2.1.3.2)
ρ
このため、粒子数濃度 C は、以下のようになる。
C=N
ρ
(2.1.3.3)
m
粒子数濃度の不確かさ u(C) は、粒子計数値の不確かさ ucount (N) ( 個 )、粒子試料質量の測定の不確
かさ um (m) ( g )、純水の密度の不確かさ uρ ( ρ ) ( g / mL )から合成される。粒子数濃度の相対不確か
さ
u(C)
は、式 4 で表される。
C
(
u(C) 2 ucount (N) 2 um (m) 2 uρ ( ρ) 2
) =(
) +(
) +(
)
N
m
C
ρ
(2.1.3.4)
粒子計数値の不確かさ ucount (N) ( 個 )は、サンプリングによる不確かさ uS (N) ( 個 )、粒径範囲の不
確かさに起因する粒子計数値の不確かさ uD (N) ( 個 )、発生した気泡を粒子と誤って数えることによる
不確かさ uB (N) ( 個 )から合成され、粒子数濃度の不確かさは、
(u(C)) 2 = (
u S (N ) 2 2 u D (N ) 2 2
u (m) 2 2 u ρ (ρ ) 2 2
1
) C +(
) C + (u B (N )) 2 2 + ( m
) C +(
) C
N
N
V
m
ρ
(2.1.3.5)
となる。
サンプリングによる不確かさと、粒径範囲の不確かさに起因する粒子計数値の不確かさの相対標準不
確かさと発生した気泡を粒子と誤って数えることによる不確かさは、実験から
uS (N)
= 0.037 、
N
uD (N)
11
= 0.0035 、 uB (N) =
( 個 )であり、粒子試料質量の測定の相対標準不確かさは、天秤の校
N
3
正証明書から
um (m)
= 0.0001、純水の密度の相対標準不確かさは、国際度量衡委員会質量関連量
m
諮問委員会の推奨値から求めた 23.0±3.0 ℃の温度変動による密度変化より、
結果、拡張不確かさ( 包含計数 k = 2 )は、 U = 2 0.0014C 2 +
測定に使用した試料溶液体積となる。
Ⅲ-2-1-(88)
uρ ( ρ)
ρ
= 0.0004 となる。
40
、ただし C は粒子数濃度、V は
V2
Appendix Ⅲ-2-1-3-3 液中粒子数濃度標準の不確かさバジェットシート
液中粒子指数濃度標準の不確かさをまとめたバジェットシートを図 III-2-1-3.15 に示す。
入力量 記 要因 標準不確かさ
号
i
単位
x
サン
プリ
ング
(S)
計数値 N
粒径
範囲
(D)
uS (N) = 74
(N = 2016)
u D (N ) = 3
(N = 987)
気泡
11
の発 u B (N ) =
3
生
(B)
試料溶
m
液質量
密度
ρ
-
-
合成標準不確かさ
個
相対標準不確かさ u(C)への寄 u(C) への寄与分 根拠
の具体例
(評価タイプ)
u(x i )
与分
(個/mL)
xi
C = 1000個/mL
V = 1 mL
u S (N )
= 0.037
N
個
u D (N )
= 0.0035
N
個
-
u m (m) = 0.0001 g
u ρ (ρ) = 0.0004 g/mL
0.037C
0.0035C
11
3V
250mL試料溶液
から、1mLをサン
37 プリングする際
のばらつきを実
験計画法で評価。
(A)
10µm以上の粒径
範囲の計数にお
いて、粒径範囲を
±1µm変動させた
3.5
ときの粒子計数
値の変動を実験
的に評価。
(B)
気泡の発生によ
る偽計数を実験
6.4 的に評価。
(B)
u m (m)
= 0.0001 0.0001C
m
u ρ (ρ )
ρ
= 0.0004 0.0004C
0.0014C 2 +
40
V2
図 III-2-1-3.15
Ⅲ-2-1-(89)
0.1 校正証明書
(B)
国際度量衡委員
会質量関連量諮
問委員会推奨値
から、23.0±3.0℃
0.4
の温度変化が
あった場合の純
水の密度変動
(B)
38
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