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Japan IT Market 2017 Top 10 Predictions: デジタルトランス

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Japan IT Market 2017 Top 10 Predictions: デジタルトランス
Top 10 Predictions
Japan IT Market 2017 Top 10 Predictions:
デジタルトランスフォーメーション・エコノミーの萌芽
中村 智明
Predictions
2016 年を振り返ると、クラウド、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソーシャル技術
からなる第 3 のプラットフォームの重要性は IT サプライヤーの間ではもはや常識となり、その上
で新たな成長ドライバーを求めて、コグニティブ/AI システム(Cognitive/Artificial Intelligence
Systems)や IoT(Internet of Things)に関心が集まった。また、Uber や Airbnb といったデジタルビ
ジネスで大きく事業を伸ばしている IT サプライヤーが国内市場にも進出し、メディア各社でも大
きく取り上げられ、デジタルトランスフォーメーション(DX)の概念が IT サプライヤーの間に
浸透した年になった。一方で、企業ではハイブリッドクラウドへの流れが定着し、いつ、どのワ
ークロードをどのクラウドで実現するのかについて具体的に検討し実行に移す企業の事例が多く
紹介された。
では、2017 年はどのような年になるのであろうか。以下に IDC のアナリストが予測する 2017 年の
国内 IT 市場の Top 10 Predictions を示す。
1.
産業間のエコシステム連携によって、第 3 のプラットフォーム上に DX エコノミーが萌芽する
2.
第 3 のプラットフォームへの ICT 支出が第 2 のプラットフォーム支出に並ぶ
3.
ランサムウェアの被害拡大が、脅威インテリジェンスとコグニティブ/AI システムを活
用したセキュリティ製品の開発を加速する
4.
DX を実現するハイブリッドクラウドと API エコノミーの拡大が加速する
5.
IoT 事業者の競争軸は「IoT プラットフォーム」から「データアグリゲーションプラット
フォーム」にシフトする
6.
DX の普及が、エンタープライズインフラストラクチャの選定基準と IT サプライヤーの競
合関係に変化をもたらす
7.
コグニティブ/AI システムの事例がプロフェッショナルサービス、セキュリティ/リス
ク管理分野で多数登場する
8.
産業特化型クラウドが DX エコノミーのコア技術として成長を始める
9.
AR/VR、ロボティクス、3D プリンティングなどの IA 技術が製造業の変革とグローバル競
争力の強化に貢献する
10. DX が企業の全社的課題として認識され、IT 人材と DX 推進組織の再定義が進む
December 2016, IDC #JPJ41876916
調査概要
IDC は毎年 12 月に、世界 IT 市場において翌年に起きるとみられる主要な事象を Top 10 Predictions
として発表している。本調査レポートは、世界市場における企業の IT バイヤー(IT 購買者)向け
のレポートである『IDC FutureScape: Worldwide IT Industry 2017 Predictions(IDC #US41883016、2016 年 11
月発行)』を参考とした上で、日本国内の IT 市場に今後 3 年以内に起きる事象を予測し、2017 年
の変化に焦点を合わせた 10 項目にまとめたものである。なお、「IDC FutureScape」レポートは、企
業の IT プロフェッショナルを想定読者としているが、本調査レポート「Top 10 Predictions」は IT サ
プライヤーを想定読者としている。製品分野ごとの分析では、世界市場を対象とする「IDC
FutureScape:世界市場」、ならびに国内市場へのインパクトをまとめた「IDC FutureScape:世界と国
内市場」において各製品分野の調査レポートを発行するため、それらも併せて参照のこと。ま
た、本調査レポートの最後のセクションでは、2017 年の市場予測に基づき、IT サプライヤーへの
IDC の提言を行う。
本調査レポートの作成に当たっては、IT 市場に対する IDC Japan の幅広い知見を集約するため、
2017 年に起きるとみられる事象を、専門分野のアナリストのインサイトとして集め、討議し、以
下の視点から考察した。

第 3 のプラットフォーム:第 3 のプラットフォームであるクラウド、モビリティ、ビッグ
データ/アナリティクス、ソーシャル技術において顕著な市場変化が起きると予測される
か。

イノベーションアクセラレーター(IA):次世代セキュリティ、AR/VR(Augmented
Reality/Virtual Reality)、IoT、コグニティブ/AI システム、ロボティクス、3D プリンティ
ングが第 3 のプラットフォーム上に構築ないし統合され、新たなプラットフォームとエコ
システムを形成するような動きが見られるか。あるいはそれぞれのプラットフォームで顕
著な変化が見られるか。

デジタルトランスフォーメーション(DX):第 3 のプラットフォームおよび IA 技術基盤
を利用して、企業は自らの事業を変革しデジタルサービスを新たな製品/サービスとして
構築していく。IDC では、DX を「企業が第 3 のプラットフォーム技術を利用して、新し
い製品やサービス、新しいビジネスモデル、新しい関係を通じて価値を創出し、競争上の
優位性を確立すること」と定義しているが、DX において顕著な動きが見られるか。
本調査レポートの目的は、2017 年に起きるとみられる 10 項目の事象を提示することで、IT サプラ
イヤーが時宣を得た対応策をとれるように支援することにある。
IT 産業と事業計画に影響を与える重要な外部ドライバー
IDC は 2017 年に IT 産業と企業の事業計画に影響を与えると予測される 12 個の外部ドライバー
(外部要因)を 2016 年 8 月に特定している。詳細は『グローバル IT と事業企画を形作る重要な外
部ドライバー:IDC FutureScape 2017(IDC #JPJ41641416、2016 年 8 月発行)』を参照のこと。外部ド
ライバーとは、今後 12~24 か月の間に企業の IT 戦略とビジネス戦略を形作り、グローバルな事
業エコシステムの変化を牽引する外部の力と定義される。IDC は、政治(Policy)、経済
(Economy)、社会(Social)、技術(Technology)、環境(Environment)、法令(Law)、事業
(Business)を示す PESTEL+B を外部ドライバー策定時のパラダイムとして使用している。2017
年の外部ドライバーでは、技術の進化とインパクト、プラットフォーム、セキュリティ、プライ
バシー、インターネットへのつながり、人材、資金調達、事業業績、デジタル資産、地政学的な
変動、リスクなどを取り上げている。
2017 年の本調査レポート「Top 10 Predictions」では、変化を引き起こす力として以下に示す 7 つの外
部ドライバーを取り上げた。

DX:技術が牽引するトランスフォーメーションによるビジネスと社会の変革

どこでも、何にでも:人工知能の台頭
©2016 IDC
#JPJ41876916
2

プラットフォーム経済:規模拡大を巡るエコシステム競争

移行する経済:デジタル資本としてのデータ

実体化:産業プロセスの変革

DX デルタ:産業界のリーダーによる業績格差の拡大

イノベーションへの障害:SoR(Systems of Record)による進化の制約
2017 Predictions Team
本 Top 10 Predictions に多大な貢献をしたアナリストは以下の通りである。
石田 英次、市川 和子、入谷 光浩、草野 賢一、菅原 啓、鳥巣 悠太、廣瀬 弥生、松本 聡、眞鍋
敬、森山 正秋、寄藤 幸治(50 音順)
概況
2016 年を振り返ると、クラウド、ビッグデータ/アナリティクス、モビリティ、ソーシャル技術
からなる第 3 のプラットフォームの重要性は、IT サプライヤーの間ではもはや常識となり、その
上で新たな成長ドライバーを求めて、コグニティブ/AI システムや IoT に関心が集まった。ま
た、Uber や Airbnb といったデジタルビジネスで大きく事業を伸ばしている IT サプライヤーが国
内市場にも進出し、メディア各社でも大きく取り上げられ、DX の概念が IT サプライヤーの間に
浸透した年になった。一方で、企業ではハイブリッドクラウドへの流れが定着し、いつ、どのワ
ークロードをどのクラウドで実現するのかについて具体的に検討し実行に移す企業の事例が多く
紹介された。
将来の展望
では、2017 年はどのような年になるのであろうか。2016 年の後半に入って、IT の使用形態やロー
カライズの手法について再考の動きを感じ取ることができる。具体的には以下の現象が IT 産業に
見られ、2017 年にはこの動きがさらに加速されるであろう。

ハイブリッドクラウドの隆盛:エンタープライズ IT では、パブリッククラウドにすべて
の業務を移行するという考え方よりも、プライベートクラウドやオンプレミスの IT をも
含めたハイブリッドクラウド環境で使いこなす方向に多くの企業が舵を切っている。ま
た、IoT ではすべてのワークロードをクラウドやデータセンターで処理するという考え方
から、ワークロードの 40%程度をデバイスやセンサーに近い IoT のエッジコンピューテ
ィング環境で処理するという方法に主軸が移行しつつある。

エコシステム戦略への移行:クラウドのサービス提供においては、顧客が求めるすべての
ソリューションを 1 社単独で提供することはもはや難しくなり、多くのクラウドサービス
ではパートナーとの戦略提携によってサービスを提供するという形態に移行しつつある。
これはメガクラウドサプライヤーも例外ではなく、Amazon Web Services(AWS)とセール
スフォース・ドットコム、AWS とヴイエムウェア、IBM とヴイエムウェア、富士通とオ
ラクルといった大型の戦略提携が発表されている。

二者択一からハイブリッド思考への転換:グローバルかローカルか、パブリックかプライ
ベートか、集中システムか分散システムか、成熟市場か新興市場か、自社調達か外部調達
かといったシステムの二者択一の観点、または売上拡大に有利かという視点で議論される
ことの多かった IT 市場に変化が見られる。今日では二者択一というよりは両者の適材適
所を考慮したハイブリッドな思考が企業の選定基準になってきている。

競争から協創への戦略シフト:経営課題の視点で見ると、従来よりも俯瞰的かつ分析的な
アプローチで協創(パートナーやクライアントと協力して新規ビジネスを創造)するとい
う姿勢を取り、迅速で効果的なシステム選定を推し進めていくビジネス環境への移行が見
て取れる。
©2016 IDC
#JPJ41876916
3
これらの動きはすべて、企業の DX を推進する上での促進要因として働くとみられる。
Prediction 1:産業間のエコシステム連携によって、第 3 のプラット
フォーム上に DX エコノミーが萌芽する
DX の導入に当たって、経営戦略におけるオペレーションツールとして活用することだけではな
く、意思決定支援ツールとして、さらにはサービスを提供するプラットフォームとして活用する
ことが期待される。しかも、DX に関わるサービスは、単独での事業展開というよりはビジネスに
関連するパートナーやクライアントとの協業を通して新規ビジネスを創造するエコシステムの形
成を促しており、戦略的なパートナーシップによるエコシステムの構築がビジネス展開の迅速性
や優位性の確保の支援につながる。2017 年はこのようなエコシステムによる産業内や産業間の連
携が、新たな DX エコノミーを形成する変革の萌芽が見られる年になる。DX への投資は今後 5 年
間における IT 市場の成長の大部分を占め、IT サプライヤーの優先事項になると IDC ではみてい
る。第 3 のプラットフォーム上の技術変革によって、どのように企業の DX 市場が出現している
のか、その関係を表した図が Figure 1 である。
FIGURE 1
IT 産業の構成:変革を推進する第 3 のプラットフォームと DX 市場
Source: IDC Japan, December 2016
2017 年には、Figure 1 の構成要素において以下の変化が起きると IDC はみている。

第 3 のプラットフォームのさらなる進化:第 3 のプラットフォームの 4 つの技術要素(モ
ビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、クラウド、ソーシャル技術)である「4 ピラ
ー」が進化して第 2 のステージに入る。これは DX エコノミーによる規模のスケール化を
推進するために必要な進化である。IT サプライヤーはすでに、第 3 のプラットフォームの
技術を獲得しており、製品やサービスとして提供していると考えるかもしれないが、それ
でも、コア技術の進化は早いため自社技術の棚卸しが必要となろう。
©2016 IDC
#JPJ41876916
4

IA 技術の採用速度の劇的増加:IA 技術の進展が予想よりも早いスピードで進む。特に、
AR/VR、コグニティブ/AI システムは 4 ピラーよりも高い成長率を示す。これらの 2 つ
の技術にいち早く取り組む企業が、他社との競争上、優位に立つであろう。

第 4 のプラットフォームの先行例が姿を現す:2017 年にはまだ先行例が見られるだけでは
あるが、医療/ヘルスケア事業領域で、IT が人体に入り込み生体系と統合し、細胞レベ
ルでデジタル技術を人体に応用する、AH(Augmented Humanity)の開発事例が紹介され始
めると IDC ではみている。一つの重要な海外事例として米国国防高等研究計画局
(DARPA:Defense Advanced Research Projects Agency)によって 2016 年に始まった NESD
(Neural Engineering System Design)が挙げられる。このプロジェクトでは、今後 4 年以内
に、人体の神経系に直接つながる高帯域の人体埋め込み型の通信インターフェースの開
発、実現を目指している。これによって、従来に比べ 1 万倍高速な、デジタルと神経系間
の通信が可能となる。

DX は第 3 のプラットフォームに支えられて、マクロ経済に影響を及ぼす規模と範囲で拡
大し始める:2017 年は DX が特定産業における特定企業の特定プロジェクトという位置付
けから、企業の枠を超え、さらに産業の枠も超えて、産業間の連携によってマクロ経済に
影響を及ぼす、DX エコノミーとして発展し始める年になる。これらの変化は、金融、保
険、自動車を中心とする製造業、医療、建築、公共、小売などの広範囲な産業分野で並行
して起きる可能性が高い。「デジタルネイティブ」と呼ばれる新しいサービスがこれらの
企業から提供され始めるであろう。
IT サプライヤーは企業における DX の推進をどのような形で支援していくのかについてのグラン
ドデザインを持つ必要がある。まず、企業の課題に寄り添うという視点に立った、一定のレベル
のコンサルティング能力の開発が必須になる。ほとんどの IT サプライヤーはこの必要性を認識し
ており、日立製作所のように営業職からの転換を図る、あるいは NEC のようにゼネラル・エレク
トリック(GE)との戦略提携の中で人材育成を始めるなど手を打ちつつある。
IT サプライヤーの課題は、ソリューションとして、何のプラットフォームをどのように取り揃え
るのかという点にある。DX で変革すべき対象はリーダーシップ、顧客エクスペリエンス
(Customer Experience)、情報、運用モデル、人材と幅が広く、それらを単一の製品やサービスで
支援するのは困難である。CRM(Customer Relationship Management)、HR(Human Resource)、コ
ールセンター、オフィスツールなどの機能で支援する、あるいは、IoT、コグニティブ/AI シス
テム、AR/VR、仮想デスクトップ(VDI:Virtual Desktop Infrastructure)のようなプラットフォー
ムで支援する、さらには小売、病院、学校のような業種に絞って支援する産業特化型クラウド
(Industry Cloud)など、さまざまな提供方法が考えられる。2017 年はどこにフォーカスするのか
を明確にした製品ロードマップの作成とコグニティブ/AI システムによる知見の強化によって
DX を支援する製品の競争力に差が付き始める年になると IDC ではみている。
Prediction 2:第 3 のプラットフォームへの ICT 支出が第 2 のプラッ
トフォーム支出に並ぶ
多くの経済予測機関において 2017 年の国内マクロ経済(GDP)の成長率が 1%以下との予測が多
い中、IDC では国内 ICT 市場全体の成長率をマイナス 0.6%と予測している。予測期間を含む 2015
年~2020 年の年間平均成長率(CAGR:Compound Annual Growth Rate)についても、東京オリンピ
ック/パラリンピックに向けた IT 投資が見込まれているにもかかわらずマイナス 0.3%と縮小傾
向に向かう。しかし、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、クラウド、ソーシャル技
術、次世代セキュリティ、AR/VR、IoT、コグニティブ/AI システム、ロボティクス、3D プリン
ティングで構成される第 3 のプラットフォーム市場については、CAGR 3.7%での成長を予測す
る。第 3 のプラットフォームへの支出額は、2017 年に第 2 のプラットフォームへの支出額に肩を
並べ、2020 年には 55.3%となる見通しである。昨年の Predictions では第 3 のプラットフォームが第
2 のプラットフォームに追い付くのは 2019 年と予測しており、2 年の前倒しとなった。一方、第 2
のプラットフォーム市場は CAGR マイナス 4.3%での減少を予測し、昨年の予測値である CAGR
マイナス 3.0%から大きく減少が加速する。
©2016 IDC
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2020 年に向けて、具体的には金融、製造業、小売業界、公共関連分野を中心に第 3 のプラットフ
ォームの活用が進むとみている。金融業界では、銀行でビッグデータやコグニティブ/AI システ
ムの活用に向けた検討や「FinTech」スタートアップ企業との連携、保険会社で IoT による「テレ
マティクスサービス」や「健康増進型保険」の展開が進む。製造業界では、組立製造業を中心に
製造現場に IoT を導入する動きが加速する。小売業界ではオムニチャネルや顧客エクスペリエン
スの促進への動きが、モビリティや IoT、コグニティブ/AI システムなどの活用を推し進める。
公共分野では「東京オリンピック/パラリンピック」の開催に向けて、防災、事故の削減や渋滞
緩和などを目的とする交通関連 IoT ソリューションや、ビッグデータ分析を始めとした社会イン
フラ関連整備への支出増が見込まれる。また、これまでは大企業が中心であった第 3 のプラット
フォーム市場向けの支出について、中堅規模の企業においても本格的な導入が徐々に進むとみて
いる。
IT が主に企業内基幹システムを担う役割であった 2006 年~2007 年に新たなテクノロジーとして出
現した第 3 のプラットフォームは、今や企業経営の中核を担う事業戦略ツールとして位置付けら
れている。IT 支出を行う部門についても、従来のように IT 部門だけに留まらず、最前線で事業戦
略を実現する事業部門(LOB:Line of Business)による支出の割合が拡大している。現在は企業内
IT 支出のうち、約 3 分の 1 を LOB が支出しており、この割合は第 3 のプラットフォーム技術向け
の支出に限定すると、さらに大きな割合になる。LOB による IT 支出割合が 2015 年の 31.7%から
2020 年に 33.0%に拡大し、CIO および LOB エグゼクティブの両者は、第 3 のプラットフォームを
活用し企業の事業成長をもたらすべく役割を分担して進めるようになると IDC ではみている。
2020 年には、国内企業で第 3 のプラットフォーム技術の活用を最も力強く牽引する主役は、CEO
になるであろう。現在競争力の高いグローバル企業は、第 3 のプラットフォーム技術を導入する
だけでなく、導入によって従来のビジネスを大きく変え、新しいビジネスモデルや顧客との関
係、新しい価値を創出することで競争優位を確立する DX による成長を志向している。特に海外
のグローバル企業では、CEO 自らがその必要性を提唱し、イノベーションの創出に向けた社内組
織改革、産業特化型クラウドプラットフォームを活用したベンチャー企業との連携、顧客やパー
トナー企業との新たな関係性の構築、データ活用のための体制整備、これらの取り組みの実現に
向けた人材や資金調達などを強力に進めている。国内企業では、既存ビジネスの枠組みに第 3 の
プラットフォーム技術を導入するデジタイゼーション(IT 化)に向けた取り組みが依然多いが、
今後グローバル競争環境において、より多くの競合企業が DX を推進し新たな競争優位を確立す
るに伴い、CEO 自らが、企業の存続のために DX を推進していかざるを得なくなるであろう。
Prediction 3:ランサムウェアの被害拡大が、脅威インテリジェンス
とコグニティブ/AI システムを活用したセキュリティ製品の開発を
加速する
2016 年 2 月、米国ロサンゼルスにある総合病院の電子カルテシステム(EMR:Electronic Medical
Record)のデータを何者かが勝手に暗号化し、ロックしたことで、医師が患者の医療記録にアク
セスできない状況に陥るという事件が発生した。これは身代金要求型不正プログラムと呼ばれて
いるランサムウェアによるものであった。ランサムウェアはマルウェアの一種である。ランサム
ウェアに感染するとシステムがロックされたり、ファイルが暗号化され使用不能になる。そして
復旧するための身代金(ransom:ランサム)をマルウェアの作者に支払うように要求してくる。
ロサンゼルスの総合病院は身代金をビットコインで支払った。その結果、犯人から復号鍵が送ら
れ、システムを復元できた。この事件は米国の連邦捜査局(FBI)が捜査に乗り出し、マスメディ
アにも大きく取り上げられ、ランサムウェアの脅威を世間に知らしめることとなった。
ランサムウェアは新しいものではないが、2016 年に入ってから上記のような暗号化型のランサム
ウェアが活発化し、被害が急拡大している傾向にある。報道や公表された件数よりも、実際の被
害は何十倍にも上るとも言われている。また、最近の特徴的な傾向として、企業や法人組織が標
的にされ、多額の身代金が要求されていることが挙げられる。2017 年は、国内の企業や法人組織
を狙ったランサムウェアが急増し、被害が拡大すると IDC ではみている。
©2016 IDC
#JPJ41876916
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これまでの標的型サイバー攻撃は電子メールや Web サイトなどを介してユーザーをマルウェアに
感染させ、社内で保有している個人情報や機密情報を漏洩させる手段が主流であった。一方、ラ
ンサムウェアが恐ろしいのは、システムやデータなどの IT リソースが使用できなくなり、業務が
停止してしまう点にある。ネットワーク内にあるバックアップデータさえも暗号化するランサム
ウェアも確認されている。もし身代金を支払わなければ、データが破壊され、IT リソースが二度
と戻らなくなる危険性がある。これは企業や組織にとって情報漏洩よりも影響が大きく、致命傷
になりかねない。標的型サイバー攻撃はますます凶悪化するとみられる。
現状では、ランサムウェアを含むマルウェアの侵入を完全に防ぐことは不可能に近い。したがっ
て、侵入された時にいかに早く検知し、拡散を未然に防げるかがセキュリティソリューションで
より重要になる。2017 年において、凶悪化、高度化するサイバー攻撃に対処するために、採用が
拡大するセキュリティソリューションの動向を以下に述べる。

脅威インテリジェンスを中核としたプロアクティブソリューション:セキュリティ侵害
を早期に発見するためには、セキュリティ関連のデータ(脆弱性、不正 IP、セキュリテ
ィログ、ユーザー情報、リスク情報など)をリアルタイムに収集し、それらの相関分析を
行うことで異常を検知する仕組み、いわゆるセキュリティインテリジェンスの構築が求め
られる。特に脅威情報を取りまとめている脅威インテリジェンスの役割がさらに重要にな
り、高度化が進むマルウェアの検出精度を左右する。2017 年は、脅威インテリジェンスを
中核として、エンドポイントセキュリティやネットワークセキュリティ、メッセージング
/Web セキュリティの各外部脅威対策製品を連携させ、マルウェアを検知すると動的に防
御策を講じるプロアクティブな防御対策ソリューションが市場に多く投入され、本格的な
実装が始まると IDC ではみている。

コグニティブ/AI システムを実装したセキュリティ製品の拡大:企業がセキュリティイ
ンテリジェンスを高めるためには、脅威インテリジェンスとさまざまなセキュリティ関連
データの分析の高度化が求められる。分析を高度化することによって、未知の脅威を検出
し、誤検知を減らせるようになる。さらに、サイバー攻撃の高度化によってセキュリティ
脅威が潜在化している。潜在化したセキュリティ脅威を分析するには、専門的スキルを要
するが、セキュリティアナリストの人材不足が大きな問題になっている。2017 年は、コグ
ニティブ/AI システムを搭載し分析力が大幅に向上したエンドポイントセキュリティ製
品が市場に多く投入されると IDC ではみている。Cylance がコグニティブ/AI システムを
搭載したマルウェア対策ソフトウェア製品を他社に先行して市場に投入したが、トレンド
マイクロやシマンテックなどの大手セキュリティサプライヤーもコグニティブ/AI シス
テム搭載製品を 2016 年後半から投入している。また、コグニティブ/AI システムの
「IBM Watson」を提供する IBM は、セキュリティ関連のデータの収集と理解を行う
「Watson for Cyber Security」を発表している。2017 年はより多くの IT サプライヤーからさ
まざまな製品が登場するであろう。その中には新たな製品もあるが、従来製品の新バージ
ョンやアップデート版としてコグニティブ/AI システムが搭載される製品も多いとみら
れる。サプライヤーの製品投入に呼応するように、ユーザー企業での採用も急速に拡大す
ると IDC ではみている。2017 年では、サイバー攻撃対策を実施している企業の 30%はコ
グニティブ/AI システムをセキュリティ対策で使用すると IDC では予測している。
Prediction 4:DX を実現するハイブリッドクラウドと API エコノミ
ーの拡大が加速する
クラウドは、著しい発展を見せていることから、遅くとも 2020 年には最も信頼できる IT 環境に
なると IDC はみている。実際、最新のセキュリティ対策(暗号化、脅威分析/対策、ユーザーや
データの挙動分析)、可用性/事業継続性の強化などはクラウドベースのソリューションでは急
速な発展を続けている一方で、従来型の IT は停滞傾向にある。また、クラウドの導入は、企業の
IT 環境を可視化する効果がある。そのため、データ改竄/紛失、システム停止などのリスク対策
や、コンプライアンス対応/ガバナンス強化に関わる施策を明確化しやすくなるため、企業の IT
環境はクラウドによって信頼性の強化が進むであろう。
©2016 IDC
#JPJ41876916
7
また、コグニティブ/AI システム、機械学習、IoT プラットフォームなどの新しい技術は、クラ
ウドを基盤とすることが一般化しており、従来型の IT 環境では対応が困難になっている。さらに
は、異なる機能を有するクラウドを API(Application Programming Interface)経由で連携させ、新し
い価値の創出を迅速に実現するハイブリッドクラウドが大きな潮流になっている。ここで着目す
べき点は、新しい価値とは既存業務の効率化だけではなく、多様な情報/プロセスを組み合わせ
て分析することによって、「新しいユーザー体験」や「ビジネスモデルの変革」を実現している
ことである。まさしく、ハイブリッドクラウド環境における API エコノミーが、DX を実現して
いるのである。
クラウドは IT や既存業務の効率化を実現するソリューションから、「高信頼」かつ「DX の基
盤」へと発展を遂げており、新しいハイブリッドクラウドの時代を迎えている。現在、クラウド
と従来型の IT を同等に比較検討する「クラウドオルソー(Cloud Also)」を支持する企業が多い
ものの、クラウドを優先的に検討する「クラウドファースト(Cloud First)」に移行する企業が増
加している。また、すでに何らかのクラウドを利用している企業は、ハイブリッドクラウドの重
要性を理解し、ハイブリッドクラウド戦略を策定している。現在、企業のハイブリッドクラウド
戦略では、コスト最適化、多様な IT 環境の運用自動化/セルフサービスの導入といった IT 運用
管理、コンプライアンス対応およびガバナンス/セキュリティ強化が主要な目的となっている。
しかし、LOB との連携を強化し、DX に取り組み始めている企業もわずかであるが存在する。今
後、DX に取り組む企業が増加すると IDC はみている。
すでに、ほとんどすべての企業は、デジタイゼーション(IT 化)による業務効率化の価値を理解
し、ビジネスのデジタル化は進んでいる。しかし、デジタイゼーションは、既存ビジネス/業務
の延長上にあり、すでに多くの企業が進めていることから「競争優位」の源泉にはなりにくい。
第 3 のプラットフォーム時代を迎えた現在、デジタイゼーションではなく、新しい価値を創出す
る DX こそが重要なのである。DX は、デジタイゼーションによってデジタル化した「多様な」情
報/プロセスを連携させると共に、洞察を加え、新しい価値を創出することである。また、DX で
は継続的な改善が重要であることも、付け加えておく。
これまで述べてきた通り、ハイブリッドクラウドと API エコノミーが DX の実現を支える IT 環境
である。また、Uber、Airbnb の動向を見れば分かる通り、DX が市場に与える影響は大きく、その
拡大速度や影響度は、これまでのビジネス常識を超えたものである。DX は産業構造を破壊する可
能性を秘めており、すべての企業が取り組むべき経営課題である。
2016 年は、大企業を中心として、デジタイゼーションと DX の違いを認識する企業が増加した。
また、PoC(Proof of Concept:概念実証)や小規模プロジェクトとして DX に取り組む企業も現れ
た。2017 年は、DX とハイブリッドクラウドを経営戦略(特に成長戦略)の中核とする企業が急
増するであろう。技術の進化とユーザー企業動向の変化から、ハイブリッドクラウドと API エコ
ノミーは、加速しながら発展すると IDC はみている。すべての IT サプライヤーは、DX とハイブ
リッドクラウドに経営資源を集中し、2017 年には本格的に施策を実行する必要がある。2018 年以
降に同分野に参入しても、「後発者」となり、競争優位を維持することは難しいと IDC は考え
る。
Prediction 5:IoT 事業者の競争軸は「IoT プラットフォーム」から
「データアグリゲーションプラットフォーム」にシフトする
国内市場における数多くの事業者が「IoT プラットフォーム」を基軸としてさまざまな IoT ソリュ
ーションを提供し始めている。ここでの IoT プラットフォームとは、IBM の「IBM Watson IoT
Platform」、マイクロソフトの「Azure IoT Suite」、AWS の「AWS IoT プラットフォーム」などが
該当し、エッジ側のデバイスの認証やファームウェアアップデート、センサーデータのストリー
ミング処理やアナリティクス、アプリケーション開発環境の提供など、IoT ソリューションに必要
になる汎用的な諸機能を提供するものである。
©2016 IDC
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8
2016 年末の時点で、IoT ソリューションを提供する大手 IT サプライヤーまたは OT(Operation
Technology)事業者としての企業(以下、両者をまとめて「IoT 事業者」と総称)の多くは、機能
面における多少の相違はあるものの、上記の機能の多くをすでに自社の IoT プラットフォームに
実装しており、必要に応じて他事業者のソリューションコンポーネントを組み合わせるという取
り組みを進めている。したがって、IoT プラットフォームを中心とした各 IoT 事業者の IoT ソリュ
ーションは急速に複雑化すると同時に、一見しただけではソリューション間の優劣が見分けにく
いと言える。これはユーザー企業の視点に立った場合、「どのプラットフォームを自社に取り入
れるべきか」という選択が困難になることにつながるため、IoT 事業者は新たな訴求ポイントを見
出す必要がある。
こうした状況に対処すべく、2017 年に各 IoT 事業者は「データアグリゲーション」に対する取り
組みを強化し、IoT プラットフォームの機能と融合させることで、IoT ソリューションの差別化戦
略を進めると IDC ではみている。
IDC では「データアグリゲーション」を、「IoT として生成される SoE(Systems of Engagement)
データだけでなく、SoR(Systems of Record)データも含めたさまざまな種類のデータを集約し、
分析することで、新しい付加価値を生み出すこと」と定義している。そうしたデータアグリゲー
ションに向けた動きは、(1)IT サプライヤー主導、(2)企業(OT 事業者)主導、(3)IoT プ
ラットフォーム間連携の 3 つの軸で広がるとみている。

「IT サプライヤー主導」の事例として、保険会社や自動車メーカーが IT サプライヤーと
連携することで実現する「テレマティクス保険」のユースケースが該当し、日産自動車、
損害保険ジャパン日本興亜、日立製作所の 3 社の事業提携が挙げられる。これは日産自動
車が取得する「日産車」の運転者の走行距離データや位置データなどを、日立製作所のデ
ータセンターにて蓄積、分析、加工し、そのデータを損害保険ジャパン日本興亜が保有す
る顧客情報などと紐付けることで、ドライバーの運転内容に応じた柔軟な自動車保険サー
ビスを実現するものである。これによって、運転者は自動車保険のサービスを、柔軟かつ
低コストで利用できるようになる。ここでのポイントは、「損保ジャパン日本興亜が単独
で保有するデータ」、すなわち顧客の運転歴や事故歴などを含めた SoR 情報だけではこう
した付加価値は実現できないという点である。日立製作所が日産自動車経由で取得した
IoT による SoE データを損害保険ジャパン日本興亜の SoR データと融合させ、データアグ
リゲーションを進めることで、これまでにないような付加価値を実現していると言える。
同様の取り組みは世界的にも広がり始めている。

「企業(OT 事業者)主導」の事例として、2015 年 9 月からサービス運用が開始された、
建設/土木現場の施工作業全体を支援するサービスであるコマツの「KomConnect」が該
当する。同社では自社製建機の車両管理サービスである「KOMTRAX」を長年提供してき
ているが、KomConnect では、キャタピラーや日立建機といった競合企業の建機にもステ
レオカメラを搭載することで、施工作業の見える化を実現している。したがって、コマツ
では建設現場で稼働している、自社製建機と他社製建機の双方のデータをアグリゲート
(集約)することが可能になるため、建設現場全体を俯瞰する上で今後大きな強みになる
と見込まれる。加えて、コマツでは 2015 年 4 月、鉱山オペレーションの分野において GE
との提携を発表している。それによって、コマツでは自社の鉱山機械のデータに対し、
GE の保有する鉱山内の発電設備や物流資産のデータをアグリゲートし、サービスの付加
価値を向上させることも可能になるであろう。このように、OT 分野に強みを持つコマツ
のような企業が今後のさらなるビジネス拡大に向け、データアグリゲーションを進めるケ
ースが増加すると考えられる。

「IoT プラットフォーム間連携」の事例として、IoT プラットフォームを提供する事業者
同士の連携も急速に進みつつある。2016 年 10 月に NEC と GE との包括的な提携が発表さ
れ、11 月にはマイクロソフトとシーメンスの提携が発表された。これらの提携が発表さ
れたばかりの現時点(2016 年末)では、主な目的は顧客基盤の拡大やノウハウの共有な
ど、特定の分野に限定されているように見受けられる。しかしながら、IT 分野に強みを
持つ NEC やマイクロソフトと OT 分野に強みを持つ GE やシーメンスといった両者が、
膨大な量のデータを集約できれば、これまでにないさまざまなソリューションを生み出せ
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るとみて間違いない。そうした大手事業者同士の提携の動きに加えて見逃せないのが、海
外事業者を中心に進められている M&A を軸としたデータアグリゲーションの取り組みで
ある。GE によるサービスマックスの買収、シーメンスによるメンター・グラフィックス
の買収など、もともと IoT プラットフォームを保有していた事業者が、EA(Enterprise
Application)分野に強みを持つ事業者を M&A によって自社に取り込むことで、IoT データ
/非 IoT データも含め一元的に集約し、エンドユーザーに提供する付加価値をさらに高め
ていくとみられる。
2020 年までに、全世界で年間に生成されるデータ量は 44 ゼタバイト(44 兆ギガバイト)に達する
と IDC ではみている。詳細は『2016 年 国内 IoT 市場 コグニティブ/AI 活用動向分析(IDC
#JPJ40598216、2016 年 11 月発行)』を参照のこと。そうした、44 ゼタバイトのデータの中でエッ
ジ側の IoT デバイスが生成するデータについては、非 IoT データ(主に人間が主体となって生成
するデータ)と比較して 2 倍程度のスピードで成長するとみられる。ただし、双方のデータ量の
比率を見た場合、44 ゼタバイトのうち 9 割程度は非 IoT が占めると IDC ではみている。したがっ
て、ここまで述べてきた通り、さまざまな事業者や企業が「IT サプライヤー主導」「企業(OT
事業者)主導」「IoT プラットフォーム間連携」の 3 つの軸で、IoT データはもちろん、非 IoT デ
ータも含め、44 ゼタバイトのデータレイクから可能な限り多くのデータを収集、アグリゲート
し、競争力を向上させることの重要性がますます高まっていくであろう。
なお、ここでのポイントは、「どれだけ多くのデータを収集できるか」ではなく、「収集し、ア
グリゲートしたデータのうち、どれだけ多くのデータを有効的に活用できるか」が勝負の分かれ
目になるということである。「収集可能なデータの最大化」を進める上で、IoT を通じたデータセ
ンシング/処理基盤を充実させることは最低限必要となるが、それに加えて「有効活用が可能な
データの最大化」を進める上でコグニティブ/AI システム、AR/VR、3D プリンティング、とい
った IDC が IA として定義する革新技術を駆使し、IoT データ/非 IoT データを余すことなく有効
的に活用する取り組みが重要になると IDC ではみている。
Prediction 6:DX の普及が、エンタープライズインフラストラクチ
ャの選定基準と IT サプライヤーの競合関係に変化をもたらす
DX に取り組む企業の増加は、エンタープライズインフラストラクチャの支出に中長期的に影響を
与える。その代表例として、クラウド化、コンバージェンスの進展、Software-Defined 化、HDD か
らフラッシュへの置き換えなどが挙げられる。これらの変化を推進するのはテクノロジーの進化
だけではなく、ユーザー企業のエンタープライズインフラストラクチャの選定基準の変化が大き
く影響する。
2017 年は、エンタープライズインフラストラクチャの支出が大きく変わると共に、ユーザー企業
の選定基準に変化が起き始める年になると IDC では考えている。選定基準の変化とは、エンター
プライズインフラストラクチャを、その経済性、迅速性、拡張性、導入容易性などに基づいて選
定するだけではなく、ビジネス変革や企業の新しい価値創造の活動にどれだけ貢献できるかも考
慮されることを意味している。こうした選定基準の変化の度合いは、DX に取り組む企業の増加に
よって加速する。
IT インフラのサプライヤーは、DX の活動に取り組む企業に対し、IT インフラを使ってどのよう
に支援できるかという提案力が、競合他社との重要な差別化になる。たとえば、DX を推進する組
織は、必ずしも従来の IT 部門であるとは限らず、その組織の構成員はビジネスの構想力はあって
も、IT インフラの構築や運用スキルが十分でない場合も多い。その際、構成員のスキル不足とい
う課題を IT インフラによって解決することが求められる。それは、必ずしもパブリッククラウド
を利用することを意味するのではなく、オンプレミスにおいても迅速性、拡張性、導入容易性、
管理の容易性を持った IT インフラを提供することで、DX を推進する組織が抱える課題(IT 要員
の不足やスキル不足など)を解決するという「ストーリー展開」を伴った提案力が IT インフラの
サプライヤーに求められる。IT インフラのサプライヤーは、ユーザー企業に生じる選定基準の変
化を踏まえた上で、自社の製品戦略、販売戦略、マーケティング戦略を構築することが、市場で
生き残るに当たって重要になる。
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こうしたユーザーの選定基準の変化を踏まえ、2017 年の国内エンタープライズインフラストラク
チャ市場で起きる変化を以下に予測する。

クラウド向け支出額が拡大する:2017 年の国内エンタープライズインフラストラクチャ
(サーバー、外付型ストレージシステム、スイッチ)市場の支出額は 7,146 億 8,300 万円で
前年比 5.3%減となる一方で、クラウド向け支出額は 1,775 億 7,500 万円で同 12.7%増とな
る。インフラの支出額全体に占めるクラウド向け比率は 24.8%(前年 20.9%)に拡大す
る。パブリッククラウド、プライベートクラウドは共に DX への取り組みを支えるインフ
ラであり、その支出はサービスプロバイダー、ユーザー企業共に増加する。ただし、パブ
リッククラウド市場では非常に高いコスト競争力を持つ ODM サプライヤーが台頭してい
るため、IT インフラのサプライヤーにとっては成長性が高いユーザー企業のプライベー
トクラウドのビジネスを獲得することが重要になる。

ハイパーコンバージドシステムの高成長が続く:インテグレーテッドシステム、インテグ
レーテッドインフラストラクチャ、ハイパーコンバージドシステムを合わせた国内コンバ
ージドシステム市場の 2017 年の支出額は 577 億 1,800 万円で前年比 20.3%増になると予測
している。このうち、ハイパーコンバージドシステムは 154 億 9,800 万円で前年比 71.6%
増となり、コンバージドシステム支出額に占める比率も 26.9%(前年 18.8%)に拡大す
る。ハイパーコンバージドシステムは、スモールスタートが可能であり、迅速な導入、運
用管理の容易性、拡張性といった特徴も備えている。また、運用管理の容易性から IT 管
理者が少なく、IT 管理者のスキルもあまり高くないケースで導入が増えている。今後
は、DX に取り組む国内企業が増加することで、アプリケーションの多様化や、IT リソー
スの拡張予測が立てにくくなることを背景に、ハイパーコンバージドシステムのメリット
である迅速な導入、スモールスタート、拡張性といった点が評価され、国内での普及がさ
らに進むと IDC はみている。

オールフラッシュアレイの普及が加速する:2017 年は国内オールフラッシュアレイ市場
の支出額が 213 億 7,600 万円(前年比 38.3%増)となり、外付型ストレージシステムの支
出額に占める比率が 11.2%(前年 8.2%)に達する。HDD の I/O 性能の限界が見えてお
り、プライマリーストレージ市場では、HDD のみを搭載したオール HDD アレイから、
フラッシュストレージ(オールフラッシュアレイとハイブリッドフラッシュアレイ)への
支出のシフトが進む。特に、オールフラッシュアレイは成長性が高いだけでなく、ストレ
ージインフラの支出構造を変える力も持っている。オールフラッシュアレイが登場する前
は、データベースの性能向上のためのチューニング作業に時間、コスト、スキルを持った
人的リソースが必要になり、ストレージシステムの迅速な導入や構成変更が難しかった。
一方、オールフラッシュアレイではパフォーマンスが高いためチューニング作業なしで導
入できる。このことから、IT 部門や DX 推進部門は上記のストレージシステム導入の課題
をオールフラッシュアレイへのインフラの刷新によって解決できるようになっている。ま
た、オールフラッシュアレイはコストの高さが課題とされてきたが、フラッシュデバイス
の低コスト化が進むと共に、重複排除/圧縮機能の搭載でシステムとしての経済性が向上
しており、導入の壁が低くなっている。

IT サプライヤー間の競合関係が変化する:2016 年は Hewlett Packard Enterprise(HPE)が
サービス部門を売却してインフラへの回帰を鮮明にし、デルと EMC が統合して誕生した
デルテクノロジーズもインフラの強化を進める姿勢を明確にした。世界のエンタープライ
ズインフラストラクチャ市場を見ると、自社ブランドを持たない ODM サプライヤーが台
頭する一方で、HPE とデルテクノロジーズという巨大ブランドの IT サプライヤー2 社
が、その技術力、購買力、販売力を生かして競争するという構図が形成されつつある。国
内エンタープライズインフラストラクチャ市場では、国産 IT サプライヤーが多く存在す
るため、HPE とデルテクノロジーズのシェアは世界市場に比べて低いが、国内において
もクラウド市場では強い存在感を発揮してきた。プライベートクラウドを含めた今後のオ
ンプレミスインフラ構築で重要な役割を果たすオールフラッシュアレイやハイパーコンバ
ージドシステムへの取り組みでは、両社は国産 IT サプライヤーよりも先行しており、
2017 年は成長性が高いインフラ市場において IT サプライヤー間の競合関係が変化する可
能性がある。
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Prediction 7:コグニティブ/AI システムの事例がプロフェッショナ
ルサービス、セキュリティ/リスク管理分野で多数登場する
2016 年は、コグニティブ/AI システムがバズワードとなった。この火付け役となったのは「IBM
Watson」である。その後、NEC、日立製作所、富士通、マイクロソフト、グーグル、セールスフ
ォース・ドットコムなどもこれに続き、コグニティブ/AI システムソリューションのブランディ
ングと製品/サービスの販売を開始した。この際、IT サプライヤーは、新たなコグニティブ/AI
システムソリューションのブランドマーケティングの対象を IT プロフェッショナルからコンシュ
ーマー領域に拡張しており、テレビコマーシャル/一般紙などへの宣伝活動が展開され、メディ
ア各社でもコグニティブ/AI システムが数多く取り上げられた。この結果、2016 年の「第 3 次コ
グニティブ/AI ブーム」になったと IDC では考えている。
このような動きは、上述のソフトウェア/クラウド提供型サプライヤーだけに留まらない。イン
テル、NVIDIA などの半導体サプライヤーは相次いで、自社の画像処理プロセッサー(GPU)に
推論エンジンソフトウェアなどを組み合わせ、自動車業界/産業用機器などの組み込み型コグニ
ティブ/AI システムのビジネス領域に進出しつつある。これは、現代のコグニティブ/AI システ
ムのコアテクノロジーとなっている深層学習が画像認識に優れており、GPU が同様に画像処理に
チューニングされたプロセッサーであるため、深層学習を高速で実行できることに起因してい
る。このように、2016 年にかけて登場したコグニティブ/AI システムは、コンピューターによる
画像認識という「視覚」を持つことによって、ビジネスの適用範囲を飛躍的に拡大したと IDC で
はみている。
一方で、現在のコグニティブ/AI システムマーケティング手法は、IT プロフェッショナルを混乱
させている側面もあると IDC では指摘している。コグニティブ/AI システムによってビジネス課
題を即座に解決できるという誤解や、利用目的を明確にしないまま導入を検討する動きがあり、
「コグニティブ/AI システムで何ができるのか」に関する IT プロフェッショナルの迷いにつなが
っていると IDC ではみている。このような IT 市場の動向に対して、2016 年は、IT サプライヤー
側でも実証実験やプロトタイプシステムによって、実ビジネス現場でどのようにコグニティブ/
AI システムが利用できるかを検証し、効果の可視化を行ってきた。2017 年は、2016 年の実証実験
/プロトタイプのフェーズから、実ビジネスへの適用が始まり、有償かつ効果が可視化されたシ
ステムへの移行期になると IDC では予測している。
なかでも、コグニティブ/AI システムは、検索系と検知系のビジネスソリューションから活用が
始まると IDC では予測する。検索系では、医療分野での医師の診断サポート、弁護士の判例検索
など、膨大な文献/論文から目的に最も適合するものを「リーズニング(意思決定の理由付
け)」するソリューションが顕著な例となる。このような事例の先駆けは 2016 年にすでに発表さ
れている。東京医科学研究所では、難しい症例の患者の治療に当たって、コグニティブ/AI シス
テムを活用して、医療文献を検索し、病名を特定する、または治療方法の助言を受けることを行
っている。実際に難病患者を回復に向かわせた事例が発表され、メディアでも数多く取り上げら
れている。膨大な医療文献から症例/治療方法を手作業で見付け出すことは多忙な医師には現実
的ではないことから、上記の事例は、医師の意思決定支援用途においてコグニティブ/AI システ
ムが有効に活用できることを示唆している。
また、検知系では、サイバーセキュリティ保護対策やリスク対策として、シグネチャ型に加えて
振る舞い検知などのサイバー攻撃の高度検知を達成するためにコグニティブ/AI システムが利用
されるとみている。リスク管理では、金融業での詐欺検知/不正検知や、社会システムで画像認
識を利用したテロ検知なども対象となる。検知系についても 2016 年にいくつかの先行事例が発表
されている。たとえば、電力会社でのプラント監視/異常検知での活用や、メガバンクでの情報
ガバナンス対策システムでの文書マイニングでの活用などが挙げられる。このような活用法は、
コグニティブ/AI システムによる検索/検知の判断スピードから、人手では代替できない用途で
あると言える。単なるコスト削減や人的労働力のコグニティブ/AI システムへの置き換えを超え
た、IT によるイノベーションの効果的な事例になると IDC ではみている。
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Prediction 8:産業特化型クラウドが DX エコノミーのコア技術とし
て成長を始める
従来、国内市場における産業特化型クラウドは、産業特化型アプリケーションの SaaS(Software as
a Service)化や、金融や地方自治体の共同センターのクラウド化が中心であった。一方、2015 年以
降、既存産業を破壊する産業特化型クラウドとして Uber、Airbnb などの市場認知度が急上昇し
た。さらには、2016 年に IoT のユースケースが提示され、具体的な産業向けソリューションが産
業特化型クラウドとして登場した。GE の産業機器向けの IoT プラットフォーム Predix や、ファナ
ック/シスコシステムズ/Preferred Networks/ロックウェル・オートメーションが共同で開発を
進める FANUC Intelligent Edge Link and Drive (FIELD) system などが IoT をベースとした代表的な
ソリューション(産業特化型クラウド)である。
たとえば、GE パワーは東京電力グループと共同で火力発電分野の IoT ソリューションを共同開発
することを 2016 年 9 月に発表し、また GE アビエーションは、「フライト・アナリティクス」を
全日本空輸(ANA)に提供することを 2016 年 12 月に発表した。ANA では「フライト・アナリテ
ィクス」の利用による、年間約 3,000 億円に上る燃料関連費の 1%程度の削減を目標としている。
GE アビエーションは、ANA を含め世界で 100 社以上の航空会社、1 万機以上の航空機に対し、燃
料データの分析、ナビゲーションサービス、航空会社の運行管理などのデジタルサービスを提供
している。
上述した通り、産業特化型クラウドは「効率化/コンプライアンス/ガバナンス」を目的とした
第 1 世代から、DX を実現する第 2 世代へと発展している。また、第 1 世代の産業特化型クラウド
も、コグニティブ/AI システム、ブロックチェーンなどの最新技術を取り入れると共に API 連携
を強化し、DX 支援へと開発が進んでいる。
第 2 世代の産業特化型クラウドで留意すべき点がある。同産業特化型クラウドは、振興企業や、
ユーザー企業と IT サプライヤーの提携によって、開発、提供される機会が増加していることであ
る。特に、ユーザー企業と IT サプライヤーの提携は、ユーザー企業の DX を支援し、サービスプ
ロバイダー化を実現する上で、注目に値するビジネスモデルである。今後、ユーザー企業と IT サ
プライヤーなど複数の企業が提携し、開発、提供される産業特化型クラウドが急速に増加する
と、IDC はみている。2017 年以降、(ハイブリッド)クラウド、コグニティブ/AI システム、機
械学習などのテクノロジーに特徴を有する IT サプライヤーは、事業規模の大小に関わらず、この
産業特化型クラウドに参画する機会が増えると IDC はみている。一方、同産業特化型クラウドに
参画できない IT サプライヤーは、新たなビジネス機会の創出に苦労するであろう。
ユーザー企業の DX を実現する産業特化型クラウドは、2017 年に新しい局面を迎えると IDC はみ
ている。具体的には、産業特化型クラウドで得られたノウハウやデータを分析し、異業種などに
活用するモデルが発展することである。たとえば、2016 年に発表されたトヨタ自動車の Connected
戦略を考察すると分かりやすい。従来のトヨタ自動車の Connected サービスは顧客満足度や自社製
品/サービスの向上を目的としてきた。しかし、新たに発表された戦略では、モビリティサービ
スプラットフォームとして、データや同分析結果を異業種(保険、ライドシェア/タクシーな
ど)に対して API を介して提供する。これらのデータを活用することで、走行距離に連動した走
行距離連動型保険に加えて、最近では運転者の運転特性(アクセルやブレーキを踏む速度など)
を車両のセンサーから取得し分析した結果を基に保険料を算出する、運転行動連動型のテレマテ
ィクス保険サービスや、ライドシェア/タクシーの新しいサービスの開発が可能となる。すなわ
ち、トヨタ自動車の DX が API 経由で、異業種の DX とつながり、より大きな経済効果を生む DX
エコノミーを形成するのである。
ほかにも DX エコノミーを支える API エコノミーの動向は顕在化している。たとえば、小売業に
おいて、クラウド型の Web 予約システム/CRM/POS(Point of Sale)/決済/発注管理/在庫管
理などを API 経由で連携し、新しい顧客エクスペリエンスを提供すると共に、店舗運営の変革を
図る企業が現れている。また、金融業では貸出業務において、定型的な情報だけでなく、行動パ
ターンなどの多様な情報を加えた新しい審査の方法を取り入れようとしている。
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2017 年、これまで企業内の IT 活用あるいは DX を対象範囲としてきた API エコノミーが、企業外
へと広がることで、DX エコノミーの形成が始まるであろう。そして、DX エコノミーは特定の企
業/産業内の事象ではなく、すべての経済活動に大きな影響を与えるようになる。その時、DX エ
コノミーのコア技術の適用先は、産業特化型クラウドになると IDC はみている。このような産業
特化型クラウドは、ユーザー企業あるいは IT サプライヤーのみで構築することは困難である。ユ
ーザー企業との戦略的な提携を行い、自らのビジョンを示すと共にユーザー企業の DX を支援
し、リスクを共有しながら事業を積極的に進めることが IT サプライヤーにとって重要になると
IDC は考える。
Prediction 9:AR/VR、ロボティクス、3D プリンティングなどの IA
技術が製造業の変革とグローバル競争力の強化に貢献する
国内製造業は、その品質の高さによってグローバル市場において確固たる地位を築いてきた。日
本製品に対する高い評価は、高い意識を持った現場の熟練工、高い能力を持つ設計者、そして
TQC(Total Quality Control)活動に代表される現場スタッフの日常的な改善活動によって培われて
きたものである。一方、あらゆる分野で日本製品が世界を席巻していた時代は終わりを迎えつつ
あり、新興国企業の追い上げや、欧米企業の巻き返しに苦しんでいる国内企業も多く、国内経済
を支える製造業は大きな転換点を迎えている。
DX エコノミー普及の鍵となる IoT、AR/VR、ロボティクス、3D プリンティングなどの主要な新
技術を「イノベーションアクセラレーター(IA)」と IDC では呼んでおり、こうした IA の普及
が、国内製造業に大きな影響を与えていくと IDC ではみている。実際に、第 3 のプラットフォー
ムや IA に関する国内 IT 市場の成長率を 2015 年~2020 年の CAGR で見ると、AR/VR(179.6%)、
コグニティブ/AI システム(114.9%)、パブリッククラウド(21.2%)、IoT(19.4%)、3D プリ
ンティング(18.8%)、ロボティクス(14.9%)、ビッグデータ(6.7%)、次世代セキュリティ
(5.7%)となっており、これらが第 3 のプラットフォームの CAGR 3.7%の成長を支えている。
国内製造業は、以前から IA を積極的に取り入れている産業である。たとえば、国内製造業は、産
業用ロボットを積極的に導入することで、効率の高い生産/物流ラインを構築してきた。AR/VR
を利用して製造現場で部品の取り付け位置を確認する支援、3D プリンティングによるプロトタイ
プ制作などの用途で、IA が幅広く利用されてきた。しかしながら、IDC では、こうした取り組み
は個別の技術導入の段階に留まっており、今後 DX の一環として IA の活用を積極的に行うことに
よって、国内製造業全体の根本的な変革が可能になると考えている。
すでに、製造業変革に向けた活動は、いくつかの企業で始まっている。IoT に関するセクションで
述べた「データアグリゲーションプラットフォーム」が製造現場に普及し始め、IoT による大量の
データ収集が容易になりつつある。また、ファナックは、オープンなアナリティクスプラットフ
ォームを活用した分散型機械学習によって、ロボットを始めとする機械が個々に賢くなるだけで
なく、ロボット同士が互いに協調して高度化するような取り組みを進めている。GE では、3D プ
リンティングを直接製造で利用し始めており、複雑な形状の部品を数万台規模で製造できるよう
になっている。
ソニーの PlayStation VR を始めとする一般消費者向け AR/VR デバイスの普及、および PTC が提供
する Vuforia のような AR ライブラリーの普及は、AR/VR 環境を身近なものに変えつつある。さら
に、2017 年にはマイクロソフトの HoloLens やグーグルの Daydream Ready 機器の本格的な市場投入
が予定されている。豊富なライブラリーソフトウェア資産をすでに有するこれらのプレイヤーの
参入は、AR/VR/MR(Mixed Reality)環境の構築と運用開始にかかるイニシャルコストの劇的な下
落を期待させるものである。そして、こういった TCO 低廉化の恩恵は、今までコスト面でこれら
の技術の導入に消極的であった小規模/中規模企業にも及ぶ。事実、現在スタートアップが多い
医療系ベンチャー企業では、今までは紙ベースの書類と経験に頼っていたスタッフの習熟過程を
IoT によるデータ収集と AR デバイス上のアプリケーションによるリアルタイムの学習プロセスに
置き換えることで、本生産に入る前の試験製造段階で、慣熟に要する時間や工数を大幅に圧縮で
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きるようになっている。その恩恵を利用してリードタイムを短縮することで、多品種少量生産の
ニーズに対応しビジネスを拡大しているケースが少なくない。
こうした事例から分かるように、今後の製造業は、IoT によって大量のデータを収集し、コグニテ
ィブ/AI システムで分析した上で、AR/VR、ロボティクス、3D プリンティングなどの IA 技術に
よって、現実世界の製造品質/効率を高める活動が標準となるであろう。
こうした IA を前提とした製造業の将来には、大きく 2 つの方向性があると IDC では考えている。
一つは、IA によって完全な自動製造プロセスを目指す方向である。こうした環境では、高度に自
動化された小規模な製造ラインを世界中に配置し、コンピューターおよび物流ネットワークで結
んだ製造業が誕生する。もう一つは、大量の情報と IA の応用によって、設計/製造のエキスパー
トの能力を高め、高度な製造/物流プロセスを獲得する方向である。国内製造業変革の鍵は、製
造業のエキスパートの知識を最大限に活用し、今よりも効率的で高品質の製品を提供できる可能
性がある、後者の視点にあると IDC ではみている。
2017 年には、国内製造現場における IoT の利用が爆発的に広がり、いくつかの先進企業がそこか
ら得られた膨大なデータと IA との連携を開始する。そして、IDC では、こうした活動の中から、
たとえば、IoT データの分析から得られた情報を、AR/VR を使って現場の熟練工にリアルタイム
に提示する活動、製造ラインの IoT データをリアルタイムに設計情報にフィードバックする技術
など、今後の国内製造業変革のヒントとなる象徴的な改革事例が生まれるとみている。
Prediction 10:DX が企業の全社的課題として認識され、IT 人材と
DX 推進組織の再定義が進む
DX という概念的な言葉は、2015 年から 2016 年にかけて金融業では FinTech、製造業などでは IoT
といった形で、より具体性を帯びる形で語られるようになった。この結果、多くの企業では DX
は、全社的なあるいは経営的な課題として認識されるようになった。また、DX を推進するリーダ
ーとして CDO(Chief Digital Officer)を設置したり、従来の IT 部門とは異なり DX 実現をミッシ
ョンとする「第二 IT 部門」とでも呼ぶ組織を設立する企業が出てきた。
こうした中、多くの企業で「IT 人材」の課題がクローズアップされている。DX を推進する IT 人
材は、IT/デジタル技術だけではなく、ビジネスそのものについての知識や、それを変革する能
力などさまざまなスキルが求められる。しかし、こういった広範なスキルや能力を持つ人材を確
保することは、決して容易ではない。ましてや欧米企業に比べてそもそも IT 人材が少ないと言わ
れている国内企業ではなおさらである。
こうした課題に対して、多くの企業では既存の IT 部門人材にビジネス能力の教育を行ったり、
LOB とのジョブローテーションを行ったりといった施策を行っている。また、上述の「第二 IT 部
門」では既存 IT 部門の人材ではない、LOB の人材を中心に組織されているケースも多く見られ
る。このような状況の中、企業において「IT 人材」とは何かを再定義する動きが強まると IDC で
はみている。
DX とは全社的な課題である。第 2 のプラットフォーム時代のように、LOB 側の要望を IT 部門
(および外部 IT サプライヤー)がシステム化するというプロセスだけでは不十分であり、IT 部門
人材もビジネスを考え、事業部人材も IT の活用を考えるといったダイナミズムがあって初めて
DX の実現が可能になる。極論すると、企業内のすべての従業員を IT 人材化しなければ、企業競
争力を強化するような DX は実現できないということである。
先進企業では、IT 人材の課題は IT 部門だけのものではないことにすでに気付き始めている。ある
大手企業では、CEO が社内の全従業員に対して IT の基本方針を明示する一方で、経営層から担当
者に至るまで身につけるべき IT スキル/ナレッジを定義している。まさに全従業員の IT 人材化
を進める好例と言える。今後、他の企業でもこのような例が増えるであろう。
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こうした IT 人材の再定義の流れを受け、「第二 IT 部門」の位置付けも変わってくることが考え
られる。これまでも金融機関などで第二 IT 部門の設置は行われてきたが、既存の IT 部門との軋
轢が生じたり、IT ガバナンスの問題が提起されたりするケースも見られた。しかし、DX が全社
的な課題として認識され、全従業員の IT 人材化が進むに従い、第二 IT 部門は、DX という特別な
目的を達成するために作られた「特別な部門」から、既存の IT 部門を含む社内のさまざまな部門
と協業しながら DX を実現する「普通の部門」になっていくということである。普通の部門にな
ると言っても、その重要性が失われるわけではなく、逆に DX 実現の司令塔としての位置付けは
今以上に強まる。しかしこれまで、ややもすると社内で他の部門と一線を画した特別な存在であ
った第二 IT 部門が、自ら DX 実現のリーダーシップを発揮しつつも営業、マーケティング、製造
などさまざまな部門と協業するようなケースが増えてくると IDC ではみている。従来見られた既
存の IT 部門と LOB とのコンフリクトは徐々に解消に向かうであろう。
IT サプライヤー各社は、DX に向けた企業の人材や組織の変革/再定義を注意深く見守り、その
支援をしていくことが求められる。ただし、その方向性は、企業によって異なることに留意すべ
きである。たとえば、既存 IT 部門の人材のビジネスナレッジはどの程度あるのか、全社的な IT
リテラシーはどの水準にあるのか、第二 IT 部門を有しているとしたらどのような位置付けになっ
ているのか、そして経営層の DX に対する理解や支援はどのように行われているのか、といった
現状認識をしっかりと行うことで、個々の企業の進むべき方向性が異なってくると考えられるた
めである。こういった支援は、IT サプライヤーに短期的に大規模なプロジェクトやビジネスをも
たらすものではないかもしれない。しかしながら、このような取り組みを通じて顧客企業との関
係性が深まり、重要なパートナーとして共創/協創、イノベーションの機会増大をもたらすと
IDC では考える。
IDC の提言
DX に向けた国内 IT 市場の動きを、クラウドを例に取り俯瞰してみよう。国内エンタープライズ
IT 市場を「クラウド」「従来型の IT(クラウド関連以外)」に区分すると、2015 年の市場規模は
従来型の IT が約 9 割を占めている。一方、従来型の IT では、すでに市場規模の縮小が始まって
おり、そのペースが加速している。2020 年の国内エンタープライズ IT 市場における従来型の IT
が占める割合は、3 分の 2 以下となる可能性が高い。
現在、国内クラウド市場は、既存システムからクラウドへの移行が同市場の成長を促進してい
る。しかし、IT サプライヤーが留意すべき点がある。クラウドへの移行は、ユーザー企業の IT 支
出を最適化するため、IT 利用の拡大、BC/DR やセキュリティ関連の強化などを考慮しても既存シ
ステム領域の市場規模(従来型の IT と、既存システムから移行したクラウドの合計)は、近い将
来、縮小に向かうことになる。2019 年に既存のシステム領域が縮小し始め、そのペースが加速す
ると IDC はみている。すなわち、IT サプライヤーが「クラウド」を事業戦略の中核としても、既
存システム領域にのみ焦点を合わせた場合、シェアを大幅に拡大させる「秘策」がない限り、成
長戦略としては成立しないことになる。
まず、IT サプライヤーは、DX と、自らが提供する IaaS(Infrastructure as a Service)、PaaS
(Platform as a Service)、SaaS のプラットフォームあるいは産業特化型クラウドサービスとを混同
してはならない。DX は企業活動の変革そのものであり、プラットフォームではない。DX が対象
とするのは、事業イノベーションの創出であり、人材、組織の在り方の抜本的な変革であり、多
種多様な目標を持つ課題となる。
このビジネス課題の解決を支援するための IT サプライヤーへの提言を以下に示す。

「デザイン思考」による顧客の課題への支援:これらの課題に向き合うために、IT サプ
ライヤーがコンサルタントのように「デザイン思考」ツールや、協創のためのワークショ
ップを提供したりする動きを加速する試みが増えている。2015 年の Predictions の提言の中
で、「IS 部門の価値を、より付加価値の高いコンサルティングに見出すべきである」と述
べたが、DX の高まりの中で、ようやく IT サプライヤーや企業トップが最重要経営課題と
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して認識し始めたということであると IDC ではみている。企業にとって不可欠のパ-ト
ナーになるための必要条件であるという認識が IT サプライヤーには求められる。

エコシステムの拡大を目的とした戦略的パートナーシップの拡大:これらは、顧客の課
題に寄り添う視点から必要なことではあるが、十分条件ではない。これらの動きを加速す
る一方で、サプライヤーが提供するプラットフォーム上でイノベーションを形にするソフ
トウェア開発者を引き付け、エコシステムの成長を図ることが最も重要な活動となる。そ
のために、競合にもなりかねない他社のプラットフォームと異なるレイヤーや提供形態で
パートナーシップを組むことも検討すべき選択肢であると言える。

新たな成長ドライバーである IA への投資の拡大:Prediction 1 でも述べたように IA の技術
の進展が予想よりも早いスピードで進む。特に、AR/VR、コグニティブ/AI システム、
は、4 ピラーよりも高い成長率を示す。これらの 2 つの技術にいち早く取り組むことで、
高い成長を目指せるであろう。
IDC では、IT サプライヤーのエコシステムの大きさを測る指標として「イノベーショングラフ」
を提唱している。これは IT サプライヤーが構築しているパートナーも含むエコシステムの強さに
ついて、エコシステムの構成員たる、開発者、データ提供者、産業特化型プラットフォーム、メ
ガサービスプロバイダー、チャネル、顧客の間に存在する API を連結線として相互につないで示
したグラフである。イノベーショングラフの例を Figure 2 に示す。
FIGURE 2
DX エコノミー時代に競争戦略上、構築が必須となる「イノベーショングラフ」
Note: 『IDC FutureScape: Worldwide IT Industry 2017 Predictions(IDC #US41883016、2016 年 11 月発行)』より引用
Source: IDC, 2016
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すべての提言は、この「イノベーショングラフ」の規模を大きく成長させることにつながる。IT
サプライヤーは DX ソリューションに代表される新しい IT 需要を創出することが、国内エンター
プライズ IT 市場の成長を促す要因であることを肝に銘ずるべきである。また、DX 時代におい
て、既存ビジネスの実績は、必ずしも競争優位にはつながらない。さらにクラウド頼みの成長戦
略も十分ではなくなってきた。それらの第 3 のプラットフォームの上に、IA を用いた新たな成長
戦略の構築が求められている。IT サプライヤーが DX を巡る競争に出遅れ、「イノベーショング
ラフ」を拡大できないと、市場から淘汰される危険性がある。
参考資料
関連調査

グローバル IT と事業企画を形作る重要な外部ドライバー:IDC FutureScape 2017(IDC
#JPJ41641416、2016 年 8 月発行)

IDC FutureScape: Worldwide IT Industry 2017 Predictions(IDC #US41883016、2016 年 11 月発行)

IDC FutureScape:世界と国内のエンタープライズインフラストラクチャ市場 2017 Predictions
(IDC #JPJ41770416、2016 年 12 月発行)

IDC FutureScape:世界と国内のプリント/ドキュメントソリューションズ市場 2017 Predictions
(IDC #JPJ41770516、2017 年 1 月発行)

IDC FutureScape:世界と国内の IoT 市場 2017 Predictions(IDC #JPJ41770616、2017 年 1 月発行)

IDC FutureScape:世界と国内の CIO Agenda 2017 Predictions(IDC #JPJ41770716、2017 年 1 月発
行)

Japan Enterprise Applications 2017 Top 10 Predictions(IDC #JPJ41772816、2017 年 1 月発行)

IDC FutureScape:世界と国内の SMBIT 市場 2017 Predictions(IDC #JPJ41770816、2017 年 1 月発
行)

IDC FutureScape:世界と国内のデジタルトランスフォーメーション市場 2017 Predictions(IDC
#JPJ41773017、2017 年 1 月発行)

IDC FutureScape:世界と国内のビッグデータ/アナリティクス市場 2017 Predictions(IDC
#JPJ41766517、2017 年 1 月発行)

IDC FutureScape:世界と国内のモバイルエンタープライズアプリケーション/ソリューショ
ン市場 2017 Predictions(IDC #JPJ41769517、2017 年 1 月発行)

IDC FutureScape:世界と国内のセキュリティ市場 2017 Top 10 Predictions(IDC #JPJ41773417、
2017 年 1 月発行)

IDC FutureScape:世界と国内のサービス市場 2017 Predictions(IDC #JPJ41773317、2017 年 1 月発
行)

IDC FutureScape:世界と国内のネットワークサービス市場 2017 Predictions(IDC #JPJ41773117、
2017 年 1 月発行)

IDC FutureScape:世界と国内のクラウド市場 2017 Predictions(IDC #JPJ41768017、2017 年 1 月発
行)

Japan Virtual Client Computing 2017 Top 10 Predictions(IDC #JPJ41772916、2017 年 1 月発行)

IDC FutureScape:世界と国内データセンターファシリティ市場 2017 Predictions(IDC
#JPJ41773217、2017 年 1 月発行)

IDC FutureScape:世界と国内のソーシャルビジネスおよび顧客エクスペリエンス(CX)市
場 2017 Predictions(IDC #JPJ41773517、2017 年 1 月発行)
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Synopsis
本調査レポートでは、第 3 のプラットフォームの進化が新たな成長技術としてのイノベーション
アクセラレーター(IA)をもたらし、企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を支援す
ること、さらに企業の DX の動きは、企業の枠を超え、さらに産業の枠も超えて、産業間の連携
によってマクロ経済に影響を及ぼしデジタルトランスフォーメーション・エコノミー(DX エコノ
ミー)として発展していくことを示した。
IDC Japan のリサーチバイスプレジデントである中村 智明は、「2017 年は、DX エコノミーの萌芽
の年になる。この動きを支援するために IT サプライヤーは、エコシステムの拡大を図ることが最
優先事項となる。この競争から脱落すれば、市場から淘汰される危険性がある」と述べている。
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IDC 社 概要
International Data Corporation(IDC)は、IT および通信分野に関する調査・分析、アドバイザリー
サービス、イベントを提供するグローバル企業です。50 年にわたり、IDC は、世界中の企業経営
者、IT 専門家、機関投資家に、テクノロジー導入や経営戦略策定などの意思決定を行う上で不可
欠な、客観的な情報やコンサルティングを提供してきました。
現在、110 か国以上を対象として、1,100 人を超えるアナリストが、世界規模、地域別、国別での
市場動向の調査・分析および市場予測を行っています。
IDC は世界をリードするテクノロジーメディア(出版)、調査会社、イベントを擁する IDG(イ
ンターナショナル・データ・グループ)の系列会社です。
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