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日銀短観(2007 年 9 月調査)
Japan Economic Indicator 2007/10/01 みずほ総合研究所 経済調査部 シニアエコノミスト 山本 康雄(03-3201-0541) [email protected] 日銀短観(2007 年 9 月調査) 【景 況 感】大企業は製造業で横ばい、非製造業は悪化。中小企業は 3 期連続悪化 コスト上昇懸念が中堅・中小企業の景況感悪化要因に 【設備投資】中小企業を中心に順調に上方修正 【注 目 点】想定為替レートは 114 円/ドル台であり、さらなる円高進行時には収益下振れ懸念 大企業の業況判断は製造業 本日発表の 2007 年 9 月調査の日銀短観では、大企業・製造業の業況判断DIが前 で横ばい、非製造業で悪化 回調査から横ばい、大企業・非製造業の業況判断DIが前回調査から▲2 ポイント の悪化となった。横ばいから小幅悪化が見込まれていた市場の事前予想とほぼ一致 した。なお、先行きは製造業で▲4 ポイントの悪化が見込まれる一方、非製造業で は+1 ポイントの改善が見込まれている。中小企業の景況感は製造業・非製造業と もに悪化し、マイナス幅もやや大きかった。全体としてみると、6 月調査に続いて 足元の景気が停滞していることを示した。特に、中小企業で原油価格の高騰などか ら収益環境が厳しくなっていることがうかがえる。一方、設備投資計画は昨年度に 比べれば低めの伸びながら、順調に上方修正されている。 【業況判断DI】 (%Pt) 2007年6月調査 最近 全規模 製造業 非製造業 大企業 製造業 非製造業 中堅企業 製造業 非製造業 中小企業 製造業 非製造業 + 7 +13 + 3 +22 +23 +22 +10 +13 + 8 ▲ 2 + 6 ▲ 7 先行き + 6 +12 + 1 +22 +22 +23 +10 +14 + 7 ▲ 5 + 4 ▲ 10 【大企業の業況判断DIの推移】 2007年9月調査 最近 (変化幅) + 4 + 9 ▲ 1 +21 +23 +20 + 7 +10 + 4 ▲ 5 + 1 ▲ 10 (資料)日本銀行「全国企業短期経済観測調査」 ▲ ▲ ▲ ▲ ± ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ 3 4 4 1 0 2 3 3 4 3 5 3 先行き + 3 + 9 ▲ 2 +20 +19 +21 + 6 +10 + 3 ▲ 6 + 3 ▲ 11 (変化幅) ▲ ± ▲ ▲ ▲ + ▲ ± ▲ ▲ + ▲ 1 0 1 1 4 1 1 0 1 1 2 1 30 (「良い」−「悪い」、%Pt) 20 10 0 ▲ 10 ▲ 20 ▲ 30 ▲ 40 製造業 非製造業 ▲ 50 ▲ 60 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 (年) (注)03年12月より新ベース。07年12月は9月調査時点の見通し (資料)日本銀行「全国企業短期経済観測調査」 素材業種(大企業・製造業) 大企業・製造業の内訳をみると、素材業種のDIは前回から 2 ポイント悪化して+ は 2 ポイント悪化 19%Pt となった。業種別では化学(+24%Pt⇒+28%Pt) 、紙・パルプ(▲9%Pt ⇒▲6%Pt)の 2 業種が小幅改善したが、他の業種は全般に悪化した。原油価格の 高騰による原材料・燃料価格上昇と円安差益の剥落が景況感の悪化要因になったと みられる。 加工業種(大企業・製造業) 加工業種(大企業・製造業)は+23%Pt と前回調査から 1 ポイント悪化した。在庫 は 1 ポイント悪化 調整の進展により電気機械(+21%Pt⇒+24%Pt)が改善したほか、輸出の堅調な どから自動車(+25%Pt⇒+29%Pt) 、造船・重機等(+23%Pt⇒+29%Pt) 、精密 機械(+20%Pt⇒+28%Pt)など景況感が改善した業種も多かった。しかし、一般 機械(+49%Pt⇒+46%Pt)が小幅の悪化となったほか、金属製品(▲2%Pt⇒▲ 13%Pt)の悪化幅が大きかった。金属製品については、原材料価格上昇のほか、足 当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料 は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものでは ありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。 元で住宅着工が急減していることも影響した可能性がある。 以上のように、大企業・製造業の業況判断DIは全体としては横ばいであったが、 素材業種・加工業種にわけてみると、それぞれ小幅の悪化となっている。これはD I作成上の四捨五入の関係による食い違いとみられ、小数点以下までみれば今回の 大企業・製造業の景況感は若干悪化していた模様である。 大企業・非製造業の景況感は 大企業・非製造業の業況判断DIは前回調査から 2 ポイント悪化の+20%Pt となっ 2 ポイント悪化 た。大企業・非製造業の業況判断DIが悪化するのは、2002 年 12 調査以来のこと である。業種別では、情報サービス(+41%Pt⇒+49%Pt)、対個人サービス(+ 10%Pt⇒+13%Pt) 、飲食店・宿泊(+11%Pt⇒+12%Pt)の 3 業種の景況感が改 善したが、その他の業種はすべて悪化した。個人消費(特に財消費)など内需の低 調や燃料価格高騰の影響を受けた結果とみられる。 中堅・中小企業の景況感は全 中堅・中小企業の景況感は、各カテゴリーで▲3∼▲5 ポイントの悪化となった。大 般に悪化 企業に比べて、原材料・燃料高による収益圧迫懸念が強いことが、悪化の要因にな ったものと推測される。 なお、先行きは全般に悪化見込みとなっているが、足元のDIの水準が高い時に先 行きを慎重にみる統計上のクセが出たものであろう。 設備投資計画は順調に上方 2007 年度の設備投資計画(土地投資を含みソフトウェアを除くベース)は前年比+ 修正 4.9%(修正率+1.8%) 、土地投資を除きソフトウェア投資を含むベースでは同+ 6.8%(修正率+0.5%)といずれも上方修正された。昨年同時期の 2006 年度計画 は下回っているが、順調に上方修正されている。昨年 9 月調査時点の 2006 年度計 画(全規模・全産業)は、土地投資を含みソフトウェアを除くベースで同+8.3%、 土地投資を除きソフトウェアを含むベースで同+8.7%だった。業種別内訳は明日 公表の詳細をみる必要があるが、先日の法人企業景気予測調査でみられた非製造業 設備投資の下方修正は短観では観察されなかった(大企業・非製造業の設備投資は ソフトウェア含むベースでは若干の下方修正だが、土地含むベースでは上方修正)。 全規模・全産業ベースの 9 月調査時計画としては 2005・06 年度を下回ったものの、 2004 年度の伸びは上回っている。全体としてみれば、企業が設備投資に積極的な姿 勢を崩していないことが確認できる内容であった。 【設備投資計画(土地を含みソフトウェア除く)】 (前年度比%) 全規模 製造業 非製造業 大企業 製造業 非製造業 中堅企業 06年度 07年度 実績 6月計画 9月計画 修正率 3.1 4.9 1.8 13.4 5.5 6.8 1.3 製造業 7.2 1.8 3.8 2.0 非製造業 10.0 7.7 8.7 1.0 11.7 11.2 12.1 0.9 製造業 9.1 5.6 6.7 1.1 非製造業 7.1 4.2 4.9 0.7 9.2 5.4 4.1 ▲ 1.3 非製造業 6.2 3.7 5.2 1.5 8.8 ▲ 16.3 ▲ 10.5 5.8 25.9 ▲ 18.7 ▲ 13.6 5.1 1.4 ▲ 15.0 ▲ 8.9 6.1 製造業 非製造業 (前年度比%) 9.4 製造業 中小企業 【設備投資計画(土地除きソフトウェア含む) 】 (資料)日本銀行「全国企業短期経済観測調査」 全規模 大企業 中堅企業 製造業 非製造業 中小企業 製造業 非製造業 06年度 07年度 実績 6月計画 9月計画 修正率 7.9 6.3 6.8 0.5 13.2 7.2 8.2 1.0 5.0 5.9 6.0 0.1 0.0 8.6 9.6 9.6 10.9 11.9 12.8 0.9 7.3 8.2 7.7 ▲ 0.5 3.9 7.4 7.2 ▲ 0.2 12.9 7.7 5.6 ▲ 2.1 0.8 0.1 7.2 8.0 8.7 ▲ 9.6 ▲ 6.7 2.9 26.7 ▲ 16.0 ▲ 11.5 4.5 0.6 ▲ 6.1 ▲ 4.0 2.1 (資料)日本銀行「全国企業短期経済観測調査」 2007 年度経常利益は小幅増 2007 年度の経常利益(全規模・全産業)は、+0.8 ポイント上方修正され前年比+ 益計画 0.5%と小幅増益計画となった。2007 年度上期の経常利益は+4.0 ポイント上方修 正され前年比▲0.9%となったが、これは大企業、特に製造業の収益計画が上方修 正されたことが主因である。中堅・中小企業の収益計画はほとんど修正されていな い。2007 年度上期の経常利益は 12 月調査で実績となるが、大企業では上方修正が 続き、中堅・中小企業との格差が広がる形になることが予想される。一方、下期計 画については全般に下方修正され、全規模・全産業ベースで前年比+1.9%の小幅 増益計画となった。この時点での下期収益計画はやや慎重なものとなっている可能 性が高いが、大企業・製造業の 2007 年度下期想定為替レートは 114.33 円/ドルと なっており、現実の為替レートとあまり差がない。為替差益による今後の上方修正 はあまり期待できず、為替が大きく円高に振れれば下方修正される可能性もある。 仕入価格判断は高止まり 仕入価格判断DIは、大企業・製造業で+40%Pt⇒+40%Pt、大企業・非製造業で +22%Pt⇒+25%Pt、中小・製造業で+51%Pt⇒+52%Pt、中小・非製造業で+32% Pt⇒+33%Pt と全般に高止まりした。一方で、販売価格判断はほとんど横ばいとな っており、多くの企業にとって価格転嫁が進まず仕入価格が上昇していることが収 益圧迫要因になっているとみられる。こうしたコスト上昇に対する懸念が、今回の 短観で全般に景況感が悪化した要因であるとみられる。 雇用・設備は依然として逼迫 雇用人員判断DI(全規模・全産業)は▲8%Pt⇒▲9%Pt と不足感がやや強まり、 設備判断DI (全規模・全産業)は±0%Pt⇒±0%Pt と過不足ゼロの状況が続いた。 雇用・設備が逼迫した状況にあることは変わりなく、足元の金融市場動揺が企業の 中期的な設備投資や採用行動に影響を与えている様子はうかがえない。 利上げは金融市場の落ち着 以上みてきたように、今回の日銀短観では景況感が中堅・中小企業を中心に悪化す き次第 る一方、設備投資は順調に上方修正された。景況感悪化の主因は、原油高騰などに よる原材料・燃料高に対する懸念であり、米サブプライム問題を契機とした金融市 場の動揺が日本企業に深刻な影響を与えている様子は現時点ではみられない。今回 の短観の結果について、日銀は、景況感は悪化したがDIの水準は高く、景気の拡 大基調は崩れていないとの判断を維持するであろう。また、設備投資の拡大が続い ていることは、将来の過熱に備えて金利を引き上げていくことが必要であるとの従 来の日銀のスタンスに矛盾するものではない。日銀は、金融市場の落ち着きが確認 でき次第、利上げに踏み切るとの姿勢を維持するとみられる。 以上