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ナノ物質の管理に係る計測等の技術課題 に関する調査
平成24年度経済産業省 委託調査報告書 平成24年度環境対応技術開発等 (ナノ物質の管理に係る計測等の技術課題 に関する調査) 報告書 平成25年3月 JFE テクノリサーチ株式会社 はじめに 従来、我が国の化学物質の管理に関する法規制等において、化学物質の有害性 を評価する際、粒子状物質等がその大きさの違いによって有害性が異なる可能性が 考慮されていない。しかし、近年、ナノ物質を代表するカーボンナノチューブがアスベ スト様の毒性を持つ可能性を示唆する研究が報告される等、様々な化学物質をナノ サイズにしたナノ物質の有害性の可能性が懸念されている。 一方で、様々なナノ物質の有害性評価及び暴露評価並びにそれらに基づくリスク 評価を行う手法は十分に整備されていない。NEDOプロジェクト「ナノ粒子特性評価手 法の研究開発」では、カーボンナノチューブ、フラーレン及び二酸化チタンの有害性評 価及び暴露評価を行い、その成果に基づいてそれらナノ材料のリスク評価書を公表 しているが、その他の様々なナノ物質のリスク評価は行われていない。また、最近、 ナノ物質を使用した製品が普及し始めており、一部には一般への暴露が懸念される ものがあることから、それらのライフサイクルを通したリスクを評価し、適性に管理して いく必要性が生じている。ナノ物質を使用した製品の実態と暴露可能性についての調 査はまだ殆どなされていない。しかし、一方でナノ物質を同定するための基礎となる 粒径、粒度分布及び比表面積等を測定する計測方法(計測技術及び計測機器等)は 国内外で、共通化されていない。これらを整理し、ナノ物質のリスク評価に基づく適正 なリスク管理を行うことで、ナノ物質に係る安全・安心を確保するのみならず、我が国 の産業競争力の向上に資することができる。 そこで、本調査においては、今後のナノ物質の管理のあり方を検討するため、ナノ 物質の計測法の調査、有害性評価及び暴露評価並びにリスク評価の手法等の技術 的な課題等の整理を行うものである。 本調査研究が以上のような課題の解決の前進に少しでも寄与し、ナノ物質に対す る計測方法の国内外での共通化、適切なリスク評価に基づくナノ物質の管理、ひいて は我が国のナノテクノロジーの発展に役立つことができれば幸いである。 2013年3月 JFE テクノリサーチ株式会社 目次 1.化学物質管理に係るナノ物質の計測方法に関する調査 ................... 1 (1)調査の目的と方法 ................................................ 1 (2)ワーキンググループ .............................................. 2 1)第3回計測技術ワーキンググループ ................................................................................... 3 2)第4回計測技術ワーキンググループ ................................................................................. 29 3)第5回計測技術ワーキンググループ ................................................................................. 74 2.ナノ物質のリスク評価・管理等における技術的課題等に関する調査 ..................... 167 (1)調査の目的と方法 .................................................................................................................... 167 (2)ワーキンググループ ................................................................................................................. 168 1)第4回リスク評価ワーキンググループ ........................................................................... 169 2)第5回リスク評価ワーキンググループ ........................................................................... 193 3)第6回リスク評価ワーキンググループ ........................................................................... 222 4)第7回リスク評価ワーキンググループ ........................................................................... 288 1. 化学物質管理に係るナノ物質の計測方法に関する調査 (1) 調査の目的と方法 ナノ物質の適正管理のためには、管理対象を明らかにしつつ、適切な計測技術を 用いてばく露評価をする必要がある。そこで現状利用できるナノ物質の計測技術を整 理し、ナノ物質のライフサイクルの各段階での管理対象について、ふさわしい計測方 法を検討する。特に、生産管理及び品質保証で使用が可能な汎用的な装置の中で、 物質のサイズ(大きさ)の計測技術を中心に整理する。 その際、ナノ物質の種類(炭素系、金属酸化物系など)や形状(粒状、繊維状など)、 特性(親水性など)を考慮して適切な計測方法を抽出できるように留意する。また、 個々の粉体物質が欧州のナノ物質の定義に該当するか否かの判断に対応できるか どうかの検討も行う。 調査に当たっては、有識者から構成されるワーキンググループを開催し、ワーキン ググループで検討した内容についてワーキンググループ報告案としてとりまとめる。 なお、ワーキンググループとしては、前年度から引き続きおこなうため、本年度は第3 回ワーキンググループ(WG)から開催する事となる。 1 (2) ワーキンググループ 計測技術ワーキンググループは、以下の委員を選定し、検討を進めてきた。 座長 森 康維 委員 遠藤 茂寿 奥田 菊地 熊本 平田 藤本 雅朗 亮一 正俊 一郎 俊幸 増田 弘昭 同志社大学理工学部化学システム創成工学科 教授 技術研究組合単層CNT複合新材料研究開発機構 主任研究員 一般社団法人 日本粉体工業技術協会 ISO 対応委員会 委員長 テイカ(株) 環境品質管理部 部長 (株)住化分析センター 取締役 一般社団法人日本化学工業協会 化学品管理部 部長 一般社団法人ナノテクノロジービジネス推進協議会 事務局次長 (独)産業技術総合研究所 計測標準研究部門 副研究部門長 兼ナノ材料計測科長 京都大学 名誉教授 一般社団法人 日本粉体工業技術協会 副会長 技術委員会 委 員長 松田耕一郎 (株)堀場製作所 産業活性化推進室 室長 一般社団法人日本分析機器工業会環境技術委員会委員長 山本 和弘 (独)産業技術総合研究所 計測フロンティア研究部門 主任研究員 鷲尾 一裕 (株)島津製作所 分析計測事業部応用技術部 一般社団法人 日本粉体工業技術協会 計装・測定分科会代表幹 事 以下に、WG での議論の内容および検討資料を示す。 2 1) 第3回計測技術ワーキンググループ 第3回計測技術ワーキンググループは、平成24年6月22日に開催され、委員の 内9名出席、1名代理出席で行われ、以下の討議が行われた。 議題: (1) (2) (3) (4) (5) (6) (7) 前回議事要旨の確認について 業界におけるナノ材料の粒径計測の状況について ナノ材料の粒径分布測定法の絞込みについて ナノサイズを含むシリカ粒子の計測実例の紹介 EUのナノマテリアルに関する定義への対応について 中間まとめの目次について その他 <配付資料> 資料1 第2回 WG 議事要旨(案) 資料2 現在工業的に使用されているナノ材料の計測に関する調査 資料3 ナノ材料の粒径分布測定法の絞込み(案) 資料4 ナノサイズを含むシリカ粒子の計測実例 資料5 EUのナノマテリアルに関する定義への対応について 資料6 中間まとめの目次(案) ①議題3:ナノ材料の粒径分布測定法の絞込み(案)に関する議論 3.今回の検討(絞込み)について ・下限数十 nm、上限200nm の設定理由は何か。 ・動的光散乱で広い粒径分布を測定するのが難しい。分級が必要。 ・レーザー回折散乱法の原理的な測定下限界はどこか。 ・4つの測定法を絞り込むかどうか、メール等で意見をもらう。 図1について ・判断フロー中の判断「多孔質粒子か?」は、不要ではないか。 図2について ・第0段階の層別の「基本的パラメーター」とは何か。 ・ドイツの判断フローでは、第1層別で染料・フィラー・粒状物質・鉱物が判定される (繊維状物質が含まれる)が、わが国の国内での議論は、球状粒子について行 う。 3 ・米国で(超)遠心沈降法が比較的多く使われ出した。日本は、測定に時間が掛か る等で開発を断念している。ISO での将来の標準化の可能性はどうか。 ②議題4:ナノサイズを含むシリカ粒子の計測実例に関する議論 ・3種類の DLS の測定結果の違いの理由は何か。 ・結論のまとめの図12~15は、粒径分布が広いものと狭いものでは機種・方法論に より測定結果に違いが生じる。粒径分布が狭ければ、どの方法でも結果はおおよ そ一致する、ということである。 ・FFF も候補に入れてよいのではないか。 ・参考の FE-SEM の測定結果は、倍率・試料調整等に問題があると測定結果が大 きくずれる例として示した。 ・AIST の測定結果をよく見て、意見をもらう。 ③議題5:EUのナノマテリアルに関する定義への対応に関する議論 ・EU 規制により増加する負担は何か。 ・EU 以外での規制に関する動向はどうか。 ・JRC から7月に報告書が提出される予定との情報があり、規制の運用面でどの程 度一次粒子の計測にこだわったものになるのかを確認する。 ・EU のナノ粒子の安全性情報の収集状況(ドシエの作成進捗状況)はどうか。 ・粒径分布の測定結果の不確実性を低減する技術開発について、TEM の簡便装置 の開発・プロトコルのブラシュアップを優先に進めるか、ロングスパンでの対応とし ての新技術開発との併行した開発でいくか。 ・将来的には、リスクアセスメントに進展があると、気中での測定(バックグラウンド 粒子との識別も含む)が必要になるので、フォーカスすべきではないか。 以下に、配布された資料の内、検討に用いられたものを示す。 4 資料 2-1 現在工業的に製造・使用されているナノ材料の計測に関する調査 第2回WGにおいて、今後の検討の参考にするため、実際に企業で行なわれてい る生産管理、商取引に関連した分析方法・作業の実態を調査することが決められ、化 学物質管理課から、ナノ材料メーカー各社、業界団体等にアンケートが出された。そ の結果を、一覧表にして示した。まとめは以下の通り。 1.TEM・SEM 以外では、殆どがレーザー回折散乱法または動的光散乱法よって、工 業ナノ粒子の測定を行っている。 両散乱法共に、試料の前処理の標準化が課題として出され、装置メーカー・機種 によりデータが異なるなどの指摘もある。 2.TEM・SEM を、研究開発用に使用する企業が多い。 TEM・SEM は、装置価格・維持費高い、習得難しい、観察視野狭い、手間が掛かり 測定粒子数を増やすのに苦労する、等の問題点が指摘されている。 粒子径分布測定 粒子径測定 遠心沈降 レーザー回折 散乱 乾式篩 コールターカウン ター DLS レーザー回折 散乱 XRD TEM/SEM DLS BET TEM/SEM 5 6 フラーレン 銀 カーボンブラック 酸化チタン シリカ B社 CNT ・粒子径:電子顕微鏡 ・電子顕微鏡:手間が掛かり過ぎ。ロット後との品質検査には適さない。測 ・粒子径分布:電子顕微鏡(少なくとも300本 定本数限られており、統計的に妥当な値か不明。 繰り返す) ・粒子径:BET比表面積 ・粒子径分布:レーザー回折・散乱法 測定方法の問題点と課題 それ以外の問題点 特になし。 ・BET:再現性高く、ランニングコスト・習得問題なし。 ・レーザー回折・散乱法(1000万円以下):習得容易、前処理の分散一定化 現状取引で一次粒子での規定例はない。 が必要。 将来、長繊維長による規制が掛かる可能性があり、測定方法が 問題になると予想している。 既存の多くの上市測定装置が「体積濃度による粒度分布」である ため、この方が好ましい。数濃度との相関も検討されている。 定義にからんだEUとの商取引での問題点 ・粒子径:TEM ・粒子径分布:レーザー回折・散乱法 E社 ・機器価格と維持費。計測手順の習得の難易度。 ― ― ・粒子径:TEM・SEM・動的光散乱法 ・粒子径分布:TEM・SEM・動的光散乱法 ・粒子径:レーザー回折・散乱法 ・粒子径分布:レーザー回折・散乱法 ・粒子径:FE-SEM ・粒子径分布:FE-SEM 画像解析処理 I社 J社 K社 L社 ・TEM:外注しているが、測定に時間が掛かる。 ・粒子径:TEM ・粒子径分布:TEM H社 ・SEM:簡易レベルであれば、判断可能な粒子は最小20nm直径レベルであ る。 TEMも同様であるが、nmサイズの基準粒子で較正しない限り、スケー ルは計算上のものであり、また定期的な較正ができない(計測概念上は、 不備がある計測)。 ・レーザー回折・散乱法:前処理方法は事業者毎に異なる(ノウハウ・一般 的に非開示)。測定装置は、そのセンサー構成・逆計算アルゴリズム等によ り、測定装置メーカー・機種が変わるとデータが異なると言われ、また同じモ デルでも装置間誤差があると言われる。 ・形状、平均粒径、分散状態などにより使い分け(万能機種なし)。 粒子径:SEM・動的光散乱法・Ⅹ線回折 粒子径分布:SEM・動的光散乱法 G社 ・粒子径:SEM(不定期に実施する、形状を 含むラフな検査) ・粒子径分布:レーザー回折・散乱法(定量 的管理(内部管理用)) ・SEM(1千万円):習得難易度は中程度。 ・動的光散乱法(600万円):習得容易。 ・粒子径:SEM ・粒子径分布:動的光散乱法 F社 ・粒子径:(二次粒子)BET比表面積・CTAB カーボンブラック協会 吸着比表面積・ヨウ素吸着量 ・遠心沈降相当径(Dst):アグロメレートの分離に問題あり。 ・粒子径分布:遠心沈降相当径(Dst) 測定結果が大気中のものと限定されたら、装置が必要。 一次粒子、二次粒子に関する捉え方の統一見解が必要と考え る。 既存の多くの上市測定装置が「体積濃度による粒度分布」である ため、この方が好ましい。数濃度との相関も検討されている。 特になし。 ― ― ― ― ― 数十年前から使用されてきているAgペーストなどではナノ粒子と いう概念がまだ無い時代に」開発された製品もある。それらのAg 粒径は0.05μ m程度のものも有り、今まで何も影響がなかった実 績が有るにもかかわらず、急に規制がかかるという場合にどのよ うな対応をとればよいのか混乱が予測される。 取引なし。 ― 使用機器、測定条件の違いにより、測定値が異なる可能性があ る点。 製品は平均粒径が12nmであり、定義に該当し、販売に障害とな る。 ほとんどのナノ材料では、一次粒子はアグリゲートの一部であ 代用指標として、オイル吸着量(二次粒子発 り、定義の持つ物理的意味が不明である。一次粒子は手間・コス 達の指標)、比着色力(一次粒子の分布指標) トが掛かり精度が悪いTEM観察以外に適当な手段がなく、商取 も採用している。 引を阻害する効果以外ない。 特になし。 ・粒子径:TEM(表面コート品が一般的。BET 値を一次粒子の参考値として活用) ・TEM:手間が掛かる(品質規格はBETで取り交わす場合が多い)。 ・粒子径分布:TEM D社 ・TEM:観察視野狭く、再現性に不安あり。 ・レーザー回折・散乱法:実使用時(気中)状態を反映しているか疑問。 二次粒子径は分散強度の違いで大きく変化 するので、それを考慮した議論が必要(ユー ザーは承知している)。 ・粒子径:BET比表面積 ・粒子径分布:レーザー回折・散乱法 ・BET:再現性高く、ランニングコスト・習得問題なし。 ・レーザー回折・散乱法(1000万円以下):習得容易、前処理の分散一定化 現状取引で一次粒子での規定例はない。 が必要。 ・粒子径(一次径及び形状):SEM・TEM・(結 粒子径といっても、「前提条件」が多くあり、そ 数濃度の50%ではナノ製造を意図しない物質まで定義に該当し 晶子径)Ⅹ線回折 ・SEM・TEM:サンプル個数と視野の選択。 れが特定されないと、数値自体が一人歩きし てしまう可能性がある。市場の実情を調べ、妥当な閾値にすべき ・粒子径分布:動的光散乱法・レーザー回 ・動的光散乱法・レーザー回折・散乱法:サンプルの前処理方法の標準化。 ないか不安がある。 と考える。 折・散乱法 A社 C社 ・BET比表面積:一点法は数十万円からあり。 ・コールターカウンター法(数百万円):μ mオーダーで信頼性高いが測定粒 ・粒子径:(一次粒子)BET比表面積 子径範囲狭い、熟練要す。 ホワイトカーボン部会 シリカは凝集体構造のため、前処理方法によ ・粒子径分布:コールターカウンター法・レー ・TEM:測定には、撮影した粒子約3,000個程度の直径を画像処理により計 測定装置に依存しない粒度分布測定法の標準化が必要。 (湿式シリカ) り、測定結果が大きく変わる。 ザー回折・散乱法、乾式篩 測する。この処理を行うソフトウェアは安価であるが、処理に数日が必要で ある。また、多種のソフトウェアが市販されているが、それぞれを使用した場 合に、結果にどの程度差異が生じるかも不明である。 A社(無機薬品工業 会・亜鉛華部会) 酸化亜鉛 生産管理及びユーザーとの取引に使用し ている方法 現在工業的に製造・使用されている工業ナノ材料の計測に関する調査 団体・企業 ナノ粒子名 資料 2-2 資料 3 ナノ粒子粒径(分布)測定法の絞込み(案) 1.検討の前提条件(第2回計測技術WGの資料4、再掲) ①基本的な考え方 この資料に基づく検討の対象は粒子状物質に絞る。 一方、繊維状ナノ物質は、2次元材料であるため、その径の大きさ/分布の計測 が必要であり、別途議論する。(具体的な対象はカーボンナノチューブであり、現時点 においては電子顕微鏡による計測に限定される等問題がある。) ②重要度が高い技術 ナノマテリアルのキャラクタライゼーションに際しては、一次粒子の粒子径計測が 求められることがあるが、表1に掲載した各種技術の内これが可能であるのは TEM/SEM など限られた計測法のみである。 これらの内、電子顕微鏡(TEM/SEM)は一次粒子1個、1個を認識して、その幾何 学的な径を求めることができ、凝集状態も観察できる。測定可能な粒径範囲も十分に 広いので、他の計測法の検定にも用いることができ、測定法の基礎となるものであり、 必須の技術である。 一方、X 線回折(XRD)は、一次粒子(結晶子)の平均径しか求めることができず、 粒子径分布は計測できない。このため、TEM/SEM と比較して重要性は低い。 なお比表面積計測(BET)も平均値的な情報(表面積相当径)しか得られないが、 二次粒子の情報しか得られない測定法に対して、凝集状態の情報が得られるので補 助的な測定法として欠かせない。 ③気中計測法と液中計測法の位置づけ 気中計測法は、試料を気中に適切に分散させるという難度の高いプロセスを必要 としており、その手順を標準化しなければ計測データの信頼性を確保しがたいという 問題があるので、本 WG での検討対象からは除外し、原則的に液中測定法について 今後の検討の対象とする。 ④以上の点を考慮し、本 WG の検討対象とする技術を、試料が EU 定義に該当するかを 決めるフロー(案)の中に示す(図1)。 7 測定対象試料 粒子が繊維状か、 予備的情報 又は/必要なら 予備的観察/TEM,SEM,光顕 多孔質体かを判断 (通常は既知) 繊維状物質か? YES NO か? TEM/SEM による 直径・長さの分布測定 多孔質粒子か? か? NO YES BET 法による比表面積測定 YES 1cm3 当り 60 ㎡を 超えるか? NO 球換算平均径が 100nm 以下 (EU 定義ナノマテリアルに該当) 本資料の 検討対象 粒子状材料の粒径分布測定 100nm 以下の粒子 数が 50%以上か 超えるか? YES EU 定義ナノマテリアルに該当 YES NO TEM/SEM による粒径分布測定 100nm 以下の一次粒 子数が 50%以上か 超えるか? NO EU 定義ナノマテリアルに該当せず 図1 試料が EU 定義に該当するか否かを決めるための計測フロー(案) 8 2.第一段階の検討対象の絞込み(再掲) (1)表1から「適用サイズ範囲」の下限が10nm 以下・上限が100nm 以上で、粒径分布も 測定可能で、「平均粒径」の信頼性が◎である測定法を選び出すと共に、分級法のう ち粒径分布が測定できる流動場分離(FFF)を検討対象に加えることとした。 (2)これらの方法について、上記1.(2)の検討項目に関して現時点で得られている知見 を整理・記載して表2とした。 3.今回の検討(絞込み) (1)表2から、さらに装置価格が高額で、研究用・標準測定用装置を除外する。さらに、2.で は、適用サイズを、下限が10nm 以下・上限が100nm 以上としたが、100nm 前後の測定 も問題となること、小粒径が存在しない事が分かっている材料に適用できることから、 下限は数十 nm、上限は200nm 以上とする。これにより、動的光散乱、レーザー回折散 乱、誘電泳動グレーティング、超遠心沈降法の4方法に絞られることとなる。 (2)測定時における試料の分散については、液相では、超音波分散が通常であり、分散 媒は純水やアルコールが用いられる。物質に応じた分散剤を用いる場合もある。超音 波によって分散されない凝集体は、一個の粒子(二次粒子)として測定されることにな る。分散状態は、測定値に再現性があるかどうかの判定で、分散時間の管理によって いる。分散方法は、物質、製造法によって異なり、一律の標準化は難しい。 (参考)ドイツ化学工業協会(VCI)では、EU定義のナノ材料に該当するか否かの層別のフロ ーについて議論している。図2に示した。ディスク遠心沈降法とDLSが測定法として挙 げられ、DLSには適用に問題があるとしている。 9 表1 ナノサイズ径計測・分級法 (第1回WG資料6より) 対象の状態 固 液 液 気・液 液 液 液 液 液 液 一次・ 二次粒子* 一次粒子・ 二次粒子 一次粒子・ 二次粒子 一次粒子 (結晶子) 二次粒子 二次粒子 二次粒子 二次粒子 二次粒子 二次粒子 二次粒子 二次粒子 二次粒子 超音波減衰分光法 液 二次粒子 ナノ粒子画像解析法(NPT) 液 飛行時間測定(TOF)(APS) 気 測定法 気・液・固 透過型電子顕微鏡(TEM) 固 走査型電子顕微鏡(SEM) 固 X線回折(XRD) 固 Brunauer-Emmett-Teller比表面積計測(BET) 動的光散乱(DLS) 多角度光散乱(MALS) 静的光散乱(SLS) 単一角度光散乱(OPC) 計 小角X線散乱(SAXS) 測 磁場勾配核磁気共鳴法(PFG-NMR) 法 レーザー回折散乱(LD) 誘電泳動グレーティング(IG) コールターカウンター (超)遠心沈降法 分 級 法 流動場分離(FFF) 超臨界流体クロマトグラフィー(SFC) サイズ排除クロマトグラフィー(SEC) (ゲル)電気泳動 ふるい法 微分型静電分級(DMA) エアロゾル質量分級(APM) カスケードインパクター 多段サイクロン 気・液・固 液 液 液 液 液 気 気 気 気 測定物理量 適用サイズ範囲 (それぞれの 等価径による) 信頼性 平均 粒径 粒径 分布 備考 信頼ある平均値を求めるため には大量の測定点が必要 信頼ある平均値を求めるため には大量の測定点が必要 個数 幾何学径 0.05 nm - ○ ○ 個数 幾何学径 1 nm - ○ ○ 体積 回折線幅(シェラー法) 3 nm - 100 nm ◎ × アモルファスに適用できない 表面積 光強度 光強度 個数(=光強度) 光強度 個数 体積 体積 体積 体積 ガス吸着量 拡散係数相当径 1-500 μ m 3 nm - 1 μ m 10 nm - 500 nm X線散乱相当径 拡散係数相当径 ミー散乱相当径 拡散係数相当径 電気抵抗換算径 ストークス径 1 nm - 100 nm - 100 nm 30 nm** - 3 mm 1 nm - 200 nm 400 nm - 10 mm 10 nm - 10 mm × △ × ○ △ △ △ △ ○ △ 多孔質材料でずれが大きい 分布はモデル仮定の数値解析 レーリー散乱相当径 ◎ ◎ ◎ ○ ◎ ◎ ◎ ◎ ○ ◎ 体積 超音波散乱相当径 100 nm - 100 μ m ○ △ 二次粒子 個数 レーリー散乱・ 拡散係数相当径 10 nm - 500 nm ○ △ 二次粒子 個数 空気動力学径 500 nm - 20 μ m ○ ○ 測定対象 対象の状態 分級法 測定対象 個数・表面積・ 体積・光強度 一次・ 二次粒子注1 二次粒子 二次粒子 二次粒子 二次粒子 二次粒子 二次粒子 二次粒子 二次粒子 二次粒子 --- 分級原理 ------------------- 並進拡散・熱拡散 ゲル孔径・吸着性 ゲル孔径・吸着性 (ゲル孔径)・静電気力 ふるい孔径 電気移動度 遠心力・静電気力 慣性・ストークス 慣性・ストークス 適用サイズ範囲 (それぞれの 等価径による) 1 nm -1 μ m - 10 nm 1 nm - 50 nm 1 nm - 100 nm 20 nm 1 nm - 1 μ m 10 nm - 1 μ m 10 nm -10 μ m 500 nm -10 μ m 分離分解能 ◎ ◎ ◎ ◎ ○ ◎ ◎ ○ ○ 粒径は換算粒径で定性的 分布はモデル仮定の数値解析 分布はモデル仮定の数値解析 分布はモデル仮定の数値解析 分布はモデル仮定の数値解析 分布はモデル仮定の数値解析 分布はモデル仮定の数値解 析・濃厚でないと計測不可 希薄でないと計測不可・アンサ ンブル量を求めるためには長 時間測定が必要 粒径は換算粒径で定性的 備考 分離サイズレンジが狭い 分離サイズレンジが狭い (産業技術総合研究所作成) *: 凝集体がない場合は一次粒子も二次粒子と表記。 **:最近10nmまで拡張された(JFEテクノリサーチ) 10 表2 検討対象ナノ粒子粒径/粒径分布測定法 測定法 動的光散乱 (DLS) 小角 X 線散乱 (SAXS) 磁場勾配核磁気 共鳴法 (PFG-NMR) レーザー 回折散乱 (LD) 測定原理 粒子にレーザー光を照射し,互いに干渉しあう散 乱光を光子検出器で観測する.このとき粒子の 位置はブラウン運動により変化するため,散乱光 の干渉による強度分布も揺らぐ.このブラウン運 動の様子を散乱光強度の揺らぎとして観測する. 観測される散乱光の時間的な揺らぎの変動は粒 子の大きさによって変化するため,この散乱強度 の揺らぎをある時間内における散乱強度の変化 を観測し,光子相関法により自己相関関数を求 め,拡散係数を算出する。重量当りの拡散係数 相当径が求められる。 入射したX線の粒子内の異なる位置の電子の散 乱から生ずる光路差による位相のずれの散乱角 度に対する散乱X線の強度が減衰する散乱プロ ファイルを解析する。Ⅹ線散乱相当径が求められ る。 通常の NMR 測定にパルス磁場を印加し、粒子の 拡散移動距離に関する情報を取り出し、個数当 りの拡散係数相当径を求める。 液中分散の粒子により回折した光をレンズで集 光するとレンズの焦点面に回折パターンができ、 光の回折角度は粒径の小さいものほど大きく,粒 径の大きいものほど小さい.このためにレンズ焦 点面での光強度分布はさまざまな大きさの粒子 からの回折光が混ざり合った結果となり,粒子サ イズが小さくなるにつれて角度に対する回折パタ ーンの変化が小さくなっていくことを利用して回折 光強度分布から Fraunhofer の回折理論を用いる 粒子径 範囲 3- 1000nm 1- 100nm 測定の難易度 信頼性 装置の使用方法が非 常に簡便で 、液中 粒 径計測汎用装置と し て現在大量に販売さ れており,液中粒子の 品質管理などの観点 から需要性は高く,ナ ノ粒子における液中 粒径・ 粒径分 布計 測 装置として最も汎用的 な装置。 材料に応じた解析が 必要。ソフトウェア。 規格化された「電場自 己相関係 数」 の解 析 法によって粒径分 布 は容易に変化してしま う。小さな粒子の存在 が大きな粒子の散乱 に隠されてしまう弱点 がある。ブラウン運動 が支配的な系の信頼 性は高い。 主として構造解析に 用いられる。結晶子 等規則的な構造を持 つもの。比較的狭い 粒度分布に対応。 650 万 円 か ら。 (産総研開 発)装置が 巨大で、維 持管理が困 難。 980万円 国産あり。 0.5- 100nm 専門性が高い。 測定に長時間の積算 が必要。 大粒子の影響が無 30nm3mm ルーチン化。短時間 で測定可能。 レーザー回折散乱法 は光の回折現象と Mie の散乱現象の双 方を利用して粒径を 求めるため,極めて 広い粒径範囲での測 定が可能である.温 度や流れ場の影響が 少ない。 11 機器/ 測定コスト 710~780万 円、国産あ り。 測定時間数 分。 大きさ; W:320× D500× H310程度 い。 外注分析 の可否 可 総合判定 絞込み対 象となる; 但し解析 法の明確 化、大粒 子が有れ ば分級が 必要。 適用対象 が狭い。 国産あり。 市販品が ない 可 絞込み対 象となる; 但し解析 法の明確 化 が 必 要。 ことにより粒径分布,平均粒径を算出する.また 粒径分布は数学的解 散乱光も Mie 散乱理論に基づき同様に粒径に依 析法 を 用 いて 算 出し 存した各角度における散乱強度パターンを示す. ているため,測定結 このため観測される光強度パターンは粒子によ 果が解析装置に大き る回折光と散乱光の混合したパターンとして観測 く依存する.また解析 され,角度依存の光強度パターンを解析すること には測定粒子自身の により,平均粒子径だけでなく粒子径分布を同時 屈折率を必要とする。 に得ることが可能である。 誘電泳動 外力により媒質中に粒子の周期的な濃度分布を 1- ル ー チ ン 化 。 30 秒 で 粗大粒子の影響を受 グレーティング 形成すると、回折格子を形成、外力を停止すると 200nm 測定。 けない。シングルナノ (IG) 拡散により回析格子は消滅する。この粒子密度 領域での粒子測定に 回析格子の消滅過程を、回析光の強度変化で計 おける不安・あいまい 測し、拡散係数を求める。 さ解消。屈折率不要。 (超)遠心沈降法 大きく分けて沈降速度法と沈降平衡法の2通りの 10nm測定はルーチン化さ 粗大粒子の影響を受 (AUC) 測定方法がある。沈降速度法では沈降係数や拡 10mm れている。測定時間 けず、高分解能であ 散係数が得られ、粒子径や粒度分布が求められ は若干必要。 る。 る。沈降平衡法では比較的低速でローターを回 (粒子密度による) 転させ,溶質の沈降と拡散が平衡に達した時点 における濃度分布を観測する。光検出系でセル 全体を走査し、位置による粒子濃度分布パター ンを得て、経時変化による沈降パターンを解析 し、粒度分布を得る。Stokes 径が求まる。 流動場分離 粒子のサイズに依存した自己拡散現象と外部か 1- 測定装置自身の汎用 平均粒径や解析的手 (FFF) ら拡散と逆方向に力を与えることにより,粒径に 1000nm 性が非常に低く,また 法で求められた粒径 よるサイズ分離を行う.このとき外部から与える 理論通りに粒径分離 分布ではなく,直接分 力として流れ,遠心力,熱,磁場,静電エネルギ が 進 ま な い こ と が 多 級した 粒径分布を求 ー,パルスなど多々あり、それぞれの装置におい く,測定条件の決定や めることが可能。 て分離条件の最適化を行っていくことで広い粒径 最適化の困難さが課 領域・物性を持つ粒子をさまざまな物理化学パラ 題。 メータを元に多種多様な分離を行うことができる 可能性を持っている。 本表は下記の技術資料を参考として、一部追記したものである。 加藤晴久;産総研計量標準報告 Vol.6,No.4 p185-200(2007年12月) 「ナノ粒子粒径分布標準物質に関する調査研究」 12 1,000万円 ~。 国産。 可 価格がや や高い。 AUC は 2,000 ~ 3,000万円。 国産なし。 比較的大型 装置。 ディスク型は より小さい。 国産あり。 1,000~ 5,000万円。 国産無し。 可 価格が高 い。 可 測定が難 しく、価格 が高い。 ナノ材料の層別と測定のVCIの階層的アプローチ 全製品 第0段階の層別 EU定義に従い基礎的パラメータによる大多数の材料の選別 EU定義によるナノ材料 (CNT、フラーレン、グラフェン) ナノ材料の可能性 粉体と分散品 (染料、フィラー、粒状物質、鉱物) EU定義による ナノ材料非該当品 (液体、ガス、ポリマー、蛋白質、 ナノ複合体とナノ表面構造、等) 第1段階の層別 BETおよび技術的に可能で適当なDCかDLSの使用 BET測定 による比表面積による該当性 DC/DLSによる 粒度分布による該当性 DC: Disc Centrifuge DLS: Dynamic Light Scattering (適用に議論の余地がある) 個数粒度分布平均>100 or 体積比表面積>20 or 質量粒度分布平均<200 個数粒度分布平均 <100 質量粒度分布平均>200 or 体積比表面積<20 第2段階「最終確認」 EU定義の ナノ材料 個数で50% <100nm 電子顕微鏡確認 半自動SEM/TEMによる 粒径確定 粒子測定数:1,000個 個数で50% >100nm EU定義の ナノ材料に非該当 体積比表面積:m2/cm3 粒度分布:nm 図2 VCIによるナノ材料の層別と測定の階層的アプローチ 13 資料 4 ナノ粒子を含むシリカ粒子の粒径分布測定例 ―ナノ物質の計測等技術的課題等に関する調査(抜粋)― 1.実施機関(期間) 独立行政法人産業技術総合研究所 ( 2011年12月~2012年3月) 2.調査内容 透過型電子顕微鏡(TEM)および電界放射型走査電子顕微鏡(FE-SEM)による測定 対象粒子の粒径分布測定を行い、動的光散乱( DLS)等計測器、流れ流動場分離 (FFFF)等粒径分級法と濃度測定法の組み合わせによる粒径分布測定装置による粒径 分布測定を行い、各結果を比較する。 3.実験 3-1 測定対象試料 試料は、凝集体のない分散されたシリカ粒子である。試料 A、B(A 社製)、試料 C(B 社製)、試料 D(C 社製)、試料 E(D 社製)で、TEM 測定は試料 A-C、FE-SEM、DLS、 FFFF 測定では試料 A-E を使用して測定を実施した。 3-2 測定装置 ・透過型電子顕微鏡(TEM);日立製 H7100FA、スケール/TEM カーボングレーティング (17-1022 Oken) ・電界放射型走査電子顕微鏡(FE-SEM);日立製 S-4800(SEM(A))及び FEI 製 Quanta250FEG(SEM(B)、スケール/AS100P-D 測長スケール ・動的光散乱(DLS)測定 DLS 装置 A(ホモダイン系光子相関法(90 度散乱)①) DLS 装置 B(ホモダイン系光子相関法(90 度散乱)②) DLS 装置 C(ヘテロダイン系周波数解析法(後方散乱) ・本測定前にラテックス標準試料を用い、計測装置の妥当性検証を実施 ・得られた時間相関関数はそれぞれの装置に予め組み込まれているプログラ ム ソフトを用いて解析を行った。 光子相関法に基づく本測定結果のベースとなる解析法としては Cummulant 法 ならびにヒストグラム法(マルチディスパース)、逆ラプラス変換法を解析方 法として使用した。 14 ・DLS によって求めた個数平均粒径値は、光強度平均粒径値から粒径分布・ 形状などの一定の仮定を踏まえた数学的処理により算出した。 ・流動場分離法(FFFF)測定;流動場分離部は AF2000 (Postnova, Germany)システム、 散乱光を検出する多角度光散乱(MALS)装置は Wyatt Technology 社製 DAWN‐EOS、オンライン UV 検出器は紫外吸収検出器(TOSOH UV-8010)を 用いた。 MALS 検出器の校正については、トルエンの散乱角90°での散乱を測定して 装置定数を決定。 4.測定結果 4-1 TEM 図1、2 に実測された TEM 画像とその解析結果の例を示す。解析には赤線で囲われ た粒子について粒径値を計測し、画像の端で粒子が切れているもの、粒子の重なりの境 界が不明瞭で一つの粒子か複数の粒子かの判定が難しいもの、粒子が壊れているものは 粒子径算出から除外している。粒径の算出は粒子画像の重心か ら、角度の範囲を0179°、間隔 1°で算出された粒径値の平均値を評価値とした。 図3 に試料 A、B、C における TEM 測定結果の個数、体積、光散乱強度濃度基準の累積 粒径分布評価結果を表示した。図3b については粒子が真球仮定での換算、図3c については 粒子からの散乱光がレーリー散乱のみであるという仮定を用いての換算値となる。試料 A に ついては2523 個、試料 B については996 個、試料 C については607 個を解析した結果を示 している。 15 16 また、図4 に試料 A について10 枚の TEM 画像(一画像に200 個以上の粒子を含む)を それぞれ解析した際の、個数、体積、光散乱強度濃度基準の累積粒径分布評価結果を表示し た。個数濃度ではほぼ差がないように見えるが、光強度濃度まで変換すると換算粒径分布値 が視野に大きく依存することがわかる。このため、DLS 等の非常に多数の粒子群を重量(体 積)or 光強度濃度基準で一括に計測している測定法による結果と、TEM 計測による個数基準 濃度に基づいた粒径分布計測結果を比較する際には、注意が必要であることが改めて確認で きる。 4-2 FE-SEM 図5 に計測された FE-SEM 画像を示す。測定用の試料調製の問題から分散性が悪く、十 分な精度での粒径分布解析を可能とする測定結果が得られない。一方で、電顕による粒径分 布計測には当問題が常に存在していることがわかる。また図6 に示されるように、測定用試料 がうまく調整されていても画像における粒子の外郭がノイズや濃淡表現となるため、粒径算出 に一定の不確かさをもつことが確認される。 図7 に試料 A、C、D、E における FE-SEM 測定結果の個数、体積、光散乱強度濃度基準の 累積粒径分布評価結果を表示した。図7b については粒子が真球仮定での換算値となる。試 料 A については491 個、試料 C については2242 個、試料 D については1394個、試料 E に ついては1057 個を解析した結果を示している。 17 4-3 DLS 異なる測定原理に基づく DLS 装置を使用し、各試料について粒径分布測定を実施した結果 を図8-10 に示す。DLS 装置により測定粒径分布が大きく異なることが確認できる。ここでは、 個数濃度基準の累積粒径分布測定結果のみを示した。 18 4-4 FFFF 流動場分離法により粒径分画した試料について多角度光散乱検出器で各分画成分の粒径 をそれぞれ評価し、濃度検出器にて粒径分布を求めた結果を図11 に示す。傾向としては TEM や SEM と類似していることが確認できる。 5.測定結果のまとめ 図12-15 に同一試料における測定結果を比較した結果をまとめた。測定結果の概観として、 以下のことが確認された。 19 1) DLS は装置により粒径分布が大幅に異なる、 2) TEM・SEM の結果は他の測定方法と比較すると粒径分布が広く且つ粒径が小さい、 3) FFFF と TEM・SEM の粒径分布の傾向は類似しているが一致はしない、 4) 狭い粒径分布の試料ならば、ほぼ全ての計測法は比較的類似した結果を得ることが出来 る、 6.粒径100nm 以下の粒子の個数割合評価に関する考察 6-1 本測定における不確かさの考え方と評価 本節の紹介は、省略するが、TEM、SEM における不確かさ評価(スケール、粒径算出の不確 かさによる)のみ示す。 20 6-2 手法間の粒径100nm 以下の粒子の割合評価 表2 に各試料における粒径100nm 以下の粒子の割合を異なる測定手法で測定した結果を まとめた。6-1 に基づく不確かさ評価の元、評価される“粒径100nm 以下の粒子の割合”につ いての分布幅を表示している。TEM・SEM では粒径分布がある程度広いと評価値の幅は小さ いが、試料 D のように粒径分布の狭く対象平均粒径が100 nm 近辺であると、評価値の幅が 非常に大きくなる。 7. まとめ 1)5 種類のシリカ粒子それぞれについて、TEM および SEM による粒径分布測定を行い、その 個数平均粒径・個数粒径分布・粒径100nm 以下の粒子の個数割合を求めた。結果を表3 に まとめた。 21 2)5 種類のシリカ粒子それぞれについて、DLS ならびに FFFF による計測評価を実施し、各測 定間 の粒径100nm 以下の粒子の個数割合評価結果と比較した(下記図17) 3)以上より、下記のことが確認された。 ・ 個数平均粒径が50-60 nm、CV 値が40- 50%程度の試料(試料 A)では、一部の DLS による評 価結果を除き、粒径100nm 以下の粒子の個数割合評価における測定方法での大きな差異は ない。 ・ 個数平均粒径が約80 nm、CV 値が50 %程度の試料(試料 B)では、DLS で評価される粒径 100nm 以下の粒子の個数割合は、0-10 %程度であり、TEM や FFFF で評価された60-70%よ り過小評価された。 ・ 試料 A、B、C の評価において、TEM と FFFF は個数割合評価において類似した結果を与える ことが確認された。 ・ 個数平均粒径が約100 nm、CV 値が10%程度の試料(試料 D)について、100 nm 以下の個数割 22 合でナノ材料の適否を判定する場合、測定の不確かさを考慮すると、実際には100 nm 以下 の個数割合が50%未満であるにも拘わらず、ナノ材料として判定せざるを得ない試料の割合が 増加する。これは、測定の不確かさを考慮することに起因する評価結果の中心径からの僅か な変動が、粒径100nm 以下の粒子の個数割合の変動に大きな影響を与えるためである。(図 17 の試料 D の SEM による評価結果参照)。 ・ 個数平均粒径が約110 nm、CV 値が10%程度の試料(試料 E)では、一部の DLS による評価結 果を除き、粒径100nm 以下の粒子の個数割合評価における測定方法での差異はない。 ・ 検討した5 種類の粒子について、粒径分布が広い場合(CV 値が30-50%)・狭い場合(CV 値 が10%程度)において、TEM・SEM・FFFF は粒径分布の違いを反映した評価結果を得ることが できる。一方、DLS では100 nm 以下の個数割合評価値における装置間差が大きく、個数割 合評価の信頼性が低い。 ・ 当評価は液中で一次粒子として分散している試料であることが必要条件であることを付記す る。 【参考】異なる FE-SEM 測定結果の比較 電子顕微鏡における測定結果は測定試料調製方法や倍率等により、評価される平均粒径 値・粒径分布が大幅に変化してしまう可能性がある。そこで当問題点を明確化することを目的と し、別委託会社に測定評価を実施した結果を比較検討した。 ・電界放射型走査電子顕微鏡(FE-SEM)装置;Carl ZEISS 製 ULTRA55(SEM(C)) 倍率の校正未実施 23 代表的な測定結果を図A-1、A-2 に示す。双方の試料において試料調製方法が異なること に起因して、特に試料A については粒径解析が非常に困難であることがわかる。また、試料D についても多層の試料調製となっており、解析に不確かさを与える。さらに測定では倍率校正 が未実施であり、また倍率が低いため、各粒径値算出(本文8-1-5-2 に該当)において使用さ れる相対標準偏差が、大きいケースでは50%を超えてしまう結果が得られた。 比較のため、各測定結果を累積分布で並べた結果を図A-3~A-5 に示す。分布の狭い試料 D、E についても粒径分布が大幅に異なる結果が得られた。 結論; FE-SEM 測定についての測定結果を比較したが、測定試料調製方法や使用するスケール、 測定倍率により計測不確かさが非常に大きくなり、測定結果を同軸で比較することが困難であ ることがわかった。このことは電子顕微鏡、とくにSEM 測定においては試料調製法に関する標 準化が非常に重要であることを意味している。 24 25 資料 5 EU のナノマテリアルに関する定義への対応について 1.EU のナノマテリアルに関する定義と規制 欧州委員会は10月18日、ナノマテリアルの規制上の定義(※)を「ナノマテリアルの定義に関する 欧州委員会勧告」の中で発表した。ナノマテリアルは通常、サイズ分布を持つために、国際標準 化機構(ISO)による「1~100nm」という内容だけでは規制行政上の定義としては十分とは言えな い。そこで「規制目的での定義」が新たに必要とされたため新しい定義が公表されたもの。 ※:ナノマテリアルの定義: 「ナノマテリアル」とは、非結合状態、または強凝集体(アグリゲート)または弱凝集体(アグロメレ ート)であり、個数濃度のサイズ分布で50%以上の粒子について1つ以上の外径が1 nm から100 nm のサイズ範囲である粒子を含む、自然の、または偶然にできた、または製造された材料(マテ リアル)を意味する。 ナノマテリアルの規制目的で、2014年にナノマテリアルの規制目的でナノマテリアルに関する定 義を導入するという非公式情報がある。なお、仏国では、2013年1月から上記定義に該当するナ ノマテリアルの届出を義務付ける意向を示していたところ(引き続きEU当局と調整が続いている 模様)(100g/年以上)。 2.規制の導入による我が国粉体材料メーカー(原料粉体及び加工粉体を含む。以下「製品」と言 う)への影響 (1)自社の製品にナノマテリアルが含まれると認識しているメーカー ・EU への輸出に対して、水際での判定を受ける。 ・届出(多分、現地代理人を利用)、商取引(受入検査)の2通りで定義該当性を調べることにな る。 ・大手メーカーは、TEM による測定を製品開発時、または、商取引時に実施している場合が多いと 予想。 (2)製品に含まれるナノマテリアルが実際にはナノサイズでないにも拘わらず、「ナノ」として自称 (過大宣伝?)しているメーカー ・上記ナノマテリアルと自認しているメーカーと同様の影響がある。 ただし、実際に測定すると、ナノマテリアルに該当する可能性はあす。 (3)製品に含まれる材料がサブミクロン領域と思い込んでいるが実際にはナノサイズであるメーカ ー ・従来慣れ親しんでいる重量粒子径分布でサブミクロン領域に該当していても、個数粒子径分布 で判定した場合は該当することが起こる可能性が高まる。 26 ・メーカーは、ナノ領域の粒子径測定は想定していないので、測定(装置)が必要になる。 (4)製品を予期せずにナノマテリアルとされてしまうメーカー ・製造時、運搬時の微粒子化等により、重量では極く僅かでも、数にすると100nm 以下が50%を超 えてしまう。分級操作などが必要になる。 3.ナノ領域の粒子径・粒子径分布の測定法の現状 EU のナノマテリアルに関する定義に自社のナノマテリアルが該当するか否かを判定するため には、一次粒子の個数粒子径分布を測定する必要がある。 現状では、種々の粒子径測定方法があるが、一次粒子の測定が可能な測定方法は電子顕微 鏡(TEM/SEM)に限られる。 一般的に、BET 測定や2次粒径測定法で1次粒子のサイズまで測定することはできず、EU 定義 に該当しないことを証明するためには現状では TEM/SEM を用いる以外の方法はない。 ドイツでは平均粒径が100nm よりはるかに大きい場合に TEM を使用しない測定方法が検討さ れている。(ドイツ化学工業会(VCI)の議論) (1)TEM の課題 1次粒子のサイズ測定にはTEMでしか対応ができないものの、TEMにも課題がある。 ・TEMのための標準物質がない。 ・1次粒子の明確な界面を持つものでなければ測定が困難(例えばカーボンブラックなどは測定困 難、誤差が大きくなる)。 ・電子線による試料へのダメージがある場合がある。 ・装置価格、維持費が高額 ・計測には高度な技術習得が必要 ・観察視野が狭くサンプリング方法や分散方法により結果が異なる。方法の標準化が必要。 ・実試料の粒子径分布情報を精度高く得るには、相当量の粒子数を、試料の代表性を損なうこと なく、測定する必要があり、手間と費用が嵩む。(同一装置での繰り返し測定間でも測定差が生 じる)。 (2)現状の TEM 測定結果に基づく定義該当性の判定 我が国粉体メーカー側の測定値が定義に非該当であっても、EU 側の測定値が定義に該当す るケースが考えられる。 EU 登録の際に使用する代理人が委託する測定機関の測定値と EU 側の測定値の間でも同じこ とが言える。 27 4.考えられる今後の対応策 (1)当面EUでの規制動向の情報収集に努める。 現状ではTEM測定でも実務的に対応が可能とは言い難く、これは日本企業だけの問題ではな くEU域内の企業も同じ状況であることから、TEM の位置付け・課題については当面EU当局の動 きを見極めつつ整理していくこととする。 (2)定義の50%に対して安全代を持って対応するメーカーが出てくる。 ナノマテリアルに該当しない場合でも、規制に従う。 TEM 測定も含め費用が嵩み、規制を受けることにより諸影響がある。 (3)測定の不確実性を低減させる技術開発を行う。 28 2) 第4回計測技術ワーキンググループ 第4回計測技術ワーキンググループは、平成24年7月24日に開催され、委員 の内9名出席、1名代理出席で行われ、以下の討議が行われた。 議題: (1)第3回WG議事要旨の確認について (2)第3回WGの論点に関する委員コメントについて (3)計測技術WGの中間まとめ(案)について (4)その他 <配付資料> 資料1 第3回 WG 議事要旨(案) 資料2 第3回WGの論点に関する委員コメントについて 資料3 計測技術WGの中間まとめ(案) 参考資料 TEM を用いたナノ粒子径計測の標準化状況 ①議題3:計測技術 WG の中間まとめ(案)に関する議論 ・超遠心沈降法は、ナノ粒子計測には時間が掛かりすぎるし、ディスク破損時の危 険がある。逆行した提案でないか。→50nm ぐらいまでならば、数千回転程度で、1 ~2時間で可能。 ・EU の個数粒径分布(50%)と米国の重量(10%)の定義内容の比較、狙い等の議 論をもう少し深めて記載してほしい。→米国は二次粒子を LD で計測しているので、 難しい議論になる。 ・JIS 規格に計測に関する用語の定義があるので、これに合わせるように、修正す る(例;粒径→粒子径、重量粒径分布→質量、体積)。 ・第三者機関による測定でのお墨付きの必要性は? →現状 B to B では、自社測定結果でやれているが、定義に沿うとなると別。 →TEM でも、測定結果のばらつきが必ずある。再現性のどこまで確保できるかが課 題。①ISO で手続きの標準化をし、許容範囲を含めて測定値の共有化を行う(○ ±○%が○%以上)、②国際認定機関が計測、③国の代表的機関同士の比較、 の手順で段階を上げていくのがよいのではないか。 ・欧州は、EU、JRC の人的交流が頻繁に行われ、仕組みとしてしっかりしている。 ・開発は、簡便法の旗を降ろすべきでない。→新簡便法はきっとある。 ・欧州の個数基準は、トキシコロジスト側からの意見を反映している。定義に対して、 欧州企業は、困っており、不満がある。計測法は2つ以上で行うのが現実的で、 29 TEM と超遠心沈降法か?超遠心沈降法はよい方法(オランダの Dr. Cassee 氏) で、NIST も検討している。 ・一次粒子は、リスクサイドから見て本当に必要なのか、回答が未だでていない。 ・一次粒子を測る方法は TEM しかないが、300nm は TEM で測れるのか?50~数百 nm の領域の一次粒子を数えるのは、難しいのでは。個数を数えるのは、無限個 になる。欧州も日本と同様な議論をしている。 ・TEM にこだわり過ぎると、先に進まない。LD と TEM の相関性を見ていく(例;85% 相関)とか。→材料ごとでケースバイケースである。凝集粒子を測るのに対して、 一次粒子を測らなければならない。凝集状態というパラメーターが入る。そこを注 意せよというプロトコルを出すしかない。 ・CB は溶着しているものを一次粒子としてよいのか。一次粒子の定義が必要では ないか。示した写真には、一次粒子そのものが分散しているものもある((A 等)、 表中の○△の見直し必要)。 ・表中で、「粒径」は何を意味しているか分かりにくい。この列は不要ではないか? →BET の計測が入っているので、複雑になっている。個数粒径分布の欄に「平均 粒径」と記入すれば、「粒径」欄は省ける? ・IG は金属の計測は問題ないか?→メーカーとしては、○のままにしたい。 ・CB は、光を使用した計測(LD、DLS)は難しい。吸収してしまう。 ・CNT は、SWCNT のバンドルはラマンで測っている。CNT の記述は全体的に見直 す(山本委員の手を入れる)。 ・「換算*2」の説明「数学的処理」をもう少し詳しく書く。 ・光を使う方法と遠心沈降法は原理が異なる。単に○で同じ表示をするのではなく、 強弱を付ける必要があるのではないか。 以下に、配布された資料の内、検討に用いられたものを示す。 30 資料 2 第3回計測技術WGの論点に関する委員のコメント 1.論点1:「フロー中多孔質粒子を入れる必要があるか」について 回答数8で、要、不要が半ばしている。「1次粒子が強く凝集したり,凝結している場合と,多 孔質体であることを区別することは困難で,判断する術がない」という指摘は、その通りであ .. るが、この場合、そうであるがゆえに、製造者の意図として多孔質粒子を作成している場合に は、比表面積を測定しても意味が無いので、このフローとしている。従って、繊維状粒子も含 めて、製造者情報として、繊維状か、多孔質かを問うフローとし、予備的情報(ここに、測定が ある、という印象を与えた)という項目を外せば良い。繊維状か多孔質かは、測定する必要は ないので、不要論に対する答えともなる。 このフローを規制に使うかどうかを明確にすべきという意見に対しては、これはあくまで、 EC 定義対応で、製造者が自社の製品の測定の参考に利用するためのもので、規制者がナノ 材料であるかどうかの判定に用いるものではないという答えである。 2.論点2:FFF の扱い 絞込み対象とすべきか、意見は半々。FFF は、産総研の測定から電顕法の代替になりうる からという理由が、残すべきとする主な理由であった。しかし、産総研が測定した試料には、 凝集していないものであり、一次粒子が測定できるという TEM の他に無い特性は代替出来な い。凝集が無い場合は他の方法でも TEM に近いデータは出せる。装置内に多くの粒子が沈 着し,粒子径によってその量が変化するという、FFF を研究された委員のご経験を尊重する べきだと思われる。業界アンケートでも使われていないこともあり、残さないこととする。他に、 測定指針は、マトリックス的に示すか、少なくとも2つ以上の方法によるべきとする、というコメ ントがあった。 3.論点3:産総研の測定から示唆される事 多岐に亘るので、個々のコメントを列挙する。 ・産総研の測定は「検証」とはならない。 ・TEM もばらつくので、代替法も合わせて開発すべき。 ・モデル検証に過ぎず、DLS を採用する際の重要な留意事項である。 ・単分散に近い試料であれば,どの装置でも良い結果を示すという、従来から判明しているこ とである。(DLS で粒子径分布の広い試料を測定すると,同じ装置ですら,結果が異なるこ とが多々あり,装置間の器差も大きいことは周知の事実。FFF での試料粒子の分級時に装 置内での粒子付着が問題となり,各粒子径に対する濃度の算定に疑問が残る。今回のデ ータは SEM や TEM の測定結果と一致していたと報告されているが,これを一般化する原 理原則が見当たらず,単なるケーススタディとしてしか取り扱えない。) 31 ・日本粉体工業技術協会の検討結果の域を出ていない。 ・DLS は粒径分布の広い材料の評価では不確かさが大きく、装置間差が大きく、標準化は困 難かもしれない。分布の広い材料では FFF のような分級法の活用が不可欠。 ・測定に使用した試料は調整された単純なものである。実物、またはそれに近いもので検証し なければ、測定方法の選定と対応の優先順位決定において間違った判断をする可能性が ある。 ・貴重なデータだと思う。逆に、これらのデータからも“単一の手法に絞り込むこと”や“優先順 位を絞ること”が困難であることがわかる。更にレーザ回折・散乱法や、誘電泳動グレーテ ィング、超遠心沈降法などのデータを加えるとまとまった方向性が見えなくなる(=発散す る)可能性が高い。 これらのコメントは、「計測技術 WG 中間まとめ」(案)に、抽象的であるが反映されている。 4.論点4:粒径分布の測定結果の不確実性を低減する技術的対応 ・自社製品が EU 定義に該当するか否かを求めるだけなら、TEM を持たない会社は依頼分析 すればよく、その結果と相関のある BET などで工程管理すれば良い。その観点から TEM,SEM に非常に相関性のある代用測定装置を推奨することで良い。あとどこまで付随 的に物質毎の測定ガイダンスを提供出来るかだ。 ・1-100nm の粒分濃度が50%以下かどうか(40%か30%か)が判断できれば良いわけで、簡略 TEM(安くて精度もそこそこ)の開発を目標とすべき。遠心沈降法開発をベンチャー企業を 募って進める。 ・新技術の開発は時間を要することから当面は TEM を使いこなすしかないと思われる。しかし ロングスパンの新技術の開発は平行して行われるべき。 ・TEM を使いこなすには,TEM 試料の作製が重要であるが、TEM 測定とその結果の解析には 多大な時間が必要で,たとえ解析を自動化できても手間と費用がかかる。そこで,現実的 な対応として,遠心沈降法の測定装置の見直しが重要と思われる。これも測定に時間はか かるが,電子顕微鏡より短時間で結果が得られ,測定原理が明確である点が優位。問題 は,極微小粒子の存在のため,全粒子径分布が得られていないとき,質量基準から個数 基準に変換する数学的手法の開発と,それが受け入れられるかという点である。 ・TEM を使いこなすのは共通の機関ですべき。簡易測定が可能かどうかを優先する。 TEM,SEM で測定でき、1桁程度の分布を持つ多分散の粒子状標準物質(球形、中実)を準 備できないか。 ・新規技術の開発期間およびナノ材料に関する規制の導入時期等を考えると、併行して進め るべき。また、ナノ材料か否かの評価を行える公共的な試験研究機関の整備も併せて考 慮する必要がある。 ・ナノマテ定義に該当するかの検討には TEM を使いこなす対応を優先すべき(品質管理に定 32 常的に用いる場合は除く)。ただし、先々の EU の動向も考慮すると、上記マトリックスも同 時検討しておくことが重要。新技術の開発については、マトリックスを作成後、どの部分に 該当する技術を狙うのか明確にした上で、GO すべきか決めるべき。 ・TEM を優先的に考える方向で進むと、結局すべての対象を TEM で観察することになり、設 備やコストなどの点で混乱が予想される。TEM ありきは現実的ではない。ロングスパンで考 えるならば、“おおよその値”をチェックする(例えば粒子径分布や形状はわからないが、 50nm 以下の割合のみわかる)技術や装置は検討する値打ちがある。実現可能性は不明。 以上、ご意見を列挙したが、これらの指摘点は、多くが「計測技術 WG の中間まとめ」(案) に反映されている。 33 資料 3 計測技術WGの中間まとめ(案) 2012年7月24日 34 目次 1.計測技術WGの検討範囲 ......................................................................................................................................... (1)目的 ...................................................................... (2)検討内容 .................................................................. 2.ナノ物質の計測技術をめぐる状況 ........................................................................................................................ (1)欧米における規制動向とナノ物質の定義 ........................................ (1-1)EU .......................................................................................................................................................... (1-2)米国 ...................................................................................................................................................... (1-3)その他諸国 ........................................................................................................................................ (1-4)粒度分布を考慮したナノ物質の定義 ...................................................................................... (2)現状のナノ物質計測技術 ..................................................... (3)我が国のナノ物質製造メーカーが使用している計測技術 ........................... 3.ナノ物質の計測法の提案.......................................................................................................................................... (1)ナノ物質の定義に対応可能な計測技術 ......................................... (1-1)ナノ物質の定義について.............................................................................................................. (1-2)ナノ物質の定義に対応可能な計測技術の絞込み ............................................................. (1-3)ナノ物質ごとの適用技術 .............................................................................................................. (2)計測における課題と定義対応の方向 ........................................... (2-1)計測法にかかる現状認識............................................................................................................ (2-2)個数ベースの定義(EU における EC のナノ定義勧告)への対応について............... (3) ナノ物質の計測法の提案 .................................................... 4.今後の課題 ..................................................................................................................................................................... 35 1.計測技術WGの検討範囲 (1)目的 国内企業が製造しているナノ物質の生産管理やユーザーとの商取引に必要な ナノ物質のサイズ、含有量等の測定が可能な技術を整理し、必要な信頼性が確保 でき、産業界が日常的に使える実用的な計測方法を提案する。 なお、労働作業環境、一般環境(大気、水質、土壌等)の計測は検討対象外とす る。 (2)検討内容 ナノ物質の素材毎(炭素系物質、酸化物系物質、金属系物質など)、形状(粒状、 繊維状など)や特性(溶解性など)に対応した適切な計測技術について検討する。 提案された計測方法について、工業会や企業の協力を得て、適切に計測可能 かどうかを確認する。 2.ナノ物質の計測技術をめぐる状況 (1)欧米における規制動向とナノ物質の定義 (1-1)EU EC 環境総局(Directorate-General for the Environment)は、2009年、ナノ物質に 関 係 す る REACH ( Registration, Evaluation, Authorization and Restriction of Chemicals)ガイダンス文書を将来的に改訂するための助言をまとめる3つのプロジ ェクトを JRC(Joint Research Center)に依頼した。JRC は依頼を受け、ナノ物質とし て扱う物質の特定(Substance Identification: RIP-oN1)、届出に必要な情報要件 (Information Requirements、RIP-oN2)、および安全性評価(Safety Assessment、 RIP-oN3)の3つのプロジェクトを調整して実施し、REACH ガイダンス文書改訂に向 けた助言をまとめている。 RIP-oN1は2009年10月に開始され、2010年末に完了し、2011年3月に Advisory Report としてまとめられた。当時まだ「規制に関連したナノ物質の定義」に関する論 議は EC において決着していなかったため複数の考えを併記している。 他の2つのプロジェクトは、2010年1月に始められ、2011年10月に公表された。 企業はこれらの報告書を参照して REACH 登録文書の準備又は更新をすること、 CLP(Classification, Labeling and Packaging of substances and mixtures)の下での 分類のためのハザード情報を評価することを始めることができる。 「規制に関連したナノ物質の定義」も2011年10月に EC から最終的な決定が公表 され、「一次粒子の個数で50%以上が、少なくとも一つの次元のサイズにおいて1nm から 100 nm の範囲である物質」とされた。JRC の報告を受け ECHA(欧州化学品 庁;European Chemicals Agency、REACH を所管する)は2012年2月、ナノ物質に関 36 する部分について、「情報要件と化学物質安全性評価のガイダンス(Guidance on Information Requirements and Chemical Safety Assessment: IR & CSA)」を更新す る予定だと発表し、IR & CSA ガイダンス付属文書案を CARACAL(REACH と CLP に関して EC と ECHA に助言を行う専門家グループ)に送付した。これらは、エンド ポイント(安全等に関わる評価項目)に特化したガイダンス;R.7a(物理化学的性質)、 R.7b 及び R.7c(環境運命と環境毒性)、そして、R.8(ヒト健康のための用量(濃度) 反応の特性評価)、R.10(環境のための用量(濃度)反応の特性評価)、R.14(労働 暴露評価)であり、これらは、最終に近い REACH ガイダンス附属文書案と考えられ る。 EU では、すでに化粧品および殺生物剤について、ナノ物質の規制が開始され る。 EC は、ナノテクなどの技術の進歩に対応するために必要となった新たな規定等 を化粧品指令に加え、「規則(ECno.1223/2009)」として新たに制定し、2009年12月 に公布した(一部の条項を除き、2013年7月11日から施行される)。新規則では、第 2条(k)で「ナノ物質」を「意図的に製造された非溶解性あるいは生体内残留性があ る材料で、1つ以上の外部寸法あるいは内部構造が1~100ナノメートルであるも の」と定義している。第13条には、ナノ物質についても化学物質名や合理的に予測 可能な暴露条件などを EC に提出することが定められている。更に、「ナノ物質」に 関する条項である第16条にはナノ物質に適用される規則として、ナノ物質を特定す るための情報、粒子サイズと物理化学的特性、上市予定の化粧品に含まれるナノ 物質の量の年間推計、ナノ物質の毒性学的プロファイル、化粧品カテゴリーに関連 したナノ物質の安全性データ、合理的に予測可能な暴露条件、などの各項目につ いて提出することが定められている。ラベル表示についても第19条でナノ物質の形 で存在する全ての成分を成分リストに明確に表示すること、そして、該当する成分 の名称の後に括弧内に’nano’と記すことなどを定めている。 EU は2012年5月に殺生物製品の上市及び使用に関する規則(BPR; Biocidal Products Regulation)を公布した。2013年9月1日から施行される BPR は、EU 内での殺生物剤の上市と使用に関する規則の調和を図ることにより内部市場を機 能させるとともに、ヒトと動物の健康と環境の高度な保護を目的として導入されるも のである。BPR では、ナノ物質の定義として2011年10月のナノ物質に関する欧州委 員会勧告が取り入れられており、この定義に照らしてナノ物質であると判定される 物質が製品に使用されている場合、そのナノ物質が人と動物の健康および環境に 及ぼすリスクを別途評価することが認可の条件として挙げられている。 ナノ物質の安全性試験に際しては、その特性に合わせた調整などを含め、適用 した試験法の科学的妥当性を説明すべきであるとされている。さらに、殺生物剤中 にナノ物質が含まれる場合、(nano)と表示するとともにそれに特有なリスクを表示 37 すべきであるとしている。 (1-2)米国 米国におけるナノ物質の規制については、OSTP(大統領府科学技術政策室)が OMB(Office of Management and Budget)、USTR(Office of the United States Trade Representative)、NEC(National Economic Council)と検討し、2011年6月9日、 ナノ物質・ナノテクの規制・監督に関する政策の原則についての指示を出し、各省 庁は、それを基に政策を推進することになった。具体的な規制に関する内容ではな く「ナノ物質の規制は、サイズだけでなく、novel properties and phenomena を機軸に 規制を策定するように」と書かれている。 EPA が、2011年10月に新たに SNUR(Significant New Use Rules)を公布したもの の中に、ナノスケール物質と考えられる二つの酸化チタン系物質(カルシウム・ドー プルチル・錫亜鉛、及びナトリウム・ドープルチル・錫亜鉛)がある。そこで、「d10粒 子サイズ(レーザー光散乱測定で計測した、小粒径側重量10%の粒径)が100nm 以 下である」との記述があり、これは、EPA のナノ物質についての、粒度分布に対す る一つの考え方を示していると考えられる。 最初にナノスケール物質に SNUR を適用されたのは、2010年、トーマススワンの 2種類の CNT であったが、CNT に関する SNUR は、その後も各社の PMN (Pre-Manufacture Notice)に応じて出されている。2011年5月には、企業名秘匿で MWCNT が1件、12月には、MWCNT が7件(うち SWCNT が1件含まれる。)で、過半 数が企業名秘匿だが、ナノシル社と Nanocomp Technologies, Inc.社は公開で、評 価レポートも公開されている。これらは、既に同意指令が2010年にだされているも のである。 2011年6月、FDA は以下の2点に基づいて化粧品、食品分野でナノテクが使われて いるかどうかを判断するとの考えを示した。その基準は、①工業材料または製品が 少なくとも1つの次元でナノスケール(約1~100nm)であること又は、②例え1μm の粒子でも、小さくなるが故に物理的/化学的/生物学的な特異な性質や現象が現 れるかどうか、である。続いて2012年4月、FDA は、ナノ物質を含むか、ナノテクを 応用した製品への規制に関する産業界への2つのガイダンスを発表した。それぞ れ化粧品、食品分野でのナノテク応用での安全性評価について述べたものである が、最終的にそれらの製品の開発段階で FDA に相談するように強く要請している。 このように米国においては、一律ではなく、ケースバイケースの判断をベースにし た規制が開始されている。 (1-3)その他諸国 ナノ物質の規制が始まった、あるいは始めようとしているオーストラリア、カナダ、 38 フランスにおける規制動向について述べる。 ①オーストラリア NICNAS(国家化学物質通知評価機構)は、2010 年10 月に、2011 年1月1 日 以降は既存化学物質インベントリに登録されていない新規化学物質で、NICNAS の 定義する工業ナノ物質に該当する場合には、通常の新規化学物質とは異なる手続 きが必要となることを発表した。NICNAS における工業ナノ物質の定義(Working definition)は、ほぼ EC の定義と同様であるが、非意図的に作られたマテリアルは 含まず、ナノスケールに特有の化学的 and/or 物理的性質を有する場合であって、 粒子の個数基準でナノスケールのものが10%以上のものをナノ物質であるとした。 NICNUS は、この2011年1月1日付で発効したナノ形態の新規物質(CNT が該当す ると思われる)を規制する新しい管理規定の運用状況をもとに、ナノ形態の既存化 学物質に対する規制を広げることを検討している。また、規定によれば、ナノ形態 を有する新規化学物質については、サイズ等の物理的・化学的特性や毒性、環境 毒性のデータは届出者が提供しなければならないが、リスク評価は、NICNAS によ って行われることになる。 ②カナダ 2007年、カナダは、ナノ物質が「カナダ環境保護法」の下で、新規物質の届出の 対象となるかどうかについて、物質のサイズではなく、国内物質リスト( DSL; Domestic Substance List)に記載されているかどうか、独特の構造又は分子配列を 持つかどうかで判断することとしている。(米国の TSCA の下での EPA の見解と同 様である。)同時に、環境省と保健省と共同で、2010年3月「ナノ物質についてのカ ナダ保健省の作業定義に関する暫定政策ステートメント」が発表された。定義の内 容は、「少なくとも空間的一次元がナノスケール又はその範囲内であること。 ある いは、全ての空間的次元がナノスケール(1~100nm)より大きくても小さくても、ひと つ又はそれ以上のナノスケール現象(サイズによって特性が変化すること)を示す こと」というもので、粒度分布は考慮されていない。このステートメントは、既存物質 のナノスケールのものも含み、ナノ物質を広く定義するもの。実施されれば、ナノ物 質とその応用製品に関する報告と物理化学特性や有害性データ提出を要求でき 広く情報収集が可能となるものである。このステートメントはパブリックコメントに付 され、2011年10月発効した。一方でカナダ環境省は、2010年9月には、MWCNT に 対して、「重要新規活動」を適用する告示を出し、年間1事業者あたりの製造または 輸入する量の下限は用途によって異なるが、届出が必要であり、毒性試験データ を含めた「情報要件」を定めている。これは、新規化学物質としての扱いであり、 「重要新規活動」により、「有害(toxic)」になるかもしれないと疑われていることを示 している。 ③フランス 39 2010年7月に第2グルネル法が成立し、ナノ粒子状物質の報告制度の構築が定 められた。2012 年1 月、持続可能開発省よりグルネル法実施の具体的手順につ いて規定する「上市されたナノ粒子状物質の年次報告に関する法案」が発効した。 本法では、フランス国内で年間100g以上のナノ粒子状物質を製造、販売、流通さ せるものは製品に用いているナノ物質について物質名、量、用途等を定期的に当 局に届け出ることが義務化される。さらに、当局の要請があるときには、有害性情 報や曝露情報等を追加で提出することも定められている。提供された情報は原則 として公開される。この法律は2012年1月発効したが、施行については、EU 域内の 統一性を求めるEU当局と調整が続いている模様である。 40 (1-4)粒度分布を考慮したナノ物質の定義 ナノ物質の定義において、粒度分布を考慮した定義は、以下の4カ国で出され、 また、化学産業国際評議会(ICCA)も提案している。以下の表に示す。 これらのうち、EC(フランスはECに準拠)とオーストラリアは、数基準の粒度分布 を用いている。ICCA の提案は、重量基準で、ナノ物質とアグリゲート・アグロメレー トで異なる重量%を設定しているのが特徴である。米国の定義は、一般に適用する のではなく、1つの SNUR においてなされたものであり、測定法も指定されている。 発表 時期 2011年 10月 2010年 10 月 国名 組織/ 提案された定義 団体 EU EC オー ストラ リア 国家工 業化学 物質届 出評価 機構 (NIC NAS) EU と欧州経済圏内の政策と規制に使用することを勧告するナノ物質の 定義; その構成粒子が固定されていない状態(unbound)の粒子或いは、強 凝集体(アグリゲート)、又は弱凝集体(アグロメレート)であって、個数に 基づいたサイズ分布のうち50%以上が、少なくとも一つの次元のサイズ において1nm から 100 nm の範囲である粒子を含む、自然由来、又は 非意図的、あるいは、人工的に製造された物質。 1つ以上の外径が1 nm 未満のフラーレン、グラフェン・フレーク及び単 層カーボンナノチューブはナノ物質と見なされる。 単位体積あたりの表面積が60 m2/cm3より大きければ、その物質が 上記のナノ物質定義の範疇に入ると見なされる場合がある。 粒子;明確な物理的境界を有する物質の小片(ISO146446:2007) 特定のケース、及び、環境、健康、安全、または、欧州の競争力に関 わるなどの懸念といった観点から妥当だと判断される場合には、粒子の 個数濃度に基づいたサイズ分布50%という閾値は、1-50%間の閾値に置 き換えてもよい。この定義は、経験、科学的、及び技術的発展を踏まえ て2014年12月までに見直される。 <2011年10月 EC 勧告> 工業ナノ物質の作業定義; ナノスケールで、独特な性質あるいは特別な構造をもつように生産、 製造または加工された、1nm から100nm のサイズの、3 次元方向の 少なくとも一つの次元がナノサイズであるナノ・オブジェクトあるいはナノ スケールの内部構造もしくは表面をもつナノ構造の工業物質。注釈とし て以下の点が挙げられている。 1) 意図的に生産、製造または加工された材料を対象とし、非意図的に 作られた材料は含まない。 2) 独特な性質(unique properties)とは、ナノスケールでない同じ材料と 比較して、ナノスケールであるが故の化学的 and/or 物理的性質に より、新規な応用を可能にする性質(例えば、強度、化学反応性、伝 導性)である。 3) 凝結体および凝集体は、ナノ構造物質。 4) 粒子の個数基準でナノスケールのものが10%以上のものは、リスク 評価の目的では、ナノ物質。 <2010年10月提案、2011年1月発効。(本作業定義に基づく「新工業ナ ノ物質届出プログラム」)2011年5月ガイダンス発表。> 41 2011年 1月 2011年 10月 2010年 10月 フラ ンス エコロジ ー・エネル ギー・持 続可能 な開 発・海 洋省 (MEE DDM) 米国 環境保 護庁 (EPA) 国際 団体 化学産 業国際 評議会 (ICCA) グルネル法実施の具体的手順について規定する「上市されたナノ粒子 状物質の年次報告に関する法案」のナノ物質の定義; 1) 粒子の3 次元の少なくとも1 次元が1 ~ 100nm 2) 数基準粒度分布1% 以上 3) 比表面積が60m2/cm3 以上 4) 凝集体、混合物、ナノチューブ、ナノワイヤ、ナノシート、量子ドット、 デンドリマーを含む <2011年1月に法案公開、定義は当時の EC 提案(1%)に準拠> 2つの酸化チタン系ナノ物質の SNUR における定義; d10粒子サイズ(レーザー光散乱測定で計測し、小粒径側重量 10%の粒径)が100nm 以下である <2011年10月公布の SNUR> ナノ物質の定義に入れられなければならない5つの要素; 1) 固体の粒子状物質 2) 意図的にナノサイズで製造されたもの 3) ISO の定義による少なくとも1次元が1から100nm であるナノ物体か ら成るもの 4) 上記のアグリゲート・アグロメレート 5) 重量ベースで ・ ISO で定義されるナノ物質を10wt%以上含む(主として、Top Down の製法対象)または ・ ナノ物質から成るアグリゲート・アグロメレートを50wt%以上含む (主としてボトムアップ製法対象) <2010年10月の提案> 42 (2)現状のナノ物質計測技術 現在、ナノサイズ粒子の粒径計測および粒子の分級に用いられている計測法を一 覧にして表1に示す。 電子顕微鏡法(TEM、SEM)は、個々の粒子を判別することができ、一次粒子、二 次粒子を区別して計測することが可能である。これに対し、X線回折(XRD;結晶子径 測定)および BET 法(比表面積測定)では個々の粒子の計測はできず、粒子全体の 平均的な情報を得るものである。その他の方法は、全て一次粒子、二次粒子の区別 なく一つの塊まりとしての粒子を計測するので、ここでは「二次粒子」を測定すると表 記している。 なお、計測法として粒径分布をデータとして出す場合と分級した後、分級粒子の粒 径を計測し粒径分布を出す場合があるため、分級法も取り上げた。 43 表1 ナノサイズ粒径計測・分級法 測定対象 対象の状態 測定法 気・液・固 一次・ 注1 二次粒子 信頼性 平均粒 粒径分 径 布 個数・表面積・ 体積・光強度 測定物理量 (それぞれの 等価径による) 個数 幾何学径 0.05 nm - ○ ○ 個数 幾何学径 1 nm - ○ ○ 備考 体積 回折線幅(シェラー法) 3 nm - 100 nm ◎ × アモルファスに適用できない 固 液 液 気・液 液 液 液 液 液 液 一次粒子・ 二次粒子 一次粒子・ 二次粒子 一次粒子 (結晶子) 二次粒子 二次粒子 二次粒子 二次粒子 二次粒子 二次粒子 二次粒子 二次粒子 二次粒子 表面積 光強度 光強度 個数(=光強度) 光強度 個数 体積 体積 体積 体積 ガス吸着量 拡散係数相当径 1-500 μ m 3 nm - 1 μ m 10 nm - 500 nm X線散乱相当径 拡散係数相当径 ミー散乱相当径 拡散係数相当径 電気抵抗換算径 ストークス径 1 nm - 100 nm - 100 nm 30 nm - 3 mm 1 nm - 200 nm 400 nm - 10 mm 10 nm - 10 mm × △ × ○ △ △ △ △ ○ △ 多孔質材料でずれが大きい 分布はモデル仮定の数値解析 レーリー散乱相当径 ◎ ◎ ◎ ○ ◎ ◎ ◎ ◎ ○ ◎ 超音波減衰分光法 液 二次粒子 体積 超音波散乱相当径 100 nm - 100 μ m ○ △ ナノ粒子画像解析法(NPT) 液 二次粒子 個数 レーリー散乱・ 拡散係数相当径 10 nm - 500 nm ○ △ 飛行時間測定(TOF)(APS) 気 二次粒子 個数 空気動力学径 500 nm - 20 μ m ○ ○ 透過型電子顕微鏡(TEM) 固 走査型電子顕微鏡(SEM) 固 X線回折(XRD) 固 Brunauer-Emmett-Teller比表面積計測(BET) 動的光散乱(DLS) 多角度光散乱(MALS) 静的光散乱 (SLS) 単一角度光散乱(OPC) 計 小角X線散乱(SAXS) 測 磁場勾配核磁気共鳴法(PFG-NMR) 法 レーザー回折・散乱(LD) 誘電泳動グレーティング(IG) コールターカウンター (超)遠心沈降法(AUC) 測定対象 対象の状態 分級法 分 級 法 適用サイズ範囲 流動場分離(FFF) 超臨界流体クロマトグラフィー(SFC) サイズ排除クロマトグラフィー(SEC) (ゲル)電気泳動 ふるい法 微分型静電分級(DMA) エアロゾル質量分級(APM) カスケードインパクター 多段サイクロン 気・液・固 液 液 液 液 液 気 気 気 気 一次・ 二次粒子注1 二次粒子 二次粒子 二次粒子 二次粒子 二次粒子 二次粒子 二次粒子 二次粒子 二次粒子 粒径は換算粒径で定性的 分布はモデル仮定の数値解析 分布はモデル仮定の数値解析 分布はモデル仮定の数値解析 分布はモデル仮定の数値解析 分布はモデル仮定の数値解析 分布はモデル仮定の数値解析・ 濃厚でないと計測不可 希薄でないと計測不可・アンサン ブル量を求めるためには長時間 測定が必要 粒径は換算粒径で定性的 適用サイズ範囲 --- 分級原理 (それぞれの 等価径による) 分離分解能 ------------------- 並進拡散・熱拡散 ゲル孔径・吸着性 ゲル孔径・吸着性 (ゲル孔径)・静電気力 ふるい孔径 電気移動度 遠心力・静電気力 慣性・ストークス 慣性・ストークス 1 nm -1 μ m - 10 nm 1 nm - 50 nm 1 nm - 100 nm 20 nm 1 nm - 1 μ m 10 nm - 1 μ m 10 nm -10 μ m 500 nm -10 μ m ◎ ◎ ◎ ◎ ○ ◎ ◎ ○ ○ 注1: 凝集体がない場合は一次粒子も二次粒子と表記。 信頼ある平均値を求めるために は大量の測定点が必要 信頼ある平均値を求めるために は大量の測定点が必要 備考 分離サイズレンジが狭い 分離サイズレンジが狭い (産業技術総合研究所作成) 44 (3)我が国のナノ物質製造メーカーが使用している計測技術 今後の検討の参考にするため、実際に企業で行なわれている生産管理、商取 引に関連した分析方法・作業の実態を調査することとし、ナノ物質メーカー各社、業 界団体等にアンケートを出した。その結果を、表2に示した。まとめは以下の通り。 ① 平均粒子径測定では、TEM、SEM が多く用いられている。また、工程管理用に TEM、SEM 測定との相関をとった上で、BET 比表面積測定も多く用いられている。 ② 粒子径分布測定では、TEM、SEM 以外では、ほとんどがレーザー回折・散乱法ま たは動的光散乱法よって、工業ナノ粒子の測定を行っている。 しかしながら両散乱法は、試料の前処理の標準化が課題であり、装置メーカー・ 機種によりデータが異なるなどの指摘もある。 ③ TEM、SEM を、研究開発用に使用する企業が多い。 TEM、SEM は、装置価格・維持費が高い、習得することが難しい、粒度分布を求 めるには、試料サンプリングの代表性をどう確保するか、観察視野が狭く測定粒 子数を増やさなければならないため労力を要する、等の問題点が指摘されてい る。 粒子径分布測定 平均粒子径測定 遠心沈降 (1) レーザー回折・ 散乱 (1) 乾式篩 (1) コールターカウン ター (1) DLS (2) XRD (2) レーザー回折・ 散乱(7) TEM/SEM (10) DLS (4) BET (4) TEM/SEM (6) 調査対象 15 社/機関、複数回答あり。(図中カッコ内数字は延べ回答数を表す) 45 表 2 メーカーが使用している計測技術の現状 ナノ粒子名 団体・企業 酸化亜鉛 A社(無機薬品工業 会・亜鉛華部会) CNT B社 シリカ 酸化チタン カーボンブラック 銀 フラーレン 生産管理及びユーザーとの取引に使用し ている方法 ・粒子径:BET比表面積 ・粒子径分布:レーザー回折・散乱法 測定方法の問題点と課題 それ以外の問題点 ・BET:再現性高く、ランニングコスト・習得問題なし。 ・レーザー回折・散乱法(1000万円以下):習得容易、前処理の分散一定化 現状取引で一次粒子での規定例はない。 が必要。 ・粒子径:電子顕微鏡 ・電子顕微鏡:手間が掛かり過ぎ。ロット後との品質検査には適さない。測 ・粒子径分布:電子顕微鏡(少なくとも300本 定本数限られており、統計的に妥当な値か不明。 繰り返す) 定義にからんだEUとの商取引での問題点 既存の多くの上市測定装置が「体積濃度による粒度分布」である ため、この方が好ましい。数濃度との相関も検討されている。 将来、長繊維長による規制が掛かる可能性があり、測定方法が 問題になると予想している。 特になし。 ・BET比表面積:一点法は数十万円からあり。 ・コールターカウンター法(数百万円):μ mオーダーで信頼性高いが測定粒 ・粒子径:(一次粒子)BET比表面積 子径範囲狭い、熟練要す。 ホワイトカーボン部会 シリカは凝集体構造のため、前処理方法によ ・粒子径分布:コールターカウンター法・レー ・TEM:測定には、撮影した粒子約3,000個程度の直径を画像処理により計 測定装置に依存しない粒度分布測定法の標準化が必要。 (湿式シリカ) り、測定結果が大きく変わる。 ザー回折・散乱法、乾式篩 測する。この処理を行うソフトウェアは安価であるが、処理に数日が必要で ある。また、多種のソフトウェアが市販されているが、それぞれを使用した場 合に、結果にどの程度差異が生じるかも不明である。 C社 ・粒子径(一次径及び形状):SEM・TEM・(結 粒子径といっても、「前提条件」が多くあり、そ 数濃度の50%ではナノ製造を意図しない物質まで定義に該当し 晶子径)Ⅹ線回折 ・SEM・TEM:サンプル個数と視野の選択。 れが特定されないと、数値自体が一人歩きし てしまう可能性がある。市場の実情を調べ、妥当な閾値にすべき ・粒子径分布:動的光散乱法・レーザー回 ・動的光散乱法・レーザー回折・散乱法:サンプルの前処理方法の標準化。 ないか不安がある。 と考える。 折・散乱法 A社 ・粒子径:BET比表面積 ・粒子径分布:レーザー回折・散乱法 D社 ・粒子径:TEM(表面コート品が一般的。BET 値を一次粒子の参考値として活用) ・TEM:手間が掛かる(品質規格はBETで取り交わす場合が多い)。 ・粒子径分布:TEM 二次粒子径は分散強度の違いで大きく変化 するので、それを考慮した議論が必要(ユー ザーは承知している)。 一次粒子、二次粒子に関する捉え方の統一見解が必要と考え る。 E社 ・粒子径:TEM ・粒子径分布:レーザー回折・散乱法 特になし。 測定結果が大気中のものと限定されたら、装置が必要。 ・BET:再現性高く、ランニングコスト・習得問題なし。 ・レーザー回折・散乱法(1000万円以下):習得容易、前処理の分散一定化 現状取引で一次粒子での規定例はない。 が必要。 ・TEM:観察視野狭く、再現性に不安あり。 ・レーザー回折・散乱法:実使用時(気中)状態を反映しているか疑問。 ・粒子径:(二次粒子)BET比表面積・CTAB カーボンブラック協会 吸着比表面積・ヨウ素吸着量 ・遠心沈降相当径(Dst):アグロメレートの分離に問題あり。 ・粒子径分布:遠心沈降相当径(Dst) ほとんどのナノ材料では、一次粒子はアグリゲートの一部であ 代用指標として、オイル吸着量(二次粒子発 り、定義の持つ物理的意味が不明である。一次粒子は手間・コス 達の指標)、比着色力(一次粒子の分布指標) トが掛かり精度が悪いTEM観察以外に適当な手段がなく、商取 も採用している。 引を阻害する効果以外ない。 F社 ・粒子径:SEM ・粒子径分布:動的光散乱法 ・SEM(1千万円):習得難易度は中程度。 ・動的光散乱法(600万円):習得容易。 製品は平均粒径が12nmであり、定義に該当し、販売に障害とな る。 G社 粒子径:SEM・動的光散乱法・Ⅹ線回折 粒子径分布:SEM・動的光散乱法 ・形状、平均粒径、分散状態などにより使い分け(万能機種なし)。 ― H社 ・粒子径:TEM ・粒子径分布:TEM ・TEM:外注しているが、測定に時間が掛かる。 ― I社 ・粒子径:TEM・SEM・動的光散乱法 ・粒子径分布:TEM・SEM・動的光散乱法 ・機器価格と維持費。計測手順の習得の難易度。 J社 ・粒子径:レーザー回折・散乱法 ・粒子径分布:レーザー回折・散乱法 特になし。 ― K社 ・粒子径:FE-SEM ・粒子径分布:FE-SEM 画像解析処理 L社 ・SEM:簡易レベルであれば、判断可能な粒子は最小20nm直径レベルであ る。 TEMも同様であるが、nmサイズの基準粒子で較正しない限り、スケー ・粒子径:SEM(不定期に実施する、形状を ルは計算上のものであり、また定期的な較正ができない(計測概念上は、 含むラフな検査) 不備がある計測)。 ・粒子径分布:レーザー回折・散乱法(定量 ・レーザー回折・散乱法:前処理方法は事業者毎に異なる(ノウハウ・一般 的管理(内部管理用)) 的に非開示)。測定装置は、そのセンサー構成・逆計算アルゴリズム等によ り、測定装置メーカー・機種が変わるとデータが異なると言われ、また同じモ デルでも装置間誤差があると言われる。 ― 46 既存の多くの上市測定装置が「体積濃度による粒度分布」である ため、この方が好ましい。数濃度との相関も検討されている。 使用機器、測定条件の違いにより、測定値が異なる可能性があ る点。 ― 取引なし。 ― ― ― 数十年前から使用されてきているAgペーストなどではナノ粒子と いう概念がまだ無い時代に」開発された製品もある。それらのAg 粒径は0.05μ m程度のものも有り、今まで何も影響がなかった実 績が有るにもかかわらず、急に規制がかかるという場合にどのよ うな対応をとればよいのか混乱が予測される。 3.ナノ物質の計測法の提案 (1)ナノ物質の定義に対応可能な計測技術 (1-1)ナノ物質の定義について ナノ物質の定義については、勧告やガイダンス、運用といった形で各国によって そのステイタスは異なるが、内容としては主として、1)サイズ、2)集合体(凝集体、 二次粒子)の扱い、3)粒径分布、4)比表面積、5)人工的か否か について触れら れているところである。 ナノ物質の計測を考えると、2)集合体の扱い、3)粒径分布の定義の部分が大 きく影響することとなる。 (1-2)ナノ物質の定義に対応可能な計測技術の絞込み ナノ物質の定義に対応可能な計測技術を以下のように絞り込んだ。 ①基本的な考え方 検討の対象は粒子状物質及び繊維状ナノ物質(CNT:カーボンナノチューブ) とする。 ②一次粒子及び二次粒子の測定に際し重要度が高い技術 ナノ物質のキャラクタリゼーションに際しては、一次粒子の粒子径計測が求め られることがあるが、表1に掲載した各種技術の内これが可能であるのは電子 顕微鏡(TEM、SEM)など限られた計測法のみである。 TEM、SEM は一次粒子を1つずつ認識して、その幾何学的な径を求めることが でき、凝集状態も観察できる。測定可能な粒径範囲も十分に広いので、他の計 測法の検定にも用いることができ、測定法の基礎となるものであり、有用な技術 である。 一方、X 線回折(XRD)は、一次粒子(結晶子)の平均径しか求めることができ ず、粒子径分布は計測できない。また、比表面積計測(BET)も平均値的な情報 (表面積相当径)しか得られない。ただし、BET は、以下に述べるような二次粒子 の情報しか得られない測定法に対して、凝集状態の情報が得られるので補助的 な測定法として活用することができる。 ③その他測定法における気中計測法と液中計測法の取り扱い 表1の「対象の状態」の項目にあるように、①、②で述べた以外の方法は、対 象試料が気中にあるか、液中にあるかで分けられる。気中に分散している粒子 を計測する気中計測法は、試料を気中に適切に分散させるという難度の高いプ ロセスを必要としており、技術開発およびその手順の標準化がなければ計測デ ータの信頼性を確保しがたいので、今回の検討対象からは除外し、比較的分散 47 が容易な液中測定法を検討の対象とする。2.(3)で示されたように、製品ナノ物質 の計測に用いられているのはほとんど液中測定法である。 ④計測対象のサイズ範囲 ナノ物質の定義が100nm を境界値としているため、100nm 前後の粒径測定が課 題となることから、表1から「適用サイズ範囲」の下限が数十 nm 以下、上限が 200nm 以上で、粒径分布も測定可能で、「平均粒径」の信頼性が良い(表1の信 頼性の平均粒径の欄が◎)測定法を選び出すとともに、分級法のうち粒径分布 が測定できる流動場分離(FFF)を検討対象に加える。 以上の絞込みの上に、さらに装置価格が高額で、研究用・標準測定用装置を除 外する。これにより、磁気勾配核磁気共鳴法(PFG-NMR)と FFF が除外される。こ の結果、検討対象技術は、動的光散乱(DLS)、レーザー回折・散乱(LD)、誘電 泳動グレーティング(IG)、超遠心沈降法(AUC)の4方法に絞られる。以上、絞り 込んだ測定法の詳細を表3に示す。 48 表3 絞り込んだナノ粒子径・粒径分布の計測方法 測定法 測定原理 測定 物理量 適用サイズ範囲 測定可能粒子 粒径分布 個数/重量 (それぞれの 分布 *1 *2 (二次) 等価径による) 二次 一次 組成 炭素 系 形状 空孔の有無 装置価格 測定 国産 維持費 金属 酸化物 難易度 有無 *3 *4 無孔 多孔質 (万円) 球状 その他 系 系 特徴(・)及び課題(●) 透過型電子顕微鏡 (TEM) 電子線透過画像 幾何学径 0.05nm~ ○ △ ○ 個数 △*5 ○ ○ 実形状*6 実形状*6 (平面) (平面) ○ ○ 熟練 必要 要 数千万 ~数億円 ○ ・イメージング技術。電子線は薄い試料を透過し、その間に試料と相互作用する。 ●観察視野が狭いため、代表的でしっかりした量的集団データを得るために計測粒 子数を増やすのに手間・時間が掛かる。 ●複雑な形状は、どこを代表径とするか判断が難しい。面積法なら問題ない(例: CB)。 ●凝集粒子中の表面付近の一次粒子の測定は可能だが、内部に存在する一次粒 子は測定が困難な場合がある。。 走査型電子顕微鏡 (SEM) 電子線走査画像 幾何学径 1nm~ ○ △ ○ 個数 △*5 ○ ○ 実形状*6 実形状*6 (平面) (平面) ○ ○ 同上 要 数百万 ~数億円 ○ ・イメージング技術。電子線はラスター・パターン中の粒子の表面を横切って走査す る。 ●同上 BET比表面積計測 (BET) ガス吸着量 1~500μ m × 平均 粒径 × × ○ ○ ○ ○ × 簡便 殆ど 不要 100~600 ○ ・有効表面積に相関する試料への窒素ガスの吸着を測定する。試料を乾燥させる 場合には析出による誤差が生じる場合がある。 ●多孔質材料は、平均径が大幅に小さく計算される。 ●アスペクト比が(1より)大きくなると、最短軸方向の長さが計算できなくなる。 ○ ・現在、最も良く使用されている粒度分布測定装置で、通常サブミクロン領域から mm程度の粒子径サイズの測定に用いられている。 ・測定原理は、粒子に光を照射した時、各粒子径により散乱される散乱光量とパ ターンが異なることを利用している。 ●分布はモデルを仮定した数値解析から求める。その手法は、計測機器メーカー 間で必ずしも同一ではない。 ●散乱光強度は波長の逆数の4乗に比例することと、粒径が小さくなると散乱光が 急激に減少ことから測定下限値は数十nmである。 ○ ・液体中に分散している微粒子にレーザー光を照射し、粒子のブラウン運動によっ て生じる散乱光の揺らぎを観測し、Stokes Einsteinの式より粒子径分布を求める手 法で、簡便性からしばしば用いられる。 ●分布はモデルを仮定した数値解析から求める。その手法は、計測機器メーカー 間で必ずしも同一ではない。 ●原理的に分布幅の広いサンプルは不得意で再現性や精度が良くない。特に大き な粒子やダストが混入していると、その影響を強く受ける。 ○ ・粒子から発する散乱光ではなく、粒子で構成される回折格子からの光信号を測定 に用いるため、シングルナノ領域でも十分なS/N比が得られ、安定で再現性の良い 測定が可能である。まだ、標準化されていない。 ・この測定原理は、微量の異物粒子が混入しても、測定すべきナノ粒子の情報を確 実に捉える。 ●分布はモデルを仮定した数値解析から求める。現状では、国内計測メーカー1社 が機器を製造している。 ●200nm以上の粒子の粒子が存在すると測定にかからない。 × ・測定方法は、遠心力を利用し液体中のナノ粒子を沈降させ、沈降槽下方での濃度 変化または全体の濃度分布を検知する。検知にはレーザー回折・散乱やX線透過 が用いられる。沈降槽はディスク型のものが多い。 ・解析は流体力学理論に基づいて行われるため、標準物質などを必要としない測定 法である。 ●粒子沈降に時間がかかるため、測定時間が長い。 ●かつては国産品が存在したが、現在はない。 ●JISでは「液相遠心沈降法」とされている。 レーザー回折・散乱 (LD) 動的光散乱 (DLS) ミー散乱 ブラウン運動の 揺らぎ 表面積 ミー散乱 相当径 拡散係数 相当径 回折格子(外力に よって形成された 誘電泳動グレーティング 拡散係数 周期的な濃度分 (IG) 相当径 布に由来)の消滅 速度 (超)遠心沈降法 (AUC) 沈降速度 30nm*7~3mm 3nm~1μ m 1nm~200nm ストークス 10nm~10mm 径 ○ ○ ○ ○ × × × × ○ ○ ○ ○ 重量 重量 重量 重量 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ × × × × × × × × × × *1:二次粒子(アグロメレート/アグリゲート)は、そのままで一つの粒子と見なされて計測される。 *2:単独一次粒子及び二次粒子(アグロメレート/アグリゲート)を構成している一次粒子を計測対象とする。 *3:球状、球状でなくてもアスペクト比が1に近いもの *4:棒状(例:アスベスト、ウィスカー)、繊維状(例:CNT)、連珠状(例:CB) *5:CBやCNTは真空で電子線を照射すると、(揮発性成分の蒸発により)形状が変化する可能性がある。 *6:観察方向から見た各粒子の形状のこと *7:最近のあるメーカー説明書では、10nmとなっている。(JFEテクノリサーチ調べ) ○ ○ ○ ○ ○ ○ 簡便 簡便 ○ 簡便 ○ 簡便 (測定 時間は 若干必 要) 殆ど 不要 1,000前後 殆ど 不要 殆ど 不要 殆ど 不要 700 ~800 1,000~ 2,000 ~3,000 記号の意味 ○ 可能 △ 条件による × 不可能 注1)平均粒子径、粒子径分布は、数基準から重量基準への換算、もしくはその逆は、形状を仮定した上で行うことができる。 注2)粒子の特性としては、このほか、表面の硬さ(硬い(無機系)、柔らかい(有機・生物系))、電位などが挙げられるが、上記の表は有機系を除外している。 49 (1-3)ナノ物質ごとの適用技術 一次粒子粒径分布が測定可能な TEM、SEM と一次粒子の大きさの平均的な情報 が得られる BET 測定及び(1-1)で絞り込んだ4つの計測技術が、いかにナノ物質ご とに適用されうるかを示す。 ① 酸化チタン、酸化亜鉛等の測定(無機系酸化物) 酸化チタン、酸化亜鉛等の粒径、粒径分布、形状測定に適用可能な技術を下表に 示す。 全体像(○:測定可能(多少課題はあるが)、△:課題多い、×:不可能) 粒径 測定法 数基準 粒径分布 一次 二次 重量基準 粒径分布 一次 二次 一次 二次 TEM △*1 ○ △*1 ○ 換算*2 SEM △*1 ○ △*1 ○ BET 平均値 × × LD × ○ DLS × IG AUC 形状 球状 その他 換算*2 ○ ○ 換算*2 換算*2 ○ ○ × × × × × × 換算*2 × ○ × × ○ × 換算*2 × ○ × × × ○ × 換算*2 × ○ × × × ○ × 換算*2 × ○ × × 一次粒子:単独の単一粒子 二次粒子:アグロメレート、アグリゲート 一次:全ての一次粒子が対象である(二次粒子中の一次粒子を含む)。 二次:二次粒子も一つの粒子として扱う。 *1:二次粒子中の一次粒子が全て測定できるとは限らない。 *2:換算(数⇔重量)は、数学的処理である。 <粒径測定(個別の粒子が対象)> ・一次粒子 電子顕微鏡(TEM、SEM)では、3.(2)(2-1)①に後述するように、課題はあるもの の測定できる。測定対象の粒子群の一つの方向から見える形状が代表されて測定さ れる。どこを粒子の大きさ(直径)とするかは、幾通りかの考え方がある。例えば、最 長部分と最短部分の平均をとる、面積を測定し円形換算で直径を得る、等が考えら れる。また、得られた電子顕微鏡像から、粒度分布を推計する解析ソフトウェアも開 発されていて自動的に測定できる。 二次粒子(凝集体、凝結体)を構成する一次粒子の測定は、それが単独の一次粒 子として確認できるものについてのみ、上記の方法で測定ができる。この場合、解析 ソフトウェアには、工夫が必要である。 BET 比表面積計測(BET)は、試料全体の測定から得た比表面積から平均径を算 50 出する。球形粒子と仮定する場合が多い。 レーザー回折・散乱(LD)、動的光散乱(DLS)、誘電泳動グレーティング(IG)、(超) 遠心沈降法(AUC)は、二次粒子も一つの粒子と見做してしまうため、全ての方法で 一次粒子の測定ができない。 ・二次粒子 電子顕微鏡(TEM、SEM)で測定できる。測定対象の二次粒子を含む粒子群の一つ の方向から見える形状が代表されて測定される。どこを粒子の大きさ(直径)とするか は、幾通りかの考え方がある。例えば、最長部分と最短部分の平均をとる、面積を測 定し円形換算で直径を得る、等が考えられる。 また、レーザー回折・散乱(LD)、動的光散乱(DLS)、誘電泳動グレーティング(IG)、 (超)遠心沈降法(AUC)でも測定が可能である。これらの測定方法は、測定原理によ って計測された情報を処理し、測定された物理量に対応した相当径による粒径分布 を算出する過程が異なり、それぞれ特徴(長所・短所)がある。 LD は計測に使用するレーザーの波長(散乱光強度は波長の逆数の4乗に比例す る、実用的な最短波長は400nm)の制限や粒径が小さくなると散乱光強度が急激に 減少することから粒子径の測定下限が数十 nm 程度である。 DLS は粒径分布が広い試料の測定では粒径域により測定精度に差が生じやすい 傾向がある。分布が狭い試料では比較的信頼できる。粗大粒子が存在すると測定の 不確かさが増す。 IG はシングルナノ領域の測定の精度が良いが、測定径の上限が200nm 程度であ る。 AUC は測定の信頼性が高いが、測定に長時間を要する。 <粒子数基準の粒径分布測定> 電子顕微鏡(TEM、SEM)で測定できる。 単独の一次粒子の場合は、粒径測定が上記の方法で可能であるため、粒径分布 測定が可能である。 しかし、二次粒子が含まれている場合は、二次粒子を一つの粒子と見做すことが 許されるならば一次粒子と同様の方法で測定が可能なため粒径分布測定は比較的 容易であるが、全ての一次粒子の粒径分布を測定しなければならないならば、二次 粒子を構成する全ての一次粒子を測定しなければならないため、特にアグリゲートの 場合には、粒子境界の判断が必要であり、粒径分布測定は難しい。 なお、電子顕微鏡は一回で測定される視野が極めて狭いため、試料を代表する測 定結果を得るためには、かなりの数の粒子の測定を行う必要がある。また、粒子のサ ンプリング法、分散法にも標準的な方法が求められる。 51 また、電子顕微鏡による測定は、測定技術そのものが熟練を要するため、経験の 少ない測定者の測定結果は信頼性の面で不安がある。また、標準粒子がなく、サイ ズの絶対的な基準が存在しない。 一方、レーザー回折・散乱(LD)、動的光散乱(DLS)、誘電泳動グレーティング(IG)、 (超)遠心沈降法(AUC)は、重量基準の粒径測定結果から、換算(単に、数学的な方 法)によって粒子数基準の粒径分布を得ることは可能である。 <重量基準の粒径分布測定> 一次粒子の粒径分布測定については、電子顕微鏡(TEM、SEM)の測定から得た粒 径分布の結果から、換算(単に、数学的な方法)によって可能である。 二次粒子も一つの粒子と見做しての粒径分布については、レーザー回折・散乱 (LD)、動的光散乱(DLS)、誘電泳動グレーティング(IG)、(超)遠心沈降法(AUC)で 測定可能である。これらの測定方法は、測定原理によって計測された情報を処理し、 測定された物理量に対応した相当径による粒径分布を算出する過程が異なり、〈粒 径測定〉の項で記述した特徴(長所・短所)は同じである。 <形状測定> ・球状 電子顕微鏡(TEM、SEM)で測定できる。測定対象の粒子群の一つの方向から見え る形状が代表されて測定される。その他の方法は、形状を測定できない。 ・針状 電子顕微鏡(TEM、SEM)で測定できる。測定対象の粒子群の一つの方向から見え る形状が代表されて測定される。測定方向が異なるものが測定されている場合は、よ り正確な形状の測定結果となると考えられる。 その他の方法は、形状を測定しな い。下図に酸化チタンの場合の一次粒子の大きさ と形状、最終製品中での存在形態を示した。 出所:日本酸化チタン工業会 52 ②金属系(金、銀、鉄、白金等)ナノ粒子の測定 金属系ナノ粒子の粒径、粒径分布、形状測定に適用可能な技術を下表に示す。 全体像(○:測定可能(多少課題はあるが)、△:課題多い、×:不可能) 粒径 測定法 数基準 粒径分布 一次 二次 重量基準 粒径分布 一次 二次 一次 二次 TEM △*1 ○ △*1 ○ 換算*2 SEM △*1 ○ △*1 ○ BET 平均値 × × LD × ○ DLS × IG AUC 形状 球状 その他 換算*2 ○ ○ 換算*2 換算*2 ○ ○ × × × × × × 換算*2 × ○ × × ○ × 換算*2 × ○ × × × ○ × 換算*2 × ○ × × × ○ × 換算*2 × ○ × × 一次粒子:単独の単一粒子 二次粒子:アグロメレート、アグリゲート 一次:全ての一次粒子が対象である(二次粒子中の一次粒子を含む)。 二次:二次粒子も一つの粒子として扱う。 *1:二次粒子中の一次粒子が全て測定できるとは限らない。 *2:換算(数⇔重量)は、数学的処理である。 <粒径測定(個別の粒子が対象)> ・一次粒子 電子顕微鏡(TEM、SEM)で測定できる。測定対象の粒子群の一つの方向から見え る形状が代表されて測定される。どこを粒子の大きさ(直径)とするかは、幾通りかの 考え方がある。例えば、最長部分と最短部分の平均をとる、面積を測定し円形換算で 直径を得る、等が考えられる。 二次粒子(凝集体、凝結体)を構成する一次粒子の測定は、それが単独の一次粒 子として確認できるものについてのみ、上記の方法で測定ができる。 BET 比表面積計測(BET)は、試料全体の測定から得た比表面積から平均径を算 出する。 レーザー回折・散乱(LD)、動的光散乱(DLS)、誘電泳動グレーティング(IG)、(超) 遠心沈降法(AUC)は、二次粒子も一つの粒子と見做してしまうため、全ての方法で 一次粒子の測定ができない。 なお、金属系ナノ粒子の場合、製造方法から球状の単一粒子が大半であり、製品 は分散剤等を用いて単一粒子として販売・使用される場合があり、上記のような制限 はあまり問題にならないと考えられる。ただし、高温で製造される場合には、焼結した アグリゲートも存在する。 53 ・二次粒子 電子顕微鏡(TEM、SEM)で測定できる。測定対象の二次粒子を含む粒子群の一つ の方向から見える形状が代表されて測定される。どこを粒子の大きさ(直径)とするか は、幾通りかの考え方がある。例えば、最長部分と最短部分の平均をとる、面積を測 定し円形換算で直径を得る、等が考えられるが、金属ナノ粒子の場合は、単一粒子 は球状のものが多く、仮に二次粒子を形成しても、その形状は球状に近いものになる と予想される。 また、レーザー回折・散乱(LD)、動的光散乱(DLS)、誘電泳動グレーティング(IG)、 (超)遠心沈降法(AUC)でも測定が可能である。これらの測定方法は、測定原理によ って計測された情報を処理し、測定された物理量に対応した相当径による粒径分布 を算出する過程が異なり、それぞれ特徴(長所・短所)がある。 LD は計測に使用するレーザーの波長(散乱光強度は波長の逆数の4乗に比例す る、実用的な最短波長は400nm)の制限や粒径が小さくなると散乱光強度が急激に 減少することから粒子径の測定下限界が数十 nm 程度であり、 DLS は粒径分布が広い試料の測定では粒径域により測定精度に差が生じやすい 傾向がある。分布が狭い試料では比較的信頼できる。粗大粒子が存在すると測定の 不確かさが増す。 IG はシングルナノ領域の測定の精度が良いが、測定径の上限が200nm 程度であ る。 AUC は測定の信頼性が高いが、測定に長時間を要する。 <粒子数基準の粒径分布測定> 電子顕微鏡(TEM、SEM)である程度測定できる。 単独の一次粒子の場合は、粒径測定が上記の方法で可能であるため、粒径分布 測定が可能である。 しかし、二次粒子が含まれている場合は、二次粒子を一つの粒子と見做すことが 許されるならば一次粒子と同様の方法で測定が可能なため粒径分布測定は可能で あるが、全ての一次粒子の粒径分布を測定しなければならないならば、二次粒子を 構成する全ての一次粒子を測定しなければならないため粒径分布測定は困難であ る。 なお、測定の視野の問題、測定技術の熟練度の問題は、①無機系酸化物で記した 通りである。 一方、レーザー回折・散乱(LD)、動的光散乱(DLS)、誘電泳動グレーティング(IG)、 (超)遠心沈降法(AUC)は、重量基準の粒径測定結果から、換算(単に、数学的な方 法)によって可能である。 54 <重量基準の粒径分布測定> 一次粒子の粒径分布測定については、電子顕微鏡(TEM、SEM)の測定から得た粒 径分布の結果から、換算(単に、数学的な方法)によって可能である。ただし、粒子数 基準の粒径分布測定に記したように、二次粒子中の一次粒子が全て測定できない可 能性が大きいという測定の限界性が問題点として残る。 二次粒子も一つの粒子と見做しての粒径分布については、レーザー回折・散乱 (LD)、動的光散乱(DLS)、誘電泳動グレーティング(IG)、(超)遠心沈降法(AUC)で 測定可能である。これらの測定方法は、測定原理によって計測された情報を処理し、 測定された物理量に対応した相当径による粒径分布を算出する過程が異なり、〈粒 径測定〉の項で記述した特徴(長所・短所)は同じである。 <形状測定> ・球状 電子顕微鏡(TEM、SEM)で測定できる。測定対象の粒子群の一つの方向から見え る形状が代表されて測定される。 その他の方法は、形状を測定できない。 ・金属系ナノ粒子は、球状の単一粒子が大半であるが、電子顕微鏡(TEM、SEM)は、 その他の形状についても測定可能である。 下図に、銀ナノ粒子の例を示した。粒子は球状に近く、極めて均一な粒径である。 出所:DIC Technical Review No.14 / 2008 55 ③カーボンブラックの測定 カーボンブラックの粒径、粒径分布、形状測定に適用可能な技術を下表に示す。 全体像(○:測定可能(多少課題はあるが)、△:課題多い、×:不可能) 数基準 粒径分布 粒径 測定法 重量基準 粒径分布 形状 一次 二次 一次 二次 一次 二次 球状 その他 TEM △*1 ○ ×*1 ○ × 換算*2 ○ ○ SEM △*1 ○ ×*1 ○ × 換算*2 ○ ○ BET 平均値 × × × × × × × LD × ○ × 換算*2 × △*3 × × DLS × ○ × 換算*2 × △*3 × × IG × ○ × 換算*2 × △*3 × × AUC × ○ × 換算*2 × △*3 × × 一次粒子:単独の単一粒子 二次粒子:アグロメレート、アグリゲート 一次:全ての一次粒子が対象である(二次粒子中の一次粒子を含む)。 二次:二次粒子も一つの粒子として扱う。 *網掛け部分:電顕は、真空中での電子線照射条件により、揮発成分が蒸発して形状が変化すること がある。 *1:二次粒子中の一次粒子が全て測定できるとは限らない。特に、製品の特徴として、ほとんどの一 次粒子が融着しアグリゲート化しているため、測定できてもほんの僅かである。 *2:換算(数⇔重量)は、数学的処理である。 *3:複雑に一次粒子が融着したアグロメレートが製品であり、各相当径が算出されても、そのもつ意 味(特に毒性学的意味)を解釈することが難しい。 <粒径測定(個別の粒子が対象)> ・一次粒子 製品中に一次粒子が単独で存在し、狭い測定視野内に捉えられれば、電子顕微 鏡(TEM、SEM)で測定できる。測定対象の粒子群の一つの方向から見える形状が代 表されて測定される。どこを粒子の大きさ(直径)とするかは、幾通りかの考え方があ る。例えば、最長部分と最短部分の平均をとる、面積を測定し円形換算で直径を得る、 等が考えられる。 しかし、カーボンブラックはその製法・製品仕様から、殆どの一次粒子は二次粒子 (凝結体)として存在していると云われている。凝結体は、各一次粒子の一部分が溶 融し、融着し合っているため、単独の一次粒子の痕跡は確認できるかもしれないが、 単独の一次粒子そのものが確認できる確率は低いと考えられる。 なお、真空中での電子線照射条件により、揮発成分が蒸発して形状が変化するこ とがある。 56 BET 比表面積計測(BET)は、試料全体の測定から得た比表面積から平均径を算 出するが、一次粒子というよりも融着したアグロメレートの値を算出するかもしれな い。 レーザー回折・散乱(LD)、動的光散乱(DLS)、誘電泳動グレーティング(IG)、(超) 遠心沈降法(AUC)は、二次粒子も一つの粒子と見做してしまうため、全ての方法で 一次粒子の測定ができない。 ・二次粒子 電子顕微鏡(TEM、SEM)で測定できる。 ただし、カーボンブラック製品は一次粒子の凝結体であるが、用途ごとに凝結体の 構造、形状等が異なり、球状に近いものから連珠状、枝分かれ状のものなどがある。 どの部分を粒子の大きさ(直径)とするかについて意見が分かれるところであると考え られる。 なお、真空中での電子線照射条件により、揮発成分が蒸発して形状が変化するこ とがある。 また、レーザー回折・散乱(LD)、動的光散乱(DLS)、誘電泳動グレーティング(IG)、 (超)遠心沈降法(AUC)でも測定が可能である。これらの測定方法は、測定原理によ って計測された情報を処理し、測定された物理量に対応した相当径による粒径分布 を算出する過程が異なり、それぞれ特徴(長所・短所)がある。 LD は計測に使用するレーザーの波長(散乱光強度は波長の逆数の4乗に比例す る、実用的な最短波長は400nm)の制限や粒径が小さくなると散乱光強度が急激に 減少することから粒子径の測定下限界が数十 nm 程度である。 DLS は粒径分布が広い試料の測定では粒径域により測定精度に差が生じやすい 傾向がある。分布が狭い試料では比較的信頼できる。粗大粒子が存在すると測定の 不確かさが増す。 IG はシングルナノ領域の測定の精度が良いが、測定径の上限が200nm 程度であ る。 AUC は測定の信頼性が高いが、測定に長時間を要する。 ただし、カーボンブラック製品は一次粒子の凝結体であるが、用途ごとに凝結体の 構造、形状等が異なり、球状に近いものから連珠状、枝分かれ状のものなどがあるこ とから、算出された各相当径のもつ意味を解釈することが難しい。 <粒子数基準の粒径分布測定> 電子顕微鏡(TEM、SEM)での測定でも困難である。 カーボンブラックはその製法、製品仕様から、殆どの一次粒子は二次粒子(凝結 体)として存在していると云われている。凝結体は、各一次粒子の一部分が溶融し、 57 融着し合っているため、単独の一次粒子の痕跡は確認できるかもしれないが、単独 の一次粒子そのものが確認できる確率は低いと考えられ、一次粒子の粒径分布測定 は困難である。 一方、レーザー回折・散乱(LD)、動的光散乱(DLS)、誘電泳動グレーティング(IG)、 (超)遠心沈降法(AUC)は、重量基準の粒径測定結果から、換算(単に、数学的な方 法)によって可能である。 <重量基準の粒径分布測定> 一次粒子の粒径分布測定は、上記の理由からどの方法でも困難である。 二次粒子も一つの粒子と見做しての粒径分布については、レーザー回折・散乱 (LD)、動的光散乱(DLS)、誘電泳動グレーティング(IG)、(超)遠心沈降法(AUC)で 測定可能である。これらの測定方法は、測定原理によって計測された情報を処理し、 測定された物理量に対応した相当径による粒径分布を算出する過程が異なり、それ ぞれ特徴(長所・短所)があり、粒径測定と同じことが言える。 なお、カーボンブラックは上記のような複雑な二次粒子構造をもつため、各相当径 への演算処理がどの程度の妥当性をもつものか検討が必要であると考えられる。ま た、算出された各相当径のもつ意味を解釈することが難しい。カーボンブラックメーカ ーでは、遠心沈降法を用いて測定しているようである。 <形状測定> ・球状及びその他の形状 電子顕微鏡(TEM、SEM)で測定できる。 カーボンブラックはその製法、製品 仕様から、殆どの一次粒子は二次粒 子(凝結体)として存在していると云わ れている。凝結体は、各一次粒子の 一部分が溶融し、融着し合った複雑 な形態であり、写された粒子群に対す る一方向からの形状が測定されるこ とになる。 その他の方法は、形状を測定でき ない。 出所:カーボンブラック協会 58 ④CNTの測定 CNT の粒径、粒径分布、形状測定に適用可能な技術を下表に示す。 全体像(○:測定可能(多少課題はあるが)、△:課題多い、×:不可能) 数基準 粒径分布 粒径 測定方法 重量基準 粒径分布 形状 一次 二次 一次 二次 一次 二次 線維状 TEM △*1 ○ △*1 ○ 換算*2 換算*2 ○ SEM △*1 ○ △*1 ○ 換算*2 換算*2 ○ BET 平均値 × × × × × × LD × ○ × 換算*2 × △*3 × DLS × ○ × 換算*2 × △*3 × IG × ○ × 換算*2 × △*3 × AUC × ○ × 換算*2 × △*3 × 一次粒子:単独の単一粒子 二次粒子:アグロメレート、アグリゲート 一次:全ての一次粒子が対象である(二次粒子中の一次粒子を含む)。 二次:二次粒子も一つの粒子として扱う。 *網掛け部分:電顕は、真空中での電子線照射条件により、揮発成分が蒸発して形状が変化すること がある。 *1:二次粒子中の一次粒子が全て測定できるとは限らない。 *2:換算(数⇔重量)は、数学的処理である。 *3:CNT は、繊維状のものが複雑に絡まっており、各相当径が算出されても、そのもつ意味を解釈す ることが難しい。 <粒径測定(個別の粒子が対象)> ・一次粒子 CNT は一般に、バンドル(bundle)という複数個以上のチューブが束状に凝集した構 造をとり、さらに、繊維が長い場合には、それらが絡み合って(tangled)いる場合が多 い。大きさはμm 以上である場合が多い。絡み合った場合、チューブの長さを測定す ることは非常に難しい。 一次粒子は、電子顕微鏡(TEM、SEM)で測定できる。測定対象の粒子群の一つの 方向から見える形状が代表されて測定される。どこを粒子の大きさ(直径)とするかは、 幾通りかの考え方がある。例えば、最長部分と最短部分の平均をとる、面積を測定し 円形換算で直径を得る、等が考えられるが、CNT の場合は、特に繊維(管)径が問題 とされるので、代表径は比較的容易に決めることができると考えられる。長さ方向は、 短いものは比較的容易だが、長く成長して曲がっているものは難しくなると考えられ る。 塊(二次粒子)を構成する CNT(一次粒子)の測定は、塊表面で確認できるものに ついては上記の方法で測定ができる。 59 なお、真空中での電子線照射条件により、揮発成分が蒸発して形状が変化するこ とがある。 BET 比表面積計測(BET)は、試料全体の測定から得た比表面積から平均径を算 出するが、球状粒子の平均径は繊維状のものに対してはなじまない。 レーザー回折・散乱(LD)、動的光散乱(DLS)、誘電泳動グレーティング(IG)、(超) 遠心沈降法(AUC)は、二次粒子も一つの粒子と見做してしまうため、全ての方法で 一次粒子の測定ができない。 ・塊(二次粒子) 電子顕微鏡(TEM、SEM)で測定できる。測定対象の塊を含んだ CNT 群の一つの方 向から見える形状が代表されて測定される。どこを粒子の大きさ(直径)とするかは、 幾通りかの考え方がある。例えば、最長部分と最短部分の平均をとる、面積を測定し 円形換算で直径を得る、等が考えられる。 なお、真空中での電子線照射条件により、揮発成分が蒸発して形状が変化するこ とがある。 また、レーザー回折・散乱(LD)、動的光散乱(DLS)、誘電泳動グレーティング(IG)、 (超)遠心沈降法(AUC)でも測定が可能である。これらの測定方法は、測定原理によ って計測された情報を処理し、測定された物理量に対応した相当径による粒径分布 を算出する過程が異なり、それぞれ特徴(長所・短所)がある。 LD は計測に使用するレーザーの波長(散乱光強度は波長の逆数の4乗に比例す る、実用的な最短波長は400nm)の制限や粒径が小さくなると散乱光強度が急激に 減少することから粒子径の測定下限界が数十 nm 程度である。 DLS は粒径分布が広い試料の測定では粒径域により測定精度に差が生じやすい 傾向がある。分布が狭い試料では比較的信頼できる。粗大粒子が存在すると測定の 不確かさが増す。 IG はシングルナノ領域の測定の精度が良いが、測定径の上限が200nm 程度であ る。 AUC は測定の信頼性が高いが、測定に長時間を要する。 なお、形状としては、絡み合っている塊、束状の塊などが挙げられ、算出された各 相当径のもつ意味を解釈することが難しい。したがって、これらの方法が適用される ことは少ない。 <粒子数基準の粒径分布測定> 電子顕微鏡(TEM、SEM)である程度測定できる。 単独の CNT については、粒径測定が上記の方法で可能であるため、粒径分布測 60 定が可能である。 しかし、塊が含まれている場合は、塊を一つの粒子と見做すことにすれば塊で測定 が可能なため粒径分布測定は可能であるが、全ての CNT(一次粒子)の粒径分布を 測定するのであれば、塊(二次粒子)を構成する全ての CNT(一次粒子)も測定しなけ ればならないため、粒径分布測定は不可能である。 ただし、CNT の場合、製造方法・製造条件によって繊維径が決まり、その分布は製 造装置内でのローカル条件の違いや製造条件の僅かなズレに起因するものでわず かしかないようであることから、CNT の測定本数が少なくても全体の繊維(管)径分布 を反映できていると云えるのではないかと考えられる。 なお、真空中での電子線照射条件により、揮発成分が蒸発して形状が変化する ことがある。また、測定の視野の問題、測定技術の熟練度の問題は、1.で記した通 りである。 一方、レーザー回折・散乱(LD)、動的光散乱(DLS)、誘電泳動グレーティング(IG)、 (超)遠心沈降法(AUC)は、重量基準の粒径測定結果から、換算(単に、数学的な方 法)によって可能である。 <重量基準の粒径分布測定> CNT(一次粒子)の粒径分布測定については、電子顕微鏡(TEM、SEM)の測定から 得た粒径分布の結果から、換算(単に、数学的な方法)によって可能である。ただし、 粒子数基準の粒径分布測定に記した塊中の CNT(一次粒子)が全て特定できない可 能性が大きいという測定の限界性が問題点として残る。 塊も一つの粒子と見做しての粒径分布については、レーザー回折・散乱(LD)、動 的光散乱(DLS)、誘電泳動グレーティング(IG)、(超)遠心沈降法(AUC)で測定可能 である。これらの測定方法は、測定原理によって計測された情報を処理し、測定され た物理量に対応した相当径による粒径分布を算出する過程が異なり、〈粒径測定〉の 項で記述した特徴(長所・短所)は同じである。 なお、CNT は上記のような複雑な二次粒子構造をもつため、各相当径への演算処 理がどの程度の妥当性をもつものか検討が必要であると考えられる。また、そのもつ 意味を解釈することが難しい。 <形状測定> ・繊維状 電子顕微鏡(TEM、SEM)で測定できる。測定対象の CNT 粒子群の一つの方向から見える形状が代表さ れて測定される。測定方向が異なるものが測定され 61 ている場合は、より正確な形状の測定結果となるものと考えられる。 写真出所:http://www.photon.t.u-tokyo.ac.jp/~maruyama/MHF/ChemistryEducation.pdf 62 ⑤ナノ合成樹脂(ポリスチレンラテックス粒子等)の測定 ナノ樹脂の粒径、粒径分布、形状測定に適用可能な技術を下表に示す。 全体像(○:測定可能(多少課題はあるが)、△:課題多い、×:不可能) 数基準 粒径分布 粒径 測定方法 重量基準 粒径分布 形状 一次 二次 一次 二次 一次 二次 球状 その他 TEM △*1 ○ △*1 ○ 換算*2 換算*2 ○ ○ SEM △*1 ○ △*1 ○ 換算*2 換算*2 ○ ○ BET 平均値 × × × × × × × LD × ○ × 換算*2 × ○ × × DLS × ○ × 換算*2 × ○ × × IG × ○ × 換算*2 × ○ × × AUC × ○ × 換算*2 × ○ × × 一次粒子:単独の単一粒子 二次粒子:アグロメレート、アグリゲート 一次:全ての一次粒子が対象である(二次粒子中の一次粒子を含む)。 二次:二次粒子も一つの粒子として扱う。 *網掛け部分:電顕は、真空中での電子線照射条件により、揮発成分が蒸発して形状が変化すること がある。 *1:二次粒子中の一次粒子が全て測定できるとは限らない。 *2:換算(数⇔重量)は、数学的処理である。 <粒径測定(個別の粒子が対象)> ・一次粒子 電子顕微鏡(TEM、SEM)で測定できる。測定対象の粒子群の一つの方向から見え る形状が代表されて測定される。どこを粒子の大きさ(直径)とするかは、幾通りかの 考え方がある。例えば、最長部分と最短部分の平均をとる、面積を測定し円形換算で 直径を得る、等が考えられるが、ポリスチレンラテックス粒子のような場合はほぼ球 状なためこのことはあまり問題とならないと考えられる。 二次粒子(凝集体、凝結体)を構成する一次粒子の測定は、それが単独の一次粒 子として確認できるものについてのみ上記の方法で測定ができるが、ポリスチレンビ ーズのように製品に二次粒子を含まない場合はこのことは考える必要がない。 なお、真空中での電子線照射条件により、揮発成分が蒸発して形状が変化すること がある。 BET 比表面積計測(BET)は、試料全体の測定から得た比表面積から平均径を算 出する。 レーザー回折・散乱(LD)、動的光散乱(DLS)、誘電泳動グレーティング(IG)、(超) 遠心沈降法(AUC)は、二次粒子も一つの粒子と見做してしまうため、全ての方法で 63 一次粒子の測定ができない。 ・二次粒子 電子顕微鏡(TEM、SEM)で測定できる。測定対象の二次粒子を含む粒子群の一つ の方向から見える形状が代表されて測定される。どこを粒子の大きさ(直径)とするか は、幾通りかの考え方がある。例えば、最長部分と最短部分の平均をとる、面積を測 定し円形換算で直径を得る、等が考えられるが、ポリスチレンラテックス粒子のように 製品に二次粒子を含まない場合はこの測定は考えられない。 なお、真空中での電子線照射条件により、揮発成分が蒸発して形状が変化すること がある。 また、レーザー回折・散乱(LD)、動的光散乱(DLS)、誘電泳動グレーティング(IG)、 (超)遠心沈降法(AUC)でも測定が可能である。これらの測定方法は、測定原理によ って計測された情報を処理し、測定された物理量に対応した相当径による粒径分布 を算出する過程が異なり、それぞれ特徴(長所・短所)がある。 LD は計測に使用するレーザーの波長(散乱光強度は波長の逆数の4乗に比例す る、実用的な最短波長は400nm)の制限や粒径が小さくなると散乱光強度が急激に 減少することから粒子径の測定下限界が数十 nm 程度である。 DLS は粒径分布が広い試料の測定では粒径域により測定精度に差が生じやすい 傾向がある。分布が狭い試料では比較的信頼できる。粗大粒子が存在すると測定の 不確かさが増す。 IG はシングルナノ領域の測定の精度が良いが、測定径の上限が200nm 程度であ る。 AUC は測定の信頼性が高いが、測定に長時間を要する。 <粒子数基準の粒径分布測定> 電子顕微鏡(TEM、SEM)である程度測定できる。 単独の一次粒子の場合は、粒径測定が上記の方法で可能であるため、粒径分布 測定が可能である。 しかし、二次粒子が含まれている場合は、二次粒子を一つの粒子と見做すことが 許されるならば一次粒子と同様の方法で測定が可能なため粒径分布測定は可能で あるが、全ての一次粒子の粒径分布を測定しなければならないならば、二次粒子を 構成する全ての一次粒子を測定しなければならないため粒径分布測定は困難である が、ポリスチレンラテックス粒子のように製品に二次粒子がない場合はこのことは考 える必要がない。 なお、測定の視野の問題、測定技術の熟練度の問題は、1.で記した通りである。 一方、レーザー回折・散乱(LD)、動的光散乱(DLS)、誘電泳動グレーティング(IG)、 64 (超)遠心沈降法(AUC)は、重量基準の粒径測定結果から、換算(単に、数学的な方 法)によって可能である。 <重量基準の粒径分布測定> 一次粒子の粒径分布測定については、電子顕微鏡(TEM、SEM)の測定から得た粒 径分布の結果から、換算(単に、数学的な方法)によって可能である。ただし、粒子数 基準の粒径分布測定に記した二次粒子中の一次粒子が全て特定できない可能性が 大きいという測定の限界性が問題点として残るが、ポリスチレンビーズのように製品 に二次粒子がない場合はこのことは考える必要がない。 (ポリスチレンビーズのような場合は製品に二次粒子がないが、)二次粒子も一つ の粒子と見做しての粒径分布については、レーザー回折・散乱(LD)、動的光散乱 (DLS)、誘電泳動グレーティング(IG)、(超)遠心沈降法(AUC)で測定可能である。こ れらの測定方法は、測定原理によって計測された情報を処理し、測定された物理量 に対応した相当径による粒径分布を算出する過程が異なり、〈粒径測定〉の項で記述 した特徴(長所・短所)は同じである。 <形状測定> ・球状(ポリスチレンラテックス粒子など) 電子顕微鏡(TEM、SEM)で測定できる。測定対象の粒群の一つの方向から見える 形状が代表されて測定される。 その他の方法は、形状を測定できない。 ・針状 電子顕微鏡(TEM、SEM)で測定できる。測定対象の粒子群の一つの方向から見え る形状が代表されて測定される。測定方向が異なるものが測定されている場合は、よ り正確な形状の測定結果となるものと考えられる。 その他の方法は、形状を測定できない。 下図にポリエチレンラテックス粒子の代表的な撮影像を示す。球形であること、粒 径分布が均一であることから、粒径測定の標準粒子として用いられている例である。 65 Thermo Fisher Scientific 社の標準粒子。 アメリカ合衆国の国立標準技術研究所(National Institute of Standards and Technology: NIST)と粒子径測定方法の共同開発を行い、NIST の標準として採用される。 出所:http://www.moritex.co.jp/products/func/particle.php 66 (2)計測における課題と定義対応の方向 (2-1)計測法にかかる現状認識 粒径分布を考慮したナノ物質の定義は、フランスとオーストラリアの定義は結局 EU の定義と同一に帰するので、他には米国の定義しかなく、米国の定義は測定法 が指定されている。具体的には 1nm~100nm までのナノサイズの材料の把握を個 数ベースで実施するか重量ベースで把握するのかの違いである。計測法には、実 際の測定物理量が個数分布で得られる方法と測定物理量からの相当径の重量 (又は体積)比率で得られる場合に分けられる。両者は数学的換算によって、変換 される。 ① 個数ベースで把握する計測法の現状と課題のまとめ 現状では、種々の粒子径測定方法があるが、一次粒子の粒径分布測定が可能 な測定方法は電子顕微鏡(TEM、SEM)に限られる。 一般的に、BET 測定や2次粒径測定法で1次粒子のサイズまで測定することは できず、EU 定義に該当しないことを証明するためには現状では TEM、SEM を用い る以外の方法はない。 一方、TEM、SEM 測定にも以下のような課題がある。 ・TEMのための標準物質がない。 ・1次粒子の明確な界面を持つものでなければ測定が困難(例えばカーボンブ ラックなどは測定困難、誤差が大きくなる)。 ・電子線による試料のダメージがある場合があり、粒径が変化する可能性が ある。 ・装置価格、維持費が高額で、計測には高度な技術習得が必要である。 ・観察視野が狭くサンプリング方法や分散方法により結果が異なる。方法の標 準化が必要。 ・実試料の粒子径分布情報を精度高く得るには、相当量の粒子数を、試料の 代表性を損なうことなく、測定する必要があり、手間と費用が嵩む。(同一装 置での繰り返し測定間でも測定差が生じる)。 ・一次粒子/二次粒子の判定に困難さがあり、科学的に合意された基準がな いため、人為的測定では判定に任意性があり、さらに判断の揺れが生じてし まう可能性もある。また、ソフトウェアで自動計測する場合でも、ソフトウェア 作成者の判断が入る。 従って、現状の TEM 測定結果に基づく定義該当性の判定には、我が国粉体メー カー側の測定値が定義に非該当であっても、EU 側の測定値が定義に該当するケ ースが考えられる。 EU 登録の際に使用する代理人が委託する測定機関の測定値と EU 側の測定値 の間でも同じことが言える。 67 ② 重量ベースで把握する計測法の現状と課題のまとめ 重量ベースの測定法は、短時間で粒径分布が得られる場合がほとんどであり、 測定も容易で、装置について手順が決められている。3.(1)で示したように方法毎 に、測定範囲、信頼性等において特徴がある。3.(1)、(1-3)で示したように、ナ ノ物質毎に最適な方法が選択される。ただし、、一個の塊として挙動するものが観 測されるため、一次粒子、二次粒子の区別が出来ない。したがって、二次粒子中の 一次粒子まで測定することが要求される場合には対応できないことになる。これは 測定方法の本質的な点であり、二次粒子を何らかの方法で一次粒子にまで、分解 することが必要であるが、アグロメレートの場合には可能な場合があるが、アグリゲ ートの場合には現状では困難である。 (2-2)個数ベースの定義(EU における EC のナノ定義勧告)への対応について 個数ベースの定義の一例であるECのナノ物質の定義については、実際の運用 方法が現時点では EC から発表されていないことから、上記の課題を認識した上で 引き続きECの状況をウォッチしていくことになる。 ①で述べた状況は、日本企業だけの問題ではなくEU域内の企業も同じ状況で あると考えられ、例えば、Cefic(欧州化学工業協会)は、2012 年 6 月の時点で計測 法について次のように述べている。 ( Presentation at REACH Implementation Workshop XI - 18-19 June 2012 ; http://www.cefic.org/Documents/IndustrySupport/REACH%20Implementation/RI W_XI_June2012_Presentations/12_Nanomaterials_and_REACH-VGarny_Cefic.pdf) ・現在 JRC が(ナノ定義の該当性を判定する)標準的な方法を開発中である。 ・この目的に直接応える方法はなく、技術的な対応は挑戦的な課題である。 ・ECHA は、ナノ物質とアグリゲート、アグロメレートのキャラクタリゼーションに対 しては、“a matrix of analyses”を容認すると言明している。例えば、TEM/SEM、 光散乱(動的、レーザー…)、他の専門技術(遠心沈降、蛍光 X 線…)の組み合 わせで対応するなど。 また、オランダ国立公衆衛生・環境研究所(RIVM)は、この6月「ナノ物質の定義 に関する EC 勧告の解釈と影響」という報告書を出した。 (http://www.rivm.nl/bibliotheek/ rapporten/601358001.pdf) その中で、測定方法 について、粒径分布を、ひいてはナノ物質に当てはまるかどうかを測定する多くの 方法はアグロメレート/アグリゲート、単独粒子の区別が出来ず、現在それが唯一 可能な電子顕微鏡法は不利な点もある、と述べている。さらに、粒径測定について は EC によるガイダンスが必要であり、例えば粒径測定はナノ粒子のタイプによって 最適な方法が異なること事、少なくとも2種類の測定法を使用し、そのうち1つは電 子顕微鏡によるものであるべきであること、アグリゲートの判定について基準を設 68 けるべきであるなどの指摘を行っている。 材料の製造者が、自社の製品が EC のナノ物質の EU 定義に該当するかどう かの判定に利用する測定フローシートとしては、以下のようなフローシートによって 測定を進めること事が一案として考えられる。 測定対象試料 繊維状物質 YES NO か? TEM/SEM による 直径・長さの分布測定 か? 多孔質粒子 か? NO YES か? BET 法による比表面積測 定 YES 1cm3当り60㎡を 超えるか? NO 球換算平均径が100nm 以下 (EU 定義ナノマテリアルに該当) LD、DLS、 IG、AUC 粒子状材料の粒径分布測定 100nm 以下の粒 子数が50%以上 か 超えるか? YES NO TEM/SEM による粒径分布測 定 EU 定義ナノ物質に該当 YES 100nm 以下の一次 粒子数が50%以上 か 超えるか? NO EU 定義ナノ物質に該当せず 69 測定対象の平均粒径が 100nm より相当小さく、凝集体がなく、分布が狭けれ ば、TEM、SEM 測定なしですむ場合が多いであろうが、平均粒径が 100nm 付 近のもの、分布が広いもの、凝集体がある場合は、TEM、SEM 測定と、DLS、 LD、AUC、IG との併用により、総合的に判断する必要がある。 (3) ナノ物質の計測法の提案 各国のナノ物質の定義には、前述のとおりナノサイズの粒子の個数割合を求め ている場合と重量割合を求めているものがある。それぞれに計測方法が変わってく る。 ナノ物質に要求される計測項目として、一次粒径、二次粒径とその分布、比表面 積が挙げられる。ナノサイズの粒子は凝集しやすく、粒径を測定する際には、個々 の粒子に分散させなければならないが、アグロメレートは容易に分散する場合もあ るが、アグリゲートの分散は非常に困難である。このことは上記の特性を測定する 際、常に考慮しておかなければならない因子である。測定法は多数あり、それぞれ、 特徴があるので測定したいナノ物質の特性に応じて最適な方法が選択されること になる。本 WG では、ナノ物質の定義が一次粒子の粒径ついて、100nm を境界値と するのがほとんどである現状を考慮しつつ、ナノ物質のメーカーとそれを使用する メーカーが、商取引、生産管理に使用できる計測方法を提案する。 ①電子顕微鏡(TEM、SEM) 一次粒子の粒径を測定するには、電子顕微鏡(TEM、SEM)で、1つずつ幾何的 な形状を測定するしか方法が無い。ただし、二次粒子を構成する一次粒子同士を どのように区別するかの判断は難しい場合がある。本法は、装置の操作はもとより、 視野の取り方、試料のサンプリング、試料ステージ上での粒子の分散等に経験を 要し、粒径分布を求めるには、多数の粒子を測定しなければならないため、長時間 かかる。しかしながら、一次粒子と二次粒子を見分けながら測定するという、他の 方法はできない特徴を持っているのでナノ物質の測定には必須の計測法である。 本法は、最初に個数分布が得られ、重量分布を求めるには、数学的処理によ る。 ②BET 法による比表面積測定 BET 測定は、試料の全表面積を測定し、その値を試料が単一径の球によって構 成されると仮定した場合の全表面積値と等置して球径を求める。この粒径は、一次 粒子径の平均的な値を与える。以下に述べる電子顕微鏡(TEM、SEM)以外の方法 が、一次粒子径を測定できないので、比較的容易に測定できる本法は、非常に重 要な情報を提供する。 ③粒径・粒径分布測定法 一般に粒径測定装置は粒径分布を測定値として出力しそれから平均値として粒 70 径を計算する。100nm 付近の平均粒子径を比較的精度よく測定できる方法として、 動的光散乱法(DLS)、レーザー回折・散乱法(LD)、誘電泳動グレーティング法 (IG)、(超)遠心沈降法(AUC)の4つに絞り込んだ。これらの測定方法は、測定原理 によって計測された情報を処理し、測定された物理量に対応した相当径による粒径 分布を算出する過程が異なり、それぞれ以下に述べる特徴(長所・短所)がある。 ただし、これらの方法は全て、観測場において凝集している粒子は一個の粒子とし て測定する。従って、一次粒子二次粒子の区別なく測定されることに留意しなけれ ばならない。 又これらの方法は、実測値として、体積(重量)基準の粒径分布が得られ、個数 分布は数学的処理による。 LD は計測に使用するレーザーの波長(散乱光強度は波長の逆数の4乗に比例 する、実用的な最短波長は400nm)の制限や粒径が小さくなると散乱光強度が急激 に減少することから粒子径の測定下限が数十 nm 程度である。 DLS は粒径分布が広い試料の測定では粒径域により測定精度に差が生じやす い傾向がある。分布が狭い試料では比較的信頼できる。粗大粒子が存在すると測 定の不確かさが増す。 IG はシングルナノ領域の測定の精度が良いが、測定径の上限が200nm 程度で ある。 AUC は測定の信頼性が高いが、測定に長時間を要する。 これらの方法のどれを選ぶかは、粒子の最小径、最大径、粒子の物性等を考慮 して選択することになる。 ④実際には、これらの方法を組み合わせて使用することにより、実体的な平均粒径、 粒度分布、凝集状態が明らかになり、定義に照らしてナノ物質であるかどうかの判 断に使用できるデータが得られる。また、商取引、生産管理、研究開発などには、 目的に応じて測定方法を選択することになる。 71 4.今後の課題 WG活動以降に進めるべき取り組みとしては、以下が挙げられる。産官学が協力し て推進することが望まれる。 ①電子顕微鏡法の標準化支援 経済産業省基準認証政策課24年度国際標準共同研究開発事業「ナノ材料の 安全性評価基盤に関する国際標準化」研究において、「TEM を用いたナノ粒子径 分布計測」が実施される。凝集したナノ粒子について試料調整方法、計測におけ る標準材料、データ処理法などの標準的手法を策定するために、国内産業界の 協力を得てラウンドロビンテストを行い、技量把握と課題抽出を行うことが計画さ れている。その結果を、ISO/TC229へ報告し、標準化を米国と連携して、進めて いくことを目的としている。 ②ナノ物質毎の分散法を含めた装置/測定法の標準化 3.(1)の(1-3)で述べたナノ物質ごとの計測技術を、分散法も含め、必要に 応じ測定手順の標準化を進める。 ③電子顕微鏡法に代わりうる簡易1次粒子粒径測定法(提案があれば)の開発支援 電子顕微鏡法に代わりうる簡易1次粒子粒径測定法が望まれるところである。 もしそのような提案が出てくれば、開発・実用化のバックアップ体制を構築していく 必要がある。 72 参考資料 TEM を用いたナノ粒子径計測の標準化状況 2012年7月24日 産業技術総合研究所 計測フロンティア研究部門 山本和弘 EU のナノ材料の定義をうけ、ナノ粒子径を個数基準で直接計測できる手法として TEM/SEM は 有望な計測手法である。そこで本報告では特に TEM を用いたナノ粒子径の世界動向として1)日 本国内の動向、2)ISO/TC229における状況に関して報告する。 1) 日本国内における動向 METI 基準認証政策課より H24年度国際標準共同研究開発事業「ナノ材料の安全性評価基盤に 関する国際標準化」研究が公募され、本報告者を代表とする「TEM を用いたナノ粒子径分布計 測」に関する提案が採択された。TEM を用いたナノ粒子径分布の計測では、凝集したナノ粒子に ついて試料調整方法、計測における標準材料、データ処理法などの標準的手法を策定する必要 がある。現在、国内産業界の協力を得てラウンドロビンテストを行い、技量把握と課題抽出を計画 している。 2)ISO/TC229における状況 2011年11月の南アフリカ会議で「1次ナノ粒子径分布の TEM 計測」関する Study Group の設置 が決まり、日本からも Expert 登録(本報告者)された。2012年6月の ISO/TC229イタリア会議に置い て、SG リーダーの米国よりプロトコルの素案と金ナノ粒子を用いた米国内でのラウンドロビン試験 (RRT)の結果が報告された。プロトコルの素案では Scope として TEM のみを対象とするか、SEM も含むかが議論されたが結論は持ち越しとなった。またプロトコルに取り上げるナノ材料に関して も多くの意見が寄せられた。米国内の RRT では試料に NIST SRM8012標準(粒径30nm 金粒子) を用いて、企業、国立研究機関、大学等8機関が参加して行われた。8機関中6機関は中心径 30nm±5%の範囲に計測結果があることが示された。米国ではシリカ、酸化チタン、カーボンブラッ クに関しても関連企業と連携して同様の評価をしていく計画とのことである。また VAMAS との連携 により国際的な RRT が行われる予定である。 日本の対応として、上記1)に記載した国内での RRT の結果を早急にまとめて次回 TC229会議 (2013年3月予定)に報告し、日本のイニシアチブの確保することにより提案国(米国)とともに標準 化を進める必要がある。 73 3) 第5回計測技術ワーキンググループ 第5回計測技術ワーキンググループは、平成25年3月14日に開催され、委員の 内10名出席で行われ、以下の討議が行われた。 議題: (1)第4回WG議事要旨の確認について (2)前回WG以降のナノ材料の計測に関連したトピック (3)計測技術WG中間とりまとめ(案)について <配付資料> 資料1 第4回 WG 議事要旨(案) 資料2 計測技術 WG 中間とりまとめの構成変更について 資料3 計測技術WGの中間とりまとめ(案) 参考資料1 前回 WG 以降の欧米等におけるトピック 参考資料2 JRC 報告書:EC によるナノ材料定義の履行のための測定に必要 な要件 ①議題3:計測技術 WG 中間とりまとめ(案)に関する議論 ・とりまとめ(案)のスタンスが欧米の定義対応なの生産現場で使いためなのか分 かりにくい。→JRC の個数基準の定義への対応が明確でなくなってきている。 ・質量基準の粒子径分布はどこを測定の上限とするかによって違いがでる。測定機 器メーカーは、ナノ粒子を測れるというが、標準物質による検証が必要であり、一 度金を掛けるべきである。 ・気相エレクトロスプレーで個数基準の粒子径分布が測れだしている。 ・計測技術 WG の目的が変更されているが、測定方法と測定対象物質の2つの軸 のマトリックスから測定装置を選べるようにしたことは成果としてよいのではないか。 →5回 WG を行った。事前にコメントをいただき、現状使用できる測定技術はこうで あると、中間とりまとめをさせていただいた。最後は、座長預かりとさせていただき たい。 ・気相でのナノ粒子の計測法も取り上げているが、先ずは生産管理での技術が中 心であるとの理解している。測定対象の粒子が100nm 以下の範囲であれば問題 ないが、サンプリングは等速吸引しなければならない(標準を参考にする)。 ・11頁の⑨SMPS は、生産管理に使用されているか?21頁の気相での計測のほう に移すほうが良い? 74 ・中間とりまとめの次のフェーズがあるとすれば、生産現場の人に役に立つようにも う少し工夫してほしい。→現場から見ると、マトリックスは成果である。 ・国内では、吉田先生が遠心沈降の研究をしている。回転数により測れたり、測れ なかったりしており、標準物質での検証が必要である。5年前から日本粉体工業 技術協会が20~100nm のナノ粒子の標準物質を作っている。→ISO の TC229で も標準法を決めるのに苦労している。標準物質ないと困るのではないか。 ・24頁の第2段落は、第2フェーズのことをもう少し強調できないか?→EC 定義で 困っておるところが多いため、フロー図に測定機器を組み込んで、その結果をナノ 物質の定義(クラス分け)の仕方に反映させるということを、我が国から ISO に働き かけている。→具体論は、今回の議論を受けて、行っていくことになる。フロー図 によって定義が決まるとしたら、重要なポイントである。 ・凝集粒子をどう考えるのか?焼結体は一つの粒子とすべきではないか?→決め てほしいとは、とりまとめに書ける。ナノセーフティからきている問題だが、ナノリス ク WG からは回答がでていないため、いろいろな可能性を考えてやっていくしかな い。リスク側は一括りに出来ないことが分かってきている。米国もそうだが、物質ご とにリスク評価を行おうとしだしている。 ・表2の適用可能範囲は、採用した数値を根拠・基準が不明である。→必ずしもそ の数値 を鵜呑みにできないかもしれないが、原則、市販装置のカタログ値を採用 して見直す。 ・数値と単位の間は、半角空ける。 以下に、配布された資料の内、検討に用いられたものを示す。 75 資料2 計測技術WG中間とりまとめの構成変更について 今般ご議論いただく「計測技術WGとりまとめ(案)」は、第4回計測技術WG(2012.7.24)に ご提示した「資料3計測技術WGの中間まとめ(案)」から構成に変更を加えています。 1. ナノ物質の管理に関する検討会(第2回)(2012 年 9 月 6 日 開催)において、計測技術ワ ーキンググループの検討に関する以下のご指摘がありました。(議事要旨から抜粋) (1) ナノの分野は、計測等の技術基盤をしっかり押さえないと、何が問題なのかわからなくな る。計測の再現性の確保や標準化に向けては、プレトリートメント(前処理)が重要。 (2) TEM/SEM のデータについてサンプルの代表値とするための処理の方法の議論も必 要。 (3) 計測技術ワーキンググループでサンプリングについて整理してほしい。 (4) コストは重要な要素。もっとコスト感を出した表現にしてほしい。 2. 検討会のご指摘を受けて以下のとおり、変更しました。 (1) 目的の変更 【変更前】 国内企業が製造しているナノ物質の生産管理やユーザーとの商取引に必要なナノ物質 のサイズ、含有量等の測定が可能な技術を整理し、必要な信頼性が確保でき、産業界が 日常的に使える実用的な計測方法を提案する。なお、労働作業環境、一般環境(大気、 水質、土壌等)の計測は検討対象外とする。 【変更後】 現状利用できるナノ物質の計測技術を整理し、ナノ物質のライフサイクルの各段階での 管理対象について、ふさわしい計測方法を検討する。特に、生産管理及び品質保証で使 用が可能な汎用的な装置の中で、物質のサイズ(大きさ)の計測技術を中心に整理す る。 (2) 計測技術ごとに、原理、長所・短所、価格の目安を整理 (3) 計測における前処理と分散技術の重要性を明記 (4) 環境管理、労働衛生管理、人へのばく露防止のための計測技術の考察を追加し、サン プリング・気相測定を追加 3. 2013.3.5 計測技術 WG 中間とりまとめ(案)において、委員等の意見を踏まえ変更を行い 76 ました。 (1) EC-JRC の報告書においてもナノ物質の定義を担保する計測技術について結論をだせな い状況の中、一案とはいえ定義対応の技術的流れを提案するには検証等が不十分では ないかとのご指摘を踏まえ、削除することとしました。 (2) 表2で整理した各技術の適用可能な径の範囲の修正をいただいた結果、主要な計測法 として概要を記載する計測技術が増えました。 以上 77 資料3 計測技術WG中間とりまとめ (案) 平成25年●月●日 ナノ物質の管理に関する検討会 計測技術ワーキンググループ 78 目次 1.目的・検討内容 .............................................................................................................................................................. (1)目的 ...................................................................... (2)検討内容 .................................................................. 2.現状利用可能なナノ物質の計測技術.................................................................................................................. (1)ナノ物質のライフサイクルにおける管理対象及び計測対象 ......................... (2)計測対象とナノ物質の計測方法 ............................................... (3)国内ナノ物質製造企業により使用されている計測技術 ............................. 3.ナノ物質の生産管理・品質保証のための計測技術 ....................................................................................... (1)生産管理・品質保証のための主要計測技術 ..................................... (2)主要な計測技術の概要 ...................................................... (3)ナノ物質の種類ごとの計測技術の整理 ......................................... (4)計測における前処理と分散技術 ............................................... (5)ナノ物質の定義と計測技術 ................................................... 4.ナノ物質の環境管理、労働衛生管理、人へのばく露防止のための計測技術 .................................... (1)サンプリング ............................................................... (2)気相中ナノ粒子の粒子径・粒子径分布の計測法 .................................. 5.まとめ ................................................................................................................................................................................. (参考資料-1) 欧米における規制動向とナノ物質の定義 ................................................................................ (1)EU ........................................................................ (2)米国 ...................................................................... (3)その他諸国 ................................................................ (4)粒子径分布を考慮したナノ物質の定義 .......................................... (参考資料2) ナノ物質製造企業が使用している計測技術エラー! ブックマークが定義されてい ません。 79 1.目的・検討内容 (1)目的 ナノ物質の適正管理のためには、管理対象を明らかにしつつ、適切な計測技術を用いて ばく露評価をする必要がある。そこで現状利用できるナノ物質の計測技術を整理し、ナノ物 質のライフサイクルの各段階での管理対象について、ふさわしい計測方法を検討する。特 に、生産管理及び品質保証で使用が可能な汎用的な装置の中で、物質のサイズ(大きさ) の計測技術を中心に整理する。 (2)検討内容 ナノ物質の生産から、ナノ物質を使用した製品の生産、事業者や消費者による製品の使 用、製品の廃棄までの一連のライフサイクルを考慮して、ナノ物質の形態に応じたナノ物質 の計測技術の整理を行う。特に、計測技術について、ナノ粒子そのものを計測する固相計 測法、液中ナノ粒子を計測する液相計測法またはナノ粒子エアロゾルを計測する気相計測 法に分類し整理する。ここで固相計測法とは電子顕微鏡法等により固体粒子を静置して計 測する方法を言うものとする。 これら計測技術のうち、国内のナノ物質製造企業が使用している計測技術に留意し、生 産管理及び品質保証に利用されている主な計測方法(主に固相計測法または液相計測法) について、組成(炭素系、酸化物系、金属系等)、形状(粒状、繊維状等)または特性(凝集 性等)等の違いに応じ、ナノ物質の適切な計測方法を整理する。 また、ナノ物質に関連する労働現場管理、環境管理または消費者の製品使用に伴うばく 露管理における計測技術の整理を行う。特に、気相計測法を中心にサンプリング手法及び 計測方法の整理を行う。 図1 ナノ物質のライフサイクルと管理対象 (*) B to B : Business to Business B to C : Business to Consumer 80 2.現状利用可能なナノ物質の計測技術 (1)ナノ物質のライフサイクルにおける管理対象及び計測対象 ナノ物質は、微細な固体状の物質であり、その粒子径や存在状態を計測するには高度な技 術を要する。特に、ナノ物質を効率的に計測するためには、ライフサイクルにおけるナノ物質 の状態に応じ、適切な計測方法を選択する必要がある。 ナノ物質を製造する場合やナノ物質を使用した製品を製造する場合、生産管理や品質保証 のためにナノ物質のサイズの把握が必須となる。この場合、ナノ物質は液相中または固相とし てナノ粒子を計測することが効率的である。 一方、製造現場のナノ物質の飛散を防止する労働現場管理の観点からは、作業環境の気 相中に存在するナノ物質を計測することが求められる。さらに、工場から外部への排出(排出 ガス、排水、廃棄物)を抑える環境管理においては、ナノ物質は気相中または液相中で計測す ることが望ましい。 ナノ物質は用途により製品中の存在状態は多様であり、ナノ物質を用いた製品を消費者が 使用する場合、製品からナノ物質が放出されるかどうかを確認することは難しい。消費者が使 用中の製品から人へのばく露や生態環境への放出を考慮すると、製品に応じ、気相中、液相 中に存在するナノ物質または固相としてのナノ粒子を計測することが求められる。 製品の廃棄物処理やリサイクル処理において、処理現場から外部への放出や漏洩がない よう管理するためには、気相中または液相中に存在するナノ物質を計測する必要がある。 以上を考慮して、ナノ物質のライフサイクルにおける管理対象と計測対象をまとめ、表1に 示す。 表1 ナノ物質のライフサイクルと計測対象 ライフステージ ナノ物質製造 ナノ物質を使用 した製品製造 消費者使用 廃棄 管理対象 環境 労働現場 生産管理・品質保証 環境 労働現場 生産管理・品質保証 環境 人へのばく露 労働現場 環境 外部放出、廃棄物 主に作業中の粒子飛散 製品(ナノ物質) 外部放出、廃棄物 主に作業中の粒子飛散 製品(ナノ物質含有製品) 外部放出 経皮、経口、吸入 主に処理作業中の粒子飛散 廃棄物からの外部放出 計 測 対 象 気相 液相 固相 (2)計測対象とナノ物質の計測方法 現在用いられている、ナノ物質の粒子径及び個数を計測する方法、並びに粒子を分級する 方法を表2に示す。 81 固相計測法として、電子顕微鏡法(TEM、SEM)、原子間力顕微鏡法(AFM)、X線回折 (XRD;結晶子径計測)及び BET 法(*)(比表面積計測)、液相計測法として、動的光散乱法 (DLS)やレーザー回折・散乱法(LD)等、気相計測法として凝縮核計数法(CNC または CPC)、 走査式電気移動度径計測法(SMPSTM/DMAS)等がある。これらの計測法は、計測可能な粒 子の種類、計測可能範囲等が異なるため、計測にあたっては計測原理等を十分に把握し活 用する必要がある。 また分級装置と粒子検出装置を組み合わせることでより精度の高い計測結果を得られるこ ともある。 82 表2 ナノサイズ粒子径計測法及び分級法 対象の状態 計測法 計 測 法 計測対象 信頼性 備考 気・液・固 一次・ 二次粒子注1 個数・表面積・ 体積・光強度 計測物理量 (それぞれの 等価径による) 平均 粒子径 粒子径分布 透過型電子顕微鏡(TEM) 固 一次・二次粒子 個数 幾何学径 0.08nm - ○ ○ 信頼ある平均値を求めるためには大量の計測点が必要 走査型電子顕微鏡(SEM) 固 一次・二次粒子 個数 幾何学径 1.2nm - ○ ○ 信頼ある平均値を求めるためには大量の計測点が必要 原子間力顕微鏡(AFM) 固、液 一次・二次粒子 個数 幾何学径 0.1 nm - ○ ○ 信頼ある平均値を求めるためには大量の計測点が必要 探針形状によるアーティファクトがある X 線回折(XRD) 固 一次粒子 (結晶子) 体積 回折線幅 (シェラー法) 3 nm - 100 nm ◎ × アモルファスに適用できない Brunauer-Emmett-Teller 比表面積計測(BET) 固 - 表面積 ガス吸着量 1 nm - ◎ × 動的光散乱法(DLS) 液 二次粒子 光強度 拡散係数相当径 1nm - 1μm ◎ △ 多角度光散乱(MALS) 液 二次粒子 光強度 光散乱相当径 10 nm - 500 nm ◎ × 粒子径は回転半径からの換算径 単一角度光散乱(OPC) 気・液 二次粒子 個数(=光強度) 100nm-100μm ○ ○ 小角 X 線散乱(SAXS) 液 二次粒子 X 線強度 X 線散乱相当径 1 nm - 1μm ◎ △ 粒子径は換算粒子径で定性的/製品は専ら個数計測 入射 X 線による散乱体の電子密度分布のフーリエ変換像 からモデルにより粒子径分布を求める 磁場勾配核磁気共鳴法(PFG-NMR) 液 二次粒子 個数 拡散係数相当径 - 100 nm ◎ △ 分布はモデル仮定の数値解析 レーザー回折・散乱法(LD) 液 二次粒子 体積 光散乱相当径 10nm - 3 mm ◎ △ 誘導回折格子法(IG) 液 二次粒子 体積 拡散係数相当径 1 nm - 200 nm ◎ △ 電気的検知帯法 液相遠心沈降法(CLS) 超音波減衰分光法 液 液 液 二次粒子 二次粒子 二次粒子 体積 体積 体積 400 nm - 10 mm 3 nm – 1μm 100 nm - 100 μm ○ ◎ ○ ○ 〇 △ ナノ粒子追跡法(NPT) 液 二次粒子 個数 10 nm - 500 nm ○ △ 飛行時間計測(TOF)(APS) 凝縮核計数器(CNC/CPCTM) 気 気 二次粒子 二次粒子 個数 個数 電気抵抗換算径 ストークス径 超音波散乱相当径 光散乱・ 拡散係数相当径 空気動力学径 散乱光のパルス数 500 nm - 20 μm 2.5nm-1μm ○ × ○ × 走査式電気移動度径計測法(SMPSTM/DMAS) 気 二次粒子 個数 電気移動度 2.5nm-1μm ○ ○ ミー散乱パターンから粒子径分布をモデルにより求める 誘電泳動させた粒子が形成する回折格子の消滅速度か ら粒子径を求める 分布が非常に広い試料の計測は困難 沈降速度からストークス則により粒子径をもとめる 分布はモデル仮定の数値解析・濃厚でないと計測不可 希薄でないと計測不可、アンサンブル量を求めるために は長時間計測が必要、粒子径計測は DLS と同じ 粒子径は換算粒子径で定性的 適用可能範囲内の全粒子個数のみを計測 粒子径は換算粒子径で定性的/製品は専ら個数計測 DMA と組み合わせで FMPS、LiquiScan がある 静的光散乱 (SLS) ◎: 精度良く計測できる、 〇: 計測できる、 △: 限定的に計測できる、 対象の状態 分級法 分 級 法 適用可能範囲 光散乱相当径 多孔質材料ではt-plot 適用して計算する必要がある。適 用しない場合は粒子径は過小評価される 粒子のブラウン運動による散乱光強度の揺らぎからモデ ルを仮定して数値解析により粒子径を求める ×: 計測できない 計測対象 適用可能範囲 一次・ 二次粒子注1 --- 分級原理 (それぞれの 等価径による) 分離分解能 気・液・固 流動場分離(FFF) 液 二次粒子 --- 並進拡散・熱拡散 1 nm -1 μm ○ MALS と組み合わせて粒子径分布計測が可能 超臨界流体クロマトグラフィー(SFC) 液 二次粒子 --- ゲル孔径・吸着性 - 10 nm ○ 分離サイズレンジが狭い サイズ排除クロマトグラフィー(SEC) 液 二次粒子 --- ゲル孔径・分配性 1 nm - 50 nm ○ 分離サイズレンジが狭い (ゲル)電気泳動 液 二次粒子 --- (ゲル孔径)・静電気力 1 nm - 100 nm 〇 ふるい法 微分型静電分級(DMA) エアロゾル質量分級(APM) 液 気 気 二次粒子 二次粒子 二次粒子 ------- ふるい孔径 電気移動度 遠心力・静電気力 20 nm 1 nm - 1 μm 10 nm - 1 μm ○ ◎ ◎ CNC と結合すると走査型移動度粒子径計測法(SMPSTM) 衝突分離法(カスケードインパクター) 気 二次粒子 --- 慣性・ストークス 10 nm -10 μm ○ 電子式低圧インパクター(ELPI)は同じ原理 気 二次粒子 --- 慣性・ストークス 500 nm -10 μm ○ 多段サイクロン ◎: 分離分解能高い、 〇: 適用可能 注1: 凝集体がない場合は一次粒子も二次粒子と表記。 備考 (産業技術総合研究所からの情報を元に事務局にて作成) 83 (3)国内ナノ物質製造企業により使用されている計測技術 国内ナノ物質製造企業、または関係業界団体(調査対象機関数;15機関)において、現在、 生産管理や商取引のために使用している計測技術を調査・整理した。以下に概要を述べる (詳細は参考資料2参照)。 生産管理及び商取引に使用している主な計測方法として、ナノ物質の平均粒子径の計測 には、電子顕微鏡法(TEM、SEM)が多く用いられている。また、生産管理には、比較的簡便 な BET 比表面積計測結果の単独又は、TEM、SEM 計測結果の相関を把握した上で、BET 比 表面積計測が用いられている。粒子径分布計測については、TEM、SEM 以外では、レーザー 回折・散乱法(LD)または動的光散乱法(DLS)によりナノ粒子の計測を行っているという回答 が多かった。 一方で、現状の計測方法の課題として、電子顕微鏡法(TEM、SEM)は、装置価格や維持費 が高いこと、習得が難しいこと、粒子径分布を求めるため代表サンプルの採取法が決まって いないこと、観察視野が狭いために計測粒子数を増やす必要があり労力を要すること等の課 題の言及があった。また、レーザー回折・散乱法(LD)または動的光散乱法(DLS)は、試料の 前処理の標準化、装置メーカーや機種により計測結果が異なること等の課題があるといった 回答があった。 粒子径分布測定 平均粒子径測定 遠心沈降 (1) LD (1) 乾式篩 (1) 電気的検知法 (1) DLS (2) XRD (2) LD (7) TEM/SEM (10) DLS (4) BET (4) TEM/SEM (6) ※ TEM/SEM;透過型電子顕微鏡/走査型電子顕微鏡、 BET;比表面積計測法、 XRD; X 線回折法、 DLS;動的光散乱法、 LD; レーザー回折・散乱法 調査対象 15 社/機関、複数回答あり。(図中カッコ内数字は延べ回答数を表す) 図2 ナノ物質製造企業が使用している粒子計測技術 84 3.ナノ物質の生産管理・品質保証のための計測技術 (1)生産管理・品質保証のための主要計測技術 各国や国際機関等のナノ物質の定義に関する観点として、①サイズ、②集合体(凝集体、 二次粒子)の扱い、③粒子径分布、④人工的か否か、等が挙げられる。また、欧州委員会 (EC)が2011年10月に公表したナノ物質の定義では、「非結合体、または強凝集体(アグリゲ ート)または弱凝集体(アグロメレート)であり、個数濃度のサイズ分布で50%以上の粒子につ いて1つ以上の外径が1 nm から100 nm のサイズ範囲である粒子を含む、自然の、または偶 然にできた、または製造された材料」としている。なお、このナノ物質定義中の粒子は一次粒 子を指す。 生産管理・品質保証におけるナノ物質の計測技術として、欧米や国際機関等のナノ物質の 定義を考慮すると、以下のような計測技術が求められる。 • 製品中の 1nm~100nm の粒子径分布を把握するため、適用粒子径範囲の下限が 10nm 以下、上限がサブミクロン以上である計測技術 • 現在、装置が市販されている計測技術(研究開発中の計測技術は含まない) • 現在、国内ナノ物質製造企業が使用している計測技術を勘案し、ナノ物質の計測に関し 操作性・価格等から導入可能性が定性的に高いと想定される計測技術 (2)主要な計測技術の概要 表2から、生産管理・品質保証のための主な計測法の概要を記載する。 ①透過型電子顕微鏡法;TEM(Transmission Electron Microscope) <概要> • 計測対象に電子線を照射し、透過電子による結像から個々に幾何学径を求める。得ら れた電子顕微鏡像から粒子径分布を推計する解析ソフトウェアを用いると粒子が適切に 分散した試料では自動的に粒子径(フェレー径(粒子の輪郭を一定方向に引いた二本の 平行線で挟んだ時の最も長い平行線間距離)、長軸径、短軸径、その両者の平均である 2 軸平均径、投影面積を用いた円相当径等)を求めることもできる。高分解能の装置であ り、計測可能な粒子径の下限は 0.08nm で他の方法と比べ一番小さい。 <長所> • 粒子の投影像が観察できる。 • 一次粒子と二次粒子をそれぞれ区別して計測することができ、強凝集体の構成粒子(一 次粒子)の大きさも求めることができる。 • EDX 等を付設している装置では、同時に成分分析も行うことができる。 <短所> • 装置は高価であり、性能を維持するためのランニングコストが高い。 • 装置の操作や計測結果の解析にあたっては、高度な技能を必要とするため、相当程度 85 の訓練が必要である。 • 代表性のある計測結果を得るためには数千個以上の粒子の計測が必要となることもあ るが、顕微鏡観察の視野が狭いため多数回の計測が必要であるため手間や時間を要 する。 • 画像を解析し粒子径を算出するため、粒子が複雑な形状の場合、粒子径の定義が未確 立であり、現時点で算出方法の標準はない(電子顕微鏡法以外の方法は画像解析を伴 わず球形と仮定し算出)。 • 凝集体の表面付近にある一次粒子は計測できるが、内部に存在する一次粒子は計測 が困難な場合があり、また、強凝集体を含む場合には粒子境界の判断が難しくなる。 • 物質によっては、電子線の照射により粒子を構成する成分が蒸発してしまい、粒子の形 や大きさが変化する場合がある。 ②走査型電子顕微鏡法;SEM(Scanning Electron Microscope) <概要> • 電子線を走査し、計測対象から放出される二次電子を検出して結像させる。焦点深度 の深い観察が可能であるが、TEMに比べ分解能は若干劣る。計測下限は、現状の高 分解能の装置で 1.2nm である。他に反射電子や特性 X 線も放出されそれらも分析等に 利用される。 <長所>、<短所>は、TEM と同様である。 ③BET 法(ガス吸着法;Gas Adsorption Method) <概要> • 一旦真空に引いた試料にガス(窒素等)を導入し圧力を変化させて吸着させ、吸着等温 線(ガス吸着量の圧力依存性)を得る。BET(Brunauer Emmett Teller)の吸着等温式を この吸着等温線に合わせ、吸着ガス分子の断面積を用いて試料の表面積を求める方 法が、BET 法である。直径が dpμm である球形粒子の体積基準の比表面積(m2/cm3) は、πdp2/(πdp3/6)=6/dp で与えられる。試料全体の比表面積を計測し、この式を用い れば、試料が均一な球形粒子で構成されている(単分散)と仮定した場合の粒子径を求 めることができる。100 nm の粒子の体積基準の比表面積は 60 m2/cm3 であり、この値 が EC によるナノ粒子の定義勧告(参考資料-1 参照)で、ナノ粒子の判断基準の一つと して用いられている。ここで注意すべきは、実際の測定では体積基準ではなく質量基準 の比表面積を得ることになるので、質量基準比表面積を体積基準比表面積に換算する ためにサンプルの真密度の情報が必要となることである。この方法で算出した粒子径 は、粒子が凝集していてもその構成粒子(一次粒子)のサイズをある程度反映している ので、二次粒子径しか計測できない方法と併用すれば、凝集の程度が推定でき、有用 である。(アグリゲートの場合は凝集の程度による。)ただし、この方法が適用できるのは 86 粒子に細孔がない場合であり、多孔質の粒子には適用できない。しかし、多孔質粒子 でも、吸着等温線が得られていれば、t プロット法によって外部表面積を求め、その値か ら粒子径を計算することができる。 <長所> • 装置は安価である。 • 試料の前処理に複雑な分散操作などを要さず、装置の操作に高度な技能を要しない。 <短所> • 計測に数時間程度を要する。 • 計測結果は平均粒子径のみであり、粒子径分布は分からない。 • 多孔質粒子や複雑形状の粒子の場合は、実態に比べ計測結果の比表面積から推定さ れる粒子径は小さくなる。一方、強固に凝結した強凝集体は、凝集体を構成する一次 粒子と比べ推定結果の粒子径は大きくなる。 ④動的光散乱法;DLS(Dynamic Light Scattering) <概要> • 液体に分散した粒子は液体分子と衝突してブラウン運動をしており、レーザー光を照射 すると散乱光の強度に揺らぎが生ずる。揺らぎの減衰時間の自己相関関数、あるいは 揺らぎの周波数解析から粒子の拡散係数 D を求める。次に、ストークス-アインシュタ インの関係式を用いて拡散係数から粒子径を算出する。本法から求められた粒子径は、 拡散係数相当径と呼ばれる。散乱光強度は、ナノ物質の範囲では粒子径の 6 乗に比例 するので、粒子径が小さくなると急激に減少し、感度が低下することで計測下限が決ま る。粒子径の小さい粒子群の中に大きな粒子が混在するとその散乱光強度が非常に 大きくなるので、計測に影響を及ぼす。また、粒子径が大きくなるとブラウン運動よりも 重力による沈降速度の影響が大きくなるため、計測原理適用の上限が決まる。計測範 囲は 1nm~1μm となる。一次粒子と二次粒子の区別はできない。 <長所> • 装置の操作に高度な技能は必要なく、簡便かつ短時間で計測ができる、 • 装置は比較的安価である。 • 単分散(均一の粒子径分布)に近い粒子の場合に良好な評価結果が得られる。 <短所> • 粒子の平均粒子径と分布の広がりを求める方法は装置メーカーにより異なる。 • 体積基準粒子径分布を求める場合は、粒子と媒体の複素屈折率が必要になるが、正 確な値が求めるのが困難な場合が多い。 • 分布幅の広いサンプルの計測では、評価結果の信頼性が低下する。製品として広い粒 子径分布を設計している場合や製品に粒子径がミクロンサイズ以上の不純物が混入し ている場合、信頼性の高い評価結果を得るのは困難である。 87 • 適正濃度に希釈(濃縮)する必要があるが、高濃度の場合測定結果が多重散乱の影響 を受けやすくなる。 ⑤小角 X 線散乱;SAXS(Small Angle X-ray Scattering) <概要> ・入射 X 線と観測される散乱 X 線の波長(エネルギー)が同じ弾性散乱を利用し、散乱体中の 電子密度分布のフーリエ変換像を得ることができる。ナノ粒子計測では、空間的に孤立し た散乱体(原子もしくは分子の集合体)の電子密度分布のフーリエ変換像を測定し、散乱 体の形状および粒子径分布モデルを仮定し、散乱体の形状および粒子径分布を数値解析 により求める。測定対象粒子のサイズがナノ領域の場合、散乱角が微小角度(数°以下、 例として、大きさ1000 nm に対応する Cu Kα線での散乱角は0.0088°)になるため精密な 計測が必要である。現状の計測下限値はサブ nm、計測上限値は1000 nm であり、一次粒 子、二次粒子の区別はできない。市販装置においても1000 nm の粒子径を測定できるよう になり適用可能範囲が広がった。 <長所> ・液体中に分散した試料でも粉末状試料でも X 線が透過可能な容器に移すだけで簡単に測 定可能である。 ・ISO/TC24/SC4/WG10 でも議論されているように、1 nm-100 nm 以下の粒子径分布を精度 良く測定することができる。 ・球形以外の粒子形状(円筒状、薄板状、円盤状など)にも対応可能である。 ・多数の粒子からの情報を同時に得ることができる。 <短所> ・装置は比較的高価であり、性能を維持するためのランニングコストも必要とされる。 ・粒子径分布が広い、もしくは複数含まれるような場合には大きな粒径の影響が強く出るた め、測定精度に影響が出る場合がある。 ⑥レーザー回折・散乱法;LD(Laser Diffraction Method) <概要> • 粒子にレーザー光を照射すると、粒子の前方と後方に広がる光散乱パターン(ミー散乱)が 見られるようになる。レーザー光の波長より非常に大きい粒子では粒子前方で回折パター ンが支配的になる。ナノ粒子計測においては、このミー散乱パターンを捉えて粒子径分布を 求めることになるが、光散乱パターンを粒子径に換算する手法はメーカーによって異なる。 散乱光は装置内測定セルの四方に位置する多くのセンサーで捕らえられる。ナノ領域では 粒子径変化による散乱パターンの差が小さくなるため、入力光の波長を短くして測定下限 値を下げているが、現状の計測下限値は 10 nm である。一次粒子、二次粒子の区別はでき ない。 88 <長所> • 操作は簡便で、数分程度の短時間で計測することが可能である。 • 数 mm 程度の大きな粒子まで計測ができる。 • 機器導入費用は比較的安価である。 • 気相、液相どちらも測定可能である。 <短所> • ミー散乱に基づいて解析する場合、粒子と媒体の複素屈折率が計算に必要であるが、 正確な値が求められていない場合が多い。 • 適正濃度に希釈(濃縮)する必要があるが、高濃度の場合測定結果が多重散乱の影響 を受けやすくなる。 • 単分散では分布幅が広く出る。 ⑦誘導回折格子法;IG(Induced Grating Method) <概要> • レーザー光の照射下、液体中に分散させた粒子を誘電泳動させ回折格子を形成し、そ の後誘電泳動させていた外力を停止する。拡散による回折格子の消滅速度を計測し、 ストークス-アインシュタインの関係式から粒子径を求める。 • 計測可能範囲は、1nm~200nm である。一次粒子、二次粒子の区別はできない。 <長所> • 粒子による散乱光ではなく、粒子で構成される回折格子による回折光強度の時間変化 から直接粒子径を求めるため、粒子径が小さくなっても強度の低下がない。従って、安 定で再現性の良い計測が可能である。微量の粗大粒子が混入しても、計測すべきナノ 粒子の情報を確実に捉えることができる。 • 操作は簡便で、数分程度の短時間で計測することが可能で、比較的安価である。 <短所> • 我が国発の新しい技術であり、今後信頼性に関する専門家のコンセンサスや標準化に 向けた取組が必要である。 • 下限は 1nm 程度まで計測可能であるが、計測できる上限粒子径は約 200nm と比較的 小さい。 • 適正濃度に希釈(濃縮)する必要があるが、高濃度の場合測定結果が多重散乱の影響 を受けやすくなる。 • 導電性分散媒以外はでは測定できず、あまり大きな導電率の媒液は使用できない。又 対象によって計測が難しい場合がある。 ⑧液相遠心沈降法;CLS(Centrifugal Liquid Sedimentation) <概要> 89 • 遠心力を利用し溶液中のナノ粒子を沈降させ、濃度変化または全体の濃度分布を検知 する。検知には光透過あるいは X 線透過が用いられる。光利用の場合,吸光係数が必 要であり、X 線利用の場合,炭素など軽元素の測定に限界がある。粒子径はストークス の法則により決まる沈降速度から一義的に求められる。一次粒子、二次粒子の区別は できない。 <長所> • 粒子径による沈降速度の差を直接計測しているため、粒子径(ストークス径)への換算に 仮定を用いておらず、計測結果の信頼性が高い。 • 機器導入費用は比較的安価である。 <短所> • 粒子と分散媒の密度が必要である。 • 計測時間が④~⑥の方法に比べて長く、数時間程度である。数十 nm 以下の粒子や密 度の小さい粒子では、沈降速度が小さいため、更に時間を要し、事実上測定できない場 合もある。 • 光利用の場合、適正濃度に希釈(濃縮)する必要があるが、高濃度の場合測定結果が 多重散乱の影響を受けやすくなる。 ⑨走査式電気移動度径計測法;SMPSTM(Scanning Mobility Particle Sizer) <概要> 気相中粒子の電気移動度を利用して分級する DMA と分級された粒子の個数濃度を測る CPC で構成され、ナノからサブミクロンサイズの広範囲な粒径分布を高いチャンネル数で計 測できる。分級器である DMA はポリスチレンラテックス標準粒子の校正等に一部使用され ており、分級性能は高い。また粒子の個数濃度を測る CPC は国内での校正が可能で、国家 標準にトレーサブルである。計測範囲は2.5nm~1000nm である。一次粒子と二次粒子の区 別はできない。 <長所> ・装置の操作に高度な技能は必要ない。 ・1分間の短時間で計測ができる。 ・粒径範囲が広く、且つチャンネル数が高いため、粒径の異なる複数の粒子を識別して計測 ができる <短所> ・装置は高価である。但し、ポータブルで安価なモデルも商品化されている。 《注記》液相中のナノ粒子をエレクトロスプレーで気中に分散し、SMPS を使用して計測する LiquiScan という装置もあり、生産管理・品質保証のための計測に使用できる可能性がある。 性能は SMPS と同様である。また、DMA と多段の低ノイズエレクトロメーターを組み合わせた FMPS(Fast Mobility Particle Sizer)は時間分解能が1秒でリアルタイムでの粒子径分布変化 90 を計測できる。SMPS、FMPS については4.(2)でも取り上げる。 (3)ナノ物質の種類ごとの計測技術の整理 ナノ物質の種類に応じた計測技術の整理を以下に行った。種類として、無機系ナノ酸化物 (ナノ二酸化チタン・ナノ酸化亜鉛等)、金属系ナノ粒子(金、銀、鉄、白金等)、カーボンブラッ ク、ナノ合成樹脂(ポリスチレンラテックスナノ粒子等)、カーボンナノチューブの 5 つに分類し、 それぞれに適応する計測技術を整理した。 ① 無機系ナノ酸化物(ナノ二酸化チタン・ナノ酸化亜鉛等) 無機系ナノ酸化物の性状を踏まえ、粒子径/粒子径分布(個数基準・体積基準)計測、 形状計測を整理した。 <性状> a. 無機系ナノ酸化物の多くは金属酸化物であり、空気中、水中で安定である。工業ナノ物 質としては、チタン、亜鉛、ケイ素、アルミニウム、セリウム等のナノサイズの酸化物が 利用されている。炭酸カルシウムや複合酸化物であるチタン酸バリウム等もある。 b. 形状については、多面体や板状等多様であり、凝集体を形成している場合が多い。液 体中においては、分散剤を加え超音波で一次粒子に分散できる弱凝集体(アグロメレ ート)と、強固に凝結した強凝集体(アグリゲート)がある。(二酸化チタンの例を次図に示 す。) 出所:日本酸化チタン工業会 <平均粒子径計測> a. 後述の粒子径分布の結果から計算できる。 b. BET 法の計測結果から換算により求めた粒子径を、一次粒子の平均粒子径の参考と することができる。((2)③<概要>参照) <粒子径分布(個数基準)計測> a. 電子顕微鏡(TEM、SEM)法により計測できる。 91 ただし、二次粒子が含まれる場合、それを構成する全ての一次粒子の粒子径分布を計 測することはできないことがある。 b. レーザー回折・散乱法(LD)、動的光散乱法(DLS)、誘導回折格子法(IG)、液相遠心沈 降法(CLS)の計測結果から算出した粒子径分布(体積基準)を用い、換算により粒子径 分布(個数基準)を導出できる。 この場合、一次粒子と二次粒子の区別のない粒子径分布となる。 <粒子径分布(体積基準)計測> a. 粒子径分布(体積基準)は、電子顕微鏡(TEM、SEM)法の粒子径分布(個数基準)の計 測結果から換算により導出できる。 ただし、この場合、<粒子径分布(個数基準)計測>a と同じ制約がある。 b. レーザー回折・散乱法(LD)、動的光散乱法(DLS)、誘導回折格子法(IG)、液相遠心沈 降法(CLS)の計測結果から粒子径分布(体積基準)を得ることができる。これらの4つ の方法には、(2)④~⑦で述べた長所、短所があるので、予備的な電子顕微鏡観察等 により、粒子径分布の特徴に応じて適当な方法を選択するとよい。 この場合、一次粒子と二次粒子の区別のない粒子径分布(体積基準)となる。 <形状計測> a. 電子顕微鏡(TEM、SEM)法で計測できる。 粒子を異なる方向から観察すれば、より正確に形状の計測ができる。これはより多くの 視野での観察をもって代えることができる場合がある。 ② 金属系ナノ粒子(金、銀、鉄、白金等) 金属系(金、銀、鉄、白金等)ナノ粒子の性状を踏まえ、粒子径計測、粒子径分布(個 数基準・体積基準)計測、形状計測を整理した。 <性状> a. 貴金属(金、白金、パラジウム等)以外の金属系ナノ粒子は活性が強く、大気中(及び 酸素を含んだ液中)では酸化により粒子径が変化することが多いため、酸化しないよう に留意して扱わなければならない。 b. 貴金属ナノ粒子は液相反応法を用いて、液体中でコロイド状に生成させるため、ほとん ど球状の一次粒子で、右下図のように単分散に近い状態になる。コロイドがそのまま製 品として出荷される場合もある。 c. ナノ粒子同士の凝集や反応による変化を防止するため、金属ナノ粒子の表面は界面 活性剤等の有機分子で覆われていることが多い。粒子径計測において電子顕微法で は通常、金属部分のみの大きさが評価されることに注意が必要となる。 d. 気相反応により製造される場合は、一部焼結した強凝集体で得られることが多い。 e. 磁性金属が凝集体を形成すると、鎖状又はデンドライト状になることがある(左下図)。 92 熱 CVD 法 Ni ナノ粒子 (大塚ら;日化誌(1984)) Ag コロイド粒子 (DIC Technical Review No.14(2008) <平均粒子径計測> • (3)①無機系ナノ酸化物の<平均粒子径計測>の a、b と同様。 <粒子径分布(個数基準)計測> • (3)①無機系ナノ酸化物の<粒子径分布(個数基準)計測>の a、b と同様。 <粒子径分布(体積基準)計測> • (3)①無機系ナノ酸化物の<粒子径分布(体積基準)計測>の a、b と同様。ただし、b について、電気伝導性の高い金属系ナノ粒子(金、銀、鉄、白金等)への誘導回折格子 法(IG)の適用可能性は困難である場合もあるとの専門家の意見もある。 <形状計測> • (3)①の<形状計測>の a と同様。 ③ カーボンブラック カーボンブラックの性状を踏まえ、粒子径計測、粒子径分布(個数基準・体積基準)計 測、形状計測を整理した。 <性状> a. カーボンブラックは炭化水素化合物の部分燃焼によって製造されるが、ドメイン(10nm~ 500nm 程度)と呼ばれる一次粒子が生成過程において熱で融着し、さらに炭化水素が 結合・炭化して、非常に壊れにくいアグリゲート(数十 nm~数百 nm 程度)と呼ばれる一 次凝集体を形成する。アグリゲートは凝集してアグロメレート(数 μm~数百 μm)と呼 ばれる二次凝集体を形成している 93 b. 下図の電子顕微鏡写真に示すように、アグリゲートは用途ごとに球状、連珠状、枝分か れ状のもの等に作り分けられる。 カーボンブラック(アグリゲート)の TEM 像(カーボンブラック協会) <平均粒子径計測> a. 強く凝集しているので、一次粒子の平均粒子径計測は、難しい。 b. アグリゲートは粒子が強く結合したり、融着したりすることにより構成され、表面積が個 別の粒子の和より小さくなる。そのため、カーボンブラックの場合、比表面積から平均粒子 径を評価することはほとんどできない。ただし、上図の A のように粒子間に結合・融着がな い場合は、参考値とすることが可能である。 <粒子径分布(個数基準)計測> a. ほとんどの一次粒子が融着し強凝集体を構成しているため、一次粒子の粒子径は電 子顕微鏡(TEM、SEM)法によっても計測できないことが多い。しかし、一次粒子が識別 できる場合は、そのサイズをいくつか計測することによって、一次粒子の代表径とでき る場合がある。 b. 下記の体積基準の粒子径分布より換算する。 <粒子径分布(体積基準)計測> • (3)①無機系ナノ酸化物の<粒子径分布(体積基準)計測>の a、および b のうち液相遠 心沈降法である。ただし、凝集体の分散が難しい。 <形状計測> • (3)①無機系ナノ酸化物の<形状計測>の a と同様である。 ④ ナノ合成樹脂(ポリスチレンラテックスナノ粒子等) ナノ合成樹脂(ポリスチレンラテックスナノ粒子等)の性状を踏まえ、粒子径計測、粒子 94 径分布(個数基準・体積基準)計測、形状計測を整理した。 <性状> a. 制御された乳化重合により製造されるポリマー粒子が懸濁した液をラテックスと呼ぶ。 この方法によるポリスチレンラテックス、スチレン-ブタジエンラテックス粒子等は、ほぼ 球形でほとんど二次粒子はなく一次粒子である。また、粒子径は極めて均一で、単分 散に近いので、標準粒子として使われている。 NIST ポリスチレンラテックス標準粒子 SEM 像 ポリスチレンラテックス粒子(分布あり)TEM 像 <平均粒子径計測> • (3)①無機系ナノ酸化物の<平均粒子径計測>の a、b と同様。 <粒子径分布(個数基準)計測> • (3)①無機系ナノ酸化物の<粒子径分布(個数基準)計測>の a、b と同様。ただし、電子 顕微鏡(TEM、SEM)法の真空下電子線照射条件により高分子が融解/気化し形状が変 化することがある。また、凝集粒子はほとんどないので、二次粒子を含む場合に生じる 問題はない。また、密度が小さいので、CLS による計測は不利である。 <粒子径分布(体積基準)計測> • (3)①無機系ナノ酸化物の<粒子径分布(体積基準)計測>の a、b と同様。凝集、密度 の点で上記と同様である。 <形状計測> • (3)①無機系ナノ酸化物の<形状計測>の a と同様。 ⑤ カーボンナノチューブ カーボンナノチューブは繊維状物質であるため、繊維径計測、繊維長計測を整理し た。 <性状> a. カーボンナノチューブ(CNT)の種類には、単層 CNT(SWCNT)及び多層 CNT(MWCNT) がある。 b. SWCNT は複数の SWCNT が束状に凝集したバンドル構造をとり、これらが絡み合って 95 いる場合が多い。絡み合った繊維の塊はミクロンサイズ以上であり、さらにこれらが凝 集している場合が多い。 c. CNT は、製造方法や製造条件により繊維径や長さの分布が異なる。 <繊維径計測> a. 繊維径はサイズが小さいため、電子顕微鏡(TEM)法により計測する。また電子線の透 過により、断面構造及び層数を計測できる。 真空下電子線照射条件により、表面に付着しているアモルファスカーボンやその他揮 発成分が気化し、形状が変化することがある。また、高加速で強い電子線照射をすると CC 結合が切れて結晶が壊れる事があるので注意を要する。 b. ラマン散乱スペクトル(7つの主要計測技術以外の計測技術)の計測により、CNTに特 徴的な振動モード(ラジアルブリージングモード(RBM)や 2D バンド等)から、SWCNT 直 径分布の計測や SWCNT と二層 CNT(DWCNT)の区別等ができる。また、紫外-可視近赤外領域(UV-Vis-IR)の光吸収の計測からも構造に関する情報が得られる。 <繊維長計測> a. 繊維長は電子顕微鏡(TEM・SEM)法により計測できるが以下の特徴がある。 繊維長が短い場合は、比較的容易に計測できる。一方、繊維長が長い場合は、繊維が 曲がり絡み合っているため、始点と終点を確認しにくく、 計測が困難である。太い MWCNT は、絡み合いが少ないので長さの分布を比較的容易に計測できる。 (4)計測における前処理と分散技術 ここまでは、粒子径(分布)計測を取り上げてきたが、実際には計測以前に前処理と分散が 必要であり、それらが不十分だと計測自体が実態と乖離した値を与えてしまうため、非常に重 要なプロセスである。これまでの粉体材料については、物質に応じて前処理・分散の方法は 標準化されている場合が多いが、ナノ物質についてはまだである。 まずサンプリングにおいては、代表性のあるサンプルが採取されなければならない。電子 顕微鏡をはじめ、液相計測においても小さなセルに希薄な濃度で計測されるため、サンプル 量は極めて少ない。従って、顕微鏡法においては、計測する粒子数は多くなければならず、 液相計測においては、異なるサンプルの再現性が確認されなければならない。 分散については、物質に応じた適切な分散媒と分散剤の選定が必要であり、攪拌や超音波 による分散操作の強度の調整も重要である。よく使用される超音波分散では、伝播型式、出 力、分散時間等の操作因子がある。ナノ物質の凝集状態には弱いアグロメレートからアグリ ゲートまで種々の段階があり、分散操作によって本来の凝集状態を変化させてはならない。 ただ、二次粒子を構成する一次粒子の粒子径を求めるために、一次粒子を破壊しない程度 の粉砕操作を加えることもある。 ナノ物質の粒子径計測における前処理、分散についての情報は、決定的に不足しており、 ここで具体的に記述することができない。これまでの粉体材料の標準を基礎にして、計測を 96 含めた標準化が行われる必要がある。 (5)ナノ物質の定義と計測技術 ナノ物質の定義は、EU、フランス、オーストラリア、米国、化学産業国際評議会(ICCA)等 から勧告、規則または提案等の形で公表されている。このうち EU のナノ物質の定義は、EC により 2011 年 10 月に公表され、欧州経済圏内での政策及び規制への使用を勧告している。 定義では、ナノ物質を、「非結合体、または強凝集体(アグリゲート)または弱凝集体(アグロメ レート)であり、個数濃度のサイズ分布で 50%以上の粒子について 1 つ以上の外径が 1 nm か ら 100 nm のサイズ範囲である粒子を含む、自然の、または偶然にできた、または製造された 材料」としている。 しかしながら、現時点で、EU は、ナノ物質の定義に対応した計測方法を明らかにしていな い。いくつかの研究機関や産業界等から、ナノ物質の定義と計測技術の課題に関し問題提 起がされている。例えば、オランダ国立公衆衛生・環境研究所(RIVM)は、2012 年 6 月に「ナノ 物質の定義に関する EC 勧告の解釈と影響」報告書を公表し、強凝集体や弱凝集体と単独粒 子の区別ができないこと、電子顕微鏡法においても欠点があること、EC によるガイダンスが 必要であること等に言及し、特にナノ物質の種類ごとに最適な粒子径計測法が異なること、 電子顕微鏡法の他 1 種類以上の計測法を用いること、強凝集体の判定基準を設定すること 等を指摘している。また、EC-JRC は、2012 年 9 月に「定義の履行のための計測の要件」報告 書を公表し、現在使用可能な方法は全てのナノ材料について定義を満たすか否かを決定で きないこと、新規の計測法を開発する必要があること、現状では一つの計測で可能な方法は 存在しないこと、ラウンドロビンテスト等の検証を踏まえ将来的に定義を改定しなければなら ないこと等に言及している。 また、ISO/TC256(顔料及び充填剤)では、実用的なサイズ毎の粒子数分布の試験方 法を早急に確立するため、「顔料及び充填剤の粒径分布測定のための遠心沈降法に関する 規格」提案がドイツから提出され、同規格の信頼性を検証するためのナノサイズの粉体につ いてラウンドロビンテストが実施されようとしている。この他、EU の消費者製品規制委員会に おいて、酸化亜鉛については、遠心沈降法に基づく粒径分布データを規制基準として公式に 利用するよう求める動きが見られる。 このような中、EU 域内へ輸出を行っているまたは行う予定の国内ナノ物質製造企業やナノ 物質使用製品製造企業においては、自社製品や自社製品に含まれる物質がナノ物質の定 義へ該当するか否かを検討し把握することが求められる。 97 4.ナノ物質の環境管理、労働衛生管理、人へのばく露防止のための計測技術 ナノ物質とそれを使用した製品の製造における労働衛生、消費者使用における人へのばく 露、すべてのライフステージにおける環境管理では、主に気相計測法、固相計測法を用いる ことにより適正な管理が可能となると考えられる。一般的には、捕集装置、分級装置、計測装 置を組み合わせた装置を用いることが多く、特に、管理対象により対象物質の濃度域や計測 対象外の物質の量が異なるため、計測装置や捕集装置まで導くサンプリング技術が重要に なる。 (1)サンプリング 気相計測における「サンプリング」として、二つのケースが考えられる。一つは気相中に存 在する粒子を直接計測する装置に導入するためのサンプリングと、もう一つは気相中の粒子 を捕集し分析をその場ではなく別の場所にある装置で行うためのサンプリングである。 ともに、計測したい場の空気を計測器ないし捕集装置に導入するが、このときの留意点は その場の空気を乱さないように導入する事である。一般的には、導入口における空気の流速 は、通常周囲流との等速吸引を行うが、粒子径が非常に小さいナノ粒子の場合には流速の 影響はない。また、サンプリング管への沈着(拡散,静電など)によるロスが計測誤差となるこ とに注意する必要がある。 ①その場計測のためのサンプリング 計測装置への空気の導入流路には、帯電粒子の静電沈着を防ぐために金属パイプや導 電性シリコンチューブが用いられる。拡散沈着を考慮し,管路長及び管径にも注意する。吸引 は計測機器にポンプを内蔵している場合がほとんどである。装置に導入される空気には必ず 環境に元々ある粒子(バックグラウンド)も含まれるので、計測したいナノ粒子を環境粒子と区 別して計測する事ができない。したがって、ナノ粒子発生源が無い場合のバックグラウンドを 計測してその差から発生したナノ粒子の濃度を算出する必要がある。このバックグラウンドの 計測を行わないと計測値は意味を持たない。環境の粒子濃度も、外気の影響を受けて時々 刻々変化しているので、できるだけ環境粒子濃度が同じと考えられるサンプリング場所の近 傍で同時にバックグラウンドを計測するか作業が行われていない場合の同じ場所での計測を 行う場合が多い。しかし、これらのバックウグラウンドはあくまでも参考値であり、真のバック グラウンドではないことに注意しなければならない。装置や作業からの粒子の発生を捕捉す るためには、HEPA フィルター等を用いたパーティクルフリーな環境を用いて計測する事が望 ましい。 環境粒子には、ディーゼル排気粒子のような揮発性物質 (VOC や sVOC) を含む場合が 多いので、導入空気の流路を加熱するサーモデニューダを設置し、揮発性物質を除去するこ とで、飛散したナノ粒子との分別を行うことが試みられている。 その場計測装置では、粒子濃度や粒子径分布は計測できても、成分や形状は計測できな いので、同時に粒子を捕集して、後で種々の分析を行う事が多い。 98 ②粒子捕集のためのサンプリング 粒子を捕集する場合のサンプリングでは、捕集のために慣性を利用するインパクター方式 やフィルターを使用する場合などがあるが、ともに吸引ポンプと流量計が必要である。捕集し た粒子の重量と積算流量とから、粒子濃度が求められる。捕集した粒子は、化学分析による 組成分析や電子顕微鏡による形状観察、粒子径計測、元素分析などの対象となる。 大気汚染を計測する場合、降下ばいじん等大量に試料を採取するためには、ハイボリュー ムエアサンプラーが用いられているが、作業環境計測等ではローボリュームエアサンプラー が使用される。エアサンプラーはいずれも粒子を捕集するフィルターを備えている。また、イン パクターも同様にポンプと流量計、粒子を捕集する捕集板を備えている。 (2)気相中ナノ粒子の粒子径・粒子径分布の計測法 ①その場計測法 飛散したナノ粒子の発生源とその量を知るためには、特定の場所における気中の粒子(エ アロゾル粒子)をサンプリングし、捕集した粒子がどのような物質で構成されているかという同 定(組成)と、粒子径及び粒子径毎の重量が計測出来なければならない。これらは、一般的 に時間とともに変化する可能性がある。 従来、クリーンルーム等の管理に用いられている光散乱方式のパーティクルカウンター (OPC)は、安価で簡便であるが、100 nm 程度以上の粒子径の粒子数しか計測できないので、 ナノ粒子は計測範囲外である。ただし、工業ナノ粒子は凝集している事が多く、全てのナノ粒 子がサブミクロン~ミクロンサイズのエアロゾル粒子になっているなら、OPC で計測できる。 エアロゾルナノ粒子の粒子径分布を計測する装置として SMPS、ELPI、FMPS 等があり何ら かの分離(分級)法が組み合わされている。分離法として、粒子径が100nm 以下であるナノ粒 子を分離できるのは、衝突分離法(カスケードインパクター)や微分型静電分級器(DMA、モビ リティアナライザー)などである。 衝突分離法(カスケードインパクター)は、多段の円板上に粒子が衝突付着する現象が粒 子の慣性によることを利用したもので、一定時間後各段に付着した粒子の重量や数を計測す る。減圧状態にすることによりナノ領域の計測が可能となる。分解能は DMA より劣り、計測下 限は10nm であるが、バックアップフィルターを用いることでそれより小さな粒子も捕集できる。 低圧インパクター(LPI)と呼ばれ、ある程度の小型化が可能である。分離法ではあるが、同時 に粒子径分布を求めることができる。ただ段数はそれほど多くできないため、粒子径の分解 能は良くない。また、この LPI に、電荷チャージャーとエレクトロメータを装備した電子式低圧イ ンパクタ(ELPI) は、粒子径分布の時間的変化の計測が可能である。 DMA は、粒子に電荷を与えると、電界中の電気的移動度が粒子径に依存することで分離 (分級)する装置である。粒子径の分解能が優れている。 分離(分級)した粒子の個数を計測する方法として、凝縮核計数器(CNC または CPCTM)が 99 ある。これは光散乱式パーティクルカウンタに凝縮機能を加えて、100nm より小さな粒子も検 出できるようにしたもので、独立して使用する場合には粒子の数のみの情報を与える。比較 的安価で使いやすい。 CNC または CPC を分級法である DMA と組み合わせて、約10nm から1m までの粒子径が 計測可能としたものが走査型移動度粒子径計測器(SMPSTM)である。SMPS は最近では、秒 単位の時間分解能向上と数 nm まで計測可能粒子径が拡大されているが、高価である。比較 的安価なポータブルタイプや測定の時間分解能が1秒というリアルタイムで粒子径分布測定 が可能な FMPS という機種もある。SMPS の ISO における定義呼称は DMAS であり、DMA に 組み合わせるデテクターとしてFCAE(ファラデーカップエアロゾルエレクトロメーター)を使用 したタイプもある。 EPLI も SMPS も粒子径分布を計測するが、表示される粒子径は空気動力学径と電気移動 度径の相当径であり、幾何学的な粒子径と異なる。 ②簡便なその場計測法-労働現場計測 SMPS や ELPI は気相中のナノ粒子の粒子径分布の時間変化を計測できるが、共に比較的 高価である。労働現場計測のために、ポータブルで比較的安価な装置を使用する暴露計測 を、米国 NIOSH や我が国の産業技術総合研究所、労働安全衛生総合研究所等が提案、実 施している。その方法は CNC と OPC(直読、手で持ち運び可能)による計測とフィルターで粒 子をサンプリングし、それを、化学分析や電子顕微鏡観察することを組み合わせたものであ る CNC では、10nm~1,000nm の粒子の10,0000個/cm3程度までの粒子個数濃度が計測可能 で、OPC のある機種では、300nm、500nm、1,000nm、3,000nm、5,000nm、10,000nm 毎の粒子 個数の計測が可能なので、この二つを、同時に並べて使用する。例えば、CNC の値が高く、 OPC の300nm~500nm レンジの値が低ければ、ナノ粒子が多いことが示され、CNC の値が低 くて OPC の1,000nm 以上の値が高ければナノ粒子が少ないと判断される。ただし、この方法 では100nm 以下の粒子の粒子径分布は求められない。労働現場において、バックグラウンド (作業を行っていない時間における同じ場所における計測値)と比較して、ナノ粒子が増加し ているかどうかの判定に、この方法は有効と考えられる。 同時に、フィルターを用いてサンプリングした粒子を化学分析し、SEM や TEM で観察する。 これにより構成成分と粒子間の結合状態がわかる。 ③捕集物の分析法 エアロゾル粒子をサンプリングして走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM) で観察すれば、一次粒子の粒子径分布や粒子間の結合状態等が分かり、さらに分析機能が 付加された電子顕微鏡であれば、物質の同定・組成分析が可能である。室内環境は、外気 や作業者からの発塵、空調・清掃機器の影響を受けている場合が多く、計測対象としている 粒子のみがサンプリングされるわけではない。外気においては、ディーゼル排気粒子等の環 100 境粒子の影響がある。サンプリングには、一般の粉じん用、あるいは環境計測用のエアサン プラーを使用することもが可能である。計測においては、バックグラウンド(比較対象とする場 所又は作業していない時間における同場所)の計測と、サンプリングしたエアロゾル粒子の粒 子径計測と構成成分分析(化学分析、原子吸光分析(AAS)、誘導結合プラズマ発光分光分析 (ICPS)等がある。)が欠かせない。 カーボンナノチューブが存在している場合には、環境からのカーボン粒子と識別するため に、熱分解温度の相違を利用して有機炭素と元素状炭素、さらに結晶性の違いを分別して定 量する炭素分析法が適用されている。 101 5.まとめ ナノ物質を適正に管理するためには、どのようなナノ物質(組成、形状、サイズ、凝集状態 等)が、どの程度含まれ(含有量、サイズ分布等)、どのような状態(混合物か単一か、気相中 か液相中か固相中か等)であるかについて把握する必要がある。また、製造から使用・廃棄 までのライフサイクルのステージごとにばく露情報を把握し、ライフサイクルを通じたばく露評 価を行っていく必要がある。 そこで、現状利用できるナノ物質の計測技術を整理し、ナノ物質のライフサイクルのステー ジごとの管理すべき対象について、それぞれに適応可能な計測方法の検討を行った。 これらを踏まえて、我が国のナノ物質の計測技術の現状と今後の方向を整理する。 (1)ナノ物質のライフサイクルと管理対象 ナノ物質の製造からナノ物質を使用した製品の製造、事業者や消費者による製品の使用、 製品の廃棄までの一連のライフサイクルのなかで、管理対象を整理した。生産管理・品質保 証、労働現場、環境におけるナノ物質を管理対象として考慮した。 (2)生産管理・品質保証における効率的な計測技術 ナノ物質の生産管理・品質保証において必要となるサイズやサイズ分布等の基本データを 取得するための計測技術について検討を行った。 現状で利用可能と思われるナノサイズの粒子径を計測する技術から、EU 等のナノ物質の 定義を踏まえて、適用粒子径範囲において粒子径分布を把握できること、装置が市販されて いること、国内ナノ物質製造企業の使用状況、これらを考慮して主な計測技術の概要を示し た。 ナノ物質の組成(炭素系、酸化物系、金属系等)、形状(粒状、繊維状等)によるナノ物質の 特性(凝集性等)の違いに対して、適当な計測技術という観点でも整理し、凝集しやすい物質 の計測の留意点、組成に応じた計測技術の留意点などの課題を抽出した。 (3)環境管理、労働現場管理のための計測技術 ナノ物質のライフサイクルにおけるばく露管理のためには、大気中や水中への排出の管理、 作業環境への飛散の管理、事業者や消費者による製品の使用に伴う放出可能性の把握が 必要である。これらは生産管理とは異なり、現場や状況によってナノ物質の濃度やナノ物質 以外の物質の量に大きな違いがある。このため計測装置を使用する前段階のサンプリング 方法が重要になる。気相中については、複数のサンプリング方法が知られている。一方、液 相中・固相中の一般化学物質については水、土壌関係のサンプリング方法はあるものの、そ の後ナノ物質を分離してナノ物質の存在の同定、定量を行った事例が無く、現状では計測が 困難である。このため、労働現場管理や環境排出管理において優先される気相中について のみ、サンプリング・対応する計測技術の整理を行った。 102 (4)今後の我が国ナノ計測技術の方向性 製品中のナノ物質を適切に管理していくためには、対象物質のなかにナノ物質がどの程度 含有しているかを適切に把握することが重要である。実際に計測する際には、ナノ物質の組 成・特性等における留意点や各計測技術の適用範囲を十分に理解した上で活用する必要が ある。ナノ物質の含有に関する計測結果については、サプライチェーン等で情報が共有され るように MSDS 等を用いて情報提供を努めることが望ましい。また、EU が定義するナノ物質 に該当するかを判断する材料の一つとして計測の流れを提案したが、現時点で EU は定義に 対する計測方法を示していないため、EU への輸出等を行う企業においては EU の動向に注 視していく必要がある。 労働現場管理や環境管理におけるナノ物質の計測は、捕集や前処理によるサンプリング を行う必要があり、捕集状況やナノ物質の組成・特性等によって、ケースバイケースでサンプ リング方法を検討し、適切な計測方法を選択していく必要がある。 EU、仏、豪ではナノ物質についてそれぞれの定義が公表・運用されているものの、定義に 該当するかどうかを判断するための計測方法が示されていない。これは予防原則の観点か ら現状要求されているナノ材料の物理化学特性を、品質管理の一環としても行えるほど堅固 な評価手法が確立されていないことが大きな要因と考えられる。 国内の企業や研究機関においては、十分な実績のある計測技術について、ナノ物質の計 測に必要な標準物質の開発等を行い、一連の計測方法について国際標準化等、海外での導 入を視野に入れた戦略的な取組を考えていく必要がある。具体的には産官学が協力し取組 を進め、経済協力開発機構工業ナノ材料作業部会( OECD/WPMN)や国際標準化機構 (ISO/TC229)等での標準化を進めていくべきと考える。TEM や SEM を始めとするナノ粒子径 分布の計測技術については、凝集したナノ物質の試料分散方法の構築、計測に必要なサン プル量、標準粒子の開発、装置校正法、データ処理法等の標準的手法の提案等を行ってい く必要がある。その際、ラウンドロビンテスト等を行い、技量把握と課題抽出を踏まえた標準 開発を行うことが重要である。 103 (参考資料-1) 欧米における規制動向とナノ物質の定義 (1)EU ○ EC-JRC による取組 • 2009 年に、欧州委員会(EC)環境総局の依頼により Joint Research Center(JRC)は ナ ノ 物 質 に 関 係 す る Registration, Evaluation, Authorization and Restriction of Chemicals(REACH)ガイダンス文書を将来的に改訂するための助言をまとめる3つ のプロジェクト(ナノ物質として扱う物質の特定(RIP-oN1)、届出に必要な情報要件 (RIP-oN2)、及び安全性評価(RIP-oN3))を実施。2011 年 10 月までに 3 つのプロジェ クトの報告書を公表。 ○ EC によるナノ物質の定義の勧告 • 2011 年 10 月に、EC は規制のためのナノ物質の定義を勧告し公表。 • ナノ物質を、少なくとも一つの次元のサイズが 1nm から 100 nm の範囲である一次 粒子の個数が総個数の 50%以上である物質と定義 • 2012 年に、ECHA(欧州化学品庁)はナノ物質について、情報要件と化学物質安全性 評価のガイダンスと、ガイダンス付属書として、物理化学的性質、環境運命と環境毒 性、ヒト健康のための用量(濃度)反応の特性評価、環境のための用量(濃度)反応 の特性評価、労働暴露評価といったエンドポイントごとのガイダンスを公表。 ○ EU における化粧品規制 • 2009 年 12 月に、EU は化粧品規則を公布(2013 年 7 月 11 日一部施行)。 • 本規則では、ナノ物質を、意図的に製造された非溶解性または生体内残留性がある 材料で、1 つ以上の外部寸法または内部構造が 1~100 ナノメートルであるものと定 義。 • ナノ物質に適用される規則として、ナノ物質を特定するための情報、粒子サイズと物 理化学的特性、上市予定の化粧品に含まれるナノ物質の量の年間推計、ナノ物質 の毒性学的プロファイル、化粧品カテゴリーに関連したナノ物質の安全性データ、合 理的に予測可能な暴露条件、等の各項目について情報を提出することを義務づけ。 • ナノ物質の形で存在する全ての成分を成分リストに明確に表示すること、該当する成 分の名称の後に括弧付きで nano と記すこと等を定めている。 ○ EU における殺生物製品の上市及び使用に関する規制 • 2012 年 6 月に、EU は殺生物製品の上市及び使用に関する規則を公布(2013 年 9 月 1 日施行) • 本規則では、ナノ物質を EC 勧告の定義が一部修正し導入。 • ナノ物質が製品に使用されている場合、ナノ物質による人と動物の健康及び環境に 及ぼすリスクを評価することが認可条件とされている。 • ナノ物質の安全性試験に際しては、その特性に合わせた試料調製等を含め、適用し た試験法の科学的妥当性を説明すべきであるとしている。 104 • 製品中にナノ物質を含む場合、該当する成分の名称の後に括弧付きで nano と成分 表示するとともに、ナノ物質に特有なリスクを表示すべきであるとしている。 • 殺生物剤によって加工された最終製品にも適用される。 ○ EU における消費者への食品情報の提供に関する規則 • 2011 年 11 月に、EU は消費者への食品についての情報の提供に関する規則を公布 (2014 年 12 月 13 日施行)。この規則は、消費者保護を目的としたものである。 • 表示義務の規定で、「ナノテクノロジーによる物質が含まれている場合は、消費者に 知らせるため、ナノテクノロジーによる物質の定義と適当な表示方法を考慮すべきで ある」としている。 • 原材料リストの規定において、「食品の成分として工業ナノ材料が含まれている場合、 全ての成分は原材料リストに明確に表示されなければならず、「ナノ」という文字が括 弧付きで示されていなければならない」としている。 (2)米国 ○ ナノ物質・ナノテクの規制・監督に関する政策原則 • 2011 年 6 月、大統領府科学技術政策室は、行政管理予算局及び通商代表部と連名 で、ナノ物質・ナノテクの規制・監督に関する政策原則(覚書)を各省庁に提示。 • ナノ物質は、サイズだけでなく、サイズの変化により新規な特性や現象が出現するか を判断して規制を策定。 ○ 酸化チタン系物質に係る重要新規利用規則 • 2012 年 7 月に、EPA は、有害物質規制法(TSCA)のもと二つの酸化チタン系物質(カ ルシウム添加ルチル・スズ亜鉛及びナトリウム添加ルチル・スズ亜鉛)の重要新規利 用規則(SNUR)を公布。 • 本規則では、d10 粒子径(レーザー光散乱計測法で計測した質量基準積算ふるい下 粒子径分布が 10%における粒子径)が 100 nm 以下であるものと特定。これは、EPA の ナノナノスケールの粒子径分布に対する一つの考え方を示している。 ○ カーボンナノチューブに係る重要新規利用規則 • 2010 年 10 月、EPA は、TSCA のもとカーボンナノチューブ(トーマススワン社の多層 CNT 及び単層 CNT)の最初の SNUR を公布。 • その後も製造前届出に応じ、SNUR を公布。2011 年に、多層 CNT に関する 1 つの SNUR の公布、多層 CNT の 7 つの SNUR(うち 1 件は SWCNT との混合物)の提案が あった。 ○ FDA におけるナノテク応用に関するガイダンス • 2011 年 6 月、FDA は以下の 2 点に基づいて化粧品、食品分野でナノテクが使われて いるかどうかを判断するとの考えを示した。 • その基準は、①工業材料または製品が少なくとも 1 つの次元でナノスケール(約 1~ 105 100nm)であること、又は②例え1μm の粒子でも、小さくなるが故に物理的/化学的/ 生物学的に新規な性質や現象が現れること、である。 • 2012 年 4 月、FDA は事業者に対し、ナノテクを応用した製品への規制に関するガイダ ンスを発表。 • 製品の開発段階で FDA に相談するように強く要請している。ケースバイケースの判断 をベースにした規制が開始されている。 (3)その他諸国 ①オーストラリア • 2010 年 10 月に、国家化学物質通知評価機構(NICNAS)は、既存化学物質インベン トリ未登録の新規化学物質であり工業ナノ物質に該当する物質は、通常の新規化学 物質とは異なる手続きを課すことを発表(2011 年 1 月 1 日発効)。 • 工業ナノ物質は、ナノ物質に特有の化学的または物理的性質を有し、個数基準積算 粒子径分布で 100 nm 以下のサイズの粒子を 10 %以上含み、意図的に製造された物 質としている。 • 新規化学物質かつ工業ナノ物質については、サイズ等の物理的・化学的特性や毒性、 環境毒性のデータは届出者が提供しなければならない。リスク評価は、NICNAS によ って行われる。 • この運用状況を踏まえ、ナノ物質に係る規制を既存化学物質に広げることを検討して いる。 ②カナダ • 2007 年、カナダ環境保護法のもと、ナノ物質が新規物質の届出の対象となるかどうか について、物質のサイズではなく、国内物質リスト(DSL;Domestic Substance List)に 記載されているかどうか、独特の構造又は分子配列を持つかどうかで判断することと している(米国の TSCA の下での EPA の見解と同様である)。 • 2010 年 3 月に、環境省と保健省は、共同で、ナノ物質についてのカナダ保健省の作業 定義に関する暫定政策ステートメントを発表(2011 年 10 月発効)。 • ナノ物質は、少なくとも一つの次元がナノスケール(1~100nm)であること。 または、 三次元ともナノスケールでなくても、ナノスケール現象(サイズによって特性が変化す ること)を示すものとしている。粒子径分布は考慮されていない。既存物質のナノスケ ールのものも含み、ナノ物質を広く定義している。 • ナノ物質とその応用製品に関する報告と物理化学特性や有害性データ提出を要求で き、広く情報収集が可能となるものである。 • 2010 年 9 月に、環境省は、MWCNT に対して、重要新規活動(Significant New Activity) を適用することを告示。 • 届出が必要な年間 1 事業者あたりの製造または輸入の下限量は用途によって異なる。 106 「重要新規活動」されたものは、「情報要件」によって定められた毒性試験データ等の 提出を行わなければない。 ③フランス • 2010 年 7 月に、第 2 グルネル法が成立(2011 年 1 月発効)。ナノ粒子状物質の報告制 度を構築している(2012 年 2 月に政令公布、8 月に省令公布)。 • 製造・輸入・流通されたナノ粒子状物質に関する年次報告申告制度を整備。本申告制 度は、フランス国内で年間 100g以上のナノ粒子状物質(定義はEC勧告を一部修正) を製造、輸入、流通させる者は製品に用いているナノ物質について物質名、量、用途 及び譲渡先を翌年 5 月までに環境大臣に電子的に提出することを義務付け(申告制 度は 2013 年 1 月施行された。申告の締め切りは 5 月 1 日。)。提供された情報は、譲 渡先の情報を除き、原則として公開される。 (4)粒子径分布を考慮したナノ物質の定義 粒子径分布を考慮したナノ物質の定義は、EU、オーストラリア及びフランスで出され、化 学産業国際評議会(ICCA)も提案している。また、ナノスケールの粒子径分布を考慮した 規定が米国でみられる。これらの内容を以下の表に示す。 これらのうち、EC(フランスはECに準拠)とオーストラリアは、個数基準の一次粒子径分 布を用いている。ICCA の提案は、質量基準で、ナノ物質と強凝集体(アグリゲート)や弱凝 集体(アグロメレート)で異なる質量基準を設定しているのが特徴である。米国の規定は、 一般に適用するのではなく、特定の物質に対する1つの SNUR においてなされたものであり、 計測法も指定されている。 国 EU 内容 備考 ○ その構成粒子が凝集していない状態(unbound)の ○ EC が 2011 年 10 月に、EU 粒子、或いは強凝集体(アグリゲート)、又は弱凝 と欧州経済圏内の政策と規 集体(アグロメレート)であって、個数基準の積算 制に使用することを勧告す 粒子径分布で 50%以上の粒子が、少なくとも一つ るナノ物質の定義を公表 の次元で 1 nm から 100 nm の範囲にある粒子を ○ この定義は、経験的、科学 含む、自然由来、又は非意図的、あるいは人工的 的、及び技術的発展を踏ま に製造された物質。 えて 2014 年 12 月までに見 ○ 少なくとも一つの次元が 1 nm 未満のフラーレン、 直される。 グラフェン・フレーク及び単層カーボンナノチューブ はナノ物質と見なされる。 ○ 単位体積あたりの表面積が 60 m2/cm3 より大きけ れば、その物質が上記のナノ物質定義の範疇に 入ると見なされる場合がある。 ○ 粒 子 ;明確 な物理 的境界を有す る物 質の小 片 (ISO146446:2007) ○ 特定のケース、及び、環境、健康、安全、または、 欧州の競争力に関わる等の懸念といった観点か ら妥当だと判断される場合には、粒子の個数基準 107 の積算粒子径分布における 50 %という閾値は、 1-50 %間の閾値に置き換えてもよい。 豪 仏 米 ○ ナノスケールで、新規な性質または特別な構造を もつように生産、製造または加工された工業物質 で、3 次元方向のうち少なくとも一つの次元が 1 nm から 100 nm のサイズであるナノ物質または ナノスケールの内部構造もしくは表面をもつナノ構 造体。注釈として以下の点が挙げられている。 1) 意図的に生産、製造または加工された材料を対象 とし、非意図的に作られた材料は含まない。 2) 独特な性質(unique properties)とは、ナノスケール でない同じ材料と比較して、ナノスケールであるが 故の化学的または物理的性質により、新規な応用 を可能にする性質(例えば、強度、化学反応性、伝 導性)である。 3) 強い凝集体及び弱い凝集体は、ナノ構造物質。 4) 粒子の個数基準で積算粒子径分布で、ナノスケー ルのものが10%以上のものは、リスク評価の目的 では、ナノ物質。 1) 2) 3) 4) 粒子の3 次元の少なくとも1 次元が1 ~ 100nm 個数基準積算粒子径分布1% 以上 比表面積が60m2/cm3 以上 凝集体、混合物、ナノチューブ、ナノワイヤ、ナノシ ート、量子ドット、デンドリマーを含む ○ d10 粒子径(レーザー回折散乱法で計測した質量 基準粒子径分布の小粒子径側積算分布が 10%の 粒子径)が 100nm 以下であるものは製造禁止 1) 固体の粒子状物質 2) 意図的にナノサイズで製造されたもの 3) ISO の定義による少なくとも1次元が1から100nm のサイズであるナノ物体から成るもの 4) 上記の弱凝集体あるいは強凝集体 5) 質量基準で ・ ISO で定義されるナノ物質を10wt%以上含む(主 として、Top Down の製法対象)または ・ ナノ物質から成る弱凝集体あるいは強凝集体を 50wt%以上含む(主としてボトムアップ製法対 象) 108 ○ 2010 年 10 月に、国家工業 化学物質届出評価機構 (NICNAS) が 工 業 ナ ノ 物 質 の作業定義を提案、2011 年 1 月発効。(本作業定義に 基づく「新工業ナノ物質届 出プログラム」)2011 年 5 月 ガイダンス発表。 ○ 2011 年 1 月に、エコロジー・エネ ルギー・持続可能な開発・海 洋省(MEEDDM)が、第 2 グルネル法実施の具体的 手順について規定する「上 市されたナノ粒子状物質の 年次申告に関するデクレ 案」のナノ物質の定義を発 表。 ○ 2011 年 1 月公開のデクレ 案、定義は当時の EC 提案 (個数基準粒子径分布 1% 以上)に準拠 ○ 2011 年 10 月に、環境保護 庁(EPA)が、2 つの酸化チ タン系粒子状物質を規定す る SNUR を公表 ○ 国際団体による提案 ○ 2010 年 10 月、化学産業国 際評議会(ICCA)がナノ物質 の定義に入れられなければ ならない 5 つの要素を提 案。 (参考資料2) ナノ物質製造企業が使用している計測技術 ナノ物質 団体・企業 ナノ酸化亜鉛 A社 (無機薬品工業 会・亜鉛華部会) CNT B社 ナノシリカ 定義にからんだ EU との商取引での問題点 現状取引で一次粒子での規定例 はない。 既存の多くの上市計測装置が「質量基準による粒子径分 布」であるため、この方が好ましい。個数基準との相関も検 討すべきである。 • 粒子径:電子顕微鏡 • 粒子径分布:電子顕微鏡(少なくとも 300 枚 繰り返す) • 電子顕微鏡:手間が掛かり過ぎ。ロット毎の品質検査には適さない。計測枚数が 限られており、統計的に妥当な値か不明。 ― 将来、長繊維長による規制が掛かる可能性があり、計測方 法が問題になると予想している。 ホワイトカーボン 部会(湿式シリカ) • 粒子径:(一次粒子)BET 比表面積 • 粒子径分布:電気的検知帯法・レーザー回 折・散乱法、乾式篩 • BET 比表面積:一点法は数十万円からあり。 • 電気的検知帯法法(数百万円):μm オーダーで信頼性高いが計測粒子径範囲 狭い、熟練要す。 • TEM:計測には、撮影した粒子約 3,000 個程度の直径を画像処理により計測す る。この処理を行うソフトウェアは安価であるが、処理に数日が必要である。ま た、多種のソフトウェアが市販されているが、それぞれを使用した場合に、結果 にどの程度差異が生じるかも不明である。 シリカは凝集体構造のため、前 処理方法により、計測結果が大 きく変わる。 計測装置に依存しない粒子径分布計測法の標準化が必 要。 C社 • 粒子径(一次径及び形状):SEM・TEM・(結 晶子径)Ⅹ線回折 • 粒子径分布:動的光散乱法・レーザー回折・ 散乱法 • SEM・TEM:サンプル個数と視野の選択。 • 動的光散乱法・レーザー回折・散乱法:サンプルの前処理方法の標準化。 粒子径といっても、「前提条件」が 多くあり、それが特定されない と、数値自体が一人歩きしないか 不安がある。 個数基準で50%の粒子が100 nm 以下であるというでことは ナノ製造を意図しない物質まで定義に該当してしまう可能性 がある。市場の実情を調べ、妥当な閾値にすべきと考える。 A社 • 粒子径:BET 比表面積 • 粒子径分布:レーザー回折・散乱法 • BET:再現性高く、ランニングコスト・習得問題なし。 • レーザー回折・散乱法(1000 万円以下):習得容易、前処理の分散一定化が必 要。 現状取引で一次粒子での規定例 はない。 既存の多くの上市計測装置が「質量基準による粒子径分 布」であるため、この方が好ましい。個数基準との相関も検 討すべきである。 D社 • 粒子径:TEM(表面コート品が一般的。BET 値を一次粒子の参考値として活用) • 粒子径分布:TEM • TEM:手間が掛かる(品質規格は BET で取り交わす場合が多い)。 二次粒子径は分散強度の違いで 大きく変化するので、それを考慮 した議論が必要(ユーザーは承 知している)。 一次粒子、二次粒子に関する捉え方の統一見解が必要と 考える。 E社 • 粒子径:TEM • 粒子径分布:レーザー回折・散乱法 • TEM:観察視野狭く、再現性に不安あり。 • レーザー回折・散乱法:実使用時(気中)状態を反映しているか疑問。 特になし。 計測結果が大気中のものと限定されたら、装置が必要。 • 粒子径:(二次粒子)BET 比表面積・CTAB 吸着比表面積・ヨウ素吸着量 • 粒子径分布:遠心沈降法 • 遠心沈降法:アグロメレートの分離に問題あり。 代用指標として、オイル吸着量 (二次粒子発達の指標)、比着色 力(一次粒子の分布指標)も採用 している。 ほとんどのナノ材料では、一次粒子は強凝集体の一部であ り、定義の持つ物理的意味が不明である。一次粒子は手 間・コストが掛かり精度が悪い TEM 観察以外に適当な手段 がなく、商取引を阻害する効果以外ない。 F社 • 粒子径:SEM • 粒子径分布:動的光散乱法 • SEM(1 千万円):習得難易度は中程度。 • 動的光散乱法(600 万円):習得容易。 ― 製品は平均粒子径が12nm であり、定義に該当し、販売に 障害となる。 G社 • 粒子径:SEM・動的光散乱法・Ⅹ線回折 • 粒子径分布:SEM・動的光散乱法 • 形状、平均粒子径、分散状態等により使い分け(万能機種なし)。 ― 使用機器、計測条件の違いにより、計測値が異なる可能性 がある点。 • TEM:外注しているが、計測に時間が掛かる。 ― ― • 機器価格と維持費。計測手順の習得の難易度。 ― ― ― ― ― 数十年前から使用されてきているAgペースト等ではナノ粒 子という概念がまだ無い時代に」開発された製品もある。そ れらのAg粒子径は0.05μm程度のものも有り、今まで何も 影響がなかった実績が有るにもかかわらず、急に規制がか かるという場合にどのような対応をとればよいのかといった 混乱が予測される。 カーボンブラック 協会 I社 J社 K社 フラーレン それ以外の問題点 • BET:再現性高く、ランニングコスト・習得問題なし。 • レーザー回折・散乱法(1000 万円以下):習得容易、前処理の分散一定化が必 要。 H社 ナノ銀 計測方法の問題点と課題 • 粒子径:BET 比表面積 • 粒子径分布:レーザー回折・散乱法 ナノ酸化チタン カーボン ブラック 生産管理及びユーザーとの取引に使用して いる方法 L社 • 粒子径:TEM • 粒子径分布:TEM • 粒子径:TEM・SEM・動的光散乱法 • 粒子径分布:TEM・SEM・動的光散乱法 • 粒子径:レーザー回折・散乱法 • 粒子径分布:レーザー回折・散乱法 • 粒子径:FE-SEM • 粒子径分布:FE-SEM 画像解析処理 • 粒子径:SEM(不定期に実施する、形状を含 むラフな検査) • 粒子径分布:レーザー回折・散乱法(定量的 管理(内部管理用)) ― ― • SEM:判断可能な粒子は最小 20nm 直径レベルである。 TEM も同様であるが、 nm サイズの基準粒子で較正しない限り、スケールは計算上のものであり、また 定期的な較正ができない(計測概念上は、不備がある計測)。 • レーザー回折・散乱法:前処理方法は事業者毎に異なる(ノウハウ・一般的に非 開示)。計測装置は、そのセンサー構成・逆計算アルゴリズム等により、製造会 社・機種が変わると計測結果が異なると言われ、また同じモデルでも装置間誤 差があると言われる。 109 参考資料1 前回 WG 以降のナノ材料計測に関連したトピック 1.オランダ、ナノマテリアルの定義に関する EC の勧告に関する報告書を発表 オランダ国立公衆健康環境研究所(Rijksinstituut voor Volksgezondheid en Milieu: RIVM) は6月29日、『ナノマテリアルの定義に関する EC の勧告の解釈と意味合い(Interpretation and implications of the European Commission's definition on nanomaterials)』と題する報 告書を発表した。 報告書の要点は以下の通り。 ナノマテリアルの定義に関しては、EC 勧告定義を叩き台として、2014 年に予 定されている定義の見直し・改正に向けて、1~100nm というナノ粒子のサイ ズ範囲およびそのサイズ範囲内の粒子が含有粒子数の 50%以上という粒子 数分布について、重点的に議論を重ねるべきである。 定義の適用には、数値基準を満たすかどうか測定するための正確で再現可 能な測定法が不可欠であり、ナノマテリアルの場合は、粒子サイズおよび粒 子数分布を測定するための信頼できる標準的な測定法が必要となる。測定機 器、手法、媒体、分析結果の解釈等についてのガイダンスも必要である。ナノ マテリアルの定義が確立されれば、これを適切な法的枠組の中に盛り込む必 要がある。その結果、ある種のナノマテリアルの安全な使用を担保するには、 特別な規定を設けるための改訂が必要となるかも知れない。 EC 勧告の定義は、既に殺生物製剤等の法的枠組に採り入れられている。こ の枠組を通してナノマテリアル特有のデータが収集できれば、ナノ特有の性状 やそれに関連した動態・影響についての理解も深まり、ナノマテリアルについ てはそうしたナノ特有の部分に重点を置いてリスク評価を行うことが可能にな るであろうし、2014 年 12 月に予定されているこの定義の見直しに有用な情報 も得られる。また、化粧品についても、2013 年 7 月の施行の際に、EC 勧告の 定義が法的枠組に取り入れられる可能性がある。 RIVM は、ナノマテリアルを自動的に有害であると見なすべきではないという EC の原則には賛成し ているが、逆にこの定義の範疇に入らない物質は安全であると自動的に見なすべきでもなく、そ のような物質についても、粒子の中にナノサイズのものが相当ある場合は、人や環境への暴露量 によってはナノサイズ関連のリスクが生じる可能性があると考えている。 測定方法については、粒径分布を、ひいてはナノ物質に当てはまるかどうかを測定する多くの方 法はアグロメレート/アグリゲート、単独粒子の区別が出来ず、現在それが唯一可能な電子顕微 鏡法は不利な点もある、と述べている。さらに、測定方法については EC によるガイダンスが必要で あり、例えば粒径測定はナノ粒子のタイプによって最適な方法が異なる事、少なくとも2種類の測 110 定法を使用し、そのうち1つは電子顕微鏡によるものであるべきであること、アグリゲートの判定に ついて基準を設けるべきであるなどの指摘を行っている。 111 2.JRC、ナノマテリアルの粒子サイズ計測法のレビュー報告書を発表 EC の共同研究センター(Joint Research Center:JRC)は9月17日、『EC による「ナノマテリアル」と い う 用 語 の 定 義 の 履 行 の た め の ナ ノ 粒 子 の サ イ ズ 計 測 に か か る 要 件 ( Requirements on measurements for the implementation of the European Commission definition of the term “nanomaterial”)』と題する報告書を発表した。 JRC のプレスリリースによると、EC が2011年10月に勧告した「ナノマテリアル」という用語の定義を 規制に適用するためには、ナノ粒子のサイズを正しく計測する必要がある。本報告書では、電子 顕微鏡法、動的光散乱法、液相遠心沈降法など現在利用可能な方法でどのような計測が可能か、 実際の計測の際にどのような問題が生じるか等についてまとめている。 報告書によると、ナノマテリアルは物性が広範にわたるため、すべての物質に利用可能な計測法 はなく、それぞれの物質に合わせて異なる方法の使い分けや組み合わせが必要であると結論づ けており、様々な計測法の組み合わせによる段階的アプローチの中での各計測法の信頼性につ いては、ナノマテリアルに特化した検証試験で確認する必要があるという。 EC のホームページ上での本報告書の紹介によると、計測以外の定義の履行方法、具体的なナノ マテリアル(フラーレン、単層カーボンナノチューブ等)に対応する計測法、ナノマテリアルへの暴 露量やナノマテリアルの毒性、消費者向け製品中のナノマテリアルの計測等、関連するその他の 問題についてはこの報告書では扱っておらず、今後出される報告書で取り上げられる予定である という。 3.SCCS がナノスケールの酸化亜鉛の日焼け止めへの使用を許容する意見書を発表 欧州委員会(EC)消費者安全科学委員会(SCCS)は9月18日、ナノスケールの酸化亜鉛に関する 意見書を発表した。現在、関係者および一般からのコメントを10月22日まで受け付けている。 意見書は、今回の検証に使われた酸化亜鉛と同様の特性を示すものに限り(原文91頁)、ナノス ケール酸化亜鉛を UV フィルターとして含む日焼け止め剤を皮膚に使用しても、含有率25%まで (a concentration up to 25%)1は人体に悪影響を与えるものではないと結論づけているが、これは スプレー剤のように酸化亜鉛ナノ粒子の吸入暴露につながるような用途については該当しないと している。 また、SCCS は、非ナノ酸化亜鉛の UV フィルターとしての使用については、2009年に最大含有率 1 25%以上は安全でないという意味ではなく、日焼け止め剤中の含有率が最大 25%と想定されているため 112 25%までは安全であるとの見解を出しており2、さらなる懸念はないと明記しているが、化粧品への 酸化亜鉛の使用については、酸化亜鉛の粒子の吸入暴露が肺の炎症を引き起こす可能性を考 慮すると、吸入が考えられる化粧品への使用には懸念が存在し、さらに、皮膚からの体内への侵 入を促すようなコーティングがなされた酸化亜鉛の粒子に関しては、ナノスケールであるかどうか を問わず、引き続き注意が必要であるとしている。 なお、今回の検証に使用された酸化亜鉛は、BASF 社の Z-COTE○ R などとともに、我が国のメーカ ーの FINEX-50 (Sakai Chemical)、MZ 30 (Tayca)が挙げられている。また、粒子径分布測定には、 CPS 社の Disc Centrifuge(液相遠心沈降装置)が使用され、全て、個数基準で50%粒径は100nm 以下であった。(9割以上が100nm 以下) その際は、分散剤として Tego Dispers 752W1を用い、さ らに0.3mmφの YTZ ビーズを使用したビーズミル(Dispermat SL-12)で分散している。リスク評価で は、Shiseido が実施した毒性試験の結果も7件引用されている。 なお、SCCS によるオピニオンは、ナノ関係では、二酸化チタンに対しても出される予定である。 4.オランダ RIVM、ナノ特有の性状を決定する粒子サイズは不明との委託研究結果を発表 オランダのオランダ国立公衆衛生環境研究所(RIVM)が、ナノマテリアル特有の性状が現れる粒 子のサイズを特定するために、Arcadis 社に作成を委託していた研究報告書「何がナノマテリアル を定義するのか?」(10月5日付け)がウェブサイト上で公開されている。この報告書は、既存の文 献からは、物質の物理化学的性状は粒子のサイズによって左右されることはわかったが、ナノマ テリアル特有の性状が現れる具体的な粒子のサイズを決定することはできないと結論付けた。 RIVM は、EC が2011年に発表したナノマテリアルの定義が将来的に見直されることを見越し、オラ ンダからの意見を用意するのに、基準とする粒子サイズの閾値を定めるために、以下の2点を特 定する研究を Arcadis 社に委託していた。 ナノマテリアルを従来の物質とは異なるものとしている物理化学的性状 その性状がナノ特有のものに変わる境目となる粒子の大きさ この研究では、物理化学的性状をナノマテリアルとの関連性、および REACH 下での化学物質管 理との関連性により優先順位付けし、こうした関連性が特に高いと思われる性状として表面形態、 結晶構造、水溶解度、反応性、光触媒反応性を選び、文献レビューを行なった。その結果、レビュ ーの対象となった性状はナノスケールでの粒子サイズの変化に影響を受けることは多くの文献で 記されていたが、ナノマテリアル特有の性状が発現する粒子サイズは、調査対象となっている性 2 Scientific Committee on Consumer Products SCCP Clarification on Opinion SCCNFP/0932/05 on Zinc 113 状の種類、ナノマテリアルの種類、実験条件によって変わると結論づけている。このため、ナノマ テリアル特有の性状が発現する具体的な粒子の大きさを決定するには、既存の実験データも理 論的説明も十分でないという結論に至ったとされている。 5.ドイツ当局が REACH におけるナノマテリアルの取扱いの修正を求める文書を発表 2013年1月30日、ドイツ連邦の環境省(UBA)、リスクアセスメント研究所(BfR)、労働安全衛生研 究所(BAuA)は、報告書「ナノマテリアルと REACH-ドイツ担当当局の見解に関する背景文書」を 連名で発表した。この報告書は、REACH とナノマテリアルを担当するこれらの当局の見解を反映 しており、その目的は政治的プロセスのための意思決定のルール作りのたたき台とすることであ るという。 報告書では、REACH におけるナノマテリアルの取扱いには懸念があるとして、特に以下のような 見解を示している。 EC の定義は歓迎するが、定義の適用に必要な、広く認められた標準的なパラメータの測 定方法が未だにない以上、その実用性については問題がある。 REACH の規制はナノマテリアルの特徴に対処するには適しておらず、登録一式文書(ド シエ)の中にもデータ要件や記載方法に関する明確な規定がない。 分類と表示(CLP)の規制、および固体の発塵度の評価のための既存の基準における、 アスベスト、ミネラルウール、セラミックファイバーの分類が、REACH 下でのこれらの物質 の同定を実施可能な形で法的に義務付ける出発点となるであろう。 原則として、物質のナノ形態とバルク形態は一緒に登録すべきであるが、情報要件は分 けるべきである。 ナノマテリアルについては、登録を必要とする年間最低取扱量を 100kg に引き下げるべき である。 (現在、REACH の附属書には、正当性を前提とした試験免除が適用される場合が説明さ れているが)、どういった条件を満たした場合に試験が免除されるのか、REACH ガイダン ス文書に詳しく記載すべきである。 ナノマテリアルの試験計画については、急性毒性試験の経路を通常の経口ではなく吸入 とする等の修正が必要である。 表面処理されたナノマテリアルについては、未処理の物質とは物性が異なるため、その 割合が多ければ別の物質として扱うべきであり、線引きの数値を設定する必要がある。 当局によると、これらを実現するためには、REACH、特にデータ要件に関する附属書の改訂が必 要であるという。 114 参考資料2 JRC 参照報告書 欧州委員会による“ナノ材料”の定義の履行のための測定に必要な要件 2012年7月 JRC(Joint Research Center: リサーチベースの政策支援組織で欧州委員会と一体化しており、広範な EU 政策をサポートするため、科学的な助言や技術的なノウハウを提供する。その使命を遂行するため に、私的なあるいは各国の利害から独立した地位が保障されている。)はかねてから、EC のナノ材料 定義の適用に係る計測に関して、見解を発表するとしてきたが、9月17日、標記参照報告書が公表さ れた。ここにその抄訳(一部全訳)を提供する。(訳:JFE テクノリサーチ) ここで、‘定義の履行’とは、 implementation of definition の訳であり、「EC 勧告のナノ定義が適用された法律の適用、実行」といっ た意味を込めている。 目次(全訳) 1.序論 1.1ナノ材料の委員会による定義 1.2定義の履行 1.3本報告書の目的と範囲 2.定義中の測定に関わる要素 2.1粒子 2.2強凝集体(aggregate)、弱凝集体(agglomerate)および構成(constituent)粒子 2.2.1強凝集体と弱凝集体の違い 2.2.2強凝集体の構成粒子の検出 2.2.3‘強凝集体’と‘多結晶’粒子の区別 2.3粒子サイズ(particle size)と粒子の外部次元(external dimension) 2.4粒子サイズ分布 2.4.1多分散性を記述する粒子サイズ分布 2.4.2粒子サイズ分布の特性因子(characteristic parameter) 2.5フラーレン、グラフェンフレークおよび単層カーボンナノチューブ 2.6比表面積 3.粒子サイズ解析における一般的信頼性問題 3.1サンプリング 115 3.2サンプルの調製(sample preparation) 3.2.1懸濁、希釈及び乾燥 3.2.2分散 3.3定量化 3.3.1異なる基準で測られた粒子サイズ分布 3.3.2方法に依存する相当径(equivalent diameter) 3.4粒子サイズ測定における品質保証と確かさ 3.4.1方法の検証 3.4.2測定の不確かさ 3.4.3適合性評価 3.4.4標準化と参照方法の役割 4.特定の測定法の評価 4.1電子顕微鏡(EM) 4.1.1測定原理 4.1.2定義に対応したナノ粒子の測定が可能か 4.1.3どんなタイプのナノ材料が測定できるか 4.1.4信頼性の問題 4.1.5標準的方法が利用可能か 4.1.6参照物質が利用可能か 4.1.7許容コストで広く利用可能か 4.1.8近い将来に方法の更なる発展が見込めるか 4.2動的光散乱(DLS) 以下4.2.1~4.2.8まで4.1と同じ項目 4.3液相遠心沈降(CLS) 4.4小角 X 線散乱(SAXS) 4.5流動場分離(FFF) 4.6粒子追跡法(PTA) 4.7原子間力顕微鏡(AFM) 4.8 X 線回折(XRD) 4.9 BET 法による比表面積決定 4.10粒子サイズと比表面積測定法の追加 4.10.1流体力学的クロマトグラフィー(HDC)及びサイズ排除クロマトグラフィー (SEC) 4.10.2気相電気泳動分子移動度解析(GEMMA) 116 4.10.3単一粒子誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS) 4.10.4核磁気共鳴による比表面積測定(NMR) 4.11総括表 5.二つの説明用実例 5.1保証された標準物質のシリカナノ粒子 5.1.1 材料 5.1.2測定法と研究室 5.1.3結果 5.2代表的ナノ粒子試験材料の酸化亜鉛 5.2.1材料と測定法 5.2,2電子顕微鏡像 5.2.3入手したままの乾燥粉体の粒子サイズ測定 5.2.4入手したままの乾燥粉体の懸濁物測定 5.2.5結果の総括 5.3議論と結論 6.最終製品中のナノ粒子の測定 7.結論 117 エグゼクティブ サマリー(全訳、斜体は原文による) 本報告書の目的と範囲 欧州委員会(EC)は最近、規制目的のための‘ナノ材料’の共通の定義に関する勧告を公 表したが、その適切な実行のためには、相応しい測定ツールと方法が要求される。本報告書 は定義に基づくナノ材料の粒子サイズ測定に必要な条件について述べる。また、関連する一 般的な測定に関する事柄を議論し、現在利用可能な測定法の可能性をレビューし、さらに、 実例と共に、解決すべき課題について説明する。 本報告書は、以上のほかの事項、すなわち、測定という手段以外の定義の実行やフラーレ ンや単層カーボンナノチューブのような特定のナノ材料を検知する方法や、ナノ材料の効果 や暴露を評価する測定、消費者製品中のナノ材料の検出や測定についてはカバーしていな い。これらはフォローアップ報告書で触れられるであろう。 ナノ材料の委員会の定義 委員会勧告2011/696/EU の定義は以下の通り。 1)その構成粒子が凝集していない状態(unbound)の粒子、或いは強凝集体(アグリゲート)、 又は弱凝集体(アグロメレート)であって、個数基準の積算粒子径分布で50%以上の粒子が、 少なくとも一つの次元で1 nm から 100 nm の範囲にある粒子を含む、自然由来、又は非意 図的、あるいは人工的に製造された物質。 2)特定のケース、及び、環境、健康、安全、または、欧州の競争力に関わるなどの懸念とい った観点から妥当だと判断される場合には、粒子の個数基準の積算粒子径分布における 50 %という閾値は、1-50 %間の閾値に置き換えてもよい。 1)から逸脱しているが、少なくとも一つの次元が1 nm 未満のフラーレン、グラフェン・フレーク 及び単層カーボンナノチューブはナノ物質と見なされる。 1)で使用される言葉の定義 (a)粒子は明確な物理的境界を有する物質の小片 (b)弱凝集体は弱く結合した粒子の集合または外部表面積が個々の構成物の表面積の総計 に近い強凝集体 (c)強凝集体は強く結合した又は融着した粒子からなる粒子 技術的にあり得て、特定の規制において要求される場合、単位体積あたりの表面積が60 m2/cm3より大きければ、その物質が上記のナノ材料定義の範疇に入ると見なされる場合が ある。しかし、60 m2/cm3より小さい場合でも、1)の定義に当てはまる場合はナノ材料とされ る。 118 EC の定義は ISO のような国際的な定義に比べてより特定的である。それは、規制の分野で 使用されるために開発されたからである。意図された規制に使用するには、ある材料が定義 に該当するかどうかを測定を通して証明する可能性に依存する定義を最もよく実行できるよう に考えられている事が必要である。測定方法は、製造者が正確な情報を提供でき、規制当局 と消費者が想定される届出とラベリング手続きを通して受け取る情報の正確さが証明されて いなければならない。 定義から要求される測定に必要な条件 ある材料が勧告定義を満たすかどうかを決定するは、5段階の手続きがある。 1.その材料がフラーレン、グラフェン・フレークあるいは単層カーボンナノチューブからなって いるかどうかの決定 ・これらの材料は、粒子のサイズに関係なく、ナノ材料に該当する。 2.その材料は、粒子からなっているかどうかの決定 ・粒子は乾燥粉体、ペ-ストとして、あるいは懸濁物の中に存在する。 3.その材料を構成する粒子の決定 ・構成する粒子はしばしば、強凝集体あるいは弱凝集体である。 4.(構成する)粒子の外部次元の決定 ・粒子サイズ測定が粒子の外部次元を評価する 5.適切な外部次元に基づいて粒子のサイズ分布の平均値を決定する。 ・その平均値が定義にある粒子数基準のサイズ分布において50%の割合に相当する。 定義によれば、その材料の体積基準の比表面積(SSA)の決定は、ナノ材料と決定するには 正の方向に分類する。しかし、負の結果は、粒子サイズ分布の正の分類を覆す事はできな い。(訳注;SSA<60m2/cm3 以下であっても、数基準の平均粒子サイズが100nm 以下であれ ば、ナノ材料に該当する。) 中心概念:粒子、強凝集体、弱凝集体及び粒子サイズ 粒子は、‘明確な物理的境界を有する物質の小片’と定義される。しかし、ナノスケールでは、 粒子の物理的境界は、特に懸濁液中では、溶解、膨張、吸着によって影響される。さらに、ナ ノスケールの粒子は、しばしばお互いに付着して、定義に言うところの構成粒子の(強く結合 した場合には)強凝集体や(弱い結合の場合には)弱凝集体を形成する。粒子境界の物理的 な性質、強凝集体か弱凝集体か、を認識する事が重要である。 信頼性ある粒子サイズの決定のための一般的な問題点 119 サンプリング:測定中の材料の粒子の数は、調査している材料中の粒子数に比べて、一般的 に、極端に少ない。そのために、分析のために代表サンプルを採取するには十分な注意が必 要である。その際は、国際標準に従うべきである。(3.1を参照) サンプル調製:たいがいのサイズ測定法は、その構成粒子のサイズを測定しなければならな いならば、弱凝集体や強凝集体を解砕するためのサンプル調製を必要とする。この調製や他 のサンプル調製は測定サイズに影響を与える場合がある。実際には、強固に結合した強凝 集体は構成粒子にまで分散する事はできず、それゆえしばしば大きな粒子との区別が不可 能である。(3.2を参照) サイズ分布:測定された粒子サイズ分布は、粒子サイズ区分毎の、粒子数、表面積、体積、 散乱光強度、最も一般的には重量の頻度で表される。大部分の方法は、定義で要求される 数基準のサイズ分布に数学的に換算する必要があるサイズ分布を与える。この換算は、 種々の仮定に基づくもので、ナノスケールの粒子質量分率が十分に大きくないときには、小さ くなるにつれて、誤差を生じる傾向があり、困難又は不可能となる。(3.3.1を参照) 方法に規定されたサイズの値:大部分の方法は方法に規定された、選択された外部次元の みかけの値を与える。それゆえ、異なるサイズ測定法は、有意に異なるサイズの値を与える ことになるであろう。あらゆる可能な応用に対して正確さあるいは信頼性に従って異なる測定 法をランク付けすることは不可能であり、それゆえ、普遍的な標準方法の定義は恣意的なも のとなる。逆に、サイズ測定が方法に依存するということは、特定の応用あるいは関心に対し て最も適切な方法が選択できる事を意味する。サイズ測定の結果が方法に依存するため、 測定法の標準化は、異なる研究室間の比較可能性を確保する必要がある。 測定法の候補 ナノ粒子のサイズ測定法は以下のようにグループ分けできる。 動的光散乱(DLS)または小角 X 線散乱(SAXS)のように、強度加重の粒子サイズをあたえる 集合体法(多数の粒子を同時に測定する方法)は、数基準のサイズ分布への換算値は単分 散に近い、球形粒子の場合にのみ及び粒子について十分な形状の情報がある場合に信頼 性がある。X 線回折法のような、他の集合体法は、平均値のみでサイズ分布についての有用 な情報は与えない。 粒子追跡法(PTA)のような計数法は、粒子ごとに調べ、粒子が特定の形状を持つ と推定する。電子顕微鏡(EM)や原子間力顕微鏡(AFM)のような画像法もまた計数法であ 120 り、表面上の非球形粒子を扱う事ができる。しかしながら、工業多分散材料の信頼できるサイ ズ分布を得るには代表サンプルを構成する非常に多数の粒子を測定しなければならない。 液相遠心沈降法(CLS)、流動場分離法(FFF)、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)、流体力 学クロマトグラフィー(HDC)のような分画法(分級法)は、サンプルを単分散の区分に分離し、 その区分を定量化する。この方法は、多分散サンプルの測定に関連したいくつかの問題点が ない。これらの分画法はオンライン又はオフラインで集合体法や計数法と結合させることが可 能で、定義の履行のために開発されるべきサイズ測定法の必須の構成部分となることが期 待される。 測定法の上述のカテゴリーをとおして、3つの問題が特定される。 弱凝集体/強凝集体の扱い:いかなる方法も一つの大きな粒子が強凝集体か、弱凝集体か、 単独粒子であるかを信頼性よく区別し、同時に多数の個々の構成粒子のサイズを測定する 事はできない。いくつかの材料は EM を用いて区別できる。しかし、DLS、CLS、SAXS、AFM、 PTA は、弱凝集体/強凝集体を一つの大きな粒子とみなしてしまう。 測定範囲:いかなる方法によっても、一つの測定で、あらゆる材料に対して、定義に対応した 普遍的な評価に要求されるような、1nm 以下から十分に100nm を上回るサイズをカバーする ことはできない。(50%あるいは中央値を含まなければならない)測定する粒子の数の分率で 表すとき、測定範囲は、粒子の質量分率に強く依存する。 方法の検証:言及した測定法のどれをとっても、ナノ材料の定義の履行において使用するこ とは検証されてきていない。 結論と展望 勧告されたナノ材料の定義の履行において、測定に関連した種々の科学的-技術的な挑戦 がある。とりわけ、強凝集体内部で個々の構成粒子を、その結合している力に関係なく測定 しなければならないこと、実験的に測定された信号を、多分散材料の正確な個数基準のサイ ズ分布に変換し、(10nm より小さい)定義の下方のサイズ範囲において粒子を検出し個数を 数える困難さが挙げられる。これらの測定は、閾値が(50%に変わって)下方に設定されれば、 一層困難な問題になる。また、大抵の現状の方法は1nm より大きな検出限界であるか、小さ な粒子ほど感度が低くなる。それゆえ、これらの方法は、ある材料がナノ材料であることを証 明するというポジティブな試験に使う事はできるが、ナノ材料ではないというネガティブな証明 には使えない。現状の技術的な限界を総合すると、現在使用可能な方法は、全ての種類の 121 ナノ材料が定義を満たすか否か決定する事ができないのである。それゆえに、規制に係る定 義をみたすかどうかを決める事ができる様々な測定法を開発する必要がある。測定によって 定義を履行することは多分散材料には、かなりの困難を課することになる。また、粒子状材料 である強凝集体は、それ自体が定義を満たす材料でないならば、構成する一次粒子のサイ ズ分布を決定しなければならず、それは現在、通常不可能である。 将来、測定技術が改善され、解析方法の進歩と標準化されたサンプル調製プロトコルがあ ば、これらの制限は部分的には解決されるかもしれない。もし測定による定義の履行が早急 に必要ならば、明確で正当化された粒子サイズ測定と試験条件を指示した限定されたガイダ ンス文書が、特定の材料とセクターに提示されなければならないであろう。確固たる評価のた めには、いくつかの方法が、理想的には調査する材料の製造プロセスの関する情報に支えら れて、採用されなければならない。そのような、組み合わされた、段階的な方法の信頼性は、 限定された方法の検証と研究室間の比較研究によって完全にチェックされなければならな い。そのような技術的進歩と経験は、勧告によって規定された定義の将来の改定に考慮され なければならない。 122 1.序論(抄訳) 1.1ナノ材料の委員会による定義 エグゼクティブサマリーの定義の部分と同じなので省略 1.2定義の履行 定義は委員会勧告としてだされたものであって、だたちに実際に履行されるわけではない。し かし、定義が特定の規制に使われると直ちに事情が変わる。既に、最初の規制が存在してお り、消費者が食品と化粧品の成分がナノの形で加えられているかどうかを知らされることが必 要になるであろう。そのため生産者と規制者は二つの質問に直面する。 a)ある原料は定義を満たすか b)ある最終製品はナノ材料を含むか 二つの質問は、定義の履行における、非常に異なった側面である。 ‘その材料がナノ材料か’という質問は、最終製品を生産するための基礎成分として使われる 原材料をターゲットとしている。現状の定義に関する限り、この段階の材料は粒子状の形態 である。(言い換えれば、粒子が自由に動くことができる乾燥粉体又は懸濁物である。) ‘その製品中にナノ材料が存在するか’という質問は、製品規制の実行に関わる。規制当局 は、ある製品にナノ材料が含まれるとするラベルがあるかないか、そのラベルが規制に合っ たものであるか、あるいは、ラベルが無いことは正当化されるか、という問題に直面する。 本来、この定義履行の両側面は、測定の問題である。測定は以下の場合に必要となる。 ・生産者は、ナノ材料として生産している材料を正しく同定しなければならない。この場合は、 その材料が定義をみたすかどうか彼ら自身か、委員会が測定を実行する。 ・生産者による分類を当局が確認するか、反論するか。この場合は、当局は、生産者 によってなされた、ナノ材料/非ナノ材料の分類をチェックするため、測定結果を使用する。 ・当局と消費者グループが、ある製品が正しい表示がなされているか、すなわち、ナノ材料 が含まれているとは表示がされていないが、ナノ材料を含んでいるかどうか、あるいはその 逆の場合、測定する。 1.3本報告書の目的と範囲 エグゼクティブサマリーの本報告書の目的と範囲部分と殆ど同じなので省略 123 2.定義中の測定に関わる要素(抄訳) 定義は、一定数の中核的な用語と測定に関係した特定の概念で構成されている。ここでは、 これらの用語と概念について、あいまいさが残る可能性と明確化の必要性に触れつつ、焦点 を当てる。 2.1粒子 定義は、‘ナノ材料’という用語を、粒子を含有する材料に限定している。粒子は、’明確な (defined)境界を有する物質の小片(minute pieces of matter)’と定義されている。これには、 ‘等軸を持つ’粒子(おおよそ球状)のみならず、棒状(繊維や管)や板状(フレークや小板)を 含む。それゆえ、定義における‘粒子’という用語は、国際標準機構(ISO)のナノ材料の用 語である‘物体(object)’に対応する。 この報告書では、実際的な理由から、また、定義の本質を危うくしないために、定義のために 評価する材料は、粉体(powder)であるか粒子の懸濁物(suspension)と仮定している。 懸濁物の場合は、ナノスケールでは、粒子の周囲に、ある厚みの表面層が存在しているが、 粒子を一つのユニットとして動く物体であるとするので、表面層の原子、分子、イオンは粒子 の一部と考える。 結論:定義の履行には、問題としている材料が粉体であるか又は懸濁物の形で粒子からなっ ているかどうかを調べる事が必要である。 2.2強凝集体、弱凝集体および構成粒子 2.2.1強凝集体と弱凝集体の違い 弱凝集体:弱く結合した粒子の集合又は外部表面積が個々の構成体の外表面積の総計に 近い強凝集体又は両者の混合物 強凝集体:外部表面積が個々の構成体の外表面積の総計よりかなり小さい強く結合した、あ るいは融着した粒子からなる粒子 ISO/TS 27687における定義では、弱凝集体を保持している力は弱い力、例えば、ファンデル ワールス力や単純な絡み合い(entanglement)であり、強凝集体では強い力、例えば、共有結 合、あるいは、焼結によって生じる力、あるいは複雑な絡み合い、による、としている。多くの 場合、粒子は製造過程で強凝集し、さらに強凝集体は、弱凝集体を形成する。強凝集体と弱 凝集体には、明確な区別はなく結合に強さは連続的である。弱く結合した弱凝集体は、分散 させる事ができるが(3.2.2を参照)、強く結合した強凝集体は、当初の構成粒子を破壊してし 124 まうリスクなしには、凝集を解くことはできない。 2.2.2強凝集体の構成粒子の検出 定義は、明確に、決定基準は、凝集体の大きさに関係なく、構成粒子のサイズであるとしてい る。図1は強凝集体粒子内部の構成粒子を識別することは、常に、まぎれのない作業では無 いことを示している。 図1:a) あるナノ粒子の電子顕微鏡像 b) a)と同じナノ粒子の透過電顕トモグラフィー像 (訳注;この粒子は、原文献によれば、沈降法シリカである。バーは200nm(全長)) c) 4つの構成粒子からなる強凝集体または単一の枝分かれした粒子の断面の模式図 図1a はナノ粒子の代表的な電顕像であり、粒子がより小さい粒子の強凝集体であることを示 唆しており、コントラストに高低がある。図1b は透過電顕トモグラフィーを用いて同じ粒子を3 次元再構成したしたものである。この先端的技術によっても構成粒子の境界を示す事はでき ていない。図1c はより模式的に描いたものである。示された像は、4つの構成粒子からなる強 凝集体の断面図とも、枝分かれした構造を有する単一粒子の断面であるともとれる。強凝集 体は、最も実際的な目的のためでも、単一粒子と区別する事ができないのである。 2.2.3‘強凝集体’と‘多結晶’粒子の区別 本報告書では、構成粒子を ISO 文書で定義された一次粒子と同じとしている。ISO の定義で は、強凝集体と弱凝集体とを二次粒子と呼称している。したがって、構成粒子は独立した、自 由に動ける粒子であり、製造プロセスの上流のどこかで短時間であっても存在していた粒子 であるとみなされる。 125 多くの固体材料は多結晶体、すなわち図2に示されるように、多かれ少なかれ密に充填され た多数の小さな結晶からなっている。図2の多結晶体は、強凝集体ではない。構成粒子は、 析出と相変化の結果として形成されたもので自由に動けない。 図2:窒化ケイ素セラミックスを 図3:粒子の2次元像からの不規則形状粒子 プラズマエッチングした断面の電顕像 の外部次元のいくつかの決め方の説明 多結晶材料における結晶の境界は、強凝集体の構成粒子の境界としばしば区別がつかない。 構成粒子や結晶のサイズの測定のみからでは、区別がつかない。代わりに、詳細な顕微鏡 的解析と製造プロセスに関する最小限の知識が必要とされる。 結論:定義の履行には、粒子状材料の構成粒子がなんであるか決定することが必要である。 2.3 粒子サイズと一つの粒子の外部次元 粒子サイズという用語は理解しやすいように見えるが、誤りに導きやすい。一つあるいはいく つかの長さの値として表された粒子サイズは、規則的な形状の粒子の幾何学のみ完全に表 す事ができる。例えば球のサイズは粒子の直径あるいは半径によって、直平行六面体のサ イズは、高さ、幅と奥行きで、完全に定義される。この簡明さは、たいていの場合のように、不 規則な形状体では、すぐに失われる。ナノ粒子ではないが、例えば卵の場合、長さの値では なく、重さでサイジングしている。粒子サイズの尺度として、球相当径を用いる(3.3.2を参照) オプションもある。 ‘粒子サイズ’の代わりに、定義は‘外部次元’という用語を使用している。「外部次元」の説明 のために、図1c を図3として再び用いる。ここでは一つの粒子と考える。最も直感的な‘外部 次元’は、カリパス(測径器)によるかまたは親指と他の指で距離を測定する方法であろう。科 学的な用語では、フェレー(Feret)径と呼ばれる。傾斜した二本の平行線で粒子像の端を挟 126 んだ場合の線間の距離であり、図3では最大値と最小値を示した。二つとも100nm のオーダ ーの値であり、非常に有用な概念であるが、イメージング法でのみ可能である。 更に図3は、粒子の中心部の径 Xi を示したが、これも一つの外部次元であるが100nm よりず っと小さい。他の外部次元としては、粒子の2次元投影の周囲長からとる方法もあるが、この 図の場合では100nm よりずっと大きくなる純粋な意味でのサイズパラメーターから離れると、 形状や面積をキャラクタライズする多数の尺度があり、それなりの有用性はあるが、本報告 書で取り上げるものとしては末梢的なのでここでは挙げない。 3.2.2で詳細に議論するが、大概のサイズ測定法は方法できまる相当径を決めるので、その 材料のある幾何学的又は物理的な性質を反映したものである。粒子のキャラクタリゼーション に責任を持つ ISO SC である ISO/TC 24/SC4の直近の‘粒子’に関する議論は次のようであ る。‘特定の測定法によって、特定の測定条件によって決められた粒子の線形の次元(linear dimension)’ この定義(ドラフト)は、粒子サイズを解釈したり評価したりする方法はいろいろ あるのみならず、測定された粒子のサイズに対する粒子が存在する環境の影響があることを 意味しているのである。 結論:定義の履行には、適切な、一般に認められた、定められた条件で粒子の特性を表す外 部次元を測定し、その結果を定義に定められた限界値(1nm と100nm)と比較する事が要求さ れる。 2.4粒子サイズ分布 定義は、暗黙のうちに、ナノ材料は一つのナノスケールの粒子で構成されているわけでなく、 粒子の集合体であると認識しており、それゆえ、サイズ分布の概念が重要である。 2.4.1多分散性を記述する粒子サイズ分布 ここの記述は、粒子径分布に関する基礎的な概念の説明であり、省略する。 2.4.2粒子サイズ分布の特性因子 粒子のサイズ分布の特性因子として、modal size(最頻度サイズ;粒子サイズのヒス トグラムで最も大きな値を示すサイズ)、median size(中央サイズ;そのサイズがそれよりも大 きい粒子と小さい粒子の数が等しい)、mean size(サイズの平均値;平均値の求め方によって 異なる)がある。これらのうち、最も定義に関係しているのは、メディアンサイズであり、定義を 言い換えるならば、メディアンサイズが、1nm から100nm の間にある材料はナノ材料である、 とも言える。 127 結論;定義の履行において、材料の数基準のメディアンサイズを求める事が要求され、それ は、1nm から数μm の構成粒子のサイズから決められなければならない。 粒子のサイズ分布を求めるためには、1nm から mm スケールの粒子を全て測定しなければな らないが、実際上は mm サイズの粒子の数はナノスケールの粒子の数に比べて非常に少な いので、上限はμm でよい。一方、4.で示すように、多くの方法の測定下限は1nm よりも大き いか、あるいは、小さい方のサイズではより少ない分率としてしまう傾向がある。このことは、 メディアンサイズを大きくするバイアスがかかっている事になる。 結論:測定下限が1nm より大きいか、小さい粒子の感度が低い測定法は、ある材料がナノ材 料であるという証明には使えても、ナノ材料ではないという証明には使えない。 2.5フラーレン、グラフェンフレークおよび単層カーボンナノチューブ 定義によれば、これらの炭素材料は、1nm 以下であってもナノ材料になる。本報告書は粒子 のサイズの測定に焦点を当てているので、これらの材料の同定は扱わない。たとえば ISO/TC229 WG2を参照するとよい。 結論:定義の履行には、問題にしている材料が、フラーレン、グラフェンフレークあるいは単層 カーボンナノチューブで構成されているかどうかの試験が必要とされる。 2.6比表面積 定義の体積基準比表面積(VSSA)の60m2/m3という値は、材料が100nm の球状、非多孔質で あるという理想的な条件での値である。しかも、ナノ材料に当てはまるという基準には使えて も、ナノ材料で無いという証明には使えない。比表面積(SSA)測定の最も一般的な方法は、 BET 法であり、乾燥した粉体に用いる。懸濁物には、BET 法ほど成熟してはいないが、方法 はある。(4.10を参照) ガス吸着法は、使用するガスの種類に依存する面があり、これもまた 方法により異なる。さらに VSSA は体積基準であり、BET 法でもとまる SSA からは、密度の値 が必要である。ナノ材料の密度測定にも SSA 測定に類似した問題点がある。 結論:定義は、SSA 測定はナノ材料に当てはまるという基準に使用できる。この定義の履行 には、比表面積測定にについて明確な定義(望ましくは国際的な)が必要である。 128 3.粒子サイズ解析における一般的信頼性問題(全訳) 不適当な測定手順は間違った粒子サイズ分布曲線を作るであろう:粒子サイズ分布曲線 は、偏移、拡大、あるいはより一般的には変形することになる。これらの結果を(それらは組み 合わせに生じることかもしれない)、図5に模式的に示す。根本的なエラーは、典型的な測定 手続(サンプリング、サンプル調製および定量化)の主なステップのうちのどれからも生じる場 合がある。これについて本節で議論する。図5に示す結果はナノ材料であるかどうかの分類を 間違った結果に導くかもしれない。これはケース e)が典型的で、あるサイズ以上の、あるい はそのサイズ以下の粒子が測定方法によって捕らえられない場合である。これは、単一の測 定法で、一回の測定で信頼性高く1nmから数ミクロンまでの全粒子径範囲をカバーすることが できないために生ずる。 図5 正しくない測定結果のモード a) 真の粒子サイズ分布 b) 小さいサイズに偏移 c) 拡がり d) 変形e). 上方サイズ測定限界のため カット 注意;b)とc)では、ナノ材料と誤って分類される。同じ効果はe)でも起こりうる。当然ながら逆の効果 を招くこともある。 この節は、さらに「相当径」の概念を紹介し、前に言及した粒子サイズ分布と強凝集体と弱 凝集体の問題についてより詳細に議論する。これらの問題を明らかにするのは何を測定すべ きかを理解するのに必要だからである。測定の対象を明らかにした後は、測定結果の信頼性 を保証するために一般的な品質保証の原則に従わなければならない。 3.1サンプリング 生産者と規制当局は、トン単位の材料からなることもある、ある製造バッチが定義に該当する かどうか評価しなければならない。この量全体を測定対象とすることは不可能である。代わり に、この評価をするために少量のサンプルが採取されるであろう。意味あるようにするために、 この少量のサンプルが、例えば1mg が、10トンの完全な製造バッチと平均的に同じ特性を持 っていることを保証することが重要である。そうである場合のみ、代表サンプルとなる。 代表サンプルをとることは、サンプルで得られた測定結果が完全なバッチに当てはまることを 保証する。このために、通常いくつかのサンプルをバッチの異なる位置から取り、混ぜ合わせ て1つのサンプルとする。これは、例えば、輸送によって引き起こされる粒子サイズに関係す る偏析や凝集の影響を除去するために必要である。代表サンプル採取のガイドラインは、例 えばISO 14488:2007[13]にある。 2番目の「サンプリング」ステップは、実測あるいは「定量化」ステップ(3.3を参照)において、測 定方法に応じて発生するであろう。4章にリストアップした測定法候補は、個々の粒子を調査 129 する方法(カウント法)と多くの粒子を同時に分析する方法(集合体法)に区別できる。これは、 カウント法では試験サンプル中の限られた数の粒子を選ぶことを意味する。反対に、集合体 方法は、非常に多くの粒子(カウント法よりも大きな桁の数)の計測が可能である。 結論:代表サンプルを得ることは意味のある測定結果にとって重要である。したがって、サン プリングは良く計画、管理されて行われる必要があり、通常、規定されたプロトコルによって行 われる。 3.2サンプルの調製(sample preparation) 前の節および4章に示されるように、測定法の候補は典型的には「オフ・ライン」法である*。 言いかえれば、サンプリングの後、代表サンプル(粉体または懸濁液)は、測定が行なわれる 研究室へ移される。選択した測定法によっては、サンプルは事前に追加処理が必要である。 * オンライン計測に関連したさらなる挑戦のために、既存の少数のオンライン計測法は、この報告書で は議論しない。しかしながら、それらは、例えば生産工程の品質管理のためには適切である。それ は分析に適している。粒子サイズ分布測定の分野での頻繁に用いられている懸濁、希釈、乾燥、分 散である。 3.2.1懸濁、希釈及び乾燥 多くのサイズ測定方法は粉体を直接分析することができない。したがって、粒子サイズ分 布の測定を可能とするために、粉体は適切な溶媒中に懸濁する必要がある。粒子の懸濁は、 粒子の部分的な溶解、粒子の膨潤、あるいは両方に結びつくことがあり、それにより、テスト されるサンプルの最初のサイズ分布を変えてしまうことがある。 さらに、多くのサイズ測定方法の動作範囲は懸濁粒子濃度に制限がある。ほとんどの方法は 工業生産における一般的な濃縮粒子懸濁液に対処することができず、濃度を下げるために 稀釈が必要である。 懸濁と稀釈は、両方とも粉体の凝集状態に影響するであろう。これは、粒子の環境の変化に 非常に敏感な界面エネルギーや表面力によって凝集が支配されるという事実による。 いくつかの測定法は懸濁粒子が必要であり、他の方法は乾燥粒子が必要である。懸濁液滴 を乾かすことは強凝集または弱凝集により構成粒子のサイズ変化に結びつく場合がある。直 接構成する粒子のサイズを測定しない方法については、測定された粒子径が元のサンプル とは異なることを意味する。 3.2.2分散 粉体状態では、粉状ナノ物質はすべて強凝集体か弱凝集体である。単体のナノ粒子は単に 安定した懸濁液中か、非常に低濃縮のエアゾール中に存在し、粉体中ではない。 ほとんどの粒子サイズ測定法はサンプル中の粒子の外形サイズを測定し、粒子が強凝集体 か弱凝集体あるいは単一の構成粒子かどうかに関係なく、粒子の内部構造を無視する。** ** 例外はX線回折およびある程度透過電子顕微鏡法である。4章参照。 定義が構成粒子のサイズ決定を要求しているので、ほとんどの測定法は強凝集体か弱凝集 体を測定に先立試料調製工程で構成粒子へ分解されることが必要である。 弱凝集体をより小さな粒子へ分解する過程は分散と呼ばれる。分散粒子が再凝集するのを 130 防ぐために、分散工程は、一般的に安定化懸濁溶媒の中で行われる。分散工程はエネルギ ー入力が必要であり、最も単純な場合は懸濁液を振とうすることで行う。概して言えば、懸濁 液により高いエネルギーインプットを行うと、より多くの凝集体が分解するが、この例外も報告 されている。現在、測定試料準備ステップで凝集粒子を分解する、最も一般的な方法は、粒 子懸濁液への超音波の適用である。弱凝集体を分解するために必要とされる超音波(強度、 持続)の量は、他の機器パラメータと同様に問題の粒子のタイプおよび懸濁する媒体にも依 存する。あるいは、凝集が存在する化学環境(pH、分散剤などの濃度)の変更によって分散を 達成することができる。 結論:試料調製ステップは多くの場合サイズ測定に適している粒子の物理的状態を得るため に必要であるだけでなく、間違った結論を導く人為的形成物(アーティファクト)をつくる可能性 を持っている。したがって、これらのステップの注意深いコントロールは信頼できる結果を保証 するのに必要である。ほとんどのサイズ測定法は、弱凝集体をその構成粒子へ分解する分 散工程を必要とする。強凝集体は分解することができず、ほとんどのサイズ測定法は1つの 大きな粒子としてそれを数える。 3.3定量化 4章に詳細に示すように、サイズ測定プロセスの定量化工程は様々なアプローチによって実 現することができる。サンプルが、含んでいる粒子のサイズおよび数と関係のある信号を出 す場合、定量化が可能となる。この節では、定量化過程に関連した主な総括的な問題を記述 し、また、これによって一般的に計数法、集合体法および分級法がどのような影響を受けるか を概説する。 3.3.1異なる基準で測られた粒子サイズ分布 定義は、一次/構成粒子の粒子数に基づいた粒子サイズ分布がナノ材料を定義する基本で あることを明示する。*これは、測定法は個数サイズ分布を決定する必要があることを意味す る。 * 定義に関して、この報告書は正確な用語である「粒子個数に基づいた粒子サイズ分布」の短縮した 用語として「個数サイズ分布」を用いた。 各測定粒子の個別の信号を作成する計数法は直接個数サイズ分布を作ることができる。一 方、集合体法は、サンプリングされた体積中のすべての粒子から生じる集合的な信号を検知 し分析する。そのようなデータから推定されたサイズ分布は、分析アルゴリズムの、明確に定 義されていない数学的な問題で構成されている解析ステップに依存する。集合体法によって も計数法によっても得られた分布は、必ずしも希望のサイズ分布ではないが、サイズと関係 する特性の分布ではあろう。これは情報量の点から利点かもしれないが、それは不利な点も ある。例えば、個々の粒子からの信号は、粒子サイズに応じて強く変わるであろう。典型的に は、全粒子の中で小さな粒子によって生ずる信号の強度の部分は、より大きな粒子からの貢 献と比較して、はるかに小さいか、無視できさえするだろう。この問題は、少なくともサンプル の特定サイズの粒子群に対応する信号を集める分級法によって一部解決される。分級法は、 131 単分散の粒子群の信号強度とサイズの関係は比較的よく理解されるので、測定された結果 の解釈を助ける。この関係は、粒子および分散する溶媒の物理的性質(密度または屈折率の ような)に依存するであろう。対応する材料データが利用可能な場合、分級法は必要な数サイ ズ分布を作ることができる。 しかしながら、上記で言及した理由(密度または屈折率のような材料データの欠如、あるいは 測定された信号への小さな粒子の無視される影響、形状効果、等)で、生の信号の体積また は個数の粒子サイズ分布への転換は誤差が生ずる。この理由で、粒子サイズ分布測定の定 量的結果はしばしば「重み付け強度」サイズ分布と表現される。*それは「生の」信号の直接 型表現形式で、粒子に関しては最低限の仮定を用いるものである。 * この報告書では、もし他に指定がなければ、用語の「重み付け強度」は光散乱強度によって重み付け ることを指す。 個数分布以外の分布で材料の定義への該当性を判断することはできない。したがって、異な る種類のサイズ分布を個数分布に転換する方法を開発したくなる。現在、これは、完全な球 形粒子、あるいはそうでなければ単純な幾何学的で良く分かっている形状、および正確にそ れぞれのタイプの量の分布を検知する理想的な測定によってのみ可能である。他のすべて の場合に、変換は扱いにくいものであり、サイズ分布を広くし、変換によって作られる誤差を 拡大する。 関連する測定法および特定のサイズ分布によっては、同じ大きさで異なる粒子内の、および その粒子間の均一の密度も必要であろう。そうであるとして、図6は説明の目的でサイズ分布 の形がサイズ分布に依存して、どのように変わるかを示す。個数分布では、各(サイズの)粒 子は同等に数えられ、一方、体積および質量に基づいた分布では、大きな粒子はより大きな 重みを持つ。図6の例では、生信号は粒子の体積に比例し、それは粒子径の3乗に比例する。 他の方法は、粒子径の6乗に比例する散乱光の強度によって重み付けられた分布を作る。こ のことは、図6に示されるように、同じ材料の個数-、質量-、信号強度-、基準の分布は著しく 異なることを意味する。 したがって、測定法候補の測定可能範囲が粒子個数割合の点から、強く粒子質量割合に依 存すると考えられる:粒子サイズ分布で、1つまたはそれ以上の範囲の質量が、十分に大きく なければ、この範囲の粒子は検知されずカウントされない。 図6 同じ密度の完全に球の半径1の小球5個、半径2の中位球5個、半径4の大球3個 で構成される粒子群 a)のサイズ分布ヒストグラム: b)数基準 c) 体積又は質量基準 c) 信号強度基準 132 3.3.2方法に依存する相当径(equivalent diameter) ナノスケールの粒子径測定に関する多くの事柄はマクロサイズ粒子の測定と変わらない。サ イズ測定の方法は異なっていても、粒子径の定義と測定に関する総括的な問題はナノ粒子 についても同様に細分化される。より大きな粒子のために作られたいくつかの概念は、ナノス ケールでの測定に直ちに適用することができる。重大な概念のうちの1つは「相当径」である (より詳細および他の総括的な 粒子サイズ測定に関しては [Merkus H.G.,’Particle size measurements: Fundamentals, practice, quality, Springer, Berlin, 2009]を参照)。 相当径: ある特定の測定可能な挙動の側面が、対象粒子と同じ特性を有している球の直径。 図7は、相当径の概念を示す。図7aでは、粒子サイズは、粒子の2D電子像(つまり粒子の投 影面積か影)から測定される。相当面積径は、粒子の投影面積と同じ面積を持つ円の直径と なる。 図7bでは、粒子サイズはその回転速度から決定される。等価な粒子サイズは、回転モーメン トあるいは回転半径が同じ粒子のサイズである。 図7cでは、粒子サイズは、ある溶媒中の粒子の沈降速度から推定される。等価な粒子サイズ は同じ速度で沈降する球体の直径である。 図7は、同じ粒子を測定しても、粒子サイズ分析法が違うと異なる等価粒子サイズを与えるこ とを示す。 図7 相当径の概念の説明図 a)電子線投影面積と同じ円の直径 b)同じ回転慣性を有する球の直径 c)重力 F によって沈降する粒子と同じ速度で沈降する球の直径 注意:粒子の挙動と性質の異なる側面に相当するため、3つの径は異なっている。 133 電子顕微鏡(EM)(特に、透過型電子顕微鏡(TEM))が最も正確な粒子サイズの値を提供すると 示唆されてきた。しかしながら、これは、投影面積等価サイズが「真のサイズ」であるという仮 定に依存する。残念ながら、このサイズは2D イメージから推定され、三次元の粒子の厚さに 依存しない。別の欠点は、それが次の共通的理解と一致しないということである:高度に枝分 かれした粒子のエリア等価サイズは非常に小さいかもしれないが、それは広く伸びて大きな 外部次元に達している 定義の履行に関連する全ての測定法は、何らかの相当直径に導くということに留意しておくこ とが重要である。これは特異な状況ではなく、等価や見かけの特性値は計測学において普通 のことである。計測学の用語では、粒子サイズ測定は方法で定義される結果を出す、となる。 したがって、結果を意味のあるものにするために報告された粒子サイズとともに適用した測定 法(重要な方法パラメーターおよび評価アルゴリズムを含む)を述べなければならない。この 推奨案はナノ材料に特有ではなく、前に引用した ISO で作成される粒子サイズ定義の中で既 に示唆したように、すべての粒子サイズ測定に当てはまる(2.3参照)。 興味深いことに、粒子挙動の特定の側面については、1つの相当直径は他の相当直径より適 切なことがある。したがって、測定法はそれが使える状態にあるからとか使いやすいからとの 理由だけで選択されるべきではなく、その測定値をどのように利用するかに留意すべきであ る。 結論:粒子径は方法によって定義される値であり、事実上の粒子と同様の挙動を持つ仮想の 球体の見かけあるいは相当径と呼ぶ。同じ粒子について得られる異なる相当径は発散する であろう。 3.4粒子サイズ測定における品質保証と確かさ 前の3.1〜3.3節では、定義の適用に関連して、粒子サイズの信頼性および比較可能性に関 する主な一般的な点についてスポットを当てて記した。測定法の性能特性および信頼性の体 系的調査は、測定法の検証と呼ばれる。測定における計測学的品質保証および信頼性の基 礎について、この節で簡潔に述べる。 3.4.1方法の検証 測定手順のステップのうちのいずれかの意図的なわずかの変更は、大なり小なり異なる結果 を導くであろう。実際、サンプルが同じで、意図的に測定手順を変えずに測定を繰り返しても、 通常は全く同じ結果は得られない。さらに、重要なものが見落とされた結果、測定が間違った 結果あるいはバイアスがかけられた結果をもたらすこともある。重要なバイアスが無いことを 実証し、かつ定量的に結果の変動を評価するために、測定法は検証されている必要がある。 測定法の検証は、「特定の要求事項は目的とする用途に適切である」ことを確認する過程を 指し、測定法の性能を確立することである。目的とする用途に特有な事項を明確にする必要 134 性を認識することは重要である。定義の履行について、この目的とする用途は非常に特定的 であって、方法検証の中で出てくる疑問は単純である:測定法は、粉体中か懸濁液中の構成 粒子の少なくとも1次元が1nmから100nmまでの範囲の粒子の個数割合をどれくらいよく決定 することができるか。 通常の検証パラメーターは次のとおりである: ・正確性:同一サンプル結果のばらつきの測定 ・真実性:多くの反復測定の平均が真の価とどれほど異なるかの測定。真の価と平均の間の 差はしばしばバイアスと呼ばれる ・健全性:結果におよぼす測定条件の管理された変化の影響の測定 ・測定範囲:測定法が信頼できる測定値の範囲。定義の適用に関して、測定範囲には2つの 側面がある;一つは測定可能なサイズ(1nm〜100nm)であり、もう一つは測定可能な割合(個 数分布中の50%) ・検出限界:測定法が検知できる最小信号 ・定量化限界:信頼性をもって定量化ができる最小信号 現在、定義の履行において使用するためには、4章の中で言及する利用可能な方法のどれも 検証されていない。この測定法検証は緊急性がある。特に、ほとんどの方法で、規制面から の圧力を受けて検証が行われたエアロゾル測定に用いられる方法と同様に、特に粒子サイ ズ範囲の下限近傍が問題となる測定範囲の限界を明らかにすることが期待される。 結論:系統的で文書化された測定法の確証は、その方法が信頼できて適切であることを保証 し実証するために、必要な活動である。 3.4.2測定の不確かさ 測定法検証中に収集した情報により、特定の測定において測定の不確実性を評価すること は可能である。この測定の不確実性は、得られた測定結果の信頼性を定量化する。例えば、 測定の不確実性は、真の値が、明確な(通常高い)確率をもって、測定値からどの範囲に有る かを示す: (30 ± 5) % の粒子が1 nm and 100 nm の範囲にある。 この場合、測定値(30%)には5%の測定不確実性がある。したがって、測定者は1nm と100nm の 間のサイズを持つ粒子は25%から35%の間あると言うことができる。この記述は、ある確実性 (「信頼水準」)が有るとしており、通常95%に設定される。これは、測定者が100の測定を行う時、 結果の5%だけが間違っているだろうということを意味する。 結論:測定不確実性は、確証された測定法の結果の信頼性の定量的表現である。 3.4.3適合性評価 図8に示すように、測定不確実性は、材料か製品が契約上決められた仕様あるいは法律上 要求される制限値に適合しているかを評価するのに重要である。図8中cおよびdで示すよう 135 に、測定結果が法律の規制値を外れているか、あるいはその規制値に入っているか、明白に 決定することができない場合がある。この場合、規制者は、適合か違反を決めなければなら ない。図8では、ケースaだけが規制値以下のレベルであることを示し、一方、ケースbだけが 規制値を超えたレベルであることを示す。測定不確実性が大きいほど、測定値が規定値以上 に、あるいは規定値以下に多くないと、適合または不適合を実証することができない。例えば、 「粒子の(54 ± 3)%は1nmと100nmの間にある」という結果は定義によって製品がナノ物質にな る。しかし「(53±8)%」の結果はナノ物質ではない。これは、規制値レベルについては、さらに 最大の受容可能な測定不確実性レベルを設定することが推奨されることになる。 図8 測定の不確かさと適合性試験 a; 法律の制限値以下 b; 法律の制限値より上 c;d; 測定値は法律の制限値の上下にある確率がある 結論:測定不確実性の評価は、定義への該当/非該当の評価の前提条件である。測定不確 実性の記述のない測定結果は、法的な文脈の中で確かに無意味である。 3.4.4標準化と参照方法の役割 標準化された方法は、粒子サイズのような方法によって定義されたパラメーターにとって不可 欠である。パラメーター「粒子サイズ」は方法によって定義され、また異なる方法は通常異な る結果をもたらす。標準化は、誰でも同じやり方で同じ測定法を使用し従って同じ物理的特性 を測定することを保証する。同じサンプルで同じ標準化された方法によって得られた結果は、 それぞれの測定の不確実性内におさまるはずである。このように、標準化は、測定結果の比 較性を保証する。 「一般に同意された方法」は、標準化されていない間、ある測定問題のための通常のアプロ ーチとして出現した方法である。そのような公式か非公式に同意は異なる方法によって得ら れた異なる結果の問題をある程度まで解決するが、これらの方法は標準化された方法のよう に信頼度に関してテストされていないことが多い。これは、一般に同意された方法の信頼度 が多くの場合はっきりせず、標準化された方法より明白に不利であることを意味する。 「参照方法」は、ルーティンな方法で通常得られるより高い精度があるか、あるいは法的な条 文で参照と記載された方法である。したがって、そのような方法からの結果は他の方法の参 136 照として機能する。しかしながら、定義該当性のためのパラメーターが方法で定義されるの で、参照方法は定義上不可能である:ある方法を「参照」として定義すると、方法間の測定結 果の比較を改善しないし、他の方法の使用を除外することになる。 結論:粒子サイズが測定法で定義される特性なので、サイズ測定方法の標準化は異なる研究 室間で比較可能な値を得るために必要である。 137 4. 特定の測定法の評価(全訳) ナノ粒子の特性の評価方法に関するいくつかの科学的レビューが、過去数年においても公表 されている(例えば[22]を参照)。それらとは異なり、この報告書の次のセクションでは、1nmか ら100nmの範囲中の粒子のサイズを決定するために現在有効な測定法が定義の履行 (implementation)に適しているかどうかという、極めて特定された問いかけにこたえるもので ある。各方法について、測定原理を短く記述し、その後、それが定義の測定必要条件を原則 として満たすことができるかどうか、どのナノ材料に適しているか、信頼性に関する主な問題 は何か、標準が公表されているかどうか、その方法の有効性およびコスト、および技術の一 層の開発の見込みに関する議論を行う。 4.1 電子顕微鏡 (EM) 4.1.1. 測定原理 電子顕微鏡(EM)は、肉眼で、あるいは光学顕微鏡でさえ見えない構造を視覚化するために 電子線を使用する。走査電子顕微鏡(SEM)では、画像は試料表面から放出される電子に基 づいて構築される。透過電子顕微鏡(TEM)では、画像は試料(の薄い部分)を通り抜ける電子 に基づいて構築される。SEM、TEM共に、それらの基本形式の中で、3D粒子の2D投影図を与 える。そのような画像から、多くの粒子サイズの値を得ることが出来、概して粒子像がその中 にぴたりと入る最も小さな円の直径と、粒子像の中にぴたりと入る最も小さな円の直径の間 のどこかの値である。多くの場合使用される中間のサイズ・パラメーターの一例は、粒子の2D 画像と同面積を持つ円の直径である(ISO 9276シリーズの詳細[23]についてのドキュメントを 参照)。 4.1.2. 定義に従ったナノ粒子の測定が可能か? EMはカウンティング法である: それは、得られた画像上の分析のために選ばれた粒子の 各々に対するサイズ値を与える。従って、EMは必要な個数に基づいたサイズ分布を構築す るために使用することができる。TEMは、最も小さなナノ粒子の外部寸法を決定するために必 要な分解能を持つ。SEMは、数nm以上の粒子に制限される。EMは、それが粒子の集まりの 構造を明らかにすることができるので、強凝集体及び弱凝集体の問題に対して幾分か対処 することができる。しかしながら、強凝集体または弱凝集体の内部の構成粒子のサイズの測 定は、広範囲なオペレーターの介入および得られた画像に対する解釈に必ず依存する(図1を 参照)。そのため、信頼できる粒子サイズ分布を構築するために十分な数の粒子を得ることが 必要な自動画像解析を使用することができない。 4.1.3. どんなタイプのナノ材料を測定することができるか? ほとんどのEMは、高真空中で行なわれるため、乾燥粉末に対して測定が行われる。これらの 条件下では、EMの使用は、高真空と電子線の共同作用によって影響を受けない粒子の分析 138 に制限される。これは、有機粒子あるいは有機表面コーティングされた粒子にとっては問題と なり得る。高度なEM技術(例えば、クライオ-TEMおよび 環境SEM)は、これらの適用に対して 有効である。理論上、EMは、それが、一粒子一粒子と、個々の粒子のサイズを評価するので、 サイズ分布はそれから構築することができるため、多分散に対処することができる。しかしな がら、EMの帯域幅が制限されることは注目される: 広いサイズ分布を持った材料中のより大 きな粒子およびより小さな粒子の両方を捉えることができる画像を得ることは難しい。 サイズに加えて、EMは、それらの投影の形によって粒子の形態の評価を可能にする。しかし ながら、平らな粒子(板状片、フレーク)の分析は、それらがサンプル基板かグリッド上で優先 的に配列するので、問題かもしれない: 粒子の最も小さな軸が隠される確率は大きく、測定さ れたサイズは定義に対する適切なサイズの過大評価となる。 画像コントラストの理由から、EMはより重い原子を含んでいる粒子には最も適している。 EMは、低密度の有機ナノ粒子を検出したり、無機の核と有機の外殻で作られている粒子を測 定する際に、問題がある。後者の場合、EMは単に金属の核を測定するかもしれないことから、 粒子がナノスケールの状態にあるいう不正確な結論を下すかもしれない。 よく分散した材料については、EM測定過程は自動化することができる。そのような場合以外 のすべての材料については、EMは遅い(slow)技術である。強凝集体材料を構成する粒子の 分析が可能であるとしても、オペレーターの介入はこれらの材料に対して特に必要である(さ らにセクション2.2.2を参照)。 4.1.4. 信頼性の問題 ナノ材料のサイズを測定するための技術としてEMの十分な検証を行なった研究所はほとん どない。行ったものは、ほぼ球状で、比較的大きな粒子に対する検証に制限されている。そ の結果、EMで得られたほとんどの粒子サイズ値は、信頼できる測定不確実性なしで報告され ている。ナノ材料のサイズ分析のためのEMの検証における主な点は、下記である: ロバストネス:、ナノ材料の粒径分析のためのEMはある程度ロバストな方法である。また、装 置パラメーター(加速電圧、倍率など)を変えた効果を検討することは可能である。しかしなが ら、強凝集体材料に関するEMの画像解析の段階でオペレーターに依存し易い。 精度: 試料調製が詳細なプロトコルに従って行なわれる場合、EM測定の粒子サイズ分布の 中央値は、短時間で一つの研究所において繰り返しが可能であるために必要な精度を持っ ている。 再現性: EMは、大きなオペレーター・コミュニティーを持つ、広く用いられている技術である。し かしながら、研究所間の再現性は、球状の単分散のナノ材料にのみ容認できることが示され ている[24]。より多分散系か、より非球状の材料に対する再現性は、試料調製方法および画 像から決定されるサイズ・パラメーターの非常に詳細な記述を必要とするであろう。 選択性: 高度に多分散な材料については、全測定過程(試料調製から画像上の分析される 粒子の検知および選択まで)を考えれば、より小さな粒子およびより大きな粒子は測定結果に 139 寄与する等しい機会を得ていそうもない。例えば、大きな弱凝集体はEMグリッドからはずれる 傾向があるので、グリッドに附着し残留する粒子は試験試料に対して代表的ではない[25]。 正確性: ナノ材料の粒子径分析のための他のすべての方法に関してと同様に、参照材料の 欠如によりEM方法の正確性を判断することが難しい。上述された検証テーマの中で、特に、 選択性問題は正確性に影響するかもしれない。オペレーター依存という偏りの導入を回避す るために、規則正しい無作為標本抽出のルーチンは測定される粒子を選択するために適用 されるべきである。そのような方法なしでは、測定の結果は多少主観的である。或るオペレー ターが小さな粒子に注目し、こうして不正確にナノ材料を「作成」するかもしれない一方で、別 のオペレーターがより大きな粒子に注目し、それによりナノ材料を「非ナノ」としてしまうかもし れないので、これは重要かもしれない。 4.1.5. 標準はあるか? 電子顕微鏡の基本操作は十分に記述されている。ISO/TC 202は、画像倍率のキャリブレー ションに関するISO 29301:2010を開発した[26]。ISO/TC 24/SC 4は、既述されていたISO 9276[23] 標準シリーズを発表し、ISO 13322-1:2004[10]と同様に粒子のサイズ特徴について 記述し、静止画像分析を通じてこれらのサイズ特徴について如何に最もよく値を得るかを記 述した。しかしながら、EMによる信頼できる粒度分析のためのナノ材料の試料調製に関する 特殊性について記述する標準はない。 4.1.6. 参照材料は利用可能か? ナノメートル範囲にある保証されたEMに基づいた粒径の中央値あるいは粒度分布を持つ参 照ナノ材料はない。EMに基づいたモード径あるいは平均径がそれによって証明される(例え ば、ERMFD100、欧州標準物質(ERM®)シリーズ[24]のCRM))単分散のほぼ球状の粒子から 成る多くの認証標準物質(CRM)があるだけである。 4.1.7. 受容できるコストで広く利用可能か? SEM装置はTEM装置より広く利用可能で、それらは両方ともこの報告書の中で提示されるほ とんどの他の装置より著しく高価である。TEMについては、基礎的な装置によって達成するこ とができる分散粒子の粒径測定は通常TEMの中核的仕事ではない。したがって、ほとんどの TEM測定は、この仕事のためは複雑になりすぎている装置で行なわれる傾向があり、そのた め高価であるともに操作が複雑になってしまう。信頼できるサイズ分布を構築するために要 求される多数(何百または何千)の粒子を分析することになれば、画像の分析を自動化するこ とができる場合、SEMとTEMの両方ともに、効率的な時間およびコストだけで済む。 4.1.8. 近い将来における技術の一層の開発の見通しはどうか? 140 ハードウェア(SEMおよびTEMの制御)およびソフトウェア(画像解析)の統合は、イメージング、 粒子の検知および分析のオートメーションおよび報告書作成を改善するであろう。 より大きな電荷結合素子(CCD)カメラの開発は、TEMの有効範囲を増加させるであろう。 高真空室において操作するという短所は、電子調査(electron investigation)と両立できるサ ンプルのまわりの低い真空雰囲気の生成を許す顕微鏡の中で解決される。しかしながら、こ れは装置分解能を犠牲にしてのみ達成される。 立体電子顕微鏡か電子断層写真撮影の使用は、2D画像からの3D粒子を判断する問題を解 決することができる。これらの技術の原理は存在するが、それらはまだ大量の粒子に対する ルーチンの測定を行うことはできない。電子断層写真撮影は、さらに体積比表面積(SSA)に 対する値を与えることができる。 4.2 動的光散乱(DLS) 4.2.1. 測定原理 動的光散乱(DLS)は、粒子の流体力学的直径を測定する。これは、粒子がブラウン運動を通 して懸濁液中をどれくらい速く移動するか決める直径である。これを測定するために、DLSは レーザー・ビームを使用する。レーザーは、懸濁液を通過する際にナノ粒子によって散乱され る。粒子のブラウン運動は、平均値のまわりの散乱光の強度の変動を引き起こす。ほとんど のDLS装置では、変動の自己相関関数が時間の関数として記録される。粒子のサイズは、例 えば、粒子の平均拡散係数を算出する指数関数的減衰関数に自己相関関数をフィッティング させることにより得ることができる(キュムラント法)。この拡散係数はストークス-アインシュタイ ンの関係(式)によって粒子の平均直径を計算するために使用することができる。 4.2.2. それは定義に従ってナノ粒子を測定することができるか? DLSは、その標準化された形式では、粒子サイズ分布ではなく、散乱強度で重み付けされた 平均値を与える。さらに、DLS測定のよく知られる難しさは、ごく一部分の大きな粒子が存在 する状態で、結果に対してバイアスが強くかけられるということである。これは、散乱光の強度 がナノ粒子の半径の6乗に反比例するという事実による。したがって、50nmの粒子は5nmの 粒子としての光の量の106倍の量を散乱するであろう。その結果、DLSによって決定された平 均粒径の値はバイアスがかけられる。 DLSは、構成する粒子と強凝集体/弱凝集体を識別しない。それは、これが個々の粒子、/弱 凝集体あるいは強凝集体かどうかにかかわらず、1つの拡散する全体の粒径を与える。 4.2.3. どんなタイプのナノ材料を測定することができるか? DLSは液体の中で行われる。これは、DLSの使用を溶けない粒子の分析に制限する。既知の 屈折率を持つナノ粒子が懸濁した単分散の試料に対処する場合、DLSはうまく働き、これら が十分な濃度(しかし高すぎない)で存在する場合およびそれらが光を効果的に散乱する場合、 141 1nm から500nmの範囲でナノ粒子を測定することができる。流体力学的直径を計算すること ができるためには、媒体の温度および粘度が必要である。さらに、DLSに基づいた粒子サイ ズ分布を与える試みがなされてきた。測定された試料中の多分散状態を説明するために、同 じ特性の単分散のナノ粒子に各々対応する関数の合計を自己相関関数にフィッティングしな ければならない。各関数は、それぞれ特別の粒径範囲からの粒子の測定された信号への寄 与を捉えるために使用される。特定のアルゴリズムが開発されていても、それが方程式より 多くの未知数を含んでいるので、フィティングは不良設定問題ちいう数学的な問題である。フ ィティング処理の結果は、強くアルゴリズムおよびフィティング・パラメーターに依存する。これ らの条件では、DLSは誤解させる結果をもたらすことがある; 例えば、それは、サイズにおい て3次元以下で異なるサイズの粒子(の像)を分解しないであろう。さらに、既知の屈折率で、 散乱強度で重み付けした粒子サイズ分布を球状粒子の場合の要求される数粒子サイズ分布 に変換することだけは可能である。もし強凝集体もしくは弱凝集体がDLS測定に先立ってそ れらの構成する粒子へ分散しなければ、DLSは強凝集体もしくは弱凝集体の構成粒子のサ イズを決定することができない。 4.2.4. 信頼性の問題 DLSは散乱強度で重み付けされた結果を報告する。数で重み付けされた結果への変換は、 試料形状および分散に関する強い仮定を必要とする。それは実試料の中で通常実行できな い。したがって、異なるサイズの粒子が分離される分画(分級)ステップが測定ステップに先行 する場合のみ、DLSは、定義の履行に適切である(セクション4.5を参照)。単分散の材料のこ の限定された中では、DLSキュムラント法は、反復可能で、ロバストで、再現可能であることを 示してきた[24]。 4.2.5.標準はあるか? ISOの標準(ISO 22412:2008[27])は利用可能である。しかし、評価アルゴリズムの詳細な記述 は、キュムラント法に限られており、その結果としてサイズ分布を、平均粒径および多分散イ ンデックスという2つのディスクリプター(記述子)だけに減らしている。 4.2.6. 参照材料は利用可能か? ナノメートル範囲にある保証されたDLSに基づいた粒子サイズの中央値あるいは粒子サイズ 分布を持つ参照ナノ材料はない。DLSのための市販の参照試料は単分散である。いくつかの 保証された材料は利用可能で、例えば共同研究センターの参考試料および測定の研究所 (JRC-IRMM)および米国全米標準・技術研究所(NIST)からのものであるが、保証された値は、 中央値ではなく平均値かモード値である。 4.2.7. それは、受容できるコストで広く利用可能か? 142 いくつかの装置は市場に存在する。これらの装置は使い易く、それほど高価ではない。 4.2.8. 近い将来における技術の一層の開発の見通しはどうか? 装置メーカーは、測定の感度およびロバストネスを改善するために検知スキームに取り組ん でいる。それによって、より低い及びより高い濃度でナノ粒子の測定が恐らく可能となるであ ろう。信頼できる粒子サイズ分布へ粒子集合体の信号を解きほぐすという根本問題のための 解決策は、試料調製の分画(分級)ステップを加えることで解決されると見られている(4.5も参 照)。 4.3 液相遠心沈降(CLS) 4.3.1. 測定原理 液相遠心沈降(CLS)は、大きな粒子が同じ密度の小さな粒子より速く沈降するという単純な原 理に基づく。微粒子状ナノ材料は非常に小さく、粒子は既知で、一様でなければならないが、 表面被覆された粒子による、および液体が粒子に浸透する多孔性の粒子および強凝集体ま たは弱凝集体のような不規則形状粒子による問題を持っている。もし強凝集体または弱凝集 体がCLS測定に先立ってそれらの構成する粒子へ分散しなければ、CLSは強凝集体または 弱凝集体を構成する粒子のサイズを決定することができない。 4.3.2. それは定義に従ってナノ粒子を測定することができるか? CLSは、通常、個数サイズ分布は得られず、また、粒子の最小外部寸法を測定しない。した がって、それは単分散のほぼ球状の粒子を除いて、定義の履行のためには限定的にしか役 に立たないように見える。しかしながら、この方法は、アンサンブル(集合体)法より重要な利 点を持っている: それは、検出/定量ステップに先立って多分散系の材料中の異なる粒径の 分画分を分離する。これは、散乱強度基準のサイズ分布、例えばDLS、よりも個数基準のサ イズ分布により似ている、得られた強度-吸光基準のサイズ分布を作る。 4.3.3. どんなタイプのナノ材料を測定することができるか? CLS は、液体の中で行なわれる。このため、CLS の使用は溶けない粒子の分析に制限され る。 理論上、沈降プロセスは異なるサイズの粒子の分別に当然帰着するので、CLS は多分散に 対処することができる。しかしながら、CLS の測定可能域は制限されている: 広いサイズ分布 を持つ材料中のより大きなおよびより小さな粒子の両方に適している回転速度を選択するこ とは難しい。球状か等軸形状からの粒子形状の逸脱は大きな問題である: 測定された直径 は、球形の仮定に基づく。非球状の粒子は、回転液体の中で優先的に整列してしまうので、 定義に対してサイズを過大もしくは過小評価する。 CLS に対しては、粒子は液体とは異なる(実際にすべての装置で: より高い)密度であることが 143 必要である。これは低密度の有機的な粒子にとっては問題となることがある。さらに、粒子の 密度は分かっていて一定でなければならない。しかし、それは、表面被覆した粒子、および、 液体が粒子に浸透する多孔性の粒子や強凝集体、弱凝集体のような不規則形状粒子にとっ て問題となる。 もし、強凝集体及び弱凝集体が CLS 測定に先立ってそれらを構成する粒子へ分散しなけれ ば、CLS は強凝集体及び弱凝集体を構成する粒子のサイズを決定することができない。 4.3.4. 信頼性の問題 ナノ材料のサイズを測定するために技術としてCLSの十分な検証を行なった研究所はほとん どない。行ったものは、検証を球状粒子に制限した[28]。その結果、何度も、CLSで得られた 粒子サイズ値は、信頼できる測定不確実性なしで報告される。ナノ材料の粒子サイズ分析の ためのCLSの検証における主な点は、下記である: ロバストネス: CLSは、CLSが適切であり(球状で、既知の、一定の密度)、また、粒子濃度は同 時に十分に高く(粒子の検出)そして十分に低い(粒子の一団の集合的な沈降の回避)それら のナノ材料に対してロバストな方法である。これらの条件からの逸脱(例えば、異なる構成の 粒子を含んでいる試料、およびそれ故に異なる密度)は、直接結果の信頼度に影響する。 精度: 粒子サイズ布の中央値のCLS測定は、(短期間にわたる一つの研究所で)十分反復可 能であるために必要な精度を持っている。 再現性: CLSは広く用いられている技術で、いくつかの形式が存在する。最も一般的なタイプ は、ディスク遠心分離(あるいはライン・スタート法)および分析的超遠心分離(あるいは均質沈 降)である。これまでのところ、研究所間の再現性は、単に同じタイプのCLS法の中でおよび 球状の単分散のナノ材料に対してのみで実証された[26、28]。 正確性: ナノ材料の粒子サイズ分析のための他のすべての方法でのように、非球状の粒子 を測定する場合CLS法の正確性を判断するのは難しい。さらに、粒子密度に関する不確実性 は正確性に影響するかもしれない。 4.3.5. 標準はあるか? CLS法の基本原理はISO 13318-1:2001[29]に記述されている。異なる利用可能なCLS法に関 する詳細はISO 13318-2:2007[30] およびISO 13318-3:2004[31]に記述されている。 4.3.6. 参照材料は利用可能か? ナノメートル範囲にある保証されたCLSに基づいた粒子サイズの中央値あるいは粒子サイズ 分布を持つ参照ナノ材料はない。EMに基づいた平均径が保証されている単分散の、ほぼ球 状の粒子から成る多くの認証標準物質(CRM)があるだけである。 144 4.3.7. それは、受容できるコストで広く利用可能か? CLSの操作は、どちらかといえば簡単である。装置は利用可能で、それらのコストは試料調製 時間同様に受容可能である。しかしながら、沈降時間は軽くて小さな粒子では非常に長いと 言えるであろう。 4.3.8. 近い将来における技術の一層の開発の見通しはどうか? CLS方法は、粒子の最も小さな外部寸法を測定することができる方法へ発展することはなさ そうである。しかしながら、回転速度の増加とともに、検出システムおよび温度調節が改善さ れることで、CLSは、より広いサイズおよび濃度域中のはっきりしたストークス直径の方法が 定義された評価を提供するであろう。 4.4 小角X線散乱(SAXS) 4.4.1. 測定原理 SAXSは、粒子表面でのX線の散乱に基づいた粒子のサイズを測定する。完全には均質でな い媒体を通り抜ける光は、直線から逸れることを強いられる。散乱角、つまり直線からの逸脱 の程度、は、光の波長およびそれが散乱される粒子のサイズに依存する。およそ0.1nmから 1nmの間の波長を持つX線は、1nmから100nmの間の範囲の粒子によって散乱される。散乱 放射光の強度は散乱角に依存して測定される。この強度パターンは、粒子の形状はもちろん 粒子サイズ分布の情報も与えることができる。粒子のサイズおよび形状は、測定された散乱 曲線(散乱強度対散乱角)に合わせることによって得られる。結果は、等価な散乱特性の球体、 円柱あるいは円盤の半径として表現される。 4.4.2. 定義に従ったナノ粒子の測定が可能か? 生のSAXSデータからの粒度分布を計算するための異なるアルゴリズムが記述されてきた。 比較的単分散の試料については、振動(振幅)は散乱曲線の中で観察される。周期性は、直 接平均粒子サイズと関係する。曲線に合わせることで、数、体積及び強度で重み付けられた 平均直径を得ることができる。ギニエの分析のような他のアルゴリズムは、最初に、散乱強度 基準の分布が得られ、それは大きな粒子を過剰に表わす。多くの単純化した仮定をすること によって、データは、粒子の体積基準の分布および続いて粒子数基準の分布に変換すること ができるが、結果は信頼度の減少という犠牲をはらう。SAXSによる散乱強度基準の平均直 径は多くの場合粒子数基準の平均直径より1.5あるいは2倍大きいため、100nm未満の平均 直径は100nmより小さい粒子数基準の中位径であることを明白に示す。さらに、体積当たりの SSAの計算は原理に可能であるが、単分散の試料に対してのみである。 4.4.3. どんなタイプのナノ材料を測定することができるか? SAXSは、相が異なる密度を持つ任意の二相系に適用することができる[13]。そのような系で 145 は、SAXSはより小さな体積分率をもつ相を測定する。これは、懸濁液では、それが粒子のサ イズを測定するだろうということを意味する。粒子-粒子の相互作用を回避するために体積分 率は数%未満でなければならないので、SAXSは懸濁液に適用可能であるが、粉体には可能 でない。これは、SAXSの使用を溶けない粒子の分析に制限する。 理論上、2つの相は電子密度において異ならなければならないが、これはほとんどの場合異 なる質量密度を持つ事と同様である。 基礎的な形状(球体、円盤あるいは円柱)の粒子のサイズおよびサイズ分布は決定すること ができるが、比較的単分散のサンプル(平均粒度の20%より小さいサイズ分布幅)に対しての みにである。より広い分布への適合には、サイズ分布の形状についての予備的知識を必要と する。粒子自体は均一の密度を有していなければならない。SAXSは、コア・シェル粒子に対 して正確な外部寸法を供給することができるが、より高い不確実性を持つ場合でのみである。 SAXSは、弱凝集体、強凝集体および一次粒子を識別しないため、従って、一次粒子のサイ ズを得るためには、弱凝集体または強凝集体を解砕する必要がある。 4.4.4. 信頼性の問題 SAXSは、単分散でかなり球状の粒子に対して非常に再現性があることが示されてきた[24]。 多形態でかつまたは多分散系の試料の測定は、複雑であり、現在アルゴリズムに依存し、そ の結果同じサンプルに対して装置間で著しい違いを生じる。ISO/TS 13762[32](現在取り下げ られている)は、再現性と正確さに対する表示値を備えた表を持っていた。 4.4.5. 標準はあるか? 取り下げられたISO/TS 13762:2001[32]は、十分な標準へ転換するために、より重要な修正 が掛けられている。より詳細な形状解析および多分散系の試料に対する方法の開発が十分 に進められていないので、この標準は基礎的な形状(球体、円柱、薄片)および単分散の試料 のみを扱うであろう。 4.4.6. 参照材料は利用可能か? 例えばJRC-IRMMおよびNISTから利用可能な、ナノメーター範囲にある保証されたSAXSに 基づいた平均粒子径を持つ参照ナノ材料がある。SAXSのための市販の参照材料は単分散 である。すべての集合体(ensemble)法と同様に、保証値は平均もしくはモード値ではなく、む しろ中央値である。 4.4.7. それは、受容できるコストで広く利用可能か? ルーチン装置のいくつかの製造者は存在する。これらの装置は使用が簡単で、速く結果を出 す。結果を改善するために、SAXSも、明らかにはるかに高いコストで、ある型の粒子加速器 のシンクロトロン放射を使用して適用されることができる。SAXS測定は速くなり得る(結果は数 146 分の内に知られる)。また、いくつかの装置は完全に自動化され、それにより、スタッフの時間 をほとんど必要としない。 4.4.8. 近い将来における技術の一層の開発の見通しはどうか? 強度パターンのモデリングにおける改良は、より不規則な形状でより広い分布の材料のサイ ズ分布の計算を可能にする。しかし、粒子の形状あるいは分布のいずれかについてのある 先験的な情報は、計算を成功させるためには、必要であり続けるであろう。 4.5 フィールド・フロー分離(流動場分離;FFF) 4.5.1. 測定原理 流動場分離(FFF)は分画(分級)技術である: それは、流体力学のサイズに基づいて粒子を分 離する。試料(粒子の懸濁液)はポンプで汲み上げられ層流(それは中心にある流体が流路の 縁にある流体より速く移動することを意味する)状態で狭い流路を通過する。「フィールド」は、 この流れに垂直に適用される。それはほとんどの場合もう一つの流れであるが、また、このフ ィールドは、粒子を流路の縁に押す電場や重力場などで、そこでは粒子はより遅く移動する。 ブラウン運動のために、より小さな粒子は、適用された力の場に逆らって、流路の中心(そこ では、粒子はより速く移動する)に拡散していく。これらの2つの効果は、大きい粒子と小さな 粒子の分離に帰着する。 FFFは、粒子の流体力学的直径に従って分離する。電場が適用される場合、粒子の電荷はさ らに役割を果たす。保持時間を流体力学的直径に変換することは可能であるが、粒子サイズ 標準を使ったキャリブレーションもしくは媒体、粒子の物理的性質およびセルの寸法を使用し た理論計算のいずれかが必要である。 4.5.2. 定義に従ったナノ粒子の測定が可能か? サイズ情報は、粒子サイズ標準を用いて装置をキャリブレートすることにより得ることができる が、それは、粒子に校正標準と同じ特性がある場合にのみ信頼できる。校正標準と測定され た粒子の間の違いに起因するサイズの不確実性とは別に、粒子量の定量は、使用される検 知器と種類とそのキャリブレーションに依存する。さらにここで、光吸収検知器の屈折率は測 定されるのと同じ粒子でキャリブレートされなければならないであろうが、それは実際上不可 能である。 したがって、FFFは実際には寸法測定技術ではなく分離法である。最もしばしば、FFFは、例え ば、分離された試料に対してオン・ライン寸法測定を行なう検知器システムにつながれる(例 えば[33]を参照)。多くの検知器が存在し、光吸収と屈折率を、また、静的および動的光散乱 を利用する。FFFは、狭い分布という結果となる単分散粒子を要求する方法、例えばDLS、に 連結されることで、特に価値がある。また、異なる分離分は、集められ、オフ・ラインで、例え ばEMによって、分析することができる。 147 4.5.3. どんなタイプのナノ材料を測定可能か? FFFは液体の中で行なわれる。これは、FFFの使用を溶けない粒子の分析に制限する。分離 手法として、多分散に対処するのに対して申し分なく適すが、一次粒子、強凝集体及び弱凝 集体を識別しない。一次粒子についての情報を得るために、これらを解砕する必要がある。 また、技術は低密度の材料を分離することができるが、サイズで分離された試料中の異なる 分離分を測定することができるかどうかは、FFFに結合された検出技術に左右される。さらに、 検出方法は、非球状の粒子が正確に測定されることができるかどうか決定する; FFFステップ は、流体力学的分離プロセスがサイズに基づくだけでなく形状に基づいてもいるこのプロセス の中で助けとなることができる。 4.5.4. それはどれくらい信頼できるか? FFFはむしろ複合システムであり、粒子とキャリアー液体および水路薄膜の間の相互作用を 考慮しなければならない。FFFのための方法を開発するために、かなりの経験が必要とされる。 さらに、粒子は分析の水路のより低い水路壁に蓄積され、1回の試験で分析することができる 試料の数を制限する。 FFFは、大きな粒子によって妨害され易い: それらのサイズのために、これらは、流路内を遠 く突出して行き、層流の中で回転し始めるかもしれず、そのために、小さな粒子と同様かある いはさらに速くへ輸送される。大きな粒子を除去する注意深い試料調製は、非常に大きな粒 子を小さな粒子と混同することを回避するために必要である。 この方法には、非常に反復可能な結果(直径に関する反復標準偏差<0.2nm[34])を提供する 可能性がある。もし別のサイズ測定装置なしで使用されれば、主な問題はFFFのキャリブレー ションである。それは、片寄らない結果を導くために同じ種類の粒子を必要とする。 4.5.5. 標準は利用あるか? 現在、FFFのための標準は利用可能でない。 4.5.6. 参照材料は利用可能か? 特定の保証されたFFFサイズ値で利用可能なCRMはない。しかしながら、他のCRMはFFFキ ャリブレーションに対して使用することができる。適切なCRMはポリマーラテックスとシリカで のみ存在するが、サイズ決定技術としてFFFの範囲を制限する。これらの標準が利用可能で あるとしても、分析される粒子がFFFプロセス中で標準と異なって挙動するならば、測定され たサイズは無意味なものであることを留意しなければならない。 4.5.7. それは、受諾できるコストで広く利用可能か? FFF装置を供給する装置メーカーは、たった数社しか存在しない。分離手法としてのFFFは、 148 既存のクロマトグラフィー系と結び付けることが出来、それにより、新しい機器類のコストを下 げることができる。平衡粒子キャリアー薄膜がぜい弱なために、信頼できる測定を行なうため に経験が必要である。 4.5.8. 近い将来における技術の一層の開発の見通しはどうか? FFFは、それ自体、分離技術でありサイズ決定技術ではない。サイズ決定する前に分離手法 として使用するとその力を発揮するという認識が増加しており、例えば、DLSは、最も恐らく最 終生産物の中のナノ材料を検出および定量することに対して、それ(FFF)を非常に価値のあ るツールとするであろう。使い捨ての中空繊維バージョンの開発によってロバストネスを増加 させて、試料間の二次汚染の危険を減少させる。 4.6 粒子追跡法(PTA) 4.6.1. 測定原理 粒子トラッキング分析(PTA)は、液体中に懸濁している(ナノ)粒子の挙動の2つの重要な物理 的現象を利用する超顕微鏡検査技術である: 個々の粒子が光を散乱させる能力およびブラ ウン運動の影響によって生み出される粒子の特有の運動(拡散)。実際に、粒子の薄薄な溶 液を含んでいる特別に設計された光学セルはレーザー光源で照らされ、素早く動いている粒 子あるいは強凝集体によって散乱されたピンポイントの光は光学顕微鏡を使用して観察され、 高感度CCDビデオカメラを使用して記録される。粒子を捜し出し個々に識別するためにビデ オ画像が解析され、それらの動きは一コマ一コマ追跡される。 個々の粒子の速度は、液体の粘度、温度および粒子の流体力学的サイズだけで特徴付けら れるので、ストークス・アインシュタイン式によって粒径を計算することが可能である。母集団 中の統計的に適切な数の粒子の位置移動が、時間の適切な経過を通じて評価される場合、 数サイズ分布の信頼できる計数統計を得ることが可能になる。この方法は、比較的低い装置 コストおよび高感度を含む多くの重要な長所を持ち、106粒子/cm3[35]の低い濃度でナノ粒子 を検出することができる。 4.6.2. 定義に従ったナノ粒子の測定が可能か? この技術は、一粒子一粒子で粒子サイズを計算し、したがって、少数のより大きな強く散乱さ せる粒子または強凝集体の存在の下で多数の小さな粒子を含む溶液である時、DLSおよび 他の集合体法の固有の弱点のうちのいくつかを克服するために有効である。粒子は、正確に 分かっている粘度の、装置中で使用されるレーザー光源に対応する波長で光学的に透明で、 非蛍光性な流体中に懸濁されていなければならない。また、溶液中の粒子による光の散乱 は、粒子と液体の屈折率に、および最も大きくに粒子のサイズに依存する。実際に、有効下 限界はこれらの要因の組み合わさったものに依存するが、25nmから35nm未満の粒子の検知 は、金またはTiO2のような高い屈折率を持つ材料以外のものに対して問題となる。 149 4.6.3. どのタイプのナノ材料は測定することができるか? PTAは液体中で行なわれる。これは、PTAの使用を溶けない粒子の分析に制限する。 個々の粒子を数える方法は、多分散系の試料を扱うことに対して適しているかもしれない。 PTAはDLSよりよいサイズ分解能を持っているが、50%より遥かに小さい相対的差異を備えた 粒子の分離分を分離することが未だ出来ていない。 PTAによって計算されたサイズは、DLSでと同様、粒子幾何学とすべて関連した等価な流体 力学的直径である。PTAは粒子形状を識別しない。したがって、混合真球度の試料の測定は、 他の方法で測定された外部寸法と異なる平均の流体力学的半径を結果として得る。異なる 光学的性質の粒子の混合(例えばTiO2とSiO2)では、より弱い散乱粒子は過小評価される。 PTAは、弱凝集体、強凝集体および一次粒子を識別しないため、弱凝集体及び強凝集体は 一次粒子のサイズを得るために解砕する必要がある。 4.6.4. 信頼性の問題 装置は、粒子の識別と処理を促進するために、明るさ、ゲインおよび検出閾値のようないくつ かのパラメーターを調節することを使用者に要求する。これらの値は、最終結果に影響を及 ぼし、画像解析とデータ処理へと続くため、ある程度のオペレーターによる偏りが導入される かもしれない。溶媒の粘度および温度が正確に入力される試料では、十分試料調製された 単分散ポリスチレン微小球状の検量体の直径は、保証値の1%もしくは2%以内で正確に測定 されることができる。粒子選別過程の統計的性質のために、再現性は、分析の期間を通じて 測定された粒子の数の関数である。汚染する強凝集体を含んでいない単分散の試料の最適 濃度によって、2%から3%以内に再現可能な結果は、比較的短時間(例えば10秒から20秒で)で 達成されることができると報告される。 4.6.5. 標準はあるか? 現在、国際的に受け入れられている標準は、この種の装置の操作に対しては知られていな い。 4.6.6. 参照材料は利用可能か? ナノメートル範囲にある保証されたPTAに基づいた粒子サイズの中央値あるいは粒子サイズ 分布を持つ参照ナノ材料はない。典型的には、キャリブレーションは、(EMまたはDLSのよう な)他の方法によって得られた保証値を備えた球状の単分散の参照材料を使用して行なわれ る。 4.6.7. それは、受容できるコストで広く利用可能か? この種の機器類は主要な1メーカーから利用可能で、かなり多くの専門の研究所において利 150 用可能である。この機器類の重要な利点は、その設備費が大多数の他の方法と比較して比 較的低いことである。機器類はコンパクトで、その操作のための専用の研究所インフラストラ クチャーを必要としない。更に、単一の再使用可能な試料セルを使用するので、運転費は低く、 小量の清浄剤以外に、他の使い捨ての消耗品を必要としない。 4.6.8. 近い将来における技術の一層の開発の見通しはどうか? 溶液中の粒子による光の散乱は、散乱光の波長、粒子および液体の屈折率、および最も大 きくは粒子のサイズを含む多くの要因に依存する。検出下限界は、この技術の中でより一般 的に使用されている赤色光源の代わりとして使用することができる強力で安定した近紫外光 源を有効にさせるレーザーダイオード技術における最近の進歩によって縮小されてきた。より 短い波長光の使用は、小さな粒子のより効率的な検出を可能にするが、定義中の1nmの限 界に達することは未だにこの技術の能力を越えたままである。開発が進行中の別の領域は、 同じサイズ・クラスでの異なる組成の粒子を識別することである。多くの場合、PTAの機器類 は、分散された光の強さを考慮せずに、それらが散乱する光によって決定されるような粒子 の運動からのみ情報を引き出す。技術の最近の発展に中で、この追加情報は、回折光強度 の分析によって検知された粒子が異なる性質をもっているかどうか判断するために利用され 始めている。 4.7 原子間力顕微鏡(AFM) 4.7.1. 測定原理 原子間力顕微鏡(AFM)では、カンチレバーに嵌められた鋭い先端(tip)は、測定される表面に 沿って移動され、高さの変化が記録される。これらの高さ変化は表面上にある粒子によって 引き起こされることが出来るが、表面自体の粗さでもあり得る。その最も基礎的な装置、レコ ードプレーヤーと同様に働く、は、針となる先端(tip)と測定される表面であるレコードで構成さ れている。装置の中で最も単純なものでは、カンチレバー中の曲がりは一定に保たれ、装置 は、カンチレバーが、一定の曲がりを達成するために、どれくらい大きく上下に移動させられ る必要があるかを測定する。他の測定モードは、カンチレバーが表面に触れなかったり、ある いはカンチレバーが表面を軽く打っていたりするものもある。AFM画像は、素地表面だけでな く先端(tip)の形状によっても影響を受け、それは、特に側面の(x-y)情報の正確さに対する影 響を持っている。このために、得られた高さ情報は、特に非常に小さな粒子に対して、より信 頼できる。 4.7.2. それは定義に従ってナノ粒子を測定することができるか? サイズ情報は、2つの異なる方法でAFM画像から得ることができる。1番目は、より頻繁に用 いられている方法で、粒子の高さは粒子サイズとして使用される。このアプローチは十分に分 離された粒子を適用できるだけである。第2のアプローチは、他の画像検査法に似ている側 151 面の(x-y)次元で画像の分析をする。多くの粒子へのアプローチのうちの1つを適用することで、 必要な数サイズ分布を得ることができる。 4.7.3. どのタイプのナノ材料は測定することができるか? AFMによって測定されるために、粒子は、先端(tip)によって移動されるのを防ぐために、表面 に固定される必要がある。画像は、一般的に、乾燥した表面上の粒子から得られる: 粒子を 含んでいる懸濁液の小滴はホルダー表面に塗られ、残っている液体はすっかり乾かされる。 AFMは画像検査法である。一粒子一粒子をサイズ決定し数えるために画像を使用することが できるとともに、多分散およびある程度まで非球状の粒子にも対処することができる。しかし ながら、自動画像処理ソフトウェアは、画像の時間効率的な評価を可能にするため、通常粒 子形状に関するいくつかの一般的な仮定を必要とする[36]。 脆い有機的な粒子は、非接触走査モードで像を描くことができる。液体中の粒子(それらが試 料ホルダーの表面に吸着され続ける限り)の像を描くことさえも可能であるが、このアプローチ は、定義の履行において実際的に使用するにはまだ十分に成熟していない。自動AFM画像 解析は、大きな粒子が単一粒子であるかあるいはより小さな粒子の弱凝集体であるのかを 識別することが(容易に)できない。広範囲なオペレーターの介入および得られた画像の解釈 によってのみ、部分的にこの問題を解決することができる。 4.7.4. 信頼性の問題 先端(tip)の形状によって引き起こされるエラーとは別に、先端(tip)と粒子の間の接触は粒 子を変化させことがあり得ることから、間違った結果に結びつく。これらの要因は不十分な信 頼性に寄与する: 最近の発表文献では、「ナノメーターサイズの計測の標準を使用するAFMキャリブレーション 技術における改良がAFMメーカーおよびAFMユーザーの両方に必要である」と結論された [37]。しかしながら、定義の履行が単に粒子が100nm以上あるいはそれ以下にあるかどうか を決定することを要求するため、キャリブレーションにおける5%の不確実性はこの方法を不適 当なものにしないであろう。 4.7.5. 標準はあるか? ドリフトレートの測定のための(ISO 11039:2012[38])、および側面(横)寸法の測定のための (ISO 27911[39])、2つのISOの標準は利用可能である。また、より多くの標準が開発中である。 ASTMインターナショナルは、キャリブレーションを取り扱う一連の標準(ASTM E2530-06[40])、 およびスキャナーと先端のアーティファクトのガイド(ASTM E2382-04[41])を発表した。ASTM は、さらに「原子間力顕微鏡(AFM)を使用するナノ粒子の寸法測定」のためにガイドを準備し ている。 152 4.7.6. 参照材料は利用可能か? 側面のキャリブレーションのための縞パターンと同様に十分な数の高さ測定用の階段格子が 利用可能であるが、粒径測定の性能検査を可能にするCRMは、現在市場にない。 4.7.7. それは、受諾できるコストで広く利用可能か? AFM装置については、解像度と調査される表面の粗さとの間に明瞭なトレードオフがある。信 頼できるサイズ分布を得るのに必要な粒子の数の測定は、多くの時間を消費し、それゆえに 高価である。 4.7.8. 近い将来における技術の一層の開発の見通しはどうか? EMに対してよりさらに多く、信頼できるサイズ分布を得るために十分に多くの粒子を測定する のに要する時間は、定義の履行のためにAFMを使用することを妨げる。さらに、試料調製お よびAFM先端(tip)の特性評価に関する問題がまだ存在する。したがって、AFMは、多分、定 義のためという意味では、粒径の特性評価のために広く使用されるようにはならないであろう。 画像解析ステップの自動化は、今後統計的信頼度を改善するかもしれない。 4.8 X線回析(XRD) 4.8.1. 測定原理 X線回折(XRD)は、材料の結晶組織の分析用に広く用いられている技術である。XRDの原理 は何十年間も知られてきた。XRDが基づく基本方程式は、X線が結晶質から散乱する場合、 格子面間隔を構造的干渉の観測角とつなげるブラッグの法則である。ナノ材料の場合、測定 は、でたらめに方位付けられた非常に多くの粒子を含んでいる粉体に対してなされる。したが って、回折リングまたは回折ハローは入射光束に関して様々な角度で見られ、各々ブラッグ 式を満たすように正確に方位付けられた粒子の部分集合に源を発している。また、対応する 技術は粉末法、またはデバイ・シェラー法として知られている。粉末回折図形(パターン)中の ピークの位置および強度の分析は、試料の相組成の識別および定量を可能にする。XRD分 析で適用される別の基本方程式はシェラーの方程式であり、XRDピークの広がりと個々の回 折するドメインの(平均)ある定まったサイズとを関連づける。この一定のサイズは固体内の結 晶と一致する場合があるが、さらに、それは、(弱凝集体もしくは強凝集体)ナノ材料中の個々 の(単結晶)粒子と一致する場合がある。回折スペクトルのフィッティングのためのより高度な アプローチは、リートフェルト分析である。この分析は、測定された回折スペクトルをシミュレー トするために、結晶構造、体積分率、グレイン・サイズ、および他の材料および機器パラメータ ーの寄与を結合する。 4.8.2. 定義に従ったナノ粒子の測定が可能か? XRDは、サイズ分布ではなくナノ材料の平均粒子サイズを決定するための、強力で、比較的 153 単純な方法を提供する。ピークの広がりは、より小さな粒子に対してより大きく現われるので、 技術は、1nm から100nmの粒径範囲の小さい方の粒子には信頼できる。分析法の修正は極 めてサイズの小さい範囲で必要であり、100nm近くを測定するには高解像度装置が求められ る。 4.8.3. どんなタイプのナノ材料を測定することができるか? XRDを測定する最適の方法は、試料とX線源および検知器システムの間の物的障壁を無くす ことである。これは、ピーク分析を複雑にするX線の望ましくない散乱を除去する。したがって、 乾燥粉末試料を測定することが最も良い。しかしながら、ナノ粒子の濃度が十分に高い場合、 測定は懸濁液中のナノ粒子に対しても行うことができる。非常に少量の試料については、斜 入射角XRD幾何学は、例えばシリコン・ウエハー上に堆積させたナノ粒子の薄層に対して使 用されるかもしれない。かなり広い一次粒子サイズ分布を持った微粒子の試料は、同じ平均 サイズだが狭いサイズ分布の試料と同様の線の広がりを産出するであろう。したがって、XRD はある特定の状況での平均粒子サイズ測定のための優れた方法であるが、粒度分布の測 定には一般に適していない。さらに、それは、個々の粒子の形状に関する情報を提供しな い。 この方法は、結晶の粒子に制限される。無定形やあるいは極めて結晶性が弱い粒子に対し ては、フーリエ変換技術が平均粒径を決めるために大体において使用することができるが、 これらは広く適用されずあまり正確ではないかもしれない。結局、XRD粒子サイズ分析のため の標準方法は、コア・シェル粒子のようなより複雑なナノ構造化した粒子に対して容易に適用 することができない。強凝集体もしくは弱凝集体の一次(単結晶)粒子の場合には、XRD分析 は、強凝集体もしくは弱凝集体のサイズに関する情報を与えないだろうが、一次粒子のため にのみサイズ情報を与えるだろう。これは、この報告書の中で言及された他のすべての技術 に関して重要な違いである。 4.8.4. 信頼性の問題 XRDピーク形状分析は、いくつかの非常に特定の場合での平均一次粒子サイズ測定のため の信頼できる方法である。しかしながら、一次粒子の結晶度およびナノストラクチャーについ ての詳細な知識が欠けている場合(つまり、一次粒子が単一のナノ結晶であるか否か、ある いは、粒子が被覆されているか否か、など)、それは全く信頼性が低い。 4.8.5. 標準はあるか? 現在、国際的に受け入れられている標準法は、平均のナノ結晶子サイズを決定する特定の 目的でのXRD装置の操作に対して知られていない。同様に、標準手順は、試料調製もしくは ピーク形状分析に対して利用可能でない。 154 4.8.6. 参照材料は利用可能か? ナノ結晶子サイズ参照材料を作ることに向けて、努力されてきているが、どれも今日利用可 能でない。 4.8.7. それは、受諾できるコストで広く利用可能か? 多くのXRDシステムが商業的に利用可能で、殆どが粉末回折技術を提示し、ピーク形状分析 のためにソフトウェア及び平均結晶子サイズの推定法が提供されている。XRD装置は、それ らのコストに影響を及ぼすいくつかの様相において異なる。一般的にXRD装置はかなり高価 であるが、それらが標準、結晶相分析の最も速く最も信頼できる方法を提供するので、多くの 研究および産業の研究所がそれらを装備している。さらに多くの装置がピーク形状解析ソフト ウェアを取り除いており、上に注意されたように、これが、結晶子サイズについての信頼でき る情報を提供するためには、熟練者によって使用されるべきであるということは決定的に重 要なことである。 4.8.8. 近い将来における技術の一層の開発の見通しはどうか? XRDは、それが提供するデータのタイプの点から恐らくこれ以上の開発を見ないであろう、成 熟した技術である。多くのナノ材料がXRDによる粒子サイズ決定に単に適していないので、サ イズ決定での限定因子は主として試料自体に関係している。極めて特定の状況での粒子サ イズ分布に関する情報を改善することは理論上可能だが、実際的な点から、これが一般的に 有用な方法になっていくだろうという予想はほとんどない。 4.9 BET法による比表面積決定 4.9.1. 測定原理 定義は、BET法によるSSAの測定を推奨する。根本的な理論を展開したBrunauer、Emmett、 Tellerにちなんで命名されたこの方法は、どれだけのガス(通常窒素)が特定の温度および圧 力で吸着されるかを測定する。 BET法のための根本的な理論は、低温で固体の表面との弱い物理吸収の相互作用による、 窒素あるいはアルゴンのような不活性ガスの1分子の厚さの吸着について記述する。BET法 はそれ自身、表面上の吸着分子もしくは原子の数の決定にある。この量と一つの吸着分子あ るいは原子の想定する横断面積とを一緒に用いて、試料(ここでは粉体)の絶対的な表面積を 計算することがでる。 4.9.2. それは定義に従ってナノ粒子を測定することができるか? BET法は粒子表面積を測定する。試料質量で絶対的な表面積を割り算することは、いわゆる 質量比表面積を与え、単位1グラム当たり平方メートル(m2/g)で一般に報告される。これは、 155 定義の中で使用されたのと同じ単位ではなく、単位m2/cm3あるいはm2/m3を持つ体積比表面 積(VSSA)を指す。したがって、BETの測定の共通の結果からのVSSAの計算は、粒子密度に ついての知識を必要とする(さらにセクション2.6を参照)。 4.9.3. どのタイプのナノ材料は測定することができるか? 粒子は乾燥粉末として存在しなければならない。ガス分子と粒子の間の相互作用は弱すぎる ので弱凝集体と強凝集体を解砕することができないので、結果は、構成する粒子ではなく弱 凝集体か強凝集体の表面積に相当する。 4.9.4. 信頼性の問題 方法は、使用されるガスが近づける表面積の合計を与えるであろう。それは気孔のような内 部表面を含む。多孔質材の粒子サイズが1mmくらいの大きさかもしれないにもかかわらず、 それらの多孔性により60 m2/cm3の限度をはるかに超える多孔質材が多数開発されている。 換言すれば、1mm及びそれより大きい粒径を持つ多くの多孔質材は、定義の中で指定された ものよりはるかに大きなSSAを持っている。非常に微細な粉の密度は、多くの場合より同じ材 料の大きな断片と同じではない。その理由は、表面近傍にある原子または分子は固体構造 内のものとは異なる平衡位置にあるという事実である。粒子サイズが小さくなると、表面近傍 の原子あるいは分子のパーセンテージが増加し、その結果密度に対して影響を与える。非常 に微細な粉については、真実の粒子密度を決定するのが簡単ではない。これは、BETの結果 のVSSAへの変換は、測定の不確実性の増加と関係があるかもしれないことを意味する。 4.9.5. 標準はあるか? BET法のための基準は多数存在し、例えば、BET法の基礎的および一般的記述を提供する ISO 9277:2010[42]、セラミックスとゴムへのBET法の適用について記述するISO 18757:2003[43] およびISO 18852:2005[44]がある。 4.9.6. 参照材料は利用可能か? BET装置をテストするためのいくつかのCRMは利用可能で、それらの中でいくつかは JRC-IRMM、BAM(材料研究および試験のためのドイツ連邦協会)およびNISTからのものであ る。 4.9.7. それは、受容できるコストで広く利用可能か? 装置は広く利用可能で、多くの民間会社は分析を行なっている。BET法の欠点は、測定に先 立つ粉体の乾燥および低温の不活性ガス分子の遅い吸着速度により比較的長い測定時間 が必要なことである。 156 4.9.8. 近い将来における技術の一層の開発の見通しはどうか? 長年に亘って、標準的な方法が定められてきた。著しいさらなる変更は、近い将来では期待 できない。 4.10 補足粒径および比表面積測定法 前のセクションで議論された方法に加えて、ナノスケールで特定の粒子サイズ測定問題を解 決するために使用されてきたその他の粒子サイズ測定法がかなり多くある。しかしながら、い くつかの理由で、それらは同じ可能性を示さない。このセクションでは、これらの方法のうちの いくつかをリストアップし簡潔に議論する。 4.10.1. 流体力学クロマトグラフィー(HDC)および粒子径排除クロマトグラフィー(SEC) 流体力学クロマトグラフィー(HDC)および粒子径排除クロマトグラフィー(SEC)は、サイズ決定 法ではなく、分離法である。SECでは、ナノ粒子を含んでいる懸濁液は、多孔性の粒子に沿っ て流れる。小さな粒子がより大きなものより気孔へよりしばしば移動するため、サイズによる 分離が達成される。HDCでは、ナノ粒子懸濁液は固形微粒子に沿って流れる。より小さな粒 子よりも、より大きなナノ粒子は分離粒子に接近することが出来ず、したがって流れのより速 い領域の中により多くの時間を過ごすため、サイズによる粒子間の分離がなされる。 FFFに似ているので、試料導入から検知器への到着までの時間は明白な(球状の等価物)粒 子サイズに対してキャリブレートすることができる。一般に、これらの方法は分離力がやや貧 弱であり、つまり、もし粒子サイズが広く異ならなければ、粒子群は1つの広い「ピーク」として 装置から出るであろう。HDCにはさらに欠点があり、現在、1カラムだけしか利用可能でない。 貧弱な分離力およびキャリブレーションに対して仮定が必要なことから見て、SECとHDCは定 義に従ってナノ粒子を測定するのにふさわしくない。 しかしながら、方法は他の試料構成物から問題のナノ粒子を分けるのに有用で、したがって、 最終製品中のナノ粒子の決定に重要な役割を果たすことができる。 4.10.2. 気相電気泳動分子移動度分析(GEMMA) 気相電気泳動分子移動度分析(GEMMA)では、ナノ粒子を含んでいる懸濁液はエアゾールに 転換される。液滴は蒸発し、1つの負電荷で帯電される。同時に適用されるガス流れ下の電 場での粒子の移動は、粒径(FFFと同様の原理)を得るために使用される。 方法は、サイズ情報を得るために、キャリブレーションを必要とする。方法は、モル質量を決 定するために主として使用されるが、ナノ粒子のサイズ決定に使用することが可能である。主 な欠点は、試料をエアゾールに変換する必要があることである。別の欠点は、エアゾール小 滴がそれぞれ一つを超える粒子を含んでいてはならないとため、低濃度でしか働かないこと である。 157 4.10.3. 単一粒子高周波誘導結合プラズマ質量分析計(ICPMS) 単一粒子誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)は新しい技術であり、その可能性により、この 報告書に含まれている。方法は、十分確立され及び標準化されたICP-MSの技術を用いる: この技術では、液体試料はエアゾールに転換される。その後、極めて高温(10 000 K)のプラズ マ中へ輸送され、原子はイオン化され質量分析計の中で定量される。 単一粒子ICP-MSは、全観測時間を非常に小さな時間窓(10ミリ秒およびそれ未満)へ分割す る。この短い観測時間のために、通常、すべての時間窓でせいぜい1つの粒子がプラズマ中 に入る。したがって、それぞれ、個々の粒子はそれが構成する原子の数に比例する信号を生 ずる。1つの原子のサイズが分かっていてある粒子形状が仮定される場合、粒子サイズを計 算することができる。それは原子の数を数えるので、単一粒子、弱凝集体及び強凝集体を識 別することができない。 この方法は、環境中に頻出しない1つの要素のみから成る粒子に特に適している。そのときで さえ、検出可能な最小の粒径は10nmから20nmの間にある。より小さな粒子は分析的ノイズと 見分けることが出来ない。 理想的には、仮定するべき形についての情報を獲得するために、方法は画像検査法と結合 する。そうでなければ、100nmより小さい直径を持つ長い棒が、100nmより大きい直径を持つ 球体として偽って解釈されてしまう。 方法は、現在まだその開発中で、ほんの少数の研究所によって適用されているだけである。 サイズのある測定と一緒に化学の情報を得る能力は、それを多くの特定の測定目的によく適 せさせるかもしれない。 4.10.4.核磁気共鳴(NMR)測定による比表面積測定 核磁気共鳴(NMR)は、最もしばしば分子構造を決定するために使用される。また、NMRは懸 濁粒子の表面積を測定するために使用することができる。方法は、粒子表面上で吸着される 液体分子と大部分の懸濁液媒体中に存在する分子の緩和時間の測定可能な違いに基づく。 非常に多くのナノ材料が懸濁液として生産されるか、使用されるという事実は、標準方法の開 発のための駆動力であるが、その方法は、現在、まだ利用可能ではない。 158 4.11総括表 表1 ナノ材料の定義に係る粒子サイズ測定法の主要特性 測定法名称 測定範囲と媒体 生データ の (略称) (制限因子) サイズ分布 適用可能材料 多分散 非球状 低 密 度 強凝集 の 有 材料 電子顕微鏡 1nm~;乾燥 個数基準 (EM) (ダイナミックレンジ) 動的光散乱 50 ~ 500nm ; 懸 濁 分布 x or 散 (DLS) (沈降、散乱強度) 無 体 - - yes -- + -- yes + -- - -- yes o - o -- yes + - + -- no 個数基準 + -- o -- no 個数基準 + 長い+ o - yes - - yes 乱強度基準 降(CLS) 準 小 角 X 線 散 5nm~;懸濁 散乱強度基 乱(SAXS) (ダイナミックレンジ) 準 流動場分離 1nm~200nm;懸濁 (検出器によ (FFF) (ダイナミックレンジ) (PTA) 長い+ 材料 -- 減衰強度基 粒 子 追 跡 法 25nm~;懸濁 + 粒子 平坦- 液 相 遠 心 沈 20nm~;懸濁 (粒子密度) 標準 る) (散乱強度) 原 子 間 力 顕 1nm~;乾燥 微鏡 (AFM) (ダイナミックレンジ) X線回折 1nm~;乾燥 (XRD) (結晶性材料のみ) 平坦+ 分布 x, -- -- ++; very well +; well o;moderate -; not well - -; not at all x; no 注)上記特性は全てのタイプのナノ材料に適用されるわけではない。 より詳細には、4.1~4.8参照。 159 5.二つの説明用実例(殆ど全訳に近い抄訳) 5.1保証された標準物質のシリカナノ粒子 2011年と2012に、JRC の IRMM はコロイダルシリカ(SiO2の水溶液)からなる保証された標準 物質のシリカナノ粒子をリリースした。これらの材料の測定結果は、どんな測定が可能なのか のヒントになるとともに、全ての方法の問題点が明らかになる。 5.1.1材料 二つの異なる市販シリカ材料が選ばれた。 ・ERM-FD100(Koestrosol 1530) 非常に単分散の球状粒子 ・ERM-FD304(Ludox TM 50) 上記より若干分布が広い 透過電顕像と粒子サイズ分布を図9、図10に示した。 図9 ERM-FD100 図10 ERM-FD304 160 5.1.2測定法と研究室 2010年に、欧米亜の11カ国の33研究室が参加して、2材料の平均粒子径の計測が行われ、 DLS で19データ、CLS で6データ、EM で11データ、SAXS で5データが取られた。DLS では、強度基準 と体積基準の二つの方法が適用された。機器によるバイアスを避けるためにいろいろな研究 室が異なる機器を使うようにされた。同じ研究室で同じ機器を使って二つの材料が測定され、 結果の信頼性の違いは、材料によるものと考えられるようにした。 5.1.3結果 ERM-FD304の DLS による結果を図11に示す。 DLS については、二つのデータ評価モード(‘相関解析’と‘頻度解析‘)が異なる結果を与え た。また、強度加重から体積加重への変換は、分布にかなりの誤差を生じることも示された。 CLS については、ERM-FD304の方が、研究室間の標準偏差が大きかった。これは、この材 料の方が若干分散が大きいことに起因していると考えられる。しかし同じ研究室ではこの方 法は、標準偏差が非常に小さい。これは、CLS が DLS よりも確たるパラメーターを用いている ためと考えられる。 SAXS は、より単分散な ERM-FD100で、例外的な良い一致を示したが、少し多分散になると 異なる結果が出た。 EM は、ERM-FD100で良い一致を示し、ERM-FD304では悪くなった。 以上のデータは、これらのサンプルが(1)強凝集していなくて分散している、(2球に近い)、(3)単 分散であるならば、よく大きさ毎に分けられる事を示している。単分散からずれると、広くデータ が分散する事が示された。この二つの材料の分散の違いは僅かである。他の材料(例えば OECD/WPMN のスポンサーシッププログラムで採用されている材料)はもっとこの二つの材料 よりも広い分布があるので、より大きなばらつきがある。 161 5.2代表的ナノ粒子試験材料の酸化亜鉛 酸化亜鉛は、JRC-IHCP や PROSPECT プロジェクト、OECD/WPMN のスポンサーシッププロ グラム等で使用されている。シリカと異なり、酸化亜鉛は粉体として製造させており、強凝集 体、弱凝集体の測定という困難さがあることが、結果から示されている。 5.2.1材料と測定法 材料 NM-110と NM-111は、二つとも BASF AG が製造しているもので、前者はコーティングさ れていない材料で、後者がコーティングされている。測定は、TEM、(SEM)、XRD、DLS、CLS で、研究室間の比較はされていない。 5.2,2電子顕微鏡像 製造されたままの粉体は、SEM で、凝集がはなはだしい事が観察され、凝集体と単独粒子の 区別が困難であると予測された。Figure13と Figure14にナノ材料の EM 解析の専門家による EM 像を示した。シリカに比べて、球状でなく、強凝集し、多分散である事がわかる。解析者 は、大きな凝集体は、電顕のグリッドから分離する傾向があり、得られた電顕像は、代表性が 小さいとしていて、得られたサイズ分布は定性的であるとしている。 162 5.2.3製造されたままの乾燥粉体の粒子サイズ測定 SEM と XRD による測定結果を表2に示す。 表2 サンプル名 SEM と XRD による粒子サイズ SEM 像の50個の粒子のフェレ XRD でシェーラーの XRD でリートベルトの ー 径 の 平 均 値 ± 標 準 偏 差 式による結晶径 式による結晶径 (nm) (nm) (nm) NM-110 151±56 41.5 >85.5 NM-111 141±66 33.8 75.5 SEM 像からの粒子サイズ決定は、強くあるいは弱く凝集した各々の粒子像の一次粒子の等 高線を手作業でトレースするという綿密な作業が必要である。さらにそれをスキャニングして、 粒子の直径の次元を計算し、サイズ分布を求めるが、この場合約50個しか測定しておらず、 信頼性がある結果ではない。XRD からの結晶径は SEM からの値に比べて小さいが、これは 粒子がいくつかの結晶から構成されていることを考えれば当然である。 5.2.4製造されたままの乾燥粉体の懸濁物測定 粒子を媒体中に懸濁してサイズを求める方法では、懸濁方法と媒体の影響を受け、強凝集 体は構成粒子に分散することはできない。 DLS による測定は、製造されたままの粉体を蒸留水で調製して行われた。3回の測定で、 NM-110は275nm、NM-111は253nm であった。本サンプルは、多分散なので、DLS では正 確に解析できない。 CLS による測定は、ミジンコと魚の環境毒性試験用媒体と蒸留水、海水の4つの媒体で実施 された。表3はその結果を示したが、媒体の影響が大きい事がわかる。NM-111は水系では 容易に分散しないので測定されていない。 表3 CLS による粒子サイズ測定 サンプル名 蒸留水(nm) 魚用媒体(nm) 海水(nm) ミジンコ用媒体(nm) NM-110 82.8±1.9 270±20 301±8 285±16 5.2.5結果の総括 表4に ZnO NM-110と NM-111の測定結果をまとめた。 163 表4 ZnO 材料 NM-110 と NM-111の測定結果 測定方法 NM-110 (nm) NM-111 (nm) TEM(フェレー径、平均) 147±149 141±103 SEM(フェレー径) 151±56 141±66 DLS、平均粒子サイズ 275±4 253±1 CLS(蒸留水中) 193±3 XRD(結晶径) 41.5 乾燥粉体のサイズ測定 懸濁物のサイズ測定 33.8 注)DLS と CLS の結果は、繰り返し測定の標準偏差であり、TEM と SEM の結果は 求められたサイズ分布の標準偏差である。 5.3議論と結論 5.1の結果は、球状の単分散材料は、研究室と方法が違っても良い一致が達成できる事が示 された。しかし、その仮定から少しでもずれると一致の程度が下がる。5.2の酸化亜鉛につい ては、いくつかの理由で方法間の一致が見られなかった。第一の理由は、5.1で使用したシリ カにくらべて酸化亜鉛の多分散の程度がずっと高いこと、粉体である酸化亜鉛は先ず何らか の方法で、懸濁させなければならないこと、加えて、凝集の度合いが大きいこと、粒子が球状 でないことがあげられる。 方法間の不一致は、一部分は、方法がまだ成熟していないことによるが、より大きくは、粒子 のキャラクタリゼーションに固有のことである。同様な不一致は、数十年かけて標準化を行っ てきた、いり大きな粒子のサイズ測定でも存在する。これは進歩の欠如のためではなく、方法 が目的としている性質の固有の違いによるものである。これは必ずしも望ましくないことでは ない。異なる方法は、粒子サイズの異なる側面を評価し、異なる条件におけるサイズを評価 する。これは、そのナノ材料に最適な方法を選択すること、それが対象とする用途や測定結 果の利用に道を開くことにもなりうるのである。 現状では、研究室が通常、数基準の平均値や中位径を報告するわけではないことが明らか になってきた。この状況は、定義がより一般的になるにつれ変わり得る。しかし、体積加重の 結果が、強度加重の結果に比べて、シリカ標準物質で報告されたように、より大きくばらつくこ とは、信号の変換にともなう固有の問題があることも明らかにした。 最後に、種々の例で与えられた測定の不確かさの指標が有意にばらつくということが指摘さ れる。図11と表4のエラーバーの意味が違うことも指摘した。従って、どのような不確かさが 研究室間で報告されているかを批判的に調べる事も、見かけ上非常に正確な結果であると の誤解を避けるために、非常に重要である。 164 6.最終製品中のナノ粒子の測定(全訳) 例えば、ラベル上で言及されずに、製品がナノ材料を含んでいるかどうかのような、立法によ って要求される場合、成分がラベルに適切に付けられているかどうかを最終製品の中でチェ ックするという別個の問題がある。 ここでの質問は、「ナノ材料であるか」よりも、「この製品は、ナノ材料を含んでいるか」である。 この質問は、その材料は定義を満たしているか、を決定することよりも、はるかに複雑な問題 である。それが、試料調製、最終製品の生産の間に粒子が変化する事、自然に存在する粒 子やいくつかの材料の混合物から加えられた分離する事などに関する問題を提起するから である。 4章に述べられていた方法は、一般に、異なる組成を持つ粒子を識別しない。これは、製品の 中にある他の構造(例えばタンパク質)もナノ粒子と認められるだろうということを意味する。 したがって、最終製品の中から問題の粒子を分けることが必要となる。このプロセスは、最終 決定のための分析サンプルを準備するために、試料調製に補足が必要であることを意味す る。 試料調製は、成功した(かつ意味のある)測定には重要であるが、それは粒子を変化させるか もしれないし、したがって、間違った結果に結びつくかもしれない。誤りを導く主な源は凝集と 溶解である。 ・弱凝集と強凝集:試料調製中に、最初に、分散粒子は、上に議論された一般的な弱凝集と 強凝集の問題に結びつく、これ以上分離することができない強凝集体を形成するかもしれ ない。 ・溶解:構成粒子が、(部分的に)溶解して、粒子サイズ分布の変化を導くかもしれない。溶解 は非常に小さな粒子を取り除いてしまい、それにより、より大きな方へ数サイズ分布を移 すかもしれないし、従って潜在的にナノ材料を非ナノ材料に変更するかもしれない。他方 では、溶解は、さらに最初に100nmより大きかった粒子のサイズを縮小し、それにより、定 義に従って非ナノ材料をナノ材料に変更するかもしれない。 そのような変更を回避するために、試料調製方法は、粒子とマトリックスの組み合わせに十 分注意しなければならない。例えば、TiO2のようないくつかの粒子は化学上非常に安定して いるので、問題になる溶解はありそうもない。有機粒子は他方では、化学上それほど安定し ていないので、試料調製方法がさらに粒子自体に影響するという重要な可能性がある。 さらに、粒子と製品の周囲の「マトリックス」の間の相互作用は、試料調製方法の選択を決定 する。 粒子は、さらに成分としての材料の生産工程への添加の時間から、製品の完成までに変わ るかもしれない。関係する潜在的変化は試料調製(すなわち凝集、溶解)と同である。また、ナ ノ材料成分として加えられなかったが、その場所で自然にあるいは意図して生成されたナノ 粒子を含んでいる材料があることが報告されている。 この報告書の著者は、分析化学の経験から推定して、広範囲の材料中の広範囲のナノ粒子 の比較可能な定量化を可能にするためには、多くの試料調製方法を開発し、標準化しなけれ ばならないと考える。 165 7.結論(全訳) ナノ材料の定義を規制目的に使用するためには、ある材料が定義に該当するかどうかを測 定を通じて証明する可能性に依拠して、定義を最善に履行する事が考慮されなければならな い。本報告書議論された、使用可能ないくつかの測定法の検討を通して、以下のような重要 な問題があることがわかった。 ・粒子には粒子サイズとして解釈することができるいくつかの外部次元がある。 さらに、ほとんどの測定法は、平均外部粒子次元にたいして、みかけの、試験条件に依存し た値を与える。したがって、異なるサイズ測定方法は著しく異なるサイズの値を与えるかもし れない。 ・多くの方法は、定義の中で要求される、数に基づいたサイズ分布に数学上変換される必要 のあるサイズ分布を与える。この変換は、多くの仮定に基づいていて、ナノスケール微粒子 の質量分率が十分に大きくなくなればなる程、エラーの傾向が増大するか、その変換が困 難か、不可能となる。 ・大きな粒子が強凝集体あるいは単一の多結晶の粒子であるかを確実に識別し、同時に多く の個々の構成粒子のサイズを測定することができる方法は利用可能ではない。 ほとんどのサイズ測定法は、サイズを測定しなければならない構成粒子へ粒子を分解砕す る試料調製手続きを必要とする。今日凝集体は解砕することができない。また、どの方法も 強凝集体を構成する粒子のサイズを信頼性良く決定するために利用可能ではない。 ・いかなる方法によっても、一つの測定で、あらゆる材料に対して、定義に対応した普遍的な 評価に要求されるような、1nm 以下から十分に100nm を上回るサイズをカバーすることはで きない。特に、測定範囲は、粒子の質量分率に強く依存する。 現状の技術的な限界を総合すると、現在使用可能な方法は、全ての種類のナノ材料が定義 を満たすか否か決定する事ができないのである。それゆえに、規制に係る定義をみたすかど うかを決める事ができる様々な測定法を開発する必要がある。測定によって定義を履行する ことは多分散材料には、かなりの困難を課することになる。また、粒子状材料である強凝集体 は、それ自体が定義を満たす材料でないならば、構成する一次粒子のサイズ分布を決定しな ければならず、それは現在、通常不可能である。 将来、測定技術が改善され、解析方法の進歩と標準化されたサンプル調製プロトコルがあ ば、これらの制限は部分的には解決されるかもしれない。もし測定による定義の履行が早急 に必要ならば、明確で正当化された粒子サイズ測定と試験条件を指示した限定されたガイダ ンス文書が、特定の材料とセクターに提示されなければならないであろう。確固たる評価のた めには、いくつかの方法が、理想的には調査する材料の製造プロセスの関する情報に支えら れて、採用されなければならない。そのような、組み合わされた、段階的な方法の信頼性は、 限定された方法の検証と研究室間の比較研究によって完全にチェックされなければならな い。そのような技術的進歩と経験は、勧告によって規定された定義の将来の改定に考慮され なければならない。 166 2. ナノ物質のリスク評価・管理等における技術的課題等に関する調査 (1) 調査の目的と方法 平成23年度にはサプライチェーンやライフサイクルを考慮しつつ、代表的なナノ物 質を含有している工業製品の中で、一般市民がナノ物質に暴露する可能性が考えら れる製品の絞り込みを行ってきた。 本年度は、ナノ物質を含む製品ごとの人健康へのリスクを検討するために必要な 国内外の有害性、暴露、人健康リスクに係る情報・データの収集を行い(特にナノ物 質含有製品からのナノ物質の放出に重点)可能な範囲でケーススタディを行う。その 際、ナノ物質が含有されている製品からのナノ物質の放出可能性を確認するための 試験(例えば耐候性試験)を実施する。 また、有識者から構成されるワーキンググループを開催し、いくつかのナノ物質に ついて可能な範囲でケーススタディを行い、ワーキンググループで検討し、事務局案 としてとりまとめる。 167 (2) ワーキンググループ リスク評価ワーキンググループは、以下の委員を選定し、検討を進めてきた。 座長 大前 和幸 委員 有田 芳子 一鬼 勉 江馬 眞 甲田 茂樹 中西 準子 西村 哲治 則武 祐二 平野靖史郎 広瀬 明彦 明星 敏彦 吉川 正人 慶應義塾大学医学部公衆衛生学 教授 主婦連合会 環境部長 一般社団法人 日本化学工業協会化学品管理部 部長 (独)産業技術総合研究所安全科学研究部門 招聘研究員 (独)労働安全衛生総合研究所 研究企画調整部 首席研究員 (独)産業技術総合研究所 フェロー 帝京平成大学薬学部薬学科 教授 (株)リコー 社会環境本部 審議役 国立環境研究所環境リスク研究センター 健康リスク研究室長 国立医薬品食品衛生研究所安全性生物試験研究センター 総合評価研究室長 産業医科大学産業生態科学研究所 労働衛生工学 教授 東レ株式会社 CR企画室長 以下に、WG での議論の内容および検討資料を示す。 168 1) 第4回リスク評価ワーキンググループ 第4回リスク評価ワーキンググループは、平成24年6月12日に開催され、委員 の内8名出席で行われ、以下の討議が行われた。 議 題: (1)第3回リスク評価WG議事要旨(案)の確認等について -第3回WGでの指摘事項について- (2)ケーススタディの結果について ①プリントエレクトロニクス用インク(ナノ銀) ②塗料(二酸化チタン、シリカ、CB) ③エンジンオイル添加剤(フラーレン) ④トナー(CB、シリカ) (3)中間とりまとめの目次案について (4)その他 <配付資料> 資料1 第3回 リスク評価WG議事要旨(案) 資料2 第3回リスクWG指摘事項について 資料3 プリントトエレクトロニクス用ナノ銀インクについて 資料4 塗料について 資料5 フラーレン含有エンジンオイル用添加剤について 資料6 コピー印刷用トナーについて 資料7 リスク評価WGの中間まとめ(案) ①議題2:ケーススタディの結果に関する議論 (ⅰ)プリントエレクトロニクス用インク(ナノ銀) ・企業提供の電顕写真で未融着粒子がないと言えるのか(代表性)、封止膜によ る暴露の遮断があるのではないか。公表文献はないのか。 ・TEM による未融着粒子の有無を確認するやり方の標準化はどうなっているの か。 ・暴露シナリオの審議プロセスはこれでよいのか。暴露はその可能性を発掘し、1 つ1つつぶしていかなければならない。暴露シナリオの一覧表を作成し、今回調 査している部分と評価から外す部分を明示するようにすべき。また、生産量が少 量なため調査を省いた内容は、生産量がどの程度に増えたら調べるかを予め 決めておくべき。 169 (ⅱ)塗料(二酸化チタン、シリカ、CB) ・自動車用はクリアー塗膜で保護されているといっても、硬いものが当たって傷付 くことでの暴露の可能性はどの程度か。また、自動車を除外するのではなく、建 物用での試験でカバーできるかどうかを明確にする。 ・樹脂の紫外線安定剤とはどのようなものか。 ・二酸化チタン光触媒粒子でも、ナノサイズのものとそれより大きいものがある。 ・室内用途は、皮膚接触を考慮すべき。 (ⅲ)エンジンオイル添加剤(フラーレン) ・暴露量と毒性の比較は、暴露経路の異なるもの間では、無理がある。(ウ)の経 皮暴露経路の値は比較に使用できるかもしれない。 ・皮膚刺激性、皮膚感作性は、定量性がないので、実施しない。 ・(2)の⑧の吸収量の式で、「÷365」をすると、過小評価になる。 ②議題3:中間とりまとめの目次案に関する議論 ・ケーススタディで暴露評価をしたと言えるか疑問がある。「状況はこうである」程度 にとどめて欲しい。 ・フラーレンは、粒子の大きさから判断して、詳細な暴露評価をしたほうがよいか疑 問がある。 以下に、配布された資料の内、検討に用いられたものを示す。 170 資料2 第3回リスク評価 WG での指摘事項について 1.トナーに関するケーススタディ:別資料 (今回WG:資料5) 2.タイヤに関するケーススタディ:別資料 (次回WGで審議予定) 3.二酸化チタン配合靴下 (1)大人用のソックス・ストッキングに0.1~0.5%程度二酸化チタンを練り込み配合した合成 繊維を用いているものがある。 (2)この二酸化チタンの平均粒子サイズは400nm である。 (3)ソックス・ストッキングの国内流通数量は年間16億足であり、二酸化チタンを配合している製 品は1%程度だと推定されている。 4.酸化亜鉛のタイヤ用途 タイヤは、一般的に加硫剤として硫黄が用いられ、加硫助剤として、酸化亜鉛やステアリン酸 が使用されている。そして、酸化亜鉛としては、平均1次粒子径が200nmを超える平均一次粒子 径の大きな酸化亜鉛が通常使用されている。タイヤゴム中で加硫反応に関与するため、酸化亜 鉛のままでは残らないと考えられる。 なお、低温及び高温条件下でのグリップ(接地性を高める)性能、グリップ性能の持続性、耐摩 耗性の向上の課題に対し、解決手段として最も好ましい範囲(請求範囲はもっと広い)30~100nm を提案している例がある(特開2011-153219)。 表 酸化亜鉛出荷量((タイヤゴムの加硫促進助剤用) 年度 出荷実績(単位:トン) 2008 42,090 2009 38,552 2010 44,428 出典:日本無機薬品協会 171 表 タイヤにおける構成物質配合比の例 (第1工程) 実施例1 実施例2 比較例1 標準例1 NR(RSS#1) 50 50 50 50 SBR(NS116) 50 50 50 50 シリカ 25 25 25 25 ジエチレングリコール 2.5 2.5 2.5 2.5 シランカップリング剤 1.2 1.2 1.2 2.5 トリアルコキシシラン1 1.3 トリアルコキシシラン2 (最終工程) 1.3 カーボンブラック1 25 25 25 25 酸化亜鉛 3 3 3 3 ステアリン酸 1 1 1 1 老化防止剤 1 1 1 1 2.1 2.1 2.1 2.1 1 1 1 1 163.1 163.1 161.8 163.1 粉末硫黄 加硫促進剤 合計 *特開平10-298349からそのまま引用しているので、成分比が100分率になっていない。 5.シリカの用途 (1)タイヤの補強充填剤 タイヤの補強充填材として、ナノサイズ(約20nm*1)のシリカが使用されている。 カーボンブラックに比べ、グリップ性能が向上して制動距離を短くすることができ、また、タイヤ の転がり抵抗を小さくする低燃費化効果があるとされている。 こうした特性から、近年シリカ配合系ゴム組成物の需要が増大しつつある *2。しかし、カーボン ブラックとシリカの比率については各タイヤメーカーのノウハウであり、各社の特許で実施例(配 合率)が異なっていることから*2、全体像を把握するまでに至っていない。 *1:メーカー情報 *2:特開2008-13619「シリカ配合系ゴム組成物」、特開平10-298349「シリカ配合ゴム組成物」 172 (2)ナノシリカの「蕎麦打ち粉」のような用途*4 粉体の流動化、固結防止には、ナノサイズのフュームドシリカが使われている。 ラップフィルム等のアンチブロッキング剤(必ずしもシリカがすべてではない)には、サブミクロン からミクロン(1 桁)サイズの球状のシリカが使われている。ナノサイズではない。 アンチブロッキング剤は、フィルム表面に凸凹を形成させブロッキングを防止する(表面にブリ ードして効果を発揮する)。少量添加するだけで効果を発揮させるようであるが、使用数量、使用 頻度等は把握できていない。 *4:メーカー情報 6.ナノダイヤ (1)製造能力 ・ロシア: 公称年産能力40㎏の小規模プラント段階(爆轟法)*5 ・中国: 生産能力年間2トン程度(爆轟法)(2005年前後時点) 中国科学院蘭州化物所の技術を基に2001年に設立したナノテクベンチャー(凌云 Granda)が、 水套連続爆発法でナノダイヤを製造している。当初轟爆は蘭州郊外の軍事工場で、精製は広州 市で行なっており、キャパを年間2トン程度にし、2005年末に広達機電社の傘下に入り量産体制 を整えつつ、ナノダイヤの品質安定技術を確立したと言われている*6。 *5:表面化学 Vol.30 No.5, pp258-266, 2009 「一桁ナノダイヤモンド粒子の構造と性質」大澤映二 http://www.jstage.jst.go.jp/article/jsssj/30/5/258/_pdf/-char/ja/ *6:http://www.newmetals.co.jp/cat07/cat0703/list.html (2)輸入数量 輸入はされているようであるが、数量は不明である。 173 なお、工業用ダイヤモンドの輸入量は、以下のように推移している(5トン/月以下)。 ナノダイヤはこの内数であり、国際的な生産能力等から見て年間数百 KG 程度と推定される。 用途は産業用の研磨剤であると考えられる。 数量グラフ (単位:GR) 出典:財務省貿易統計 174 資料3 プリントエレクトロニクス用ナノ銀インクについて 1.プリントエレクトロニクス用ナノ銀インクの概要 (1)様々な電子製品・部品の製造に当たっては、シリコン、プラスチック等の基板上に微細な導電 回路(電極や配線)を形成することが必要不可欠である。回路形成では、さらなる微細化要求 が高まる中で配線の精細化、導電性の向上、加工温度の低温化、コストの低下等が産業競 争力を左右する重要な要因となっている。 こうしたニーズを背景に、ナノ銀インクを使用するプリントエレクトロニクス技術(※1:)が有望 視されている。ナノ銀インクは専ら電子製品・部品の製造プロセスで使用される産業用資材で ある。 ※1:ナノ銀インクによって配線等を基板に印刷し、百数十℃~2百℃超程度の低温で加熱し てナノ銀粒子を融着(定着)させて銀被膜とすることによって、基板上に回路を形成する ことができる。加熱する以外にもアルコールや無機化合物を利用し化学的にナノ銀粒子 を融着させ銀被膜とする方法もある。 (2)インク用のナノ銀の製造においては、一般に気相中あるいは液相中でコア(銀原子が数個~ 数十個又はそれ以上の数で安定な集合体を形成したもの)を生成させ、さらに自己組織化反 応によってコアに銀原子を捕捉させて成長させている。あるいは、単純に銀塩を化学還元し銀 ナノ粒子を析出させている。 また、ナノ銀インクは、このナノ銀粒子に必要に応じ電子基板へのインクの接着性を高める成 分等を混合して製造される溶液状又はペースト状の混合物である。(ユーザー企業には、容器 に小分けされた荷姿で販売される。) この用途でのナノ銀の製造数量は、現時点においてキログラム/年単位からトン/年単位に拡 大したばかりの段階にある。また、この用途のナノ銀そのものやナノ銀インクの輸入は確認さ れていない。 国内で製造されているインク中のナノ銀の粒子サイズは、平均粒子径で数 nm~数十 nm 程度、 ナノ銀の含有率は製品毎に様々である。 (3)電子回路を形成する方法は、従来のサブトラクティブ法(※2)に代わって印刷技術を用いるロ ール・トゥ・ロール法(※3)が薄膜ディスプレイ、電子ペーパー、有機EL等最先端の電子製品 の製造のために有力視されている。ナノ銀インクは、このロール・トゥ・ロール法を実施する際 において現在最高性能のエレクトロニクス用インクと見なされている。 ※2:金属泊を全面に貼り付けた基板から不必要な部分を選択的に除去することにより、基 板上に残った金属を回路とする製法。 ※3:ロール状に巻いたフィルム等のプラスチック基板(長さ数百メートル・幅1メートルな 175 ど)に印刷により回路を描き形成する製法。電子デバイスのフレキシブル化、低コス ト化、製造プロセスの低温化による省エネ・低炭素化への寄与が期待される。印刷 された基板は、更に封止膜などを貼り合わせて製品化される。 2.電子製品の使用者がナノ銀粒子に接触する可能性 (1) 基板上に形成された回路は、電子製品・部品の使用者が直接手に触れる等により 回路が損傷を受けることがないよう、電子製品・部品の内部に存在するか、又は、封 止膜によって被覆されている。したがって、回路を形成している銀は、電子製品・部 品を分解したり、薄膜ディスプレイのフィルムを引き裂いたり剥がしたりしなければ、 ばく露されることはない。また、その回路を形成する銀は、基板上に印刷塗布された ナノ銀粒子を百数十℃~二百℃超程度までの低温で加熱、あるいは化学的な方法 により融着させたものであり、以下に述べる理由からナノ銀粒子としては存在してい ないものと考えられる。 (2) ナノ銀粒子の製法は、殆どの場合気相中又は液相中でコアを生成させ、さらに自己 組織化反応によってコアに銀原子を捕捉させて成長させている。あるいは、単純に銀塩 を化学還元し銀ナノ粒子を析出させる方式であるので、その粒子径は精密に調整され て均一性が高い(写真1、写真2)。 写真1 A社製ナノ銀インク用ナノ銀粒子(透過型電子顕微鏡写真) ナノ銀粒子 粒子径 平均15nm 撮影者: A社 注: 液相中で製造した例 176 写真2 B 社製ナノ銀インク用ナノ銀粒子(透過型電子顕微鏡写真) ナノ銀粒子 粒子径 平均20nm:5nm~30nm 撮影者: B 社 注: 化学還元により製造した例 (3) このようなナノ銀粒子の粒子径の均質性から、加熱による融着現象も極めて均質 に起こる(写真3、4、5、6)。現時点で入手可能な電子顕微鏡写真では、銀ナノ粒子 が残存している様子は観察されない。 写真3 A 社製ナノ銀(粒子径 平均15nm)インクの融着状態(融着 によって生じた銀被膜の断面を走査型電子顕微鏡で観察したもの) 撮影者: A 社 177 写真4 A 社製ナノ銀インクの融着状態(写真3の一部を拡大) 撮影者: A 社 写真5 B 社製ナノ銀(粒子径 平均20nm: 5nm~30nm)インクの融着状態 (融着によって生じた銀被膜の断面を走査型電子顕微鏡で観察したもの) 撮影者: B 社 この写真の左上下に白い粒子のように見える部分は、融着生成した銀皮膜の凸部 分であり、下部の融着した大きな結晶粒と連続している。 実際、B社製ナノ銀(粒子径 平均20nm: 5nm~30nm)の粒子を走査型電子顕 微鏡で観察すると比較写真5b(次頁)のようになり、上記写真5の白い粒子のように見え る部分とは異なることから、写真5に見られる白い点はナノ銀粒子の残留ではないと考 えられる。 178 比較写真5b B社製ナノ銀(粒子径 平均20nm: 5nm~30nm)の 粒子を走査型電子顕微鏡で観察したもの 撮影者: B社 写真6 C 社製ナノ銀(粒子径 平均5nm: 2nm~10nm)インクの 融着状態(融着によって生じた銀被膜の断面・表面を走査型電子 顕微鏡で観察したもの) 撮影者: C 社 注: 気相中で製造したナノ銀による焼成膜 (4) 但し、以上のような電子顕微鏡による観察に関しては、像を評価した結果の妥当 性(像から読み取った粒径分布等)や観察の結果が試料全体の特徴を適切に説明で 179 きるものとなるようにする手法をはじめ課題が残されており、対応手法の立案とその 標準化が必要である。なお、この分野の国際標準作成については、国際標準化機 構(ISO。専門委員会 202 や 229 など)において検討が進められており、これに対応し て日本としての提案内容や外国提案に対する意見を取りまとめる国内委員会活動 が行われている。この事務局を産業技術総合研究所 他関係団体が担当して対応を 進めている。 【課題】写真撮影された部分が、観察対象である試料全体の状態を適切に示していることの 確認方法 ・1枚の電子顕微鏡写真だけでは、その画像が試料全体の状態を示していると考え て良いのかどうか明確でない。 ・換言すれば、今回の場合1枚の電子顕微鏡写真だけでは「ナノ粒子が見あたらない 部分を恣意的に選定して撮影したのではないか」との疑義を払拭することは困難であ る。 ・例えば、1試料について複数枚の写真を撮影することによって、そうした疑義を払拭 できる可能性がある。 ・しかしながら、現時点においては具体的な方法が立案・標準化されていない。 3.ナノ銀インクを使用した電子製品・部品の輸入 ナノ銀インクを使用するプリントエレクトロニクス技術は、我が国の他米国、韓国で実用化さ れている(EUではまだ実用化されていない)。 したがって、米国・韓国から輸入される電子製品・部品にはナノ銀インクを使用したものがあ る可能性が考えられるが、実態は把握できていない。 4.電子製品・部品の廃棄・リサイクル概況 (1)ナノ銀インクを使用した電子製品・部品等はまだそれほど普及しておらず、その廃棄・リ サイクルに関しては、現状では固定的な方法は未確立である。実情としては、多くは回収 再生処理がなされている模様である。 (2)その背景として、我が国では銀塩写真産業が盛んであったため、銀のリサイクル技術が 既に確立されていることが上げられる。ナノ銀インクに関してもこの技術を利用して回収、 再生再利用という取扱いがなされている。 (3)回収に関しては、大別すると、溶液に溶かして溶液状態で回収する、固めて固化して回 収する、ウェスとして回収するといった方法がとられており、これらのいずれかの処置によ り大半は回収されている。 180 資料4 塗料について 1.工業ナノ物質を含有する塗料 (1)塗料の成分 塗料は一般に、塗膜となる樹脂に溶剤(水性塗料の場合は水)、顔料を主成分とし、 光触媒、紫外線安定剤等の副材料が混合された混合物状態で製品となっている。 (2)塗料の用途 塗料の用途としては、自動車用・建物用が4割強と大きいが、他に構造物(橋梁、タ ンク他)用、金属製品用、船舶用等がある。 (3)工業ナノ物質を含有する塗料 ①自動車用の塗料では主に乗用車用に従来にない色調を示す機能(塗装面を見 る角度によって光沢や色の鮮度・深みが変化する)を付与する目的で、また、建 物用の塗料では主に耐候性の向上や汚れ防止機能を付与する目的で、ナノ二 酸化チタン、ナノシリカ等が添加されている塗料がある。 ②工業ナノ物質の含有率は、自動車用塗料で5~10重量%程度、建材用で10重 量%程度(いずれも塗料の非揮発成分重量に対する比率)の製品が見受けられ る。 ③自動車用塗料は年間10トン程度、建物用塗料は年間300トン程度国内で製 造・出荷されていると推定されている。 (4)一般市民が塗料中の工業ナノ物質にばく露する可能性が考えられるのは、次の ようなケースだと考えられる。 ①工業ナノ物質を含有する塗料を塗布した後で、工業ナノ物質が塗装表面から離 脱し、あるいは、経年劣化により塗膜の樹脂が減耗し、工業ナノ物質が露出して 飛散する可能性 ②工業ナノ物質を含有する塗料を市民(消費者)が使用している時に、誤って塗料 が手に付着して工業ナノ物質にばく露する可能性 (5)これらの可能性の評価について、以下で述べる。 ①工業ナノ物質を含有する塗料を塗布した後で、工業ナノ物質が塗膜表面から離 181 脱し、あるいは、経年劣化により塗膜の樹脂が減耗し、工業ナノ物質が露出して 飛散する可能性 (ア)自動車用の塗装では最外層に耐候性が非常に高いクリアー塗膜(高い強度の 熱硬化性アクリル系樹脂)が塗布されている。(クリアー塗膜層には工業ナノ材 料は含まれていない) このクリアー塗膜の強度については、自動車工業会から 塗料工業会に10年以上の寿命が要求されており、実際には10年に近い寿命が 実現されていると言われている。 工業ナノ材料を含む塗膜層はクリアー塗膜層の下層にあり、クリアー塗膜層 が破壊されない限り外気に晒されることはないので、自動車の塗装から工業ナ ノ材料が一般市民にばく露したり、環境中に排出されることは非常に考えにく い。 なお、クリアー塗膜の強度としては10年程度の期間損傷が生じずに維持され ることが自動車メーカーから求められており、実際に自動車に塗布されているク リアー塗膜はこれ以上の品質を実現している。 (イ)一方、建物用の塗装は、自動車塗装とは異なりクリアー塗膜層が通常は塗布さ れない。このため、ナノ材料を含む塗膜層が最外層となって外気に晒される。し たがって、塗膜層の表面に存在している工業ナノ物質が離脱する可能性や、ナ ノ材料を含む塗膜層が紫外線、雨水等により劣化し、含有されているナノ材料が 露出・飛散する可能性が考えられる。このような塗膜の劣化は光触媒活性があ るナノ材料が配合されている場合に一層著しいと考えられる。また、塗膜となる 樹脂の種類によっても劣化に対する耐性が違うことも考慮する必要があると考 えられる(なお、屋内用に使用される塗料の樹脂は、原則として熱可塑性アクリ ル系樹脂である)。 (ウ)したがって、塗料塗膜から工業ナノ物質が離脱・飛散する可能性を、建物用塗料 に関して評価することが適当と考えられる。 【今後実施する試験の概要:詳細については引き続き検討】 1.10年~15年程度の期間における建物用塗料の劣化状況を評価できる加速試験 を行う。 2.基本的には、紫外線・温度・結露/雨水の影響による劣化状況を評価できる試験と なるよう工夫する。。 3.室内用塗料及び屋外用塗料両方の劣化状況の評価に利用できるデータの取得を 目指す。 4.劣化試験は、試験用のサンプルを作成して行う。 5.試験サンプルに使用する工業ナノ物質は、実際に製造・販売されている塗料に含 有されている工業ナノ物質とする。工業ナノ物質の含有率は実存する製品の中で 182 最も高いものと同等とする。 6.試験サンプルに使用する樹脂は、室内用塗料・屋外用塗料に実際に使用されて いる樹脂とし、劣化耐性に違いがある複数の樹脂の評価に利用できるデータの取 得を目指す。 7.塗膜劣化に関して既に得られている文献等の公開情報については、試験結果の 妥当性の検証等に適宜活用する。 8.試験サンプルには、通常使用されている劣化防止剤を、実存する製品の中で最も 効果が小さいと考えられるものと同等程度添加する。 9.試験の主眼は、塗膜が年間どの程度(何μm)減耗するか及び露出した工業ナノ 物質が飛散するかの検証にあると考えられる。 ②工業ナノ物質を含有する塗料を市民(消費者)が使用している時に、誤って塗料が 手に付着して工業ナノ物質にばく露する可能性 以下の点を考慮しつつ引き続き評価を進める。 ・塗装作業頻度をどう見込めばよいか。 ・手に付着する数量は、片手の面積 A×単位面積当たりの付着量 B で良いか。 ・推定ばく露数量をヒトの体重当たり・1日当たりの数量に換算した上で比較すべ き基準値に何を用いることが適当か。 183 資料5 フラーレン含有エンジンオイル用添加剤 1.製品の概要 (1)自動車のエンジンオイル用の添加剤にフラーレンを含有する製品がある。 (2)この添加剤は、ベースオイルにフラーレン、有機溶媒、粘度指数向上剤、摩擦調 整剤、清浄分散剤を配合して製品としたものである。低フリクション、トルクアップ、 低燃費化等の性能向上に資するとされている。 (3)使用方法は、エンジンオイルの交換時にエンジンオイル数リットルに対して数百ミ リリットルを添加する(実際に販売されている添加剤としては、1回のオイル交換に 充填する4~6L のエンジンオイルに対して250mL の添加剤添加が推奨されてい る例など)ことにより効果を発揮するとされている。数百 mL 程度の缶・容器入りで 販売されている。 (3)フラーレン含有添加剤の製造・販売数量は不明である。 2.フラーレン含有添加剤の使用に伴う一般消費者のフラーレンへのばく露可能性等 (1)ばく露シナリオ ①エンジンオイル交換時に添加剤を添加すると想定する、エンジンオイルの交換 を年1回行うと仮定する。 ②添加剤添加時に誤って手指に付着すると想定する。 ③付着した添加剤に含有されるフラーレンが全量体内に吸収されると仮定する。 ④同取り込み量をヒトの体重当たり・1日当たりの体内摂取量に換算した上、現時 点で入手可能な許容ばく露濃度と比較して、健康リスクの可能性を考察する。 (2)具体的なばく露評価の内容 ①エンジンオイル添加剤が誤って付着する手の部分を片手の手のひら側の指の 表面積全体とし、それは片手の手のひらの面積210cm2(※1)の5割である 105cm2とする。 (※1)米国EPA 1989年版 EXPOSURE FACTORS HANDBOOK による。 ②エンジンオイルを年に1交換する際に、添加剤を添加すると想定する。 ③手に付着する添加剤の被膜の厚さは、鉱油中に手を浸漬させて手を拭かなかっ た場合の油膜の厚さ0.001187cm(※2)とする。 (※2)米国EPA 2011年版 EXPOSURE FACTORS HANDBOOK による。 ④添加剤の比重を0.9(実勢は0.87など)とする。 ⑤フラーレンの含有率上限値は、含有するフラーレンのみのコストが添加剤の販売 価格と同じになる含有率が1.1質量%(※3)であることを考慮し、2質量%とす る。 184 (※3)フラーレンの価格は現時点の定価で1500円/g。(メーカー情報) 一方、添加剤の価格は14400円/L(3600円/250mL)。(実製品の希望小 売価格。) 含有率Cは次の式から、1.1質量%以下となる。 フラーレン含有率C×1000mL×添加剤比重0.9×1500円/g≦14400 なお、特許文献(※4)によればフラーレンの添加率が0.005質量%以上 で添加効果があるとされている。 (※4)公開特許公報(A)特開2008-266501 ⑥作業者の体重を50kg とする。 ⑦指に付着した添加剤中のフラーレンは全量体内に吸収されると仮定する。 ⑧以上の前提でフラーレンの体内吸収量を推計すると、 片手の手のひら側の指の表面積×手に付着した添加剤被膜の厚さ×添加剤の 比重×添加剤中のフラーレン含有率×年間ばく露回数÷体重÷365日 =105×0.001187×0.9×0.02×1÷50÷365 =0.00000013g/体重 kg・日 =0.13マイクログラム/kg・日 ⑨以上のばく露量の推計に際して過大評価になっていると考えられる点は、次の 諸点である。 ・添加剤が手に付着した際に添加剤を拭き取って作業を継続すると想定す ると、添加剤の付着量は1/2以下(丁寧に拭き取った場合は1/5以下) になる(※2)と考えられる。 ・手に付着する添加剤被膜の厚さについて、添加剤中に手を浸漬した場合 の膜厚を採用している。(例えば、添加剤を染み込ませた布で手指を擦った 場合を想定すると、膜厚は1/10程度となる(※2)) ・手指に付着したフラーレンは、全量体内に吸収されると仮定している。 (3)毒性に関する知見 ①吸入ばく露経路 (ア)NEDOプロジェクト「ナノ粒子特性評価手法の研究開発」で提案されたフラ ーレンの一般大気環境におけるヒトの許容ばく露濃度(時限)0.014 mg/m3を、ヒトの呼吸量を20m3/日・肺の内部空間に吸入されたフラーレ ンは100%体内に吸収されるとの前提で、ヒトの体重あたり・1日当たりの 体内摂取量に換算すると、以下の通りとなる。 (イ)0.014×20÷50=0.0056mg/体重 kg・日 =5.6μg/体重 kg・日 ②経口ばく露経路 ラットにフラーレンC60を29日間経口で反復投与した試験が国立医薬品食 品衛生研究所により実施されている(※5)。 185 その結果によれば、ラットでの経口投与経路のNOAELは1000mg/kg・日 (以上)である。 (※5)Mika Takahashi et al. Sub-acute oral toxicity study with fullerene C60 in rats. The Journal of Toxicological Science ol.37No.2:353-361,2012 ③経皮ばく露経路 OECD ガイドライン化学物質毒性試験法ガイドライン410に準拠し、ラットにフ ラーレンを10mg/200μL/body/day で28日間経皮反復塗布した結果が報告さ れている(※6)。 その結果によると、貼付した皮膚には被験物質投与による変化は観察され ず、一般毒性学的指標においても生体へ悪影響を及ぼす変化は見られなか った。 (※6)研究代表者 堤 康央 「ナノマテリアルの経皮・吸入暴露実態の解析 基盤および経皮・吸入毒性評価基盤の確立とヒト健康影響情報の集積に 関する研究」 平成22年度厚生労働科学研究費補助金化学物質リスク 研究事業。 (4)推定ばく露量と毒性に関する知見との比較 推定ばく露量(経皮ばく露を想定)は、次のようなレベルにある。 (ア)吸入ばく露経路の一般大気環境におけるヒトの許容ばく露濃度(時限)の約 1/43 (イ)経口ばく露経路のラットのNOAELの約1/7690 (ウ)経皮ばく露経路で影響が生じなかった塗布量10mg/200μL/body/日をラッ トの体重を200グラム/匹として換算して得た数値50mg/kg・日の1/385 186 資料6 コピー印刷用トナーについて 1.トナーの供給・使用状況 トナーはコピー機やレーザープリンターで文字や写真の印刷のために使用される粉体の着 色複合材料であり、通常はプラスチックのカートリッジ(容器)に予め充填されて販売されてい る。トナーを使用する際は、そのカートリッジをコピー機等に装着することによりカートリッジ内 のトナーが密閉系でコピー機等に供給されるので、カートリッジ装着の際にトナーが飛散して コピー機等の使用者等がトナーにばく露することはほとんどない。 2.トナーによる印刷原理 トナーは、紙等の印刷媒体の表面にそれを文字の形等に静電気力によって付着させ、加 熱によってその印刷媒体に固着させることにより、文字等を印刷媒体上に印刷できる。 3.トナー粒子の実体 最も多用されている黒色トナーは、黒色のスス状粉体であるように見えるのでカーボンブラ ックそのものであるように誤解されがちであるが、実際には平均粒子径5-10ミクロン(500 0-10000nm程度の大きさのポリエステル等の樹脂粒子である。この樹脂粒子を詳述すれ ば、①樹脂中に着色剤(着色剤粒子の大きさは、いわゆるナノサイズ(平均粒子径が1-10 0nmの範囲)である模様。カーボンブラック他様々な色の着色剤がある。)、ワックス等の成 分を含有すると共に、②粒子の表面に帯電性能、耐熱性能等を制御するための外添剤とし てナノシリカ(平均粒子径は1-100nmの範囲)等の超微小粒子が埋没・接着している構造 となっている。 以上のように、トナーそのものはミクロンサイズの粉体でありナノサイズの粒子ではない。 187 図1. 複写機用トナーの粒度分布(出典:ベックマンコールター社 HP) 図2.複写機用トナーの構造 4.コピー印刷機使用や印刷物への接触によってトナー粒子にばく露する可能性 一方、コピー印刷機の使用や印刷物への接触によって一般市民がトナー粒子にばく露す るのではないかとの懸念に関しては、その懸念がないことを示す次の知見がある。 (1)コピー印刷機作動中にトナー中の固体成分の飛散がないことを確認した研究 ①BITKOM(※1)がスポンサーとなってドイツフラウンホーファー研究機構(※2)が実施し た「Measurement and characterization of UFP emissions from hardcopy devices in operation(作動中ハードコピー装置からの超微細粒子放出の測定及び特性分析)」(※ 3)と題する研究がなされている 188 ※1:Bundesverband Informationswirtschaft, Telekommunikation und neue Medien e.V。 SIEMENS や Deutsche Telekom などドイツ主要情報通信企業1,300社余が参画す る産業団体「情報経済・通信・新メディア連盟」。 ※2:1949年にドイツ政府・バイエルン州政府・学会・産業界が創設。ドイツ全土に5 6の研究所、米国に6の研究センター、アジアに3の研究センター(内1は日本) を有する。事業資金は、ドイツ連邦政府、各州政府、産業界から得ている。 ※3: http://www.wki.fraunhofer.de/content/dam/wki/de/documents/extras/BITKOM_Final%20 Report_January_2011_Abstract_print.pdf で概要の閲覧可能。 また、Final 版の本文は、ハノーファー大学図書館で閲覧可能。 ②この研究では、レーザープリンターから室内空気を汚染する浮遊粒子物質が排出されて いるとの認識の下に、レーザープリンターから排出される粒子に関する試験・計測手順 を確立すると共に、その手順に基づいて超微細粒子の粒子数濃度計測や成分分析を行 っている。 ③その背景として、ドイツには世界初のエコラベル制度であるブルーエンジェルラベル制度 があり、コピー機・プリンターのメーカーは自社製品へのラベル取得に熱心であることが 上げられる。 コピー印刷機等にブルーエンジェルラベルを取得しようとする場合は、揮発性有機化 合物、オゾン、重量ベースの粉じん放出等が基準値を満足する必要がある。一方、放出 があると見られている超微細粒子は、重量ベースで計測することができないため、上記 研究では粒子数濃度を計測して、それを基に重量ベースの粒子濃度を計算値として得 る手順を提案している。 ④この研究では参加した機器メーカー13社の装置 について、装置の稼働に伴う 超微細粒子の排出数や粒子径分布を「TSI社(※4)モデル3091高速モビリティパーティ クルサイザー(FMPS)スペクトロメータ」を使用して計測した。この装置を使用すれば、1 秒間隔で5.6~560nm の範囲の粒子個数濃度や粒子径分布を測定することができる。 ※4:TSI社。1961年に米国ミネソタ州に創設された計測機器メーカー。 この測定の結果に基づいて、印刷のためにレーザープリンターを30分間(10分間、3回) 稼働させた場合に放出されたと考えられる超微細粒子の総数が計算によって求められてい る。計算結果では、計測対象とした16種類のプリンターで排出された超微細粒子(揮発成分 と非揮発成分を含みうる)の総数は、全機種で10の11~12乗個程度(1000億個~1兆個 程度)となった。 問題は、これがトナーやそれに由来する物質なのか、また、工業ナノ物質を含むのかであ る。この点に関しては、超微細粒子を含んでいる排ガスをサーモデニューダー(※5)で処理し 189 た上で粒子計測器で分析した結果が示されている。 この分析で使用された粒子計測器は「TSI 社モデル3080走査式モビリティーパーティクル サイザー(SMPS)」で、この装置を使用すれば、7~200nm の大きさの粒子を、検出感度1個 /立方センチメートルで検出できる(※6)。 ※5:粒子状物質(液滴又は固体粒子)を含む試料ガスを加熱して、揮発する成分を 除去する装置。 排ガス中に含まれている超微細粒子中にカーボンブラックやナノシリカのよう な非揮発成分が含まれている場合は、サーモデニューダーの後の工程に設置さ れた粒子計測器で検出される。一方、超微細粒子が工業ナノ物質ではない通常 の化学物質である場合は加熱により揮発するので粒子計測器では検出されない こととなる。 ※6:http://www.t-dylec.net/products/tsi/tsi_3936.html による。 この分析の結果では、カーボンブラックやナノシリカのような非揮発性の「固体」成分は検 出されなかった。 ⑤一方、超微細粒子中の揮発性成分は、ガスクロマトグラフ/質量分析等によって、プリンタ ー中で潤滑剤として用いられている有機シリコン化合物、プリンター材料のプラスチック可 塑剤として用いられているカルボン酸エステル類等であることが確認されている。 (2)コピー印刷面の詳細分析結果 ①写真1はコピー印刷紙面を200倍に、写真2は2000倍に、写真3は6000倍に、拡 大した走査型電子顕微鏡写真である。トナーが融着して塗膜状になっていることが確 認できる。 190 【写真1:200倍】 【写真2:2000倍 】 【写真3:6000倍】 ②写真4(走査型電子顕微鏡写真。倍率20000倍)では白い斑点が見られ、これがトナ ーの外添剤として使用されているナノシリカ等である。写真4では、トナー粒子の主成 分であるプラスチック樹脂と外添剤とのコントラストが強く出るように撮影しているので 外添剤が浮き出しているように見えるが、通常のコントラストで撮影した写真5(走査 型電子顕微鏡写真。倍率20000倍)では、外添剤がプラスチック樹脂に埋没・接着し ていることが確認できる。 【写真4:20000倍】 【写真5:20000倍】 5.トナーカートリッジの廃棄・リサイクル状況 トナーカートリッジについては、各メーカーがリサイクルプログラムを策定し、回収した使用 済みトナーカートリッジに関しては、環境中に廃棄されることがないように、リサイクルや処理 を行っている。 191 資料7 リスク評価WGの中間まとめ(案) 1.国内外のナノ物質のリスク管理への取組み 2.本WGの検討範囲について (1)対象とするナノ物質 (2)労働安全分野・医薬品/食品分野は対象外 (2)環境動植物への影響は対象外 3.ナノ物質の有害性について (1)ナノ物質特有/共通の有害性はあるか (2)物質による違いはあるか―溶解性/形状 (3)その他の考慮事項―ナノ物質の定義/試験法におけるメトリクス/粒子凝集等 4.ナノ物質が使用された製品の現状 (1)ナノ物質を含有する製品に着目する理由 (2)ナノ粒子を使用した製品の現状 5.いくつかの製品のばく露評価等の試行(ケーススタディ) (1)ばく露可能性の観点からの製品の類型分類 (2)ケーススタディの結果 ①工業ナノ物質を含有し、最終製品が常温で液体、又は、流動体(ゲル状、粉体 等)であるもの (ア)プリントエレクトロニクス用インク(ナノ銀) (イ)室内用抗菌・消臭スプレー(ナノ銀) (ウ)塗料(二酸化チタン、シリカ、CB) (エ)印刷インク(酸化亜鉛、CB、シリカ) (オ)エンジンオイル添加剤(フラーレン) ②工業ナノ物質を含有するが、最終製品が常温で固体状態、又は、固有の形状 を持つ成型品であるもの (ア)タイヤ(CB、シリカ) (イ)コンポジット(CNT) (ウ)リチウム電池電極(CNT) (エ)トナー(CB、シリカ) 6.ケーススタディの結果から示唆されるリスク管理の進め方 192 2) 第5回リスク評価ワーキンググループ 第5回リスク評価ワーキンググループは、平成24年7月26日に開催され、委員 の内6名出席で行われ、以下の討議が行われた。なお、リスク管理検討会武林座長 が出席された。 議題: (1)第4回リスク評価WG議事要旨(案)の確認について (2)ケーススタディの結果について ①ケーススタディ結果に関するWG意見取りまとめ及び資料の公表について ②ケーススタディにおけるばく露シナリオの総括表について ③塗料について ④トナーについて ⑤自動車タイヤについて (3)その他 <配付資料> 資料1 第4回 リスク評価WG議事要旨(案) 資料2 ケーススタディ結果に関するWG意見取りまとめ及び資料の公表について 資料3 ケーススタディにおけるばく露シナリオの総括表 資料4 塗料について 資料5 トナーについて 資料6 自動車タイヤについて ①議題2:ケーススタディの結果に関する議論 資料2について、来週いっぱいまでに追加的意見をいただく(事務局より依頼メール を送付する)。 資料4:塗料について ・道路標識(特に高速道路)は、光触媒コーティング施工をしているものがあるので はないか? →確認する。 ・ナノ粒子使用量全部で年間30トン程度。この暴露がどの程度の大きさの問題なの か。調査は、費用との兼ね合いで線引きが必要ではないか。劣化実験は、他のも の(ナノ粒子の練り込みプラスチック等)の評価への発展性はあるか。 →本劣化実験規模は300万円程度。練り込みプラスチックへの利用可能と考えてい るが、実用品が少ない。一般塗料の塗膜劣化はおよそ5μm/年であるが、ナノ配 193 合塗膜の劣化試験結果は工業会にもないため、データ提供に資する。ナノ粒子に より、劣化を加速させたり、抑制したりするものがあるようである。 ・樹脂劣化の既存文献をチェックし、放出量がどの程度になりそうかについて整理し てほしい。暴露限界量と大きな開きがあれば、わざわざ劣化試験を行う必要がな い。 →8月 WG までに詳細整理して、提出する。 資料5:コピー印刷用トナーについて ・トナーが健康被害で裁判になっている。文章の前のほうでこのようなことを記述す べきである。健康被害に関する報告が、ナノトキシコロジーに掲載されるのでその 内容を確認して記述すべきである。 →フラウンホーファーの結果がどう扱われているかを含め、8月までに確認する。 ・訴訟理由はサービスマンの接触性皮膚炎、吸入性気管支炎のはず。報道ではナ ノとしているが、ナノではないはず。オーストラリアの文献では、以前はナノ粒子の 飛散があるといっていたが、現在は揮発性凝集体であると言っている。 →外添剤は、性能に影響があるので、トナー粒子上に付着しており、全くではない が外れない。また、たとえ外れても極微量であり、健康への影響はないだろう。 ・写真(融着)では、事象が100%そうなっているか証明できないので、証明力に問 題がある。写真は無くてよいのではないか。 →別の角度から融着を証明できないか、検討する。 ・融着が問題なのか?どこかでナノ粒子が外れて出てくるのか?商品の問題として 扱うのか、リスクの問題として扱うのか注意が必要。 ・シュレッダーにかけた際の飛散はないか? →基本的には、紙粉と考えている。樹脂をやすり掛けした論文があり、ナノサイズで はないナノ粒子が埋め込まれたプラスチック粉として出てくる。 ・エコマークシステムで再資源化率95%以上とあるが、残りはどうなっているか。エ コマークの認定基準は今の目的に合っていないのではないか。 資料6:自動車タイヤについて ・吸入試験の暴露濃度の上限100μg/m3の設定根拠が記されていない。 →本論文には記載されているかも知れないが現時点では分からない。 ・暴露試験に使用した粒子は、ナノ粒子が単独で含まれているのか疑問である。ナ ノの試験でないかもしれない。 →呼吸域より大きいものは除去している。36μm フィルター使用。 ・ナノ粒子がラジカル同士で結合し、こわれないと書いている。詳しく書いているが、 どこまでがナノか分からなくなる。二次粒子の分布を示されても、一次粒子がナノ の場合もある。比表面積を測っているか。 ・天然ゴムとカーボンブラックのゲルにおいて、炭素の共有結合が形成されていると 194 しているが、正しいのか?こんなに簡単に起こるか疑問である。 以下に、配布された資料の内、検討に用いられたものを示す。 195 資料 2 ケーススタディ結果へのWG意見とりまとめと公表について 1.個々のケーススタディ資料に関してWGから頂きたいご意見について (1)ケーススタディ資料中の記述で、「暴露がない」、「リスクがない」などの結論が得 られないため記述できないと考えられる点がある場合は、ご指摘いただき資料を見直 す。 (2)ケーススタディ資料について、次の①~④の点に関して更にWGとしてのコメント を頂く。 ①ケーススタディ資料の中で参照している情報の出典が適切に記載されているか、 不十分な点はないかに関するご意見。 ②今回のスタディにおいて検討しなかった暴露シナリオに引き続き検討すべき点が 残っていないかどうかに関するご意見 ③簡易なリスク考察にまで言及しているケースに関しては、今後のリスクマネージ メント策等に関する意思決定を行うために必要な、引き続きの課題に関するご意 見。 ④修正後のケーススタディ資料の記述内容が客観的であり妥当と考えられるかど うかに関するご意見。 2.ケーススタディ資料の公表について 修正版のケーススタディ資料に上記1(2)のWG意見を添付して公表する。 196 資料 3 ケーススタディにおけるばく露シナリオの総括表 ナノ粒子の存在類型 ナノ粒子放出シナリオ 評価 (連続的・反復的使用時) ○機械的 ・磨耗に伴う放出 ◎■ ・切断・破断・破壊、等に伴う放出 × ○物理・化学的 ・溶出(薬品・洗剤、手油・唾液等との化学反応によるマトリックスの溶解)に伴う放出 × ・溶出(加熱によるマトリックスの溶解による)に伴う放出 × 固体内にナノ粒子が存 ・燃焼に伴う飛散(マトリックスの燃焼による)に伴う放出 在する場合: ナノコンポジット (突発的・イレギュラーな使用時) 成型品 ●具体例:タイヤ ○機械的 × ・磨耗、切断・破断・破壊等に伴う放出 × ・タイヤに手で触れる × ○物理・化学的 ・溶出(薬品・洗剤、手油・唾液等との化学反応によるマトリックスの溶解)に伴う放出 × ・溶出(加熱によるマトリックスの溶解)に伴う放出 × ・燃焼(マトリックスの燃焼)に伴う放出 × (連続的・反復的使用時) ・取り扱い中に塗料に接触 ○□ 流体内にナノ粒子が存 ・塗装後の固化前の塗膜に接触 在する場合: ・固化した塗膜に接触(特に塗膜が劣化した場合)及び劣化した塗膜から遊離 その2(調剤型2) ●具体例:塗料 (突発的・イレギュラーな使用時) × ○□ ・こぼした塗料に接触 × ・誤飲 × (連続的・反復的使用時) ・コピー機の稼働に伴い固体微細粒子が排出 特殊な場合:ミクロンサ ・コピー印刷物の未融着トナーに接触 イズ粒子の表面にナノ サイズ粒子が接着・埋 ・トナーカートリッジ取替え時にトナーへの接触 没 ・紙づまり(ジャム)処理時に紙上の未溶融トナーに接触 ●コピー機のトナー (突発的・イレギュラーな使用時) ・カートリッジ取替え時に漏れる(不注意で落とし、カートリッジ破損) (注)「評価」欄の記号は次の意味 ◎:本日のWG資料でばく露可能性を考察、○今後ばく露可能性を考察する予定 ■:本日のWG資料で健康リスクを考察、 □今後健康リスクを考察する予定 △:本日のWGでばく露可能性に簡単に言及 ×:WGでばく露可能性や健康リスクを考察することを予定していない 197 ◎ ◎ △ △ △ 資料 4 塗料について 1.塗料 (1)成分 塗料は一般に、塗膜となる樹脂(バインダー)に、顔料、溶剤(水性塗料の場 合は水)の他、紫外線安定剤、工業ナノ物質等の副材料が混合された混合物状 態で製品となっている。 (2)塗料の用途と工業ナノ物質の配合 ①塗料の用途としては、自動車用・建物用が4割強と大きく、これらの用途の塗 料に工業ナノ物質を配合している製品がある。 ②他の用途に構造物(橋梁、タンク他)用、金属製品用、船舶用等がある。これ ら の用途で工業ナノ物質が配合されている製品はない。 ③また、道路の標識のために用いられる白色塗料は顔料サイズ(平均粒子径数 百 nm)の二酸化チタンが配合されている。(ナノサイズの二酸化チタンは、白 色ではなく透明になってしまい、意味が無いので道路標識用塗料には使用さ れない。) (3)工業ナノ物質を含有する塗料 ①自動車用の塗料では従来の塗料にない色調を示す機能(塗装面を見る角度 によって光沢や色の鮮度・深みが変化する)を付与する目的で二酸化チタン が、また、建物用の塗料では耐候性の向上や汚れ防止機能を付与する目的 でシリカが添加されている塗料がある。また、黒色塗料には、通常カーボンブ ラックが配合されている。 ②工業ナノ物質の含有率は、自動車用塗料で5~10重量%程度、建材用で10 重量%程度(いずれも塗料の非揮発成分重量に対する比率)の製品が見受 けられる。 ③自動車用塗料は年間10トン程度、建物用塗料は年間300トン程度国内で製 造・出荷されている。 2.建材用コーティング剤 (1)成分 塗膜となる樹脂、溶剤、光触媒(二酸化チタン)等の混合物である建材用コー ティング剤がある。 (2)用途 主に防汚効果を付与する目的で、屋根材、壁材等の表面にコーティング剤を 198 塗布している建材が見受けられる。 (3)塗料とコーティング剤との相違点 塗料とコーティング剤では以下のような相違点があるので、引き続き劣化試 験の実施等に際しては留意する必要がある。 ①配合される工業ナノ物質: 塗料 シリカ・カーボンブラック、 コーティング剤 二酸化チタン ②バインダー 塗料 主にアクリル系 コーティング剤 アクリル系・フッ素系・シリコーン/シリケート系 ③塗装・コーティングにより生ずる被膜の厚さ 塗料 数十μm コーティング剤 数十 nm~数μm (4)一般市民が塗料又はコーティング剤中の工業ナノ物質にばく露する可能性が 考えられるのは、次のようなケースだと想定される。 ①工業ナノ物質を配合した塗料・コーティング剤を塗布した後で、工業ナノ物質 が塗膜表面から離脱し、又は、経年劣化により塗膜の樹脂が減耗し、工業ナ ノ物質が露出して飛散する可能性 ②工業ナノ物質を配合した塗料を市民(消費者)が使用している時に、誤って塗 料が手に付着して工業ナノ物質にばく露する可能性 3.これらの可能性について、以下で考察する。 (1)工業ナノ物質を配合した塗料コーティング剤を塗布した後で、工業ナノ物質が 塗膜表面から離脱し、又は、経年劣化により塗膜の樹脂が減耗し、工業ナノ物 質が露出して飛散する可能性 ①塗料 (ア)自動車用塗料 ○自動車用の塗装では最外層に耐候性が非常に高いクリアー塗膜(高い強度 の熱硬化性アクリル系樹脂)が塗布されている。(クリアー塗膜層には工業ナ ノ材料は含まれていない) このクリアー塗膜の強度については、自動車工業 会から塗料工業会に10年以上の寿命が要求されており、実際にはこの要求 が満たされていると言われている。 工業ナノ材料を含む塗膜層はクリアー塗膜層の下層にあり、クリアー塗膜 層が破壊されない限り外気に晒されることはないので、自動車の塗装から工 業ナノ材料が一般市民にばく露したり、環境中に排出されることは非常に考え にくい。 199 ○工業ナノ物質を配合した自動車用塗料の製造数量は年間10トン程度、配合 されている工業ナノ物質の数量としては年間1トン程度である。この塗料の供 給メーカーは3社あり、ここ数年の供給数量は各社とも漸減傾向にある。これ は、工業ナノ物質を配合する目的である独特の色調を出す機能が他の技術 によって代替できるようになってきたためであると考えられる。 ○以上の状況を考慮すると、工業ナノ材料を配合した自動車用塗料に関して、 塗膜からの工業ナノ物質の露出・飛散により一般市民が工業ナノ物質にばく 露する可能性に関して実験的な検証を行う必要性は低いと考えられる。 (イ)建物用塗料 ○一方、建物用の塗装は、自動車塗装とは異なりクリアー塗膜層が通常は塗布 されない。このため、工業ナノ物質を含む塗膜層が最外層となって外気に晒さ れる。 ○したがって、塗膜層の表面に存在している工業ナノ物質が離脱する可能性や、 工業ナノ物質を含む塗膜層が紫外線、雨水等により劣化し、含有されている 工業ナノ物質が露出・飛散する可能性が考えられる。なお、塗膜となる樹脂の 種類によって劣化に対する耐性が違うことも考慮する必要があると考えられ る。 ○工業ナノ物質を配合した建物用塗料の製造数量は年間300トン程度、配合さ れている工業ナノ物質の数量としては年間30トン程度である。この塗料の主 要メーカーは2社あり、ここ数年の供給数量は全体として増加傾向にある。 (ウ)劣化試験の評価対象 したがって、塗料塗膜から工業ナノ物質が露出・飛散する可能性について、 建物用塗料に関して評価することが適当と考えられる。 ②建材用コーティング剤 (ア)建材用コーティング剤は9割程度が屋根材や壁材などの外装材に使用され る。一部は壁紙等内装用の建材に使用されている。 (イ)工業ナノ物質としては光触媒である二酸化チタンが配合される。光触媒はコー ティング膜劣化作用が強いので、バインダーには通常強靭性の高いものが使 用され、また、コーティング膜劣化を軽減するために二酸化チタン粒子の表面 を加工して活性を低減する等の工夫がなされている。 (ウ)工業ナノ物質がコーティング膜表面から離脱し、又は、経年劣化によりコーテ ィング膜の樹脂が減耗し、工業ナノ物質が露出して飛散する可能性について は、建物用塗料と同様に評価することが適切と考えられる。 200 【今後実施する劣化試験の概要:詳細については引き続き検討】 (i)試験の対象 建物用塗料及び建材用コーティング剤について、実製品における工業ナノ物質 の配合率等を考慮して、モデル塗料・モデルコーティング剤を調合して試験に用い る。 塗料についてはシリカ、カーボンブラックを配合したモデル塗料、コーティング剤 については二酸化チタンを配合したモデルコーティング剤を試験対象とする。 (ii)塗膜状態等の評価期間 塗装・コーティング直後、5年後、10年後、更に通常の耐用年数を超える15年後ま での4時点における塗膜の状況等を分析・評価できるサンプルが得られるように、 試験サンプル(試験板にモデル塗料・モデルコーティング剤を塗布)を作成して試 験を行う。 (iii)計測・評価事項 (a)紫外線照射、結露・雨水、温度変化による塗膜劣化現象を加速的に起こすこと ができる試験装置を用いて試験を実施する。 (b)計測・観察は、塗膜の変化状態(膜厚の減少他塗布初期からの変化、電子顕微 鏡観察を含む)、工業ナノ物質の塗膜表面における存在状態、塗膜表面に存在す る工業ナノ物質に手で触れた場合にそれが手に付着する数量、塗膜表面に存在 する工業ナノ物質がナノ粒子として飛散するのかナノ物質を含有するバインダー 樹脂(粉)として剥離するのか等に関して実施する。 (c)以上の計測結果を踏まえて、塗料・コーティング剤の塗膜表面からの工業ナノ物 質へのヒトのばく露に関して評価する。その際、第一に工業ナノ物質の手に対す る付着、第二に工業ナノ物質の飛散に関して考察する。 (iv)その他 (a)塗料・コーティング剤は外装用が主体であるが、内装用の事例がある場合は外 装用との差異を考慮して試験・評価を行う。 (b)工業ナノ物質の含有率は実存する製品の中で最も高いものと同等とする。 (c)試験サンプルに使用する樹脂は、塗料・コーティング剤に実際に使用されている 樹脂とし、劣化耐性に違いがある複数の樹脂が実用されている場合は樹脂の種 類による差異の評価に利用できるデータの取得を目指す。 (d)紫外線安定剤・酸化防止剤については、通常使用されているものの中から、実 存する製品の中で最も効果が小さいと考えられるものと同等程度添加する。 (e)塗膜劣化に関して既に得られている文献等の公開情報については、試験結果 の妥当性の検証等に活用する。 201 (2)工業ナノ物質を含有する塗料・コーティング剤を市民(消費者)が使用している時 に、塗料・コーティング剤が誤って手に付着して工業ナノ物質にばく露する可能性 以下の点を考慮しつつ引き続き評価を進める。 ①塗装/コーティング作業頻度をどう見込めばよいか。 ②手に付着する数量は、片手の面積 A×単位面積当たりの付着量 B 程度で良 いか。 ③推定ばく露数量をヒトの体重当たり・1日当たりの数量に換算した上で比較す べき基準値に何を用いることが適当か。また、比較した結果はどうか。 202 資料 5 コピー印刷用トナーについて 1.トナーの供給・使用状況 (1)トナーはレーザープリント方式の印刷に使用される粉体の着色複合材料であり、レーザ ープリンター機能を内蔵しているコピー機や、レーザープリンターに装備して、文字や写真 の印刷のために使用される。 (2)トナーは、通常はプラスチックのカートリッジ(容器)に予め充填されて販売されている。 (3)トナーを使用する際は、そのカートリッジをコピー機等に装着することによりカートリッジ内 のトナーが密閉系でコピー機等に供給される。 2.トナーによる印刷原理 トナーを用いるレーザープリンティングでは、紙等の印刷媒体の表面にトナーを文字の形等 に静電気の力によって付着させ、加熱によってその印刷媒体に固着させることにより、文字 等を印刷媒体上に印刷できる。 3.トナー粒子の実体 (1)最も多用されている黒色トナーは、黒色のスス状粉体であるように見えるのでカーボンブ ラックそのものであるように誤解されがちであるが、実際には平均粒子径5-10ミクロン (5000-10000nm)程度の大きさのポリエステル等の樹脂粒子である。 (2)この樹脂粒子を詳述すれば、 ①樹脂中に着色剤(着色剤粒子の大きさは、いわゆるナノサイズ[平均粒子径が1-100 nmの範囲]。カーボンブラック他様々な色の着色剤がある。)、ワックス等の成分を含有 すると共に、 ②粒子の表面に帯電性能、耐熱性能等を制御するための外添剤としてナノシリカ(平均粒 子径は1-100nmの範囲。多くの場合数十 nm。)等の超微小粒子が埋没・接着してい る構造となっている。 (3)トナーによる印刷原理は加熱して紙等に定着させる点で各メーカーで同一であり、トナー 粒子の構造も、各メーカーとも樹脂粒子内部に離型剤・着色剤・荷電制御剤が含有され、 樹脂粒子表面に外添剤が接着されている点で基本的に同じである。 (4)以上のように、トナーそのものはミクロンサイズの粉体でありナノサイズの粒子ではない。 (図1にトナーの粒子径分布の事例、図2に複写機用トナーの基本構造を示す。) 203 図1. 複写機用トナーの粒度分布(出典:ベックマンコールター社 HP) 図2.複写機用トナーの基本構造 4.一般市民がトナー粒子にばく露する可能性 (1)工業ナノ物質へのばく露とトナーへのばく露 ①正確に言えば、トナー粒子へのばく露の問題ではなく、トナーの外添剤に使用されてい る工業ナノ物質が遊離・飛散してヒトがばく露するかどうかの問題である。 ②しかしながら、次の理由から、ここではトナーへのばく露の可能性に関して考察すること とする。 (ア)ヒトがトナーにばく露する機会があれば外添剤にもばく露している可能性が否定 204 できないこと、 (イ)外添剤はトナー樹脂の表面に埋没・接着している状態にあり、また、加熱融着プ ロセスも経るので、外添剤が遊離・飛散することが考えにくいこと、 (2)一般市民のトナーへのばく露に関して考え得るシナリオ 以下のシナリオが考えられるが、本ケーススタディにおいては、コピー機・プリンターの通 常使用により日常的に繰り返して発生する可能性があると考えられる②、④、⑥に関し て考察する。 ①トナーカートリッジを装着する際に、カートリッジを落とすなどして(破損し)、トナーが漏 出・飛散して暴露する。 (ア)トナーメーカーに対してこの種のクレームが顧客から寄せられることはない。 ②コピー機・プリンター稼働時の排気中の微細粒子にトナーや外添剤が混ざっており、そ れにばく露する。 (ア)この点については4.(3)で関連情報を整理する。 ③コピー機の不具合によってコピー用紙などへのトナーの融着が不十分になり、融着しな かったトナーに暴露する。 (ア)紙詰まりが起こるとプリンタが停止してトナーも供給されないため、融着していな いトナーが一部に残っている可能性があるペーパーが1枚発生するだけである。 (イ)もしユーザーがユーザーが簡単に修理できないような紙詰まりが発生した場合 は、サービスマンが修理することになるため、ユーザーのばく露は問題にならな いと考えられる。 ④コピー印刷をした際のトナーの融着が十分でなく、トナーの一部が融着せずに残存して それに暴露する。 (ア)トナーの融着性については印刷物の仕上がりに大きく影響するので、各社がトナ ー樹脂の融着温度や最適融着のための加熱条件を詳細に解析し、コピー機や プリンターの電熱部がトナー融着に必要な温度になるまで印刷がスタートできな い設計にするなど万全を期している。 (イ)紙などへのトナー融着面の状態については、2.(4)で関連情報を整理する。 ⑤トナーカートリッジをコピー機から脱着する際に、トナーが手に付着して暴露する。 (ア)カートリッジをコピー機から外した状態ではトナーが漏出しない構造となっている こと、カートリッジのコピー機からの脱着はそれほど頻度の高い作業ではないと 考えられること等から、本ケーススタディでは更に具体的な評価は行っていな い。 ⑥トナーカートリッジがプラスチックゴミとして廃棄され、最終廃棄までの過程で残存してい るトナーにヒトが暴露したり、残存しているトナーが一般環境に排出されたりする。 (ア)トナーカートリッジの廃棄・リサイクル状況については、5.で関連情報を整理す 205 る。 (3)シナリオ(2)②:コピー機・プリンター稼働時の排気中の微細粒子にトナーや外添剤が混 ざっており、それにばく露する可能性について コピー印刷機作動中にトナー中の固体成分の飛散がないことを確認した研究(※1)が、 BITKOM(※2)がスポンサーとなってドイツフラウンホーファー研究機構(※3)により実 施されている。 この研究は、BITKOMがドイツ連邦環境・自然保護・原子力規制省(BAM)のオファー に対応して2年に亘って実施したものであり、研究計画段階から最終結果とりまとめにい たるまで、BAMの専門家と協議しつつ進めたものである。 また、研究結果については、ドイツ水・土壌・空気衛生協会がドイツ環境庁(UBA。BAM の下部組織)と共催した「第18回 室内空気品質会議(WaBoLU)」(2011年5月30日~6月 1日)で発表されている。 ドイツ環境庁ではこの研究結果をコピー機の排気性能に係るエコラベルの新基準値の 検討に活用している。(※4) ※ 1:「Measurement and characterization of UFP emissions from hardcopy devices in operation(作動中ハードコピー装置からの超微細粒子放出の測定及び特性分析)」 ※ 2:Bundesverband Informationswirtschaft, Telekommunikation und neue Medien e.V。 SIEMENS や Deutsche Telekom などドイツ主要情報通信企業1,300社余が参画する産 業団体「情報経済・通信・新メディア連盟」 ※ 3:1949年にドイツ政府・バイエルン州政府・学会・産業界が創設。ドイツ全土に56の 研究所、米国に6の研究センター、アジアに3の研究センター(内1は日本)を有する。 事業資金は、ドイツ連邦政府、各州政府、産業界から得ている。 ※ 4:http://www.bitkom.org/de/presse/62013_57385.aspx(BITKOM によるプレス発表[ド イツ語]) http://www.bitkom.org/files/documents/BITKOM-PressInfo_Study_WKI_engl_14_01_2011.p df(BITKOM によるプレス発表[英語]) 以下ではこの研究結果の概要を紹介する。 ①この研究では、レーザープリンターから室内空気を汚染する浮遊粒子物質が排出されて いるとの認識の下に、レーザープリンターから排出される粒子に関する試験・計測手順 を確立すると共に、その手順に基づいて超微細粒子の粒子数濃度計測や成分分析を行 っている。 ②その背景として、ドイツには世界初のエコラベル制度であるブルーエンジェルラベル制度 があり、コピー機・プリンターのメーカーは自社製品へのラベル取得に熱心であることが 上げられる。 コピー印刷機等にブルーエンジェルラベルを取得しようとする場合は、揮発性有機化合 物、オゾン、重量ベースの粉じん放出等が基準値を満足する必要がある。一方、放出が あると見られている超微細粒子は、重量ベースで計測することができないため、上記研 206 究では粒子数濃度を計測して、それを基に重量ベースの粒子濃度を計算値として得る 手順を提案している。 ③この研究では参加した機器メーカー13社(※5)の主力コピー機・プリンターについて、メ ーカーが推奨する標準装備のトナーを使用して装置を稼働させた場合の超微細粒子の 排出数や粒子径分布を「TSI社(※6)モデル3091高速モビリティパーティクルサイザー (FMPS)スペクトロメータ」を使用して計測した。この装置を使用すれば、1秒間隔で5. 6~560nm の範囲の粒子個数濃度や粒子径分布を測定することができる。 ※ 5:キヤノン、エプソン京セラ、ブラザー、ゼロックス、東芝、シャープ、リコー、 コニカミノルタ、Lexmark、HP、SAMSUNG、OCE。 我が国におけるコピー機・プリンター市場でこれらメーカーのシェア合計は約7割 であり、標準装備トナーもEUの場合と同様であるので、この研究の結果は我が 国でのコピー機・プリンター及びトナーの使用実態にも当てはまると考えられる。 ※ 6:1961 年に米国ミネソタ州に創設された計測機器メーカー。 ④この測定の結果に基づいて、印刷のためにレーザープリンターを30分間(10分間、3 回)稼働させた場合に放出されたと考えられる1時間当たりの超微細粒子の総数が計算 によって求められている。計算結果では、計測対象とした26種類のプリンターで排出さ れた超微細粒子(揮発成分と非揮発成分を含みうる)の総数は、全機種で10の10~1 2乗個程度(100億個~1兆個程度)となった。 ⑤問題は、これがトナーやそれに由来する物質なのか、また、工業ナノ物質を含むのかで ある。この点に関しては、超微細粒子を含んでいる排ガスをサーモデニューダー(※7) で処理した上で粒子計測器で分析した結果が示されている。 この分析で使用された粒子計測器は「TSI 社モデル3080走査式モビリティーパーティクル サイザー(SMPS)」で、この装置を使用すれば、7~200nm の大きさの粒子を、検出感 度1個/立方センチメートルで検出できる(※8)。 ※ 7:粒子状物質(液滴又は固体粒子)を含む試料ガスを加熱して、揮発する成分を除 去する装置。 排ガス中に含まれている超微細粒子中にカーボンブラックやナノシリカのような非揮 発成分が含まれている場合は、サーモデニューダーの後の工程に設置された粒子 計測器で検出される。一方、超微細粒子が工業ナノ物質ではない通常の化学物質 である場合は加熱により揮発するので粒子計測器では検出されないこととなる。 ※ 8:http://www.t-dylec.net/products/tsi/tsi_3936.html による。 ⑥この分析の結果では、カーボンブラックやシリカのような非揮発性の「固体」成分はコピ ー機・プリンターからの排気中には検出されなかった。 ⑦一方、超微細粒子中の揮発性成分は、ガスクロマトグラフ/質量分析等によって、プリン ター中で潤滑剤として用いられている有機シリコン化合物、プリンター材料のプラスチッ ク可塑剤として用いられているカルボン酸エステル類等であることが確認されている。 (2)シナリオ④:コピー印刷をした際のトナーの融着が十分でなく、トナーの一部が融着せず に残存してそれに暴露する可能性について 以下の顕微鏡写真は、国内で最も販売数量が多いトナーを標準トナーとしているコピー 207 機で印刷した印刷物の表面を観察したものである。 前述のようにトナーの基本構造はメーカーが違っても同様であること、世界に市場を持 つコピー機の印刷仕上がりに問題があるとコピー機自体の競争力に著しく影響するため 各メーカーはトナーの融着性に細心の注意を払っていること等から、以下に示した融着 状態は他のトナーやコピー機・プリンターにも当てはまるものと考えられる。 ① 写真1はコピー印刷紙面を200倍に、写真2は2000倍に、写真3は6000倍に、拡大 した走査型電子顕微鏡写真である。トナーが融着して塗膜状になっていることが確認 できる。 【写真1:200倍】 【写真2:2000倍 】 【写真3:6000倍】 ②写真4(走査型電子顕微鏡写真。倍率20000倍)では白い斑点が見られ、これがトナー の外添剤として使用されているナノシリカ等である。写真4では、トナー粒子の主成分で あるプラスチック樹脂と外添剤とのコントラストが強く出るように撮影しているので外添剤 が浮き出しているように見えるが、通常のコントラストで撮影した写真5(走査型電子顕 微鏡写真。倍率20000倍)では、外添剤がプラスチック樹脂に埋没・接着していること が確認できる。 208 【写真4:20000倍】 【写真5:20000倍】 5.トナーカートリッジの廃棄・リサイクル状況 (4.(2)⑥関連) (1)使用済みトナーカートリッジは、コピー機・プリンター機器のメーカーによる自主回収~再 資源化、およびリサイクル専門業者による回収~再生カートリッジとしての販売が行わ れている。これらから、使用者自身による廃棄処分はごく少ないと思われる。 (2)商品のライフサイクル全体を通して環境への負荷が少なく、環境保全に役立つと認めら れる商品に付けられる環境ラベルである日本環境協会のエコマークにおいてトナーカー トリッジは認定製品であり、多くの機器メーカーおよびリサイクル専門業者はトナーカート リッジのエコマークを取得しているのが実態である。 トナーカートリッジのエコマーク認定基準では、「回収およびマテリアルリサイクルのシス テムがあること」や、「回収したトナーカートリッジは、再資源化率95%以上、再資源化で きない部分は適正処理」が求められているため、回収・再資源化の取り組みは進んでお り、単純廃棄や埋め立ては極めて少ない。 (3)またトナーカートリッジは国の“グリーン購入法“の対象品目にもなっている。使用済みト ナーカートリッジの回収・再資源化の認定基準はエコマークと同等の内容が求められて おり、その点からも業界各社のトナーカートリッジ回収と再資源化の取り組みは進んでい る。 209 資料 6 自動車タイヤについて 1.自動車タイヤの特徴 (1)自動車タイヤの基本構造 ①タイヤは基本的に図1に示す8つの部位から構成されている。 ②トレッド部等のゴム層(補強剤等の様々な副成分を含有)をスチールワイヤー等で補強し た構造を持っており、空洞部(タイヤの内側)には空気透過性の少ないゴム(インナーラ イナー)を貼り付けた構造(チューブタイヤの場合はチューブを使用)。乗用車用とトラック 用のタイヤは概ね同一の構造、構成物質から成る。 図1 タイヤの構造と部位の名称 ⅰ)トレッド部 タイヤが路面と接触する部分の厚いゴム層をいう。路面等からの衝撃や外傷から内部のカ ーカスを保護するとともに、摩耗寿命延長の役目をしている。また、各種のトレッドパターンが 刻み込まれている。 ⅱ)ショルダー部 トレッドとサイドウォール間(肩部)のゴム層をいう。カーカスを保護するとともに、走行時に発 生する熱拡散の役目をしている。 ⅲ)サイドウォール部 210 ショルダーとビード間のゴム層をいい、カーカスを保護する役目をしている。また、タイヤの寸 法、製造会社名等が表示されている。 ⅳ)コード タイヤの内部でカーカスやベルト等を形成している“ヨリ”を与えられた繊維(あるいは金属線 等)をいう。 ⅴ)カーカス ゴムで被覆したコードを貼り合わせ、層としたものをいう。タイヤの骨格となっており、カーカス 配列のタイプにより、ラジアル(放射状)とバイアス(斜め)とがある。 ⅵ)ベルト ラジアルタイヤのトレッドとカーカス間のコード層をいう。カーカスを桶のタガのように強く締め 付けてトレッドの剛性を高める働きをしている(バイアスタイヤでは、トレッドとカーカス間のコ ード層をブレーカといい、路面からの衝撃を緩和し、トレッドに受けた外傷が直接カーカスに 達することを防ぐとともに、トレッドとカーカスの剥離防止の役目をしている)。 ⅶ)インナーライナー チューブレスタイヤの内面に貼り付けられた気密保持性の高いゴム層をいう。 ⅷ)ビード部 スチールワイヤー(鋼線)を束ね、ゴムで被覆したリング状の補強部をいう。空気を充填したと きに、タイヤをリムに固定する役目をしている。 (2)タイヤの製造プロセスは、概ね次のように3つの工程に分けられる ①ゴム練り バンバリーミキサーでゴム(天然ゴム・合成ゴム)と薬品(補強材・硫黄・老化防止剤等) を混ぜて練り、トレッド用ゴム、カーカス用ゴム、ビード用ゴム等を作る。 ②パーツ作成 タイヤの構成パーツであるトレッド部分・カーカス部分・ビードワイヤー部分を作成する。 トレッド用ゴムは、押出機で板状に押し出され、タイヤ1本分のサイズに切断される。 ③組み立て等 パーツの組み立て、パターン・刻印、検査を行う。 (3)自動車タイヤの数量と種類 ①タイヤの生産数量は2010年で159百万本であり、乗用車用79%、トラック(小形 含む)・バス用タイヤ21%となっている。バス・トラック用のタイヤもゴム層の構成 物質の種類や配合比は乗用車用タイヤとほとんど同じである。 ②気候によって適するタイヤは異なっており、夏用タイヤ、冬用タイヤ(スタッドレスタイヤ、 スノータイヤ)がある。一般的には、一年を通じて夏用タイヤが使用されるが、冬季の降 雪地域では冬用タイヤが使用されることが多い。 211 (4)自動車タイヤの原材料 ①タイヤの原材料としては、SBR(スチレンブタジエンゴム)等のゴム成分の他、補強剤(カ ーボンブラック・シリカ)、硫黄、加硫促進剤、老化防止剤、オイル成分等が使用されてい る。 ②表1に最新の原材料配合構成を示す。 表1.タイヤ原材料の配合構成 (注)数字は、新ゴム重量を100とした場合の他の原材料の重量比を示す。 出典:タイヤの LCCO2算定ガイドライン Ver.2.0(2012年4月)、一般社団法人 日本 自動車タイヤ協会 (5)タイヤ補強剤としてのカーボンブラック等の配合 ①工業ナノ物質であるカーボンブラック、シリカはゴム層の補強剤として使用されている。 補強剤を使用しなければ、タイヤとしての強度が全く確保できず使用できない。シリカは ゴムの補強剤として機能し、また、転がり抵抗性能(制動性能と二律背反)を向上させつ つ制動性能を確保する効果等がカーボンブラックに比べて優れていると言われてる。 ②表1の通り、補強剤としては通常カーボンブラックとシリカが併用されるが、汎用タイヤに 対して低燃費タイヤではシリカの配合比が高い。(表1の汎用タイヤを「カーボンブラック 212 配合タイヤ」、低燃費タイヤを「シリカ配合タイヤ」と呼ぶことがある。)」 2.自動車タイヤ中の工業ナノ物質へのばく露可能性等の評価 (1)タイヤ粉じんと工業ナノ物質 ①前述したタイヤゴム層の主体であるトレッド部は、自動車走行に伴う路面との摩擦によっ て磨耗し、タイヤ由来の粉じん(PM)を生ずる。 ②タイヤゴム層には前述のように工業ナノ物質が含有されているので、この粉じんは何で あるのか(特に工業ナノ物質そのものが飛散しているのかどうか)、ヒトの健康への影響 はどうなのか等の疑問に関して現時点で得られる知見を整理し、その結果を開示するこ とにより、タイヤ使用に伴う人への影響に関して理解を深めることが重要であると考えら れる。 (2)タイヤ走行に伴う粉じんの粒子径、組成等 ①以下の状況でタイヤの使用に伴って発生する粉じんを捕集・分析した結果が報告されて いる(※1) ※1:M.L.Kreider et al,Science o9f the Total environment 2010,408,652-659 (ア)道路を実際に走行する乗用車及びトラックに粉じん捕集装置を取り付けて発生粉じ ん(RP:roadway particles)を捕集。 (ⅰ)乗用車タイヤ:シリカ配合 Michelin Pilot Primacy 225/55/R16 95W 及びカ ーボンブラック配合 Goodyear SAVA INTENSA 234/45/R17 (ⅱ)トラックタイヤ:Michelin DA2+315/80 R22.5 (イ)タイヤ走行シミュレータ及び粉じん捕集装置を使用し、タイヤとして以下を用いてタイ ヤ走行シミュレータ上で走行させて発生粉じん(TWP:tire wear particles)を捕集。 (ⅰ)夏用シリカ配合タイヤ(Michelin Pilot Primacy 225/55/R16 95W) (ⅱ)冬用シリカ配合タイヤ(Pirelli Sottozero 225/55 R16 95W M+S) (ⅲ)夏用カーボンブラック配合タイヤ(Bridgestone Potenza RE 88 205/65 R15 94W) ②分析結果としては、レーザー回折によって求められた RP の粒子径は容積ベースで4- 280μm(平均50μm)で、TWP の粒子径は5-220μm(平均75μm)とされている。 また、組成(重量%)は、表2のように報告されている。これらから、タイヤ使用に伴って 発生する粉じんはタイヤ由来物質と道路由来物質が混ざったものであることが分かる. 表2 発生粉じんの組成 RP TWP 可塑剤・オイル分 13 10 ポリマー 23 16 213 カーボンブラック ミネラル 11 13 53 61 ③しかしながら、この文献ではミクロンサイズよりも粒子径が小さい粒子に関する知見が得 られていないため、以下で、更にタイヤゴム層中におけるカーボンブラック等の存在状態 を紹介する。 (3)タイヤ補強剤のタイヤゴム層中における存在状態 ①カーボンブラック (ア)タイヤの製造プロセスでゴムとカーボンブラックとを混合すると、ゲルを形成すること が知られている。写真1は、天然ゴム中にカーボンブラックを10phr(ゴム100に対 して重量で10)添加して練った上でベンゼンで洗浄した後に残った構造を撮影した ものである。ゲルはカーボンブラック周囲のゴムだけでなくカーボンブラック粒子か らかなり離れた部位との架橋・絡み合いをも含んでいることを示している(※2) ※2:ゴム工業便覧<第四版> 日本ゴム協会編 社団法人日本ゴム協会 P.1257(1994) 天然ゴム 天然ゴムと結 合したカーボン ブラック 写真1.天然ゴムとカーボンブラックとのゲル (ゴム重量100に対してカーボンブラックは10) 214 (イ)このゲルを形成する化学的吸着力は、カーボンブラック表面に存在するフリーラジカ ル状態と考えられる不対電子と、加工プロセス(練りプロセス)でゴムポリマーが切 断されて発生するフリーラジカルとの反応により生ずる共有結合と考えられている。 (※3) ※3:Donnet, J.B., R. C. Bansal, and M.J. Wang, Carbon Black, 2nd ed. Revised and Expanded, Science and Technology, New York.、 p.290-291 (1993) (ウ)カーボンブラックは、ゴムとのこのような反応性により補強剤としての性能を発揮し ている。 ②シリカ (ア)一方、シリカはカーボンブラックとは異なりそれ自体はゴムと反応しない。このため、 補強剤としての機能を発揮させるためには、カップリング剤(一般にシラン化合物系。 カップリング剤の分子の一端がシリカと、他の一端がゴムと反応して複雑な架橋構 造を形成する)と併用する必要がある。 (イ)このようなプロセスにおける化学反応は【別紙1】のように、まずシリカ表面とカップリ ング剤とが反応して、更にカップリング剤の他端がゴムポリマーと反応することによ り複雑な架橋構造を形成すると理解されている(※4) ※4:(White, De, and Naskar, 2009. Editors Rubber Technologist’s Handbook, Vol.2, Smithers Rapra Technologies, Ltd, Shropshire, UK pages65-68). (ウ)カップリング剤は、シリカ配合重量に対して8重量%以上添加することがシリカメー カーから推奨されている。この添加量で、カップリング剤分子数がシリカの一次粒子 数の700倍を超えて混合されていることになる(【別紙2】参照) ③以上から、カーボンブラックやシリカの粒子は、タイヤゴムの分子と化学結合 によって結びついており、これらがゴムから遊離して飛散することは考えがたい。 (4)一般大気環境中におけるタイヤ由来粉じんの濃度 ①世界の主要タイヤメーカーが、米国 ChemRisk 社(※5)に委託して、一般大気中のタイヤ 由来と考えられる粉じんの濃度を米国・フランス・日本において実測した結果が公表され ている(※6:)。 ※5:化学物質のリスク評価に関するコンサルティング会社、本社は米国サン・フランシ スコ市。会社ホームページは http://www.chemrisk.com/。 ※6:以下の WBCSD(World Business Council for Sustainable Development 持続可能な 開発のための世界経済人会議 ) ホームページからサマリーレポートの閲覧可能。 http://www.wbcsd.org/Pages/EDocument/EDocumentDetails.aspx?ID=54&NoSe archContextKey=true(最後のドキュメント) なお、この調査結果は、2013年前半を目途に Atmospheric Environment 誌に論文とし て掲載される見込みである。 215 ②この実測の対象地は、人口密度、交通量、自然環境、水質汚染・大気汚染の程 度等を考慮して、結果を比較しやすいように米国メリーランド州チェサピーク湾周辺、フラ ンスセーヌ川流域(パリ市東部)、日本淀川流域となっている。 ③タイヤ由来と考えられる粉じんの濃度は、次のように求めている。 (ア)石英フィルターで一般大気中の粒子状物質を24時間捕集して分析対象とする。 (イ)タイヤを熱分解した場合の生成物(ブタジエンモノマー、スチレン、イソプレン、ビニ ルシクロヘキセン、ジペンテン)の検量線を予め作成して、上記(ア)のサンプル中 の各物質の存在量を求める。 (ウ)各生成物のタイヤ中の含有比率及びサンプリングの際の通気量を勘案して、タイヤ 由来粉じん全体の一般大気中濃度を算定する。 ④この実測の結果では、一般大気中のタイヤ由来粉じんの濃度は、次のように報 告されている。 (ア)日本淀川流域 ・平均値(全27計測地点) 0.051μg/m3 ・最高値(滋賀県/琵琶湖畔) 0.16μg/m3 (イ)日・米・仏 ・平均値(全81計測地点) 0.080μg/m3 ・最大値(セーヌ川流域パリ東部トロワ) 0.67μg/m3 (5)タイヤ由来粒子状物質をラットに吸入ばく露した試験の結果(※7) ※7: Health Effects Institute Annual Conference 2012(4月15-17日、開催地米 国シカゴ市)においてポスターセッションを実施。同発表ポスターは、以下の以 下の WBCSD ホームページで閲覧可能。 http://www.wbcsd.org/Pages/EDocument/EDocumentDetails.aspx?ID=54 &NoSearchContextKey=true なお、この試験結果は、2013年前半を目途に Inhalation Toxicology 誌に 論文として掲載される見込みである。 上記資料で報告されているこの試験研究の実施方法・結果・評価は、次のとおりである。 ①吸入ばく露試験に被験物質として用いるタイヤ由来粉塵を、German Federal Highway Research Institute のタイヤ走行シミュレータを使って捕集した。 シミュレータの路面はISO10844に従って6.1%のビチュメン(B50/70)を含有する標準 216 化されたアスファルトコンクリートを使った。 ②タイヤは、次の(ⅰ)~(ⅲ)を用いて、(ⅰ)、(ⅱ)、(ⅲ)からの粉じんを1:1:2の割合で 混合した。粉じんは38μmでろ過した上、その粒子サイズがラットの吸入可能な粒子径 の範囲にあることを、吸入ばく露試験3日目、7日目、21日目にエアロダイナミック・パー ティクル・サイザーで確認した。 (ア)夏用シリカ配合タイヤ(Michelin Pilot Primacy 225/55/R16 95W) (イ)冬用シリカ配合タイヤ(Pirelli Sottozero 225/55 R16 95W M+S) (ウ)夏用カーボンブラック配合タイヤ(Bridgestone Potenza RE 88 205/65 R15 94W) ③ラット(雌雄1群10匹、Sprague-Dawley)へのばく露は、0、10(実測値12.5)、40(実 測値37.8)、100(実測値112.2)μg/m3のそれぞれの濃度のタイヤ由来粉じんを 吸入させた。ばく露方法は、鼻部ばく露で6時間/日、7日間/週で28日間とした。 ④毒性に関して得られた知見は次のように報告されている。 (ア)一般毒性 タイヤ由来粉じんは、摂餌・摂水量、体重、体重増加、臓器重量、臓器重量-体 重比毒性の臨床観察で、全ての暴露レベルで何の影響も示さなかった。臨床化 学と血液学(凝血因子を含む)の観点から TRWP に関連する影響は見られなかっ た。 (イ)炎症マーカー及び細胞毒性マーカー タイヤ由来粉じんは、BALF 中のサイトカイン量(IL-6・GRO-KC・TNF[Tumor necrosis factor]-α)や細胞形態(全細胞数・好中球数・リンパ球数・マクロファー ジ数)を計測した限りでは、全ての暴露レベルで肺組織における炎症反応を生じ なかった。 また、BALF 中の総プロテイン・LDH(Lactate dehydrogenase)・ALP(Alkaline Phosphatases)を計測した限りでは、全ての暴露レベルで細胞損傷を生じなかっ た。 さらに、全ての暴露レベルで酸化ストレスマーカー(HO-1及び TBARS(Thiobarbituric acid reactive substances)を上昇させなかった。 (ウ)組織病理学 40及び100μg/m3の暴露では、亜急性の炎症が見られたが、それはまれで軽 度であった。この影響は、10μg/m3では生じなかったが、40μg/m3では10匹 中1匹、100μg/m3では10匹中3匹に生じた。 ⑤NOAEL等については、次のとおりである。 217 (ア)タイヤ由来粉じんは、112μg/m3までのばく露濃度で28日間、6時間/日で暴 露しても肺での毒性はほとんど確認されなかった。他の毒性エンドポイントもタイヤ 由来粉じん暴露の影響を受けなかった。 (イ)組織病理学的観察の結果(それはタイヤ由来粉じんが影響を示した唯一のエンド ポイント)からは、タイヤ由来粉じんが肺組織で軽度な亜急性の炎症を引き起こす かもしれないことを示唆している。 -この影響は100μg/m3の暴露濃度でさえ軽度で、かつ、まれであるので、呼吸 に悪影響を及ぼすとは考えにくく、可逆的と考えられる。よって“adverse effect”と は考えられない。 (ウ)以上の結果から、吸入ばく露試験に用いたタイヤ由来粉じんのNOAELは 112μg/m3である。 -このNOAELは、一般大気環境中のタイヤ由来粉じん濃度の評価に用いること ができる。 -一般大気環境中のタイヤ由来粉じん濃度は平均値が0.08μg/m3で、上記 NOAELの1/1400と低く、したがってタイヤ由来粉じんへのばく露が一般市民 にリスクをもたらす可能性は低い。 (事務局注)日本で計測されたタイヤ由来粉じんの最高濃度は0.16μg/m3で、上記 NOAELの1/700。 フランスで計測されたタイヤ由来粉じんの最高濃度は0.67μg/m3で、 上記NOAELの1/167。 3.留意点 (1)上記2(5)、(6)で参照した資料の内容は、2013年前半に専門誌に論文として公表され る見込みである。 (2)このため、論文として公表された時点で、記述内容に上記に記載した公表資料と異なる 点がないか確認の上、相違点がある場合本資料の記述を修正することが適当である。 218 【別紙1】 図2.シリカ粒子とシランカップリング剤との一次反応 図3.シリカ粒子とシランカップリング剤との二次反応 219 図4.カップリング剤と不飽和ゴムポリマーとの反応 220 【別紙2】 タイヤ中のシリカ粒子に対するカップリング剤の存在量 1.試算の前提 (1)シリカ 1次粒子径を20nm(市販シリカの1次粒子径は14~24nm)、粒子形状は球形、 比重を2.0とする。 (2)カップリング剤 ①代表的なものとして、Bis(triethoxysilylpropyl)tetrasulfide (TESPT)を想定。 化学式:-(S-S-CH2-CH2-CH2-Si-(O-CH2-CH3)3)2 分子量:539 ②添加量:カップリング剤をシリカ配合重量に対して8%(シリ カメーカーが提示している添加量)添加する。 2.試算内容 ・シリカ1粒子の体積: 4187nm3(A) ・シリカ1粒子の重量: (A)×2÷10E+27=8.37E-18g(B) ・シリカ1粒子当りの TESPT 量:(B)×0.08=6.70E-19g(C) ○シリカ1粒子当りの平均 TESPT 分子存在個数は、748分子 アボガドロ数×(シリカ1粒子当りの TESPT 量(C)÷TESPT 分子量) =6.02E+23x6.70E-19/539=748 221 3) 第6回リスク評価ワーキンググループ 第6回リスク評価ワーキンググループは、平成24年8月22日に開催され、委員 の内11名出席で行われ、以下の討議が行われた。 議題: (1)第5回リスク評価WG議事要旨(案)の確認について (2)塗料・トナー・タイヤのケーススタディ(修正版)について (3)ナノ銀を含む抗菌・消臭スプレーのケーススタディについて (4)リスク評価WG活動概況について (5)その他 <配付資料> 資料1 第5回 リスク評価WG議事要旨(案) 資料2-1 前回WG意見と対応状況 資料2-2 ケーススタディ資料に関する委員アンケート回答と対応状況 資料3 塗料について(修正版) 資料4 トナーについて(修正版) 資料5 自動車タイヤについて(修正版) 資料6 抗菌・消臭スプレーからのナノ銀粒子のばく露及びリスクに係るケーススタディ(案) 資料7 リスク評価WG活動概況 参考資料 ケーススタディ資料に関する委員意見確認票(ナノ銀スプレー) 補足資料 ナノ粒子含有塗膜から放出されたナノ粒子の平均濃度の推定 ①議題2:塗料・トナー・タイヤのケーススタディ(修正版)に関する議論 (ⅰ)塗料について ・日本塗料工業会調査を出典とするのは、問題ない。 ・外壁近傍の濃度計算値が作業環境におけるばく露許容値の1/1000レベルと低いに も拘らず、塗膜劣化試験をする理由が明確でない。 →工業ナノ粒子含有塗膜の劣化試験の例がないこと、工業ナノ粒子が単独で放出さ れるのか又は樹脂に含まれたままで放出されるのかを確認をしたい。 ・300万円程度の予算で試験が可能ならば、説得力を増す意味から、そのことを確認 してほしい。 ・この程度のリスクのレベルでも試験をするとなると、どれも同様にやらなければなら なくなり、困る。 →法規制がどうのと言うよりも、たまたま塗装面からの飛散現象がよく分かっていな 222 いため、一例として調べる。工業会としても知りたがっている。試験を含む検討プロセ スは他のケースの参考にもしていく。 ・試験方法は、準拠したものに関しては出典を明記する。 ・塗装の塗り替え時の方が、劣化表面の研磨をしたりして、危険性が高いのではない か。 →塗り替え方法は、ものにより異なる。劣化による飛散の方が、吸入ばく露の不安を 広く持たれている。塗り替えのケースは本 WG とは別に行えばよいのではないか。 ・塗膜や樹脂などコンポジットからのナノ粒子の飛散で、最も使用量が多いケースが 塗膜であるならば、試験をすることは差し支えない。 ・タイヤもあるが、飛散量の数値は別として、塗膜は飛散の代表例である。 ・現時点で情報の無いところで試験から得られるものは、リスク評価に反映できるか 不明であるが、ケーススタディに付け加えて行く。 (ⅱ)トナーについて ・米国マサチューセッツ-ローウェル大の論文は、単に VOC だけが放出されるのでは 無いと言う情報を提供したいという趣旨で、事務局に紹介した。VOC でないものも放 出していることを、ケーススタディの中では忘れないでということであり、酸化ストレス 等の結果に重きを置いたわけではない。本修正版の中では詳しく紹介し過ぎている 感じがする。 ・本論文の著者達には、計測に関する論文もある。報告内容に対して、本 WG としてど う対応するのか(WG としての見解を作るか?)。 →修正版の記述の修正が必要であれば、最終版に反映させる。WG の意見付きで。 →外添剤のナノシリカが全部放出・飛散するとして、どの程度のレベルになるかを計 算することは、ナノ粒子がどの過程で外れるかが明確になっていないこともあり、行っ たほうがよい。 →トナー成分は企業秘密の部分があり、リスク評価の壁があるが、行ってみる。放出 成分全体の測定データが取られているとのことなので、その情報も紹介してもらう。 →8ページ後半の内容は、VOC、ナノ粒子、ストレスの因果関係が、その他のバック グラウンドを含めて、正確に分析されていないので、問題がある。 →ナノ粒子の問題でないならば、それはそれで検討されるべきである。 ・もう一つの計測の論文の内容はどのようなものか。 →飛んでいる粒子の測定結果が紹介されている。 ・オリジナルの文献を読んでもらわないと議論にならないので、読んでいただくことに する。論文を出来るだけ早く配布してもらい、コメントをいただく。 (ⅲ)タイヤについて ・特に意見なし。 223 ②議題3:ナノ銀を含む抗菌・消臭スプレーのケーススタディに関する議論 ・噴霧剤はどう考慮するのか。 →考えていない。ポンプ式で検討した。エアゾル型は、銀ナノ粒子商品では見付から なかった。 →ナノと表示していないものもあるので、その中にあるのではないか。 →人体に対して直接用いるものは、本検討の対象外としている。 ・カーペット等に使用することは、検討しないのか。ばく露が大きくなるのではないか。 →ケース2では浮遊する粒子は1%で、殆どは床面等に沈降するとした。子供に関す るシナリオは、難しく、出来ていない。 ・0.4%を1%として安全サイドに見積もることが何度も重なると過剰になり、全体でど うなっているのか分かりにくくなる。先ずは、平均値から初めて、幅を持たせるのが、 通常の評価のやり方である。 ・いろいろな違いを考えてシナリオを作っているが、ケース1とケース2の違いが分か りにくい。 ・9ページの二酸化チタンの不確実係数1は理屈があって設定している。ここの説明 は、不正確で、これでは困る。 →訂正する。 ・吸入ばく露の単位換算は、わざわざする必要は無く、濃度のままで比較すればよ い。 ・12ページ4行目の「リスク懸念の可能性はないことが示唆される」は、表現がおかし い。リスクは大小で表現する方がよい。 ・2ケースは、液滴の落下も盛り込まれており、項目的には問題が無いが、塗膜のケ ースとのバランスが悪い。 →塗膜は全放出粒子が浮遊しているという、無理やり作ったシナリオであり、横並び には出来ない。 ・工場での事故による飛散はどう考えるのか。 →別の議論とする。 以下に、配布された資料の内、検討に用いられたものを示す。 224 資料2-1 第5回 リスク評価 WG 委員指摘事項と対応状況 資料4:塗料について ・ 道路標識(特に高速道路)は、光触媒コーティング施工をしているものがあるのではない か? ⇒光触媒工業会に詳細を問い合わせているところ。次回WGで報告予定 ・ ナノ粒子の使用量は年間 30 トン程度であり、この暴露がどの程度の大きさの問題なのか。 調査は、費用との兼ね合いで線引きが必要ではないか。 既存の樹脂劣化に関する文献をチェックし、どの程度放出される可能性があるか整理して ほしい。暴露限界量と大きな開きがあれば、わざわざ劣化試験を行う必要がない。 ⇒塗膜の減耗速度のデータはあり、ナノ粒子の濃度推定について、議題(3)で説明 資料5:コピー印刷用トナーについて ・ トナーが健康被害で裁判になっているため、資料の前半にこの内容を記述すべき。健康被 害に関する報告が、ナノトキシコロジーに掲載されるので、その内容を確認し記述すべき。 ⇒フラウンホーファーの結果に関し、今回の資料で修正 ・ 以前の文献ではナノ粒子の飛散があるといっていたが、最近の文献では揮発性凝集体で あると報告しているものもある。つい先日アメリカで関連の論文が公表されているので、そ の内容を確認し資料に反映すべき。 ⇒今回の資料で修正 ・ 写真(融着)では、事象が 100%そうなっているか証明できないので、証明力に問題がある。 写真は無くてよいのではないか。 ⇒事務局で検討の結果、他の方法での証明は困難な状況 ・ エコマークシステムで再資源化率 95%以上とあるが、残りはどうなっているか。エコマーク の認定基準は今の目的に合っていないのではないか。 ⇒今回資料で修正 資料6:自動車タイヤについて ・ 吸入試験の暴露濃度の上限 100μg/m3 の設定根拠が記されていない。 ⇒今回資料で修正 ・ 暴露試験に使用した粒子は、ナノ粒子が単独で含まれているのか疑問である。ナノの試験 でないかもしれない。 ⇒今回資料で修正 ・ 二次粒子の分布を示されても、一次粒子がナノの場合もあるが、論文では比表面積を測っ ているか ⇒元論文を確認したところ、測定結果は掲載されていない 225 資料2-2 ケーススタディ資料に関する委員アンケート回答と対応状況 1)塗料(資料4)に関するご意見 委員(5名) (1)資料の記述内容で修 ・本質ではないかもしれないが、「道路の標識」は「道路標示」 正した方がよいと思われ では? ⇒両方あります る点 ・3ページ(イ)第二段落:「・・・耐性が違うことも考慮・・・」→「・・・ 耐性が違うことも、実験する上では考慮・・・」 ⇒今回資料で 修正しています ・P2の(4)の節と3.これらの可能性について、以下考察する は文章の構成として不適当と思います。 3.暴露の可能性の検討、など節のタイトルとして再検討くださ い。(4)の節は不用か。 ⇒今回資料で修正しています (2)①情報の出典が適切 ・記載されていない に記載されているか、不 ・出典情報がないので適切かどうか判断できない。 十分な点はないか ⇒今回資料で修正しています (2)②暴露シナリオに引 き続き検討すべき点が 残っていないか ・塗料は定期的に塗りなおすものと思いますが。この場合の塗 装前の表面処理の周辺の影響は? ⇒詳細を確認し次回W Gまでに検討予定です ・「建物用塗料及び建材用コーティング剤について、経年劣化 により塗膜の樹脂が減耗し、工業ナノ物質が露出し、接触曝 露する可能性」について考察する。 コメント:「3.これらの可能性について」の部分で、問題となる 暴露量でないことを記述する。 ⇒今回資料で修正しています (2)③リスクマネージメン ト策等の意思決定に必要 な今後の課題(リスク考察 を行っているケース) (2)④ケーススタディ資料 ・妥当であると思います。 の記述内容が客観的であ ・出典情報がないのでわかりません。 ⇒今回資料で修正して り妥当であるか います ・(ア)自動車用塗料について: これまで販売・使用されている自動車が、今後廃車に伴い、処 理工程の際に環境中への排出がないことを記述する。 ⇒現 時点で情報不足のため記載は困難と考えます (3)その他のご意見 ・生産量、使用量などの数値の記載には出典を明記する必要 226 があると思います ⇒今回資料で修正しています ・何の根拠もなく、劣化試験に進むのは、少し違和感がある。 樹脂の劣化速度から考え、人体の健康に影響を与える程度の ナノ材料の放出かどうか、検討した上で劣化試験に進むべき である ⇒今回報告します ・この資料の文責はだれになるのでしょうか。 ⇒「事務局の作 成文に委員からコメントをいただいたもの」とさせていただきた いと思います 227 2)トナー(資料5)に関するご意見 委員(5名) (1)資料の記述内容で修 ・4.(1)工業用ナノ物質へのばく露とトナーへのばく露 正した方がよいと思われ 使われているナノ物質の種類と使用量の記載が必要と思いま す る点 (2)①情報の出典が適切 ・記載されていない ⇒今回資料で修正しています に記載されているか、不 ・出典に辿れるような表記にする。 ⇒今回資料で修正してい 十分な点はないか ます P4 *1では引用にはなっておりません 。⇒今回資料で修正 しています (2)②暴露シナリオに引 き続き検討すべき点が 残っていないか ・暴露シナリオの中で、最も大きく暴露されるシナリオがどれか を考察し、その場合の暴露の程度を推測し、外添粒子が外れ て放出された場合においても、人の健康に影響を及ぼす程度 の暴露ではないことを示すことができると良い。 ⇒十分な情 報がなく現時点では難しい。 ・コピーからの微小粒子の発生は、常に外部から指摘されてい るので、考えられるケースは出尽くしていると思う。 ただ外添剤について最近まで触れられてこなかったのも事実。 (2)③リスクマネージメン ト策等の意思決定に必要 な今後の課題 (リスク考察を行っている ケースに関して) (2)④ケーススタディ資料 の記述内容が客観的であ り妥当であるか (3)その他のご意見 ・この資料の文責はだれになるのでしょうか。 ⇒「事務局の作成文に委員からコメントをいただいたもの」と させていただきたいと思います ・ある機種ですが、使用期間が長くなってくると、カートリッジか らトナーがもれてプリンター本体が汚れてくることがあります。 このような例(苦情)等があるかどうかわかりませんが、調査し てはどうでしょうか。実際、カートリッジ交換時に手を汚してい ます。調査の上で、頻度と汚染量から暴露を考察しておいては どうでしょうか。 228 3)自動車タイヤ(資料6)に関するご意見 委員(5名) (1)資料の記述内容で修 ・6ページで、「カーボンブラックやシリカの粒子はゴムから遊 正した方がよいと思われ 離して飛散することは考えにくい」としていることから、工業ナノ 材料は飛散しにくいためリスクをもたらす可能性が低いことを る点 記述確認してはいかがでしょうか。 ⇒今回資料で修正してい ます ・(4)からの検討部分のタイヤ由来粉じんと、それまでの工業 ナノ材料の検討考察の関係について、説明記述がほしい。もし くは、最後に総括としての結論の記述がほしい。 (2)①情報の出典が適切 ・7ページの③:捕集した粒子状物質のサイズはおよそ PM-10 に記載されているか、不 ということでしたが本資料中に記載すべきと思います。 十分な点はないか 7-8ページ:粉塵の吸入毒性試験について 吸入可能な粒子サイズであったということだが、ナノサイズが どれくらいあるのかにより、本データの扱いが異なると思いま す。ナノがあまりに少なければ大きな意味はないのでは。 吸入毒性試験における最高濃度の選定理由を確認しておくべ き。何らかの予備試験が実施されていると思われるので Author に確認しておくべき。 ⇒今回資料で修正しています。 ・出典別にまとめてあり、他の資料より構成はよいと思う。 (2)②暴露シナリオに引 ・札幌の地下鉄はゴムタイヤを使用していますので、地下鉄の き続き検討すべき点が 駅構内ではタイヤ粉じん濃度は大気中よりも高く、ばく露量も 残っていないか 多いと思われます。タイヤ粉塵中のナノ物質(CBなど)の濃度 はわかりませんか。 ⇒論文中に記述がありません ・タイヤ粉塵のリスクについてはしっかり述べられているが、こ の粉塵に伴って、放出されると予測されるナノサイズのカーボ ンブラック濃度についても推測し、充分に低い濃度であること を示してはどうか?⇒論文中に記述がありません (2)③リスクマネージメン ・タイヤ粉じんによるリスクか、CBによるリスクかを検討する必 ト策等の意思決定に必要 要はないでしょうか。 ⇒必要はあると考えますが、情報があり な今後の課題 ません (リスク考察を行っている ケースに関して) (2)④ケーススタディ資料 ・通常、毒性試験は短期の毒性試験を行い、その結果に基づ の記述内容が客観的であ いてより長期の試験における用量設定を行います。高用量は り妥当であるか 明らかな毒性がみられると思われる量、低用量は毒性がみら れないと予測される量で、その中間が中間用量となります。提 出された資料では、初めにエンドポイントありきに見えます。 229 (3)その他のご意見 ⇒今回資料で修正しています BALF の気管内投与の際のエンドポイントをそのまま持ってき ているように見えます。吸入で本当に気管内投与と同様の変 化が出るのか確認しているかが大きなポイントです。確認され ていてこの結果(100 μg/m3で変化なし)であれば、高用量の設 定が甘いと思われます。 ・タイヤ粉じん中の成分はわかっているのでしょうか。 ⇒論文 中に記述がありません ・タイヤにカーボンブラックを練りこむのは長い歴史と大量の使 用実績があり、新たな問題の起こる可能性は少ないのではな いか。 230 資料 3 塗料について(修正版) 1.塗料 (1)成分 塗料は一般に、塗膜となる樹脂(バインダー)に、顔料、溶剤(水性塗料の場 合は水)の他、紫外線安定剤、工業ナノ物質等の副材料が混合された混合物状 態で製品となっている。 (2)塗料の用途と工業ナノ物質の配合 ①塗料の他の用途としては、自動車用・建物用が4割強と大きく、これらの用途 の塗料に工業ナノ物質を配合している製品がある。 ②他の用途に構造物(橋梁、タンク他)用、金属製品用、船舶用等がある。これ ら の用途で工業ナノ物質が配合されている製品はない。 ③また、道路の標識のために用いられる白色塗料は顔料サイズ(平均粒子径数 百 nm)の二酸化チタンが配合されている。(ナノサイズの二酸化チタンは、白 色ではなく透明になってしまい、意味が無いので道路標識用塗料には使用さ れない。) (3)工業ナノ物質を含有する塗料 ①自動車用の塗料では従来の塗料にない色調を示す機能(塗装面を見る角度 によって光沢や色の鮮度・深みが変化する)を付与する目的で二酸化チタン が、また、建物用の塗料では耐候性の向上や汚れ防止機能を付与する目的 でシリカが添加されている塗料がある。また、黒色塗料には、通常カーボンブ ラックが配合されている。 ②工業ナノ物質の含有率は、自動車用塗料で5~10重量%程度、建材用で10 重量%程度(いずれも塗料の非揮発成分重量に対する比率)の製品が見受 けられる。(日本塗料工業会調査) ③自動車用塗料は年間10トン程度、建物用塗料は年間300トン程度国内で製 造・出荷されている。(日本塗料工業会調査) 2.建材用コーティング剤 (1)成分 塗膜となる樹脂、溶剤、光触媒(二酸化チタン)等の混合物である建材用コー ティング剤がある。 (2)用途 主に防汚効果を付与する目的で、屋根材、壁材等の表面にコーティング剤を 231 塗布している建材が見受けられる。 (3)塗料とコーティング剤との相違点 塗料とコーティング剤では以下のような相違点があるので、引き続き劣化試 験の実施等に際しては留意する必要がある。 ①配合される工業ナノ物質: 塗料 シリカ・カーボンブラック、 コーティング剤 二酸化チタン ②バインダー 塗料 主にアクリル系 コーティング剤 アクリル系・フッ素系・シリコーン/シリケート系 ③塗装・コーティングにより生ずる被膜の厚さ 塗料 数十μm コーティング剤 数十 nm~数μm (4)一般市民が塗料又はコーティング剤中の工業ナノ物質にばく露する可能性が 考えられるのは、次のようなケースだと想定される。 ①工業ナノ物質を配合した塗料・コーティング剤を塗布した後で、工業ナノ物質 が塗膜表面から離脱し、又は、経年劣化により塗膜の樹脂が減耗し、工業ナ ノ物質が露出して飛散する可能性 ②工業ナノ物質を配合した塗料を市民(消費者)が使用している時に、誤って塗 料が手に付着して工業ナノ物質にばく露する可能性 3.ばく露の可能性に関する現時点における考察 一般市民が塗料又はコーティング剤中の工業ナノ物質にばく露する可能性が 考えられるのは、以下の(1)や(2)のようなケースだと想定される。以下では、こ れらに関して現時点で考察可能な点に言及する (1)工業ナノ物質を配合した塗料コーティング剤を塗布した後で、工業ナノ物質が 塗膜表面から離脱し、又は、経年劣化により塗膜の樹脂が減耗し、工業ナノ物 質が露出して飛散する可能性 ①塗料 (ア)自動車用塗料 ○自動車用の塗装では最外層に耐候性が非常に高いクリアー塗膜(高い強度 の熱硬化性アクリル系樹脂)が塗布されている。(クリアー塗膜層には工業ナ ノ材料は含まれていない) このクリアー塗膜の強度については、自動車工業 会から塗料工業会に10年以上の寿命が要求されており、実際にはこの要求 が満たされていると言われている。 232 工業ナノ材料を含む塗膜層はクリアー塗膜層の下層にあり、クリアー塗膜 層が破壊されない限り外気に晒されることはないので、自動車の塗装から工 業ナノ材料が一般市民にばく露したり、環境中に排出されることは非常に考え にくい。 ○工業ナノ物質を配合した自動車用塗料の製造数量は年間10トン程度、配 合されている工業ナノ物質の数量としては年間1トン程度である。この塗料の 供給メーカーは3社あり、ここ数年の供給数量は各社とも漸減傾向にある。こ れは、工業ナノ物質を配合する目的である独特の色調を出す機能が他の技 術によって代替できるようになってきたためであると考えられる。(日本塗料工 業会調査) ○以上の状況を考慮すると、工業ナノ材料を配合した自動車用塗料に関して、 塗膜からの工業ナノ物質の露出・飛散により一般市民が工業ナノ物質にばく 露する可能性に関して実験的な検証を行う必要性は低いと考えられる。 (イ)建物用塗料 ○一方、建物用の塗装は、自動車塗装とは異なりクリアー塗膜層が通常は塗布 されない。このため、工業ナノ物質を含む塗膜層が最外層となって外気に晒さ れる。 ○したがって、塗膜層の表面に存在している工業ナノ物質が離脱する可能性や、 工業ナノ物質を含む塗膜層が紫外線、雨水等により劣化し、含有されている 工業ナノ物質が露出・飛散する可能性が考えられる。なお、塗膜となる樹脂の 種類によって劣化に対する耐性が違うことも、試験を実施する上では考慮する 必要があると考えられる。 ○工業ナノ物質を配合した建物用塗料の製造数量は年間300トン程度(固形成 分は150-180トン)、配合されている工業ナノ物質の数量としては年間15 -1830トン程度である。この塗料の主要メーカーは2社あり、ここ数年の供 給数量は全体として増加傾向にある。(日本塗料工業会調査) (ウ)劣化試験の評価対象 したがって、塗料塗膜から工業ナノ物質が露出・飛散する可能性について、 建物用塗料に関して評価することが適当と考えられる。 ②建材用コーティング剤 (ア)建材用コーティング剤は9割り程度が屋根材や壁材などの外装材に使用され る。一部は壁紙等内装用の建材に使用されている。 (イ)工業ナノ物質としては光触媒である二酸化チタンが配合される。光触媒はコー ティング膜劣化作用が強いので、バインダーには通常強靭性の高いものが使 用され、また、コーティング膜劣化を軽減するために二酸化チタン粒子の表面 を加工して活性を低減する等の工夫がなされている。 233 (ウ)工業ナノ物質がコーティング膜表面から離脱し、又は、経年劣化によりコーテ ィング膜の樹脂が減耗し、工業ナノ物質が露出して飛散する可能性について は、建物用塗料と同様に評価することが適切と考えられる。 【今後実施する劣化試験の概要:詳細については引き続き検討】 (i)試験の対象 建物用塗料及び建材用コーティング剤について、実製品における工業ナノ物質 の配合率等を考慮して、モデル塗料・モデルコーティング剤を調合して試験に用い る。 塗料についてはシリカ、カーボンブラックを配合したモデル塗料、コーティング剤 については二酸化チタンを配合したモデルコーティング剤を試験対象とする。 (ii)塗膜状態等の評価期間 塗装・コーティング直後、5年後、10年後、更に通常の耐用年数を超える15年後ま での4時点における塗膜の状況等を分析・評価できるサンプルが得られるように、 試験サンプル(試験板にモデル塗料・モデルコーティング剤を塗布)を作成して試 験を行う。 (iii)計測・評価事項 (a)紫外線照射、結露・雨水、温度変化による塗膜劣化現象を加速的に起こすこと ができる試験装置を用いて試験を実施する。 (b)計測・観察は、塗膜の変化状態(膜厚の減少他塗布初期からの変化、電子顕微 鏡観察を含む)、工業ナノ物質の塗膜表面における存在状態、塗膜表面に存在す る工業ナノ物質に手で触れた場合にそれが手に付着する数量、塗膜表面に存在 する工業ナノ物質がナノ粒子として飛散するのかナノ物質を含有するバインダー 樹脂(粉)として剥離するのか等に関して実施する。 (c)以上の計測結果を踏まえて、塗料・コーティング剤の塗膜表面からの工業ナノ物 質へのヒトのばく露に関して評価する。その際、第一に工業ナノ物質の手に対す る付着、第二に工業ナノ物質の飛散に関して考察する。 (iv)その他 (a)塗料・コーティング剤は外装用が主体であるが、内装用の事例がある場合は外 装用との差異を考慮して試験・評価を行う。 (b)工業ナノ物質の含有率は実存する製品の中で最も高いものと同等とする。 (c)試験サンプルに使用する樹脂は、塗料・コーティング剤に実際に使用されている 樹脂とし、劣化耐性に違いがある複数の樹脂が実用されている場合は樹脂の種 234 類による差異の評価に利用できるデータの取得を目指す。 (d)紫外線安定剤・酸化防止剤については、通常使用されているものの中から、実 存する製品の中で最も効果が小さいと考えられるものと同等程度添加する。 (e)塗膜劣化に関して既に得られている文献等の公開情報については、試験結果 の妥当性の検証等に活用する。 (2)工業ナノ物質を含有する塗料・コーティング剤を市民(消費者)が使用している時 に、塗料・コーティング剤が誤って手に付着して工業ナノ物質にばく露する可能性 以下の点を考慮しつつ引き続き評価を進める。 ①塗装/コーティング作業頻度をどう見込めばよいか。 ②手に付着する数量は、片手の面積 A×単位面積当たりの付着量 B 程度で良 いか。 ③推定ばく露数量をヒトの体重当たり・1日当たりの数量に換算した上で比較す べき基準値に何を用いることが適当か。また、比較した結果はどうか。 235 資料 4 コピー印刷用トナーについて(修正版) 1.トナーの供給・使用状況 (1)トナーはレーザープリント方式の印刷に使用される粉体の着色複合材料であり、レーザ ープリンター機能を内蔵しているコピー機や、レーザープリンター(以後「コピー機等」と記 述する)に装備して、文字や写真の印刷のために使用される。 (2)トナーは、通常はプラスチックのカートリッジ(容器)に予め充填されて販売されている。 (3)トナーを使用する際は、そのカートリッジをコピー機等に装着することによりカートリッジ内 のトナーが密閉系でコピー機等に供給される。 (4)トナーは、コピー機等から排出される時点では、紙等の印刷媒体に加熱によって定着さ れている。したがって、トナーは粒子形状のまま、コピー機等から放出するように意図さ れてはいない。 2.トナーによる印刷原理 (1)トナーを用いるレーザープリンティングでは、紙等の印刷媒体の表面にトナーを文字の形 等まず、感光体と呼ばれる筒状の部材の上に形成した静電気潜像(静電気により形成さ れた文字等の形)に静電気力によってトナーを付着させ、画像を形成する。次に、感光体 上に形成されたトナー画像を紙等の印刷媒体の表面に再び静電気力により転写させる。 そして、最後に加熱によってその印刷媒体にトナーを固着させることにより、文字等を印 刷媒体上に印刷できる画像を定着させる。 (2)上記原理は、レーザープリンディングの基本原理であり各社同一の原理を用いている。 236 3.トナー粒子の実体 (1)最も多用されている黒色トナーとは、黒色のスス状粉体であるように見えるのでカーボン ブラックそのものであるように誤解されがちであるが、実際には平均粒子径5-10ミクロ ン、従って、トナーそのものはミクロンサイズの粉体でありナノサイズの粒子ではない。 以下、図1にトナーの粒度分布の例を、図2にトナーの基本構造を示す。 図1. 複写機用トナーの粒度分布の一般的な例(出典:ベックマンコールター社 HP) 237 (2)この樹脂粒子を詳述すれば、 ①樹脂中に着色剤(着色剤粒子の大きさ一般的にはいわゆるナノサイズ[平均粒子 径が1-100nmの範囲]の1次粒径を有する固体粒子。カーボンブラック他様々 な色の着色剤がある。)、ワックス離型剤等の成分を含有すると共に、 ②粒子の表面に帯電性能、耐熱性能等を制御するための外添剤としてナノシリカ(平 均粒子径は1-100nmの範囲。多くの場合数十 nm。)等の超微小粒子が埋 没、・あるいは、静電気力やファンデルワールス力によりトナー表面に強固に付着 している構造となっている。 すなわち、3.(1)でも述べたとおり、トナーそのものはミクロンサイズの粉体で ありナノサイズの粒子ではないが、その構成成分にナノ材料が使用されている。 以下、図2にトナーの基本構造を示す。 図2.複写機用トナーの基本構造 (3)トナーによる印刷原理は加熱して紙等に定着させる点で各メーカーで同一であり、トトナー 粒子の構造は、各メーカーとも樹脂粒子内部に離型剤・着色剤・荷電制御剤が含有され、 樹脂粒子表面に外添剤が接着されている点で基本的に同じである。 238 (4)以上のように、トナーそのものはミクロンサイズの粉体でありナノサイズの粒子ではない。 (図1にトナーの粒子径分布の事例、図2に複写機用トナーの基本構造を示す。) 4.一般市民がトナー粒子中のナノ材料にばく露される可能性 (1)工業ナノ物質へのばく露とトナーへのばく露 ①正確に言えば、トナー粒子へのばく露の問題ではなく、トナーの外添剤に使用されてい る工業ナノ物質にが遊離・飛散してヒトがばく露されるかどうかの問題である。 ②しかしながら、次の理由から、ここではトナーへのばく露の可能性に関して考察すること とする。 (ア)ヒトがトナーにばく露される機会があれば外添剤にもばく露している可能性が否定でき ないこと、 (イ)外添剤はトナー粒子樹脂の表面に埋没、・接着あるいは、静電気力やファンデルワー ルス力により強固に付着している状態にあり、最終的には加熱融着プロセスも経るの でトナー自体が熱融着されるため外添剤が遊離・飛散することは考えにくいこと (2)一般市民のトナーへのばく露に関して考え得るシナリオ 以下のシナリオが考えられるが、本ケーススタディにおいては、コピー機等の通常使用 により日常的に繰り返して発生する可能性があると考えられる①の(ア)及び(イ)に関して 考察する。 ①正常に稼働するコピー機等の通常使用における暴露 (ア)コピー機・プリンター稼働時の排気中の微細粒子にトナーや外添剤が混ざっており、そ れにばく露する。 (ⅰ)この点についてはコピー等の作動中にトナー中のナノ粒径の無機固体成分の飛散 がないことを確認した報告がある。一方で、コピー機等の作動中に何らかの物質が 排出されているとしている報告もある(3)でこれらの関連情報を整理する。 (イ)コピー印刷をした際のトナーの融着が十分でなく、トナーの一部が融着せずに残存し てそれに暴露する。 (ⅰ)トナーの融着性については印刷物の仕上がりに大きく影響し、融着が不十分であれ ば印刷画像の耐久性が落ちたり、ユーザーの手や衣服が着色する等、のクレームに つながる。そのため、各社がトナー樹脂の融着温度や最適融着のための加熱条件を 詳細に解析し、コピー機やプリンターの電熱部がトナー融着に必要な温度になるまで 印刷がスタートできない設計にするなど万全を期している。 (ⅱ)紙などへのトナー融着面の状態については、(4)で関連情報を整理する。 ②コピー機等の予見しうる誤作動・事故における暴露 (ウ)コピー機の不具合によってコピー用紙などへのトナーの融着が不十分になり、 239 融着しなかったトナーに暴露する。 (ⅰ)紙詰まりが起こるとコピー機等が停止する。この時、まだ紙上で融着していな いトナーが一部に残っている印刷物が発生することがある。しかし連続して印刷して いる場合であっても、コピー機等は自動停止するので、融着していないトナーの発 生量はごく僅かである。してトナーも供給されないため、融着していないトナーが一 部に残っている可能性があるペーパーが1枚発生するだけである。 (イ)もしユーザーが簡単に修理できないような紙詰まりが発生した場合は、サービスマ ンが修理することになるため、ユーザーのばく露は問題にならないと考えられる (エ)トナーカートリッジを装着する際に、カートリッジを落とすなどして(破損し)、トナー が漏出・飛散して暴露する。 (ア)トナーメーカーに対してこの種のクレームが顧客から寄せられることはない。 (ⅰ)カートリッジに何らかの問題があればそれを標準装備するコピー機種自体の 売り上げに影響する可能性があるので、コピー機メーカーとしてはこれまで問題が 生じないように品質を向上させてきた状況にあることから、現時点で想定しているよ うな問題が残っているとは考えにくい。 (オ)トナーカートリッジをコピー機から脱着する際に、トナーが手に付着して暴露する。 (ⅰ)トナーカートリッジは、コピー機等の本体に装着することで初めてコピー機等の 内部にトナーを放出するよう、機械的に設計されているため、脱着時の暴露量はご く少ないと考えられる。 ⑥トナーカートリッジがプラスチックゴミとして廃棄され、最終廃棄までの過程で残存して いるトナーにヒトが暴露したり、残存しているトナーが一般環境に排出されたりする。 (ア)トナーカートリッジの廃棄・リサイクル状況については5.で関連情報を整理する。 (3)シナリオ①(ア):コピー機等稼働時の排気中の微細粒子にトナーや外添剤が混ざってお り、それにばく露する可能性について ①コピー印刷機作動中にトナー中の固体成分の飛散がないことを確認した研究(※1) この研究は、BITKOM(※21)がスポンサーとなってドイツフラウンホーファー研究機構 (※32)により実施されている(3)。 BITKOMがドイツ連邦環境・自然保護・原子力規制省(BAM)のオファーに対応して2 年に亘って実施したものであり、研究計画段階から最終結果とりまとめにいたるまで、BAM の専門家と協議しつつ進めたものである。 また、研究結果については、ドイツ水・土壌・空気衛生協会がドイツ環境庁(UBA。BAM の下部組織)と共催した「第18回 室内空気品質会議(WaBoLU)」(2011年5月30日~6月1 日)で発表されている。 240 ドイツ環境庁ではこの研究結果をコピー機等の排気性能に係るエコラベルの新基準値 の検討に活用している。(※4) ドイツでのこうした取り組みの背景として、ドイツではトナーやプリンタの使用で健康を害し たと主張する利益共同体「ト ナ ー被害者の会」が2000年に 設立され(2008年に「n anoControl」と改称)、TV や雑誌で関連の報道がなされて社会的関心が高まっている事情が ある。 ※1:「Measurement and characterization of UFP emissions from hardcopy devices in operation (作動中ハードコピー装置からの超微細粒子放出の測定及び特性分析)」 このフラウンホーファーの研究成果はハノーバーにあるドイツの国立科学技術図書館 に所蔵かつ公開されており、次の URL からドイツ居住者であれば注文し入手することが 可能。 http://opac.tib.uni-hannover.de/DB=1/LNG=DU/CHARSET=utf-8/CMD?ACT=SRCH A&IKT=1016&SRT=YOP&TRM=characterization+of+UFP なお、以下の BITKOM のサイトにはサマリーへのリンクのみがある。フルレポートにつ いては、要求者の身元とレポートの使用目的が明確であれば BITKOM から入手すること は可能。 http://www.bitkom.org/de/presse/62013_57385.aspx ※2:Bundesverband Informationswirtschaft, Telekommunikation und neue Medien e.V。SIEMENS や Deutsche Telekom などドイツ主要情報通信企業1,300社余が参画する産業団体「情報経 済・通信・新メディア連盟」。 ※3:1949年にドイツ政府・バイエルン州政府・学会・産業界が創設。ドイツ全土に56の研究所、 米国に6の研究センター、アジアに3の研究センター(内1は日本)を有する。事業資金は、ド イツ連邦政府、各州政府、産業界から得ている。 ※4:http://www.bitkom.org/de/presse/62013_57385.aspx(BITKOM によるプレス発表[ドイツ 語]) http://www.bitkom.org/files/documents/BITKOM-PressInfo_Study_WKI_engl_14_01_2011.pdf (BITKOM によるプレス発表[英語]) 以下ではこの研究結果の概要を紹介する。 (ア)この研究では、レーザープリンターから室内空気を汚染する浮遊粒子物質が排出され ているとの認識の下に、レーザープリンターから排出される粒子に関する試験・計測手 順を確立すると共に、その手順に基づいて超微細粒子の粒子数濃度計測や成分分析を 行っている。 (イ)その背景として、ドイツには世界初のエコラベル制度であるブルーエンジェルラベル 制度があり、コピー機等のメーカーは自社製品へのラベル取得に熱心であることが挙げら 241 れる。コピー印刷機等にブルーエンジェルラベルを取得しようとする場合は、揮発性有機 化合物、オゾン、重量ベースの粉じん放出等が基準値を満足する必要がある。一方、放 出があると見られている超微細粒子は、重量ベースで計測することが困難であるできな いため、上記研究では粒子数濃度を計測して、それを基に重量ベースの粒子濃度を計 算値として得る手順を提案している。 (ウ)この研究では参加した機器メーカー13社(※5)の主力コピー機・プリンターについて、 メーカーが推奨する標準装備のトナーを使用して装置を稼働させた場合の超微細粒子 の排出数や粒子径分布を「TSI社(※6)モデル3091高速モビリティパーティクルサイザ ー(FMPS)スペクトロメータ」を使用して計測した。この装置を使用すれば、1秒間隔で5. 6~560nm の範囲の粒子個数濃度や粒子径分布を測定することができる。 ※5:キヤノン、エプソン、京セラ、ブラザー、ゼロックス、東芝、シャープ、リコー、コニカミ ノルタ、Lexmark、HP、SAMSUNG、OCE。 我が国におけるコピー機・プリンター市場でこれらメーカーのシェア合計は約7割で あり、標準装備トナーもEUの場合と同様であるので、この研究の結果は我が国で のコピー機・プリンター及びトナーの使用実態にも当てはまると考えられる。 ※6: 1961年に米国ミネソタ州に創設された計測機器メーカー。 (エ)この測定の結果に基づいて、印刷のためにレーザープリンターを30分間(10分間、3 回)稼働させた場合に放出されたと考えられる1時間当たりの超微細粒子の総数が計算に よって求められている。計算結果では、計測対象とした26種類のプリンターで排出された 超微細粒子(揮発成分と非揮発成分を含みうる)の総数は、全機種で10の10~12乗個 程度(100億個~1兆個程度)となった。 (オ)問題は、これがトナーやそれに由来する物質なのかまた工業ナノ物質を含むのかであ る。この点に関しては、超微細粒子を含んでいる排ガスをサーモデニューダー(※7)で 処理した上で粒子計測器で分析した結果が示されている。この分析で使用された粒子計 測器は「TSI 社モデル3080走査式モビリティーパーティクルサイザー(SMPS)」で、この装 置を使用すれば、7~200nm の大きさの粒子を、検出感度1個/立方センチメートルで 検出できる(※8)。 ※7:粒子状物質(液滴又は固体粒子)を含む試料ガスを加熱して、揮発する成分を 除去する装置。排ガス中に含まれている超微細粒子中にカーボンブラックやナノシリ カのような非揮発成分が含まれている場合は、サーモデニューダーの後の工程に設 置された粒子計測器で検出される。一方、超微細粒子が工業ナノ物質ではない通常 の化学物質である場合は加熱により揮発するので粒子計測器では検出されないこと となる。 ※8:http://www.t-dylec.net/products/tsi/tsi_3936.html による。 (カ)この分析の結果では、カーボンブラックやシリカのような非揮発性の「固体」成分は検 出 242 されなかった。検出された超微細粒子の本質的な特徴は高温で蒸発する点にあることが確認 された。さらに、この超微細粒子は水不溶性でもあった。これについて、超微細粒子が「固 体」成分-例えば、カーボンブラック、鉄、またはその他金属であることの証拠は見つからな かったとされている。 ⑦一方、超微細粒子中の揮発性成分は、ガスクロマトグラフ/質量分析等によって、プリ ンター中で潤滑剤として用いられている有機シリコン化合物、プリンター材料のプラスチック 可塑剤として用いられているカルボン酸エステル類等であることが確認されている。 更に、この分析では、超微細粒子は、ワックス用のパラフィン系炭化水素及び環式/開鎖 式シリコン有機化合物のような難揮発性有機化合物(SVOC)であるとされている。後者の化 合物は、例えば、機械の潤滑剤に用いられている。 ②オーストラリア労働安全局の「粒子として測定されたレーザープリンターからの排出物の健康 影響に関する簡易レビュー(※9)」 ※9:http://www.safeworkaustralia.gov.au/sites/SWA/AboutSafeWorkAustralia /WhatWeDo/Publications/Documents/636/Brief%20Review%20Laser%20 Printer%20Emissions.pdf 2007に発表されたクィーンズランド工科大学の研究「オフィスプリンターの粒子放出特 性」(He C., Morawska L et al.; Environ.. Sci. & Technol. Vol.41, 6039-45(2007)) が、大きな 反響を呼んだことを契機として、オーストラリア労働安全局は2011年12月に「粒子として測 定されたレーザープリンターからの排出物の健康影響に関する簡易レビュー」を、Toxicos Pty Ltd(オーストラリア唯一のトキシコロジーコンサルタント)に委託して実施し、発表した。 要点は以下の通り。 (ア)レーザ-プリンターからの排出粒子は、トナー粒子でも都市大気汚染粒子でもなく、 一義的には、VOCs(揮発性有機化合物)または SVOCs(半揮発性有機化合物)である。そ うならば、呼吸器と接触した後でも、粒子状物質(particulate)として残る事はなく、エアロゾ ルとしての健康影響を考えることが適当である。 (イ)プリンターからの8時間平均値の最高値を既存の法規や基準値と比較すると、プリン ターへの暴露による健康影響は無視できるという結果になった。しかし、人々は、異常な、 あるいは予期しない臭気によって排出の存在を検知したり反応したりするが、これはまだ 健康影響に関する情報が充分でない事に対応している。 ③コピー機からのナノ粒子が健康な被験者の酸化ストレスと上気道炎を誘発したとの報告 (※10) ※ 1 0 : Nanoparticles from photocopiers induce oxidative stress and upper 243 respiratory tract inflammation in healthy volunteers. Khatri M, Bello D, Gaines P, Martin J, Pal AK, Gore R, Woskie S. Department of Work Environment, University of Massachusetts-Lowell , Lowell, MA , USA., Nanotoxicology; doi:10.3109/17435390.2012.691998 この研究は、米国マサチューセッツ-ローウェル大によって実施されたもので、その要点 は次のようなものである。 (ア)9人の健常者が任意に選択された2~3日の間に1日につき6時間を稼働率の高いコピーセ ンター室内で過ごした。 (イ)暴露中は、「30~40nm にピークがある100nm 以下のナノスケールの範囲の粒 径分布部分の平均粒子数が、バックグラウンドの同じ粒径範囲の平均粒子数」より 5倍以上高かった。 粒子の組成は、50%が有機性炭素、約50%が無機物質(硫黄5.7%、鉄0.42%、シリコ ン0.6%、亜鉛0.22%、アルミ0.12%、チタン0.05%等。これらの物質はトナーにも含有さ れているものである)。いくつか長鎖のアルカン類(C24~C40程度)も検出されたが、これらは トナーの成分にも見られる物質である。 (ウ)コピー機稼働中のコピーセンター室内空気へのばく露の影響を検査するため、ばく露前及 びばく露後のいくつかの時間に鼻洗浄液及び尿サンプルを採取した。 (エ)鼻洗浄液サンプルについては14のサイトカイン、炎症細胞および総タンパク量を分析し、 尿 サ ン プ ル に つ い て は 酸 化 ス ト レ ス マ ー カ ー で あ る 8- ヒ ド ロ キ シ デ オ キ シ グ ア ノ シ ン (8-OH-dG) を分析した。 (オ)暴露前のレベルと比較して、暴露後は、8-OH-dG 及びいくつかの炎症性サイトカインは 2-10倍の高さを示し、そのように通常より高い状態が36時間続いた。 (カ)以上から、コピー機からのナノ粒子が上気道炎症および酸化ストレスを引き起こ すと結論する。 (キ)しかし、この健康影響はナノ粒子の中のどのような成分によるものなのかはわからない。 検出された影響は、グラフから見られるように一過性である。しかし、繰り返されることによる慢 性的影響が懸念される。 244 図 鼻洗浄液中%PMN/総細胞数 及び 尿中(酸化ストレスマーカー) 8-OH-dG ④以上のように、コピー機の稼働に伴って何らかの物質が排出されているとする報告が複数 あるが、常温で固体の工業ナノ物質が排出され影響を及ぼしているとの結論には至っていな い。ナノサイズの粒子へのヒトのばく露やその影響については、異なる研究の結果が整合し ているのかどうか引き続き確認を要する状況であると考えられ、専門家の大勢が納得できる 結論が得られるまでには、既存情報との比較や新規情報の更なる集積・分析が今後も必要 であると言える。 (4)シナリオ①(イ):コピー印刷をした際のトナーの融着が十分でなく、トナーの一部が融着 せずに残存してそれに暴露するされる可能性について 以下の顕微鏡写真は、国内で最も販売数呂婦ヶ多いトナーを標準値オナーとしているコピ ー機で印刷した印刷物の表面国内主要メーカーの複写機による複写画像の表面を観察し たものである。前述のようにトナーの基本構造はメーカーが違っても同様であること、世界 に市場を持つコピー機の印刷仕上がりに問題があるとコピー機製品自体の競争力に著し く影響するため各メーカーはトナーの融着性に細心の注意を払っていること等から、以下 に示した融着状態は他のトナーやコピー機・プリンター等にも当てはまるものと考えられ る。 245 ①写真1はコピー印刷紙面を200倍600倍に、写真2は2000倍に、写真3は6000倍に、 拡大した走査型電子顕微鏡写真である。トナーが融着して塗膜状になっていることが確認で きる。 【写真1:600倍】 【写真2:2000倍 】 【写真3:6000倍】 ②写真3(走査型電子顕微鏡写真。倍率20000倍)では白い斑点が見られ、これがトナーの 外添剤として使用されているナノシリカ等である。写真3では、トナー粒子の主成分であるプラ スチック樹脂と外添剤とのコントラストが強く出るように撮影しているので外添剤が浮き出して いるように見えるが、通常のコントラストで撮影した写真4(走査型電子顕微鏡写真。倍率20 000倍)では、外添剤がプラスチック樹脂に埋没・接着していることが確認できる。 【写真3:20000倍】 【写真54:20000倍】 ※写真1~45撮影:カシオ電子工業(撮影対象トナーの製造会社と撮影会社は異なる。) 246 5.トナーカートリッジの廃棄・リサイクル状況(参考情報) 参考までにトナーカートリッジの廃棄・リサイクル状況を以下に述べる。以下の状況から一般 市民が廃棄・リサイクルを通じてトナーにばく露することは考えにくい。そのため、このケース は、4.(2)の一般市民へのトナーの暴露には含めていない。 (1)使用済みトナーカートリッジは、コピー機・プリンター機器等のメーカーによる自主回収~ 再資源化、およびリサイクル専門業者による回収~再生カートリッジとしての販売が行わ れている。これらから、使用者自身による廃棄処分はごく少ないと思われる。 (2)商品のライフサイクル全体を通して環境への負荷が少なく、環境保全に役立つと認めら れる商品に付けられる環境ラベルである日本環境協会のエコマークにおいてトナーカー トリッジは認定製品であり、多くの機器メーカーおよびリサイクル専門業者はトナーカート リッジのエコマークを取得しているのが実態である。トナーカートリッジのエコマーク認定 基準では、「回収およびマテリアルリサイクルのシステムがあること」や、「回収したトナー カートリッジは、再資源化率95%以上、再資源化できない部分は適正処理」が求められ ているため、回収・再資源化の取り組みは進んでおり、単純廃棄や埋め立ては極めて少 ない。 (3)またトナーカートリッジは国の“グリーン購入法“の対象品目にもなっている。使用済みト ナーカートリッジの回収・再資源化の認定基準はエコマークと同等の内容が求められて おり、その点からも機器メーカー各社のトナーカートリッジ回収と再資源化の取り組みが 進んでいる。 247 資料 5 自動車タイヤについて(修正版) 1.自動車タイヤの特徴 (1)自動車タイヤの基本構造 ①タイヤは基本的に図1に示す8つの部位から構成されている。 ②トレッド部等のゴム層(補強剤等の様々な副成分を含有)をスチールワイヤー等で補強し た構造を持っており、空洞部(タイヤの内側)には空気透過性の少ないゴム(インナーラ イナー)を貼り付けた構造(チューブタイヤの場合はチューブを使用)。乗用車用とトラック 用のタイヤは概ね同一の構造、構成物質から成る。 図1 タイヤの構造と部位の名称 ⅰ)トレッド部 タイヤが路面と接触する部分の厚いゴム層をいう。路面等からの衝撃や外傷から内部のカ ーカスを保護するとともに、摩耗寿命延長の役目をしている。また、各種のトレッドパターンが 刻み込まれている。 ⅱ)ショルダー部 248 トレッドとサイドウォール間(肩部)のゴム層をいう。カーカスを保護するとともに、走行時に発 生する熱拡散の役目をしている。 ⅲ)サイドウォール部 ショルダーとビード間のゴム層をいい、カーカスを保護する役目をしている。また、タイヤの寸 法、製造会社名等が表示されている。 ⅳ)コード タイヤの内部でカーカスやベルト等を形成している“ヨリ”を与えられた繊維(あるいは金属線 等)をいう。 ⅴ)カーカス ゴムで被覆したコードを貼り合わせ、層としたものをいう。タイヤの骨格となっており、カーカス 配列のタイプにより、ラジアル(放射状)とバイアス(斜め)とがある。 ⅵ)ベルト ラジアルタイヤのトレッドとカーカス間のコード層をいう。カーカスを桶のタガのように強く締め 付けてトレッドの剛性を高める働きをしている(バイアスタイヤでは、トレッドとカーカス間のコ ード層をブレーカといい、路面からの衝撃を緩和し、トレッドに受けた外傷が直接カーカスに 達することを防ぐとともに、トレッドとカーカスの剥離防止の役目をしている)。 ⅶ)インナーライナー チューブレスタイヤの内面に貼り付けられた気密保持性の高いゴム層をいう。 ⅷ)ビード部 スチールワイヤー(鋼線)を束ね、ゴムで被覆したリング状の補強部をいう。空気を充填したと きに、タイヤをリムに固定する役目をしている。 (2)タイヤの製造プロセスは、概ね次のように3つの工程に分けられる ①ゴム練り バンバリーミキサーでゴム(天然ゴム・合成ゴム)と薬品(補強材・硫黄・老化防止剤等) を混ぜて練り、トレッド用ゴム、カーカス用ゴム、ビード用ゴム等を作る。 ②パーツ作成 タイヤの構成パーツであるトレッド部分・カーカス部分・ビードワイヤー部分を作成する。 トレッド用ゴムは、押出機で板状に押し出され、タイヤ1本分のサイズに切断される。 ③組み立て等 パーツの組み立て、パターン・刻印、検査を行う。 (3)自動車タイヤの数量と種類 ①タイヤの生産数量は2010年で159百万本であり、乗用車用79%、トラック(小形 含む)・バス用タイヤ21%となっている。バス・トラック用のタイヤもゴム層の構成 物質の種類や配合比は乗用車用タイヤとほとんど同じである。 249 ②気候によって適するタイヤは異なっており、夏用タイヤ、冬用タイヤ(スタッドレスタイヤ、 スノータイヤ)がある。一般的には、一年を通じて夏用タイヤが使用されるが、冬季の降 雪地域では冬用タイヤが使用されることが多い。 (4)自動車タイヤの原材料 ①タイヤの原材料としては、SBR(スチレンブタジエンゴム)等のゴム成分の他、補強剤(カ ーボンブラック・シリカ)、硫黄、加硫促進剤、老化防止剤、オイル成分等が使用されてい る。 ②表1に最新の原材料配合構成を示す。 表1.タイヤ原材料の配合構成 (注)数字は、新ゴム重量を100とした場合の他の原材料の重量比を示す。 出典:タイヤの LCCO2算定ガイドライン Ver.2.0(2012年4月)、一般社団法人 日本 自動車タイヤ協会 (5)タイヤ補強剤としてのカーボンブラック等の配合 ①工業ナノ物質であるカーボンブラック、シリカはゴム層の補強剤として使用されている。 補強剤を使用しなければ、タイヤとしての強度が全く確保できず使用できない。シリカは ゴムの補強剤として機能し、また、転がり抵抗性能(制動性能と二律背反)を向上させつ 250 つ制動性能を確保する効果等がカーボンブラックに比べて優れていると言われてる。 ②表1の通り、補強剤としては通常カーボンブラックとシリカが併用されるが、汎用タイヤに 対して低燃費タイヤではシリカの配合比が高い。(表1の汎用タイヤを「カーボンブラック 配合タイヤ」、低燃費タイヤを「シリカ配合タイヤ」と呼ぶことがある。)」 2.自動車タイヤ中の工業ナノ物質へのばく露可能性等の評価 (1)タイヤ粉じんと工業ナノ物質 ①前述したタイヤゴム層の主体であるトレッド部は、自動車走行に伴う路面との摩擦によっ て磨耗し、タイヤ由来の粉じん(PM)を生ずる。 ②タイヤゴム層には前述のように工業ナノ物質が含有されているので、この粉じんは何で あるのか(特に工業ナノ物質そのものが飛散しているのかどうか)、ヒトの健康への影響 はどうなのか等の疑問に関して現時点で得られる知見を整理し、その結果を開示するこ とにより、タイヤ使用に伴う人への影響に関して理解を深めることが重要であると考えら れる。 (2)タイヤ走行に伴う粉じんの粒子径、組成等 ①以下の状況でタイヤの使用に伴って発生する粉じんを捕集・分析した結果が報告されて いる(※1) ※1:M.L.Kreider et al,Science o9f the Total environment 2010,408,652-659 (ア)道路を実際に走行する乗用車及びトラックに粉じん捕集装置を取り付けて発生粉じ ん(RP:roadway particles)を捕集。 (ⅰ)乗用車タイヤ:シリカ配合 Michelin Pilot Primacy 225/55/R16 95W 及びカ ーボンブラック配合 Goodyear SAVA INTENSA 234/45/R17 (ⅱ)トラックタイヤ:Michelin DA2+315/80 R22.5 (イ)タイヤ走行シミュレータ及び粉じん捕集装置を使用し、タイヤとして以下を用いてタイ ヤ走行シミュレータ上で走行させて発生粉じん(TWP:tire wear particles)を捕集。 (ⅰ)夏用シリカ配合タイヤ(Michelin Pilot Primacy 225/55/R16 95W) (ⅱ)冬用シリカ配合タイヤ(Pirelli Sottozero 225/55 R16 95W M+S) (ⅲ)夏用カーボンブラック配合タイヤ(Bridgestone Potenza RE 88 205/65 R15 94W) ②分析結果としては、レーザー回折によって求められた RP の粒子径は容積ベースで4- 280μm(平均50μm)で、TWP の粒子径は5-220μm(平均75μm)とされている。 また、組成(重量%)は、表2のように報告されている。これらから、タイヤ使用に伴って 発生する粉じんはタイヤ由来物質と道路由来物質が混ざったものであることが分かる. 表2 発生粉じんの組成 251 RP TWP 可塑剤・オイル分 13 10 ポリマー 23 16 カーボンブラック 11 13 53 61 ミネラル ③しかしながら、この文献ではミクロンサイズよりも粒子径が小さい粒子に関する知見が得 られていないため、以下で、更にタイヤゴム層中におけるカーボンブラック等の存在状態 を紹介する。 (3)タイヤ補強剤のタイヤゴム層中における存在状態 ①カーボンブラック (ア)タイヤの製造プロセスでゴムとカーボンブラックとを混合すると、ゲルを形成すること が知られている。写真1は、天然ゴム中にカーボンブラックを10phr(ゴム100に対 して重量で10)添加して練った上でベンゼンで洗浄した後に残った構造を撮影した ものである。ゲルはカーボンブラック周囲のゴムだけでなくカーボンブラック粒子か らかなり離れた部位との架橋・絡み合いをも含んでいることを示している(※2) ※2:ゴム工業便覧<第四版> 日本ゴム協会編 社団法人日本ゴム協会 P.1257(1994) 天然ゴム 天然ゴムと結 合したカーボン ブラック 写真1.天然ゴムとカーボンブラックとのゲル 252 (ゴム重量100に対してカーボンブラックは10) (イ)このゲルを形成する化学的吸着力は、カーボンブラック表面に存在するフリーラジカ ル状態と考えられる不対電子と、加工プロセス(練りプロセス)でゴムポリマーが切 断されて発生するフリーラジカルとの反応により生ずる共有結合と考えられている。 (※3) ※3:Donnet, J.B., R. C. Bansal, and M.J. Wang, Carbon Black, 2nd ed. Revised and Expanded, Science and Technology, New York.、 p.290-291 (1993) (ウ)カーボンブラックは、ゴムとのこのような反応性により補強剤としての性能を発揮し ている。 ②シリカ (ア)一方、シリカはカーボンブラックとは異なりそれ自体はゴムと反応しない。このため、 補強剤としての機能を発揮させるためには、カップリング剤(一般にシラン化合物系。 カップリング剤の分子の一端がシリカと、他の一端がゴムと反応して複雑な架橋構 造を形成する)と併用する必要がある。 (イ)このようなプロセスにおける化学反応は【別紙1】のように、まずシリカ表面とカップリ ング剤とが反応して、更にカップリング剤の他端がゴムポリマーと反応することによ り複雑な架橋構造を形成すると理解されている(※4) ※4:(White, De, and Naskar, 2009. Editors Rubber Technologist’s Handbook, Vol.2, Smithers Rapra Technologies, Ltd, Shropshire, UK pages65-68). (ウ)カップリング剤は、シリカ配合重量に対して8重量%以上添加することがシリカメー カーから推奨されている。この添加量で、カップリング剤分子数がシリカの一次粒子 数の700倍を超えて混合されていることになる(【別紙2】参照) ③以上から、カーボンブラックやシリカの粒子は、タイヤゴムの分子と化学結合によって結 びついており、これらがゴムから遊離して飛散することは考えがたい。したがって、カー ボンブラック等の工業ナノ物質の飛散により、健康リスクがもたらされる可能性も低いと 考えられる。また、これらの工業ナノ物質を含有していると考えられるタイヤ由来粉じん の有害性に関しては、後述(5)にラットを用いて吸入ばく露試験を実施した事例を紹介 する。 (4)一般大気環境中におけるタイヤ由来粉じんの濃度 ①世界の主要タイヤメーカーが、米国 ChemRisk 社(※5)に委託して、一般大気中のタイヤ 由来と考えられる粉じんの濃度を米国・フランス・日本において実測した結果が公表され ている(※6:)。 ※5:化学物質のリスク評価に関するコンサルティング会社、本社は米国サン・フランシ 253 スコ市。会社ホームページは http://www.chemrisk.com/。 ※6:以下の WBCSD(World Business Council for Sustainable Development 持続可能な 開発のための世界経済人会議 ) ホームページからサマリーレポートの閲覧可能。 http://www.wbcsd.org/Pages/EDocument/EDocumentDetails.aspx?ID=54&NoSe archContextKey=true(最後のドキュメント) なお、この調査結果は、2013年前半を目途に Atmospheric Environment 誌に論文とし て掲載される見込みである。 ②この実測の対象地は、人口密度、交通量、自然環境、水質汚染・大気汚染の程 度等を考慮して、結果を比較しやすいように米国メリーランド州チェサピーク湾周辺、フラ ンスセーヌ川流域(パリ市東部)、日本淀川流域となっている。 ③タイヤ由来と考えられる粉じんの濃度は、次のように求めている。 (ア)石英フィルターで一般大気中の粒子状物質を24時間捕集して分析対象とする。 (事務局注)我が国で実際に大気中粉じんの捕集を行った日本環境衛生センターに 確認した結果、大気中粉じんの捕集方法は、米国のPM2.5の測定法(我が国の 測定法も殆ど同じ)に準拠していることが確認された。 (イ)タイヤを熱分解した場合の生成物(ブタジエンモノマー、スチレン、イソプレン、ビニ ルシクロヘキセン、ジペンテン)の検量線を予め作成して、上記(ア)のサンプル中 の各物質の存在量を求める。 (ウ)各生成物のタイヤ中の含有比率及びサンプリングの際の通気量を勘案して、タイヤ 由来粉じん全体の一般大気中濃度を算定する。 ④この実測の結果では、一般大気中のタイヤ由来粉じんの濃度は、次のように報 告されている。 (ア)日本淀川流域 ・平均値(全27計測地点) 0.051μg/m3 ・最高値(滋賀県/琵琶湖畔) 0.16μg/m3 (イ)日・米・仏 ・平均値(全81計測地点) 0.080μg/m3 ・最大値(セーヌ川流域パリ東部トロワ) 0.67μg/m3 (5)タイヤ由来粒子状物質をラットに吸入ばく露した試験の結果(※7) ※7: Health Effects Institute Annual Conference 2012(4月15-17日、開催地米 国シカゴ市)においてポスターセッションを実施。同発表ポスターは、以下の以 下の WBCSD ホームページで閲覧可能。 254 http://www.wbcsd.org/Pages/EDocument/EDocumentDetails.aspx?ID=54&No SearchContextKey=true(5件目のドキュメント) なお、この試験結果は、2013年前半を目途に Inhalation Toxicology 誌に 論文として掲載される見込みである。 上記資料で報告されているこの試験研究の実施方法・結果・評価は、次のとおりである。 ①吸入ばく露試験に被験物質として用いるタイヤ由来粉塵を、German Federal Highway Research Institute のタイヤ走行シミュレータ(写真2参照)内に、サイクロンとH EPAフィルターを装備したバキュームシステムを設置(写真3参照)して捕集した。 シミュレータの路面はISO10844に従って6.1%のビチュメン(B50/70)を含有する標 準化されたアスファルトコンクリートを使った。 写真2 タイヤ走行シミュレータ 255 写真3 バキュームシステム 出典:写真2及び3いずれも上記※7のドキュメント (事務局注)実際に捕集された粉じんの粒子径分布に関するデータは上記※7のドキ ュメントには記述されていないが、HEPAフィルタで捕集できる粉じんに関する補足情 報は次の通りである(金沢大学 大谷吉生教授による)。 (ア)HEPAフィルタは、通常のろ過速度5cm/sでは、0.3μmが一番捕集しにくい粒子の大きさ であり、それ以上の粒子でも、それ以下の粒子でも、99.97%以上捕集できるものである。 (イ)サイクロンを出た空気の中に浮遊状態で0.1μm以下の粒子が含まれているのであれば、 HEPAフィルタはそれらの粒子をほぼ100%捕集していると考えられる。 ②タイヤは、次の(ⅰ)~(ⅲ)を用いて、(ⅰ)、(ⅱ)、(ⅲ)からの粉じんを1:1:2の割合で 混合した。粉じんは38μmでろ過した上、その粒子サイズがラットの吸入可能な粒子径 の範囲にあることを、吸入ばく露試験3日目、7日目、21日目にエアロダイナミック・パー ティクル・サイザーで確認した。 (ア)夏用シリカ配合タイヤ(Michelin Pilot Primacy 225/55/R16 95W) (イ)冬用シリカ配合タイヤ(Pirelli Sottozero 225/55 R16 95W M+S) (ウ)夏用カーボンブラック配合タイヤ(Bridgestone Potenza RE 88 205/65 R15 94W) ③ラット(雌雄1群10匹、Sprague-Dawley)へのばく露は、0、10(実測値12.5)、40(実 測値37.8)、100(実測値112.2)μg/m3のそれぞれの濃度のタイヤ由来粉じんを 吸入させた。ばく露方法は、鼻部ばく露で6時間/日、7日間/週で28日間とした。 256 (事務局注)ばく露濃度の上限を100(実測値112.2)μg/m3とした理由は、本試験研究 の実施者である米国 Chemrisk 社に確認したところ次の事情であることが判明した。 (ア)ディーゼル排ガス粒子を用いた吸入ばく露試験を実施した研究(注)で、ばく露濃度を、 30、100、300、1000μg/m3としている事例がある。 (注)J.C.Seagrave, J.D. McDonald, M.D. Reed Response to Subchronic Inhalation of Low Concentration of Diesel Exhaust and Hardwood Smoke Measured in Rat Bronchoalveolar Lavage Fluid Inhalation Toxcology 2005.17:657-670 (イ)本試験研究において上記①の方法で捕集した粉じんの数量では、ばく露濃度を300 μg/m3とすることができなかったため、上限値を100μg/m3とした。 ④毒性に関して得られた知見は次のように報告されている。 (ア)一般毒性 タイヤ由来粉じんは、摂餌・摂水量、体重、体重増加、臓器重量、臓器重量-体 重比毒性の臨床観察で、全ての暴露レベルで何の影響も示さなかった。臨床化 学と血液学(凝血因子を含む)の観点から TRWP に関連する影響は見られなかっ た。 (イ)炎症マーカー及び細胞毒性マーカー タイヤ由来粉じんは、BALF 中のサイトカイン量(IL-6・GRO-KC・TNF[Tumor necrosis factor]-α)や細胞形態(全細胞数・好中球数・リンパ球数・マクロファー ジ数)を計測した限りでは、全ての暴露レベルで肺組織における炎症反応を生じ なかった。 また、BALF 中の総プロテイン・LDH(Lactate dehydrogenase)・ALP(Alkaline Phosphatases)を計測した限りでは、全ての暴露レベルで細胞損傷を生じなかっ た。 さらに、全ての暴露レベルで酸化ストレスマーカー(HO-1及び TBARS(Thiobarbituric acid reactive substances)を上昇させなかった。 (ウ)組織病理学 40及び100μg/m3の暴露では、亜急性の炎症が見られたが、それはまれで軽 度であった。この影響は、10μg/m3では生じなかったが、40μg/m3では10匹 中1匹、100μg/m3では10匹中3匹に生じた。 ⑤NOAEL等については、次のとおりである。 (ア)タイヤ由来粉じんは、112μg/m3までのばく露濃度で28日間、6時間/日で暴 露しても肺での毒性はほとんど確認されなかった。他の毒性エンドポイントもタイヤ 由来粉じん暴露の影響を受けなかった。 (イ)組織病理学的観察の結果(それはタイヤ由来粉じんが影響を示した唯一のエンド 257 ポイント)からは、タイヤ由来粉じんが肺組織で軽度な亜急性の炎症を引き起こす かもしれないことを示唆している。 -この影響は100μg/m3の暴露濃度でさえ軽度で、かつ、まれであるので、呼吸 に悪影響を及ぼすとは考えにくく、可逆的と考えられる。よって“adverse effect”と は考えられない。 (ウ)以上の結果から、吸入ばく露試験に用いたタイヤ由来粉じんのNOAELは 112μg/m3である。 -このNOAELは、一般大気環境中のタイヤ由来粉じん濃度の評価に用いること ができる。 -一般大気環境中のタイヤ由来粉じん濃度は平均値が0.08μg/m3で、上記 NOAELの1/1400と低く、したがってタイヤ由来粉じんへのばく露が一般市民 にリスクをもたらす可能性は低い。 (事務局注)日本で計測されたタイヤ由来粉じんの最高濃度は0.16μg/m3で、上記 NOAELの1/700。 フランスで計測されたタイヤ由来粉じんの最高濃度は0.67μg/m3で、 上記NOAELの1/167。 3.留意点 (1)上記2(5)、(6)で参照した資料の内容は、2013年前半に専門誌に論文として公表され る見込みである。 (2)このため、論文として公表された時点で、記述内容に上記に記載した公表資料と異なる 点がないか確認の上、相違点がある場合本資料の記述を修正することが適当である。 258 【別紙1】 図2.シリカ粒子とシランカップリング剤との一次反応 図3.シリカ粒子とシランカップリング剤との二次反応 259 図4.カップリング剤と不飽和ゴムポリマーとの反応 260 【別紙2】 タイヤ中のシリカ粒子に対するカップリング剤の存在量 1.試算の前提 (1)シリカ 1次粒子径を20nm(市販シリカの1次粒子径は14~24nm)、粒子形状は球形、 比重を2.0とする。 (2)カップリング剤 ①代表的なものとして、Bis(triethoxysilylpropyl)tetrasulfide (TESPT)を想定。 化学式:-(S-S-CH2-CH2-CH2-Si-(O-CH2-CH3)3)2 分子量:539 ②添加量:カップリング剤をシリカ配合重量に対して8%(シリ カメーカーが提示している添加量)添加する。 2.試算内容 ・シリカ1粒子の体積: 4187nm3(A) ・シリカ1粒子の重量: (A)×2÷10E+27=8.37E-18g(B) ・シリカ1粒子当りの TESPT 量:(B)×0.08=6.70E-19g(C) ○シリカ1粒子当りの平均 TESPT 分子存在個数は、748分子 アボガドロ数×(シリカ1粒子当りの TESPT 量(C)÷TESPT 分子量) =6.02E+23x6.70E-19/539=748 261 資料 6 抗菌・消臭スプレーからのナノ銀粒子のばく露 及びリスクに係るケーススタディ (案) 1. ケーススタディの対象とする製品 ナノ銀粒子を含む抗菌・消臭を目的とする家庭用ポンプ式スプレー※1を対象とする。 2. 製品情報・使用情報(販売されている製品の実例を踏まえたもの) ・ 内容量・濃度:500mL、銀濃度は 20ppm(純銀 10mg 配合) ・ 価格:数千円程度 ・ 使用方法:ソファ、トイレ等で抗菌・消臭したいところに、軽く 2 度程度噴射する。 3. ばく露経路の検討 本製品のようなナノ銀粒子が含有された製品の挙動に関する情報が得られなかったため、本 章においては、2種のシナリオを想定し、それぞれのケースにおけるばく露経路の検討を行う。 消費者製品のばく露・リスク評価にあたっては、消費者が通常の使用に伴うばく露・リスク評価 だけではなく、予見可能な誤使用※2も含む必要がある。予見可能な誤使用とは、製品の説明書通 りではないが、ありがちな使用方法や、使用時に故意ではなく起こりえる事象等を含んだ通常使 用よりも過剰な使用方法である。具体的には、対象物に対しスプレーから噴射したミストが手や足 に付着したり、ミストを口から吸い込んだり、ミストが付着した手で直接食べ物に触れ、食べ物と一 緒に摂取してしまうこと等を想定している。ただし、自殺目的の無謀な使用や社会通念を超える使 用などの非常識な使用、誤飲などの事故については検討からは除く。 また、乳幼児がソファ等に付着したナノ銀粒子を直接なめる事も考慮すべきと考えられるが、ば く露状況の具体的なシナリオの想定が困難であるため対象としない。さらには、製品を食品の近く で使用することも考えられるが、使用状況等具体的なシナリオの想定が困難であるため対象とし ない。 (1)ケース1(ナノ銀粒子が揮発性物質と同様の挙動をとるとし室内で浮遊していると仮定した場 合) 抗菌・消臭スプレーを対象物に噴霧する場合、スプレーに含有されているナノ銀粒子は、スプレ ーボトルから溶媒と共にナノ銀粒子を含むミストとして噴霧される。このとき、ナノ銀粒子は、ミスト 状で対象物に噴霧されるものの、揮発性物質と同様の挙動を示すとし、対象物からすぐにミストと して(またはナノ銀粒子として)空気中に浮遊すると仮定する。よって、ナノ銀粒子を含むミスト(ま たは溶媒部分が揮発し、ナノ銀粒子となったもの)は、スプレー使用後瞬時に室内空気中に均一 に分散し、室内空気と共に換気により徐々に室外に排出されるというシナリオを考える。 上述のような条件の場合、以下の経路において抗菌・消臭スプレーの使用者がナノ銀粒子に 262 ばく露する可能性があると考えられる。 ①基本シナリオ ・ ナノ銀粒子が 20ppm の濃度で含有されている室内用の抗菌・消臭スプレー (500mL)を室内のソファ等に毎日噴霧するとし、室内の 5 箇所※3 に対し、製品情 報に従って 1 箇所あたり 2 回抗菌・消臭スプレーを噴射すると仮定する(すなわ ち、1 日計 10 回の噴射となる。ミスト噴射量は 1g/回※4 であるとした場合、このミ スト中のナノ銀粒子の量は、20μg となる。)。 ・ 室内は、体積を 18.5m3 ※5 、換気回数を 0.2 回/h ※6 とする。 ②吸入ばく露のシナリオ ・ ナノ銀粒子が含有されている室内用の抗菌・消臭スプレーを噴霧することで、噴 射量の全てが室内空気中にミストとして(またはナノ銀粒子として)浮遊し、これ を呼吸によって体内に取り込む。吸入により体内に取り込んだナノ銀は全て肺 に到達することとする。 ・ この室内には、一日あたり 18.7 時間 ※7 滞在するとする。 ③経皮ばく露のシナリオ ・ 噴霧時に噴霧したミストの 1% ※8 が皮膚に付着すると仮定する。 ・ 噴射後は、ナノ銀粒子は空気中に浮遊していることから、空気中のナノ銀粒子 が露出している皮膚に付着する事も考えられるが、ここでは考慮しない事とす る。 ・ 皮膚から体内への吸収率は、0.1% ※9 とする。 ④経口ばく露のシナリオ ・ 経皮と同様に噴霧時に噴霧したミストの 1%が経口経路で摂取されると仮定す る。 ・ 噴射後は、ナノ銀粒子は空気中に浮遊していることから、空気中のナノ銀粒子 が口の中に入ることも考えられるが、ここでは考慮しない事とする。 (2)ケース2(ミストの粒径を考慮する場合) ポンプ式のスプレーを噴霧する場合、噴霧されたミストはそのスプレーの構造から通常粗大粒 子となると考えられるため、本ケースにおいては噴霧される粒子径を考慮する。 独立行政法人国民生活センターの報告※4 によると、芳香消臭剤のポンプ式スプレー3製品(ナ ノ銀粒子は含有されていない。)のミストの平均粒子径は197.8μm であるとの報告があり、10μm 以下の微粒子は容易に肺深部(肺胞)にまで到達するという報告根拠を考慮して、10μm 以下の 263 粒子の割合も調査した結果、ポンプ式スプレーでは10μm 以下の粒子の割合は0%であったと報 告している。また、同じく国民生活センターの報告 ※10によると、製品のタイプは異なるものの、虫 除け剤のポンプ式スプレー4製品のミストの平均粒子径は63.7μm であり、平均0.4%が10μm 以 下の粒子径になっていると報告している※11。 以上の報告を踏まえ、ケース2においてはミストの粒子径に着目し、室内空気中に浮遊するナノ 銀粒子の量を噴射量の1%(不確実性を考慮し虫除け剤の0.4%の約2倍の値を採用。)が10μm 以 下の粒子となり、室内空気中にミスト(またはナノ銀粒子として)浮遊し続けると想定し、残りは一 部が皮膚への付着や口に入る他は、対象物および対象物付近の床面等に沈降すると仮定する。 ただし、沈降したミストは、溶媒が揮発した後、ナノ銀粒子としてその場にとどまっており、室内の 空気の流れやヒトの活動によって床面や対象物から再飛散しながら移動する事も考えられる。 上述のような条件の場合、以下の経路において抗菌・消臭スプレーの使用者がナノ銀粒子に ばく露する可能性があると考えられる。(ケース1と異なるシナリオについて、下線で示す) ①基本シナリオ ・ ナノ銀粒子が 20ppm の濃度で含有されている室内用の抗菌・消臭スプレー (500mL)を室内のソファ等に毎日噴霧するとし、室内の 5 箇所に対し、説明書 通りに 1 箇所あたり 2 回抗菌・消臭スプレーを噴射すると仮定する(すなわち、1 ・ ・ ・ ・ 日計 10 回の噴射となる。ミスト噴射量は 1g/回であるとした場合、このミスト中 のナノ銀粒子の量は、20μg となる。)。 室内は、体積を 18.5m3、換気回数を 0.2 回/h とする。 ミストとして浮遊している使用量の 1%以外は、対象物や対象物付近に沈降し、 その後溶媒が揮発し、ナノ銀粒子としてその場にとどまっているが、室内の空気 の流れやヒトの活動によって床面や対象物から移動等を繰り返し、最終的に全 量が床面に移動していくと仮定する。 1 週間に 1 回の清掃※12 で全てのナノ銀粒子が除去されると仮定する。 室内の床面に移動し、存在しているナノ銀粒子の 1 週間の 1 日当たりの平均値 は 0.8mg/day※13 となる。 ②吸入ばく露のシナリオ ・ ナノ銀粒子が含有されている室内用の抗菌・消臭スプレーを噴霧することで、噴 射量の 1%が室内空気中にミストとして(またはナノ銀粒子として)浮遊し、これを 呼吸によって体内に取り込む。体内に取り込んだナノ銀は全て肺に到達するこ ととする。 ・ この室内には、一日あたり 18.7 時間滞在するとする。 ・ 一方、対象物や対象物付近に沈降したナノ銀粒子が室内の空気の流れやヒト の活動によって床面や対象物から移動等により空気中に再飛散する。この再 264 飛散においては、床面等からの定常放散であると仮定し、床面からのナノ銀粒 子の飛散率に粒子存在量を乗じることによって推定する。なお、再飛散率につ いては、米国環境保護庁(U.S.EPA)の 9.9×10-7/hr ※14 を採用する。1 週間のナ ノ銀粒子の存在量の平均値 0.8mg にこの飛散率を乗じると、床面からのナノ銀 粒子の放散量は、0.8mg×9.9×10-7/hr=7.9×10-7mg/hr となる。 ③経皮ばく露のシナリオ ・ 噴霧時に噴霧したミストの 1%が皮膚に付着すると仮定する。 ・ 噴射後は、対象物や対象物付近に沈降しているナノ銀粒子に素手や素足で触 れることにより、ナノ銀粒子が皮膚に接触する事により経皮経路でナノ銀粒子 にばく露する量を推定する。このとき、対象物や対象物付近から床面に移動し ているナノ銀粒子(1 週間の平均値は、0.8mg)の 1%/day ※14 が皮膚に付着する と仮定する。なお、ここでの経皮ばく露は、噴射回数が 10 回行われた後である ことから、イベント発生回数は、1 日 1 回とする。 ・ 皮膚から体内への吸収率は、0.1%とする。 ④経口ばく露のシナリオ ・ 経皮と同様に噴霧時に噴霧したミストの 1%が経口経路で摂取されると仮定す る。 ・ 噴射後は、対象物や対象物付近に沈降しているナノ銀粒子に素手や素足で触 れることにより、ナノ銀粒子が皮膚に付着する事により経皮経路でナノ銀粒子 にばく露する量を推定する。このとき、対象物や対象物付近から床面に移動し ているナノ銀粒子(1 週間の平均値は、0.8mg)の 1%/day が皮膚に付着すると仮 定する。このナノ銀粒子が付着した手で食器や飲食物に触れてしまうことや、習 慣等で手やその他ナノ銀粒子が付着した部分を口に入れてしまう事を考慮し、 経皮ばく露で体内に吸収されなかった全ての吸着分を経口から摂取すると仮定 する。 4. ヒトばく露量の推計 ナノ銀粒子が含有された抗菌・消臭スプレー(室内用)の使用によって、室内に居住する者がナ ノ銀粒子にばく露する量について推計する。 なお、本ケーススタディにおいて使用した EHE(Estimated Human Exposure)の推計に用いてい るアルゴリズムや基本的なばく露係数(呼吸量や体重等)については、独立行政法人製品評価技 術基盤機構(NITE)の「GHS 表示のための消費者製品のリスク評価手法のガイダンス」(2008)※2 を参照している。 265 (1)ケース1 ①吸入ばく露量※15 室内空気中のナノ銀粒子平均濃度を求め、それを用いて吸入ばく露量 EHE(inha)を推計する。 1回噴射された室内において、居住者が滞在する18.7時間の平均室内濃度 Cat を以下の式に より算出すると、 となる。 Cat:平均室内濃度(mg/m3)、Ap:使用量(/回)、Wr:含有率、 N:換気回数(回/h)、V:室内容積(m3)、t:滞在時間(h) 平均室内濃度 Cat を使用し、また、噴射回数 n(1日あたり10回)を考慮し、EHE(inha)を以下の式 により推計すると、 となる。 EHE(inha):吸入ばく露推定量(mg/kg/day)、Q:呼吸量(m3/h)、 a(inha):体内吸収率、n:1日あたりの噴射回数(/day)、BW:体重(kg) ②経皮ばく露量※16 経皮ばく露量 EHE(derm)は、製品中の化学物質重量(使用量 Ap×含有率 Wr)と皮膚付着率 Md から以下の式により推計すると、 となる。 EHE(derm):経皮ばく露量(mg/kg/day)、Md:皮膚付着率、a(derm):体内吸収率 ③経口ばく露量※17 経口ばく露量 EHE(oral)は、製品中の化学物質重量(使用量 Ap×含有率 Wr)と非意図的摂取率 Mo から以下の式により推定すると、 となる。 EHE(oral):経口ばく露量(mg/kg/day)、Mo:非意図的摂取率、a(oral):体内吸収率 266 (2)ケース2 ①吸入ばく露量 a)使用する事により室内空気中に浮遊するナノ銀粒子の吸入ばく露量※15 室内空気中のナノ銀粒子平均濃度を求め、それを用いて吸入ばく露量 EHE(inha)を推計する。 1回噴射され、その噴射量の1%が空気中に浮遊する室内において、居住者が滞在する18.7時 間の平均室内濃度 Cat を以下の式により算出すると、 となる。 Cat:平均室内濃度(mg/m3)、Ap:使用量(/回)、Wr:含有率、 N:換気回数(回/h)、V:室内容積(m3)、t:滞在時間(h) 平均室内濃度 Cat を使用し、また、噴射回数 n(1日あたり10回)を考慮し、EHE(inha)を以下の式 により推計すると、 となる。 EHE(inha):吸入ばく露推定量(mg/kg/day)、Q:呼吸量(m3/h)、 a(inha):体内吸収率、n:1日あたりの噴射回数(/day)、BW:体重(kg) b)対象物や対象物付近、床面から再飛散するナノ銀粒子の吸入ばく露量※18 室内空気中のナノ銀粒子平均濃度を求め、それを用いて吸入ばく露量 EHE(inha)を推計する。 10回噴射された室内において、放散速度 G(7.9×10-7mg/h)から平均室内濃度 Cat を以下の式 により算出すると、 となる。 G:放散量(mg/h) 平均室内濃度 Cat を使用し、EHE(inha)を以下の式により推計すると、 となる。 267 c)ナノ銀粒子の吸入ばく露量 以上より、吸入ばく露量は、 となる。 ②経皮ばく露量※16 a)噴霧時の付着による経皮ばく露量 経皮ばく露量 EHE(derm)は、製品中の化学物質重量(使用量 Ap×含有率 Wr)と皮膚付着率 Md から以下の式により推計すると、 となる。 EHE(derm):経皮ばく露量(mg/kg/day)、Md:皮膚付着率、a(derm):体内吸収率 b)噴霧後の対象物や対象物付近、床面のナノ銀粒子への接触 経皮ばく露量 EHE(derm)は、製品中の化学物質重量(使用量 Ap×含有率 Wr)と皮膚付着率 Md から以下の式により推計すると、 となる。 EHE(derm):経皮ばく露量(mg/kg/day)、Md:皮膚付着率、a(derm):体内吸収率 c)ナノ銀粒子の経皮ばく露量 以上より、経皮ばく露量は、 となる。 ③経口ばく露量※17 a)噴霧時の経口ばく露量 経口ばく露量 EHE(oral)は、製品中の化学物質重量(使用量 Ap×含有率 Wr)と非意図的摂取率 Mo から以下の式により推定すると、 となる。 EHE(oral):経口ばく露量(mg/kg/day)、Mo:非意図的摂取率、a(oral):体内吸収率 268 b)噴霧後の対象物や対象物付近、床面のナノ銀粒子への接触したものの経口摂取 経口ばく露量 EHE(oral)は、②の b)で皮膚に付着し、経皮経路で体内に吸収されないナノ銀粒 子の全てを経口から摂取するため、②の b)の式を以下のように改良して推定すると、 となる。 EHE(oral):経口ばく露量(mg/kg/day)、Md:皮膚付着率、a(oral):体内吸収率 c)ナノ銀粒子の経口ばく露量 以上より、経口ばく露量は、 となる。 (3)ケース1とケース2のまとめ ケース毎、経路毎にばく露量を整理すると以下のようになる。 Case No. 吸入ばく露量 経皮ばく露量 経口ばく露量 合計ばく露量 EHE(inha) EHE(derm) EHE(oral) EHE(total) Case 1 8.79×10-4 4.00×10-8 4.00×10-5 9.19×10-4 Case 2 8.86×10-6 2.00×10-7 2.00×10-4 2.09×10-4 内訳 内訳 内訳 内訳 a) 8.79×10-6 a) 4.00×10-8 a) 4.00×10-5 a) 4.88×10-5 b) 6.67×10-8 b) 1.60×10-7 b) 1.60×10-4 b) 1.60×10-4 単位:mg/kg/day 5. ケーススタディに用いる NOAEL 及び不確実係数 (1)NOAEL に関する情報 U.S.EPA は、連邦殺虫剤殺菌剤殺鼠剤法(FIFRA)に基づいて登録申請されたナノ銀粒子含有 薬剤を審査した結果を「Conditional Registration of HeiQ AGS-20 as a Materials Preservative in Textiles, December 1, 2011, EPA」※9 として報告書にまとめ、公表している。U.S.EPA は、この報告 書において、ナノ銀粒子の NOAEL 等を検討し、適切と判断した数値を提案している。以下に、報 告書で提案された経路別の NOAEL を示す。 ①吸入経路 ラットにナノ銀粒子(平均粒子径18~19nm:最小粒子径2nm、最大粒子径65nm)を13週間吸入 ばく露させた Sung らの試験結果より、U.S.EPA では肺への影響等から NOAEL を133μg/m3と提 案している。 269 ②経皮経路 現時点では利用できる情報が乏しいため、U.S.EPA では経皮経路の NOAEL を経口経路の NOAEL である0.5 mg/kg/day を準用している。 ③経口経路 ラットにカルボキシメチルセルロースでコーティングしたナノ銀粒子(平均粒子径は、28日間反 復投与で60nm、90日間反復投与で56nm)を28日間及び90日間反復投与した結果、いずれも肝臓 等への影響から NOAEL は30mg/kg/day であるとの Kim ら(2008及び2010)の報告と、マウスにナ ノ銀粒子(平均粒子径42nm)を28日間反復投与した結果、NOAEL は0.5mg/kg/day であるとの Park らの報告から、U.S.EPA では NOAEL を保守的な値である0.5mg/kg/day と提案している。 (2)本ケーススタディに用いる NOAEL ①吸入経路 U.S.EPA の提案のとおり、NOAEL133μg/m3を採用する。この値を1日吸入摂取量に換算すると 0.018mg/kg/day なる。換算方法を以下に示す。 換算 NOAEL = 気中濃度上限値 × ラットの1日呼吸量 × 1日におけるばく露時間比率× 1 週間におけるばく露日比率 ÷ ラットの体重 = 133μg/m3 × 0.26 m3/day × 6 h /24 h × 5day/7day ÷ 0.35 kg = 0.018mg/kg/day ②経皮経路 U.S.EPA の提案のとおり、NOAEL を0.5mg/kg/day とする。 ③経口経路 U.S.EPA の提案のとおり、NOAEL を0.5mg/kg/day とする。 (3)本ケーススタディにおける不確実係数について ①吸入経路 ヒトと実験動物との種差に係る不確実性について、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合 開発機構(NEDO)ナノ材料のリスク評価書-二酸化チタン-※19では、ラットは慢性の炎症につい てヒトを含む他の種よりも感受性が高いことから、種間外挿に係る不確実係数は1としている。し かし、この考え方を本ケーススタディにおいて同様に採用してよいか必ずしも明らかでない。この ため、ここでは一般的なヒトと実験動物との種差の不確実係数10を採用する。次に、ヒトの集団で 脆弱者が強い影響を受ける可能性がある個人差の不確実係数10を採用する。また、NOAEL の根 拠となっている試験が13週間の亜慢性試験であるので、これを慢性試験の結果として考慮するた 270 めのばく露期間の外挿の係数を化学物質審査規制法に基づくスクリーニング評価で有害性評価 値導出に用いている係数2※20を採用する。 以上より、ここでは不確実係数積(UFs)を200とする。 ②経皮経路 ここでは一般的なヒトと実験動物との種差の不確実係数10を採用する。次に、ヒトの集団で脆 弱者が強い影響を受ける可能性がある個人差の不確実係数10を採用する。また、NOAEL の根拠 となっている試験が28日間の亜急性試験であるので、これを慢性試験の結果として考慮するため のばく露期間の外挿の係数を化学物質審査規制法に基づくスクリーニング評価で有害性評価値 導出に用いている係数6を採用する。 以上より、ここでは不確実係数積(UFs)を600とする。 ③経口経路 ここでは一般的なヒトと実験動物との種差の不確実係数10を採用する。次に、ヒトの集団で脆 弱者が強い影響を受ける可能性がある個人差の不確実係数10を採用する。また、NOAEL の根拠 となっている試験が28日間の亜急性試験であるので、これを慢性試験の結果として考慮するため のばく露期間の外挿の係数を化学物質審査規制法に基づくスクリーニング評価で有害性評価値 導出に用いている係数6を採用する。 以上より、ここでは不確実係数積(UFs)を600とする。 6. リスクの考察 (1)ケース1 ①吸入ばく露 NOAEL0.018mg/kg/day に対し、ケース1における吸入ばく露量( EHE(inha))は、8.79×10-4 mg/kg/day であるので、MOE は次のとおり。 MOE = NOAEL/EHE(inha) = 0.018 mg/kg/day/8.79×10-4 mg/kg/day = 20 以上の結果、UFs200と比較すると、MOE 20は十分なマージンとは言えず、ケース1における吸 入経路でのナノ銀粒子へのばく露については、本ケーススタディの結果としてリスク懸念の可能 性が示唆されるものの、後述7.本評価に係る留意点(過大評価の可能性)も併せて考慮する必 要がある。 ②経皮経路 NOAEL0.5mg/kg/day に 対 し 、 ケ ー ス 1 に け る 経 皮 ば く 露 量 ( EHE(derm) ) は 、 4.00×10-8mg/kg/day であるので、MOE は次のとおり。 MOE = NOAEL/EHE(derm) = 0.5mg/kg/day/4.00×10-8 mg/kg/day 271 = 12,500,000 以上の結果、UFs600と比較すると、MOE 12,500,000は十分に大きいため、ケース1における経 皮経路でのナノ銀粒子へのばく露については、本ケーススタディの結果としてリスク懸念の可能 性はないことが示唆される。 ③経口経路 NOAEL0.5mg/kg/day に 対 し 、 ケ ー ス 1 に け る 口 皮 ば く 露 量 ( EHE(oral) ) は 、 4.00×10-8mg/kg/day であるので、MOE は次のとおり。 MOE = NOAEL/EHE(oral) = 0.5mg/kg/day/4.00×10-5 mg/kg/day = 12,500 以上の結果、UFs600と比較すると、MOE 12,500は十分に大きいため、ケース1における経口経 路でのナノ銀粒子へのばく露については、本ケーススタディの結果としてリスク懸念の可能性はな いことが示唆される。 (2)ケース2 ①吸入ばく露 NOAEL0.018mg/kg/day に対し、ケース2における吸入ばく露量( EHE(inha))は、8.79×10-4 mg/kg/day であるので、MOE は次のとおり。 MOE = NOAEL/EHE(inha) = 0.018 mg/kg/day/8.86×10-6 mg/kg/day = 2032 以上の結果、UFs200と比較すると、MOE 2032は1桁以上大きいため、ケース2における吸入経 路でのナノ銀粒子へのばく露については、本ケーススタディの結果としてリスク懸念の可能性はな いことが示唆される。 ②経皮経路 NOAEL0.5mg/kg/day に 対 し 、 ケ ー ス 2 に け る 経 皮 ば く 露 量 ( EHE(derm) ) は 、 2.00×10-7mg/kg/day であるので、MOE は次のとおり。 MOE = NOAEL/EHE(derm) = 0.5mg/kg/day/2.00×10-7 mg/kg/day = 2,500,000 以上の結果、UFs600と比較すると、MOE 2,500,000は十分に大きいため、ケース2における経皮 経路でのナノ銀粒子へのばく露については、本ケーススタディの結果としてリスク懸念の可能性 はないことが示唆される。 272 ③経口経路 NOAEL0.5mg/kg/day に対し、ケース2にける口皮ばく露量(EHE(oral))は、2.00×10-4mg/kg/day であるので、MOE は次のとおり。 MOE = NOAEL/EHE(oral) = 0.5mg/kg/day/2.00×10-4 mg/kg/day = 2,500 以上の結果、UFs600と比較すると、MOE 2,500は4倍以上大きいため、ケース2における経口経 路でのナノ銀粒子へのばく露については、本ケーススタディの結果としてリスク懸念の可能性はな いことが示唆される。 7.本評価に係る留意点等 (1)シナリオの設定について 本ケーススタディは、評価対象製品であるポンプ式スプレーの構造的特徴や噴霧におけるナノ 銀粒子の性状や挙動等について不明な点が多く、極端な仮定が設定されている可能性がある。 本来、ナノ銀粒子は対象物質に付着し抗菌・消臭効果を発揮すると考えられる。しかしながら、 ケース1では、ナノ銀粒子を含むポンプ式スプレーの噴霧時の液滴やミストの挙動及びナノ銀粒子 の浮遊状況の直接的な情報が得られなかったため、全ナノ銀粒子が空気中に浮遊することを仮 定している。このため、製品の機能が発揮されないシナリオとなっている可能性が高く、製品を考 えた場合に過大評価となっている可能性が高い点に注意が必要である。 また、ケース2では、ポンプ式スプレーに関する既存の情報を利用し、製品の噴霧時の液滴やミ ストの挙動といった製品構造の特徴を踏まえたシナリオを仮定している。しかし、同様の製品構造 から得られた情報に安全性(不確実性)を加味したシナリオを仮定していることから、本シナリオに おいても過大評価となっている可能性があることに注意が必要である。 (2)予見可能な誤使用について 製品の安全性を評価するには、予見可能な誤使用を十分に考慮する必要がある。本ケースス タディにおいては、ばく露量の算出に用いるばく露係数を各種調査の結果等を活用し、その90%ile 値(または、10%ile 値)や最大値を採用して設定した。しかし、用いた調査は本対象製品の使用状 況に限った結果ではないため、本製品と異なる使用方法が含まれた値を採用していることに注意 が必要である。また、これらの係数は予見可能な誤使用を考慮するがために、一般的な使用より は過剰な状況の値からばく露量を算出しているため、場合によっては予見可能な誤使用からかけ 離れた使用状況までを含む評価結果となっている可能性が考えられ、この点においても注意が必 要である。 本ケーススタディにおいて設定したケースは、過大評価の可能性が考えられるため、製品の適 正使用を心がけることでさらにリスクが低減されることが予想される。 273 (3)毒性情報・キャラクタリゼーションについて 対象製品の抗菌・消臭スプレーに含まれるナノ銀の直接的な毒性情報がないため、EPA の報告 書にある毒性情報を参考にしているが、両製品の毒性情報が同じである根拠はない。また、ポン プ中のナノ銀粒子や噴霧後のナノ銀粒子のキャラクタリゼーションの情報がないこと、また挙動も 分かっていないことに留意する必要がある。さらに、ナノ銀と銀イオンが区別できていない中での リスクのケーススタディであることにも留意が必要である。 274 ※1 ポンプ式スプレー:噴射剤を含まない手動噴霧の霧吹きタイプのもの。エアゾールタイプスプ レーとは異なる。 ※2 予見可能な誤使用については、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)の「GHS 表示 のための消費者製品のリスク評価手法のガイダンス」(2008)等で考え方・評価法が示されている。 ガイダンスおよび付属書は、以下の Web サイトで公開されている。 http://www.safe.nite.go.jp/ghs/risk_consumer.html ※3 独立行政法人産業技術総合研究所(AIST)が独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開 発機構(NEDO)と締結した「化学物質の最適管理をめざすリスクトレードオフ解析手法の開発」プ ロジェクトにて、AIST と NITE(再委託先)が実施した室内ばく露にかかわる生活・行動パターン情 報調査(以下「生活行動パターン調査」という。)によると、ポンプ式スプレータイプの消臭芳香剤 の使用者において、最も滞在時間が長いと考えられる寝室内での使用回数の最大値が5回/日で あることに基づいている。ここで、最大値を採用した理由として、ポンプ式スプレータイプ製品の使 用者数が106人と少ないことで、予見可能な誤使用を十分考慮出来ていない可能性があることか ら、ここでは最大値を採用することとした(予見可能な誤使用を考慮すると90%ile 値や95%ile 値が 採用されることが多い。)。なお、本データは、近日中に NITE の Web サイトより公開される予定で ある。 ※ 4 ス プ レ ー タ イ プ の 消 臭 剤 の 商 品 テ ス ト 結 果 (http://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20010606_1.html)によると、消臭剤のポンプ式スプレー の1回当たりの使用量のうち、最も多いのが約0.5g であると報告されている。しかし、ここでは、製 品タイプが限定できないことと、3製品の結果だけであることを考慮し、2倍の1g/回の値を採用す ることとした。 ※5 生活行動パターン調査によると、寝室の面積の10%ile 値である8.8m2であること、また、建築 基準法において、床面から天井までの高さの最低値が2.1m とされていることからこれらを乗じて 算出した。なお、寝室の面積等のデータは、近日中に NITE の Web サイトより公開される予定であ る。 ※6 平成15年の建築基準法改正において、換気回数が0.5回/h となるよう換気装置の設置が義 務づけられているが、平成15年以前に建てられた住宅も考慮する必要があることから、三原ら(日 本環境管理学会誌,2004,52,166-169)の調査結果より、測定法別の換気回数の各最小値を平 均した値を採用することとした。 275 ※7 生活行動パターン調査によると、居室と寝室が同じとなる(区別がない)1Room タイプや1K タ イプの室内において、女性の滞在時間の90%ile 値が平日17.0時間、休日23.0時間であることから、 これを平日5日、休日2日として加重平均した値。なお、本データは、近日中に NITE の Web サイト より公開される予定である。 ※8 Hansen et al., Categorization framework to aid exposure assessment of nanomaterials in consumer products, Ecotoxicology Volume 17, Number 5, 438-447では1%の値が採用されている。 なお、この値は厚生労働省のナノマテリアル安全対策調査事業報告書においても採用されてい る。 ※9 米国環境保護庁(U.S.EPA)の Conditional Registration of HeiQ AGS-20 as a Materials Preservative in Textiles, December 1, 2011において、経皮吸収率についてはヒトの臨床情報から 十分な吸収率として0.1%と提案されていることから、ここでは0.1%を経皮吸収率として採用している。 なお、報告書は以下の URL よりダウンロードすることが可能である。 http://www.regulations.gov/contentStreamer?objectId=0900006480f787d3&disposition=attachme nt&contentType=pdf ※10 虫よけ剤-子供への使用について- http://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20050603_1.html ※11 国民生活センターの報告以外の情報として、Hagendorfer ら(2010)は、工業ナノ粒子を含む ポンプ式スプレーにおいて、測定可能なナノ粒子の放出を示さなかったと報告している。 Harald Hagendorfer, Christiane Lorenz, Ralf Kaegi, Brian Sinnet, Robert Gehrig, Natalie V. Goetz, Martin Scheringer, Christian Ludwig, Andrea Ulrich, Size-fractionated characterization and quantification of nanoparticle release rates from a consumer spray product containing engineered nanoparticles, J Nanopart Res (2010) 12:2481–2494 ※12 生活行動パターン調査によると、洗剤・化学ぞうきん等を用いた部屋掃除の頻度の10%ile 値 は0.3回/週とあるが、これには水拭きのみである場合や、掃き掃除や掃除機等を使用した清掃は 含 ま れ て い な い 。 そ の た め 、 最 頻 値 ( mode ) で あ る 1.0 回 / 週 を 採 用 す る 事 と し た 。 http://www.safe.nite.go.jp/risk/pdf/exp_3_2.pdf ※13 1日目:0.2mg、2日目:0.4mg、・・・、7日目:1.4mg を平均したもの。なお、②~④に示すシナリ オにおいて、吸入で1%、経皮・経口で各1%の計3%は対象物や対象物付近に沈降せずに摂取等さ れるが、これらは全体に対しては微量であるため、考慮していない。 276 ※14 厚生労働省のナノマテリアル安全対策調査事業報告書において、カーペットに付着させた ナ ノ マ テ リ ア ル が 剥 離 し た 場 合 の ば く 露 量 の 推 算 に お い て 、 Exposure Factors Handbook (U.S.EPA)のカーペットからの0.3~0.5μm の粒子の飛散率の値を採用していることから、同様に この値を採用する。ただし、ナノ粒子の定義より粒子が大きいことに注意が必要である。必要に応 じて、再飛散率を10倍するなど検討が必要である。 また、噴射後の床面等からの皮膚に付着する量については、同報告書において、カーペットの 繊維に含まれる粒子が剥離・飛散し、その一定量を※8の Hansen らの文献を参考に1%/day が皮 膚に付着するものとして経皮ばく露量を算出していることから、この値を採用する。 ※15 ここでは、NITE のガイダンスに従い、「瞬間蒸発モード:単調減少」を採用する。この「瞬間 蒸発モード:単調減少」の特徴は、製品を使用した空間内に化学物質が全て拡散したと仮定し、 使用した化学物質重量と空間体積より算出する。このとき、製品からの放散は瞬間的に終了して いる(つまり、噴霧は瞬時に終了し、それ以上製品から放散とは無い状況。)。よって、空間に存在 する当該化学物質重量が、時間 t において、換気により減少した濃度を表す。製品の使用時間が 全ばく露時間に対し極端に短く、使用後に放散がない製品の場合に適用可能である。 Conc. 換気あり 単調減少 Time 濃度と時間のイメージ ※16 ここでは、NITE のガイダンスに従い、「使用した一部が皮膚に付着(一定比率付着)すること による経皮ばく露」を採用する。この「使用した一部が皮膚に付着(一定比率付着)することによる 経皮ばく露」の特徴は、製品の使用の際に、使用した一部が皮膚に付着してしまった場合等の経 皮ばく露を考慮する。皮膚に付着した割合を皮膚付着率 Md として仮定し、使用した製品中の化学 物質重量(Ap×Wr)に皮膚付着率 Md を掛けて重量を算出したうえで経皮ばく露量を算出する。 ※17 ここでは、NITE のガイダンスに従い、「口に入れる可能性がある製品の非意図的摂取」採用 する。この「口に入れる可能性がある製品の非意図的摂取」の特徴は、本来製品を口に入れるこ とを想定していないが、習慣等により製品を口に入れる可能性が考えられる。このような、非意図 的に摂取してしまう可能性がある場合に適用する。イベントあたり口中に残留する割合である非 意図的摂取率 Mo を仮定して経口ばく露量を算出する。 277 ※18 ここでは、NITE のガイダンスに従い、「定常放散モード」を採用する。この「定常放散モード」 の特徴は、製品の使用時間が長く、一定の放散速度を持つ製品の場合、製品からの放散速度を 用いてばく露量を推算する。空気中濃度 Ca は、時間とともに変化しない。ここでは、空気中濃度 Ca は、化学物質の放散による濃度増加と、空間へ外気の流入および空間外への空気の流出に よる濃度減少が平衡状態となり、空気中濃度 Ca が一定となっている。空気中濃度 Ca に濃度変化 がないため、ばく露期間中の平均空気中濃度 Cat は、Ca と同じである。そのため、吸入ばく露量 は、ばく露期間中の平均空気中濃度 Cat、呼吸量 Q 及びばく露時間 t の積から求める。ただし、 製品の使用時間が短く、一定濃度に達するまでに使用が終了すると考えられる場合は、「定常放 散モード」を使用すると過大評価となる可能性がある。 アルゴリズムは、以下の図のように定常放散のマスバランスを考慮することにより求められる。 空間体積 化学物質濃度 換気回数 外気の流入 v (m3/h) V (m3) Ca (mg/m3) N (1/h) N=v/V → v=N×V 空間外への空気流出 v (m3/h) 放散源 放散速度 G (mg/h) 化学物質のマスバランス 空間内への放散速度:G 空間外へ流出速度:v×Ca 空間内への放散と空間外への流出が平衡な状態:G=v×Ca 以上より、Ca=G/v=G/(N×V) 定常放散モードにおける空気中濃度の移動イメージとアルゴリズム ※19独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)ナノ材料のリスク評価書-二 酸化チタン- http://www.aist-riss.jp/main/modules/product/nano_rad.html ※20 化審法におけるスクリーニング評価手法および不確実性係数については、「化審法におけ るスクリーニング評価手法」(2011)等を参照のこと。 http://www.meti.go.jp/policy/chemical_management/kasinhou/files/information/ra/screening.pdf 278 資料 7 ナノ物質の管理に関する検討会・リスク評価WGの活動状況(案) ナノ物質は今後のイノベーションの源泉として期待されている一方で、有 害性に関しては不確実性が高く、その固有の形状による有害性を懸念する指 摘がある。このようなナノ物質について、経済産業省では、平成21年度にナ ノマテリアル製造事業者等における安全対策のあり方研究会報告書をとりま とめ、ナノマテリアルの安全対策に関し自主的な安全対策の取組と安全性情 報の収集・把握等に取り組んでいる。その後、NEDO「ナノ粒子特性評価手法 の研究開発」プロジェクト成果としてカーボンナノチューブ、フラーレン及 び二酸化チタンのナノ材料リスク評価書の公表等、ナノ材料の科学的知見が 蓄積されつつあるところである。 このような科学的知見等を踏まえ、現状でのナノ物質の有害性等を整理し、 ナノ物質の適正な管理のあり方を検討するため、 「ナノ物質の管理に関する検 討会」を開始、この検討会のもとに「リスク評価ワーキンググループ」を設 置し、専門的な検討を行う。 1.委員名簿 有田 芳子 主婦連合会 環境部長 一鬼(いちき)勉 一般社団法人 日本化学工業協会 化学品管理部 部長 江馬 眞 (独)産業技術総合研究所 安全科学研究部門 招聘研究員 ◎大前 和幸 慶應義塾大学医学部 公衆衛生学 教授 甲田 茂樹 (独)労働安全衛生総合研究所 研究企画調整部 首席研究 員 中西 準子 (独)産業技術総合研究所 フェロー 西村 哲治 帝京平成大学薬学部 薬学科 教授 則武 祐二 平野靖史郎 広瀬 明彦 明星 敏彦 吉川 正人 (株)リコー 社会環境本部 審議役 (ISO/TC229国内審議委員会環境・安全分科会副主査) (独)国立環境研究所環境リスク研究センター 健康リスク研究室長 国立医薬品食品衛生研究所安全性生物試験研究センター 総合評価研究室長 産業医科大学産業生態科学研究所 労働衛生工学 教授 (日本粉体工業技術協会 ナノ物質の安全性向上のための ガイドライン作成委員会委員) 東レ株式会社 CR企画室長 (ナノテクノロジービジネス推進協議会 CNT分科会主 279 査) ◎ 座長 280 2.検討事項(検討範囲) これまでのナノ物質のリスク等に関する知見を整理し、ナノ物質のリスク 評価に関する検討を行う。 対象とするナノ物質は、国内生産実態等を考慮して次の7種類を考える。 カーボンブラック、フラーレン、CNT(単層・多層)、ナノ二酸化チタン、ナ ノ酸化亜鉛、アモルファスシリカ、ナノ銀 ただし、労働安全分野・医薬品/食品分野および環境・動植物への影響につ いては、今回の検討では対象としない。 3.活動実績 (1)第1回 平成24年1月20日 議題:・リスク評価ワーキンググループの開催について ・ナノ物質のリスク評価のための検討課題について (2)第2回 平成24年2月24日 議題:・前回WGで出された論点について ・暴露可能性のケーススタディの進め方について (3)第3回 平成24年3月28日 議題:・暴露可能性情報について (4)第4回 平成24年6月12日 議題:・第3回WGでの指摘事項について ・ケーススタディの結果について ①プリントエレクトロニクス用インク(ナノ銀) ②塗料(二酸化チタン、シリカ、CB) ③エンジンオイル添加剤(フラーレン) (5)第5回 平成24年7月26日 議題:・ケーススタディの結果について ①ケーススタディ結果に関するWG意見取りまとめ及び資料の公表につ いて ②ケーススタディにおけるばく露シナリオの総括表について ③塗料について ④トナーについて ⑤自動車タイヤについて (6)第6回 平成24年8月22日 議題:・ケーススタディの結果について ①トナーについて ②塗料について 281 ③自動車タイヤについて ④ナノ銀スプレーについて 4.これまでの検討結果の要点 (1)工業ナノ物質の有害性について リスク評価WG開始時点において、ナノ物質全体の化学物質管理政策上の 取り扱いを体系的に考えるため「常温で固体の物質がナノサイズの粒子にな った場合に物質の種類に拠らずに共通的に発現する有害性が存在するのか どうか」について、知見を整理したいと考えていた。 しかしながら、WG活動と並行して実施した既存情報の調査・分析やWG での審議の結果としては、現時点では工業ナノ物質全体に共通している有害 性が存在するとは言えないとの結論である。 (2)工業ナノ物質を含有する製品の使用を通じた工業ナノ物質へのばく露を 中心とするケーススタディ ①ケーススタディにおける検討・整理事項 ・ ケーススタディにおいては、以下の事項を検討・整理することとした。 ・ ナノ物質が含まれる製品の整理;どのようなナノ物質がどのように使用さ れているのかを具体的に整理する。特にナノ物質が製品中で実際にどのよ うな状態で存在しているかを可能な限り明らかにする。 ・ ナノ物質のばく露シナリオ;ナノ物質を含む製品を使用することにより、 製品中のナノ物質が離脱して体内に摂取されたり、環境中に放出されたり する可能性をできるだけデータをもとに推定する。 ・ ナノ物質の簡易リスク評価;ナノ物質離脱推定量を経口投与毒性試験、吸 入ばく露毒性試験等の結果と比較することにより、ヒトの健康へのリスク の程度を考察する。 ②ケーススタディの対象製品 我が国におけるナノ物質を含む製品の現状を把握し、その製品中でのナノ 粒子の存在形態やばく露の可能性を評価して、ケーススタディを行う対象製 品を絞り込む。 ・ ナノ物質が含有されている工業製品の状況を調査 ・ 上記の製品のナノ粒子の存在形態からみた分類 ・ ケーススタディを実施する対象製品;消費者ばく露の可能性を考慮して、 以下の4製品についてケーススタディを実施している。 ⅰ)成型品(工業ナノ物質を含有するが、最終製品が常温で固体状態、又は、 282 固有の形状を持つ成型品であるもの) 〇タイヤ(CB、シリカ) 現時点で入手可能な公表資料によるとタイヤ粉じんによる健康リスク の可能性は低いとされている。同公表資料は今後論文化される予定なの で、その結論が変更されないか引き続き確認。 〇トナー(CB、シリカ) 現時点で入手できる資料ではコピー機等からの常温で固体のナノ物質 の放出について有るとするものと無いとするものが混在。専門家の見解 が収斂するまでに更なる知見の集積・整理を要する。 〇塗料(塗装後の塗膜からのばく露可能性;二酸化チタン、シリカ) ナノ物質の露出・放散につながりうる塗膜の劣化に関するデータが限ら れていること等から、塗膜の劣化試験を実施しナノ物質の露出・放散の 可能性を評価する。 ⅱ)液体または流動体(工業ナノ材料を含有し、最終製品が常温で液体、又 は、流動体(ゲル状、粉体等)であるもの) 〇室内用抗菌・消臭スプレー(ナノ銀) 簡易なリスク評価の結果、ばく露シナリオによっては健康リスクの懸念 が無いとは言えない場合が考えられるが、現時点においてはばく露シナ リオの精緻な検証が困難。 ③ケーススタディ及びリスク評価WGでの審議を通じて認識された課題 ・ ばく露の評価等に用いられるべき情報については、その信頼性・信憑性を 確保することが重要である。 本来、専門誌等で査読を経た論文として掲載されている情報を用いること が望ましいが、常にそのような情報があるわけではないため、情報の発信 者を明らかにする等の上で材料メーカーや製品メーカーが保有している 情報をも活用して適切な考察がなされることが重要である。 ・ 評価を実施したばく露シナリオがどのような意味合いを持つのかを明確 にするために、ばく露可能性が考えられる全体像の中で評価したシナリオ がどの部分に該当するのかを俯瞰できるような一覧表的な整理が重要。ま た、製品由来のナノ物質についての暴露評価についてはその向上を図る調 査研究を実施する必要がある。 ・ ケーススタディは個別具体的な事例に関して実施されることになる。この ため、同一物質の他社の工業ナノ材料や同種の他社の製品にも一般化でき るのかどうかに関して材料や製品の特徴を踏まえた考察が必要である。 283 参考資料 ケーススタディ資料に関する委員意見確認票(ナノ銀スプレー) 委員氏名 (1)資料の記述内容で修 正した方がよいと思われ る点 (2)①情報の出典が適切 に記載されているか、不 十分な点はないか (2)②暴露シナリオに引 き続き検討すべき点が 残っていないか (2)③リスクマネージメン ト策等の意思決定に必要 な今後の課題 (リスク考察を行っている ケースに関して) (2)④ケーススタディ資料 の記述内容が客観的であ り妥当であるか (3)その他のご意見 284 補足資料 ナノ粒子含有塗膜から放出されたナノ粒子の平均濃度の推定 建屋外壁に塗られた塗料の塗膜劣化により放出される可能性がある工業ナノ粒子が、外壁周 囲でどの程度の濃度になるのかを、既存の塗料減耗速度の情報を基に、簡易モデルを使用して 粗い見積りを行う。 1.想定した放出シナリオ (1)一般家屋外壁に工業ナノ物質が配合されている塗料を塗装すると、塗膜が太陽光等により劣 化・減耗する結果、配合されていた工業ナノ物質が露出して放出され、周辺に居る(遊びや作業 等)人が塗装された外壁から1m以内の空間で吸入ばく露する可能性があると想定して、ばく露 濃度の推定を試みる。 (2)塗料に配合されている工業ナノ物質については、減耗した塗膜中に含まれている全量が、塗 膜表面に露出した後単独粒子として放出されると仮定する(塗膜の減耗速度は一定とする)。 (3)放出された工業ナノ物質は、壁面から1m 以内の空間に一様に分布し、その空間内で周辺に いる人がばく露されると仮定する。その空間内における工業ナノ物質の濃度は工業ナノ物質の 塗膜表面における露出速度と、風による空間の換気回数を考慮して推定する。 2.使用した既存情報 ・塗膜密度=1.8g/cm3 ・塗膜減耗速度=いくつかの実例から0.16~0.6μm/年(別添) および、安全サイドに立って最大2μm/年(日塗工ヒアリング) ・ナノ粒子含有率=10wt%(既存製品における溶媒以外の塗膜成分中の最大含有率(日塗工 情報)) ・平均風速=0.5×0.1m/秒 ・年間平均風速の実績例;千葉県と栃木県の24地点の年間平均風速;最高値4.5、最低値 0.5m/秒 (気象庁 HP「過去の気象データ検索」より) http://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/index.php?prec_no=45&block no=0384&year=&month=&day=&view= → 最低値の0.5m/秒とする。 ・風向き(壁面に対する風の向きにより風速が異なる)及び一般家屋周辺のため気象観測地 点より建物密集度が高い(風速が弱められる)こと等を考慮して、さらに1/10とする。 3.平均ナノ粒子濃度の算出(NITE の定常放散モデル) 平均ナノ粒子濃度の算出に当たっては、壁の単位面積(1m2)と作業範囲(壁から1m 以内)で囲 まれた空間での粒子濃度を NITE の定常放散モデルを使用して推定する(次図参照)。 285 この空間内には、風による外気の流入があり、同量の空気が空間外へナノ粒子とともに出て行 く。空間外への持ち去りナノ粒子量と外壁面塗料からのナノ粒子の放出量がバランスして、空間 内のナノ粒子濃度は定常状態となるとして、定常粒子濃度を求める。 対象空間内の平均粒子濃度 Ca は下記で求まる。 Ca=G / (N×V)×103 μg/m3 Ca: 平均粒子濃度 (μg/m3) N: 1日当たりの換気回数=1日当たり外気流入量/空間容量 =風速(0.05m/秒)×1m2×60×60×24 / 1m3=4,320回/日 V: 空間体積=壁面1m2×1m = 1m3 G:1日当たり粒子放出量 =年間減耗量α(μm/年)/ 365×1m2 ×0.1(粒子混入量10%)×1.8×104 =α× 10-4cm/年×1×104cm2×0.1×1.8 ×106μg/cm3 = 490 ×αμg/日 より Ca = 490×α /4,320 μg/m3 = 0.113×α μg/m3 (注)αは、上記2.で述べたように0.16~2程度 減耗速度(μ/年) 平均粒子濃度(μg/m3) 0.16 (実績最小) 0.6 (実績最大) 2.0 (仮定最大) 0.018 0.068 0.23 参考;NEDO プロジェクトの研究結果から提案された作業環境におけるばく露許容値 ①ナノ二酸化チタンの許容ばく露濃度(PL値); 0.6 mg/m3=600μg/m3 ②フラーレンC60の許容ばく露濃度(PL値); 0.36 mg/m3=360μg/m3 ③カーボンナノチューブの許容ばく露濃度(PL値); 0.03 mg/m3=30μg/m3 両者を比較するには、物質の相違、暴露時間等を考慮する必要がある。 286 【別添1】 塗膜の劣化速度について 1.アクリル樹脂塗装 促進耐候性試験5000時間後(太陽光20~25年分照射量相当) ;4μm/20-25年=0.16~0.2μm/年 複合皮膜「HD コート」同条件;1.8μm (新しく開発された耐久性が高い膜) 出典;三協立山アルミ株式会社 TONIO NEWS 2.アクリル-メラミン樹脂系電着塗料(ハニー化成㈱製ハニーヒル SX-200)塗装材 A アクリル樹脂架橋密度向上+光安定剤+紫外線吸収剤 .(ハニー化成㈱製ハニーヒル LX-100)塗装材 B NaCl 5w/v%+HNO32w/v%; 20℃、2hr 浸漬後、キセノンウェザーメーター150hr 照射を1サイ クルとして、繰り返す。照射時間3000時間後 塗装剤 A 4.3μm 塗装剤 B 3.4μm 塗膜の外観は、実際の住宅における7年経過後の塗装を再現していた。 →0.60~0.49μm/年 出典;特開2009-168550(公開日2009年7月30日)出願人:新日軽株式会社 3.フッ素樹脂塗装(PVDF;ポリフッ化ビニリデンタイプ及び FEVE;フルオロエチレン-ビニルエー テル共重合体タイプ) →塗膜厚さ減耗量;3~7μm/20年=0.15~0.35μm/年 出典;日本建築仕上学会第21回研究発表会ダイジェスト(2) 「陽極酸化皮膜を下地とするふっ素樹脂塗装アルミニウムの耐久性-屋外暴露試験20年 の結果」三協立山アルミ 野田耕司氏他 287 4) 第7回リスク評価ワーキンググループ 第7回リスク評価ワーキンググループは、平成25年3月29日に開催され、以下 の内容で行われた。 議題: (1)第6回リスク評価WG議事要旨(案)の確認について (2)ナノ材料を使用した外装材の超促進耐候性試験について (3)塗料のケーススタディについて (4)トナー、自動車タイヤ、抗菌・消臭スプレーのケーススタディについて (5)その他 <配付資料> 資料1 第6回 リスク評価WG議事要旨(案) 資料2 ナノ材料を使用した外装材の超促進耐候性試験 資料3 建物用塗料及び建材用コーティング剤から露出・飛散したナノ粒子のリス クに関わるケーススタディ(案) 資料4 トナー中のナノ粒子のリスクに関わるケーススタディ(案) 資料5 自動車タイヤ中のナノ粒子のリスクに関わるケーススタディ(案) 資料6 抗菌消臭スプレー噴霧によるナノ銀粒子のリスクに関わるケーススタディ (案) 以下に、配布された資料の内、検討に用いられたものを示す。 288 資料 2 試験報告書 ナノ材料を使用した外装材の超促進耐候性試験 2013年3月 JFE テクノリサーチ株式会社 289 1.試験の目的と範囲 ナノ材料を使用した外装材が実用化されている。例えば、ナノサイズのシリカを 使用した塗料が外壁用に普及し始めている。また、二酸化チタンナノ粒子を使用し た光触媒コーティングは、その防汚性を生かして建材、窓ガラス、屋外資材等に利 用されている。しかし、時間の経過と環境条件によって、これらの塗料やコーティン グが劣化するとき、含まれているナノ粒子がどのような形態で、どの程度放出され るかという暴露評価はなされていない。 今回、実際に使用されている部材の耐候性試験を行い、暴露評価のためのデー タ取得を試みた。部材・試験片は、関係工業会を通じてメーカーから提供していた だいた。また、時間が限られたため、超促進耐候性試験を採用した。従って本試験 は、実際に使用されている材料で行ったが、暴露条件は、必ずしも現実を反映した ものではない。 2.試験対象と内容 今回は以下の二つの材料を試験対象とした。 ①ナノシリカを使用した外壁塗料 日本塗料工業会を通して、ナノシリカを使用した塗料を実用化している1 社から塗料試験片をご提供いただいた。 ②外装用光触媒コーティング 光触媒コーティングは多くの企業が扱っているが、光触媒工業会を通して 3社から試料を提供いただいた。他に1社から弊社が試験片を購入した。 促進耐候性試験法としては、「メタルハライド式耐候性試験」を採用した。本法 は材料にとって過酷な条件であるため、「超促進」と言われ、極めて短時間でデ ータが取得できるが、新しい試験法であり、現実の暴露条件との対応は未だ十 分とれていない。本試験の結果を暴露評価に使用する際は、この点を十分考慮 する必要がある。本報告書の付属資料には参考として、「メタルハライド式耐候 性試験」の促進性に関する現在の知見を示した。 290 3.1 ナノシリカ配合塗料試験片の超促進耐候性試験 3.1.1 試験片について ・ 試験片 試験片 No. ナノシリカ配合量 塗料(骨格はアクリル) UV吸収剤(UVA-HALS) 試料1 10% ナノコンポジットW 標準量 試料2 10 % ナノコンポジットW 2倍量 試料3 10% ナノコンポジットW 3倍量 ・ 試験片サイズ:30×50mm;各5枚 ・ 塗料配合 単位(%) 試料 No. 1 Em* 2 3 50.2 49.6 49.1 着色顔料 ** 15.5 15.3 15.1 体質顔料 *** 13.9 13.7 13.6 水 9.7 9.6 9.5 添加剤(分散剤、増粘剤 etc) 9.5 9.4 9.1 UV 吸収剤(UVA-HALS) 1.2 2.4 3.6 100 100 100 TOTAL *; エマルション(下記) **; ミクロンサイズの二酸化チタン(白色) ***; 硬さ、強度を出すための炭酸カルシウム、タルク等の無機物質粉体 ・ 塗装仕様 カラートタン+弱溶剤2液型ポリウレタン樹脂プライマー+上塗(2回塗) 塗装方法;エアスプレーによる塗装 乾燥条件;20℃の室内で、7日間の自然乾燥 本試験片は、下記に示すような、シリカナノ粒子(超微粒子シリカ、シリカの中で はコロイダルシリカと呼ばれる材料)をアクリルシリコン樹脂でコーティングしたエ マルションが使用されている。 291 3.1.2 試験方法 1)耐候性試験の実施;JFE テクノリサーチ株式会社耐候性評価センター ・試験装置;メタルハライドウェザーメーター(岩崎電気㈱製) ・試験条件;(社)日本塗料工業会の指定サイクル試験条件 放射照度(W/m2);1000 照射時間(hr);4 結露・暗黒(hr);4 純水噴霧(sec/min);5/18(照射時のみ) 暴露時間(hr);24, 72, 168, 297, 500 2)暴露試験片の評価 ①光沢・色調の変化 ・ 光 沢 保 持 率 ( Gross Retention ) ; 光 沢 計 (鏡 面 反 射 角 60 ° で の鏡 面 光 沢 度 Gs(60°)JIS Z 8741準拠)による。3点を測定し平均値を算出。 ・色差測定;分光式色差計(JIS Z 8722に準拠);表色系(L*a*b*)の明度の指標であ る L*値(あるいは、色差:(⊿a2+⊿b2+⊿L2)1/2.; 3点を測定し平均値を算出。 ②膜厚等; ・膜厚;電磁膜厚計(精度1ミクロン、磁性体から上の膜厚を測定) ・重量測定;真空デシケーターにより恒量処理後、電子天秤(g 小数点以下4桁精 度) ③SEM による表面観察 ④断面試料作成→SEM による断面観察(EDX による測定を含む) 292 3.1.3 試験結果 1)暴露試験前後の外観写真 ・試料1 24hr 試 験 前 72hr 168hr 297hr 500hr 750 170X270 試 験 後 10㎜ ・試料2 24hr 試 験 前 72hr 168hr 750 170X270 試 験 後 293 297hr 500hr ・試料3 24hr 試 験 前 72hr 168hr 297hr 500hr 750 170X270 試 験 後 2)光沢度の変化 光沢度の変化 9.0 8.0 7.0 光沢度 6.0 5.0 4.0 3.0 2.0 1.0 0.0 0 100 200 300 400 試験時間 試料1 試料2 294 試料3 500 3)色差の変化 色差推移 6 5 色差 4 3 2 1 0 0 100 200 300 試験時間 (時間) 試料1 試料2 400 500 試料3 4)膜厚の変化 塗装膜厚の変化 0.0% -2.0% 膜厚変化(%) -4.0% -6.0% -8.0% -10.0% -12.0% -14.0% -16.0% 0 100 200 300 試験時間(時間) 試料1 295 試料2 400 試料3 500 5)重量変化 耐候性試験における重量減 0.0% 重量変化(%) -0.1% -0.2% -0.3% -0.4% 0 100 200 300 試験時間(時) 試料1 試料2 296 400 試料3 500 6)SEM による表面観察 ①試料1 ・暴露前 500μm ・24時間暴露 100μm ・72時間暴露 297 10μm ・168時間暴露 500μm 100μm ・297時間暴露 ・500時間暴露 298 10μm 高倍率 SEM (FE-SEM) 観察 試料1 ・24時間暴露 5μm 1μm ・500時間暴露 写真1-1試料1-4-1(500時間)表面 SEM 像倍率:×500 写真1-2試料1-4-1(500時間)表面 SEM 倍率×5,000 100μm 10μm 5μm 1μm 299 7)SEM による断面観察 ①試料1 ・暴露前 ナノ塗料層 プライマー 樹脂層(カラー) 化成皮膜 Zn-Al 合金めっき 鋼板 100μm 10μm ・24時間暴露 ・72時間暴露 300 ・168時間暴露 100μm ・297時間暴露 ・500時間暴露 301 8)SEM による組成分析(SEM-EDX)/元素マッピング ①試料1 ・暴露前試験片表面 SEM Si C ・暴露前試験片断面 SEM C Ti Si Ti 302 O Ca O Ca Al ・297時間暴露試験片表面 SEM C Zn Si Ti 303 Fe O Ca 9)表面極近傍断面の高倍率 TEM 観察 FIB 加工によって表面極近傍断面試料を作成し、高倍率 TEM 観察を行った。 ・試料1の24時間暴露試験片 試料作成のために形成された膜 顔料二酸化チタン 体質顔料 ナノシリカ+アクリルシリコン樹脂 ×30,000 500nm ×150,000 100nm EDX 定性分析結果 分析点1-1 分析点1-1 C のみ 分析点1-2 分析点1-2 C +微量 Si + O 分析点1-3 分析点1-3 C + Si + O 分析点1-4 Ti + O+微量 C 分析点1-4 ×300,000 50nm 304 ・試料1の500時間暴露試験片 試料作成のために形成された膜 顔料二酸化チタン 空隙 ナノシリカ+アクリルシリコン樹脂 体質顔料 ×30,000 500nm ×150,000 100nm 分析点2 - 1 EDX 定性分析結果 分析点2 - 2 分析点2 - 3 ×300,000 50nm 305 分析点2-1 C のみ 分析点1-2 C + Si + O 分析点1-3 Ti + O+微量 C 3.1.4 所見 1)塗膜は、超促進試験によっても、外観に殆ど変化は見られず、光沢度、色差等の 変化において、暴露初期における急激な変化とそれに続く緩やかな変化という、通 常の塗膜同様の変化を示した。 2)塗膜の劣化には、崩壊型と表面摩耗型がある。メタルハライド500時間照射(本州 暴露10~15年相当程度)では、いずれの塗膜においても、SEM 観察により膜に亀 裂は見られず、劣化は崩壊型ではなく、穏やかに膜厚が表面から減少していく表 面摩耗型であることが確認できた。紫外線吸収剤増量の効果は、実験のばらつき の範囲であり、確認できなかった。 高倍率の SEM による表面観察によると、24時間暴露では、ナノシリカは樹脂バイ ンダー層の下に埋まった状態であったが、500時間暴露では、表面の樹脂バインダ ーはかなり消失され、シリカ粒子がやや鮮明に見えてきている。しかしそのサイズ は30nm 以上であり、シリカのコーティング層であるアクリルシリコン樹脂はまだ残 存していると見られる。表面の空隙の状態から見て、かなりの数のコーティングさ れたナノシリカが残存樹脂で結合されたサブミクロン以上の凝集物として、剥落、 放散されていったのではないかと推定される。今回は、その剥落、放散物を捕集し、 分析する事は出来なかった。 3)塗膜表面は、初期はクリア層という樹脂が沁み出した層がある。当初は凹凸が激 しく、やや荒れた状態であるが、照射時間が長くなるにつれて均されてくる。これは、 試料の断面を SEM 観察する事により確認された。膜厚の時間的変化を、断面観察 や電磁膜厚計によって測定することは、もともとの膜厚の場所によるバラツキが膜 厚の時間的変化量に比べて大きいため、不可能であった。 4)今回の実験において、試験片全体の重量変化を測定し、塗膜の重量変化を明確 に捉えることができた。重量の減少は初期に進み(誘導期間)、その後減少速度が 低下していく。膜密度がわかれば、膜内部と下地(トタン板)の重量変化がないもの として、膜厚の変化に換算できる。これは、500時間暴露で9~10μm 程度である。 (次図は、膜密度1.8として重量変化を膜厚変化に換算して示した。) この膜厚の減少は、本耐候性試験の500時間の実暴露との対応を15年とすれば、 平均して年間約0.6μm で、耐候性が優れているフッ素樹脂塗料(付属資料参照) 並みとなり、ナノ材料を使用した効果があると言える。 306 耐候性試験における重量から計算した膜厚減 0 -2 膜厚変化(μ m) -4 -6 -8 -10 -12 0 100 200 300 試験時間(時) 試料1 307 試料2 400 試料3 500 3.2 光触媒コーティング試験片の超促進耐候性試験 3.2.1 試験片について 以下に示すように、4社の5種類の製品(外装材)を試験した。 試験片 メーカー 表裏コーティング 基材 バインダー *** A ナノサイズ二酸化 チタン**含有量(%) 市販品 表裏なし(光触媒 ガラス繊 フッ素系 メーカー A 液含浸) 50 維+フッ 素樹脂 B 市販品 表 裏 有 ( 光 触 媒 スレート メーカー B コーティング液コ 無機系 50 無機系 50 0 ート) C 市販品 表 裏 有 ( 光 触 媒 ガラス メーカー C コーティング液コ ート) C‘ 市販品 表 裏 有 ( 光 触 媒 ガラス 試験片 D と メーカー C コーティング液コ 同じ ート) D 市販品 表 裏 有 ( 光 触 媒 アルミ材 無機系 不明(ただし表面 メーカー D コーティング液コ 付近での濃度は ート) 高い) *無機系バインダーは、すべてのメーカーがシリカ系バインダー **粒径は、5~20nm の範囲。(推定含む)D は、100nm 以下 ***コーティング液に紫外線安定剤配合は無し 3.2.2 試験方法 3.1.2と同一である。ただし、暴露時間は、24、72、168、336、500時間である。ま た、電磁膜厚計は、基材が磁性を持たないため使用できなかった。 308 3.2.3 試験結果 1)暴露前後の外観写真 ・試験片 A(ガラス繊維+フッ素樹脂)の外観 24hr 72hr 168hr 336hr 500hr 試 験 前 750 170X270 試 験 後 10㎜ ・試験片 B(スレート)の外観 24hr 試 験 前 72hr 168hr 336hr 720 170X270 試 験 後 10㎜ 309 - 3 - 500hr ・試験片 C の外観;下地がガラスで透明であるため一部分に紙を敷いた。 24hr 試 験 前 72hr 168hr 336hr 500hr 750 170X270 試 験 後 10㎜ ・試験片 C’の外観;下地がガラスで透明であるため一部分に紙を敷いた。 24hr 試 験 前 72hr 168hr 336hr 750 170X270 試 験 後 10㎜ 310 500hr ・試験片 D(アルミ材)の外観;穴は塗装・コーティング作業の必要上あけられた。 24hr 試 験 前 72hr 168hr 336hr 500hr 750 170X270 試 験 後 10㎜ 2)光沢度の変化 光沢度変化 10 光沢度変化 0 -10 -20 -30 -40 0 100 200 A 300 処理時間 B 311 C 400 C' D 500 3)色差の変化 光触媒コーティングの色差変化 20 18 16 14 色差 12 10 8 6 4 2 0 0 100 200 300 400 500 400 500 時間 A B C C' D 4) 重量変化 光触媒耐候性試験重量変化 4% 重量変化(%) 3% 2% 1% 0% -1% 0 100 200 300 試験時間(時間) A B 312 C C' D 5)SEM による表面観察 ①試験片 A ・暴露前 500μm 100μm ・24時間暴露 ・72時間暴露 ・168時間暴露 313 10μm ・336時間暴露 500μm ・500時間暴露 100μm ②試験片 B ・暴露前 ・24時間暴露 314 10μm ・72時間暴露 500μm ・168時間暴露 100μm ・336時間暴露 ・500時間暴露 315 10μm ③試験片 C ・暴露前 500μm 100μm ・24時間暴露 ・72時間暴露 ・168時間暴露 316 10μm ・336時間暴露 500μm 100μm ・500時間暴露 ④・試験片 C’ ・暴露前 ・24時間暴露 317 10μm ・72時間暴露 ・168時間暴露 ・336時間暴露 500μm ・500時間暴露 100μm 318 10μm ⑤・試験片 D ・暴露前 500μm 100μm ・24時間暴露 ・72時間暴露 ・168時間暴露 319 10μm ・336時間暴露 500μm 100μm 10μm ・500時間暴露 高倍率 SEM(FE-SEM)観察 ・試験片 A 24時間暴露 5μm 1μm 320 500時間暴露 5μm 亀裂部分観察(試験片 A;500時間暴露) 1μm 321 6)SEM による断面観察 光触媒コーティング層は、約1μm(ガラス基板の場合は1μm 以下)と極めて薄 いため、樹脂中埋めこみによる断面観察では、確認する事が難しかった。僅かに 試料 D において認めることが出来た。下図で←の層であり、24時間の試験片では1 μm 強の厚さ、336時間では0.5μm 程度であったが、これはたまたま測定した部分 の膜厚であり、膜厚が必ずしも均一でなく、左図のように亀裂があることを示すもの である。 ・試験片 D の SEM による断面観察 24時間暴露 336時間暴露 F-6-2 包埋樹脂層 上塗り層 下塗り層 アルミ合金板 100μm 100μm 包埋樹脂層 光触媒 コーティング 上塗り層 10μm 322 7)SEM による組成分析 ・試験片 A 暴露前 SEM 像 フッ素系バインダーの上に極く薄い Ti の層がある。 F Si フッ素樹脂層 フッ素系バインダー ガラス繊維層 Ti C O 光触媒コ―ティング ・試験片 D 暴露前 SEM Ti O Al Si 上塗り層 下塗り層 アルミ合金板 C 323 3.2.4 所見 1)試料外観には、耐候性試験実施後に殆ど変化は見られない。 2)光沢度 ・ 試料 A、B は、殆ど変化がない。 ・ 試料 C は、バラついているが比較的変化量は少ない。 ・ 試料 C’、D100時間を超えるとほぼ一定となる。(C’は10%、D は25%) 3)色差 ・ 初期の変化はあるが、それ以降は、A を除くと大きな変化はない。極めて安定 であると言える。 4)重量減少 ・ 試料では殆ど重量変化が生じなかった。これは、コーティング層が安定であっ て、下地の中塗りの樹脂塗料層を保護しているためと考えられる。最上層の光 触媒コーティング層は薄いので、劣化して重量が減ったとしても本実験の精度 においては重量変化を検出できない。 ・ 試料 B に約2%の重量増加がみられたが、これは下地のスレートが耐候性試 験の純水噴霧によって吸湿したものと推定される。 5)SEM による表面観察: ・ 下地がガラスである試料 C、C’以外は、暴露前からひび割れ(亀裂)があるが、 暴露後も殆ど変化は見られず、剥離も観察されなかった。表面に比較的大きな 粒子状のものの附着が見られるが、これはコーティング時の埃等によるものと 考えられる。 ・ このひび割れは、コーティング膜と下地との膨張率の差によるもので、コーティ ング時に生じる応力を緩和する。試料 B のように比較的亀裂が少ない場合もあ る。 ・ 試料 C、C’は基板がガラスであり、ひび割れは殆ど無い。光触媒コーティング にシリカ系無機バインダーが使用されているのでガラスと膨張率が殆ど変わら ないためと考えられる。光触媒のある無しは本試験結果には影響が殆ど見ら れない。 ・メーカーによれば、コーティング時生じる応力を緩和するために、亀裂は、下地 (基板)、用途に応じて、その程度を設計しているとのことである。試料 A の下地 は柔らかく、曲がるので亀裂は多く間隔が広い。 ・ 長時間の暴露においては、表面に微細な粒子の附着がみられるが、これは、 耐候性試験時に行われる純水噴霧によるものであると推定される。 6)総じて、光触媒コーティング層は極めて安定であると見られる。この層からのナノ サイズの二酸化チタンの放出の確認は今回できなかった。 324 ・付属資料1 メタルハライド式耐候性試験の実暴露試験との対応 まだJIS等が制定されておらず、下記のように定説がない。試験機が異なるだけ でなく、材料によっても異なっていると考えられる。 メタルハライドの促進性について 機関 促進性評価 群馬産技センター 一概に言えない 大阪府立産技総研 対キセノン20倍 紫外線照射強度 太陽光の約20倍、キセノンの16倍 岡山県工技センター 色度変化から太陽光の300~350倍 太陽光の10倍以上 岩崎電気 カーボンアークの10倍以上 旭化成 富士(静岡)、志村(東京)の80倍 鉄道技研 約100倍(対太陽光) 紫外線領域発光効率に優れる (報告例)「超促進耐候性試験機によるポリエチレン成形体の表面変化」 川野道則・光石一太:岡山県工業センター報告;No.33(平成18年度) ・使用試験機;ランプ式のアイスーパーUVテスター(岩崎電気製 SUV-W151) ・JFE テクノリサーチ注; 上記グラフ中、■は4年間の屋外暴露で、これに同じ色差で比較すると、120~ 140時間に対応する。外挿すると500時間は約15年に相当する。 325 ・付属資料2 塗膜の紫外線による損耗速度 社団法人日本鋼構造協会編、技報堂出版、2012年2月発行 「重防食塗装―防食原理から設計・施工・維持管理まで―」から引用。 40p;表2.3.6 塗膜の劣化メカニズムと対応技術; 塗膜劣化メカニズム 対応技術 紫外線による分解に強い樹脂・顔料の使用 紫外線による分解 顔料による紫外線の遮断 光安定剤、紫外線吸収剤の配合 水分による加水分解 加水分解しにくい樹脂の使用 顔料中の酸化チタン(白色顔料)の 酸化チタン表面の高密度処理 光触媒作用による分解 酸化チタンに強い樹脂・配合の改良 42p;塗膜の紫外線による消耗速度は、エポキシ樹脂塗料で10μm/年、ポリウレタン樹脂塗 料で1~2μm/年、ふっ素樹脂塗料で0.5~1.0μm/年といわれている。 (引用元;中元雄治:重防食塗装維持管理の現状と課題,第33回鉄構塗装技術討論会 発表予稿集,pp.95-104,2010) 326 資料 3 建物用塗料及び建材用コーティング剤から 露出・飛散したナノ粒子のリスクに関わる ケーススタディ(案) 平成25年●月●日 ナノ物質の管理に関する検討会 リスク評価ワーキンググループ 327 目次 1. ばく露情報 ....................................................................................................................... 1.1 対象製品 .............................................. 1.2 ばく露経路に係る情報 .................................... 1.3 現時点で考慮すべきばく露量に関する情報 ................... 2. 有害性情報 ..................................................................................................................... 3. 建物用塗料及び建材用コーティング剤中ナノ粒子のケーススタディまとめ . 4. 文献................................................................................................................................... 添付資料1 ............................................................................................................................. 添付資料2 ............................................................................................................................. 添付資料3 ............................................................................................................................. 本ケーススタディは、リスク評価ワーキンググループのコメントを受けて、事務局が 作成したものである。 328 1. ばく露情報 1.1 対象製品 本ケーススタディの対象製品として塗料と建材用コーティング剤が挙げられる。成分、用途情報等を以 下に示す。 1.1.1 塗料 (1) 成分 塗料は一般に、塗膜となる樹脂(バインダー)に、顔料、溶剤(水性塗料の場合は水)の他、紫外線安 定剤、工業ナノ物質等の副材料が混合された混合物状態で製品となっている。 (2) 塗料の用途と工業ナノ物質の配合 ① 塗料の他の用途としては、自動車用・建物用が4割強と大きく、これらの用途の塗料に工業ナノ物 質を配合している製品がある。 ② 他の用途に構造物(橋梁、タンク他)用、金属製品用、船舶用等がある。これらの用途で工業ナノ 物質が配合されている製品はない。 ③ また、道路の標識のために用いられる白色塗料は顔料サイズ(平均粒子径数百 nm)の二酸化チ タンが配合されている。(ナノサイズの二酸化チタンは、白色ではなく透明になるため、道路標識用 塗料には使用されない。) (3) 工業ナノ物質を含有する塗料 ① 自動車用の塗料では従来の塗料にない色調を示す機能(塗装面を見る角度によって光沢や色の 鮮度・深みが変化する)を付与する目的で二酸化チタンが、また、建物用の塗料では耐候性の向上 や汚れ防止機能を付与する目的でシリカが添加されている塗料がある。 ②工業ナノ物質の含有率は、自動車用塗料で5~10重量%程度、建材用で10重量%程度(いずれも 塗料の非揮発成分重量に対する比率)の製品が見受けられる。(日本塗料工業会調査) ③自動車用塗料は年間10トン程度、建物用塗料は年間300トン程度国内で製造・出荷されている。 (日本塗料工業会調査) 1.1.2 建材用コーティング剤 (1) 成分 塗膜となる樹脂、溶剤、光触媒(二酸化チタン)等の混合物である建材用コーティング剤がある。 (2) 用途 主に防汚効果を付与する目的で、屋根材、壁材等の表面にコーティング剤を塗布している建材が見 受けられる。 (3) 塗料とコーティング剤との相違点 塗料とコーティング剤では以下のような相違点があるので、引き続き劣化試験の実施等に際しては留 329 意する必要がある。 ① 配合される工業ナノ物質: ・塗料: アモルファスシリカ ・コーティング剤: 二酸化チタン ② バインダー ・塗料 主にアクリル系 ・コーティング剤 アクリル系・フッ素系・シリコーン/シリケート系 ③ 塗装・コーティングにより生ずる被膜の厚さ ・塗料 数十μm ・コーティング剤 数十 nm~数μm 1.2 ばく露経路に係る情報 ばく露経路を考慮する上での情報を以下に整理する。 1.2.1 自動車用塗料 使用状況 自動車用の塗装では最外層に耐候性が非常に高いクリアー塗膜(高い強度の熱硬化性アクリル系樹 脂)が塗布されている。(クリアー塗膜層には工業ナノ材料は含まれていない) このクリアー塗膜の強度 については、自動車工業会から塗料工業会に10年以上の寿命が要求されており、実際にはこの要求が 満たされていると言われている。 工業ナノ物質を配合した自動車用塗料の製造数量は年間10トン程度、配合されている工業ナノ物質 の数量としては年間1トン程度である。この塗料の供給メーカーは3社あり、ここ数年の供給数量は各社 とも漸減傾向にある。これは、工業ナノ物質を配合する目的である独特の色調を出す機能が他の技術 によって代替できるようになってきたためであると考えられる。(日本塗料工業会調査) ばく露の可能性 工業ナノ材料を含む塗膜層はクリアー塗膜層の下層にあり、クリアー塗膜層が破壊されない限り外気 に晒されることはないので、自動車の塗装から工業ナノ材料が一般市民にばく露したり、環境中に排出 されることは非常に考えにくい。また、供給数量は上記のとおり近年漸減傾向にある。 以上の状況を考慮すると、工業ナノ材料を配合した自動車用塗料に関して、塗膜からの工業ナノ物質 の露出・飛散により一般市民が工業ナノ物質にばく露される可能性に関して実験的な検証を行う必要性 は低いと考えられる。 1.2.2 建物用塗料 使用状況 建物用の塗装は、自動車塗装とは異なりクリアー塗膜層が通常は塗布されない。このため、工業ナノ 物質を含む塗膜層が最外層となって外気に晒される。 330 シリカを工業ナノ物質として配合した建物用塗料の製造数量は年間300トン程度(固形成分は150- 180トン)、配合されている工業ナノ物質の数量としては年間15-18トン程度である。この塗料の主要メー カーは2社あり、ここ数年の供給数量は全体として増加傾向にある。(日本塗料工業会調査) ばく露の可能性 塗膜層が紫外線、雨水等により劣化し、表面に存在しているナノシリカが露出・飛散することで吸入暴 露される可能性が考えられる。 また、ナノシリカを含有する塗料を一般市民(消費者)が使用している時に、誤って手に付着してナノシ リカにばく露される可能性が考えられるが、一般市民が使用する頻度が多くないことから、このケースに ついては考察しないこととした。 1.2.3. 建材用コーティング剤 利用状況 建材用コーティング剤は9割程度が屋根材や壁材などの外装材に使用される。一部は壁紙等内装用 の建材に使用されている。 工業ナノ物質としては光触媒である二酸化チタンが配合される。光触媒はコーティング膜劣化作用が 強いので、バインダーには通常強靭性の高いものが使用され、また、コーティング膜劣化を軽減するた めに二酸化チタン粒子の表面を加工して活性を低減する等の工夫がなされている。 ばく露の可能性 一般市民(消費者)がコーティング剤中のナノ二酸化チタンにばく露される可能性が考えられるのはナ ノ二酸化チタンを配合したコーティング剤の塗布後、ナノ二酸化チタンが塗膜表面から離脱するか、経年 劣化によりコーティング剤の樹脂が減耗することでナノ二酸化チタンが露出、飛散して吸入ばく露される 場合である。 また、ナノ二酸化チタンを含有するコーティング剤を一般市民(消費者)が使用している時に、誤って手 に付着してナノ二酸化チタンにばく露される可能性が考えられるが、コーティング剤は主に業務用で最終 製品の製造プロセスで使用されることが多ため、このケースについては考察しないこととした。 1.2.4 劣化試験の評価対象 工業ナノ物質が塗膜やコーティング膜の表面から離脱し、又は、経年劣化により塗装やコーティングの 表面が減耗し、工業ナノ物質が露出して飛散する可能性については、建物用塗料とコーティング剤に関 して劣化試験を実施し、評価した。 1.3 現時点で考慮すべきばく露量に関する情報 工業ナノ物質を含有する塗料・コーティング剤において、一般市民(消費者)が工業ナノ物質にばく露 される可能性は、住宅の外壁の塗膜層の表面に存在している工業ナノ物質が塗膜層の紫外線、雨水等 による劣化により、露出・飛散して吸入暴露される場合が考えられる。建物用塗料とコーティング剤の劣 化試験を実施し(添付資料1)たところ、塗膜等からナノシリカ、ナノ二酸化チタンが放出されていることを 331 分析することはできなかったため、試料片の重量減少値から放出されたナノ粒子の量を推定することと した。その結果、ナノシリカのみナノ粒子含有塗膜から放出されたナノ粒子の平均濃度(暴露濃度)の推 定を試みることができた。ナノ二酸化チタンについては重量データのばらつきが大きく、推定を試みるこ とのできるデータを得ることができなかった。その結果を添付資料2に示す。結果として、最大で78μg/h・ m2 の放散速度(添付資料1)となり、これより暴露濃度は最大風速(6.3m/s)を想定した場合で0.034μ g/m3、最小風速(0.9m/s)を想定した場合で0.24μg/m3と推定された(添付資料2)。 2. 有害性情報 配合されるナノ物質としては、塗料ではシリカ、コーティング剤では二酸化チタンがある。 ナノシリカ(アモルファス)の吸入毒性に関する情報については、主に肺毒性について調べられており、 単回あるいは3日間の吸入暴露では、3.1×107粒子/cm3または1.8×108粒子/cm3の非常に高い粒子数 の暴露 (0.45 mg/m3 (1.8 mg/m3×6時間/24時間)または21.5 mg/m3(86 mg/m3×6時間/24時間)、著者 らによる濃度換算値) においてラットの肺の炎症、病理組織学的影響、遺伝毒性を示さないことが報告 されている(Sayes et al 2010)。亜急性毒性試験として、4週間反復吸入暴露した試験が行われており、週 齢による肺毒性の差を調べた試験では、老齢動物が最も感受性が高く、ついで幼若動物、若齢動物の 順であった (Chen et al 2008)。肺毒性 (呼吸のパラメータ、BAL 液中の分析、病理組織学的検査) を調 べた試験では、暴露中の呼吸パラメータの一過性の変動、好中球及びマクロファージを伴った鼻腔及び 肺胞の炎症が認められた (Arts et al 2008) 。これらの試験は、用量群が1用量の設定であること、肺毒 性に限定して検査を行っていることから、一般毒性としての NOAEL を求めることはできない。仮に3日間 吸入暴露試験でラットの肺に炎症、病理組織学的影響、遺伝毒性がみられない最高濃度より求めると、 NOAEL は21.5 mg/m3となる。また、気管内投与を用いて肺毒性を調べた試験では、一過性の肺の急性 炎症を示すが慢性影響がみられないことが報告されている (Cho et al 2007)。 3. 建物用塗料及び建材用コーティング剤中ナノ粒子のケーススタディまとめ ナノ物質配合塗料・コーティング剤の塗布後のナノ物質が塗膜表面から離脱や経年劣化により飛散し て吸入ばく露される可能性がある。配合されるナノ物質としては、塗料ではナノシリカ、コーティング剤で はナノ二酸化チタンがある。 現時点では、一般市民(消費者)が塗料・コーティング剤の塗布後の二酸化チタンやアモルファスシリ カのナノ粒子に吸入ばく露されることを想定し、超促進耐候性試験を実施した結果、ナノシリカにおいて、 最大(試験開始から約1年相当)で78μg/h・m2 の放散速度となり、これより暴露濃度は最大風速 (6.3m/s)を想定した場合で0.034μg/m3 、最小風速(0.9m/s)を想定した場合で0.24μg/m3 と推定され た。 仮に、最小風速でシリカナノ粒子を吸入暴露した場合の推定暴露濃度0.24μg/m3とナノシリカの3日 間吸入暴露試験でラットの肺に炎症、病理組織学的影響、遺伝毒性がみられない最高濃度21.5 mg/m3 を仮の NOAEL として両者を比較すると、暴露マージンは9×104と大きな値となり、現時点では、塗布後 の塗料から放出されるナノシリカの吸入ばく露が一般市民にリスクをもたらす可能性は低いと考えれら 332 れる。 4. 文献 Arts, J.H., Schijf, M.A. and Kuper, C.F. (2008) Preexposure to amorphous silica particles attenuates but also enhances allergic reactions in trimellitic anhydridesensitized brown Norway rats. Inhal Toxicol, 20, 935-948. Chen, Z., Meng, H., Xing, G., Yuan, H., Zhao, F., Liu, R., Chang, X., Gao, X., Wang, T., Jia, G., Ye, C., Chai, Z. and Zhao, Y. (2008) Age-related differences in pulmonary and cardiovascular responses to SiO2 nanoparticle inhalation: nanotoxicity has susceptible population. Environ Sci Technol, 42, 8985-8992. Cho, W.S., Choi, M., Han, B.S., Cho, M., Oh, J., Park, K., Kim, S.J., Kim, S.H. and Jeong, J. (2007) Inflammatory mediators induced by intratracheal instillation of ultrafine amorphous silica particles. Toxicol Lett, 175, 24-33. Sayes, C.M., Reed, K.L., Glover, K.P., Swain, K.A., Ostraat, M.L., Donner, E.M. and Warheit, D.B. (2010) Changing the dose metric for inhalation toxicity studies: short-term study in rats with engineered aerosolized amorphous silica nanoparticles. Inhal Toxicol, 22, 348-354. 333 添付資料1 放散速度推定のための劣化試験の概要 1. 試験の対象 建物用塗料及び建材用コーティング剤について、実製品における工業ナノ物質の配合率等を考慮し て、モデル塗料を調合して試験に用いた。 塗料についてはナノシリカを配合したモデル塗料を鉄板に塗布した試験片、コーティング剤について はナノ二酸化チタンを配合したコーティング剤が使用されている市販製品の提供を受け試験対象とし た。 ナノシリカ含有試料 -ナノシリカを配合した(10%配合)モデル塗料試料(3種の試料) 試料1 UV 吸収剤標準量、試料2 UV 吸収剤2倍量、試料.3 UV 吸収剤3倍量 二酸化チタン含有試料 -ナノ二酸化チタン(光触媒)を配合した(50%配合)コーティング剤が使用されている製品(2種の試料)* 試料.1 光触媒液含浸;基材 PTFE;、試料.2 光触媒コーティング液コート;基材 ガラス *コーティング剤の提供がされなかったため、コーティング剤がコーティングされた製品を試験試料とした 試験片サイズはいずれも30×50mm (0.0015 m2) 2. 方法 塗装・コーティング直後、5年後、10年後、更に通常の耐用年数を超える15年後までの4時点における 塗膜の状況等を分析・評価できるサンプルが得られるように、試験サンプル(試験板にモデル塗料を塗 布、コーティング剤については使用されている製品)を作成して試験を行った。塗膜表面の重量減少を計 測した。 超促進耐候性試験「メタルハライドランプ式耐候性試験」 実暴露1年相当=33.3時間 ナノシリカ含有試料 試験時間:24、72、168、297、500時間 (0.72、2.2、5.0、8.9、15.0年相当) ナノ二酸化チタン含有試料 試験時間:24、72、168、336、500時間 (0.72、2.2、5.0、10.1、15.0年相当) 3. 結果 表1と2に超促進耐候性試験ナノシリカ及びナノ二酸化チタン含有試料での重量減少値を示す。 なお、塗膜等から放出されたナノシリカ、ナノ二酸化チタンを分析することはできなかった。 334 表1 ナノシリカ含有試料の重量減少値 (g, 0.0015 m2) 試験時間 24時間 72時間 168時間 297時間 500時間 相当年 0.72年 2.2年 5.0年 9.0年 15年 試料1 0.0066 0.0155 0.0169 0.0218 0.0261 試料2 0.0066 0.0173 0.0192 0.0253 0.0251 試料3 0.0074 0.0144 0.0148 0.0212 0.0266 UV 吸収剤の量の違いは劣化に影響しなかった。試料1、2、3の0.72年当たりの単位面積当たりのナノ シリカ(製品中10%)減少量を重量減量率が最大となる24時間後の実験値から計算すると、それぞれ0.61、 0.61、0.69g/m2となる。ここから1時間当たりの単位面積当たりの減少量を放散速度として計算すると70、 70、78(※)μg/h となった。 表2 ナノ二酸化チタン含有試料の重量減少値 (g, 0.0015 m2) 試験時間 24時間 72時間 168時間 336時間 500時間 相当年 0.72年 2.2年 5.0年 9.8年 15年 試料1 0.0024 0.0017 0.0019 0.0022 0.0025 試料2 0.0006 0.0003 0.0004 0.0008 0.0084 試料1と2共に製品を試験対象としたため、データのばらつきが大きくなってしまっている。試料2におい ては500時間のみ数値が高かったが、数値減少がこの時間だけ著しかった。この結果だけでは劣化試験 により、ナノ二酸化チタンとして放出されたものとして解釈することは難しいと解釈した。実験結果からは 重量減少があることを明確に示すことはできないと考えられる。したがって、1時間当たりの単位面積当 たりの減少量を放散速度として求めることはできなかった。 ※:ナノシリカが10%とすると 0.72年 -0.00074g 0.0015 m2 0.72年 -0.49g 1.0 m2 1年 -0.69g 1.0 m2 1時間あたりに換算すると 0.69g/(365day*24h)=78μg/h・m2 335 添付資料2 ナノ粒子含有塗膜から放出されたナノ粒子の平均濃度(暴露濃度)の推定 1. 目的 建屋外壁に塗られた塗料の塗膜劣化により放出される可能性がある工業ナノ粒子が、外壁周 囲でどの程度の濃度(暴露濃度)になるのかを、添付資料1の放散速度を求めることができた塗料中の ナノシリカにおける最大値(78μg/h・m2)を基に、簡易モデルを使用して暴露濃度を推算した。 2. 塗膜からの放出シナリオ (1) 暴露シナリオの条件 暴露シナリオの条件を下記に示す。条件はワーストケースとして考慮したものである。 (条件1)一般家屋外壁に工業ナノ物質が配合されている塗料を塗装すると、塗膜が太陽光等により劣 化・減耗する結果、配合されていた工業ナノ物質が露出して放出され、周辺に居る(遊びゃ作業等)人が 塗装された外壁から1m以内の空間で吸入ぱく露する可能性があると想定する。 (条件2)塗料に配合されている工業ナノ物質については、減耗した塗膜中に含まれている全量が、塗膜 表面に露出した後単独粒子として放出されると仮定する(塗膜の減耗速度は一定とする)。 (条件3)放出された工業ナノ物質は、壁面から1m以内の空間に一様に分布し、その空間内で周辺に いる人がばく露されると仮定する。その空間内における工業ナノ物質の濃度は工業ナノ物質の 塗膜表面における露出速度と、風による空間の換気回数を考慮して推定する。 (2) ナノ粒子濃度推算のための仮定とモデル ・壁の単位面積(1m2)と作業範囲(壁から1m以内)で囲まれた空間を仮定 ・ナノ粒子濃度はNITEの定常放散モデルを使用 (3) 推算のためのデータ 推算に利用した基本データを表1に示す。 336 表1 推算のための基本データ 項 データ 情報源 添付資料1、p.10のナノシ リカ含有試料での実験値 78μg/h・m2 放散速度 から年単位で放散速度の 最も早い1年目の値の最 大値(試料3)を採用* http://www.data.jma.go.jp /obd/stats/etrn/index.ph p?prec 平均速度 no=45&blockno=0384&vea 0.9(最小値) *x 0.1(係数**)m/秒=0.09 m/秒 r=&month コ&dav コ&view= 6.3(最大値) *x 0.1(係数**)m/秒=0.63 m/秒 * (財)気象業務支援センタ おける過去の年間平均風速;最大値6.3m/秒(那覇 ー 年間平均風速の実績:47都道府県の県庁所在地に 平均風速 1995年)、最小値0.9m/秒(大津1979年) (気象庁 HP「過去の気象データ検索」より) ** 風向き(壁面に対する風の向きにより風速が異なる) 及び一般家屋周辺のため気象観測地点より建物密集 度が高い(風速が弱められる)こと等を考慮した係数 3. 暴露濃度の推算 暴露濃度の推算を以下の要領で推計した(表2)。 表2 暴露濃度の推計 吸 入 由来:建屋外壁に塗られた塗料の塗 暴 膜劣化により工業ナノ粒子が放出 推算式(放散 により空間濃 度) 露 337 シ ナ リ オ 塗膜中に含まれている全量が放出され、塗装された外壁から1m 以内の空間で吸入ぱく露(条 件:塗膜の減耗速度は一定、ナノ物質は壁面から1m 以内の空間に一様に分布、塗膜表面の露 出速度、空間の換気回数を考慮) 対象空間内の工業ナノ物質濃度の推算の考え方 ばく露地点の空間(壁面から1m)における工業ナノ物質挙動を以下のように仮定 項 G V 項名称 平均風速 平均風速 (最小値)を (最大値)を 想定した場 想定した場 合 合 備考(採用値、計算法等) 添付資料1、p.13のナノシリカ含有試料での 放散速度(μg/h ・ 78 m2 ) 実験値から年単位で放散速度の最も早い1 年目の値の最大値(試料3)を採用* 空間容積(m3) 空間体積=壁画1m2×1m=1m3と仮定 1 換気回数=1時間当たり外気流入量/空間 容量 ・平均風速(最小値)を想定した場合 N 換気回数(回/h) 324 2,268 =風速(0.09m/秒)×1m2×60×60(秒 /h)/1m3=324回/h ・平均風速(最大値)を想定した場合 =風速(0.63m/秒)×1m2×60×60(秒 /h)/1m3=2,268回/h 338 Ca 平均空間濃度 (μg/m3) 0.24 0.034 推算値(空間濃度) 4. 暴露濃度の結果について 劣化試験24時間後(0.72年相当)の試験データから算出されるナノシリカの暴露濃度は最小風速を想 定した場合で0.24μg/m3 、最大風速を想定した場合で0.034μg/m3と推定された。 339 資料 4 トナー中のナノ粒子のリスクに関わる ケーススタディ(案) 平成25年●月●日 ナノ物質の管理に関する検討会 リスク評価ワーキンググループ 340 目次 1. ばく露情報 ....................................................................................................................... 1.1 対象製品 .............................................. 1.2 ばく露経路に係る情報 .................................... 1.3 現時点で考慮すべきばく露量に関する情報 ................... 2. 有害性情報 ..................................................................................................................... 3. トナー中ナノ粒子のケーススタディまとめ .......................................................... 4. 文献................................................................................................................................... 文末脚注 ............................................................................................................................... 添付資料1 ............................................................................................................................. 添付資料2 ............................................................................................................................. 本ケーススタディは、リスク評価ワーキンググループのコメントを受けて、事務局が作成した ものである。 341 1. ばく露情報 1.1 対象製品 本ケーススタディの対象製品は、レーザープリント方式の印刷に使用される粉体の着色複合材料とし てのトナーである。 1.1.1 製品中のナノ粒子 トナーそのものはミクロンサイズの粉体でありナノサイズの粒子ではないが、その構成成分に以下に 示すようにナノ材料が使用されている。ナノ材料は、カーボンブラック等の着色剤(トナーの主成分である 樹脂中に分散されている状態)と外添剤としての二酸化チタンとシリカ等である(図1)。 ①樹脂中に着色剤(一般的にはいわゆるナノサイズ[平均粒子径が1-100nmの範囲]の1次粒径 を有する固体粒子。カーボンブラック他様々な色の着色剤がある。)、離型剤等の成分を含有すると共 に、 ②粒子の表面に帯電性能、耐熱性能等を制御するための外添剤としてナノシリカ(平均粒子径は1- 100nmの範囲。多くの場合数十 nm。)等の超微小粒子が埋没、あるいは、静電気力やファンデルワ ールス力によりトナー表面に強固に付着している構造となっている。 ③外添剤として使われているナノ非晶質シリカまたはナノ酸化チタンの使用量は 各メーカーによ って異なるが、母体となるトナー粒子 100 重量%に対して1重量%から 5 重量%程度が実用レベル である。 図1.トナーの基本構造 1.2 ばく露経路に係る情報 1.2.1 ばく露シナリオ トナーは、樹脂に着色剤、離型剤、電荷制御剤、外添剤からなっており、使用されているナノ粒子に、 着色剤としてカーボンブラック等、外添剤として表面に二酸化チタンやアモルファスシリカ等があるが、カ ーボンブラックは樹脂に分散された状態にあるので、ヒトがナノ粒子としてばく露される可能性のあるトナ ー中のナノ材料は二酸化チタンやアモルファスシリカと考えられる。 342 したがって、1.1と添付資料1の対象製品の情報より、正常に稼働するコピー機やレーザープリンター (以下、「コピー機器等」と記述する)の通常使用において、使用者がコピー印刷をした際にコピー機器等 からの排気中に無機物質が含まれているならば、トナーの二酸化チタンやアモルファスシリカのナノ粒子 に吸入ばく露している可能性がある。 その他、以下のばく露シナリオが考えられるが、以下に記述した理由から本ケーススタディでは考慮し ていない。 その他のシナリオ1 正常に稼働するコピー機等の通常使用において、紙への融着が不十分で、トナーが手に付着してばく 露する可能性が考えられる。しかし、トナーの融着性については印刷物の仕上がりに大きく影響し、融着 が不十分であれば印刷画像の耐久性が落ちたり、ユーザーの手や衣服が着色したりする等のクレーム につながるため、各社がトナー樹脂の融着温度や最適融着のための加熱条件を詳細に解析し、コピー 機器等の電熱部がトナー融着に必要な温度になるまで印刷がスタートできない設計であることから、ばく 露の可能性は小さいと予想される。 その他のシナリオ2 コピー機器等の不具合によってコピー用紙などへのトナーの融着が不十分になり、融着しなかったト ナーにばく露される可能性が考えられる。たとえば、紙詰まりが起こり、コピー機等が停止した場合、まだ 紙上で融着していないトナーが一部に残っている印刷物が発生することがある。しかしながら、コピー機 等は自動停止するので、融着していないトナーの発生量はごく僅かであると予想される。 その他のシナリオ3 トナーカートリッジを装着する際に、カートリッジを落とすなどして(破損し)、トナーが漏出・飛散してば く露される可能性がある。しかしながら、破損の確率については低い。 1.2.2 ばく露シナリオに係る情報 コピー機等稼働時の排気中の物質に関する報告は、大別すると次のとおり。 ①作動中に無機固体成分の飛散がないことを確認した報告 ②作動中に何らかの物質が排出されているとしている報告 ①作動中に無機固体成分の飛散がないとしている報告 (ア)コピー印刷機作動中にトナー中の固体成分の飛散がないことを確認した研究※1 この研究は、BITKOM※2がスポンサーとなってドイツフラウンホーファー研究機構※3により実施されて いる。BITKOM がドイツ連邦環境・自然保護・原子力規制省(BAM)のオファーに対応して2年に亘って実 343 施したものであり、研究計画段階から最終結果とりまとめにいたるまで、BAM の専門家と協議しつつ進 めたものである。 また、研究結果については、ドイツ水・土壌・空気衛生協会がドイツ環境庁(UBA。BAM の下部組織)と 共催した「第18回 室内空気品質会議(WaBoLU)」(2011年5月30日~6月1日)で発表されている。ドイツ 環境庁ではこの研究結果をコピー機器等の排気性能に係るエコラベルの新基準値の検討に活用してい る。※4 ドイツでのこうした取り組みの背景として、ドイツではトナーやプリンタの使用で健康を害したと主張す る利益共同体「トナー被害者の会」が2000年に設立され(2008年に「nanoControl」と改称)、TV や雑 誌で関連の報道がなされて社会的関心が高まっている事情がある。 以下ではこの研究結果の概要を紹介する。 ・ この研究では、レーザープリンターから室内空気を汚染する浮遊粒子物質が排出されているとの 認識の下に、レーザープリンターから排出される粒子に関する試験・計測手順を確立すると共に、 その手順に基づいて超微細粒子の粒子数濃度計測や成分分析を行っている。 ・ その背景として、ドイツには世界初のエコラベル制度であるブルーエンジェルラベル制度があ り、 コピー機等のメーカーは自社製品へのラベル取得に熱心であることが挙げられる。コピー印刷機等 にブルーエンジェルラベルを取得しようとする場合は、揮発性有機化合物、オゾン、重量ベースの 粉じん放出等が基準値を満足する必要がある。一方、放出があると見られている超微細粒子は、 重量ベースで計測することが困難であるため、上記研究では粒子数濃度を計測して、それを基に 重量ベースの粒子濃度を計算値として得る手順を提案している。 ・ この研究では参加した機器メーカー13社※5の主力コピー機・プリンターについて、メーカーが推奨 する標準装備のトナーを使用して装置を稼働させた場合の超微細粒子の排出数や粒子径分布を 「TSI社※6モデル3091高速モビリティパーティクルサイザー(FMPS)スペクトロメータ」を使用して 計測した。この装置を使用すれば、1秒間隔で5.6~560nm の範囲の粒子個数濃度や粒子径分 布を測定することができる。 ・ この測定の結果に基づいて、印刷のためにレーザープリンターを30分間(10分間、3回)稼働させ た場合に放出されたと考えられる1時間当たりの超微細粒子の総数が計算によって求められている。 計算結果では、計測対象とした26種類のプリンターで排出された超微細粒子(揮発成分と非揮発 成分を含みうる)の総数は、全機種で10の10~12乗個程度(100億個~1兆個程度)となった。 ・ 問題は、これがトナーやそれに由来する物質なのかまた工業ナノ物質を含むのかである。この点に 関しては、超微細粒子を含んでいる排ガスをサーモデニューダー ※7で処理した上で粒子計測器で 分析した結果が示されている。この分析で使用された粒子計測器は「TSI 社モデル3080走査式モビ リティパーティクルサイザー(SMPS)」で、この装置を使用すれば、7~200nm の大きさの粒子を、 検出感度1個/立方センチメートルで検出できる※8。 ・ この分析の結果では、検出された超微細粒子の本質的な特徴は高温で蒸発する点にあることが確 認された。さらに、この超微細粒子は水不溶性でもあった。これについて、超微細粒子が「固体」成 分-例えば、カーボンブラック、鉄、またはその他金属であることの証拠は見つからなかったとされ ている。更に、この分析では、超微細粒子は、ワックス用のパラフィン系炭化水素及び環式/開鎖 344 式シリコン有機化合物のような半揮発性有機化合物(SVOC)であるとされている。後者の化合物は、 例えば、機械の潤滑剤に用いられている。 (イ)オーストラリア労働安全局の「粒子として測定されたレーザープリンターからの排出物の健康影響に 関する簡易レビュー※9 2007年に発表されたクィーンズランド工科大学の研究「オフィスプリンターの粒子放出特性」(He C et al., 2007) が、大きな反響を呼んだことを契機として、オーストラリア労働安全局は2011年12月に「粒子と して測定されたレーザープリンターからの排出物の健康影響に関する簡易レビュー」を、Toxicos Pty Ltd (オーストラリア唯一のトキシコロジーコンサルタント)に委託して実施し、発表した。 要点は以下の通り。 ・ レーザ-プリンターからの排出粒子は、トナー粒子でも都市大気汚染粒子でもなく、一義的には、 VOCs(揮発性有機化合物)または SVOCs(半揮発性有機化合物)である。そうならば、呼吸器と接 触した後でも、粒子状物質(particulate)として残る事はなく、エアロゾルとしての健康影響を考える ことが適当である。 ・ プリンターからの8時間平均値の最高値を既存の法規や基準値と比較すると、プリンターへのばく 露による健康影響は無視できるという結果になった。 ②コピー機排気中に微量の無機元素が検出されたとしている報告 米国マサチューセッツ-ローウェル大等によって実施されたもので、コピー機稼働に伴う排気から微量 の有機物質と無機元素が検出されたと報告している。本報告からは、ナノ粒子による暴露濃度の推算に 利用できるデータは得られていない。(Bello et al., 2012) 1.3 現時点で考慮すべきばく露量に関する情報 通常の使用条件においてトナー中の工業ナノ物質の放散があるどうかについては様々な研究の結果 があり継続した議論が必要だが、本ケーススタディーでは、コピー機等からの排気中に外添剤が含まれ ていると仮定した場合に、使用者が、ナノ非晶質シリカまたはナノ酸化チタンにばく露するレベルの見積 りを行った。 ばく露シナリオとして使用者のばく露を想定した場合、学校、図書館、コンビニエンスストア、ホームオフ ィスが考えられるが、本ケーススタディーでは、最も過酷な条件の1つとして、狭い部屋で比較的多くの 印刷を行うホームオフィスについて見積を行うこととした。 本ケーススタディーでは、「製品の使用時間が長く、一定の放散速度を持つ製品について、製品から の放出速度を用いてばく露濃度を計算する」という特徴を持つ、NITE の定常放散モード※10を用いて平 均粒子濃度を算出することとした。 NITE の定常放散モードによる空気中濃度を求めるアルゴリズムは下記式(1)である。 345 ・・・式(1) Cat:ばく露期間中の平均粒子濃度(mg/m3) N:換気回数(回/h) V:空間体積(m3) G:放散速度(mg/h) 実際には、コピー機等は連続的ではなく断続的に稼働する。そこで、本ケーススタディーでは、ホーム オフィスでの滞在時間内のトナー中の非晶質シリカの放散速度を簡易的に算出する手段として、放散速 度Gに、コピー機等の稼働率 R、コピー機等の台数 n、トナー中のナノ非晶質シリカまたはナノ酸化チタン の添加量 Rn を乗じた数値を非晶質シリカ放散速度として用いることとした。 定常放散モードによる非晶質シリカの空気中濃度を求めるアルゴリズムは式(2)となる。 ・・・式(2) 本ケーススタディーにおいては、放散速度としてドイツブルーエンジェルラベルのプリント時におけ る粉塵放散基準値4mg/h を使用する。 前述したとおり、国内のコピー機等の製造者らは、そのトナーについてブルーエンジェルマークのような ラベルを取得して表示できるよう努めて設計しており、その取得基準として、ダスト放散基準値が定めら れている。この値はトナーや外添剤以外の粒子も含めた総ダスト量に関する基準値であるが、ここでは この数値をコピー機等から排出される可能性のあるトナー粒子の放散速度として代用することとする。な お、この実際のダスト測定値は、ほとんどのコピー機等においてこの基準値を大きく下回ることが確認さ れている。 コピー機等の稼働率は以下の通り算出した。すなわち、JBMIA(一般社団法人ビジネス機会・情報シ ステム産業協会)参加各企業から、1月あたり(1台あたり)のコピー機等の印字速度と平均印刷枚数を集 計し、ホームオフィス等の比較的狭い空間で使用される機種として、印字速度 15~40枚/分のコピー機 等を選定し、15、20、25、30、35、40枚/分の6つグループに分類した。各グループ毎に稼働時間の平均 値を算出した結果、稼働時間が最も長かったのは、印字速度25枚/分機で、1月あたりのコピーボリュー ムが3800枚、延べ印刷時間として152分であった。 上記統計値とホームオフィスでの滞在時間を月20日間、1日8時間と見積もりコピー機等の稼働率を算 出した。 コピー機等の稼働率 R[-]= = 0.0158 ホームオフィスの部屋容積は NITE による統計値(鉄筋・鉄骨集合住宅(居室))※11の床面積最頻値 8.8m2、建築基準法の最低天井高さ2.1m として空間体積 V[m3]=18.5とした。また、部屋の換気回数 N [1/h]=0.5 、コピー機等の台数 n は部屋の容積から妥当と考えられる1台、トナー中のナノ非晶質シリ カまたはナノ酸化チタンの添加量 Rn は1.1.1③の説明から妥当と考えられる5重量%(0.05)とした。 以上を式(2)にあてはめて、ホームオフィスにおけるばく露期間中の平均空気中濃度を計算すると、 346 Cat[mg/m3]= = 3.42 x 10-4 となる。 2. 有害性評価 米国マサチューセッツ-ローウェル大の実験で、9人の健常者が任意に選択された2~3日の間に1 日につき6時間を稼働率の高いコピーセンター室内で過ごしたところ、コピー機からのナノ粒子 が健康な被験者の酸化ストレスと上気道炎を誘発したとの報告がある。しかし、この健康影響は ナノ粒子の中のどのような成分によるものかはわからないとされている。 (Khatri et al., 2012) 。 また、ナノ二酸化チタンやナノシリカの吸入毒性に関する情報を以下に列挙する。 ナノサイズの二酸化チタンを対象として設定された主な許容濃度としては経済産業省委託研究 (NEDO プロジェクト)の提案や NIOSH の勧告がある。NEDO プロジェクトでは当面15年程度の亜慢性の ばく露期間を想定した許容ばく露濃度として、0.61 mg/m3(吸入性粉じんとして、1日8時間、週5日の平均 値)が提案されており、NIOSH の勧告ではウルトラファイン粒子は、一次粒子径が100nm 未満のものと して0.3 mg/m3が提案されている。 ナノシリカ(アモルファス)の吸入毒性に関する情報については、主に肺毒性について調べられており、 単回あるいは3日間の吸入暴露では、3.1×107粒子/cm3または1.8×108粒子/cm3の非常に高い粒子数 の暴露 (0.45 mg/m3 (1.8 mg/m3×6時間/24時間)または21.5 mg/m3(86 mg/m3×6時間/24時間)、著者 らによる濃度換算値) においてラットの肺の炎症、病理組織学的影響、遺伝毒性を示さないことが報告 されている(Sayes et al 2010)。亜急性毒性試験として、4週間反復吸入暴露した試験が行われており、週 齢による肺毒性の差を調べた試験では、老齢動物が最も感受性が高く、ついで幼若動物、若齢動物の 順であった (Chen et al 2008)。肺毒性 (呼吸のパラメータ、BAL 液中の分析、病理組織学的検査) を調 べた試験では、暴露中の呼吸パラメータの一過性の変動、好中球及びマクロファージを伴った鼻腔及び 肺胞の炎症が認められた (Arts et al 2008) 。これらの試験は、用量群が1用量の設定であること、肺毒 性に限定して検査を行っていることから、一般毒性としての NOAEL を求めることはできない。仮に3日間 吸入暴露試験でラットの肺に炎症、病理組織学的影響、遺伝毒性がみられない最高濃度より求めると、 NOAEL は21.5 mg/m3となる。 また、気管内投与を用いて肺毒性を調べた試験では、一過性の肺の急性炎症を示すが慢性影響が みられないことが報告されている (Cho et al 2007)。 3. トナー中ナノ粒子のケーススタディまとめ 使用者がコピー印刷をした際に、コピー機器から排気されるトナー中の二酸化チタンやアモルファスシリカの ナノ粒子に吸入ばく露される可能性に関して入手可能な情報を整理した。ナノ非結晶シリカ又はナノ酸化チ 347 タンの平均空気中濃度は 0.34μg/m3 と算出されている。この値とナノ酸化チタンの暫定許容暴露濃度 である 610μg/m3(0.61mg/m3)と比較すると小さい。また、ナノシリカの仮の NOALEL 21.5mg/m3 と算出 された平均濃度を比較すると暴露マージンは 6.3×104と大きな値となっている。以上から、現時点で はトナーによるナノシリカ、ナノ二酸化チタンの吸入暴露が人にリスクをもたらす可能性は低いと考 えられる。 4. 文献 Arts J.H., Schijf M.A. and Kuper C.F. (2008) Preexposure to amorphous silica particles attenuates but also enhances allergic reactions in trimellitic anhydridesensitized brown Norway rats. Inhal Toxicol, 20, 935-948. hen Z., Meng H., Xing G., Yuan H., Zhao F., Liu R., Chang X., Gao X., Wang T., Jia G., Ye C., Chai Z.and Zhao Y. (2008) Age-related differences in pulmonary and cardiovascular responses to SiO2 nanoparticle inhalation: nanotoxicity has susceptible population. Environ Sci Technol, 42, 8985-8992. Cho W.S., Choi M., Han B.S., Cho M., Oh J., Park K., Kim S.J., Kim S.H. and Jeong J. (2007) Inflammatory mediators induced by intratracheal instillation of ultrafine amorphous silica particles. Toxicol Lett, 175, 24-33. Bello, D., Martin, J., Santeufemio, C., Sun, Q., Lee Bunker, K., Shafer, M., Demokritou, P. (2012) Physicochemical and morphological characterisation of nanoparticles from photocopiers: implications for environmental health. Nanotoxicology, Posted online on June 14, 2012. 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Toxicol., Suppl 1, 61–7. 348 文末脚注 ※1 「Measurement and characterization of UFP emissions from hardcopy devices in operation(作動中 ハードコピー装置からの超微細粒子放出の測定及び特性分析)」このフラウンホーファーの研究成果 はハノーバーにあるドイツの国立科学技術図書館に所蔵かつ公開されており、次の URL からドイツ居 住者であれば注文し入手することが可能。 http://opac.tib.uni-hannover.de/DB=1/LNG=DU/CHARSET=utf-8/CMD?ACT=SRCHA&IKT=1016& SRT=YOP&TRM=characterization+of+UFP なお、以下の BITKOM のサイトにはサマリーへのリンクのみがある。フルレポートについては、要求者 の身元とレポートの使用目的が明確であれば BITKOM から入手することは可能。 http://www.bitkom.org/de/presse/62013_57385.aspx ※2 Bundesverband Informationswirtschaft, Telekommunikation und neue Medien e.V。SIEMENS や Deutsche Telekom などドイツ主要情報通信企業1,300社余が参画する産業団体「情報経済・通信・新 メディア連盟」。 ※3 1949年にドイツ政府・バイエルン州政府・学会・産業界が創設。ドイツ全土に56の研究所、米国 に6の研究センター、アジアに3の研究センター(内1は日本)を有する。事業資金は、ドイツ連邦政府、 各州政府、産業界から得ている。 ※4 http://www.bitkom.org/de/presse/62013_57385.aspx(BITKOM によるプレス発表[ドイツ語]) http://www.bitkom.org/files/documents/BITKOM-PressInfo_Study_WKI_engl_14_01_2011.pdf(BITKOM によるプレス発表[英語]) ※5 キヤノン、エプソン、京セラ、ブラザー、ゼロックス、東芝、シャープ、リコー、コニカミノルタ、Lexmark、 HP、SAMSUNG、OCE。我が国におけるコピー機・プリンター市場でこれらメーカーのシェア合計は約7 割であり、標準装備トナーもEUの場合と同様であるので、この研究の結果は我が国でのコピー機・プ リンター及びトナーの使用実態にも当てはまると考えられる。 ※6 1961年に米国ミネソタ州に創設された計測機器メーカー。 ※7 粒子状物質(液滴又は固体粒子)を含む試料ガスを加熱して、揮発する成分を除去する装置。排 ガス中に含まれている超微細粒子中にカーボンブラックやナノシリカのような非揮発成分が含まれて いる場合は、サーモデニューダーの後の工程に設置された粒子計測器で検出される。一方、超微細 粒子が工業ナノ物質ではない通常の化学物質である場合は加熱により揮発するので粒子計測器で は検出されないこととなる。 ※8 http://www.t-dylec.net/products/tsi/tsi_3936.html による。 ※9 http://www.safeworkaustralia.gov.au/sites/SWA/AboutSafeWorkAustralia /WhatWeDo/Publications/Documents/636/Brief%20Review%20Laser%20 Printer%20Emissions.pdf ※10 NITE による消費者製品のリスク評価に用いる推定ヒトばく露量の求め方は、以下の URL か ら入手可能 http://www.safe.nite.go.jp/ghs/pdf/risk_consumer/exposure.pdf 349 ※11 NITE による室内ばく露にかかわる生活・行動パターン情報の調査結果(分類;住居、、項目; 部屋(1)タイプ・面積)は、、以下の URL から入手可能 http://www.safe.nite.go.jp/risk/pdf/exp_1_2_1.pdf 350 資料 5 自動車タイヤ中のナノ粒子のリスクに関わる ケーススタディ(案) 平成25年●月●日 ナノ物質の管理に関する検討会 リスク評価ワーキンググループ 351 目次 1. ばく露情報 ............................................... 1.1 対象製品 ............................................. 1.2 ばく露経路に係る情報 .................................. 1.3 現時点で考慮すべきばく露量に関する情報 ............... 2. 有害性情報 ............................................... 3. 自動車タイヤ中のナノ粒子のケーススタディのまとめ ........ 4. 文献.................................................... 文末脚注.................................................... 添付資料1................................................... 添付資料2................................................... 添付資料3................................................... 添付資料4................................................... 本ケーススタディは、リスク評価ワーキンググループのコメントを受けて、事務局が作成した ものである。 352 1. ばく露評価 1.1 対象製品 本ケーススタディの対象製品は、自動車タイヤである。 1.1.1製品中のナノ粒子 タイヤの原材料としては、SBR(スチレンブタジエンゴム)等のゴム成分の他、補強剤、硫黄、加硫促 進剤、老化防止剤、オイル成分等が使用されている。工業ナノ粒子は、トレッド部(タイヤが路面と接触 する部分の厚いゴム層)の補強剤としてカーボンブラックやシリカが使用されている(添付資料1、2参 照)。 1.2 ばく露経路に係る情報 1.2.1 排出に係る情報 (1) タイヤ使用による排出物 タイヤ使用による排出物としては、タイヤ走行により、タイヤゴム層の主体であるトレッド部が、自動車 走行に伴う路面との摩擦によって磨耗し、タイヤ由来の粉じんを生ずる。タイヤゴム層には前述のように 工業ナノ粒子が含有されているので、工業ナノ粒子そのものが飛散しているのかどうかを考慮する必要 がある。 (2) タイヤ走行に伴う粉じんの粒子径、組成等 タイヤの使用に伴って発生する粉じんを捕集・分析した結果が報告されている(Kreider et al., 2010) (ア)道路を実際に走行する乗用車及びトラックに粉じん捕集装置を取り付けて下記の2種のタイヤから の捕集粉じんを混合して ROADWAY PARTICLES(RP)として分析用試料に供した。 ・ 乗 用 車 タ イ ヤ : シ リ カ 配 合 MICHELIN PILOT PRIMACY 225/55/R16 95W 及びカーボンブラック配合 GOODYEAR SAVA INTENSA 234/45/R17 ・ トラックタイヤ:MICHELIN DA2+315/80 R22.5 (イ)タイヤ走行シミュレータ及び粉じん捕集装置を使用し、タイヤとして以下を用いてタイヤ走行シミュレ ータ上で走行させて下記の3種のタイヤからの捕集粉じんを混合して TIRE WEAR PARTICLES(TWP)とし て分析用試料に供した。 ・夏用シリカ配合タイヤ(MICHELIN PILOT PRIMACY 225/55/R16 95W) ・冬用シリカ配合タイヤ(PIRELLI SOTTOZERO 225/55 R16 95W M+S) ・夏用カーボンブラック配合タイヤ(BRIDGESTONE POTENZA RE 88 205/65 R15 94W) 分析結果としては、レーザー回折によって求められた RP の粒子径は容積ベースで4-280μM(平均 50μM)で、TWP の粒子径は5-220μM(平均75μM)とされている。また、組成(重量%)は、表1のよう に報告されている。 353 表1 発生粉じんの組成(重量%) RP TWP 可塑剤・オイル分 13 10 ポリマー 23 16 カーボンブラック 11 13 ミネラル 53 61 しかしながら、この文献ではミクロンサイズよりも粒子径が小さい粒子に関する知見が得られていな いため、以下で、更にタイヤゴム層中におけるカーボンブラック等の存在状態に関する知見を整理する。 (3) タイヤ補強剤のタイヤゴム層中における存在状態 ①カーボンブラック (ア)タイヤの製造プロセスでゴムとカーボンブラックとを混合すると、ゲルを形成することが知られ ている。写真1は、天然ゴム中にカーボンブラックを10PHR(ゴム100に対して重量で10)添加し て練った上でベンゼンで洗浄した後に残った構造を撮影したものである。ゲルはカーボンブラ ック周囲のゴムだけでなくカーボンブラック粒子からかなり離れた部位との架橋・絡み合いをも 含んでいることを示している(社団法人日本ゴム協会, 1994)。 天然ゴム 天然ゴムと結合 したカーボンブ ラック 写真1.天然ゴムとカーボンブラックとのゲル (ゴム重量100に対してカーボンブラックは10) 354 (イ)このゲルを形成する化学的吸着力は、カーボンブラック表面に存在するフリーラジカル状態と 考えられる不対電子と、加工プロセス(練りプロセス)でゴムポリマーが切断されて発生するフ リーラジカルとの反応により生ずる共有結合と考えられている(Donnet et al, 1993)。 (ウ)カーボンブラックは、ゴムとのこのような反応性により補強剤としての性能を発揮している。 ②シリカ (ア)一方、シリカはカーボンブラックとは異なりそれ自体はゴムと反応しない。このため、補強剤とし ての機能を発揮させるためには、カップリング剤(一般にシラン化合物系。カップリング剤の分 子の一端がシリカと、他の一端がゴムと反応して複雑な架橋構造を形成する)と併用する必要 がある。 (イ)このようなプロセスにおける化学反応は、まずシリカ表面とカップリング剤とが反応して、更にカ ップリング剤の他端がゴムポリマーと反応することにより複雑な架橋構造を形成すると理解さ れている(White et al, 2009)(添付資料3参照)。 (ウ)カップリング剤は、シリカ配合重量に対して8重量%以上添加することがシリカメーカーから推 奨されタイヤメーカーはこれを目安に添加している。この添加量で、カップリング剤分子数がシ リカの一次粒子数の700倍を超えて混合されていることになる(添付資料4参照)。 以上から、カーボンブラックやシリカの粒子は、タイヤゴムの分子と化学結合によって結びついており、 これらがゴムから遊離して飛散することは考えがたい。したがって、カーボンブラック等の工業ナノ物質 の飛散により、健康リスクがもたらされる可能性も低いと考えられる。 (4)一般大気環境中におけるタイヤ由来粉じんの濃度 世界の主要タイヤメーカーが、米国 CHEMRISK 社 ※1 に委託して、一般大気中のタイヤ由来と考えら れる粉じんの濃度を米国・フランス・日本において実測した結果が公表されている ※2 。 この実測の対象地は、人口密度、交通量、自然環境、水質汚染・大気汚染の程度等を考慮して、結果 を比較しやすいように米国メリーランド州チェサピーク湾周辺、フランスセーヌ川流域(パリ市東部)、日 本淀川流域となっている。 タイヤ由来と考えられる粉じんの濃度は、次のように求めている。 (ア)石英フィルターで一般大気中の粒子状物質を24時間捕集して分析対象とする ※3 。 (イ)タイヤを熱分解した場合の生成物(ブタジエンモノマー、スチレン、イソプレン、ビニルシクロヘキセン、 ジペンテン)の検量線を予め作成して、上記(ア)のサンプル中の各物質の存在量を求める。 (ウ)各生成物のタイヤ中の含有比率及びサンプリングの際の通気量を勘案して、タイヤ由来粉じん全 体の一般大気中濃度を算定する。 この実測の結果では、一般大気中のタイヤ由来粉じんの濃度は、次のように報告されている。 (ア)日本淀川流域 ・平均値(全27計測地点) ・最高値(滋賀県/琵琶湖畔) 0.051μg/m3 0.16μg/m3 355 (イ)日・米・仏 ・平均値(全81計測地点) ・最大値(セーヌ川流域パリ東部トロワ) 0.080μg/m3 0.67μg/m3 (5)参考となる情報 微小粒子状物質に関する情報として、下記の参考情報がある。 大気の汚染に係る環境基準(昭和48年5月8日環境庁告示第25号 改正平8環告第73号) 「1時間値の1日平均値が0.10mg/m3以下であり、かつ、1時間値が0.20mg/m3以下であること。」 一般大気中の微小粒子状物質の環境基準(平成21年9月9日環境省告示第33号) 「1年平均値が15µg/m3以下であり、かつ、1日平均値が35µg/m3以下であること。」 1.2.2 ばく露シナリオ 自動車走行により路面との摩擦によってタイヤが磨耗し、タイヤ由来の粉じんが飛散し、一般市民が 大気環境を経由して吸入暴露される可能性が考えられる。しかしながら、カーボンブラックやシリカなど のタイヤのゴム層に含有されるナノ粒子は、タイヤゴムの分子と化学結合によって強固に結びついてお り、これらのナノ粒子がゴムから遊離して飛散することは考えにくい。しかしながら、ナノ粒子を含有して いる粉じんが発生していることに鑑み、実際のタイヤ由来の粉じんへの暴露による影響を考慮すること が適当と考えられる。 1.3 現時点で考慮すべきばく露量に関する情報 上述の通り、一般市民が大気環境を経由してタイヤ由来のカーボンブラックやシリカなどのナノ粒子そ のものに吸入暴露される可能性は小さいと考えられるが、タイヤ由来粉じん濃度に関する情報としては、 米国 CHEMRISK 社が実測した、日本淀川流域におけるタイヤ由来粉じんの最高濃度0.16μg/m3 ※2 があ る。 2. 有害性情報 タイヤ粉じんの有害性情報として、タイヤ由来粒子状物質をラットに吸入ばく露した試験の報告が得ら れた(Kreider et al., 2012a; 2012b)。ラット(雌雄1群10匹、SPRAGUE-DAWLEY)に、0、10(実測値12.5)、 40(実測値37.8)、100(実測値112.2)μg/m3 ※4 のそれぞれの濃度のタイヤ由来粉じんを6時間/日、7 日間/週で28日間鼻部ばく露した試験である。 タイヤ由来粉じん ※5 は、GERMAN FEDERAL HIGHWAY RESEARCH INSTITUTE のタイヤ走行シミュレ ータ(写真2参照)内に、サイクロンと HEPA フィルターを装備したバキュームシステムを設置(写真3参照) して捕集した。シミュレータの路面は ISO10844に従って6.1%のビチュメン(B50/70)を含有する標準化 されたアスファルトコンクリートを使った。 356 写真2 タイヤ走行シミュレータ 写真3 バキュームシステム タイヤは、次の(ⅰ)~(ⅲ)を用いて、(ⅰ)、(ⅱ)、(ⅲ)からの粉じんを1:1:2の割合で混合した。粉じ んは38μm でろ過した上、その粒子サイズがラットの吸入可能な粒子径の範囲にあることを、吸入ばく露 試験3日目、7日目、21日目にエアロダイナミック・パーティクル・サイザーで確認した。 (ⅰ)夏用シリカ配合タイヤ(MICHELIN PILOT PRIMACY 225/55/R16 95W) (ⅱ)冬用シリカ配合タイヤ(PIRELLI SOTTOZERO 225/55 R16 95W M+S) (ⅲ)夏用カーボンブラック配合タイヤ(BRIDGESTONE POTENZA RE 88 205/65 R15 94W) 実際に捕集された粉じんの粒子径分布に関するデータは上記の論文には記述されていないが、 HEPA フィルタで捕集できる粉じんに関する補足情報は次の通りである(大谷、2012)。(ア)HEPA フィル 357 タは、通常のろ過速度5CM/S では、0.3μM が一番捕集しにくい粒子の大きさであり、それ以上の大きさ の粒子でも、それ以下の大きさの粒子でも、99.97%以上捕集できるものである。(イ)サイクロンを出た 空気の中に浮遊状態で0.1μM 以下の粒子が含まれているのであれば、HEPA フィルタはそれらの粒子 をほぼ99.97%程度捕集していると考えられる。 試験の結果、一般毒性については、タイヤ由来粉じんは、臨床観察、体重、体重増加量、摂餌・摂水 量、臓器重量、臓器重量体重比の各項目において、全てのばく露レベルで何の影響も示さなかった。臨 床化学検査及び血液学検査(凝血因子を含む)においても、TRWP 暴露に関連する影響は見られなかっ た。 また、炎症マーカー及び細胞毒性マーカーについては、タイヤ由来粉じんは、BALF 中のサイトカイン 量(IL-6・GRO-KC・TNF[TUMOR NECROSIS FACTOR]-α)や細胞形態(全細胞数・好中球数・リンパ球 数・マクロファージ数)を計測した限りでは、全てのばく露レベルで肺組織における炎症反応を生じなかっ た 。 ま た 、 BALF 中 の 総 タ ン パ ク 、 LDH ( LACTATE DEHYDROGENASE ) 、 ALP ( ALKALINE PHOSPHATASES)を測定した限りでは、全てのばく露レベルで細胞損傷の証拠はなかった。さらに、全 てのばく露レベルで酸化ストレスマーカー(HO-1及び TBARS(THIOBARBITURIC ACID REACTIVE SUBSTANCES)を上昇させなかった。 【修正案】 病理学的検査では、剖検において肺に異常はみられなかった。病理組織学的所見では、40及び100 μg/m3のばく露で、肺の肺胞壁と肺胞内に少数の単球性の炎症細胞浸潤が見られた。この亜急性の炎 症性変化は軽微な変化であり、限局性であった。この影響は、10μg/m3では生じなかったが、40μg/m3 で10匹中1匹、100μg/m3で10匹中3匹に見られた。 以上、本試験では、100μg/m3 (実測値112μg/m3) までの吸入ばく露によって、病理組織学的検査で 肺の軽微な炎症細胞の浸潤が見られたほかは、一般状態、血液学的検査、さらには、肺を除く呼吸器 系、心血管系への影響はみられなかった。著者らは今回観察された肺の限局性炎症細胞浸潤について は軽微であり、また限局性であることから、“ADVERSE EFFECT(毒性影響)”とは判断していない(Kreider. et al., 2012b)。 したがって、本試験におけるタイヤ由来粉じんの NOAEL は文献では112μg/m3であるとされている。し かしながら、この値は 6時間/日、7日/週の投与頻度で得られた値であるので、本ケーススタディにおけ る NOAEL とし、一日および週平均化のための換算を行うと、換算値は 28 μg/m3)[ 112 (μg/m3)× 6 (h) / 24 (h) × 7(日) / 7 (日)]となる。 一方、本試験の不確実係数については、ヒトと実験動物との種差に係る不確実性について、一般的な 10を採用する。次に、ヒトの集団で脆弱者が強い影響を受ける可能性がある個人差の不確実係数10を 採用する。また、NOAEL の根拠となっている試験が28日間試験であるので、これを慢性試験の結果とし て考慮するためのばく露期間の外挿の係数を化学物質審査規制法に基づくスクリーニング評価で有害 性評価値導出に用いている係数6※6を採用する。以上より、本試験の不確実係数積は600であるとした。 358 3. 自動車タイヤ中のナノ粒子のケーススタディのまとめ 自動車走行により路面との摩擦によってタイヤが磨耗し、タイヤ由来の粉じんが飛散し、一般市民が 大気環境を経由して吸入暴露される可能性が考えられる。しかしながら、ゴム層にはカーボンブラックや シリカなどのナノ粒子が含有されているが、これらのナノ粒子は、タイヤゴムの分子と化学結合によって 強固に結びついており、ゴムから遊離して飛散することは考えにくいが、ナノ粒子を含有するタイヤ粉じ んが発生している。そのため現時点においては利用できるデータが存在する実際のタイヤ由来の粉じん への暴露を考慮することとした。 米国 CHEMRISK 社が実測した、日本淀川流域におけるタイヤ由来粉じんの最高濃度0.16μg/m3と、タ イヤ由来粉じんの吸入ばく露試験の NOAEL を更に換算した値28μg/m3と比較すると、暴露マージンは 175となる。これと本試験の不確実係数積600と比較すると、リスクの懸念がありとの評価になりうる。し かしながら、今回の吸入ばく露試験の NOAEL は、最大投与量でも有害影響がみられなかったと報告さ れたデータに基づく値であること、また、タイヤ粉じん濃度の実測値は、大気の汚染に係る環境基準(昭 和48年5月8日環境庁告示第25号 改正平8環告第73号)「1時間値の1日平均値が0.10mg/m3以下であ り、かつ、1時間値が0.20mg/m3以下であること。」及び、一般大気中の微小粒子状物質の環境基準(平 成21年9月9日環境省告示第33号)「1年平均値が15µg/m3以下であり、かつ、1日平均値が35µg/m3以 下であること。」を下回っていることから、タイヤ由来粉じんへのばく露が一般市民にリスクをもたらす可 能性は低いと考えられる。 4. 文献 Donnet, J.B., Bansal,R.C. Wang, M.J. (1993), Carbon black, 2nd ed. revised and expanded, Science and Technology, New York., 290-291 Kreider, M.L., Panko, J.M., McAtee, B.L., Sweet, L.I., Finley, B.L. (2010) Physical and chemical characterization of tire-related particles: comparison of particles generated using different methodologies. Sci Total Environ. 2010, 408, 652-9 Kreider, M.L., Panko, J.M., Finley, B.L. (2012a) Effects of subacute inhalation exposure to tire and road wear particles in rats. Health Effects Institute Annual Conference 2012, 4/15-17, Sicago, USA, http://www.wbcsd.org/pages/edocument/ edocumentdetails.aspx?id=54&nosearchcontextkey=true Kreider, M.L., Doyle-Eisele, M., Russell, R.G., McDonald, J.D., Panko, J.M. (2012b) Evaluation of potential for toxicity from subacute inhalation of tire and road wear particles in rats. Inhal Toxicol. 24, 907-17. White, De, and Naskar, 2009. Editors Rubber Technologist’s Handbook, Vol.2, Smithers Rapra Technologies, Ltd, Shropshire, UK pages65-68 大谷吉生(2012)、金沢大学 大谷吉生教授による私信 社団法人日本ゴム協会(1994)ゴム工業便覧<第四版> 日本ゴム協会編、p.1257 359 文末脚注 ※1 化学物質のリスク評価に関するコンサルティング会社、本社は米国サン・フランシスコ市。会社ホー ムページは HTTP://WWW.CHEMRISK.COM/ ※2 WBCSD(WORLD BUSINESS COUNCIL FOR SUSTAINABLE DEVELOPMENT 持続可能な開発のた めの世界経済人会議 ) ホームページからサマリーレポートの閲覧可能。 http://www.wbcsd.org/pages/edocument/edocumentdetails.aspx?id=54&nosearchcontextkey=true (最後のドキュメント) この調査結果は、Inhalation Toxicology 誌に論文として掲載された(Kreider et al, 2012)。 ※3 我が国で実際に大気中粉じんの捕集を行った日本環境衛生センターに確認した結果、大気中粉じ んの捕集方法は、米国の PM2.5の測定法(我が国の測定法も殆ど同じ)に準拠していることが確認され た。 ※4 本試験のばく露濃度の上限を100(実測値112.2)μg/m3とした理由を、本試験研究の実施者であ る米国 CHEMRISK 社に確認したところ、以下の回答があった。 (ア)ディーゼル排ガス粒子を用いた吸入ばく露試験を実施した研究で、ばく露濃度を、30、100、300、 1000μg/m3としている事例がある (Seagrave et al, 2005)。 (イ)本試験研究において上記①の方法で捕集した粉じんの数量では、ばく露濃度を300 μ g/m3とすることができなかったため、上限値を100μg/m3とした。 Seagrave, J., McDonald, J.D., Reed, M.D., Seilkop, S.K., Mauderly, J.L. (2005) Responses to subchronic inhalation of low concentrations of diesel exhaust and hardwood smoke measured in rat bronchoalveolar lavage fluid. Inhal Toxicol. ;17, 657-70. ※5 実際に捕集された粉じんの粒子径分布に関するデータは上記の論文には記述されていないが、 HEPAフィルタで捕集できる粉じんに関する補足情報は次の通りである(大谷、2012)。 (ア)HEPAフィルタは、通常のろ過速度5CM/Sでは、0.3μMが一番捕集しにくい粒子の大きさであり、 それ以上の大きさの粒子でも、それ以下の大きさの粒子でも、99.97%以上捕集できるもので ある。 (イ)サイクロンを出た空気の中に浮遊状態で0.1μM以下の粒子が含まれているのであれば、 HEPAフィルタはそれらの粒子をほぼ99.97%程度捕集していると考えられる。 大谷吉生(2012)、金沢大学 大谷吉生教授による私信 ※6 化審法におけるスクリーニング評価手法および不確実性係数については、「化審法におけるスクリ ーニング評価手法」(2011)等を参照のこと。 http://www.meti.go.jp/policy/chemical_management/kasinhou/files/information/ra/screening.pdf 360 添付資料1 対象製品の情報 1. 自動車タイヤの基本構造 ①タイヤは基本的に図1に示す8つの部位から構成されている。 ②トレッド部等のゴム層(補強剤等の様々な副成分を含有)をスチールワイヤー等で補強した構造を 持っており、空洞部(タイヤの内側)には空気透過性の少ないゴム(インナーライナー)を貼り付けた 構造(チューブタイヤの場合はチューブを使用)。乗用車用とトラック用のタイヤは概ね同一の構造、 構成物質から成る。 図1 タイヤの構造と部位の名称 ⅰ)トレッド部 タイヤが路面と接触する部分の厚いゴム層をいう。路面等からの衝撃や外傷から内部のカーカ スを保護するとともに、摩耗寿命延長の役目をしている。また、各種のトレッドパターンが刻み 込まれている。 ⅱ)ショルダー部 トレッドとサイドウォール間(肩部)のゴム層をいう。カーカスを保護するとともに、走行時に発生 する熱拡散の役目をしている。 ⅲ)サイドウォール部 ショルダーとビード間のゴム層をいい、カーカスを保護する役目をしている。また、タイヤの寸法、 製造会社名等が表示されている。 361 ⅳ)コード タイヤの内部でカーカスやベルト等を形成している“ヨリ”を与えられた繊維(あるいは金属線 等)をいう。 ⅴ)カーカス ゴムで被覆したコードを貼り合わせ、層としたものをいう。タイヤの骨格となっており、カーカス 配列のタイプにより、ラジアル(放射状)とバイアス(斜め)とがある。 ⅵ)ベルト ラジアルタイヤのトレッドとカーカス間のコード層をいう。カーカスを桶のタガのように強く締め付 けてトレッドの剛性を高める働きをしている(バイアスタイヤでは、トレッドとカーカス間のコード 層をブレーカといい、路面からの衝撃を緩和し、トレッドに受けた外傷が直接カーカスに達する ことを防ぐとともに、トレッドとカーカスの剥離防止の役目をしている)。 ⅶ)インナーライナー チューブレスタイヤの内面に貼り付けられた気密保持性の高いゴム層をいう。 ⅷ)ビード部 スチールワイヤー(鋼線)を束ね、ゴムで被覆したリング状の補強部をいう。空気を充填したとき に、タイヤをリムに固定する役目をしている。 2. タイヤの製造プロセス(3つの工程) ①ゴム練り バンバリーミキサーでゴム(天然ゴム・合成ゴム)と薬品(補強材・硫黄・老化防止剤等)を混ぜて練 り、トレッド用ゴム、カーカス用ゴム、ビード用ゴム等を作る。 ②パーツ作成 タイヤの構成パーツであるトレッド部分・カーカス部分・ビードワイヤー部分を作成する。トレッド用ゴ ムは、押出機で板状に押し出され、タイヤ1本分のサイズに切断される。 ③組み立て等 パーツの組み立て、パターン・刻印、検査を行う。 3. 自動車タイヤの数量と種類 ①タイヤの生産数量は2010年で159百万本であり、乗用車用79%、トラック(小形含む)・バス用タイヤ 21%となっている。バス・トラック用のタイヤもゴム層の構成物質の種類や配合比は乗用車用タイヤ とほとんど同じである。 ②気候によって適するタイヤは異なっており、夏用タイヤ、冬用タイヤ(スタッドレスタイヤ、スノータイ ヤ)がある。一般的には、一年を通じて夏用タイヤが使用されるが、冬季の降雪地域では冬用タイ ヤが使用されることが多い。 362 添付資料2 自動車タイヤの原材料と工業ナノ物質の配合 1. 自動車タイヤの原材料 ①タイヤの原材料としては、SBR(スチレンブタジエンゴム)等のゴム成分の他、補強剤(カーボンブラ ック・シリカ)、硫黄、加硫促進剤、老化防止剤、オイル成分等が使用されている。 ②表1に最新の原材料配合構成を示す。 表1.タイヤ原材料の配合構成 (注)数字は、新ゴム重量を100とした場合の他の原材料の重量比を示す。 出典:タイヤの LCCO2算定ガイドライン Ver.2.0(2012年4月)、一般社団法人 日本自動車タイ ヤ協会 2. タイヤ補強剤としての工業ナノ物質の配合 ①工業ナノ物質であるカーボンブラック、シリカはゴム層の補強剤として使用されている。補強剤を使用 しなければ、タイヤとしての強度が全く確保できず使用できない。シリカはゴムの補強剤として機能し、 また、転がり抵抗性能(制動性能と二律背反)を向上させつつ制動性能を確保する効果等がカーボン ブラックに比べて優れていると言われてる。 ②表1の通り、補強剤としては通常カーボンブラックとシリカが併用されるが、汎用タイヤに対して低燃費 タイヤではシリカの配合比が高い。(表1の汎用タイヤを「カーボンブラック配合タイヤ」、低燃費タイヤ を「シリカ配合タイヤ」と呼ぶことがある。)」 363 添付資料3 カップリング剤に係る反応 図1.シリカ粒子とシランカップリング剤との一次反応 図2.シリカ粒子とシランカップリング剤との二次反応 364 図3.カップリング剤と不飽和ゴムポリマーとの反応 365 添付資料4 タイヤ中のシリカ粒子に対するカップリング剤の存在量 1. 試算の前提 (1)シリカ 1次粒子径を20nm(市販シリカの1次粒子径は14~24nm)、粒子形状は球形、比重を2.0とする。 (2)カップリング剤 ①代表的なものとして、BIS(TRIETHOXYSILYLPROPYL)TETRASULFIDE(TESPT)を想定。 化学式:-(S-S-CH2-CH2-CH2-SI-(O-CH2-CH3)3)2 分子量:539 ②添加量:カップリング剤をシリカ配合重量に対して8%(シリカメーカーが提示している添加量) 添加する。 2. 試算内容 ・シリカ1粒子の体積: 4187nm3(A) ・シリカ1粒子の重量: (A)×2÷1027=8.37×10-18g(B) ・シリカ1粒子当りの TESPT 量:(B)×0.08=6.70×10-19g(C) ○シリカ1粒子当りの平均 TESPT 分子存在個数は、748分子 アボガドロ数×(シリカ1粒子当りの TESPT 量(C)÷TESPT 分子量) =6.02×1023X6.70×10-19/539=748 366 添付資料1 対象製品の情報 1. トナーによる印刷原理 トナーを用いるレーザープリンティングでは、まず、感光体と呼ばれる筒状の部材の上に形成した静 電気潜像(静電気により形成された文字等の形)に静電気力によってトナーを付着させ、画像を形成す る。次に、感光体上に形成されたトナー画像を紙等の印刷媒体の表面に再び静電気力により転写させ る。そして、最後に加熱によってその印刷媒体にトナーを固着させることにより、印刷媒体上に画像を定 着させる。この原理は、レーザープリンティングの基本原理であり各社同一の原理を用いている。 2. トナー粒子の実体 (1) サイズ 平均粒子径5~10ミクロンの粒度分布を有する粒子である。従って、トナーそのものはミクロンサイズ の粒子でありナノサイズの粒子ではない。 以下、図2にトナーの粒度分布の例を示す。 図2. トナーの粒度分布の一般的な例(出典:ベックマンコールター社 HP) (2) 構造 各メーカーとも樹脂粒子内部に着色剤・離型剤・荷電制御剤が含有され、樹脂粒子表面に外添剤が 接着されている点で基本的に同じである。 367 添付資料2 トナーカートリッジの廃棄・リサイクル状況 トナーカートリッジの廃棄・リサイクル状況を以下に述べる。以下の状況から使用者が廃棄・リサイクル を通じてトナーにばく露することは考えにくい。そのため、このケースは、一般市民へのトナーのばく露に は含めていない。 (1) 使用済みトナーカートリッジは、コピー機等のメーカーによる自主回収から再資源化、およびリサイク ル専門業者による回収から再生カートリッジとしての販売が行われている。これらから、使用者自身 による廃棄処分はごく少ないと思われる。 (2) 商品のライフサイクル全体を通して環境への負荷が少なく、環境保全に役立つと認められる商品に 付けられる環境ラベルである日本環境協会のエコマークにおいてトナーカートリッジは認定製品で あり、多くの機器メーカーはトナーカートリッジのエコマークを取得しているのが実態である。トナーカ ートリッジのエコマーク認定基準では、「回収およびマテリアルリサイクルのシステムがあること」や、 「回収したトナーカートリッジは、再資源化率95%以上、再資源化できない部分は適正処理」が求 められているため、回収・再資源化の取り組みは進んでおり、単純廃棄や埋め立ては極めて少な い。 (3) トナーカートリッジは国の“グリーン購入法“の対象品目にもなっている。使用済みトナーカートリッジ の回収・再資源化の認定基準はエコマークと同等の内容が求められており、その点からも機器メー カー各社のトナーカートリッジ回収と再資源化の取り組みが進んでいる。 368 資料 6 抗菌・消臭スプレー噴霧によるナノ銀粒子の リスクに関わるケーススタディ(案) 平成25年●月●日 ナノ物質の管理に関する検討会 リスク評価ワーキンググループ 369 目次 1. ばく露評価 .................................................................................................................................................. 1.1 対象製品 .............................................................................................................................................. 1.2 ばく露経路 ............................................................................................................................................ 1.3 ヒトへの推定ばく露量 ...................................................................................................................... 2. ナノ銀粒子に関する有害性評価 ....................................................................................................... 2.1 ナノ銀粒子に関する有害性情報 ................................................................................................ 2.2 本評価に用いる NOAEL................................................................................................................. 2.3 本評価における不確実係数について ...................................................................................... 3. 抗菌消臭スプレー噴霧によるナノ銀粒子のリスク評価 ......................................................... 3.1ばく露マージン ...................................................................................................................................... 3.2 リスク評価結果 ................................................................................................................................... 4. 考察 386 5. 文献 387 文末脚注 ............................................................................................................................................................ 本ケーススタディは、リスク評価ワーキンググループのコメントを受けて、事務局が作成した ものである。 370 1. ばく露評価 1.1 対象製品 ナノ銀粒子を含む抗菌・消臭を目的とする家庭用ポンプ式スプレー※1 ・ 内容量・濃度:500 mL、銀濃度は 20 ppm(純銀 10 mg 配合) ・ 使用方法:ソファ、トレイ等で抗菌・消臭したいところに、軽く 2 度程度噴射する。 1.2 ばく露経路 2種のシナリオを想定し、それぞれのシナリオにおけるばく露経路の検討を行う。 消費者製品のばく露・リスク評価にあたっては、消費者が通常の使用に伴うばく露・リスク評価だけで はなく、予見可能な誤使用※2も含む必要がある。予見可能な誤使用とは、製品の説明書通りではないが、 ありがちな使用方法や、使用時に故意ではなく起こりえる事象等を含んだ通常使用よりも過剰な使用方 法である。具体的には、対象物に対しスプレーから噴射したミストが手や足に付着したり、ミストを口から 吸い込んだり、ミストが付着した手で直接食べ物に触れ、食べ物と一緒に摂取してしまうこと等を想定し ている。 また、乳幼児がソファ等に付着したナノ銀粒子を直接なめる事も考慮すべきと考えられるが、ばく露状 況の具体的なシナリオの想定が困難であるため対象としない。さらには、製品を食品の近くで使用する ことも考えられるが、使用状況等具体的なシナリオの想定が困難であるため対象としない。 1.2.1 ばく露シナリオ 1 -ナノ銀粒子が揮発性物質と同様の挙動をとるとし、室内で浮遊していると仮定したシナリオ抗菌・消臭スプレーを対象物に噴霧する場合、スプレーに含有されているナノ銀粒子は、スプレーボト ルから溶媒と共にナノ銀粒子を含むミストとして噴霧される。このとき、ナノ銀粒子は、ミスト状で対象物 に噴霧されるものの、揮発性物質と同様の挙動を示すとし、対象物からすぐにミストとして(またはナノ銀 粒子として)空気中に浮遊すると仮定する。よって、ナノ銀粒子を含むミスト(または溶媒部分が揮発し、 ナノ銀粒子となったもの)は、スプレー使用後瞬時に室内空気中に均一に分散し、室内空気と共に換気 により徐々に室外に排出されるというシナリオを考える。 上述の条件の場合、以下の基本シナリオを共通とした3つの経路において抗菌・消臭スプレーの使用 者がナノ銀粒子にばく露する可能性があると考えられる(表1)。 371 表1ばく露シナリオ1 基本(共通)条件 ・抗菌・消臭スプレーにはナノ銀粒子が20 ppm 含有。 ・室内5箇所※3に毎日噴霧 する。 ・1箇所あたり2回噴射すると仮定(1日計10回) する。 ・ミスト噴射量は1000 mg/回※4(ナノ銀粒子20μg) とする。 ・室内体積をは18.5 m3 ※5 とする。 ※6 ・換気回数をは0.2回/h とする。 経路 各経路におけるばく露シナリオの各径路の内訳 吸入ばく露シナリオ:使用による全噴射量の吸入ばく露 条件 吸入 ・ ナノ銀粒子が含有されている室内用の抗菌・消臭スプレーを噴霧することで、噴射量の全 てが室内空気中にミストとして(またはナノ銀粒子として)浮遊し、これを呼吸によって体内に 取り込む。吸入により体内に取り込んだナノ銀は全て肺に到達することとする。 ・ この室内には、一日あたり18.7時間※7滞在するとする。 経皮ばくシナリオ:噴霧時の付着による経皮ばく露 経皮 条件 ・ 噴霧時に噴霧したミストの1%※8が皮膚に付着すると仮定する。 ・ 皮膚から体内への吸収率は、0.1%※9とする。 経口ばくシナリオ:噴霧時の経口ばく露 経口 条件 ・噴霧時に噴霧したミストの1%が経口経路で摂取されると仮定する。 1.2.2 ばく露シナリオ 2 -ミストの粒径を考慮したシナリオポンプ式のスプレーを噴霧する場合、噴霧されたミストはそのスプレーの構造から通常粗大粒子とな ると考えられるため、本シナリオにおいては噴霧される粒子径を考慮する。 372 独立行政法人国民生活センターの報告※4 によると、芳香消臭剤のポンプ式スプレー3製品(ナノ銀粒 子は含有されていない。)のミストの平均粒子径は197.8μm であるとの報告があり、10μm 以下の微粒 子は容易に肺深部(肺胞)にまで到達するという報告根拠を考慮して、10μm 以下の粒子の割合も調査 した結果、ポンプ式スプレーでは10μm 以下の粒子の割合は0%であったと報告している。また、同じく国 民生活センターの報告 ※10によると、製品のタイプは異なるものの、虫除け剤のポンプ式スプレー4製品 のミストの平均粒子径は63.7μm であり、平均0.4%が10μm 以下の粒子径になっていると報告している※ 11 。 以上の報告を踏まえ、シナリオ2においてはミストの粒子径に着目し、以下の経路において抗菌・消臭 スプレーの使用者がナノ銀粒子にばく露する可能性があるとした。 表2 ばく露シナリオ2 基本(共通)条件 ・抗菌・消臭スプレーにはナノ銀粒子が20 ppm 含有。 ・室内5箇所※3に毎日噴霧する。 ・1箇所あたり2回噴射すると仮定(1日計10回)する。 ・ミスト噴射量は1000 mg/回※4(ナノ銀粒子20μg)とする。 ・室内体積をは18.5 m3 ※5 とする。 ※6 ・換気回数をは0.2回/h とする。 ・室内空気中に浮遊するナノ銀粒子の量は噴射量の1%(不確実性を考慮し虫除け剤の0.4%の約2倍の 値を採用)とする。 ・これらは10μm 以下の粒子となり、室内空気中にミスト(またはナノ銀粒子として)浮遊し続け、残り は一部が皮膚への付着や口に入る他は、対象物および対象物付近の床面等に沈降する。 ・ミストとして浮遊している使用量の1%以外は、対象物や対象物付近に沈降し、その後溶媒が揮発し、 ナノ銀粒子としてその場にとどまっているが、室内の空気の流れやヒトの活動によって床面や対象物 から移動等を繰り返し、最終的に全量が床面に移動する。 ・1週間に1回の清掃※12で全てのナノ銀粒子が除去される。 ・室内の床面に移動し、存在するナノ銀粒子の1週間の1日当たりの平均値は0.8 mg/day※13。 経路 各経路におけるばく露シナリオの各径路の内訳 吸入ばく露シナリオ 吸入 吸入 a)、吸入 b)の合計を吸入経路による暴露量とする。 (2つの経路を分けて考慮): 経路吸入 a)噴霧使用により室内空気中に浮遊するナノ銀粒子の吸入ばく露※15 373 経路吸入 b)対象物や対象物付近、床面から再飛散するナノ銀粒子の吸入ばく露※18 条件 吸入 a)、吸入 b)共通 ・噴霧した室内には、一日あたり18.7時間※7滞在するとする。 ・吸入により体内に取り込んだナノ銀は全て肺に到達することとする。 吸入 a) 噴霧により室内空気中に浮遊するナノ銀粒子の吸入ばく露 ・ ナノ銀粒子が含有されている室内用の抗菌・消臭スプレーを噴霧することで、噴射量の1% が室内空気中にミストとして(またはナノ銀粒子として)浮遊し、これを呼吸によって体内に取り 込む。 吸入により体内に取り込んだナノ銀は全て肺に到達することとする。 吸入 b)・対象物や対象物付近、床面から再飛散するナノ銀粒子の吸入ばく露 この室内に は、一日あたり18.7時間※7滞在するとする。 ・対象物や対象物付近に沈降したナノ銀粒子が室内の空気の流れやヒトの活動によって床面 や対象物から移動等により空気中に再飛散する。再飛散は、床面等からの定常放散であると 仮定し、床面からのナノ銀粒子の飛散率に粒子存在量を乗じることによって推定する。なお、 再飛散率については、米国環境保護庁(U.S.EPA)の9.9×10-7/hr※14を採用する。1週間のナノ 銀粒子の存在量の平均値0.8mg にこの飛散率を乗じると、床面からのナノ銀粒子の放散量 は、0.8mg×9.9×10-7/hr=7.9×10-7mg/hr となる。 経皮ばくシナリオ 経皮 a)、経皮 b)の合計を経皮経路による暴露量とする。 (2つの経路を分けて考慮): 経路経皮 a)噴霧時の付着による経皮ばく露 経路経皮 b)噴霧後の対象物や対象物付近、床面のナノ銀粒子への接触 条件 経皮 a)、経皮 b)共通 経皮 ・皮膚から体内への吸収率は、0.1%※9とする。 経皮 a)噴霧時の付着による経皮ばく露 ・ 噴霧時に噴霧したミストの1%※8が皮膚に付着すると仮定する。 経皮 b)噴霧後の対象物や対象物付近、床面のナノ銀粒子への接触 ・噴射後は、対象物や対象物付近に沈降しているナノ銀粒子に素手や素足で触れることによ り、ナノ銀粒子が皮膚に接触する事により経皮経路でナノ銀粒子にばく露する量を推定する。 このとき、対象物や対象物付近から床面に移動しているナノ銀粒子(1週間の平均値は、 0.8mg)の1%/day※14が皮膚に付着すると仮定する。なお、ここでの経皮ばく露は、噴射回数が 10回行われた後(基本(共通)条件)であることから、イベント発生回数は、1日1回とする。 ・ 皮膚から体内への吸収率は、0.1%※9とする。 374 経口ばくシナリオ 経口 a)、経口 b)の合計を経口経路による暴露量とする。(2つの経路を分けて考慮): 経路経口 a)噴霧時の経口ばく露 経路経口 b)噴霧後の対象物や対象物付近、床面のナノ銀粒子への接触したもののによる 経口摂取 条件 経口 経口 a)噴霧時の経口ばく露 ・噴霧時に噴霧したミストの1%が経口経路で摂取されると仮定する。 経口 b)噴霧後の対象物や対象物付近、床面のナノ銀粒子への接触による経口摂取 ・噴射後の状況は経皮と同じと仮定し、床面に移動しているナノ銀粒子(1週間の平均値は、 0.8mg)の1%/day が皮膚に付着すると仮定する。このナノ銀粒子が付着した手で食器や飲食 物に触れてしまうことや、習慣等で手やその他ナノ銀粒子が付着した部分を口に入れてしまう 事を考慮し、経皮ばく露で体内に吸収されなかった全ての吸着分を経口から摂取すると仮定 する。 1.3 ヒトへの推定ばく露量 ナノ銀粒子が含有された抗菌・消臭スプレー(室内用)の使用によって、室内に居住するヒトがナノ銀 粒子にばく露する量について推計する。 本ケーススタディで使用したヒトへの推定ばく露量(Estimated Human Exposure, EHE)の推計に用いて いるアルゴリズムや基本的なばく露係数(呼吸量や体重等)については、独立行政法人製品評価技術基 盤機構(NITE)の「GHS 表示のための消費者製品のリスク評価手法のガイダンス」(2008)※2を参照した。 1.3.1 ばく露シナリオ 1 ①吸入ばく露量※15 以下の条件で室内空気中のナノ銀粒子平均濃度を求め、それを用いて吸入ばく露量 EHE(inha)を推 計推算した(表3)。 表3 ばく露シナリオ1による吸入ばく露量の計算と結果 吸入ばく露 シナリオ 由来:ナノ銀粒子を含む 推算式 抗菌・消臭を目的とする (平均室内 家庭用ポンプ式スプレー 濃度) 使用による全噴射量の 推算式 吸入ばく露 (EHE) 375 推算のた 項 項名称 Ap 使用量 (mg/回) Wr 含有比含有率(20ppm) めの値 3 V 室内容積(m ) N 換気回数(回/h) t 滞在時間(h) Cat 平均室内濃度(mg/m3) Q 呼吸量(m3/h) a(inha) 体内吸収比吸収率 1000 採用値 0.00002 採用値(20ppm より) 18.500 採用値 0.200 採用値 18.7000 採用値 2.82×10-4 推算値(室内濃度) 0.833 採用値 1 採用値 1日あたりの噴射回数 n 10 採用値 (/day) BW EHE(inha) 体重(kg) 推定吸入ばく露推定量 (mg/kg/day) 備考(採用値、計算値等) 50.0 採用値 8.79×10-4 推算値(EHE) 1回噴射された室内において、居住者が滞在する18.7時間の平均室内濃度 Cat を以下の式により算出 すると、2.82×10-4mg/m3であった。 平均室内濃度 Cat を使用し、また、噴射回数 n(1日あたり10回)を考慮し、EHE(inha)を以下の式により 推計すると、8.79×10-4mg/m3と推算された。 ②経皮ばく露量※16 以下の条件で経皮ばく露量 EHE(derm)を推計推算した(表4)。 表4 ばく露シナリオ1による経皮ばく露量の計算と結果 由来:ナノ銀粒子を含む 経皮ばく露 抗菌・消臭を目的とする 家庭用ポンプ式スプレー シナリオ 噴霧時の付着による経 推算式 皮ばく露 (EHE) 推算のた 項 項名称 Ap 使用量 (mg/回) Wr 含有比(20ppm)率 Md 皮膚付着比付着率 0.01 採用値 a(derm) 体内吸収比吸収率 0.001 採用値 めの値 備考(採用値、計算値等) 1000 採用値 0.00002 採用値(20ppm より) 376 1日あたりの噴射回数 n 10 採用値 (/day) BW EHE(derm) 体重(kg) 50.0 採用値 推定経皮ばく露推定量 (mg/kg/day) 4.00×10-8 推算値(EHE) 経皮ばく露量 EHE(derm)は、4.00×10-8mg/m3と推算された。 ③経口ばく露量※17 以下の条件で経口ばく露量 EHE(oral)を推計推算した(表5)。 表5ばく露シナリオ1による経口ばく露量の計算と結果 由来:ナノ銀粒子を含む 経口ばく露 抗菌・消臭を目的とする 家庭用ポンプ式スプレー シナリオ 噴霧時の経口ばく露 項 項名称 Ap 使用量 (mg/回) Wr 含有比(20ppm)率 Mo 非意図的摂取比摂取率 a(oral) 体内吸収比吸収率 推算式 (EHE) 推算のた めの値 1000 採用値 0.00002 採用値(20ppm より) 0.01 採用値 1 採用値 1日あたりの噴射回数 n 10 採用値 (/day) BW EHE(oral) 体重(kg) 推定経口ばく露推定量 (mg/kg/day) 備考(採用値、計算値等) 50.0 採用値 4.00×10-5 推算値(EHE) 経口ばく露量 EHE(oral)は、製品中の化学物質重量(使用量 Ap×含有率 Wr)と非意図的摂取率 Mo か ら以下の式により推定すると、4.00×10-5mg/m3と推算された。 1.3.2 ばく露シナリオ 2 ①吸入ばく露量 以下の条件で以下の条件で吸入ばく露量 EHE(inha)を推算した(表6)。 ( シナリオ a)使用により室内空気中に浮遊するナノ銀粒子の吸入ばく露※15、シナリオ b)対象物や対象 物付近、床面から再飛散するナノ銀粒子の吸入ばく露※18)を推計し、総吸入ばく露量を推算した(表6)。 377 表6ばく露シナリオ2による吸入ばく露量の計算と結果 a)推算式 由来:ナノ銀粒子を含む抗菌・ 吸入ばく露 (噴霧によ 消臭を目的とする家庭用ポン りよる平均 プ式スプレー 室内濃度) a)推算式 (噴霧によ る平均室 内濃度)b) シナリオ吸入 a)使用により室 推算式放 内空気中に浮遊するナノ銀粒 散による 子の吸入ばく露※15 平均室内 シナリオ 濃度) シナリオ吸入 b)対象物や対象 物付近、床面から再飛散する b)推算式 放散によ ナノ銀粒子の吸入ばく露※18 る平均室 内濃度) 推算式 (EHE) 項 項名称 G 放散速度(mg/h) Ap 使用量 (mg/回) Wr R 含有比(20ppm 率) 空気中に浮遊す る浮遊比割合 V 室内容積(m3) N 換気回数(回/h) t 滞在時間(h) Cat Q a(inha) 平均室内濃度 (mg/m3) 呼吸量(m3/h) 体内吸収比吸収 率 経路吸入 a に関する値 経路吸入 b に関する 備考(採用値、計算値等) 値 7.90×10-7 採用値 1000 - 採用値 0.00002 - 採用値(20ppm より) 0.01 - 採用値 18.5 18.5 採用値 0.2 0.2 採用値 18.7 18.7 採用値 2.82×10-6 2.14×10-7 推算値(室内濃度) 0.833 0.833 採用値 1 1 採用値 378 1日あたりの噴射 n 回数(/day) BW 体重(kg) 推定吸入ばく露 EHE(inha) 1 採用値 50 50 採用値 8.79×10-6 6.65×10-8 推定量 計: 推算値(EHE)推算値(EHE) (mg/kg/day) EHE(Tinh) 10 8.86×10 -6 8.86×10-6 総吸入ばく露推定量 推算値(EHE) シナリオ吸入 a)において、室内空気中のナノ銀粒子平均濃度を求め、それを用いて吸入ばく露量 EHE(inha)を推計した。 1回噴射され、その噴射量の1%が空気中に浮遊する室内において、居住者が滞在する18.7時間の 平均室内濃度 Cat を計算すると、2.82×10-6mg/m3と推算された。 この平均室内濃度 Cat を使用し、また、噴射回数 n(1日あたり10回)を考慮した EHE(inha)は、8.79× 10-6mg/kg/day m3と推算された。 シナリオ吸入 b)において、室内空気中のナノ銀粒子平均濃度を求め、それを用いて吸入ばく露量 EHE(inha)を推計した。 10回噴射された室内において、放散速度 G(7.9×10-7mg/h)から平均室内濃度 Cat を計算すると、2.14 ×10-7mg/m3と推算された。 この平均室内濃度 Cat を使用して計算すると、EHE(inha)は、6.65×10-8mg/kg/day と推算された。 以上より、ナノ銀粒子としての総吸入ばく露量は、上記の吸入 a)+吸入 b)より8.86×10-6mg/kg/daym3 と推算された。 ②経皮ばく露量※16 以下の条件で経皮ばく露量 EHE(derm)を推算した(表7)。 以下の条件で経皮ばく露量 EHE(derm)( シナリオ a)噴霧時の付着による経皮ばく露 シナリオ b)噴霧後の対象物や対象物付近、床面のナノ銀粒子への接触)を推計し、総経皮ばく露量を 推算した(表7)。 表7 ばく露シナリオ2による経皮ばく露量の計算と結果 由来:ナノ銀粒子を含む抗菌・ 経皮ばく露 消臭を目的とする家庭用ポン プ式スプレー シナリオ経皮 a)噴霧時の付着 による経皮ばく露 シナリオ 経皮シナリオ bb)噴霧後の対 推算式 (EHE) 象物や対象物付近、床面のナ 379 ノ銀粒子への接触 項 経経皮路 a 項名称 Ap に関する値 使用量 (mg/回) 含有比(20ppm) Wr 率 経路経皮 b に関する 備考(採用値、計算値等) 値 1000 0.8 採用値 0.00002 1 採用値(20ppm より) Md 皮膚付着比率 0.01 0.01 採用値 a(derm) 体内吸収比率 0.001 0.001 採用値 10 1 採用値 50 50 採用値 1日あたりの噴射 n 回数(/day) BW 体重(kg) 推定経皮ばく露 EHE(derm) 1.60×10-7 推定量 推算値(EHE) (mg/kg/day) EHE(Tderm) 4.00×10-8 総経皮ばく露推 定量 計:2.00×10-7 2.00×10-7 推算値(EHE) シナリオ経皮 a)において、経皮ばく露量 EHE(derm)は、製品中の化学物質重量(使用量 Ap×含有率 Wr)と皮膚付着率 Md から計算すると、4.00×10-8mg/kg/day と推算された。 シナリオ経皮 b)において、経皮ばく露量 EHE(derm)は、製品中の化学物質重量(使用量 Ap×含有率 Wr)と皮膚付着率 Md から計算すると、1.60×10-7mg/kg/day と推算された。 以上より、ナノ銀粒子としての総経皮膚ばく露量は、上記の経皮 a)+経皮 b)より、2.00×10-7mg/kg/day と推算された。 ③経口ばく露量※17 以下の条件で経口ばく露量 EHE(oral)( シナリオ a)噴霧時の経口ばく露、シナリオ b)噴霧後の対象物 や対象物付近、床面のナノ銀粒子への接触したものの経口摂取)対象物や対象物付近、床面から再飛 散するナノ銀粒子の吸入ばく露※18)を推計し、総経口ばく露量を推算した(表8)。 表8 ばく露シナリオ2による経口ばく露量の計算と結果 由来:ナノ銀粒子を含む抗菌・ 経口ばく露 消臭を目的とする家庭用ポン プ式スプレー 380 シナリオ経口 a)噴霧時の経口 ばく露 シナリオ シナリオ経口 b)噴霧後の対象 物や対象物付近、床面のナノ 推算式 (EHE) 銀粒子への接触したもののに よる経口摂取 項 Ap Wr Mo a(oral) 項名称 使用量 (mg/回) 含有比(20 ppm) 率 非意図的摂取比 摂取率 体内吸収比吸収 率 1日あたりの噴射 n 回数(/day) BW 体重(kg) 推定経口ばく露 EHE(oral) 推定量 (mg/kg/day) EHE(Toral) 総経皮ばく露推 定量 経路経口 a に関する値 経路経口 b に関する 備考(採用値、計算値等) 値 1000 0.8 採用値 0.00002 1 採用値(20ppm より) 0.01 0.01 採用値 1 1 採用値 10 1 採用値 50 50 採用値 4.00×10-5 1.60×10-4 計:2.00×10-4 2.00×10-4 推算値(EHE) 推算値(EHE) シナリオ経口 a)において、経口ばく露量 EHE(oral)は、製品中の化学物質重量(使用量 Ap×含有率 Wr)と非意図的摂取率 Mo から計算し、4.00×10-5mg/kg/day と推算された。 シナリオ経口 b)において、②経皮ばく露量②の経皮 b)で皮膚に付着し、経皮経路で体内に吸収されな いナノ銀粒子の全てを経口から摂取するため、②経皮ばく露量②の経皮 b)の式を表8のように改良して 計算すると、1.60×10-4mg/kg/day と推算された。 以上より、ナノ銀粒子としての総経口ばく露量は、上記の経口 a)+経口 b)より、2.00×10-4mg/kg/day と推算された。 (3)ばく露シナリオ1と2のまとめ シナリオ毎、経路毎にばく露量を整理すると以下のようになる。 381 ばく露シナリオ. 吸入ばく露量 経皮ばく露量 経口ばく露量 合計ばく露量 EHE(inha) EHE(derm) EHE(oral) EHE(total) シナリオ 1 8.79×10-4 4.00×10-8 4.00×10-5 9.19×10-4 シナリオ 2 8.86×10-6 2.00×10-7 2.00×10-4 2.09×10-4 内訳 a) 8.79×10 内訳 -6 b) 6.67×10-8 内訳 a) 4.00×10 -8 b) 1.60×10-7 内訳 -5 a) 4.88×10-5 b) 1.60×10-4 b) 1.60×10-4 a) 4.00×10 単位:mg/kg/day 2. ナノ銀粒子に関する有害性評価 2.1 ナノ銀粒子に関する有害性情報 U.S.EPA は、連邦殺虫剤殺菌剤殺鼠剤法(FIFRA)に基づいて登録申請されたナノ銀粒子含有薬剤を 審査した結果を「Conditional Registration of HeiQ AGS-20 as a Materials Preservative in Textiles, December 1, 2011, EPA」として報告書にまとめ (U.S. EPA, 2011)、公表しており、本報告書において、ナ ノ銀粒子の NOAEL 等を検討した代表的な試験を以下に示す。追加記載部分を下線で示す。 吸入経路では、ラットにナノ銀粒子(平均粒子径18~19 nm:最小粒子径2 nm、最大粒子径65 nm)の 49、133、515μg/m3を13週間吸入ばく露させた試験で、雌雄ともに体重の変化、臓器重量の変化、血液 学的変化と生化学値の有意な変化がみられなかったが、高用量群で肺、脳及び嗅球において蓄積がみ られた(Sung et al., 2009)。U.S.EPA では肺への影響等から NOAEL を133μg/m3と提案している(EPA, 2011)。 経皮経路については、現時点では利用できる情報は得られていない(EPA, 2011)。 経口経路では、ラットに0.5%カルボキシメチルセルロースでに懸濁させたコーティングしたナノ銀粒子 (平均粒子径は、28日間反復投与で60 nm、90日間反復投与で56 nm)を28日間及び90日間反復投与し た試験で、いずれも肝臓等への影響から NOAEL は30 mg/kg/day であると報告されている(Kim et al., 2008; 2010)。また、マウスにナノ銀粒子(平均粒子径42 nm) 0、0.25、0.50、1.00 mg/kg を28日間反復投 与した試験で、最高用量群で肝臓や腎臓に対する臓器毒性と炎症反応等が認められたとの報告がある (Park et al., 2010)。よって、U.S.EPA では NOAEL は0.5 mg/kg/day であるとの Park らの報告から、経口 経路の NOAEL を保守的な値である0.5 mg/kg/day と提案している(U.S. EPA, 2011)。 2.2 本評価に用いる NOAEL ① 吸入経路 U.S.EPA の提案のとおり、NOAEL133μg/m3を採用する。この値を1日吸入摂取量に換算すると0.018 mg/kg/day なる。換算方法を以下に示す。 換算 NOAEL = 気中濃度上限値 × ラットの1日呼吸量 × 1日におけるばく露時間比率× 1週間に おけるばく露日比率 ÷ ラットの体重 382 = 133μg/m3 × 0.26 m3/day × 6 h /24 h × 5 day/7day ÷ 0.35 kg = 0.018 mg/kg/day ② 経皮経路 U.S.EPA の提案のとおり、NOAEL を0.5 mg/kg/day とする。 (ナノ銀の皮膚毒性に関して入手可能な亜慢性研究結果は無い。そのため、経口毒性実験結果の0.5 mg/kg/day を外挿することによって0.5 mg/kg/day を決めたと書かれている。) ③ 経口経路 U.S.EPA の提案のとおり、NOAEL を0.5 mg/kg/day とする。 2.3 本評価における不確実係数について ① 吸入経路 ヒトと実験動物との種差に係る不確実性について、ここでは一般的なヒトと実験動物との種差の不確 実係数10を採用する。次に、ヒトの集団で脆弱者が強い影響を受ける可能性がある個人差の不確実係 数10を採用する。また、NOAEL の根拠となっている試験が13週間の亜慢性試験であるので、これを慢性 試験の結果として考慮するためのばく露期間の外挿の係数を化学物質審査規制法に基づくスクリーニ ング評価で有害性評価値導出に用いている係数2※19を採用する。 以上より、ここでは不確実係数積(UFs)を200とする。 ② 経皮経路 ここでは一般的なヒトと実験動物との種差の不確実係数10を採用する。次に、ヒトの集団で脆弱者が 強い影響を受ける可能性がある個人差の不確実係数10を採用する。また、NOAEL の根拠となっている 試験が28日間の亜急性試験であるので、これを慢性試験の結果として考慮するためのばく露期間の外 挿の係数を化学物質審査規制法に基づくスクリーニング評価で有害性評価値導出に用いている係数6 を採用する。 以上より、ここでは不確実係数積(UFs)を600とする。 ③ 経口経路 ここでは一般的なヒトと実験動物との種差の不確実係数10を採用する。次に、ヒトの集団で脆弱者が 強い影響を受ける可能性がある個人差の不確実係数10を採用する。また、NOAEL の根拠となっている 試験が28日間の亜急性試験であるので、これを慢性試験の結果として考慮するためのばく露期間の外 挿の係数を化学物質審査規制法に基づくスクリーニング評価で有害性評価値導出に用いている係数6 を採用する。 以上より、ここでは不確実係数積(UFs)を600とする。 383 3. 抗菌消臭スプレー噴霧によるナノ銀粒子のリスク評価 3.1 ばく露マージン 3.1.1 ばく露シナリオ 1 ① 吸入ばく露経路 NOAEL 0.018 mg/kg/day に 対 し 、シ ナ リ オ 1 に おけ る 吸 入 ば く 露 量 ( EHE(inha) ) は 、 8.79×10-4 mg/kg/day であるので、MOE は次のとおり。 MOE = NOAEL/EHE(inha) = 0.018 mg/kg/day/8.79×10-4 mg/kg/day = 20 以上の結果、UFs200と比較すると、MOE 20は十分なマージンとは言えず、シナリオ1における吸入経 路でのナノ銀粒子へのばく露については、本ケーススタディの結果としてリスク懸念のをもたらす可能性 が示唆されるものの、考察に示したように本評価に係る留意点(過大評価の可能性)も併せて考慮する 必要がある。 ② 経皮経路 NOAEL 0.5 mg/kg/day に対し、シナリオ1にける経皮ばく露量(EHE(derm))は、4.00×10-8 mg/kg/day であるので、MOE は次のとおり。 MOE = NOAEL/EHE(derm) = 0.5 mg/kg/day/4.00×10-8 mg/kg/day = 12,500,000 以上の結果、UFs600と比較すると、MOE 12,500,000は十分に大きいため、シナリオ1における経皮経 路でのナノ銀粒子へのばく露については、本ケーススタディの結果としてリスク懸念のをもたらす可能性 は低いないことが示唆される。 ③ 経口経路 NOAEL 0.5 mg/kg/day に 対 し 、 シ ナ リ オ 1 に お け る 経 口 ば く 露 量 ( EHE(oral) ) は 、 4.00×10-8 mg/kg/day であるので、MOE は次のとおり。 MOE = NOAEL/EHE(oral) = 0.5 mg/kg/day/4.00×10-5 mg/kg/day = 12,500 以上の結果、UFs600と比較すると、MOE 12,500は十分に大きいため、シナリオ1における経口経路で のナノ銀粒子へのばく露については、本ケーススタディの結果としてリスク懸念のをもたらす可能性は低 いないことが示唆される。 3.1.2 ばく露シナリオ 2 ① 吸入ばく露経路 NOAEL 0.018 mg/kg/day に 対 し 、シ ナ リ オ 2 に おけ る 吸 入 ば く 露 量 ( EHE(inha) ) は 、 8.79×10-4 mg/kg/day であるので、MOE は次のとおり。 384 MOE = NOAEL/EHE(inha) = 0.018 mg/kg/day/8.86×10-6 mg/kg/day = 2032 以上の結果、UFs 200と比較すると、MOE 2,032は1桁以上大きいため、シナリオ2における吸入経路で のナノ銀粒子へのばく露については、本ケーススタディの結果としてリスク懸念のをもたらす可能性は低 いないことが示唆される。 ② 経皮経路 NOAEL 0.5 mg/kg/day に 対 し 、 シ ナ リ オ 2 に お け る 経 皮 ば く 露 量 ( EHE(derm) ) は 、 2.00×10-7 mg/kg/day であるので、MOE は次のとおり。 MOE = NOAEL/EHE(derm) = 0.5 mg/kg/day/2.00×10-7 mg/kg/day = 2,500,000 以上の結果、UFs 600と比較すると、MOE 2,500,000は十分に大きいため、シナリオ2における経皮経 路でのナノ銀粒子へのばく露については、本ケーススタディの結果としてリスク懸念のをもたらす可能性 は低いないことが示唆される。 ③ 経口経路 NOAEL 0.5 mg/kg/day に対し、シナリオ2における経口ばく露量(EHE(oral))は、2.00×10-4 mg/kg/day であるので、MOE は次のとおり。 MOE = NOAEL/EHE(oral) = 0.5 mg/kg/day/2.00×10-4 mg/kg/day = 2,500 以上の結果、UFs 600と比較すると、MOE 2,500は4倍以上大きいため、シナリオ2における経口経路で のナノ銀粒子へのばく露については、本ケーススタディの結果としてリスク懸念のをもたらす可能性は低 いないことが示唆される。 3.2 リスク評価結果 表10に示すように、全経路のばく露量に対する MOE は、 シナリオ1の吸入ばく露を除き、UFs より大 きかった。シナリオ1のにおいて、吸入ばく露を除き、消費者の健康に対してリスクをもたらす可能性は 低いと考えられる。吸入ばく露により悪影響を及ぼす事は無いと判断された。 シナリオ1の吸入ばく露の MOE は、UFs より小さく、リスク懸念のをもたらす可能性が示唆されるもの の、考察に示したように本評価に係る留意点(過大評価の可能性)も併せて考慮する必要がある。 385 ばく露シナ リオ シナリオ1 シナリオ2 (総和) 表10 ばく露シナリオ1と2によるヒト健康に対するリスク評価結果 摂取 EHE NOAEL MOE UFs 経路 (mg/kg/day) (mg/kg/day) 吸入 8.79×10-4 0.018 20 200 経皮 4.00×10-8 0.5 12,500,000 600 経口 4.00×10 -5 0.5 12,500 600 吸入 8.86×10-6 0.018 2,0302 200 経皮 2.00×10 -7 0.5 2,500,000 600 2.00×10 -4 0.5 2,500 600 経口 MOE<UFs ○* ○*:リスク懸念のをもたらす可能性 4. 考察 (1) シナリオの設定について 本ケーススタディは、評価対象製品であるポンプ式スプレーの構造的特徴や噴霧におけるナノ銀粒子 の性状や挙動等について不明な点が多く、極端な仮定が設定されている可能性がある。 本来、ナノ銀粒子は対象物質に付着し抗菌・消臭効果を発揮すると考えられる。しかしながら、シナリ オ1では、ナノ銀粒子を含むポンプ式スプレーの噴霧時の液滴やミストの挙動及びナノ銀粒子の浮遊状 況の直接的な情報が得られなかったため、全ナノ銀粒子が空気中に浮遊することを仮定している。この ため、製品の機能が発揮されないシナリオとなっている可能性が高く、製品を考えた場合に過大評価と なっている可能性が高い点に注意が必要である。 また、シナリオ2では、ポンプ式スプレーに関する既存の情報を利用し、製品の噴霧時の液滴やミスト の挙動といった製品構造の特徴を踏まえたシナリオを仮定している。しかし、同様の製品構造から得ら れた情報に安全性(不確実性)を加味したシナリオを仮定していることから、本シナリオにおいても過大 評価となっている可能性があることに注意が必要である。 (2) 予見可能な誤使用について 製品の安全性を評価するには、予見可能な誤使用を十分に考慮する必要がある。本ケーススタディ においては、ばく露量の算出に用いるばく露係数を各種調査の結果等を活用し、その90パーセンタイル 値(または、10パーセンタイル値)や最大値を採用して設定した。しかし、用いた調査は本対象製品の使 用状況に限った結果ではないため、本製品と異なる使用方法が含まれた値を採用していることに注意が 必要である。また、これらの係数は予見可能な誤使用を考慮するがために、一般的な使用よりは過剰な 状況の値からばく露量を算出しているため、場合によっては予見可能な誤使用からかけ離れた使用状 況までを含む評価結果となっている可能性が考えられ、この点においても注意が必要である。 本ケーススタディにおいて設定したシナリオは、過大評価の可能性が考えられるため、製品の適正使 用を心がけることでさらにリスクが低減されることが予想される。 (3) 毒性情報・キャラクタリゼーションについて 対象製品の抗菌・消臭スプレーに含まれるナノ銀の直接的な毒性情報がないため、EPA の報告書に 386 ある毒性情報を参考にしているが、両製品の毒性情報が同じである根拠はない。また、ポンプ中のナノ 銀粒子や噴霧後のナノ銀粒子のキャラクタリゼーションの情報がないこと、また挙動も分かっていないこ とに留意する必要がある。さらに、ナノ銀と銀イオンが区別できていない中でのリスクのケーススタディで あることにも留意が必要である。 5. 文献 Kim, Y.S., Kim, J.S., Cho, H.S., et al. (2008) Twenty-Eight-Day Oral Toxicity, Genotoxicity, and Gender-Related Tissue Distribution of Silver Nanoparticles in Sprague-Dawley Rats. Inhalation Toxicology, 20, 575-583. Kim, Y.S., Song, M.Y., Park, J.D., et al. (2010) Subchronic Oral Toxicity of Silver Nanoparticles. Particle and Fibre Toxicology, 7, 20. Park, E.J., Bae, E., Yi, J., et al. (2010) Repeated-Dose Toxicity and Inflammatory Responses in Mice by Oral Administration of Silver Nanoparticles. Environ. Toxicol. Pharm., 30, 162-168. http://cms.kw.ac.kr/efn/pdf/80.pdf Sung, J.H., Ji, J.H. Park, J. D., et al. (2009) Subchronic Inhalation Toxicity of Silver Nanoparticles. Toxicological Sciences. 108, 452-61. (MRID 477575-05) U.S. EPA (2011) Conditional Registration of HeiQ AGS-20 as a Materials Preservative in Textiles, December 1. 387 文末脚注 ※1 ポンプ式スプレー:噴射剤を含まない手動噴霧の霧吹きタイプのもの。エアゾールタイプスプレーと は異なる。 ※2 予見可能な誤使用については、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)の「GHS 表示のため の消費者製品のリスク評価手法のガイダンス」(2008)等で考え方・評価法が示されている。ガイダン スおよび付属書は、以下の Web サイトで公開されている。 http://www.safe.nite.go.jp/ghs/risk_consumer.html ※3 独立行政法人産業技術総合研究所(AIST)が独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機 構(NEDO)と締結した「化学物質の最適管理をめざすリスクトレードオフ解析手法の開発」プロジェクト にて、AIST と NITE(再委託先)が実施した室内ばく露にかかわる生活・行動パターン情報調査(以下 「生活行動パターン調査」という。)によると、ポンプ式スプレータイプの消臭芳香剤の使用者において、 最も滞在時間が長いと考えられる寝室内での使用回数の最大値が5回/日であることに基づいている。 ここで、最大値を採用した理由として、ポンプ式スプレータイプ製品の使用者数が106人と少ないことで、 予見可能な誤使用を十分考慮出来ていない可能性があることから、ここでは最大値を採用することと した(予見可能な誤使用を考慮すると90パーセンタイル値や95パーセンタイル値が採用されることが 多い。)。なお、本データは、近日中に NITE の Web サイトより公開される予定である。 http://www.safe.nite.go.jp/risk/pdf/exp_2_11_1.pdf (寝室) http://www.safe.nite.go.jp/risk/pdf/exp_2_11_2.pdf (居室) ※4 スプレータイプの消臭剤の商品テスト結果 (http://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20010606_1.html)によると、消臭剤のポンプ式スプレーの1 回当たりの使用量のうち、最も多いのが約0.5g であると報告されている。しかし、ここでは、製品タイプ が限定できないことと、3製品の結果だけであることを考慮し、2倍の1g/回の値を採用することとした。 ※5 生活行動パターン調査によると、寝室の面積の10パーセンタイル値である8.8m2であること、また、 建築基準法において、床面から天井までの高さの最低値が2.1m とされていることからこれらを乗じて 算出した。なお、寝室の面積等のデータは、近日中に NITE の Web サイトより公開される予定である。 http://www.safe.nite.go.jp/risk/pdf/exp_1_2_1.pdf ※6 平成15年の建築基準法改正において、換気回数が0.5回/h となるよう換気装置の設置が義務づけ られているが、平成15年以前に建てられた住宅も考慮する必要があることから、三原ら(日本環境管 理学会誌,2004,52,166-169)の調査結果より、測定法別の換気回数の各最小値を平均した値を採 用することとした。 ※7 生活行動パターン調査によると、居室と寝室が同じとなる(区別がない)1Room タイプや1K タイプの 388 室内において、女性の滞在時間の90パーセンタイル値が平日17.0時間、休日23.0時間であることから、 これを平日5日、休日2日として加重平均した値。なお、本データは、近日中に NITE の Web サイトより 公開される予定である。 http://www.safe.nite.go.jp/risk/pdf/exp_1_2_2.pdf ※8 Hansen et al., Categorization framework to aid exposure assessment of nanomaterials in consumer products, Ecotoxicology Volume 17, Number 5, 438-447では1%の値が採用されている。なお、この値 は厚生労働省のナノマテリアル安全対策調査事業報告書においても採用されている。 ※9 米国環境保護庁(U.S.EPA)の Conditional Registration of HeiQ AGS-20 as a Materials Preservative in Textiles, December 1, 2011において、経皮吸収率についてはヒトの臨床情報から十分な吸収率とし て0.1%と提案されていることから、ここでは0.1%を経皮吸収率として採用している。なお、報告書は以下 の URL よりダウンロードすることが可能である。 http://www.regulations.gov/contentStreamer?objectId=0900006480f787d3&disposition=attachment &contentType=pdf ※10 虫よけ剤-子供への使用について- http://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20050603_1.html ※11 国民生活センターの報告以外の情報として、Hagendorfer ら(2010)は、工業ナノ粒子を含むポンプ 式スプレーにおいて、測定可能なナノ粒子の放出を示さなかったと報告している。 Harald Hagendorfer, Christiane Lorenz, Ralf Kaegi, Brian Sinnet, Robert Gehrig, Natalie V. Goetz, Martin Scheringer, Christian Ludwig, Andrea Ulrich, Size-fractionated characterization and quantification of nanoparticle release rates from a consumer spray product containing engineered nanoparticles, J Nanopart Res (2010) 12:2481–2494 ※12 生活行動パターン調査によると、洗剤・化学ぞうきん等を用いた部屋掃除の頻度の10パーセンタ イル値は0.3回/週とあるが、これには水拭きのみである場合や、掃き掃除や掃除機等を使用した清掃 は含まれていない。そのため、最頻値(mode)である1.0回/週を採用する事とした。 http://www.safe.nite.go.jp/risk/pdf/exp_3_2.pdf ※13 1日目:0.2mg、2日目:0.4mg、・・・、7日目:1.4mg を平均したもの。なお、②~④に示すシナリオにお いて、吸入で1%、経皮・経口で各1%の計3%は対象物や対象物付近に沈降せずに摂取等されるが、こ れらは全体に対しては微量であるため、考慮していない。 ※14 厚生労働省のナノマテリアル安全対策調査事業報告書において、カーペットに付着させたナノマテ リアルが剥離した場合のばく露量の推算において、Exposure Factors Handbook(U.S.EPA)のカーペッ 389 トからの0.3~0.5μm の粒子の飛散率の値を採用していることから、同様にこの値を採用する。ただし、 ナノ粒子の定義より粒子が大きいことに注意が必要である。必要に応じて、再飛散率を10倍するなど 検討が必要である。 また、噴射後の床面等からの皮膚に付着する量については、同報告書において、カーペットの繊維に 含まれる粒子が剥離・飛散し、その一定量を※8の Hansen らの文献を参考に1%/day が皮膚に付着 するものとして経皮ばく露量を算出していることから、この値を採用する。 ※15 ここでは、NITE のガイダンスに従い、「瞬間蒸発モード:単調減少」を採用する。この「瞬間蒸発モ ード:単調減少」の特徴は、製品を使用した空間内に化学物質が全て拡散したと仮定し、使用した化 学物質重量と空間体積より算出する。このとき、製品からの放散は瞬間的に終了している(つまり、噴 霧は瞬時に終了し、それ以上製品から放散とは無い状況。)。よって、空間に存在する当該化学物質 重量が、時間 t において、換気により減少した濃度を表す。製品の使用時間が全ばく露時間に対し極 端に短く、使用後に放散がない製品の場合に適用可能である。 Conc. 換気あり 単調減少 Time 濃度と時間のイメージ ※16 ここでは、NITE のガイダンスに従い、「使用した一部が皮膚に付着(一定比率付着)することによる 経皮ばく露」を採用する。この「使用した一部が皮膚に付着(一定比率付着)することによる経皮ばく露」 の特徴は、製品の使用の際に、使用した一部が皮膚に付着してしまった場合等の経皮ばく露を考慮 する。皮膚に付着した割合を皮膚付着率 Md として仮定し、使用した製品中の化学物質重量(Ap×Wr) に皮膚付着率 Md を掛けて重量を算出したうえで経皮ばく露量を算出する。 ※17 ここでは、NITE のガイダンスに従い、「口に入れる可能性がある製品の非意図的摂取」採用する。 この「口に入れる可能性がある製品の非意図的摂取」の特徴は、本来製品を口に入れることを想定し ていないが、習慣等により製品を口に入れる可能性が考えられる。このような、非意図的に摂取してし まう可能性がある場合に適用する。イベントあたり口中に残留する割合である非意図的摂取率 Mo を 仮定して経口ばく露量を算出する。 ※18 ここでは、NITE のガイダンスに従い、「定常放散モード」を採用する。この「定常放散モード」の特徴 は、製品の使用時間が長く、一定の放散速度を持つ製品の場合、製品からの放散速度を用いてばく 露量を推算する。空気中濃度 Ca は、時間とともに変化しない。ここでは、空気中濃度 Ca は、化学物質 の放散による濃度増加と、空間へ外気の流入および空間外への空気の流出による濃度減少が平衡 390 状態となり、空気中濃度 Ca が一定となっている。空気中濃度 Ca に濃度変化がないため、ばく露期間 中の平均空気中濃度 Cat は、Ca と同じである。そのため、吸入ばく露量は、ばく露期間中の平均空気 中濃度 Cat、呼吸量 Q 及びばく露時間 t の積から求める。ただし、製品の使用時間が短く、一定濃度 に達するまでに使用が終了すると考えられる場合は、「定常放散モード」を使用すると過大評価となる 可能性がある。 アルゴリズムは、以下の図のように定常放散のマスバランスを考慮することにより求められる。 空間体積 化学物質濃度 換気回数 外気の流入 v (m3/h) V (m3) Ca (mg/m3) N (1/h) N=v/V → v=N×V 空間外への空気流出 v (m3/h) 放散源 放散速度 G (mg/h) 化学物質のマスバランス 空間内への放散速度:G 空間外へ流出速度:v×Ca 空間内への放散と空間外への流出が平衡な状態:G=v×Ca 以上より、Ca=G/v=G/(N×V) 定常放散モードにおける空気中濃度の移動イメージとアルゴリズム ※19 化審法におけるスクリーニング評価手法および不確実性係数については、「化審法におけるスクリ ーニング評価手法」(2011)等を参照のこと。 http://www.meti.go.jp/policy/chemical_management/kasinhou/files/information/ra/screening.pdf 391