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建設工事事故防止重点対策の フォローアップ調査と 今後の対策に向けて!

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建設工事事故防止重点対策の フォローアップ調査と 今後の対策に向けて!
建設工事事故防止重点対策の
フォローアップ調査と
今後の対策に向けて!
(前)
国土交通省大臣官房技術調査課
課長補佐
た なか
もとひろ
田中
基裕
※本企画は
フォローアップ調査とその検討
結果(つづき)
3
1.
前編/はじめに
事故防止の検討について
フォローアップ調査とその検討結果
!
!
法面からの死傷者数等は減少傾向にあるものの
足場墜落事故のフォローアップ調
顕著な差となっていません(表―7,図―26,
査
"
交通事故(もらい事故防止)防止
27)。法面工事は同一の現場条件で施工できるこ
工のフォローアップ調査
とは稀で,親綱・安全帯・チェックリストの確実
2.
後編/フォローアップ調査とその検討結果
#
な実施など基本の徹底と法面現場での適応性を高
法面墜落事故のフォローアップ調
めることが必要と考えられます。さらに,今回の
査
$
法面墜落事故のフォローアップ調査
検討で優位な差(資格保有者の有無による工事成
その他の重点対策
績評定の比較(図―28))となっていませんが,
工種別(橋梁工事)事故防止対策
効果的な教育や資格を持つ技術者の活用を図って
事故損失調査
いくことが有効ではないかと考えています。
ヒューマンエラー対策
昇降設備の設置率は高くなっていますが,一般
おわりに
の法面では低くなっていますが,法面の状況によ
の2部構成になっており,前編は6月号で,後編
って設置の有無が適切に判断されている必要があ
は7月号にて掲載しております。
ります(図―29)。また,親綱計画は現場作業ま
表―7
で に84.
0%(図―30),チ ェ ッ
法面墜落事故の推移
合計
クリストは時々使用するも含め
4,
4
8
5
て83.
4%が使用されており(図
2
1
8,
3
7
62
5
3,
2
4
31
9
8,
4
4
91
8
4,
5
4
58
5
4,
6
1
3
―31),今後は,効果的な使用
H1
2年度 H1
3年度 H1
4年度 H1
5年度
!工事件数
1,
2
2
2
"工事金額(百万円)
1,
1
5
3
1,
1
0
5
1,
0
0
5
#死傷者数
5
5
4
4
1
8
$死亡者数
1
1
0
1
3
%死傷者数(1,
0
0
0件当たり)
/!
%=(#×1,
0
0
0)
4.
0
9
4.
3
4
3.
6
2
3.
9
8
4.
0
1
&死傷者数(1,
0
0
0億円当たり)
&=(#×1
0,
0
0
0)
/"
2.
2
9
1.
9
7
2.
0
2
2.
1
7
2.
1
1
4
4
建設マネジメント技術
方法の確認が必要と考えていま
す。
今後の法面墜落事故防止の対
2005 年 7 月号
応は,法面の事故原因は多岐に
3,000
30
2,500
25
工 2,000
事
件 1,500
数 1,000
20
1,153
1,105
1,005
4.09
4.34
3.62
3.98
H12年度
H13年度
H14年度
H15年度
500
0
15
1,222
工事件数
10
5
0
工
事
1
死0
傷0
者0
数件
当
た
り
の
死傷者数(1,000件当たり)
図―26 法面墜落事故による死傷者数の推移(工事件数比)
工
事
金
額
︵
千
億
円
︶
10
10
8
8
6
6
4
2.29
1.97
2.02
2.17
2.18
2.53
1.98
1.85
H12年度
H13年度
H14年度
H15年度
2
0
工事金額(千億円)
4
2
0
1
0
0
死0
傷億
者円
数当
た
り
の
死傷者数(1,000億円当たり)
図―27 法面墜落事故による死傷者数の推移(工事金額比)
合
計
評
定
点
100
80
60
40
20
0
76.33
73.13
10.25
75.94
10.70
75.71
11.10
8.56
8.49
7.68
8.45
11.15
元請・有, 元請・有, 元請・無, 元請・無,
下請・有 下請・無 下請・有 下請・無
(計64件) (9件) (7件) (15件) (33件)
工事成績評定点
安全対策
20
16
12
8
4
0
細
目
評
定
点
品 質
図―28 法面施工技術者の配置有無による工事成績評定の比較
(すべての法面)
100
80
件 60
数 40
20
0
83.3%
72.5%
59.3%
29
5 1
大規模
70.7%
58
88.9%
11
特殊
16 11
1
大規模
かつ特殊 その他
大規模又また特殊法面
設置している
24
8
法面
設置していない
100
80
60
40
20
0
設
置
率
︵
%
︶
全体
設置率
図―29 昇降設備の設置状況(法面特性別)
作成していない
16.0%
全体の施
工計画時
34.6%
法面作業
開始まで
49.4%
図―30 親綱設備計画の作成時期
活用していない
6.6%
時々活用
している
5.3%
活用して
いる
88.1%
図―31 親綱点検チェックリスト
の活用状況
建設マネジメント技術
2005 年 7 月号 4
5
法面墜落事故の推移
重点対策の取り組み状況
! 現場への「のり面施工管理技術者」の配置に
よって,工事成績評定点に大きな差異は見られ
ないが,施工者が自らの安全監理として重要で
あることから,関係機関による資格取得推奨の
継続的な働きかけに委ねる。
" 「のり面施工管理技術者」資格は,毎年一定
数の受験者があり,法面施工技術の向上に努め
ていることがうかがえる。
! 大規模または特殊法面における昇降設備の設
置状況は高い。
" 親綱施工計画は,全体の施工計画時に作成さ
れており,法面作業開始時に,現場変化に応じ
た修正等を加えている。
# 親綱点検時のチェックリストは,ほとんどの
現場で活用されている。
$ 「のり面施工管理技術者」資格は,C ランク
や下請での奨励状況が高い。
(A ランク,B ランクは,法面工事を外注する)
法面からの墜落事故防止に関する今後の対応方針(案)
【のり面施工管理技術者】
《資格の活用》
●「のり面施工管理技術者」の現場配置によって,工事成績評定点に大きな
差となっていないが,資格取得の推進による安全・品質管理に対する効果
が期待できる。施工者が自らの技術力向上に資するため,積極的に資格取
得を活用することが望まれることから,もう少しデータを分析する。
【昇降整備の設置】
●大規模または特殊法面への昇降設備の設置は,おおむね各現場に浸透して
いるが,必要に応じて,各施工者の安全対策の一環として,昇降設備の設
置が望まれる。
【親綱設備計画,親綱点検時のチェックリスト活用】
●親綱設備計画の作成と親綱点検時のチェックリストの活用は,おおむね各
現場に浸透しており,今後は,効果的な実施が図られるように検討する。
図―3
2 法面からの墜落事故防止に関する今後の対応方針
わたることから,基本事項の遵守が大切で,そ
の意味からも法面資格を有する技術者の関与・
効果について,さらに検証し,資格や技術者の
H14年度
25.8
51.6
22.6
有効活用について確認したいと考えています。
また,昇降設備について,安全確保を踏まえ,
H15年度
0
法面の形態に応じて適切に設置されていること
62.0
20
実施している
を確認する必要があると考えています。さら
36.1
40
60
1.8
80
実施していない
100
(%)
その他
図―33 ステッカー運動の実施状況
(年度別)
に,親綱計画やチェックリストが効果的に活用
されるよう検証したいと考えています(図―
今後は教育と組み合わせた効果的な実施方法の
3
2)
。
! その他の重点対策
検討を行うものと考えています。
! 重機事故対策について
また,重機事故防止の有効な対策として,この
重機事故の対策として,平成1
4年度よりステッ
後のヒューマンエラーの項目で紹介しますが,平
カー運動を実施してきており,平成1
5年度と16年
成17年度には,双方向の非接触型センサーによる
度を比較したところ,実施率は上昇しています
危険警告設備によるモデル工事の試行を検討して
が,
実施していない率も上昇しています
(図―33,
いるところです。
3
4)
。これは,重機に張ったシールは慣れてしま
"
飛来落下事故対策について
うとマンネリ化してしまい,実施効果が見えにく
飛来落下事故防止として実施してきたクレーン
いことから,熱心な取り組みになっていないこと
付きバックホウの使用については,すでに普及し
によるものと考えられます。
ているが64.
6%(図―35)で,リースなどでは同
4
6
建設マネジメント技術
2005 年 7 月号
Aランク
H
Bランク
14年度
Cランク
Aランク
H
Bランク
15年度
Cランク
0
55.8
26.9
65.4
17.3
19.2
26.9
48.1
25.0
75.0
25.0
63.0
ごく一部で
普及している
25.0%
37.0
42.5
54.8
20
40
実施している
60
2.7
80
実施していない
時々はやむ
を得ない
23.5%
緊急時以外
は使用すべき
ではない
72.7%
利益のため
にはやむを
得ない
2.7%
図―36 バックホウの用途外使用
すでに普及
している
64.6%
100
(%)
その他
図―35 クレーン付きバックホウの
普及状況
図―34 ステッカー運動の実施状況
(年度別・会社ランク別)
事故を起こさな
ければ構わない
1.1%
その他
4.3%
まだ普及し
ていない
6.1%
15.4
Aランク
63.4
Bランク
19.5
60.0
Cランク
15.1
21.7
49.3
0
17.1
20
40
導入している
18.3
35.6
60
80
導入を検討中
100
(%)
導入予定なし
図―37 建設労働安全衛生マネジメントシステムの導入状況
(会社ランク別)
機能付きの機種を選定する傾向にあり用途
外に使用しないとの意識も強いことから
(図―3
6),今後は,各施工者の安全活動に
包含することと考えています。
! 建設労働安全衛生マネジメントについ
50
40
れ,6
3.
4%,19.
5%と 高 く な っ て い ま す
(図―3
7)。実施効果としては,有害・危険
個所の推定,安全意識の向上といったメリ
ットが挙げられています(図―3
8)
。しか
32
30
0
21
有害・危険 安全意識 事故回避ノウ
個所の推定 の向上
ハウの蓄積
50
40
トを実施している企業と実施していない企
業について工事成績評定の比較を実施しま
し た。そ の 結 果,工 事 成 績 で3.
4
5点(う
ち,安全対策0.
69点,品質関係0.
3
8点)と
0
回答率
100
80
48.6%
件 30
数 20
17
0
文書化が
手間
25.7%
13
9
手順どおりの 危険・有害要因
運用が難しい の特定が難しい
件数
回
答
率
︵
%
︶
60
37.1%
27
10
40
20
0
その他
回答率
図―39 建設労働安全衛生マネジメントシステムの
運用時課題
た理由によるものとなっています(図―
今年度は,建設労働安全衛生マネジメン
20
その他
77.1%
に留まっている状況です。これは,文書化
3
9)
。
40
図―38 建設労働安全衛生マネジメントシステムの
導入効果
し,C ランクの会社では,1
5.
1%,4
9.
3%
が手間,手順どおりの運用が難しいといっ
19.5%
8
件数
回
答
率
︵
%
︶
60
10
建設労働安全衛生マネジメントシステム
っ て お り,A ラ ン ク の 会 社 で は そ れ ぞ
80
51.2%
件 30
数 20
て
は,導入済み2
8.
9%,導入検討4
1.
0%とな
100
78.0%
73.2%
合
計
評
定
点
100
80
60
40
20
0
78.90
11.66
75.45
8.61
8.23
導入済み
未導入(導入予定)
工事成績評定点
10.97
安全対策
20
16
12
8
4
0
細
目
評
定
点
品質
図―40 建設労働安全衛生マネジメントシステムの導入と
工事成績評定の関係
いった優位な差がありました(図―4
0)
。
建設マネジメント技術
2005 年 7 月号 4
7
実施していない
18.4%
Aランク
60.5
Bランク
会社・現場の
両方で導入
16.0%
現場単位で導入
3.7%
会社単位
で導入
62.0%
58.3
0
20
会社単位で導入
40
現場単位で導入
3.7
7.4
2.8
60
2.3
34.9
77.8
Cランク
図―41 表彰制度の実施状況
2.3
9.7
11.1
29.2
80
会社・現場の両方で導入
100
(%)
実施していない
図―42 表彰制度の実施状況(会社ランク別)
これは,建設労働安全衛生マネジメントが,今後
く創意工夫も織り込んで自発的意欲により事故防
の事故防止等に有効なツールと考えられ,関係団
止を図ることも重要なことから,施工者の継続的
体と小さな現場でも,段階ごとに導入できる取り
な実施を望みたいと考えています。
組みやすいシステムの開発を依頼し調整している
"
その他の重点対策のまとめ
重機事故防止のステッカー運動は,マンネリ化
ところです。
! 表彰制度について
をなくすために強化月間,朝礼時での確認など,
表彰制度は何らかの形で実施しており8
1.
7%に
安全教育と相乗的に実施していく必要があると考
達し,特に,会社の規模が大きいほど実施率が高
えています。また,ヒューマンエラーの項目で述
くなっています。現場において禁止行為だけでな
べる非接触型センサーによる危険警告設備による
重点対策の推移,効果
重点対策の取り組み状況
ステッカー運動の取り組み率は向上しない状況
バックホウの用途外使用による飛来落下事故は,重
点対策施行後,直轄工事では5件に留まっている。
# マネジメントシステム導入によって,工事成績評定
点の総合点,安全対策,品質が向上することが確認で
きた。
$ 表彰制度の実施は,事故防止意欲の向上に役立って
いる。
【重機事故】
○ステッカー運動の取り組みは実施している現場と取り
組み認識の低い現場がある。
【飛来落下事故】
○クレーン機能付きバックホウの普及率は高まっている
とともに,用途外使用に対して否定的な認識となって
いる。
【各種事故共通】
《マネジメントシステム》
! マネジメントシステム導入による効果は,認識され
ているが,導入状況は高くない。
" その要因として,C ランク企業などで「内容を理解
できない」との意見が多い。
《表彰制度》
○表彰制度は,実施率が高い。また,ランクの大きい会
社の方が高い。
!
"
重機事故,飛来落下事故,各種事故共通の今後の対応方針(案)
【重機事故防止について】
●ステッカー運動は実施率が低いため,ステッカー運動の強化月間の実施,朝礼等における訓話等でステッカー運動の意識向上
を図るなど,安全教育面との複合実施による事故防止を検討する。
●ヒューマンエラーと併せて,平成1
7年度に非接触型センサーによる危険警告設備によるモデル工事の試行を検討
【飛来落下事故について】
●クレーン機能付きバックホウの普及率や用途外使用に対する認識は高く,ならびに直轄工事では事故件数も少ないため,今後
は,各施工者の安全活動に内包してもらうこととする。
【各種事故共通】
●建設業労働安全衛生マネジメントシステムは,導入によって工事目的物の品質向上が見込めることから,今後も,関係実施機
関と調整した上で,規模の小さい企業でも導入可能な運用方法を検討する。
●表彰制度は,会社単位あるいは現場単位での実施率は高く,今後は,施工者自らの継続的な実施が望まれる。
図―4
3 その他の重点対策の今後の対応方針
4
8
建設マネジメント技術
2005 年 7 月号
方法との関係についても確認し
たいと考えています。
飛来落下事故防止のクレーン
機能付きバックホウについては
一定の浸透が図られていること
比
率
︵
%
︶
から,今後は請負者の安全活動
に内包してもらうものと考えて
います。
建設労働安全衛生マネジメン
70
60
50
40
30
20
10
0
橋建協
(10年間データ:335件)
PC建協
(4年間データ:122件)
事故データベース
(5年間データ:189件)
墜
落
・
転
落
飛
来
・
落
下
倒
壊
・
崩
壊
激
突
・
激
突
さ
れ
トについては,事故防止や工事
の品質確保の効果が期待できる
挟
ま
れ
・
巻
き
込
ま
れ
事故の要素
ことから,大きな会社だけでな
交
通
事
故
そ
の
他
︵
転
落
等
︶
複数回答あり
図―44 橋梁工事の事故要素
く中小の会社が段階的にレベル
アップする,導入しやすいシス
テムを関係機関から提案しても
らうよう調整を進めたいと考え
ています。
表彰制度は浸透しています
【時間的・空間的変化】
【主な発生事例】
作業進捗に伴う
作業環境の変化
・枠組み足場の交差筋交いが外されていた
ため通常は使用しない渡り板から墜落
・荷取作業のために開口部の手すりを取り
外しており,開口部から墜落
自然環境の変化
・橋台背面の型枠解体中に土砂が崩壊
・集中豪雨による増水で登坂台が倒れ河川
に掘り出される
作業進捗に伴う
作業環境の変化
・吊足場解体中,結束を解いた足場板上を
歩いたため足場板が跳ね上がり墜落
・梯子固定材が撤去されているのを知らな
かった作業員が梯子を登ったために転落
自然環境の変化
・足場組立時に急に雨が降り出し作業を中
断,退避中にベント移動後にできた開口
部から墜落
・クレーンで鋼桁仮設中に突風が吹き,桁
があおられるのを制止しようとしたが振
られて転落
作業進捗に伴う
作業環境の変化
・ガーダー門構の解体中,結束されていな
い足場板に乗ったため足場板が天秤状に
なり墜落
・PC 定着具を吊っていた番線を切断した
際,番線を支えていた鉄筋が跳ね上がり
目を負傷
自然環境の変化
・支保工の水平材を階段代わりに降りてい
る時,雪で足を滑らし墜落
・主桁製作用の台枠の荷卸中,トラックの
荷台が雨に塗れていたため足を滑らせて
転落
橋
梁
が,さらに,現場の意欲を高め
下
る方法として継続実施をするよ
部
う働きかけたいと考えていま
工
す。
! 工種別(橋梁工事)事故
防止対策
事故原因からの事故防止対策
だけでなく,事故の多い工種に
目を付けての事故防止を図ろう
鋼
橋
上
部
工
として平成1
5年度から取り組ん
でいる検討事項です。まず,事
故の多い工種である橋梁工を取
り上げ,事故内容を見てみます
と,墜落・転落が最も多く,次
P
いで,飛来・落下となっていま
C
す(図―4
4)
。こ こ で,墜 落・
転落といった視点から検討する
上
部
工
と,従来の事故原因からの対策
と変わらなくなってしまいます
が,あくまで,工種として事故
防止の検討を行うこととしてい
図―4
5 橋梁工事における時間的・空間的な変化に伴う事故事例
ます。具体的には,工種内での
建設マネジメント技術
2005 年 7 月号 4
9
3次元的な現場内での移動などでの事故,4次元
た事例の必要となった費用を聞き取り調査により
的な時間経過について事故状況を分析して事故原
比較を行いました。
因からの検討とは違った視点から有益な事故防止
抽出した事故事例は,会社の規模を C・D ラン
策の打ち出しを行いたいと考えています。具体的
クとし,発生しやすい事故や社会的に影響が大き
には次のような事例が考えられます(図―45)。
な事故を取り上げました(表―8)。事故対応に
検討中の平成1
6年度に日本橋梁建設協会とプレ
要した費用としては,直接費(保険料,補償,訴
ストレスト・コンクリート建設業協会から,一緒
訟,物損など)と間接費(人的損失,営業関係な
に取り組みたいのとの申し入れがあり,両協会の
ど)となっており,損失額/請負金額比で5.
1∼
事故データも取り入れてデータ整備を行いまし
78.
4%となっており,発注者が考えている安全費
た。
の比率の2∼40倍程度の費用が必要となったこと
平成1
7年度は,事故報告書の分析を行い,事故
が分かりました(表―9)。事故を起こした現場
報告書で把握できない事項について追加調査を実
が安全活動をおざなりにしていたということでは
施して,事例集を作成し,施工計画書やチェック
ありませんが,直轄工事では事故率が低く事故防
リストなどとして両協会とともに活用することを
止に必要な費用は計上されていると考えており,
考えています(図―46)。
発注者が安全確保に必要な内容を工夫して計画的
! 事故損失調査
に事故防止に取り組む必要性を示すものと考えら
平成1
5年度から検討に取り組んでいる調査で,
れます。
事故防止対策を計画的に行っていくことの有効性
これらの成果は,平成17年度にリーフレット等
を打ち出すために実施しています。発注者が積算
にして安全教育のツールとして請負業者の方々に
で計上する安全費(想定)と実際に事故が発生し
活用していただこうと考えています(図―47)。
橋
建
協
・
P
C
建
協
国
交
連
携
16
年
度
15
∼
16
年
度
橋梁の事故事例から判明した事項
橋梁事故には
「時間的・空間的変化」
による特徴がみられる
・前日まであった足場板がなくなっていた
・足場板の結束を解いたことを知らなかっ
たため天秤状になった
・クレーン作業中に突風が吹き吊り荷にあ
おられた
事故報告書で把握できない事項
・時間的・空間的変化の状況
・時間的・空間的変化の要因
・事故発生時の作業環境の変化
・事故発生時の自然環境の変化
・その他の変化および要因
事項報告書で把握できる事項
・事故の発生状況(写真,図面)
・被災者の状況
・事故の直接的要因
・事故発生作業に関する指示系統
・安全管理の実施状況…等
追加調査の実施
事故事例集の作成
17
年
度
17
年
度
・事例集
・対策資料
活 用
・施工計画書,作業手順の作成に反映
・工事中のチェックリストに活用
・事故防止対策の事例集作成
図―46 今後の取り組みと日本橋梁建設協会とプレストレスト・コンクリート建設業協会
との連携実施
5
0
建設マネジメント技術
2005 年 7 月号
表―8
災害の種類
事故損失調査で取り上げた事故事例
工種
被災者数
被災状況
休業日・中断等
事例1
労働災害
(飛来落下)
アスファルト
舗装工事
1人
(2次下請)
事例2
労働災害
(取扱運搬等)
橋梁上部工事
1人
(2次下請)
左下腿神経損傷 他
(のち左下腿切断)
休業1
8
0日
中断3
0日
事例3
労働災害
(取扱運搬等)
道路維持工事
1人
(元請)
左母指伸筋腱損傷
休業3
0日
中断8日
事例4
労働災害
(建設機械等)
維持修繕工事
1人
(元請)
胸部圧迫による窒息死
中断1
2日
事例5
公衆災害
(建設機械等)
共同溝工事
0人
路面電車用スパン線との
接触による2時間運休
中断5日
事例6
公衆災害
(その他)
測量
(道路工事)
0人
標尺を架線に接触させて
6時間運休
中断2
3日
表―9
事 例
急性硬膜外血腫
頭蓋骨骨折
休業1
2日
中断8日
事故損失の工事請負金額との比較
1
2
3
4
5
6
災害種別
労働災害
労働災害
労働災害
労働災害
公衆災害
公衆災害
(飛来落下)(取扱運搬等)
(取扱運搬等)
(建設機械等)
(建設機械等) (その他)
工 種
アスファルト
測量
橋梁下部工事 道路維持工事 維持修繕工事 共同溝工事
舗装工事
(道路工事)
請負金額(千円 税込み)
3
1
1,
8
5
0
6
0
9,
0
0
0
1
6,
2
8
0
9
4,
5
0
0
1
9
5,
3
0
0
2
1,
8
4
0
共通仮設費(千円 税込み)
約3
8,
0
0
0
約6
3,
0
0
0
約1,
6
0
0
約9,
4
0
0
約2
6,
0
0
0
―
なし
なし
被災者数(所属会社)
被災者の休業日数
指名停止
期 間
1人(2次) 1人(2次) 1人(元請) 1人(元請)
1
2日
1
8
0日
3
0日
死亡
―
―
元請会社
なし
1
4日間
なし
1カ月間
なし
2カ月間
下請会社
なし
1
4日間※
―
―
なし
―(直営)
支払保険料(増額)
3
4
0
1,
5
5
0
―
―
―
―
会社規定に基づく補償費
1
0
0
1
7,
6
8
0
2
5
0
1,
8
6
0
6
0
0
1
8,
6
3
0
直 訴訟関係費
―
―
―
2
5,
0
0
0
―
―
接 建物等物的損失
―
5
0
―
1
6
0
―
―
1
4
0
5,
8
2
0
―
3
0
―
3
1
0
5,
1
6
0
6,
1
4
0
5
0
3
1
0
―
―
5,
7
4
0
3
1,
2
4
0
3
0
0
2
7,
3
6
0
6
0
0
1
8,
9
4
0
1
7
0
4
3,
4
1
0
3
3
0
3
1,
2
4
0
―
―
8,
0
0
0
4,
2
6
0
3
0
1,
5
4
0
6
9
0
5
3
0
2
2,
9
3
0
3
6,
5
0
0
1,
6
5
0
1
3,
9
9
0
8,
5
9
0
5
1,
3
3
0
3
1,
1
0
0
8
4,
1
7
0
2,
0
1
0
4
6,
7
7
0
9,
2
8
0
5
1,
8
6
0
3
6,
8
4
0
1
1
5,
4
1
0
2,
3
1
0
7
4,
1
3
0
9,
8
8
0
7
0,
8
0
0
1
1.
8
1
9.
0
1
4.
2
7
8.
4
5.
1
3
2
4.
2
損 費 現場生産性に関する損失
失
その他損失
額
︵
小 計
千
円
人的損失(被災者関連)
︶
間
人的損失(工事関係者関連)
接
営業活動,企業イメージ等の損失
費
小 計
合
計
損失額/請負金額(%)
社会的影響
―
―
―
―
・私鉄2時間 ・JR 6時間
運休
運休
・約6
0
0人の ・約6,
000人
足に影響
の足に影響
建設マネジメント技術
2005 年 7 月号 5
1
図―4
7 事故防止への計画的取り組みを呼びかけるリーフレット(事例案)
! ヒューマンエラー対策
不注意などの要素により重機に関係する非接触型
平成1
4年度に建設マスター,優良工事施工技術
センサーによる危険警告設備による対策と近道・
者にヒューマンエラーの原因要素について聞き取
省略行動本能に関係する危険個所への防護策等の
り調査を実施しました。建設業においても他の産
設置の2方法を選定し,平成17年度にモデル工事
業と同じような原因要素となっており1
3の要素を
を実施することと考えています。この結果を踏ま
抽出して平成1
5年度に事例集を作成しました。
えて設備改善等によるヒューマンエラー防止の有
平成1
6年度は,1
3要素について設備の改善等で
効性を確認するとともに,残った安全教育のター
対応することを優先対策とし,今までの区分を見
ゲットを絞っていきたいと考えています。また,
直して(設備改善等3→7/1
3要素)
(図―48),
重機に関してはステッカー運動に留まっていた対
5
2
建設マネジメント技術
2005 年 7 月号
不注意
集団心理(現場全体の安全意識の低下)
注意力が不足する外
的要因,注意力の持
続切れ等によるもの
設備の改善
安全に対する知識が
足りないもの
安全教育
錯覚
単調作業による意識低下
心配事
無知,未経験,不慣れ
安全教育
中高年の機能低下
危険軽視,油断,慣れ
連絡不足
近道・省略行動本能
危険軽視的なもの
安全意識欠如
安全意識の向上
場面行動本能
パニック
疲労
図―48 ヒューマンエラーの原因要素の見直し
図―4
9 ヒューマンエラー検討からの設備改善等によるモデル工事事例
策への追加対策となればと考えています。
ており,取り組み効果について検証し,さらに効
果的な対策の打ち出すことが必要な時期になって
4
おわりに
きています。
そのためには,的確なフォローアップ調査が必
事故防止・減少のために実施してきた取り組み
も,年度ごとの重点対策を実施してから4年を経
要ですが,事故は発生率が低く効果検証すること
を困難にしています。
建設マネジメント技術
2005 年 7 月号 5
3
表―1
0 平成1
6年度の事故防止の検討事項と今後の対応方針のまとめ
平成1
6年度調査・検討項目
今後の対応方針(案)
1.
足場からの墜落事故の防止対策
●発注者が実施する対策として,
「手すり先行工法」の全面実施によって,足場から
の墜落事故防止の効果が“事故による死傷者数”から確認でき,請負者による実行
が大切。
●ただし,
「二段手すり」の全層への設置率は高いものの,
「幅木」の全層への設置率
は比較的低いことから,発注者は,実施効果を確認するとともに,適切な費用を計
上する必要がある。
!手すり先行工法
"足場施工計画及びチェックリ ●ほとんどの現場で請負者により実施されているが,今後は,さらに,効果的な実施
スト
が図れるように検討する。
2.
交通事故の防止対策(デルタク
ッション)
●今後,各施工者は,安全対策に努めるため,現場条件に応じて,適切な保安設備を
選択することが望まれる。
●速度センサー付き警報装置は,現場作業員に対する効果の調査が必要である。
3.
法面からの墜落事故の防止対策
!親綱設備計画及びチェックリ ●親綱設備計画の作成と親綱点検時のチェックリストの活用は,おおむね各現場に浸
スト
透しており,今後は,効果的な実施が図れるように検討する。
"昇降設備の設置
●大規模または特殊法面への昇降設備の設置は,おおむね各現場に浸透しているが,
必要に応じて,各施工者の安全対策の一環として,昇降設備の設置が望まれる。
#のり面施工管理技術者の資格
取得
●「のり面施工管理技術者」の現場配置によって,工事成績評定点に大きな差となっ
ていないが,資格取得の推進による安全・品質管理に対する効果が期待できる。施
工者が自らの技術力向上に資するため,積極的に資格取得を活用することが望まれ
ることから,さらに,データを分析する。
4.
重機事故の防止対策(ステッカ ●ステッカー運動の強化月間の実施,朝礼等における訓話等でステッカー運動の意識
ー運動)
向上を図るなど,安全教育面との複合実施による事故防止を検討する。
5.
飛来落下事故の防止対策(クレ ●普及率や用途外使用に対する認識が高く,ならびに直轄工事では事故件数も少ない
ーン機能付きバックホウ使用)
ため,今後は,各施工者の安全活動に内包してもらうこととする。
6.
各種事故共通の防止対策
!建設業労働安全衛生マネジメ ●導入によって工事目的物の品質向上が見込めることから,今後も,関係実施機関と
ントシステム
調整した上で,規模の小さい企業でも導入可能な運用方法を検討する。
●会社単位あるいは現場単位での実施率は高く,今後は,施工者自らの継続的な実施
が望まれる。
"表彰制度
7.
工種別事 故 防 止 対 策(橋 梁 工 ●橋梁事故における時間的・空間的変化の追加調査を行い,事例集や事故防止対策集
事)
等を作成し,施工者の今後の施工計画・作業手順の参考資料とする。
8.
ヒューマンエラー防止対策
●ヒューマンエラー検討会で再整理されたヒューマンエラー要素のうち,設備での実
施策である「不注意による重機との接触事故」
「近道・省略行動本能による事故」
の防止対策をモデル工事として試行するこを検討する。
9.
建設工事事故に伴う請負者損失
●事故損失調査結果を踏まえたリーフレット(原案)を作成し,請負業者が実施する
安全活動における啓発活動での公表・配布資料とする。
しかし,手すり先行足場の効果について,足場
すると別の対策が見えてくるといったこともあ
設置対象工事の件数や工事費と事故数の比の推移
り,幅広い取り組みが課題の解決に近づくものと
で比較して効果を確認できましたし,工事成績評
考えています。
定との関係からの有効性の確認といった方法もあ
事故防止は請負者が実施するものですが,事故
ります。また,ステッカー運動に留まっていた重
を減らすといったことが建設業界の大きな課題で
機対策についてヒューマンエラーの観点から別の
あることから,今後とも,建設工事事故対策検討
取り組み実施につながるなどとしていますし,事
委員会の場を活用するなど積極的に取り組んでま
故原因からの墜落事故対策が橋梁といった工種か
いりたいと考えています。
ら見たときの時間的・空間的な視点を加えて検討
5
4
建設マネジメント技術
2005 年 7 月号
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