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報告書 - 総合研究大学院大学
国際シンポジウム:生物多様性の進化的研究/Evolutionary Studies of Biosystem Diversity 報告書 開催日時:2008年8月22日~8月24日 参加者数:757名 開催場所:東京大学 駒場キャンパス 本国際シンポジウムでは、進化学に関係した広い分野をできるだけカバーし、かつ国際性を高めたいと考えて広く企画を募集し た。その結果、13のテーマは分子から人間社会まで及び、そのうち6件が英語で行われ、アメリカ・イギリスなどからの参加者を 含む750名以上の参加者が各セッションで活発な議論を行なった。また、大会の前日には、進化学の面白さや国際会議の雰囲気 を若い人に感じてもらうために総研大葉山キャンパスのある湘南国際村にて、高校生を対象とした国際サテライトシンポジウム開 催した。ともに各方面の協力をえて参加者に質の高い情報交換の場を提供することができた。 【シンポジウムの成果】 13件のセッションでは、最新の研究成果が報告され、活発な質疑応答が行われた。 「協力の進化:社会・脳・ゲーム」では協力成立条件に関する理論的研究と脳神経活動を探る研究、社会科学での実 験による協力の維持と成立の総説を行って今後を展望した。各講演においてさまざまな議論があり、社会科学および 認知科学に対する進化生物学の接点が明らかになり、進化生物学を1つの核にして幅広い範囲の諸科学が融合していく 可能性を開く場を提供することができた。 「Evolution experiments and theories」おいて形質の共進化の研究について発表された。共進化は、とても魅力 的な研究たが、実証研究にはさまざまな困難が伴っている。しかし、本セッションで示された微生物を用いた実験共 培養系は、共進化に対する様々な理論を検証する上でまたとないシステムであり、このシステムを用いた研究により 今後さらにおおきな発見が期待された。 「Phylogenetic Networks for Evolutionary Studies」は地理的に分化した集団が交配可能なあいだにふたたび遺 伝子の交流を行う場合の解析。四つ組の情報を用いるQNetの理論と応用、およびSupernetworkという新しい概念。 系統樹を最尤法で推定時、モデルとデータのあいだの関係において系統ネットワークが生じること。実際のデータか ら系統ネットワークを作成し、それらの生物学的意味を考えるにはどうしたらよいかなど、系統ネットワークをいろ いろな方面から検討した。 「The 40th anniversary of the neutral theory」では講演とディスカッションを通して、“中立”の概念に対し て三者三様の表現があった。しかし興味深かったことは、分子レベルの中立突然変異の重要性に関しては基本的に合 意されていることだ。その上で新しい問題もあり、また木村が残した重要な課題もある。日本発の中立説が今後どの ように展開していくのか、楽しみである。 「ヒトの生活史」では、最新の知見を紹介いただき、その特性の生物学的、進化学的意義、また特性獲得に関わる遺 伝的要因等について議論した。これらの講演は行動学、生理学、遺伝学等広い分野をカバーするもので、ヒトの生活 史の特性を理解するうえで、大変興味深かった。 「近縁全ゲノム配列比較から明らかになるゲノム進化のダイナミックス」では講演の後、活発熱心に討論が行われた。 そして、ゲノム配列情報を利用したゲノム進化理解の新しい方向性を示すものであり、近縁ゲノム比較の方法は、細 菌ゲノムに限らず、全ての生物でゲノム進化の素過程を明らかにするための有力な方法であることが確認された。 「Neo-mutationism and phenotypic evolution」ではNeomutationismとともに、色覚遺伝子の適応的進化、ゲ ノム中に大きな割合を占めるレトロポゾンの進化、脊椎動物の発生過程に重要なエンハンサーの進化、あるシステム における生物ごとの発現遺伝子の進化など、表現型進化の遺伝的基盤についての大変興味深い講演が行われた。多く の生物種のゲノムデータが発表され、様々な側面から表現型の遺伝的基礎を分子レベルで研究することが可能になっ た今、新たな進化学的枠組みを考えるうえで非常に意義のあるセッションであった。 「適応進化を支えた遺伝基盤」適応進化の遺伝基盤を解明していくには、野外で実際に生物を観察し興味深い現象を 見つけ出す分類学者や生態学者と、実験室内で遺伝子の特定を目指す分子生物学者との協力が不可欠である。このセ ッションによって異分野の研究者どうしが互いの情報と興味を共有し合うきっかけになったのではないかと思う。 「大進化・論」では大進化のような大規模な形態変化の分子レベルでの理解には、ゲノムだけでなく遺伝子発現やプ ロテオームなど、いわゆる「Omics」という大量で枚挙的なデータの解析手法が有用になってくることを指摘した。 とくに、収斂進化や平行進化が頻繁に起こっている可能性が高く、大進化を理解するうえで、それらの分子基盤を明 らかにすることの重要性が示された。 「Evolution of social behavior」は社会行動に関する理論的・実証的研究の進展が分かる非常に刺激的なセッショ ンであり、社会行動の進化に関して今後のより一層の研究進展が期待される。 「バイオミネラリゼーションとゲノム進化:海洋環境から形態形成へ」おいて「環境の変化」と「硬組織形成機能の 獲得」に多角的に光をあてることで、種を越えた共通性が見えてきた。また、それに関わる遺伝子の創生や遺伝子ネ ットワークの形成に関する研究が進んでおり、環境と形態形成との関係が明確に説明できる可能性が高くなっている ことがわかった。 シンポジウムプログラム 8月22日午前 Morning session on Aug 22 企画 Organizer 講演者 Speakers S1 シンポジウム Symposium タイトル Titles 巌佐 庸 協力の進化:社会・脳・ゲーム 中丸 麻由子 罰の反応関数型の進化と協力レベルについて S2 S3 S4 S5 大槻 久 空間構造による協力の進化則 鈴木 真介 互恵的協力行動の脳神経基盤 渡部 幹 社会科学における「協力の進化」 Akira Sasaki, Takehito Yoshida Evolution experiments and theories Akira Sasaki Host-parasite arms race in space: theoretical perspective and implication Michael Brockhurst Coevolution in space: Effects of spatial structure on a bacteria-phage arms-race Tadashi Fukami Evolutionary community assembly experiments Takehito Yoshida Evolutionary and ecological dynamics of predator-prey systems in microcosms Naruya Saitou Phylogenetic Networks for Evolutionary Studies Saitou Naruya Welcome to world of phylogenetic networks! Stefan Grunewald Phylogenetic Supernetworks Hidetoshi Shimodaira Identification of phylogenetic networks under model misspecification Takashi Kitano Relic of ancient recombinations deciphered through phylogenetic network analysis Naoyuki Takahata The 40th anniversary of the neutral theory William B. Provine The importance of Kimura's neutral theory in molecular evolution today Tomoko Ohta The nearly neutral theory in genome era Masatoshi Nei The neutral theory of molecular evolution: Origins, growth, and current status. 颯田 葉子 ヒトの生活史 長谷川 眞理子 ヒトの生活史とヒト固有の性質の進化 鈴木 隆雄 ヒトの生活史におけるビタミン D-今日の高齢社会の視点からー 濱田 穣 ヒトの成長・加齢パターンの進化 尾本 恵市 ネオテニー仮説の再検討 8月24日午前 Morning session on Aug 24 S6 S7 S8 S9 小林 一三 近縁全ゲノム配列比較から明らかになるゲノム進化のダイナミックス 小林 一三 近縁多数系列の全ゲノム配列比較解析の展望 服部 正平 ヒト腸内常在菌のゲノム及びメタゲノム解析 内山 郁夫 ゲノム進化過程の解明に向けた近縁細菌ゲノム比較のインフォマティクス 馬場 理 全ゲノム配列比較で解明するブドウ球菌属の病原性と薬剤耐性 中川 一路 レンサ球菌のゲノム解析に基づく進化と多様性獲得機構の解析 Naoko Takezaki, Tatsuya Ota Neo-mutationism and phenotypic evolution Masatoshi Nei The new mutation theory of phenotypic evolution Shozo Yokoyama Elucidation of phenotypic adaptation: molecular analyses of dim-light vision proteins Norihiro Okada Possible involvement of SINEs in mammalian-specific brain formaion Shinichi Aizawa Ots2 cis-sequence evolution for head development in vertebrates Takashi Gojobori The evolution of the central nervous system from viewpoint of comparative genomics Ituro Inoue Natural selection and human evolution Stephan Wooding Natural selection in bitter taste receptor genes Ryosuke Kimura ゲノムワイド SNP 解析で同定されたヒト集団の自然選択の痕跡 Naoki Osada Deleterious Mutations and Human Diseases: Genomic Perspective. Ituro Inoue ヒト疾患へのダーウィン医学的アプローチ 大島 一正、長谷部 光泰 適応進化を支えた遺伝基盤 藤原 晴彦 鱗翅目昆虫の擬態紋様形成の遺伝的基盤 矢原 徹一 昼咲きから夜咲きへの進化:F2 雑種を使った野外実験と EST による候補遺伝子探索 工藤 洋 異生態タイプ間異質倍数体(IETA:Inter-ecological-type allopolyploid)形成を介した適応放散 北野 潤 トゲウオの種分化とその遺伝的基盤 大島 一正 複合形質の遺伝基盤:植食性昆虫における寄主転換のメカニズム 8月24日午後 Afternoon session on Aug 24 S10 五條堀 孝 大進化・論 宮田 隆 形態進化と分子進化の関連-カンブリア爆発と遺伝子の多様化を中心にー S11 S12 S13 城石 俊彦 Evolutionary conserved non-coding sequence 1Mb away from the Shh coding region acts as limb bud-specific Shh enhancer 五條堀 孝 大進化を論じるためのオミックス的基盤を考える 富永 真琴 細胞感覚 富永 真琴 温度センサーTRP チャネルの種間のモーダルシフト 岡村 康司 電位センサー蛋白質の種間のモーダルシフト 東原 和成 匂い・フェロモンセンサーの種間のモーダルシフト Mariko Hasegawa Evolution of social behavior Michael A. Cant The evolution of menopause in humans and cetaceans: new insights into an enduring puzzle Kenji Matsuura The cuckoo fungus manipulates termite behavior by the sophisticated egg mimicry Nobuyuki Kutsukake How (not) to build consensus: the case of eusocial naked mole-rats 岩瀬 峰代 バイオミネラリゼーションとゲノム進化:海洋環境から形態形成へ 栗原 晴子 過去、現在、未来における海洋化学環境と炭酸カルシウム合成生物の進化 遠藤 一佳 貝殻基質タンパク質に見られるダイナミックな適応進化 川崎 和彦 脊椎動物における硬組織の起源と多様性の進化:ゲノム重複と縦列遺伝子重複 和田 洋 ゲノムが新しい構造を生み出すロジック:脊椎動物の軟骨進化から 【サテライトシンポジウムの成果】 進化学会前日の8月21日に総研大葉山キャンパスにて「高校生のための進化学」と題して行われた。駅からの送迎 バス、同時通訳を入れるなどいろいろと工夫し、地元高校生や引率の先生方、後援して下さった県関係者の方々を交 えて、総勢72名の参加があった。 「生物科学」および「進化学」に興味を持ってもらうおうと神奈川県内の高校生を対象に行われた講演では、海 外で活躍している研究者2名と本学の長谷川眞理子教授がそれぞれ「色がわかる仕組み」 「歯の遺伝子、ミルクの遺伝 子」そして「オスとメスの話(性の進化をめぐる7つの不思議)」と題して、現在までの研究成果や疑問点を含めた講 演を行った。 講演者とのパネルディスカッションでは、「進化と進歩の違いについて」「なぜガラパゴス島では独自の進化が行 われたのか」等、参加者から率直な質問がでた。伝統的な教科書による既存の知識だけに頼らず、学生達にはオリジ ナリティを大切に、疑問を追求して、専門分野だけでなく、化学・物理学・分子生物学と環境を融合させるような研 究をして欲しいことや、ゲノム解読等のミクロ生物学の発展に劣らない、技術発展に伴う個体や集団間のマクロ生物 学の発展を期待することなどが講師の方々から語られた。 このシンポジウムでは総研大生が講演会設営や司会を務めた。グループ・ディスカッションではファシリテイター として参加者が講演を聞いてどのような感想を持ち、どのような疑問を抱いたのか、お互いにコミュニケーションが とれるように心がけて進行を行っていた。 サテライトシンポジウムプログラム 開会の挨拶 講演 1) 2) 高畑 尚之(総合研究大学院大学長) (13:50~15:30) 横山竦三(Yokoyama Shozo:エモリー大学) 生物学における統一原理としての進化 -色覚を例に- Evolution as a unifying principle in biology: Examples from color vision *英語による講演(同時通訳) -休憩-(10分) 川崎和彦(Kawasaki Kazuhiko: ペンシルバニア州立大学) 遺伝子の誕生と消滅:歯の遺伝子、ミルクの遺伝子 3) 長谷川眞理子(Hasegawa Mariko: 総合研究大学院大学) オスとメスの話 -休憩-(10分) ディスカッション(15:40~16:40) グループ・ディスカッション等 閉会の挨拶 長谷川 眞理子