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高分子液晶の成形条件と材料強度の関係

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高分子液晶の成形条件と材料強度の関係
平成15年度
卒業論文
高分子液晶の成形条件と材料強度の関係
高知工科大学
知能機械システム工学科
材料強度学研究室
竹内
正賢
・目次
1.緒言
2.材料 及び 実験方法
2-1 材料
2-2 実験方法
3.実験結果
及び 考察
3-1 引張強度
3-2 応力ひずみ曲線
4.結言
5.付録
6.参考文献
7.謝辞
1.緒言
自然界に存在する一般的物質は常温・常圧のもとで三態(固体、液体および気体)のい
ずれかの状態で存在しており、その状態は温度・圧力などにより変化する。気体および液
体は、原子あるいは分子がランダムに並んでおり、固体は3次元すべての方向で規則正し
く配列している。しかし、液晶状態を示す物質は一般の物質とは異なり、結晶から液体に
は直接転移せず、分子が規則正しく並んだ結晶と、無秩序に並んだ液体の中間に当たる状
態を経て液体になる。従って液晶は液体と結晶の中間物質という意味から中間相とよばれ
ることもある。従来の熱可塑性ポリマーは、たとえ結晶ポリマーであっても溶融状態では
ランダムであるが液晶ポリマーは溶融状態で分子の配向がみられ、その配向したドメイン
の絡み合いの少ないのが特徴(図1)(1)で、温度を下げても溶融状態における分子配向がそ
のまま固定され、それにより優れた力学的性質が現われる。
図1 熱可塑性ポリマーと液晶ポリマーの成形時の分子配向の変化
液晶は低分子液晶と高分子液晶に分類される。約 100 年以上前に発見された低分子液晶
は、その後多くの発見改良を経て、現在ディスプレイ用の表示材料として隆盛を極めてい
る。一方、高分子液晶の歴史はまだ浅く、1940 年代からのタバコモザイクビールス、DNA
やポリペプチド等の生体系剛直高分子に基づくリオトロピック液晶の研究に始まり、1970
年代後半になってようやくさまざまな構造の液晶高分子が合成されるようになった。液晶
分子はメソゲン基とよばれる棒状もしくは板状の剛直なグループを含み、液晶高分子はこ
のメソゲン基のつながり方から主に主鎖型・側鎖型・複合型に分類される。
(図2)(2)
1
図2 液晶ポリマーの配列模式図
メソゲン基の構成要素には以下の条件が必要となる。
(1) 細長い棒状あるいは平板状の分子であること。
(2) 液晶状態を保持するために適当な大きさの分子間力を与える永久双極子を分子内に
もつこと。
以上のことから分子の剛直性、直線性およびその分子の長さや幅が液晶相発見のために重
要な因子であると考えられる。
固体は流動性をまったく示さないが三次元的に長距離的な秩序をもつ状態である。これ
に対し、液晶は流動性を有しつつ配向に関する長距離的な秩序を保持している異方性液体
の状態である。液晶をその構造により分類すると、分子が一方向に配向しその重心がラン
ダムなネマチック液晶ポリマー、一つの面内において分子の配向方向は一定であるが、こ
の面に隣接する面では配向方向が少しねじれてらせん構造を形成しているコレステリック
液晶ポリマー、および層構造を有するスメクチック液晶ポリマーに大別できる。これら液
晶はドメインを形成し、その内部で分子は均一な液晶構造を形成している。このドメイン
内部には、誘電率・磁化率・屈折率・導電性・透過性・粘弾性といったさまざまな物性に
異方性があり、液晶固有の各性質の源となっている。特に重要な性質は以下の3点である
と思われる。
2
(1) 電場あるいは磁場により液晶分子の配向状態をコントロールできる。
(2) 外力により容易に分子配向できる。
(3)分子中にメソゲン基のような剛直部分があり、機械的性質が向上するにも関わらず、
溶融粘度が下がり、成形性が損なわれない。
以上のことから、高分子液晶が成形時の外力により分子が流動方向に配向することで、
分子間力が強まり配向方向の機械的性質を向上させることが可能である。しかし、成形後
の機械的性質は広範に検討されているものの、研究例は少なく成形時の分子配向が機械的
性質に与える影響についてはあまり知られていない。機械的性質には引張り強度・圧縮強
度・曲げ強度・弾性強度・疲労強度などがあるが、本研究では温度転移型高分子液晶の成
形条件とその機械的性質、特に引張り強度との関係について調べた。
3
2.実験装置
および
実験方法
2-1 試料
本実験では試料として全芳香族系サーモトロピック液晶である Polyplastics 社製の


Vectra A950 を使用した。Vectra A950 の化学構造式を以下に示す。
図3 Vectra A950  化学構造式


Vectra は剛直鎖を共重合させており、高い物性値を持っている。Vectra A950 の特徴は、
剛性と耐熱性が非常に高く、耐薬品性も高く、樹脂自身が難燃性を持っている。全芳香族
系ではあるが、融解粘度が低いため薄肉流動性が良く、固化速度が速い成形時に生じるバ
リも少なく高温での成形に適している。また、通常液晶ポリマーでは FRP(繊維補強樹脂:
Fiber Reinforced Plastics)と呼ばれる、炭素繊維(CFRP)やガラス繊維(GFRP)を補
強材として使用されているが、Vectra A950  ではそれらの補強材を使用してない点も特徴
である。Vectra A950  の成形は融点と考えられる 280℃辺りから熱分解が開始する 350℃
以下までが成形可能温度領域と考えられるため 300℃前後で成形するのが最も好ましい。
2-2 実験方法
1)はじめに
文献(3)よりせん断速度と粘度の関係(図4)を求めた。これとべき法則流体(4)の流動式(式
1)から
η=
τ
•
γ
• n −1
= kγ
(式1)
材料固有な係数 k =641.95 と n =0.5662 を求めた。
以前の実験結果(5)から温度 300℃、ダイ穴直径 0.5mm、ダイ長さ5mm の時の引張り強度
とせん断速度の関係より、せん断速度が 10000s-1 の時引張り強度がどれくらいになるか調
べた。
4
粘度(Pa・s)
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
y = 641.95x-0.4338
0
5000
10000
せん断速度(1/s)
15000
20000
図4 粘度とせん断速度
2)試験片の成形
本試験では Blender を用いてペレット状の Vectra A950  を粉砕し、その後材料の吸水性
を考慮し、乾燥機により 140℃で3時間乾燥させた試料を用いた。試験片成形には、定荷重
細管押出型レオメーター(島津フローテスタ CFT-500D 型)
(シリンダ内部を図5に示す)
を用いた。フローテスタ CFT-D 型は、シリンダに挿入された試料を加熱および加圧し、溶
融された試料をダイから流出させ試験する本体とシリンダ内の温度、ピストン移動量の測
定データから、流量、せん断速度、粘度の算出を行う制御ユニットから構成される。シリ
ンダ内に試料を充填し、ピストンを挿入した時点を予熱開始点として、ここから時間の測
定を開始する。予熱開始 10 分後に試験荷重による除圧を3∼4回してガス抜きを行い、予
熱 20 分後に試料に試験荷重が負荷される。加圧した圧力は P =3.9MPa で押出し成形を行
った。その際のピストンの降下量を流出時間の関数として、設定条件での粘度を測定した。
物質が移動するときには、一般に圧力が高いほうから低いほうへ流れるため、その流動に
必要な圧力損失が生じるが、この装置ではダイの入り口および出口で生じる圧力損失は無
視されている。また、見かけの粘度などと呼ばれる粘度で計測を行っているがニュートン
の粘性を基に求めているので本実験では非ニュートン流体に対し、べき法則における指数 n
に基づきラビノビッチ補正(5)をしてせん断速度(式2)を求めた。
•
γ =(
3n + 1 4Q
)
4n πR 3
(式2)
な お ピ ス ト ン の 断 面 積 は A = 1 ㎠ と し 、 成 形 の 際 に 使 用 す る ダ イ に は L = 5 mm 、
D = 0.5 mm( L :厚み、 D :内径)を用いた。成形した試料を L = 65mm に切り出し、
引張り試験時に滑りが起きないよう棒状にした試料にパテ(成形充てん剤)をつけた。ま
た、試料の標点距離を 30mm とした。成形時にバラス効果(粘弾性流体を押出成形した際
5
に見られる特有の現象;付録参照)により、ダイの直径よりも試料が大きくなるため、マ
イクロメータを用いて試験を行う試料の直径を3点計測し、それらから 90°回転させ同様
に直径を3点計測した。
図5 フローテスタのシリンダ部詳細図
3)クリップゲージ
試験片の標点距離間のひずみ及び伸びを計測する為に伸び計(図6)を作成した。この
伸び系はいわゆるクリップゲージと呼ばれるタイプのもので、2枚の鋼製薄板を標線間に
挟み込みその板のひずみに生じる変化をひずみゲージを介して測定し、伸びを求めるもの
である。作成した伸び計には4枚のゲージを貼り付けブリッジを組んだ。あらかじめマイ
クロメータを用いて変位とゲージ出力の関係を求めこれを較正曲線として伸びを測定した。
較正の結果を図7に示す。較正結果、最小二乗近似により変位と電位差の関係式は以下の
ようになった。
変位(mm)= − 8.6352 × 電圧差(V)+ 0.0264
この関係式より試験中の伸びを求めた。
6
図6 クリップゲージ
5
変位(mm)
4
y = −8.6352 x + 0.0264
3
2
1
0
-0.6
-0.5
-0.4
-0.3
電圧差(V)
図7 ひずみ計検定
7
-0.2
-0.1
0
4)引張り試験
本研究では、高分子液晶の成形後の機械的性質を検討するために最も基本的な試験であ
る引張り試験を行った。実験系の全体模式図を図8に示す。引張り試験にはインストロン
型万能試験機(島津オートグラフ AG-100kNG)用いた。この試験機はクロスヘッドを上
下に動かすことによって固定端との間に装着した試験片に引張り・圧縮をかけるもので、
試験条件に基づき荷重や結果をグラフ化するソフトウェア
Shikibu によって制御されて
いる。また、試験機に取り付けられているロードセルから電圧に変換された荷重データを
取り出せる。この荷重出力と先の伸び計出力をパソコンのデータ収集用ソフト(UCAM)
でデータを取り込んだ。これらから応力−ひずみ曲線を求めた。今回の引張り試験ではク
ロスヘッドスピードを 1mm/min とした。
図8 実験系の全体模式図
8
3.実験結果および考察
1)引張強度
引張り強さとせん断速度の関係について本実験で得られたデータを図9に示す。一般に
せん断速度を高くすると、より配向が揃い強度が高くなると考えられる。せん断速度が
20000s-1 以上になると引張強度の上昇はゆるやかになった。
引張強度(MPa)
400
300
200
100
0
0
20000
40000
せん断速度(s−1)
図9 引張強度とせん断速度
9
60000
80000
2)応力ひずみ曲線
図 10 に引張試験で得られた応力−ひずみ曲線を示す。本材料は破断荷重まで応力の増加
割合があまり変化しない特性を有する。
250
応力(MPa)
200
150
100
50
0
0
0.02
0.04
ひずみ
図 10 応力−ひずみ曲線
10
0.06
0.08
4.結言
本研究では、温度転移型高分子液晶の成形条件と機械的性質、特に引張り強度との関係
を調べた。得られた結果を以下に示す。
(1)せん断速度を高くすると、より配向が揃い強度が高くなる。しかし、せん断速度が
20000s-1 以上になると引張強度の上昇はゆるやかになった。
(2)Vectra A950  は破断荷重まで応力の増加割合があまり変化しない特性を有する。
11
5.付録 バラス効果(6)
水道の蛇口を下へ向けて、静かに水を流す。すると、蛇口をでた水流の太さはだんだん
下へいくほど細くなる。これは大部分、重力によって水の速度がだんだん速くなるためで
ある。ところが、水の代わりに高分子の濃厚溶液を細管から押しだすと、管の出口のとこ
ろからすぐには細くならず、かえってふくれあがって太くなることがみられる。これをバ
ラス効果という。
バラス効果の原因についてふたつの説が有力である。ひとつ目は、この現象が現れる装
置では必ず高分子を入れた容器があってそこからピストンなどで細管の中に押し込むが、
高分子からみると広い容器の中から急に狭い管の中に入るので、管の半径方向に圧縮され
ることになる。もしこれが純粘性液体だと適当な流れが生じてこの圧縮力を散らしてしま
えるが、粘弾性ではその弾性機構にこの圧縮の効果が残り、圧縮されたままで管の中を通
る。そこで管からでると、この半径方向の圧縮を支えていた管壁がなくなるので、開放さ
れ、バラス効果を生じる。これを弾性流入効果(図 11)という。
ふたつ目は、ワイセンベルグ効果(円筒状容器の中に粘弾性液体を入れ、それと同軸的
に細い円筒を入れ、軸のまわりに外側の円筒を回転させると、液体が細い円筒に巻きつい
てよじ上る現象)と同じ法線応力効果である。細管内で液体は半径方向に速度勾配をもっ
て管の軸方向に流れている。したがって、法線応力効果による張力は、この場合軸の方向
に働くことになる。逆にいえば軸の方向に対して半径方向に圧力が働くこととなり、ちょ
うど弾性流入効果のときと同じように、細管をでたところで圧力が開放され、ふくれあが
るものと考えられる。
図 11
バラス効果と弾性流入効果
12
6.参考文献
(1)川角昌弥:機能性液晶高分子、豊田中央研究所 R&D レビュー Vol.28 No4,1993
(2)小出直之、坂本国輔:液晶ポリマー、共立出版、1988
(3)荒木克彦:繊維充填液晶ポリマーの粘弾性に関する研究、2001
(4)大柳康:エンジニアリングプラスチック−その特性と成形加工−、森北出版、1985
(5)大谷敏之:高分子液晶における流動特性と材料特性の創刊、高知工科大学修士論文
2002
(6)岡小天:レオロジー入門、工業調査会、1970
13
7.謝辞
本研究を行うにあたり、終始に渡り丁寧なご指導を賜りました、楠川量啓助教授に対し、
深く感謝致します。また、蝶野成臣教授、辻知宏助教授をはじめ知能流体力学研究室の方々
には装置の提供だけでなく、多大なるご指導、ご協力をいただきました。あわせて感謝い
たします。
14
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