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報告書 - 北海道

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報告書 - 北海道
地域産業創出・育成機能形成調査事業
報告書
北海道経済部
(㈱北海道二十一世紀総合研究所 受託)
1
2
―目
次―
はじめに
■調査の趣旨・目的···························································· 1
■調査の方法 ································································· 1
■本調査における「場」の位置づけ·············································· 1
Ⅰ IT 分野における「場」の検証
1 ビズカフェの概要···························································· 5
2 ビズカフェ[第 1 期]の「場」の特性… ·········································· 6
3 ビズカフェ[第 1 期]の「場」の機能・役割の検証 ······························ 11
Ⅱ 食分野における「場(食クラスター連携協議体)」の検証
1 食クラスター連携協議体の概要·············································· 12
2 食クラスター連携協議体の「場」の特性 ······································ 13
3 食産業の振興における食クラスター連携協議体の「場」としての機能・役割の検証 17
Ⅲ 連携の「場」におけるポイント
1 IT 分野、食分野における「場」の検証結果の小括 ····························· 19
2 「場」の創出におけるポイント·············································· 22
Ⅳ 新エネルギー分野における「場」のあり方
1 新エネルギーをとりまく環境················································ 25
2 新エネルギーの地産地消プロジェクトの創出・育成のポイント ·················· 29
3 新エネルギー地産地消プロジェクトの創出・育成における「場」のあり方 ········ 60
3
-0-
はじめに
■調査の趣旨・目的
・北海道ではこれまで、IT分野や食分野における創業や効果的な事業活動への支
援を目的に、それぞれ「ビズカフェ」「食クラスター連携協議体」が設置され、
産業創出・育成に一定の役割を果たしてきた。
・本調査事業では、北海道のITや食分野において先駆的に取組まれている関係者
の連携の「場」に着目し、今後の成長分野や地域の特性に応じた地域産業の創
出・育成機能のあり方を検討するため、そのメリットや課題を調査分析すると
ともに、産業育成が喫緊の課題となっている環境分野における効果的な「場」
づくりに向けた検討を行った。
■調査の方法
・有識者で構成される検討委員会を設置し、調査方針の検討、調査内容、調査結
果について検討及び分析を行った。
検討委員会
委員名簿
◆委員長
金井 一頼
大阪商業大学 教授
◆委員(五十音順)
伊藤
博之
クリプトン・フューチャー・メディア 代表取締役
加藤
敬太
小樽商科大学 准教授
嶋貫
久雄
株式会社アレフ 環境事業部
鈴木
亨
高橋
昭憲
株式会社データクラフト 代表取締役
田中
一良
田中酒造株式会社
山本亜紀子
部長
NPO 法人北海道グリーンファンド 理事長
代表取締役
株式会社エルアイズ 代表取締役
■本調査における「場」の位置づけ
(1)地域産業の振興における「場」の考え方
・国や地域の産業振興を考えるうえで、個々の企業の事業活動や研究開発等を支
える地域の基盤として「場」の概念が重要視されており、それは、地域の関係
者が一体となって取り組む「場」(ネットワーク組織、交流拠点など)として
論じられるケースが多い。
・文部科学省科学技術政策研究所が行った「イノベーションシステムに関する調
査 第2部地域イノベーション報告書」では、産業振興における「場」の概念
については、「場」は「場」に魅力を感じて人が集まり、「場」の中で参加者
が高め合い続けることが恒常的な状態にあること、それがイノベーションを創
出する基本的な要素とされている。
-1-
【参考】「場」の発展イメージ
資料:「イノベーションシステムに関する調査 第2部地域イノベーション
(文部科学省科学技術政策研究所、2009年3月)
報告書」
・「場」の概念は社会学や経営学など学問の分野で取り上げられており、多様な
解釈がなされている。例えば一橋大学の伊丹敬之教授は著書『場の論理とマネ
ジメント』の中で「場とは人々がそこに参加し意識・無意識のうちに相互に観
察し、コミュニケーションを行い、相互に理解し、相互に働きかけ合い、相互
に心理的刺激をする、その状況の枠組みのこと」と定義づけている。
・また、これまでの調査研究によると、「場」はその形成過程から、行政や関係
団体などが計画的に作り上げる計画的な「場」と、民間事業者や個人などが集
まり自然発生的に作り上げられる創発的な「場」に大別される。計画的な「場」
は当初から一定のメンバーや資源などが調整されているが、計画に依存しすぎ
ると推進力となるエネルギーを失う危険性が指摘されている。また創発的な
「場」においては草の根的な行動のエネルギーを有しているものの、多様なエ
ネルギーのベクトルをいかに合わせつなげていくかが課題とされている。
(2)本調査事業における「場」の認識
・産業の活性化を目的に、多くの地域でポテンシャルある地域資源や産業に着目
した取組みが展開されているが、産業を発展・強化させる要素として、「場」
が重要と捉えられており、北海道でも産業クラスター構想に基づいた産業活性
化政策がこれまでなされてきた。
・本事業で捉える「場」は産業支援や事業機会の創出などにつながるものと位置
付け、単なる「施設」や「組織」ではなく、民間事業者や行政機関、大学やNP
Oなど参加する関係者の支援や事業者のネットワークを形成し、ビジネスの創
-2-
造や事業の効果的推進を主導する機能やそのための仕組みを持つものと捉え
る。
(3)本調査事業における「場」の分析のフレーム
・本調査事業では以下の視点に基づきIT、食、環境の3分野の「場」の分析を行
う。
①産業に応じた「場」づくり
・業種により、作り出す商品・サービスや顧客などが異なることから、ビジネス
のスタイルにも特徴が生じる。本調査事業では「IT」「食」「環境」の分野に
おける「場」について調査・検討を行うが、それぞれの分野で商品・サービス
の開発の形態や流通が異なり、構成するメンバーにも特性がある。
・前述のように「場」は多様なメンバーの相互作用を活性化させるものであり、
産業の特性に応じたデザイン・制度設計が必要と考えられる。
②「場」の持つミッション(使命)
・
「場」は「場」自体が何らかの魅力や期待を持ってはじめて人が集まるものと考え
られる。
・「場」の持つミッションは、集まる主体の性格や結びつきの程度、「場」の果たす
機能等に影響を与えるものと捉えられる。
③「場」のマネジメント
・「場」が公的なセクターによって運営されているのか、また民間により運営されて
いるのか、さらに活動を継続するための予算をどのように確保しているのかなど、
「場」のマネジメント体制を分析することも重要と考えられる。
④「場」の参加者
・
「場」に参加する人は「場」を特徴づける大きな要素の一つと考えられる。ここで
は、
「同業者」
「異業者」
「金融機関」
「大学・研究機関」
「経済団体」
「行政」
「市民・
消費者」など主体の特性を分けて「場」参加者の特性を把握する。
・また「場」において「場」の革新を促す主体(企業など)が存在するかどうかも
重要な分析要素と考えられる。
⑤「場」の持つ機能・役割
・「場」のミッションとも関係するが、「場」の成果や課題を検証する上で「場」の
もつ機能・役割に関する検討が必要である。
-3-
⑥「場」の環境への適合性
・産業の特徴とも関連するが、時間の経過とともに産業の構造やとりまく環境など
が変化することにより、
「場」のミッションや機能・役割などが、産業とフィット
しなくなる可能性がある。
・産業の創出・育成に係る関係者連携の「場」に関しては、設置された後も、業
界をとりまく環境や企業のニーズの変化などに応じて、運営体制や役割・機能
なども適合していくことが必要と考えられる。例えばベンチャー企業では、起
業から成長期に入り事業が安定するまで生き残るものは少なく、環境への適合
がスムーズに進まず、多くは多大な資金が必要とされる成長期において資金繰
りが悪化し、倒産すると言われており、「場」においても環境への適合が「場」
の維持・存続のポイントになると考えられる。
⑦産業の創出・育成への貢献
・「場」が産業の創出・育成にどのように貢献したのか考察が必要であると考えられ
る。
「場」の分析枠組み
項
目
〇〇分野
産業の特徴
ミッション
マネジメント
参加者 同業者
各「場」について左記項
目に従い状況を整理す
る。
異業者
金融機関
大学・研究機関
経済団体
行政
市民・消費者
機能・役割
環境適合性
産業の創出・育成への貢献
-4-
Ⅰ IT 分野における「場」の検証
1.ビズカフェの概要
(1)IT 分野におけるこれまで築かれたネットワーク
・古くは1976年に北海道大学の青木由直氏が作った「北海道マイクロコンピュー
タ研究会」が北海道IT産業が誕生するインキュベーションとなり、同研究会の
メンバーがその後次々と起業し、現在の北海道IT産業の礎を築いた。
・1996年には北海道大学の山本強氏を中心に、情報ネットワークによるコミュニ
ティ創造の組織として「NCF(ネットワーク・コミュニティ・フォーラム)が
設立され、1998年にはアジェンダ、データクラフト、ソフトフロント、ダット
ジャパン、テクノバの5社により「クールビレッジ」というネットワークが形
成された。2000年にはシリコンバレーのビジネスカフェをモチーフとして「札
幌Biz Café(以下ビズカフェ)」がオープンしている。
・その後は2000年以降、IT事業者と行政等の動きが活発化し、「北海道スーパー
クラスター振興戦略」や「知的クラスター創成事業におけるITカロッツェリア」
など行政を中心とした産業振興施策の中でIT事業者の連携が進められてきた。
(2)札幌ビズカフェの概要
・札幌ビズカフェはサッポロバレーというITベンチャーの集積の中で、多様な起
業家の連携による新ビジネス創出・発信の「場」を創造するため、ベンチャー
企業経営者や従業員、ベンチャー活動のサポーターや学生等の有志により2000
年6月に設立された。
・設立以来“New Business from New Style”をスローガンとしてビジネスセミ
ナーの開催や、IT企業が持ち寄ったニュービジネスプランの公開プレゼンテー
ション、東京から招いたベンチャーキャピタルも交えたディスカッションとい
ったイベントを積極的に行ってきた。
・ビズカフェは設立から2年の期限付きで設立され、2002年3月には一旦クローズ
されたが、2003年10月にはNPO法人として再スタートしている。
-5-
2.ビズカフェ[第1期]の「場」の特性
・ビズカフェは設立当初の第1期、2003年以降の第2期に大きく分けられるが、2
000年前後に急成長にあった道内IT産業との関係から「場」の機能検証を行う
ことに着眼し、第1期ビズカフェを対象に特性整理を行った。
(1)設立時における道内 IT 産業の状況
・北海道ではバブル経済の崩壊後さらに1998年に北海道拓殖銀行の破たんがあり、
大きな経済不況のさなかにあったものの、IT産業においては、売上・従業者数
ともに大幅な伸びを示していた。
・とりわけ札幌市内においては、前述のように北海道マイクロコンピューター研
究会からみられるIT産業の様々なネットワークが立ち上がり、当時の札幌市な
どの行政支援の成果等もあり、「サッポロバレー」と称されるIT産業の集積が
構築されていた。
・サッポロバレーは、研究開発型といわれ、高い技術力と大手メーカーとのネッ
トワーク力に定評があったことから、この優位性を活かしつつ、弱点として新
規ビジネス先の確保や投資、資金調達等を円滑化し、ビジネスコーディネート
機能を充実させることが求められていた。
<札幌における IT 集積の優位点>

技術力には定評。技術力の高い企業が多数

優れた技術者へのアクセスが可能

研究機関(大学、札幌エレクトロニクスセンター等)が産業育成にコミット

国内通信・家電大手を顧客に持つ

域内コミュニケーションが活発で情報共有が進んでいる

共同マーケティングが可能

ネットワークが形成 など
<札幌における IT 集積に欠けていたもの>

ビズカフェ開設前に株式公開のニーズを持つ事業者はあったものの株式公開を
果たした事業者はなかった

クラスターとして未成立

域内競争の欠如

資金調達システムの欠如

マーケティング志向の人材の薄さ

ビジネスを目的とした産学官の交流の「場」不足 など
-6-
(2)ビズカフェのミッション
・札幌におけるIT産業の現状から、期待されていたのが「IT企業の溜まり場」「情
報交流の場」「起業家との交流の場」「円滑な資金供給」「企業経営で求めら
れる様々な支援」などの提供であった。
・こうしたことを踏まえて、ビズカフェが設立され、さらに北海道ベンチャーキ
ャピタルがビズカフェに入居することになった。
・ビズカフェはこうして道内IT産業の振興を図ることを目的に、企業同士が効果
的に出会い、情報交換を行う「場」となり、資金調達と企業経営で求められる
様々な支援を提供するべく設置された。
(3)ビズカフェのマネジメント体制
(運営方法・体制)
・高橋昭憲氏(㈱データクラフト代表取締役)、村田利文氏(現ムラタオフィス
株式会社代表取締役、当時は㈱ソフトフロント代表取締役)を中心に設置され
た。任意団体として設立されたビズカフェはきわめてゆるやかな組織運営形態
をとっている。
・ボードメンバーと事務局が中心的運営メンバーであるが、上下関係はなく情報
はオープンに共有されている。様々なプロジェクトごとに中心的運営者と運営
協力者の中からメンバーが任意に集まり行動している。
・当初は運営委員会が広範な事業をそれぞれ事業ごとに展開していく構想であっ
たが、ボードメンバー会議が実質的な運営委員会として機能するようになった。
2001年からは各事業を事業委員会、広報・渉外委員会、カフェ運営委員会など
委員会をボードメンバーが分担しそれぞれの裁量で事業展開する形となった。
第1期 ビズカフェ ボードメンバー
名前
所属(当時)
村田
利文
㈱ソフトフロント
高橋
昭憲
㈱データクラフト
宮田
昌和
㈱サンエスマネジメントシステム
吉村
匠
太田
明子
㈱北海道新聞社
200年6月よりビズカフェ事務局長
(前職:NPO法人 私設北海道開拓使の会
松田
一敬
㈱北海道ベンチャーキャピタル
竹内
智一
㈱ティーズネットワーク
板垣
洋
㈱ディー・ブレイン札幌
-7-
事務局長)
・伊藤組が場所(プレハブ施設)を提供をしてくれたことは非常に大きな起爆剤
となった。これが無ければビズカフェは設立されなかった。
・IBMはPCの貸し出し、ゼロックスはコピー機の貸し出し、日本テレコムと
北海道ホットネットは回線、事務用品など運営に必要なものは、全て賛同者か
らの提供であった。
(活動資金の確保方法)
・基本的に活動資金はビズカフェで行う「札幌ビジュー」によるプレゼンテーシ
ョンの運営で調達。
⇒プレゼンテーション者から講演手数料(1万円)、プレゼンテーションの聴視
者からは参加料金を徴収し、これを団体運営費とした。
・人が集まるためには「食」が不可欠であると考え、博多ラーメン店「ばりきや」
を一階にオープン。ラーメン1杯\700のうち17%が団体の運営費に割り当てら
れた。
・ビズカフェのネームバリューが上がるにつれて行政から支援の誘いも増えたが、
活動の自由の重要性を考えて基本的に行政の参画はできるだけ排除した。
(4)ビズカフェへの参加者
同業種事業者
・道内 IT 企業の参加は多い。集まった中の主力企業には、
BUG、ハドソン、コンピュータランド北海道、デービーソ
フトなどがあった。
異業種事業者
・門戸は開放していたものの、IT 以外の事業者の参加はあま
りみられなかった。
金融機関
・北海道ベンチャーキャピタルが常駐し、IPO などの支援を実施。
大学
・山本強氏(北海道大学)との関わりが大きかったものの、大
学組織とのつながりはなく、あくまで個人的な参加であった。
経済団体
・道内 IT 関係団体の関わりはあった。
行政
・北海道や札幌市、北海道経済産業局などの職員が個人として
参加するも組織としての明確な関わりはない。
市民・消費者
・ボランティアとしてビズカフェの事業に参加することはあっ
たが、ユーザーとしての消費者参加はあまりない
・大学の学生の参加は多かった。
外部マーケットとのつなぎ ・直接外部マーケットと直接つながりを有する事業者やコーデ
役
革新的企業の有無
ィネーター的役割を担う事業者の参加は少ない。
・ビズカフェの事業内容にまで影響を与える事業者はない。
-8-
(5)ビズカフェの機能・役割
・ビズカフェが提供するサービスはコーディネーション/ベンチャー支援、ビジ
ネスサービス、食事の大きく3つの機能に関するものである。
①コーディネーション/ベンチャー支援
・ビズカフェの存在そのものがビジネス交流やベンチャー支援の「場」の提供
という意味を持っており、さらにビジネスコーディネーションやベンチャー
支援等を目的とした各種セミナーやイベント、会議の会場提供を行った。
・カフェスペースでは運営委員会や関係企業・行政等が行う各種セミナーやイ
ベント、ビジネスマッチングが恒常的に行われていた。また入居した北海道
ベンチャーキャピタルが、専門知識や機能を活かして個別のコーディネーシ
ョンやベンチャー支援を実質的に担っていた。
②ビジネスサービス
・ビズカフェは当初からビジネス機能のサポートを提供することを重視してい
た。そのため各テーブルには電源とLANコネクターが完備されており、無料
でインターネットに接続でき、ノートパソコンの電源がとれるようになって
いた。
・そのほかビズカフェが提供したビジネスサービスは下記のとおりである。

セミナー・イベントの開催

会員向けホームページによる情報提供・メーリングリスト

新聞・雑誌の閲覧

各種報告書の閲覧、配布

各種起業セミナー、パンフレット、ベンチャー支援団体資料等の配布

IT、ベンチャーキャピタルに関する専門書籍の閲覧
等
③食事
・ティーズネットワーク社が担当し、カフェでのサービス提供のほか、イベン
トやパーティ等での料理提供、周辺オフィスへの昼食配達サービス、「ばり
きや(ラーメン店)」の1Fへの入居などを実施していた。
・ビズカフェに関する取材記事も100件を超えており、政府関係者や大手事業
者のボードメンバーなども視察に訪れている。
・このようにビズカフェは取引先確保や開発技術など様々な情報交換を行う
「場」として機能するとともに、対外的に北海道IT産業の技術力や集積をPR
した。
-9-
(6)ビズカフェの環境(IT 業界のニーズ等)との整合性
・IT業界の情報交換ニーズには対応しているものの、参加者間の信頼関係構築、
ビジネスマインドの共有までは十分至っていなかった。
・ターゲットを明確にした連携や新規事業創出、販路確保ニーズに十分応えられ
てはいなかった。
(7)産業の創出・育成への貢献
・もともと2年の期間における設立ということもあり、IT産業の集積形成・発展
に資するための「場」として構築されたものではないが、当時の全国のITベン
チャー集積地との「地域連携」は活発に行われた。これはビズカフェと同様に
各地に存在するITネットワーク組織との交流・連携を通じて、経験を共有し、
ビジネス連携や地域間連携を進めようというものである。
・この連携をベースに2001年には「全国ITバトルカンファレンスin札幌」が開催
され、全国から多くの参加者が札幌に集まった。このイベントの後も各地の交
流が具体的に積み上げられ、2001年にはこれら地域におけるITを核としたベン
チャーグループとの連携でビジネスマッチングを実現する目的を持つ「ITジャ
パン委員会」が立ち上がっている。また当委員会は2002年には「IT-Japanビ
ジネスマッチングセミナー」を開催している。
・また別な連携として、韓国・アジアのIT都市・企業連携のモデルづくりとして
の「e―シルクロード構想」があげられる。これは北海道大学の青木由直教授
を実行委員長に、札幌市と札幌エレクトロニクスセンター、サッポロバレー企
業、ビズカフェなどが実行委員となって、韓国のアジアビジョングループと連
携して、アジアのIT企業の技術・人材・資本をベースとしたビジネスマッチン
グを進めようというものであった。
・当時北海道では「産業クラスター構想」が北海道電力や経済団体を中心に進ん
でおり、この構想との関わりの中からIT産業の発展が期待された。ビズカフェ
のボードメンバーなども、産業クラスター構想への参画に向けた行動をおこし
たものの、結果的にビズカフェと産業クラスター構想との連携は確保出来なか
った。
- 10 -
3.ビズカフェ[第1期]の「場」の機能・役割の検証
(1)
「場」としてビズカフェの果たした役割
・ビズカフェはセミナーを通じ、単に情報提供や教育学習・能力向上だけでなく
セミナーを通じた人的ネットワークの形成とビジネス連携の面でも一定の成
果をあげている。また、ビジネスマッチングを通じた同業種・異業種とのネッ
トワークづくりでも貢献している。
・またホームページを立ち上げ、ビジネスニュース配信など広報に関する活動な
ども、ビズカフェだけでなくサッポロバレーそのもののPRにつながっている。
・ビズカフェは札幌のIT産業・技術力のPR部門としての機能を果たすとともに、
ベンチャーの起業支援やIT事業者同士の交流を通じた事業機会の創出などの
面でも実績を残した。
・ビズカフェ自体は主に施設として様々な「場」を提供するだけではなく、民間
事業者や大学、行政機関などによるネットワークを形成し、ビジネスの創造や
参加事業者の事業推進にも寄与するものとしても一部機能した。しかしながら、
ビズカフェは当時の産業クラスターと関係を深めることが出来ず、またビズカ
フェ自体が戦略を持ったビジョンを当時掲げていた訳ではなく、産業としての
成長・発展に大きく寄与するものとはならなかったと認識される。
(2)IT 産業の振興の視点からみた課題・ポイント整理
・交流する事業者がIT関係企業に偏っており、食や観光、建設など道内の主要産
業との融合による発展に十分つながらなかった。
・ビズカフェ参加者に学生も多く、「場」の活性に寄与した。
・ビズカフェでは参加者間の信頼関係を構築するための会食が頻繁に行われてお
り、円滑なネットワーク形成に寄与したものの、新しいビジネスを展開するマ
インドの醸成は十分図ることができなかった。
・ノーステック財団などが実施する産業クラスター形成事業に関わることが出来
ず、その後、文部科学省の知的クラスター創成事業でITは中核的分野となった
もののビズカフェとは切り離され、ビズカフェが道内IT産業の発展に大きく寄
与することは出来なかった。
・大学と組織的な関係構築が出来なかったために、学の分野の知見を産業界へつ
なげることが十分出来なかった。
- 11 -
Ⅱ 食分野における「場(食クラスター連携協議体)」の検証
1.食クラスター連携協議体の概要
・「食」分野に関して北海道内で本格的に広域的な連携が図られたのは、2010年
度に結成された「食クラスター連携協議体」といえる。
・同協議体は、付加価値の高い商品を生み出し、国内外に向けて流通・販売し、
観光産業などとの融合化を行うなど、北海道ならではの食の総合産業の確立に
向け、産学官金の連携・協働による「食クラスター」を形成し活動の本格展開
を図るため北海道経済連合会、北海道農業協同組合中央会、北海道、北海道経
済産業局が発起人となり設立されている。
・食クラスター連携協議体では、提案されたプロジェクトを支援する体制となっ
ており、戦略タスクフォースで個々のプロジェクトの支援の方向性を協議して
いる。
提案プロジェクトの支援の流れ(食クラスター連携協議体ホームページより引用)
て
- 12 -
2.食クラスター連携協議体の「場」の特性
(1)設立時における道内食関連産業の状況
・北海道は農漁業において生産額が全国1位、食品工業では全国2位を誇ってい
るものの、低い付加価値率が問題と指摘されている。
・これまでも産業クラスターや農商工連携、地域資源活用プログラムなどにより
「発展の芽」が創出されてきたものの、それぞれの企業や地域の取組みに留ま
っているものが多いのが実情である。
・さらに今後北海道が食分野で進めるべき事項として以下のようなものが指摘さ
れてきた。
・ 北海道が優位にある食分野で道内経済をリードしていく必要がある。
・ 食に関わる分野で全道各地での多角的な取り組み、迅速で効果的な取り
組み、道内外からの投資促進などの必要性がある。
・ 加工などを通じた農水産物の高付加価値化が必要である。
・ 道内外、さらには海外へのマーケティング、販路拡大が必要である。
・ 研究技術シーズの効果的活用の必要性があり、食関連企業や研究所など
道外からの誘致が必要である。
・ 業種業態を超えた幅広い「連携・協働」が必要である。
(2)食クラスター連携協議体のミッション
・食クラスター連携協議体では、北海道内で付加価値の高い商品を生み出し、国
内外に向けて流通・販売し、観光産業などとの融合化を行うなど、北海道なら
ではの食の総合産業の確立を図ることを目的に設置された。
(3)食クラスター連携協議体のマネジメント体制
(運営方法・体制)
・「北海道経済連合会」「北海道農業協同組合中央会」「北海道経済産業局」「北
海道農政事務所」「北海道」の5機関が事務局を担い、これに「北海道立総合
研究機構」「ノーステック財団」「北海道中小企業総合支援センター」「中小
企業整備基盤機構北海道本部」「北海道貿易物産振興会」「フード特区機構」
を構成メンバーとする全道的支援機関を加えた11機関で戦略タスクフォース
を構成している。連携協議体は幅広い機関・企業の参画を得て、産学官金の連
携・協働による取組をオール北海道で進めることを目標としている。
・協議体は、「北海道経済連合会」「北海道農業協同組合中央会」「北海道経済
産業局」「北海道農政事務所」「北海道」の5機関が事務局メンバーとなり、
北海道経済連合会が事務局代表として、全体事務を統括している。
・道内14 の総合振興局・振興局に地域推進体制を整備し、地域における食クラ
- 13 -
スタープロジェクトを事務局や戦略タスクフォースと連携しながら推進して
いる。
・食クラスター連携協議体の事務局担当者には種々の情報が集まり、プロジェク
トごとに作成された個票で管理をしている。また各プロジェクトには担当機関
が選定されており、プロジェクトの推進を支援している。従ってプロジェクト
の進行状況によって、担当機関が途中で変更になるケースを想定し、担当機関
が対応状況を事務局担当者に報告するシステムとしているため、事務局担当者
には必ず情報が集まることになっている。Cの一般プロジェクトでは地域推進
体制を使って進めていくことが多いことから、振興局が担当機関となるケース
が多いため、A振興局が担当機関となれば、A振興局にまず情報を集め、それを
事務局担当者である道経連に繋ぐことになる。プロジェクトの担当機関の変更
などは基本的に道経連が中心に行っており、個々の事務局担当者は道経連とな
っている。
(活動資金の確保方法)
・北海道経済連合会においては、食クラスターグループの予算があり、それをグ
ループ活動費として使っている。また北海道庁、北海道経済産業局、北海道農
政事務所には、それぞれ食クラスター関連予算が措置されている。
(4)食クラスター連携協議体への参加者
同業種事業者
・様々な食産業が関係するが一次産業の関わりは薄い。
(加工、
販売中心)
異業種事業者
・IT や機械金属など他産業も協議体に参加
金融機関
・北洋銀行や北海道銀行始め多くの金融機関が参加
大学
・個別プロジェクトの単位で必要に応じて技術的関わりを持つ
経済団体
・主要団体の多くが参加
行政
・事務局に「北海道」「北海道経済産業局」「北海道農政事
務所」が参加。また、連携協議体会員には道内自治体全てが参
加している。
市民・消費者
・個人での参加も多い
外部マーケットとの ・大手事業者なども参加しており、外部マーケットとのつな
つなぎ役
革新的企業の有無
がりはある
・協議体の事業内容等に影響を与える事業者は存在する
- 14 -
(5)食クラスター連携協議体の機能・役割
・協議体では食に関する様々な情報提供のほか、協議体参画者間の多様な交流の
推進、個別プロジェクトの課題解決に向けたサポート(技術面、商品開発面、
販路確保・拡大面など)を実施。
・協議体はプロジェクト提案された案件について、高い経済波及効果が期待され
北海道全域で取り組むべき戦略性の高いプロジェクトはAプロジェクト、地域
限定の特定資源や産源の取り組みを考え且つ戦略性の高い地域有望プロジェ
クトはB、個別にタイムリーに対応すべき案件は一般プロジェクトとしてCに
分類。ABに関しては、単純な一村一品のものづくりではなく、中長期的な成
長戦略が非常に重要であり、「A」足りうるかどうかを常に検証する必要性が
あると考えている。
・食クラスター連携協議体が関わっているプロジェクト数は400以上にのぼるが、
提案は民間からのものと振興局などが掘り起こしたものが、凡そ同数である。
・道内各地域のプロジェクトは、14振興局にある食クラスター担当部門を中心と
して、各地域の商工会・商工会議所、市町村、農協や産業支援機関をメンバー
とした地域推進体制で臨んでいる。
・14振興局の有望プロジェクトで販路拡大ワーキングとの連携によって成果を求
めていくものを地域の産業振興につなげることを2012年に新たなテーマとし
て打ち出している。地域文化も含めた地域の食資源をもっと発信し、磨き上げ
をして、実際の成果・売り上げに繋げていけるよう食クラスターとしてしっか
り取り組んでいくことをテーマとしており、地域任せではなく、販路拡大ワー
キングとして具体的にどんな処方箋が与えられるか、具体的にどんな戦略で磨
き上げ販路拡大していくのかを連携して、一件ずつ戦略構築に取り組んでいる。
地域の実態を一番把握しているのは振興局なので各局毎に、地域推進体制から
プロジェクトの経過、課題、戦略を提出してもらい、食クラスターがそのプロ
ジェクトについてさまざまな戦略を提言するこの仕組みは、来年度も継続する
予定である。
・地域推進体制では、特定産業や地域に留まったままになっているプロジェクト
の堀り起こしを行ったり、実際に提案されたプロジェクトについて、地域レベ
ルで推進すべきかどうかを判断し、そうすべきものは地域推進体制と食クラス
ター連携協議体が有機的な連携して推進している。
・Cに分類されたプロジェクトでも、そのテーマが食クラスター連携協議体がA
やBでの展開を検討できる場合には、ランクの変更をすることがある。例とし
てはワイン&チーズプロジェクトがあげられる。
・北海道庁が戦略的先導モデル事業として取り組んだプロジェクトは、モデル事
業や先導的な事業という位置付けなので、事業の立ち上げ時は予算措置をする
- 15 -
が軌道に乗った以降は、民間が主体となって事業を自立的に遂行してもらう。
・戦略タスクフォース会議は、プロジェクト遂行上、支援の取りこぼしが無いよ
うに情報集約しそれに対するアドバイス・知恵を出してもらい、有効な支援策
を上手くタイムリーに与えていくことを目的としている。
・販路拡大ワーキングでは、さらに具体的に販路拡大に係る施策である、展示会、
商談会、ビジネスマッチング等々を効果的に斡旋、提供している。
・食クラスターでは情報の共有化を図ることが重要と捉えており、情報誌やHP
に止まらずメルマガなどでも情報発信を行っている。
・食クラスター連携協議体へのニーズを探るために、プロジェクト参画者である
産学官の全員約1800人に対してアンケート調査を定期的に行っている。今後も
夏は次年度施策予算取得のためのニーズ調査、冬は事業計画策定に際し今年度
事業の総括を含めて参加者の意見募集という形で定期的に年2回行っていく予
定である。
(6)食クラスター連携協議体の環境(食関連業界のニーズ等)との整合性
・プロジェクト参加事業者の抱える個別課題への対応は関係機関が連携して行わ
れており、協議体への参加事業者から評価は得られている。
・その一方で、食分野においてグローバル競争を意識し、北海道として蓄積する
べき技術・ノウハウの見極めや全体的な戦略が見えにくいという課題もある。
・そのため、連携協議体の中に、戦略ワーキンググループを設け、北海道ならで
はの食の総合産業化に向け、必要な政策課題を深掘りし、新たなプロジェクト
の創出などにつなげる取組も行っている。
(7)産業の創出・育成への貢献
・食クラスター連携協議体自体が北海道における総合的な食産業の発展を目指し
たものであり、そのための「場」として位置付けられている。また食クラスタ
ー連携協議体の支援対象となるA、Bなどのプロジェクトについては、参加事業
者や活動エリアなども広域であり、それぞれがテーマ性を有した「場」となっ
ている。
・さらに平成24年度に設立された「一般社団法人北海道食産業総合振興機構」は
食クラスター連携協議体の戦略タスクフォースの機関として位置づけられ、食
の生産性と付加価値の向上による国際競争力の強化を先駆的に推進すること
を目指しており、これも一つの「場」と捉えることができる。
・重層化した「場」の相互作用は産業集積の形成・発展につながる大きな要素の
一つであるため、食クラスター連携協議体と一般社団法人北海道食産業総合振
興機構が効果的な関係を構築していくことが期待される。
- 16 -
3.食産業の振興における食クラスター連携協議体の「場」としての機能・役割の検証
(1)
「場」として食クラスター連携協議体の果たした役割
・道内食産業の振興に向け関係機関が連携・情報を共有する機会を創出。
・鮭節など重点プロジェクトとしての支援により、道外マーケットに向けて販路
が拡大した商品も誕生している。
・食クラスター連携協議体の中で、食クラスターの形成・発展に向けた様々な「場」
が形成されていたものと捉える事が出来る(個々の提案プロジェクトメンバー
間で形成される「場」、TF会議のように提案プロジェクトを支援・発展させる
ために産業支援機関や民間企業・団体等により形成される「場」など)。
・しかしながら、例えば個々の提案プロジェクトの中で形成される「場」はあく
まで、個別企業の商品開発や販路の確保そのものを目的としたものが多く、幅
広い事業者間の連携にまではつながりにくいこと、さらにタスクフォース会議
や個別プロジェクトのフォローアップ体制も現在提案プロジェクトが多岐に
渡りかつ時間的に制約のある中で十分な対応がとりづらいことなどが課題で
ある。
・また、北海道にとって戦略性の高いプロジェクトの発掘・育成、およびグロー
バル競争の中で北海道に求められる技術優位性の見極めや強化方策等につい
て、中長期的な戦略を明示し、その戦略に基づきプロジェクトを展開していく
ことが一層求められている。
・食クラスター連携協議体においては、個々の「場」となる個別のプロジェクト
をどのように育成して、北海道の食産業の振興に結び付けていくかといったビ
ジョンが必要である。
(2)食産業の振興の視点からみた課題・ポイント整理
・北海道ならではの食の総合産業の確立のため、個別プロジェクトの創出だけで
はなく、北海道の優位性を最大限活かした技術分野の確立やプロジェクト形成
の形成に向けた「場」の創出も求められる。
・提案プロジェクトが多くなっており、効果的な対応を図るための体制の整備、
タスクフォース会議等における個別案件のフォローアップ状況の検証等が必
要である。
・タスクフォース会議には多くの関係機関が参加していることから、円滑なプロ
ジェクト支援を実施するため、関係機関の役割の明確化を一層図ることが求め
られる。
・AやBのプロジェクトは北海道としても戦略性が高いことから、中長期的な成長
戦略イメージを明確化するとともに、具体的な成長のロードマップを描くこと
- 17 -
が求められる。
・また今後は事業者の自主的なプロジェクト提案が増えることが期待されるが、
事業者のほか行政や関係機関等への食クラスター事業そのものにかかる情報
発信を強化していくことが必要である。
・プロジェクト実践者の事業活動の実態にあわせた効果的な支援を実施するため、
年度で区切られない柔軟な支援方法を検討する必要がある。
- 18 -
Ⅲ 連携の「場」におけるポイント
1.IT 分野、食分野における「場」の検証結果の小括
・ビズカフェおよび食クラスター連携協議体の「場」について、本調査事業で提示した
分析枠組みに基づき考察した。
(1)産業との関係
・当時札幌を中心にIT産業が伸張しつつも、個々の事業者がビジネスとしてさら
に一歩先へ進むための仕組みが必要と認識されている中、ビズカフェは創発的
な「場」として設立された。
・食クラスター連携協議体は、道内各地域の食資源の高付加価値化に取組む事業
者の支援を効果的に実施するため、関係機関の連携により設立された計画的な
「場」として位置付けられる。
(2)
「場」のもつミッション
・ビズカフェは2年間という期限付きではあったが、道内IT産業の振興を図るこ
とを目的に設置されている。また、食クラスター連携協議体は北海道ならでは
の食の総合産業の確立を図ることを目的に設置されている。
・こうした「場」に掲げられるミッション自体は、関係機関・企業に具体的な行
動指針につながるものとして共有されていることが重要と考えられるが、本点
の考察については「場」の持つ機能・役割の箇所でまとめて触れる。
(3)
「場」のマネジメント
・ビズカフェは民間企業経営者により構成されたボードメンバーを中心に管理・
運営されている。活動資金もビズカフェによる提供サービスに対する料金や、
併設の飲食店部門の売上から運営費が割り当てられる形で賄われおり、行政か
らの直接支援はほとんど行われていないのが特徴である。
・食クラスター連携協議体は道内の行政機関や経済団体等が事務局を担い、道内
14の総合振興局・振興局に地域推進体制を置いて食クラスター事業を遂行して
いる。事業者等から提案されたプロジェクトには担当者が選定されプロジェク
トの進行管理を行っている。活動資金は北海道経済連合会の予算や北海道、北
海道経済産業局などの事業予算等である。
・ビズカフェは民間主導によるマネジメントであり、かつボードメンバー同士の
人間関係も予め築かれた状態でスタートしていることから、様々な意思決定が
速やかに行われている。食クラスター連携協議体は経済団体・行政等の主導に
- 19 -
よる計画的な「場」であることから、当初から一定の資源、メンバーの充実を
図ることができたが、今後は計画に依存しすぎて「場」の活力を失わせないよ
うな対応が必要である。
(4)
「場」の参加者
・ビズカフェにおいては、もともと IT 産業の振興を目的に設置されており IT 事
業者の参加は多かったものの、食や建設、モノづくりなど IT 産業の顧客とな
りうる道内産業との関わりは乏しかった。また、大学とは組織的なつながりは
なく山本強氏を含めあくまで個人的な参加にとどまっていた。さらに道外の大
きなマーケットと直接つながりを有する事業者とのつなぎ役や様々な関係者
をつなぐコーディネーター役が不足しており、企業間の連携も道内事業者同士
が多かったとされている。しかしながら、後述のように参加は自由であり学生
の利用も多く、比較的多様な人材が集うことで「場」の活性につながっている。
・食クラスター連携協議体は一次産業の関わりは相対的に薄いものの様々な食産
業事業者が参画しており、道内の IT 産業や金融機関、大学、行政、市民・消
費者等も参加し多様な関係機関・企業が食クラスター連携協議体に関わってい
る。さらに外部マーケットとのつなぎ役についても、道内だけではなく道外も
含めた大手事業者がメンバーとなっており、大市場とのつながりも存在する点
が特徴である。
(5)
「場」の持つ機能・役割
・ビズカフェは「資金調達システムの欠如」
「マーケティング志向の人材の薄さ」
「ビジネスを目的とした産学官の交流の「場」の不足」など、IT 産業の現状
を具体的に踏まえた事業を展開しており、コーディネーション/ベンチャー支
援、ビジネスサービス、飲食提供などを行っている。またこうしたビズカフェ
の機能・役割を期待して利用する人も多く、ビズカフェのミッションが IT 関
係者を中心に広く共有されていたこと、また当時 IT の産業の現状を踏まえた
ミッション設定と提供サービス(機能・役割)自体は適切であったと考えられ
る。ただ、前述のとおり食や建設など IT 系以外の産業の利用が乏しく、同業
者間のビジネスの広がりを超える成果には十分つながっていないものと考え
られる。この点からは、「場」のミッション、「場」の参加者、「場」の機能・
役割が十分フィットしていたとは言い難い面もある。
・食クラスター連携協議体は事業者から提案されたプロジェクトに対し様々な情
報提供のほか様々なサポート(技術面、商品開発面、販路確保・拡大面など)
を行うほか、道内広域あるいは北海道全体で取り扱うべきテーマを重点プロジ
ェクトとして選定し、中長期的な戦略視点から支援を行っている。またプロジ
- 20 -
ェクトのテーマや課題により、販路拡大ワーキングのような別組織で重点支援
も行っている。基本的に個別のプロジェクトに対しては、担当者による事業者
へのヒアリング結果やタスクフォース会議などを経て課題と支援の方向性を
抽出し、既存の様々な支援ツールを活用したフォローアップを行っている。
・今後、食クラスター連携協議体への事業者の参画を一層活発化させるためには、
こうした食クラスター連携協議体の機能・役割を食関連事業者が十分認識する
ことが必要であるが、現状では事業者に十分理解されていない面もあり、食ク
ラスター連携協議体にかかる情報発信を強化していくことが必要である。
・また、今後、北海道で食の総合産業化を図るためには、良質の提案プロジェク
トの増加と同時に、グローバル競争において北海道に求められる技術基盤の蓄
積や、北海道が有する競争優位性を活かした戦略的なプロジェクトの創出・育
成に食クラスター連携協議体がさらに貢献していくことが必要である。
(6)
「場」の環境への適合性
・ビズカフェに関しては IT 業界の情報交換ニーズには対応していたものの、そ
れ以外の事業者ニーズへ応える機能・役割を十分有してはいなかった。当初よ
り2年間の期限付きで設立されていること、もともと IT 事業者への多様な支
援ニーズにダイレクトに応える、あるいはそうしたニーズにビズカフェ自体を
適合させる仕組みを持ち合わせていなかったためと考えられる。
・食クラスター連携協議体に関しては、プロジェクト参加事業者の抱える個別課
題への対応を果たしている点では適合しており、かつプロジェクト提案した事
業者のアンケート調査等により把握された新たな支援ニーズや体制のあり方
など、環境変化を支援体制につなげる仕組みを有している点が特徴である。
(7)産業の創出・育成への貢献
・ビズカフェはもともと2年という活動機関の中で、IT 事業者間のネットワー
クづくりや円滑な資金調達、多様なビジネス支援を実施するために設立されて
おり、IT 産業の集積形成・発展を主目的としたものではなかったが、道内の
IT 産業に関する情報発信とブランドイメージの構築には多大に貢献している。
・ビズカフェが活動していた時期に、当時北海道全体で進行していた「産業クラ
スター構想」との接点はなかったものの、今後は第 2 期ビズカフェが IT 分野
単独ではなく「食」や「観光」「建設」など北海道の主要産業との戦略的な連
携を通じて、産業全体の振興・発展に資するものと考えられる。
・食クラスター連携協議体に関しては、協議体自体が「場」であると同時に、A,B
などのプロジェクトについてはそれ自体がテーマ性を有した「場」でもあり、
- 21 -
こうした「場」が必要に応じて連携するなど関係を深めることにより、北海道
における総合的な食産業の発展につながっていくものと考えられる。
2.「場」の創出におけるポイント
・「1.IT 分野、食分野における「場」の検証結果」等から、地域産業の創出・
育成に向けた関係者の「場」をいかに創出するか、「『場』をつくる上でのポ
イント」と「『場』を機能させるためのポイント」に分けて以下整理した。
(1)
「場」をつくる上でのポイント
①他の産業と連携を確保すること
・ビズカフェが本道の産業振興につながらなかった要因の一つとして、取り組みが
IT 分野に特化しすぎて、他の産業との関係を築けなかったことがあげられる。
・食や観光、IT、環境あるいは、1次産業、2次産業、3次産業がお互いに交流す
ることで、展開が広がる。分野ごとにそれぞれ独立した「場」を設けるのではな
く、いかに連携を確保するかが、
「場」作りにおいて重要と考えられる。
②「場」への参加者は「個人」ではなく「組織」とすること
・ビズカフェでは、産業界や大学の「組織」ではなく「個人」単位での参加であっ
たが、個人では「事業」まで進めていきづらい。個人でできることには限界があ
るので、組織としての参加が必要と考えられる。
・特に、産業官連携の場合「学」が動かないと、
「場」としての機能は不完全になり
がちである。最近は大学も包括連携などを進めており、
「場」作りを進めるときに
は、大学を巻き込んで展開することがポイントと考えられる。
③「計画型」と「創発型」 の「場」
・
「場」の作り方は、行政や団体などが計画的に「場」作りを行う「計画型」の「場」
と、企業や個人などが自然発生的に集まり「場」を形成する「創発型」の「場」
に分けることができる。
・創発型の「場」は組織が活性化しやすいが一方でコントロールが難しく、計画型
の「場」はまとまりやすいが組織が活性しにくくなるという特徴を持つ。
・「場」が効果を発揮するためには、両方の「場」がつながることが重要であるが、
実際には絡まないことが多く、いかに結びつけるかがポイントとなる。
(2)
「場」を機能させるためのポイント
①アジェンダ(検討課題、行動計画)、戦略の設定
- 22 -
・「場」を機能させるための重要なポイントは、共通のアジェンダ(検討課題、行動
計画)
、戦略を設定することである。
「場」の取組を継続させるためには、中長期の
戦略を持つことが重要である。
「場」の参加者個々が中長期を見据えて具体の行動
を展開することは難しいため、「場」自体が中長期の戦略を持ち、参加者個々のベ
クトルをうまくあわせていくことがポイントとなる。
・例えば第 1 期ビズカフェの勢いが第 2 期につながらなかったことは、ビズカフェ
が共通の検討課題を明確化できなかったこと、ビズカフェの取組を産業戦略に位
置付けられなかったことなどが要因と考えられる。
・また、戦略は構成員全体で共有することが重要である。食クラスター連携協議体
は、組織として高い目標を持って進めているが、参加者個々人の意識や技術レベ
ルに差がある面もみられる。
②コーディネーターの養成・確保
・ITや食、エネルギーなど様々な分野が相乗効果を発揮できるように進めていく
ためには、業界に精通し、マーケットにも連動して、課題をコーディネートでき
る人材が必要となる。
・コーディネーターは、自然と育つものではなく、養成することが必要である。養
成のためには活動を実施させながら育てることが必要で、もし地域にいなければ
外部から引き入れてもよい。
・各分野にどんな人がいるのか、キーパーソンが誰かを知っておくことも重要であ
る(know who)
。それを知らないと、誰とつなげて良いかわからないこととなる。
・北海道では様々なところでコーディネーター不足が課題となっている。例えば道
がコーディネーターを確保し、いつでも紹介できる体制なども必要である。
(革新的役割を果たす主体としても重要)
③信頼関係の醸成
・「場」の機能を十分に発揮するためには、人と人が交流する「場」を設けるだけで
は不十分で、相互の信頼関係を作ることが欠かせない。
・信頼関係を構築するためには、メンバーがお互いに情報提供することが必要。す
べての情報をオープンにしている「場」は信頼関係の構築に成功している。
・信頼の醸成のためには、公式な場面以外でも、関係を深めていくことが重要なポ
イントとなる。ビズカフェでは、昼のイベント終了後夜の飲み会で経営者同士が
交流を図り、そこから信頼が醸成され、いくつかのビジネスが生まれたとされて
いる。
④「場」に参加しやすい仕組み
・連携の「場」を活性化させるポイントとして、若者・よそ者・ばか者が入って来や
- 23 -
すいことがある。そのため、「場」に参加する際の障壁をなくする、或いは低くす
ることが必要である。第 1 期ビズカフェでは、参加が自由な形態で、また、学生
が数多く参加していることが活動の活性化につながった。
⑤ビジネスを志向すること
・「場」の共通の検討課題、戦略を設定する際には、マーケットを意識することが重
要である。ビズカフェや食クラスター連携協議体の取組において指摘されている
が、北海道の場合はプロダクトアウト型の取組が多い。マーケットと連動してプ
ロジェクトを作り上げていくことが必要であり、ビジネスの出口を意識すること
で活動が活性化すると考えられる。
⑥活動への期待感
・「場」の参加者の設定も重要なポイントとなる。検討課題に共感して取り組める人
を選ぶ必要があり、そうした参加者が互いに課題を共有すれば、協力し合う意識
が生まれ、参加者がワクワクと活動への期待感を持つことができる
- 24 -
Ⅳ 新エネルギー分野における「場」のあり方
1.新エネルギーをとりまく環境
(1)新エネルギーに関する北海道の取組みと利用概況
・平成23年3月11日に発生した東日本大震災と福島原子力発電の事故を受け、
エネルギー問題への関心が大きく高まっている。
・北海道では、エネルギー政策を巡る情勢の著しい変化があること等を踏まえ、
省エネルギーの促進、新エネルギーの開発・導入に向けた施策を推進するため
の目標と施策の基本的事項を定める「北海道省エネルギー・新エネルギー促進
行動計画(第Ⅱ期)」を平成24年3月に策定し、この行動計画において、次に
示す「4つの柱立て」に従い進めるとしている。
ⅰ)エネルギー需要家の意識改革に向けた取組:
「省エネルギーの促進」
ⅱ)多様なプロジェクトの早期実現に向けた取組:「新エネルギーの導入加速」
ⅲ)エネルギーの地産地消に向けた取組:
「地域における新エネルギーの導入促進」
ⅳ)民間活力の積極的な活用に向けた取組:
「関連産業の振興」
・北海道は新エネルギーが豊富に賦存しており、その賦存量は風力では全国1位、
太陽光では全国4位と大きなポテンシャルを有している。
・しかしながら一方で、新エネルギーとして利用されている部分はわずかであり、
計画中のもの、構想中のものも少ない状況である。今後はまだ利用されていな
い新エネルギーをいかに利用していくかが課題である。
- 25 -
(2)新エネルギーの課題
◆コスト低減等経済面の課題
・新エネルギーはコストが高くなる傾向にあることが一般的課題と言える。「全
量(固定価格)買取制度」が24年7月1日より施行開始されたが、高額に設
定された買取価格での買取制度は電気料金の値上げにつながる。
◆各発電方法における一般的課題
ⅰ)太陽光発電
気候・気象条件により発電出力が左右されることが課題のひとつに挙げられる。
また、導入コストも次第に下がってはいるものの、更なる技術開発によるコスト低
減が必要である。
ⅱ)風力発電
周辺環境との調和、日本固有の台風などの気象条件に対応した風車の開発、電
力系統に影響を与えないための技術開発などが今後の課題である。
また、北海道では、風力エネルギーの賦存量が大きく、風力発電の集積が期待
される一方で、風況の良好な地域は電力需要が小さい地域で送電網が脆弱であるこ
とが課題のひとつである。
ⅲ)バイオマス発電
資源が広い地域に分散しているため、収集・運搬・管理にコストがかかる小規
模分散型の設備になりがちという課題があげられる。
ⅳ)雪氷熱利用
設置できる地域が限定されるため全国的には導入事例が少なく、現在は農産物の
冷蔵等が中心である。
積雪寒冷地である北海道の特性を活かしたクリーンなエネル
ギーである一方、貯蔵スペースの確保、輸送コストの発生などが課題である。
- 26 -
新エネルギー導入に係る課題一覧
資料)北海道省エネルギー・新エネルギー促進行動計画-平成24年3月北海道
◆資金調達面の課題
・新エネルギー事業は初期投資コストが大きいのが特徴の一つである。
・現状新エネルギー事業を地域で展開するにあたり、市町村が運営主体となるケ
ースについては、市町村の自己資金(起債含む)のほか国や道などの補助金を
原資とする場合が多い一方で、民間主導で実施する場合は自己資金による不足
分を金融機関等からの融資で賄う必要がある。
・しかしながら、金融機関による融資においても新エネルギービジネスの採算性
および自己資金の状況等で必要な程度の融資を受けることが出来ず、事業化を
断念せざるを得ないケースもあると言われている。
・全量買い取り制度への移行により、資金調達環境も変化しつつある。道内の金
融機関においては、電力会社による全量買い取り制度により、新たな融資対象
案件として新エネルギー事業への魅力が高まっており、専門部門や選任者を設
置するなど対応の変化が見られる。
・しかしながら、融資対象案件としては比較的短期での施工が可能でかつ安定的
な電力供給が可能と言われる太陽光発電に偏っており、バイオマスなど他の分
野においては引き続き資金調達面で事業者が苦慮する状況が続くことが想定
される。
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・行政等の資金調達の手法としてレベニュー債※の発行や、民間の資金調達の手
法として市民ファンド等からの出資など資金調達の手法は広がりつつあるも
のの、多額の投資資金を必要とする新エネルギー事業においては限定的な状況
である。
◆新エネルギー事業の今後の展望
・新エネルギーは基本的に高コストであり、安定供給も難しいのが特徴の一つで
ある。そのため火力などと比べてエネルギーとして市場競争力を確保すること
が難しくなっている。
・こうしたことから、新エネルギーは遠方に運搬して利用するより、新エネルギ
ーが生み出されたエリアで利用することに適している。
・現在、新エネルギー電力を電力会社に一定の期間・固定価格で買い取ることを
義務付ける新エネルギーの固定価格買取制度も創設され、今後、北海道内で新
エネルギーのプロジェクトが各地で進むとみられている。
※
「指定事業収益債」や「特定財源債」とも呼ばれ、国や地方自治体などの資金調達方法の一つで、事業
の目的別に発行される債券をいう。道路・空港・港湾・上下水道などのインフラ整備(公共投資)をする
際に、当該事業で必要となる資金を民間から調達する手段として発行される債券であり、公共投資に民間
資金を活用し、自治体等の財政負担を軽くするといった利点がある。
茨城県の外郭団体が運営する廃棄物処理施設「エコフロンティアかさま」
(笠間市)が日本で初めての「レ
ベニュー債」を発行。将来の事業収入を返済原資とした「レベニュー債」により、金利 2.51%(固定)
、償
還期間 24 年以内という条件で、100 億円を調達している。一般にレベニュー債では、調達資金の元利償還
財源は事業収益等に特定され、元利償還は事業の成否に大きく依存する。
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2.新エネルギーの地産地消プロジェクトの創出・育成のポイント
・道内外における新エネルギープロジェクトの現状・課題などを整理し、新エネルギー
の地産地消を速やかに進めるためのポイントを整理した。
(1)道内における新エネルギープロジェクトの概況(既に新エネルギー事業が進められ
ている事例)
・各地域の新エネルギー導入における事例調査を行い、どのような組織が関わり新エネ
ルギー導入が図られたかをとりまとめた。
①稚内市におけるメガソーラー・風力発電・燃料電池・バイオガス・雪氷熱利用導入
ア)事例調査概要
・稚内市が主導し、多様な新エネルギーを導入。風力発電では民間が独自に導入した施設
もある。
・メガソーラー発電施設や水素燃料電池・雪氷熱利用導入については、稚内自然エネルギ
ー研究会が主体的に取組みに関わった。
イ)プロジェクト概要
参加者
稚内市:事業主体
稚内自然エネルギー研究会:事業発案や取組への協力、一部事業主体
プロジェ
クト発足
経緯
・稚内市は気象特性として平均風速 7m/秒を超える風が吹き、古くから水産
物加工等に利用されてきた。
・また新エネルギー賦存量も多く、かねてから環境に対する負荷が低いクリー
ンなエネルギーを模索。
・この特性を活かした風力発電導入の可能性へ早くから着目していた。
・稚内市や民間業者における風力発電導入への経緯を踏まえ、『地球環境を考
える市民の街・稚内』をコンセプトにし、「民間自ら産業を創出する」とい
う目的で、平成 17 年に稚内新エネルギー研究会が発足。
・市民(一部市外)・企業(一部市外)・団体・学識経験者・行政関係者を構
成員とし、平成 17 年 12 月 9 日に環境省より「環境と経済の好循環のまちモ
デル事業要綱」の要件を満たすまちづくり協議会としての承認を受けた。
「場」のミ ・地域における新エネルギーの調査・研究を進め地域振興の可能性を希求する
ッション
・地域の環境に配慮し稚内市における新エネルギーの普及啓発に寄与する
プロジェ
ⅰ)風力発電導入の経緯
クト事業
内容
・NEDO 事業採択により、平成 7 年~8 年にかけ稚内公園内での風況調査を
実施。採算ラインを超える風速7m/秒という結果を受け、取組開始。
- 29 -
・まず、平成 9~10 年 NEDO 事業新エネルギービジョンの策定し、これを
機に平成 10~13 年に稚内市・民間企業が各々風力発電施設を順次建設。
・また、平成 17 年 12 月に 1,000kW 級風車 57 基をもつ宗谷岬ウインドフ
ァームが稼動開始。
・現在市全体で 74 基の風車が稼動。うち 70 基が民間の風車で、そのほとん
どが売電目的。総出力 76,000kW で、稚内市の約 7 割を賄うことができる。
・一部より景観への配慮を求める声があり、風車の建設場所等について稚内
市は独自のガイドラインを策定。
・近年、設備のメンテナンスや部品製造は地元でもできるようになってきた
ことから、今後の経済効果を期待。
ⅱ)水素燃料電池
・平成 17 年に稚内自然エネルギー研究会が環境省公募事業へ稚内市と共同
申請、採択。稚内市が保有する稚内公園の風車(225kW)と燃料電池を
連携させるシステムを公園の無料休憩所に導入し、18 年 1 月「稚内公園
新エネルギーサテライト」としてオープン。稚内公園の風力発電とゲスト
ハウスは市より研究会へ無償貸与。
・休憩所内の電力や給湯を賄うとともに、まだ一般には身近でない燃料電池
が体験できる学習施設として公開。
・近年、環境の変化もあり水素燃料電池への注目が高まり、市内においても
新規事業化へ向け取組みを開始している。
ⅲ)大規模太陽光(メガソ-ラー)発電システム
・平成 18 年に NEDO 実証試験事業が公募され、稚内新エネルギー研究会が
稚内市と協力し、北海道電力等とも協議の上共同で応募・選定。
・市が所有地へ 5MW 級システムと NAS(ナトリウム・硫黄)電池を整備。
・NEDO 実証研究事業が 23 年 3 月に終了、その後稚内市へ条件付無償譲渡
され、現在は稚内市で運営。
・現在、市営野球場・道立宗谷ふれあい公園に電力を供給している。蓄電池
が設置されており、5日分の電力を貯蔵している。
・研究データをインターネット上でも公開。事業者からも問い合わせがある。
・総発電量は約 1,700 世帯分に当たり稚内市全体で消費される電力量の 2~
3%に相当。他のエネルギーと組み合わせ、電力完全自給を目指している。
・また、この施設を中心とし観光振興を図っている。24 年は 1,700 名前後
の視察受け入れがある。
ⅳ)雪氷熱利用
・平成 13 年に有志にて「宗谷ふれ雪会(研究会の前身)
」が結成。
・平成 14 年 3 月に簡易貯蔵施設で農作物の貯蔵実験や水産加工品の貯蔵乾
- 30 -
燥実験を実施、15 年 3 月に NEDO 事業採択により最初の雪山貯蔵施設を
造成・ 本格的に開始。
・現在、雪氷貯蔵し糖度を上げたジャガイモ「勇知いも」を高付加価値化す
る取組が食クラスター連係協議体事業で進められている。
ⅴ)バイオガス(生ごみ中間処理施設)
・稚内市では、廃棄物の焼却処理を行っておらず、可燃・不燃合わせ一般ゴ
ミとして収集していた。また、広大な埋立地を確保するため、全量埋立て
をしてきたという経過があった。
・廃棄物削減を目的とし、稚内市では生ごみ中間処理施設の整備へ着手。埋
立量減量を目的として微生物の発酵により減容化するとともに、発酵の過
程で発生するバイオガス(メタンガス)の回収を行いエネルギーとして活
用を行うという「2つの側面」を持つ施設を整備。
・市が主導し、事業主体は民間。完成後、所有権を市へ移転し、平成 24 年
4 月より「稚内バイオエネルギーセンター」として本格的に稼働が開始。
・回収されたバイオガスは、施設内での電力や暖房・乾燥用の熱源等に利活
用している他、余剰電力の売電、圧縮天然ガスとして直接ゴミ収集車両の
燃料として活用。また、施設で処理された乾燥残渣を堆肥に利用、処理水
は施設内で再利用。その他にも施設見学を通した環境学習への取組を行っ
ている。
・尚、当該施設で発電した電力で、グリーン電力証書事業にも取り組む意思
がある。
・バイオガスに関しては稚内自然エネルギー研究会は関係していない。
マ ネ ジ メ ・稚内自然エネルギー研究会は平成 20 年 3 月 31 日現在、企業・団体 52 団体、
ント体制
個人会員 145 人で構成。
や参加者
・会員数が多いことから通常の会務執行については役員会で決定。
の関わり
・役員は学識経験者(稚内北星学園大・北大・足利工大・東工大等)、民間企
方
業(地元建設業・設備業・金融等)、行政関係者(市・開発局・宗谷振興局
等)。
・事務局を平成 19 年まで稚内市が務めた。稚内市は全体の主導・誘導を行い、。
稚内自然エネルギー研究会は太陽光・水素燃料電池・雪氷熱利用において稚
内市と共同で関わった。
行政の役
割
・環境省事業の稚内市との共同申請をきっかけに平成 19 年までは稚内市地域
振興課が研究会事務局を担当。事業終了とともに事務局を辞退、一メンバー
として参加。事業終了後は活動も収束し研究会と稚内市との協働がなくなっ
た。
・事業実施の際に市所有施設を研究会に無償貸与。
- 31 -
課題
ⅰ)蓄電池
・費用対効果が見込めない。メガソーラー用の蓄電池導入におよそ 7 億円を
要したが耐用年数 10 年以下と短く、導入に障壁。
ⅱ)送電網整備
・送電線が脆弱で本州への売電が出来ない。
ⅲ)産業としての新エネルギー展開
・市内に十分な数の発電施設があり、市内エネルギー需要も少ないため、自
家使用分も飽和状態にあり増設が出来ない。
・やはり産業としての確立のためには、余剰電力の水素燃料電池保存・大消
費地への販売事業が不可欠である。
ⅳ)国・道の支援体制について
・種類によって所管省庁が違う(太陽光:経産省、バイオマス:農水省等)
ことや、複数の省庁でそれぞれ助成制度があるため現場が情報収集を円滑
に実施できなかった。
ウ)事例から得られた結論
・当該事例において、稚内自然エネルギー研究会という「創発型」の「場」が事業
に主体的に関わったと言える。事業の共同申請を機に事務局を市が務めていた時
期があり、
「創発型」の「場」の特徴である「コントロールが難しい」という点に
おいては問題がなかった。
・また、風力発電事業に関しては、市が独自で進めたものと、民間が独自に進めた
ものが併存している。
・市は「事業化は民間が行うべき」という姿勢を強調しており、市としては厳しい
財政事情もあり、事業の申請時の協力や情報・ノウハウ提供等の出来る範囲での
協力をしていくスタンスでいる。
・事業の課題として、国・道の支援体制が必要である。エネルギー種類によって所管
省庁が違う(太陽光:経産省、バイオマス:農水省等)ことや、複数の省庁で助成
制度があるため現場が混乱する状況もあった。また、北海道の新エネルギー政策に
係る組織内の統一感がない。例えば、新エネルギーの導入を進めている経済部と農
地など用地の規制を所管する部署とで意見が異なることがあり、北海道として、
「庁
内での統制を図り進めてほしい」との提言があった。
・また、課題に送電網の整備を挙げ、電力の消費地から遠方へ行けば行く程、エネ
ルギー分野における地域産業創出の難しさが分かった。但し、水素燃料電池への
取組を開始しており、技術の進歩如何では、送電網整備が不要となるため、今後
の展開が期待される。
- 32 -
②浜中町 農協による太陽光発電システム導入の取組み
ア)事例調査概要
・浜中町農協では、
「永続的な農業生産を可能にする」という目的で、農業生産の根幹を
成す「自然」についての意識が高く、環境への取り組みへ力を入れており、農業者等の
地域住民は自然と環境意識の醸成ができていた。この経緯を踏まえ、農林水産省の交付
金を活用し環境分野での先進的な取り組みを検討し、管内の農業経営体の敷地内への太
陽光発電システム導入を発案。
・当初は交付金の範囲内で小規模システム導入を検討していたが、年度内で廃止される別
の助成制度の存在が明らかとなり、制度要件に見合う 10kW級大規模システム導入へプ
ロジェクトが変更となった。
・管内 200 戸弱の農業経営体のうち 105 戸が設置意思を表明、設置までの諸調整を浜中町
農協が全て請け負い、プロジェクトの主導的役割を担った。
・結果として、全体で約1MW級の大規模太陽光発電施設となった。
イ)プロジェクト概要
参加者
事 業 主 体:中山間浜中・別寒辺牛集落(農協管内農業者で構成)
事
務
局:浜中町農協
アドバイザー:㈱光と風の研究所(コンサルタント)
プロジェ
・平成 22 年初頭に、浜中町農協が管内の農業経営体敷地内へ小規模の太陽光
クト発足
発電システム導入を発案。農林水産省「中山間地域等直接支払制度」の交付
経緯
金範囲内でできる環境への取り組みとして、農業生産活動に使用する電力へ
自家使用する目的であった。
・平成 22 年春には農協総代会で、まずは 22 年度内に実施可能調査を行うこと
を了承。しかし導入時期等の詳細については未定であった。
・平成 22 年秋にコンサルタントからの情報で、太陽光発電導入に係る農水省
の別の助成制度の存在を知る。しかも年度内限りで廃止されることが決定し
ており、当該制度活用のためには時間的余裕がなかった。尚且つ、要件は
10kW以上の非住宅用施設への2分の1補助であったため、当初案を変更
し、実施可能性について事業主体の管内農業者 200 戸弱への個別説明へ早急
に取り掛かった。
・結果、105 戸の設置意思があり、需要が高いとの判断から年度内導入を決定。
・農協内に事務局を設け、施工・設置までの諸調整を全て担当、プロジェクト
において主導的役割を果たし、早期導入へ向け尽力した。結果、平成 23 年
2 月施工開始、4 月に完了し、5 月より供用開始された。
プ ロ ジ ェ ・発電量は各戸 10kW で、105 戸全体の総発電量は 1,050kW(=1.05MW)にもな
クト事業
る。各戸で発電した電力を、搾乳等日常の農業生産活動で使用する電力へ充
- 33 -
内容
当し、余剰電力は北海道電力へ売電。売電価格は 24 円/kWh。
・初期投資額は1戸当たり約 700 万円だが、助成金を使用し自己負担分は 150
万円程度となった。余剰電力の売電額も勘案すると、搾乳等に使う電気代は
導入前より 20~25 万円/年のコスト節減となり、初期投資額は7年余りで
回収できる見込みである。
・自己負担分は、自己資本で賄えた者もいるが、それが難しい酪農家のために、
農協として方策を検討、金融部門と合議して新しい融資制度を立ち上げた。
通常よりも優遇された金利設定としたこともあり、銀行やファンドからの借
り入れは一切なかった。
マ ネ ジ メ ・農協は事務局としてプロジェクトの主導的役割を担っただけではなく、投資
ント体制
額の確保においても尽力した。また、コンサルタントの㈱光と風の研究所は
や参加者
ノウハウや情報収集において重要な役割を担い、特に助成制度の情報提供が
の関わり
なければ当該プロジェクトが実施できなかったと言える。
方
・地元企業は、施設の基礎工事と資材運搬を担当。特に資材運搬が地元業者で
ある強みを活かし、流れるような施工体制を組めたことが短期間での完成に
つながった。
・農業委員会とは、設置場所について綿密な相談を行い、必要に応じて現地確
認を行ってもらった。農地法の農地転用規制に係る確認のため。
行 政 の 役 ・農林水産省の2つの助成制度を併用。また、町役場は、プロジェクト実施の
割
話は通っていたが、直接的にはプロジェクトへ関わっていない。
課題
・導入前における情報・ノウハウ不足。
・送電線整備に係るコスト等についての北海道電力との交渉の結果、一定程度
抑えることができ、「基本的に集落で負担した」とのこと。
・農地法の規制により、設置場所が「農地ではない」という確認を農業委員会
へ綿密に行った。
・蓄電ができないこと。蓄電設備はまだ高額で導入できなかった。
キーマン
・浜中町農協内に設置された事務局を、営農課係長の宮崎氏が担当。宮崎氏が
プロジェクトの中心となり、工程等の全体管理や諸調整を行った。
ウ)事例から得られた結論
・当該事例は、「場」を形成せずに進められた事例である。「農協」という組織力の
強い団体が主導した事例と言える。民間コンサルタントからのノウハウ・情報収
集で独自に進め、外部連携もほとんど取らなかった。
・行政については、農水省が助成を行ったが、町役場との連携は特に無く、所謂「産
官学連携」のような形式を取らずに進められた。
・目的として、
「永続的な農業生産を可能にする」という視点で、農業生産の根幹を
- 34 -
成す「自然環境保全」の取り組みを進めるということであったため、ビジネスを
志向することもなかった。但し、本プロジェクトを実施したことで、環境イメー
ジを前面に押し出した農産物(牛乳)の高付加価値化を図ることができる土台と
なった点については、ビジネス面においての取組成果と言って良い。
・最も課題となった点については、送電線整備について巨額のコストがかかった点
を挙げているが、農協や事業主体による負担等で解決した。また、導入前の情報・
ノウハウ不足についても相談先が分からなかったことから情報提供の窓口機能を
持った機関が必要であると考えられる。
・尚、これだけ多くの農業者が一斉に太陽光発電システムを導入したのは、全国で
は初めての試みで、現在でも浜中町以外に取り組み事例がないと思われるとのこ
とである。平成23年度には北海道省エネルギー・新エネルギー促進大賞(新エ
ネルギー部門 奨励賞)を受賞している。
・工期中には東日本大震災が起きた後であり、この取組みが注目され始め、現在で
は新聞や雑誌等の各媒体での様々な報道や行政等の事例調査が行われている。尚、
報道や調査・取材等を通じ、情報発信として、「浜中町(農協)は環境へ配慮した
クリーンなエネルギーで農業生産を行っている」というイメージを発信している。
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③下川町 木質バイオマス事業
ア)事例調査概要
・町の基幹産業である林業を中心とし地域振興を図ることを目的とし、下川産業クラスタ
ー研究会が町及び民間で設立された。
・研究会において下川町・下川町商工会・下川町森林組合が中心となり、議論を進める中、
木質バイオマス事業の可能性について言及。事業化への運びとなった。
・町内施設へのボイラー導入を機に取組みが促進され、平成26年度には木質バイオマス
熱電供給プラントが着工される予定であり、バイオマスタウン構想実現へ向け活動が活
発化している。
イ)プロジェクト概要
参加者
ⅰ)下川産業クラスター研究会
・森林組合代表・企業経営者・自営業者・主婦・行政関係者の 6 名が発起人
となり設立。
・「フォレ・コミ」実行委員会での町・商工会・森林組合 3 者の協力体制が
研究会の軸となり、プロジェクト会員を集めるにあたっては、地域での生
活・仕事や「フォレ・コミ」の活動を通じて知り合った、「対話」を行っ
ていけそうな人物に声をかけていくという方式で、結果的に菓子店経営・
農家・主婦・建設業・牧師・町職員・製箸業・エミューによるベンチャー
企業・製材業・森林組合勤務・大工等多種多様のメンバーが参加。
ⅱ)五味温泉 木質バイオマスボイラー導入
・町役場主導で、財団法人下川町ふるさと開発振興公社がバックアップ。設
置された五味温泉は、下川町ふるさと開発振興公社が管理・運営する施設
であった。
・また、筑波大学名誉教授の熊崎實氏に講演会開催・賦存量把握等のポテン
シャル調査で協力を得た。
ⅲ)その他
・下川町は北海道大学と協定を結んでおり、地域活性に関しての研究、人的
交流でバックアップ。その他、東京大学等様々な大学・研究機関と連携。
・木質ペレットの原料となる可能性を秘める「ヤナギ」について森林総合研
究所と共同研究。
プロジェ
ⅰ)
「フォレスト・コミュニケーション・イン・しもかわ」
クト発足
・平成 8 年に下川町において森林・林業体験ツアー「フォレスト・コミュニ
経緯
ケーション・イン・しもかわ」が下川町・下川町商工会・下川町森林組合の
3 者から成る「フォレ・コミ」実行委員会により計画・実施。委員会へは
13 名のコアメンバーがおり、この時に3者の協力体制が築かれた。
- 36 -
ⅱ)下川産業クラスター研究会
・基幹産業である林業を中心とした地域振興を図ることを目的とし、平成
10 年に下川産業クラスター研究会を設立。
・研究会では初年度、3つのプロジェクトに分かれ、そのうちのグランドデ
ザインプロジェクトでは林業・建設業・酪農・教諭・町役場・NPO・一
般市民等の産官学民で構成、活発な議論が行われ、
「ゼロ・エミッション」
の木材加工という考え方が育まれ、木質バイオマス事業実施の可能性につ
いて提言。
・研究会は平成 19 年に発展的解散、役割を後述の財団法人下川町ふるさと
開発振興公社内クラスター推進部へ移行。
ⅲ)財団法人下川町ふるさと開発振興公社内クラスター推進部
・研究会での検討を事業化に踏み出す段階では支援・コーディネート等より
専門的な組織が必要であるとの論議がなされ、平成 14 年にクラスター推
進部が設置。以降、クラスター推進部が研究会の事務局を担うとともに事
業化のための総合的な支援を行うこととなった。
・平成 19 年下川産業クラスター研究会を発展的解散後、その役割をクラス
ター推進部に完全移行。
ⅳ)木質バイオマス事業実施経緯
・まず平成 12 年 10 月に日本ペレット協会会長でバイオマスの権威である筑
波大名誉教授の熊崎實氏を招き、講演会を開催。賦存量の把握が必要との
指摘される。
・平成 13~14 年に NEDO 事業活用で「下川町地域新エネルギービジョン」
を策定、賦存量調査を実施。結果、木質バイオマスが有望であると分かっ
た。
・また、エネルギー需要量調査実施の結果、五味温泉(下川町ふるさと開発
振興公社が管理運営)が町内で最もエネルギー消費量が多いことが判明
し、バイオマスボイラー導入を検討。平成 15 年 NEDO 事業で実施可能性
調査実施を経て、道内初の木質バイオマスボイラー(180kw(15.5 万
Kcal)
)の導入を決定。
・事業費:7,200 万円、環境省事業により、2分の1補助を受け実施。
・ボイラー熱を温泉の加温、館内の暖房、給湯に使用。
・重油価格の高騰等があり、木質バイオマスが結果的に効果が高いことが証
明され、町営の施設に次々に導入された。
「場」のミ
ッション
ⅰ)下川産業クラスター研究会
・自主・自律に向けた足腰の強い産業構造の構築のための新産業創出と、地
域産業の発展方向等の検討・研究を行い地域の振興を図ること
- 37 -
ⅱ)財団法人下川町ふるさと開発振興公社内クラスター推進部
・研究会での議論を実際の事業化へ繋げるためのより専門的な組織
・事業化につながるアイデア発掘から研究開発、地域産品の開発支援と販売
促進、地域活性化に関する調査・研究等総合的な支援と事業を行い地域産
業の振興を図ること
プロジェ
ⅰ)五味温泉 木質バイオマスボイラー
クト事業
・ランニングコストを約 400 万円/年程度節減、8年程で投資額を回収。
内容
・この結果を受け、町営その他施設へ次々に導入、町内熱需要の 42%を賄
っている。
ⅱ)木質原料製造施設
・平成 22 年に木質原料製造施設を整備、運営開始。
・建設当時町営であったが、経済的に成り立つシステムを調査・研究後、24
年度に町が指定管理者として「下川エネルギー供給協同組合(町内の灯油
販売会社 4 社で立ち上げ)
」へ管理委任、完全民間移行。
・製造した製品は、木質バイオマスボイラーへの燃料や家畜用敷料として提
供(販売)
。木くず 16.59 円/kg、おが粉 1,575 円/㎥で販売(運搬費含まず)
している。
ⅲ)地域熱供給システム
・役場周辺4施設の熱源として木質バイオマスボイラー導入、連動させ地域
熱供給システムとして平成 22 年より稼働。
・将来的に当該システムを町内の他地域へ導入、これらを全て繋ぎ連動させ
たいという展望がある。しかし、当該システムにはイニシャル・ランニン
グコスト、熱ロス、原料確保等、クリアしなければならない様々な課題が
ある。
ⅳ)カーボンオフセット
・平成 20 年より、下川・美幌・足寄・滝上町と共同(森林バイオマス吸収
量活用推進協議会を組織)で、カーボンオフセットの取り組みを開始。ク
レジットをJ-BERへ販売。
ⅴ)エコアクションポイント事業
・町民が行う環境配慮活動の対価としてポイント付与、商品券と交換できる
制度を実施している。ポイントが全て貯まると 500 円の商品券になる。
・具体的な「環境配慮活動」とは、例えば剪定枝等の回収・木質バイオマス
ボイラー使用温泉への入浴・環境イベントへの参加等。
・町内で経済活動してもらうことで地域振興へも役立っている。
ⅵ)環境モデル都市エコツアー
・視察対応の窓口を下川町ふるさと開発振興公社クラスター推進部へ一本化
- 38 -
し分かりやすくしたことで、平成 22 年度は約 800 名の視察があった。
ⅶ)エコハウス美桑
・平成 22 年木質ペレットボイラー・ストーブ等を利用した環境共生型モデル
住宅を建設、モデルハウスとして住民への導入に向けた普及啓発を実施。
・モデルハウスへ導入した木質バイオマス(ペレットストーブ等)等の環境
負荷低減技術を「下川型エコ住宅」とし、町内への建設を促進。また、機
器導入時に費用の一部を助成する制度を町として制定。
マネジメ
ント体制
や参加者
・クラスター研究会は事務局を町職員が担当していたが、平成 14 年に財団法
人下川町ふるさと開発振興公社内クラスター推進部に移行。
・更に平成 19 年には、研究会の役割全てを移行し、研究会は解散。
の 関 わ り ・当時の活動資金確保方法として、賛助会員システム及び年会費制を導入して
方
おり、年会費は、企業・団体・機関会員については1口 2 万円、個人会員は
1 口 5 千円となっていた。
行政の役
割
・下川産業クラスター研究会は役場関係者が発起人で町職員が事務局を務め
た。また、各プロジェクトへ役場関係者が参加。
・五味温泉への木質バイオマスボイラー導入は研究会での議論や活動を踏まえ
町役場主導で実施。
・農林水産省の2つの助成制度を併用。また、町役場は、プロジェクト実施の
話は通っていたが、直接的にはプロジェクトへ関わっていない。
課題
ⅰ)五味温泉へのバイオマスボイラー導入時の課題
・木質バイオマスボイラー導入時の平成 16 年頃は、重油価格も高騰してお
らず、地域住民からの抵抗があった。高コスト・不安定な出力・技術の未
発達のものを何故導入するのかという意見があった。
・具体的には、重油と比較し 60 万円/年程コスト高になると予想されてい
た。しかし、多少コスト増となっても、今後の林業全体を考え、導入が必
要であると町長が判断を下し、導入を決定。しかし、その後重油価格が高
騰したことから、結果的には重油と比較し約 360 万円/年の削減ができ
た。
ⅱ)バイオマスの「事業性」
・事業・経営として成り立ち、利益を出さなければ意味がない。
・イニシャルコストは補助金に頼ってもランニングコストは収支の合うもの
でなければならない。重油等との競争力が必要。
ウ)事例から得られた結論
・当該事例は、行政主導の「計画型」の「場」が主体的に事業へ関わった。研究会
設立前より、別の取組みを通じて町・商工会・森林組合の3社の協力体制が強固
- 39 -
に敷かれており、研究会設立や取組を進めるにあたってスムーズに進めることが
出来ている。
・「計画型」とは言え、民間を巻き込み活発な議論を行ったことで、「場」の活性化
を図ることに成功しており、「場」の活性化が事業化へ向け重要な役割を担った。
・プロジェクトの特徴として、最も大きな目的として「林業の経営存続・林業を中
心とした地域振興」を挙げており、そのためのプロセスとしての新エネルギー導
入であったことが特徴的である。木質バイオマス事業取り組みは現在では広がり
を見せ、大規模プロジェクトとなっており、地域産業の創出に成功したことから、
総合的には成功事例として評価できる。
・導入時の課題として、
「事業性」を挙げている。当該事例では、目的が「林業の経
営存続」であり、
「バイオマスは副産物である」とのことから、事業性がなければ
導入の意味がないとしており、結果的には重油高騰に助けられ大幅な削減効果の
実現が大きく、その後の事業展開への大きな一歩となっている。
- 40 -
④足寄町 木質バイオマス事業
ア)事例調査概要
・産官学の様々な業種の有志が集まり、足寄町の基幹産業である「林業」の活性化を目的
とし、「あしょろ森林工房」「足寄町ペレット研究会」「とかちペレット協同組合」等の
「場」が形成され、木質バイオマスの導入・発展を試みた。
・足寄町が木質バイオマス事業発展の支援を目的とし、新庁舎建設の際にバイオマスボイ
ラーを導入。重油価格の高騰等があり、木質バイオマスが結果的に効果が高いことが証
明され、町営の施設に次々に導入された。
・上記組織には行政関係者も参加しており「行政」と「場」の連携がうまく取れている。
イ)プロジェクト概要
参加者
足寄町、九州大学、足寄町内の民間事業者等
プ ロ ジ ェ ・足寄町は広大な町面積のうち 84.9%が林野で林業が町の基幹産業のひとつで
クト発足
あったが、木材価格低迷や後継者不足等から衰退の一途をたどり、森林の荒
経緯
廃が懸念されていた。
・足寄町役場の主導により、森林資源の保全、林業の再活性化等の観点から、
木質ペレットを活用したバイオマスエネルギーの活用について、検討が進め
られてきた。
・「足寄町の施設の地元産材での建設」という町議会報告、平成 13 年 NEDO 事
業による「足寄町地域新エネルギービジョン」策定、同年 9 月林野庁補助事
業があり、これを「絵に描いた餅にしたくない」という地域住民の思いと、
「最初は小さくとも話し合うことが重要」と当時九州大学助教授(農学部附
属北海道演習林長)であった岡野哲郎氏(現信州大学農学部教授)の呼びか
けもあり、自然発生的に産学官から 20 名程度が集まり「あしょろ森林工房」
を立ち上げ、実際の事業化を目指し活動を開始。新エネルギーや森林・町お
こし等について幅広く語り合う「場」となった。
・平成 14 年 6 月には岡野氏の指導の下、ペレットを輸入に頼らず自ら製造す
る目的で造粒機購入を検討・購入に係る補助金の受け皿となる目的で「足寄
町木質ペレット研究会」を組織。あしょろ森林工房・町・民間等が参加。
・道事業と町の補助金により小型ペレット製造機(国産品で価格 400 万円)と
ペレットストーブを取得、これらを活用して町の特産資源であるカラマツを
利用したペレットの試作と燃焼実験を行い、ペレットの有効性を確認。
・平成 15 年度に NEDO 事業により実証実験実施、木質バイオマスの事業化へ向
けペレット生産・販売を行う事業組織「とかちペレット協同組合」を設立。
研究会を母体とした異業種 14 社が参加。
・また、町では同時期に、新庁舎建設計画があり、そこへ大型ペレットボイラ
- 41 -
ーを導入する計画を立てた。公共施設でのペレット活用や住民のペレットス
トーブ購入に助成措置を設け、市場の確保が想定できるようになったため、
本格的な工場建設を行うこととなった。
・但し工場を新設すると採算性が厳しいことや、輸送コスト削減を可能にする
ため、芽登地区に着目、同地区にあった廃校を工場として転用するため、内
閣府等の行政機関と調整を実施。転用のための情報提供を十勝支庁より受け
た。
・平成 17~19 年度にかけては道からの助成を受け、木質ペレットの供給体制
の整備や安定需要の確保が進められた。また、足寄町の新庁舎建設も一部こ
の補助を受け 17 年度に着工し、新庁舎の床暖房等に利用する毎時 50 万 kcal
の木質ペレット焚温水ボイラー2 基を設置。
・平成 18 年 3 月に新庁舎へ先行してエネルギー棟が完成、隣接する消防庁舎
への熱供給が新庁舎に先行して開始。平成 18 年 10 月には新庁舎が完成・導
入。新庁舎で使用される木質ペレットは、全て平成 17 年 10 月本格操業を開
始したとかちペレット協同組合が製造を行い、完全な地産地消の実証が開始
された。
「場」のミ
あ し ょ ろ 森 林 工 房 :地域活性化のための様々な議論の「場」となる
ッション
足寄町木質ペレット研究会:ペレット製造実験を行うための行政補助金の受け皿組織
とかちペレット協同組合 :木質バイオマス事業化におけるペレット製造・販売の
ための事業組織
各組織活
足
寄
町 :(木質バイオマスボイラー導入における)事業主体
動内容
あ し ょ ろ 森 林 工 房 :木質バイオマス等の様々な議論の「場」
足寄町木質ペレット研究会:ペレットの製造実験や普及啓発等
とかちペレット協同組合 :ペレット製造・販売等(事業組織)
マネジメ
ント体制
や参加者
の関わり
方
ⅰ)あしょろ森林工房
・会は自由参加。活動資金(会合の交際費)は自己負担であった。
ⅱ)足寄町木質ペレット研究会
・事務局は足寄町役場岩原氏・㈱イエツネ家常氏・マルショウ技研㈱渋谷氏
と名簿上ではなっているが、活動が盛んに行われていた当時は、事務や取
りまとめをマルショウ技研㈱菅原氏が行っていた。
・会は年会費制となっており、年会費は個人会員でも1万円/年。個人会員
だけでも 20 名程度は在籍していたため、活動資金は最低限確保できてい
た。
ⅲ)とかちペレット協同組合
・中島氏が理事長を務め、組織は中小企業等協同組合法に基づき、事業協同
組合として法人格を持った完全な商業・民間団体で、14 社で構成。それぞ
- 42 -
れが自らの事業で参加している。
行 政 の 役 ・プロジェクト発足時の関係者のまとめ役になったほか、製造されたペレット
割
の公共施設での積極導入などを行った。
・また関係事業者への補助制度など情報発信や新エネルギービジョンの策定な
どを行った。
キーマン
・町役場の岩原氏のリーダーシップで取組開始前より町役場にて木質バイオマ
スエネルギー活用について検討が行われていた。岩原氏はあしょろ森林工房
等にも参画したが、当時は「行政として」ではなく「個人として」参加。足
寄ペレット研究会の事務局も務めた。
・当時九州大学教授・北海道演習林長の岡野哲郎氏(現信州大学農学部教授)
は、あしょろ森林工房等の設立に向け重要な役割を果たした。
・町内建設業(マルショウ技研㈱)菅原氏や町内造林業(宮口産業㈱)中島氏・
東北海道木材協会の家常氏(㈱イエツネ代表)を中心に、活発な議論が行わ
れ、事業化へ向け重要な役割を果たした。
課題
ⅰ)とかちペレット協同組合
・収支改善が課題。需要拡大が必要。
・需要拡大に成功すると、今度は原料確保が課題となることが予想される。
ウ)事例から得られた結論
・当該事例は、「創発型」の「場」が事業に主体的に関わった。また、「創発型」の
「場」の「『場』が活性化しやすい」という特徴のとおり、活発な議論が行われた
からこその事業化成功であった。尚、中心メンバーの「人材の質」が高かったと
いうこともあり、
「場」のコントロールができていた。
・あしょろ森林工房は議論の「場」であったが、基本的には酒席で、自由参加とな
っていた。このため、地元新聞記者や研究者等、ペレットストーブメーカー等、
様々な人材の出入りがあった。これにより「場」が活性化し、種々の情報収集や
ノウハウの蓄積ができたことが、後の事業化へ重要な役割を果たした。
・事業の課題として収益改善を挙げている。現在のペレット販売事業が、期待され
る程の収益を上げておらず、需要拡大を図ることが課題となっており、現在町で
は助成制度を設ける等、民間事業者へのペレットストーブ導入の取組み支援を行
っている。
- 43 -
⑤ニセコ町 地中熱利用・マイクロ水力発電・雪氷熱利用
ア)事例調査概要
・ニセコ町の CO2 排出量は全国の 1.4 倍(北海道の 1.2 倍)であり、ニセコ町基幹産業の
農業・観光の根幹を成す環境について、
「環境保全」の目的で取組みを開始。
・平成 22 年度に総務省事業採択を機に、これまでの「環境保全」という意識から、新エ
ネルギーへ意識を向け始め、導入検討を開始。
・実証実験を行い、町内へは地中熱ヒートポンプやマイクロ水力発電が設置されており、
事業化へ向け取り組みが進められている。
イ)プロジェクト概要
参加者・役
割
ⅰ)緑の分権改革推進事業
推進委員会
・行政・学識経験者・農協・市民等産官学民より多様なメンバーが参加。事
務局は町役場の企画環境課が担当。
ⅱ)ニセコ自然エネルギー研究会
・上記推進委員会の委員を中心に結成され、同様に事務局を町役場企画環境
課が担当。また、ニセコ高校のクラブ活動の一環として、ニセコ高校の一
部教師と生徒が参加。
プロジェ
クト発足
経緯
ⅰ)地域状況と環境への取組み開始の経緯
・平成 7~8 年にまちづくり基本条例策定に向け、検討委員会委員を住民を
含め公募。委員会での議論で、ニセコ町の基幹産業である農業・観光の根
幹を成すのは自然であるということが再認識された。また、この委員会を
町民参加型にしたことで、他都市より早く環境に対する意識が根付いた。
・ニセコ町の CO2 排出量は全国の 1.4 倍と高く、環境意識の醸成とも相俟
って環境保全を目的とし環境への取組みを開始。
ⅱ)環境対策 経緯
・平成 14 年に堆肥センター建設により資源の地域内循環。16 年には住民参
加型で環境基本計画を策定・環境条例が制定。15 年度には NEDO 事業活
用し「ニセコ町地域新エネルギービジョン」を策定、各種新エネルギーの
賦存量等を調査したが、新エネルギー導入への取組は本格的には進まなか
った。
ⅲ)新エネルギー導入 ~
緑の分権改革推進事業
・平成 22 年度当該事業採択を機に新エネルギーへ意識を向け始め導入検討
開始。22 年度はマイクロ水力・木質バイオマス・農業系バイオマス・雪
氷熱利用に係る賦存量・可能性・実証調査を実施、23 年度に雪氷熱を使
った倉庫・中小水力・風力発電等について事業モデルと採算性について検
討。
- 44 -
・また、学識経験者並びに町民からなる緑の分権改革推進委員会を組織し、
新エネルギー導入等について議論を行う「場」を開催。尚、委員会の委員
が中心となり「もっと勉強したい」とのことからニセコ自然エネルギー研
究会を設立。
・23 年度には新エネルギーへの取り組みの推進体制として人的ネットワー
ク構築や情報交換の仕組みづくりを図ることを目的とし「ニセコ町エネル
ギー戦略会議」を実施。会議は公開で行われた。
・事業化のためにはより専門的な新たな組織体を立ち上げることが望まれる
とし、
「ニセコ再生可能エネルギー事業化協議会」を立ち上げる計画で、
地域事業者や関係行政機関・金融機関等を中心に組織し、「事業スキーム
構築・関係者の利害調整・地域の合意形成・積極導入に係る地域住民・地
元企業への普及啓発・事業収益からの基金管理と活用」の 5 点に取り組む
としている。
表
ニセコ再生可能エネルギー事業化協議会の事業推進体制(案)
資料)平成23年度緑の分権改革推進事業実施報告書
ⅳ)新エネルギー導入 ~地域主導型再生エネルギー導入検討事業(平成 23 年度)
・NPO 法人北海道グリーンファンドが受託。地域が主体となる再生可能エ
ネルギー事業を担う主体育成や各地の事業の具体化の検討・調査事業。
・事業では、北海道グリーンファンド・ニセコ町・石狩市・NPO 法人ひと
まちつなぎ石狩の 4 者で「北海道再生可能エネルギー事業化検討協議会」
を設立。石狩市・ニセコ町での事業化検討と主体形成・確立、事業化へつ
なげ、事業を通じた人材育成や事業ノウハウを獲得、北海道各地における
- 45 -
再生可能エネルギーの面的拡大につなげることが目標。
・現在石狩市では、事業会社設立等のスキーム構築に入っており、ニセコ町
では事業主体の形成を図るため、上述の「ニセコ再生可能エネルギー戦略
会議」を実施。このため当該事業は一部緑の分権改革推進事業と連動して
いる。
・戦略会議では、事業資金確保のための市民出資についての情報収集、数パ
ターンの資金の構成について考察。また、上述のとおり、今後の事業化の
推進のため、
「ニセコ再生可能エネルギー戦略会議」の議論から「ニセコ
再生可能エネルギー事業化協議会」への移行を図る。
ⅴ)ニセコ自然エネルギー研究会の発足
・緑の分権改革推進委員が中心となり、自然エネルギーの調査研究、普及啓
発等を目的とする住民組織が平成 23 年 4 月に発足。住民組織ではあるが、
事務局を町が務め、活動資金についても町が補助した。いずれは自立して
運営していくとしている。
「場」のミ
ッション
ⅰ)ニセコ自然エネルギー研究会
・自然エネルギー活用によりニセコ町のエネルギー自給率向上と、地球環
境・温暖化問題への貢献するニセコ発の自然エネルギービジネスを生み出
す。また、環境先進地を目指し低炭素社会の実現のためには、ライフスタ
イルの転換等も求められることから、環境教育が重要となる。このため、
子供から大人まで環境意識を醸成することと、町民による環境技術の研究
によるノウハウの蓄積を進める。
・将来的には、研究会での活動内容を発展させ、農業や観光等のニセコ町の
産業と結びつき、経済活性化につながるようことを目標としている。
プロジェ
ⅰ)雪氷熱利用
クト事業
・緑の分権改革推進事業で、雪氷倉庫の実証実験実施。
内容
・24 年度からは町内農家を対象とする補助事業として開始され、JAの米
倉庫は 24 年から雪氷熱を活用予定。
ⅱ)地中熱利用
・平成 22~23 年に地球温暖化対策実行計画を策定し、その中で賦存量が多
いことが確認されていた地中熱利用へ着手、公共施設への導入を決定。
・23 年度、町民センター・コミュニティ FM・有島記念館・ニセコ高校ハ
ウスに導入。ニセコ高校のハウス栽培は冬期出荷が可能となった。
・ニセコ高校で収穫された農産物は町給食センターに出荷。人材不足等から
安定出荷が難しいため難しいが、今後の方向性としては、道の駅やホテル
への出荷に検討の余地があると考えている。
・将来的に農業へ地中熱を本格利用し、「フードマイレージを図る・通年農
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業を可能にする・CO2 削減を図る」等が目標。現在ではコスト面から実践
している農家はないが、将来的な導入や地域産業創出への展開に期待。
ⅲ)マイクロ水力発電 経緯
・緑の分権改革推進事業では、町内5ヶ所の水車を設置・町内河川の調査を
行ったが中小水力発電については「事業採算が見込まれない」と判断され
た。
・そこで、緑の分権改革推進事業とは別に、売電目的ではないマイクロ水力
発電への取組を開始。平成 22 年度に実証実験のための調査を行い、23 年
度に適地調査後、改良設置を実施。現在、水車は有島記念館、竹内農場、
ニセコ小学校横の 3 台設置されており、町内の街路灯で使用している。
・今後の事業化へ向け検討中。
ⅳ)その他
・上記の他、太陽光パネルがニセコ町民センターへ導入されている。
※自然エネルギーに関する研究や勉強会等の開催や、ニセコ高校農業ハウスの
地熱利用の研究成果発表、大学・メーカー等から講師を招聘する等して、様々
な情報収集・ノウハウの蓄積を行っている。
※情報発信として Facebook 内に研究会 HP を設置、当該 SNS を活用した情
報発信や、ニュースレター発行・町広報への記事の掲載等を実施。
※将来的には、収益事業への発展を目標としており、カーボンオフセットクレ
ジットの販売や、グリーン電力証書の販売、有料エコツアー等のアイデアが
ある。尚、収益事業を行う場合、現在の任意団体から NPO 法人化を検討。
マネジメ
ント体制
や参加者
ⅰ)ニセコ自然エネルギー研究会の運営体制
・現在事務局は町役場内(企画環境課環境エネルギー係内)に設置、事務局
が HP を通じて勉強会の参加受付等、運営業務を行っている。
の関わり
・当初は設立から1~2年を目処に事務局の自主設置を行うとしていた。
方
・当会は会員制だが、入会・年会費無料で誰もが会員へなれる。
・活動資金の確保方法としては、活動費の補助を町役場から受けており、町
へは研究成果やエネルギー情報等でフィードバック。また、企業協賛会員
を募集し、協賛金を1口1万円・1社5口まで受付ける等している。
行 政 の 役 ・町役場は各研究会等の事務局を務めており、新エネルギー導入プロジェクト
割
の全てを主導。また、ニセコ自然エネルギー研究会へは活動費を補助してい
る。
課題
ⅰ)マイクロ水力発電
・最低でも 500kW程度の発電量がないと、事業化が困難。町内の河川は発
電量が少なく、調査終了までに数年かかるため事業化までに現在の固定価
- 47 -
格買取制度価格が維持されるか疑問視。
・導入にかかるイニシャルコスト。
・他にも、導水菅工事費や水利権、送電線の課題や、景観への配慮、生態系
への影響等、事業化へ向けては様々な課題がある。
・また、水車の立地に好条件な適地が町内へあまりないこと。適地は民間事
業者等が既に開発済である。尚、好条件地である川の落差のあるところには
人が住んでないため、自家使用には向いておらず、全て売電事業となってし
まうことも検討のポイントの1つである。
ウ)事例から得られた結論
・当該事例は、行政主導の「計画型」の「場」が主体的に事業へ関わった。しかし
委員会等の組織を早くから住民参加型にし、
「場」の活性化を図ることに成功した。
住民参加型は、住民の意識醸成を促進させ、行政主導の「場」の中からニセコ自
然エネルギー研究会のような住民組織が誕生したことが特徴的である。
・ニセコ自然エネルギー研究会へは活動資金補助や事務局担当等、町が重要な役割
を担っており、
「対価」として研究内容や情報のフィードバックが行われ、町が立
ち上げた別の「場」にも活かされていくことが推察されるため、持ちつ持たれつ
の関係となっている。
・地熱利用やマイクロ水力発電の事業化については今後の取組次第であるが、雪氷
熱利用の JA 倉庫への利用等、プロジェクトの「芽」は育まれており、今後設立予
定の「ニセコ再生可能エネルギー事業化協議会」において取り組みが促進されて
いくことが推察される。
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⑥オホーツク管内 オホーツク・テロワールによる雪氷冷熱利用の取組み
ア)事例調査概要
・フランスの農村部では約 50 年前まで同様の情勢であったが、「地方自然公園制度」の
下、産業が創出され人口が増加し、「魅力ある農村づくり」に成功。これをモデルケー
スとし、オホーツク地域の活性化等を目的に、(一社)オホーツク・テロワールを設立、
地域の取り組みを支援するプラットフォームとなるべく活動を開始した。
・地域での雪氷熱利用導入へ向け、テロワールが中心(事務局)となり、「氷雪等自然再
生エネルギー利用研究会」を立ち上げ、事業化へ向けたマッチングを図るべく、様々な
支援活動を行っている。
イ)プロジェクト概要
参加者
行政、地域の民間企業、農業者等多数
プ ロ ジ ェ ・地域の持つ潜在的な価値や可能性を見直し、地域特有の「冷涼な気候」と「流
クト発足
氷を含めた無尽蔵の氷雪」を積極的に利活用すること、その方策として氷雪
経緯
を含む自然エネルギーの活用の可能性に行き着いた。そこへ地域の「食」
「漁
業・農業」分野とのマッチングを検討し、この雪氷熱利用プロジェクトが開
始された。
・当該研究会は、プロジェクト事業化のために必要となる情報収集・ノウハウ
の蓄積や、事業化へ向けた様々な支援等を行う「場」となるため平成 24 年
に設立。
「場」のミ ・プロジェクトや研究会の最大の目的は、「地域における付加価値創出」が最
ッション
大の目的で、雪氷熱利用で農産物や加工品における高付加価値化を図るため
の様々な支援や方策検討、事業化へ向けたマッチング等を行うこと。
プ ロ ジ ェ ・平成 24 年 5 月の研究会立ち上げ前より先行してプロジェクトは進んでいた。
クト事業
内容
23 年 12 月にアンテナショップを開設、24 年初頭に雪氷熱の実験施設が完成。
・加工実験用として押さえていた 12t のジャガイモを、実験施設完成直後より
施設に貯蔵し始め、実験を開始した。
・貯蔵したジャガイモを冷凍し、既にアンテナショップや HP でのインターネ
ット販売・テレビショッピングでの販売の試みを開始している。また、実験
的に生協の「トドック」での販売開始を予定している。
・現在までに会は2回開催され、専門家より助言や情報を収集しノウハウを蓄
積している。また、事業化へ向けたマッチング支援方法を模索している。
マ ネ ジ メ ・プロジェクト全体の調整役として研究会の事務局をテロワール理事であり清
ント体制
里町役場課長である古谷氏が担当。また、プロジェクトリーダーを地元建設
や参加者
業経営の渡邊氏が担当、実験施設建設。
の 関 わ り ・研究会は自由参加で、広く参加を呼びかけており、結果、北見工業大学等の
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方
学識経験者、行政機関、農業者や加工業・建設業・菓子店や金融等の商工業
等、多様なメンバーが参加している。
行 政 の 役 ・北海道経済産業局より、農商工等連携対策支援事業の助成をオホーツク・テ
割
ロワールが受けている。また、生産者が集う販売会等の開催については、オ
ホーツク総合振興局からも補助金を受けている。
・北海道開発局網走開発建設部は、テロワール活動初期からシンポジウム開催
への協力や、研究会の参加メンバーとなっている。
課題
・参加者の意識は高いが人材や財政面に余裕がないこと。
・活動内容や理念に(地域における)社会的認知がまだない。
キーマン
・オホーツク・テロワール理事でもある渡邊氏(地元建設業)、古谷氏(清里
町役場課長)がプロジェクトの主導的役割を果たす。
・古谷氏の他にも自治体職員等の行政関係者がいるが、テロワールへの初期メ
ンバーは「行政として」ではなく「個人として」参加している。
エ)事例から得られた結論
・当該事例は、企業・個人等が自然発生的に集まった「創発型」の「場」が新エネ
ルギー導入へ主体的に関わったと言える。行政は、助成金の交付や研究会のアド
バイザーとして参加している。また、活動メンバーに自治体職員等の行政関係者
が多くいるが、
「行政として」ではなく「個人として」参加している。
・事例には「創発型」の「場」の特徴が良く表れており、メンバーは皆意識が高く
組織は活発ではあるものの、実験雪氷冷熱施設の建設やアンテナショップ立ち上
げが行われるなど、事務局が事業全体をコントロールしきれていない部分が見受
けられる。
・研究会は自由参加であるため、農業者や加工業者、建設業や菓子店等多様なメン
バーが参加し、
「場」が活性化している。今後、事業化へ向け更なる広がりを見せ
ることが期待されている。
・また、実験段階ではあるものの販路開拓にも取り組んでおり、
「場」としてビジネ
スの「出口」を良く意識していると言える。
・組織や研究会では、活動資金や、人材の人数に余裕がないことを課題として挙げ
ている。活動資金については、複数の行政機関から補助を受け確保している。人
材不足については、組織内の役割分担をしっかりと行うことで対応している。情
報やノウハウについては、学識経験者やコンサルタントが参加しているため、特
に課題となっていない。
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(2)道外の新エネルギー分野の先進事例
■岡山県真庭市のバイオマスタウン
・鳥取県と接する森林地帯に位置する岡山県真庭市は、中山間地という地理的特徴もあり、
人口減少・限界集落の増加等の困難に直面していた。
・こうした状況下、将来を懸念する民間有志により「21 世紀の真庭塾」が平成 5 年に組織さ
れ基幹産業である木材産業を基に様々な事業に取り組み、地域の維持発展を図っていた。
・この「21 世紀の真庭塾」の活動は、行政も取り込みつつ、バイオマスタウンへの取組と発
展していった。民間主導のバイオマスタウンの取組は全国的にも珍しいケースである。
・同市の取組は、全国的にも注目を集めており、バイオマスタウンの視察希望者を対象と
するバイオマスツアーは年間 2,000 名を受け入れている。
▼真庭市概要
地理
・岡山県北中部に位置し、平成 17 年3月に近隣の 5 町 4 村が合併し
て市制移行。人口約 49,000 人。
人口
・約 49,000 人
主要産業
・西日本一の木材集散地域であり、林業・木材産業がさかんである。
全生産業の生産額のうち、木材関連が約 1/4 を占める。
・林業から出てきた丸太を売る市場、製材所、製品を売る市場が地
域に全て揃っているという特徴がある。
バイオマスタウン
の取組
・平成 5 年に設立された民間による任意団体「21 世紀の真庭塾」の活
動が行政を取り込みながらバイオマスタウンの構想を構築してい
き、平成 18 年、国からバイオマスタウンの指定を受けた。
・平成 18 年からバイオマス視察者を対象とするバイオマスツアーを
開始。年間 2,000 人ほどが視察に訪れ、バイオマスツアーは平成
21 年経済産業省第 14 回省エネ大賞金賞(経済産業大臣賞)を受
賞している。
・平成 24 年現在、木質バイオマス活用地域エネルギー循環システム
確立事業等に取り組むなど、バイオマスタウンとしての更なる維
持発展に尽力している。
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▼「21 世紀の真庭塾」概要
設立経緯
・平成 5 年、現真庭市を南北に貫く高速道路が開通し、交通の便が
良くなる一方、地域においては「地域産業が都市部に吸い取られて
衰退していくのではないか、人口が流出していくのではないか」と
いう懸念が広まった。
・これを受け、地域産業の活性化に向けた勉強会を行う案が持ち上
がり、平成 5 年 4 月に、地元の若手を中心とする「21 世紀の真庭
塾」が設立された。
・当初は製材業・製造業者、医師、飲食事業者、家具職人等の異業
種約 20 名の任意団体としてスタートした。
・活動のベースとなる理念は、「『ないものねだり』ではなく、地域
にある木質資源に再び目を向け取組を各自・各企業が実践し実施
すること」である。
活動の変遷
【設立当初】
・設立後の三年間は仕事が終わってから、省庁・自治体幹部、シン
クタンク、金融機関等、各界の有識者や著名人を招き、勉強会を
行うという活動を続けていた。
・これと平行して、参画者がそれぞれの立場で出来る活動を行って
いたが、特に顕著な活動を行っていたのが、集成材・製材を主要
事業とする銘建工業株式会社、コンクリート製品の企画開発・製
造販売を主要事業とするランデス株式会社であった。
・銘建工業株式会社は、自社内で発電やペレット製造等をおこなっ
ていた。ランデス株式会社は、木片とセメントを混ぜ合わせた製
品の開発に取り組んでいた。
【勉強会の実施】
・21 世紀の真庭塾の勉強会は、大別して「町並みの再生部会」と「ゼ
ロ・エミッション部会」に分けられ、ゼロ・エミッション部会がそ
の後のバイオマスへの源流となった。
・ゼロ・エミッション部会では、真庭市の木材産業の副産物が大変
多いことから、木質資源をうまく利活用しつつ、本流を伸ばそう
という構想の骨格が出来上がっていった。これが平成 13 年に策定
された「木質資源活用産業クラスター構想」へと繋がっていく。
・勉強会からヒントを得て事業化への展開に踏み切る事業者も現れ
始め、これが前述のバイオマス関連の発電や商品開発へと繋がっ
ていく。
- 52 -
【行政の参画】
・平成 12 年、21 世紀の真庭塾が新たに始めた「マーケティング研究
会」に行政が参加するようになり、共同でマーケティングの調査研
究に取り組むようになった。
・以降、真庭塾の活動に行政が関わることになったが、特徴的な事
として、行政は民間主導で図られている事業展開をサポート、連
携調整等をおこなう役割に徹していることが挙げられる。
【NPO法人化】
・設立後 10 年を経た平成 15 年、NPO 法人化された。NPO 法人化
は、組織強化というよりは、地域における開かれた組織として、
自分たちの理念に賛同してくれる方に参加してもらい、地域に根
付かせていくということを重視したことによる選択であった。
【バイオマス本格化】
・平成 15 年 2 月に開催された真庭フォーラムにて、「バイオマス・
マニワ宣言」が採択された。
・バイオマス真庭の第1ステージとして、平成 18 年 3 月に「真庭市
バイオマス利活用計画」が策定された。
・平成 18 年 5 月に真庭市が「バイオマス・ニッポン総合戦略推進会
議」が指定するバイオマスタウンに選ばれ、これを受け、議会、産
業界、市民代表者らで「バイオマスタウン真庭推進協議会」が設立
された。
【バイオマスタウン真庭 第1ステージ】
・バイオマスタウン真庭の第1ステージとして、平成 18 年 3 月に「真
庭市バイオマス利活用計画」が策定された。
・バイオマスタウン真庭推進協議会は、利活用推進事業や理解醸成
事業の方針を決定する。
・真庭市バイオマス利活用計画は、産業政策の一つとしてバイオマ
スの利活用を図っていくバイオマス産業の活性化が大きな柱とな
っており、その効果としてコミュニティの活性化、循環型社会の
形成、二酸化炭素社会の抑制を目的としている。この地域一帯と
なって、バイオマスの利活用を進めていこうというものである。
計画事業者は、木質系及び畜産系バイオマスの生産者自らの積極
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利用、エネルギー利用の促進、マテリアル利用の促進、新産業の
創出を目指す。市民は、エネルギーとマテリアルの利用促進、積
極的な分別収集、地域主体の活動への積極参加を行う。行政は、
バイオマスの率先利用や普及啓発活動、補助事業、設備導入支援
を行い、産業振興・地域活性化に努める。
キーマン
・銘建工業株式会社の中島浩一郎社長、ランデス株式会社の大月隆
行社長が主導的な役割を果たしてきた。
・井手紘一郎市長(高校教師→県議会議員→市長2期目)がかつて
件森林組合連合会長を務めており、森林業界とのネットワークを
有し、町村合併の混乱の中でバイオマス推進を継続できたことも
重要なポイントである。
▼バイオマスタウン真庭推進協議会
連携協議体の機
能・役割
・バイオマスタウン真庭推進協議会は、真庭市長、市議会代表、行
政代表、産業代表、市民代表から構成される。行政、産業、市民
はそれぞれが推進プロジェクトを持っており、各推進プロジェク
バイオマスタウン
真庭推進協議会
ト間は事業者連絡会議で連携を図る。
・木材関係の連携というのは、森林組合や木材事業協同組合という
- 54 -
形で、既に昔から存在している。特に山から製材まで一連の流れ
の中には、真庭システム協議会があり、これには森林組合や真庭
地域木材組合などが事務局を持っているが、ここにも市の林業担
当が関与しているし、様々な形で行政もそれぞれに関与はしてい
る。ただし歴史ある林業を地域の産業政策の中で位置づけようと、
行政が連携し始めたのは 2000 年のことであり、行政は関連してい
る全てに対して、事務局を持っているわけではない。
「場」の性格
・製材から販売までフルセットの体制が元々整っていたこともあり、
森林組合の活動等を通じて関係者の結束は固く、議論する「場」
も多い。
・バイオマスタウン真庭推進協議会は、プラットホーム真庭地域に
よる全ての関係者により構成され、バイオマスタウン真庭推進協
議会で決定された事業方針に基づき、真庭市バイオマス担当課に
事務局のある事業推進本部が各種事業の推進を行っている。
・関係者全員で真庭のバイオマスの進むべき方向性について、今の
実態も含めて方向性を出していこうとする流れになっており、代
表的な機関であることに変わりはないが、どちらかというと承認
機関としての役割が大きくなっている。
・学識経験者などから構成されるアドバイザリーグループをおき、
バイオマスタウン推進協議会に対し、各種政策に関する専門的指
導や専心事例紹介等をする。
・専門家などによるワーキンググループをおき、事業推進本部が特
殊性、専門性などの機能を得るため調査・研究を行う。
・アドバイザーグループやワーキンググループは必要があれば、バ
イオマスタウン推進協議会が個別の事業展開の時に作成されるも
のである。
・全体的な真庭の取り組みの中では、バイオマスタウン真庭推進協
議会は、次の方向性を決定し、それを承認する機関になっている。
関係団体の長や市民の代表者が様々なところで連携しており、協
議会自体の性格は承認機関的なものに落ち着いている。
連携協議体の機
能・役割
・バイオマスタウン真庭推進協議会は、真庭市長、市議会代表、行
政代表、産業代表、市民代表から構成される。行政、産業、市民
はそれぞれが推進プロジェクトを持っており、各推進プロジェク
バイオマスタウン
ト間は事業者連絡会議で連携を図る。
真庭推進協議会
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▼今後の課題と第2ステージ
課題
・民主導で始められたこの活動のコアな人材は、年齢が 50 代後半ぐ
らいであり、既に円熟期を迎えている。組織の中では徐々に若返
りを図る必要があり、次世代への交代の準備が必要と思われるが、
そのような動きは見られていない。ただ今までの理念が若い世代
に受け継がれていく方式、あるいは今の状況や時代に合わせたよ
うな新たな論理の構築も合わせて、この地域そのものが徐々に若
返っていく仕組みというものが、今の段階では無いことが問題で
ある。
第2ステージ移行
の理由
・バイオマスタウン真庭により、真庭市のバイオマスへの取り組み
は一定の基盤の整備ができた。今後は、地域資源を活用したバイ
オマス産業の創出を重要施策として推進する。
・第2ステージへの移行には、人材育成が必要になってくる、産学
官の連携も必要になってくる、それと出口との有効な連携を探し
ていかなければならないため、そのための組織作り、拠点整理等
を行政の方でしながら、様々な大学だとか研究機関、企業と連携
して事業推進を図っていくことを狙っている。
第2ステージの目
指すもの
・真庭市と岡山県が共同で、バイオマスリファイナリーの共同研究、
バイオマス関連の人材育成、バイオマス産業創出の拠点として、
真庭バイオマスラボが平成 22 年 4 月 16 日に開所した。ここでは、
真庭モデルのバイオマスリファイナリー事業の展開やバイオマス
資源の収集~転換~供給~利用をするための地域連携システムの
確立を行うために産学官連携によるバイオマス産業の創出を目指
している。こちらは貸し出しの研究室であり、研究機関等が入居
し地域で新しい技術開発が可能であり、またその基盤も出来てき
ているというところである。現在は、産業技術総合研究所、ヤマ
ハリビングテックが入居しており、ナノファイバーをプラスチッ
クに混ぜるような研究をしている。
・バイオマスリファイナリー事業推進協議会は、バイオマスリファ
イナリー事業の創出のために民間の発意により、研究機関、大学、
企業、国、県や関係団体から構成される官民共同組織で平成 22 年
6 月 21 日に設立された。真庭をフィールドにリファイナリーの関
係の調査研究実証等が進んでいる。
・バイオマス関連事業者の人材育成講座の実施による人材育成と市
民を対象とした理解醸成事業や小学校等の総合学習など実施によ
る普及啓発を行っており、人材育成の講座は真庭市が大学生等を
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中心にしている状況である。
・CO2 の価値を上手く使えないかということで、国内クレジット制
度の活用等もしており、真庭市庁舎の冷暖房がバイオマスボイラ
ーを利用しているため、その削減分を企業に販売して、企業一緒
になって森作りをしていくという新しい取り組みも始めている。
・高付加価値化を目指し、様々なニーズに見合った原料供給および
体制構築を目指す。
・真庭市が目指すべき新産業の未来像としては、地域の問題を解決
し、未来価値への投資を育て、地域人材の排出を促し、地球環境
への貢献をしていくというものである。持続的に成長し続ける地
域の新産業の創出が目標である。
▼事例から得られた結論
・真庭市のバイオマスタウンの事例からは、創発的に結成された「21世紀の真庭塾」が
地域の産業振興に向けた様々な活動の母体となっていった点が注目される。この「21
世紀の真庭塾」は地域の木材資源を活かした取組を理念として掲げており、行政や民間
事業者、市民など多様な主体が参画する仕組みをもちつつ、勉強会を重ねてその後の活
動の原動力となる知識を蓄積していったといえる。
・この「21世紀の真庭塾」は平成 18 年度には「バイオマスタウン真庭推進協議会」の結
成につながっているが、この協議会も行政や民間事業者など多様な主体から構成されて
いる。また、協議会での検討結果は真庭市のバイオマス関連事業にかかる政策にも影響
を及ぼしており真庭市のバイオマス行政の基礎となる位置づけである。
・現在、バイオマスタウン真庭推進協議会は第2ステージに移行しており、これは環境変
化を的確にキャッチし「場」を進化させようとするものと捉えられる。
・当事例は地域振興を目指した「場」としての「21世紀の真庭塾」の結成から、さらに
それを母体に「バイオマスタウン真庭推進協議会」「バイオマスリファイナリー協議会」
など新たな「場」が誕生し、それぞれが機能・役割を補完し合うことで地域全体のバイ
オマス事業の効果的推進につながっている点が大きな特徴である。
○ポイント
・木材資源を活かした地域振興を目指すための「場」として「21世紀の真庭塾」が結
成され、そこから新たなミッションを持った様々な「場」が誕生している。
・各「場」は行政や民間事業者、市民、大学、研究機関など多様な主体が参加しており、
真庭市のバイオマス行政にも大きく影響している。
・キーマンとなる事業者が「場」の円滑な運営に寄与している。 など
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(4)小括
・今般の新エネルギー分野事例調査では、各地域において新エネルギー導入に際し、
「どのような「場」が関わり取組が進められたか」、「導入における課題の整理」
等を重点テーマとし、調査を行った。これまでに新エネルギー分野における「場」
の調査や研究についてはあまり例がなく、実態調査の中で基本的な状況を把握す
る程度にとどまっていた。
・ヒアリングを通じて分かったことは、各地域において取組を進めるにあたって立
ち上げられた研究会等の各組織が重要な役割を果たしていることが分かった。研
究会等を設立し、「場」を形成し、そこへ産官学民が参加することで情報収集・ノ
ウハウ蓄積を行い、導入に向けた活発な議論・検討を行っている事例がほとんど
であり、新エネルギー導入に向けてはこのような「場」の構築が必要不可欠であ
ることが分かった。
・「場」には主に民間有志主導の「創発型の場」と行政主導の「計画型の場」に大別
することが出来、各地域ともいずれかの「場」が重要な役割を担っていた。
・また、
「場」も含めた各組織には、全体のコントロールが出来るコーディネーター
の役割を持ったキーマンやリーダーシップが必要であることも分かった。プロジ
ェクト全体の舵取りが出来る有能な人材が存在することにより、取組促進に繋が
りやすいことも分かった。
・導入における課題点については、「情報・ノウハウ不足」「送電網整備」「法規制」
「組織の活動資金や導入に係る事業資金の確保」等があることが分かり、今後の
新エネルギー導入に向けた支援政策については、このような点に注意しながら進
めていかなければならないことが推察される。
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3.新エネルギー地産地消プロジェクトの創出・育成に資する「場」のあり方
・IT 分野、食分野における「場」の検討、並びに新エネルギー分野における概況や
先行事例調査などを考慮しつつ今回の調査事業で設定した「場」の分析枠組みに
従い、新エネルギーの地産地消プロジェクトの創出・育成に資する「場」のあり
方について以下のように整理した。
(1)新エネルギー分野における「場」づくりのポイント
①産業の特徴
・エネルギー供給者から需要者(事業所、住民)
、行政などプレーヤーが幅広く、地
域社会の理解と協力が不可欠である。また多くの新エネルギーにおいて、供給者
と需要者が近接しているという特徴を持つ。
・法律面の規制も多く様々な対応が求められる。施設の立地や利用に関する規制な
どに対しても円滑な調整が求められる。
・火力など競合するエネルギーと比較して、事業採算性の確保が難しく、各種支援
制度や固定価格買取制度などの効果的活用が求められる。
・個々のプロジェクトは地域分散型であり、地域の資源に適した技術やプロジェク
トを主導する人材やノウハウ等を確保する必要がある。
・設備投資に係るコストなど多大となる事業資金の確保や地域で資金を回していく
仕組みの構築が必要である。
②「場」の持つミッション
・地域で推進する新エネルギープロジェクトのミッションを明確に設定する必要が
ある。例えば新エネルギー事業を通じてどのような地域・産業の発展イメージを
描くのか、また具体的にどのような行動計画を立てるのか、個々の参加者の役割
と最終的な目指すゴールの明確化が必要である。
・さらにプロジェクト参加者は何がしかのメリットが享受できないと、活動を持続
することが難しくなりがちであり「場」は社会性だけでなくマーケットを意識し
たビジネス志向で進めることが求められる。
・事例からもミッションが明確であるがゆえに、当初の小規模な取組みからプロジ
ェクトの展開につながったケースが見受けられた。
③「場」のマネジメント
・「場」は計画的な「場」と創発的な「場」に大別されるが、創発的な「場」におい
ても「場」を効果的に維持していくためには、「場」の運営方法や体制、活動計画
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などを「場」づくりの段階から可能な限り具体化しておくことが望まれる。
・「場」の運営については特に活動資金をいかに確保するかが大きなポイントとなる
が、事例からは市町村が事務局を担ったり、各種情報提供、国や道などへの各種
申請など事務局機能の役割を果たすなどして「場」の運営を維持するケースもあ
り、行政の関与も一定程度有効と考えられる。
・さらに参加メンバーの信頼関係の構築を図るため、交流会を効果的に組み入れる
事例などもあり、こうした仕組みを「場」に組み入れていくことなども必要と考
えられる。
④「場」の参加者
・「場」は多様な参加者が集まることにより活性し、プロジェクトの効果的な推進に
つながるケースが多い。
・新エネルギーは多様な主体の参加により、プロジェクトが成り立つという性格を
持つことから、「場」には「金融機関」「ユーザー」「機器製造業者」「新エネルギ
ー事業実施者」
「NPO」「IT 事業者」「食など他産業」「大学・研究機関」「行政」
といった様々な主体の参加が期待される。
・参加の形態においても、当初は志を同じくする有志といった視点から個人として
関わりを持つケースが多いものと考えられるが、個人としての活動には限界があ
ることから、出来る限り「組織」として「場」に参加することが望ましい。
・また、
「場」を機能させる要因の一つとして「コーディネーター」の役割を担う主
体が必要不可欠であり、地域に人材が見当たらない場合は外部から招き入れるこ
となども必要である。
・さらに新エネルギーに関しては、様々な規制やビジネスとして進める上で専門的
知識が求められることから、新エネルギー分野におけるキーパーソンを把握して
おくことなども必要である。
⑤「場」の機能・役割
・「場」の機能・役割が参加者にとって魅力的になることにより、参加しようとする
動きが活発になる。そのため「場」がミッション達成に向けてどのような機能を
持つべきか、また「場」に対しどのようなニーズがあるか十分検討していくこと
が必要である。
・また、新エネルギー事情や「場」をとりまく環境変化等に「場」が適合していく
ことが望ましく、
「場」の機能・役割も状況に応じて変革していくことが必要であ
る。この点については『⑥「場」の環境への適合性』でもふれる。
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⑥「場」の環境への適合性
・新エネルギーをとりまく環境変化は激しく、ややもすると「場」が硬直化してし
まいプロジェクトそのものの進行にも悪影響をもたらすことが懸念されるところ
である。
・そのため常に新エネルギーや、「場」をとりまく環境変化を効果的にキャッチし、
「場」が状況に応じて変革できる要素を残すことが望ましい。
・例えば、参加者の中に新エネルギーや「場」をとりまく環境変化をキャッチでき
る主体を「場」のメンバーとして取り入れたり、
「場」の機能・役割などが環境に
応じて柔軟に変化できる仕組みを入れることなども検討していく必要がある。
・また、産業創出・育成に効果的に寄与するには、特定の「場」が単独で活動する
よりも、目的や利害が一致する他の「場」と協調することも効果的であると考え
られる。このような「場」と「場」の連携・協調は新エネルギー分野どうしだけ
ではなく、
「IT」や「食」など他の産業分野で形成されている「場」も含めて検討
されるべきである。新エネルギーは特性上、
「場」は地域分散型となるのが基本と
考えられるが、産業の創出・育成を通じて地域振興を図る上では、その地域に応
じた様々な産業との関わりをもった総合的な発展を目指すことが効果的と考えら
れる。
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新エネルギー分野において求められる「場」のイメージ
新エネルギー産業の性格
(環境面)
・多額の事業資金
・各種規制 など
行政
(事業特性面)
・需要者と近接
・多様な産業、プレー
ヤーが関係 など
エネルギー供給者
大学・研究機関
電力事業者
機械・装置メーカー
NPO
他産業(IT、食、
エネルギーの需要者
金融機関
建設、観光)等
(市民等)
その他関係事業者
必要に応じ他の
「場」とも連携
○「場」づくりにおけるポイント
・ミッションの明確化(社会性とビジネス性)を図る
・創発的な「場」であっても運営方法や体制、活動計画など基本部分は可能な限り具体化する
・IT や食など多様なメンバーが参加できるようにする
・環境変化に応じた変革できる要素を残す
・他の「場」との連携も視野に入れる
・他産業や機関、他の「場」などとネットワークを持つコーディネーター的役割を有するメンバーの
参加 など
- 63 -
(2)新エネルギー分野における「場」の支援のあり方
・
今後、新エネルギーを主要なエネルギー源の一つとして捉え、中長期的に持
続的発展が可能な循環型社会経済システムを北海道内に構築していくために
は、新エネルギープロジェクトの創出・育成に資する「場」が多く誕生する
とともにそれぞれが活性していくことが求められる。
・
北海道では、地域のこうした取組を強力に推し進めるため、
「本庁・振興局連
携基盤」を構築し、連携体制を強化していくことが求められる。
・
具体的には、振興局は定期的に地域の取組を情報収集し、プロジェクトの芽
を発掘していくとともに、本庁の関係部では、こうした芽を多様な主体の連
携により「プロジェクト」に育て上げ、地産地消の取組みを加速化していく
ことが求められる。
・
さらに、今後、新エネルギー分野における技術面での北海道の優位性を活か
し、産業基盤の強化を図り、関連産業の振興などを図る上では、大学や公設
試験研究機関および多様な事業者と連携し、個々の「場」のネットワーク化
(横連携、縦連携)や、戦略性の高い新エネルギー分野でのプロジェクト提
案なども期待される。
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新エネルギー分野における「場」の支援に向け求められる北海道の体制
地域プロジェクト
に新
おエ
けネ
るル
「場 ギ
ー
」 分
野
バイオマス
発電導入
必要に応じて横
の連携を図る
【風力】
プロジェクトの
芽
市町村等
支援
○○振興局
○○部
地域プロジェクト
地熱
発電導入
地域プロジェクト
【小水力】
プロジェクトの
芽
民間企業
発掘
○○振興局
○○部
支援
○○振興局
○○部
金
融
機
関
省エネ
設備導入
NPO
発掘
支援
○○振興局
○○振興局
○○部
○○部
リ
ー
ス
会
社
本
庁
・
振
興
局
連
携
基
盤
経済部環境・エネルギー室(連携基盤の事務局)
研究機関
大学
産業支援機関
知
的
基
盤
農水省等
経産省等
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環境省等
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地域産業創出・育成機能形成調査事業
報告書
平成 24 年 10 月
北海道経済部
(㈱北海道二十一世紀総合研究所 受託)
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