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発生や再生の国際学会で話題のニシキヘビとは

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発生や再生の国際学会で話題のニシキヘビとは
今、発生や再生の国際学会で話題のニシキヘビとは:日経メディカ...
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http://nmoadm.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/cvdprem/topics/2011...
2011. 12. 27
New Insight from Basic Research
特定の組み合わせの脂肪酸は⼼臓を保護する
古川 哲史=東京医科⻭科⼤学
最近、⼼臓に関連した発⽣・再⽣の国際学会に出席すると、「今話題のニシキヘビが
(Currently very hot python is)・・・」「みなさんよくご存知のようにニシキヘビは
(As you all know, python)・・・」といったフレーズを頻繁に⽿にする。pythonの何
が話題なのか⾒当もつかなかった⼩⽣は、1⼈取り残された気分だった。
10⽉28⽇にScience誌に発表された下記の論⽂で、pythonがなぜ話題となっていたのか
を、やっと理解することができた。pythonがエサを⾷べた後に⾎中で増加する特定の脂肪
酸のコンビネーションが、⼼臓の成⻑やパーフォーマンスの向上に重要な役割を果たして
いるというのである。
Fatty acids identified in the Burmese python promote beneficial cardiac growth.
Riquelme CA, et el. Science. 2011;528:528-31.
⼼肥⼤には、⾼⾎圧などに伴う病的⼼肥⼤(harmful hypertrophy;有害⼼肥⼤)と、
出⽣後の成⻑や妊娠、運動に伴う⽣理的⼼肥⼤(beneficial hypertrophy;有益⼼肥⼤)
とがある。
病的⼼肥⼤では、⼼不全のマーカーとしてわれわれが利⽤している脳性ナトリウム利尿
ペプチド(BNP)や⼼房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)などの遺伝⼦発現が亢進し、
これとともに⼼機能が障害される。⼀⽅、⽣理的⼼肥⼤ではANPやBNPの遺伝⼦発現は亢
進せず、⼼機能は障害されるどころかそのパーフォーマンスは向上する。
pythonはめったに摂⾷しないが、摂⾷するときは信じられないほど⼤量のエサを⼀度に
摂取する(「星の王⼦さま」で、ヘビがゾウを飲み込んだ場⾯が⽬に浮かぶ)。その⾷後2
⽇をピークに、40%程度の⼼肥⼤が起こる。この時、病的⼼肥⼤経路のシグナル(細胞内
情報伝達)は活性化されず、⽣理的⼼肥⼤経路のシグナルが活性化される。
では、pythonにおいて、⾷後⽣理的⼼肥⼤をもたらすものは何なのだろう。
2011/12/19 15:37
今、発生や再生の国際学会で話題のニシキヘビとは:日経メディカ...
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図1 pythonの摂⾷後⾎漿の中性脂肪濃度と⼼筋肥⼤作⽤ A:摂⾷後の⾎漿中性脂肪濃度の経⽇
変化。B:摂⾷後、種々の⽇数が経過したpython⾎漿をラット⼼筋細胞に添加したときの細胞径の
変化(ネガコン=⾎漿⾮添加時、ポジコン=⼼肥⼤作⽤が知られているフェニレフリン添加
時.*:P<0.05 vs. ネガコン)。写真・図はRiquelme CA, et el. Science. 2011;528:528-31.
より引⽤
pythonは⾷後1⽇をピークに、⾎中の中性脂肪が52倍も増加していた(図1A)。この⾎
漿を哺乳動物であるラット⼼筋細胞に添加すると、⾷後2⽇をピークにラット⼼筋細胞でも
⽣理的⼼肥⼤が誘導された(図1B)。
pythonの⾷後⾎漿の中性脂肪の成分分析を⾏った結果、飽和脂肪酸のミリスチル酸とパ
ルミトイル酸、不飽和脂肪酸のパルミトレイン酸が候補物質として同定された。
これら3種類の脂肪酸をpythonの⾷後⾎中と同じ割合(ゴールデンコンビネーション)
で空腹状態のpythonに投与すると、⽣理的⼼肥⼤が誘導された。またこれらをマウスに投
与しても、なんと哺乳類のマウスでも同様に⽣理的⼼肥⼤が誘導された。
© 2006-2011 Nikkei Business Publications, Inc. All Rights Reserved.
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特定の組み合わせの脂肪酸は⼼臓を保護する
古川 哲史=東京医科⻭科⼤学
⾼中性脂肪は、メタボリックシンドロームの診断基準ともなっており、健康に有害と考
えられている。ところが、このゴールデンコンビネーションからなる中性脂肪の投与で
は、有害作⽤は⼀切観察されなかった。これはどうしてなのだろう?
これらゴールデンコンビネーションの脂肪酸を投与すると、ミトコンドリアにおける脂
肪代謝であるβ酸化にかかわる遺伝⼦の発現亢進が観察された。β酸化では、脂肪分解によ
りエネルギーを利⽤することができるが、同時にミトコンドリアで活性酸素の産⽣も増加
してしまい、酸化ストレスが誘導される(図2左)。
図2 中性脂肪とミトコンドリア機能 左:中性脂肪由来の脂肪酸は、ミトコンドリアでβ酸化を受
けエネルギーを産⽣するが、同時に活性酸素も産⽣されるため、⾼中性脂肪⾎症ではこの活性酸素
により酸化ストレスが亢進する。右:ミリスチル酸、パルミチン酸、パルミトイル酸の組み合わせ
は、活性酸素のスカベンジャーであるSODの発現も亢進させるので、エネルギー産⽣は増⼤するが
活性酸素の産⽣は増えず、⼼機能に有益な影響をもたらす。
メカニズムは不明だがpythonでは、活性酸素を分解する酵素(superoxide dismutase
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2:SOD2)の発現も、同時に上昇していた。すなわち、摂⾷により脂肪酸分解の能⼒が上
昇するとともに、同時に増加する活性酸素の処理能⼒も上昇することが、⼼臓に有益な作
⽤をもたらしていたのだ(図2右)。
pythonの研究は、臨床にどのように貢献できるのだろう?本論⽂の著者の1⼈であるDr.
Leslie LeinwandはPodCastで、「このゴールデンコンビネーションを利⽤して、⼼臓の
パーフォーマンスを改善する⼼不全薬や、有害な⼼肥⼤を予防する薬物の開発を進める」
と述べている。これはかなり先の話で、もっと⾝近に臨床と直結することは無いだろう
か?
皆さん、健康診断で中性脂肪の値が⾼いと、「これは⼤変」とダイエットしたり、フィ
ブラートやEPAなどの薬に⾶びついたりしていないだろうか?
中性脂肪⾼値が問題となる理由の1つは、脂肪酸分解により誘導される酸化ストレスにあ
るようだ(図2左)。pythonの⾷後と同じように、⾼濃度の中性脂肪とともに活性酸素の
処理能⼒もアップすれば、中性脂肪はもともとエネルギー供給源であることから、⼼臓は
かえって元気になる可能性もある。
運動により、活性酸素を処理するSODの発現と活性が上昇することはよく知られてい
る。中性脂肪⾼値の⼈でも適切な運動をすることにより、⼼臓のパーフォーマンス向上が
期待できそうだ。
私事で恐縮だが、知り合いの医師は、中性脂肪が1000mg/dLを超えることもあるの
に、定年を迎えるまで全く病気知らずなばかりか、「何でこんなに元気なの?」と思うほ
ど精⼒的に医療にかかわっていた。そういえば、その先⽣も⽔泳やマラソンを⽋かさず
やっておられた。それが秘訣だったのかもしれない。
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