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新しいコンピュータを作る
シリーズ 教育現場から [ 第2回 ] FPGAと論理合成で ハードウェア研究が進む 新しいコンピュータを作る 天野 英晴 ●アイデアだけでは 「画期的なコンピュータを作りたい」 , 「自 分のアイデアが実際に動くのが見たい」 という夢を日本の大学で実現することは, たいへん難しいことでした. ●FPGAやCPLDが使える 次に大きいのはFPGAやCPLDなどの プログラミング可能なICの発達です. リ上のプログラムを順に実行する方式で, つまりは与えられた問題をソフトウェア で解いているわけです. いくら簡単になったといっても,大学 ところがダイナミックに書き換えが可 でLSIを作るのはかなりの覚悟が必要で 能なICを用いれば,問題を解くアルゴリ 日本の大学の多くは,資金難でLSIや す.ところが,最近の書き換え可能なIC ズムをハードウェア記述言語に変換して, 基板を作る設備やCADを持たず,また の規模は2万ゲート近く,動作周波数が 直接ハードウェア化してしまうことがで 学生を主体とする研究チームでは高性能 100MHzに達するものも現れ,簡単なマ きます. で複雑なシステムを実装する技術力が足 イクロプロセッサならば中に入ってしま りません.このため,せっかく世界に先 うほどです. 解くべき問題に応じてハードウェアを変 化させることから,このようなシステムの 駆けたアイデアを出しても,それを実現 これらのチップをうまく使えば,かな してアピールすることができず,米国の り複雑な計算機システムでも簡単に実現 System:リコンフィギャブル・システム) , 大学や,トップ・クラスの企業の研究所 することができます. あるいはCCM(Custom Configuration Machine) と呼び,最近研究が活発になっ の後塵を拝してきました. コンピュータ・アーキテクチャの世界 ことを可変構造システム (Reconfigurable ●設計ツール環境も整ってきた てきました. では,アイデアを紙上で提案するだけで 最後に,Verilog-HDLやVHDLなど はだめで,実際に提案するコンピュータ のハードウェア記述言語による設計環境 上でソフトウェアを動かして評価して初 が発達したことです.かつて複雑なディ これらのシステムでは,問題を解くア めて成果として認めてもらえるのです. ジタル・システムを設計するには経験が ルゴリズムがそのままハードウェアで実 ものをいいましたが,ハードウェア記述 現されます.このため,特殊な演算を数 言語を修得すれば,多少経験不足でも, 多く行う画像処理,CAD,ニューラル・ 複雑なシステムを短期間に設計すること ネットワーク・シミュレータなどでは, ができます. スーパーコンピュータをしのぐ性能を時 ●教育研究の環境も良くなってきた ところがここ数年,この状況は大きく 変わりつつあります. まず,LSIや基板などのシステムの設 いまや,我々が長く待ち望んだ時代が ●可変構造システム には発揮します.しかし,問題点も多く, 計が大学でもできるようになりました. 到来しようとしています.この環境を利 その一つにシステム・サイズを越える問 これは,ワークステーションやパソコン 用して我々が実現しようとしている夢の 題がまったく解けないことがあります. の性能とその上で動くCADが,ここ数 いくつかを簡単に紹介しましょう. 憶を制御するので,メモリにのりきらな 年で飛躍的に発達したためです. またありがたいことに,多くのCAD 普通のコンピュータは,OSが仮想記 ■ 仮想ハードウェア い大きな問題でも時間さえかければ解く ことができます.ところが,可変構造シ ベンダーが大学の教育研究用にCADを 安く提供してくれるようになりました. FPGAなどの書き換え可能なICは,新 ステムは仮想記憶を持たないため, さらに,待望の大規模集積システム設 しいコンピュータを作る時のデバイスと FPGAの規模が足りなくなるとお手上げ 計教育研究センターが,今年度より東大 して重要なばかりでなく,それ自身が新 なのです. に設置されることになりました.日本も しいコンピュータ・システムを作り出す これでようやく諸外国同様に,大学でも 可能性を持っています. LSIを開発する環境が整うはずです. 122 現在のコンピュータは,CPUがメモ 我々がこの問題に対処するために研究 しているのが仮想ハードウェアです. 多くのハードウェアでは全体の回路が Design Wave Magazine No.3 [連載] シリーズ 教育現場から(2) 巨大でも実際に動いている部分はごく一 ー・グラフの形に変換し,データ・フロ 部です.このことを利用し,限られた規 ー・グラフをFPGAの規模で実現できる 模の可変構造システムで大きなハードウ 大きさの単位に分割します.この単位を ェアを実現しようとする試みです. ページと呼びます. 応したハードウェアを実現します. ●WASMII この機構に,外部メモリからあらかじ 通常,可変構造システムに用いられる 図1のように,それぞれの配線情報用 め必要になる配線情報を読み込んでおく FPGAは,その配線情報を記憶するのに SRAMに対し,データが到着したかど 機構を付ければ,さらに大きな規模のハ SRAMを用います.この配線情報記憶 うかを検出する機能を持つ入力レジスタ ードウェアに対応することができます. 用のSRAMを複数セット用意し,SRAM を設け,さらに現在実行中のページから このようなデータ・フロー型の仮想ハー を入れ換えると回路が瞬時に変わるよう 出力されたデータを入力レジスタにフィ ドウェアの実現機構をWASMIIと呼ん にします.現在動いているハードウェア ード・バックする結合網を設けます. でいます. が処理を終了したら,相当するSRAM 入力レジスタにすべてのデータが到着 現在,複数の配線情報SRAMを持つ を入れ換え,次に動く必要のあるハード すれば,そのページは実行可能になりま FPGAは存在しませんが,Atmel社のキ ウェアを実現するというわけです. す.ページ内の細かい処理もすべてデー ャッシュ・ロジックというFPGAは,稼 タ駆動型で行われ,現在処理を行ってい 働中に一部の配線情報を入れ換える機能 るページからデータがすべて出力された を持ちます. ●データ駆動型制御を使う 我々はデータ・フロー・マシンで用い られているデータ駆動型制御を導入して, この機構をうまく動かす方法を研究して います. まず実行したい処理をデータ・フロ 時,そのページは切り替えが可能になり 我々はこのFPGAを複数個利用し,エ ミュレータを構築して,WASMIIのデ ます. この場合,実行可能なページが一つ選 ばれて,配線情報を持つSRAMを切り ータ駆動方式の細部の実現法や問題点に ついて探っています. 替え,FPGA上でそのページの処理に対 ■スイッチのRISC:SSS型MIN ●マルチプロセッサ 複数のコンピュータを同時に動かして 高速に処理を行う方式を並列計算機と呼 びます.このうちそれぞれのコンピュー タがメモリを共有しながらも,独自に命 令を実行できるシステムのことをマルチ プロセッサといいます. マルチプロセッサは,将来の高性能コ ンピュータの主流といわれ,すでに高性 能のワークステーションやスーパーコン ピュータなどでは一般的な方式となって います. 現在使われているマルチプロセッサの 〔図1〕仮想ハードウェア WASMII Design Wave Magazine No.3 〔図2〕バス結合型マルチプロセッサ 123