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元素の濃集プロセスと鉱床形成, 環境における元素の挙動

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元素の濃集プロセスと鉱床形成, 環境における元素の挙動
元素の濃集プロセスと鉱床形成,
環境における元素の挙動
福山 繭子
Mayuko Fukuyama
地球上に存在する資源,そして現在の環境は,元素間の相互作用による結果であり,特に資源と環
境の視点では流体と金属元素の相互作用が大きな役割を果たします.そこで,様々な地球環境にお
ける元素挙動の解明を目指して研究を行っています.
研究紹介
流体の挙動を知るには
1
元素の濃集プロセスと鉱床の形成
鉱床とは資源として有用な元素の濃集場です.元素が
かつて日本には多くの鉱山が存在し,特にスカル
ン鉱床と呼ばれるタイプの鉱床は日本各地に存在
します.このスカルン鉱床の形成には流体と岩石の
化学反応が関与しています.その形成条件を知る
濃集するには水やメルトのような流体が大きな役割を果
には流体の挙動を理解する必要がありますが,スカ
たします.そこで,鉱床形成における流体と元素の挙動を
ルンが形成されるような地殻内部の流体は直接採
明らかにすることで,鉱床の形成場に制約を与えることが
できます.研究テーマの例として,(1)スカルン鉱床形成
に伴う流体挙動の解明,(2)海底熱水系における生物活
動による元素濃集の評価,(3)未利用資源の資源化等が
挙げられます.
取することができないため,一般的には岩石中に保
存された「流体の化石」とも言える流体包有物が研
究対象となります.しかし,流体包有物はいつ包有
されたのか,またその流体の岩石との反応の有無
を知ることはできません.そこで,岩石中に存在す
る「流体のトレーサー」と言える非平衡組織である
「反応帯」と呼ばれる岩石組織を用いて,流体の挙
動を研究しています.この「反応帯」は流体と岩石が
沈み込み帯における地殻の進化
反応する過程を保存しているため,この「反応帯」を
日本の位置するようなプレートの沈み込みを伴うプレー
用いることで,その岩石が形成されたときの流体の
ト境界部は,火山や地震が頻発する場となります.これら
化学組成・流体量・流体の移動速度を導出すること
の現象において,沈み込むプレートと地球内部(地殻内
部)に運搬される水の振舞いが大きな役割を果たしてい
ます.そのため,沈み込むプレート(岩石)の時間的・空間
的変化,そして沈み込み帯における水の役割を理解する
ことが課題となっています.研究例として,(1)蛇紋岩の
形成プロセス,(2)蛇紋岩体に胚胎される交代岩中のジル
コン U-Pb 年代・Hf 同位体分析による形成場の推定,
(3)岩石学的および同位体化学的研究による沈み込み
深部におけるヒスイ輝石岩の形成メカニズム等がありま
す.
ができます.
ノントラディショナルな金属元素の同位体組成
を利用した資源・環境に関する研究
岩石の年代を知るには
2
海外では 1990 年代後半にセクター型の ICP-MS が導入
岩石の年代測定は資源探査においてのみだけで
なく地球科学分野において基本的情報として必要
不可欠です.近年でジルコンを用いた U-Pb 年代測
されるようになり,それまでより金属元素の同位体組成を
定法が使われています.若い年代(< 0.5 Ma)の岩
極微量でも精密に測定することができるようになってきまし
石には U-Th 年代が有効です.Re-Os 年代測定は
た.この結果,これまで明らかな差がないと考えられていた
硫化鉱物の年代を測定できることから,この数年,
鉱床地域の年代測定に適用されています.
元素の同位体組成の違いが知られるようになってきまし
た.特にこの数年では,モリブデンや亜鉛,鉄のような金属
の同位体元素の分析手法が確立されてきています.金属
元素の同位体を用いる利点は,従来の酸素や炭素といっ
た軽元素の同位体より重いため,異なる要因による二次
的,三次的な影響を受けにくいことにあります.また元素種
により,分別する要因が異なるため,各元素の同位体組成
を使い分けることで,鉱床形成環境場の物理・化学的条
件,環境変遷要因を詳細に特定・制約することができま
す.しかし,まだ分析手法の確立されていない元素,また,
物理・化学的条件により分別要因が異なる元素も多いた
極 地研 究所 での S HRI MP によ るジ ル コン UPb 年 代測 定
め,同位体分別とその要因を明らかにする基礎的研究も
必要とされています.現在行っている研究例として,(1)地
質試料における銀同位体分析の確立,(2)金・銀鉱床形成
場における鉄・亜鉛・銀同位体組成変化と分別要因等があ
ります.
ノントラディショナルな金属元素の同位体比測定
3
極微量の金属元素の同位体比の精密測定は,最
初にクリーンルームでの元素抽出を行い,その後,
セクター型の ICP-MS で同位体比の測定を行いま
す.
元素の分別と惑星の進化,そして隕石衝突に
よる影響
地球を含め惑星は最初,未分化の状態から元素が分別
することで形成されました.初期地球の形成プロセスを研
究することは元素の分別を知る基礎的研究となります.し
かし,現在の地球には初期地球の情報が残されていない
ため,地球と同様に分化し初期状態で進化が止まった小
惑星のサンプル(隕石)が研究対象となります.研究例とし
て,「Hf-W 年代測定による HED 隕石に記録されたイベン
ト」があります.
同 位体 希釈 法に よる 元素 の抽 出
略歴
研究手法
2005 年
熊本大学大学院卒業(理学博士)
2005 年-2008 年 産業技術総合研究所
地質調査,岩石記載,鉱物・岩石の化学組成を用いた従
来の岩岩石学,非平衡の熱力学を用いたモデリング,そし
て同位体化学的手法を組み合わせた手法を用いていま
す.また,研究を遂行する上で,必要に応じて,産業技術
総合研究所,極地研究所,スタンフォード大学等の日本国
内外の大学・研究機関と共同研究を行っています.
専門技術者
2008 年-2012 年 中央研究院 地球科学研究所
博士後研究学者
2012 年-現在
秋田大学 テニュアトラック助教
連絡先
[email protected]
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