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シクロスポリン処方事例の 相互作用実態調査

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シクロスポリン処方事例の 相互作用実態調査
シクロスポリン処方事例の
相互作用実態調査
H23.11.17
福岡市薬剤師会薬局七隈店
局内疑義照会収集・分析・共有化委員会
目 的
併用禁忌にも関わらず疑義照会が行われていなかった1事例
74歳男性
皮膚科でネオーラルカプセルが処方されていたが、別日に他科で処方さ
れていた併用禁忌のリバロ錠との相互作用に気付かず、疑義照会が行
われていなかった事例があった。
疑義照会が漏れた要因として、処方薬及び併用薬間の
薬物相互作用に対する処方鑑査が不十分であったこと
が挙げられる。
そこで、今回、比較的相互作用が多い薬剤である
シクロスポリンを対象に薬物相互作用の実態を調査し、
傾向を把握することとした。
方 法
調査期間:2011 年 9 月 1 日から 30 日の 1 カ月間
調査場所:福岡市薬剤師会薬局七隈店
対象薬:シクロスポリン
(ネオーラルカプセルR、サンディミュンカプセルR 、シクロス
ポリンカプセルR )
対象者:シクロスポリンが処方された患者 29 例
方 法 :
1.NOAH薬歴管理ソフトにて1カ月間におけるシクロスポリンが処方
された患者を抽出。
2.該当患者の処方薬中でシクロスポリンと相互作用(添付文書で併用
注意、禁忌に該当)を起こす事例を抽出。
結 果
シクロスポリンが処方された患者 29 例中 11 事例
(38%)において、処方薬中に相互作用が認められた。
相互作用事例中 1 例はシクロスポリンとピタバスタチン
(リバロR)併用禁忌であった。
(疑義照会にて併用する旨、医師確認済み)
表1.シクロスポリンの診療科別処方件数と相互作用件数
診療科
シクロスポリン処方件数
相互作用件数
腎臓内科
9
7
泌尿器科
1
1
神経内科
1
1
眼科
1
1
皮膚科
14
1
腫瘍血液・感染症内科
1
0
呼吸器科
1
0
小児科
1
0
表2.シクロスポリン事例中の併用注意・禁忌薬一覧
医薬品名
薬効分類
件数
プレドニン、プレドニゾロン
免疫抑制剤
7
セルセプト
免疫抑制剤
1
リピトール
HMG-CoA還元酵素阻害剤
1
リバロ
HMG-CoA還元酵素阻害剤
1
メバロチン
HMG-CoA還元酵素阻害剤
1
ゼチーア
小腸コレステロールトランスポーター阻害剤
1
フロリードゲル
抗真菌剤
1
ニューロタン
ARB
2
ディオバン
ARB
2
ニューロタン
ARB
2
アダラート
Ca拮抗剤
1
ラシックス
利尿剤
1
アルダクトンA
利尿剤
1
ボルタレン
NSAIDs
1
コルヒチン
痛風治療剤
1
結果①
処方事例
68 歳 性別 男
診療科:腎臓内科
疾患名:脳梗塞・ネフローゼ
処方内容)
マーズレンS配合顆粒(0.67g) 2g
(分3毎食後)
プレタールOD錠100mg
1錠
(分1 朝食後)
プルゼニド錠12mg
2錠
(分1 寝る前)
リピトール錠5mg
1錠
(分1 夕食後)
アテレック錠5mg
1錠
(分1 朝食後)
プレドニゾロン錠1mg(旭化成)
3錠 (分1 朝食後)
ネオーラル50mgcap
1C (分1 朝食後)
28日
28日
28日
28日
28日
28日
28日
■相互作用機序
・プレドニゾロンが相互に代謝を阻害
・リピトールがネオーラルの代謝を阻害し相互に副作用が増強。
■臨床症状・措置方法
ネオーラルの血中濃度が上昇することがある。また、腎障害などの副作用が現れやす
くなる。 またプレドニゾロンの併用により本剤の血中濃度、痙攣が起こる。またプレド
ニゾロンのクリアランスを低下させる。
結果②
処方事例
76歳
男 皮膚科
疾患名 尋常性乾癬、白内障、結核、下腿の痛み
処方内容)
サンディミュンカプセル50mg
3C
(分3 毎食後)
14日
マイザー軟膏0.05%
20g
ボンアルファハイ軟膏20μg/g 0.002%
10g
(1日1回 体)
呼吸器内科
処方内容)
イスコチン錠100mg3錠1日1回朝食後28日分
リファジンカプセル150mg3C1日1回朝食後28日分
神経内科
処方内容)
メチコバール500μg
セルべックスcap 50mg
ユベラNソフトカプセル200
(分3 毎食後)
プレタールOD錠100mg
(分2 朝・夕食後)
プロテカジン錠10mg
(分1 夕食後)
ミカルディス錠40mg
(分1 朝食後)
重カマ「ヨシダ」(0.33g)
(分3 毎食後)
■相互作用機序
高カリウム血症の副作用が相互に増強されると考えられる。
■臨床症状・措置方法
高カリウム血症があらわれるおそれがあるので、血清カリウム値に注意すること。
3錠
3C
3C
35日
2錠
35日
1錠
35日
1錠
35日
1g
35日
結果③
29歳 男 腎臓内
疾患名 腎移植
ブレディニン錠50mg
ペルサンチンLカプセル150
(分2 朝夕食後)
ネオーラル25mgカプセル
(分2 9時、21時)
ニューロタン錠25mg
カルブロック錠8mg
ザイロリック錠100mg
(分2 朝夕食後)
プレドニン錠5mg
プレドニゾロン錠1mg(旭化成)
(分1 朝食後)
アルマール錠10mg
(分1 夕食後)
アルファールカプセル0.25μg
(分1 朝食後)
フォサマック錠35mg
(分1 朝食前)
グランダキシン錠50mg
(分3 毎食後)
処方事例
4錠
2C
21日
6C
21日
2錠
2錠
2錠
28日
1錠
2錠
28日
1錠
28日
1C
28日
1錠
4日
3錠
14日
■相互作用機序
プレディニン錠50㎎
ニューロタン錠25㎎
カルブロック錠8mg
プレドニン錠5㎎
プレドニゾロン錠1mg(旭化成)
アルファロールカプセル0.25μg
■臨床症状・措置方法
高カリウム血症があらわれるおそれがあるので、血清カリウム値に注意すること。
結果④
処方事例
37歳 男 腎臓内科
疾患 便秘、下痢、中性脂肪高値、首の痛み
アルファロールカプセル0.25μg
1C
ネオーラルカプセル25mg
1C
(分1 朝食後)
14日
フォサマック錠35mg
1錠
(分1 朝食後)
2日
メドロール錠4mg
1錠
(分1 朝食後)
14日
メバロチン錠10mg
2錠
(分2 朝夕食後)
14日
ユリノーム錠50mg
1錠
(分1 朝食後)
7日
ゼチーア錠10mg
1錠
(分1 朝食後)
14日
■相互作用機序
メドロール錠4㎎:高用量メチルプレドニゾロンとの併用により本剤の血中濃度上昇及び痙攣の報告がある。また、プレド
ニゾロンのクリアランスを低下させるとの報告もある。
メバロチン錠10㎎(プラバスタチンNa):HMG-CoA還元酵素阻害剤の血中からの消失が遅延すると考えられる。
ゼチーア錠10㎎ (エゼチミブ) :機序は不明である。
■臨床症状・措置方法
メドロール錠4㎎
相互に代謝を阻害するものと考えられる。
メバロチン錠10㎎(メバロチン)
筋肉痛、CK(CPK)上昇、血中及び尿中ミオグロビン上昇を特徴とした急激な腎機能悪化を伴う横紋筋融解症があらわれやすい
ので、患者の状態を十分に観察すること。
ゼチーア錠10㎎(エゼチミブ)
エゼチミブ又はシクロスポリンの血中濃度が上昇する可能性があるので、併用する場合には血中濃度を参考に投与量を調節す
ること。
結果⑤
48歳 女 腎臓内科 疾患 腎移植
プレドニン錠5mg
(分1 朝食後)
プレディニン錠50mg
ペルサンチン錠100mg
マーズレンS配合顆粒(0.67g)
(分3 毎食後)
サンディミュンカプセル50mg
サンディミュンカプセル25mg
ザイロリック錠100mg
(分1 朝食後)
イソジンガーグル液7% (30ml)
(1日数回)
リバロ錠1mg(併用禁忌)
(分1 夕食後)
ディオバン錠40mg
(分1 朝食後)
■相互作用機序
プレドニン錠5㎎(プレドニゾロン)
プレディニン錠50㎎(ミゾリビン)
リバロ錠1mg(ピタバスタチン)
ディオバン錠40㎎(バルサルタン)
■臨床症状・措置方法
プレドニン錠5㎎(プレドニゾロン)
プレディニン錠50㎎
リバロ錠1mg(ピタバスタチン)
ディオバン錠40㎎(バルサルタン)
処方事例
2錠
14日
3錠
3錠
2g
28日
4C
1C
1錠
28日
90ml
1回
1錠
28日
1錠
28日
結果⑥
処方事例
48歳 女 腎臓内 疾患ネフローゼ、感染症
ニューロタン錠25mg
1錠
(分1 朝食後)
35日
ペルサンチンLカプセル150mg
2C
(分2 朝夕食後)
35日
プレドニゾロン錠1mg(旭化成)
2錠
(分1 朝食後)
35日
ラニタック錠75mg
2錠
(分1 夕食後)
35日
フォサマック錠35mg
1錠
(分1 朝食後)
5日
ネオーラルカプセル25mg
1C
(分1 朝食前)
35日
■相互作用機序
ニューロタン錠25㎎
プレドニゾロン錠1mg (旭化成)
■臨床症状・措置方法
ニューロタン錠25㎎
プレドニゾロン錠1mg (旭化成)
結果⑦
60歳 男 神経内 疾患 重症筋無力症
ネオーラルカプセル25mg
ネオーラルカプセル10mg
(分2 朝夕食後)
プレドニン錠5mg
(分1 朝食後)
バクタ配合錠
(分1 朝食後)
パリエット錠20mg
(分1 夕食後)
ジャヌビア錠50mg
(分1 朝食後)
セイブル錠50mg
(分3 毎食後)
メトグルコ錠250mg
(分3 毎食後)
マイスリー錠5mg
(不眠時)
フロリードゲル経口用2%(他科)
(分2 朝夕食後)
■相互作用機序
プレドニン錠5mg(プレドニゾロン)
フロリードゲル経口用2%(ミコナゾール)
■臨床症状・措置方法
プレドニン錠5mg(プレドニゾロン)
フロリードゲル経口用2%(ミコナゾール)
処方事例
6C
2C
28日
6錠
28日
1錠
28日
1錠
28日
1錠
28日
3錠
28日
3錠
28日
1錠
5回
10g
5日
結果⑧
処方事例
63歳 女 腎臓内 疾患 腎臓病、風邪、左眼の腫れ・痛み、めまい、手首のねんざ
ブレディニン錠25mg
2錠
炭酸水素ナトリウム「ヨシダ」
1g
エパデールS600
2包
(分2 朝夕食後)
42日
プレドニン錠5mg
0.5錠
ザイロリック錠100mg
1錠
ブロプレス錠2mg
1錠
(分1 朝食後)
42日
ネオーラルカプセル25mg
1C
ネオーラルカプセル50mg
1C
(分1 朝食前)
42日
プルゼニド錠12mg
2錠
(分1 寝る前)
42日
カルブロック錠8mg
2錠
(分2 朝夕食後)
42日
フォサマック錠35mg
1錠
(分1 朝食前)
6日
プロマックD錠75mg
2錠
(分2 朝夕食後)
42日
ヤクバンテープ20mg 7枚入り
35枚
(必要時)
1回
セファドール錠25mg
3錠
(分3 毎食後)
5日
イソジンガーグル液7%(30ml)
30ml
(必要時)
1回
リンデロンVGクリーム0.12% 5g
5g
(1日数回)
1回
■相互作用機序
プレディニン錠25㎎
プレドニン錠5㎎
ブロプレス錠2mg
カルブロック錠8mg
■臨床症状・措置方法
プレディニン錠25㎎
プレドニン錠5㎎
ブロプレス錠2mg
カルブロック錠8mg
結果⑨
64歳 男 泌尿器科 疾患 腎移植後、手のかぶれ、できもの
ネオーラルカプセル50mg
ネオーラルカプセル25mg
(分2 朝夕食後)
セルセプトカプセル250mg
(分2 朝夕食後)
バイアスピリン100mg
(分1 朝食後)
フランドルテープ40mg
(1日1回)
ザイロリック錠100mg
(分2 朝夕食後)
処方事例
2C
2C
56日
4C
56日
1錠
56日
56枚
1回
2錠
56日
■相互作用機序
セルセプトカプセル250mg(ミコフェノール酸モフェチル)
ミコフェノール酸モフェチルの腸肝循環が阻害され血中濃度が低下すると考えられる。
■臨床症状・措置方法
セルセプトカプセル250mg (ミコフェノール酸モフェチル)
ミコフェノール酸モフェチルの血中濃度が低下したとの報告がある。
結果⑩
29歳 男 眼科 疾患 ベーチェット病、緑内障
コルヒチン錠0.5mg「タカタ」2錠1日2回朝夕食後56日分
ネオーラルカプセル50㎎ 1C1日1回朝食後28日分
フルメトロン点眼液0.1%5ml15ml1日1回両眼
■相互作用機序
コルヒチン錠0.5mg「タカタ」
■臨床症状・措置方法
コルヒチン錠0.5mg「タカタ」
処方事例
結果⑪
37歳 男 眼科 疾患
ネオーラルカプセル50㎎1C1日1回朝食前28日分
ペルサンチンLカプセル150mg2C1日2回朝夕食後28日分
アロプリノール錠100mg1錠1日1回朝食後28日分
マーズレンS配合顆粒2g1日2回朝夕食後28日分
プレドニン錠5㎎4錠1日1回朝食後28日分
■相互作用機序
プレドニン錠5㎎(プレドニゾロン)
■臨床症状・措置方法
プレドニン錠5㎎(プレドニゾロン)
処方事例
考察
□シクロスポリンは、診療科別にみた場合、腎臓内科9件(ネフローゼ、腎移
植後)及び皮膚科14件(乾癬アトピー性皮膚炎)と処方件数が多かった。
特に腎臓内科においては、多剤併用処方であり、9件中7件と相互作用事例
が多い傾向であった (表1,2)。
□多剤併用処方で相互作用事例が多い要因として、シクロスポリンの副作
用として、高血圧、脂質異常、易感染状態が挙げらる。また、治療上、
ステロイド無効例において処方追加となる場合がある。結果、必然的に降
圧剤、脂質改善薬、免疫抑制剤等が追加となり、主代謝酵素であるCYP3A4
やトランスポーターを介した薬物動態学的な相互作用または薬力学的な
相互作用が生じやすくなることが想定される。
□29事例中1事例において、併用禁忌事例(リバロ)があったが、疑義照会の
結果、処方変更は行われなかった。併用により、リバロ錠の作用増強が予
想されたが、服用中の筋肉痛などの体調変化が現れていない。しかし、
副作用の出現時期は予測できない為、引き続き体調変化に注意する必要
がある。
□今回は、相互作用事例の抽出に終始した為、今後は併用中のシクロスポリ
ンの用量変動を追跡することにより、実際の相互作用の有無について検討
したい。
まとめ
■当薬局は、大学病院の門前にあることから、複数の診療科を受診
するケースやかかりつけ医からの処方等により、併用薬が多岐に
亘る場合が多い。また、高度かつ専門的治療を要する疾患(腫瘍、
難病、移植等)、急性期の患者が大半を占めており、外来におい
て患者の服薬管理には十分な注意を要する。
■シクロスポリンは血中濃度の治療域が狭く体内変動が大きい。
従って、薬物相互作用においては、併用禁忌に関わらず、併用
注意においても、双方の薬剤の作用に影響が現れていないか、
副作用が出現していないか、外来でも注意深くモニタリングを
実施する必要がある。そのためには、薬剤のADME、薬効薬理
等の薬剤特を理解し、併用薬剤、食品等との相互作用チェックを
十分に機能させる必要がある。
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