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場とゲージ理論の概念

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場とゲージ理論の概念
阪大物理学オナーセミナー (担当:久野、長島):Note 2
1
1.1
平成 19 年 10 月 18 日
イントロダクション
自然単位
全ての物理量の次元は、重さ M、長さ L、時間 T の組み合わせで得られ、通常は、kg,m,s の MKS 単位
を使うが、任意の 3 個の独立な物理量を基本にとっても表すことが出来る。素粒子物理学では、エネル
ギー ([E] = [ML2 T −2 ])、プランク定数 (h̄; [h̄] = [ET ])、プランク定数x光速度 (h̄c; [h̄c] = [ET ]) を基本に
とる。その上で、h̄ = c = h̄c = 1 とおいて、全ての物理量をエネルギーで表すことにすると便利である。
エネルギーの単位としては、MeV = 106 eV とする。
1eV = 1.6 ×Coulomb ·Volt = 1.6 × 10−19 joule
1KeV = 103 eV
1MeV = 106 eV
1GeV = 109 eV
1TeV = 1012 eV
1PeV = 1015 eV
···
h̄ = 1.055 × 10−34 joule · sec = 6.58 × 10−22 MeV · sec
h̄c = 1.9710−13 MeV · m
[M] = [E/c2 ], [L] = [h̄c/E], [T ] = [h̄/E] であるから、
E
mc2
=
c2
c2
1.97 × 10−13 MeV · m
h̄c
長さ (m) =
=
E(MeV )
E(MeV )
−22
h̄
6.58 × 10 MeV · sec
時間 (sec) = =
E
E(MeV )
質量 (kg) =
(
)
h̄c
→
を単位とする。
1MeV
(
)
h̄
→
を単位とする。
1MeV
→ E(in MeV /c2 )
→
→
1
E(in MeV )
1
E(in MeV )
例1; π の質量 µ は、140 MeV である。これを m で表すと、
(
)
h̄c
h̄ * 1)
200MeV · 10−13 MeV · m
=
≃
≃ 1.4 × 10−15 m
µc2
µc
140MeV
これは、核力の及ぶ範囲を表す。
例2:原子の束縛エネルギーは ∼ O(KeV ) である。これは、長さ ∼ 10−8 M ∼ 原子の大きさ程度である。
例3:微細構造定数 α = e2 /4πε0 h̄c が無次元の量であり、値は ∼ 1/137 となることを示せ。
例4:万有引力定数 G = 6.67 × 10−11 m3 kg−1 s−2 に対応するエネルギー、長さ、時間を計算せよ。これを
それぞれ、プランクエネルギー、プランク長、プランク時間と言う。
ヒント:
Mm GMm h̄c
=
(1)
重力ポテンシャル V = G
r
h̄c r
* 1)
これはπメソンのコンプトン波長である。
1
と表せるから、両辺の次元を比較して GM 2 /h̄c が無次元の量であることが判る。これから
√
√
h̄c 2
h̄c5
c =
EPl ≡
G
G
(2)
はエネルギーの次元を持つ量であることが判る。
答: EPl = 1.22 × 1019 GeV, ℓPl = h̄c/EPl = 1.7 × 10−35 m,tPl = h̄/EPl = 5.4 × 10−35 sec
2
標準理論
1. 全ての物質はクォークとレプトンでできている。* 2)
2. 粒子間に働く力は、重力、弱い力、電磁力、強い力の4種類があり、全てゲージ理論に従う。
3. 我々を取り巻く真空は、ある種の超伝導状態にある。
素粒子標準理論の形成過程。
・1929 年、ハイゼンベルグ・パウリが場の量子理論構築。
・1935 年、フェルミが弱い相互作用理論を、湯川が強い相互作用理論を提唱。
・1947-49、朝永-シュウィンガー-ファイマンが QED 完成。現代ゲージ理論の原型を作った。
・1956 年、ヤン・ミルズ:ゲージ理論を (非アーベル群に) 一般化。
リー・ヤン:パリティの破れ予言
・1961 年、南部:対称性の自発的破れを提唱。
・1964 年、ヒッグス:対称性の自発的破れをゲージ理論に応用。ヒッグス機構の提唱。
・1964 年、ゲルマン・ツヴァイク:クォークモデル提唱。
・1967 年、ワインバーグ・サラム:素粒子のグラショウモデル (1961) にヒッグス機構を組
み込んで電弱統一理論を提唱。
・1969 年、フリードマン・ケンドール・テイラー:深非弾性散乱実験により、ハドロンのパー
トン構造発見。
・1973 年、ウィルチェック・グロス・ポリッツァーの漸近自由性の発見により強い相互作用
の理論として QCD が浮上した。
・1974 年、ラガリグ等:WS 理論の予言である中性カレントを発見。
・∼1978 年、標準理論の実験的確立。
・1983:ルビア等:W,Z の発見。
・1998 年、戸塚等:ニュートリノ振動発見。
より限定した標準理論の枠組み
1. 基本粒子の種類:
電弱相互作用は (U(1) × SU(2)) ゲージ理論の枠内で
クォーク
[ ]
u
,
d′
[
レプトン
* 2)
L
νe
e−
]
[
,
L
[ ]
c
,
s′
[ ]
t
,
b′
L
νµ
µ−
uR , dR , cR , sR ,tR , bR ,
L
]
,
L
[ ]
ντ
,
τ
 
 
d′
d
 ′
 
 s  = MKM  s 
b′ L
b L
eR , µ R , τR
L
スピンゼロの素粒子として、ヒッグス粒子を含める場合もあるが、現時点では素粒子かどうかは不明である。
2
(3)
(4)
図 1: 統一理論の形成過程
3
に分類される。MKM は小林・益川行列。クォークは、QCD の下では 3 色のカラーを持つ。
2. 電弱相互作用は、U(1) × SU(2)L 対称性、QCD は SU(3) 対称性に従うゲージ理論である。
3. 電弱相互作用は、ヒッグス場の自己相互作用により対称性が自発的に破れる。対称性が自発的に
破れると、ヒッグス場は真空期待値を持ち (ボーズ凝縮をすること)、この結果弱い相互作用のゲー
ジボソンとクォーク・レプトンが質量を持つ。なお、クォークには QCD のカイラル対称性の自発
的破れによりさらなる質量が付加される。
4. CP の破れは小林-益川行列内の位相が原因となって生じる。
5. ニュートリノに右巻き成分はなく質量はゼロである。* 3)
3
場の理論
「いかなる情報も光速度以上では伝わらない」という特殊相対性原理を要請すると、空間を飛び越えて
瞬時に伝わる遠隔力(たとえば万有引力)は否定され、ニュートン力学は修正されねばならないが、マ
クスウェルの方程式はこの要請を充たしている。電磁力を伝える電磁場のように、一般的に力を伝える”
力の場”の存在が要請される。場は波として振る舞うから、量子力学の出現により力の伝達粒子という概
念が生まれ、これから逆に通常の物質粒子も場 (物質場) の量子であるという考えに到達した。場の量子
論は全ての粒子を場のエネルギー量子 (量子力学的波動粒子) と見なして、粒子の運動学を記述する。場
の量子論は 1929 年にハイゼンベルグ・パウリによりその原型が構築されたが、誕生時から無限大の発
散という困難につきまとわれた。現代標準理論では、全ての力の場はゲージ原理に従わなければならな
い。ゲージ理論は繰り込み処方で無限大の困難を回避できる数少ない例の一つである。場の量子論は数
学的に難解であるが、素粒子の振る舞いを理解するには必須の道具であるので、その物理的イメージを
しっかりと把握する必要がある。ここでは力学的振動モデルを取り上げる。ただし、場の量子論は古典
的物理では理解の及ばない現象を数多く内包し、モデルはあくまでも類推の出発点にすぎないこと、場
の量子論の本質は未だ完全には解明されていない分野でもあることをも心に留めておく必要がある。
3.1
力学的振動モデル
場は特殊相対論で粒子が持つエネルギー運動量関係式
E 2 = (pc)2 + (mc2 )2
(5)
に、
∂
, p → −ih̄∇
(6)
∂t
の置き換え (粒子を場にする第一量子化の手続き) によって得られるクライン・ゴードン (KG) の方程式
[
( mc )2 ]
[
]
1 ∂2
2
−∇ +
ϕ(t; x) ≡ ∂µ ∂µ + m2 ϕ(x) = 0 * 4)
(7)
2
2
c ∂t
h̄
E → ih̄
に従う。ここの ϕ はまだ古典場である。ここでは、場を別の観点から捉えて。空間に連続分布する力学
的連結振動子 (図 2) が同じ形の方程式を充たすことを証明しよう。
* 3)
ニュートリノ振動発見 (1998) により、標準理論のこの部分は破れた。
∂µ (µ = 0 ∼ 3) = ∂/∂xµ = (∂0 ; ∇), ∂µ = (∂0 ; −∇), xµ = (x0 = ct; x)。また自然単位を使えば h̄ = c = 1。
同じ指標が上下に現れたときは和を採ると約束する。すなわち ∂µ ∂µ = ∑3µ=0 ∂µ ∂µ 。
* 4)
4
図 2: 場の力学的振動モデル
数学を簡単にするために1次元の連結振動子の縦振動を考える (図 3)。ばねにつながれた質点 (質量 m)
からなる単振子は単振動をするが、それは距離に比例する復元力と慣性力を併せ持つからである。変位
があると復元力が発生し、質点を元に戻そうとするが、質量の持つ慣性のためにもとの平衡位置を越え
て戻りすぎるため振動が生じる。この振動を空間的に次の地点へ伝えるためには、この単振子を次の単
振子に繋いで揺さぶればよい。自身の振動も前の単振子に揺さぶられるので、進行波の中の振動子は両
側から力を受けていることになる。そこで今、全長 L、間隔 a で繋がった N + 1 個の質量 m の質点によ
図 3: N + 1 個の質点が長さ a のばねで繋がれている。揺さぶりの結果生じる n − 1, n, n + 1 番目の質点の変位を un−1 , un , un+1
とする。
る連成振り子を考える。n − 1, n, n + 1 番目の質点の変位を un−1 (t), un (t), un+1 (t) としよう。自然長 a0 か
ら a にまで伸ばすことにより既に T の張力がかかっているとしよう。さらなる相対的な伸長 ∆a/a が微
少ならば、T ∆a/a だけの力が余分にかかると考えて良い。したがってこの質点の運動方程式は
)
(
)
(
)
(
d 2 un
un − un−1
un+1 − un un − un−1
un+1 − un
m 2 = T 1+
−T 1+
=T
−
(8)
dt
a
a
a
a
である。第1項は右隣 (n + 1 番目の質点) から受ける力、第2項は左隣 (n − 1 番目の質点) から受ける力
を表す。ここで全長と張力 T を一定にしたままで、質点の数 N を十分大きくすると、a は十分小さい量
となるから L = (N + 1)a, x = na, ∆x = a と置き換え、un−1 , un , un+1 を u(x − ∆x), u(x), u(x + ∆x) と名前の
付け替えをすると次のように書き直せる。
[
]
∂2 u
u(x + ∆x,t) − u(x,t) u(x,t) − u(x − ∆x,t)
m 2 (x,t) = T
−
(9)
∂t
∆x
∆x
u(x + ∆x,t) − u(x,t) ∂u
≃
を使えば
∆x
∂x
[
]
∂2 u
1 ∂u
∂u
∂2 u
σ 2 (x,t) ≃ T
(x,t) − (x − ∆x,t) ≃ T 2 (x,t)
∂t
∆x ∂x
∂x
∂x
√
2
2
1∂ u ∂ u
T
− 2 = 0
v=
2
2
v ∂t
∂x
σ
両辺を a = ∆x で割って質量の線密度 m/a = σ を定義し、
∴
(10)
(11)
すなわち速度 v で伝播する波動方程式を得る。ここでは縦波を考えたが、この方程式は弦の横波を記述
する波動方程式と同一であることは力学で習ったろう。
5
演習問題:図 3 の連結振り子が重力の影響下にある場合、各振動子の水平方向の振動は変位距離に比例
する復元力を受ける。この時は方程式 (11) は
図 4: 重力下の連結振り子。振り子の長さ = ℓ、重力加速度 = 1
1 ∂2 u ∂2 u ω20
−
+ u=0
v2 ∂t 2 ∂x2 v2
g
ω20 =
ℓ
(12)
(13)
となることを示せ。
v → c(= 1), ω0 /v → mc/h̄(= m) とおけば、これは KG の式である。すなわち、KG 方程式に従う場とは、
空間に連続分布する振動子 (力学的振動子に限る必要はない) の集合体ということができる。これは波を
伝える媒体となる。連続分布する無限個の振動子の集合体であるから、場の自由度は無限大ということ
である。
ポイント: 振動を空間に伝播させて波動を起こすためには、着目している部分が隣から力を受けて反対
側の隣に力を渡す必要があり、その各々の力の大きさが変位の差に比例するため、実際に掛かる力は変
位の差の差、つまり2回差分となる。隣との距離が十分小さくしゼロに近づければ2階微分となる。時
間微分が波の振動を、空間微分が隣の振動子との相互作用、すなわち空間伝播を表すことに留意しよう。
力学で習ったように、ここで個々の連結振動モード(互いに相互作用がある)から基準モードに移ると、
各基準モードの波は他のモードとは独立な固有振動を持ち空間を伝播する。基準モードで考えればモー
ド間の相互作用は無い。
固有振動解を求めるために場をフーリエ展開して、
ϕ(x) = ∑ f (t, k)eik·x
(14)
k
KG式に代入すると
∑
k
[
]
[ 2
]
∂2 f
∂ f
2
2
ik·x
2
+ (k + m ) f e ≡ ∑
+ ω eik·x = 0
2
∂t 2
∂t
k
(15)
これは
f (x) = Aeik·x−iωt
という固有振動解を持つ。すなわち、場は波数 k とそして振動数 ω =
合体である。
√
(16)
k2 + m2 を持つ調和振動子の集
さて、 f (t, k) は k という名前 (指標) を持った調和振動子 (の振幅) であるから、量子力学で学習した方法
で量子化ができる (場の量子化または第2量子化と言う)。調和振動子のエネルギー準位は E = nh̄ω で表
6
されるが、ここでエネルギー準位が nh̄ω ではなく、
「運動量 p = h̄k, E = h̄ω を持つ粒子が n 個ある状態」
という重要な再解釈を行うと、場の量子論へ移ることができる。量子化すると振幅は c-数ではなく q-数
(演算子) となるので、場 ϕ も演算子となる。相対論的に負の振動 (エネルギー) 状態をも考えると場の演
算子は (自然単位 h̄ = c = 1) を使って
[
]
ϕ(x) = ∑ a(p)eip·x−iEt + a† (p)e−ip·x+iEt
(17)
[a(p), a† (p′ )] = δp,p′ ,
(18)
p
[a(p), a(p′ )] = [a† (p), a† (p′ )] = 0 * 5)
と書ける* 6) 。a(p), a† (p) は、運動量 p を持つ粒子の消滅・生成演算子と解釈できる量である。振幅が
粒子の個数演算子と平面波で表されるところに粒子像と波動像の両方が現れている。
3.2
ベクトル場
ϕ は1成分しか持たないので、スピン 0 のスカラー場を表す。スピン 1 のベクトル場 {Aµ (x) = (A0 ; A)}
の方程式は、KG 方程式の ϕ をそのまま多成分化して
[ µ
]
∂µ ∂ + m2 Aν (x) = 0
[
]
µ
µ∗
Aµ (x) = ∑ a(p, λ)ελ eip·x−iEt + a† (p, λ)ελ e−ip·x+iEt
(19)
(20)
p,λ
のように書けるはずである。ただし、ελ は方向 λ の偏極ベクトルの µ 成分を表す。しかし、マクスウェ
ルの方程式から入るほうが、わかりやすくかつ教育的である。
µ
歴史的にはマクスウェルの方程式が光速度不変を表し、その理由を考える過程で特殊相対論が生まれ
たのであるから、方程式は当然特殊相対論の要請を充たすはずである。今、マクスウェル方程式のスカ
ラーポテンシャル φ と A から、4 元ベクトル A µ ≡ (φ/c, A) を定義する。次式により 2 階のテンソル F µ ν
を定義する。
F µ ν = ∂µ Aν − ∂ν Aµ
(21)
F µ ν は電磁場を表す。具体的に書けば

Fµν

0
−E1 /c −E2 /c −E3 /c
E /c
0
−B3
B2 
 1

=

E2 /c
B3
0
−B1 
E3 /c −B2
B1
0
(22)
この F µ ν を使うと、マクスウェルの方程式のうち、電荷密度と電流を含む方程式
∇ · E = eρ/ε0 ,
∇×B−
1 ∂E
= µ0 ej
c2 ∂t
(23)
はまとめて
∂ µ F µ ν = µ0 e j ν ,
* 5)
* 6)
j ν = (ρc, j)
[A, B] ≡ AB − BA
ϕ は実場とする。複素場の場合は a† (p) → b† (p) と置き換える。b† (p) は反粒子の生成演算子である。
7
(24)
源を含まない式、
∇ · B = 0,
は、Fµ ν = g µ ρ g ν σ F ρσ
* 7)
∇×E = 0
(25)
として
∂ µ Fν λ + ∂ ν Fλ µ + ∂λ Fµ ν = 0
(26)
これは F µ ν の定義から恒等式である。すなわちマクスウェルの方程式のうち源のない式 (25) は、ベク
トルポテンシャルがローレンツベクトルに他ならないということを述べているに過ぎない。式 (24) は、
A µ = B µ という形をしており、ローレンツ変換をすると、個々のベクトルの値は変わるが、方程式の形
は変わらない。これを共変形式という。式 (26) もまた 3 階のテンソル共変形式である。特殊相対性原理
とは運動方程式がローレンツ共変なテンソル形式に書けることを言う。
演習問題: 式 (24)(26) がマクスウェルの方程式になることを確認せよ。
ゲージ不変性
: F µν 従ってマクスウェル方程式は、次の (ゲージ) 変換にたいして不変である。
Aµ (x) → A′ (x) = Aµ (x) + ∂µ χ(x)
µ
(27)
χ(x) は任意のスカラー関数である。式 (24) を Aµ で書き直すと
∂µ ∂µ Aν (x) − ∂ν {∂µ Aµ (x)} = e jν * 8)
(28)
ゲージ変換自由度を利用して
∂µ Aµ (x) = 0
となるように関数 χ を決めれば、
(ローレンツゲージ条件)
∂µ ∂µ Aν (x) = e j ν
(29)
(30)
となり、源がなければ質量がゼロ (m = 0) の KG 方程式となる。すなわちフォトンの質量はゼロであるこ
とを意味する。ゲージ変換の自由度は質量がゼロのベクトル場にのみ許されるが、実際の計算ではゲー
ジを固定しなければならない。式 (29) を充たすゲージをローレンツゲージと呼ぶ。* 9)
プロカの方程式
有限質量 m を持つベクトル場の方程式は、源のない時
∂ µ F µ ν + m2 Aν = 0
(31)
と表され、これをプロカの方程式と呼ぶ。この式はゲージ不変ではない。両辺に ∂µ を掛けて和をとり、
∂µ ∂ν F µν = 0 を使えば
∂µ A µ = 0
(32)
* 7)
* 8)
* 9)

1
0
µν

g = gµν = 
0
0
0
−1
0
0
0
0
−1
0

0
0

0
−1
以下、ε0 = µ0 = 1 というヘビサイド・ローレンツゲージを採用する。
これでもまだゲージ変換の自由度が残っている。ただし、今度は ∂µ ∂µ χ(x) = 0 を充たす χ のみ使える。
8
が導けるので、Aµ は見かけは 4 成分持っていても、独立な成分は 3 個でありスピン1の持つ自由度と合
致する。電磁場 (m=0) の場合と違い、この式は独立な条件ではなく、プロカの方程式から自動的に導け
る。この式を入れればプロカの方程式は
[ µ
]
∂µ ∂ + m2 Aν (x) = 0
(33)
となって、KG 方程式に帰する。
4
4.1
ゲージ理論
ゲージ理論の幾何学的解釈
ゲージ理論は数学的に定義され物理的なイメージが伴わない抽象的概念を扱うが、重力と同じような幾
何学的解釈が可能で直観的に理解しやすくなる。この解釈の延長上に、超弦理論があるので、最先端の
トピック余次元問題を理解する上にも有用である。
ゲージ原理: ラグランジアンが大域的ゲージ対称性を充たすとき、すなわち
ψ
→
e−iα ψ,
ψ
ψeiα
→
αは任意の定数
(34)
の位相変換* 10) で不変であるとき
例 1:複素スカラー場
L = ∂µ ϕ† ∂µ ϕ + m2 ϕ† ϕ
(36a)
例2:ディラック場
L = ψ(x)(γ i∂ µ − m)ψ(x)
(36b)
µ
電磁場との相互作用は* 11) 、局所ゲージ対称性を充たさなければならない。すなわち
ψ
→
e−iα(x) ψ(x),
ψ(x)
→
ψ(x)eiα(x)
αは x の関数
(37)
の変換でラグランジアンが不変でなければならない。相互作用の無い自由場のラグランジアンは、通常
式 (36) のように
L = ψ† (x)Λ(∂)ψ(x),
Λ(A) は A の2次までの多項式
(38)
という形をしている。したがって ψ に局所ゲージ変換を施すと
L → L ′ = ψ† (x)Λ(∂ − i∂α)ψ(x),
(39)
となってラグランジアンは不変ではない。このためには、微分 (∂µ ) を共変微分 (Dµ ) に置き換えて電磁場
との相互作用を導入し、
∂ µ → Dµ = ∂ µ + ieA µ (x)
(40)
* 10)
これを U(1) 変換という。複素場の実部 ψ1 と虚部 ψ2 を、ある種の内部空間におけるベクトル成分と見なすと、
ψ1 → ψ′1 = cos αψ1 + sin αψ2
ψ2 → ψ′2 = − sin αψ1 + cos αψ2
∴
(35)
ψ′ = ψ′1 + iψ′2 = e−iα ψ
すなわち位相変換 (U(1) 変換) は 2 次元平面でのベクトルの回転に等しい。
一般のゲージ場では、α が行列、ψ が列行列となる。例えば QCD では α は SU(3) 変換の生成演算子行列と位相関数の積
となり、ψ は 3 列のベクトルとなる。これは3次元複素空間の回転である。全てのゲージ変換はある種の内部空間での回転演
算とみなせる。
* 11)
9
かつ、ゲージ変換に電磁ベクトル場の同時変換
A µ (x)
→
1
A′µ (x) = A µ (x) + ∂ µ α(x)
e
(41)
を含めると、ψ の位相変換と電磁ポテンシャル Aµ のゲージ変換とが相殺してラグランジアンは不変に保
たれる。これによって電磁場と ψ の相互作用の形はユニークに決まる。このようにしてある対称性(今
は U(1))に基づいて相互作用を導入することを”ゲージ化する”という。
4.2
重力の幾何学的解釈
アインシュタインの一般相対性理論によれば、質点は常に空間で直線 (より正確には測地線) 運動をする。
物体が存在すると物体は周りの空間を歪めるので、質点の直線軌道が曲がるように見える (図 5 参照)。
重力作用を物体間の力学現象とするニュートンの錨像を空間の幾何学に置き換えたのである。これを理
解するには、曲がった空間での直線を定義する必要がある。ゲージ力もまた重力と同じような幾何学的
図 5: 左図 (a) 空間はあたかもぴんと張ったゴム膜に似ている。物体の存在しない自由空間は平らで、直交直線 (デカルト)
座標系を設定できる。質点 A の運動は等速直線運動である。 (b) 引力中心の物体 B が存在すると空間は歪み、デカルト座
標系は存在し得ない。物体はこの空間での直線 (測地線) の軌跡を描くが、元のデカルト座標系で見ると曲線を描き、物体 A が
物体 B の引力を受けて曲がったように見える。
解釈が可能である。ゲージ変換を受ける複素場の各成分を内部空間に設定した座標系における各成分、
ゲージ変換を内部空間での座標回転と見なし、実空間と内部空間を合わせた超空間を考える。力の源は
電荷であるから、重力の源である質量 (より正確にはエネルギー) の存在が実空間を歪めるように、電荷
の存在が内部空間を歪めるので、場が超空間に描く測地線の実空間への投影が曲がって見えると解釈す
る。
平行移動と接続係数
重力の幾何学的解釈を数学的に扱うには、平行移動の概念を理解する必要がある。平行移動とはベクト
ルの方向を変えずにベクトルの基点を移動する操作である。直線 (測地線) とは接線ベクトルを平行移動
して得られる線と定義できる。* 12) そこでまず直線を局所的に定義することを考えよう。デカルト座
標系では、ベクトルの位置座標を微小位置ずらしたときに方向が変わらないという表現、すなわち座標
位置の時間微分 (速度) が一定ということで直線が定義できる (図 6(a))。
デカルト座標系での直線の定義: dp
dv
= 0 または =0
dt
dt
(42)
しかし、曲線座標系を使う場合はこの表現に修正が必要である。それを見るために極座標系を眺めてみ
* 12)
2 点間の最短距離となる連結線と定義しても良い。
10
図 6: 直線に沿って移動すると (a) デカルト座標系では、各点での x,y 軸に対する角度は一定。 (b) 極座標系では各点での r, θ 軸
にする角度が、直線に沿って変わる。直線を定義するには各地点での座標軸の傾きを知って補正する必要がある。”接続”がこ
の役目を担う。(c) A 点 (x) でのベクトル VA を、B 点 (x + dx) 点迄平行移動すると、基準系が傾くので成分が変わる。
よう。極座標系は、r= 一定と θ = 一定で刻みを入れた座標系である。極座標系では、基準座標軸の傾き
が各点で変わるので、直線を定義するにはその情報を入れて、各点毎に座標軸に対する傾きを補正しな
ければならない (図 6(b))。極座標系でベクトルを平行移動する時の表式を求めてみよう (図 6(c))。A 点
(x) ≡ (r, θ) でのベクトル VA はデカルト座標で (Vx , Vy ) = (V cos φ, V sin φ) なる座標を持つ。今この地点
での極座標成分 (Vr , Vθ ) も同じ値を与える様にベクトル VA を設定した。しかし、直線上を平行移動して
B 点 (x + dx) = (r + dr, θ + dθ) に持って行ったベクトルを VB とするとき、ベクトル VB の座標成分はデ
カルト座標では変わらないが、極座標では基準系が dθ だけ傾くため
V∥ r ≡ VB r = V cos(φ − dθ) ≃ V cos φ + dθV sin φ = Vr + dθVθ
(43a)
V∥ θ ≡ VB θ = V sin(φ − dθ) ≃ V sin φ − dθV cos φ = Vθ − dθVr
(43b)
すなわち、極座標系では平行移動をすると座標成分が変わる。その補正関数 Aµ (x) を接続と言い一般に
は座標点 x の関数である。
一般相対論では実空間のベクトル平行移動を扱う。このベクトルは4成分あるので、平行移動したベク
トルの変化分を指定するには、移動先のベクトル、元のベクトルに移動方向 (dx µ ) を指定しなければな
らないので、指標を3つ必要とし次式で表される。このときの変化分をコントロールする接続 (Γ) をク
リストッフェルの接続係数と言う。
pλ∥ (x + dx) = pλ (x) − Γλµ ν dx µ p ν
(44)
上式を導くとき、変化分は元のベクトルの線形変換で得られ、微小距離ならば移動量にも比例すると
いう仮定している。平行移動とは、元のベクトルを新しい地点に投影して、そこでの基準座標系で書き
直すことを意味する。デカルト座標系では各地点での基準系が同じ方向を向いているから、成分はどこ
でも同じ、言い換えると接続は全領域でゼロである。極座標系は、平らな平面上の座標系であるので元
のデカルト座標系に戻すことができる。つまり全平面で接続係数をゼロにする座標変換が存在する。デ
カルト座標は直線的な平らな空間でのみ定義できるから、デカルト座標が存在すると言うことは空間が
平らであることと同等である。
次に基準座標系が球面上に設定された緯度と経度の場合を考察しよう (図 7)。緯度と経度に基づく座標
系は各地点で直交基準座標系を構成するものの広域的に見ればデカルト座標系ではない。東京とサンフ
ランシスコを結ぶ測地線 (大圏コース) は各地点に設けた基準座標系から見れば各地点ごとに回転してい
る様に見えるから、測地線の満たすべき式を緯度と経度で表す場合には、接続係数は球面という空間の
11
図 7: 空間が曲がっているときの例: 東京とサンフランシスコを結ぶ大圏コース (測地線) から見ると、各地点に設けた基準
座標系 (緯度と経度による局所直交座標系) が回転するように見える。
持つ性質と緯度経度という設定座標系の性質を知った上で、各地点ごとに違う回転角を与えて調整し表
現しなければならない。球面上ではデカルト座標系は成立しないから、この曲線座標からデカルト座標
系へ移ることはできない。すなわち、適当な座標変換により全領域で接続係数を消すことはできない。
明らかに接続は空間の性質を内蔵している。
幸いなことに我々の扱う物質場は、内部空間のベクトルではあっても実空間ではスカラーであるから接
続係数の指標は一つでよい。場の平行移動を
ψ∥ (x + dx) = ψ(x) − ieA µ (x)dx µ ψ(x) * 13)
(45)
で定義すれば A µ が接続係数となり、各地点毎に異なる座標系の調整をベクトルポテンシャルが担って
いることが判る。ゲージ不変性は内部空間の回転不変性である。回転角 α が座標によらない場合は接続
が無くとも不変性が保証されるが、α → α(x) のように各地点で回転角が変わると不変性が保証されな
い。しかし、接続としてのベクトルポテンシャルがあればその地点での座標系の変化を把握できるため、
正しく調整しなおして全体としての回転不変性が保証されるのである。
空間の曲率 接続係数の役割を考えると、接続係数は空間の歪み具合の情報を内包していることが判
る。そこでその情報を引き出すことを考える。平らな空間でのベクトルの平行移動は直観的に把握しや
すいが、曲がった空間でのベクトルの平行移動を理解するには多少の努力が必要である。球面上で平行
ベクトルがどのように動くかは、平らな平面に平行な矢印を沢山墨で書いておいて、その上で玉を転が
すことにより見当がつけられる。曲がっている空間の特徴はベクトルを平行移動して、元の地点に戻っ
た時、方向は元に戻らないことである (図 8)。この差を余剰角という。曲がりが大きいほど余剰角が大
きくなる。余剰角をその領域の全曲率、領域の面積で割ったものを平均曲率と言う。ある地点の曲率は、
領域の大きさを微小にした平均曲率として得られる。場が dx µ dx ν で定義される微小ループを一回りし
て ψ → ψ + δψ になったとしよう。
δψ = −ie
* 13)
I
A µ dx µ ≃ −ie[∇ × A]z⊥x µ x ν dxµ dxν = −ieFµ ν dx µ dx ν ,
Fµ ν = ∂ µ A ν − ∂ ν A µ
(48)
式 (43) の変換は、複素ベクトルを導入すると
∴
V(x) ≡ Vr + iVθ
→
V∥ (x + dx) = V∥ r + iV∥ θ = (1 − idθ)V ≡ (1 − iA µ dx µ )V
Ar = 0, Aθ = 1
(46)
(47)
となって、ここでの定義と同じ形になる。
12
図 8: (a) 白抜きのベクトルを北極 (イ) から平行移動して赤道 (ロ、ハ) を通り再び子午線に沿って元に戻すと余剰角 π/2 が
生じている。これをイロハの囲む面積で割れば平均曲率 1/R2 を得る。緯度 30◦ の線は大円でないから緯度線に沿って平行移動
するとベクトルは回転し一周したときやはり余剰角が生じる。この様子は緯度線に接する円錐 (b) を切り開いて展開面 (c) を
作ってみればよく判る。展開面上では、平行移動の定義通り各ベクトルは全て同じ方向を向いているが、元の球面上に戻すと、
ベクトル A を緯度線に沿って平行移動させたものは、一周するとベクトル E になるので余剰角は π である。
このときの回転角 ∆α は
e−i∆α ψ = ψ + δψ ≃ (1 − i∆α)ψ
∴
∆α = iδψ/ψ
(49)
で与えられるから、曲率は
∆α
iδψ/ψ
= µ ν = eFµ ν
(50)
dx µ dx ν
dx dx
すなわち電磁場はこの超空間における曲率そのものである。電荷/電流が存在すると電磁場 (曲率) がゼロ
でない。すなわち、空間は曲がっている。接続係数から微分操作により空間の持つ性質情報を引き出し
たのである。マクスウェルの方程式
∂µ F µ ν = e jν
(51)
は電荷の存在とその分布が空間の曲率を決める式と解釈できる。これを一般相対論方程式と比べてみ
よう。
R µ ν − g µ ν R = 8πGTµ ν
(52)
G は万有引力定数である。左辺の R µ ν および R(= g µ ν R µ ν ) は曲率を表す項で、リーマンの曲率テンソ
ルを縮約して得られる。リーマンの曲率テンソルはクリストッフェル接続係数から (48) と同じ操作によ
り得られる* 14) 。右辺はエネルギーテンソルであるから、一般相対論方程式はエネルギー分布が空間の
曲率を決めると言う式で、全く同じ構造をしていると言える。
一般相対論では、時空の計量を ds2 = g µ ν (x)dx µ dx ν で定義し、ds2 を不変にする一般座標変換を扱う。クリストッフェル
の接続係数は
(
)
1
Γλ µ ν (x) = g λ ρ ∂ µ gρ ν + ∂ ν gρ µ − ∂ρ g µ ν
2
で定義される。行列 [Γ µ ]ρ σ = Γρ σ µ を定義すると、リーマンの曲率テンソル Rρ σ µ ν とリッチの曲率テンソル R µ ν は、
* 14)
ρ
Rρ σ µ ν = −[∂ µ Γ ν − ∂ ν Γ µ + (Γ µ Γ ν − Γ ν Γ µ )]σ
Rµ ν = R
ρ
µρν ,
R
µν
=g
µρ νσ
g
Rρσ ,
R = R µ µ = g µ ρ Rρ µ
で定義される。
ただし、参考のため数式を具体的に書き下ろしたが、ここでは厳密な数学式を理解する必要は無い。どのような量がどのよう
な操作で導かれ、方程式にどのように入っているかという相互関係のみを理解してくれればよい。
13
共変微分 ベクトルの平行移動が定義できれば、ベクトルの微分が定義できる。ベクトルの微分は、x
地点と x+dx 地点でのベクトルの引き算であるが、この計算は x+dx 地点で行われるからx地点のベクト
ルを x+dx 地点での基準座標系で表すことが必要である。これがx地点のベクトルを x+dx まで平行移動
することの意味である。この意味での微分を共変微分と言う。
Dµ ψ =
ψ(x µ + dx µ ) − ψ∥ (x µ + dx µ )
Dψ
dψ
≡
lim
= µ + ieA µ (x)ψ = (∂ µ + ieA µ )ψ
µ
µ
µ
dx →0
dx
dx
dx
(53)
運動方程式は微分の多項式で表されるが、微分の代わりに共変微分で書いておけば、任意の座標系に移っ
ても同じ形を保つことが保証される。すなわち一般座標変換に対する共変性が満たされる。これが一般
相対性原理である。
等価原理 等価原理とは、重力を加速系における慣性力と見なすことである。慣性系では重力が存在し
ないから質点の運動方程式は慣性の法則 (式 (42)) を満たす。微分を共変微分に置き換えれば、慣性系か
ら加速系に移っても方程式は同じ形を保つから (共変的)、加速系 (重力の存在する系) での運動方程式と
なる。
慣性系の運動法則 曲がった空間での運動法則
Dp
dp
= 0 (τは固有時) =⇒
=0
dτ
dτ
すなわち曲がった空間での質点の描く軌跡は測地線である。これが言えるためには慣性系の存在を証明
する必要があるが、物理的に考えればエレベーターに乗り、支え綱を切れば自由落下をし、エレベーター
の中は無重力地帯となるので、慣性系は確かにある。数学的には接続係数を少なくもある一点でゼロに
する座標変換が存在するという言い方になる。接続係数がゼロと言うことは、デカルト座標系の存在す
なわち慣性系の存在を意味するからである。ある一点と言うことは、局所的にしか無重力状態を実現で
きないと言うことを意味する。
図 9: 等価原理
(a) 空間が曲がっていても (重力下でも)、接続係数を局所的に { ある一点 (A または B で } 0 にする座標変換が存在する。エレ
ベーターに乗り綱を切ればよい。エレベーター内は無重力であり、慣性系である。
(b) 曲がった空間では。A,B を含む広域内で同時に接続係数を 0 にすることはできない。言い換えれば、広域的に慣性系にす
ることはできない。なぜなら、エレベーター内の人間は A,B 点にある物体が時間と共に近づくことを見るだろう。すなわち、
重力下の広域領域は慣性系になり得ない。
14
等価原理を場の方程式に適用しよう。電荷が存在しない空間では物質場は相互作用の無い自由場の方
程式を満たす。これを共変微分で書き直せば、曲った空間すなわち電荷の存在する空間での方程式が得
られる。従ってゲージ原理を再現する。
電荷の存在しない自由場の運動方程式 Λ(∂µ )ψ(x) = 0
4.3
(電荷が存在して) 曲がった空間での運動法則
=⇒
Λ(Dµ )ψ(x) = 0
カルーツァ・クライン理論
上記で行ったゲージ理論の幾何学的解釈は厳密とは言えないが、偶然の産物ではない。
第一に、内山は 1956 年に重力理論はゲージ理論の一形態であることを証明した。すなわち一般相対性理
論とゲージ理論にはかなりの共通点がある。
第二に、1921 年のカルーツァ・クライン理論がある。カルーツァとクラインは5次元空間での重力理論
を4次元空間に投影すると通常の重力と電磁力が得られることを示した。ただし、第5の次元方向は無
限に広がっているのではなく円筒状に巻き込まれていて有限であり、その座標移動操作は周期的である
ので回転変換したがってゲージ変換になる。ベクトルポテンシャルは、通常次元と第5次元を結ぶ計量
として現れる。電荷は第5方向の運動量に比例する量である。
重力を除く三つの力、弱い力、電磁力、強い力が、いずれもある種の対称性をゲージ化して得られる
ように、重力もまた超対称性をゲージ化して得られ、これを超重力理論 (Supergravity) と言う。ただし、
重力理論を整合性があるように量子化する方法はまだ見つかっていない。現在有望と考えられているの
は、素粒子が質点ではなく紐と考え (弦理論)、そして重力は超対称性をゲージ化して得られる (超重力理
論) という超弦理論である。これを10次元空間で考えて、4次元空間に投影すると重力、電弱強の全て
の理論が得られると予想する (拡張型カルーツァ・クライン理論)。余分の次元が最初カルーツァ・クラ
イン理論で予測した様に、観測不可能なくらい小さく巻き込まれているのか、観測可能なくらいに大き
く広がっていて、我々の4次元空間は10次元空間の中の膜 (Brane world) とみなせるのか、ホットなト
ピックである。
5
基本粒子の運動方程式
クォーク・レプトンはディラック方程式に従う。ゲージ場は (広義の) マクスウェル方程式に従う。
ψ=0
[iγ µ D µ − m]ψ
ディラック方程式
(54)
∂ µ F µ ν − gA µ × F µ ν = 1j ν
広義のマクスウェル方程式
(55)
τ
τ
i
D µ = ∂ µ + i1A µ · ≡ 1∂ µ + i1 ∑ Ai
共変微分
(56)
2
2
i
(
)
F µ ν = Fµ1 ν , Fµ2 ν . . . = ∂ µ A ν − ∂ ν A µ − 1A µ × A ν
広義の電磁場
(57)
τ
ψγ µ ψ
広義の電流
(58)
j µ = ψ̄
2
1
ψ[iγ µ D µ − m]ψ
ψ − Fµ ν · Fµ ν
ラグランジアン
(59)
ψ̄
4
U(1) 対称の場合: τ = 2, ψ は通常の時空での 4 成分スピノール (ガンマ行列の作用する列ベクトル)。
この場合外積項(式 (55) の第 2 項と (57) の第3項)は消える (アーベル場)。電磁場であれば 1 = e
15
SU(2) 対称の場合:τ は 2 × 2 のパウリ行列を表し、粒子とゲージ場はアイソスピン成分を持つ。
[ ]
[ ]
u
νe
ψ=
..., − ...,
A = (A1 , A2 , A3 ) or ∼ (W + ,W 0 ,W − )
d
e
(60)
SU(3) 対称の場合:τ = λ は 3 × 3 のゲルマン行列で、ψ は 3 成分、A(グルーオン) は 8 成分のカラー自由
度を持つ。
標準理論の場合:
(1)クォークは 3 色のカラー電荷を持ち、カラー荷による力 (強い力) は SU(3) 対称性を持つ。電磁場
(フォトン A µ ) は U(1) 対称性に従う。弱い相互作用は、左巻き粒子にのみ働きアイソスピンを持ち SU(2)
対称性に従う(しばしば SU(2)L と書く)。ただし、もともとは U(1) 対称性をもつ超電磁場 (B µ ) があり、
弱い相互作用のアイソスピン第 3 成分 (W µ0 ) と混合したものが、フォトンと Z 0 となる。この結果、Z 0 に
は左巻きの他に右巻き相互作用も入る。フォトンの相互作用は左右対称のままである。混合角をワイン
バーグ角という。この対称性を U(1) × SU(2) のように書く。
(2)元々のクォーク・レプトンは全てゼロ質量を持つ。電弱相互作用にはアイソスピン 1/2 のヒッグ
ス場が付随し、ヒッグス場の自己相互作用により、極低温(我々の住む世界)では、ヒッグス場が真空
期待値を持ち (ボース・アインシュタイン凝縮)、ある種の超伝導状態となる (対称性の自発的破れ)。こ
の結果、ヒッグス場との相互作用により弱い相互作用のゲージボソンとクォーク・レプトンには質量が
付加される。なお、クォークは QCD のカイラル対称性の自発的破れによりさらなる質量を付加する。
ヒッグスはアイソスピン 1/2 のスカラー粒子であり、ヒッグス場のラグランジアンは* 15)
[ ]
φ+
†
µ
LHiggs = (D µ φ )(D φ) −V (φ),
φ= 0
(61)
φ
)2
(
µ2
2
V (φ) = λ |φ| +
, λ>0
(62)
2λ
V (φ) が自己相互作用項である。対称性が自発的に破れると
[ ]
]
[
0
φ+
φ = 0 → φ′ = v+φHiggs
√
φ
2
(63)
の様に変化する。v は真空期待値で、φHiggs が観測可能な物理的粒子となるが、残りの自由度はゲージ粒
子に吸収され縦波成分となる。
力の到達距離 場の量子論での相互作用とは物質粒子が力の伝達粒子を交換することに他ならない。
力の伝達粒子が質量 m を持てば、力の到達距離 ≡ r0 はそのコンプトン波長 (h̄/mc) 程度になる。
証明1: 直観的錨像
ハイゼンベルグの不確定性原理により、力の粒子が質量 m を持つならば、力が働くとき物体のエネル
ギーに少なくも ∆E = mc2 の不定性が生じる。これは ∆t = h̄/∆E = h̄/mc2 の間だけ許されるから、その
間に力の粒子が相手に届かないと力は働かない。光速で到達できる距離は r0 ∼ c∆t ∼ h̄/mc となる。
* 15)
φ をクーパー対の波動関数とし、非相対論的近似をとると、超伝導のギンツブルグ・ランダウ方程式そのものになる。
16
証明2: 半古典的方法
力の場は相対論的に書けばクライン・ゴードン (KG) の方程式に従うであろう。
[
]
[ µ
]
1 ∂2
2
2
2
∂µ ∂ + m φ(x) = 2 2 − ∇ + m φ = 0
c ∂t
(64)
これは、m = 0 ならば電磁場 (A0 = クーロンポテンシャル) の従う方程式である。場の源として、原点に
点源が存在するときの方程式は、
[
]
1 ∂2
[∂µ ∂µ + m2 ]φ(x) = 2 2 − ∇2 + m2 φ = gδ(r)
(65)
c ∂t
g は電荷 e に対応する力の強さを表す。静的ポテンシャルを考えるならば時間微分を0と置ける。方程
式を解くために、フーリエ展開式を使い、KG 方程式に代入すると
φ(r) =
1
(2π)3
Z
φ(p)ei·r dp,
δ(r) =
1
(2π)3
Z
eip·r dp
(66)
g
p2 + m2
Z
Z ∞Z 1
g
eip·r
g
eiprz 2
∴ φ(r) =
dp
=
p d pdz
(2π)3 p2 + m2
(2π)2 0 −1 p2 + m2
]
(67)
Z ∞
Z ∞[
1
g
p(eipr − e−ipr )
1
g 1
ipr
= 2
+
e dp
dp =
4π ir 0
p2 + m2
4πr 2πi −∞ p − im p + im
g e−mr
=
4π r
これは湯川ポテンシャルと呼ばれる。m → 0 の極限でクーロンポテンシャルを再現する。m > 0 の場合
を到達距離 r0 = 1/m の短距離力、m = 0 (r0 = ∞) の時長距離力という。
湯川は核力の到達範囲が ∼ 10−15 m という実験事実から、核力の媒介粒子として中間子 (π メソン) の存
在を予言し、その質量を電子の約 200 倍と推定したのであった。
(p2 + m2 )φ(p) = g
6
→
φ(p) =
クオークの閉じ込め
漸近自由
QCD の結合定数は高エネルギーでは小さくなるので、クォークは自由粒子のように振る舞う。
g2
1 Q2 →∞
高次補正
≡ αs −−−−−→ αs (Q2 ) ∼ Q2 −−−−→ 0
4π
ln Λ2
(68)
Λ は QCD の基本定数で ∼ 200MeV の値を持つ。Q2 >> Λ2 では摂動論が成立するということ。観測的に
は Q & 1GeV /c で成り立っている。しかし、単独の自由クォークを分離することは不可能 (閉じ込め) と
見なされている。これは QCD の非アーベル構造による非線形効果、すなわちグルーオン自己相互作用
に起因すると考えられている。
ハドロンの紐構造 ポテンシャル錨像: 多体系の束縛状態は平均場近似をして、ポテンシャルの中の
一体問題として扱える。
1
(69)
E = mv2 +V (r)
2
17
図 10: 左図: r → ∞ でゼロになる引力ポテンシャルの中では、束縛エネルギーが負。r → ∞ で粒子は自由状態となる。回転し
ているときは、角運動量障壁が生じて、r → 0 になることを妨げる。
右図: クォークポテンシャル(V (r) = − αrs + kr)。ポテンシャルが距離と共に増加する場合は、r → ∞ でも束縛されている。
束縛エネルギーが正の状態もあり得る。
もし無限遠に引き離すのに無限のエネルギーが必要であれば、引き離せないことになる。これはポテン
シャルが V (r) ∝ rn , n > 0 であれば実現でき、かつ束縛エネルギーも正にできる (図 10 参照)。すなわち、
どれだけはなしても力が働くというゴム紐構造を考える。
簡単のため2個のクォークが引き合い、回転運動をするとしよう。クォーク質量はゼロとすれば、r だけ
離れた2体クォーク系の全エネルギー (質量) は
M = E = 2p + krn
(70)
角運動量 J は、古典的に考えれば
⇒
J = 2pr
E=
J
+ krn
r
(71)
軌道は ∂E/∂r = 0 で安定するから
∂E
J
= − 2 + nkrn−1 = 0
∂r
r
⇒
J = nkrn+1
(72)
この関係式をエネルギー式に代入すれば
n
E ∝ J n+1
or
J∝M
n+1
n
(73)
実験データ (図 11) と比較すると J ∝ M 2 であることが判るから、n=1 と決められる。また、実験データ
から勾配が 0.93/(GeV )2 であることも判るので
1
= 0.93(GeV )−2
4kh̄c
→
k = 1.3GeV /(10−13 cm)
(74)
ということも判る。2個のクォークを 10cm(素粒子レベルでは無限大) 離すのに必要なエネルギーは
∼ 1014 GeV = 1014 × 109 × 1.6 × 10−19 joule = 1.6 × 1.6 × 104 N.m ∼ 1 トン・mの仕事量となる。このよ
うな莫大なエネルギーを一個のクォークに注ぎ込むことは不可能である。10−13 cm ≃ はほぼ陽子の大き
さであるから、陽子の大きさ程度離すたびに 9 個のパイオン (mπ = 0.14GeV ) を生成するに十分なエネル
ギーが蓄えられるが、真空の量子ゆらぎで、常に仮想の qq̄ ペアが作られている。紐上に作られれば、π
18
図 11: レッジェ軌跡の Chew-Frautchi プロット。J = kM 2 、k = 0.93(GeV )−2 を示す。
メソンが2個発生する。2個のパイオン同志には短距離力の核力は働くが、紐の力は働かないので紐が
千切れたことになる。高エネルギーのクォークが作られると、遠くへ飛ぶが、紐を伸ばすよりπメソン
を沢山作る方がエネルギーが経済的になる。すなわち、クォークは単独で分離することができない。高
エネルギークォークのあるところには、クォークと同じ方向に飛ぶ沢山のパイメソン、すなわちジェッ
トができることになり観測と合致する。
図 12: ハドロンの紐モデル。クォーク間には距離と共に増大するポテンシャルが働くと、真空の量子効果でクォーク反クオー
ク対がひも状に現れたとき、紐が千切れて沢山のπメソンに分割する。
閉じこめの物理的イメージ こうした閉じこめは数学的にはまだ解けていないが、物理的なイメージ
は明らかになっている。超伝導体では温度と磁場がある臨界値 T < Tc , B < Bc より低くなると、磁場は
超伝導体の中に入り込めない (マイスナー効果)。すなわち、超伝導体は完全反磁性体である。B > Bc で
は超電導状態が壊れる。第2種超伝導体では、BC 1 < B < Bc 2 で超伝導体を一部壊し、そこに磁束が入り
込めて、超伝導体を磁束が貫く (図 13 左図 (b))。ここでは磁束が広がらず磁気力線は束になって磁力は
一定のまま伝わる。
19
図 13: 左図 (a) 磁束は超伝導体の中に入り込めない。 (b) 第2種超伝導体では、超伝導体の一部に磁場が入り込める。 右図
a) 源 (クォーク) に近いところでは、カラー電気線は四方に広がりクーロン力となる。 (b) r が大きくなると電束は絞り込ま
れ、電束密度は r によらない一定値をとる。
ベクトルゲージ場を仲介とする力には電気力と磁気力に対応する力がある。電荷から流れ出た電気力線
が四方に広がることにより、電気力の強さ (電束密度) が ∼ 1/r2 で減少するクーロン力となる。QCD の
場合、クォークと反クォークの間に8種のグルーオンを交換することによる8種のカラー (電気) 力線が
生じる。カラー荷の源 (クォーク) に近い所ではカラー力線は4方に広がるのでやはりクーロン力を生じ
る (図 13 右図 (a))。しかし、真空が完全反誘電体となっていれば、電気力線が入り込むことを許さない。
第2種超伝導体が磁束を絞り込むように、カラー真空がカラー電気力線を絞り込むと考えられる (図 13
右図 (b))。このクォークから流れ出た電気力線が束になって全て反クォークに吸収されれば、電束密度は
距離によらず一定である。すなわち V (r) ∝ r の閉じこめ力が生じる。超伝導相が実現するのはある臨界
温度 Tc 以下の極低温である。同様にクォークの閉じ込め相も臨界温度 (Tc ∼ Λ = 200MeV ) 以下で生じ、
それより高温ではクォークは閉じ込められておらず、自由に飛び回れると考えられている。これは絶対温
度では ∼ 1012 K に対応し、ビッグバン直後はこの状態にあったと考えられている。人工的には、重イオ
ン同志を衝突させれば、瞬間的に臨界温度以上の温度を実現できると考えられ、米国の BNL(Brookhaven
National Laboratory) の RHIC(Relativistic Heavy Ion Collide) 加速器で実験が行われている。
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