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日米の行政と市民参加

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日米の行政と市民参加
日米の行政と市民参加
~米国オレゴン州にみる市民意識~
西芝雅美氏(米国ポートランド州立大学助教授)
(2008 年 11 月 22 日・守山市立図書館)
1
オレゴン州とポートランド市の概要
アメリカのイメージはニューヨークかもしれませんが、実際は州によって状況がずいぶ
ん違います。私は、ほとんどオレゴン州しか知らないので、きょうの話も、ポートランド
市あるいはオレゴン州の行政のあり方、市民参加のあり方、オレゴンに住みながら見た日
米の行政比較ということであり、必ずしもそれがアメリカのほかの地域でも同じとは限ら
ないことを念頭に置いて聞いてください。
オレゴン州は、人口約 375 万人、面積 25 万 5000 平方 km です。ちなみに日本の面積は
38 万平方 km ぐらいです。ビーバーが川にたくさんいるので「ビーバー州」とも呼ばれま
す。ポートランド市は、人口約 53 万人、面積 376 平方 km で、市の真ん中をウィラメット
川が流れています。いろいろなバラを栽培しているローズガーデンという庭があり、バラ
がシンボルのきれいな町です。
「ローズシティ(バラ市)
」というニックネームもあります。
「住みやすい町ランキング」では必ず全米トップ5に入っています。都市計画に力を入れ
て緑豊かな町にするなど、人が住みやすいことを中心に考えた町づくりをしてきました。
そのほかにもいろいろなランキングで上位に顔を出していて、例えば、レストランの前に
犬専用の水呑場があったり、犬を自由に走らせてもよい公園があるなど、犬にとってもや
さしい町として知られています。
2
ポートランドの市民参加
ポートランドは、市民参加が非常に盛んであることでも有名になりました。ポートラン
ドにおける市民参加については、愛知東邦大学の岡部一明先生がかなり研究されており、
ウェブサイトや論文等に発表されているので、ぜひ参考にしてください。
ポートランドが注目されたのは、
『孤独なボウリング――米国コミュニティの崩壊と再生
(Bowling Alone: the Collapse and Revival of American Community)
』を書いたロバー
ト・パットナム――アメリカにおける市民参加の変遷について研究し、市民が政治に興味
を持たなくなり、市民参加しなくなっていることに警鐘を鳴らしている方です――が、公
聴会などに参加する市民の数のデータを取ったところ、ポートランドと同規模の市の平均
値は 1975 年以降年々下がっているのにポートランドだけは上がっていることに気が付いて、
それを『Better Together: Restoring the American Community』という本で紹介したのが
きっかけです。
パットナムによると、1974 年当時、公聴会や地区懇談会などへの出席者数は、ポートラ
ンドでも同規模の他の市でも 21~22%でしたが、20 年後の 1994 年にはポートランドが 30
~35%に上がっているのに対して、他の市では 11%に下がりました。行政改革団体(Better
Government Organization)に参加している人たちの有権者に対する割合は、74 年には 4
~5%で同じぐらいだったのが、94 年にはポートランドは 12%にまで上がり、他市は 2.5%
に下がっています。署名活動も市民参加の指標として使われますが、これはポートランド
が 50%程度から 75%にまで上がったのに対して、他市は 40%程度から 25%に下がってい
ます。
3 市民参加のきかっけ
パットナムの報告以後、いろいろな人がポートランド研究を始め、市民参加が盛んにな
るきっかけとなったいくつかの出来事があったことがわかってきました。よく知られた成
功例を3つ挙げてみます。
(1)高速道路の代わりに公共交通機関の導入
ポートランド市内には公共交通機関がいくつかあります。MAX(Metropolitan Area
Express)はライトレール(軽軌道車両)の電車で近郊の町や空港につながっています。ス
トリートカー(路面電車)は市内を走っています。バスも走っています。市内の一定区間
内はいつでも無料で乗れ、その区間を超えると料金を払います。便利なので利用客は多い
です。これができたのは、高速道路よりも毎日の生活で使いやすい交通機関を求めて、市
民が活動した結果です。
1960 年代半ばから後半にかけて高速道路の建設がアメリカ全土で進められているとき、
市民からは建設反対の声も出てきました。ポートランドでも、連邦政府主導で市内からフ
ッド山までをつなぐ高速道路建設が行われることになりました。フッド山は市内からも見
える郊外の山です。高速道路は連邦政府の管轄なので、州政府の交通局とともに建設を計
画したのです。ところが、高速道路は市の東側にある閑静な住宅地の中を通る計画だった
ので、住民が反発し、フッド山高速道路建設反対運動が起こりました。しかも、その先の
グレシャム、サーツハンディなどの町でも、高速道路によって便利になるはずなのに、そ
この市民も環境が破壊されるおそれがあるとして反対した。こうして高速道路反対運動が
展開され、市長選挙で高速道路を建設しないという公約を掲げた候補が当選し、建設は中
止と決まりました。その代わりに連邦政府は、高速道路建設に当てることになっていた 2
億ドルの半分ぐらいを使って、公共交通機関の整備をしたのです。
(2)高速道路より公園を
トム・マッコール・ウォーターフロントパークは、ウィラメット川沿いに広がる 15 万平
方メートルの公園です。ふだんは市民の憩いの場ですし、いろいろなイベントも催されま
す。春には桜並木がきれいなところです。この公園も高速道路建設反対がきっかけでつく
られました。
1960 年代まで、公園のある場所にはハーバードライブという高速道路が走っていました。
1942 年に建設された幅の狭い道路でしたが、この道路があるために市民はウィラメット川
の河原にアクセスできませんでした。1968 年に連邦政府と州がハーバードライブを拡張す
る計画を出しましたが、市民の間から反対運動が盛り上がりました。トム・マッコールと
いう知事は、市民が本当は何を望んでいるのかを考えようと、市民タスクフォースを取り
まとめました。その結果ハーバードライブを取り壊して、公園ができました。
このときの反対運動では、市民が川沿いにピクニックして座り込みをし、ピクニックが
できるほうが道路を建設するよりもっといいじゃないかとアピールしました。ただデモで
反対を叫ぶだけではなく、自分たちはこういうふうに川沿いの土地を使いたいのだという
ことを具体的に主張したのです。
(3)パイオニア・スクエアの駐車場建設反対運動
パイオニア・スクェアは、ダウンタウンにあって、周りにデパートなどが建ち並ぶ広場
です。レンガが敷き詰められていて、クリスマス・シーズンには大きなツリーがライティ
ングされるなど、市民の憩いの場として使われており、
「ポートランド市民のリビングルー
ム」と呼ばれています。
かつてここには学校があったのですが、それが後に隣接する大手デパート、マイアー&
フランクの立体駐車場になっていました。その駐車場の建物を 2 階建てから 11 階建てにす
る建替え計画が出たところ、そんなに高い建物が市の真ん中にあるのはよくないという反
対意見が市民から出ました。マイアー&フランクだけでなく周辺のビジネス街としては駐
車場がほしいのですが、市民の中には駐車場よりも公園のようなスペースがほしいという
意見が多かったので、何回か公聴会を開きながら話をまとめて、最終的に公園にすること
を決めました。このときの運動では、駐車場の屋上に市民が集まって駐車できないように
してデモンストレーションしたそうです。
ところが、資金繰りがうまくいかず、1970 年代後半には公園ができないかもしれないと
いう状況になりました。すると、それを知った市民にまた火がついて、なんとかして資金
を集めようというので、みんなでレンガを買う運動を始めました。お金を出してレンガを
買うと自分の名前を刻んでくれるのです。いま広場に敷き詰められているレンガがそれで
す。
(4)成功の要件
市民は、自分たちはこういうところに住みたいという明確なビジョンを持っていて、そ
れをどうやって実現するかを考えるスキルもあった。行政が市民参加してくださいと言う
だけではなく、どうやればみんなの意見をまとめられるかを市民側が考え、多様な意見を
まとめるリーダーや、そういうことのできるスキルを持った人たちがポートランド市民の
中にたくさんいたのが、一つの大きな要因ではないかと思います。そういうスキルを持っ
た人たちが人を動員して意見をまとめ、行政に対して主張していったら結果的に成功例と
なった。ただ放っておいて成功するわけではなく、市民にそれなりのスキルがなければ成
功にはつながりません。そのうちに、市民側には参加するのがあたり前のような気風が出
てきたのです。
一方、行政側には、形式にこだわらないで、柔軟な対応を考える態度がありました。市
民の意見に最初からだめというのではなく、何とかできないかと考える気持ちがあって、
そういう中でもっと積極的に市民の意見を取り入れるために必要な体制づくりを行政が自
覚してきたのです。
4
市民参加進展の背景
(1)オレゴン州の都市計画
ポートランド市が住みやすい町になった理由の一つには、オレゴン州がかなり早い段階
から都市計画を全州でまとめて取り組んだことがあると言われています。アメリカの都市
計画は州法レベルで決まっているので、州により異なります。オレゴン州の場合は、都市
計画や土地取引を州が統括しています。州の土地利用法がポートランドで市民参加が進ん
だ背景の一つでもありました。
土地利用を決めるに当たって、最終的な決定権は市やカウンティ(郡)などのローカル
ガバメントが持つものの、決定プロセスには必ず市民が参加し、市民の意見を聞いたうえ
で総合計画をつくります。さらに、その総合計画が州の総合計画と整合しているか確認し
た上で都市開発ができるようになります。このようにいくつものチェックポイントで、必
ず市民が意見を言う場を設けることとなっているのです。
もちろん、チェックポイントをつくるだけではだめで、行政側が市民の意見に真面目に
対応する必要があります。市民に意見を言わせるだけ言わせておいて、行政が何も対応し
なかったというのでは、だんだん市民は参加しなくなってしまいます。それが人間の心理
だと思いますが、オレゴン州の行政関係者はそういうことをしっかり意識しているところ
がすごいと思いました。
市民の側も行政に文句を言うだけではだめです。自分たちも一緒になってやっていくと
いう意識を持った人たちがいて、行政が建設的に問題解決を図る場を設けて話し合いなが
らつくりあげていく風土を、オレゴンでは時間をかけて試行錯誤を積み重ね、苦しみなが
ら形成してきたのです。だからこそ今は、不満があまり出ずにうまく回っているのだと思
います。もちろん全部がそうだというのではなく、やはり、言ったことを行政が聞いてく
れなかったという不満もあるし、いくら市民参加を呼びかけても誰も来ないことだってあ
ります。それでも、基本的にそういう風土は出来上がっていると思います。
(2)市民参加のプロセス
市民参加がしやすい基盤づくりの行政側の取り組みとして、3つあります。まず、1963
年の Local budget law(自治体予算法)で、予算を編成するプロセスに必ず市民が参加し
なくてはいけないと決まっています。もう一つは、Senatorial 100(上院法 100)という州
の上院が提出した法律で、土地利用計画作成プロセスに市民参加が必要と決めています。
3つ目は、ポートランドには Neighborhood Association(近隣組合)があり、Office of
Neighborhood in Portland、日本なら「共同の都市づくり課」とでも言うような部署がで
きています。
予算編成プロセスにどう関わっているかというと、予算編成委員会のメンバーは、議員
の数と同数の市民を必ず入れるように義務付けられています。ポートランドの場合は、議
員が 5 人ですから市民も 5 人です。それだけ市民が議論を見るチャンスがあり、声を出す
場も設定されているのです。働いている市民が参加できるように会議は夕方から開かれま
す。そのほか公聴会は 6 時ぐらいから始まるし、市議会も日中だけでなく市民が聞きに来
やすい夕方に開催することがあります。市長の発案で市議会を高校の体育館のステージ上
で開いたことがあり、市民だけでなく高校生も聞きに来たりしました。そういうふうに市
民が参加しやすい体制づくりは行われています。
こうした市民代表は、自分から立候補する人もいるし、行政側からお願いする人もいま
す。その選任過程は公開されています。
忙しい人たちはなかなか参加できませんし、近隣組合の活動に参加する人は一部に限ら
れます。しかし、さまざまなシステムを取り入れることによって、いろいろな形でなるべ
く多くの人たちが参加できるようにしているのです。
5
行政と市民の関わり方
行政のあり方に2つあるような気がしますが、ここで質問です。敢えて言えば、次のA
とBのどちらだと考えますか。どちらが正しいということではなく、自分はどちら寄りな
のかを考えてください。
A:政府や行政は、社会の問題の解決に積極的に関わっていくべきだ。弱者を守るのが
行政のあり方だ。
B:政府や行政は、できるだけお金をかけず、できるだけ何もしないほうがいい。規制
を設けるとややこしくなるから、民間に任せておいたほうがいい。
アメリカの民主党と共和党の大きな違いはここにあります。オバマ氏は民主党ですが、
Aのように、政府は積極的に関与して物事を解決しなければいけない、弱者を助けるため
には税金を上げてでもいろいろな政策をとるべきだという考え方をしており、どちらかと
いえば大きな政府を作り上げる方向です。Bのように、できるだけお金をかけず、自由競
争に任せたほうがいいという考え方で小さな政府を目指すのが、ブッシュ政権やマケイン
氏の共和党です。民主党はリベラル(自由主義)
、共和党はコンサバティブ(保守主義)と
言われます。
もう一つ質問します。どちらだと考えますか。
A:行政は難しく、一般の人ができるものではないので、専門家がやるべきだ。
B:人民による人民のための政府をつくるために、素人も行政に関わるべきだ。
これもどちらがよいというわけではなく、Aがエリーティズム(専門家主義。日本語で
は「専門家」と「エリート」のニュアンスはちょっと違いますが、専門知識を持つ一部の
人が行うという意味)
、Bがポピュリズム(人民主義)です。
さて、市民参加は行政と市民の関わり方を考えながらやっていくものですが、それには
いろいろなパターンがあって、リベラルと保守主義、専門家主義と人民主義という次元を
組み合わせると、4つのパターンができます。実際はそれほど単純ではないかもしれませ
んが、敢えて単純化してみましょう。
Aのパターンは、リベラルで専門家主義です。行政主導で積極的に社会の問題を解決し、
弱者救済のための施策を考えます。
Bのパターンは、リベラルで人民主義です。市民主導で積極的に社会問題の解決を図り、
行政の役割はそうした市民を支援することです。
Cのパターンは、保守主義で人民主義です。市民が積極的に活動し、行政はできるだけ
口を出さないほうがいい、あるいは、市民が自分たちで政策を立案し、行政はそれを実行
すればよいという考え方です。
Dのパターンは、保守主義で専門化主義です。行政主導で運営し、できるだけ無駄をは
ぶき、民でできることは民でやりましょうという考え方です。
6
市民参加の事例
ポートランドで現在行われている市民参加の事例をいくつかご紹介します。いま挙げた
4つのパターンのどこに当てはまるかを考えながら聞いていただくと面白いと思います。
(1)Vision PDX
ビジョンPDXというプロジェクトは、市民の意見を多く集めて、ポートランド市の将
来像を描き出す取り組みです。他のところでもこうしたビジョンづくりをしていますが、2
年間かけて 1 万 7000 人もの意見をまとめたのはポートランド以外にないと言われています。
これをもとに「ポートランド 2030」というビジョンがつくられ、市はそれを実行する母体
として Vision Into Action という組織を設けました。
市民参加のプロセスを重視して大変な時間をかけています。多くの人の意見を聞くため、
市民への質問は「ポートランドで最も価値があるのは何か」
「将来のポートランド像は」な
ど4つに限りました。ただし、意見の聞き方は半端ではありませんでした。
ビジョンづくりではアンケートや限られた人たちの意見を聞いてまとめるようなことが
よく行われます。ポートランドでも、アンケートやインタビューをしました。オンライン・
サーベイもしましたが、これはコンピュータが使える人しか出てこない。ユニークなのは、
これではホームレスの人や英語がしゃべれない移民などの意見が集まらないというので、
そういう人たちからも意見を集めるためにはどうどうしたらよいかというアイデアを公募
したことです。よいアイデアがあったら、それをサポートするために市がお金を出すとい
うのです。
その結果いくつものアイデアが出てきました。
、例えば、自分の家でホームパーティを開
き、近所の人たちが集まったところでアンケート用紙に記入してもらうという。コミュニ
ティの劇団がパフォーマンスをするとき、インターアクションの中で4つの質問を出して
意見を聞く。ある団体は、夏の暑いときに街角にコミュニティワゴンというトラックを出
して集まってきた人たちにお茶を提供し、みんながトラックの日除けの下に座り込んでお
茶を飲んでいるところを狙ってアンケートをする、というアイデアを出しました。
(2)Vision Action Network
ポートランドに隣接するワシントン・カウンティは、ポートランドと同様にビジョンづ
くりをしました。そのビジョンをどういう形で実行するかというときに、ポートランドは
実行母体を行政側に置いたのですが、ワシントン・カウンティは中間支援団体的なNPO
をカウンティの主導でつくりました。
このNPOの主な役割は、コミュニティの中にあるいろいろな団体や活動をネットワー
クとしてつなげることで、ビジョンを実行していくことです。例えば、ホームレスの支援
対策がビジョンに掲げられていますが、行政が全部抱えて実行するのは大変です。一方、
カウンティの中にはホームレスを支援するNPOがいくつもあり、またアメリカの場合は
教会もホームレスのためのチャリティ活動をしているのですが、それらがてんでんばらば
らに独自の活動をしていた。Vision Action Network は、そうした活動をまとめてネットワ
ーク化することによって、効率よくビジョンの実現に結び付けようという発想です。
(3)オレゴン・システム
これはとても有名な直接立法システムです。1800 年代後半にアメリカ全土で、行政側の
汚職や権力の濫用を監視するため、市民が主導権を持たなければいけないというので、自
分たちで立法できるシステムを導入する動きがありました。オレゴン州では 1906 年に地方
自治体が立法できるようになりました。日本にも、イニシアティブとかレファレンダムな
ど、同様のシステムはあります。
今回の大統領選挙で配布されたパフレットにはパート1とパート2があって、パート1
には大統領候補の名前と主張が書かれていましたが、パート2は直接立法に関わる冊子で
した。市民から出された法案や州議会が作成した法案(これらをメジャーと呼びます)に
ついて、限られたスペースの中で、内容、誰が賛成し誰が反対しているか、それぞれの主
張はどういうものかなどが書いてあります。有権者はそれを読んで、自分がそのメジャー
に賛成か反対かを投票するのです。
オレゴンでは安楽死が認められていますが、安楽死法案も直接立法で決まったものです。
今までは安楽死が認められているのはオレゴンだけでしたが、今回の選挙でワシントン州
でも同じようなメジャーが住民投票で決定されました。逆に、カリフォルニアではこれま
で同性婚が認められていましたが、それに反対する法案が住民によって可決されたので、
同性婚はできなくなりました。このようにメジャーが二転三転する例はいくつもあります。
土地利用に関してはメジャー37 が知られています。上院法 100 によってオレゴン州は土
地開発に対してかなり規制を加えることができるようになっていますが、それに対して自
分の持っている土地を開発できないことに不満を持つ住民たちが、開発できないぶんの補
償を求めるメジャー37 をまとめました。しかし、これでは行政の負担が大きくなるので、
今度はメジャー37 を規制するメジャー49 が通って、とりあえず行政の負担は抑えられるこ
とになりました。
また、今回の選挙では、新聞にメジャー58 に関する賛否の意見広告がいろいろ出ていま
したし、日常生活でも「あなたはメジャー58 に賛成なの?」といった話がよく交わされて
いました。アメリカでは英語が第一言語ではない移民などの子どもたちに英語を教えるク
ラスが高校卒業まで設けられていますが、そういう英語教育にお金を使うのは無駄だ、も
っと普通の教育にお金をかけるべきだというのが、メジャー58 の主張です。これには学校
の先生たちが、ヒスパニック系の子どもたちが増えている中でそんなことをしたらさらに
勉強についていけない子どもが増えてしまうと反対して、結局否決されました。
7 まとめ
日本の市民参加といってもいろいろあるので十把一絡げにするわけにはいきませんが、
そういう活動をされている方や行政側で仕事をしている方は、自分たちは先の4つのパタ
ーンのどれに当てはまるか考えてみるとよいと思います。そして、自分たちの理想とする
行政と市民のあり方はどれなのかを考える必要があるのではないでしょうか。市民活動を
している方と行政側との対立があるときに、互いに何が違うのかを考えてみると、それぞ
れどこを理想とするかが違っているように思います。
私は行政の方たちを対象に仕事をすることが多いのですが、彼らは専門知識を持ってい
る自分たちがやらなければいけないという意識があるので、たいていはAかDのパターン
です。ポートランドはけっこうリベラルで、行政がいろいろな事をやらなければいけない
と言い、まだ民間に任せきれていないところがある。だから、ビジョンをつくるところで
は市民の意見を取り上げたけれど、実行段階では市役所に Vision Into Action のオフィス
を設けているのです。
ワシントン・カウンティの場合は、悪く言えば行政側がギブアップして丸投げしたと言
えなくもないですが、話を聞いてみるとむしろ意識してB、Cのパターンに持っていこう
としているようです。何かを決めるときに行政側が主導ではやらないし、Vision Action
Network に行政の代表者も入っているけれど、あくまでも一員として意見を聞きながらや
っていかなければならないという意識を持っているのです。
4つのフレームワークをツールとして使っていただくと、これからの市民参加のあり方
を考えるときに、行政側にも市民側にもわかりやすいのではないかと思います。もし噛み
合わない状況があったときには、相手はあそこにいて自分はここにいるから違うのだ、ど
うすればお互いに近いところに持っていけるのだろうというふうに考えれば、物事を建設
的に決めていけるのではないかと思います。
最初にも申しあげましたが、本日の話はあくまでもオレゴン州の事例であって、アメリ
カのほかの地域では状況の異なる場合も多いですが、物事の考え方の部分について参考に
していただければ幸いです。
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