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ガスタービントランジションピース劣化調査研究
研究レポート ガスタービントランジションピース劣化調査研究 エネルギア総合研究所 発電・材料担当 松村 栄郎 1 まえがき (試験材) ガスタービントランジションピース(燃焼器で発生し A 廃却材:実機で約26,000時間使用 た燃焼ガスをガスタービン翼に導く円筒)は,高温の燃 B 新 材:実機新品と同条件で製作 焼ガスに曝されるため,損傷が激しく短い周期で取り替 えられており,超耐熱合金製で高価なためその保守費用 材 質:ニッケル基超耐熱合金 (3)クリープ強度 A廃却材,B新材のクリープ強度を把握するためクリ は高コストである。 (図1) 当所では,トランジションピースの取替周期延長に寄 ープ破断試験を行った。試験時間を短縮するため,メー 与するデータを取得するため,材質のニッケル基超耐熱 カー推定温度より高温の加速条件下で,試験片に実機レ 合金※について各種劣化調査を行っており,研究成果の ベルの引張応力を付加して保持し,破断時間の測定を行 うち高温長時間使用によるクリープ強度低下,金属組織 った。その結果,A廃却材のメーカー推定温度における 劣化について報告する。 クリープ余寿命は約50,000時間と推定された。 (図2) ※ ニッケル基超耐熱合金:現在,最も高温強度に優れる耐熱合金。 γ’ ( ガンマプライム)相と呼ばれるニッケル,アルミニウムか アイソストレス法 (試験応力:実機レベル) らなる金属間化合物を微細に析出させて高温強度を向上させて 試験温度 いる。 圧縮機 燃焼器 ガスタービン翼 空気 ● ①廃却材破断データ ● ②新材破断データ 廃却材−3σ 燃焼ガス 約50,000hr メーカー推定温度 クリープ破断時間 燃焼器出口部 (トランジションピース) 燃焼ガス 図2 クリープ試験結果 ※ −3σ:データのばらつきを考慮し,統計的にクリープ破断時 間の最短値を近似したライン 静翼へ (4)組織劣化 B新材を11,000時間まで高温で保持し,γ’相の粒子 形態変化(粒径,粒子間距離)について観察を行った。 図1 ガスタービン,トランジションピースの概要図 その結果,保持温度が高いほどγ’相の粗大化,消失が 早く生じる傾向にあることが確認された(ただし,メー 2 研究の概要 (1)研究の着眼点 本研究では,ニッケル基超耐熱合金の析出強化相であ るγ’相の粒子形態変化に着目し,トランジションピー ス材料の高温での劣化傾向や実機使用した廃却材の劣化 状況の把握を行った。 (2)試験対象,試験材 (試験対象) 柳井発電所 2号系列トランジションピース Page 16 カー推定温度±0℃のみ組織変化が少なく特異な挙動を 示した)(図3)。また,時間と温度に対するγ’相の粒 子形態変化の特性について,下記の組織パラメータを使 って整理した。(図4) (組織パラメータ)=粒子間距離の2乗/平均粒径 組織パラメータの変化傾向より,クリープ強度に寄与 するγ’相はメーカー推定温度+20℃以下であれば,10 万時間程度経過後も残存すると推定される。 エネルギア総研レビュー No.3 ガスタービントランジションピース劣化調査研究 1μm 温度 時間 1000hr 3000hr 7000hr C 11000hr −20℃ B E D A ±0℃ +20℃ 写真1 廃却材の組織劣化観察,温度推定位置 +40℃ A B C D E γ 外 相 面 粒 界 内 5μm 面 (温度=メーカー推定温度との比較値) 図3 新材の組織劣化 外 γ’面 粒 内 1μm 面 試験温度(℃) γ’ 相消失限界 ◆+40 ●+20 ■−20 ◆−70 組織パラメータ 推定温度 <<−70℃ <<−70℃ −70℃∼−20℃ −70℃∼−20℃ <<−70℃ (推定温度=メーカー推定温度との比較値) 図5 廃却材各部の組織劣化,温度推定 3 研究成果 (1)クリープ余寿命 メーカー推定温度でのA廃却材のクリープ余寿命は約 (試験温度=メーカー推定温度との比較値) 10,000 50,000時間と推定され,十分余裕があると考えられる。 100,000 (2)組織劣化 高温保持時間(h r) 図4 温度・時間とγ’組織パラメータの関係 A廃却材のマウント部額縁側は,燃焼ガスが衝突する 部位のため組織劣化の進行が顕著であり,点検時には注 視すべき箇所である。 4 あとがき 時間,温度に対するγ’相の粒径,組織パラメータと トランジションピースの高温長時間使用によるクリー の関係から,A廃却材各部の実機使用時の温度を推定し プ強度低下,組織劣化の傾向を把握し,材質のニッケル たところ,おおむねメーカー推定温度−20℃以下である 基超耐熱合金の劣化について基礎的なデータを蓄積する と推定された。また,マウント部額縁側(C部)では粒 ことができた。本研究で得られたデータは,さらなる取 界炭化物の粗大化,γ’相の消失が顕著であり金属組織 替周期延長について判断する際に活用できるよう,電源 の劣化が進行していることがわかった。 (写真1,図5) 事業本部ならびに柳井発電所と情報共有したい。 エネルギア総研レビュー No.3 Page 17