...

ヨーロッパ資金による農村再生と 「地域づくり教育」 の生成: 北

by user

on
Category: Documents
3

views

Report

Comments

Transcript

ヨーロッパ資金による農村再生と 「地域づくり教育」 の生成: 北
Title
Author(s)
Citation
Issue Date
ヨーロッパ資金による農村再生と「地域づくり教育」の
生成 : 北アイルランドにおけるアクション・リサーチの
経験から
鈴木, 敏正
北海道大學教育學部紀要 = THE ANNUAL REPORTS ON
EDUCATIONAL SCIENCE, 69: 1-56
1995-12
DOI
Doc URL
http://hdl.handle.net/2115/29489
Right
Type
bulletin
Additional
Information
File
Information
69_P1-56.pdf
Instructions for use
Hokkaido University Collection of Scholarly and Academic Papers : HUSCAP
ヨーロッパ資金による農村再生と「地域づくり教育J の生成
北アイルランドにおけるアクション・リサーチの経験から
鈴木敏正
R
u
r
a
lR
e
g
e
n
e
r
a
t
i
o
ns
u
p
p
o
r
t
e
dbyt
h
eEuropeanFundand
t
h
eG
e
n
e
s
i
so
f'CommunityDevelopmentE
d
u
c
a
t
i
o
n
'
:Throught
h
eE
x
p
e
r
i
e
n
c
eo
ft
h
eA
c
t
i
o
nR
e
s
e
a
r
c
h
e
s
i
nN
o
r
t
h
e
r
nI
r
e
l
a
n
d
ToshimasaSUZUKI
目 次
i 課題と構成
.
.
.
.
・ ・
.
.
.
.
…
.
.
.
.
.
.
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
H
1.ECI
臥J
の農村問題と北アイルランド
.
.
.
.
・ ・
.
.
.
.
.
.
.
.
・ ・
.
.
.
.
・ ・.....……-……・…....・ ・
H
H
H
2. 会閤対策から統合的開発をへて f
地域づくり教脊」へ
3
. 3つの視点と本稿の構成
H
2
2
…
…
.
.
.
.
.
.
・ ・
…
.
.
.
・ ・
.
.
.
.
.
・ ・
3
…
・ ・・
.
.
.
.
.
・ ・
.
.
.
.
.
・ ・
.
.
.
.
.
・ ・
.
・ ・・
.
.
.
.
.
.
・ ・
.
.
.
.
.
・ ・
.
.
…
.
.
.
.
.
一
4
H
H
H
H
H
H
E 農村地域行動 (RAP) の展開 -Anti
ヂo
verty-
H
H
H
H
H
H
・・
.
.
.
.
.
・ ・
.
.
…
…
.
.
.
.
.
・ ・
.
.
.
.
.
・ ・
.
.
…
6
.
.
・ ・
・
…
…
.
.
.
・ ・
.
.
.
.
.
・ ・
.
.
.
.
.
・ ・・・
.
.
.
.
.
・ ・・ ・
.
.
.
.
.
・ ・
.
.
…
…
6
2
. 農村の貧困と女性問題 ・ ・ ・
.
.
.
.
.
・ ・
.
.
.
.
.
・ ・ ・・
.
.
.
・ ・・
.
.
…
.
.
.
・ ・
.
.
.
.
.
.
.
・ ・
…
.
.
.
・ ・
.
.
…
8
1.プロジェクトとその背景
H
H
1)農村の貧困問題
H
H
H
H
H
H
H
H
H
H
H
H
H
H
H
H
H
H
H
H
H
H
H
…
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
・
ー
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
8
2) 女性問題 .
.
・ ・
.
.
.
・ ・
.
.
.
.
・ ・
.
.
.
.
…
.
.
.
.
.
・ ・
.
.
.
.
…
・
…
.
.
.
.
.
・ ・
…
.
.
.
.
・ ・
.
.
.
.
.
.
.
.
・ ・
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
. 1
0
H
H
3. 地域づくりと地域計額
H
H
H
H
.
.
・ ・
.
.
.
・ ・・
.
.
.
.
.
・ ・
.
.
.
.
.
.
・ ・
…
.
.
.
.
・ ・
.
.
.
・ ・
…
.
.
.
.
・ ・
.
.
.
・ ・
.
.
. 1
1
H
H
H
H
H
H
H
H
H
・
…
.
.
.
.
・ ・
…
随
処 ・・
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
ー
1
1
2) 地域社会計画づく り ・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
1
3
1) 地域社会発疑
4. RAPの提言
H
H
H
…
.
.
.
・ ・..……………………...・ ・..…………...・ ・
.
.
…
.
.
.
・ ・
.
.
.
.
.
・ ・
.
.
…
…
H
H
H
統合的開発と農村開発協会 (RDC) -LEADER-
国
H
1.統合的農村野号発政策の展開
H
H
・
… ・・
.
.
.
.
.
・ ・
・
・
…
…
.
.
.
.
・ ・
.
.
.
.
…
H
H
H
H
1
5
1
5
.
.
・ ・・・
.
.
.
.
.
・ ・
.
.
.
.
.
.
.
・ ・
.
.
.
.
.
・ ・…
.
.
.
.
・ ・
.
.
.
.
.
・ ・
.
.
.
.
.
・ ・
.
. 1
5
H
H
H
H
H
H
a
H
H
H
2. RDC設立の背景と組織ートップダ、ウンとボトムアップー…...・ ・・ ・
.
,
…
.
.
.
・ ・..……
H
H
H
H
1
7
3. 4つの活動領域・ ・ ・
.
.
.
.
…
.
.
.
・ ・
.
.
.
.
.
・ ・・・
…
.
.
.
.
・ ・
.
.
…
…
…
.
.
.
・ ・
.
.
.
.
.
.
・ ・
.
.
.
.
.
.
・ ・
.
. 1
9
H
H
H
H
H
H
H
4. 地域社会発渓担当者 CDOの役割 -4つの段階一
N
農村地域社会ネットワーク
(
R
C
N
)
H
H
H
.
.
・ ・
.
.
.
.
.
・ ・
.
.
.
.
.
.
.
・ ・-…・………
H
H
H
υ
・・
…
・
…
.
.
.
・ ・
.
.
.
.
.
・ ・
.
.
.
・ ・
.
.
.
・ ・
.
.
.
.
.
・ ・..……
H
H
H
H
H
H
1)
…………...・ ・
.
.
…
…
.
.
.
・ ・・・
…
…
.
.
.
・ ・
.
.
.
.
.
・ ・・・
.
.
.
.
.
・ ・
.
.
…
…
H
2
4
2
4
1.背景と目的一「農村の声」のネットワーク
2
. 地域ネットワーク
2
2
H
H
H
H
H
H
H
H
2
6
1
オ
ー
マ
農
村
協
議
会
フ
ォ
ー
ラ
ム
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・ 2
6
教 育 学 部 紀 要 第6
9号
2
2) 1
ストラパン地域社会ネットワーク・ ・・・
.
.
…
…
.
.
.
・ ・
.
.
.
.
.
.
・ ・
.
.
…
…
…
.
.
.
・ ・
. 2
9
H
3. 課題別ネットワーク
H
H
H
H
H
…
.
.
.
・ ・-…………...・ ・・・
.
.
…
…
…
.
.
.
・ ・
.
.
…
.
.
.
・ ・
.
.
…
…
.
.
.
・ ・
.
. 3
1
H
H
H
H
H
H
H
1) 1
健康ネットワーク・ ・
.
.
.
.
・ ・
.
.
.
.
.
.
.
.
・ ・
.
.
.
.
…
.
.
.
.
・ ・
.
.
.
.
・ ・
.
.
.
.
.
.
.
.
・ ・
.
.
.
.
・ ・
.
.
.
.
.
. 3
1
H
H
H
H
H
H
H
女性問題研究ネットワーク…...・ ・
.
.
.
.
…
.
.
.
・ ・
.
.
.
.
.
.
・ ・
…
.
.
.
・ ・
.
.
.
.
.
・ ・
.
.
.
.
・ ・
.
.
. 3
3
2) 1
H
H
H
H
H
H
4
.評価と課題 …
.
.
.
.
.
・ ・
.
.
.
.
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
ー
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・ 3
4
H
V 農村開発再建フ。ロジェクト (
R
D
R
P
) と地域社会教育実践… INTERREG・・
… 3
5
.
.
.
.
.
・ ・
.
.
.
.
.
.
・ ・
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
・ ・
.
.
.
.
.
.
・ ・3
5
1.訓練開発援当者 TDOの位霞づけ ・・・-…...・ ・
H
H
2. アクション・ワサーチの方法
H
H
H
H
H
中間報告』一地域社会発展と地域社会教育一
3. W
4
. フィーノレドワークの展開
H
H
H
H
.
.
・ ・
.
.
.
.
.
・ ・
.
.
.
.
.
・ ・
.
.
…
.
.
.
・ ・
.
.
.
.
.
・ ・
…
.
.
.
・ ・
.
.
…
.
.
.
・ ・
.
. 3
6
H
H
H
H
…
.
.
.
・ ・
.
.
.
.
.
・ ・
.
.
.
.
.
・ ・
.
.
.
.
.
・ ・
.
.
.
.
.
・ ・
.
. 3
8
H
H
H
H
H
.
・ ・・・
"
…
.
.
.
・ ・-…………...・ ・・・
.
.
.
.
.
・ ・
.
.
.
.
.
・ ・・・
.
. 4
0
H
H
H
H
H
H
H
H
H
H
H
1) 南デリ ー .
.
.
.
・ ・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・ ・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・ ・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
a
H
e
4
0
2
) アントリム渓谷 …
…
.
.
.
・ ・
.
.
…
.
.
.
・ ・
…
.
.
.
・ ・
.
.
.
.
.
・ ・・・
.
.
…
…
…
.
.
.
・ ・
.
.
.
.
.
・ ・
…
・ 4
2
H
H
H
H
H
H
H
H
5
. 1
地域づくり教育」の 役格 .
・ ・
.
.
.
.
.
・ ・
.
.
…
…
.
.
.
・ ・
.
.
.
.
.
・ ・・・
.
.
.
.
.
.
・ ・
.
.
.
.
.
・ ・・・
.
.
.
. 4
4
i
H
H
H
¥
1 総括ー「地域づくり教育j のアイデンティティー
注記
H
H
H
H
H
H
H
…
.
.
.
・ ・
.
.
.
.
.
・ ・・・
.
.
.
.
.
・ ・
.
.
…
.
.
.
・ ・
.
. 4
7
H
H
H
H
H
H
…
.
.
.
.
.
・ ・
.
.
.
・ ・・・
.
.
.
・ ・
・
…
.
.
.
.
・ ・
.
.
.
.
…
・
…
.
.
.
.
.
・ ・
.
.
.
.
.
.
・ ・
.
.
.
・ ・
…
.
.
.
・ ・
.
.
.
.
.
・ ・-……
H
H
H
H
H
H
H
H
H
H
H
5
2
i 課題と方法
1.EC/EUの農村関寵と北アイルランド
本稿の課題は, 1
ヨーロッパ共同体(現ヨーロッパ連合) E
C/EUJ の資金的援助をうけてイギ
リスの北アイルランドにおいて渓関された農村再建運動を題材に, 1980
年代後半以降のヨーロッ
パにおける地域社会発展とそれにともなう成人教育訓練活動の展開過程をたどることによって,
「地域づくり教脊 C
ommunityD
e
v
e
l
o
p
m
e
n
tE
d
u
c
a
t
i
o
n
Jの生成過程合考察し,その性格を明らか
にしようとするところにある。
筆者はこれまで日本の事例にもとづきながら「地域づくり学習」の枠組みを提示し,具体的な
実践過程の分析を試みてきたり。そして,比較研究としては,イギリス・北アイルランドにおける
民間の滞在型成人教育センターとしてのアルスター・ピープノレズ・カレッジの展開過程をたどる
地域づくり教育」の形成過程と主主体的内容を検討してきた 2)。また,実践論的な
ことによって, 1
社会教育構造論の観点から,定型教育・非定型教育と区別される不定型教育
N
o
n
F
o
r
m
a
l
E
d
u
c
a
t
i
o
nに囲有な実践としての「地域づくり教育」の位壁づけもしてみた 3)。
しかし,比較研究としてとりあげた北アイルランドの事例のほとんどが都市地域の実践であっ
た。農村地域での実践の検討は残されていた課題である。北アイルランドは,ベルファスト市と
デワー市を除けば,ほとんどが農村的地域であるといってよい。もちろん,それらの地域にも市
年代半ばごろまでの成人教育・地域社会教育は都市地域・市街地を中
街地はある。しかし, 1980
心にして展開してきており,農村地域を間有の対象とすることは少なかったへそれは何よりも
都市地域こそが北アイルランド紛争の焦点であり,貧国・失業開顕在はじめとするあらゆる問題
の中心地であると考えられていたからであるが,イギリス本土における農村地域への特別な政策
的対応を考えるまでもなく,広大な農村地域をかかえる北アイルランドにおいては奇妙なことで
もあった。
ヨーロッパ資金による農村再生と「地域づくり教育j の生成
3
そうした傾向に変化があらわれたのが, 1
9
8
0
年代後半以降である。その背景としては,第 1
に
, EC/EUの規模が大きくなるにしたがって,地域間務差が大きくなってきたこと,第 2に
, 1
年のヨーロッパ単一市場法が通過したことにともなって,周辺的農村地域における構造調整
9
8
6
, GATT体制と共通農業政策との識撃が必要になり,より広い
が必要となってきたこと,第 3に
農村政策が関われるようなってきたこと,第 4に,勃興する環境への意識のたかまりが,農村の
景観と生態に対する認識を高め,開発と保護の諦整が重要になってきたことであるへ
uropeanCommissionは,その構造基金のあり方の再検討を迫られ
かくしてヨーロッパ委員会 E
た。この結果,従来からの中心であった「ヨーロッバ地域開発資金 ERDFJ の拡充に加えて,主
ヨーロッパ社会資金 ESFJ の大輔なみなおしがなされ,農業構
として労働市場開題に対応する f
造改善と農村地域開発を白的とする「ヨーロッパ農業指導保証資金 EAGGFJ の新たな計調が生
まれた。これらの構造資金は 1
9
8
8
年から 9
3
年にかけて倍増した。その配分においては,総額の
60%が「遅れた地域Jとして社会的・経済的不利益をえている f
臼的 1地域Jに集中されること
になった。それは,ギリシャ,ポルトガル,スペインの大部分,南イタリア,コルシカ,フラン
スの海外部分,そして南北アイルランドなどからなり,ヨーロッパ共同体の闇積で38%,人口で
21%を占める。そのほとんどは農村地域である。
北アイルランドは, EC/EUの f目的 l地域j のうち,イギリスにある唯一の地域である。これ
e
r
i
p
h
e
r
a
l
i
t
y
Jが指摘されてきた。ヨーロッパ
まで北アイルランドは幾度となく,その「周辺性 p
の主要なマーケットから離れていること,しかも海を隔てていることが,輸送費や管理運営費の
都高となり,資源の分散とあわせて,経済的立ち後れの原因とされてきたのであるへ
産業構造の面からは,まず¥農業の比重が高く,しかも小規模な農民的経営が多いことが問題
とされてきた。こう Lた地域が共通農業政策 CCAP) の下で,最も深刻な社会・経済的諸問題を
)
。それ以上に開題なのは,繊維,造船といった構造不
かかえることになったのは言うまでもなし J
9
7
0
年代後半から 8
0
況業穫が北アイルランドの主要産業となっているということかも知れない。 1
年代前半の構造不況期には,これらの産業を中心に 4割近くの雇用が失われたと推定されている。
その後,それにかわる新規産業の目立った発展はみられず,大量失業の状態が続いている。かく
して,都市地域をゆ心に展開するサーピス部門,なかんづく公的部門が麗周の中心を占めるよう
)
。このような中で北アイルランド農村は,過疎化が進行する一方で,相対的過剰人口の
になった 8
プールとなっていったのである。
0
年代末からの北アイルランド紛争口 fトラブノレズj が加わって,北アイル
こうした背景に, 6
0
年代半ばまで過疎化,農村の荒廃が進
ランドの農村地域は政策対象からはずされがちになり, 8
展するままになっていたと言ってよ¥, ,
9
)
。この状況に変化宅どもたらしたのが,上述のような ECに
おける農業・農村政策の転換であると雷われているのである 10)。
2
. 貧劉対策から統合的開発をへて「地域づくり教育j へ
ECにおける地域政策は, 1
9
8
0
年代後半から本格化し, EC内部の地域開不均衡の是正,実質的
8
年のヨーロッパ構造基金 CESF) の改革は,地域政策の包的
には貧回対策としてはじまった。 8
としてとくに「後進地域の開発と構造謂整JC
目的1),
r
衰退工業地域の転換JC
易的 2
),そして
「農村地域の開発と構造調整JC目的 5b) をあげている 11)。
ここでとりあげるヨーロッパ資金による地域開発計画とは,具体的には①「第 2次反貧密計画
SecondA
n
t
i
-P
o
v
e
r
t
yProgrammeないし CombatP
o
v
e
r
t
yProgrammeJ,②「農村経済開発連
教 育 学 部 紀 要 第6
9
号
4
携行動
L
i
a
i
s
o
n
sE
n
t
r
eA
c
t
i
o
n
s de Development de I
'Economie R
u
r
a
l
e
.L
i
n
k
s between
A
c
t
i
o
n
sf
o
rt
h
eDevelopmento
ft
h
eR
u
r
a
lEconomy (以下. LEADER)J. および③「問地域計
爵
l
n
t
e
r
R
e
g
i
o
n
a
lProgramme (以下. INTERREG)J の 3つである。
①は食間対策の代表的な計画であり,農村に鯉らず都市においても展開され. 8
9年からは第 3
次会閤計画がスタートしている 1
2
)
。しかし,社会政策としてはじまった貧掴計画も,一方におけ
る ECにおける綜致問題,他方におけるメンバ…各国の不況と失業問題の深刻化で,次第に経済
開発に重点を移してし、く。そうした経済開発を中心とした総合的地域政策の中で農村を対象とし
たものの典型が. r
統合的農村開発」を譲う②である。貧困問題への対誌として,総合的な政策・
evelopmentJ が重撹されてくるのである。
プロジェクトとしての「地域社会発展 CommunityD
しかし,食罰対策であれ経済開発であれ,そうした計画を進めれば進めるほど,取り残された
地域と階層の問題が浮き彫りになってくる。そしてそうした対象には,何よりもまず教育訓練活
動が重要な投融を果たすことが理解されるようになってくる 13)。統合的農村開発の展開において
も,地域社会発展にはたす成人教育訓練の役割が注目されてきているのである。そのことを前頭
に出した計画が,各国における国境地域の農村地帯を対象にして燥関された③であり,それにも
とづく
f
農村開発再生プロジェクト R
u
r
a
lDevelopment and R
e
g
e
n
e
r
a
t
i
o
nP
r
o
j
e
c
t (以下,
RDRP)J である。
本稿はまず,これら EC/EUの 3つの計画にもとづくプロジェクトの展開過程をたどることに
evelopmentE
d
u
c
a
t
i
o
n
Jの生成過程を明らかにすることを
よって「地域づくり教育 CommunityD
課題としている。
しかし,北アイルランドにおいては,こうしたヨーロッパ資金にもとづく計画以前に,ボラン
タリーな運動として農村再建の必要性を指摘する独自の動きがあった。ヨーロッパ資金(反会鴎
u
r
a
lA
c
t
i
o
n
計画)の資金的援助をうけてそれらを発燥させたのが「農村行動プロジェクト R
P
r
o
j
e
c
t(以下.RAP)Jであり,次第に農村再建にかかわる政府の政策の具体化を迫ってしぺ。そ
して 9
0
年代に入ってついに,総合行政のもとにあって独立した機関としての「農村開発協会
R
u
r
a
lDevelopmentC
o
u
n
c
i
l (以下. RDC)J と,農村社会発展のためのネットワーク組織口「農
u
r
a
lCommunityNetwork (以下. RCN)J を生み出すにいたる。
村地域社会ネットワーク R
このようにして具体的に農村再建の活動が発展していくにしたがって,そこにおける成人教育
・訓練が果たすべき役割が注白されるようになってきた。そして,その兵体的な役部を解明すベ
くアクション・リサーチ的手法によるプ口ジェクトが取り組まれる。それが南北アイルランドに
またがって展開されている INTERREGなのである。
じの致策動向というよりも北アイルランドの農村洋建
以上のような経過をみるならば. EC/E
運動の中に「地域づくり教育j の生成過税を検討することができるはずである。それは,いわば
内発型の展鰐ということができるであろう。本稿が重視するのは,こうした側面である。
3
. 3つの視点と本稿の構成
RDRPは地域社会発展にはたす成人教育訓練立地域社会教育 communitya
d
u
l
te
d
u
c
a
t
i
o
nの役割
を明らかにすることを直接的な課題とするアクション・リサーチで,アルスター大学のトム・ラ
ベット教授をリー夕、、ーとして展開されている。
アクション・リサーチ」が検討されなければならな
その基本的な視点としては,まず第 lに. r
いが,さらに次の 2つのことを指摘することができる 14)。すなわち第 2に,生涯学習にかかわる
ヨ}ロッパ資金による農村再生と「地域づくり教育Jの生成
う
「学習連続体 L
e
a
r
n
i
n
gContinuumj の提起で,非定護教育 IFE,不定型教育 NFE,定型教育
FEの総体において教育訓練の構造を捉えようとする捜点で、ある。第 3は地域社会教育の理解で,
d
u
c
a
t
i
o
nf
o
rt
h
eCommunity,以下 EFCj から
これまでの伝統的な「地域社会のための教育 E
d
u
c
a
t
i
o
na
b
o
u
tt
h
eCommunity,以下 EACj,さらには「地域社会
「地域社会にかかわる教育 E
d
u
c
a
t
i
o
nw
i
t
ht
h
eCommunity,以下 EWCj を志向しているということであ
とともにある教育 E
る。したがって,このような視点の有効性が捕われることになるであろう。
まずアクシ z ン・りサーチについてである。筆者はこの調査方法はほんらい改良主義的な f
地
域開発モデル j に適合的なものであると考えている 15)。したがって,自由主義的な地域社会調査
自己調査j,さらには「組織的協同調査j と対比
(客観調査),より革新的な「参加型調査jや f
させながら,その調査の意義について検討する必要があるであろう o
第 2の点については, FE,NFE,IFEの現実的関連構造が間われるであろう。別稿でふれたよ
うに筆者は,これらは連続的であるというよりも,とくに FEと IFEの開には矛題関係があり,
NFEはそれらの構造化をはかることによって,その矛盾を実践的に止揚しようとする形態である
地域づくり教育」に接近するためには, NFEの諸類型にもた
と考えている。こうした視角から f
ちいる必要があろう 16)。
第 3の点について RDRPは,北アイルランドにおける地域社会発展にかかわる議論の総括的
欧州審議会」で、のパイロット的研究の成果 18)をふまえつつ,新たな問題提起きどしているので
や
, I
若干の説明が必要であろう。ラベットは,地域社会発展にかかわる地域社会教育は,ともに社会
的不利益をえている人々に関心をもちつつ,地域社会におけるアウトリーチ活動にかかわってい
るが,そこには次のような 3つの類型があると述べている 19)。
すなわち, EFCはしばしば定型教育提供者によって取られている形態で,ひろく知られてい
る。自由主義的な教育計画にもとづき,地域社会におけるアウトリーチ・センターで学級や講座
を開設するもので,個人的発展の必要に応えるが,地域社会発展の過程には直接的にかかわらな
い。その意味で一定の「学習要求」を満たすものであるが,定型的な学級・講践に適合的でない
「学習必要」に応えることはできない。
EACは
, I
学習必要Jを理解しようとして,地域諸グ、ループとの対話と討論を重視する。その結
果,地域社会発展にかかわる教育訓練(委員会運営,地域リーダーシップ,地域社会組織化な
ど)な重視する。しかし,これもまた学級・講肢といった定型的な方法をとり,地域社会発展の
現実的な学漕過程には限定的にしかかかわらない。
これらに対して EWCは,非定型的・不定型的な教育を代表するものであり,地域社会発展に
取り組んでいる人々や地域社会における生活に積極的にかかわる。その学習は地域住民の動機に
もとづき,自的志向的であり,問題解決につながるものである。したがって,参加と経験が重視
され,地域社会教育は学留を援助し強化するような調整と環境醸成の仕事となる。その評価の慕
力能形成 c
a
p
a
c
i
t
yb
u
i
l
d
i
n
g
j,グ
準は,社会的・経済的・文化的・環境的な B的の達成とともに, I
ループの倒人的・集団的発展,そして「主体的力量形成 empowermentj であり,人々の必要性と
ともに「可能性 j,しばしば「挑戦」と「社会的諸関係の変革j にかかわる 20)。
ラベットの言う EWCは,筆者の提起する「主体形成の社会教育/1)と重なる部分が多い。しか
し,開題解決と学習過程, I
経済的・文化的・環境的な目的の達成Jと「主体的力量形成Jとの区
別と関連についてはなお明確であるとは言えない。それは,実説的には,地域社会発展の担当者
地域づくり教育j のアイデンティティの理解にも
と地域社会教育実鵠者の仕事の匹別と関連, I
6
教育学官官紀聖書 第6
9号
つながる問題である。
本稿では,農村再建活動における成人教育設1練活動の意義を明らかにしつつ,以上の 3点を吟
味していくことも課題としている。以下,次のように構成されている。
すなわち,まず立では,
r
第 2次反貧困計画j からの資金的援助を受け,北アイルランドではじ
めてアクション・ワサーチの手法によって農村問題と農村再建の実態を明らかにした「農村行動
プロジェクト RAPJ の活動をとりあげ,その内突を検討する。次に Eでは,これらの結果,ヨー
ローッパ資金としては LEADERを導入し,北アイルランドで行政ぐるみで整備されて L、く農村
再 建 組 織 農 村 開 発 協 会 (RDC)J の実態と,その活動内容についてみる。さらに Wでは,
RDCと平行して展開された農村再建のための f
農村地域社会ネットワーク CRCN)Jの実践,とく
に地域ネットワークと課題別ネットワークという 2つのネットワークの展開とその特徴を畷らか
にする。
これらをふまえて Vでは, INTERREG~.こもとづく農村再建活動をとりあげ,成人教育訓練の側
から農村再建の課題に迫った北アイルランドにおける RDRPの展開過程を吟味し,その経験にも
地域づくり教育」の性格を明らかにする。ここではとくにアク
とづいて農村再建にかかわる f
ション・リサーチの実際,そこにおける地域社会教育実践者の活動,成人教育訓練活動について
の RDRPの評価を検討する。
以上のような農村再建運動の分析をとおして,
r
地域づくり教育Jの生成過程を明らかにする
ことができるであろう。 Wは全体の総括であり,農村における地域社会発展そのものと相対的に
区別される「地域づくり教育 j のアイデ、ンティティについて考察してみたい。
証
「農村行動プロジェクト CRAP)J の 展 開 -Anti-Poverty-
1.プロジェクトの背景と特徴
1
9
8
0
年代半ば,北アイルランドの農村再建運動にかかわっていたボランタリー諸組織りとアイ
ルランド・ボランタリー・トラスト NIVT,北アイルランド・ボランティア行動協会 NIVCA,北
アイルランド農村協議会 NIRA) は,農村の社会的不利益について正しく理解されていないこと
が農村の貧閤と権利剥奪の状態に対する政策的対誌が不十分であることの重要な婆器である,と
考えるようになってきた。
NIVTは,農村地域を基盤とする広範なグ、ループにその活動の資金提供をする「農村奨励計画
R
u
r
a
lAwardsSchemeJ の経験から,農村開発のためのより継続的で具体的,かつ評鱒システム
をもった計闘が必要であると考えていた。 NICVAは,その農村での活動がきわめて限定的であ
ることを反省し,
r
農村地域で感じられている必要性 P
e
r
c
e
i
v
e
dNeedsに関する研究j を行い,農
村社会発展にかかわるグループの支援・訓練・情報提供の評儲に関心をもっていた。 NIRAはこ
れらの中では最近に設立された団体であったが,北アイルランド全体での農村問題の理解を深
め,その討論と政策提言のためのフォーラムをつくっていきたいと考えていた。
これらの団体が協力してまとめあげた最初の提案は「北アイルランドにおける農村の権利剥奪
985
年)であった。そこから生まれたアクション・リサーチの協同
一地域社会発展アプロ…チ J0
計画
r
c
農村行動フ。ロジェクト
ECの「第 2次皮貧困計爵
CRAP)j)に対して,地方の「健康・社会サーピス省 DHSSJ と
SecondA
n
t
i
P
o
v
e
r
t
yProgrammeJ が,別に農村社会発展のための
6
年から 8
9
資金提供を申請していた「ストラパン市民助言局 SCABJ と協力するという条件で, 8
年にいたる 4年間の資金提供をした。
7
誼ーロッパ資金による農村再生と「地域づくり教育j の生成
連合王留の評価者が指摘しているように 22),RAPの仕事は統計的分析と実態調査,そして地域
社会発展計画などを組み合わせた,地域に根ざした開拓的な調査活動で,地域社会の諸組織と地
方行政委員会とのパートナーシップのもとに浪関されてきた。主要な対象は,北アイルランドの
農村問
中でもとくに遠南地にあたる照辺的な地域である。アームストロングらが作成していた f
題地域Jから,とくに周辺的な位置にある地域(南アーマ,西ファーマナ,アントリム渓谷,ス
トラノミン農村地域〉が選ばれている
C
<図…1)参照、)。
〈函-1) 農村行動計溜 (RAP) 対象地域
S守
アントリム渓谷
(
19
8
0
)
(
i
主
) J
.A
rmstrong らが作成した「農村不利益地域Jに加重量。
太線枠内が RAP
対象地域。
このプロジェクトの基本的な方向は,それを支える 4つの団体から推薦された 3名づっの委員
と,議長 (
NIVT),会計 CNICVA)によって構成された「運営委員会Jによって決定される。実
際の活動を展開するスタップとしては,プロジェクト・コーディネーターのアウ、、ィラ・キルマレ
イ(1986/87
年度はジミー・アームストロング〉のほか,開発担当者 (
DO) が 2名,情報・調査
担当が 1名,フィールドワーカ…がフルタイム 3名とパートタイム 3名,一般事務がフルタイム
2名とパートタイム l名,合計 1
3名がし、た。
RAPの基本的な日的は f
農村住民によって経験されている社会的・経済的・地域社会的必要
を明らかにし,農村地域の貧国と権利剥奪の諸側面に関する社会的な理解を増大さぜること Jで
ある。それは,第一年度の活動と議論ののち,次のように具体化される 23)。
すなわち,①パイロット地震の住民の必要にみあった革新的なアプローチをとること,②計画
づくりと地域社会発展の意志決定に,地域社会がより復接的に参加することを促進すること,③
制度的機関とボランタリー組織,地方行政および地域社会の協力の基盤をつくるような機構を作
ること,④資金提供者の要求にみあい,あらゆるレベルの政策担当者に情報提供し,その経験の
すぐれたものを他の地域社会グループや同じような分野での研究・調査者に普及するような評価
8
教育学部紀望書
第6
9
.
ま
のシステムを作り実行に移すこと,である。
アクション・リサーチの手法が反映され,当初の闘的よりもかなり実践的なものになってきて
いることがわかるであろう。それのみではなく,とくに②は, RAPがし、わゆるボトムアップの方
法をとることを明確にしたものであり,当初の g的の改良主義的なものとは異なる方向に向き始
めていることを示している。 RAP自身が地域社会発展の担い手となるわけではなく,あくまで地
域に根ざす諸組織・グ、ノレ…プが地域社会発展に取り総むための援助をする活動に集中するのであ
る。そのためには,地域社会発展がもっている合意と教訓を明確にして,地域諸グルーフ。がそれ
らを吟味できるようなものにしなければならない。
989
年)には新たに調査担当者が採用され,調査と統計で明らかになったことを整
最終年度 0
理した。具体的な調査研究としては,農村の高齢者問題(アントワム峡谷),農村女性問題(南
アーマ),移動助言・情報提供活動のそニタリング(ストラパン)が取り組まれ,アイルランド共
和国との閣境問会議,あるいは ECの第 2次反貧国計画にかかわる 1
2のプロジェクトの研究・交
流のための鴎際会議が開催された。
以上のような活動をとおして, RAPは農村の貧困と権利剥奪にかかわる諸側商を析出し,それ
n
t
e
g
r
a
t
e
dR
u
r
a
lD
e
v
e
l
o
p
m
e
n
tの必要
らにとりくむための地域社会発展,とくに統合的農村開発 I
性を明らかにした。プロジェクト・コーディネーターであったキルマレイは,国民詩人シーマス
・ヒーニーの詩「泥炭地」を引用しながら,次のように言う。「農村における地域社会発展の仕事
はピート掘りのようなものである。湿った中心部にたどりつくのは容易ではなく,底なしと言っ
てよい。しかし,もしその可能性が理解されるならば,それもまた底なしに深いのである。
l
4
)
。
ここでは, RAPが取り組んだ広範なアクション・リサーチの中から,①課題別対策としての食
困対策,②階層別対策としての女性開題対策,③包括的課題としての地域社会発展,そして④地
域社会計画づくり,の 4つをとりあげて,それらの概要をみておくことにするお)。
2
. 農村の貧国と女性掲罷
1)食閤問題
1
9
8
1年センサスによれば,北アイルランドの人口は 1
5
8万人であったが,このうちベルファス
トとその周辺に 5
1万人,地方中核的なおn
こ5
1万入居住しており,農村人口は5
6
万人とみられてい
た
。 RAPの運営委員会では,この農村人口を維持するためには,単に産業振興をはかる経済政策
だけでなく,社会政策とくに社会的サービスを充実させることが重要であると考えていた。それ
は,この社会的サーピスの不十分さが農村の貧閣と過疎化の大きな要因であるとみていたからで
ある。
社会サービスの問題として RAPがとりあげたアクション・リサーチの対象の主要なものは,
6
)
。
住宅,電気と水道,情報サーピス,交通手段である。以下,各調査結果の概要をみておこう 2
まず住宅問題である。農村住宅問題に関する f
北アイルランド住宅委員会j の報告
r
cロスリー
,1
9
8
7
年〉は, 1
9
7
4
年からの 1
0
年開で,北アイルランド酋部地症の農村での「不適切住宅j
報告J
は32%
から 20%に減少したが,なおかなりの量にのぼっていることを明らかにした。それらの多
くは一戸建で,相互に離れたところにあり,しばしば高齢者のみの居住者になっており,改善され
た住宅への移住を希望せず,住宅改善のための助成金のシステムすら知らない場合が多いことを
指摘している。 RAPの調査によれば,それは住宅行政が都市的地域に集中しているからでもある。
ストラパン移動情報活動からも,保全や修繕を必要さとする多くの住宅が指摘され,それらは
ヨーロッパ資金による農村再生と f
地域づくり教育j の生成
9
RAPの第一年次における苦情件数の 34%,第二年次の 22%にのぼっている。多くは北アイルラン
ド住宅委員会の基準にいう第 3カテゴリーのものであり,修繕までに 2年以内待たされるという
ものであるが,それが適用されるとさらに大きなメインテナンスを要求される場合もあり,住民
はたいへん不安な状態にある。こうしたことがおこるのは,住宅行政が都市を念頭においている
からであり,農村の状態に適合するためには,一方で地域の住宅協議会の活動が期待されている
とともに,公的機関による複接的な介入が求められている。
第 2に,電気・水道問題である。住宅委員会の調査によれば,北アイルランドで電気が供給さ
7
.
5
千である。それらは遠瞬地の農村に多
れていない世帯は 8千,水道が敷かれていない世帯は 1
く,こうした事実そのものがショッキングなものである。その主要な要悶は財政的なものである
が
,
RAPは,電気などが民営化されることが予想される段階では,それらが早急に充足される必
要があるとしている。
地域住民は平等に税金を払っているのであるから,水道の質の問題も含めて,生活の生命線と
しての電気・水道は,生活関題というよりも不公正と差別の問題であると理解されてきている。
したがって,この問題は,当初はイギリス全体から同情がょせられる問題であったが,
RAPの活
動が進展するのにつれて政治開題となっていった。
第 3は,情報サービスの問題である。農村における社会的サービスの問題は,公的な制度の立
ち後れ以前に,農村住民にそれらのサービスが存在することすら知られていないことによる場合
APのアンケート調査によれば,
がしばしばである。たとえば,南アーマでの R
40%の女性が家庭
援助サービスがあることを知らなかったし,小さな子どものいる母親の多くが市街地にある育児
施設のことを知らなかった。こうした開題はすでにイギリスの消費者協会や農村助言・情報会議
などで指摘されている。
RAPでは,概述のように,ストラパンでの移動情報・助言局を開設して農村の情報需題に取り
組んでいる。それは一般的なキャンベーンだけでなく,たとえば最初の 2年間で 1
9
0
0ケースの戸
別訪問をするなどの活動をしてきた。それらにおいて最も多い費聞は福祉・社会保障に関するも
のであった。第 3年次からは,これらをふまえて「農村便益獲得j 運動をはじめ,とくに 1
9
8
8
年
の社会保障関係法改定に対する対応をおこなっている。その後さらに,関書館との協力キャン
ベーンや「農村情報告知版j 設置などを展開したが,財致的な制限のため,それ以上の資源も人
をも割くことはできなかった。しかし,移動情報提供奉は増車され,専任の運転手は雇用できな
かったが,情報活動だけでなく,地域の仕事づくりグ、ループや資児グルーフ。の活動のための利用
にも供されるようになった。
最後に交通問題である。個人的・公共的交通手段がないために,さまざまな社会的・教育的・
RAPの調査では,錦入
3
"
'
5割もいる町村がかなりあった。 1台だけ所有している世帯が同
文化的な権利が剥奪された状態にある程度は,とくに農村に顕著で、ある。
所有の率をもたない世帯が
じ程度にあるが,とくに女性や高齢者は車を利用できる状態にない場合が多く, 4割あまりの成
人女性が免許をもっていなかった。
とりわけ深刻な交通問題をかかえている地域としては,アントザム渓谷の各村がある。
RAPの
調査では,住民の 5
3%が自分の交通手段をもたず,そのうちの 75%は親類や隣人・友人にたよっ
7
%にすぎなかった。インタピュー調査では約 3割
ており,公共交通安利用しているのは全体の 1
が移動に不便を感じていると述べている。とくに問題が多いのは高齢者で,
RAPは,高齢者のた
めの移動パイロット計画を実施し,週に 1間住宅と市傍地の開の移動を車で行うサーピスを行
IO
教 育 学 部 紀 婆 第6
9
号
い,家に閉じこもりがちな高齢者に喜ばれたが,これを痕常的なものにし,さらに拡充していく
ことが課題となっている。
社会的サービスの問題で RAPは,このほかに健康・保険サ…ピス,教育・図書舘活動,計画行
政などについて検討している。その中でも,これらのサーピスな提供する施設と専門職員が,過
疎化と新保守主義的政策のもとで縮減していること,これらに対してボランタリーなサービス活
動の展開もわずかしかなく,農村住民の孤立化が進んでいることを指摘している。潟齢者は借家
,
に伎むようになる場合が多いのであるが,南アー?とアントリム渓谷の借家人の 4分の 1は
「生命線j ともいうべき電話を持っていなかった。
また,社会的サービス縮減の問題は同時に雇用機会の減少をも意味する。社会的サービスは過
疎地帯にあっては重要な震用の場でもあるからである。 RAPは,このことも含めて,農村におけ
る社会サーピスの充実は,総合的行政として取り組まれるべき緊婆な課題であることを指摘して
いる。
2) 農村女性問題
女性問題は当初, RAPの計画において特別に重視されていたテーマで、はなかった。しかし,最
初の年の,とくに南アー?と商ブァ…マナの経験から次のような問題が浮かびあがってきた。
①農村の女性が出会う空間と支援機構を創造する必要性,②とくに最初の段階で,参加する女
性の自己信頼を向上させるための時間とエネルギーを割くべきこと,③教育的手段や情報を提供
するにあたって必要となる一般的アプローチの解明,④育児施設と可能な交通手段による実際的
な支援をする必要性,⑤女性が自分
a身で経験した開題にかかわること,したがって,そうした
経験会調査することの必要性,である。全体として,女性の集団的な議論と実践的な活動に対す
る熱心さに対して,あまりにも女性のための施設が欠落していることが明らかになった。
南アーマで最初に開題の焦点になっていたのは,登録された女性の失業者の多さであり,雇用
7
年の 8月からは,次のようなことが取り組
の推進とくにクラフトと訓練機会の問題であった。 8
まれた。
Jの
すなわち,①女性のグ、ループの組織化,②仕事と訓練にかんする「女性のための情報の B
設定,③農村女性の役割,雇用と訓練への関心,家庭での責任とそれにかかわる開題,そして多
様な支援的施設の必要性を明らかにするための調査活動,④個人的・集間的な経済活動の担い
手,とりわけ協同組合活動の促進,⑤上記のようなことに対する農村女性の要求の吟味,である。
これらの活動のために,最初は講演や展示,ついで、ワークショップや講座が開設された。さら
に「地方教育・図書委員会」職員やコミュニティ・ワ…カーによるインフォーマルなコースも組
織され,北アイルランド・ツーワスト委員会や北アイルランド協同組合開発機構による実践的訓
練,現地研修なども実施された。
これらによって,参加者は「自分たちは機会を与えられてこなかった」こと,そしてみずから
の技能と金業的能力に対するめざめを経験することになった。そして多くのツーリズム,クラフ
ト,家内工業に取り組むことになるのである。 RAPは新たな資金安獲得し,パートタイムの「女
性企業開発労働者J を雇用し,農村の女性によって企画されたこれらの活動を支援した。
RAPが南アーマで実施した,ランダ、ムサンプリングによる 2
9
6人の女性に対する調査,とくに
高齢女性に対する開き取りによれば,次のようなことが明らかになった。
留答者の 65%は,南アーマが社会的に不利益を得ている地域であると考えている。その理由と
ヨーロッパ資金による農村再生と f
地域づくり教育Jの生成
11
しては失業ないし雇用機会の不足が38%で最も多く,次いで弧立と道路状態の悪さ 9%,社会的
施設の不足 7%,交通手段の不便さ 5%,そしてトラブ、ルズの影響 4%と続いている。これに対
が地域の長所をあげているが,それはまず友達づきあいや近所づきあいの窺密さであ
して, 61%
り,次いで景色の良さと王子穏さである。個々の地域サーピ、スについては 1
0
年前よりも良くなって
は物価の高さからくる生活費の高さを問題にしている。電気
いると感じている者が多いが, 66%
・水道設備の質の悪さや,道路状態の悪さも指擁されている。
が家族の中に l人以上の移民者を経験していた。
失業と移民は大きな関心をもたれており, 25%
45%の家族では l人以上の失業者をもっている。家の外に仕事をもっている女性の半数は公的セ
1%が週2
1時間以下の雇用で,雇用機会の少なさを物語っている。非
クターで雇用されており, 3
は支払いのある仕事に就きたいと患っている。こうした状態を反映して,ほと
雇用の女性の 40%
は教脊
んどの失業女性は女t性のための諒1練ワークショップの必要書性を指擁している。全体の 54%
i
E
J
l
l
練に通ってみたいと考えている。そこでは技能訓練や新技術の獲得だけでなく,自己表現活動
やクラフト技術も含まれる。
7%の家庭は車を持ってお
諸施設にかかわっては,交通手段に大きな関心があつまっている。 1
がたった 1台しかないのである。 4
2%は車の免許をもっていないが,とくに賃貸住宅
らず, 58%
が無免許である。子どもの世話は,親類にまかされるか,ほったらかしである
に住む女性は 79%
が,子どもが小さいうちは働かない方が良いと答えたのは 11%にしかすぎない。借家人の 52%
は,冬期の暖房が不十分であると答え,多くがj
古舗や郵便局そして友人のところにいくのに問題
をかかえている。とくに農業に従事していて,高齢者の世話をしているような女性が農村地域で
の支援グループの必要性を訴えている。
以上のような結果にもとづいて,南アーマ農村女性開発グ、ループは,次のような提案をしてい
る。まず女性のための多角的機能施設,すなわち訓練,仕事の創造,育児施設,そして情報提供
の機能を備えた施設で、あり,次いで,それに対するアクセスのための交通手段である。そして,
このための資金獲得活動の支援がはじまった。この一方で,北アイルランド機会均等委員会によ
る会議が組織化されている。その議題は,農村女性のための機会,農村女性と農外の雇用,農村
女性の法的・社会的地佼,農村女性のための訓練と継続教育,である。これは,これまで都市に
霞定されていた女性運動が農村にまでひろがってきている併として注目される。
3
.地域づくりと地域計箇
1)地域社会発麗
農村の地域社会を活性化するために「統合的地域社会発展 j のアプローチをとることは,
RAP設立の当初から考えられていたことであった。運営委員会では,そのために,地域社会の主
体的力量を向上させることを重視していたが,具体的に①地域社会みずからによる地域の必要性
と可能性の明確化,②発展すべき行動計画の明示,③情報・資源・職員そして技能へのアクセス
の改善,④地域の可能性と計画を実現するような自己信頼と技能の発展,⑤関連する諸機関との
協力による,地域社会の長期的な発展のための活動,を課題としてあげていた。
最初に問題となったのは, ECの反貧閤計画と地域社会発肢の理念の一定のギ、ヤップである。
前者は,最も貧困な地域に対する対策とされているが,地域社会ではそうしたレッテルはりをさ
れたくないという気持ちがあったり,地域社会発展に取り組む地域と「最も貧掴な地域」は必ず
しも一致しない。地域社会発展が地域にねざした行動計画であるためには,地域活動に取り組む
教育学部紀重要 第6
9号
12
人々との協力関係を不可欠とするのであるが,あくまで鎧期的なパイロ
γ
ト的計画として展開さ
RAPにおいては,最も貧困な地域における地域活動の展開をゆっくり時聞をかけて育てて
地域社会発
いる余裕はない。そこで, RAPの運営委員会では,反貧密計画に艶議しながらも, r
れる
展J的な,すなわち「内発的発展J的なアプローチを優先することにしたのである。
次の論点は,都市のイナーシティをや心に展開されてきた貧困論と食器対策に対して,農村型
の食器をどのようにとらえるかということである。
RAPでは,農村文化(教会,学校も含む)や
p
a
t
i
a
ld
e
p
r
i
v
a
t
i
o
n
Jの問題合重援す
産業・生活の特徴を検討したが,とくに「空間的な権利剥奪 s
ることにした。
かくして
RAPでは,対象とする「地域社会j は主として f
権利剥奪Jの状態にある地域で,
「発展Jとはそうした地域社会に「以前十こは得られなかった一定の選択肢と機会を提供するこ
とJであると L、う共通認識を形成することになった。こうした活動の一環で、ある特別な行動計画
として,最も権利剥奪された人々,すなわち高齢者,失業者,低所得階層そして農村女性に焦点、
があてられることになるのである。
たとえば,高齢者問題については,前述したアントリム渓谷の地域で,ボランタリー綴織であ
る「アントリム渓谷農村地域社会発展協議会Jとの協同で取り組まれた。まず地域社会について
の基礎的調査,とくに権利剥奪の状況についての調査が実施される。これにもとづいて,高齢者
移動・情報サービス」活動が,北アイルランド・ボランタリー・トラストの協力に
のための f
よって展開される。こうした活動によって,
RAPのアクション・リサーチは,地域社会発展アプ
ローチと反貧罰計画を媒介し,両者を動態化させるものとして位置づけられてくるのである。
地域社会発展アプロ…チにおいては,地域住民の主体的力量形成のための教育部練活動が重視
されている。それは,地域住民に対して地域社会発展にかかわる情報提供をするとともに,地域
住民みずからが池域の評価をし,必要な行動をおこし,場合によっては,そのための資金獲得を
できるような力量を形成することを目的としている。
1
9
8
9
年に実施された 8週コース,および 9遇コースの場合のカリキュラム構成は次のようで
あった。すなわち,前者においては,①農村地域社会発展一導入一,②地域社会諸グループのた
めの資金獲得,③ヨーロッパ資金,④農村におけるツ…リズムと企業,@地域経済発展,⑥メ
ディアを科用して,⑦農村地域の伎宅と計画,⑧総括と結論一未来を見つめて一,であった。ま
た後者では,①農村地域社会発展とは何か,②地域社会の評価一実習を含む一,③地域問題への
取り組み,グ、ループ必要の明確化,そして計画化,④資金獲得一制度的,ボランタリー,私的お
よび地域社会資金一,⑤成人教育,⑥地域社会ケア一社会サーピスとボランタリーなケア組織と
の関係はあるか?一,⑦農村地域の芸術と文化一地域社会の能力と知識を発展させる一,争農村
集落と住宅と計画,⑨提案のための計画,であった。
コースは地域での活動家の参加により盛況であったが,いくつかの間題点も指摘されている。
すなわち,計画・提案づくりについての支援体制,小さな子どもをもっ母線のための条件整備の
欠溶,交通手段とくに踊離されたような地域への対策,中立的な場所と会合機会を設定すること
の困難,地域社会発展のための諸施設の不足,などである。しかし,ケッシュ地域社会協議会議
長の発言がスローガンとなったように,
r
われわれの挑戦は変化を生み出すことである j と理解
がリーダーシップをとって計画したものであるが,より地域
されている。このプログラムは RAP
社会にねざしたものにする必要があり,そのためにも地域住民が f
自己信頼と知識j を増大する
ことが不可欠であると強調されているのである。
ヨーロッパ資金による農村再生と「地域づくり教育j の生成
1
3
地域社会発展にかかわる活動でつけ加えてふれておくべきことに,アントリム漢谷で取り組ま
れた地域新開『アントリム渓谷の戸』がある。既述のように,アントリム渓谷では,いくつかの
地域社会発燥に取り組む活動があるとはいえ,全体的に分散的で弧立している。地域社会発展の
問題,とくにツーリズム,農業,地域社会および経済発展,などの活動を地域住民のものとして
いくためには特別な情報活動が必要である。この課題に取り経んだのが,すでにふれた「アント
ワム渓谷農村地域社会発展協議会」である。
資料収拾にはじまり,文章書~,写真,レイアウト,出版社との交渉,資金獲得活動など,こ
の地域新開発行が,協議会のメンパ…にとって,新たな地域調査であり,新しい能力形成と地域
社会でのネットワーク形成の活動であったことはいうまでもない。それはまた,地域社会発展に
取り組む新たな動きを生み出している。それは仕事おこしだけでなく,文化活動・地域史発掘活
アントザム渓谷の声』の表紙をつくるコンクールに参加することにはじまる,小学校の
動から, w
児童と教師の地域協同活動までを生み出している。
2)地域社会計闘づくり
既述のような農村の会関問題に取り組むべく
RAPは,調査活動だけでなく,農業の多角化や
ツーリズムの発展を援助する活動を多面的に展開してきた。こうした中から農村振興計画の樹立
が浮かびあがってくる。
RAPが取り緩んだもののうち,代表的な事例はベルク一地域発展計画で
ある。
1
9
8
7
年
, I
ベルク一地域社会協議会」は f
ベルクー陪発グ、ループj などの活発なメンバーに呼び
かけて地域社会計画づくりをはじめる。これを援助すべく,ベルク一地域社会センターを基地に
して活動する
RAPのフィールドワーカーが配置された。あらかじめ課ぜられていたフィールド
ワーカーの仕事は,次のようなものである。①地域の家庭とそれをとりまく諸条件についての総
合的な調査,②地域のインフラストラクチュアと経済構造の評価,③地域住民と環境省の計画行
政にかかわる物的・経済的条件についての資料収拾・整理。
関係者の議論を経て,地域社会計画の目的は次のように設定された。すなわち,(1)ベルクーと
それをとりまく地域についての社会的・経済的状況を概観すること,②地域住民の必要と希望と
を明らかにすること,③地域住民によって表現された必要と諸機会を発展のための選択肢と提案
に作り替えていくこと,④発展のための選択肢と改善のための諸提言を提示することにより,ベ
ルクーとその後背地の実践的な計闘を策定すること,@制度的な諸機弱から獲得可能な資金にも
ふれて,多様な提案の実現可能性を吟味すること,⑥地域社会の発展と環境問題についての,地
域レベルでの関心を高めること,である。この前提としては,中央の発展計画の実現可能性への
疑問がある。
地域社会計画の基本的な要素は,地域住民の集部的な「参加」であると考えられている。その
J弓信頼と,アイデアと情報を集団的な意志決定と行動に変えてい
ためには,自助活動の発展, E
く能力の形成が必要で、あるとされている。こうした在点から,ベルクーでの活動の出発は,地域
社会のプロフィールを作成することと,地域住民の見解と希望を収集することにあてられた。
そのために地域住民全戸に対するアンケート調査が実施された。この結果,次のような事実が
明らかになる。パイロット地域の人口は 1
0
8
7人であり, 1
6
歳以下の年齢層は北アイルランド平均
5
歳以上の人口比率は 14%で,北アイルランドの 11%より高い。この 1
0年で
と悶じであるが, 6
1
5
7人が村を去ったが,うち 28%は失業のため, 21%はさらによい雇用機会を求めてのもので
1
4
教 育 学 部 紀 婆 第6
9
琴
あった。生産年齢人口の 13%が失業者として登録されているが,これは仕事を探している女性な
どを含んでおらず,実質的な失業率は20%とみられる。地域住民の 47%はベルクーは諸機会に欠
けているがゆえに不利益を得ていると思っているが, 41%は悪くはないと思っている。その大半
が景観の良さを地域のメリットであると考えている。地域での腫用創造とベルク…の発展のため
に,多くの提案がなされた。その中で最も多いのがツーリズムの発展であり,次いで地域社会
サービスと仕事の創造である。
この調査に平行して,オーラノレ・ヒストリーの活動が実施され,現在の地域の状態を過去の地
ベル
域の療史との脈絡において理解することが試みられた。ベルクー開発グ、ループはみず、から f
クー:過去と未来Jという作文集と写真集を作成した。地域の小学校は,大きな地域地歯づくり
を行った。
以上のような活動の過稼で得られた資料はすべて,
r
地域展示会J~こ提供された。その最初の日
には,関係する諸機関・組織の代表とともに,地域のクラフトグループや,就学前児童グルー
プ,そして小学校の党童も参加した。識変活動に続しこれらのイベント的な活動をとおして,
地域社会計画づくりに対する地域住民の関心が高まっていったのである。
もちろん,すべてが順調にいったわけではない。とくに大きな問題となったのは地域住民間の
意見の対立である。たとえば,地域資源としてのマックニーン湖の保護と開発をめぐる対立,多
くの住民が参加する方法と強力なリーダーシップを必要とすることとの緊張関係などである。こ
れらの調整のためにフィールドワーカーは,しばしばコンサルタントの枠を超えた活動をしなけ
ればならなかった。
これらの活動なくぐって,地域の中では次のような動きがみられるようになってきた。①地域
のクラブトグループが形成され,アイルランド共和国ドニゴール燥のイニショウエンでの先進地
研究,②ボ…イスカウトによる地域美化運動,③地域史研究のための子どもと教師の協同プロ
ジェクト,@高齢者のための施設改善のための諸提案,⑤地域住民への情報提供,⑥ベルク…グ
2名の雇用者の獲得,⑦開発グル…プのための資金獲得
ループへの「地域震用行動 ACEJによる 1
である。
こうした動きの中から,次のような内容を食む地域社会発展計画の素案ができあがってきた。
すなわち,高齢者のためのデイケア・センターの設立,地域信用組合設立可能性の吟味,監療施
設の改善,ホーム・ベーカリーの開発,環境保全活動への従事,伝統継承と企業活動のためのセ
ンター設立の準備,地域の康史資料の保存とオーラル・ヒストリーの記録活動など,である。開
発グ、ループでは,こうした活動のために,さらに 8名の雇用増大な計画した。
RAPでは当初から,地域社会計画を現実的なものとするためには,地域住民の情熱と参加だけ
でなく,制度的諸機関の理解が不可欠であることを理解していた。したがって,プロジェクトの
地域展示会」に諸機関の参加を呼びかけ
進行過程に応じて諸機関の参加を求めてきた。前述の f
たのもその一環である。地域社会計磁の素案ができると,それを諸機関に提示し,評価を求める。
さらに諸機関の代表が参加した地域集会を開催し,計闘の実現可能性会議論する。
こうして計画は「公共的なもの Jとして認知されていき,最終的な計画が策定されるのである。
これにもとづいてまた,地域センタ{での
r
1Bセミナー j が開催される。この段構になると計
闘はかなり現実的になってきており,伝統継承・企業活動センターは「小企業揮発室 LEDUJ の
統合的農村開発 j 戦略の重要
資金援助をえてその施設を購入することができるようになった。 f
性が理解されてきて,諸機関の謂整活動もはじまってきた。
1
5
ヨーロッパ資金による農村再生と「地域づくり教育j の生成
以上のような渓開の後のフィールドワーカーのコメントでは,基本的にボトムアップの視点が
強調されているとともに,北アイルランド全体の計画行政・農村政策との終合牲が問題にされて
7
)
。それは,すでにみたことからも明らかなように,妥協的・折衷的なものというよりも,
いる 2
きわめて現実的な視点から提言されているものと言えよう。
4. RAPの提雷
以上のような 4年聞にわたるアクション・リサーチを展開してきた RAPの活動は,農村貧困
問題の解明から地域社会発展計闘づくりまでを含む総合的なもので,その後の農村再建運動とそ
れにともなう「地域づくり教育」の原理となるものである。
それは「農村の貧困問題」にかかわるアクション・リサーチであったが,同時に「地域づくり
教育 j に必要な多様な契機を含んでいる。すなわち,
r
地域課題Jとしての「農村の食鴎問題」の
実態をりアルに明らかにしただけでなく,実際に教育部練活動に取り組むことによって,その発
展のための課題を明らかにしている。その活動の多くは地域の諸グ、ループ・協議会などとの協力
によって進められ,地域住民の参加を促進している。
また,農村食器問題の解決のために「統合的地域社会発展j の視点が重視され,そこから成人
教育 ~JJI練活動の重要性が指摘されて,アントリムでみられたように,具体的に地域社会発展に取
り組むことができるようになる力量を形成するためのコースを実施している。さらにベルクーで
地域社会発展計画J を作成することを援助し,地域住民
は,地域グ、ループや協議会がみずから f
と制度的諸機関とのパートナーシップを発展させて,計闘を「公共的なもの j とする括動を捉進
している。
地域づくり教育j が意
この時点ではなお,会臨問題解決のための活動と相対的に区別された f
識され,その間有な意義と特徴を理解した上で,その体系的な展開が検討されていたわけではな
地域社会発展のための教育誤練活動J= r
地域づくり教
い。しかし,これらの活動はし、ずれも f
育j にとって不可欠なものである。
RAPは,アクション・リサーチの結果にもとづいていくつかの提言をしている。それらは,情
報提供,ネットワーキング,訓練,地域社会計画,農業多角化と農業企業化,ツーリズムと経済
発展,地域社会発展の支援,調査活動,パイロット計画,新技術開発などに及ぶ広範なものであ
る2
8
)。
これらを実現する農村地域社会発展には,一定の投資が必要なことも明らかである。しかし
RAPが強調しているのは,地域にねざした,ボトムアップの方向こそ,そうした投資を効率的か
っ有効なものにすることができるということである。主要な提言である,農村地域社会発展のた
めの独立した「特別な機関
r
北アイルランド農村地域社会発展機構Jの設立についても
y
こ
うした理解の上で検討されなければならないとされている。
聞 統合的開発と農村開発協会 (RDC) -LEADER
1.統合的農村開発政策の展開
9
0
年代のはじめ, E
Cにおいてかつてないほどに注目された農村政策の基本理念は「統合的農
n
t
e
g
r
a
t
e
dR
u
r
a
lDevelopment,以下, I
R
D
J である。 IRDそのものは, 1
9
7
0
年代,第三世
村開発 I
界における開発が総合的な農業政策を必要とするところから生まれたものである。低雇用,農業
における低生産性,農村労働力の流出,関寒的園内市場,人口の急速な増大,食料問題,巨額の
1
6
教育学部紀聖書
第6
9
号
対外債務といった問題をかかえた発展途上留における農村開発を進めるために,当該国や国際的
機関によってとられた政策で、ある。
IRDの基本的な考え方は次のとおりである。第 1に,開発への多部門的アプローチである。第
2は,経済的開発は教育 ilJII練活動や社会的設備の投資と平行すべきであるということ,第 3は
,
援助は食間地域の中でもより必要な地域に集中し,戦略的な必要性に対してなされるべきである
ということ,第 4は,地域住民が,問題を切らかにしたり開発機会に参加するというだけでな
く,統合的農村計画の実行に積緩的にかかわることが必要で、あること,第 5に,中央および地方
の政府の力が衰退していくのに対して,制震的改革が必要となるということである。
このプログラムは!日米型経済開発とも異なるし,市場経済に依存するものとも異なる。それは
介入主義の立場合とり,低所得層や成長過程で取り残された人々にターゲットをしぼる。そこで
は,地域の人々が地域変革の多様な過程に不可欠な役割をもっていることが理解されつつある。
農村陪発は地域社会の志向性を現実化させ,ついには「下からのアプローチj を「上からのアプ
ローチ」に統合させるものであると考えられている。このような IRDに対しては最近,財政的負
担が大きすぎるといった J. フリード、マンの批判などが紹介されているが 2
9
),8
0
年代末葉以降の
EC/EU農村開発政策のキーワードになっているといえる。
既述のように,北アイルランドは EUの辺境で, I
目的 1地域Jとして位置づけられている。こ
れまで,連合王国の他の農村地域に比べて,中央政府の社会的・経済的な総合的農村政策が欠落
0
年代末から再検討されつつあ
していた。しかし,前章でみた RAPの活動などに影響されて, 8
り,北アイルランドは戦略的計画,介入的資金投与,統合的な農村開発が必要な地域として熊点
化されてきている。
北アイルランドでは農業省
CDAN
I)が農村開発の総合的・調整的な政策を策定し実行する部
門となっている。農業省は 2つの郡に l人,合計 3人の「農村地域コーディネータ -RACj をお
き,次のような役割を果たすものとしている 30)。すなわち,地域社会から生まれた発展計画のた
めの資金計画を調整し統合すること,地方の各行政機関や団体のネットワークをつくり地域の必
要に対応した実行可能な計画を作成すること,そして,農村再生についての情報提供をする集約
的な部所を提供することである。農業省は,これらの活動がとくに求められている「最も権利剥
奪された農村地域j として,商ファーマナ〈湖水地域),スパーリン(山岳地帯),ネイ湖西部地
域,南ア…マおよび荷ダウン(鴎境地域),アントリム渓谷およびラスリン島をあげている。
0年代半ばの IMaher報告j にある 3。
)
1
農村開発政策をめぐる以上のような変化の出発点は, 8
この報告は 1
9
8
6
年に,北アイルランドの f
不利益地域 L
e
s
sFavouredA
r
e
a
s
j に対する統合的な
地域政策および地域計画委員会 R
e
g
i
o
n
a
lP
o
l
i
c
y
農村開発計闘をすすめる,ヨーロッパ会議の f
andR
e
g
i
o
n
a
lP
l
a
n
n
i
n
g
j に提出されたものである。それは,第 lに,ヨーロッパレベルでの調査
資料にもとづいて,社会的不利益を得ている地域の状態に,はじめて注意を向けさせた。第 2
に,その後において農村開発と経済的再生のための具体的な過税を進めてし、く契機となった。
この報告が勧告しているのは,北アイルランドの農村問題を解決するためには,縦割り行政を
超えた総合的アプローチが必要なことである。具体的な対応としては,農業の多角化,農産物加
工事業の発展,ピート〈泥炭)やパイオマス資源の開発,漁業の発展,工芸産業の発展,インフ
ラストラクチュアの整備,政策全体を監督するような中央の調整機構の設立があげられている。
しかし,これらを実施するための兵体的な政策の提言はなく,北アイルランドの周辺農村におけ
る社会経済的諮問題の存在を訴えたということにこの報告の最大の意義があったということがで
ヨーロッパ資金による農村干等生と「地域づくり教育j の生成
1
7
きる。
iMaher
報告jがだされた直後に北アイルランドでは,既述のアクション・リサーチヱ「農村
行動プ口ジェクト RAPj が取り組まれた。全般的な資金提供が 4年間,ヨ一口ッパ第 2次反食閤
健康社会サービス省 DHSSj を指導的な省庁とし
計画によって保障されたが,当初から RAPが f
てきたことは,経済的発展と社会的再生のための中央政府の議題においても農村調発が中心的な
位置を占めるような政策を焦点化させてきた〈以前は,こうした復活計画はベルファストやデ
リーのような都市問題に向けられていた〉。このように RAPの諸報告は,将来の農村開発をかた
ちづくる上で,重要なものであった。
一方, RAP設立と向じ 1
9
8
6
年に,連合王国とアイルランド共和国の政府は,一方において社会
的前進と経済的再生,そして他方において北アイルランドの 2つの伝統の問の対話を奨励し支援
F
l
j を設立した。それは,北アイルランドの
するような基金,すなわち「国際アイルランド基金 I
社会経済的発展をはかると陪時に,ナショナリストとユニオニストの対話をすすめることを目的
としてものであった。 I
F
Iは合衆国,カナダ¥ニュージーランド,そしてヨーロッパ連合からの援
助も引き出した。その予算は限界的で社会的不利益を得ている地域に向けられ,そこには農業,
観光,漁業,地域経済発展,職業訓練計画,企業的扱い手,そして科学と技術を含む。
受けJIll
jのあるところに限られる傾向
それはしかし,全体的に補助金パラマキ的性格が強く, r
があったから,必ずしも最も必要な地域に行き届かなかったため, 9
0
年代に入ると「不利益地域
イニッシャティヴj が設立され,小さな町や村,地域社会にまで資金が提供されるようになった。
以上のように,北アイルランドにおける農村開発を進めるうえで大きな影響力をもったのは,
ひとつに,ヨーロッパからの圧力の増大で,もうひとつは, RAPの運動であった。これらに対し
て北アイルランド国務大臣は, 1
9
8
9
年1
0月に f
農村開発に関する間省庁委員会 IDCRDJ を発足さ
せると L、う措置をとった。その目的は「北アイルランドにおける最"<b権利剥奪された農村地域に
おいて社会的・経済的諸問題に取り組む行動を前進させる最善の方法を勧告する j というもので
あった。委員は北アイルランドの諸省庁と非政府団体で構成され, IDCRDは政府の構造の枠内に
おける統合的なアプローチを代表するものとなった。
この委員会の報告が RDCを設立する直接のきっかけとなるのである。
2. RDC設立とその組識
1
9
9
0年
, IDCRDの報告が提出された。その内容は,およそ以下のとおりであった 32)。
第 1に,政府の中に責任をもって統合的農村開発を推進する行政機構をつくること。それは安
定的であるために農業省を中心にしたものであることが望ましい。第 2に,政府の外に諮関機関
および資源センターを設立すること。それは,農村問題に関する広い視野のもと,政府に対して
地方の意見を反映し,専門的助言と意見を述べ,農村再建にかかわる諸グループに資金的な援助
u
r
a
lDevelopment
をすることができるようなものであるべきである。この「農村開発協会 R
C
o
u
n
c
ilJは, I
F
Iが具体化した農村の社会的不利益地域の中心であるタイロン郡に位霞すること
が望ましい。この協会はみずからのデ、ィレクターとスタップをもって,地域社会で活動する推進
者f
a
c
i
l
i
t
a
t
o
rに対する助言・援助をすることとする。
第 3は,農業省が中心となって,調整担当者のチームをつくること。このチームは,公的なセ
クターの諸計画が地域の必要牲を反映するよう k
こすると同時に,とくに地域から生まれてきた再
建計画に対する制度的諸機関の反応を調整する仕事をする。それは,部門の枠を超えた専門家の
教 育 学 部 紀 要 第6
9
号
18
チームであり,行政機構の革新をも担う者である必要がるる。
以上の提言は, <図-2)に示される。政府と「農村開発協会 RDCJの関係は複雑で,各大臣か
ら地方行政委員会をへてボランタリーな地域グループにまで至る。大臣からはじまるのがトップ
ダ、ウン・アプローチ,地域グループ少からはじまるのがボトムアップ・アプローチ(その頂点が
RDC) で,それらの融合によって農村開発に取り組むことが意、図されているのである。
〈
図 -2> IDCRD
の戦路枠組み
(注) IDCRD,
Summary,
op,
c
it.より作成
問題は, RDCの資金的基盤,権限,そして長期的な役割であるが,ヨーロッパ委員会は,この
9
9
0
年から 9
2
年にかけて 8
4
万ポンドのパイロット資金を提供した。
農村開発の担い手を評価し, 1
この聞の活動をとおして,農村における地域社会発展はもはや残余の政策的課題ではなし低コ
ストの行政活動でもないことが示された。その後の位置づけは, RDCの活動実績そのものによっ
て切り開いていくことになる。
RDCが正式に発足したのは 1
9
9
1年 9月であった。その後,活動が本格化し,最初の充実した
9
9
2
年 5月から 9
3
年 6月にかけてのものであった。それは初期
『年次報告』が提出されたのは, 1
の RDCの活動の総括となっている。ここでは,この『年次報告
l
3
)と,筆者の RDC訪需によって
得られた資料,および議長の J
. アームストロングからの開き取りに基づいて, RDCの組織と活
動内容を概観しておこう。
RDCは 1
6人の委員からなる。そのうち 6人は政府からの任命であるが,他は農村にかかわる多
様な溜体から構成されており,農業者およびその団体(北アイルランド農業生産者協議会,アル
スター農業者向盟),地方行政委員会(議員,地域保険担当者,校長),ボランタリー組織(農村
社会ネットワーク,自然保護団体,オーフ。ン・ユニパーシティ職員),私的企業(地域社会企業,
労働者協同組合〉の代表を含んでいる。この委員会で RDCの法的な整備をし,資金獲得戦略をた
8人となった。これらを含めたRDCの
て,専門的なスタップの配置をしたのである。スタッフは 1
組織はく国一 3) のようである 3
4
)
。
ヨーロッパ資金による農村再生と「地域づくり教育j の生成
I
9
〈
図
ー 3> 農村欄発協会 (
RDC) の組織機構
(出所) RDC
資料より
RDCはその活動目的にそくして, r
地域社会支援委員会J,r
調査委員会j および f
運営委員会J
の 3つの小委員会からなる。これらの活動を推進するために, J. アームストロングを議長とす
る執行委員会がある。このもとに,情報提供および調査担当 5名,一般業務 6名,地域社会支援
7名の各スタッフが佼霞づいているのである。調査担当のもとには,調査助手のほか,フィール
u
p
p
o
r
tO
f
f
i
c
e
r,CSO) とし
ド担当者が 2名配置されている。地域社会支援担当者 (CommunityS
てはグレード、 Hの農業査察官が位置づき,そのもとに 5つの地域の開発担当者 (Community
DevelopmentO
f
f
i
c
e
r,CDO) としてグレード磁の農業査察官が配霞されている。
3
. 4つの活動領域
RDCの最も重要な仕事は, CSOと CDOを中心にして進められている地域社会支援である。
RDCでは地域社会発展のボトムアップ・アプローチを重視しているが,実際に,農村再建計画を
たて実行できるような地域組織は多くないと考えている。したがって,組織の法的整備,計極策
定,運営などにわたって専門的支援が不可欠であるという共通理解がある。 92/93
年度の 1年間
2のグ、ループに対する教育訓練活
で,その活動によっておの新しいグループを生みだし,既存の 2
5のグ、ルーフ。に技術的支援をした。こうした活動を遂行するために, I
F
I職員,
動を行い, 1
DANIの農村地域コーディネーターや,北アイルランド・ツーリスト委員会, LEDU職員,地域社
会食業労働者などと協力しつつ,地域調査活動,地域社会諸グ、ループの技能と知識を向上さぜる
ための教育訓練活動を行ってきた。
年度の収支をみれば,総収入 9
3万ポンドのうち, 72%が農業省から, 27%
ここで RDCの92/93
がI
F
Iからの助成金で,この 2つが収入のほとんどである。 RDCは政府から独立した機関である
ことが当事者によって強調されており,とくに I
F
Iからの資金導入は大きな意味をもっているが,
圧倒的に農業省からの資金にたよっていることが, RDCがなおトップ夕、、ウンの機関であるという
印象を強くしているのである。
20
教育学部紀重要
第6
9考
これに対して支出は 9
4万ポンドであったが,その内訳は「地域社会発展j が33%,I
調査情報活
一般事務Jが 19%であった。調査情報活動が多いのは,この仁村に「農業多角化J活
動j が48%,I
動が含まれていて,しかも 83%も占めているからで,実際の調査活動は残りの 17%となっている。
1%は地域諸組織・グループに対する資金聾助である。
農業多角化の 7
以下,地域社会支援,農村経済発展,調査活動,情報活動のそれぞれの活動内容の特徴をみて
おくことにしよう。
まず「地域社会支援j である。前述のように,この活動のために 6人のスタッフが雇用されて
いるが,そのうちの 1名は CSOで,管理的・戦略的な責任を負っている。他の 5名が地域担当と
しての CDOで,とくに社会的な不利益を得ていると考えられる農村地域,すなわちファーマナ,
誇アーマおよび南ダウンで活動し
西部スパーワン,東部スパ…リンおよび湖岸地域,渓谷地域, p
ている。その主な仕事は,みずからの地域の社会的・経済的発展に実践的にかかわっている地域
社会諸グループ,すなわち失業者から小経営農業者,地域企業者にいたる広範なグ、ループを支援
するところにある。その活動は経済的なものばかりでなく,社会的,文化的,環境保全的な活動
も含む。これまで強調されてきた統合的アプローチにもとづいて,農村地域の人々が自分たちの
必要性と可能な機会をみつめ,理解して,地域社会センターを設立し,教育訓練;活動を行い,さ
まざまな地域活動・地域サービスを提供することを支援するのである。
こうした活動を促進するために, RDCはさまざまな資金援助をしている。それは 4つのカテゴ
リーに分かれている。第 1に育成資金で,地域社会グループの設立,最初期の活動援助のための
ものである。たとえば,基本的な事務活動,運営資金,設備費,郵送費,出版費などの援助にあ
てられる。第 2は教育訓練援助費であり,地域諸グループが発展計幽を推進する tで必要な技
能,知識および自信を獲得するための活動に対する援助である。第 3に専門的・技術的支援で,
諸グ、ループの発展とくに特別なプロジェクトや企業的・商業的な活動の展開を支援する。第 4
は,プロジェクト開発援助であり,あらなたプロジェクト開発やそのための資金獲得のための援
年度には 1
5
5グ、ループに対して, 1
1
.8万ポンドの援助が
助がこのカテゴリーに相当する。 92/93
なされた。
CDOの活動については後述するが, CSOを中心とした地域社会発展にかかわる対外的な活動
F
Iおよび他の省庁との連絡調整であ
としては次のようなものがある。第 1に,協会と農業省, I
る。第 2は,とくにヨーロッパの諸プ口ジェクトとの連絡,情報収集活動であり,そうした中か
ら後述する「農村経済開発連携行動 LEADERj,I
開地域計画 INTERREGj などの北アイルラン
ドへの導入に大きな役割を果たしている。第 3は,これも後述する民間のネットワーク組織であ
る「農村地域社会ネットワーク RCNj との密接な関係をたもちつつ,セミナーや諸会議,フォー
ラムを共俄しながら,ボトムアップのアプローチを組み入れようとしていることである。また,
「オーマ農村社会グループ・フォーラム」のような新しい住民組織を設立する援助も行っている。
f
農村経済発渓Jの領域について RDCは
, ECの LEADER計画と密接な関係を保ちながら進め
てきた。それは,農村社会の諸グ、ループが中央および地方の行政とのパートナーシップで,革新
的な経済発展を追求していこうとするもので,北アイルランドで 1
9
9
1年から 9
4
年にかけて約 4百
万ポンドの資金が投下されてきた。 LEADERは経済的活動に線定されているので, RDCはその
統合的アプローチにしたがって,それを補完するような援助をしてきた。また, LEADERだけで
は不足する資金を I
F
Iや農業省から獲得するための活動も行っている。たとえば LEADE
廷の資金
はプ口ジェクトの 51%までであるから, 29%をI
F
Iが提供し,残りの 20%を地元負担というかたち
ヨーロッパ資金による農村再生と「地域づくり教育j の生成
21
で進められる場合が多い。
92/93
年度においては, LEADERにもとづき, 1
9のグループへの援助がなされたが,このうち
1グ、ループ,残りの 4グ
基本的な資金提供がなされたのが 4グ、ループ,事業計画づくりの援助が 1
ルーフ。は全体的な計画の見直しであった。資金提供がなされたのは次のようなグ、ループである。
すなわち,①中央アルスター企業(ツーワズムと多角的農業生産活動,観光農業,民宿などの総
合農村企業),②シーコネル・イニッシャティヴ(乗,馬施設,休日用橋治施設・ホステノレ,遊歩道
などを持つ総合的ツーリズム),③南西ファーマナ開発イニッシャティヴ(改修した小屋を中心
にして,職業技術訓練活動,地域社会企業の開発念行うグ、ループ), G
むドレイパースタウン労働空
間(農村の労働者協同組合であるが,宿泊型施設をもち,実接的な職業訓練とくにリーダーシッ
プと企業設立技能の育成を行う農村大学の設立をしようとしている〕である。
第 3~こ「調査活動J の領域である。農村社会の発展のために何ができるかを明かにするため
に
, RDCは調査活動が不可欠であると考えている。農業と農村の近代化,それにともなうライフ
スタイルの変化など自に見えるものだけでも農村は大きくかわりつつるる。この一方で、,小零細
企業の衰退,農村の伝統産業の衰微,女性の役割の重要性の増大,非農業者の住民の増大,そし
て全体としての過疎化など,必ずしも目立たないが確実な変化が進行しつつある。いずれも,そ
れらの実態を把握するための調査活動が必要となるのである。
しかし, RDCが直面する実践的課題からすれば,これまで、以上に立ち入った調査活動が求めら
れる。そこで RDCでは,調査対象を 2つにしぼった。小規模低所得の農家と農村女性である。そ
してさらに,前者では農業多角化の問題に焦点をしぼることにした。
0
北アイルランドでは,農業者の約 53%が,独立した経済活動が国難であると考えられている 2
ha以下の階層に属する。従来の農業とは異なる領域合含めた農業の多角化が求められている最大
の理由である。しかし,そうした小零細農家はしばしば周辺的な地域に存在し,多角化をするめ
るための市場にも資金にも溜まれていない場合が多い。 RDCではこうした農家が農場を基盤にし
た新しい企業活動を推進するために,アクション・ザサーチに取り組むことにした。
この仕事の第 1段暗は,すでに前述の RAPによって笑施されている。 RDCはみずからの活動
は,それを前提にした第 2段轄のものであると理解している。 RDCは商ファーマナと南アーマの
1
2
0
戸の小規模農家を対象にして,技術的支援,助言,謬1練,資金援助などの活動をはじめた。こ
の農業多角化計画の資金は主として I
院から提供された。具体的には,コーディネーターとして
の調査担当者のもと,調査助手と 2人のフィールド活動担当考によって進められ貝現地には地域
諸グノレ…プの代表からなる実行委員会が組織化された。
農業多角化の支援は RDCの活動の中でも重要な位置を占めており, RDCの資金援助の 69%と
なっており,残りの 31% カ~75 のグル…プに対する「地域社会発展J 援助としてまとめられている。
調査活動によって明らかになった農業多角化の内容としては,①第一次生産(馬,放し飼いの家
禽・豚,鹿,犬などの飼養と,クリスマスツリーや花弁などの生産),②ツーリズムおよびレクリ
エーション〈民指, BB,釣り,観光農業,農業博物館など),③ワークショップ(機械修理,ガ
レージづくり,繊維ガラス,自転車修理,庭園づくりなど),④契約事業(耕起,サイレージづく
り,糞尿処理,機械賞作業,畦切りなど),⑤直販(野菜販売,ホームベーカリー,タクシー,肥
料,持ち運び料理,ド…ナツ・ワゴンなど), @工芸(服飾,キルト,石垣など〕である。
92/93
年度に実施された 8
6の活動件数の内訳は,それぞれ3
7,1
9,1
6,1
3, 9, 6の各%となっ
ている。
22
教 育 学 部 紀 要 第6
9号
調査活動のもうひとつの焦点は女性問題で‘ある。農村における女性問題の重要性については,
すでに RAPの活動においても指摘されていたところである。 RDCでは,この問題を切らかにす
るために,アイルランド共和国にあるゴールウェイ大学の女性問題研究センターと協同で調査活
動を潤始した。
この調査では,農村における地域発展に果たす女性の役割を明かにすることを目的としている
が,同時にこの領域において女性の過小評舗があること,
,¥ 、かに女性の参加を改善するかという
ことについても解明しようとするものである。その活動は次の 3つの段階にわたって実施された。
第 l段階は,関連する専門家の参加によるセミナーである。ここでは予想どおり農村開発の過
程への女性の参加の少なさが指摘されたが,同時にそこにおける諸問題のより具体的な検討が必
要であることが確認された。第 2段階は,農村地域における女性問題についての文献の収集・出
版である。それは,北アイルランドの農村の女性問題を,連合王国とアイルランド共和国との比
9
9
3
年に発表された 3
5
)。第 3
段階は地域調査であ
較研究によって明らかにしようとするもので 1
り,農村社会発展のための組織への女性の参加の度合いとそれを規定する要因の解明が主要な目
的である。そのために,女性がみずからにかかわる地域社会発展の諸グ、ループをいかに感じてい
るか,アクセスするうえでの障害,女性差別の問題が調査項目の重要部分を占めている。調査地
5の選挙区, 4
0
0人に密接調査が行われた。
域は 1
調査活動の領域では,このほかに,小規模な地域社会企業のための情報・技術センターの設
立,さらに農村交通条件および小学校問題の調査などに取り組んでいる。これらの活動は情報活
動との協力によって展開されているものが多い。
最後に「情報活動」の領域としては,第 lに,広報活動がある。 RDCが出発して間もないこと
もあり,当初は,農村社会発展の意義と RDCの活動内容についてひろく知ってもらう必要があっ
た。そのためにさまざまな印刷物,ラジオ・テレど向けの活動がなされた。情報パック等も作ら
れ
, EC全体レベルでの交流活動もなされた。第 2~こ,諸会議・セミナーである。年間約70罷開催
され,関連する地域住民や職員が参加したが,それは同時にネットワーク化・組織化の活動でも
あった。第 3は,出版活動であり,会議・セミナーをはじめ調査活動結果などの出版が行われた。
第 4は,情報提供サービスである。農村地域社会発幾と RDCの活動において進行しつつあること
について,倍々のテーマを特集して,さらには地域からの費需・疑関に答えて,定期的・臨時的
な情報誌・紙を発行している。
4
.地域社会発展担当者 CDOの活動
4つの段階ー
以上のような RDCの活動はその後も続けられてきたが,現実の地域社会発展にどのように機能
しているかを考えた時に,とくに CDOの実裁が重要な意味をもってくる。そこで,その活動内容
9
9
4
年の 5月の時点の資料によって整理しておくことにしよう。
について,筆者が調査した 1
RDCの地域活動は地域社会発展,社会的排除への対応,経済的発展,社会的・インフラ的整
地域社会発展Jという視点からみるならば, 1
9
9
3
/
9
4
年度に援
備,環境改善に区分されている。 f
助活動を行った対象組織は 1
7
6,うち 8
8が新たに総織化されもの,訓練活動に参加した地域住民
0
1
0人で, 9
0の綴織で地域社会発展の計画化にかかわる活動がなされた。 f
社会的排除」の問題
は2
に対する活動としては,小零細経営のための援助と,女t性に対する訓練活動が中心である。「経済
的発展Jは地域社会企業および私的な企業活動の促進による濯照創造が最大の g的となっている o
f
社会的・インフラ的整備」では,前述の農村大学のほか,木工デザ、イン学校,セルフサービス
ヨーロッパ資金による農村湾生と「地域づくり教育Jの生成
2
3
的宿泊施設,地域社会センター,水道供給があがっている。「環境改善」では LEADER計躍など
にもとづく計画づくりの段階にある。
さて, CDOがかかわる地域諸組織・グループはきわめて多様で、ある。地域社会発展という説点
からそれらの活動を援助するといっても,それぞれのグループの発展段暗によって援劾の内容も
異なってこざるをえない。そこで, CSOとCDOはそれまでの経験をふまえて,とくに具体的な地
域社会発展に取り組んでいく以前の準備的な段階を重視して,地域社会発展の 4段階を考えてい
る。すなわち,
r
活性化 A
nimationJ,r
仕組みづくり
FormingS
t
r
u
c
t
u
r
e
J, けJ能形成 B
u
i
l
d
i
n
g
C
a
p
a
c
i
t
y
J,r
計画化 P
l
a
n
n
i
n
g
J である。これらはきわめて実銭的で,地域住民の学習過程をふま
えたものであるといえる。
それぞれの段捕に対する資金援助と CDOの活動の内訳を示せば, <表-1)のようである。資
金援助においても, CDOの活動の時開配分からいっても,計画化にいたる地域住民の学習過程を
重視していることがうかがえるであろう。
〈表一 1> RDC陣発担当者 (CDO) 活動段階別実績
1993/4
年度の実緩組織数、訓練は受講者、報告書等は本数
仕組みづくり
活性化
カ能形成
計画づくり
グ、ループ目標
1
2
4 会合組織化
2
1
5 訓練活動組織
3
7
5 評{極活動
5
4
意識高揚
2
4
2 会合運営
1
0
4 訓練機会提供
3
7
1 可能性検討
4
5
イベント
5
8 助言グループ
1
1
1 非公式訓練
2,
0
1
0 事業計磁
3
8
地域集会
1
1
3 結成組織
8
8 公式訓練
2
5
8 報
審
5
1
優良事例紹介
5
7 定款合意
7
1 資格取得者
1
5
1 戦略計爾審
1
9
新たな発展
9
1 組織登録
3
1
事業計幽議
2
0
CDO時間配分
事業費 80千ポンド
20%
£
ロ
t
エ
20%
27%
15%
8
0千ポンド
6
9千ポンド
1
0
9
千ポンド
(出所) RDC資料
「活性化j は地域課題を意識化し,地域住民が地域社会発展に取り組む意欲望ヒ育てようとする
活動である。課題別のグ、ルーフ。づくり,意識高揚のためのワークショップ,さまざまなメディア
を使ったイベント,地域集会の鰐催,優良モデルの展示などの活動がここに含まれる。この中で
も意識高揚のためのワークショップの件数が多いが,地域集会の多さも,その性格からして枝問
される。これらの活動によって,新たな地域社会発展の段階に進んだグ、ループは 9
1である。
「仕組みづくり j には,集会の組織化,運営,そしてグ、ループ援助が含まれる。その主要きな沼
的は,地域社会発展のための組織づくりであり,これらによって新たに組織化されたものが 88,
経織規約を作成したものが 7
1,法的に登録されたものが 3
1生まれた。
f
力能形成j における f
力能」には単なる技能形成だけでなく,関連する知識,アイデア,資
金獲得などの力能形成も含まれている。ここには,訪日練活動の組織化,あるいは詔!I練そのものの
提供が含まれる。その多様性に照応して,現在の制度では資格にかかわらないインフォーマルな
訓練が在倒的に多いが,資格取得につながる訪日練を受けたのは 258人,実擦に資格を取得したも
2
4
教 育 学 部 紀 要 第6
9号
のは 1
5
1人であった。
最後の「計画化」の活動は,組織活動の監変,地域社会発展の可能性吟味,企業活動計画が含
まれる。この活動をとおして,各グループはレポートを提出したり,戦略的計画をたてたり,企
業活動計画を策定したりすることになる。
年度において援助活動をした 1
7
6の地域組織・グループの特徴をみる
ここで, CDOが 1993/94
ならば,組織タイプ別には地縁的な地域組織が倒的に多く,全体の 8割近くを占める。機能的な
組織と地方ネットワーク組織は,それぞれ 1割を占めるのにすぎない。これは,なおトッフ。ダウン
的な機構である RDCが,地域に多様に存在するグ‘ループを捉え切れていないことを示している。
次いで組織の活動からみるならば,複合的なものが 45%と最も多い。これは, CDOがかかわっ
ている組織が圧倒的に地縁的組織であることを反映している。また,次に多いのが企業的組織の
22%であることは,統合的地域社会発展をめざしながら, RDCの最大の関心がどこにあったかを
示しているといえるが,農村の社会問題に対応した社会的活動が増加して 20%となっていること
も注目される。
さらに,既述の CDOの活動の発展段階を前提にして,地域社会発展の段階にそくして分類して
みるならば, ["仕組みづくり J と「力能形成 j にかかわる活動の段階にあるものが,それぞれ
35%,39%と圧倒的に多いことがわかる。これに対して,とくに教育的活動が必要となる,地域
1%と少ない。
住民の意識化にかかわる「活'性化j 段階のものは 1
以上のように, RDCはその統合的なアプローチにもとづいて,きわめて多様な活動に従事して
いるが,なおトップダウン的で,経済的活動が中心的関心であり,地域では地縁的組織を主な対
象とした活動となっている。ここに,より地域住民主体の,ボトムアップ的な総合的な地域社会
発展が求められているのである。
概述のように, RDCが生まれてくる過程で政策担当者(農業省〉によってもこのような課題は
意識されていたので、あり,それに対応、するものとして「農村地域社会ネットワーク (RCN)Jが設
立されていた。したがって,次のその活動の検討をしなければならない。
I
V
農 村 地 域 社 会 ネ ッ ト ワ ー ク (RCN)
1竺背景と毘的一「農村の声j のネットワークー
9
9
1年のことである。後援的な影響をあ
農村地域社会ネットワーク (RCN) が設立されたのは 1
たえたのは,既述の RAPの活動であった。 1989年にそのアクション・リサーチを終了した
RAPは,その活動を 1
6ヶ月延長して,農村の地域社会発展のための新しいアプローチを検討する
ことになった。とくに,農村の中でも社会的に不利益を得ている地域の必婆性にいかに応えるか
が重要な諜題とされた。
この課題を明らかにするために, RAPは9
0
年1
0月に,関連する広範な諸機関・組織に呼びかけ
て
, ["農村の参加」に関する会議を開催する。そこで提案されたのが,農村における地域行動を促
進するような組織,つまり「農村社会ネットワーク j である。参加者からは,次のような課題が
提起されている。
すなわち,①農村地域における地域運動の戸をまとめること,②農村地域の声を代表して,な
んらかの農村開発のためのセンター(これが RDCとなる〉に提言すること,③農村地域社会運動
の利益を擁護すること,④農村を基盤とする諸グ、ループが互いに連絡しあい,情報交換と行政対
応ができるような場をつくること,⑤地域諸グ、ループの情報交換と学び合いのためのフォーラム
ヨーロッパ資金による農村再生と「地域づくり教脊Jの生成
2
5
として活動すること,⑥農村の地域社会と制度的諸部門の情報交換を促進することである。
RCNの組織形態に関する要望は多様であり,従来の諸経織が新しい組織に吸い込まれてしまう
のではなし、かという警戒の意見も出されたが,基本的なコンセプトについては全体的な一致がみ
られた。そこでワーキング・グ、ループが組織され,翌9
1年の 2月にその検討結果が公表された。
それによれば,
r
R
CNは,北アイルランドの農村地域における貧掴と社会的不利益を救済し,農
村地域社会の生活の費を改良するような担い手の形成を援助するために設立される」という基本
的な認識のもと,以下のことが追求されるものとされているお}。
すなわち,①農村地域社会ネットワークを形成し,ネットワーク活動と地域社会諸グループお
よび関連諸組織の問のコミュニケーションを進めるような支援と情報提供,②限界的な農村地域
において不可欠な諸資源の再配震をするような諸政策の革新,③異なる利益をもっ諸グループ間
の対話と協同活動の促進,④社会に対し,そして地方と全国およびヨーロッパの脈絡において農
村地域社会と「ネットワーク j の利益を代表すること,⑤農村地域社会発展のすぐれた事例の調
査,それにかかわる情報の普及,諸プロジェクトの調査・推進,である。
この提案は, 1
9
9
1年 2月,農村社会の利義を代表するさまざまな綾織の代表が出席してロク
リー農業大学において開催された集会で確認され,
r
ネットワーク」の設立が参加者によって合
意された 37)。その際,この組織は地域にねざした独立したものであり,どの政党とも,どの宗教
的勢力ともかかわらないことが確認されている。
設立された RCNはすぐに組織化と資金獲得の活動に入る。そして 1992/93
年度には,その本格
的な活動が開始されるのである。 RCNはメンバー制度をとっており, 1993年 3月末には会員が
1
8
7となっているが,そのうちの63%にあたる 1
1
8が地域社会諸グ、ループである。このほかに,関
連盟体が4
0,個人が22,北アイルランド以外の会員が 7参加している。その収入約 4万ポンドの
うち, 58%は北アイルランド農業省からの助成であり,他にイギリスのガルペンキアン基金およ
びローントリ財団からあわせて 15%,北アイルランド・ボランタリー・トラストからが 10%であ
る。プロジェクト収入は11%,会費が 3 %,その他 2 %となっている。これに対して支出は,賞
金が55%,プログラム経費が32%で大半を占め,他は共通経費10%,その他 3 %となっている 3
8
)
。
RCNは1
9
9
3
年末に会員録を作成している。これによって,地域社会グ、ループに分類されている
1
1
8の会員について,活動内容にそって多い 1民番に整理してみれば,次のとおりである(重複あ
り)39)。最も多いのは「企業活動,雇用促進,仕事の創造j であり 68グループ,次いで地域社会関
係改善65,環境問題57,伝統・民族文化保存56,ツーリズム 54であり,これでよ位 5グ、ループを
占める。 6位から 1
0
伎は,高齢者問題52,地域発展計画50,青年活動47,教育訓練活動43,農村
問題キャンペーン37となっている。このあと地域諸施設設置運営,障害者福祉,農業多角化,住
宅問題,就学前児童グ、ループなどが続くが,女性グ、ループは34で膏年活動に比べても少なく,ょ
うやく 1
2
位に登場するということが注目される。しかし,全体としては各銀域間の格差は少な
く
, RCNがきわめて多様な活動をする農村のボランタリ一部門あるいは地域社会での活動を基盤
にして組織されていることがうかがえる。
RCNのこの時期の基本的な活動は,さらなる会員拡大とネットワーキングであった。それは北
アイルランドにとどまらず,連合主題とアイルランド共和国,さらにはヨ…ロッパ全体にひら
がっている。とくに「ヨーロッパ間農村ネットワーク TERNJ とのつながりは強いが,やはり
ネットワーク活動の中心は北アイルランドで,域内のネットワーク活動発展の援助を重硯してい
るo
2
6
教育学部紀聖書
第6
9
号
RCNはそのネットワーク活動を, I
地域ネットワーク j と「課題別ネットワーク jに区分してい
る。以下,それぞれの活動の状況をみておこう 40)。
2
. 地域ネットワーク
年度〉には f
オーマ・
地域ネットワーク形成の活動として RCNはとくに,第 l年次(1991/92
フォーラム j と「アントリム渓谷ネザトワーク Jの,第 2年次には「ストラパン地域社会ネット
ワーク」の形成・展開を援助している。これらの活動をふまえて第 3年次以降は,それらを横に
つなげる活動が取り組まれるようになってきている。
また, RCNの活動は北アイルランドのみならずイギリス全体, EU全体に及んでいる。ブ
リュッセルに事務局をもっ「ヨーロッパ関農村地域社会ネ
γ
トワーク (TERN)Jには,北アイル
ランドの RCNから副議長を送っている。 T耳RNで、はポルトガノレやアイルランド共和国でも研究集
会を開催し,撃の根の地域社会発展とヨーロッパ委員会とのフィードパックに重要な役割を果た
している。また,これらの活動をとおして,スコットランド,ウェーノレズ,イングランドおよび
北アイルランドの農村ネットワーク組織は粉互に交流しあい,協力して f
ヨーロッパ構造資金j
獲得のための申請をしている。
ここでは,初期の活動の典型例として,
r
オーマ農村協議会フォーラム Jと f
ストラパン地域社
会ネットワーク j をみる。
1) r
オーマ農村協議会フォーラム j
まず「オーマ農村協議会フォーラム (OFRA)J が RCNと協力して 1
9
9
1年 1
2
月に開催した研究
集会ごと「農村地域社会発展j を紹介しておこう 41)。オーマ・レジャーセンターで、開催されたこの
集会には,主催者とオーマ地方行政委員会,北アイルランド・ボランタリー・トラスト,アイル
ランド共和鴎・レターケニーのグ、ループ。代表のほか,郡内の 3
0のグループから 6
0名の参加があっ
た
。
集会の目的は,① OFRAと RCNが当閣する基本的な諜題の解明,②統合的農村開発の新しい
仕組みについての情報提供,③これらの農村地域社会グ、ループに対する影響の批判的吟味,③
オーマ地域と地域社会グ、ループがかかえている必要性についての考察,④地域社会発展・経済発
展・地域社会関係改善活動に対する地域諸グ、ループの対応の検討,⑤地域グループに求められて
いる技能と資源の解明,⑥オーマの農村地域致策についての討論,⑦地域諜題の北アイルランド
・イギリス・ヨーロッパの脈絡への位置づけ,@地域諸グ、ループの技能発揮と専門的力量交換の
場の提供,である。
報告がなさ
この集会ではまず,具体的な事例をとおして学び合うことが重視され, 4つの事例j
れている。その概要は次のようなものであった。
第 1に
,
r
クロープィン地域社会協議会j である。この地域には社会的・文化的活動を含めた,
9
8
7
年にこの協議会が設立されるまではそれらを結び
さまざまな分散的な地域活動があったが, 1
つけるような組織はなかった。協議会は,その最大の要閣は交通問題であったと雷う。
協議会が最初に取り組んだのは,とくに女性や子どものために特別な施設をつくることであ
り,それにあわせて,文化的・芸術的活動をしている地域の人々が交流しあえるような場所と機
会を提供することである。協議会が利用している施設は水道もトイレもキッチンもなく,そうし
た活動をするのには不適切である。協議会はそこで,地域で適切な施設を探すと興特に,新しく
ヨーロッパ資金による農村蒋生と「地域づくり教育j の生成
2
7
地域活動のための施設を建設するために諸機関に働きかけている。報告の最後には,地域で活動
している若い音楽家グ、ループの演奏があり,同時に集会で展示されている諸作品が紹介され,そ
れらを発展させるための条件整備が必要なことが訴えられた。
第 2に,スパーリン山脈の中にある「ゴーティン村協議会」である。 2年官官から活動している
が,オーマ地方行政委員会が!日ユース・ホステルを提供してくれたので施設的条件はよい。協議
会で重視しているのはアウトリーチ・クラスであり,高齢者時題,地域史研究会,プレイ・グ
ループの活動などに取り組んでいる。
プレイ・グループは子どもたちの交流をさかんにし,地域史研究会は学んだことを本にして出
版することに取り組み,地域の倍統に対する誇りと活動に対する自信を深めている。高齢者問題
部会はミニパスをもっていて,高齢者が二週間に一回地域センターで昼食会を聞いたり,健康セ
ンターなどに通う際の援効活動をしている。
, 1
8
年間という最も長い活動歴をもっ f
オーエンキリュ一発展協議会Jでるる。住宅,
第 3は
水道・電気などの社会的条件の改善に取り組んできたが,最近重視しているのはとくに道路の問
題である。それは日常的な生活のみならず,他地箆からの訪関者や,地域住民の雇用問題にとっ
ても重要なものであると位置づけられている。
過疎化を食い止めるものとして取り組まれているのが,地域の自然環境を利用したツーリズム
である。オーマ地方行政委員会は,レクリエーション施設の目的のために 7エーカーを地域に提
供した。これを利用して協議会では,会議室とレクリエ…ション施設をつくり,さらにセミナー
や学級,カヌーや丘陵数策などのレクリエション・グ、ループなどの活動の拠点にしようとしてい
る。また,近接の金鉱跡を利帰して,迷路やスポーツ施設などの家族レクリニ£ーション活動,パ
ンガローなどの宿泊ツーリズム施設などを含めて,スパーワン山脈へのツーリストのための総合
的な計画を策定しつつある。それまでで,カヌー,散策だけでなく写真,絵画,バード・ウォッ
チング,サイクリングなどの条件に恵まれていることが確認されているが,加えて乗馬施設の検
討もなされている。
さらに,近隣の他の地域グ、ループとの連携をとり,相互の個性を確認しあいながらも,スパー
リン地域全体のツーリズムの対策を検討している。この「協調的アプローチ j によって,それぞ
れの地域社会発援を促進し,コストの上でもより効果的なツーリズムを提供できることが予想さ
れている。これらの計離の具体的展開のために,
LEADERや I
F
Iの資金獲得にむけた準備がなさ
れつつある。
第 4は
, 1
9
7
2
年に設立され,社会的・文化的活動を中心にしてきた f
クレガン地域社会協議
会j である。辺境的な地域の活性化にむけて「何かをなすj ために,まずフットボール・チーム
をつくることからはじまった。これは短命に終わったが,このためにつくったグランドに多様な
スポーツ施設を建設することが検討された。
7
3
年に協議会は地域課題の調査・整理を行い,そこから浮かびあがった学習・文化要求に応え
るために,まず夜間クラスを開設し,アイルランド語や予言式ダ、ンスの教室をはじめた。さらに青
年クラブの設立を援助し,地域の文化的・芸術的能力をもった人々を発掘・育成し,彼らのため
の発表の場を提供した。 7
9
年には,これらの活動のための施設会新築した。 8
2
年からは,高齢者
と子どものための活動をはじめ,ノミス旅行や各種イベント活動を行っている。例年からは雇用問
地域行動計画
題に取り組み,みずから f
(
A
C
E
)
Jにもとづいた労働者の雇用をはじめている。
以上のような活動から総合的な発展戦略が必要となり, 8
6
年には 1
0
遡の「農村発展j 講座を関
2
8
教 育 学 部 紀 要 第6
9号
設したが, 4
0人の地域住民が参加している。そこから生まれてきた開発戦略を主主体化するために
設立されたのが,
r
中央アルスター企業活動有限会社Jである。協議会が文化的・社会的活動を中
心にして地域社会の総合的な発展をめざすのに対して,この地域企業はツーリズム,農業多角
化,小企業育成などの経済的発展を軸にした括動を展開することが目的である。 8
8
年から 8
9
年に
かけては,他地区の事例の研究を重ね,会社の将来計画策定のための検討を行った。協議会のメ
ンバーがアルスター大学マギー・カレッジの構外教育コースに参加したり,コンサルタントも導
F
Iは地域社会センターの増改築
入したりした。こうした活動に対して叶ヒ方協同 j は奨励金を, I
のための資金を提供した。
地域社会センターで行われている活動としては,プレイ・グループ「自兎 Jの活動(アウト
リーチ活動,域外研修活動を含む)と,
れている。とくに後者については,
r
クレガン女性クツレープ」の学習・文化活動の紹介がなさ
r
オーマ継続教育カレッジ」との協同,カレッジによる多様な
クラス(自己信頼の獲得や,綴織運営技能の形成を含む〉の提供の重要な投輔が強調された。
以上の事例報告のあと, 3つのグ、ルーフ守こ分かれたワークショップが開催された。共通のテー
マは自分たちの地域とグループが抱えている最も重要な課題は何かということである。この点に
関してはあらかじめ,参加者に対するアンケ…トがなされている。回答が多い順番にあげれば,
地域課題については,地域計画(住宅,道路,環境など),経済的開発,社会的不利益層への対
応,地域社会サービスのI
J
際になっており,グ、ループの課題については,助言・情報,地域社会参
加,グ、ループ活動,職員訓練,技能訓練,目的設定,地域調査があげられている。ワークショッ
プではこれらをめぐって多様な意見がかわされたが,全体のまとめでは, RCNとオーマ・フォー
ラムが諸資源,知識,支接体制などについてより精細な調査を行い,その結果をできるかぎり
く各グ、ループに提供すること,さらに各グ、ル…プがその発展の方向,なすべきこと,担い手形
成,特定の問題についての連携などについて意志決定をし,兵体的な活動を進めるための力量形
成をする援助活動を燥関すること,が確認されている。
この集会のひとつの特徴は,各グ、ループが自己紹介と稲互交流をするための展示やノ号ブォーマ
ンスが多様に展開されたことである。それは音楽,美術・工芸作品,写真,学習成果発表からコ
ンピュータ…技能のデモンストレーションまで含むものであった。
また,参加した諸機関代表とくに RDCのディレクターである J.アームストロング、との対話・
質疑誌答がなされている。そこでは RDC設立の背景,組織と機能, LEADER計画とのかかわ
り,農業多角化計画,地域計画づくり,発展戦略,開発担当者の役割,オ…マ農村協議会フォー
ラムとの関係などが説明され,質騒がなされている。
集会のまとめにおいては,北西地域社会発展研究所の M. リ…トーがクツレープ管理,クレガン地
.マッカザ…アが教育活動,北アイルランド・ボランタリー・トラストの担.
域社会協議会の c
7
レイが資金獲得,間じく P. スウィーニィが今後の課題について報告している。このうちマッ
カリーアの報告は,実践家の立場と経験から,農村社会発展にかかわる地域社会教育 Community
E
d
u
c
a
t
i
o
nの基本的課題は地域住民の f
主体的力量形成 empowermentJ にあることを主張してい
るものとして住目される。その内容は以下のようである。
地域社会教育は社会変革にかかわるものであり,人々が自分自身の教育に参加するものである
と考える。それは人々が客体ではなく,自分自身の状況宏コントロールすることを要求する。そ
れはまた人々が提供すべきなにものかを,そして技能的力量をもっているものとして対応し,彼
らの専門的力量,学習意欲,経験,文化および地域の人々についての見解を評傭し,人々が質問
2
9
ヨーロッパ資金による農村再生と「地域づくり教育j の生成
することを勇気づけるーしばしば権力をもっている人々を恐れているから。地域社会教育は,
人々が自分自身の状況を吟味し,人々と資金および専門性など現存する諸資源を活用して前進す
ることを可能にしながら,地域諸組織の目的を発展させる。諸グ、ループはなぜ、自分たちがそこに
いて,自分たちの
a
的は何か,そしていかにメンバーを拡大し,資金獲得をするかを検討するこ
とからはじまる。諸グ、ル…プは,財政的管理,新技術,評価などとともにグ、ループ内の対立を克
DCをとおして,ネット
服する仕方を学ぶ必要がある。地域社会教育はオ-"7・フォーラムや R
ワーキングをし,他の経験から学び,講座を開設したり,大学や WEAあるいは継続教育カレッ
ジなどの機会を利用することをとおして発展することができる。こうした結論に加えてマッカ
ワーアは,最近地域社会発展にかかわってきている女性にとくに留意するべきことを強調してい
る
。
以上のような研究集会をとおして,次のような結論と提言がなされている。①広く位置づけら
れた地域社会発展について,オーマ地区でより広範な理解と支援,そして適切な資源提供がなさ
れるべきである。②LEADER~こもとづく職員を雇用して,フォーラムのもっている可能性を発展
させなければならない。③フォーラムは
地域社会教育,成人教育・訓練活動を推進しなければ
ならない。④農村地域社会発展における女性の投割の重要性が態解されるべきであり,女性に問
手まな必要性が明らかにされなければならない。@麗用問題はオーマの農村社会においてとく
要な問題であり,長期的な戦略にもとづいた創造的で地域に根ざした担い手が求められている。
2) r
ストラバン地域社会ネットワーク j
次に「ストラパン地域社会ネットワーク (
SCN)J の設立の直接的契機となった会議
r
ストラ
パン地域社会ネットワーク J について紹介しておこう 42)。
ストラパンは北アイルランドの中でも最も失業率が高い農村地域である。 1
9
8
0
年代末葉以降,
ここで、活動する地域諸グ、ループの関では,彼らが協力しあい,会問や権利剥奪の開題について検
討するための独立したフォーラムが必要であることが語られてきた。 RCNの創立に引き続くオ7
・フォーラムの結成に刺激され,ストラパン地方行政委員会と RCNの支援のもと,そのための
運営委員会が組織されたのは 1
9
9
2
年の夏のことである。彼らは地域グ、ループとボランタリー組織
が集まり,優先すべき地域課題について議論し,
r
ストラパン地域社会ネットワーク Jを創立する
ような会議を構想する。この会議は RCNとRDC,ストラパン地方行政委員会,北アイルランド・
ボランタリ…・トラストが後援することになった。
運営委員会の議論をとおして,会議は基本的な地域課題として整理された地域社会ツーリズ
ム,農業多角化,ヨーロッパ資金獲得,ストラパン地域社会発展のためのネットワーク設立とい
う4つのテー?に関する報告と討論,それらについてのワークショップ,そして全体討論という
構成で開催されることになった。この会議は, 1
9
9
2
年秋, 8
7名の参加で実施された。
まず各テーマについて 2
0分づつの報告があった。第 lの「地域社会ツ…ザズム:新しい課題j
について報告したのは,指了や郡で計画担当者として活躍し,北アイルランド・ツーリスト委員会
でも仕事をしたことのある L. ブラウンである。彼女は,地域社会ツーリズムを考える擦に,ま
ずツーリズムとは単に地域の蒔品やサービスを提供することではなく,消費者にとっては家を離
れてから戻るまでの一連の「行動Jであることをふまえる必要があるという。その上で,伝統的
なツーリズムと異なる地域社会ツーリズムは,
r
持続的ツーリズム」をめざすものであり,地域諸
最適化」を行い,訪問者との個人的なかかわりを重視し,地域生産物を
資源の極大化ではなく f
教 育 学 部 紀 要 第6
9
号
0
3
利用し,特定の地域の環境と文化的・膝史的信統に興味をもってもらい,理解してもらうような
ものでなければならないことを強調する。
検討すべき課題としては,第 1に,ツーリズムを地域社会発践と切り離して考えるのではな
く,地域社会の主体的力量を強化すると L、う脈絡の中で位置づけるということ,第 2に,主導的
な役離を果たすべき地域社会の毘的と,効果的なツ…リズムを発展させるべき制度的諸機関の活
動との調整,第 3に,ツーリズム発展の基準を誰がどのように建てるかと L、う問題,第 4に,性
格が異なる都市と農村のツーリズムの調整・連携の課題が指摘されている。
第 2の報告之江「農業多角化」は,
RDCの調査担当者である T
.ホブソンによってなされた。小
零細農業が他分野での麗用が期待できないよ童階地に展開されている北アイルランドでは,農家の
所得をあげる方法は多角化しかないと理解されている。しかし,農業多角化も大規模経営の方が
取り組みやすい。北アイルランドで多角化に取り組んでトいる農業経営は全体の 8%にすぎない。
2
0の農家の事例を検討して,ホブソン
既述の RDCの農業多角化のプロジェクトで,参加した 1
は次のような助言をしている。すなわち,他をまねるのではなく自分自身の技能と農場の資額の
中に企業機会を探ること,最初から市場を目指したものに取り組むこと,恐れずに新しい食業活
動に挑戦すること,開様な活動をしている企業を研究訪問すること,計画をしっかり建てて活動
したことの記録をとること,現代的企業活動の技能をみがく訓練活動に参加すること,そしてあ
せらずじっくり取り組むこと,などである。
第 3は
,
r
ヨーロッパにおける北アイルランド・センター j の報告で,ベルファストにある北ア
イルランド・センターの副ディレクターの J. ~ゴワンの担当である。彼は,設置されて聞もな
い北アイルランド・センターの自的と機能,そして各ヨーロッパ資金の最近の動向についての説
明をおこなった。
関連して,
r
最近のヨーロッパの考え方」で,ヨーロッパ委員会で「目的第 1地域」としての南
北アイルランドの担当である J. ローフィードのメッセージがあった。とくに,諸ヨ…ロッパ資
金は基本的にトップ夕、、ウンのものであるが,あくまで地域社会の必要に応じて提供されるもので
あること,菌や地方レベルの資金とあわせて有効性があることが強謂されている。
最後の報告は,
r
ストラパン・ネットワークと R
C
N
J と題するもので, RCNのディレクターで
ある N. フィッツダ、フによってなされた。彼は,
RAP以来の農村行動の歴史と RCN設立の背
最,その目的と総織の概要,地域ネットワークと政策的発展の諸活動について述べたのちに,こ
の会議さ当日に発足した S
CNの歴史的意義を強調した。農村の発展が地域社会を基盤にしてこそ現
実性があるとしたら,
SCNの発足はストラノミン地域のみならず,北アイルランド全体にとっても
その塁税表となるということである。
CNの当謝する役割,②スト
以上の報告にもとづくワークショップは,①各グループ。からみた S
ラパン地域で取り組まれるべきプロジェクト,③ネットワークにとっての中心的地域課題,④各
グ、ループがなすべきこと,の 4つ点、を共通に明らかにすべきこととして確認しあったのちに潤始
されている。それぞれにかかわる主な議論を紹介すれば以下のようである。
地域社会ツーリズムに関する第 1のワークシ
3
'yプでは,
C
D
S
C
Nは,とくに北アイルランド・
ツーリスト委員会に対する「農村の戸」を代表するプレッシャー・グループとして活動,②
SCNは,データベースを作成すると同時に,しばしば重醸し瀧乱している関連情報を,小さな地
域グ、ループにもわかるようなかたちに整躍して情報提供すること,③諸グループ自身がもってい
る情報と知識を学び応えるようにすること,たとえば環境問題と漁業権の調整,④地域にねざす
詔一ロッパ資金による農村手写生と「地域づくり教育Jの生成
31
知識,意欲,経験を大切にすること,があげられている。
農業多角化に関するワークショップでは,①資金がコンサルタントなどに使われて現場まで降
りてこないこと,②外部の考え方ではなく自分たちのアイデアを発燥させる必要,③訓練活動に
おいて各地域・各経営での経験を重規し,そうした視点を発展させるような助言が必要であるこ
と,④務疑心から,知識や情報を自分だけのものにしようとするような考え方をやめること,な
どが議論された。
ヨーロッパ資金に関しては,その実態がまだよくわからないということで,このワークショッ
フ。に参加したローフィールド氏から ,E
Cの諸計画の仕組み,とくに関連する LEADERと
INTERREGについてのより詳しい説明を受け,それに対する質疑に多くの時間をとることに
CNがボトムアップ的接近方法をとりながら, ,¥ 、かにヨーロッ
なった。その後の議論の中心は, S
パ段階の情報提供を適切になしうるかということであった。
農村開発に関するワークショップでは,まずこのテーマが他のテー?をも含む総合的な課題
で,しかもそれをボトムアップ。的視点で検討しなければならないことが確認されている。次い
で,基本的な問題として,家族の継続'性が失われてきていること,地域社会の社会的施設,とく
に高齢者と青年むけの施設の必要性などの開題が議論された。
SCNの戦略については,いまだ時
期尚早で、,一緒にあつまって議論するための時間が必要であるという意見が出されている。
最後のプログラムは全体討論である。それは,地域社会発展にはたす女性の役都,とくに,と
もすれば保守的になりがちな農村地域社会組織の中で創造的・革新的な活動を促進しようとする
時の女性の活動の意義についての議論からはじまった。引き続いて多様な議論がなされている
が,それらは①新しい考え方を生み出す擦の援助の不足,②ボランティア組織が鵠度的資金を獲
得しようとする際の器難,③漁業経営とツーリズムとの調整の課題,④農村地域社会における
少年の教育の必要を性の再評価,などである。
討論の最後に,
SCNはこの会議のように,地方行政機関や RCNなどとのパートナーシップのも
舞台
と,地域課題を自由に議論し,各グ、ループの経験と専門性を交流しあえるような f
p
l
a
t
f
o
r
m
J を提供することが大切であるということが確認されている。ネットワーク活動から
「地域集会Jへの発展方向が明確になったものとして住目されるが,すでに各ネットワークで取
会議j が実質的に,地域課題を明らかにするための「公論の場」を形成する
り組まれている f
f
地域集会Jとなっているといえるであろう 43)。
また,残された課題として地域総織の組織的発展の支援のあり方,諸プロジェクトや資金に関
する情報提供のあり方が指摘された。
3
.課題期jネ'"トワーク
RCNの活動において,地域ネットワークと並んで位置づけられているのが課題別ネットワーク
である。ここでは典型例として「健康ネットワーク j と「女性問題グ、ループJをとりあげるが,
これらのほかに,住宅問題,農村計画 44) 教育関題(とくに小規模校問題)45),ツーリズム,交通
問題,環境問題がある 46)。
1) r
健康ネットワーク J
課題別ネットワークとして,住宅問題,農村計画および教育問題の次に,第 4のテ…?として
取り組んだのが,健康サービスの問題である。既述のように,地域ネットワークでも女性関題
32
教脊学官官紀要
9努
第6
ネットワークでも,健康問題は重要なテーマであった。しかし,このネットワークが形成された
のは,より受動的な理由からである。つまり,サッチャ…政権の新自由主義的社会サービス制度
改革(その理念は「患者の力量形成j と「ケアの質的向上J
)による農村の病院,とくに産婦人科
の廃止あるいはサービス低下が引き起こされたことが契機となっている。
農村地域の諸グルーフ。から,健康サ…ピス改革に対する不満,怒り,あるいは懐疑と混乱,他
方では期待までが表明された。これに対応して RCNでは,この問題についての学習のための会議
9
9
3
年に潤かれたこの会議には,関心をもっ地域諸グ、ル…プと関連機
を開催することになった。 1
関から 8
0
名の参加があり, RCNからの経過説明ののち,政府担当者による改革についての説明,
医師やソーシャル・ワーカーの意見,イギリスやアイルランド共和留での経験,利用者の見解に
ついての報告があり,次いで 4つのテ…?に分かれたワークショップ,オープンフォーラムなど
がもたれている。
そこでは,とくに社会的不利益地域において「農村的擾先権 r
u
r
a
lp
r
e
m
i
u
m
Jが認められるべき
ことが強調された。しかし,会議の目的はあくまでも,制度改革の実態と農村で何がおこってい
るかを学習することである。以下,この会議の概要をみておこう (7)。
まず全閣健康サーピス CNHS) の北アイルランド担当者からの改革について,その背景,主な
特徴,新社会サービス・トラスト,今後の活動予定についての説明,引き続いて,各地域での行
政活動について担当者の説明があった。彼らはこの改革によって農村地域は利益を受けるであろ
うことを強調した。
次に, 2人のソーシャル・ワーカーと l人の地域医療担当者から,彼・彼女らの実践からの開
題提起がなされた。焦点は地域ケアをし、かに考えるかということであり,地域グループがもって
いる健康サービスに関する「哲学」も含めて,地域グループの参加の実態を把握すること,他方
でサービスを必要とする人々を明確にすること,サ…ビ‘スへのアクセスとくに交通手段の問題,
分野を超えた総合的対応の必要性,地域社会での絞験と必要を共有すること,実践者たちが地域
社会から学ぶことが重要であることなどが指摘された。
利用者からの発言としては,まず,未熟児を出産した若い母親から,みず、からの経験と地域で
の調査から,近隣の病院閉鎖は死活の開題であり,速くの病院に行くことは時間と費用,さらに
家族からの菰立という点においても我穫ができないものであること,それは「患者憲章j に照ら
3人もの子どもをもった農家の主婦がたち,病気
しても納得できないことが指摘された。次に, 1
やけがのときに早期に対応することの重要性,教育活動をとくに学留機会を得ることが掴難な
人々に対して行うべきこと,地域住民の知恵から学び,ケアの困難さを理解することの大切さを
述べた。
ワークショップでは,健康サービス改革への怒りを含めて,多様な意見がだされているが,次
地域社会ケア c
ommunityc
a
r
e
Jを進めるために侭がで、きるかという点に議論が集中してい
第に f
る。そこでは,地域内部および地域間のネットワーク,専門家・地域社会・ケア担当者・利用者
主体的力量
の教育と訓練,関連諸機関と諸グ、ループの活動の調整の重要性が指捕された。また, I
形成J
,I
選択とアクセス J
,I
参加と責任j がキ…ワードとなって,それらは利用者が f
健康の権
自分自身の健康管理へのより大きな統制j を実現することによって獲得されるものであ
利」と f
ること,それはひとつの学習過程であるとまとめられている。
ここにきて,農村医療サービスの合理化を契機とする問題の意識化からはじまった健康ネット
健康学習
ワークが, I
/
8
)へと発展しようとしていることがわかるであろう。この「健康学習Jを
ヨーロッパ資金による農村再生と「地域づくり教育j の生成
3
3
くぐってはじめて,地域住民の健康という視点からの地域社会発展の方向が明確になってくるも
のと考えられる。
2) r
女性問題研究グループ J
既述のように, RCNはその最初の段階で,農村地域における女性の地位に関する調資活動をし
9
9
3
年,ひとつの研究プロジェクトがはじまる。女t性問題の重要性に
ている。その延長線上に, 1
もかかわらず,それが制度的諸機関において十分に理解されていないと考えたからである。
この研究は, RCNの女性問題小委員会によるアクション・リサーチとして展開され,関連グ
ループ代表からなる実行委員会が結成された。実行委員会は,北アイルランドの各都 3合計 1
8の
半構造的」に綾織化された,インフォーマルな面接調査を実施した。
調査対象グ、ループを選び, I
それは調査される側にとっても,調査する側にとっても重要な学習の「過程j であると考えられ
ている。こうした実践をとおして,農村における多くの女性グループを掘り起こし,それらの役
割,活動のための機会の有無,発展の可能性などを明らかにしたのである。ここから多様な関連
諸グループ・組織のネットワーク活動がはじまった。また,この調査研究成果をもとにしたセミ
ナーが,女性関題研究グループによって開僚されている。
以下,この研究プロジェクトで明らかになったことを結介しておこう 49)。
まず第 lに,調まま対象となったグループの特徴である。規約をもっているものは少ないが,各
独立のグ、ループJ と考えている。ここ 3年ほどに結成されたものが大半
クーループは自分たちを f
であり,こうした自由なグ、ループ活動が最近の特徴であることがわかる。地域センタ…や青年セ
ンターなどの f
中立的施設j を利用して定期的に会合をもっているものが多いが,教会などを利
中立的施設j も,育児施設やキッチンなどの設
用しなければならない場合には活動も制限され, I
備がないことが多い。
メンパーは 5名から 4
0名の範闘で,年齢は2
0
代後半から 4
0代までで,より若い女性の組織化が
課題とされている。カトリックとプロテスタントの両コミュニティにまたがるものや,国境を越
すべての人に開かれているん運営資金
えたものもあり,少なくとも形式的にはどのグループも f
としては,会費と地域社会からの援助のほか,ほとんどが多様な制度的・ボランティア的資金の
援助を受けているが,農村女性向けの中核的なファンドはなく,資金不足で活動が制約されてい
ることを問題点としてあげるグ、ループが多い。
第 2に,ク、、ループ設立動機と設立にあたっての開題点である。注到すべきことは,ほとんどの
グ、ループが活動の前史をもっているということである。地域史研究グループ, RAP,WEAのク
ラスなどから女性自身による活動に取り組むというかたちで、生まれ,子育て,健康教育,地域社
会関係改善,さらには農村の女性の孤立に対応する活動としてはじまっている。当初の活動にお
ける問題点としてあげられているのは, I
中立的な場Jの欠落,資金不足,グループ活動の緩験不
足,それにかかわるグ、ループ運営技術の欠落である。
第 3に,活動内容である。健康,子育て,縫製,工芸,おしゃべりクラブ,料理,女性問題,
個人的発展,福祉権などについてのコースを開催するものが多いが,地域づくりに女性が参加す
るとし寸最近の動向を反映して,継続的ツーザズム,農業多角化,学校での環境教育などの実践
に取り組むグ、ルーフ。が増えてきている。こうして多くのグループがみずからの活動が地域におけ
る社会的継続性や地域アイデンティティの形成,地域社会の他グループの援助,コミュニケー
ション,地域社会環係改善などの活動によって地域社会に貢献していると考えている。しかし,
3
4
教 育 学 部 紀 要 第6
9
号
それ以上に,グ、ループ活動をとおして自己信頼,自己評価が高まり,自分たちの生活に対する
任惑が増大したということをあげるグループが多いことが注目される。
最後に,問題点と課題である。問題点としてあげられているものを臓にあげれば,育鬼体制と
施設,成人教育,自信獲得,農村女性の動機づけ,交通問題,カウンセリング,雇用のための技
能形成,仕事づくりである。これらの中に,成人教育があげられているのは,対象としたグ、ルー
プの構成員の多数を占める 3
0
代
, 4
0代の女性の大半がなんらの資格ももっていないという事情が
ある。関連する課題としてあげられているのは,コースなどの開催時期,資格付与,費用負担,
育児施設,コース内容である。
披女たちの経験から,自信獲得を重要な課題としてあげていることは注目される。ここから
「自己信頼」のためのコースに対する強い要求がだされている。動機づけの開題でも,この f自
己信頼j の形成を重視すべきであるとされている問。カウンセリングは,とくに農村女性が離婚,
死別,出産後の精神不安定などの「危機」におちいった際の支援体制が欠落しているというとこ
らから生まれてくる要求である。
以上のような問題点と課題から,女4性クツレープを支援するために必要なこととして,次の 5つ
があげられている。すなわち, I
女性支援労働者J
,グ‘ループ活動のための f
地域労働者J,訓練活
動,ネットワーキング,地域社会での女性グループ活動の理解である。農村での女性活動を援助
するためのニ種類の専門的労働者の必要性が強調されていることが注 gされよう。
4
. 評備と課題
1
9
9
4
年になって RCNは
, 9
7
年までの新しい発展戦略を検討している。そこでは, RCNの当初
の目標と任務を再確認しながら,ネットワークを北アイルランド全域に進めること,農村社会の
食間と社会的不利益,地域社会発展の陪題について政策的提言をしていくことを強調している。
これまでの経験をふまえて,その活動は農村問題の覚醒,情報活動,参加,コンサルタントか
。
)
1
ら,省祭,組織革新,主体的力量形成にまで及ぶものとされている 5
ここでは,
RAPのディレクターであった A. キルマレイの評価をみておこう。彼女は,これま
での RCNの活動を評価するコンサルタントを依頼されている。 RCNの 1
9の会員に対するアン
ケート結果を分析したのちにキルマレイは,およそ次のように言う 5
2
)
。
RCNがこれまでにないユニ…クかつ独立した会員制の総織として活動してきたことは高く評
価できる。しかし,ネットワーク組織としての d性格についてはより明確にされなければならない
であろう。ひとつは叉DCとの関係であり,しばしばその活動が重醸していたり, RDCの下請けの
ような印象をうける場合もあった。もうひとつは,メンパーのネットワーク絞織,とくに地域
ネットワークとの関係である。同じネットワーク組織でありながら郡レベルで活動する地域ネッ
トワークと北アイルランドないしヨーロッパ段階で活動する RCNとの区別と関連が関われるで
あろう。
「参加型構造j をとるネットワーク組織の実質的な意味がこれから関われるようになろうが,
その際,その地理的な活動範囲,地域聞のパランス,不利益地域の声の反映,宗教的および性別
な構成に艶躍しなければならない。
また RCNが発展させてきたコンセプトと方法論をより明確にして,制度的諸機関と地域諸グ
ループ・総織に周知させる必要がある。もちろん,ネットワークに闘有な方法論と適切な評価シ
ステムの確立については,今後明らかにしなければならない課題が多い。これらをふまえて,中
ヨーロッパ資金による農村再生と「地域づくり教育Jの生成
3う
心的な資金を獲得することも依然として緊要な課題となっている。
最後に,以上のことを実践的に明確にし実現するためにも,
r
ニュ…スレター」を充実させ活用
する必要があろう。それは,メンバーと関連諸組織の対話の場であり,ネットワークとパート
ナーシップを発展させるための手段として位置づけられる。
以上のようなキルマレイの指摘は RCNの基本的な詞題点をついているといえるが,より長期
的には,
r
ネットワーク j という活動だけで,
RCNの 8的とすることが実現できるかどうかも検
討されなければならないであろう。また,われわれにとっては, RCNの活動,より広くは農村に
おける地域社会発展の活動がもっている教育・学習的意義の解明が重要な課題となるが,この点
については,次章でとりあげる INTERREGのプロジェクトの内容によって検討することにしよ
う
。
V
農 村 開 発 再 生 プ ロ ジ ェ ク ト (RDRP) と地域社会教育実銭 -INTERREG-
1.プロジェクトと訓練開発担当者 (TDO) の位鐘づけ
農村再生,地域社会発展そして教育訓練は,相互にからみあったひとつの複雑な過程であり,
そこにおける成人教育は,社会的・経済的・文化的な発展計画に統合されることによって,地域
社会の全体的な発展に役立つ。このような基本的な理解のもと,
r
農村開発再生プロジェクト
(RDRP)J は 1
9
9
3
年のはじめから 9
4
年の 6月までの 1
8ヶ月聞にわたって展関された。
プロジェクトの責任者はアルスタ…大学教授のトム・ラベットで,さらに 2人の副責任者がお
かれている。プ口ジェクトを具体的に進めるのは,
r
調査担当
(RO)J のどーター・マックナミー
F
E
)カ
である。特徴的なことは,これらのほかに,北アイランドを 5つに区分した「継続教育 (
レッジ J
5
3
)をベースにして 5人の「訓練開発担当者 C
TDO)J をおき,
r
農村開発協会 RDCJ とそ
の開発担当者との協力のもとで,フィールド・ワークを展開しようとしていることである。いず
れも成人教育のすぐれた経験をもち,公募と推薦によって採用されている。
RDRPはアクション・ワサーチ的手法をとるがゆえに,最初の 1
2ヶ月のフィールド・ワークで
得た知見,とくに問題の所在,参加者の関心と関難,農村再建活動における教育訓練の役割など
についての『中間報告
l
4
)をまとめている。参加者はもちろん,関連諸機関との対話と議論を進め
l
5
)は1995年 3月にできあがっている。
るためで、ある。『最終報告
このプロジェクトは,
r
参与型の仕組みをもち,計画志向的で,発展的かつアウトリーチ的なア
プローチをとって,地域の必要にみあい,地域の要求を理解することに甑慮する
/
6
)とされてい
る。そこには,定型的で構造的な教育訓練は,他の方法を排除して,それだけで農村の諸グル
プに翻有な必要に応じようとすることはできないという理解がある。
それゆえ,アウトリーチ活動を展開する TDOの役割はきわめて重要なものとなる。そこでは,
プ口ジェクトにどれだけの人々が参加するかということと同時に,
r
評価
a
s
s
e
s
m
e
n
ta
n
d
e
v
a
l
u
a
t
i
o
n
Jが重要な意味をもっ。地域社会の諸グループの活動に対する教育訓練の影響,成人教
・地域社会教育・継続教育の諸組織において必要な変化,そして諸グル…プの必要にみあうよ
うな仕組みと条件整備の問題がある。さらに,明確な長期的な戦略のもと,諾グループ,ボラン
タリー組織,制度的諸機関および政府諸省庁が参加・協力して地域社会発展と経済的再生にかか
わるような統合的アプローチ,パートナーシップのあり方が評価の対象となっている。
これらに対応するためには,全体の運営にかかわるディレクターと, 5人の TDO,そして
ROが不断にコミュニケ…ションをとり,アウトロ…チ活動の目的にそくしたフィードパックを
6
3
教育学部紀望書
第6
9
号
重ねなければならない。 TDOにはさらに, RDCの開発担当者とも密接な連携を要請される。ま
た,継続教育カレッジをベースとして,他の成人教育提供者,訓練機関,さらに不利益地域で活
動している他の諸組織との協力関係を発燥させる必要があるとされている。
こうした関連の中で、の TDOの固有の役割は,次のようなものであることがあらかじめ確認さ
れている問。
第 lに
,
r
客観的必要j と「表現された要求Jを区別することの重要性である。教育訴練のイン
パクトはこの区別と関連を明確にしなければ限定的なものとなる。参加者は,自分たちが要求し
ていると思っていることと,本当に必要なこととを区別することをとおして考察することができ
るようになるのである。
第 2に
, TDOは非定型的 i
n
f
o
r
m
a
l,不定型的 non…f
o
r
m
a
lそして定型的 f
o
r
m
a
lな「学習連続
体」を明らかにしなければならない。
非定型的な学習は一般に,しばしばほんらいの場所,たとえば地域社会のグ、ループが討論し,
分析し,地域社会発展と経済的存生のための自分たちの提案をまとめていくときにおこる。これ
は連続体の最初の段賠として,教育訓練以外の諸要素も考慮にいれなければならないがゆえに,
TDOにとってたいへん重姿なものである。不定型的な学習は,特定の問題を発見し議論するため
のワークショップ,セミナー,諸会議を含み,参加者の地域課題についての気付きと理解を深め
拡充するものである。 TDOは,地域社会にとって何が積緩的なものであるかを評価しなければな
らない。
これに対して定型的な学習は,地域社会においてであれ制度的なレベルであれ,構造化された
コースや諸計画の提供にかかわる。 TDOは,参加者の必婆にみあうのはどのような学習機会の設
定であるかを,経験にもとづいて決めていくことが求められる。この場合,とくに継続教育カ
レッジが念頭におかれているのであるが,
r
適合性Jと「アクセス可能性j が重要な視点とされて
いる。そこでは常に地域のレベルで、の参加の可能性が関われ,女性のアクセス可能 t性,農村開発
の過程全体へのかかわり,計量化できない要求,市場主導の要求と地域社会へのサービスとの緊
張関係,他の教育訓練機関との競合・補完関係などが配議されるべき点であるとされている。
第 3に,統合的なアプローチをとるため,他の諸機関とのかかわり,とくに RDCや継続教育カ
レッジ,あるいは RCNやアルスター大学との連携,さらには南北アイルランドの国境を越えた対
話の必要性が指摘されている。ここで,全体的な発燥過程におけるネットワーク的アプローチが
強調されることになる。それは,効果的かつ積極的なフィールドワーク,実践的なレベルで、の介
入のあり方を示す枠組みとして中心的なものである。ネットワーキングは,合意をつくり,参…与
型の活動をすすめていく実践の基礎である。 TDOは,地域諸グループ,継続教育部門,他の教育
提供者,そして大学の 4つのレベルのネットワークをつくっていく必要があるとされている。
2
. アクション・
1
)サ…チの方法
一般にアクション・りサーチには 3年間は必要とされているから, RDRPはかなり短い期間で
のプロジェクトであった。それゆえ,プロジェクトでは当初予定していた農村における地域社会
発展と地域社会教育にかかわる諸グループの類型化や,農村青年教育の課題の解明,定型的な制
度的諸機関による教育活動の検討など,重要な課題を残すことになったが,全体としてかなり精
力的な取り組みがなされている。
最初の 6ヶ月の重要な課題は,プロジェクト・チ…ムによる今回のアクション・リサーチに関
ヨーロッパ資金による農村再生と「地域づくち教育Jの生成
3
7
する意志統一である。この陪の議論をすすめるために, ROによる 3つのまとめの「烹案Jが作ら
れているので,以下,これらによって経過を紹介しておこう。
第 1の草案 58)は,主として調査計画にかかわるものである。ここでは,全体として非定型的な
アプローチが取られることが確認されたのちに,次のような実践的スケジュールがまとめられて
いる。
すなわち,①地域諸グ、ループの必要性にみあった非定型的な教育部練にはし、かなる問題と困難
があるか(開題整理と予想される解決方法),②非定型的教育訓練の影響力と効果,③既存の教育
構造の変化の必要性と他の教育訓練擬供者の役割,④地域諸グ、ループにとって最も重要な,不定
型的および定型的な教育諒"練提供者のカリキュラム上の必要性,@地域での必要性にみあった継
続的で長期的な教育戦略を開発する上での RDRPの RDCに対する支援可能性,@全体として,統
合的なアプローチの可能性(評価と提言),である。
第 2の草案 59)は,アクション・リサーチの過稼についてである。まず,この調査は「合連的な
ヒューマニストによる自叙伝」のようなもので,とくに道徳的価鍍や態産,および行動について
の「省察」が重要な投割をもつことが強調される。そのためにも,アウトリ…チ的かつ草の根の
方法がとられ,初期段構の f
探査とネットワーキングj を重視することが指摘される。要するに
アクション・ザサーチは,プロジェクト全体の統合的な一部分であり,分離的・批判的な評価で
なく一連の意志決定への定期的フィードパック,ひとつの忍的に対するというよりも継続的な評
価過程であることが確認されている。
すなわち,①目的と同時にプロジェクトの発展過程でのそニタリングにウェイトをおく,評価
者は窃参与的観察者であり行動者である,窃社会的な歴史家ないし探検家に近い,@評価は学習
過程である,⑤スタップの積極的合意と協同によって有益で、あると考えられる場合のみに機能す
る,⑥モニタリングと評価はプロジェクト全体の脈絡において,地域・地方・全国・ヨーロッパ
の各レベルの水王子的・室長直的な関係においてなされる,⑦それらの結果は参加者と欽策担当者に
返されなければならない,というものである。これらにもとづいて別に,事例研究の接近方法が
検討されている。
0
)は,以上の議論の過程をまとめてより実践的な ROとTDOの役割を整理したもの
第 3の草案 6
である。ここで TDOについては,既述のような一般的な投割が述べられ,表現された「要求」と
客観的な「必婆」との区別と関連の解明,学留と教育の「連続体j それぞれの役割,教育訓練担
当者の反応,統合的アプローチの有効性の検討が必要であるとされる。その上で,基本的な課題
としてあげられているのが,地域社会,継続教育カレッジ,他の教育iV
l
l
練機関,そしてアルス
ター大学の各レベルで、のネットワーキングである。具体的な活動目標のメドとしては,一人の
TDOにつき 1
0
0人の地域住民のプロジェクト参加者, 1
0顕のワークショップ・諸会議などとそれ
らへの参加者 200人,より定型的な教育謬"練機会への参加希望者 600人と実際の参加者 300人など
があげられている。
これに対して ROは,運営委員会, TDOとの「三者関係j のもとに実際的な点についての調整
にあたる。しかし,この革案では,一般的に非定型的アプローチの開題と困難の明確化,プロ
ジェクトの発展過程における教育部練活動の評価,地方継続教育カレッジと地域社会教育構造の
概観,地域諸グ、ループのカリキュラム要求の解明, RDCの活動への協力,長期的戦略にむけての
統合的アプ口ーチの評価があげられているだけである。
以上のような TDOおよび ROの役割分担のもと,アクション・リサーチは,地域のこれまでの
38
教 育 学 部 紀 要 第6
9号
発展の脈絡の理解にはじまり,地域課題の診断,行動計画の諸設轄の明確化,調査の実施,効果
のそニタリング¥プロジェクトの評儲という
6段階ですすめられるものとされている。 TDOと
ROの資料収集と情報交換,分析メモと活動日誌の作成,関連資料分析,ピデオの作成,インタ
ビューの実施とその録音,必要に応じたアンケートの実施なども重要な活動であるとされている。
この第 3の草案ののち, ROは農村の地域諸グ、ループの実践的な類型化を試みている。理論的
には未整理とされているが,多様な諸グ、ループを,①地域社会発主義グ、ループ,@経済的再生グ
ループ,③女性グ、ループ,④芸術・文化・伝統・社会活動グループの 4つに分類し,北アイルラ
ンドの六つの郡ごとに具体的な事例をあげている問。
TDOはこれを参考にしながら,各担当地域
でのアウトリーチ活動に入っていったので‘ある。
3
.W
中閤報告』一地域社会発展と地域社会教育一
既述のように,このプロジェクトでは 3分の 2の期間をすぎ、たところで中間的な総括 62)がなさ
れ,その結果にもとづく広範な議論を展捕しようとしている。
5人の TDOの実践過程は,地域の条件に応じて異なったベースで進んだが,次のような共通す
るプロセスをとっている。第 lに,地域社会が直面している諸問題の考察,第 2に,そうした諸
問題の社会的・経済的・文化的・政治的背景への通暁,第 3に,関連の諸総織,施設,グループ
のネ
γ
トワーキング,第 4に,複雑な地域課題にとりくもうとしている特定のグ〉レープとの協同
活動,第 5に,そのような実際生活にかかわる学習に取り絞んでいる人々の学留過程の援助であ
る
。
こうした過程をすすめるためには特別な力能を必要とするし,制度的な成人教育機関での設定
において 活動する通常の技能とは異なるものが求められる。地域づくり教育を進めるためには,
t
その過程が,農村の地域社会発展と再生を支援し強化するための全体的な政策の統合的な部分で
あることを理解することが重要であることが強調されている。
『中間報告』は,岳地域概況,②活動状況とくにネットワーキング,③地域における諸グ、ルー
プ,@諸グ‘ループへのかかわり,⑤事例研究,⑨事例研究の考察と評価,という 5つの共通項目
にしたがって, 5つの担当地域ごとに整理されている。それらから得られた一般的な結論は,お
よそ以下のようなものである。
これまでのところでのフィールド・ワークは,非定型的及び不定型的なものである。これらは
いずれ定型的で構造的な資格取得コースにも燥醸してし、く。しかし,地域社会の発燥と再生にか
かわる教育訓練を単に定型的なクラスやコースへの要求という視点からみることは誤りである。
重要なことは,はド定型的・不定型的な開発教育は地域社会発展過程の基本的な部分である j こ
とである。それは,純粋に教育的というよりもより広い目的,すなわち社会的・経済的・文化的
なものに寄与する。このことは,たとえば地域リーダーに対する定型的教育の必要』性を排除する
ものではないが,地域社会発燥のための教育訓練の,基本的に民主的で参与型グループの性格を
強調するものである。
以 上 の よ う な 「 学 習 連 続 体 J に 関 す る 理 解 を ふ ま え て , 地 域 社 会 発 展 community
developmentと地域社会教育 communitye
d
u
c
a
t
i
o
nの関係,各学習機会の実銭例については, <表
-2
>のように理解されている。
ヨーロッパ資金による産量村再生と「地域づくり教育j の生成
3
9
2
> 農村開発・再生における学習機会〈中間まとめ)
〈署長-
学習機会
非定型教育
不定裂教育
定型教育
地域社会発展との
かかわり
地域社会発展
(CD)
地域社会発展および
ないし地域社会教育
地域社会教育
(CE)
実践例
(注)
自信形成
地域集会
セミナー
ワークショッブ?
SWOT分析
戦略・計闘の討論
実行グ、ループ形成
諸会議
諸クラス
C DとC Eの教育訓練
E Cの背景理解
C Dに必要な他の技能
RDRP会議資料より。
ここで重要なことは,第 1に,不定型教育において地域社会発展と地域社会教育が重なってお
り,一方で、,非定型教予ぎになると地域社会発展の中に学習活動が含まれていて,他方で,定型教
予ぎになると教育専門的な活動となると理解されているということである。これに対応して,第 2
に,地域集会や SWOT分析,地域計画づくりなどまで,それらが地域社会発展を主たる
a
的とす
るという理由で非定型教育に含まれている。「地域行動モデルj の実践と考えられているといえ
よう。また,第 3に,技能形成にかかわるものは,それが地域社会発展のためのものであるとし
ても,定型教育に位鷺づけられている。それは,この分野でとくに重要な役割を果たし,また果
たす可能性をもっている継続教育カレッジを評価しようとする意図からである。
第 4に,地域社会発展とのかかわりにおける地域社会教育の役割については,ネットワーキン
グ,地域社会発展に特有な学習の組織化,必要に応じた学習機会の導入,定型的教育への展開の
援助があげられている。しかし,この資料では地域社会発展に悶有な学習の内実は明確であると
学欝連続体Jの理念のためで、あろうか,地域社会教育が定型教育に至る過程
はいえない。また, I
にあるものとする理解も開題となろう。
しかし, w
中間報告』ではより具体的な総括があげられている。そこから地域社会発展にかかわ
る地域社会教育,すなわち「地域づくり教育 j の内容をうかがうことができるであろう。その総
括は次のようである。
①教育詰1練活動は地域社会の全体的な発展に向けられるものでなければならない。教育訓練は
地域社会の活性化のための手段で、あり,目的それ自身ではない。②学習は,動機にもとづき,目
的試行的なものであり,問題解決につながるものである。教育訓練と開発を区別するようなもの
はほとんどない。③結巣は,取得した資格の水準と量ではなく,器発目的にしたがって,それら
がいかに達成されたかによって吟味されるべきである。
④定型的な教育制度は指導的な機関となりえないが,その資源、と専門力量において重要な役割
をもっている。⑤継続教育部門は地域社会の発展と再生に必要な一連の専門性と資源の重要な部
分として考えられるべきである。
@その主要な機能が教育ではないような他の提供者が,地域社会の必要性に対応するのにより
弾力的である。⑦開発過程において指導的な役舗を果たすような教育機関あるいは担い手に対す
る需要がある。彼らは,とくに開発教育について訓練された経験豊富な労働者で,地域社会の
ネットワークと密接に結びついて活動する人達であり,コーディネーターとして,地域社会発展
に利用しうる一連の教育的資源を利用する。
0
4
教育学部紀聖書
第6
9琴
@地域社会教育者は,成人教育に通常関わる技能と同時に,地域開発労働者と共有する一定の
特別な技能を必要とする。@地域開発労働者と地域社会教育者は,その仕事に必婆な知識と技能
を発展させ強化するような,共通の訓練計画から利益を得ることができる。⑬地域社会発展と教
育の仕事の両方に必要な技能と知識を明らかにするためには,さらなる研究が必要である。
⑬継続教育部門や大学によって提供されるような,より構造的で定型的な教育訓練コースの構
成要素を明らかにする必要がある。⑫地域社会発展と地域社会教育は,農村の発展と再生にかか
わってくることに関心をもっている多様な定型的な施設と機関における専門家のための「現場で
の訓練j の一部とならなければならない。
以上のように,この場合の地域社会教育は地域社会発展の手段であり,問題解決型の教育のひ
とつとして考えられている。社会教育関連労働者としての地域開発労働者の位聾づけをしている
ことや,定型的諸部門の果たすべき役割についての重視は積極的に評価できるが,これでは地域
社会教育のアイデンティティを失いかねない。この点について筆者が提起した問題点と課題につ
いては,本稿の羽(総括〉で述べることにしよう。
また,地域社会教育を地域社会発展の手段としながらも,地域社会発展の過程にそくして教育
訓練の課題を整理できていないことも問題となろう o この点では,アルスター大学のグループも
問地域計画j に取り組んだアイルランド共和国のグ
自巳認識しているように 63) 閉じく EUの f
ノレーフ。が地域社会発展の視点から接近しているのに対して,北アイルランドでは地域社会教育の
視点から接近していることが影響をあたえているともいえるであろう。
もちろん,アクション・リサーチの期間が少なかったことが,全体として「探査と観察Jおよ
び「ネットワーキング、とグループ・ワーク Jに終わってしまった大きな要因であろう。また,地
域社会発展を地域経済発展と厳密に区別するならば,そのや心がこれらの活動,とくにネット
ワーキングになることもうなずける開。しかし,地域社会発展教育をめざす具体的な実践におい
ては,それに不可欠な課題も,その前説として必婆な活動も浮かび上がってきているはずである。
次に,節なあらためて地域のレベルにおける TDOの実践事例をみておくことにしよう。
4
. フィ… jレドワークの展開
アクション・リサーチの事例としては,前主主でみたこととの連続牲を考躍して,
RCNの活動を
とおしてネットワークが形成されたアントリム渓谷と,とくに女性の活動に焦点在あわせた南デ
リーの 2つの活動地域での実銭を取り上げてみる。両者の活動内容からして,まず後者から検討
することにしよう。
1)南デリー
この地域では G. ホーガンが,
r
北西継続高等教育施設」を根主主にして活動している。アルス
ター大学のマギー・カレッジに最も近く,その施設とスタッフを活用していることは他の地域と
異なるところである。しかし,なお地域ネットワークは形成されておらず,彼女がかかわったグ
ノレープは最近設立されたものが庄観的に多い。彼女は,焦点を女性グループ。にあわせ,主として
教育訓練要求を明確にするところから講座やワークショップを組織化することにかかわった。そ
れらのグループは,それぞれのコミュニティの影響を受けてはいるが,少なくとも形式的にはカ
トリック・プロテスタントの枠を超えた中立的な活動をしており,将来的には地域経済発展にか
かわっていこうとするものが多い。
ヨーロッパ資金による農村再生と「地域づくり教育j の生成
41
『中間報告』には TDOが RDCの「開発担当者 D
OJ と協力して援助活動をした 9つの女性グ
ループの活動が紹介されているお)0 DOは新しい農村開発グ、ルーフ。を組織化するために,通常,平
均 8つの農村開発にかかわるワークショップを開催したが,そのうちの 2つは「農村における女
性 Jというテーマにした。農村地域開発における女性の役割をとくに重視したからである。
CDOはこれに参加し,新しいグ、ループをつくる援助をしてきたが,とくに密接にかかわってきた
5
"
'
2
0名が最も多く, 1
0名以下は 1つだけ, 2
0
のが 9つのグ、ループである。それらのメンバーは 1
名以上は 3つであった。
o
m
m
u
n
i
t
yd
e
v
e
l
o
p
m
e
n
te
d
u
c
a
t
o
r
Jと
ホーガンはこれらのグループに「地域づくり教育実践者 c
して,彼女たちが自らの教育都練必要を明確にして,実際に参加することを援助してきた。した
a
c
i
l
i
t
a
t
o
r
J および「情報提供者」
がって,とくに彼女たちが自分たちで、活動し, TDOは「促進者 f
としての役割を果たすように努力してきた,と言う。
当初,参加者の中には具体的な践的をもった少数のものもいたが,圧倒的に「ただ一晩外出し
たかっただけj ということを主要な動機としてやってきた。 TDOは,披女たちが地域でやってみ
たいと思うことにみあった教育訓練活動を組織化する可能性があることを説明する。しかし,
fどんなクラスを望んで、いるか j という費問をすると
1つのグ、ループを除いて,お花,料理,
といった伝統的な「女性のための教育j のメニューがあがってくるだけである。これに対し
て TDOは 2つのアプローチをとる。
ひとつは,他の農村地域の女性グループによって取り組まれたテー?を紹介するチラシや印刷
物を提供することである。これによって,参加者たちは自分たちにとってより必要な領域がある
ことを知る。それらは,自己表現と自信形成,女性の健康問題,自己防衛,女性の視野の拡大,
会計管渥,ツーリズムなど,伝統的なメニューとは大きく異なるものであった。これらについて
の討論にもとづき,これらを具体化するための試験的な講習会が,各グループで 8つから 1
0もた
れるようになった。それらは教育訓練活動への参加経験が少ない女性が取り緩みやすい「非定型
教育」の考え方にもとづいて進められた。
もうひとつは,グ、ループの必要性を明確にし,それにかかわるコースを計画することを援助す
ることである。これはより長期の時間を必要とするが,それによって学習の過程と結果を「わが
e
n
s
eo
f‘
o
w
n
e
r
s
h
i
p
'Jが生まれる。 TDOは,小グループに分かれて,自分たち
ものにする意識 as
の地域で何が可能か,女性にとって失われているものは何か,それらを取り戻すためには何が必
要かについての討論をすることを助言する。この活動の中から女性にとってより多くの情報を必
要とする諸問題が浮かびあがってきた。ここから, TDOなどから得られた情報をもとに,自分た
ちでチューターを選び,さまざまなコースを運営していくことに取り組みはじめた。
TDOには「農村女性は保守的だ」という意識があったため,はじめのうちは前者のアプローチ
を多くとるが,驚くことに,結果としては両者はきわめて類似している。こうして次第に後者,
a
c
i
l
i
t
a
t
i
o
n証 p
p
r
o
a
c
h
J に確信を持つようになってくる。それにとも
すなわち「促進アプローチ f
なって,農村女性の「自然、的保守主義」と L、う見方は関連っており,マスコミなどで都市地域と
向様な情報をもっているというだけでなく,農村女性のおかれた現実から生まれる強い学習要求
が存在することを理解する。ホーガンはとくに,自信形成と自己表現,ストレスへの対応,女』性
の健康問題が各グループに共通する強い学習要求であることを指摘している。開題は,それらの
学習嬰求を現実化するための条件整備が遅れていること(この結果としての女性の孤立,セクト
的分断,交通手段や育児施設の欠落,そして雇用機会の希薄さなど)である。
2
4
教 育 学 部 紀 要 第69号
ここにきて TDOはプロジェクトの残りの期間で,女性グ、ループによって表現された「要求jだ
真の必要 r
e
a
ln
e
e
d
s
J にかかわるような活動に取り組む 66)。それは,第
けでなく,地域にとって f
Hこ,草の根のネットワーキングである。一般にトップダ、ウンとボトムアヅプの f
弁証法的
d
i
a
l
e
c
t
i
c
J 関係が発展させられなければならないが,教育訪"練活動においてとくに「促進的活動j
が重視されなければならないとしたら,
r
箪の根のネットワーク j こそが発燥させられなければ
ならない。またネットワークが,活動の外延的拡大ばかりでなく,参加諸グ、ループの「内的組織
の強化」につながるという Lヴ機能にも注釘すべきである。第 2に,教育訓練活動にかかわる担
い手のパートナーシップである。これは単に資金獲得のためではなし社会的な政策に影響をあ
たえるような「地域社会とボランタリ一部門の声Jを強化するという視点から取り組まれるべき
である。第 3に,国境問のネットワークとパートナ…シップである。相互の価値観や関心,発展
段階の違いが真の協同の発展を阻害している。
EC/E
じゃ各政府の資金によって進められている
ツーリズムなどの経済的領域だけでなく,文化活動を含む教育訓練活動にまで踏み込んだ協同活
動が必要である。
以上のようなホーガンの提言は,
J
二述のような女性グ、ループでの経験があって生まれてきたこ
とに注目しなければならないであろう。それは狭い意味では「地域づくり教育j といえないかも
知れないが,それをぬきには f
地域づくり教育」はないのであり,現に彼女は「地域づくり教育
実践者J としての自己認識のもとに上述の活動に熊点をあわせてきたのである。また,こうした
活動の次に地域社会発展にかかわる実践として
の根のネットワークJ,すなわち地域諸グ
ループ自身によるネットワークが,さらにボトムアップとトップ夕、、ウンの弁証法的発展を挺進す
るようなネットワークとパートナーシップが関われてきていることにも留意しておかねばならな
いであろう。それらは, r
地域づくり教育」に不可欠な協向性の発幾から公共性の形成を意味して
いると考えられるからである。
2) アントリム渓谷
既述のようにこの地域は,零細規模の農業とツーリズム以外には,ウイスキーで有名な「ブッ
シュミルJと,装飾の「レガッタ」が目立つ程度で他の産業は育っておらず,過疎化の進行が顕
. ブースはラーン継続教育カレッジを本拠にしながら,
著な地域である。担当の B
続教脊カレッジ,労働者教育協議会
RDCや他の継
CWEA)などと協力して活動をはじめた 61)。
初期の f
基礎的な仕事j は,地域概況と最近の動向の把握とあわせた,①接近するグ、ループの
DRPプログラムの宣伝・情報提供,③地域社会発展諸グ、ループの訪問,④地域内の教
選択,② R
育訓練提供者とのコンタクトとそれらの可能性の評価,⑤地域活動に取り組む意欲のある諸億人
の明確化である。コンタクトをとった主な地域グループには,地域全体にわたるアントリム渓谷
農村地域社会発展グ、ル…プ
CGARCDA,既述)のほかに,次のようなものがある。
C
Dクッシエンドン地方開発協議会。集会運営の方法についての援助が求められ,それを契機に
した学習活動から組織の戦略プランをたてるための集会を開催することになる。②ラスリン開発
地域社会協議会。地域伎民の学習要求把握のためのセミナーの中でコンピューター・コースの要
求が多く出されたが,島棋部がゆえにあきらめかけていた条件整備をして実現。この活動によっ
て活性化した協議会はプランモア烏との交流宏はじめ,島興部経済の発燥条件についての学習活
動をはじめる。@ロックギ、ノレ地域社会発燦協議会。ハーリングとアイリッシュ・ダ、ンスで著名な
地域であるが,閉鎖的なコミュニティで,苦労してコンタクトをとり,文化交流の道合調き,
ヨーロッパ資金による農村再生と「地域づくり教育j の生成
4
3
報処理コースをはじめる。④クッシエンドール開発グ、ループ。すでに伝統工芸センターを設置す
るなどの活動をしているグ、ループで,今後の戦略計画樹立の援助を求められる。メンパーの力能
形成から地域社会発展活動をへて地域の経済的再生の活動に取り組むことになり,民間のコンサ
ルタントと協同して活動援助をする。
ここではより具体的なアクション・リサーチの過程を「グレンナリフ開発グ、ループ」の場合に
よってみておくことにしよう。
グレンナリフは 19つの渓谷の女王」と呼ばれるくらいの景観をもっ地域であるがゆえに,逆
に過疎化の進行はとくに激しい。このグループは「食闘を軽減し,経済・社会・地域社会・教育
を発展させ,とくに不利益地域への援助をすることによって,グレンナリフ住民の生活の質を向
9
9
1年に設立されている。とくに地域経済の干厚生に重点、をおき,特
上させる j ことを呂的として 1
別小委員会をつくって,地域雑誌の発行,祭り,ツーリズム,教育訓練といった日常的活動のほ
かに,資金獲得,街灯整備・!日鉄道復活・地域センター設置などの特別ブ。ロジェクトに取り経ん
でし、る。
TDOはまず、クツレーフ。の例会に毎割出席して「基本的な信頼Jを獲得するよう努力する。この結
果,クツレーフ。から「訓練必要明確化j のためのワークショップ開催の希望が出される。グ、ループ
の発展方向をより明確にし,専門性と知識在高めるためである。必要な訓練領域は次の 5つに整
理された。すなわち,①効果的な集会運営(計画,諸グ、ループの参加,課題と行動の選択,役割
分担,小委員会組織,対立やフラストレーションへの対応,すぐれた委員会構成),②地域社会発
展の諸側面(委員会メンバーの動機づけ,地域社会の充分な参加,地域社会発展の接近方法),③
計画・運営技能c1年から 5年までの発援・事業計画策定,政策・必要・優先順位,法的条件・
人事,諸資源と財政管理,効果的なチームづくり),④個人的な技能(交渉技能,聞き取りと応答
技能,自己表現技能,時間管理,対立克服),⑤村を超えた世界(メディナの利用,交渉と政治的
対応,資源計画の交渉)である。
開催時間や講師の調整がおこなわれ,優先順位が高かった①は橋治学習のかたちで実施される。
このワークショップをへて,グ、ノレープの機構改革が行われる。グ、ループの評舗によれば,この活
自己評価J,r
責任感Jが高まった。ここから,教育語1練小委員会の
動をとおして「自己信頼J,I
主催により,各地域センターで新たな教育訓練活動が取り組まれる。そのテーマは, SWOT分
析,女性とリーダーシップ,自己表現訓練である。そこから,地域社会発展に必要な具体的な力
能形成のためのコースが展開しつつある。
以上のような活動をへてブースは,地域社会発展にかかわる教湾設 1練提供者には,単に個別的
技術のみでなく,次のような点についての配騒が求められると言う。すなわち,愛他主義,グ
ループへの帰蝿,学習の普通性,
r
偲入院学習」の意味,メンバーによる助言・示唆,カタルシス
(感情表現),課題明確化,希望の浸透,存在論的要素などである。こうした資費をもった場合に
a
c
i
l
i
t
a
t
i
o
ns
k
i
l
l
s
Jをもっているということができる o それは①環境醸成,参
すぐれた「促進技能 f
加促進,自己評価,個人的目標設定,自己表現などにかかわる初発段階,②グ、ループ討論,
フィード、パック田路形成から問題解決のための相互援助にいたる活動段階,③状況に応じた活動
の修正などにかかわる終了段階の 3つの段階をへて展開する。
活性化
この過程における TDOの役割は,教育制練の条件繋備も含めて, 2つある。ひとつは f
n
i
m
a
t
o
r
Jで
,
促進者 a
r
合理化Jと f
社会化Jの担い手であり,情報の水路づけをし,グ、ループ・
r
o
k
e
r
J で,活動の多面的な側面合むすびつ
メンバーの参加提進をする。もうひとつは「仲介者 b
教育学部紀重要 第6
9
号
44
け,異なった関心と目的をもっグループを関連づけることである。
5
.r
地域づくり教脊j の性格
以上のような R
DRPの展開は,プロジェクト・チームによってどのように評価され,総括され
ているのであろうか。
あらかじめ,
おこう
〈義一
C
<
表
RDRPで実施した諸コースと諸会議等への参加者の実績を各調査地域ごとにみて
3>)。全体として,当初の目標を達成できているといえよう。
3
> RDRP参加者数
アントリム渓谷
合計
3
8
6
タ
イ
ロ
ン
合計
4
3
6
情報識字コース
80
リーダーシップ技能訓練
資金獲得コース
2
1
開発セッション
自己表現訓練
1
5
健康基礎資格コース
3
2
デスクトップ・ハブワッシング
20
青年コ
ス
1
2
委員会運営技能
2
5
病人震護
1
2
2
2
5
デスクトップ・パブリッシング
1
0
7
6
8
資金獲得
1
2
4
2
諸会議・セミナー・ワ
クショップ
南アーマおよび南ダウン
合計
3
1
2
8
2
訓練必要分析
7
1
夕方集会と研修訪問
会議運営コース
5
0
南デ
女性のための自信形成
6
0
開発コース
1
1
8
女性のための体験コース
1
0
1
農村女性のネットワーキング
1
6
3
リ
合計
4
5
7
地域社会発展リーダーシップ技能
3
0
女性の健康問題
2
2
マーケッティング技能
1
0
地域社会関係改善認定コース
1
2
女性グループ創設
4
0
自己表現コース
2
0
ボランティア地域社会クーループ訓練
43
芳香治療/代替セラピー
28
諸会議・セミナー・ワークショップ
2
9
5
地域経済発展
2
0
ファーマナ
550
諸会議・セミナー・ワークショップ
合計
地域における女性学習
1
7
9
自己表現および主張方法
36
女性のための開発コース
2
3
就学前児主主プレイグ‘ループ
1
8
農業会計コース
1
4
コンピュータ…訓練
3
2
諸会議・セミナ
-ワークショッフ。
1
3
6
248
総合計
2,
5
9
7
.McNamee,T
.L
o
v
e
t
t,T
.
(資料) P
MorganandP
.Sh阜nahan,AdultE
d
u
c
a
t
i
o
n,
CommunityD
e
v
e
l
o
p
m
e
n
tandRural
R
e
g
e
n
e
r
a
t
i
o
n,o
p
.
c
i
t
.,p
p
.1
5
5
6
.
ヨーロッパ資金による農村再生と「地減づくり教育j の生成
4う
参加者総数は最も多い南アーマ・南ダウンからアントリム渓谷 t
こまで分散しているが,それは
各地域における人口数の実態も反映している。全体的に,定型化された各種コースよりも,より
地域の具体的課題に臨機応変に対応できる諸会議等への参加者が多い。タイロンでは,諸会議等
開発セッション j が取り組まれた。また,南デリーでは,女性
のかわりに,より構造化された f
に焦点をあわせた「体験コース j を設ける一方で,より定型化された「揮発コース Jに取り組ん
でいる。これらの表にある数字の意味するものについて『最終報告』は,およそ次のように理解
している。
まず,フィーノレドワークの大部分は,非定型的ないし不定型的学習に力点があったことである。
定型的教育もあったが,そのほとんどは非定型的な状況のもとで組織されたものである。各ケー
地域諸グ、ループとともにJ
,彼らの教育において基本をなし,その組織ない
ススタディでは,① f
し開発の目的ために役立つと盟、われる問題をあきらかにし,②開発と計画および戦略を発展させ
るために不可欠な技能と知識を広げ深め,③パートナーシップと連携を創造し,④内部の組織構
造を改良し強化して,構成員の参加を拡大した。
しかしながら,
r
開発教育 d
evelopmente
d
u
c
a
t
i
o
n
J の前進は,地域諸グ、ループとの対話と,地
域住民の参加の発展によってはじめて実現する。プロジェクトが重視していた地域社会発展過程
の「参与的・民主的 p
a
r
t
i
c
i
p
a
t
o
r
yandd
e
m
o
c
r
a
t
i
c
J 性格である。このことは,提供される教育訓
練は地域社会の特定の諸グループ-組織の必要にみあうようなものに作りなおされる必要がある
ことを意味していた。
TDOとチュータ…は,自分たちのカリキュラムを開発し,独自の学習材料
を生み出さねばならなかった。この時に,地域と諸グループ・組織が抱えている問題についての
理解が重要になってくるのである。
TDOはまた,資源提供をする役割も巣たしている。その中には,さまざまな教育訓練機関から
適当なチューターを探し出すことも含まれる。しかし,すべてのチューターが非定型的・不定型
的教育にかかわることができるような経験と専門性をもっているわけではない。したがって,多
くの場合,
TDO自身が促進者になったり,グ、ループ討議のリーダーになったりした。
このような広範閥の活動は,次のように分節して整理されている。
①要求に応、え,伝統的な成人教育のプログラムを組織しながらも,それ以外に選択肢があるこ
とに参加者が気づくようにすることである。
TDOは諸クゃループとともに活動しながら,当初の要
求に応えつつ,自信を強め, E
J巴のイメージを改善し,地域社会の問題にかかわっていくことが
できるようにする。②諸グ、ノレ…プ・組織およびネットワークが自らの目的と目擦を明らかにする
ことを援助し,彼らの内部組織を改善し,グループの意志決定過程に参加する機会を提供する。
③経験を拡充し学習過程を援助し,河様な問題や関心をもっている他の地域社会諸グ、ループとの
つながりを発展させ,グ、ループや個人がお互いに学び合う学習過程を進める。
④諸グ、ループが発展計闘を作成することを援助する,ないし政府の省庁や機関によって策定さ
れた計画や戦略に対応することを支援する。⑤特定の領域の技能,たとえば地域社会企業やセン
ターの運営・管理に関われるようになる技能についての訓練コースを組織化する。
学習連続体Jを
, w
最終報告』は次のように一般化してい
以上のような特徴をもっ学理過程= r
る6
8
)
。
まず I
FEは,地域社会の現場でおこるものであるが,地域グ、ループがその目的を議論し,自擦
をあきらかにする初期の段階のものである。そこで、地域グループは地域社会発展にむけたみずか
らの諸提案をもちより討論し分析する。
TDOはこの時,グ、ループが地域社会発展の目的を何より
46
教 育 学 部 紀 婆 第6
9
号
も自分たち自身のために具体化し,いかにその目的を実現するかを決定する過程で,重要な情報
と専門性を提供し,
r
自分たちについて徹底的に討議する j ことを援助し促進する。その際に重要
な活動は, SWOT分析であり,グループ内部の自信形成にはじまり,適用される戦略についての
合意,筏標の具体化,実行グ、ループの組織化にし、たる全過程がかかわっている。
次に NFEは,地域グループがより特殊な問題を討論するようになってからはじまる。地域社会
発燥の特殊な必要性と特部な領域について調査し議論するためのワークショップ,セミナー,諸
会議を組織化することによって,個々の開題についてのグ、ループの知識は広められ深められて,
具体的な問題についての気付きと理解が得られるようになる。それは地域社会発展と地域社会教
育がひとつに融合されて Lぺ段階であり,かなりの程度その 2つのアプローチが重なり合う段階
開発教育 d
e
v
e
l
o
p
m
e
n
te
d
u
c
a
t
i
o
n
Jが問題とな
である。この実践的な課題に照応して理論的には f
る
。
最後に FEは,地域社会のみならず、大学や他のセンターにおいて,より構造的な学級・講座を
提供する。ここで TDOは,制度化された教育訓練機会に,地域社会発展にかかわる人々が参加で
きるように,自己信頼の形成をはじめとする必要性に応えていくことが課題となると思われる
が,このプロジェクトが短期におわったために,そうした実銭は不十分にしか展開されていない。
, I
FEでは「自己分析」に焦点があること,第 2に
,
以上の整理によって,第 1に
r
地域づくり
o
m
m
u
n
i
t
yd
e
v
e
l
o
p
m
e
n
te
d
u
c
a
t
i
o
n
Jがとくに問題とされるのは NFEの段階であると理解さ
教育 c
れていることがわかるであろう。
さらに『最終報告』において注目されるべきことは,それらは必ずしも f
エスカレーター」で
はないことが指摘されていることである制。地域社会教育のモデルにもはっきりした区分がある
わけではない。自信を拡大し,参加するようになり,地域社会発展と再生に寄与するような技能
と能力を形成するとしづ戦略の中で, 3つの類型の聞を移行しているのである。さまざまな組織
が関係し,しかも長期的な過程になるので,開発目標に教育訓練がどの程度寄与したかをはかる
ことは難しい。
しかし,学習過程が進展し,諸グ、ループが技能,洞察力及び知識を獲得したという点で実績を
あげていることは確かであり,し、くつかの事例では特定の開発 g的の実現に寄与しているのであ
る。こうした活動に必要な技能は広範で多様であるが,次のようなものがあげられている。
①ネットワーク技能。これはとくに統合的アプローチをとる場合に基本的なもの。②グループ
および促進技能。グ、ループ内,グ、ノレープ問の学習で,学習者が互いに学びあえるような関係をつ
くり,現実的な問題にかかわって活動することが重要
C
B
.ブース)。窃カリキュラム開発。学習
材料をつくることも重要。映画,ピデオ,レポート,地域の歴史などが大切。④教育的指導。個
人ではなくグ、ループへの指導。適切な入者ピ捜す努力が必要。⑤チ"'"ーターの力量。地域社会発展
に特有な技能と知識の獲得だけでなく,成入学習への理解,自分の知識と実践的経験を利用する
こと,学習過程への積緩的参加,いかに問題が全国的ないしヨ…ロッパのレベルの艶題と結びつ
いているか等を理解する力最が必要。
『中間報告』でも指摘されていたように,この一連の技能は地域社会教育者と地域社会発展担
当者とが共有するものである。重複しているが互いに補完的であり,効果的なパートナーシップ
で働くことが必要である。しかし,どの地域社会教育者もこれらすべての技能をもち,すべての
仕事に取り組むというように考えることはできない。たしかに,この仕事に本来的なネットワー
キングと指導の基礎的な技能がある。そのうえで必要なことは,求められたときに他の仕事にか
ヨーロッパ資金による農村再生と「地域づくり教育j の生成
4
7
かわることができるような経験豊富な職員を捜す能力である。問題は,一見すると地域には松当
な機関,施設,組織,コンサルタントがあるようにみえながら,この仕事にかかわることができ
る成人教育者や訓練者が少ないことである。
プロジェクトの展開によって得られた知見をもとに, RDRPはいくつかの提言を試みている。
r
全体的な技能j 形成の共通の基盤をもとに,かかわる専門家の「現場での訓練j,新
カリキュラム開発 j,r
資格制度 j,調整的な役割をはたす「指導的機関」の
しい学習材料による f
すなわち,
必要,そして最後に,地域社会発展の目的を実現にむけた教育訓練戦略の実施に責任をもつよう
な「県全体レベルの協会j の設立である。これらの提言は,地域役会発展にはたす成人教育部練
e
v
e
l
o
p
m
e
n
t
の閤有の役割と,地域社会教育の展開における「地域づくり教育 communityd
e
d
u
c
a
t
i
o
n
j の国有の領域についての理解をふまえ,その公共的・制度的認知を求めているものと
概括することができる。
地域社会発展と地域社会教育・
「地域づくり教育j の区別と関連,それにもとづく教育訓練の
地域づくり教育Jの生
内容と方法についてはより具体的な検討を必要とするとはし、え,ここに f
成を言うことができるであろう。
百
総括
-r
地域づくり教育Jのアイデンティティー
r
貧罰対策から統合的開発をへて地域づくり教育へ j という全体的な
第 2次反貧困計瞬 SecondA
n
t
i
P
o
v
e
r
t
y
j,r
農村経済開発
流れを確認できたと思う。それらは, r
各章での検討によって,
連携行動 LEADERjおよび「開地域計画 INTERREGj とL、った EC/EU資金に支えられたもので
あったが,それ以上に北アイルランドにおける農村湾建運動の展開によって進展してきた過程で
あった。
その経過について改めてふれることは省略する。ここでは現局面における到達点である
RDRPについて,本稿の検討課題であった 3つの視点にそってまとめておく。
第
uこ,アクション・リサーチについては, r
省察と行動j を繰り返す TDOの実銭過程として
理解されている。それは①地域住民の考える課題の明確化,②その背景への通暁,③ネットワー
キング,③地域グ、ループとの協同活動,⑤学習活動の援助という「共通のプロセス Jとされてい
るが,とくに初期段階(①から③)の「探査とネットワーキング」の段階の重要性が強調されて
地域づくり教育j の出発点に位置する基本的な活
いるのが特徴的である。ネットワーキングは f
動である。「地域グ、ループとの協同活動j が含まれているのはアクション・リサーチの特徴であ
るともいえるが,この「協同活動j を「地域づくり教育 j ~,こ不可欠な過程として位罷づけること
が必要である。
これらの活動の前にとくに①と@が位置づけられているのは,第 2の視点にかかわっている。
すなわち,
r
地域社会のための教育」と「地域社会にかかわる教育j とを区別する重要なメルク
要求 j と客観的な「必要j であった。これらを区別と
マールは,地域住民によって表現された f
関連のもとでとらえつつ統一しようとするのが「地域社会とともにある教育j であるが,それこ
地域グループとの協同活動」において関われていることである。 RDRPの活動におい
そまさに f
前関発段階J に多くの時間が掛かれ,そこからこの段
ては,実擦の農村開発にかかわる以前の f
階の重要性が指摘されているのであるが,それこそ地域社会教育の視点からみて本来的な領域で
あるといえよう。
,
第 3は
r
学習連続体Jの理解である。注 gすべきは,非定型教育 IFE.不定型教育 NFE・定型
8
4
教育学部紀望書
第6
9
i
苦
教育 FEが,それぞれ「地域社会発展J
,r
地域社会発展と地域社会教育の融合J,
r
地域社会教育 j
と照応して理解されていること,そしてこの NFEの本質に迫る理論的な表現として「開発教育
d
e
v
e
l
o
p
m
e
n
te
d
u
c
a
t
i
o
n
J が位置づけられているということである。それは NFEを基本的な特徴
とする「地域づくり教育 communityd
evelopmente
d
u
c
a
t
i
o
n
J
mの生成,その性格規定をするもの
として重姿な意味をもっ。
しかしながら,このような整理だけでは地域社会発展と地域社会教育なかんづく「地域づくり
教育」との区別と関連は明らかにならない。 NFE自体も多様な形態をとっているから,その類型
化にも踏み込んでみなければ「地域づくり教育」のアイデンティティは解明されないであろう。
うNFEの 3つの類型と関連づけてみれば71) 全体的として,貧掴計画とのかかわりで
発展してきた RAPの運動は「不定型教育 AJ,統合的農村開発とのかかわりで生まれてきた
RDCと RCNの活動は「不定型教育 BJ,そして成人教育訓練活動として展開したきた RDRPの実
践は「不定型教育 CJ であると位置づけることができるであろう。ただし, RAPの活動は食閤開
題への取り組みとしてであって,地域社会教育という視点からみれば,まさに農村行動に不可分
に含まれる実践として,すなわち「地域行動モデルj の「非定型教育 BJ が中心であると評価す
るのが妥当であろう。
これらに照応して,同じくアクション・リサーチといっても各プロジェクトには差奥があるこ
とがわかる。 RAPにおいては,農村の貧困開題を明らかにするという目的をもった勝義のアク
ション・リサーチであり,さらには地域社会発展そのものにかかわろうとするところから,農村
の「生活の論理Jを環解しようとする「参与型調査Jの萌芽もある 72)0 RDCは,アクション・ワ
サーチを擦携しながらも,実際には「客観調査Jを中心とすることになった。これに対してボト
ムアップ組織を忠向する RCNでは,地域ネットワークや課題別ネットワークの活動の援助言どと
おして実践的・政策的課題を明らか t
こするようになり,さらに RDRPでは,成人教育訓練の役割
を明らかにしようとする TDOのアクション・リサーチとともに,地域住民の「自己調査j あるい
は「協同調査」の学習的意義が理解されてきているといえる。
以上のことをふまえて,筆者なりに,地域社会教育実銭全体の中で「地域づくり教育j を位置
づけるために,地域社会教育実接諸モデルと各モデルに特徴的な鑑査活動をあげてみれば, <表
-4)のようになるであろう。
〈
表 -4> 地域社会教育実践モデルと調3
援活動
上段は地域社会教育実践モデル、下設は調査モデル
地域にむけ 地域にかか
た教育
わる教脊
定型教育
地域における教育
地域とともにある教育
条件整備
リーダー養成
婆求誠査
実践分析
地域開発
教育的改良
地域づくり
言十幽づくり
必要調査
行動調査
協向調査
組織的調査
不定率教育
自己形成
地域行動
参与製調査
自己調査
非定型教育
ヨーロッパ資金による幾村再生と「地域づくり教育j の生成
ヰ
ヲ
r
学習連続体Jの 3つの類型をとった。これに対して,表頭には「地域にむけた教
e
d
u
c
a
t
i
o
nt
o
w
a
r
d
st
h
ecommunity
J,r
地域にかかわる教育 e
d
u
c
a
t
i
o
na
b
o
u
tt
h
ecommunit
y
J,r
地域における教育 e
d
u
c
a
t
i
o
ni
nt
h
ecommunity
J,r
地域とともにある教育 e
d
u
c
a
t
i
o
nw
i
t
h
表側には,
t
h
ecommunityJ をあげてある。これらはラベットの整理と若子,異なる。第 1に,リベラルな立
Eを開放し,普及していくという「条件整備モデルj と,地域社会のた
場から地域社会にむけて F
練活動をとおしてかかわっていく「教育的改良モデ、ルJを区別するためであり,第 2
めに教育部i
に,主として
I
F
Eの形態をとる,地域住民の自己教育活動としての「地域における教育Jを佼置
地域における教育j には,地域住民の自己意識化の実践としての「自己形成
づけるためである。 f
モデル j と,地域において展開されるグ、ループ活動(もちろん,その学習活動としての意義に注
目するのであるが〕としての「地域行動モデルj を含む。
このようにみると
NFEは
, r
地域にむけた教育Jを展開する「地域開発モデル J(上述の不定型
教育 B),r
地域にかかわる教脊」としての「教育的改良モデルJ(不定型教育 A),そして「地域
とともにある教育j としての「地域づくり教脊J(不定型教育 C) に分かれる。「地域づくり教
育Jは,地域諸グルーフ。の枠を超えた地域社会全体の発展にかかわる教育部練活動で、あり,その
意味で「地域行動モデ‘ノレ j のものと異なる。したがって,ここでは地域づくり実践にかかわるこ
地域づくりモデル」と相対的に区別して「地域計瞬づくり
との学習的意義が問われる(狭義の) r
Eとして展開される fリーダー養成モデル J(定型教
モデル」を設定してある。また,主として F
育 mこ相当)の教育訓練も,広い意味では「地域づくり教育Jにふくめてよいであろう。 f
地域づ
,r
リーダー養成モデル j の 3つをあわせて「地域とと
くりモデル j と「地域計画づくりモデル J
もにある教育Jとしての「地域づくり教育Jであると言うことができる。
このように整理してみれば,アクション・リサーチ(行動調査〉のより厳密な佼置づけが可能
となるであろう。それは主として N
FEの形態をとる「地域にかかわる教育Jであるといえる。そ
れは「地域にむけた教育J として展開される「要求調査j や「必要調査 j と異なることはもちろ
ん
,
r
地域における教育」において実践される地域社会教育実践者の「参与型調査 Jや地域住民の
「自己調査」とも異なるのである。
「地域とともにある教育j に特徴的な調査活動としては,上述のそデルにしたがって次の 3つ
をあげることができる。すなわち,地域諸グ、ループのネットワークと耕度的諸機関のとのパート
,専門的力量をもった調査員も含めて,地域構造の把
ナーシップのもとに展開される「協同調査J
握を含めた総合的調査が求められる「組織的調資J
,さらに,自己教育活動と社会教育労働の展開
過程としての地域社会教育実践の識査分析をおこなう「実践分析」である。全体として,
r
地域づ
くり教育Jを特徴づけるものは「組織的協同調査Jであるということができる。
しかし,地域社会発展にはたす成人教育訓練活動の役割を明らかにすべく,地域社会教育実銭
として展開された RDRPの実銭については,以上のような類型的位置づけを超えて,より立ち
入った検討が必要で、ある。
実は筆者は RDRPの最終段贈 0994
年 4月から 6月まで〉でその諸会議に参加させていただ
き
,
w
中期総括』に対して次のような点を問題提起した。その中心的論点は地域社会発展と地域社
会教育の区別と関連にかかわるもので,間考は『中間報告』が言うようにしばしば同じような活
3
)。以
動をするが,まったく同じではないし,それらの性格は異なっているということであった 7
下,筆者の提起した論点にそって,筆者の帰国後に公表された『最終報告』がどのように応えて
いるかを整理し,それに対する筆者の評価を加えてまとめにかえたい。
教 育 学 部 紀 婆 第6
9号
う0
まず第 1に,教育目的についてである。地域社会教育の呂的は地域社会発展のそれと問じでは
ない。地域社会発展活動の目的は地域社会発展そのものであるが,地域社会教育にとっては,地
域社会発展の活動に参加することをとおして,地域住民がその自己疎外を克服し主体形成をとげ
ていく過程のひとつである。地域社会発展と地域社会教育は異なるパースペクティヴとアイデン
ティティをもつがゆえに協同が必要なのであり,また可能なのである。私見によれば,地域づく
り教育は,重層的な主体形成過程(意識化,自己意識化,理性形成,主体形成)の中で,とくに
理性形成にかかわる成人教脊実践である。
r
地域社会とともにある教育 j では(地
域諸課題の解決とともに〉人々の個人的・集団的な「力能形成J, r
主体的力量形成
この点について『最終報告』はで紹介したように,
empowermentJ が捕われるとしていることが注目されよう。「地域社会とともにある教育」が地
域社会教育のめざすべきものであるとするならば,その目的に「主体的力量形成」があげられて
主体形成j と必ずしも同じでないにしても 74) 地域社会発展と区別さ
いることは,筆者の言う f
れる地域社会教育に固有の目的が意識されているということができる。ただし,主体的力量形成
のプロセスについては明らかでなく,したがってそのプロセスにおける「地域づくり教育 j の意
義についても議論されていない。
第 2は,学習課題についてである。地域社会教育実接者の中心的な仕事は,学習者と協力して
学習内容を編成することにあり,したがって,学習過程を理解し,学習を構造化していく「知識
と技能Jが要求される。地域づくり教育における学習課題は,生活課題の学習とは異なる地域課
題の学習である。それは個人ないし身の限りの生活課題と社会的な諸問題とを媒介するものであ
る。だからこそ,学習の構造化,したがって非定型教育と不定型教育,定型教育の「連続体j が
問題になるのではないのか。
この点では,地域社会発展=地域社会教育に必要な技能として,①ネットワーク技能,②グ
ループ学習促進技能,③カリキュラム開発,④教育的指導(グループ指導,適切な人を捜すこと
を含む),⑤チューターの力量,があげられている。「地域づくり教育 j に間有なカリキュラム開
発の内容は不明であるが,
r
地域社会とともにるる教育Jにおいては,表現された「要求 j と客観
的な f
必要J との統ーが求められ,地域住民の動機を基盤に,目的志向的で問題解決に結びつく
学習が特徴的であるとされている。それは,身の回りの生活課題と社会的な諸問題とを媒介する
地域課題の実践的解決にむけた学習を意味するといえるのではなかろうか。
第 3は,学習過程である。地域社会発展教育において参加と経験が重要な学習方法であること
は一般的には正しいが,筆者の言う意識化と自己意識化の学留実接をぬきにしたら,単なる住民
の動員活動になってしまう。それはまた,地域社会教育笑践者ではなくて,地域住民自身のネッ
トワークが必要であることをも意味する。しかし,地域づくり教育を推進するためには「ネット
ワークとグ、ループ・ワーク j だけでは不十分である。地域づくりにかかわる学習過程(自己意識
の普遍化から理性形成へ)75)を試論的に提示するならば,学習ネットワーキング→地域集会→地
域研究・地域調査→地域行動→協同活動→オノレターナティヴの創造→制度的諸機関とのパート
ナーシップ→地域社会発展計調づくり(→新たな地域づくり),といった過程になるであろう。
『最終報告』は,
r
前開発段階j の活動の重要性を指摘している。それはまず「当初の要求に応
えつつ,自信を強め,自己のイメージを改善し,地域社会の問題にかかわっていくことができる
ようにする J ことであった。南デリーでのホーガンの実接は,そうした実践の重要性を証明して
,地域社会発展にかかわる「特定の技能」の形成も重嬰な活動であった。こ
いる。「経験の拡充J
盟ーロッパ資金による農村再生と「地域づくり教育j の生成
うI
れらは単なる f
参加と経験j だけを強調するものとは異なるであろうし,その「参加と経験j が
し、かなる位置づけにあるかを解明することにもつながるであろう。
また,統合的地域社会発展の展開から生まれてきたボランタワー組織が,ネットワークにアイ
CNであり,
デンティティをもっ R
RDRPが地域社会発展にかかわる基本的な活動としてネット
DRPの実賎の突擦においては成人教育語1
ワークを佼罷づけていることは注目される。ただし, R
練実践者のネットワークである場合が多く,地域住民の学習過程におけるネットワーク活動の意
義については必ずしも明確ではない。
RCNと区別される地域ネットワークや課題邪ネットワ…ク
の意義と問時に, TDOとしてのホーガンがあえて「葱の根のネットワーク j を強調していること
の意味を検討してみる必要があろう。
「地域づくり教育」に適合的な不定型教育の代表的方法とされている諸会議・セミナ…・ワー
クショップについては,筆者の言う地域集会や地域研究・地域調査の実践との比較検討が必要と
なろう。その際,
RCNの地域ネットワークや課題別ネットワークが取り組んだ基本的な活動が,
地域課題にかかわる諸会議・研究集会であったことにも注目しておく必要がある。さらに,地域
,I
発展計画の作成j や「制度的諸機
グ、ループの「内部組織の改善Jや「意志決定過程への参加 J
関への対応j は,なお学習過程として位置づけられているわけではないが,ネットワ…ク活動や
地域研究・地域調査活動を超える協同性と公共性の形成に重要な実践である。この点では,
RDRPの活動期聞の制約によって,地域住民が地域づくり活動にかかわることの学習的意味を明
らか U
こすることが不十分であったということもできるが,アントリム渓谷を担当地域としたブー
スのいう第二段階口「活動段階」の意味が,地域住民の学習過税としてより精微に検討される必
要があろう。
第 4は,地域社会教育実践者の専門労働についてである。地域社会発展担当者は,直接的に生
活課題あるいは労働ないし失業問題の解決に取り緩む。しかし,それらに取り組む主体は基本的
に地域住民自身であり,これらの労働者はそれを援助する立場にある。この観点からみることに
よって,地域住民の活動は学習過程となり,地域社会発燥の活動は教育過程となるのである。地
域社会教育実践者の主要な仕事は,地域住民の活動の中に学習的活動と教育的契機を発見し,地
統合Jすることである。地域住民と地域社会発展
域住民との協同によって,それらを組織化し, I
担当者と地域社会教育実銭者の活動は,いずれも不可欠な三三重構造にある。このような関連にお
いて理解される地域社会教育実践者の知識と技能は,定型教育・不定理教育を含めて,新しい,
地域社会教育学」の創造をとおして明らかになるものである。
理論と実践に基礎をおく f
DRPでは,社会教育関連労働者としての地域社会発展担当者を高く位
『中間報告』の時から R
学習連続体j の理解にもあらわれている。 TDOの
置づけており,それは『最終報告』における f
a
c
i
l
i
t
a
t
i
o
ns
k
i
l
l
s
J
実践をとおして,地域社会教育実読者にとくに求められているのは「促進技能 f
であることもより明確になってきている。しかし,自己教育活動と社会教育労働の区別と関連が
明らかでないこともあり,地域住民の社会教育労働については『最終報告』でもふれられていな
い。条件整備者,協同実践者,実践的研究者としての側面などとあわせて地域社会教育実践者の
全体像を明らかにするためには,地域住民の自司教育過程の理解を不可欠とするであろう。それ
によって社会教育労働の内実も変化するからである。
9
9
4
年 3月から 1
2
月にかけて,文部省在外研究員として筆者がイギリス・北ア
(付記:本稿は, 1
イルランドに留学したことによって得られた研究成果の一部である。〕
教 育 学 部 紀 要 第6
9
号
う2
注記
1)拙著『自己教育の論理一主体形成の時代に-~,筑波書房, 1
9
9
2,および山田定市・鈴木敏正編著『地
域づくりと自弓教育活動~,筑波書書房, 1
9
9
2,とくに第五主主を参照されたい。
2) 鍛箸『平和への地域づくり教育ーアルスター・ピープルズ・カレッジの挑戦 - L 筑波警房, 1
9
9
5
。
3) 拙稿はとアイルランドにおける成人教育の構造と Non-FormalE
d
u
c
a
t
i
o
nの意義一ベルファスト食慰地
,W北海道大学教育学部紀聖書』第 6
8
号
, 1
9
9
50
域を中心に一 J
4
) 向上,第鹿主主を参照されたい。
5)EC/EUにおける農業・農村政策の変化については,村国武『現代農業保護貿易の研究ふ金沢大学経済
9
9
4,などを
学部, 1990 ,是永東彦・津谷好人・縞土正 1専問C の農政改築に学ぶ~ ,藤山漁村文化協会, 1
参照。
6) た と え ば , P
.T
e
a
g
u
e
(
e
d
.
),The Economy 0
1N
o
r
t
h
e
r
nl
r
e
l
aπd
:P
e
r
s
p
e
c
t
i
v
e
sl
o
rS
t
r
u
c
t
u
γa
l
9
9
3,など。
Change,Lawrence& Wishart,1
. Murrayand]
.V
.G
r
e
e
r(
e
d
s
.
),R
uralDevelopmenti
nl
r
e
l
a
n
d
:A Changel
o
rt
h
e
7)この点、, M. R
9
9
3,が南北アイルランドの農業・農村問題を総合的に分析している。
1
9
9
0
'
s,Avebury,1
8) サッチャ一政権下の北アイノレランドにおける産業構造の特質と問題点については, F
.G
a
f
f
i
k
i
nand
M.M
o
r
r
i
s
s
e
y,N
o
r
t
h
e
r
nl
r
e
l
a
n
d
:TheT
h
a
t
c
h
e
rYears,ZedBooksL
td
.,1
9
9
0,を参照。
9) 北アイルランド紛争と政治経済構造とのかかわりについては, B
.Rowthornand N
.Wayne,N
othern
仰 d
:TheP
o
l
i
t
i
c
a
lEconomy01C
o
n
l
l
i
c
t,P
o
l
i
t
yP
r
e
s
s,1
9
8
8,が参考になる。
l
r
e
l
1
0
) ECにおける政策変化と北アイルランドにおける農村開発との関係については, M.R
.Murrayand]
.
V
.G
r
e
e
r,R
uralDevelopmenti
nN
o
r
t
h
e
r
nI
r
e
l
a
n
d
:P
o
l
i
c
yFormationi
naP
e
r
i
p
h
e
r
a
lR
e
g
i
o
n01t
h
e
o
u
r
n
a
lo
fR
u
r
a
lS
t
u
d
i
e
s,Vo
.
l8N
o
.2,1
9
9
2,を参照した。
EuoropeanCommunity,J
1
1
) EU/EC の地域政策の概要については,大沼健夫・洋上慎太郎編 mu 政策と理念~ ,早稲回大学出版
9
9
4,とくに第 6震を参照。
部
, 1
1
2
) 北アイルランドで著名なのはクレイガボン町のブラウンロ一地区で展掬している計画である。詳しく
.G
i
l
l
e
s
p
i
e,BrownlowCommunityT
r
u
s
t
:A H
i
s
t
o
r
i
c
a
lAccount,BrownlowCommunityT
r
u
s
t,
は
, N
1
9
9
4, お よ び F
.G
a
f
f
i
k
i
n and M. M
o
r
r
i
s
s
e
y, Brownlow Community T
r
u
s
t
:E
v
a
l
u
a
t
i
o
nR
e
p
o
r
t,
BrownlowCommunityT
r
u
s
t,1
9
9
4,などを参照。
1
3
) EC/EUにおいて教育訓練活動が重要視されてくるのは,農業や地域開発の分野だけでない。人的資
源,社会的逮続性,平等,市民精神,そして地域政策の補完的手段などのアプローチから,しばしば f
不
可視的資本」が位鐙づけられ,多様な領域において展開されている。 1
9
8
7
年から 9
2
年の 5年潤における
EC/EUの金支出に占める割合をみれば,たとえばヨ…ロッパネ士会資金は 7.3
から 8.1%へ,言寄査・技術開
.
9から 4.0%へ,そして直接的な教育訓練に関しては 0
.
2
0から 0.57%へと急場しており,今後より
発は 2
拡大していくことが予想されている。]. F
i
e
l
d,S
p
i
c
e
r
sEuropeanP
o
l
i
c
yB
r
i
e
l
i
n
g
s
:E
d
u
c
a
t
i
o
n
a
land
9
9
4
.p
p
.1
0,1
7,6
4
.
V
o
c
a
t
i
o
n
a
lT
r
a
i
n
i
n
gP
o
l
i
c
y,Longman,1
14) P
. McNamee, T
.L
o
v
e
t
t, T
. Morgan and P
.S
h
a
n
a
h
a
n
(
e
d
s
.
),A
dult E
d
u
c
a
t
i
o
n,Community
Development andR
u
r
a
lR
e
g
e
n
e
r
a
t
i
o
n
:F
i
n
a
lR
e
p
o
r
t0
1t
h
e Rural Development andR
e
g
e
n
e
r
a
t
i
o
n
i
v
i
s
i
o
n,S
c
h
o
o
lo
fS
o
c
i
a
l and Community
P
r
o
j
e
c
t,AdultEducationand CommunityDevelopment D
S
c
i
e
n
c
e
s,F乱c
u
l
t
yo
fH
e
a
l
t
h,S
o
c
i
a
lS
c
i
e
n
c
eandE
d
u
c
a
t
i
o
n,U
n
i
v
e
r
s
i
t
yo
fU
l
s
t
e
r,1
9
9
5,それぞれ第 3章
及び第 8主主を参照、。
1
5
) 拙 稿 rCommunityA
d
u
l
tE
d
u
c
a
t
i
o
nと地域社会教育実践の論理一 TomL
o
v
e
t
tの理論と実践(その
盟ーロッパ資金による農村再生と「地域づくり教育j の生成
う3
寸 )
J,~北海道大学教育学部紀要』第 63号, 1
9
9
4, p. 1
8
9の 〈 表 -2>参娘。
16) 拙稿 r~ ヒアイルランドにおける成人教育の構造と Non-Formal
E
d
u
c
a
t
i
o
nの意義L 官官出,総括を参照、
されたい。
1
7
) Community Development Review Group, Community D
e
v
e
l
o
p
m
e
n
t i
n N
o
r
t
h
e
r
n l
r
e
l
a
n
d
:
9
9
,
1 Community Development Review Group
,A R
e
p
o
r
t on
P
e
r
s
p
e
c
t
i
v
ef
o
rt
h
eF
u
t
u
r
e,CDRG,1
,CDRG,1
9
9
2
.
E
d
u
c
a
t
i
o
nandT
r
a
i
n
i
n
gf
o
rCommunityDevelopmenti
nN
o
r
t
h
e
r
nl
r
e
l
a
n
d
o
u
n
c
i
lf
o
rC
u
l
t
u
r
a
lC
o
o
p
e
r
a
t
i
o
n,A
dultE
d
u
c
a
t
i
o
n and
1
8
) ラベットが意識しているのは,とくに C
πt
:C
h
a
l
l
e
n
g
eandR
e
s
p
o
n
s
e,C
o
u
n
c
i
lo
fEurope,1
9
8
7,である。
CommunityDevelopme
1
9
)P
.McNameee
,
.
tF
i
n
a
lR
e
p
o
r
t,o
p
.
c
i
,
.
tp
p
.9
11
.
2
0
) このような地域社会教育の 3類裂については, S
. ブ、ルックフィールドの地域社会教脊実践の類裂化
とのかかわりが問題となる。 S
.Brookfield,AdultL
e
a
r
n
e
r
s,AdultE
d
u
c
a
t
i
o
nandt
h
eCommunity,
OpenU
n
i
v
e
r
s
i
t
yP
r
e
s
s,1
9
8
3,p
p
.8
4
8
9
. ブルックフィールドやラベットの地域社会教育の類型化とその
評 価 に つ い て は , さ し あ た り 拙 稿 rCommunityA
dult E
d
u
c
a
t
i
o
nと地域社会教育実践の論理 -Tom
,前出,を参照されたい。
L
o
v
e
t
tの理論と実践(そのl)J
2
1)拠箸『自己教育の論理J],前出,序章および第一主震を参照されたい。
2
2
)]
.Bennington,AnA
ssesmento
ft
h
eRuralA
c
t
i
o
nP
r
o
j
e
c
t(N
l
)
, i
nR
u
r
a
lA
c
t
i
o
nP
r
o
j
e
c
t(RAP),
R
u
r
a
lD
e
v
e
l
o
p
m
e
n
t
:A C
h
a
l
l
e
n
g
ef
o
rt
h
e1
9
9
0
'
s,RAP,1
9
8
9
.
,
)
I AnnualR
e
p
o
r
t1986/87,RAP.
2
3
)R
u
r
a
lA
c
t
i
o
nP
r
o
j
e
c
t(N
u
r
a
lA
c
t
i
o
n
:TheNeedS
t
a
t
e
d,i
nRAP,R
u
r
a
lD
e
v
e
l
o
p
m
e
n
t
:A C
h
a
l
l
e
n
g
ef
o
r
2
4
)A
v
i
l
aK
i
l
m
u
r
r
a
y,R
p
.c
i
,
.
tp
p
.5
6
.以下, RAPの活動の背景と全体的な特徴については,:1:としてこの報告書
t
h
e1
9
9
0
'
s,o
および A.K
i
l
m
u
r
r
a
yからの開き取りによる。彼女の農村問題と農村における地域社会発展の理解につい
ては, A
. Kilmurray,CommunityD
e
v
e
l
o
p
m
e
n
ti
nR
u
r
a
lA
r
e
a
s
: Working w
i
t
ht
h
eF
u
t
u
r
e
,i
nA
,N
.F
i
t
z
d
u
f
f,F‘ McCartneyandS
.Burnside,L
o
s
tH
o
r
i
z
o
n
s,New H
o
r
i
z
o
n
s
:Community
K
i
l
m
u
r
r
a
y
r
e
l
a
n
d, The Workers' E
d
u
c
a
t
i
o
n
a
l A
s
s
o
c
i
a
t
i
o
n and Cpmmunity
D
e
v
e
l
o
p
m
e
n
t i
n N
o
r
t
h
e
r
n I
DevelopmentReview Group,1
9
8
9,RAPの 評 価 に か か わ る も の に つ い て は , A
. Kilmurray
,R
u
r
a
l
πP
r
o
j
e
c
t
:TheAsessmentofanA
n
t
i
P
o
v
e
r
t
yl
n
i
t
i
a
t
i
v
e,RAP,1
9
9
1,がある。彼女について
A
c
t
i
o
は,拙喜善『王子和への地域づくり教育J],前出,第一主主で紹介しているので,参照されたい。
2
5
) これらにかかわっては, RAPから次のような報告審が出絞されている。 RAP,R
uralP
o
v
e
r
t
y
:The
,1
9
8
7,A
.K
i
l
m
u
r
r
a
yandC
.B
r
a
d
l
e
y,R
u
r
a
lWomeni
nSouthArmagh:Needsaπd
Needf
o
rA
c
t
i
o
n
?
A
s
p
i
r
a
t
i
o
n
s,1
9
8
9,RAP,R
uralD
e
v
e
l
o
p
m
e
n
t
:TheR
o
l
eofS
e
r
v
i
c
eP
r
o
v
i
s
i
o
n,1
9
8
8,B
. Quinn,R
u
r
a
l
9
8
9
CommunityP
l
a
n
n
i
n
g
:A Modelf
o
rA
c
t
i
o
n,1
姻
2
6
)RAP,R
u
r
a
lD
e
v
e
l
o
p
m
e
n
t
:TheR
o
l
eo
fS
e
r
v
i
c
eP
r
o
v
i
s
i
o
n,
i
b
i
d
.
.このテー?の調査の焦点、となったスト
.Coyle,AnsweringCommunityNeedsi
nS
t
r
a
b
b
a
n
eD
i
s
t
r
i
c
t,RAP,1
9
9
0
.各
ラバン地方については, A
地方の食閣の実態については,このほかの調変地区,すなわちアーマ,ファーマナ,アントリム渓谷につ
n
v
e
s
t
i
g
a
t
i
o
ni
n
t
oCommunityNeedsとL、う共通テ…?の報告書がそれぞれ作成されてい
いても ,Anl
る
。
2
7
) RAP,R
uralD
e
v
e
l
o
p
m
e
n
t
:A C
h
a
l
l
e
n
g
ef
o
rt
h
e1
9
9
0
'
s,o
p
.
c
i
,
.
tp
.2
6
.
2
8
)I
b
i
d
.,pp.
48-51
.
2
9
)]
.Friedman,Empowerment:TheP
o
l
i
t
i
c
sofA
l
t
e
r
n
a
t
i
v
eD
e
v
e
l
o
p
m
e
n
t,1
9
9
2,邦訳『市民・致府・
NGO
]
J,新評論, 1
9
9
5,p
p
.1
4
8
1
51.フワード、マンの批判は第三役界での実態にもとづくものである。し
教 育 学 部 紀 婆 第6
9
号
う4
かし,住民の「主体的カ最形成 empowermentj をめざすオルターナティヴな地域社会発展については,
本稿でテー?とする「地域づくり教育j の考え方と共通するところが多い。
3
0
) Departmento
fA
g
r
i
c
u
l
t
u
r
ef
o
rN
o
r
t
h
e
r
nI
re
l
a
n
d,R
u
r
a
lD
e
v
e
l
o
p
m
e
n
t
:A GovernmentI
n
i
t
i
a
t
i
v
e,
DAN
,
I1
9
9
2,~こよる。
31
) M.R
.MurrayandJ
.V
.G
r
e
e
r,R
u
r
a
lD
e
v
e
l
o
p
m
e
n
ti
nN
o
r
t
h
e
r
nI
r
e
l
a
n
d
,o
p
.c
it
.
3
2
) 以下, I
n
t
e
r
D
e
p
a
r
t
m
e
n
tCommitteeo
nR
u
r
a
lDevelopment,Summary0
]t
h
eWork,C
o
n
c
l
u
s
i
o
n
s
h
e1
DCRD,1
9
9
2,~.こよる。
andRecommendations0]t
3
3
)R
u
r
a
lDevelopmentC
o
u
n
c
i
lf
o
rN
o
r
t
h
e
r
nI
re
l
a
n
d,AnnualR
e
p
o
r
tMay1
9
9
2
J
u
n
e1
9
9
3
.
3
4
) RDCの内部資料により作成。
3
5
) TheR
u
r
a
lWomen'sR
e
s
e
a
r
c
hP
r
o
j
e
c
t,R
u
r
a
lWomen:AnAnnotatedB
i
b
l
i
o
g
r
a
p
h
y
;Re
仰b
l
i
c 0]
l
r
e
l
a
n
d,N
o
r
t
h
e
r
nI
r
e
l
a
n
dandG何 a
tB
r
i
t
a
i
n,1
9
9
3
.
3
6
)R
u
r
a
lCommunityNetwork(RCN),NEWSLETTER.
・M
arch1991,RCN.
u
r
a
lP
o
v
e
r
t
y,Commu
πi
t
yD
e
v
e
l
o
p
m
e
n
t and t
h
e European Community: R
e
p
o
r
t ]rom
3
7
) RCN,R
e
p
t
e
m
b
e
r1992,RCN.
AnnualG
e
n
e
r
a
lM
e
e
t
i
n
g19S
ur
・
a
lCommunityNetwork2ndAnnualR
e
p
o
r
t1992
…9
3,RCN.
3
8
) RCN,R
i
γe
c
t
o
r
y0]R
u
r
a
lCommunityNetworkMembers1993
,RCN.
3
9
) RCN,D
u
r
a
l Community Network 2ndAnnual R
e
p
o
r
t 1992-93,お よ び NEWSLETTER,N
o
.
4
0
) RCN,R
9
9
1
9
4,による。
1
1
0,1
4
1)以下, T
.H
u
r
s
o
n
(
e
d
.
),R
u
r
a
lCommunityD
e
v
e
l
o
p
m
e
n
t
:A R
e
g
i
o
n
a
lApproachi
nt
h
eOmaghR
u
r
a
l
fR
u
r
a
lA
s
s
o
c
i
a
t
i
o
n
sandR
u
r
a
lCommunityNetwork,1
9
9
2,による。
Area,OmaghForumo
4
2
) 以下, T
.R
o
b
s
o
n
(
号d
.
),S
t
r
a
b
a
n
e Community N
e
t
w
o
r
k
:C
o
n
]
e
r
e
n
c
eR
e
t
o
r
t,R
u
r
a
l Community
9
9
3,~.こよる e
NetworkandS
t
a
r
b
a
n
eD
i
s
t
r
i
c
tC
o
u
n
c
i
l,1
4
3
) ネットワーキングに続く f
地域集会Jが「自己意識の普遍{ヒ」をめざす活動であり,地域づくり学溜あ
るいは地域づくりを志向する生涯学習計画づくりの最初の段階で、重要な役割をはずこすことについては,
自己教育の論理ふ官官出, p
p
.1
7
7
9,2
6
4
7,t
出稿 f
地域生涯学習計痴化への社会教育実践論的接
拙著 f
近j,前出, p
p
.1
0
1
2,などを参照されたい。
4
4
)T
.D
e
v
l
i
n and P
.C
a
r
oJ
l(
e
d
.
),R
u
r
a
lP
l
a
n
n
i
n
gS
t
r
a
t
e
g
y
;
・A C
ommunityC
o
n
s
u
l
t
a
t
i
o
nR
e
s
t
o
n
s
e,
RDC,RCNandCTA
, 1
9
9
2,RCN,CommunityA
u
d
i
t
:
・FromS
e
l
]
h
e
l
tt
oC
o
n
s
u
l
t
a
n
t,RCN,1
9
9
2,な
どを参照。
4
5
) RCN,SmallS
c
h
o
o
li
nR
u
r
a
lD
e
v
e
l
o
t
m
e
n
t
:A C
o
n
]
e
r
e
n
c
eR
e
t
o
r
t,RCN,1
9
9
2
u
r
a
lCommunityNetwork2ndAnnualR
e
p
o
r
t1992-93,o
p
.c
it.,による。
4
6
) RCN,R
4
7
) M.Mage
告(
e
d
.
),H
e
a
l
t
hi
nR
u
r
a
lA
r
e
a
s
:S
e
e
k
i
n
gaR
u
r
a
lP
o
l
i
c
y,RCN,1
9
9
3,による。
4
8
) r健康学習」については,拙著『自己教育の論理~,前出,第二重量を参照されたい。
4
9
) Women's Study P
r
o
j
e
c
t,Study 0] Women's G
routs i
nR
u
r
a
l Areas i
nN
o
r
t
h
e
r
nI
r
e
l
a
n
d
:A
,RCN,1
9
9
4,による。
D
i
s
c
u
s
s
i
o
nPater
5
0
)女性問題学習における f
自己信頼j の獲得,より一般的には自己意識化の実践の重要性については,拙
稿「主体的力量形成への『私の時間 ~j ,北海道大学教脊学部『社会教育研究』第 1
5号
, 1
9
9
5,宏参照され
T
こし、。
51
) RCN,D
r
a
]
tRCNS
t
r
a
t
e
g
i
cPlan1994-97,RCN,1
9
9
4
.
.K
i
l
m
u
r
r
a
y
,SummaryandA
s
s
e
s
s
m
e
n
t0] t
h
eWo
r
k0] t
h
e
5
2
) 以下,キルマレイによる評価は, A
ヨーロッパ資金による農村再生と「地域づくり教育j の生成
う
う
R
u
r
a
lCommunityNetwork]99]-]993,C
h
a
r
i
t
i
e
sE
v
a
l
u
a
t
i
o
nS
e
r
v
i
c
e,1
9
9
4,による。
5
3
) 継続教育カレッジの動向と特徴については, ReviewGrouponF
u
r
t
h
e
rE
d
u
c
a
t
i
o
n,R
e
p
o
r
tt
ot
h
e
ん1
i
n
i
s
t
e
rl
o
rE
d
u
c
a
t
i
o
no
nt
h
eP
l
a
n
n
i
n
gandFunding0
1FurtherEducationProvisioni
nN
o
r
t
h
e
r
n
,Cooper & Lybrand,1
9
9
2, お よ び 拙 稿 「 北 ア イ ル ラ ン ド 成 人 教 育 の 構 造 と Non-Formal
1
r
e
l
a
n
d
E
d
u
c
a
t
i
o
nの意義J,前出,を参照されたい。
5
4
)P
. McNamee(ed.),The R
u
r
a
lD
e
v
e
l
o
p
m
e
n
t and Rege
向e
r
a
t
i
o
nP
r
o
j
e
c
t
:I
n
t
e
r
i
mR
e
p
o
r
t0
1 an
f Adult and C
o
n
t
i
n
u
i
n
g
INTERREG P
r
o
j
e
c
t Funded by t
h
e Euopean Union, Department o
E
d
u
c
a
t
i
o
n,U
n
i
v
e
r
s
i
t
yo
fU
l
s
t
e
r,1
9
9
4
.以下, I
n
t
e
r
i
mR
e
p
o
r
tと略。プロジェクトの概要については,主に
n
t昔r
i
mR
e
p
o
r
tによった。
この I
5
5
)P
. McNamee,T
.L
o
v
e
t
t,T
. Morgan and P
.S
h
a
n
a
h
a
n
(
e
d
s
.
),A
d
u
l
tE
d
u
c
a
t
i
o
n, Community
D
e
v
e
l
o
p
m
e
n
tandR
u
r
a
lR
e
g
e
n
e
r
a
t
i
o
n
:F
i
n
a
lR
e
p
o
r
t0
1the Rural Development and Regeneration
P
r
o
j
e
c
t,o
p
.
c
it..以下, F
i
n
a
lR
e
p
o
r
tと略。
5
6
)I
n
t
e
r
i
mR
e
p
o
r
t,p
.7
.
5
7
)I
b
i
d
.,p
.8
.
5
8
)P
. McNamee,RDRP: A
c
t
i
o
nR
e
s
e
a
r
c
h,D
a
t
a
C
o
l
l
e
c
t
i
o
n
;
・T
r
a
i
n
i
n
g& D
e
v
e
l
o
p
m
e
n
tO
l
l
i
c
e
r
s
'
9
9
3
.
F
i
e
l
d
w
o
r
kS
c
h
e
d
u
l
e,RDRP,March]
5
9
)P
.McNamee,TheR
u
r
a
lD
e
v
e
l
o
p
m
e
n
tandR
e
g
e
n
e
r
a
t
i
o
nP
r
o
j
e
c
t
:TheA
c
t
i
o
n
R
e
s
e
a
r
c
hP
r
o
c
e
s
s
,
RDRP,May1
9
9
3
.
c
t
i
o
nR
e
s
e
a
r
c
hS
t
r
a
t
e
g
y,RDRP,June1
9
9
3
.
6
0
)P
.McNamee,RDRP:TheA
61
)P
.McNamee,A T
ypology0
1RuralDevelopment,RDRP,September1993.
p
.52-53
6
2
)I
n
t
e
r
i
mR
e
p
o
r
t,p
d
u
c
a
t
i
o
nandT
r
a
i
n
i
n
gl
o
rR
u
r
a
lD
e
v
e
l
o
p
m
e
n
t
:I
n
t
e
r
r
i
mF
i
n
d
i
n
g
s0
1aUniversity
6
3
)P
.McNamee,E
0
1UlsterResearchProject,RDRP,March1994.
.2
3
. ここでは,地域社会発展 communitydevelopmentが中心であり,経済的再生につ
6
4
)F
i
n
a
lR
e
p
o
r
t,p
いてはより低い比重でしか扱えなかったことが述べられている。
6
5
)I
n
t
e
r
i
mR
e
p
o
r
t,p
p
.1
1
1
6
.
6
6
)F
i
n
a
lR
e
p
o
r
t,p
p
.1
0
5
1
2
1
6
7
) 以下, I
n
t
e
r
i
mR
e
p
o
r
t,p
p
.3
3
4
2,および F
i
n
a
lR
e
p
o
r
t,p
p
.2
9
4
4,による。
6
8
)F
i
n
a
lR
e
p
o
r
t,p
.2
5
2
7
.
6
9
)I
b
i
d
.,p
.1
2
5
.
北アイルランド成人教脊の構造と Non-FormalE
d
u
c
a
t
i
o
nの意義J,前出,を参照され
7
0
) この点,拙稿 f
7
こ
し
、
。
71)同上,第 1
江主撃を参照、されたい。
7
2
)農村の地域社会発展への関連労働者のかかわりはほんらい f
参与裂 Jでなければならないこと,その理
念と行政の論理との矛盾などについては,みずからのコミュエティ・ワーカーとしての体験をふまえた,
S
.Wright,R
u
r
a
lCommunityD
e
v
e
l
o
p
m
e
n
t
:WhatS
o
r
t0
1SocialChange?,Journalo
fR
u
r
a
lS
t
u
d
i
e
s,
Vo
.
l8No.,
11
9
9
2,が参考になる。
7
3
) これらについてはその後,あらためて論点を整理して,デワー市で開催された国際会議で報告した。
ToshimasaS
u
z
u
k
i,TheI
d
e
n
t
i
t
y0
1CommunityDevelopmentEducation:From theExperiences i
n
河, A R
e
p
o
r
tp
r
e
s
e
n
t
e
di
nt
h
eI
n
t
e
r
n
a
t
i
o
n
a
lC
o
n
f
e
r
e
n
c
e on t
h
eR
o
l
eo
fA
d
u
l
tE
d
u
c
a
t
i
o
nf
o
r
!apa
教 育 学 部 紀 婆 第6
9
号
56
Community Development and Community Economic Development i
na
nI
n
t
e
r
R
日g
i
o
n
a
lC
o
n
t
e
x
t,
D
e
r
r
y
,N
o
r
t
h
e
r
nI
r
e
l
a
n
d,1
6
1
8September1
9
9
4
.
巴r
mentの概念については,さしあたって,拙稿「主体的力量形成への『私の時
7
4
)主体的力量形成 empow
潤』ーアルスター大学アウトリーチ・コースの事例から-J
,北海道大学教育学部『社会教脊研究』第 1
5
号
, 1
9
9
5,を参照、されたい。
75) 拙著『自己教育の論理~ ,部出,第三主主を参照されたい。総合行政として展開され,地減づくりを志向
する生渡学習計画づくりも,狭義の自己教育主体形成に殴有な実践を除けば, ~ま本的に同じような発展
過程をたどるといえる。
し
、
。
t
出稿「地域生渡学習計画化への社会教育実践論的接近J.前 W,を参照、された
Fly UP