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日本人の対外国人ステレオタイプの地域差: 英語教育との関連から
日本人の対外国人ステレオタイプの地域差: 英語教育との関連から 東北学院大学 クリストファー・ロング ABSTRACT: The current research investigates regional differences in Japanese university students’ evaluation of non-Japanese. The current study which follows an identical methodology as Long (2008) (i.e., materials, procedure), who investigated the attitudes of university students in Tokyo, was implemented at a large private liberal arts college in Sendai. The study utilized the matched guise technique (e.g., Lambert et al., 1960) for which 2 groups of students (group A = 40, group B = 37) evaluated Japanese self-introductions (1 male, 1 female) on a set of 30 semantic differential scales. Although created by confederate Japanese native speakers, the self-introductions were presented to participants as either the voice of an American or Chinese who had been raised in Japan since an early age. Results indicated the following significant findings. First, fewer significant differences (2 vs. 12) were uncovered compared to an identical study carried out in Tokyo (Long, 2008). Second, compared to the current study, the Tokyo results indicated an overall more positive evaluation of American guises. Finally, the effect of voice type was different in the two studies. In Tokyo, there were fewer significant differences compared to Sendai as a result of voice type. The results are interpreted in terms of cognitive theories of stereotypes and their implications are discussed with regards to English education in Japan. はじめに およそ 100 年前に Lipmann(1932)がステレオタイプという概念を提唱して以来、様々な 分野において、ステレオタイプが研究対象として取り扱われてきた。簡単に定義すると、 ステレオタイプはある特定のグループに対しての固定概念及び単純化された一般的なイメ ージである(根橋、2000; Rogers & Steinfatt, 1999)。このような外/内集団に対する固定概 念が人間の行動に様々な影響を及し、異文化間コミュニケーションをはじめ、社会のあら ゆる側面において重大な課題となっている。先行研究(Macrae, Stangor, & Hewstone, 1996; Oskamp & Schultz, 2005 など)で指摘されているように、ステレオタイプ形成には様々な要 52 クリストファー・ロング 因が影響を与えているため、本研究では地域差に焦点を当て、日本人大学生のアメリカ人 及び中国人に対するステレオタイプを検討した。 先行研究 日本人が持つ外国人に対するステレオタイプは長年に渡って研究されてきた。例えば、 50 年以上前に行われた研究では、泉(1953)が日本人の異民族距離をはかるため、344 名 の東京都の住民にアンケート調査を行った。泉(1953)は日本人が深い関わりを持つ 16 の 国民及び人種に対する日本人の好意度やイメージを検討し、その結果、アメリカ人、フラ ンス人、ドイツ人などの欧米系外国人に対する好意的な評価が判明した一方、韓国、中国 のようなアジア系外国人及び黒人に対する否定的な評価が明らかになった。1950-60 年代 には、泉(1953)と同様な傾向を示す数多くの研究結果が報告されている(葛谷、1955、 1960;原谷ら、1960;林ら、1965;我妻・米山、1965 など)。 最近の研究においても、根橋(2000)が指摘するように同様な傾向が認められ(蔵本、 2006;佃、2002;辻村ら、1987;藤原、1982;堀、1977;Forrer, Sedlacek, & Agarie, 1977; Ishii, 1976;Sorensen & Maeda, 2002;Vee, 2003 など)、例えば、堀(1977)では、日本を含 む 16 ヶ国に対する日本人の優劣感をアンケート調査で調べた。その結果、8 つの欧米の国々 の内 6 つが日本より上位、そして 7 つのアジアや南米を中心とする非欧米の国々が日本よ り下位に順位付けられた。これは、Koshiro(1992)が述べるように日本人の欧米に対する 劣等感、アジアに対する優越感を表していると考えられる。Forrer et al.(1977)の研究では、 日本人大学生の韓国人及び黒人への否定的な評価が検証されたと同時に、黒人がより否定 的にみられたと報告されている。また、このような日本人の外国人に対するステレオタイ プが異文化交流や英語教育など、様々な場面に影響を与えているという研究もある(萩原・ 岩男、1977、1987、1988、1997;Goto, 2007;Long, 2006;Tanaka et al., 1994 など)。 本研究では、社会心理言語学研究で広く使用されているマッチトガイズ・テクニック [Matched-Guise Technique] という実験法(以下 MGT と記す)を利用し、日本人の外国人に 対するステレオタイプを検討した。MTG では、同一人物が 2 つの言語変種を利用した場合 (例:標準語と方言)、それぞれに対して、2 つの調査協力者グループが複数の項目(知的、 暖かい、など)を評価し、外/内集団のステレオタイプを検証する(岡本、2001;Gallois, Callan, & Johnstone, 1984;Hogg, Joyce, & Abrams, 1984;Lambert et al., 1960;Long, 2008 など)。例 えば、Long(2008)では、MGT を利用して、東京にある私立大学(A 大学)の学部生にア 53 研究ノート 日本人の対外国人ステレオタイプの地域差: 英語教育との関連から メリカ人及び中国人を 30 項目で評価してもらい、その結果、有意差が認められた 12 項目 の内、9 項目が中国人よりアメリカ人の方がより肯定的な評価を受けた。Long(2008)は、 この結果が多くの先行研究で指摘されている日本人のアジア及び欧米に対するステレオタ イプを示すと述べている。 本研究では、Long(2008)と同一の研究法(音声資料、手順など)を用いて、仙台にあ る私立大学(B 大学)の英文学科の科目の履修生を対象に行い、日本人の大学生に見られる 外国人に対するステレオタイプ地域差を検討した。 方法 調査協力者 本調査は 2006 年に B 大学(仙台)の学部生を 2 つの調査協力者グループに分け(グルー プ A:40 名、男 17 名、女 23 名;グループ B:37 名、男 11 名、女 26 名)行われた。 音声資料 日本語母語話者の 2 人(男女一人ずつ)による自己紹介が主な音声資料である。自己紹 介では、幼いころから日本で育った外国人を演じながら、大まかな概要(a)来日時の年齢 (男性:8 歳、女性:7 歳)、(b)最初の苦労(日本語が分からなかった、など)、(c)苦労 を乗り切ったこと(友達や先生のおかげ、など)、 (d)現在の大学生活(好きな科目、部活、 など)、(e)進路計画(仕事、大学院、など)、に沿って、自由に話してもらい、IC レコー ダで収録した。 男女の自己紹介の本体は次の通りである: 男性の自己紹介:8 歳の時に、父の仕事の関係で日本にやって来ました。そして、18 歳になるまで、岡 山県に住んでいました。現在は、大学に通うため、東京に住んでいます。最初日本に来た時は、日本語が 全くわからなくて、まっ、日常で生活する上でもとても困りました。でも、テニスが好きで、まぁ、町に あるテニスクラブに入って、そこで友達が沢山でき、友達に助けられました。でまっ、その友達に日本語 を沢山教え、教えてもらって、結構しゃべれるようになって、今では 2 ヶ国語しゃべれるようになったの で、とてもよかったと思ってます。今年大学 4 年生になり、今は就職活動の真っ只中です。私はバイリン ガルってこともあり、例えば、ン、通訳とか、貿易会社とか、そういった言葉を活かせるような仕事に就 きたいと思っています。で、去年まではクラブ活動、まっテニスサークルなんですけども、そちらの方を 頑張ってましたが、今年は就職活動が忙しくて、お休みしています。で、大学生活もあと 1 年なので、悔 いの残らないように頑張りたいと思います。 54 クリストファー・ロング 女性の自己紹介:私は7歳で父の転勤のために日本へ引っ越してきました。高校を卒業するまで両親と 一緒に千葉で生活していたんですけども、今は大学へ通うために東京へ引っ越して来ました。初め日本へ 来た時は、日本語も全然わからなくて、えーっと、周りの人が何を言っているのか全然わかりませんでし たが、えー、学校に通い始めて、学校で友達をつくって、少しずつ 日本語が喋れるようになりました。私 の学校の国語のクラスでは、毎週漢字のテストがあったんですけども、最初のうちは全然わからなくて、 で、放課後友達が一緒に残って漢字を教えてくれて、で、その友達の日本語を聞きながら、日本語をどん どん覚えて、で、今みたいに喋れるようになりました。なので、私が日本語を喋れるようになったのは、 えーっと、学校を通った、学校だけはなく、両親の影響でもなく、友達の影響が一番だったかなと思いま す。私は、4 月、今年の 4 月に大学 3 年生になるんですけども、今は、えーっと、言語学の勉強をしてい ます。特に、第二言語習得や、えーっと、言語習得の勉強に興味があって、これらのクラスでは、えーっ と、他の人々がどういう風に言葉を習得したりするかという勉強をするので、えーっと、私が経験したこ ともたくさん生かすことができるので、とてもおもしろいです。これからは、えーっと、もっとコミュニ ケーションのクラスとか、えーっと、異文化に関係するクラスをとって、えーっと、もっともっといろん な知識をつけて、このまま大学を卒業して、大学院でも、えーっと、言語学とかコミュニケーションの勉 強をできればいいなと思っています。 上記の自己紹介本体とは別に、下記の 4 つのバージョンの挨拶文を収録し、音声編集ソ フト(Audacity 1.2.6)を使用して、自己紹介の本体に合体させ、アメリカ人女性、中国人女 性、アメリカ人男性、中国人男性という 4 つの自己紹介を作成した。 男性の挨拶文: はじめまして、私は 22 歳のアメリカ人です はじめまして、私は 22 歳の中国人です 女性の挨拶文: はじめまして、私は 21 歳のアメリカ人です はじめまして、私は 21 歳の中国人です 質問用紙 相手の印象を測定するため、Long(2008)及び岡本(2001)で使用された以下の 30 項目 を借用し、各項目を 7 段階の評定尺度方式 [Semantic Differential] の質問用紙を利用した。 性格について(21 項目) :親切な―不親切な、寛大な―心が狭い、正直な―不正直な、素直な―素直で ない、暖かい―冷たい、性格のよい―性格の悪い、忍耐力のある―忍耐力のない、信頼できる―信頼でき ない、真面目な―不真面目な、知的な―知的でない、冷静な―冷静でない、洗練された―野暮ったい、想 像力のある―想像力のない、リーダー的な―リーダー的でない、明るい―暗い、社交的な―非社交的な、 ユーモアのある―ユーモアのない、おしゃべりな―無口な、積極的な―消極的な、自信のある―自信のな 55 研究ノート 日本人の対外国人ステレオタイプの地域差: 英語教育との関連から い、野心的な―野心のない 話し方について(6 項目) :流暢な―流暢でない、明瞭な―明瞭でない、声が大きい―が小さい、話が うまい―話がへたな、聞き取りやすい―聞き取りにくい、言葉づかいがきれいな―言葉づかいがきたない 外見について(3 項目):見かけがよい―見かけが悪い、背が高い―背が低い、痩せた―太った 実験の手順 実験の刺激となった日本語での自己紹介を聞かせる前に、研究目的と調査方法の説明が 収録された音声を聞かせた。説明では、(1)自己紹介を話している人が日本で育ったバイ リンガルな外国人であることを強調し、(2)回答の仕方の説明を行った。例えば、外見の ような答えにくい項目に関しては、 「想像して答える」などのような指示を与えた。説明を 聞かせてから、調査協力者に 2 つの自己紹介(男女一つずつ)を 2 回ずつ聞かせ、聞きな がら質問用紙の 30 項目に答えてもらった。調査協力者グループ A に中国人男性・アメリカ 人女性とグループ B にはアメリカ人男性・中国人女性の音声資料を与えた。 結果 B 大学(仙台)の分析結果 話し手の国籍による評価の違いを調べるため、各項目に対するアメリカ人及び中国人の 評定平均値の差をt検定で調べた1。その結果、表 1 で示されているように、30 項目の内、2 つにおいて、国籍による評価平均値に有意差が認められた(真面目―不真面目、明瞭―明瞭 でない)。また、すべての項目は話し手が中国人であると調査協力者が思った場合、より肯 定的な評価を与えた。この結果をLong(2008)の結果と比べ、いくつかの違いがわかる。 まず、上述のように、Long(2008)では、調べた 30 項目の内、12 項目において国籍による 有意差が認められ、B大学(仙台)のデータを大幅に上回っている。また、Long(2008)で は、有意差が認められた 12 項目の内、9 項目が中国人よりアメリカ人の方がより肯定的な 評価を受けた。これに対して、本調査のB大学(仙台)のデータでは有意差が認められた 2 つの項目のすべてにおいて中国人がより肯定的に評価された2。 56 クリストファー・ロング 表1.話し手の国籍による評定平均値(B大学―仙台) 性格 1 真面目‐不真面目 話し方 2 明瞭な‐明瞭でない アメリカ人 中国人 M =2.39 (SD =1.25) > M =2.12 (SD =1.08) df 76 t 2.05 * M =2.03 (SD =1.20) > M =1.75 (SD =1.00) 76 2.32 * * p <.05, ** p <.01, *** p <.001 声の特徴について 徳井(2000)、Stangor と Schaller(1996)などが指摘するように、ステレオタイプが強け れば強いほど相手を評価する際、相手の特徴を無視し、ステレオタイプに頼ってしまう傾 向にある。本調査の刺激として使用された音声資料(男女の自己紹介)には、調査協力者 の評価に影響を与える周辺言語的な特徴があると考えられる。男性の話すスピードが遅く、 イントネーションが平坦、そして話が比較的短いというおとなしいかつ冷静なイメージを 与える。また、これは日本人がアジア人に抱くステレオタイプに合致する特徴である。一 方、女性の話すスピードが速く、イントネーションが強弱、そして話が比較的長い。つま り、感情的及び活発なイメージを与え、日本人の持つアメリカ人に対するステレオタイプ に当てはまる。言い換えれば、男性はアメリカ人のイメージに反する特徴があり、女性は アジア人のイメージに反する特徴がある。このような特徴が評価にどのような影響をもた らしたのかを検証するため、男性の声及び女性の声に対する評価を地域別に分析した。 男性の声に対する評価の地域差 表 2 及び表 3 は男性の声に対する評定平均値の国籍で有意差が認められた項目を地域別 に示している。表 2 でわかるように B 大学(仙台)の場合、3 つの項目が有意な差を示し(親 切―不親切、真面目―不真面目、積極的―消極的)また、すべての項目において話し手が 中国人の場合、より肯定的な評価を得た。 表 2.男性の話し手の国籍による評定平均値の差(B大学―仙台) 性格 1 親切‐不親切 2 真面目‐不真面目 3 積極的‐消極的 アメリカ人 中国人 M =3.80 (SD =1.47) > M =3.27 (SD =1.19) M =2.70 (SD =1.38) > M =2.16 (SD =1.30) M =4.60 (SD =1.50) > M =3.78 (SD =1.44) df 36 36 36 t 2.05 2.07 2.70 * * ** * p <.05, ** p <.01, *** p <.001 一方、表 3 で示されているように、A 大学(東京)において、12 項目が国籍による評価 平均値の有意差が示した(親切―不親切、寛大―心が狭い、暖かい―冷たい、性格が良い ―性格が悪い、明るい―暗い、自信のある―自信のない、流暢―流暢でない、声が大きい 57 研究ノート 日本人の対外国人ステレオタイプの地域差: 英語教育との関連から ―声が小さい、話がうまい―話がへた、聞き取りやすい―聞き取りにくい、背が高い―背 が低い)。また、B 大学(仙台)と逆に、すべての項目において、話し手がアメリカ人の場 合、調査協力者がより肯定的な評価を与えた。つまり、B 大学(仙台)の場合、声の特徴が 与えられたステレオタイプに一致した場合、より肯定的な評価を与えた。一方、A 大学(東 京)では、声の特徴と関係はなく、アメリカ人であると思った場合、より肯定的な評価を 与えた。 表3.男性の話し手の国籍による評定平均値の差(A大学―東京) アメリカ人 M = 2.81(SD =1.27) M =2.91 (SD =1.20) M =3.20 (SD =1.56) M =2.59 (SD =1.19) M =3.84 (SD =1.49) M =3.07 (SD =1.26) < < < < < < 中国人 M =3.29 (SD =1.15) M =3.36 (SD =1.06) M =3.81 (SD =1.33) M =3.14 (SD =1.05) M =4.60 (SD =1.47) M =3.67 (SD =1.30) df 43 43 43 43 43 43 t 2.07 2.18 2.27 2.61 2.69 2.49 M =1.18 (SD =0.54) M =1.68 (SD =0.98) M =2.52 (SD =1.27) M =3.11 (SD =1.56) < < < < M =1.55 (SD =0.86) M =2.36 (SD =1.45) M =3.67 (SD =1.26) M =3.79 (SD =1.32) 43 43 43 43 2.70 2.87 4.63 2.48 ** 11 聞き取りやすい‐聞き取りにくい M =1.48 (SD =1.02) < M =2.19 (SD =1.38) 43 3.05 ** 外見 12 背が高い‐背が低い 43 3.10 ** 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 性格 親切‐不親切 寛大‐心が狭い 暖かい‐冷たい 性格がよい‐性格が悪い 明るい‐暗い 自信のある‐自信の ない 話し方 流暢‐流暢でない 明瞭な‐明瞭でない 声が大きい‐声が小さい 話がうまい‐話が へた M =2.25 (SD =0.97) < M =2.83 (SD =0.99) * * * * ** * ** *** * * p <.05, ** p <.01, *** p <.001 女性の声に対する評価の地域差 表 4 及び表 5 では、地域別に女性の声の国籍による分析結果が示されている。表 4 でわ かるように、B 大学(仙台)では 5 項目が国籍による有意な差を示した(想像力のある―想 像力のない、明るい―暗い、おしゃべり―無口、背が高い―背が低い、痩せた―太った)。 これは仙台における男性の声に対する結果と反対であり、5 項目の内、4 つがアメリカ人に 対してより肯定的な評価を示している。しかし、声の特徴が与えられた国籍に一致した場 合、より肯定的な評価を与えたという結果は男性の声の場合と同様であり、B 大学(仙台) における一貫した傾向を示す。 58 クリストファー・ロング 表4.女性の話し手の国籍による評定平均値の差(B大学―仙台) 性格 1 想像力のある‐想像力のない 2 明るい‐暗い 3 おしゃべりな‐無口な 外見 4 背が高い‐背が低い 5 痩せた‐太った アメリカ人 中国人 M =2.66 (SD =0.97.) < M =3.33 (SD =1.19) M =2.14 (SD =0.92) < M =2.70 (SD =1.16) M =2.43 (SD =1.12) < M =2.93 (SD =1.31) df 36 36 36 t 2.89 2.62 2.08 M =3.34 (SD =1.23) < M =3.76 (SD =1.24) M =2.97 (SD =1.17) > M =2.50 (SD =1.06) 36 36 2.13 2.15 ** ** * * * * p <.05, ** p <.01, *** p <.001 A 大学(東京)では、国籍による有意差を示した 9 項目の内、4 つがアメリカ人(想像力 のある―想像力のない、ユーモアのある―ユーモアのない、おしゃべり―無口、背が高い ―背が低い) 、そして 5 つが中国人(忍耐力のある―忍耐力のない、冷静―冷静でない、流 暢―流暢でない、話がうまい―話がへた、痩せた―太った)に対してより肯定的な評価を 示している(表 5)。この結果は、B 大学(仙台)より複雑なパターンを示していると言え る。しかし、中国人に対するアジア的特徴、そしてアメリカ人に対するアメリカ的特徴が 肯定的に評価され、声の特徴から離れた、与えられた国籍というカテゴリーに沿って評価 を行ったことがわかる。 表5.女性の話し手の国籍による評定平均値の差(A大学―東京) 1 2 3 4 5 6 7 8 9 性格 忍耐力のある‐忍耐力のない 冷静‐冷静でない 想像力のある‐想像力のない ユーモアのある‐ユーモアのない おしゃべりな‐無口な 話し方 流暢‐流暢でない 話がうまい‐話がへた 外見 背が高い‐背が低い 痩せた‐太った アメリカ人 M =2.98 (SD =1.27) M =3.24 (SD =1.34) M =3.07 (SD =0.87) M =3.14 (SD =1.22) M =2.67 (SD =0.93) 中国人 M =2.43 (SD =1.19) M =2.41 (SD =1.19) M =3.80 (SD =1.23) M =4.00 (SD =1.08) M =3.14 (SD =1.39) df 43 43 43 43 43 t 2.43 3.37 3.48 3.81 2.18 M =1.83 (SD =1.10) > M =1.34 (SD =0.68) M =2.36 (SD =1.08) > M =1.80 (SD =1.82) 43 43 2.82 3.05 ** M =3.48 (SD =1.33) < M =4.32 (SD =1.25) M =3.52 (SD =1.15) > M =2.57 (SD =1.09) 43 43 3.38 4.36 ** > > < < < * ** *** *** * ** *** * p <.05, ** p <.01, *** p <.001 考察 多くの研究では、ステレオタイプの認知構造をスキーマとしてとらえる(西田、2000; Bartlett, 1932;Nishida, 1999;Nishida, Hammer & Wiseman, 1998;Fiske & Taylor, 1991 など)。 西田(2000)は、「スキーマとは見聞きしたり、体験したりする事柄などを通して私たちが 構築する認知構造のことを指す」(p. 105)と述べている。また、「感覚器官を通して入って きた情報は・・・(略)・・・スキーマを活性化し、そのスキーマ内の情報によって処理さ 59 研究ノート 日本人の対外国人ステレオタイプの地域差: 英語教育との関連から れる」(p. 217) としている。このような認知構造は我々の内/外集団に対する知覚に様々 な影響を与えている。例えば、ステレオタイプ(つまりスキーマ)が活性化されると、相 手の特徴を無視し、スキーマ内情報に頼り、相手を固定概念によってとらえる傾向がある (Macrae et al., 1996;Nishida, 2000)。ステレオタイプが深く根付いている場合、この傾向が より顕著になることが知られている(徳井、2000;Hudson, 1990;Lipmann, 1932; Macrae et al., 1996;Pichert & Anderson, 1977;Stangor & Schaller, 1996)。 今回の結果では、B 大学(仙台)のデータにおいて、刺激となった声の特徴が外国人に対 する評価により大きな影響を与えた、と見ることができる。つまり、B 大学(仙台)の学生 は相手の個人的特徴から識別し、与えられたステレオタイプ的カテゴリー(国籍)に頼る 傾向は比較的弱かった、と言える。これに対して、A 大学(東京)のデータにおいては、声 の特徴自体から影響を受ける程度は少なく、国籍というステレオタイプ的カテゴリーが全 体的に強い影響を及ぼしていることがわかる。特にアメリカ人の場合、この傾向が顕著に 見られる。 この結果を解釈するため、本調査の対象となった二つの大学の特徴について考えたい。 学力レベルに関して、A大学(東京)の教育基準(偏差値3及び全国ランキング4)がB大学 (仙台)をはるかに上回り、特に英語教育に関しては、全国のトップレベルと評価されて いる。また、A大学の 11,642 名の学生の内、881 名が留学生であり、全体の学生数の 8%を 占めている5。これに比べ、B大学の 12,601 名の学生の内、留学生は 50 名ほどであり、学生 数の 1%にも満たない6。また、B大学の 2008 年度の新入生意識調査によると、学生の 48% が仙台あるいは仙台の周辺から来ており、東北地方以外の出身は 1.5%止まりである。これ に比べ、全国各地から優秀な学生を集めるA大学(東京)の場合、地域性は極めて低いと言 える。 これらの要因が今回の結果にどのような影響を及ぼしたのかを、本調査のみで明確にす ることはできないが、より国際的かつ学力レベルが高いとされる大学において、より深い ステレオタイプ及び欧米系外国人に対するより肯定的な態度が判明されたことは興味深い 結果である。太田(2000)やロング(2008)が指摘するように多くの日本人は「異文化遭 遇=英語」、「外国人=アメリカ人」というステレオタイプを抱いているが、こうしたイメ ージが日本社会における国際化の妨げになる可能性は大いに考えられる。また、こうした イメージが異文化間コミュニケーションの土台となる相手に対する受容態度に影響を与え、 場合によっては誤解や摩擦を生じさせる恐れもある。今回の結果から、教育など様々な要 60 クリストファー・ロング 因の影響をより詳細に検討し、日本人の対外国人受容態度のメカニズムを解明する必要が ある、と考える。グローバル化が進む今日、国際理解教育のみならず、日本における教育 の重大な課題である、と思われる。 問題点として(1)刺激となる声が少ないこと、(2)各調査協力者グループの人数が少 ないこと、などが挙げられる。(2)に関しては、音声資料(男性の声・女性の声)の分析 において、各グループの人数が少ないので(40 名程度)、今回の結果の解釈にあたってはこ の点を考慮に入れなくてはならない。また、期待違反理論(Burgoon, 1995)、コミュニケー ション調節理論(Coupland et al., 1988)などで指摘されているように、ステレオタイプを単 独で取り扱うよりも、様々な場面における外/内集団メンバーに対する評価及び行動への 影響を検討する必要がある。これらの点をこれからの課題として研究を進めたい。 注 1 各調査協力者グループの数が少ないため、男女のデータを合わせた分析を行った。行われ た全てのt検定は両側である。 2 より小さい評定平均値がより肯定的な評価を示す。 3 代ゼミ(http://passnavi.evidus.com/)により、本調査の協力者の偏差値はA大学が 67 点、B 大学が 51 点である(2010 年 4 月 7 日)。 4 “World Education News & Report” (http://www.wes.org) により、本調査の対象となるA大学は 文系で全国 3 位にある。 5 A大学のホームページによる。 6 B大学の 2009 年度の大学案内による。 邦文引用文献 泉靖一(1953) 「東京小市民の異民族に対する態度」日本人文科学会編『社会的緊張の研究』 (pp. 423-444) 有斐閣。 岡本真一郎(2001) 「名古屋方言の使用が話し手の印象に及ぼす影響」 『社会言語科学』3(2) (pp. 4-16)。 太田浩司(2000)「異文化集団におけるコミュニケーション理論」西田ひろこ編『異文化間 コミュニケーション入門』(pp. 184-214) 創元社。 葛谷隆正(1955) 「諸民族に対する好悪の態度の研究」 『教育心理学研究』3(1) (pp. 39-57)。 61 研究ノート 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