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第3章 調節弁内部流れの基本構造 - DSpace at Waseda University

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第3章 調節弁内部流れの基本構造 - DSpace at Waseda University
第3章
調 節 弁 内 部 流 れ の基 本 構 造
3. 1
緒
言
調 節 弁 差 圧 が 数 十 MPa に お よ ぶ場 合 , 調 節 弁 内 部 の 流 体 計 測は 極 め て 困 難 で あ
る . 数 値 シ ミ ュ レ ー シ ョ ン に 関 し て も , 数 十 MPa か ら 飽 和 蒸 気 圧 の 1kPa 水 準 ま で
の 圧 力 変 化 を 円 滑 に 表 現 で き る 計 算 ス キ ー ム は 確 立 さ れ て い な い .そ の た め ,高 差
圧 下 の 激 し い キ ャ ビ テ ー シ ョ ン 形 態 を 定 量 的 に 知 り ,そ れ を 基 に し て 壊 食 の 発 生 位
置 を 特 定 す る よ う な こ と は ,未 だ 達 成 さ れ て い な い . 現 実 的 な 方 法 と し て は , 低 差
圧 の 条 件 で 軽 度 な キ ャ ビ テ ー シ ョ ン や 非 キ ャ ビ テ ー シ ョ ン 流 れ に 関 し て 計 測・解 析
を 行 い ,そ こ か ら 高 差 圧 下 の キ ャ ビ テ ー シ ョ ン 形 態 を 推 定 す る こ と に な る .し か し ,
そ の 推 定 も ,低 差 圧 の 調 査 か ら 直 ち に 定 性 的 に 行 う だ け で あ り ,高 差 圧 下 の 検 証 が
不十分 のものも 多い .
そ こ で ,高 差 圧 下 の キ ャ ビ テ ー シ ョ ン を 正 し く 推 定 す る た め に は ,キ ャ ビ テ ー シ
ョ ン 形 態 を ,調 節 弁 内 部 の 流 れ の 構 造 と 関 係 付 け て 理 解 す る こ と が 必 要 と な る .実
際 ,特 徴 的 な 流 れ 構 造 を 見 出 す こ と に よ り ,高 差 圧 下 で も そ の 流 れ 構 造 が 保 た れ て
いる 限り は, キ ャ ビ テ ー シ ョ ン 気泡 の発 生 は ほ ぼ変 わ ら な い こ と が 示 さ れ て い る.
一 部 の 形 態 に つ い て は ,モ デ ル 解 析 に よ っ て 初 生 限 界 ま で も が 正 し く 予 測 さ れ て い
る .壊 食 に 関 し て も ,調 節 弁 の 内 部 流 れ に 関 し て 基 本 的 な 構 造 を 見 出 す こ と に よ り ,
キ ャ ビ テ ー シ ョ ン形 態 を 推 定 し て 発 生 位 置を 正 し く 予 測 で き る と 思 わ れ る .
本 章 で は , 調 節 弁 内 部の 基 本 的 な 流 れ 構 造 を 明 ら か に す る目 的 で , ま ず , 20MPa
水 準 と 1MPa 水 準 に お い て 流 量 係 数 と キ ャ ビ テ ー シ ョ ン 初 生 限 界 を 測 定 し ,両 圧 力
水準の 間で こ れ ら の 相 似 性を確 認す る. 同時 に,1MPa の低 圧 力 水 準 に お い て はキ
ャ ビ テ ー シ ョ ン 泡 群 を 観 察 す る .次 い で ,観 察 実 験 よ り 初 生 前 の 圧 力 条 件 に て 液 単
相 流 の Navier -Stokes 数 値 シ ミ ュ レ ー シ ョ ン を 行 い , キ ャ ビ テ ー シ ョ ン に 関 係 す る
流 れ パ タ ー ン を 示 す . 渦 の 生 成 を 確 認 し , そ の 中 心 圧 力 を 追 跡 す る こ と に よ り ,気
泡 が 発 生・ 崩 壊 す る と 予 測 さ れ る 位 置 を 特 定 す る .こ れ ら の 位 置 を 観 察 結 果 と 照 合
す る こ と に よ り ,低 圧 力 水 準 の キ ャ ビ テ ー シ ョ ン 形 態 に 対 し て 特 有 の 流 れ 構 造 を 明
-60-
ら か に す る .汎 用 形 の プ ラ グ に 関 し て は ,プ ラ グ 形 状 と 多 孔 筒 に つ い て 初 生 限 界 の
観点か ら評 価を 行い ,一 部の形 態に 関し て は ,提 唱さ れ て い る予 測 式 を適 用し て,
そ の 有 効 性 を 確 認 す る . 最 後 に , ニ ー ド ル 形 プ ラ グ に 関 し て , 範 囲 を 限 定 し て 20
MPa 水 準 の 解 析 を 行 い ,低 圧 力 水 準 の 流 れ パ タ ー ン と 共 通 す る 特 徴 を 見 出 す .こ れ
は,プ ラ グ とシ ー ト リ ン グで構 成す る す き ま 区間 を対 象に, 1 次 元 流 れを 仮定 して
境 界 層 解 析 を 行 う も の で あ り ,の ど 部 ま で の 圧 力 変 化 を 見 積 も る こ と に す る .こ の
区間の 減圧過程 が初生前 の数値 シミュレーション 結果 と同様 であることを 確認 し,
そ の 上 で ,低 圧 下 で 検 討 し た 特 有 の 流 れ 構 造 が ,高 差 圧 の 条 件 に も 適 用 で き る 可 能
性 を 述 べ る .こ の 流 れ 構 造 を 基 準 に し て ,高 差 圧 下 の キ ャ ビ テ ー シ ョ ン 形 態 を 推 定
し,壊 食の 発 生 位 置 を予 測す る こ と に す る.
3.2
3.2.1
流量特性 と低圧下 のキ ャ ビ テ ー シ ョ ン
ニードル形プ ラ グに関する流量特性の比 較
弁入口圧力 P U が 20MPa および 0.6MPa(弁下流圧力 P D はどちらも大気開放)について
測定した弁容量係数 C V を,弁リフトに対し て図3.1に示す.流量特性はイコールパーセ
ント(等比率)特性であり,弁のゲイン(図中の CV の勾配)は弁リフトと と も に増加して
いく.P U = 20MPa のデータはキャビテーション 状態での流量特性 を示すのに対して ,P U =
0.6MPa では,全開度範囲でキャビテーションは 発生していない .それにも関わ ら ず,両方
の圧力水準では容量係数 はほぼ一致していることがわかる. これより,調節弁内部では圧
力降下の過程が相似で あ る可能性が高いといえる.
ただし,P U = 20MPa では,弁リフト L > 70%で CV が最大 3 %程度低くなっている.キャ
ビテーション係数がσ = 0.006 とかなり低く,P D が大気圧であっても,弁内部で はスーパー
キャビテーションの流量閉塞にやや近付いているものと思われる.
初生キャビテーション係 数σ inc を弁容量係数 C V に対して測定した結果を図3 .2に示 す.
初生の判断は,弁体振動加速度の変化を基 準として行っ て い る.弁入口圧力 P U が 20MPa
と 1MPa の水準について比較しているが, 圧力水準に隔たりがあるものの,両 者でほぼ一
致していることがわかる .これより,初 生 時のキャビテーション形態は同様であることが
予想される.なお,図中のようにσ inc が CV 0.2 に比例する相関は,絞り面積比の 大きいオリ
フィスやノズルに関し て も報告されている ( 9 2),(93 ) .
-61-
以上より,弁容量係数 CV と初生キャビテーション係数σ i n c から判断する限りでは,弁上
流圧力水準が 20MPa までは,調節弁内部の流れ構造とキャビテーション形態はほぼ変わら
ないことが予想される. 以降ではその内 部 流れについて論じることとし,低圧力水準で明
らかにした後に,高圧力水準の流れとの相似性を検討することにする.
-62-
3.2.2
ニードル形プ ラ グに関する 1MPa 水準のキャビテーション形態
弁上流圧力 P U = 1.0MPa におけるキャビテーション の瞬時写真を図3 .3に示す.流れ
方向は flow-to-open であり,写真では左の シートリングの側 からプラグ特性面 に沿って噴
流が流出している.弁開度は C V =1.0(全開), 0.7, 0.4 の 3 通りに設定し,キャビテーショ
ン係数の条件を,それぞれの開度で 図3.2 に示した初生限界 よりもわずかに低 い条件と,
実験設備の下限(σ = 0.13)とした.
いずれの開度でも ,初生時はキャビテーション気泡 がプラグ特性面上 の中央に現れてお
り,これよりわずかに低 いキャビテーション係数では,気 泡 群が明確に観察されている.
そこからキャビテーション係数を下限値ま で低下させると, 特性面が環状の気泡群に覆わ
れるようになる. (c) CV =1.0 の全開開度ではキャビテーションはかなり強くなっている.
円錐面上にも,中央では特性面 からの残存泡,後縁でははく離による付着泡 ( 39) と考えられ
る気泡群が確認される. しかし,特性面上 の気泡群と比較すると発達は た い へ ん弱くなっ
ている.
以上の観察より,この低 圧 水 準ではキャビテーション形態が次のように解釈できる.す
なわち,キャビテーション気泡はのど部か ら流出する噴流に 沿って初生し,閉切部へ噴流
衝突する際の圧力上昇によって消滅する. この気泡は,キャビテーション係数 の低下に伴
って,発生位置はのど部へ近付いていく.図3.2では CV と共に初生キャビテーション係
数は増加していく.これより,同一のキャビテーション係数 で比較すると,弁開度が高く
なるほどキャビテーションは強くなっている.
P U = 20MPa では,図3.2より初 生キャビテーション係数が変化していない.このこと
から,20MPa 程度の圧力水準でも,キャビテーション気泡の 発生位置は同様であると考え
られる.
-63-
Flow coefficient Cv
1.0
(c)
0.8
(b)
0.6
(a)
σ = 0.15
<
~ σ inc
σ = 0.17
<
~ σ inc
σ = 0.13
σ = 0.13
0.4
0.2
0.0
0
5
10
15
Lift mm
σ = 0.13
<
~ σ inc
Throat
jet
(a) Cv = 0.42, Lift: 10.7mm, 75%
(b) Cv = 0.70, Lift: 12.9mm, 90%
Fig.3.3 Cavitation features in various valve opening cases
-64-
(c) Cv = 1.0, Lift: 14.3mm, 100%
3.2.3
汎用 プラグにおける流量特性と 1MPa 水準 のキャビテーション形態
(1)流量特性
流量特性がイコールパーセントとリ ニ アのプラグについて,弁上流圧
力 P U = 0.3MPa のときの弁容量係数 C V と流量係数 Cd を弁リフト L に対して図3.4に示
す.多孔筒の影響も併記 する.同一の弁リフトでは,リニアプラグの方がイコールパーセ
ントプラグよりも流量は 大きい.どちらも約 L > 15mm の範囲では多孔筒によって流量は
低下するが,低下率は最大でも 10% 程度に留まるため,実用 にはあまり支障を 来さないと
いえる.
(2)キャビテーション 形態のプラグ 形状による 比較
観察実験により,キャビテーシ
ョン気泡が発生する位置 を全開度範囲で把 握し,その位置ごとに初生キャビテーション係
数を測定した.複数の位 置から発生する開 度では,非キャビテーション状態か ら初生した
後も,キャビテーション係数を 下限のσ = 0.3 まで続けて低下させ,別の部位に 発生する気
泡を目視によって確認するようにした.ただし,高流量係数 の範囲では,比較的高いキャ
ビテーション係数で,の ど部を通過す る ひ も状キャビテーション気泡が間欠的 に発生する
ことがある.本実験では ,この原因となる 旋回流を弁上流室 に設置した多孔筒 によって抑
制しているため,ひも状 泡の発生は回避している ( 3 8 ) .
両形状のプラグについて ,多孔筒を使用しないときの初生キャビテーション係 数と,
-65-
-66-
発生泡の瞬時写真を図3 .5に示す.この 実験でも流れ方向 は flow-to-open であり,それ
ぞれの写真では下のシートリングの側から 噴流が流出し て い る.どちらのプ ラ グとも,低
流量係数の範囲では,写真 R に示す よ う に,キャビテーション気泡はリムの前 縁に付着し
て初生する.続けてキャビテーション係数 を低下させると, 特性面の表面に移 流する気泡
が確認される.のど部か ら流出する噴流に 沿って発生しているようであり,キャビテーシ
ョン係数をさらに低下させると,写真 C に見られるように,のど部付近から発 生して特性
面をほぼ覆うまでに発達 する.これ同時に ,リムに付着して 初生した気泡群は 環状に離脱
して移流するようになる .
リニアプラグに つ い て は,図中の斜 線 領 域で 80dB を上回 るかなり高周波数 の非常に耳
障りな騒音が放出される .このときの気 泡 群を写真 AR に示 すが,リムの上方 では泡群が
環状の連なりを保って移 流している.イコールパーセントプラグについても, 弁上流圧力
が高い条件では同様な泡 群の形態が高騒音 を誘導することが 確認されている ( 3 9 ) .本実験の
圧力条件ではリニアプラグのみで発生しいていることから, こちらのプラグ形 状が高騒音
を発しやすいといえる.
リムと特性面上の発生泡 に関しては ,どちらとも初 生キャビテーション係数は流量係数
ととも増加し,口径 50mm 以上の汎用グローブ弁で見出 されているσ i n c ~ Cd
0.5
の相関関係
が示される (23) .しかし,イコールパーセントプラグでは,C d > 0.1 の範囲でリム付着泡に
関するσ i n c はほぼ一 定に な る.リ ニ ア プ ラ グに関しては, 両形態の 気泡について,σ i n c は
Cd > 0.2 で低下していく.これは,プラグ 周囲の流れパ タ ー ンが相似性を保たずに大きく
変化した結果であると考 えられる.
イコールパーセントプラグの高流量係数 C d > 0.2 では,特性面上の発生泡が,特性面形
状の急変する肩部で付着 して初生するようになる.この気泡群を写真 F に示すが,特性面
肩部がシートリングより 上方の位置にあるときに,こ の よ う な発生形態となる .
両プラグ形状の間で比較 すると,C d < 0.2 の低流量係数では,リム付着泡の初生キャビ
テーション係数はイコールパーセントプラグの方が低くなっている.上述したような高騒
音もこの圧力水準では抑 えられていることから,この流 量 係 数の範囲ではイコールパーセ
ントプラグの使用が好ましいといえる.これに対して,C d < 0.2 の高流量係数では,リニ
アプラグの方がσ i n c を低下させるために好ましい といえる .こ の よ う に,常用される流量
係数からプラグ形状を決 定できることがわかる.
-67-
(3)多孔筒 の影響
汎用プラグの使 用 時にキャビテーションの発生が予想 される場合
には,一般に,多孔筒などの抵抗要素を併 用することが推奨 される.期待さ れ る効果とし
ては,減圧が段階的となることと,噴流を 分散させることを 挙げることができる.
プラグ周囲のキャビテーションを抑制・軽減す る目的で,下流側弁室 に多孔筒を装着し
た場合の初生キャビテーション係数を図3 .6に示す.多 孔 筒を装着し て い な い図3.5
の結果も点線で併記しておくが,どちらの プラグ形状でも, リム付着泡の初生 キャビテー
ション係数が約 C d = 0.1 から大きく低下し ,やがて発生しなくなっている.これより,常
用開度がこの周辺の場合 は,多孔筒の使用 を大きく推奨できるといえる.イコールパーセ
ントプラグに関しては, 全開に近い流 量 係 数の範囲でも,特性面上の発生泡に 関して同様
の傾向が見られる.これらの変化は,多 孔 筒によってプラグ 周囲の流れパ タ ー ンが大きく
変化したことが原因であると推察される.
し か し , Cd > 0 . 2 で は , 写 真 H に 示 す よ う に , 新 た に 多 孔 筒 の 開 口 部 で も 気 泡 が
発 生 す る .こ の 初 生 キ ャ ビ テ ー シ ョ ン 係 数 は 他 の 形 態 の も の よ り も か な り 高 く ,リ
ム 付 着 泡 と 特 性 面 発 生 泡 の σ i n c が Cd に 対 し て 大 き く 低 下 す る 効 果 を 打 ち 消 し て い
る.こ の よ う に ,全 開に 近い流 量 係 数の 範囲 では ,キ ャ ビ テ ー シ ョ ン に よ る振 動・
騒音を 抑制 す る と い う観 点か ら は, 多 孔 筒の 使用 は適 さ な い と い え る .
なお,多孔筒の間では明瞭 な差は現れ て い な い.単孔当たりの 大きさを極端に変 えたり,
開口部の総面積を変えたりしない限りは, 孔配置パターンは 流量係数と同様に 初生キャビ
テーション係数に も あ ま り影響を及ぼさないようである.
-68-
-69-
3.3
初生前流れの数値シミュレーション
キャビテーションのように相変化を伴う 気液二相流を対象 とした数値シミュレーション
に関しては,圧力と密度 の大きな変化を円 滑に表現できる計 算スキームが確立 されていな
い.そこで,現在では実 施が容易な単相流 のシミュレーションを基準にして, キャビテー
ション形態を理解することにする.圧 力 条 件は前節で示した 観察実験よりも初生前の状態
とし,非キャビテーションの流れを数 値 計 算する.こ れ に よ る最低圧力点を観 察されたキ
ャビテーション気泡の発生位置と照合し, その上で,キャビテーション形態に 関係する流
れ構造の特徴を明らかにすることとする. 観察実験によれば 気泡は移流するものが多く,
蒸気空洞が発生位置に定 在すると想定するよりも,渦の形成 と移流により圧力分布は時間
的に変化し,瞬時的な最低圧力がキャビテーションに関係すると仮定した方が ,現象を正
確に説明していると考えられる.そこで, 非定常の流れパターンを得ることを 目的とし,
方法としては,非圧縮性流の Navier-Stokes 方程式を差分法によって時間進行的 に解くこと
にする.対象とする領域 はプラグ近傍に限 定し,軸対称二次元流れと見なす. 以下に,そ
の基礎方程式と離散化, 計算アルゴリズム などの方法から述 べていくことにする.
3.3.1
Navier-Stokes 解析の方法
(1)基礎方程式
基礎方程式は軸対称非圧縮性粘性流の連 続の式,および Navier -Stokes
方程式(以下,N-S 方程式)であり,これらは 次式にて表わ さ れ る.
D=
∂u u ∂v
+ +
=0
∂r r ∂z
(3.1)
∂u
∂u
∂u
∂p
1  2
u 
+u
+v
=−
+
∇ u − 2 
∂t
∂r
∂z
∂r Re 
r 
( )
∂v
∂v
∂v
∂p 1
+u
+v
=−
+
∇ 2v
∂t
∂r
∂z
∂z Re
ただし,Poisson 演算子∇ 2 とレイノルズ数 R e は,次式にて定義される.
-70-
(3.2)
(3.3)
∇2 =
Re =
∂2
1 ∂
∂2
+
+
∂r 2 r ∂r ∂z 2
(3.4)
ρD 0U U
(3.5)
µ
ここで,r,z は弁ポート径 D 0 を基準に,r および z 方向の速度成分 u,v は弁ポート入
口での流速 UU を基準とする無次元数である.時 間 t は D 0 /UU により,圧力 p はρUU
2
によ
ってそれぞれ無次元化されている.µ は粘度であり,293K の水の場合は 1.002×10 -3 Pa・s
である.
式(3.1) ~ (3.3) に対する解法は MAC 法(marker and cell method)に基づくものとし,圧力の
Poisson 方程式を用いる .これは,N-S 方程式(3.2) ,(3.3) をそれぞれ r,z にて微 分してから
加えることで,次式のように導出される.
2
∇ 2p = −
2
2
(
∂D  ∂u 
∂D
∂D
1
 ∂v   ∂u   ∂v 
u
−   − 2    −   −   − u
−v
+
∇ 2D
∂t  ∂r 
∂r
∂z Re
 ∂r   ∂z   ∂z 
r
発散 D に関しては,式(3.1) より恒等
的に 0 となるため本来は 消去されるが ,
実際は,数値誤差が必ず 生じることか
ら,この項を残しておく ことが有効と
なっている (94) .
(2)計算座標
本計算では,格子
形状が実形状に適合した 境界適合格子
を用いる.図3.7に示 すように,物
理座標( r , z )で定義した格子を計算座
標( ξ , η ) 上 の等 間 隔 直 交 格 子 系 へ 写
像して数値計算を行い, 計算座標系で
離散式の扱いを容易にしている.計算
座標系では,微分演算子 は次式のよう
に変換される;
-71-
)
(3.6)
 f r   ξ r η r   f ξ  1  z η − z ξ  f ξ 
 
  = 
   = 
 

 
 f z   ξ z η z   f η  J  − rη rξ  fη 
(3.7)
rξ z ξ = rξ z η − rη z ξ
rη z η
J=
(3.8)
ここでは,添え字 r, ξ 等によりこれらの変 数に関する導関数 であることを示している.J
は座標変換のヤコビ行 列 式である.
これらの関係を用いて,N-S 方程式(3.2) ,(3.3) および Poisson 方程式(3.6)を計算座標上の
式に変換すると,
ut + uξ
wt + wξ
uzη − vrη
J
+ uη
uzη − vrη
J
+ wη
(
vrξ − uz ξ
J
vrξ − uz ξ
z η pξ − z ξ pη
=−
J
∇ 2 p・ J 2 = Dt・J − z η u ξ − z ξ uη
2
=−
)
2
J
rξ pη − rη pξ
J
+
1  2
u 
∇ u − 2 
Re 
r 
+
1
∇ 2v
Re
(3.9)
( )
(3.10)
2
2
u
− 2(z η v ξ − z ξ vη )(rξ uη − rη u ξ ) − (rξ vη − rη v ξ ) −   J 2
r
[
]
− (zη u − rη v )Dξ + (rξ v − zξ u )Dη J +
(
1
∇ 2 D ・J 2
Re
)
(3.11)
ただし,発散 D と Poisson 演算子は次式にてそれぞれ表わされる.
D=
zη uξ − z ξ uη + rξ vη − rη v ξ
∇2f =
J
+
u
r
(3.12)
αf ξξ − 2 βf ξη + γfηη + τf ξ + σ f η
(3.13)
J2
α = rη2 + z η2
,
β = rξ rη + z ξ zη
τ = (αz ξξ − 2βz ξη + γzηη )
rη
σ = (αrξξ − 2 βrξη + γrηη )
zξ
J
-72-
J
,
γ = rξ2 + z ξ2
− (αrξξ − 2βrξη + γrηη )
zη
− (αz ξξ − 2βz ξη + γzηη )
J
rξ
J
+
zη
−
zξ
r
r
J
J
(3)差分ス キ ー ム
時間進行に関しては陰的 オイラー差分とし ,空間項に関し て は 2
次精度中心差分とする .N-S 方程式の慣性項に 関しては河村・桑原ス キ ー ム (95) を適用する.
慣性が支配的な流れでは 解が数値的に振動 するため,慣性項には風上差分が有効で あ る が,
河村・桑原ス キ ー ムでは,2 次精度の風上差分に適切な人口散逸項を付加 し,差 分 近 似を 3
次精度まで向上さ せ て い る.このとき,各差分近似式は,物理座標上の格子点 r (ξ, η) ,
z
(ξ, η)
を r i,j , zi,j と表示すると以下のように表される.計 算に使用する格 子 点の位置関
係を図3.8に示し て お く.
[時間項]
n +1
n
∂u ui, j − ui, j
=
∂t
∆t
(3.14)
n +1
n +1
∂p p i +1, j − p i −1, j
=
∂ξ
2∆ ξ
(3.15)
n +1
n+ 1
n +1
∂ 2 p pi +1, j − 2 p i, j + pi −1, j
=
∂ξ 2
∆ξ 2
(3.16)
p in++1,1j+ 1 − pin−+1,1j +1 − pin++1,1 j−1 + p in−+1,1j−1
∂2 p
=
∂ξ∂η
4∆ ξ∆η
(3.17)
[空間項]
[慣性項]
A
(
)
− uin++2,1 j + 8 uin++1,1j − uin−+1,1j + u in−+2,1 j
∂u
= Ai, j
∂ξ
12∆ξ
+ Ai, j
u in++2,1 j − 4 u in++1,1 j + 6 u i,n +j 1 − 4 u in−+1,1 j + u in−+2,1 j
4 ∆ξ
(3.18)
以上を適用して,N-S 方程式と圧力の Poisson 方程式(3.9) ~ (3.11)を差分式で表す.ただ
(
)
(
)
し,慣性項の差分近似については U n +1 ⋅∇ U n +1 ≈ U n ⋅∇ U n+1 のように線形化を 行い,圧 力の
Poisson 方程式と共に u n+1 , v n +1 , pn +1 に関する連立 1 次方程式に帰結させる. 圧力の Poisson
方程式に現れる発散 D の項に関しては,新 しい時間ステップ で連続の式を満たすように圧
力場を計算するため,t
n+1
でD
n+1
= 0 とした.すなわち,時間微分項 はオイラー差分に よ
-73-
ξ
i+2
ξ
i+1
i+1
i,j
Ui,j
η
j-1
U
i,j
j+1
j-2
η
j-1
i,j
j+1
j+2
i-1
i-1
i-2
(1) Spacial terms
(2) Inertia terms
(
K-K scheme )
(2nd order center differential )
Fig. 3.8 Grid points for solving the finite differential equations
って近似し,空間微分項 については D = 0 とした.次式に示 すと;
Dt = −
Dn
?t
,
Dξn+1 = Dηn +1 = 0
(3.19)
このようにして差分近似 した式を以下に示 す;
[N-S方程式,r 方向]
(u
n +1
i, j
)
− ui,n j ∆ t
(
+ Ai,nj − u in++2,1 j + 8uin++1,1j − 8uin−+1,1j + u in−+2,1 j
) (12∆ξ )
(
+ Ai,nj uin++2,1 j − 4uin++1,1j + 6u i,nj+1 − 4uin−+1,1 j + uin−+2,1 j
(
) (12∆η)
+ Bi,nj − u i,nj++12 + 8ui,n +j+11 − 8ui,nj+−11 + ui,n +j−12
(
+ Bi,nj ui,n +j+12 − 4ui,n +j+11 + 6ui,n +j 1 − 4u i,nj+−11 + ui,n +j−12
{ (
= − z ηi, j p in++1,1j − p in−+1,1j
+
{(
1
∇ 2u
Re
)
n +1
i, j
) (4∆ξ )
) (4 ∆η )
) (2 ? ξJ ) − z (p
− u i,nj+1 ri,2j
i, j
ξi , j
}
n +1
i, j +1
− p i,n +j−11
) (2 ? ηJ )}
i, j
(3.20)
-74-
[N-S方程式,z 方向]
(v
n +1
i, j
)
− v i,nj ∆ t
(
) (12∆ξ )
+ Ai,nj − v in++21, j + 8vin++11, j − 8v in−+11, j + vin−+21, j
(
+ Ai,nj v in++21, j − 4v in++11, j + 6v in, +j 1 − 4vin−+11, j + vin−+21, j
(
) (12∆η )
+ B i,nj − v i,nj++12 + 8v i,n +j+11 − 8v i,nj+−11 + vi,n +j−12
(
+ Bi,nj vi,n +j+12 − 4v i,nj++11 + 6vi,n +j 1 − 4vi,nj+−11 + v i,n+j−12
{ (
= − rξ i,j p i,nj++11 − p ni,j-+11
) (4∆ξ )
) (4∆η)
) (2 ? ηJ ) − r (p
n +1
i+1, j
η i,j
i,j
− p ni−+1,1j
1 
) (2 ? ξJ )}+ Re
( v)
∇

2
i,j
n +1
i,j



(3.21)
[圧力の Poisson 方程式]
(∇ p )
2
n +1
i,j
・J i,2j
[ (
= zηi, j uin+1, j − uin−1, j
) (2 ? ξ ) − z (u
(
+ rξi, j vi,n j+1 − v i,nj−1
ξi, j
) (2 ? η) − r (v
ηi, j
n
i+1, j
[ (
) (2 ? ξ ) − z (u
[ (
[r (u
) (2? ξ ) − z (v
− zηi, j uin++11, j − u in−+11, j
− 2 zη i, j vin++11, j − vin−+11, j
ξ i, j
n +1
i, j+1
− u i,n+j−11
[ (
− rξ i, j vi,n j++11 − vi,n j+−11
n +1
i, j+1
) (2? η ) − r (u
ηi, j
) (2 ? η ) − r (v
η i, j
n +1
i +1, j
n +1
i +1, j
) (2 ? η )
− v in−1, j
n+ 1
i, j+ 1
ξi, j
ξ i, j
− ui,n j−1
n
i, j +1
− u i,nj+−11
− vi,n+j−11
− u in−+11, j
− vin−+11, j
) (2 ? ξ ) + u
n
i, j
J i, j ri, j
] J?t
i, j
) (2 ? η )]
2
) (2? η )]⋅
) (2 ?ξ )]

) (2 ? ξ )] −  u
2
n +1
i, j
 ri, j

J i, j 


2
(3.22)
ここで,
A =
n
i, j
B =
n
i, j
u i,nj zη i, j − vi,n j rη i, j
vi,nj rξ i, j − ui,n j z ξ i, j
(3.24)
J i, j
(∇ F )
2
(3.23)
J i, j
n +1
i, j
・J
2
i, j
= α i, j
Fi n+1+,1j − 2Fi n, j+ 1 + Fi n−1+,1j
+ γ i, j
∆ξ 2
− 2β i, j
Fi,nj++11 − 2 Fi,nj +1 + Fi,nj +−11
∆η 2
-75-
Fi n+1+,1j +1 + Fi −n1+,1j −1 − Fi n−1+,1j +1 − Fi n+1+,1j −1
+ τ i, j
4∆ ξ∆η
Fi n+1+,1j − Fi n−1+,1j
2∆ ξ
+ σ i, j
Fi,nj ++11 − Fi,nj+−11
2 ∆η
(3.25)
(4)計算格子
試験弁に形状を対 応させて構築した 計算格子を図3.9 に示す.座標
系の設定は,弁プラグの半 径 方 向を座標 r,弁軸方向を座標 z とした.通常の MAC 法では
スタッカード格子が採用 され,流速は格子頂点で,圧力は格子中心点で計算される.しか
し,境界領域の計算が煩 雑になるため,本計算ではコロケーション格子を適用 し,圧力と
流速の両方を格子点の頂 点で計算する.
ニードル形プラグの場合 は,のど部 からプラグ表面 に沿って高速流れ 形成されると推定
し,これを再現す る た め に,計算領域をプラグの近傍に限定 している.流れは ポートの境
界 I-I より流入し,プラグ表 面を沿ったまま境界 II-II から流出すると想定した .ただし,
下流弁室空間は実物よりもやや狭く し て い る.弁リフトに対 する流れ状態の違 いを調査す
るため,図3.9(a) A~C に示すように L = 100, 90,55% の 3 通りについて計 算 格 子を用意し
た.これらの弁リフト に対応する容 量 係 数の実測値はそれぞれ CV = 1.0, 0.7, 0.2 であり,全
開流量から低流量までの 範囲で流れの状態 を把握するようにしている.
汎用プラグの場合は,多孔筒周囲の流れも 対象とするため, 計算領域はそこからやや下
流までとした.図3.9(b) D, Eに,イコールパーセントプラグに R-1 の多孔筒を組み合
わせた例と,リニアプラグに R-2 のプラグを組み合わせた例 を示す.多孔筒を 通過した流
れは,そのままプラグの 中心軸から放射状 に拡散していくものと仮定する.弁 リフトは,
前節で確認した各種の発生泡が現れる状態 ,すなわち,リム と特性面,多孔筒 の開口部か
ら発生するようなリフト 条件を選んでいる.D, E に示したものは流量係数 C d = 0.25 で全開
開度に近くし,多孔筒からの発生泡に着目 したものである. このほかに,特性面上とリム
に発生する開度として,C d = 0.08 と 0.04 に関して計算格子を構築 している.
このようにして形成した 格子点は,プラグ 壁面から法線方向 を座標ξ ,接線方向を座標η
として正方格子系の計算座標空間へ対応させる.ξ 方向にはポート部で 51 ~ 61 点,η 方向
には中心軸方向に沿って 346 ~ 545 点に分割し,のど部とプラグ形状が急変す る近傍へ格
子を集中させている.プラグとシートリング,多孔筒の壁 面 境界では,近傍の 格子を壁面
の法線上に配置し,間隔 を境界層内に 3 点以上の格子が収まるようにしている .これによ
り,圧力に関するノ イ マ ン型の境界条件を 満足させると共に ,境界層内の流速 を再現可能
としている.
-76-
-77-
r
Outflow
II
II
ξ
η
143×412
Retainer wall
Seat-ring
I
Inflow
Plug
I
z
L
D: Equal percent plug with R-1 retainer, L = 20mm
r
II
II
143×512
I
Inflow
I
z
E: Linear plug with R-2 retainer, L = 20mm
Fig. 3.9 (b) Grids system for cavitation free flow analysis by 2D N-S simulation
(Ordinary type plugs and retainers)
-78-
(5)境界条件
a)流入・流出境界
自由流入・流出条件を与 える.すなわち,ニードル形プラグの
両境界と汎用プラグの流入境界ではη 方向に,汎用プラグの流出境界 ではξ方向に流速の変
化は生じないとする.圧 力に関しては,流入境界では弁上流圧力,流出境界で は弁下流圧
力を与える.実際には, 両境界の断面積は 接続管路のものと 異なるため,圧力 は断面平均
流速の変化に伴って変化 している.しかし ,その変化も弁 差 圧と比較すると非 常に小さい
ため,ここでは考慮し な い.
以上の条件を数式表示 すると,ニードル 形プラグの場合は 以下の通りとなる (流入境界
については,図3.10 (a)参照).
u η = v η = 0 (η = 0, η
b)壁面境界
max),
p = pU (η = 0),
p = pD (η = η
max)
(3.26)
粘着条件 を与え,壁面境界上 で流速を 0 とする.圧力は,法線方向の
勾配を 0 とする.ニードル形プラグの場合 は,
u = v = 0 , p ξ = 0(ξ = 0, ξ
max )
(3.27)
河村・桑原ス キ ー ムでは,壁面近傍で N-S 方程式を解く際に ,境界の外部にも 仮想の流
速を設定する必要がある. そこで,仮想格子点 F を,図3.10(b)に示すように壁面
に対して鏡像状態に定義 し,そ こ で の流速を ,壁面を対称と す る格子点 D の流速から次式
のように与える.
 uF   1
  = 
 vF   0
0  u D 
 
− 1  v D 
(3.28)
このとき,境界壁面上で は吸い込み・湧き 出しが 0 となり,同時に,粘性に よ る流速の
回転が計算できるようになっている.実際 の壁面では,その 勾配を考える必要 がある.流
速ベクトルで考えると, 図3.10(c) の例では,仮想格子点 I と,壁面に関する対称
点 G の流速は次の関係 にある.
-79-
1
(u G + u I ) = n H ⋅ (n H ⋅ u G )
2
(3.29)
ただし,n H は壁面の単位法線ベクトルであり,壁面 の勾配をθ,r, z 方向の単位ベクトル
をそれぞれ er , ez として,
n H = sin θ e r − cosθ e z
(3.30)
このとき,圧力は壁面と 1 点内側で等しいとしている.すなわち,
pH = pG
(3.31)
-80-
(6)初期条件と計算条件
初期条件は,圧力を流 入・流出境界でそれぞれ弁上流・下
流圧力として与え,流速は全 領 域で u = v = 0 の静止状態とする.こ の と き,最初の時間ス
テップでは,圧力 の poisson 方程式(3.6) の右辺が 0 となることにより,圧力が 理想流体流
れのポテンシャルとして 算出される.すなわち,これを見か け上の圧力分布として,計算
が開始されることになる .
ニードル形プラグの場 合は,弁上流圧力は P U = 0.6 として,弁差圧は 0.2 MPa と比較的
小さい状態から開始する .弁通過流量が一定値に収束した時 点から,弁 下 流 圧 力を徐々に
低下させることによって キャビテーション 係数σ を減少させ,弁差圧が 0.5 MPa になるま
で続行する.このとき, σ は 2 から 0.22 まで低下する.汎 用プラグでは,σ を初生限界よ
りわずかに高い水準まで 低下させることにする.
なお,時間ステップは ,無次元量で∆ t =1.0×10 - 4 とした.このとき, 代表流速が 増加す
ると,これと対応して代表時間が短くなり,実時間では最小で 0.14µs 程度となった.式(3.5)
のレイノルズ数 Re は最大で 6.1×104 であり,この程度ま で は計算結果の信 頼 性が保証さ
れている (95) .
(7)計算のアルゴリズム
計算アルゴリズム は通常の MAC 法と同様で あ る.その計
算フロー図を図3 .11に示す .まず ,圧力の Poisson 方程式(3.22)を反復法によって解き,
全領域の圧力 p n+1 を計算する.次に N-S 方程式(3.20) ,(3.21) を,これらも反復法によって
解き,全領域の流速 u
n+1
, v
n+1
を計算する.これらの反復計算は SOR 法(successive over
relaxation method)によった.収束残差の評 価に際しては,式(3.32)に示した値を用いると,
本計算では発散せずに時 間ステップを進めることができた.
p m − p m +1
p m +1
< 5. 0 ×10 −5
u m − u m+ 1
< 1.0 × 10 − 5
m+1
u
,
v m − v m +1
< 1.0 × 10 −5
m +1
v
(3.32)
ただし,m は時刻 t n+1 における反復計算の回数.
各時刻において圧力と流 速が収束した段階 で弁通過流量を計 算する.設定した 各圧力条
件では,弁通過流量の時間変動振幅が時間平均量の 0.05%以内に収束した 時点をもって,
-81-
流れが安定したものと判 断した.以降,キャビテーション係 数σ とレイノルズ数 R e を再
度設定し,弁差圧を拡大 していった.
-82-
3.3.2
ニードル形プ ラ グに関する数 値シミュレーションの結 果
(1)流れ パターンの概 略
この数値シミュレーション では,流速 の初期値を全域で u =
v = 0 と置いているため,開始時で は流量は 0 である.ここでは,全開開度の計算格子[図
3.9(a),L = 14.3mm, 100%] における計算過程を取り 上げ,所定のキャビテーション係
数に達するまでのフローパターンを,時間進行に従って説明 する.図3.12 にのど部で
計算した流量の時間変化 を示す.流量の遷 移に沿った A ~ G の各時点について ,圧力分布
および流速ベクトルを図 3.13に示す.
開始直後の時刻 A (t = 2.2 msec)では,既に流量はほぼ定常値に達するが,流れ状態の 変
化はのど部の近傍に限定 される.絞り に よ り流速は増加し, のど部出口からは プラグ特性
面に沿う壁面噴流の形態 を示す.その外縁 には大きな渦が認 められ,こ れ に よ り流れは大
-83-
きく曲げられ,プラグ表 面からはく離する .調節弁全体の圧力降下は,ほ ぼ の ど部までで
達成されており,弁 下 流 室は大部分で下流圧力 P D に等しくなっている.
時刻 B (t = 8.9 msec)では,時間平均流量は 完全に定常値のものとなる.のど部 からの噴
流がプラグ閉切部まで達 しており,外側に は小さな渦が連なっている.大規模な 2 個の渦
がプラグ円錐面上に達している.
時刻 C (t = 22.4 msec) では,大規模な渦は 出口境界の近く ま で移流している. プラグ特
性面から円錐面の中央に 至る流速ベクトル の概略は,前時刻 B と同様である.
時刻 D (t = 0.08 sec) は,流量の時間変動値 が収束した時点である.流れパ タ ー ンはほぼ
前時刻 C の形態を保っており,こ れ が定常状態の流れ パターンと考えられる.そこでは,
のど部から流出する壁面噴流に沿ってせん 断渦が連な っ て お り,噴流が拡散し 始める閉切
部の近傍からは,渦の存在が疎になっている .それでも ,円錐面の終 縁までは流速は早 く,
そこではく離と再付着が 生じている.
ここからキャビテーション係数σ を徐々に低下させ, σ =2.0 からσ =1.0 とした.この
際にσ の変化率を小さくし ,流れの状態が大 きく変化しないように注意した. 時刻 E (t =
0.27 sec)は,σ =1.0 で流量が定常の状態である.のど 部の流速が大きくなる点を除い て は,
前時刻 D とほぼ同様の流れ状態となっている.このようにσ を低下させるながら計算を進
行し,σ =0.5 とσ =0.22 における定常状態の流れ パターンを得た. 時刻 F (t = 0.51 sec) と G
(t = 0.76 sec) の結果を示すが,これらも 時刻 E と同様の特徴を呈することがわかる.
なお,時刻 G に達した後では,プラグ表面近傍の時間平均流速を計 測 値と比較している .
その結果を図3.14に示すが ,ここでは ,表面か ら の距離はのど部の 流路高さ h T によっ
て,流速はのど部の平均流速 U T によって,それぞれ無 次 元 化している.流 速分布は,特に
のど部に近い測定位置で 差異が見られるが ,最大流速値とそれを示す位置ほぼ 一致してい
る.これより,計算精度 が確保されていることがわかる.
別の2パターン の計算格子[図 3.9 (b),(c)] についても, 同様の 方法で 数値計
算を行い,σ =0.22 のフローパターンを得た .時間ステップを進め る過程では, 流量と流
れ状態はほぼ同様の時間変化を示した.これら 3 通りの弁開度について,プ ラ グ壁面の時
間平均圧力を実験計測値 と比較し,流れパターンと共に図3 .15に示す.壁面圧力は次
式に示す圧力係数にて表 示している;
-84-
Pressure contours
Valve wall
0.6 MPa
Seatring
0
Plug
Velocity vector distribution
35 m/s
0
A: t = 2.2 msec
B: t = 8.9 msec
C: t = 22.4 msec
σ = 2.0, Re =
3.8×10 4
Fig. 3.13(a) Flow patterns in the transitional stage by 2D N-S cavitation free simulation
-85-
Pressure contours
0.6 MPa
0
Velocity vector distribution
35 m/s
0
D: t = 0.08 sec,
σ = 2.0, Re = 3.8×104
E: t = 0.27 sec,
σ = 1.0, Re = 4.6×104
F: t = 0.51 sec,
σ = 0.50, Re = 5.3×10 4
G: t = 0.76 sec,
σ = 0.22, Re = 6.1×10 4
Fig. 3.13(b) Flow patterns in the transitional stage by 2D N-S cavitation free simulation
-86-
-87-
Velocity vector distribution
35 m/s
0
Pressure contours
0.6 MPa
0
Time-averaged pressure on plug surface
Pressure
Coefficient Cp
0.2
0.1
CpT = 0
Computation
Experiment
CpT = 0.08
CpT = 0.10
0
-0.1
(a) Cv = 0.2, Re = 1.2×104
(b) Cv = 0.7, Re = 4.3×104
(c) Cv = 1.0, Re = 6.1×104
Fig. 3.15 Instantaneous flow patterns and time-averaged pressure on plug surface
at σ = 0.22 in various valve openings by 2D N-S cavitation free simulation
-88-
Cp =
P − PD
(3.33)
PU − PD
図3.15では,壁 面 圧 力から検証しても ,計算精度が確保 さ れ て い る こ と が わ か る .
いずれの 開度で も,プラグ特性面と シートリング のすきま 区間で 圧力が 急激に 低下し ,
のど部ではほぼ弁下流圧力 P D に近い値を示し て い る. 高開度の(b)C V = 0.7,(c )CV = 1.0
では,流速ベクトルと圧力分布は同じ特徴 を示しており,壁面噴流はその外側 に形成され
た渦により分断されるが ,ほぼ閉切部まで 達している.時間平均の壁面圧力は ,のど部の
若干下流で P D より低い極小値に達 した後に,プ ラ グ特性面に沿 って漸増し, 閉切部で流
れの衝突により極 大 圧を示すことになる.プラグ 円錐面上では P D へ漸近し,その終縁で
ははく離と再付着に よ っ て局所的な圧 力 降 下が発生している .
低開度の(a)C V = 0.2 では,壁面噴流が円筒面まで分断されずにプラグを沿う 形態とな
っている.これより,噴 流に沿う渦は発達 が弱いことがわかる.このような流 れパターン
では,のど部より下流側の大部分で プラグ壁 面 圧 力は P D に等しいが,そ れ で もプラグ締
切部で極大となる.
これらの開度では,瞬 時 的には渦の中心で 圧力が低くなっている.そこで,次 には個々
の渦に着目し,その中心圧力の変化を追跡 することにする.
(2)渦中心圧力の時間変化
のど部の近傍で発生 するせん断渦について,その軌跡と
中心圧力の変化を追った .その結果を図3 .16に示す.流 れパターンの時間推移を見る
と,渦はプラグ特性面に 沿って移流していくことがわかる .図に示したのは 全開開度 C V =
1.0 についての結果 であるが, 他の開度 でも同様の 軌跡を確 認している .この軌 跡に沿っ
て渦中心の圧力 P C をプロットすると,渦の発生後は P C は低下を始め,特性面の中心付近
で極小を示し,その後は 閉切部に向って上 昇することがわかる.この極小値は 開度が高く
なるほど低下しており,C V = 1.0 では飽和蒸気圧力に近い水 準にまで達し て い る.これよ
り,渦の移動距離が圧力低下量に関係していることがわかる .
数値シミュレーション の条件からキャビテーション係数をさらに低下させれると仮定す
れば,C V = 1.0 の場合,図中の C の時点で渦中心が気相に変 化すると考え ら れ る.続けて
キャビテーション係数を 低下させると,気 相に変化する位置 はのど部へ近付き ,発生泡が
移流することになるが, それでも閉切部に 達するまでに圧力上昇によって消滅 すると想定
-89-
A:
t* = 0
D:
t* = 0.6
B:
t* = 0.2
E:
t* = 0.8
C:
t* = 0.4
CV = 1.0, σ = 0.22
Time change of flow patterns on characteristic surface
Throat:
L = 100 %
Throat:
L = 90 %
Root of
characteristic
surface
Throat:
L = 50 %
Core pressure PC MPa
0.15
0.10
A
L
50 %
90 %
100%
0.05
0.00
0
E
Separation
point
PD
3
D
B
C
6
9
12
15
Distance from plug head mm
18
σ = 0.22
Fig. 3.16 Transference of vortex along characteristic surface
-90-
される.当然,こ の よ う にキャビテーション気泡が形成されためには,弁開度 が低いほど
高い弁差圧を要す る こ と も予想される.以 上の考察は前節3 .1.2で観 察 実 験から見出
した特徴と一致しており ,実施した数値シミュレーションは キャビテーション に関係する
流れ構造も正しく再現していることがわかる.
これより,キャビテーション形態を次のように説明することができる.すなわち,のど
部から流出する噴流に沿 って渦が移流し, それに伴い渦中心 が飽和蒸気圧水準 まで低下す
る.これよりキャビテーション気泡が形成 されるが,閉切部 に至る圧力上昇によって消滅
する.渦の移動距離が長くなるほど,気泡は 低差圧で発生することになる.以上 の説明は,
ニードル形プラグに特有 のキャビテーションに関係する流れ 構造を指すものといえる.
低圧力の水準では,キャビテーションの 瞬時像と初生前の 流れパターンを照 合すること
により,キャビテーションに関係する流れ 構造が理解された .高い圧力水準で も,流れ構
造が大きく変わらない限 りは,キャビテーション形態は似たものになるといえよう.本章
の最終節では,部分的ながらも ,20MPa の高圧水準において ,ここで明らかにした流れ構
造と共通する特徴を見出 すことにする.
-91-
3.3.3
汎用 プラグに関 する数値シミュレーションの結果
(1)イコールパーセントプラグ
a)リムで初生す る流れパターン :
図3 .17に流量係数 C d =0.04 における初生直前
の瞬時の流れパターンと ,プラグ表面の圧力分布を示す.表面圧力については ,時間平均
値を多点計測系による測定値と比較しているが,両者はほぼ 一致しており,数 値シミュレ
ーションの信頼性が確認 できる.
流速ベクトルを見ると ,のど部からの噴流はプラグ の表面を特性面 から閉切部まで沿 い,
リムの前縁ではく離した 後に,そのままリ ムに平行す る よ う に流れる.圧力に 関しては,
のど部で弁下流の水準となり,弁差圧に対 応する圧力降下はここでほぼ達成されている.
プラグ表面では,リムの 上流側でさらに低 下するが,そ れ で も飽和蒸気圧力よりもかなり
高い水準である.図3. 18では,リム周 辺で渦度を算出し ,その分布の時間変化を追っ
ている.そこでは,リム 前縁から渦が周 期 的に生成・離脱し ,主流に沿って移 流している
ことがわかる.図3.1 7では,渦中心の 圧力を表面圧力に 併記するが,ほぼ リム前縁に
位置する渦の中心では表 面からさらに圧力 が低下し,ほぼ飽和蒸気圧力の水準 に達してい
る.そこから放出さ れ た と思われる渦では ,中心圧力がただちに回復している .
-92-
以上で述べた流れパターンでは,
低下させると,リム前縁 の渦中心
Vorticity
rad/s
0.4
で気泡が発生し,た だ ち に圧力回
0.0
ここからキャビテーション係数を
Ⅰ
t * = 0.0
Ⅱ
t * = 0.005
復によって消滅すると考 えられる.
つまり,図3 .17 ,写真 RI のよ
-0.4
t *= 0.01
うに,リム前縁で付着し た発生泡
Ⅲ
が観察されることになるといえる.
t * = 0.015
b)特性面上で移流泡が初生す
る流れパターン:
図3 .19に
t *= 0.02
Ⅳ
流量係数 Cd =0.08 における,特性
面上にキャビテーション 泡が初生
t * = 0.025
する直前の計算結果を示 す.特性
面では時間平均の表 面 圧 力はほぼ
t *= 0.03
弁下流圧力と等しい.しかし,瞬
時の圧力分布では,渦が 存在する
t * = 0.035
ところで,そこから大き く圧力が
t* = t /T
Plug seating-rim,L2
低下している.渦中心で は,飽和
蒸気圧力の水準まで達している.
T=
D0
= 0.02
UU
Fig. 3.18 Time change of vorticity distribution
around the plug seating-rim
図3.20に圧力分布の時間変
化を示す.この渦は特 性 面の表面
を移流し,特性面のほぼ 中央までは中 心 圧 力が低下することがわかる.そこで ,中心圧力
は飽和蒸気圧力に た い へ ん近い極小値を示 した後に,回復へ 転じている.た だ し,渦生成
の周期性は明確ではない .
以上で述べた流れパターンから考察す れ ば,ここからキャビテーション係数 を低下させ
ると想定すると,可視化実験で示された 図3.20,写真 CI のように,特 性 面 上で移流す
る発生泡が観察されることになる.さらに キャビテーション 係数を低下さ せ る と,気泡の
発生位置はのど部の付く へ遷移し,前節3.1.3に示した図3.4,写真 C のように特
性面を覆うまで泡群が成 長するといえる.
-93-
A:
t* = 0
C:
t* = 0.2
D:
t* = 0.3
0.20
Core pressure PC MPa
B:
t* = 0.1
Root of
characteristic
surface
Separation
point
D
0.15
A
0.10
C
0.05
B
0.000
5
10
Distance from throat mm
Fig. 3.20 Transference of vortex along characteristic surface
-94-
15
c)特性面肩部で初生する流れ パターン:
図3.21に流量係数 C d =0.25 における初生
直前の計算結果を示す. のど部はシートリングの開口部とプラグ特性面の肩部 の間に形成
されており,主流はそこからプラグ表面に 沿うように流れ方 向が変わっている .肩部では
はく離が生じており,常態的に発生する渦 により,時間平均圧力は瞬時圧力とほぼ同じ水
準の最小値を示す.
時間平均圧力を検証すると,肩部に近いはく離域では実 測 値との相異が見られる.この
程度のはく離域の大き さ で流れの時間変動 を正確に再現するには,数値シミュレーション
に乱流モデルの導入が必 要であると考えられる.ただし,は く離点とそこの圧 力は正確に
計算されており,初生予測の た め に は十分な精度で流 れパターンを再 現しているといえる.
ここから キャビテーション係数 を低下 さ せ る と想定すれば, リムで の発 生 泡と同 様に,
写真 FI に示すようなプ ラ グ特性面肩部 に付着した形 態でキャビテーション気泡 が発生す
-95-
るといえる.続けてキャビテーション係数 を低下させれば, そこから気泡が移 流していく
ものと推定できる.
(2)リニアプラグ
a)低流量係数の 流れパターン :
図3 .22に流量係数 C d =0.08 における初生直前の
瞬時の流れパターンと, プラグ表面の時間平均圧力を示す. 流れパターンを見 ると,プラ
グ特性面を沿った壁 面 噴 流がリム前縁で は く離し,そこで生 成される渦の中心 で圧力が低
下している.このように ,リムの周囲では イコールパーセントプラグによる流 れパターン
と同様であることがわかる.両形状のプ ラ グに関しては,リ ムのキャビテーション気泡は
発生機構が同一であるといえる.
同図では,プラグ表面の時間平均圧力を,流量係数 とキャビテーション係数が同一の条
件の下でイコールパーセントプラグの結果 と比較している. 最小はどちらもリ ムの前縁で
-96-
示されるが,その値はリニアプラグの方が 低くなっており, こちらの方がキャビテーショ
ン気泡の発生しやすくなることがわかる. 結果として,前節 3.1.3の図3 .4で示し
たように,プラグ形状の 間で初生キャビテーション係数の相 異が現れるといえる.同一の
流量係数ではリニアプラグの方が弁リフト は小さく,のど部とリムはかなり接近し て お り,
流路形状が大きく影響していることがわかる.
b)高流量係数の 流れパターン :
図3 .23に流量係数 C d =0.25 における初生直前の
計算結果を示す.流れパターンを見ると, のど部を通過した 流れは弁下流室にただちに拡
散している.特性面上に 現れる渦は,図3 .19に示したイコールパーセントプラグと比
較するとたいへん弱く ,周辺の圧力分布を瞬時的にも 大きく変えるようにはなっていない.
プラグ特性面を沿った主 流はリム前縁からはく離した後に ,そのまま 放射状にプラグか
ら離れている.はく離点 から放出された渦 はこの主流に沿っ て移流していく. このときの
-97-
プラグ表面の時間平均圧力は,リム前縁で の低下量が た い へ ん小さくなっている.
このような流れパ タ ー ンでは,イコールパーセントプラグ よりも,リムと特性面の双方
で初生のために大きい弁差圧を要す る も の と考えられる.どちらの初生キャビテーション
係数も流量係数に対して 低下することから ,弁リフトの増加 に対しては,特性面上の渦は
弱いものとなり,リム前 縁の圧力降下量も 縮小していくものと考えられる.
(3)多孔筒併用時に関する 計算結果
汎用プラグに多孔筒を 併用することにより,前節3.1. 3では初生キャビテーション
係数に変化が認められた .この効果を流れ パターンより検証 することにする.
a)低流量係数の流れパターン:
図3.24に, イコールパーセントプラグに多孔筒
R-2 [図2.13参照,単孔径 2.5mm ]を適用した場合の初生直前における数 値シミュレ
ーション結果を示す.流量係数は,リ ム発生泡の初生キャビテーション係 数が低下する C d
-98-
= 0.08 としている.流れ パターンを見ると ,プラグ特性面を 沿った壁面噴流は ,リム前縁
ではく離した後に,そのまま多孔筒に向かって流れていく. リムより下流では キャビティ
流れのように広範囲にわたる渦が存在しており,主流は そ こ を避けるようになっている.
はく離域はリムから大き く開いた形態となっており,リム前 縁での圧力降下は ,時間平均
値,瞬時値ともせいぜい 弁下流圧力の水準 に止まっている.
このように,多孔筒の 設置によってリム より下流側は流れ パターンが変更さ れ,リム前
縁の圧力が高く保たれることが,初生キャビテーション係数 が低下する理由といえる.
b)高流量係数の流れパターン:
図3.25に, 前節と同じト リ ムの組合せ(イコー
ルパーセントプラグと多孔筒 R-2)で流量係数を C d = 0.25 と高くした場合の,初生直前に
-99-
おける数値シミュレーションの結果を示す .流れパターンを 見ると,のど部を 通過した主
流は直ちに多孔筒に衝突 するように流れる .多孔筒開口部からはせん 断渦を伴って噴出 し,
そこでは圧力が周囲よ り も低下している. この低下量は,プラグ特性面肩部よりも大きく
なっている.
多孔筒非装着時には, この弁流量係数においてキャビテーション気泡の初生 する位置は
プラグ特性面肩部である .しかし,多孔筒 の使用時には,最 初に多孔筒からの 噴出流に沿
ってキャビテーション泡 が初生し,プラグ 特性面肩部からの 発生には,さらに 低いキャビ
テーション係数を要することがわかる.多孔筒開口部の発 生 泡は,単孔当た り の通過流速
がある水準まで達することにより形成す る と考えられる.
(4)キャビテーション形 態に関係す る特有の流れ 構造
以上で述べたように ,数値シ
ミュレーションの結果を 観察結果と対応させることによって ,キャビテーション初生の機
構を特定することができた.各形態気泡の 位置について,改 めて以下にまとめると;
1.プラグリムでは前縁 で主流がはく離し ,リムに再付着するようにはく離域 が狭い場合
には,そこで定 常 的に周囲より 圧力が低くなっている. これに加えて ,はく離点 から
生成する渦に よ っ て瞬時的な圧 力はさらに 低下し,そ こ で最初に気泡 を発生させるこ
とになる.しかし ,多孔筒の使用時には, 主流がリム前 縁からはく離 したまま多孔筒
に向かい,はく離 域が下流側に 大きく開かれるために, リム前縁の圧 力は定常的 に周
囲と同じ水準に保たれ, 結果として,初生 キャビテーション 係数が低下する.
2.プラグ特性面では, のど部からの壁面噴流に沿って渦が 形成され,移流するとともに
中心圧力が低下する.そのため,キャビテーション気泡は移 流する形態で発生 する.
3.イコールパーセントプラグの高流量係数域では,プラグ 特性面肩部で主流 がはく離し
ている.定常的に 圧力は低くなっており, リム前縁と同 様の機構でキャビテーション
気泡が発生する.
4.多孔筒を用いると, 高流量係数域では 多孔筒開口部の通過流速が増加するためにキャ
ビテーション気泡が発生 する.
-100-
3 . 3. 4
汎 用 プ ラ グ の リム発生泡に関する初 生 限 界の予測
(1)初生 キャビテーション係数の 相似則
大田らは,リ ムに発生するキャビテーショ
ン気泡の初生条件に関し てモデル化を行っている ( 3 9 ) .その概念を改めて図3.26に示 す.
リム前縁で生成する渦を ランキン渦と仮定 し,キャビテーションの初生は,渦中心圧力が
時間平均値よりもさらに 低下し,飽和蒸気圧力に達する状態 とした.この条件 を各種流体
パラメーターによる相 似 則の形に表現し, 次式のように示している;
σ inc = (C pS − 1) +
C 0 2 n + 1 U S 3 hT 1 C d 2
2π n U T U U 2 δ S St 1 − C d 2
(3.34)
ここで,
C pS =
PU − PS
PU − PD
:リム前縁における時間平均圧力 P S に関する圧力係数,
C0 :離脱渦の循環増加率係数,
US :リム前縁での主流の流 速,
UT, U U :のど部とポート入口における断面平均流速,
hT :のど部の開口高さ,
δS :リム前縁における境界層厚さ,
n :指数法則による乱流境界層内の流速分布 を表す指数,
St = h T UT / f :渦の放出周期 f に関するストローハル数.
-101-
この相似側は,イコールパーセントプラグで多孔筒 未使用時の場合について有効性が確
認されている ( 3 9 ).すなわち,流体パラメーターを主に数値シミュレーションか ら決定する
ことにより,水流実験を 経ないでも初生キャビテーション係 数の予測できることが示され
ている.ここでは,リニアプラグの使 用と多孔筒の併用 に対しても,相似則[式(3.34) ]が
適用できるのかどうか検 証を行うことにする.
(2)流体パラメーターの決 定
a)圧力係数 C p S :
水流実験, および数値シミュレーションに よ る C pS を Cd に対して
図3.27に示す .図中に示した 近似線を式(3.34) に適用するこ と に す る.なお ,弁上流圧
-102-
力が 1MPa までの水準ではほぼこの関係が保 たれている.
b)離脱渦 の循 環 増 加 率 係 数 C 0 :
数値シミュレーション の結果か ら,リム 前縁での
渦の循環 Γ の時間変化を追った .図3.2 8にイコールパーセントプラグにおける多孔筒
非装備と R-1 を装備した場合の結果を無次元化して示す. この Γ の計算は,渦度分布か
らみて妥当な経路に沿っ て行っている.
いずれの渦についてもΓ /UU D0 は等速的に増加し,約 0.45 で飽和して離脱している.こ
の飽和するまでの循環増加率により,次式 の関係から C 0 を算出した.
dΓ
= C 0U S 2
dt
(3.35)
0.6
Circulation Γ/ U UD0
Ts1 = 0.01
0.5
0.4
0.3
0.2
Ⅳ
Ⅱ
Ⅲ
0.1
0.0
0.00
0.01
0.02
0.03
Dimensionless time t
(a) Without retainer
*
0.04
T =D0/UU =0.02msec
σ= 0.64
Cd = 0.08
Circulation Γ/ UUD0
0.6
0.5
Ts2 = 0.009
0.4
0.3
0.2
0.1
0.0
0.00
0.01
0.02
0.03
Dimensionless time t
0.04
*
(b) R-1 retainer
Fig. 3.28 Time change of circulation at the leading edge of plug rim
-103-
その結果は,多孔筒非装備では C 0 = 0.40, 多孔筒を装備した場合は C 0 =0.42 であり,ど
ちらも従来の調査例 ( 3 9 ) による C0 = 0.46 から大きく異なることはない.流れに平 行な平板で
は約 0.5 であることから ( 9 6 ) ,得られた値はほぼ普遍であると 期待できる.ここでは,流量
係数とプラグ形状,適用 する多孔筒の条件 に対して,すべて C 0 =0.40 を適用する.
c)プラグ面の境界層 n およびδ S / h T :
数値シミュレーションに よ るのど部とリム前
縁における境界層内の流速分布を図3 .29に示す.のど部では平板層流境界層の Blasius
の分布に従うが,プラグリム前縁までに乱流境界層に遷移している.流速分布 に 1/n 乗則
を適用すると,イコールパーセントプラグ では n = 7, リニアプラグでは n = 6 であった.
ここで,δS /hT について,1/7 乗則平板乱流境界層の適 用を検討する.式(3.34)のδS /hT に
関する部分は次式により 表される.
1.2
1.0
v ( r ) / Vmax
0.8
0.6
Without Cage
retainer
Without
R5mm
-1
φ
Cage
R2.5mm
-2
φ
Cage
n
PowerLaw
law, uu~ ∝
r 1 /nr,1nn= 7
Power
0.4
=7
0.2
0.0
0.0
0.2
0.4
0.6
0.8
1.0
r /δ
(a) Leading edge of plug rim
1.2
1.0
v ( r ) / Vmax
0.8
0.6
Without
Without retainer
Cage
R
φ- 5mm
1
Cage
R
φ- 2.5mm
2
Cage
Blasius
Blasius
0.4
0.2
0.0
0.0
0.2
0.4
0.6
0.8
1.0
r /δ
(b)Throat
Fig. 3.29 Velocity distribution in bounday layer
-104-
Cd = 0.04
σ= 0.80
L 
n δS
−1 /5
= 0. 323 1  ⋅ ReL 1
n + 1 hT
 hT 
ここで,
(3.36)
L1 :のど部からプラグリム 前縁までのプラグ 表面に沿う距離,
Re L1 =U TL1 /ν :レイノルズ数.
式(3.36) による結果を数値シミュレーションのものと比較して 図3.30に 示すが,両者
は概して一致していることがわかる.よって,境界層 に関しては,式(3.36) の関係を用いる
ことにする.
0.8
L = 8mm
L1/h = 17
Without
Without retainer
Cage
R-1
φ5mm Cage
R-2
φ2.5mm Cage
A
δ
n
n +1 h
0.6
L = 10mm
L1/h = 15
0.4
L = 14mm
L 1/h = 11
0.2
 L1 
− 0.2
= 0.323 
 ⋅ Re
n +1 h
 h 
n
0.0
10
2
3
4
δA
5
6
7
8
9
5
10
Re =
6
L1V T
ν
Fig. 3.30 Boundary layer thickness at the leading edge of plug rim
d)離脱渦のストローハル数 St:
従来の研究では,本研究の流 量 係 数と弁上流圧力を
含む範囲で,次の関係が 確認されている.
St
L2
L1
= 0.075 ,
(イコールパーセントプラグ)
= 0.135
(リニアプラグ)
-105-
(3.37)
ただし,L2 :プラグリムの長さ.
前述したc)離脱渦の循環増加率係の調査において,同時に離脱渦 の周期も得た.その
結果を図3.31に示すが,多孔筒 に関係なく,ほぼ式(3.37) の関係を満たしていることが
わかる.よって,ストローハル数に関し て は,この関係をそのまま適用することにする
0.20
fS ⋅ h
St =
Linear
UT
0.15
L1
Equal%
0.10
St ⋅
L2
Previous
research (39)
0.05
W
Wi itthhoouutt Cr a
eg
t aei n e r
φ
5
m
m
C
a
g
e
R-1
φ
2
.
5
m
m
C
a
ge
R-2
0.00
2
10
Seat-ring
3
4
5
4
6 7 8 9
10
L1
L2
Re =
2
3
4
5
6 7 8 9
5
10
6
UT L1
ν
Plug
Fig. 3.31 Frequency of vortex shedding
e)プラグリム前縁における 流速 Us:
弁開度が高くなく,Re が十分大きい場合,プ
ラグ壁面に沿う噴流は, リム前縁までにはあまり拡散しないとみなし,こ こ で は次式によ
って置換えることにする .
US = U T
(3.38)
-106-
(3) 予 測 結 果と そ の検 討
上記のようにして決 定した パラメーター を式(3.34) に適用
して,初生キャビテーション係数σ inc を流量係数 Cd に対して算出した.その結 果を実測値
と併せて図3.32に示 す.イコールパーセントプラグでは C d = 0.015~0.09 ,リニアプラ
グでは Cd = 0.02~0.12 の範囲で両者はほぼ 一致している.これより,用いた相似則は,プ
ラグ形状と多孔筒の有無 に関わらず適 用 可 能であることが示 された.これらは ,流れ構造
を適切にモデル化し,流 体パラメーターを 十分な精度で得たための結果であるといえる.
ところで,イコールパーセントプラグの 低流量係数の範囲 では,実験の傾向 に反して,
σ inc の予測値は Cd に対して減少していた.プラグ閉 切 部がのど部に接 近し,流れパターン
が大きく変わったものと 考えられる.
ここで,プラグ形状と多孔筒のσ inc への影響について検討 を行う.式(3.34) について,次
の形で表現する;
σ inc = σ P + σ Γ
σ P = C pS − 1 =
σΓ =
(3.39)
PD − PS
PU − PD
C 0 2 n + 1 U S 3 hT 1 C d 2
2π n U T U U 2 δ S St 1 − C d 2
σ P は気泡が発生する位置で の定常的な圧力による要因を示し ,σ Γ は渦の生成により瞬時
的に発生する圧力降下による要因を示している.これらを計 算した結果を図3 .33に示
す.プラグ形状に関しては,σ Γ は低流量係数域を除い て両者はほぼ同 水 準であるが,σ P は
リニアプラグ方 が高い水準 であり,こ の相異が ほ ぼ そ の ま まσ i n c の相異へ反映されている
ことがわかる.
σ P は,定義式より,リム前縁の圧 力が低いほど高い 値を示す.リニアプラグの方が初生
キャビテーション係数が 高いのは,リム前 縁の圧力が定常的 にイコールパーセントプラグ
よりも低いことが理由であるといえる.
多孔筒の 影響に 関しては ,特にσ Γ については大 きな差 は現れなかった .イコールパー
セントプラグでは,予測 を行った流量係数 の上限付近でσ P が Cd に対して減少しており,
これがそのままσ i n c の変化に反映していることがわかる.
-107-
-108-
-109-
3. 4
差 圧 20MPa 水 準 に お け る 減 圧 過 程
本章の冒頭では,容量係数と 初生キャビテーション係数が 20MPa と 1MPa の両圧力水準
で一致することを示した .ここでは,調節弁内部で簡単な解 析が実施できる領 域を選び出
し,そこの高差圧に お け る流れパターンを 明らかにして,前 節で示した低圧力水準におけ
る流れパターンとの間で ,共通する 特徴について検討 する.これにより,圧力水準が 20MPa
までは調節弁内部流れの 基本構造が変わらない可能性を指摘 した上で,高 差 圧 下のキャビ
テーションを推定することにする.
解析の対象範囲はプ ラ グ特性面とシートリングの間で構成 されるのど部までのすきま区
間とし,1 次元流れと見なして境界層解析 を行う.流量の実測値に基づいて対象区間の流
速と圧力を算出し,この 区間の圧力降下過程を明らかにする .以下に,その方 法と結果に
ついて述べる.
3.4.1 のど部上流すきまを 対象とした 境界層解析の 方法
(1)Kár mán-Poh lhausen の方法
対象とする領域を図 3.34に示す. このすきま
区間では,境界層がプ ラ グ表面とシートリング内壁に沿って 発達するものとする.境界層
外主流は非粘性ポテンシャル流れであり,ベルヌーイ定数は一定として扱う ( 9 7 ) .このよう
な近似解析は,境界層厚 さの 2 乗程度の微少量を無視したものであり,この区 間での境界
層厚さは,後述 するように 流路高さに 比して数%であることを考慮すると,十分 に妥当な
ものとされる ( 9 8 ) .
基礎式は,運動量積分式 と連続の式,お よ び境界層外主流におけるベルヌーイ 式であり,
それぞれ次のように表わされる;
dU e τ w
d
U e2θ + δ *U e
=
dx
dx
ρ
(
[
)
(
)]
(3.40)
d
πU e ( D0 − h) h − 2δ * = 0
dx
(3.41)
1
ρU e2 + p = const
2
(3.42)
-110-
ここで,
x
: 表面に沿う長さ,
Ue (x) : 主流の流速,
τw (x) : 壁面せん断応力,
h(x) : すきま流路の高さ ,
D0 : シートリング内径(環状 すきま流路の外径 )
θ とδ*は運動量厚さと排除厚さであり,δ を境界層厚さ,y を壁面の法 線に沿う長さとし
て,
θ ( x) =
∫
δ
0
 u

 U e

u
1 −
 U
e


 dy


, δ * ( x) =
∫
δ
0

u
1 −
U
e


 dy

(3.43)
以上の式を用いて解析 を行う.運動量積分式(3.42) については,U e が x に対して変化す
るため,Kármán-Pohlhausen の方法 ( 9 7 ) で解くことにする. そこでは, 境界層内の 流速分布
を,次式のように 4 次式で近似する.
u( y)
= F (η ) + ΛG (η )
Ue
(3.44)
F (η ) = 2η − 2η 2 + η 4 , G (η ) =
η=
y
δ
,
?=
-111-
δ 2 dU e
? dx
(
1
η − 3η 2 + 3η 3 − η 4
6
)
Λは流速分布を決 定する無次元パラメータであり,形状係数と 呼ば れ る が,次式 のよう
に変形され,壁面摩擦と 圧力勾配による作 用の比を表わしていることがわかる .
?=
δ 2 dU e ρU e (∂U e ∂x )δ − (∂P ∂x )δ
=
=
ν dx
µU e δ
µU e δ
(3.45)
ここで,次に示す変数 Z を導入する.
Z=
ただし,
θ2
ν
(3.46)
ν :動粘度,20℃の水の場合は 1.004×10 -6 m2 /s.
この Z を用いて,K(Λ)を次式のように定義 する.
K (? ) = Z
dU e
dx
(3.47)
2
=
 37
θ2 υ
?
? 2 

?
=
−
−
 315 945 9072  ?
ν δ2


境界層の諸厚さの 式(3.43) と流速分布の近似式(3.46) からδ*/ δ,θ / δ,τw δ /( µUe)をΛの関
数として表わすと, 式(3.47) の関係を用いて,運動量積分式(3.40) は次式のように 変形され
る.
dZ F ( ? )
=
dx
Ue
(3.48)
 74
2?
? 2 
116 ? 79 ? 2
?3 
F ( ? ) = 
−
−
 2 −
+
+

315
7560 4536 
 315 945 4536 
式(3.47) と(3.48) は Z を介したΛに関する微分方程式である .この連立方程式 は主流の速
度が x に対して変化しない場合を除いては,たいていは解 析 的な解が得ら れ な い.そこで,
図3.34に示すようにすきま区間を微小分割し,すきま入 口 I における入口境界値から
流れ方向に向い,x に関する初期値問題として数値的に解くことにする.分割区間の長さ
-112-
は 0.01∼0.02mm 程度,分割区間数は 50∼400 とする.
(2)数値計算の手 順
区間 i で Uei と Zi ,(dZ / dx) i が得られていれば,以 下の手順に
より,次区間(i+1)における値 Ue i+1 と Zi+1 ,(dZ/dx ) i+1 を求めることができる.
1)Z について数値積分 を行う.すなわち,
 dZ 
Z i +1 = Z i + 
 ∆x
 dx  i
(3.49)
2)Z の関係式(3.47) を満たす U ei+1 ,Λ
Z i +1
i+1
を,繰返し計算に よ り求める.差分化 して,
U ei +1 − U ei
= K (Λi +1 )
∆x
(3.50)
ただし,U e は連続の式よりδ*に依存するものである.すなわち,
U e (x ) =
ここで,
Q
π [D 0 − h( x )][h( x ) − 2δ * ( x )]
(3.51)
Q :流量(本計算では実測値)
δ*は定義式(3.43) と流速分布の近似式(3.44) ,Z の定義式(3.46) より,Z とΛによって記述
されるので,整理すれば,ここで解く式(3.50) はΛ i+1 に関する方程式に変形される.実際の
繰返し計算ではニ ュ ー ト ン法を適用する.
3)式(3.48)から(dZ/dx) i+1 を求める.
以上の手順の流れを図 3.35に示す.
-113-
(3)初期条件
対象区間の入口で 流量の実測値を与 えるが,直前に述べたように,計
算の開始位置で必要と な る諸量は U e0 と Z0 ,(dZ / dx)0 である.これら得る上で ,ここでは
式(3.50) について,次の極限操作を行う ( 9 9 ) .
dZ
F
dF dx
=
=
dx U e dU e dx
∴
d 2U e dx 2 F (Λ)
dZ
F ′(Λ) K ′(Λ)
=
K (Λ)
=
dx 1 − F ′(Λ) K ′(Λ)
(dU e dx )2 U e
(3.52)
式(3.52)に連続の関係による式(3.51),排除厚さの定義式(3.43),Z の関係式(3.47)を連立
させて,繰返し計算に よ りδ*0 , Λ0 と共に Ue 0 , Z0 , (dZ / dx)0 を求める.流速の微分値が必要
となるが,すき間区間入口 I では断面積 A (x)の変化率が以降のすき間区間と比 較して大き
いことから,有効面積積 A e の微分が現れるときは dAe (x ) dx = dA(x ) dx と置き,排除厚さが
関与しないと仮定して計 算を行うものとする.このとき,入口近傍でδ*, Λ等は急激な変化
を示していないことを確 認している.
-114-
3.4.2
境界層解析の結 果
(1)低圧力水準 の流れ 構造と の相似点
Kármán-Pohlhausen の方法では境界層 の内部
を層流に限定している. 圧力勾配が存在す る流れでは,乱流遷移の条件はδ*で定義したレ
イノルズ数 R e δ* =U e δ* /ν により決定されるが,本計算で は最大でも 600 程度であり,乱流
遷移は生じていない ( 95 ) .排除厚さのすき間流路高 さに対する比 2δ*/h については,最大で
も 10%程度と小さく,発達したすき間流れの形 態とはなっていなかった.
図3.36に対象としたすき間区間における圧力低下の過 程を,非キャビテーション状
態の N-S 数値シミュレーションによる結 果と比較して示す .圧力は式(3.33) に示す圧力係
数 CP によって無次元表示しているが,全区 間に渡ってほぼ圧力低下の過程が一 致している .
これより,のど部までは 共通した流れ構造 であることがわかる.
図3.37に,のど部 T における平均流速 U T と境界層外側の主流流速 U e T を示す.ただ
し,両者は次の関係に あ る.
U eT
UT
=
1
1 − 2δ T * hT
(3.53)
Inlet of
narrow path
Inlet of narrow path,
L = 90%
Valve throat
0.8
Pressure coefficient Cp
Pressure coefficient Cp
1.0
Inlet of narrow path, Valve
L = 100%
throat
0.8
0.6
1D analysis,
σ = 0.006
N-S simulation,
σ = 0.22
0.4
0.2
0.00
1D analysis,
σ = 0.006
N-S simulation,
σ = 0.22
0.6
0.4
L = 90%
0.2
L = 100%
0.00
8
6
4
2
0
2.0
1.5
1.0
0.5
Distance to throat mm
Distance to throat mm
(a) L = 50%
(b) L = 90, 100%
Fig. 3.36 Pressure change in narrow path between seat-ring and plug
-115-
0
平均流速は開度が低くなるほど遅くなり,L = 36%では U T =176m/s であるが,全開度範囲
で主流流速はほぼ一定のU e T =198m/s となる.境界層外主流を ポテンシャル流れ と見なして
いるため, 非常に 低流速の 弁入口 Uからのど部T に至 る圧 力 降 下∆P U - T はのど部出口 の主流
部動圧 1 2 ρU eT 2 に等しいことになる.この動圧19.6 MPaは弁差圧にほぼ一致することから,
静圧はすでにのど部で弁下流圧に達しているといえる.圧力低下がこのような 過程である
限りは,先の3.1.1 節で図3.1に示 した弁容量係数も 弁上流圧力の水準 に対して不
変であるといえる.
のど部では流速はたいへん早くなっており,そこから流出 する流れは噴流と してプラグ
特性面を沿うものと考えられる.低 圧 力 水 準ではこのような 噴流に沿ってキャビテーショ
ン気泡が形成されたが, 初生キャビテーション係数がほぼ一 致していることから,弁上流
圧力が20MPa水準でも,同じ発生機構に よ っ てキャビテーション気泡 が形成されると考え
られる.
このように,流れ の構造に関し て共通点が多 いため,20MPa までの圧 力 水 準では,基本
的な流れ構造は不変であると考えられる. すなわち,高 差 圧 下では直接に計測 や解析で確
認できないような流れ構 造が推定可能になるといえる.ニードル形プラグの場 合では,の
ど部噴流に沿って発生し たキャビテーション気泡が,プラグ 閉切部で集中的に 消滅すると
推定できる.そのため, 材料壁面への作用 が最大になる位置 として,壊食の発生位置がプ
ラグ閉切部に特定されることになる.さ ら に,弁開度が高くなるに従って,キャビテーシ
-116-
ョンも激しくなり,壊 食 率が増加するとも 予想される.
(2)圧力降下の過程
すきま区間全体 の圧力降下∆P I -T ,に対して ,壁 面 摩 擦と運動量
厚の寄与分∆P shear ,∆P mom を算出し, 弁 全 体 差 圧との比較 で図3. 38に示す .こ れ ら は,
次のように定義される;
(
∆ PI −T ≡
1
2
2
ρ U eT − U eI
2
∆ Pshar ≡
∫
T
I
τw
dx ,
δ*
)
,
(3.54)
∆ Pmom =
∫
T
I
(
)
1 d
ρU e 2θ dx
δ * dx
低開度では 境界層の 作用が強 く,∆P I- T は∆P U - T にほぼ一致する. すきま区間入口Iへの近
寄り流速U e I の動圧 1 2 ρU eI 2 が小さいことから ,結局∆P U- T は∆P U- D に等しくなる.高開度で
は,∆P shear が大きく 減少してすきま 区間での 圧力低下∆ P I - T は小さいが, 動圧 1 2 ρU eI 2 が大
-117-
きく,弁入口から 隙間区間入口 までの 圧力降下 が加味 されて ,∆P U - T は ∆P U- D にほぼ等し
くなる.いずれの場合で も,のど部静圧は 弁出口圧にほぼ等 しい.換言すれば ,のど部に
おける運動エネルギーがのど部下流のプ ラ グと弁室内でほぼ 完全に消散する構 造が現れる .
そのため,この運動エネルギーがキャビテーション壊食に関 与すると考え ら れ る.
(3)噴流 の運動 エ ネ ル ギ ー
弁出口Dでは流速 が十分に 小さいと考 え,全開流量時の
弁のエネルギー 消散を基 準として, のど部の運 動エ ネ ル ギ ーが消散 する寄与分 WU *と,弁
のど部下流での圧力の低 下による寄与分 WP *を図3.39に示す.た だ し,P T を弁のど部
静圧として,
WU * =
∫
D0/ 2
2π r ⋅
D 0 / 2− hT
1
ρU T 3 dr
2
[(PU
− PD )Q ]L =100%
(3.55)
W p * = [(PT − PD )Q ] [(PU − PD )Q ]L =100%
この境界層解析と,非キャビテーション状態による結果を比較しているが,これも両圧
力水準で傾向は一致しており,エネルギー 変換の観点からも 基本的な流れ構造 は変わらな
いことが確認される.
-118-
ここでは,次式に示す弁全体の損失 WU -D *と平均流速 U T に基づく W U * も比較する.
WU *=
1
2
ρU T Q
2
[(PU
− PD )Q ]L =100%
(3.56)
WU − D * = [( PU − PD )Q] [( PU − PD )Q ]L =100%
全開度にわたって WP *は WU *に比して無視できる程度であり ,弁全体の損失 WU - D *は大
部分が WU *に依っていることがわかる.WU *は,平均流速 U T に基づく W U * に比してわず
かに低い程度であり,こ の弁差圧水準での キャビテーション 壊食をのど部の平均流速に基
づく W U * によって評価することとする.WU *は開度に対して急増するため,全開時におい
てキャビテーション壊食 が最も顕著に な る と予想される.
-119-
3. 5
本章のまとめ
調節弁の内部流れについて,現実的な手 段から調査を行っ た.初めに,低圧力水準での
実験と,キャビテーション初生前の単相流数値シミュレーションに基づき,キャビテーシ
ョンの発生に関係する流 れの基本構造を見 出した.次いで, 高差圧下の流れを 部分的に検
討し,流れの構造が大き く変わらない可 能 性を指摘した.そ の上で,キャビテーションの
状態を推定し,壊食の発 生について予測を 行った.その内容 をまとめれば;
(1)1MPa 水準の観察実験か ら,キャビテーション気 泡の発生位置 を特定した .ニード
ル形プラグに関しては特性面のみであり, 汎用プラグに関しては,リム前縁と 特性面肩部
も加わる.汎用プラグに 多孔筒を併用す る と,高い開度範囲 では多孔筒開口部 も加わる.
(2)初生前の圧力条件 で単相非定常流の 数値シミュレーションを行った.キャビテーシ
ョン気泡の発生が観察された位置では強い 渦が存在し,その 中心圧力は瞬時的 に飽和蒸気
圧力の水準に達す る こ と を確認した.これより,各形態の発生泡について,特 有の流れ構
造を次のように明らかにした.
a: 特性面上では,の ど部噴流に沿ってせん断渦が形成さ れ,移流するに伴 って中心圧
力は低下し,やがて気 化に至る.ただし,閉切部 に近付くと,圧力上昇のために 消滅する.
b: リムでは,のど部噴流が前縁ではく 離し,直ちに再 付 着している.静圧 は周囲より
も低く,そこに形成さ れ る強いせん断渦で は中心圧力が容易 に気化に至り,付 着した発生
泡の形態を呈する.汎用 のイコールパーセントプラグの場合 は,開度の高い範 囲で特性面
肩部の周辺に同様の流れ 構造が現れる.
(3)汎用プラグに関し て,キャビテーション初生の観点か ら,プラグ形状と 多孔筒を次
のように評価した.
a:低開度で初生するリム発生泡に関して,せん断 渦の放出モデルに 基づく初生キャビ
テーション係数の予測式 を適用し,両プ ラ グ形状に対して, 多孔筒を併用した 場合でも有
効であることを示した. このキャビテーションを回避する目 的では,イコールパーセント
プラグの使用が好ましい .ただし,多孔筒 は影響しない.
b:中間開度では,多孔筒を併 用すると,リム前縁 ではく離した流れはそのままプラグ
から離れ,はく離域は下流側に大きく開い た形態となり,静 圧は周囲か ら あ ま り低下しな
い.そのため,リム付 着 泡に関するキャビテーション係数は 大きく低下する.
-120-
c: 高開度では ,リニアプラグ に関す る流れ パ タ ー ンはのど 部から 広がる 形態であり,
プラグ近傍では強い渦の 発生が抑制される .一方,多孔筒を 併用すると,そ こ に衝突する
のど部噴流によって比較的高いキャビテーション係数から初 生する.そのため ,リニアプ
ラグ単独の使用が好ま し い.
(4)ニードル 形プ ラ グでは, 弁の容量係数 と初生 キャビテーション係 数の実測値は ,1
MPa から 20MPa の弁上流圧力水準まで不変であった.20MPa 水準において, のど部まで
のすきま区間を対象に境界層解析を行うと ,圧力降下の過程は 1MPa 水準の解析結果と相
似であった.流量特性と 一部領域の流れ構 造が一致することから,調節弁内部 の流れ構造
は 20MPa 水準まで大きく変わらない 可能性が高いといえる.
(5)20MPa 水準におけるキャビテーション 形態を,低圧下 で見出した流れの 基本構造か
ら推定し,特性面に沿っ て発生した気泡が 閉切部で集中的に 崩壊するものと見 なす.そこ
を,材料壁面への作用が 最大となる位置として,壊食の予測位置に特定する. 壊食率はの
ど部噴流の運動エ ネ ル ギ ーに関係し,開度 が高くなるに従っ て増加するとも予 想される.
-121-
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