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第1章 序 論
第1章 1. 1 序 論 本研究 の目的 産業プラントでは,制 御すべきプロセス の状態量・変数に 応じて多数の調 節 弁が使用さ れており,大規模なプラントでは総数は数千個に及んでいる .プロセス流体は 温度や圧力 などの条件 が多 種 多 様であり (1),(2) ,相状態 や化学的性質が不安定な 場合も あ る (3) .このよ うないかなる流体条件に 対しても,調節弁 に要求される項目 としては,長期間 にわたって 故障を起こさずに確実に 動作することと,流量特性が保証されることは当然として,騒音・ 振動を発生するなど周囲環境の悪化を招か ず,しかも,構造 が単純で,小型・ 軽量である ことにまで及んでいる. 調節弁は,一次側流体 の保有する高い圧 力のエネルギーを ,絞りによって高速流れの運 動エネルギーへ変換し, 壁面摩擦や流体間摩擦による熱と し て消散させることによって, 二次側流体の低い圧力を 実現させている. この一連の過程をできるだけ短い距 離で達成さ せようとすると,一部の エネルギーは流速 や圧力の急激な変 化に起因して容易 に別の形態 へ変換され,流れを不 安 定にしたり,弁体 を振動させたりするなど,種々の現 象を引き起 こす.流れが高速・高エネルギー密度の場 合には,こ の よ う な問題が顕在化し ,制御性や 安全性を著しく低下 させるほかに ,周囲環境に 悪影響を及ぼすことになる ( 4 ) -(6) .プロセス の技術開発とプラントの 大型・高圧化は, 輸送流体の高速化 とエネルギーの高密度化を前 提とすることから,過酷化する 流体条件への対策技術が絶えず要請 されることになる ( 7 ) , (8) . 扱う流体が液体の場合に は,キャビテーションの誘導する諸問題が最大の技術課題とな る (9)- (13) .キャビテーション は,局所的な流 速の増加や強い渦 の生成によって圧 力が飽和蒸 気圧まで低下するとそこで気泡が形成され ,やがて再凝縮す るまでの一連の過 程を指す. 再凝縮の際には,気泡の 中心へ周囲の液体 が集中することによって衝撃的な高圧力と局所 的な高温が発生する ( 1 4 ) .これにより,弁体は高周期で加振されると共に激しい 騒音を放射 し,さらに,材料の耐性 が十分でなく,流 路の形状に配慮が 足りないと,気泡 が崩壊する 近傍の壁面は壊食されることになる ( 1 5 ) .これらを想定しないで使用を続 けると,流量特性 の逸脱などとして被害が 現れ,最悪の場合 はプラントの停止 に至らしめる結果 となる.そ -1- のため,高圧液体の制御技術では,キャビテーションの発生 と壊食の進行を知 ることが必 要不可欠となる. 調節弁のキャビテーションに関する研究は ,自動制御技術の 普及によって調 節 弁が手動 弁から置き換わった頃の 1950 年代後半から ,大容量のプ ラ ン ト設備の建設が進 んだことを 背景 (16),(17) に開始 された .当初の 研究で は,圧 力と流 量のプロセス量 や,騒 音,弁 体の振 動などの外部計測データ を分析することにより,キャビテーションの発達段階 が初生,臨 界,閉塞などとして 検出・確定され (18) - (23) ,各種の形式の弁について使用圧力範囲が実験 的に明ら か に さ れ た (24) - (27) .その一 方で,実 際にはこの使 用 圧 力 範 囲を超 えた高 差 圧でも 調節弁は 用いられており ,壊食 のフィールド 事例が 紹介さ れ る よ う に な っ た (28),(29) .しか し,壊食の発生位置と進 行の程度は事例別 に把握されるにとどまり,使用条件 や材料など に関して系統的な論議が 行われたことは少 ない.現実的な対 処としては,経 験 的に予想さ れる壊食位置に硬質の材 料を適用する,流路形状を微調整す る,それでも不 十 分な場合に は高頻度で点検を行うようなことが見受けられるようである .弁内のキャビテーションを 緩和した 耐キャビテーション弁室構造 (26),(30) を適用す る こ と も多いが ,抵抗要素を 内挿す るなど大型・重量化を 伴う一方で,効果は十分に評価 されているとはいえない.流体計測・ 解析によってキャビテーションを分析し, 泡郡の発達過程や 壊食との関係を考 察した調査 も行われている.これは ,調節弁の内部流 れが 2 次元として比較的容易に把握 されるバタ フライ弁などに関して盛 んに行われており ,騒音や壊食を軽 減・回避す る た め の数々の改 良案が提案されている ( 3 1 ) -( 3 6 ).高差圧の条件で常用されるコンタードプラグ弁に関し て も, 従来から流れ構造とキャビテーション形態 は複雑であると思 われていたが ,近年にな っ て, いくつかの特徴的なキャビテーション形態 が示され,関係す る流れ構造が特定 されること によって圧 力と弁口径に 対するキャビテーション 限界の 相似性が 説明された ( 3 7 )- (40) .この 形式の調節弁でも,流れ 構造についてさらに検討を進めることにより,キャビテーション に対するプラグ形状な ど の評価や,流 体 条 件の壊食に及ぼす 影響,壊食の発生位置と進行 などについて理解が進むものと思われる. さらに,これらの知見が 整理されれば,調節弁に関して最 近 盛んに議論されている仕様・ 運用の規格化や,機 能のインテリジェント化 ( 4 1 ) -( 4 4 ) にも寄与するといる.各メーカーから ディジタルポジショナー が発表され,保守 ・管理を効率化するという観点から 各種の診断 機能が提案されているが ,壊食量を推定し ,設計時特性か ら の逸脱や閉切機能 の劣化など と関係付け,部品の交換時期としての寿命予測を行うことが 可能となれば,極 めて有意で -2- あるといえよう.なお, ディジタルポジショナ−は,使用者 が流量特性を任意 の関数に設 定できる機能を備え て い る.各内弁要素について,キャビテーション限界の観 点から評価 を前もって行っておけば ,使用条件から適 切な内弁の構成ができるといえる. 本研究は,なるべく高 い圧力水準でキャビテーション実験 を行い,直接に適用可能な調 節弁技術を提案するものである.実現する 圧力水準は,壊食 が発生するのに十 分な,実際 の蒸気発電プ ラ ン トの高 圧 給 水システム に相当する 20MPa までとする.試験用調節弁に は,高圧流体制御に常用 されるコンタードプラグ弁の基本的構造のものを供す る.最初に 流れ構造を特定し,こ れ に基づいて壊食実験結果の評価を行 う.検討する具体的項目は下 記の通りである; (1)調節弁内部流れの基本構造を明らかにする.1MPa 水準にてキャビテーションの観 察結果と数値シミュレーションによる初生直前の流れパ タ ー ンを照合することにより,キ ャビテーションの形態を 流れ構造から説明 する.これより, 次の点について検 討を行う. (1−1)キャビテーション初生を 基準にプラグ形 状と多孔筒を選定 する方法について 検討する.全開度範囲で キャビテーション 泡群の形態を把握 した上で,初生時 の流れ構造 を明らかにする.各要素 を比較評価した上 で,調節弁の使用条件に応じた弁トリムの構成 を提案する. (1−2)20MPa 水準におけるキャビテーションの 形態を推定する.調節弁のど部まで の圧力低下過程を 1 次元流れの仮定の下に 解析し,エネルギーの変換過程を明ら か に する. 流れの基本構造は低圧力水準のものと変わらない可能性が高 ことを指摘した上 で,キャビ テーション気泡の崩 壊 位 置を推定し,壊食 の予測位置として 提示する. (2)20MPa の圧力水準で発生する壊食 について,流れに関する要 因と,各種実用材料の 耐性を提示する.流れに 関しては,開度, 圧力などの作 動 条 件と,プラグ形状 などの流路 形状に加えて,水中溶存酸素量などの水質 についても調査を 行う.材料と し て は,各種ス テンレス鋼のほかに,工具鋼,チタン合金 ,ステライトな ど も取り上げ,一部 は金属組織 の観点からも耐性の評価 を行う. (3)壊食の進行過程を 明らかにし,壊食質量を予測する方 法について検討す る.壊食に よる閉切機能の劣化も指 摘した上で,閉 切 時の漏洩流量を基 準として,トリム 部品の交換 時期としての寿命を調 節 弁の作動記録から 予測・診断する方 法について提案を 行う. -3- 1.2 1.2.1 従来の研究 調 節 弁のキャビテーション限 界に関する 従来の研究 調 節 弁 の キ ャ ビ テ ー シ ョ ン に 関す る 研 究 は,流体条件からキャビテーションの状態 を 知ることを目的として, 限界点の調査から 開 始された.当初は弁差圧 に対する流量の関 係 から 流 量 閉 塞 点が 見出 されたが (18),(19) ,閉 塞 に至らない発達段階でも 外囲騒音や弁体の 振 動はかなり大きく ( 2 0 ) ,流路壁面に壊食が発 生 す る事 例 も 報 告 さ れ た (45) .そ こ で , 主に 騒 音・振動計測から,閉塞 に至るまでの弁 差 圧 範囲でキャビテーション 限界を判別する方 法 が検討されるようになった(21) .しかし,測定 位置や分析する周 波 数 範 囲には統一的な見 解 がなく,主観的な判 断 基 準が含まれる例も 多 かった. 大 田ら (23) は ,振 動 計 を 弁上蓋 に 固 定 し , 100kHz までの機 械 振 動を は る か に 超えた 周 波数範囲で分析を行い, 実効値とス ペ ク ト ラ ムの弁差圧に対する変化 を提示している. 図 1.1に管内の圧 力 変 動 値と併せた結果を 示 すが,これにより次の事 実が明らかとなり , キャビテーションの各限界点が客観的に確 定 できるようになった. a)初生点(inc): 振動加速度スペクトラ ムが構造系の振動に影響 されない約 20kHz 以 上の高周波数成分で成長 を開始する[図(d) , -4- b→c].このような特 徴は,式(1.1)に定義される Rice 周波数 f R を導入することにより,不 連続に上昇する状態と し て確定できる[図(b)] . ここで, fR = ∫ ∞ f 2 ⋅α 2 ∫ ( f )df 0 α ( f ) df 0 ∞ 12 2 (1.1) α 2 ( f ) :振動加速度のパワースペクトラム. ただし, この限界点はキャビテーションが初生する 状態であり ,生成気泡が直 ちに崩壊すること により,軽い破裂音が間欠的に発生し,Rice 周波数を不連続に変化させると解釈される. b)臨界点(cri ): 高周波数成分の振動加速度スペクトラムがほぼ飽和し た状態とし て確定できる[図(d)の過程①].キャビテーションの発 生が定常的になった状態であるが, 外囲騒音も弁体の振動も 比較的に軽度に留 まっている.そのため,この臨界点 をもって調 節弁の最大使用差圧を推 奨することが多いようである.その 後は,飽和する成 分の周波数 が低い帯域へ移行し て い く[同図の過程②]. c)閉塞開始点(ch): 弁下流の圧力変動が上 流 側の変動か ら独立して増 加を始める状 態として確定できる[図(c), f ].下流側じょう乱の上流への伝 播が制限される状 態であり, 圧縮性流れの閉塞開始として意味を持つものである.限 界 流 量に達する状態としての流量 閉塞点と明確に区別さ れ る. なお,同時に計測された騒音 については鋭敏な 変化が現れ な い た め,限界点の確定には 適さないことが説明されている. このようにして確定された各限界点は, 弁開度をパラメーターとして図示される.用い られる無次元数の代表例 として,圧力変化の相似性を 示すキャビテーション係数σ 開度を代表する流量係数 C d σ = (20) と弁 の定義を次式に示す. PD − PV (1.2) PU − PD Cd = (13) Um 2( PU − PD ) ρ + U m 2 -5- (1.3) ここで, P U , P D : 弁上流:下流圧力,[Pa] , P V : 流体の飽和蒸気圧力,水温 293K では 2337 Pa, Um : 接続管路内の平均流速,[m/s] , ρ: 流体の密度,水温 293K では,998.2 kg/m3 . 図1.2に,各種トリムを適用したグローブ弁に関して ,各限界のσ を Cd に対して示す (23),(24) .こ の よ う に整理 することによって,調節弁の 作 動 条 件からキ ャ ビ テ ー シ ョ ンの発 達段階を知ることができると同時に,キャビテーション特性 に関する部分的な 相似則が明 らにされている.さ ら に は,トリム形式間 の比較も容易となっている. しかし,この相似則は 必ずしも統一的に 扱えるようにはなっておらず,流量特性や定格 流量の変更などに対し て も実験調査が必要 となる.また,高圧力の条件ではキャビテーシ ョン臨界を超えての使用 も常態化しており ,このような場合 には激しいキャビテーション が余儀なくされる.そ こ で,現象を正確に 理解し,適切な対 策を講じるために ,キャビテ ーションを物理的,流体力学的に分析することの必要性が次 第に指摘されてきている. なお,キャビテーションの検 出について,計測器を 弁内部に設置することにより発生位 置の近傍で も測定が 行われており,ボール弁に 関して水中騒音を 測定した 例 ( 4 6 ) や,油圧 用スプール弁に関して噴流衝突部で圧 力 変 動を測定した例 ( 4 7 ) が報告されている.しかし, -6- これらの方法は,計測器 の選定や設置位置 の構造などにかなりの考慮を要することから, 適用できる調節弁形式はごく限定されているようである. 1.2.2 調 節 弁のキャビテーション形 態に関する 従来の研究 従来,調節弁内のキャビテーションは形 態がたいへん複雑 であると想定されてきた.弁 形式によって異な る ほ か に,個別の弁に関 しても,関与する 流体パラメーター が多く,そ のため,種々の性状のキャビテーション気 泡が混在しているものと考えられてきた. これに対して,可視化 や流体計測により ,主にバタフライ 弁や仕切弁に対し て,キャビ テーションの形態が直接 に調査されるようになっている.そこでは,発生泡を 分類し,個 別に発生条件や性状を分 析することにより ,騒音や壊食への 対策が考案されている.同時 に,一部では初生機構に 関してモデル化による解析が行われ ,高精度の予測式 が提示され るまでに至っている. さらに,最近では流れ の数値シミュレーションを調節弁の 設計に適用する方 法も一般的 となりつつある.現在 ,単相流の計 算スキームは流体機器への適 用 方 法が確立さ れ て おり, キャビテーションに関しても,流れの基本的構造を検討し た り,最低圧力点を 予測したり するなどの調査例が報告 されている. ここでは,調節弁のキャビテーションを実 験 計 測やモデル化に よ り調査した研究と,弁 内流れに数値解析を適用 した研究について ,従来の報告例を 概説していく. (1)実 験 計 測とモデル 解析に関する 従来の研究 当初,キャビテーション 泡群の瞬時 撮影による観察は,可視化用構造の製作が 容易なバタフライ 弁に関して盛んに 行われるよ うになった.辰巳ら ( 4 8 ) はトレーサの可視化によって流 れの基本構造を明 らかにし,その上 で,キャビテーション 形態を詳細に報 告している.田 島ら ( 4 9 ) と木村ら (50) は,外囲騒音と振 動の成長などと対比して キャビテーション 形態の特徴を提示 している.佐藤ら ( 5 1 ) は,ディ スク形状の改良案を気泡 の発生を抑制する 観点から評価している.油圧制御用 のポペット 弁に関しても,流れ が軸対称であると 想定して調査が 行われており ,青山ら ( 5 2 ) と大島ら (53) がキャビテーション形態 と騒音・振動に対 するポペット形状 の影響を示し,同 時に測定し た圧力分布から説明を加 えている. さらに,大場らは仕切弁 ( 3 1 ) -(33) とバタフライ弁 (34),(35) を対象に高速撮影を行い,気泡の形 態を発生部位によって分 類し,個々に発生機構などの性状を 定性的に評価している.同時 -7- に計測した衝撃圧力分布 と照合することによって,壊食性が 高いとされる気泡形態を識別 し,それへの対策を各弁形式について講じている.仕切弁については,壊食性気泡の崩壊 位置を流路壁面から離す 構造が,バ タ フ ラ イ弁については, 壊食性気泡の原因 となる強い せん断渦を抑制するディスク形状が提案されている.こ れ ら は流路形状の局 所 的な改良に よって大きな効果を得られるため,た い へ ん有利な方法となっている. なお,バタフライ弁に関しては,縮流部の流 れをオリフィスに 想定したり ( 5 4 ) ,ディスク 後流に 渦モデル を適 用し た り ( 5 5 ) す る こ と に よ っ て初 生 限 界を相似則 に表 現す る方 法が提 案されている.特に,後 者は渦生成による 局所的かつ瞬時的 な圧力低下として ,キャビテ ーション初生の機構をかなり正確に模式化 できているようであり,実用の大口径弁に対し ても曲管位置の影響を含 めた予測が高精度 で可能となっている. しかし,高差圧の条件で常用 されるケージ弁と コンタードプラグ 弁に関しては,激しい キャビテーションを余儀 なくされることが 多く,最も調査が 必要であるにも関 わらず,調 査例はたいへん少ないままであった.こ れ は,流れ構造とキャビテーション形 態が概略的 にでも想定されて来なかったことより,可視化用構造の設計 と流体計測が困難 な対象とし て見なされていたためである. 初めてキャビテーション 形態を提示し た の は大田ら (38),(39) であり,そこでは,5MPa まで の広い上流圧力の水準で 気泡の発生部位が 識別され,弁差圧 に対する発達過程 が明らかに されている.コンタードプラグ弁に流 量 特 性がイコールパーセントのプラグを 適用した場 合について,キャビテーション形態とそれぞれの初生限界を 図1.3に示す. 各種の弁上 流圧力水準と弁口径に対 し,高開度範囲 と低開度範囲の初生泡として,ひも状泡(S)とプラ グリム付着泡(R)が示されている.そ れ ぞ れ の初生キャビテーション係数は,流量係数に対 する勾配が不変であり, この実験範囲では 基本的な流れ構造 が保たれている可能性も示さ れている. このような可能性から検 討して,両方の形態の 気泡について強い 渦の存在を仮定し,渦 生成のモデルを解析することによって,初生限界を相似則の 形式に表現し て い る.その概 念と導出された予測式による結果を図1. 4に示す.ひも状 泡については,旋回流にラン キン 渦を 仮定 した モ デ ル(S-1)が, プ ラ グ リ ム付着泡 には ,は く離 に よ る渦放出 のモデル (R-1) (56) がそれぞれ適用される.初生限界 は,渦の中心が瞬 時 的に飽和蒸気圧力 まで低下し た状態として予測され(S-2, R-2),広い上流圧力の水準と弁 口 径の範囲で実験値 とかなり一 致した結果を得ている. ここで想定した強 い渦を伴う流れ構 造は,現象を正し く説明して -8- いることがわかる. 同時に,この予測に関与する 流体パラメーター を検討することにより,流路形状の部 分 的な改善策が考案されている.ひも状泡に 関しては,弁 上 流 室で十分に整流す る方法が, プラグリム付着泡に関しては,発生部位の 静圧を高め る よ う にプラグリムの形 状を微調整 する方法が採用され,流量特性などの基本性能に影響を及ぼさずに,初生キャビテーショ ン係数を大きく低下さ せ る成果が得られている.作動条件によっては,耐キャビテーショ ン弁室構造を導入するよりも極めて有利な 処置法となっている. このように,発生泡に特有の 流れ構造を見出することにより,キャビテーション形態が 正確に把握できることがわかる.本論文で も,流れ構造に基 づいてキャビテーション実験 結果の評価を行うことにする.流れ構造の 特定は,低 圧 力 水 準にて観察実験と 初生直前の 単相流数値シミュレーションから行い,次 いで,高圧力水準 にて,共通する流 れの特徴を 見出すようにする.これにより,基本的な 流れ構造が圧 力 水 準に対して保た れ る可能性を 指摘することにする. -9- -10- (2)数値シミュレーションによる従来の研 究 調節弁内のキャビテーションを直接に 知るためには,当然,気液二相流の数 値 解 析が望まれる.しかし,気相に相 変 化するため の飽和蒸気圧力は常温で約 2kPa であり,10MPa 水準から蒸気圧力に至る圧力変化を円滑 に表現できる計算ス キ ー ムはいまだに確立 されていない.圧力変化が緩やかな 翼形状など を対象とした計 算 例は多いが (66), (67) ,それでも,ボ イ ド率(気相体積率)が制限 されてい るようであり,十分発達 したキャビテーションを対象にするまでには至っていない.広く 流体機器へ適用するまでには,いまだ課題 が多く残されているのが実状である . 一方,現在ほぼ確立されている単相流の シミュレーション は,流れパターン の詳細が得 られることから,キャビテーション形態の 推定に利用されるようになっている .特に,調 節弁の内部では,流 路 構 造が弁体の体格に 対して複雑な た め に,流体計測は困 難であり, その点でも数値シミュレーションの寄与は 大きいといえる. この場合,調 査 項 目となるの は最小圧力点とそこまでの圧力低下過程, および高速噴流の 衝突位置となる. 前節で説明 したコンタードプラグ弁 に関するモデル解 析の調査では ,数値シミュレーションに よ っ て, リム付着泡の初生が渦 生 成による瞬時的な 圧力低下として確 認されている.そ の上で,渦 生成に関係する諸パラメーターの値を決定 し,初生限界の予 測が行われている [図1.4 (R-2)].ここでは Navier-Stokes 方程式を差分法によって数値計算しているが, この方法に よるシミュレーションは,バタフライ弁を対象に 樋口ら ( 6 1 ) によって行われており,ディス ク形状の改善策が提案されている.噴流の 衝突位置に関し て は、油圧制御用スプール弁を 対象に上野ら ( 6 2 ) によって差分法で行われたほかに,離散渦法による計算 も清水ら ( 6 3 ) によっ て実施されている.このように,シミュレーション結果の利 用は,流量や弁軸推力の見積 (57)- (60) などから発展して, 目的が広が っ て い く状況にあることがわかる. キャビテーション壊食が 発生するような高差圧の条件に対しても,流 れ構造が解析や計 測によって部分的であっても把握され,さらに,低圧力水準 のものと共通する 特徴が確認 できれば,たいへん有意 であると考え ら れ る.すなわち,低圧力水準のキャビテーション 形態を基準にして,高差圧水準のキャビテーションを予測しても,実態から大 きく異なる ことはないといえよう. そこで,本論文で も単相流の数値シミュレーションか ら初生直前 の流れパターンを調査し ,これと近い圧力条件のキャビテーション形態と対照 させて,キ ャ ビ テ ー シ ョ ンを 発生させる 流れ構 造を 1MPa の水準 で特 定することにする .次 いで, 20MPa の高圧力水準に関して ,のど部までのすきま区間を対象に ,1 次元流れを仮定した 解析を行い,圧力低下の 過程を明ら か に す る.両圧力水準の 間で流れ構造を照 合すること -11- により,単相流数値シミュレーション結果 に基づいて高 圧 水 準のキャビテーションを推定 できる可能性を指摘することにする. 1.2.3 調 節 弁のキャビテーション壊 食に関する 従来の研究 調節弁のキャビテーションに関しては, 初生点,臨界点, 流量閉塞点などの 限界点から 使用範囲が推奨されているが,一般の調 節 弁では激しいキャビテーションが余 儀ない流体 条件も,実際のプラント には多く設定されている.この場合 ,調節弁を適用するに際して は,壊食への検討が第一 の課題となる. 調節弁の壊食事例を図1 .5に示す ( 2 8 ) .アングル弁を flow-to-close に使用した例(a) では, 弁のど部の下流近傍でキャビテーション気 泡が集中的に崩壊 していたことがわかる.ケー ジ弁の例(b)では,対向噴流がプラグ 内で十分拡散せ ず に,特定部位に泡群の崩 壊が集中し ていることが示さ れ て い る.場合によっては ,偏心軸回転弁の 例(c) に現れているように弁 本体の壁面が壊食され, 安全面で問題となることもある. 従来から,調節弁の耐壊食性を高めるための研究は多数行われてきており,それらを 大 別すれば,(1) 耐キャビテーション弁室構造の開発 に関するもの ,(2)耐性 の高い材料 -12- を適用するもの, (3)キャビテーション実 験によって壊食に 対する流れパ タ ー ンの関連を 調査したもの,となる. この中で(3)に 関しては,直接に 調節弁の壊食実験 を行った例 は特にコンタードプラグ 弁に関して少数に 留まるが,ウォータジェットの よ う に,調節弁 への応用が検討できるような調査は多い. このように調節弁 に関係すると思われる例も併 せて,各項目に関する従 来の研究について 簡単に紹介し て い く. (1) 耐 キ ャ ビ テ ー シ ョ ン 弁 室 構 造 の 開 発 壊食を回避する流 路 構 造は,当初から次 の二点の方針に従って考 案されてきた. (ⅰ) 相当に 低い 弁下流圧力 P D に対して も,弁のど部に想定される 最小圧力 P T を飽 和蒸気圧力から十分高い 状態に保つ. (ⅱ) キ ャ ビ テ ー シ ョ ン泡の 崩壊 する位置 を弁壁面から離す. (ⅰ)では,調節弁の通過する流れ を 1 次 元流れと見なし,その圧力分布を基準に検 討される.想定される圧力分布を図1.6 に示すが (68) ,流路が最も 縮小するのど部で 最小圧力 P T を示し,下流弁室である程度ま で圧力回復すると説明されている.図1. 6中の∆P や∆P o ,∆P p などの各圧力降下部分は 割合が個々の弁について 固有であるとされており,これを表 現するパラメーターとして, 次式に示す液体圧力回復係数 F L が提唱されている ( 6 8 ) . FL = PU − PD (1.4) PU − PT F L は,従来の調査例から各種の 弁形式に対して代表的な値が示されているが ( 6 8 ), (69) ,正 確に知るためには,個別 の実験計測が必要 となる ( 7 0 ) . この係数は,調節弁をプロセスに適用す る に際し,閉塞に よ る限界流量 Q ch を見積もる -13- ために使用される.Q ch は,P T が飽和蒸気圧力に達した状態として PT = F F PV と表現すれば, 容量係数 CV の定義 (68) から次式のように P U に対して算出される; Qch = PU − FF PV G FL CV 1.32 × 10 6 [m 3 /s] (1.5) ここで,F F は液体臨界圧力比補正係数であり,気相 への相変化が吸熱反応であることを 考慮して,流体温度が低 下する影響を反映 するために導入されている.F F < 1 であるが, 通常の圧力と温度の条件 では,ほぼ F F = 0.96 である. ところで,各 圧 力 降 下 部 分∆P o ,∆P p ,∆P x, に対して, C = Q ∆P の形式で定 義する係数 C vo ,C vp、 C v x を導入すると,式(1.4) は, FL = (Cvo C vp ∆ Pp + ∆ Px ∆ Po + r∆ Px = (C vo C vp ) 2 + (C vo C vx ) 2 (1.6) 1 + r (C vo C vx ) 2 )2 は等価開口面積の 単純オリフィス における 圧力回復係数を 示し, (C vo C vx ) 2 は 弁本体の流路における損失係数,r はその上流側 の寄与を示し て い る. F L が1に近いほど,P T は飽和蒸気圧力から高い状態に 保たれることがわかり,キャビテ ーションの発生が抑制 されると考えられる.これより ,式(1.6) の諸係数を評価 することか ら,流路構造を検討できることになる.具体的には, (ⅰ-1 ) ∆ Pp ∆Po = (C vo C vp )2 を大きくする: 絞 り出口流速を小さくし,そのかわりに,壁 面摩擦や流体間摩擦に よ る損失の寄与を大 きくする. (ⅰ-2 ) ∆ Px ∆ Po = (C vo C vx ) 2 を大きくし,r を小さくする: 流路抵抗による損失の 寄与を, 特に下流側で大きくする . なお,(ⅱ)に関しては, 可視化や 流体計測 によるキャビテーション形 態の確認は コンタ ードプラグ弁やケージ弁 に関して従来行われておらず,流路形状が直感的,あるいは経験 的に考案されているのが 実状である. 図1.7に実用化 されている構造例 を示す.多 孔ケージ弁(a) (26) では,対向噴流 がケージ 中央で衝突することにより,そこで圧力が 回復し,ケージ壁 面では壊食が回避 されると想 定されている.同時に, 流れが多数の小 孔 径の噴流に分割されることから,ケージ内では -14- 混合が進 み,一 般の可 変 開 口 面 積 形ケ ー ジ弁よ り ∆ Pp ∆Po = (C vo C vp )2 は増加す る と期待 さ れている.高差圧の条件 に対してはケージ を多層にし,急 拡 大や乱流混合,流 れの相互干 渉,すき間の摩擦抵抗などケージ 間で損失を大きくすることによって ,∆ Px ∆ Po = (C vo C vx ) 2 を増加させている.同様の,流路抵抗を増加させる 観点からは ,迷路状の積層板(b) や,縮 小と拡大を繰り返す積 層 板(c) など,効果を高める構造が各種提案されている (13) .さらに, 流体の 超 臨 界 圧 力の よ う に か な り高 い圧力水準 の流 体を 扱う た め に は, 多段減圧 構造(d) が考案され,圧力降下を複数段に分割することにより,最終段 でも P T を比較的高い状態に -15- 保つようにしている ( 2 6 ) .なお,(ⅰ-2 )の r を小さくする見地か ら は,アングル弁を flow-toclose の方向で使用する 際に,下流側に整流ケ ー ジを組み合わす方 法(e) が採用され (2) ,同様 の構造がボール弁 ( 3 0 ) についても提案されている. しかし,発表された各種 の構造については ,キャビテーション限界の改善や, 壊食量の 軽減などの性能が詳細に は明らかにされていない.そのため ,優位性を同一定格容量の各 種調節弁と比較して定 量 的に評価す る こ と は行われていない .耐キャビテーション弁室構 造は,弁本体の大型・重量化と保守・管理 の煩雑化を伴う た め,条件に よ っ て は費用対効 果が発揮されないことになる. そこで,本論文では,耐壊食性を評価する 際の基準となる資 料を供する目的で ,基本的 形状の調節弁について, 流体条件と適 用 材 料による影響,および壊食の進 行 過 程として, 系統的な壊食傾向を提示 するものとする. (2)材料の評価 キャビテーション 壊食を材料の面 から回避するためには,一般に硬 度の高いものを適用することが推奨されている.セラミック やダイヤモンドなどの非金属 焼結体で 製作された超 硬 質の弁 トリム も開発 されているが (71),(72) ,加工が困 難な上 に,靭 性が劣るため,広く普及 する段階にはない . 金属材料に関しては,Stiles (45) によってコンタードプラグ弁を 直接使用したキャビテーシ ョン壊食実験が行われ, 代表的ないくつかの材料に関して耐壊食性が比較されている.一 方では,多くの材料を対 象とした壊食デ ー タは,実施が容易 な振動式キャビテーション試 験によってかなり早い時 期から整備されており (73) ,Heymann( 7 4 ) の整理による資料が一般の 流体機器にも多く利用されている.両者の 資料を,ス テ ン レ ス鋼 SUS316 を基準とした相 対的耐性として図1.8 に比較するが,いくつかの材料に関 しては実験方法の 相異による 差が現れている.新たに 開発された工 具 用 途や耐磨耗性の材 料についても,振動式による キャビテーション試験の 結果が 公表されているが (75),(76) ,調節弁に適 用す る た め に は,流 れによる影響を考慮することが不可欠といえる. そこで,本研究では,耐壊食材料として通常推奨される SUS316 に加え,それよりも耐 壊食性が高いとされる数種類のステンレス 鋼,工具鋼,チ タ ン合金などを取り 上げて,比 較評価を行うことにする .一部の材 料については金属組織の面からも 考察するものとする. -16- (3)壊食に対 する流れ構造 の関係 調節弁を通過する流 れを 1 次元的に解釈する限り では,流路形状の改良は 弁構造の全体に及 ぶことになり,先 に示した耐キャビテーション 弁室構造のように,大型 ・重量化が必然となってしまう.これに対して,壊食 の発生位置 を限定できれば,流 路 形 状の微調整や,耐壊食性材料の部 分 的な適用などの最小限の改良 によって,大きく性能が 改善できるといえる. キャビテーション壊食の 発生位置をできるだけ正確に把握するためには,当然,実機弁 を直接に使用したキャビテーション壊 食 実 験が望まれる.しかし,調査対象に 比較して試 験設備と使用動力が大 規 模になることから ,実際は短時間で 結果を得ることのできる加速 実験が一般的となっている.前節1.2.2(1)に述べた仕切弁 (31) - (33) とバタフライ弁 (34),(35) に関する調査では,模型実験か ら衝撃圧力の分布 が測定されており,木 村ら (36) は弱い結合 の焼結金属を低い耐 壊 食 性の材料として取 り上げ,流体条件 に対する壊食傾向 を明らかに している.ただし,実 機 弁とのスケール効 果と実用材料への 適用法までは言及 されておら -17- ず,予測精度が検証されるまでには至ってない.模型実験か ら壊食の発生位置 を特定する に際しては,少なくても ,模型実験に よ っ て見出した流れ構 造が高圧力水準で も保たれる 可能性を指摘する必要があるといえる. 壊食の発生位置が特定されれば,次の検討項目 は壊食量の見積となる.その理由として は,長時間壊食されない 金属材料は存在しないことから,壊 食が発生する状 況 下では定期 的な点検・部品交換が必 要となるためである(77) .直前の節で紹介した Stiles (45) によるコン タードプラグ弁の壊 食 実 験は,実プラント の流体条件を再現 したごく稀な調 査 例であり, 弁上流圧力水準による壊食量への影響が明 らかにされている .多様な流体パラメーターに 対してもこのような影響 を明らかにするためには,振動式や 水中噴流によるキャビテーシ ョン壊食試験において潜伏期, 定常期 などの 進 行 段 階が区分 されるように (78),(79) ,コンタ ードプラグについて特有 の壊食過程を明らかにし,特徴的な 段階における壊 食 率を流体条 件と関係付けることが重 要であるといえる .さらに,先の加速実験について, 流体条件や 材料の適用範囲を拡張で きる形でキャリブレーション実験の 方法が提示で き れ ば,壊食量 の予測にたいへん有用なものとなろう. 壊食率を流体パラメーターに関係付ける方 法としては ,基礎的な流れによるキャビテー ション壊食の研究成果が 応用できると考えられる.代表的なものとして,水中水噴流の衝 突試験を挙げておく.こ の研究は,流体機器全般への適用を 目的とするほかに ,加工用途 へも応用分野を広げるために多数実施されており,現在は, 試験結果を統一的 に扱えるよ うに,試験装置と実施方法 が規格化 さ れ て い る( 7 8 ) .この方法により,Lichtarowicz( 80 ) と清 水ら (81) は,最大壊食率の弁上流圧力に対する関 係を図1.9のように明らかにし ,次式に 示すような法則性を見出 している; M ∝ P U n ∝ VT 2 n , T peak ここに, n = 3.5 ~ 4.2 (1.7) M:壊食質量の総量,T:開始からの実験時間,V T :噴流速度. 付着泡による壊食に関しても,Knapp (82) と村井 (83) らによって,半球形状の物体 に付着キ ャビテーション泡を発生 させる実験が行わ れ,壊食ピット数 の増加率が流速のべき乗に比 例する法則性が同様に見 出されている. 調節弁についても,壊食の原 因が噴流の衝突や 付着泡の発生であると想定されれば,こ -18- れらの実験則が適用可能 になるといえる. 本 論文では,調節弁内部流 れの基本構造を検 討 することにより,壊食の 主原因を噴流の衝 突 に特定する.すなわち, 壊食率を水 中 水 噴 流 の実験則から説明する試 みを行い,流体パ ラ メーターによって表現す る実験式を提示す る ものとする. これらような基礎的な流れ形態について は,気泡力学に基づいた 簡単な解析も行わ れ ている.山口 (84),(85) は,水中水噴流について , キャビテーション気泡が 噴流に沿って成長 す るとの想定から噴 流 衝 突 時の気泡崩壊圧力 を 算出し,壊食質量の予 測 法を提案している . 橋本 (86) らは,翼上を移流 するキャビテーショ ン泡について,気泡内部 の圧力を静圧分布 に 沿って計算し,崩 壊 時 圧 力の流速依存性が 実 験結果と一致することを 述べている .しかし , 前者については,実験的 に定めるパ ラ メ ー タ ーが多いため,適用で き る範囲は限ら れ る よ うであり,後者に つ い て は,解析の精度を 確 保するために,静圧分布 をかなり精密に把 握 しなければならないようである.このように , 気泡力学による方法を直 ちに流体機器へ適 用 するには,難点が多い の が実状であり,本 研 究でもそこまでは言及していない. -19- 1. 3 本論文 の概要 本論文は6章から構成 されている.以下 に,各章の概要を 述べる. 第1章では,序論として,本研究の 目的,従来の研 究,および研究 の概要を述べ て い る. 調節弁のキャビテーションに関する問題例 と開発技術例,そして現在の研 究 概 要を示し, 本論文の位置付けと目的 を述べている.ま た,調節弁のキャビテーションと壊 食を直接に 対象とした研究のほかに ,調節弁へ の応用が検討さ れ る種々の研究ついても概説し て い る. 第2章では,本研究で 用いた水流実験設備の構成と試験弁 の構造,および流体計測とキ ャビテーション特性の計 測・分析法,さらには壊食の評価法 について述べ て い る.水流実 験設備として,壊食実験 に用いる 20MPa 水準の設備,高い圧力で 観察を可能にする 5MPa 水準の設備,および,観 察と同時に詳細な 流体計測を行う 1MPa 水準の設備について説明 している.主対象 とするのは高圧用 ニードル形プラグ を有するコンタードプラグ弁で あ り, これとともに,通常の圧力水準で使用さ れ る汎用のプラグ形 状と,これに装備 されること の多い多孔筒についても 言及している.水流実験では,流体計測とともに,試験水の溶存 酸素量や pH の化 学 的 要 因もパラメータとしている.キャビテーション特性としては,流 体条件のほかに振動と騒 音にも注目し,計 測・分析を行っている.低圧観察実験では,供 試プラグに特殊な加工を 施し,多点圧力計測や流速分布のレーザ計測などを可 能としてい る.本章ではさらに,これらの計測系と, 壊食質量やプラグ 形状,壊食部周辺 の金属組織 などの壊食評価法に つ い て概説している. 第3章では,キャビテーションの発生に 関係する調節弁内部流れの特徴について明らか にしている.初め に,1MPa 水準における観察実験に よ り,キャビテーション泡 群の形態 を発生位置によって,プラグ特性面上を移 流するもの,リム または特性面肩部 に付着する もの,および多孔筒開口部から発生するものに分類し,それぞれの圧力条件・ 開度範囲を 特定している.次いで ,初生直前の流 れを対象に非定常 Navier -Stokes 方程式の数値解析を 行い,それぞれの形態の 気泡発生位置には 強い渦が存在し, 瞬時的に大きく圧力低下する ことを確認している.こ の圧力水準で用いられる汎用プラグ に関しては,各種 のプラグ形 状,および併用される多孔筒について,キャビテーション初 生の観点から評価 している. リム付着泡に対しては, せん断渦放出モ デ ルに基づいた初生 キャビテーション 係数の予測 式を適用し,その有効性 を明らかにしている.さらに,高圧力水準で使用さ れ るニードル -20- 形プラグに関しては,弁差圧 20MPa の条件下で絞り部すきま区間を 対象に,1 次元流れを 仮定した境界層解析を行 っている.こ れ よ り,その区間の圧力変化過程は先の 数値解析に よるものと相似で る こ と が示され,20MPa 水準と 1MPa 水準の間では流量特性 がほぼ一致 することからも,流れの構造は弁上流圧力が 20MPa 程度まで基本的に変わ ら な い可能性が 高いことを指摘している .このような推定 の下で,キャビテーション壊食の発生位置をプ ラグ閉切部に特定し て い る. 第4章では,20MPa の圧力水準で行ったキャビテーション水流実験 の結果を示し,調節 弁のキャビテーション壊 食に影響する要因 について明らかにしている.最初に ,耐壊食材 料として常用されるステンレス鋼 SUS316 を使用し,調節弁 の作動条件である 弁開度,弁 下流圧力,および弁上流圧力に関して調査 している.壊食の 発生位置は,前章 にて予測し た通りにほぼプラグ閉 切 部へ集中しており ,壊食質量の増 加 率は,弁通過流量 が増加し, キャビテーション係数が 低下するに従って 著しく増加することを明らかにしている.プラ グ周囲の流れパターンを 変更した調査では ,プラグ閉切部の 後退と,絞り部すきま流路の 伸長,プラグ表面の円 滑 化,および,のど 部流路の偏心を抑 えることによって 壊食が軽減 することを明らかにしている.水質に関しては,壊食質量の 増加率が最大と な る溶存酸素 量を示すとともに,極低溶存量では著しく 壊食が軽減されることを明らかにしている.次 いで,耐壊食性材料と し て実用される各種金属材料を取り上 げて比較評価を行 い,硬度を 考慮した上での耐壊食性 を,最高の も の か らステライト,チタン合金,工具鋼 ,ステンレ ス鋼,超硬焼結材として 順位付けしている .ステンレス鋼は 数鋼種を用意し, チタン合金 は熱処理条件をいくつかに設定して比較を 行うとともに ,壊食面直下 の金属組織を観察 し, 耐壊食性との関係に つ い て考察している. 以上より,流 体 条 件に対する調節弁 の選定や流 路形状の設計,材料の適 用について,具 体 的な指針を提示している. 第5章では,壊食の進行過程について法 則 性を見出し,寿命 としての使用限度 を診断・ 予測する方法について検 討を行っている. ステンレス鋼 SUS316 に発生する壊食面の特徴 と壊食質量の増加率を評 価し,壊食の段階 を増加率の緩や か な初期段階と,これに続いて 増加率が急激に増加する 成長期段階に分類 している.それぞれの段階において ,壊食質量 を流体パラメータと使用時間によって表現 する実験式を提示 し,さらに,初期段階の壊食 質量率に関しては,従来 の調査例から普 遍 性を検証している .次いで,壊食による調節弁 の閉切機能劣化として ,漏洩流量の増加傾向を壊食質量 との関係で示している.こ れ よ り, 漏洩流量が調節弁の最小調整可能量に達す る時点をもって寿 命を診断し,そ こ に至るまで -21- の使用時間を作動条件か ら予測する可能性 について言及している.最後に,壊食質量の予 測から漏洩流量の診断に 至る一連の手順を 整理し,材 料などの適 用 範 囲が拡張できる形 で, 調節弁寿命の予測・診 断 法として提案を行 っている. 第6章では,結論として,以上 の研究で得られた 成果を総括して述 べるとともに,今後 検討すべき問題点を示している. -22-