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住宅床の動的振動応答物理量と床衝撃音レベル低減量に関する研究

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住宅床の動的振動応答物理量と床衝撃音レベル低減量に関する研究
博士論文
住宅床の動的振動応答物理量と床衝撃音レベル低減量に関する研究
渡辺 秀夫
97
住宅床の動的振動応答物理量と床衝撃音レベル低減量に関する研究
渡辺 秀夫 *1
概 要
本研究は、住宅の床仕上げ構造を対象として、動的振動応答特性の測定と歩行感に対する感覚評価実験を行い、動
的振動応答物理量および感覚評価量と床衝撃音レベル低減量との関係を明らかにして、動的振動応答物理量から軽量床
衝撃音レベル低減量を予測する方法を検討するとともに、床衝撃音レベル低減量と感覚評価量の両面から住宅の床を評
価し、適正な床仕上げ構造を提示することを目的として、実験的研究を行ったものである。
その結果、次のことを明らかにした。
1) 動的振動応答物理量である動的変位量、動的ばね定数、衝撃周波数、衝撃インピーダンスレベルから軽量床衝撃音
レベル低減量を予測する回帰式を提示した。
2) 動的振動応答物理量と感覚評価量との関係を明らかにし、住宅の床として最も好ましいとされる動的振動応答物理
量を提示した。
3) 軽量床衝撃音レベル低減量と感覚評価量との関係を明らかにし、感覚の変化に対応する周波数は 250Hz と 500Hz で
あることを示した。
RESEARCH ON THE PHYSICAL VOLUME OF THE DYNAMIC VIBRATION
RESPONSE AND THE REDUCTION OF THE FLOOR IMPACT SOUND LEVEL
IN FLOORS OF RESIDENTIAL HOUSING
Hideo WATANABE*1
This study was conducted in order to exhibit the appropriate floor finishing structures. First, the measurement of the dynamic
vibration response characteristics and the sensuous estimation test for evaluating a sense of walking were both conducted by using the
floor finishing structures in the residential houses. Then clarified the relation between the reduction of the light-weight floor impact
sound, and either the dynamic vibration response physical volume or the sensuous evaluation volume. After that, the method was
examined for estimating the reduction of the light-weight floor impact sound from the dynamic vibration response physical volume.
At the same time, the floor in the residential house was evaluated from both of the reduction of the light-weight floor impact sound
and the sensuous evaluation volume.
The experimental results are as follows:
1) The regression equations were determined after comparatively well corresponding results were obtained from the reduction of the
light-weight floor impact sound and the dynamic vibration response physical volume such as the dynamic displacement volume, the
dynamic spring constant, the impact frequency, and the impact Impedance level. Then, using these equations, it was indicated that
there was a possibility to estimate the reduction of the light-weight floor impact sound.
2) The relation between the dynamic vibration response characteristics and the sensuous estimation was made clarified and appropriate physical volume corresponding to the desirability in the floor finishing structure in the residential house were indicated.
3) The relation between the reduction of the light-weight floor impact sound and the sensuous evaluation volume was made clalified
and was showed that the sensuous changes correspond most to the frequency at 250Hz and 500Hz.
*1 技術研究所
*1 Technical Research Institute
99
住宅床の動的振動応答物理量と床衝撃音レベル低減量に関する研究
渡辺 秀夫 *1
1. はじめに
測定を行った結果について述べた。測定した建物は、鉄
集合住宅の音環境の中で居住者の不満の多い項目とし
筋コンクリート造集合住宅、木質系住宅および鉄骨系住
宅等の戸建住宅の床のほかに、現状の住宅床の動的振動
て、床衝撃音が高い率で指摘されている。床に求められ
る要求性能のうち、床衝撃音遮断性能は、他住戸へ大き
応答物理量を評価する際の判断の目安とするために、日
本の伝統的木造古建築の居住床も対象とした。
な影響を与えるという点で特に重要な性能の一つとなる。
そのため、集合住宅の床衝撃音遮断性能に関しては、建
4章では、現在集合住宅や戸建住宅で使用されている
直張木質フローリング床、根太床、乾式二重床、畳床、
物発注時に性能要求値が提示されることが一般的となっ
ている上、住宅の性能表示制度が施行されることが決ま
カーペット床などの詳細な動的振動応答特性を把握する
ため、実験室に施工した試験床について、人の実際の歩
り、要求性能を確実に保証するためには、設計段階にお
ける性能の予測精度を向上させることが課題となってい
行時の衝撃力波形を高精度で再現できるように、油圧駆
動を利用した衝撃装置「歩行衝撃シミュレータ」などを
る。
床衝撃音遮断性能に関する予測方法は、集合住宅の躯
用いて、動的変位量、衝撃時間、駆動点インピーダンス
等を測定した結果について述べた。
体コンクリートスラブについては、インピーダンス法と
して確立されているが、床仕上げ構造の床衝撃音レベル
5章では、実験室に施工した各種床仕上げ構造の試験
床について、感覚評価実験を行った結果について述べた。
低減量については、現在のところ確立されていないため、
実験室や現場における実測データから求めているのが実
評価実験は、全試験床を対象としたSD法による絶対評
価と、絶対評価実験で評価値の変化の幅が大きかった直
状である。一方、最近の住宅の床の設計において多用さ
れている直張木質フローリング床は、軽量床衝撃音の遮
張木質フローリング床、根太床および乾式二重床につい
て、構造変化に対する感覚変化の詳細および好ましさに
対応する最適な物理量を見出すために、一対比較法によ
断性能の向上を床仕上げ材の緩衝効果にのみ依存してい
るために、床がやわらかくなり過ぎて歩行感が損なわれ
るという問題が生じてきており、感覚面から床の評価を
行う必要が出てきている。
本研究は、これらのことを踏まえて、住宅の床仕上げ
構造を対象として、動的振動応答特性の測定と歩行感に
対する感覚評価実験を行い、動的振動応答物理量および
感覚評価量と床衝撃音レベル低減量との関係を明らかに
して、動的振動応答物理量から軽量床衝撃音レベル低減
量を予測する方法を検討するとともに、床衝撃音レベル
る評価実験を行った。
6章では、各種床仕上げ構造の床衝撃音レベル低減量
を測定し、動的振動応答物理量と軽量床衝撃音レベル低
減量との関係および軽量床衝撃音レベル低減量と感覚評
価量との関係について述べた。
7章では、各章のまとめを行い、住宅の床仕上げ構造
の設計の考え方および今後の課題について述べた。
以下、概要を述べる。
低減量と感覚評価量の両面から住宅の床を評価し、適正
な床仕上げ構造を提示することを目的として、実験的研
2. 床歩行時の足裏の衝撃力特性
究を行ったものである。
論文は7章で構成されており、次の内容となっている。
2.1 実験方法
1章では、最近の住宅の設計動向、軽量床衝撃音レベ
ル予測の現状、既往の関連研究文献、本研究に着手した
背景および研究目的について述べ、本研究の位置付けを
行った。
2章では、床仕上げ構造の動的振動応答を測定すると
きの衝撃力を特定するため、人が床を歩行するときの足
裏全体、踵部、前足部、指部の床におよぼす衝撃力特性
を多チャンネル圧力センサーを用いて測定を行った結果
について述べた。
3章では、現状の住宅の床仕上げ構造の問題点の把握
と今後の方向性を見出すために、動的振動応答物理量の
*1 技術研究所
100
実験に用いた測定システムのブロックダイアグラムを
図 -1 に示す。感圧抵抗変化を示す物質で形成されている
図 -2 に示す多チャンネル圧力センサシート(ニッタ株式
会社製)を用いて、歩行時の加圧によって変化する抵抗
値を、サンプリング周波数 100Hz で収録した後、種々の
解析を行った。感応部はマトリックス数21×60の計1260
ポイントで構成されおり、圧力の測定範囲は 2.0 ∼ 147.0
(N/cm2)である。
衝撃力特性は、コンクリートスラブに直張したPタイ
ル仕上げの床を歩行したときの小学生(20 名)、大学生
(34 名)、60 歳台(6名)の計 60 名の被験者について行っ
た。
図 -1 計測システムの
ブロックダイアグラム
図 -2 多チャンネル圧力
センサシート
[注1] ①∼⑦は図 -6 に対応
[注2] 時間は踵部接触後からの時間
[注3] 色と圧力との関係は図 -5 に同じ
2.2 床歩行時の基本特性
大学生男子の普通歩行のときの左足の足裏の踵部接触
から指部離脱までの圧力の時間変化を図 -3 に示す。これ
より、歩行時の足裏各部の圧力のかかり方の時間変化を
図 -3 歩行時の足裏圧力の時間変化測定例
知ることができ、これを足裏全体にわたって時間変化ご
とに加算し、衝撃力に変換することにより図 -4 に示す衝
撃力時間波形が得られる。図中のハッチ部の波形の足裏
各部の圧力のピーク値の分布を図 -5 に示す。図では、青
から緑、黄、赤へと変化するにしたがい圧力が強いこと
を示している。この足裏各部の圧力分布から、踵部、土
踏まずと指の間の部分(以下前足部)および指部の圧力
が大きいことがわかる。この各部の圧力を図中の踵部、
前足部、指部の枠の範囲で加算すると図 -6 に示す足裏各
部の衝撃力時間波形が得られ、歩行時の足裏全体だけで
はなく、足裏各部の衝撃力時間特性も把握でき、歩行感
図 -4 衝撃力時間波形測定例
重心移動
等との対応を検討する上で有用なデータとなる。床の動
的物理量を評価する上で、これら各部の衝撃力の位置変
化や時間変化が重要な要因になると考えられる。
2.3 衝撃力時間特性
足裏全体の衝撃力時間波形は、図-6に示したように、一
踵部
全体
前足部
指部
般的には、踵部と前足部が床に接触するところで大きく
なって、二つのピーク(以下第一ピーク、第二ピーク)を
有する二段波的な形状となる。今回実験対象とした被験
者の普通歩行の衝撃力時間波形をパターン分けすると図-
図 -5 足裏の圧力ピーク値の分布測定例
7のように4つに分けられる。すなわち、第一ピークの
方が大きいAパターン、第一、第二ピークがほぼ等しい
Bパターン、第二ピークの方が大きいCパターンおよび
ピークがはっきりあらわれず平坦な特性を示すDパター
ンである。
これらの相違は、踵部と前足部の衝撃力の大きさの違
いや踵部の離脱時の力の抜け方と前足部の接触後の力の
加わり方の違いによって生じており、A∼Cパターンは
足裏の床への接触が連続的な歩行、Dパターンは足裏が
床に平面的に接触する歩行をしていることが窺われる。
床のかたさを判断する上でこれら各部の床への接触、離
脱の相違が重要な要因になると考えらる。
今回の被験者の普通歩行のパターン別の割合を図-8に
示す。全体ではBパターンが若干多めではあるが、どの
[注 1]① ∼⑦は図-3に対応
図 -6 足裏各部の衝撃力時間波形測定例
101
表 -1 集合住宅の測定対象建物と床仕上げ構造
図 -7 衝撃力時間波形の代表的パターン例
表 -2 戸建住宅の測定対象建物と床仕上げ構造
図 -8 普通歩行の代表的パターンの割合
表 -3 古建築の測定対象建物と対象床仕上げ構造
図 -9 各種床構造歩行時衝撃力時間波形例
パターンもほぼ同じ割合になっている。各年代別では、
特に60歳台の5割以上がDパターンであるのが特徴的で
あり、年齢を重ねるにしたがい足裏の床への接触の仕方
が平面的になることが窺える。
2.4 各種床仕上げ構造床歩行時の衝撃力時間特性
各種床仕上げ構造を歩行したときの衝撃力特性をみる
ため、Pタイル床、根太床、直張木質フローリング床、
カーペット床、本畳床について行った。大学生男子の衝
撃力時間波形例を図 -9 に示す。
表面材が圧密され、圧密後は足側のばね定数によって衝
撃力が決定づけられているためと推察される。
これによると、全体波形ではカーペット床のようにや
わらかい床仕上げ材になると第二ピーク値が大きめにな
このことより、床歩行によって床に入力される衝撃力
そのものは、床仕上げ構造によってほとんど変化しない
る傾向がみられるが、全体的には床仕上げ材による顕著
な衝撃力時間特性の変化を見出すことはできない。
ものとして扱うことができると考えられる。
床に加わる衝撃力特性は、衝撃源である足側の歩行時
の有効質量とばね定数および床仕上げ構造のばね定数が
3. 住宅の床仕上げ構造の動的振動応答特性
関係すると考えられ、足側のばね定数が床のばね定数に
比べて大きい場合は、衝撃力特性は床仕上げ構造によっ
3.1 測定方法と測定対象とした建物、床仕上げ構造
て異なると推測される。足裏各部の力積の算出結果によ
ると、足裏全体および足裏各部とも床仕上げ構造による
差はほとんどないことが明らかとなった。これは、足側
のばね定数が床仕上げ構造のばね定数より小さいためか、
カーペット床のようにやわらかい場合でも、衝撃初期で
102
床衝撃音として問題となる衝撃部位は、踵部の寄与度
が大きいこと、また、床のかたさを感じる上で代表的な
部位と考えられるのは踵部であることなどを踏まえて、
歩行時の踵部の衝撃特性に対応した質量−ばね系による
振動系を利用した衝撃源を製作し、これを現場測定用衝
撃装置として用いて、各種実床構造の動的振動応答特性
の測定を行った。
測定対象とした建物は、鉄筋コンクリート造集合住宅
のモニターが可能になっている。
実際の人の歩行時の全体、踵部、前足部の衝撃力波形
9棟、戸建住宅として、軸組工法、パネル工法、2×4
工法などの木質系住宅5棟および鉄骨系住宅4棟である。
をプログラム信号入力波形とし、実験室のコンクリート
スラブ上を衝撃したとき、ヘッドのフォースセンサで得
また、対象とした床は、集合住宅では、直張木質フロー
リング床、乾式二重床、畳床、カーペット床、戸建住宅
られた衝撃力時間特性および周波数特性を装置への入力
波形と比較して図 -11 に示す。
は根太床、畳床とした。木造古建築は、最近復元または
構造調査が行われ、床断面仕様が比較的明確になってい
これをみると、衝撃力時間特性は、全体波形は二段波
的形状がよく再現されており、また、踵部波形、前足部
る建物を選定し、板張り床および畳床を対象とした。こ
れら対象とした建物および床仕上げ構造の仕様を集合住
波形も非常によい対応を示している。周波数特性は、波
形の立ち上がり、立ち下がり部分の微妙な相違の影響の
宅については表 -1、戸建住宅については表 -2、古建築に
ついては表 -3 に示す。
ためか、高域で若干の差がみられるが、全体的に両者は
非常によい対応を示している。
3.2 測定結果
4.2 動的振動応答物理量の測定方法
測定した動的振動応答特性のうち動的ばね定数の結果
について概略述べる。
動的振動応答物理量は、動的変位量、衝撃時間、駆動
点インピーダンスの測定を行った。測定点は、歩行を点
5
戸建住宅のうち、木質系は衝撃直下点で 5 × 10 N/m 前
後、衝撃近傍点で 8 × 105 N/m 前後、鉄骨系では、それぞ
れ 8 × 105 N/m 前後、1.2 ∼ 1.6 × 106 N/m を示すものが多
く、鉄骨系住宅の方が大きな動的ばね定数となっており、
根太等の剛性の相違が反映された結果となっている。ま
た、古建築の板張り床の衝撃近傍点の動的ばね定数は1.0
× 106 N/m 前後となっている。
これらの結果から現在の住宅のフローリング床の動的
ばね定数を古建築の板張り床と比較すると、木質系住宅
は 10 ∼ 20%程度やわらかく、鉄骨系住宅は逆に 40 ∼ 60
図 -10 歩行衝撃シミュレータの概要
%程度大きめの値を示すことが明らかとなった。これは
板厚の表面材のほかに根太や大引きの断面寸法、間隔な
ど下地を含めた構造の違いがあらわれていると考えられ
る。
住宅の構造は、時代とともに変化し、最近は本格的な
木造建築の住宅は少なくなり、プレハブ化、パネル化の
方向に進んでいるが、床の弾性については、居住性の面
からみて適正なものが望まれる。そのためにも、床の弾
性について、感覚評価を行い、床仕上げ構造としての適
正値を把握する必要があると考えられる。
4. 実験室における床仕上げ構造の動的振動応答特
性
図 -11 歩行衝撃シミュレータの入力衝撃力特性
4.1 衝撃シミュレータの概要
動的変位量測定用衝撃源として、可能
な限り人の歩行時の衝撃力波形を再現さ
せるために、油圧駆動を利用した衝撃シ
ミュレータを検討し製作した。装置の概
要を図 -10 に示す。本装置は、フレーム
本体、アクチュエータ、制御装置、油圧
ポンプにより構成され、油圧、ロードセ
ル、変位の3つの制御モードによって、
梃子の原理を応用して加圧するメカニズ
ムとなっている。打撃側のヘッドには、
フォースセンサが装備してあり、衝撃力
図 -12 測定点
図 -13 衝撃力入力波形
103
衝撃としてとらえ、実歩行時の歩幅等の歩行形態や足裏
の寸法を考慮して、図 -12 に示すように P1 点に踵部、P2
上に施工される床仕上げ構造として、現在広く使用され
ている直張木質フローリング床9体、根太床6体、乾式
点に全体、P3 点に前足部を入力波形として床を衝撃した
際の、衝撃点(P1、P2、P3)や近傍点(P4、P5 および P1、
二重床6体、畳床5体、カーペット床5体の計 31 床仕上
げ構造である。試験体の概要を表 - 4に示す。
P2、P3 より 55mm 離れた P1'、P2'、P3')とした。
衝撃位置は、それぞれの床に対して、床構造上最もや
根太床 (N-1 ∼ N-6) は、根太間隔や根太断面寸法、板厚
等を変えて曲げ剛性等に変化をもたせた仕様とし、乾式
わらかいと考えられる点(根太床:根太間大引間、乾式
二重床:支持点間など)を踵部の入力点とした。各入力
二重床は、防振ゴム置床(B-1 ∼ B-4)と発泡プラスチッ
ク下地床(H-1 ∼ H-2)の2種類である。直張木質フロー
波形は、図 -13 に示す体重 60kg の人の歩行時に得られた
衝撃力特性を用いた。各測定点の変位応答は、レーザー
リング床(F-1 ∼ F-9)は、軽量衝撃源に対する公称遮音
等級でL-40∼60のもののほかに、緩衝材なしのボードの
変位計を用いて行った。
衝撃時間の測定は、タッピングマシンの衝撃源と同じ
みの床材(F-2)も試験体の一つとした。畳床 (T-1 ∼ T-5)
0.5kg の質量の鋼製タッピングハンマーを用いて、高さ
4cm から単発自由落下させ、ハンマー頂部に取り付けた
は本畳と化学畳の2種類とした。T-1 の4層化学畳は、3
層化学畳を基調として、上、下部面は 10mm 厚さのわら
で構成された構造となっている。カーペット床 (C-1 ∼ C-
振動ピックアップにより、衝撃時の加速度応答波形を測
定し、その波形から継続時間を読み取った。なお、衝撃
5) はループ系およびカットパイル系のものから厚さの異
位置は、歩行衝撃シミュレータによる踵部の入力点と同
じ位置とした。
て施工した。
駆動点インピーダンスの測定は、インパルスハンマー
(衝撃周波数:約 80Hz)で衝撃したときの衝撃力と衝撃
点近傍の床仕上げ構造の振動速度応答の比から全時間応
答の駆動点インピーダンスおよびハンマーの衝撃時間内
の応答から衝撃インピーダンスを求めた。
4.3 実験対象の床仕上げ構造
なるものを選定して、フェルト(厚さ 8mm)を下地とし
4.4 実験結果
4.4.1 動的変位量 踵部の入力波形を用いて、ピーク衝撃力を 100 ∼ 700N
に変化させたときの衝撃直下点(P1 点)における動的変
位量測定結果を図 -14 に示す。
これをみると、根太床、乾式二重床など曲げ変形が主
実験対象とした床仕上げ構造は、コンクリートスラブ
体となる床仕上げ構造は、衝撃力の増加とともに直線的
に変位量が大きくなっている。これに対して、直張木質
表 -4 実験対象とした床仕上げ構造の概要
フローリング床、畳床、カーペット床は衝撃力によって
変位量の増分が変化しており、直張木質フローリング床
は 200 ∼ 300N、カーペット床は 100 ∼ 200N 程度、また
畳床も300N以上の衝撃力で増加が緩やかになる傾向がみ
られる。これらは、それぞれの変形の変位の境界となっ
ている衝撃力までは緩衝層や制振材のやわらかいばねが
支配的になっているのに対して、それ以上の衝撃力にな
ると床材が圧密され、断面全体としてかたくなるためと
考えられる。
この変位量の増加特性は、床衝撃音の発生系からみる
と、床仕上げ材の効果として大きく影響し、軽量床衝撃
源のような小さい衝撃力に対しては、緩衝材が有効に作
用すると考えられるが、重量床衝撃源のようなやわらか
くて大きな衝撃力に対しては、ばね定数が大きくなるた
め、床衝撃音レベルの低減に対してはあまり効果を得る
図 -14 衝撃直下点における動的変位量測定結果
104
ことができないといえ、床衝撃音の予測計算に
当たっては、材料ごとの変位特性を十分考慮す
る必要がある。
感覚評価面からは、曲げ変形型と局部圧縮型
の床では、歩行感の評価に大きな影響を及ぼ
し、また、同じ床仕上げ構造でも、この変位の
増加特性の相違が、評価量の差異になってあら
われるものと考えられる。
4.4.2. 動的ばね定数
図 -15 動的ばね定数算出結果
動的変位量の増加の割合が衝撃力によって変
化することが明らかとなったため、床衝撃音遮
断性能と動的ばね定数との関係を検討する場
合、衝撃力に対応した動的ばね定数が必要にな
る。そこで、動的ばね定数は、衝撃力の範囲を
0 ∼ 200N、300 ∼ 700N および 0 ∼ 700N の 3 つ
に分けて算出した。その結果を図-15に示す。ま
た、衝撃力 0 ∼ 200N のときのばね定数を基準
にして、300 ∼ 700N および 0 ∼ 700N のときの
ばね定数の比を求めた結果を図 -16 に示す。
根太床の動的ばね定数は、0.7 × 105 ∼ 8.0 ×
105 N/m まで変化しており、根太間隔、根太断
面寸法、表 - 面材の厚さ等から予測される床の
図 -16 衝撃力 0 ∼ 200N を基準にしたときの動的ばね定数の比
曲げ剛性に対応した大小関係を示している。乾式二重床
は、下地材の発泡プラスチックを直にコンクリートに敷
5
いている H-2 を除き、防振ゴム置床は 3.0 × 10 N/m 前後
のほぼ同じ値となっている。乾式二重床は、変位量が脚
部の防振ゴムに依存するため、安定したばね定数を示す
床材であるといえる。なお、根太床について、実床との
対応をみると、N-2 が鉄骨系住宅、N-3 が木質系住宅のば
ね定数にほぼ対応している。
直張木質フローリング床の場合は、衝撃力が 0 ∼ 200N
の場合と 300 ∼ 700N の場合では大きく異なっている。0
5
5
∼ 200N の場合では、0.7 × 10 ∼ 3.4 × 10 N/m を示し、そ
の序列は表-4に示すL値と対応し、L値の低下と共にば
ね定数は低下している。しかし、300N ∼ 700N の場合は、
0 ∼ 200N の値に比べて、図 -16 でわかるように、3∼8
倍のばね定数を示しており、非常にかたい床へと変化し
ていることがわかる。これらの変化は、床衝撃音レベル
低減量として、予測値に大きく影響するので、今後、材
料ごとに定量的に表示することが必要になると考えられ
る。
畳床は、2層構造の化学畳T-4が最も大きなばね定数を
示し、また、特級本畳 T-3 が、2級本畳 T-5 に比べて密度
が大きいためか、ばね定数が若干大きくなっているが、
全体的にみて、衝撃力による変化も比較的少なく、2.0 ×
105 N/m 前後の値を示している。
カーペット床は、C-1 ∼ C-3 が 1.0 × 105 N/m、C-4、C5がその2倍のばね定数となっており、大きく二つに分類
される。この相違は、仕様からみて総厚の違いに起因し
ており、総厚 1 ∼ 2mm の違いが、ばね定数に大きく影響
する結果になっている。
動的ばね定数を床衝撃音との関係からみると、床仕上
げ構造の床衝撃音低減効果の有無は、基本的には、衝撃
源側と床仕上げ構造側のばね定数の大小関係に依存する。
現在使用されている軽量床衝撃源であるタッピングハン
マーおよび重量床衝撃源であるタイヤの等価ばね定数は、
それぞれ 7.9 × 107 N/m、1.7 × 105 N/m であり、直張木質
フローリング床、畳床、カーペット床のばね定数は、軽
量床衝撃源に対しては十分小さなばね定数となっている
ため大きな床衝撃音改善量が得られるものの、重量床衝
撃源に対してはタイヤのばね定数を上回っているものが
多いため、遮断効果はほとんど期待できないことがわか
る。
また、図 -16 によると、根太床と乾式二重床は、いずれ
の衝撃力範囲でも 1.0 前後、畳床が 1.5 程度であるのに対
して、直張木質フローリング床とカーペット床は2.0以上
の値となっている。この値の大小によって非線形性の程
度が推測でき、床仕上げ構造の分類を行う際の一つ目安
になるものと考えられる。
4.4.3 衝撃時間
タッピングハンマーによる衝撃時間測定結果を図-17に
示す。
これによると、根太床や乾式二重床は、4msec 以下の衝
撃時間になっているのに対して、直張木質フローリング
床の衝撃時間は、軽量床衝撃音の遮断性能を向上させる
ために、緩衝材を裏打ちしたり、板材の内部に切り込み
を入れて断面欠損を生じさせ、板材の曲げばね定数を低
下させているため、表面材が同じ板材でも 4 ∼ 8msec に
まで延びている。畳床は、図 -15 のばね定数では、表面に
わらを用いている畳の特徴があらわれていなかったが、
105
表 -5 衝撃周波数算出結果
図 -17 衝撃時間測定結果
軽量のタッピングハンマーによる衝撃では、表
面層の影響により、衝撃時間でははっきり差が
あらわれ、表面材にわらを用いる T-1、T-3、T5 の畳は、畳表の下地が木繊維板の化学畳に比
べて2msec程長い衝撃時間となっている。なお、
根太床について、実床との対応をみると、N-1∼
N-3が鉄骨系住宅、N-4∼N-6が木質系住宅の衝
撃時間に相当している。
衝撃時間 ( Δ t) から、衝撃周波数 (fn=1/(2・Δ
t)) を算出した結果を表 -5 に示す。衝撃周波数
は、軽量床衝撃音レベルに対する低減効果を予
測する上で重要な物理量となる。床材の緩衝効
図 -18 全体波形入力時の衝撃直下点の変位応答特性
果による床衝撃音の低減量は、衝撃周波数以上
であらわれはじめるため、衝撃時間が長いほ
ど、即ち衝撃周波数が低いほど低音域から低減
効果を期待できることになる。
計算結果より、カーペット床が30Hz前後で最
も低い衝撃周波数となり、軽量床衝撃音に対し
て 63Hz から大きな低減効果が期待できること
がわかる。根太床や乾式二重床の衝撃周波数
は、1/1 オクターブバンド分析では、125Hz か
250Hz 帯域に入る値となっており、遮音等級の
決定周波数になることが推測される。これらの
値は、実床と比較して、基本的には類似の値を
示しており、実験室実験の測定データに基づき
床衝撃音レベルを予測しても対応性に関しては
問題ないといえる。
図 -19 衝撃力波形と変位応答波形との対応
4.4.4 変位応答特性
踵部波形、前足部波形および全体波形入力時
の衝撃直下点における変位応答特性測定結果の
うち、全体波形入力時の結果を図-18に示す。こ
れをみると、図 -6に示す衝撃力波形と近似した
応答を示す床仕上げ構造と変位ピークがはっき
りあらわれない床仕上げ構造とに分類される。
図 -20 全体波形入力時の衝撃力と変位量の時間的変化
曲げ変形する根太床、乾式二重床は入力した2
段波形状の波形に対応した床の変形が得られているのに
なお、畳床とカーペット床では、衝撃力の衝撃時間 ( 約
対して、直張木質フローリング床とカーペット床は、2
段波形状があらわれず変形がフラットな特性を示してい
0.7 秒 ) と比較して応答波形の継続時間が延長する傾向が
みられ、カーペット床では衝撃時から 2 秒近く経過して
る。これは、前述したように、ある衝撃力以上になると
床材が圧密され、そこで変形が止まるためと考えられる。
も 1mm 程度の残留変位を示している。この残留波形特性
からも床仕上げ構造の種類を推測することができる。
106
さらに、衝撃力波形と変位応答波形との関係の詳細を
みるために、直張木質フローリング床、根太床、乾式二
重床について比較した例を図 -19 に示す。これによると、
直貼木質フローリング床の場合は、いずれの足裏各部の
衝撃力に対して、変位応答量が 300 ∼ 350N のところで頭
打ちになっているのに対して、根太床、乾式二重床は、衝
撃力波形に対応した変形特性を示している。この衝撃力
と変位量の時間的変化の違いが歩行感覚等に影響すると
考えられる。
そこで、衝撃力に対する変位量の時間的変化(変位量
/衝撃力)を求めた。そのうち、全体波形入力時の結果
を図 -20 に示す。これによると、根太床や乾式二重床は、
フラットな特性となり、時間的変化がないのに対して、
直貼木質フローリング床は、踵部入力時に大きな変化が
みられる。この変化はばね定数の変化を示すことになる
ことから、この割合が大きいほど床の不安定さが増加す
ることになり、歩行感からみると不自然さや違和感が強
く感じられることになると推測される。
変位特性をさらに詳細に検討するため、踵部波形を入
力したときの各床仕上げ構造について、 衝撃点から
55mm 離れた近傍点より 25mm 毎に測定点を設けて変位
量絶対値を測定した。各床仕上げ構造について衝撃点か
らの距離と変位量との関係を求めた結果を図-21に示す。
これによると、根太床と乾式二重床はほぼ直線的な変
形を示し、根太床は根太間の曲げ、乾式二重床は支持脚
の圧縮変形がそれぞれ変位を支配する床であることがわ
かる。これに対して、水平方向への剪断力の伝達がほぼ
無視できるカーペット床は、変位の到達範囲が 100mm、
直張木質フローリング床は 100 ∼ 200mm 程度と極く狭い
範囲に限られており、局部圧縮型の変位を示す床である
図 -21 踵部波形入力時の床仕上げ構造の変型特性
ことがはっきり裏付けられている。また、畳床は本畳と
化学畳で特に大きな違いはみられず、どの試験体も水平
方向300mm程度まで変位がおよんでいるが、150mm程度
までは局部圧縮型、それ以上では曲げ変形型の特性を示
し、双方の特性を併せもつ床材であることが窺われる。
これらの変位特性は、歩行時の足裏各部に位相の変化
として作用することになり、感覚評価の「へこむ感じ」の
評価量に大きく影響する要因になると考えられる。
4.4.5 駆動点インピーダンス特性
駆動点インピーダンスは、躯体スラブの床衝撃音レベ
ルを予測する上で重要な物理量となるが、床仕上げ構造
の衝撃入力低減量を予測する際にも有効になるものと考
えられる。コンクリートスラブ上に施工した床仕上げ構
造に単振動系を仮定すると、その機械インピーダンスは、
次式で求められ、図 -22 に示すような特性となる。
Z = r + j( ωm - k/ ω ) ここで、 r:抵抗、ω:角周波数 (rad/sec)
m:質量 (kg)、k:ばね定数 (N/m)
単振動系の機械インピーダンスの一般的特性は、固有
周波数fn付近で共振によるインピーダンスの低下が生じ、
それより低域ではばねに基づくインピーダンスが支配的
図 -22 インピーダンス特性のモデル
となって -6dB/oct、それより高域では質量に基づくイン
ピーダンスが支配的となって +6dB/oct の特性を示す。ま
た、抵抗が大きくなると共振領域での低下が抑えられる
とともにインピーダンスレベルの勾配が緩やかな特性と
なる。
各床仕上げ構造の駆動点インピーダンス特性測定結果
を図-23に示す。直張木質フローリング床の場合の周波数
特性は、各床仕上げ材ともほぼ同じ傾向を示しているが、
インピーダンスレベルの大きさは、大きく異なり、ばね
定数の変化に対応した値を示している。共振周波数は、
100Hz 以上の比較的高域にあらわれており、これが、床
107
図 -23 駆動点インピーダンス周波数特性測定結果
仕上げ構造の床衝撃音レベル低減量を決定する重要な特
性となる。
根太床のインピーダンス特性は、大引き、根太を含む
根太床構造としての共振周波数が 30 ∼ 60Hz に、根太間
の合板の質量と曲げばねによる共振が 125Hz 帯域を中心
とする周波数にあらわている。低域におけるインピーダ
ンスの変化の割合は、ほぼ -6dB/oct となっており、10Hz
におけるインピーダンスレベルも、0 ∼ 700N の衝撃力に
おけるばね定数に基づき算出した値にほぼ一致している。
また、200Hz 付近以上の周波数領域においては、質量に
依存するインピーダンス特性になっているとみることが
できる。床衝撃音遮断性能の面からみると、125Hz 帯域
付近の共振周波数が問題となり、根太床構造の改善のポ
イントになると考えられる。
乾式二重床は、防振ゴム置床と発泡プラスチック下地
床では明らかに異なるインピーダンス特性を示している。
B-1∼B-4の防振ゴム置床は、ばねで支配されるインピー
ダンスの周波数領域は 20Hz ∼ 30Hz の低域にとどまって
おり、それ以上の周波数領域ではインピーダンスが一定
値となり、質量とばねが逆位相となるような形で作用す
る均質板的特性を示している。これは、支持脚部のゴム
のばね定数が合板部の曲げばね定数を下回っているため
であり、浮床構造的な特性を示している。また、今回用
いた試験体は、上部合板部に種々の制振材を用いて複層
構造化しているため、共振増幅もほとんどみられないの
が特徴的で、63Hz 以上の床衝撃音遮断性能の向上が期待
できる床仕上げ構造といえる。発泡プラスチック下地床
の H-1 は、発泡プラスチックの局部ばねの影響があらわ
れ、マス・ばね系を構成している特性を示しているが、共
振周波数は 150Hz 程度と高くなっている。これは、根太
床の曲げばねとは異なり圧縮ばねとなるためと考えられ
る。このことは、125Hz ∼ 250Hz 帯域において床衝撃音
108
遮断性能の低下が生じる可能性があることを示している。
畳床は、基本的には、単振動系の振動特性を示してい
るが、化学畳のT-2、T-4のインピーダンスレベルは、-6dB/
octより緩やかな勾配となっており、系の抵抗が大きいこ
とがわかる。基本構造は化学畳と同様の構造であるが、
表面にわらを用いているT-1は、インピーダンス特性でみ
ると、むしろ本畳に近い特性を示しており、畳床を分類
する場合、本畳と化学畳という分類のほかに、表面にわ
らを使用している否かによる分類方法もあると考えられ
る。いずれの畳床とも反共振による増幅が 250Hz 付近に
あらわれているが、本畳 (T-3,T-5) は急峻で、化学畳のよ
うに層状構造の畳 (T1、T2、T4) は緩やかになっている。こ
れは、層状構造の畳は層状化により損失が増大するため
と考えられる。また、質量が支配的となる高域では、平
坦なインピーダンス特性を有する結果となっており、根
太床などとは異なり周波数の関数として説明できない傾
向がみられる。これは、有効質量の特定が難しいこと、周
波数の増加とともに有効質量の低下が生じていることが
原因と考えられる。
水平方向の力の伝達が無視できるカーペット床は、ば
ねと質量が他の床材に比べて特定できない床材といえる
が、参考のためインピーダンス特性の測定を行った。低
域におけるインピーダンス特性は -6dB/oct となっている
が、高域の特性は、畳床にみられたインピーダンス低下
の傾向がさらに顕著となっている。これらのカーペット
床は、フェルト下地として施工しているため、カーペッ
トとフェルトの二重構造のインピーダンス特性があらわ
れているとも解釈できそうである。
以上みてきたように、駆動点インピーダンス特性には、
床仕上げ構造の特徴がはっきりあらわれることから、床
仕上げ構造の振動特性を解釈する上で有効な物理量であ
るといえる。
5. 実験室における床仕上げ構造の感覚評価と動的
振動応答物理量との関係
5.1 感覚評価実験
感覚評価実験は、まず、絶対評価実験によって、床仕
上げ構造相互の歩行感覚の差違を把握し、さらに、絶対
評価実験の評価値で変化幅の大きかった、直張木質フ
ローリング床、根太床および乾式二重床について、構造
変化に対する感覚変化の詳細を検討するために、一対比
較法による評価実験を行った。
感覚評価実験における評価項目は、総合的な価値観、
「かたい」、
「へこむ」、
「たわむ」、
「重量感がある」、
「好ま
しい」の 5 つに限定し、絶対評価法と同様最終的には9
段階尺度によるデータ解析を行っているが、実験時の教
示方法は、できるだけ判断しやすくするために、図-26 に
示すように、まず3段階評価をしてもらい、それをさら
に3段階評価してもらう方法をとった。一対比較の評価
結果からシェッフェの検定法を用いて尺度化を行った。
また、分散分析により評価の感覚量の差の有意性をヤー
ドスティック(有意水準:5%)により検定を行った。
評価実験は素足歩行とし、3,600mm × 1,800mm の大き
かたさ、素材、歩行感、変形に関する評価を表わす形容
詞対 26 対を選定し、被験者 10 名で素足歩行をしたとき
の、SD 法による感覚評価の予備実験を行った。その評価
結果を因子分析した結果を表-6に示す。これをみると、因
子数は、価値観、かたさ感覚、素材感、重量感、変形感
などの 9 つであることがわかる。この結果から、素足歩
行では床仕上げ構造の差違によってほとんど変化しな
かった項目を除き、
「かたさを評価する項目」、
「歩行感を
評価する項目」、「局部圧縮変形を評価する項目」、
「曲げ
変形を評価する項目」、「重量感を評価する項目」、
「床材
のイメージと踏み心地の差を評価する項目」、「床弾性の
好みを主観的に評価する項目」、「住宅床としての好まし
さを客観的に評価する項目」の 8 つの形容詞対を選定し
た。
全試験床を対象とした絶対評価実験は、SD 法による 9
段階尺度による評価を行った。図-24に評価項目と教示内
容を示す。なお、9 段階の尺度を用いたのは、予備実験に
おいて3、5、7、9段階の評価実験を行った結果、各
図 -24 絶対評価実験における評価項目と教示内容
種床仕上げ構造に対する微妙な感覚変化を評価するため
には、9段階尺度による評価が最も妥当であると判断した
ためである。評価結果は、系列範疇法により距離尺度化
を行った。
一対比較法による評価実験の評価項目は、図-25に示す
表 -6 感覚評価予備実験による因子分析結果
図 -25 一対比較評価実験における評価項目と教示内容
図 -26 一対比較評価実験における教示方法
109
表 -7 被験者の諸元
表 -8 実験対象とした床仕上げ構造の概要
図 -27 好ましさに関連する評価項目間の関係
評価項目は歩きやすさ、不自然さ、好き嫌いとなってお
いる。それぞれの関係を図-28 に示す。不自然さや好き嫌
いと相関が強いのは、人は経験的な判断に基づき、過去
の体験の繰り返しから判断基準を定めており、それぞれ
の床仕上げ構造に対して期待値を有していて、その期待
値と実際に歩いた感じの差違の大小が不自然さや好き嫌
いの程度の評価に影響し、そのことが好ましさの評価に
さの試験体の上を、回数を制限せず自由に歩行した後回
答する方法をとった。被験者は、表 -7 に示す 21 歳∼ 65 歳
とし、評価結果は、年齢による歩行感覚の変化について
検討するため、20歳代(20∼39 歳)
、40 歳代(40∼ 59歳)、
強く反映した結果になったものと推測される。
不自然さと関係する要因を探るために、不自然さと強
い相関を示す評価項目を検討した結果、図-29に示す好き
嫌い、へこみおよびたわみが抽出された。不自然さと好
60 歳代(60 歳以上)の 3 つの年齢層に分けて解析した。
き嫌いは、床仕上げ構造に関係なく直線的関係を示して
おり、不自然さの程度が直接的に好き嫌いに関係する結
5.2 実験対象床仕上げ構造
果となっている。また、へこみやたわみとの関係をみる
と、特に直張木質フローリング床と根太床が直線的関係
実験対象とした床は、動的振動応答物理量を測定した
床仕上げ構造のうちから代表的な床を抽出し、表 -8 に示
す直張木質フローリング床8床、根太床6床、乾式二重床
3床、畳床4床、カーペット床5床、合計 26 床である。
となり、へこみやたわみが大きい場合、不自然さを強く
感じる結果となっている。これに対して、畳床やカー
ペット床は、へこみが大きいと感じても、不自然さは感
じない評価となっており、床材の本来有している性質を
前提とした評価をしていると考えられる。このことから、
評価の判断基準が床仕上げ構造によって異なっているこ
5.3 感覚評価実験結果
5.3.1 絶対感覚評価の実験結果
床仕上げ構造の客観的評価である好ましさと他の評価
項目との関係をまとめて図-27 に示す。これみると、すべ
ての床仕上げ構造に対して、好ましさと強い相関を示す
とが改めて確認できる。
好ましさとかたさとの関係を図-30に示す。直張木質フ
ローリングは、二次曲線近似を示し、かた過ぎてもやわ
らか過ぎても評価が悪くなる傾向がみられるのに対して、
図 -28 好ましさと相関の強い評価項目との関係
110
図 -29 不自然さと相関の強い評価項目との関係
根太床は、かたい程評価が良くなる傾向を示している。
また、直張フローリング床と根太床は、やわらかいと評
価されると、床材として好ましくないという評価になっ
ているのに対して、畳床、カーペット床は、直張木質フ
ローリング床や根太床と同じやわらかさの評価値でも好
ましいという評価となっており、床材の素材の違いや本
来床材が有している性質を前提にした評価を行っている
と解釈できる結果になっている。乾式二重床のうち、防
振ゴム置床は、根太床とかたさの評価が同じでも好まし
さの評価値はよくなる傾向がみられる。
5.3.2 一対比較評価の実験結果
図 -30 好ましさとかたさとの関係
直張木質フローリング床について行った一対比較評価
実験結果のうち、好ましさとかたさとの関係を年代別に
こみやたわみが小さく、重量感のある床を好ましいと評
価している結果となっており、年齢による感覚の相違が
はっきりあらわれている。この年代による感覚評価量の
図 -31 に示す。いずれの評価項目においても、20 歳代と
40 歳代は、類似の傾向を示しているが、60 歳代は、両年
相違には、官能の違いのほかに今までの床に対する履歴
の違いが影響していると考えられる。
代と傾向を異にしている。20 歳代と 40 歳代は、2次曲線
で近似される相関を示して極値を有するが、60 歳代は、
根太床、乾式二重床について、好ましさとかたさとの
相関を年代別に図-32 に示す。これらによると、根太床と
直線相関に近い関係になっている。このことは、かたさ
についていえば、20歳代と40歳代はある程度のかたさを
乾式二重床でははっきり異なる傾向を示し、かたさ、に
対する評価値が同じでも、好ましさの評価は乾式二重床
もったものを好み、かたすぎてもやわらかすぎても好ま
しさの評価は低くなるのに対し、60 歳代は、かたい床程
の方がよい値になっている。これは、根太床は曲げ変形
するのに対して、乾式二重床は駆動点インピーダンスの
好む傾向にあるといえる。へこみ、たわみ、重量感につ
いても同様のことがいえ、20歳代と40歳代では今回の試
項で述べたように、防振ゴムや発泡プラスチックの圧縮
変形に依存していることや床板全体が均質板のように変
験体の範囲内で最も好ましいとされる値が存在するのに
対して、60 歳代は、今回の試験体よりさらにかたく、へ
形することから、この変形の仕方の相違がかたさ、へこ
み、たわみに関して、感覚評価の相違となってあらわれ
図 -31 直張木質フローリング床好ましさとかたさの年代による比較
111
図 -32 根太床、乾式二重壁床好ましさとかたさの年代による比較
たものと推察される。
根太床のみに注目すると、20 歳代と 40 歳代は、いずれ
ダンスレベルとなっている。また、へこみは次のように
定義した変位変化率とよく対応している。
の評価項目とも2次曲線で近似される相関を示し、今回
の試験体の範囲では、はっきりあらわれていないが、極
値を有することが窺われる傾向となっている。60歳代は、
いずれの評価項目も直線相関を示しており、さらにかた
くて、たわみやへこみの小さいものほど好ましいという
評価になっている。
以上のことから、直張木質フローリング床と同様、根
太床に関しても年代による差がみられ、60 歳代は、若干
かたい床仕上げ構造を好む傾向がみられる。また、防振
ゴム置床のような乾式二重床に対しては、どの年代もか
たさやたわみの評価が根太床と同じでも、根太床より好
ましいと評価しており、木質床に対する設計上の今後の
図-33 に、全床仕上げ構造に対して、感覚評価量と最も
よく対応する動的振動応答物理量との関係を示す。床仕
一つの方向性が示されていると考えられる。
上げ構造別にみると、直張木質フローリング床、根太床
とも好ましさとかたさは衝撃インピーダンスレベルまた
5.4 感覚評価量と動的振動応答物理量との関係
は 31.5Hz インピーダンスレベルがよく対応しているが、
その他の評価項目は、動的変位量との対応がよく、全般
絶対評価法による感覚評価量と最もよ対応する動的振
動応答物理量をまとめて表 -9 に示す。これをみると、全
床仕上げ構造に共通して、好ましさに対応する振動応答
物理量はなく、好ましさは、単純に単一物理量では説明
できない評価項目であり、いろいろな要因が関係した総
合的な評価項目であるといえる。全床仕上げ構造に対し
て、比較的対応する振動応答物理量は、かたさは衝撃点
における動的変位量、たわみと重量感は 31.5Hz インピー
的にみて、動的変位量が重要な振動応答物理量になると
いえそうである。
表-10に、最も好ましいとされる動的振動応答物理量の
うち、動的変位量と動的ばね定数について、各床仕上げ
構造別にまとめて示す。直張木質フローリング床は、衝
撃点の動的変位量で 1.2 ∼ 1.4mm 程度、動的ばね定数で
5.0 ∼ 10.0 × 105N/m 程度の床が最も高い評価を示してい
る。これに該当する床材は F-4、F-5、F-
表-9 絶対評価法による感覚評価量と最もよく対応する動的振動応答
物理量
6 であり、遮音等級では LL-50 ∼ 60 に相
当する。しかし、現状における軽量床衝
撃音対する性能要求値は、LL-45 が一般
的となっているため、好ましさと床衝撃
音遮断性能の両方を満足する直張木質フ
ローリング床は存在しないため、適切な
かたさを確保した上で軽量床衝撃音レベ
ル低減量を向上させることが今後の課題
の一つとなる。
根太床や乾式二重床の好ましいとされ
る動的ばね定数は、それぞれ 5.0 ∼ 6.0 ×
105N/m、3.0 × 105N/m となっており、乾
112
式二重床の方が多少やわらかい床が好ま
れる傾向にある。根太床、乾式二重床の動
的ばね定数は、直張木質フローリング床
より小さい値のものが好まれ、変形パ
ターンによって、好ましさの判断が明ら
かに異なることを示している。なお、根太
床の好ましいとされる動的ばね定数に相
当する床構造は、根太断面寸法 30mm ×
40mm∼34mm×45mm、根太間隔303mm、
板厚 12mm + 12mm ∼ 15mm + 15mm とな
る。
これらの結果から、床仕上げ構造につ
いては、素材の特性を確保することを大
前提にする必要があり、特に直張木質フ
ローリング床については、感覚的に不自
然さを感じさせないように、最も好まし
いとされる動的ばね定数を確保した上で、
いかに床衝撃音遮断性能を向上させるか
が、今後の課題になると考えられる。二重
床に関しては、床衝撃音遮断性能、感覚評
価の両面からみて、よい評価が得られて
いる防振ゴム置床が一つの方向性を示し
ているといえ、今後推奨される床仕上げ
構造であるといえよう。
6. 床仕上げ構造の床衝撃音レベル低
減量と動的振動応
図-33 絶対評価法による感覚評価量に全床仕上げ構造に対して最もよ
く対応する動的振動応答物理量
表 -10 床仕上げ構造の最も好ましいとされる動的振動応答物理量
6.1 床衝撃音レベル低減量の測定
軽量床衝撃音レベルの測定は、スラブ厚
さ 140mm、スラブ面積 81.7m2 コンクリー
ト床版をもつ実験室において、音源室の床
スラブ中央に感覚評価実験と同じ大きさ
(910 × 3640mm)の床を施工して行った。
測定は、JIS A 1440 に準拠して、タッピ
ングマシンでコンクリートスラブ素面とコンクリートス
ラブ上に床材を施工したときの床衝撃音レベルを、精密
最もよくあらわしており、LL-55 ∼ 60 で 5dB 前後、LL-50
で 10dB 前後、LL-40 ∼ 45 で 15 ∼ 20dB のΔLとなってい
騒音計 (RION NA-27) を用いて 63Hz ∼ 4KHz の 15 秒間の
等価音圧レベル(Leq)を計測し、それぞれの平均床衝撃
る。なお、緩衝材のない F-2 でも、1KHz 以上の周波数帯
域では 5dB 以上のΔLが得られている。
音レベルを計算して、両者の差から低減量を求めた。
畳床は、125Hz ∼ 500Hz 帯域において、序列がはっき
りあらわれており、T-1の4層化学畳が最も遮断性能が良
6.2 軽量床衝撃音レベル低減量の測定結果
く、次いで、本畳2級、本畳特級、3層化学畳の順となっ
ている。63Hz ∼ 250Hz のΔLは、ほぼ直張木質フローリ
直張木質フローリング床、畳床、カーペット床、二重
床の軽量衝撃源に対する床衝撃音レベル低減量(以下Δ
L)の測定結果を図 -34 に示す。
直張木質フローリング床は、公称遮音等級で LL-40 ∼
LL-60 のものを試験体としたため、ΔLの変化幅も大き
くなっているが、125Hz と 250Hz のΔLの値から、概略
LL-55 ∼ 60、LL-50、LL-40 ∼ 45 の三つのグループに大別
される。これは、ばねに基づくインピーダンス領域にお
けるインピーダンスレベルの大小と対応した結果となっ
ている。周波数別では、250Hz の値が遮音等級の序列を
ング床と同様の特性を示しているが、500Hz 以上の周波
数帯域では、直張木質フローリング床のΔLより10dB程
度上回る値となっている。
カーペット床は、軽量衝撃源に対しては、C-2のカット
パイル 10mm 厚が最も良い遮断性能を示し、その他の
カーペット床は大差ないΔLとなっている。
根太床は、125Hz ∼ 250Hz に共振によるΔLの落ち込
みがみられ、根太床の典型的な周波数特性を示している。
これに対して、乾式二重床のうち、防振ゴム置床は、
113
的変位量からΔLを推定することは可能と
考えられる。各周波数別の回帰式を表 -11
に示す。
図 -36 に動的ばね定数との関係を示す。
両者の関係は、指数関数的近似を示し、動
的ばね定数が小さくなるほど、ΔLは急激
に上昇する傾向を示している。図中の矢印
は、各オクターブバンド中心周波数が衝撃
周波数となる場合のばね定数を示してい
る。矢印以下のばね定数の範囲で顕著な床
衝撃音レベル低減効果を示すことが確認で
きる。これから、動的ばね定数から軽量床
衝撃音レベル低減量を求めることができる
と考えられ、表 -12 に示す回帰式で大略推
定できるといえよう。
次に、衝撃周波数との関係について述べ
る。軽量床衝撃音レベル低減量は、衝撃周
波数以上で低減効果があらわれはじめるた
め、床衝撃音レベルを予測する上で重要な
物理量となる。その減衰傾向は図 -37 に示
すように、衝撃力波形によって異なり、正
弦半波の場合は、衝撃周波数の2倍から4
倍の範囲までは大略 -15dB/oct で減衰し、
それ以上高い周波数になると-9dB/octとな
る。また、足裏全体の衝撃力波形のような
2段波形や踵部のような立ち上がりの急激
な波形は、正弦半波より減衰勾配は小さ
く、逆に正弦半波の n 乗の波形のように立
ち上がりや立ち下がりが緩やかな波形は正
弦半波より大きな減衰勾配を示す。
図 -34 各床仕上げ構造の軽量床衝撃音レベル低減効果量
この衝撃周波数(fn)に対する対象周波
数 (f) の比 (f/fn) をとり、床仕上げ構造別に
63Hz、125Hz で 10dB 前後、250Hz において 20dB 程度の
軽量床衝撃音レベル低減量との関係を求め
た結果を、直張床について図 -38、二重床について図 -39
ΔLが得られており、共振によるΔLの落ち込みのない
特性を示している。発泡プラスチック下地床は、125Hz帯
に示す。
直張床についてみると、直張木質フローリング床と畳
域に鋭い落ち込みがあらわれているが、500Hz 以上の周
波数帯域では、根太床を大幅に上回るΔLとなっており、
床のΔLは、非線形の増加傾向、カーペット床は、直線
的増加傾向を示している。各床仕上げ構造別に低減量の
発泡プラスチック材の圧縮ばねの効果があらわれた特性
を示している。
割合をみると、カーペット床は 12dB/oct 程度となり、正
弦半波の場合の 15dB/oct より小さな値になっている。こ
6.3 軽量床衝撃音レベル低減量と動的振動応答物
理量との関係
れに対して、直張木質フローリング床や畳床は、カー
ペット床のように一定の割合で増加せず、f/fn が2倍、4
軽量床衝撃音レベル低減量と動的振動応答物理量との
倍、8倍になる毎に、ΔLの増分は、直張木質フローリ
ング床の場合が 4、8、16dB、畳床が 4.5、9、18dB と2倍
関係のうち、ここでは、動的変位量、動的ばね定数、衝
撃周波数、衝撃インピーダンスレベルとの関係について
の割合で増加する特性となっている。
二重床についてみると、根太床の場合が非線形の近似、
述べる。
直張木質フローリング床、畳床、カーペット床などの
防振ゴム置床と発泡プラスチック下地床は直線的近似の
傾向を示している。ΔLの増分は、根太床は、f/fnが2倍、
直張床について、動的変位量との関係を図-35 に示す。こ
れをみると、いずれの周波数も直線近似となり、変位量
4倍、8倍になる毎に、3、6、12dB と2倍の割合で増加、
防振ゴム置床と発泡プラスチック下地床は、10dB/oct の
が大きくなるにしたがいΔLが大きくなる傾向を示し、
その増分の割合は、高周波数になるほど大きくなってい
増加となっている。これらの減衰傾向の違いは、各床仕
上げ構造によって、衝撃力波形が微妙に異なっているた
る。いずれの周波数も、相関性も比較的よいことから、動
めと考えられる。
114
図 -35 動的変位量と軽量床衝撃音レベル低減効果量との関係
図 -36 動的ばね定数と軽量床衝撃音レベル低減効果量との関係
表 -11 直張床の動的変位量(x)から軽量床衝撃音レベ
ル低減量(△ L)を求める回帰式
表 -12 動的ばね定数(x)から軽量床衝撃音レベル低減
量(△ L)を求める回帰式
この結果から、各床仕上げ構造の軽量床衝撃音レベル
低減量を大きくするためには、衝撃時間を長くし、衝撃
周波数を低くするのがより効果的になることがわかるが、
木質系床材で、床がやわらかになりすぎると、感覚評価
値が悪化するので、適正なかたさを確保した上で、床衝
撃音遮断性能を向上させることが求められる。
衝撃インピーダンスレベルは、表面材の厚さや密度の
大小および緩衝材のばね定数の大小に依存することにな
り、床材のかたさ示す一つの指標になる。衝撃インピー
ダンスレベルと軽量床衝撃音レベル低減量との関係を求
めた結果を、直張木質フローリング床と畳床について図40 に示す。
これをみると、周波数によって低減量の変化の割合は
異なるが、いずれの床仕上げ構造も、各周波数とも大略
図-37 衝撃力波形と軽量床衝撃音レベル低減量との関係
直線近似する傾向が得られている。しかし、その勾配は、
直張木質フローリング床は、衝撃インピーダンスが小さ
直張床、乾式二重床とも相関性も比較的よいことから、
くなるにしたがって低減量が大きくなるのに対して、畳
床は、逆の特性を示している。この衝撃インピーダンス
衝撃周波数(fn)から軽量床衝撃音レベル低減量(ΔL)
を予測することは可能といえ、表-13に示す回帰式で求め
レベルからも、軽量床衝撃音レベル低減量を予測するこ
とが可能であるといえ、表-14に示す回帰式より求めるこ
られる。
とができると考えられる。
115
6.3 軽量床衝撃音レベル低減量と感覚評価量との
関係
好ましさとΔLとの関係をみると、直張木質フローリ
ング床は、ΔLの増加に伴い好ましさが低下傾向、畳床
直張木質フローリング床、畳床、カーペット床などの
直張床の軽量床衝撃音レベル低減量(ΔL)と絶対評価
は、ΔLの増加とともに上昇傾向、カーペット床は、変
化しない傾向となっている。○印で囲んだ直張木質フ
実験による感覚評価量のうち、好ましさ、かたさ、へこ
み、不自然さとの関係を図 -41 ∼ 44 に示す。
ローリング床は、ΔLが 500Hz を除き畳床とほぼ同じ値
になっているにもかかわらず、好ましさの評価が悪く
図 -38 直張床の衝撃周波数を基準とした対象周波数の比と軽量床衝撃音レベル低減量との関係
図 -39 二重床の衝撃周波数を基準とした対象周波数の比と軽量床衝撃音レベル低減量との関係
表 -13 衝撃周波数(fn)に対する周波数(f)の比から床
衝撃音レベル低減量(△ L)を求める回帰式
表 -14 衝撃インピーダンスレベル(x)から軽量床衝撃
音レベル低減量(△ L)を求める回帰式
図-40 衝撃インピーダンスレベルと軽量床衝撃音レベル
低減量との関係
116
図 -41 好ましさと軽量床衝撃音レベル低減量との関係
図 -42 かたさと軽量床衝撃音レベル低減量との関係
図 -43 へこみと軽量床衝撃音レベル低減量との関係
図 -44 不自然さと軽量床衝撃音レベル低減量との関係
117
なっている。これらの床は、F-1、F-3、F-6 ∼ F-8 で、公
称遮音等級で LL-40 ∼ LL-50 に相当するものであり、木
7. まとめ
質床でありながら、かたさとの関係でやわらかいという
評価になっていることや、不自然さの評価で不自然さを
本研究の実験、解析結果から、住宅の床の設計の考え
方の方向として、次のことが提示できる。
強く感じる結果になっていることが総合的に判断された
ものと考えられる。直張木質フローリング床は、ΔLが、
1) 動的変位量、動的ばね定数、衝撃周波数および衝撃
インピーダンスレベルなどの動的振動応答物理量から
250Hz で 10dB、500Hz で 25dB を超えると、床材として好
ましくないという評価になっている。
軽量床衝撃音レベル低減量を求める回帰式を提示した。
これにより、実際に軽量床衝撃音レベルを測定しなく
かたさとΔLとの関係は、畳床とカーペット床は好ま
しさと同様、物理量に大きな変化がないため、ΔLとの
ても予測が可能である。
2) 動的振動応答物理量、軽量床衝撃音レベル低減量お
相関性は小さいといえる。これに対して、直張木質フ
ローリング床は、指数関数的な相関性を示し、ΔLが
よび感覚評価量との関係から、木質床の床仕上げ構造
として推奨されるのは防振ゴム置床であり、物理量と
250Hz で 15dB、500Hz で 20dB を超えると、やわらかさの
評価の変化の幅は小さくなる傾向となっている。直張木
しては、動的変位量で1.0∼1.5mm、動的ばね定数で3.0
× 105 N/m が好ましいと判断される指標となる。
質フローリング床がやわらかいと感じる境界は、125Hz
で 5dB、250Hz で 10dB、500Hz で 25dB 付近とみることが
3) 住宅の床仕上げ構造として多用されている直張木質
フローリング床に対して、感覚評価で好ましいとされ
できる。
へこみとΔLとの関係は、畳床はかたさと同様にΔL
る動的振動応答物理量の最適値は、動的変位量で1.2∼
1.4mm、動的ばね定数で 5.0 ∼ 10.0 × 105 N/m である。
との相関性が小さいのに対して、カーペット床は、完全
な局部圧縮変形型であるため、有意な感覚変化を示して
これは、遮音等級では LL-50 ∼ 60 に相当して、床衝撃
音遮断性能とは相容れないものとなるため、住宅の床
いる。その変化は、いずれの周波数においても、一次関
数的となり、ΔLの増加とともにへこみ感が上昇する評
として適切なかたさを確保した上、遮音等級を向上さ
せた製品の開発が望まれる。
価となっている。一方、直張木質フローリング床は、二
次関数的傾向を示し、125Hzで8dB、250Hzで20dB、500Hz
4) 根太床は、かたいほど好まれる床仕上げ構造であり、
動的ばね定数では5.0∼6.0×105 N/mが指標となる。こ
で 30dB 前後では、ΔLのわずかの変化に対しも、へこみ
感の評価の変化が大きくなる傾向となっている。また、
れを充足させるためには、根太間隔 303mm、根太断面
寸法 30mm × 40mm、表面材として合板 12mm + 12mm
ΔLが 250Hz で 15dB、500Hz で 25dB を超えると、へこ
みの程度はカーペット床とほぼ同じ評価値になっており、
が最低限確保されるべき仕様となる。
5) 畳床、カーペット床は、床衝撃音遮断性能、感覚評
このことが、不自然さの評価に深く関係していると考え
られる。
価面から好ましい床仕上げ構造である。
6) 軽量床衝撃音レベル低減量と感覚評価量との関係か
不自然さとΔLとの関係は、畳床やカーペット床のよ
うになじみのある床仕上げ構造では、ΔLが大きくなっ
ら、感覚の変化に対応する周波数は 250Hz と 500Hz で
ある。
ても自然な感じの評価となっているのに対して、直張木
質フローリング床は、二次関数的近似となり、125Hz で
【参考文献】
5dB、250Hz で 10dB、500Hz で 25dB を超えると自然さが
損なわれると感じはじめ、さらにΔLが 5dB 程度大きく
1) 井上勝夫、木村翔、前原暁洋、渡辺秀夫、松岡明彦:「歩
行時の足裏各部の衝撃力特性(歩行感からみた住宅床の
なると、不自然さの評価が極端に増加する傾向を示して
いる。これが、先に示した好ましさの評価にも影響して
振動応答特性と床衝撃音遮断性能に関する研究その1)」
日本建築学会計画系論文集、第 477 号 (1995 年 11 月 )
いるものと推測される。畳床やカーペット床のように、
もともと床仕上げ構造の特性が周知な場合と直張木質フ
2) 井上勝夫、木村翔、前原暁洋、渡辺秀夫:「床弾性試験用
衝撃源の試作と住宅床の振動応答特性(歩行感からみた
ローリング床のように見た目の素材感と実際に歩いた感
じの差が大きい場合との違いがはっきり現れている。
住宅床の振動応答特性と床衝撃音遮断性能に関する研究
その2)」日本建築学会計画系論文集、第 483 号 (1966 年
以上のことから、直張木質フローリング床に関しては、
かたさ、たわみ、不自然さとΔLはほぼ同様の傾向を示
5月)
3) 井上勝夫、木村翔、平光厚雄、矢後佐和子、渡辺秀夫:
し、125Hz で 5dB、250Hz で 10dB、500Hz で 25dB が善し
悪しの判断の境界になっており、ΔLから、住宅の床と
「歩行感から見た住宅床の感覚評価に関する研究(歩行感
からみた住宅床の振動応答特性と床衝撃音遮断性能に関
しての適正さを評価する上での一つの目安になると考え
られる。また、感覚変化に対して、ΔLの変化が比較的
する研究その3)」日本建築学会計画系論文集 第 504 号
(1998 年 2 月)
よく対応する周波数は、250Hz、500Hz 帯域とみることが
でき、感覚変化をあらわす適正な周波数といえそうであ
4) 渡辺秀夫、木村翔、井上勝夫、石井健太郎:「住宅の床仕
上げ構造の振動応答特性と床衝撃音遮断性能との関係」
る。
日本建築学会計画系論文集 第 511 号(1998 年 9 月)
118
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