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中国 内モンゴルの旅
内モンゴルの旅 第 15 次日中友好経済懇話会中国視察ツアー 2015 年 3 月 22 日∼27 日 山本正志 フフホト ダラトキ 雲岡石窟 懸空寺 帰国 オルドス 上海から モンゴルの旅 私は、2013/7/25∼29 にモンゴルに旅行した。総員 11 人、団長は長砂 實関西大学名誉教授、中野一新京大名誉教授も参加。この旅行の簡単 な覚書きを最初に紹介する。 ① 私がモンゴルという国（地域）に関心を持つようになったのは、 中学生のとき「蒼き狼」 （井上靖）を読み、テムジン（チンギス・ハ ーンの幼名）の成長と大モンゴル帝国の建設、その過程で敵につれ去 られた妻ボルテが生んだジュチの出生に悩み続ける、といったストー リーだったと記憶している。 （ 「蒼き狼」は後年映画化されている） 7/25、モンゴルに着いたのはチンギス・ハーン・インタナショナル・ エアポート、宿泊はチンギス・ハーン・ホテル、いずれもホール正面 の壁に巨大な肖像画が掲げられている。この国は今でも「チンギス・ ハーンの末裔」たちの国ということをあらためて知った。 テレルジのゲルキャンプからウランバートルへの帰途、巨大なチンギ ス・ハーン騎馬像（2009 年完成）に立ち寄った。エレベータで上に登 れる。 ② 7／26、ウランバートル初日。1863 年創立のチベット仏教ガンダ ン寺。1937 年にスターリンの指令によって破壊されたがソ連崩壊後 1996 年に再建された。巨大な仏像の前に原型となった小さな像が置か れているが、両側の写真はモンゴル最後の王様とダライ・ラマの若い ときの写真。現在もインド亡命中のダライ・ラマは度々モンゴルを訪 れている。 ③ ガイドさんと現地の人の会話で「ダー」 「ニェット」 、これはロシア語。文字表記もロシア語と同じ キリル文字。中学校 1 年からロシア語が必修となっているという。モンゴル文字は仏教寺院の経典など にあって、老人で読める人はいるが、全く使われていないという。モンゴルの革命政権樹立は 1924 年 で、その頃の社会主義政権はソ連だけ、教育も経済もソ連を手本に、という歴史が土台にある。 ④ガイドさんの紹介で「ここが朝青龍が結婚式をあげたところで、入口の鳥居は彼が建てました」とか 「日馬富士の生まれた村です」とか、日本の大相撲は広く知られていて、ホテルでも日本のＮＨＫ衛星 放送は受信できる。市内を走っている車は日本車が多い。夏は 30℃くらいになるが冬はマイナス 35℃ にもなるので、少々では故障しない日本の中古車が人気だという。日本びいきは国民性といえる。 ④ 7／27、バスでテレルジのゲルキャンプ（草原の夏季 ホテル）へ。途中の道は舗装されていないので閉口した。 冬季はほとんど車も通らないので放置されたまま。 ゲルホテルと契約している「劇団」がやってきて、伝統 のナーダム三大競技（モンゴル相撲・競馬・弓術） 、観客 は我々だけ。民族音楽（馬頭琴とホーミー）演奏も。 国家ナーダムは、7 月 11 日（革命記念日）∼13 日の 3 日 間、ウランバートルの中央スタジアムで開催される。 ⑤ 帰国の日、大きなスーパーに立ち寄って買い物。電気 製品売り場では、大型液唱テレビはサムスン電子、ＬＧと 並んで東芝、ＳＨＡＲＰ、ＳＯＮＹが健闘、エアコンは日 立の独壇場、洗濯機はほぼ 韓国勢、大型冷蔵庫は韓国 製品と共に日立、東芝など が並んでいた。 モンゴル相撲 中野一新先生は、１日、留学生だった現地の大学教授と行動を共にされ たが、 「汚職や利権などの問題はそうとう深刻」との話であったという。 「台頭中国の対外関係」 (学習院大学東洋文化研究叢書 2009/2）に収録されている窪田新一氏 の論文「台頭中国とモンゴル」はロシア、中国と国境を接するモンゴルの実態（歴史・政治・経済・ 外交他）を紹介している。 「2006 年にァメリ力の調査会社がモンゴルの機関と共同で行った意識調査がある。あなたはどの国 の人が一番好きですか？という質問に対して、1 番はロシア人であった。その次はアメリカ人。アメ リカ人は民主主義と市場経済を持ってきてくれたからだそうである。3 番目にあがったのがなんと日 本人であった。日本人がアジアの諸国でベスト 3 に入るのは特筆すべきことである。中国人はワース ト 1 であった」 「内モンゴルのモンゴル人が自分たちをモンゴル人と思っていても、モンゴル国の人 からすると、モンゴル語を話す内モンゴル人でも、中国人として見られていて嫌われていたのである。 中国という嫌なイメージの中にあるために、同じ言葉を話しているにもかかわらず、我々の国を搾取 していった人々の末裔だと、恐れ、脅威を感じ、また嫌っているのである」 「中国の存在感が増して いるとはいえ、ロシアは社会主義時代に行った投資権益を引き継いでおり、その影響力は依然として 大きい。モンゴル最大の銅鉱山であるエルデネットは現在もロシアがその株式の半数を保有してい る。また、モンゴル鉄道は、51％の権利をロシア政府が保有している」 。 3 月 22 曰（曰） 出発 関西空港を 9：25 離陸、上海浦東空港経由で大同（山西省）へ。ガイドはおなじみの呂さん。と ころが上海で大同行きの飛行機は時間になっても飛ばない。説明文には「Airtraffic Control We are sorry 中国東方航空」とあるだけ。しばらく待ってやっと出発。大同空 港ロビーには「中国古都 世界大同」の大型ポスター。大同賓館ホテル で遅い夕食。 3 月 23 曰（月）朝食前に近くを散歩、公園ではラジカセの音楽で集団体操。隣では足でバドミントン？ 「ダーカウ」というスポーツでベトナムでもよく見られるという。 午前中はバスで雲崗石窟へ。途中の道路は「軍事管理道路」の標識が。ガイドの呂さんは「実はこの道 路は軍優先です」とのこと。 「ここから内モンゴルです」とガイドさんは言ったが「境界は見えなかった」というと「あれが万里の 長城です」というので見ると、かすかに山すそに長城らしき遺跡(?)が見えた。 雲岡石窟は北魏の時代（386−534）に約 70 年の歳月をか けて創建され同時代前後の敦煌莫高窟、洛陽龍門とならん で中国の３大石窟の一つである。雲崗石窟には秦漢時代か ら続く伝統様式と、北魏王朝を建てた鮮卑族の文化、そし てインドや中央アジアから伝播した仏教芸術の要素が見 られ、これらが混ざり合って独特の芸術美を生み出してい る。現存する石窟は 53 窟に 5 万 1000 体の仏像が彫られて いる。 午後は石炭産業の晋華宮国家鉱山（炭鉱）視察 中国は現在世界最大の石炭産出国であり、 大同晋華宮炭鉱は、198.35 平方㎞のエリア、39.45 億ト 石炭火力発電所が発電設備総容量の 8 割 ンの埋蔵量。大阪朝日新聞 1939.5.27(昭和 14)に「北支 弱を占めている。また、全国の出炭量の 2/3 開発会社は大同炭鉱の開発会社を設立 は発電用として消費されている。西部、北 蒙疆と北支開発 炭聯の共同出資」の記事がある。第二次世界大戦中には 部で産出した石炭は鉄道で大量に東部、南 日本軍が接収していた。現在、26 万人という従業員数は、 部の消費地まで運ばれる。ガイドさんの話 炭鉱が経営する学校の先生、 炭鉱が経営する病院の医者、 では「大同市の２つの火力発電所のうち、 看護婦など、非採炭部門の人たちも全て含めての数字で、 １つは北京や 天津に送 られる発電所で 家族含めて 70 万人 労働者の年収は約 8 万元(160 万円) す」。石炭部門と電力部門の取引価格をめ との説明であった。江沢民も過去２回この炭坑を視察し ぐる深刻な対立は、エネルギーの安定化、 ている。昨年、一般公開され、博物館の他に炭鉱の坑道 経済の発展を追及する中央政府の政策も に入る観光コースもあり、 「晋華宮国家鉱山公園」になっ あってしばしば大きな問題になってきた。 ている。 (NEDO 海外レポート No.993, 2007.1.24） 昼食の後、懸空寺へ。大同市内から懸空寺へ向かう道路は次第に険し い山間にさしかかるが、列をなした大型トレーラーには石炭が満載さ れている。勾配が急なので片側をのろのろ運転。 懸空寺は北魏の 491 年（太和 15 年）に建造が始まった。地上 60 メー トル懸空寺には主要な建物が 6 つあり、これらは木 製の桟道で結ばれている。寺内には多くの塑像が置 かれているが、三教殿には儒教、道教と仏教の三開 祖の孔子、老釈迦の塑像が一堂に並んでいる。現存 する建物は明清代に修繕されたもので 1985 年に公 開された。この寺を建設するには、職人が山の上か らぶら下がって、壁面に横穴を穿ち、支柱を差し込 んでその上に板を置き寺の建物の支えにしたという。 こうした雨、風、太陽光からの防壁によって長年、 守られてきた。 大同市内に戻って夕食。 3 月 24 曰（火）大同出発、バスで呼和浩特（フフホト）へ。フフホトはモンゴル語で「青い城」とい う意味。バスの窓から見ていると左側は広大な軍事基地、戦車も走行していた。 午後、フフホト市内に入り、まず匈奴文化博 物館へ。ここでは王昭君に関する展示があっ た。前漢の元帝の時代、匈奴の呼韓邪単于が、 漢の女性を妻にしたいと元帝に依頼したと ころ、王昭君が選ばれた。『西京雑記』によ ると、元帝は匈奴へ贈る女性として後宮の宮 女の似顔絵帳の中の一番醜い女性を選んだ。絵師に賄賂を贈らなかった王昭君は一番醜く描かれていた ため、王昭君が匈奴への嫁として選ばれた。別れの式で王昭君を初めて見た元帝は、王昭君の美しさに 仰天したが、ときすでに遅し。その後、王昭君をわざと醜く描いていた毛延寿の不正が発覚、激怒した 元帝は毛延寿を斬首刑に処したという。 バスで移動中、道路脇に大きな看板が。「弘揚民族文化 増進民 族団結 成吉思汗６・２６祭典」とある。後でガイドの高さんに 聞いてみると「毎年旧暦の 6 月 26 日、チンギス・ハーン稜で祭 典が開かれ、内モンゴル人は、この日、羊の丸焼きやお酒などを 持って集まり、音楽、ダンス、読経、献上などが行われ、モンゴ ル族はみんな参加します」という。 ６・２６祭典 フフホトで最初は、チベット寺院の大召 ･無量寺へ。1580 年に落成した この寺には、純銀で作った高さ 2.5 メートルの仏像が祭られていて、竜 彫、壁画は、ほかに例を見ないものとされている。チベットの三世ダラ イ・ラマは自ら大召の銀仏のために開眼式を行ったという。 宿泊は海亮広場大酒店。 3 月 25 曰（水）午前中、フフホト市内企業訪問 内蒙古耕運金三角光線科技有限公司を訪問。日本語 を勉強中の女子学生さんも同席。将来の夢は？と聞くと、東京板橋の日本語学校に行って法律を勉強し たい、との答え。ビルの正面には「赤誠培訓ＣＣＴＣ」とあり、総経理から、不動産、教育、訓練セン ター、書道と絵画、農業、牛肉生産工場、光ファイバーなどに取り組んでいるとの説明があった。 ウランフ記念館へ。 ウランフは内蒙古西部の農家に生まれ、1923 年 12 月、中国社会主義青年団に 参加。1925 年、中国共産党に入党。モスクワ中山大学に留学し、帰国後、西 蒙工作委員会書記などを歴任する。1941 年 8 月、延安に赴き、陝甘寧辺区政 府民族事務委員会主任などを歴任し、共産党内での少数民族問題を担当した。 日本軍敗北後の 1945 年 10 月には内モンゴル人民共和国臨時政府の代表に就任、 その後臨時政府を解体して中国共産党のモンゴル支配の基礎を構築した。1949 年の中華人民共和国建国後、中共中央華北局副書記、内蒙古分局書記などを歴 任、1954 年 9 月、国務院副総理に任命される。1966 年からの文化大革命では 実権派・民族分裂主義者として攻撃され、失脚・抑留された。1973 年、第 10 回党大会で中央委員に復 帰。その後、全代常務副委員長、党中央統一戦線工作部部長、中央政治局委員、全人代常務副委員長、 中華人民共和国副主席等を歴任。1988 年 12 月、北京で死去した。ウランフについては国内外で様々な 評価があり、一概には言えない。 その後、ダラトキ(達拉特旗)にバスで移動。途中、黄河に 架かる橋（5.5km）を通過。黄河はこの地域を西から東に 流れ、やがて南の方角に西安東部から東方へ、渤海湾に と流れる。夕日が川面に映えて美しい。 3 月 26 日（木） 午前中 ダラトキ植林事業見学（中国国際青年交流センター） 。 日本青年団協議会が、1992 年より中華全国青年連合会とともに中国のダラトキ、河北省豊寧県の２ヵ所 の沙漠で植林活動（ボランティア）を行ってきた。2011 年 9 月の「日青協第 20 次植林訪中団募集要項」 を見ると、 「参加費用は 13 万円程度、6 日間」とあった。 昼食後、チンギス・ハーン陵へ 昼は馬、夜は牛に引かせたという「戦闘司令部の巨大なゲル」 （ほぼ原寸大） 言い伝えでは、チンギス・ハーンがなくなってから、その子孫はチンギス・ハーンが使った馬の鞍、旗、 鞭などの遺品を八つの白いパオに安置した。15 世紀、これらの遺物は内蒙古のオルドスまで移され、チ ンギス・ハーン陵とした。その後、チンギス・ハーン陵は何回も場所を移動したが、新中国が成立して、 蒙古の人々の要望に答えて、中央政府がオルドスに迎えた。 チンギス・ハーン陵と蒙古歴史文化博物 館を見学。 鬼城（ゴーストタウン） その後、オルドス(鄂尔多斯)へバスで移動の途中、日経新聞 2014/12/25 の記事にあった「鬼城（ゴース トタウン） 」街を見に行った。ほんの 10 年ほど前、石炭の価格が中国の経済成長とともに上昇。膨らむ 資源需要を見越して神華集団などの国有企業や民営企業が次々に炭鉱を開き、巨万の富を築いた。税収 増で潤う地元政府もインフラ投資にまい進した。高さんによると「広大な草原を切り開いて作られた新 都心に引越しを計画し、市役所はきたが住民がつ いて来ない」とのことだそうだ。 「売れなかったら 値段を下げて売ればいい」というと、 「全国の不動 産価格に影響するので、政府がダンピング価格は 承認しない」とのこと。それでは土地を買って建 設費を出した企業（地方政府も？）はどうなった のだろうか。ガイドの話では「多くの自殺者が出ま した」という。 宿泊は鉄牛国航大酒店。レストランに行くと、バ イキング方式で、なんと「刺身」（勿論冷凍）や海老、カニ、ホタテもある。しばし満足。食事の後、 外出して宿泊した鉄牛国航大酒店の隣を見ると「温泉会館」があった。入ると「Have You RoomCard?」 と聞かれたので、部屋に帰り中村さんと一緒にカードを差し出すと、 「どうぞ」ということになり、地 下の大浴場へ。他の客はなし。翌朝バスの中でその話をすると「なぜ知らせてくれなかった」と言われ た。 3 月 27 曰（金） オルドス発 9:05 北京着 10:35 北京発 16:05 関西空港着 20:10 で帰国。 モンゴル族のガイド高さんの話 最近色々と法律が変わってきていますが、私は戸籍はフフホト市内に入れていません。なぜかとい うと、私は「草原の人」ですから家族（母と奥さんと子どもたち）5 人分の牧場を持っています。 5 人家族ですから、農地は５㌶、草原は 70 ㌶持っています。そうすると国からお金をもらえます。 農場ももっていてそのお金ももらえます。医療保険も子どもたちの教育も無料です。これはモンゴ ル民族だけです。内モンゴルの草原は「宝物」です。掘れば金、鉄、レアメタルなどが出てきます。 40 年前はオルドスには砂漠の外何もありませんでした。1970、80 年代になってお金になるので政府 が力を入れてきました。1985 年ころ私の父母は先生でした。1 年間の給料は 1 人 800 元でした。し かし 800 元はもらえなかったので「土地をあげましょう」といってもらいました。ですから私たち 家族は今では信じられない位お金持ちです。1998 年、山 1 つを 30 万元（30 年契約）で買ったので すが、お金は払いませんでした（？） 。ですからここでは暴動など起きません。フフホトではお金が なくては生きていけませんが、草原に帰ればお金は要りません。1 匹の羊は 1500 元、牛は 10000 元 で売れます。草原で暮すモンゴル民族は、お米は買いますが、水は井戸から、学校は無料、医療も 無料です。朝起きるとすることがありません。私の父は 5 年前から何もしていません。モンゴルの お父さんは朝からお酒を飲んで、仕事はしません。どこかへ出かけても、何時帰ってくるかわかり ません。私の父は６ヵ月帰ってきませんでした。 大同市の「良い市長さん」 女性ガイドさんの話 中国の諺「中国の歴史で、30 年間の歴史であれば、広東省の深圳に行け。300 年間なら上海へ行け。1000 年間なら北京へ行け。5000 年間なら山西省と陝西省へ行け」と言われています。 2008 年に新しい大同市長に耿さんがなってから、中心部の平屋を取り壊し、観光地の整備や道路建設、 病院などの建設、城壁も復元しました。街がきれいにな 2008 年修復された城壁 って、みんなとても豊かになりました。ところが、この 時の大同市の党書記が逮捕されたので、みんな喜んで拍 手したという（逮捕の理由は誰も知らない） 。 Insight China 日文版(2013/03/11)より、 「山西省大同市 の市長を務めていた耿彦波氏が 2013 年 2 月 7 日、太原市 長代理に転任となった。これが街頭デモにつながり、多くの大同市民が「良い市長」と叫んで彼の市長 留任を求めた。耿氏は大同市長として在任中、数百億元（約 6000 億円）を投じ、旧跡の保存修復や幾 つもの都市建設プロジェクトを推し進めた。そのため市民から大きな支持を得、 「大同市史上最も実務 に長けた市長」と称賛されている」 内モンゴル自治区の教育 『中国の少数民族教育と言語政策』 （2008/4 岡本雅享）第二章 中国モンゴル族の民族教育 中華人民共 和国下の内モンゴル自治区におけるモンゴル族教育によると、 1951 年の「内モンゴル自治区教育実施方法」では「モンゴル小学校は原則としてモンゴル語で書かれた 教科書を使う」とされていた。1954 年 11 月の第１期全(内モンゴル自治)区民族教育会議で「モンゴル 族小学校では小学 5 年生から、農業地域、牧畜一般に地域に関わらず、すべての学校で漢語の授業を設 ける」ことが打ち出され、漢語教育が一部の学校からすべての学校に広げられた。 当時、内モンゴル自治区教育庁は、漢語の授業の導入についてこう述べている。 「民族学校の中で、愛 国主義教育を徹底し、先進民族の文化を吸収し、民族の言語を豊かにするために、自治区の民族学校は すべて漢語の授業を加える。漢語の学習を通し、内モンゴル自治区は中華人民共和国の分離しえない一 部分であり、モンゴル民族は中華人民共和国の各民族が友愛をもって協力しあう大家庭の一員であるこ と、モンゴル民族が先進レベルに到達しようと思えば、漢族の援助なしではなし得ないという重大な意 義を、児童，生徒にはっきりと認識させることができる」 。しかし、 「民族平等と言語平等の原則の下で、 漢族がモンゴル語を学ばなくてもいいなら、なぜモンゴル族が絶対漢語を学ばなければならないの か？」といった反発もあった。 文化大革命中は、モンゴル族教育については、民族語の授業や，民族学校そのものが廃止され、少数民 族教師の多くが迫害を受け、死亡したり障害を負ったりした。フフホト市には、文革前、モンゴル族小 中学校があったが、文革中すべてが廃校に追い込まれた。 内モンゴルの都市部では、モンゴル語の用途は小さく、使用範囲も狭いし、特に現在の改革開放、市場 経済の中でモンゴル語は使われず、漢語が主となっているので、少数民族の中には直接漢語を学習した 方が労力も省けてよいと考える者達がいる、という。フフホトで話を聞いた教師が「モンゴル自治区な のに、手紙を出すとき封筒の宛名をモンゴル文字で書くこともできない」と嘆いていたという話もある。 高さんの話では、「モンゴル人など少数民族は大学入学にあたっても別枠が設けられていて、北京大学 の入学試験で最低点が 500 点だったとしたら、モンゴル人は 480 点で合格となります」といっていた。 モンゴル文字 モンゴル族の間では、伝統モンゴル文字、トド文字、キリル式モンゴル文字が使われてきたが、1945 年、 モンゴル人民共和国はロシアのキリル文字をもとにモンゴル文字を統一した。 中国ではこれを「新モンゴル文字」といって、1950 年代後半の「文字改革」で「新文字」普及は国家教 育部も認めていた。 N.N,ホッペ『モンゴル語教科書』(1932) しかし、1957 年 7 月下旬から 8 月上旬に モンゴル文字 キリル文字 青島で開かれた民族工作会議で、新モン ゴル文字の学習を中止し、引き続き旧モ ンゴル文字を使うことが決められ、新文 字の普及事業は 3 年足らずで中止される ことになった。その背後には反右派闘争 の中で、中国のモンゴル族がモンゴル人民共和国の人々と同じ文字を使うことで、両者の交流が緊密に なり、内外モンゴル統一の動きが出ることへの警戒があったとの指摘もある。 チベットと内モンゴル 「内モンゴルのパンチェン・ラマはダライ・ラマとレベルが同格ですが、あまり有名ではありません。 いい人はあまり有名じゃありません。テレビに出る人はあまり良くない人です」 。モンゴル人ガイドの 高さんはさりげなくダライ・ラマのことを牽制する。 ここで、内モンゴルとモンゴル人民共和国(1924∼1990)の関係について歴史の一コマ ①1917 年のロシア革命に続いて、1924 年にソ連赤軍の支援で「革命政権」を樹立したモンゴル人民共 和国は「ソ連の 16 番目の共和国」と呼ばれていた。1949 年 10 月中国革命が勝利、その直後 12 月、スターリンは毛沢東をモスクワに呼び寄せる。翌年 2 月までかけての「中ソ友好同盟条約」 について話し合われたが、スターリンの当初のねらいは東欧諸国同様に「中国の東北地方をモンゴルと 同様の勢力圏にする」ことにあったが、毛沢東の抵抗と新中国承認に傾いていたイギリス・インドなど の動向によってあきらめた。 （前衛 2014/5 「スターリン秘史」不破） ②1956 年から、チベット人たちは中国の「侵略」に反撃すべく武装蜂起を各地で決行した。すると、中 国は容赦なくチベットに人民解放軍部隊を投入、攻撃と弾圧を加えた。3 年後の 1959 年 3 月、ダライ・ ラマと同胞たちはインドに亡命した。この時、きびしい気候・風土のチベットで勇猛なモンゴル人騎兵 が人民解放軍部隊の中心にいた。その騎兵部隊の将校たちは、日本陸軍が満洲国で創立した興安軍官学 校の卒業生たちであった。 （ 「チベットに舞う日本刀 モンゴル騎兵の現代史」楊海英 2014/11） 旅の一コマ スナップ