...

住宅産業フロンティア創造WG報告書

by user

on
Category: Documents
15

views

Report

Comments

Transcript

住宅産業フロンティア創造WG報告書
参考2
住宅産業フロンティア創造WG報告書
~枠を超えたワクワクする産業へ~
今後の住宅産業のあり方に関する研究会
住宅産業フロンティア創造WG
平成20年2月
目次
はじめに ………………………………………………………………………………
2
1章 住宅市場の現状と課題…………………………………………………………
(1)これまでの新規着工戸数の推移について ………………………………
(2)少子高齢化の人口構造について …………………………………………
(3)住宅に対する不満について ………………………………………………
(4)中古住宅(ストック)の時代について …………………………………
(5)地域の住環境の変化について ……………………………………………
3
3
4
4
6
7
2章 住宅産業のフロンティアの創造……………………………………………… 8
(1)人口減少社会における発展の可能性について…………………………… 8
①人口増加率と住宅投資増加率……………………………………………… 8
②住宅関連支出の成長要素 ………………………………………………… 9
(2)フロンティア創造の考え方について …………………………………… 10
①住宅産業における潜在需要の掘り起こしの方向性………………………10
②住宅産業におけるフロンティア開拓の方向性 ………………………… 12
(3)海外展開の可能性について…………………………………………………15
①海外住宅市場の現状 ……………………………………………………… 15
②中国住宅市場のニーズと日本の技術 …………………………………… 16
③日本の住宅産業技術を活かした対中国への住宅供給の在り方 ……… 17
a)住宅の輸出・現地生産のメリット・デメリット …………………17
b)日本型住宅供給モデルの展開……………………………………… 18
c)産学官のポテンシャルの活用……………………………………… 18
④日本型住文化/日本らしさの輸出 ………………………………………19
3章 枠を超えたワクワクする産業へ
(1)枠を超えた連携の推進 ……………………………………………………
①異業種・異分野との連携 …………………………………………………
②地域、エリアとの連携 ……………………………………………………
③住宅関連業界内での連携 …………………………………………………
④住まい手との連携 …………………………………………………………
⑤省庁間の連携 ………………………………………………………………
(2)住まい手教育の必要 ………………………………………………………
(3)人材の育成 …………………………………………………………………
(4)長期的視野に立った投資 …………………………………………………
(5)国際展開への取組みについて ……………………………………………
20
20
20
20
20
20
21
21
21
21
おわりに ……………………………………………………………………………… 22
-1 -
はじめに
これまでの住宅産業はボリュームゾーンの30代前半の持ち家需要に大量供給するビジネ
スモデルに最適化してきた。まだ、団塊ジュニア世代の需要の落ち込みが本格化していない
ため、新たなビジネスモデルを構築しなければならないという危機感があまりない。しかし、
団塊ジュニア世代の需要が一巡すると、30代前半を主要ターゲットにした従来型ビジネス
モデルの見直しは不可避となる。また、少子高齢化、安全・安心に対する意識の高まり、環
境制約の強化などの変化を受け、住宅に対する国民ニーズも変化している。需要構造の変化
を捉えた産業モデルを作る必要がある。
このように、今後の人口減少に伴い、新築需要という市場の縮小が不可避である住宅産業
が発展していくためには、需要構造の変化に対応し、世帯あたりの住宅関連支出を高める産
業構造にシフトするとともに、新築市場のみに依存せず、リフォームや住み替えなどのスト
ック市場にも力点を置く必要があるといえる。
日本経済が成熟化し、世帯構成や生活スタイルの変化により住宅に求められることが多様
化する中で、住宅産業は必ずしもそれらに十分応えられているとはいえない。特にストック
市場への転換という流れの中で、性能という点について着目してみても、耐震性、耐久性、
省エネ性、可変性等の面において、住宅に求められる基準を満たしているストックが十分と
は言いがたい。また、新築住宅についても、次世代省エネルギー基準を満たすものは全体の
3 割程度であるなどまだ不十分な面がある。
いいかえれば、時代の変化に対応し潜在的需要を喚起する知恵があれば、これまでの人材、
技術の蓄積を活かしながら、社会の変化、生活者の家族構成の変化などに合わせて発展して
いくことが期待される産業である。
一方、海外市場に目を向けてみると、これまで多くの企業が中国をはじめとするアジア市
場の開拓に取り組んできたものの、十分な成果を上げている企業は一部にとどまっている。
今後、住宅市場の急成長が期待できる中国をはじめとするアジアへの展開は、日本の住宅産
業発展にとって欠かせないと考えられるものの、多くの企業で手探りの状態が続いている。
従って、海外市場の展開においては、まずは現地の潜在需要を喚起するためのビジョンや具
体的な方策を日本の住宅産業が共有することが必要と考えられる。
そこで、
「フロンティア創造 WG」では、我が国社会の変化、住宅産業の海外展開の可能性
を通して、住宅産業の明るい未来像を描き、また、住生活を巡る新たなニーズの掘り起こし
及び解決策を提示し、10 年~20 年後を見据えた住宅産業のあり方を検討することを目的とし
て検討を行った。本報告書は、WG における検討結果を取りまとめたものである。
第1章においては、住宅産業の現状を整理し、今後の住宅産業が解決すべき課題を整理し
た。WG での議論は、この課題認識を前提としたものになっている。第2章においては、ま
ず(1)で、住宅産業のフロンティアを検討するにあたり、マクロ的な観点から、諸外国と
の比較により、発展が期待される市場領域を検討した。続く(2)では、先進企業の取組事
例に目を向けて、今後の住宅産業発展の方向性を明らかにすることを試みた。さらに、
(3)
では海外市場展開の可能性を探り、その展開の方向性を検討した。最後の第3章においては、
第2章で示した方向性を実現するにあたり、異業種との連携など、これまでの枠を超えた取
組の必要性について提案している。
-2 -
1章.住宅市場の現状と課題
住宅産業の向かうべき方向性と潜在的に有する可能性を導き出すため、ここではまず住宅
産業が直面している主な課題を整理した。
(1) これまでの新規着工戸数の推移について
新築住宅着工戸数は、旺盛な住宅需要と高度経済成長等を背景に戦後急速に増加し、昭和
47 年には 186 万戸とピークに達した。その後、昭和 48 年秋からの第一次オイルショックを
契機に昭和 49 年度は 126 万戸と大きく落ち込んだが、昭和 50 年代前半は年間 150 万戸前後
の水準で安定的に推移した。第 2 次オイルショック後は昭和 55 年度に 121 万戸と再び落ち
込んだ。その後、低水準の金利等により昭和 62 年度には 173 万戸に達し、昭和 63 年度以降
は、160 万台という高い水準で推移した。平成 3 年度はバブル崩壊の影響を受け住宅着工は
140 万戸を下回り、その後平成 8 年の消費税引き上げ前の駆け込み需要による増加があった
ものの、平成 10 年以降は 120 万前後で推移している。今後は少子高齢化の影響が一層進行
していくため、住宅着工戸数は 2010 年度で 103 万戸、2020 年度で 76 万戸と大幅な減少が
予測されている1。
一方、住宅着工動向を工法別に見ると、昭和 30 年代に登場したプレハブ住宅2による住宅
の占める割合は、平成 4 年度には 17.8%に達し全着工に占める割合は 20%に達すると思われ
たが、その後プレハブ住宅率は低下傾向に転じ平成 18 年度は 12.4%にまで下がっている。
(図表 1)新設着工戸数の推移
(戸)
2,000,000
20.0%
186 万戸
第1次石油危機
バブル崩壊
17.8%
1,800,000
2×4住宅
1,600,000
18.0%
163 万戸
第2次石油危機
16.0%
プレハブ住宅
プレハブ、2×4以外
1,400,000
プレハブ住宅のシェア(右目盛り)
12.0%
1,000,000
10.0%
800,000
8.0%
600,000
6.0%
400,000
4.0%
200,000
2.0%
(出所)
「建築統計年報」
(国土交通省)
(注)昭和63年以前のプレハブ住宅には2×4住宅を含む
2
14.0%
1,200,000
0
24 26 28 30 32 34 36 38 40 42 44 46 48 50 52 54 56 58 60 62
1
12.4%
建設経済研究所「建設市場の中長期予測」
部材を工場で大量生産し、現場で組み立てる工法
-3 -
0.0%
元
3
5
7
9 11 13 15 17
(2) 少子高齢化の人口構造について
持ち家一戸建て購入時の世帯主の平均年齢は 36.9 歳3であり、現在の住宅需要を支えてい
る層は、いわゆる「団塊ジュニア」の周辺年齢層である。しかし 30 代後半の住宅取得層がピ
ークを迎えるのは 2010 年であり、2025 年には 290 万世帯と 2010 年時の 65%程度まで減少
することが予想されている。
(図表 2)団塊ジュニアの世帯の推移及び持家購入世帯の推移
世帯数(千世帯)
団塊ジュニアの世帯の推移及び持家購入世帯の推移
40,000
35,000
30,000
25,000
20,000
15,000
10,000
5,000
0
5,253
5,033
3,516
4,727
3,905
4,437
4,061
3,807
3,352
2,925
3,215
2000年 2005年 2010年 2015年 2020年 2025年
60~64歳
55~59歳
50~54歳
45~49歳
40~44歳
35~39歳
30~34歳
25~29歳
20~24歳
(出所)国立社会保障・人口問題研究所
(3) 住宅に対する不満について
住宅市場は成熟し、新設着工戸数の推移にも示したとおり数の上では住宅戸数は足りてい
るが、現在の住宅に不満を持っている人の割合は 42%に及ぶ。
特に、
「高齢者等への配慮」、
「防犯性」、
「エネルギー」に対する不満が多い。こうした状況
は住宅産業が直ぐに取り組むべき課題であると共に、住まい手のニーズに応えて発展を遂げ
るための潜在的な需要領域であると捉えることもできる。
(図表 3)住宅に対する総合評価(平成 15 年)
(不明)
(満足) 13%
2% 8% (非常に不満)
不満率42%
34% (多少不満)
43%
(まあ満足)
(出所)住宅需要実態調査(国土交通省)
3
HOME’S CLUB 調べ
-4 -
(図表 4)住宅に対する不満(平成 15 年)
平成15年
70.0%
66.3%
60.0%
53.8%
53.4%
49.6%
50.0%
49.2%
47.0%
47.0%
45.2%
42.6%
43.4%
42.2%
40.0%
37.1%
36.9%
33.4%
41.7%
30.0%
40.5%
36.6%
35.6%
34.5%
33.4%
33.8%
33.6%
33.6%
20.0%
10.0%
12.0%
12.9%
13.0%
13.6%
12.6%
29.3%
24.7%
7.2%
7.6%
8.7%
居間など主たる居住室の採光
住宅の広さ・間取り
住宅の維持や管理のしやすさ
不満率
8.6%
火災時の避難の安全性
-5 -
多少不満
9.8%
換気性能
(出所)住宅需要実態調査(国土交通省)
11.4%
住宅のいたみの少なさ
非常に不満
13.6%
外部からの騒音などに対する
遮音性
住宅の断熱性や気密性
収納スペース
地震・台風時の住宅の安全性
冷暖房の費用負担などの
省エネルギー対応
住宅の防犯性
高齢者等への配慮
0.0%
29.9%
23.7%
(4) 中古住宅(ストック)の時代について
我が国には現在 5,389 万戸の住宅がある一方、総世帯数は 4,726 万世帯(いずれも平成 15
年時点)である。住宅は 600 万戸以上余っている状態であり、少子高齢化の影響を受け今後
も住宅余りの状態は進むことになる。
こうしたストック時代になったとき、「住宅があるけど何とかしたい。」という欲求に応え
るには、既存の空間資源を人々の活動のあり方の変化に対して有効利用する方法を検討して
いくことも必要である。都心部においてはオフィスビルを住宅ビルに変える「コンバージョ
ン」というものも有効な一例であるが、そもそも我が国ではストックに対する流通市場が整
備されていない。融資環境にしても、一般的に住宅を建てるための金融機関からの融資、財
形貯蓄等の国の制度などは整備されているものの、ストック時代における「住宅があるけど
何とかしたい。
」という欲求に対しては未だ整備が必要な状況である。
(図表 5) 総住宅数及び 1 世帯当り住宅数の推移
(戸)
(万)
6,000
1.20
1.14
総住宅数
総世帯数
1世帯当たり住宅数
5,000
1.13
1.10
1.11
4,588
1.08
4,000
1.05
1.01
3,000
3,106
0.97
2,000
4,201
2,182
2,109
2,559
3,545
3,283
3,861
3,520
5,389
1.15
1.11
4,116
5,025
4,726
1.10
4,436
3,781
1.05
1.00
2,965
2,532
0.95
1,000
0.90
0
0.85
昭和38年
43年
48年
53年
58年
63年
平成5年
10年
15年
(出所)住宅・土地統計調査(総務省)
従って、中古住宅の流通を促進させ、上物の価値が場合によっては十数年でゼロとなり、その
後はマイナス価値となるような状況を払拭するためには、住まい手が望む品質やデザインを持つ
住宅ストックへリフォームするアイディアに加えて、リフォームされた住宅ストックが売買され
やすい融資環境の整備も必要である。例えば、リフォームにより新築並みの品質・仕様が確保さ
れた住宅であれば、本来の築年数に関係なく、新築と同様の条件で融資(枠、期間等)が受けら
れることが望ましい。
こうした融資環境が実現するためには、一定の品質が確保された住宅に相応の価値を認める市
場環境の実現が不可欠であり、そのためには、住宅建築事業者、不動産流通事業者及び住宅金融
機関が連携して、制度面の支援を受けつつ、住宅の価値を維持し、価値を評価できる社会的シス
テムの構築を実践するとともに、ストックに対する住まい手の意識についても、流通を促進させ
る上で相当程度の時間をかけて改革していく必要がある。
こうした社会的システムが構築されれば、きちんとメンテナンスされ品質が維持された住宅で
あれば、売る側は高く売れ、買う側も安心して購入できるため、市場での流動性が高まることが
-6 -
期待される。
(5) 地域の住環境の変化について
少子・高齢化の進行、産業構造の変化等により、全国的に遊休地、放棄地等の増加や、管
理水準の低下した土地の発生が問題となっている。また都市部の木造密集市街地では、居住
者の高齢化により住宅の更新が停滞し、住宅の老朽化が進行している。少子高齢化の進展に
よりこれらの傾向は拡大し、地域環境の悪化などの問題が顕在化することが予想されるため、
住環境の水準を維持し地域の活力を維持するためには、地域管理の重要性がますます高まる。
(図表 6) 全国の空き地発生状況
(出所)平成 18 年土地白書(国土交通省)
-7 -
2 章.住宅産業のフロンティアの創造
(1) 人口減少社会における発展の可能性について
①
人口増加率と住宅投資増加率との関係
住宅投資の増加は、人口増加と強く相関し、今後の人口減少にともない減少すると
考えられがちである。しかし諸外国の例をもとに人口増加率と住宅投資増加率の関係
をみると、直接的な相関関係がないことがわかる。
(図表 8)人口増加率と住宅投資増加率の相関(OECD11 カ国の 10 年間の動向)
25.0%
y = 4.5383x + 0.0104
R2 = 0.0474
20.0%
15.0%
住宅投資増加率
10.0%
5.0%
0.0%
-0.5%
-5.0%
0.0%
0.5%
1.0%
1.5%
2.0%
-10.0%
-15.0%
-20.0%
-25.0%
人口増加率
(出所)
「National Accounts of OECD Countries Volume, 1994-2005 」をもとに作成
(注)検証の対象は、先進国 14 カ国(オーストリア 、カナダ、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシ
ャ、イタリア、日本、ポルトガル、スペイン、スウェーデン、イギリス、米国)
。対象年度はデータ整備状況により、イ
タリア、フランスは 1994~2006 年、オーストリア、デンマーク、フィンランド、ドイツ、スウェーデン、イギリスは 1994
~2005 年、カナダ、日本、米国は 1995~2005 年、ポルトガルは 1995~2003 年、ギリシャは 2000~2005 年、スペインは
2000~2004 年。増加率は前年比。
-8 -
②
住宅関連支出の成長要素
住宅関連支出成長率が高いフィンランド、カナダ、ポルトガル、アメリカについて
1人当たりの住宅関連支出の内訳を示したものを次に示す。全体的に、インテリアで
ある「家具・内装」や建物の利用価値に対する「家賃」に対する需要の伸びが大きく、
住宅関連支出全体の成長に寄与している。
こうした国に倣うと、ストック活用の促進等により、インテリア分野や建物の利用
価値を提供する産業中心の構造に転換していくことが今後の住宅産業の発展の一つ
の方向性として考えられる。
(図表10)一人当たりの住宅関連支出の内訳
ポルトガル
フィンランド
(ユーロ)
2,000
Goods and services for routine
household maintenance
Tools and equipment for house and
garden
1,600
(ユーロ)
2,000
Goods and services for routine
household maintenance
Tools and equipment for house and
garden
1,600
Glassware, tableware a nd households
utens ils
1,200
household appliances
household textiles
800
Glassware, tableware and
households utensils
1,200
household appliances
household tex tiles
800
Furniture and furnis hings, carpets
and other floor coverings
400
Actua l rentals for housing
0
1994
1995
1996 1997
1998
1999
2000
2001 2002
2003 2004
2005
Maintenance & repair of the dwelling
Furniture and furnishings, carpets
and other floor covering s
400
Actual rentals for housing
0
Maintenance & repair of the dwelling
1994
1995
1996 1997
カナダ
(ユーロ)
2,000
Goods and services for routine
household maintenance
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
アメリカ
(ユーロ)
2,000
Goods and services for routine
household maintenance
Tools and equipment for house and
garden
1,600
Tools and equipment for house and
ga rden
1,600
Glas sware, tableware and
households utensils
Gla ssware, tableware and
households utensils
1,200
household applia nces
1,200
household appliances
800
household textiles
400
Furniture and furnishings, carpets
and other floor coverings
800
household tex tiles
400
Furniture and furnishings, carpets
and other floor covering s
Actual rentals for housing
Actual rentals for housing
0
1994
1995
1996
1997
1998
1999 2000
2001 2002
2003 2004
2005
Maintenance & repair of the
dwelling
0
1994
1995
1996 1997
1998 1999
2000 2001
2002 2003
2004 2005
Maintenance & repair of the dwelling
(出所)「National Accounts of OECD Countries Volume, 1994-2005 」をもとに作成
(注) 住宅関連支出には次の 8 項目(Maintenance & repair of the dwelling、Actual rentals for housing、
Furniture and furnishings, carpets and other floor coverings 、 household textiles 、 household
appliances、Glassware, tableware and households utensils、Tools and equipment for house and garden、
Goods and services for routine household maintenance)が含まれる。
-9 -
(2) フロンティア創造の考え方について
①
住宅産業における潜在需要の掘り起こしの方向性
住宅投資の GDP に占める割合は 3.3%であり、関連する素材の需要喚起や耐久財な
どの消費を誘発する効果からみても、住宅産業は我が国にとって重要な役割を果たし
てきた。しかしこれまで見てきたとおり、住宅産業は産業の転換点にあり、今後も産
業としての活力を維持するためは、住宅産業発展の方向性を明らかにすることが重要
である。
そこでここではいくつかの住宅関連企業から、今後、フロンティアとなり得るサー
ビス、取り組みなどについてヒアリングを実施し、潜在需要の掘り起こしの可能性を
調査した。その結果、潜在需要掘り起こしの方向性は
・生活価値の向上(新たなライフスタイルを提案する)
・ストック価値の向上(継続的な利用価値を支える仕組みを提供する)
・エリア価値の向上(地域全体の価値を高める仕組みを提供する)
の大きく3方向に分類できることが示された。
-10-
(図表 11)企業の取り組みとその方向性
先進企業の取り組み例
„A社
• マンションにインテリアもセットで提供するサービスを行うとともに、家具の
配置に合わせて間取りを調整するサービスを提供し、住宅の生活の場とし
ての価値を高めている。
„B社
• 高性能な住宅を適正価格で供給するとともに、在来工法の伝統・文化と高
度な技術を併せ持った日本独自のデザイン様式を追求。
取り組みの方向性
„生活価値の向上
• 新たなライフスタイルを提案する
„C社
• 工務店、建築家、住宅メーカーなど様々な家づくりの方法の中から生活者
が最適なものを選ぶためのコンサルティングを実施し、生活者と供給者の
情報の非対称性を解消。家づくりに対する生活者の安心感を高めている。
„D社
„ストック価値の向上
• 継続的な利用価値を支える仕組
みを提供する
• 通常不動産流通市場では評価されにくい古い物件を新築同様にリノベー
ションし魅力を高めることで、中古住宅需要を創出している。
„E社
• 中古住宅の価値を性能や利便性ではない新たな切り口(レトロ、改装許可
など)で発掘し需要を創出。
„F社
• 神田や馬喰町などの老朽化したビルをまちのコンセプトにあわせて再生し、
テナント集めまでも行う。更に周辺のビルにも有望なテナントを集めること
で、地域全体の価値を高めることを狙っている。街の風情を活かすため既
存ストックを有効活用するのも特徴である。
„G社
• 都市近郊の住宅のうち独自の基準を超えるものを新築同様にリノベーショ
ンした上で仲介する。
• 沿線の住宅ストックを活用し、多様な世代の入居者を集めることで街の活
力を高めることを狙っている。
-11-
„エリア価値の向上
• 地域全体で価値を高める仕組み
を提供する
②
住宅産業におけるフロンティア開拓の方向性
将来性は未知数であるものの、当該事例以外にも検討したところ、次に示すような
軸で潜在需要の掘り起こしが行われている。今後は1つの軸を高めていくということ
ではなく、軸同士を組み合わせることによって新たなビジネスのチャンスが生まれて
くることが期待される。
(ア)ストック価値の向上
ストック価値の向上及び流通促進のための取組みは各方面で始まっている。まず、住ま
い手から見た価値向上のための仕組みとしてはリノベーションやコンバージョンがある。
さらに、単に建物を改装するだけでなく、メディアの活用により新たな観点から古い住宅
の良さを伝えることで、その価値に共感する住まい手の発掘に成功する例も出てきている。
また、ストックの流通に対する安心感を高めるためのインスペクションの実施や、住宅部
材のトレーサビリティ管理システムの構築も始まっている。更に、建物そのものの耐久性
を向上するための取組みとして、劣化軽減に向けた部材の開発やSI住宅の本格普及に向
けたインフィル供給の仕組みづくりなどが始まっている。
また、住宅は個人にとって、いわば最大の金融資産である。つまり、その価値を高める
ことは、個人の資産価値の向上につながる。それが実現すれば、例えばリタイア時に自宅
を売却しそこで得た資金でより老後の生活に適した住宅に住み替えるなどと暮らし方の
選択肢が増える。ストック住宅の価値を高めることは、豊かな生活の実現に直接つながっ
ていくといえる。
(イ) 生活価値の向上
生活価値向上のための取組みとしては、家族形態の変化に対応したものや、新たな
価値観を持つ層に向けた提案が少しずつ出てきている。例えば家族形態については単
身世帯など今後益々増えてくる少人数世帯を対象としたもの、また新たな価値観につ
いては、住宅市場全体が流動化する中で持家や定住にこだわらない暮らしを提案する
もの、伝統文化を積極的に見直したものなどがある。
つまり多様化するライフスタイルの中で生活価値を向上するためには、それぞれの
生活の場として適切な選択肢を用意することが重要であり、一方ではそれらを適切に
マッチングすることも重要である。実際にそうしたことに寄与する住宅プロデューサ
ーなども登場しており、こうした存在は情報の非対称性を緩和し、住宅取得の安心感
を高める役割も果たしている。
また、今後は人口構成上、高齢者の割合が増える社会となることもかんがみ、高齢
者の家庭状況、身体状況などに応じたきめ細かなサービスの提供も必要である。例え
ば、地域内での近居など、いわゆる「ネットワーク居住」を推進するための仕組みの
提供などである。また、郊外住宅における激しい高齢化への対応は豊かな高齢者の生
活空間実現に向けて取組むべき、新たなフロンティアである。
なお、今後の社会環境変化を踏まえると、安心して暮らせることと環境にやさしい
暮らしが送れることは、いずれのライフスタイルの実現においても欠かすことのでき
ない要素である。
(ウ)エリア価値の向上
エリア価値の向上のための取組みとしては、地域コミュニティの運営支援や地域の
長期的な活力を維持するための住替え支援がある。地域コミュニティ運営の内容とし
ては、従来のマンション管理組合の枠を超えたコミュニティ活性化メニューの提供、
-12-
戸建て住宅地におけるホームオーナーズアソシエーションの運営、地域全体での省エ
ネルギー・省資源化を実現するための支援などがある。また地域の長期的な活力を維
持するための取組みとしては、沿線単位での住替え支援や、リタイア層をターゲット
にした大都市と地方を結ぶ移住支援などがある。
一方、時間の経過や時代を経ることで(野原だったところが、木が生い茂り、緑が
多くなり、住民の憩いの場になる等)、醸成されるエリア価値に着目し、その活用を
図っていく取組みも重要である。
(図表 12)潜在ニーズを掘り起こすビジネス例
潜在ニーズを掘り起こすビジネス例
古さを新しい価値に転換
リノベーション・コンバー
ジョン
• 中古住宅・マンションの改修・再販やオフィスビルの住宅転用と
いった中古物件の再生ビジネス
メディア有効活用
• 古い住宅のよさを新たな価値観で発掘し、インターネットや雑誌
などのメディアを有効活用しながら、紹介・仲介を行う
インスペクション
ア)ストック価値の向上
建物の資産価値を実現
技術で長寿命化を実現
資産価値評価
住宅部品のトレーサビリ
ティ管理システム
• 業界共通で利用可能なICタグの活用
メンテナンスフリー
• 光触媒コーティング外壁など、技術革新によりメンテナンスフ
リーを実現することでランニングコスト削減効果による買替え需
要を喚起
イニシャルコストだけでなくラ
インフィルリース
ンニングコストで収益を得る
団塊世代の生活支援
家族形態の変化に対応
• 売主にも買主にも属さない第三者機関による中古住宅の検査
サービス。ハードの検査だけでなく、住まい方・利用の仕方など
についても診断・提案
• これまでの住宅メンテナンスやリフォームの履歴データをもとに
建物価値を評価するなど、従来の不動産鑑定や住宅金融とは
異なる新しい観点での資産価値評価
子育て支援
• SI工法におけるインフィルをリース・レンタル形式で提供
• 高齢者の賃貸居住を支援する「高齢者向け家賃保証サービス」
や、生涯学習が可能な「カレッジリンク型シニア住宅」など、団塊
世代の生活を支援するサービス
• 「子育てにやさしい住まいと環境の基準」に基づき物件評価する
サービスや、託児所併設マンションなど、子育てを支援するサー
ビス
単身または二人世帯の暮 • 従来のワンルームマンションとも、ファミリー向けマンションとも
違うシングルライフや大人の二人暮らしを楽しむための住宅
らしに適した住宅
非定住
価値観
イ)生活価値の向上
心の豊かさ実現
伝統文化の見直し
生活デザインプロデュー
ス
生活者と共創する住宅づくり
情報格差の解消により安心
を提供
コミュニティ運営の支援
ウ)エリア価値の提供
• 「自然との共生」「健康・癒し」「心地よさ」といった心の豊かさを
実現するための空間提案やサービスの提供
• 日本の伝統文化と先端技術との融合を図り、現在の生活に相
応しいかたちを創る
• 住宅ストックの資産管理や資産運用(ファイナンシャルプランニ
ング)からはじまり、個人のライフデザインや日常の生活指南(ど
のようなサービスを利用すると快適な生活が送れるか等)までプ
ロデュースするサービス
住宅プロデュース/DIY
サポート
• 住む人の生き方や暮らし方を見据えた住宅のあり方提案し、日
本では流通していない素材を海外から輸入して活用したり、住
宅の部材ではない素材や部品を活用するなど、これまでにない
方法で生活者の感性にマッチする空間づくりをサポート
情報発信・事業者紹介
• 建築家、工務店、ハウスメーカーの紹介や、住宅購入ノウハウ
など住宅取得全般に関する情報発信サービス
ネットオークション
• インターネットによる住宅オークションサービス
日本版HOA
(Homeowners
Association)
• 住民自らが居住環境の総合管理と生活支援を目的とする組織
を運営
マンションコミュニティ支
援
環境に配慮されたまちづ
くり支援
地域内住み替え支援
人と建物の流動性を高める
• サービスアパートメント、セカンドハウスといった「定住」を前提と
しない居住形態をサポートするサービス
• マンション管理組合の運営支援や、マンション内でのイベント開
催などによるコミュニティ活性化支援等
• 地域全体でエネルギー・資源・廃棄物の削減を実現するように
支援
• 親世帯と子世帯の近居支援、地域内住み替えサポートなど、コ
ミュニティを維持するための各種サポート
二地域居住・ロングステイ
• 移住を実現するための必要なサポートをワンストップで提供
支援
-13-
(図 13)住宅産業のフロンティア開拓の方向性
生活価値の向上
フロンティアC
例:「豊洲再開発プロジェクト」
ソフトの付加
• 異業種との連携により特定の
ライフスタイルにターゲットを
絞って街を開発した
住宅関連支出
の拡大
フロンティアA
例:「空間リノベーション」
• 古い物件を発掘し、新しい価
値への読み替えを行っている
• 古くなった社員寮を改装し、単
身者が集まって住む新しいスタ
イル(ラウンジやフィットネス空
間の充実等)を提案
ハード
住宅投資
住空間
都市空間
エリア価値の向上
売切り
例:「日本橋・神田の再生」
継続利用
フロンティアB
ストック価値の向上
-14-
• 古い街の魅力を発見し、地元
企業、異業種(出版社、デザイ
ナーなど)との連携により再生
している
(3) 海外展開の可能性について
①
海外住宅市場の現状
主要国で新設住宅着工件数が日本の件数を上回るのは、中国、インド、アメリカの
3国である。
(表 14)主要国の住宅着工規模
オー スト ラ リ ア
カ ナダ
韓国
日本
ア メリ カ
イ ンド
中国
(戸)
4,500,000
4,000,000
3,500,000
3,000,000
2,500,000
2,000,000
1,500,000
1,000,000
500,000
0
(出所)「Housing & Home Warranty Programs World Research」(2005)住宅保証機構
(注) (原典は各国統計データ、中国 2003 年、インド 1997~2000 年までの累計を年平均に換算、アメリカ
2002 年、日本 2005 年、韓国 2003 年、カナダ 2005 年、オーストラリア 2005 年)
特に中国は、日本にとってアジア最大の貿易相手国で日本の4倍の着工規模に達し
ており、現状でも住宅不足が続いていることから今後の成長が期待できる。
こうした状況を踏まえ、アジア最大の貿易相手国であり、市場規模、成長性ともに
期待できる中国をモデルに検討した。
(表 15)アジア・オセアニア・欧州・北米・南米各国の成長性と人口規模
高成長
11.0
中国
9.0
ベトナム
インド
実質GDP成長率(%)
7.0
シンガポール
インドネシア
マレーシア
5.0
タイ
フィリピン
韓国
4.0
オーストラリア
メキシコ
カナダ
3.0
アメリカ
日本
ネパール
ブラジル
EU
ニュージーランド
1.0
低成長
0
50,000 100,000 150,000 200,000 250,000 300,000 350,000 400,000 450,000 500,000
1,310,000
-1.0
市場小
(出所)東南アジア・EUは「CIA
Profiles」(2005)
人口(千人)
市場大
World Fact Book」(2005)、その他は「OECD Country Statistical
-15-
②
中国住宅市場のニーズと日本の技術
中国の住宅市場が持っている課題を示すと、社会的ニーズ、生活者ニーズと大き
く2つのニーズに分類され、それぞれのニーズに即した対応できる日本の技術を示
したものが次の表である。
まず、社会的ニーズとしては、資源エネルギー対策の進展、高齢化社会に向けた
対応とに分解される。
資源エネルギー対策の進展については、国家的な目標を掲げ、強力に進められて
いるところだということであるが、このニーズに対応できる我が国の技術としては
省エネ住宅をはじめとした環境配慮型技術があてはまる。
また、高齢化社会に向けた対応としては、中国は一人っ子政策の影響で高齢化が
急速に進展しているため、このニーズに対応できる我が国の技術としてはバリアフ
リー住宅をはじめとする高齢者配慮型技術をはじめとした住宅があてはまる。
一方、生活者のニーズとしては、建物品質向上、内装工事の品質向上とに分解さ
れる。建物品質向上については、中国における施工管理が必ずしも厳格ではないこ
とや、建築材料の不良、質が十分でない住宅が少なくないことがいわれており、所
得水準が向上するにつれてプレハブ化も含めた現場施工の品質管理技術の体系整
備への要求も高まっている。また、内装工事の品質向上についても、中国では一般
的に内装設計・工事は住まい手から業者に委託されるが、業者による施工品質のば
らつきや信用力の低下という問題から、内装工事に関する品質向上のニーズが高ま
っている。さらに、中国政府の方針で、中低価格かつ中小規模の一般住宅の建設を
重点とする政策転換がなされ、1戸当たり建築面積 90 ㎡以下の物件を全戸数の 70%
以上とすることから、限られた面積の中で機能的なプランニングを実現できる内装
工事技術が必要となる。こうしたニーズに対応できる我が国の技術としては、工業
化構法等の施工技術、現場施工の品質管理技術、プランニング技術が挙げられる。
中国住宅市場の現状とニーズ
„ 資源エネルギー対策の進展
社会的ニーズ
– 2006年にスタートした「第11次五箇年計画」では「2010年にはGDP成長1ポイント
あたりにかかるエネルギー消費量を2005年と比べて20%削減する」という目標が
掲げられているなど、環境保全・省エネは国家目標となっている。
ニーズに対応可能な
日本の技術
z環境配慮型技術
例:「省エネ住宅」に関する技術
„ 高齢化社会に向けた対応
– 70年代から実施されている計画生育政策(一人っ子政策)の影響で、中国の高齢
化は急速に進展している(2050年には3人に1人が60歳以上)。
– 日本と異なり経済成長を伴わない高齢化の進展により、高齢化に対応できるだけ
のインフラ・社会保証制度等の整備が大幅に遅れており、今後急速に高齢者対応
に対するニーズは高まると考えられる。
z高齢者配慮型技術
例:「バリアフリー住宅」など住宅
における高齢者対応技術
„ 建物品質の向上
生活者ニーズ
– 中国では厳格な施工管理が行われていないことや建築材料の不良による質の十
分でない住宅が少なくないと言われており、所得水準の向上とともに、プレファブ化
も含めた現場施工の品質管理技術の体系整備など質への要求水準が高まってい
る。
z工業化構法等の施工技術
„ 内装工事の品質向上
z現場施工の品質管理技術
– 中国では内装設計・工事は住手が個別に内装業者に委託することが一般的である
が、近年、業者による施工品質のばらつきや業者の信用力低下などを背景に、内
zプランニング技術
装工事の品質向上に対するニーズが高まっている。
– 合わせて、2006年5月「住宅供給構造の調整と住宅価格安定に関する意見」が発
表され、中低価格でかつ中小規模の一般住宅の建設を重点とするという方向に政
また、我が国の住宅関連技術が世界的視点からどの程度の水準にあるかについて、
策転換(1戸当り建築面積が90㎡以下の物件を全戸数の7割以上とする)されてい
ることもあり、限られた面積で機能的なプランニングを実現できる内装工事技術に
縦軸に国際特許出願数、横軸に中国現地ニーズの大小をプロットし中国において優位
対するニーズも高まっている。
-16-
技術の競争力と現地ニーズの観点から、中国における競争優位性のある技術を抽出す
ると、次の表のとおりとなる。
この結果、競争力・ニーズの双方から期待できるものは我が国でも非常に研究され
てきた調湿、低VOC化等の空気環境関連技術、通風、換気、断熱等の省エネ技術が
挙げられる。また、免震・制振の構造技術、防汚等の耐久性向上技術についても中国
の中でも地域によるが潜在的な現地ニーズの掘り起こしが期待できる技術である。
(図表 16)日本の住宅関連技術の国際競争力
高い
2
●●潜熱蓄熱材利用技術、
通風換気技術
●調湿技術
●低VOC化技術
●雨水再利用技術
●断熱技術
1
●バリアフリー設計技術
●●免震技術、制震技術
●●防汚技術、高耐久コン
クリート技術
●施工管理技術
●工業化住宅
●健康管理技術
●燃料電池技術
●RFIDタグ技術
●防犯技術
競争力
●ヒートポンプ技術
0
●防犯設計技術
●使用エネルギー管理技術
●屋上緑化技術
●太陽熱利用技術
●節水技術
‐1
低い
‐2
温熱環境
空気環境
資源循環
環境配慮型技術
高齢者配慮技術
構造安全
劣化軽減・維持管理
品質管理
工業化構法等の施工技術/現場施工の品質管理技術
評価軸
・技術の競争力は、各国の出願件数※(日/米/独/中の 4 カ国)の標準得点(=(得点-平均値)/標準偏
差)により評価した
・欧州特許庁 esp@cenet にてキーワード検索した結果
③
日本の住宅産業技術を活かした対中国への住宅供給の在り方
a)住宅輸出・現地生産のメリット・デメリット
中国への供給方法として、輸出と生産が考えられるが、それぞれのメリット・デ
メリットは次のとおりである。
メリット
輸出
現地生産
デメリット
・品質管理が容易
・人件費の観点からコスト高
(実績として輸出が進んでいない)
・人件費等の競争劣位のカバーが ・技術移転に伴う技術流出の可能性
・品質管理が困難
可能
現地生産においては、人件費等のコスト面での競争劣後はカバーできるものの、技
術移転に伴う技術流出リスクや品質管理は難しい。また、現地企業への直接投資、現
地企業との合併会社の設立、現地企業との技術提携等の様々なハードルがある。
なお、通商白書によると中国においては東アジア諸国の中でも法・税務、知的財産
保護等の制度上の問題点を指摘する企業多く、これらの課題に留意して事業を展開す
る必要がある。
-17-
(図表 17)
b)日本型住宅供給モデルの展開
日本の住宅産業の強みを生かした対中国への住宅供給について、日本型住宅モデ
ルで中国市場の参入を展開した場合、国際水準よりも競争優位のある技術力を提供
するということで対応することが不可欠であるが、日本型住宅供給モデルの良さを
活かした住宅供給を実践していくことが重要である。
特にこれまで、日本の住宅産業、質、量で牽引してきたプレハブメーカーの住宅
供給モデルは、世界に類のない日本特有の産業モデルで、次の図のとおり、ニーズ
を把握、ニーズへの提案、ニーズを実現する技術、またはノウハウのアセンブルで
対応することで、中国における市場にも対応できるか、またはこれに競争優位があ
るのではないか。
(図表 18)日本型住宅供給モデルのイメージ
供給者
ニーズの把握
ニーズへの提案
ニーズを実現する
技術やノウハウの
アセンブル
市場のニーズ
c)産学官のポテンシャルの活用
我が国には、毎年多くの留学生が来日し、ここ数年、その数は9万人を超える4。
例えば中国から日本に多くの建築関係の留学生が来ており、日本で建築学を学び、
その後、中国へ帰国する。こうした留学生は日中双方の事情に通じており、また、
親日的でもあるため、こうした人材の活用をしていくことも重要である。
また、最近は中国においても、日本の建築家の招聘もあり、日本の建築デザイン
に関する評価は高いため、例えば主要都市にモデル住宅プロジェクトを推進するこ
とも一つの方法である。
4総務省統計局
-18-
④
日本型住文化/日本らしさの輸出
海外展開については、中国ばかりでなく、欧米への目を向けるべきである。近年
「Cool Japan(クールジャパン)」とも形容されるように、日本文化の価値が見直
されており、アジアに留まらず欧米からの関心も高まっている。日本の住宅産業を
海外に発展させるためには、こうした機運を捕らえ住宅技術だけでなく住文化もセ
ットで提案していくことが重要であると考えられる。住文化を提案するということ
は、建物だけでなく暮らし方、つまりはデザイン上の工夫による空間の使い方に関
する提案や、そこに設置する家具や設備などを含めたトータルな住生活を提案する
ということである。
そして、「Cool Japan」の具体的な内容としては、ハイテク機器やアニメコンテ
ンツがよく知られるところだが、細部にわたるデザインへのこだわりや、自然との
つながりを大事にする和の暮らしという要素も、住文化を提案する上では重要な要
素となるだろう。
なお、ミラノサローネ5など海外のイベントでも、日本企業が提案したハイテク機能を
持ち合わせたトイレやキッチンをはじめ、和風空間の提案についても高い評価を受けてお
り、今後は中国に留まらず、他のアジア諸外国や欧米に至るまで、日本型文化を輸出する
住宅供給のあり方について、引き続き検討していくことが望まれる。
5ミラノで年
1 回開催されるデザイントレンドショー
-19-
3 章.枠を超えたワクワクする産業へ
国内において今後住宅関連の新たな需要を創造していくには、単にハコを作るだけの産業
から、暮らしの場そのものをプロデュースできる『暮らしの「場」提案産業』に転換するこ
とが重要であり、その際には素材産業や住まい手も含めて従来のプロダクトアウト型ではな
い形で市場と結び付き得る『暮らしの「場」提案産業』に統合していくことが不可欠である。
本WGの検討により、ストック価値、生活価値、エリア価値という 3 軸を向上させることが
今後の住宅産業のフロンティアを考える上で必要不可欠なものであることが浮き彫りにされ、
住宅産業自体がこの新しい方向に生活者のニーズを誘導する存在にならなければならない。
また、産業の転換を推進するにあたっては、次のような取組みがなされる必要がある。
(1) 枠を超えた連携の推進
『暮らしの「場」提案産業』への転換の鍵となるのは市場を含めた密な連携である。
各々のプレーヤーの間で連携がおき、それにより住宅産業の上流から下流、すなわち建
材・部品メーカーから住まい手までをつなぐ情報回路が構築されることで、転換はさら
に具体的なものになっていくと考えられる。具体的な連携の方向性は以下①~④に示す。
①異業種・異分野との連携
新たな暮らしの提案には様々な専門知識や発想の転換が求められる。例えば、高齢化
に対応して要介護者やリハビリ患者の居住に合わせて改修する際には医療福祉分野と
の情報交換が不可欠であり、住まいにおける新たな娯楽を実現する創造性の高い提案を
行うためにはゲーム業界などとの連携が不可欠と考えられる。
②地域、エリアとの連携
高齢者の増加に伴い、高齢者に対する地域、エリアとの連携はますます重要になっ
てくる。例えば、老人ホームなどの施設、デイケアなどのサービスなどは、地域、エ
リアに適切に配置する必要がある。
③ 住宅関連業界内での連携
暮らしの場の提案に注力するためにも、住宅関連業業界内でハコの生産プロセスをよ
り合理化していくことが必要と考えられる。例えば、住宅生産者同士が共同で新たなオ
ープン工法を開発し、建材メーカーや住宅設備機器メーカーとも連携し共通して利用で
きるインフィルを開発するような取組みである。また、ストック型市場における円滑な
住宅取得を推進するためには、不動産業や金融業など関連業界との連携強化が不可欠で
ある。
④住まい手との連携
住宅産業が提案するべき新たな暮らしの具体像は、住まい手の中に潜在ニーズとして
ある。しかし、潜在ニーズとは漠然としたものであるから、それを提案として顕在化す
るためには、産業側が住まい手の発信する情報を受け止めニーズを引き出す仕組みを構
築する必要がある。
⑤省庁間の連携
以上のような取組みを後押しするためにも、つながりを推進するための関係省庁間の
連携が不可欠と考えられる。特に 200 年住宅やバリアフリー化など高齢者の生活環境
づくりに取り組む国土交通省、厚生労働省や、環境負荷低減住宅の普及やまちづくりに
取組む環境省などとの連携が重要になる。
-20-
(2)住まい手教育の必要
これまでの日本の住宅は木造が主で、自分が住んでいる家の梁や柱の(木の)名称を知
っているなど、家への関心が高かった。しかし、こうした自分の住まいに対する知識レベ
ルは画一的な住宅供給によって低下し、関心が薄くなってきていることが懸念される。ま
た、住宅の維持管理を適切に行うことが、個人の資産形成にとっても役立つ可能性がある
ことや、一方では住宅ローンに関わるリスクなどを伝えていくことも重要である。
今後の住宅産業の発展のためには、親から子へ、子から孫へ伝えられる生活の知恵を伝
承し、住まい手自らが生活の達人になるような教育、あるいは初等教育や中等教育の場で
も住まいに対する教育を行うことも必要である。
(3)人材の育成
枠を超えた連携を推進するプロデュース力と新たな価値を提案できる創造力をあわせ
持つ人材や、住まい手の立場から住まい方を提案するエージェント人材の育成を強化する
ことも必要である。これまで、建築士、インテリアコーディネーターなどによる住宅建築、
住まい方に対する提案が行われてきたが、今後は多様化する個人の生活デザイン、ライフ
スタイル、ファイナンシャルプランなどに合わせて設計から暮らし方までの全体をプロデ
ュース、提案できる人材も期待されることから、これらを学問の一つとして位置づけて早
期に育成を図っていくことも必要である(生活達人学校の設立など)
。
また、少子高齢化に伴い今後は人口が減少していく中で、次世代の住宅産業を支える若
い担い手の数も減少していく。特に、これまでは技能者が専門工事店(小売店)を経営し、
これが建材の流通の核となっていたが、今日の後継者がいないという状況の中、こうした
従来の流通のままでは住宅産業は動かなくなってしまうことに加え、ストック価値を向上
させる仕事は、新築を建てる以上に技能が必要である。こうした、ものづくり技術を伝承
するための人材育成、技能者育成についても強化を図ることが必要である。
さらに、住宅に関連する既存の資格制度(インテリアコーディネーター、DIY アドバ
イザーなど)を、定義しなおし再編することも必要と考えられる。生活価値、ストック価
値、エリア価値の実現には設計、技術、生活だけでなく金融知識など幅広専門性が求めら
れる。既存の資格者の果たしている役割と足りない役割を浮き彫りにし、新たな価値を実
現するために必要な役割は何かという視点から、再編することが重要である。
(4)長期的視野に立った投資
これまでも様々な枠を超えた取組みが住宅生産者によってなされてきたものの、短期的
な収益に結びつかないなどの理由から継続されないケースが多い、という指摘がワーキン
グメンバーやヒアリング企業から多くあがった。今回の取組みは、既存のビジネスモデル
からの転換を目指すものであるため、既存の制約に捕らわれたり、短期的な投資収益を重
視するのではなく、中長期的な視点で新しい事業の柱を育成していく姿勢も必要である。
(5)国際展開への取組みについて
海外については、国際水準と照らし合わせて非常に高いレベルの技術力やこれまで培わ
れてきたプラニングノウハウ(動線計画など)に加え、
「Cool Japan」のブランドイメー
ジのもと日本の住文化をアセンブルし、日本型住宅供給モデルを実践することで、現地の
生活者ニーズに対応できる産業としての地位を確立することが重要と考えられる。
また、各国の事情や気候風土に合ったエネルギー効率の高い、あるいは環境に優しい住
宅を提供することで、省エネ・環境問題といった側面からの国際貢献も可能である。
その際、我が国へ留学し帰国した学生の活用をはじめ、産官学のポテンシャルを最大限
-21-
活用する仕掛けが必要である。
おわりに
国内展開、海外展開ともに、住宅産業以外の異業種と積極的に連携し、これまでの住宅
産業の構造を揺るがす産業体制の新たな構築が必要である。そのためには、まず、住宅産
業関係者は異業種の者や生活者などと意見交換の「場」を持つなどの積極的な取組みが必
要である。
こうした取組みにより生活者に対してワクワクする暮らしの提案がなされ、その結果、
日本の新たな住文化が醸成されるとともに、住宅産業もまたその枠を超えて活性化してい
くことを期待したい。
(図表 19)住宅産業のフロンティア開拓の方向性
これまでの住宅産業
「ハコ」づくりの産業
フロンティア①
フロンティア②
暮らしの「場」提案産業への転換(国内)
日本型住宅供給モデルの展開(海外)
生活価値の向上
フロンティアC
ソフトの付加
住宅関連支出
の拡大
フロンティアA
産官学のポテンシャルを最大活用
ハード
住宅投資
住空間
都市空間
エリア価値の向上
売切り
継続利用
ストック価値の向上
フロンティアB
-22-
Fly UP