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ダーツの作業記憶向上効果

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ダーツの作業記憶向上効果
日心第70回大会(2006)
ダーツの作業記憶向上効果
榊原 吉一
(金沢工業大学工学部 人間系経営情報工学科)
key words: ダーツ、RST、作業記憶
(方法)
被験者 20 名を学科内 WEB システムにより募集し、無作為に
ダーツ実行群と対照群に 10 名ずつ割り当てた。いずれの被験
者も実験者とは初対面で、年齢は 22~23 才であった。
ダーツボードの設置、得点、投擲位置等は大凡日本ダーツ
協会が提示する方法1)に準じた。1 ゲームは投擲 3 本で、8 ゲ
ームを 8 分間で行った。各ゲーム終了時点で被験者自ら暗算
で得点計算をした。
Reading Span Test (RST)の基本的方法は苧阪2)に従った。全
ての RST 問題文は 15 から 30 文字で作り、文中の一語に目的
語として下線を付した。難度最低の 2 文問題は 2 文を読んだ後
2 個の目的語を復唱するものであり、文の数が増えると難度が
上がる。本実験では最高の難度は 5 文問題であった。これら 4
段階の各々を 5 回繰ずつ返すために一回の RST 用に 70 文用
意した。RST は、先ず 2 文問題を行ったが、被験者は 2 文を自
分のペースである程度大きな声で読み、その直後に 2 個の目
的後を復唱した。同様に残り 4 回を繰返した。続いて、3、4、5
文問題も同じ要領で全て実施した。被験者には RST 問題を回
答する際に声が小さくなったり、滑舌が悪くなったりすると注意
を与えた。また、目的語など特定の語だけを強調して読んだり、
ナレーション風に言葉に抑揚をつけることを禁じた。RST 一回
分の所要時間は 11~14 分であった。
実験の流れは、先ず、安静 5 分以上、続いて、事前気分調査
アンケート(3 分)、事前 RST(11~14 分)、ダーツ(8 分)、事後
RST(11~14 分)、事後気分調査アンケート(3 分)を連続的に
施行した。
各被験者は二回の RST を実施するので、RST 用問題文は 70
文 1 組で 2 組分用意した。対照群は上の実行群と同様の流れ
で実験を行ったが、ダーツ 8 分間の時間帯では投擲作業なし
立位で実験群相当の暗算のみを行った。
なお、本実験では、被験者と実験者との間に特別な感情的
同調とか反発を誘起しないように、実験の手順説明、実験の節
目の合図、被験者への挨拶などは、予め設定した台本を読み
上げる形で行った。また実験前後の会話も最小限に留めた。
ダーツ前と後の RST 成績の平均に対して、対応のあるt検定
法(両側検定)を施し、有意確率が有意水準 5%以下の時有意
差ありとした。
(結果)
RST は 2 から 5 文までの n 文問題を各々5 試行ずつ繰返す
が、n 文問題で素点1点を得るためには n 個の正しい目的語を
復唱しなくてはいけない。図1は素点を単純に加算し、その平
均をダーツ前後で比較したものである(図1)。ダーツ前と後の
RST の平均はそれぞれ、8.7 点と 11.1 点であり、統計的に有意
差が認められた(p=0.002)。他方、対照群では、前後の RST 平
均は、それぞれ、8.6 点でまったく同一レベルであった。
なお、RST の採点法には、3 試行以上正解を得て素点を1点
獲得するというバッドリー考案の方法がある。この方法では、2
試行正解の場合は 0.5 点を配するが、それ以上の難度の試験
は採点対象にしない。本実験ではこのバッドリー法でも得点を
試算した。ダーツ組の前後の平均得点が 3.1 点と 3.7 点であり
(p=0.003)、非ダーツ対照群では 2.8 点と 2.7 点と、単純加算法
とほぼ同様の結果を得た。
14
p=0.002
12
NS
10
平均得点
(目的)
ダーツ競技が健常成人の作業記憶を向上させるかどうかを調
べることを目的とした。
8
前
後
6
4
2
0
ダーツあり
ダーツなし
図1 ダーツ前後の RST 成績 (n=10)
緊張興奮
130
対照群
実行群
100
不安感
爽快感
70
抑うつ
図2
疲労感
ダ ー ツ 及 び 対 照 動 作 後 の 気 分 の% 変 化 量
(n=10)
気分調査は 5 項目3)について行い、ダーツ前を基準にしたダー
ツ後の%変化量を図2に示した。不安感は両群とも有意に減少
した。これは、一連の作業を終えた安堵感を示すものと思われ
る。緊張と興奮が対照群のみで有意に増加し、疲労感は実験
群のみでそれぞれ有意に減少した。
(考察)
RST は言語性作業記憶を測定できる2) ので、今回の研究結
果は 8 分間のダーツ競技が作業記憶の向上効果を有するもの
と解釈できる。我々は RST による作業記憶が自転車エルゴメー
タ運動によっても向上する結果を得た4) が、本研究のダーツ競
技の運動量は極めて弱かったので、ダーツが身体運動以外の
作業記憶増強要素を有するものと考えられる。その特定の為に
はアンケートの工夫が必要と考えた。
(引用文献)
1)日本ダーツ協会 HP http://www.darts.or.jp/
2)芋阪満里子 「脳のメモ帳 ワーキングメモリ」 新曜社 2002
3)堀 洋道監修 「心理測定尺度集Ⅰ」 サイエンス社 2002
4)榊原吉一ら 「軽運動が作業記憶に与える急性向上効果」
Jpn. J. Physiol. (54), Supplement, s194, 2004
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