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熱性痙攣とあなどるなかれ
熱性けいれんとあなどるなかれ 与論徳州会病院 湘南鎌倉総合病院 柴 康弘 症例① 【症例】 1歳6か月 女児 【主訴】 けいれん 【現病歴】 受診10日前;39.2度の発熱後1分間持続する 強直間代性けいれんを認めた(初発) 受診前日;夕方より40度の発熱 受診当日;12時、18時に1分間持続する 全身強直間代性けいれんを認めた 複雑型熱性けいれんとして精査加療目的に入院 【既往歴】 特記事項なし 熱性痙攣の既往なし 【家族歴】 熱性けいれん、てんかん家族歴なし 【生活歴】 特記事項なし 【ワクチン】 Hibワクチン、肺炎球菌ワクチン接種済 【身体所見】 体重9.5kg 意識clear 体温 40.3℃ 血圧 112/70mmHg 脈拍 173回/分 呼吸数 40回/分 SpO2 92%(感度低) 頭頸部:項部硬直陰性 口腔内異常所見なし 胸部 : 心雑音なし 呼吸音清 副雑音なし 陥没呼吸なし 検査所見 【血算】 WBC 19250 /μL neu 71.6 % Hb 10.4 g/dl Plt 28.7×104 /µl 【生化学】 CPK 64 T-Bil 0.2 AST 25 ALT 11 LDH 339 γGTP 18 ALP 6590 TP 7.7 Alb 4.2 IU/l mg/dl IU/l IU/l IU/l IU/l IU/l g/dl g/dl BUN 8.4 mg/dl Cre 0.5 mg/dl Na 135 mEq/l K 4.2 mEq/l Cl 99 mEq/l Ca 9.0 mg/dl Glu 113 mg/dl CRP 2.6 mg/dl 尿検査) 細菌(-) WBC(-) インフルエンザ迅速 インセイ 検査所見 【髄液検査】 細胞数 3個/m3 白血球分画 単核球90% 多形核球10% Glu 89mg/dl Cl 117mEq/l 入院後経過 体温 (℃) 42 40 退院 38 36 34 32 CTRX50mg/kg/日 30 0 1 2 3 4 5 6 日 診断 複雑型熱性けいれん 原因不明の発熱 (ウイルス感染症疑い) 症例② 【症例】 8歳男児 【主訴】 痙攣 【現病歴】 受診1週間前より軽度の頭痛あり 2日前より発熱、頭痛の増強、食欲低下あり 当日日中近医受診し対症療法 夜間入浴直後より強直性痙攣3分程度持続したた め救急搬送 【既往歴】 特記事項なし 熱性痙攣の既往なし 【家族歴】 熱性けいれん、てんかん家族歴なし 【生活歴】 特記事項なし 【身体所見】 体重30kg 意識JCSⅠ-1 体温 38.1℃ 血圧 112/70mmHg 脈拍 99回/分 呼吸数 18回/分 SpO2 99%(RA) Jolt陽性 項部硬直陽性 CNS異常所見なし Barre陰性 指鼻試験陰性 頭頸部 : 頸部リンパ節腫脹なし 咽頭発赤軽度 扁桃腫大なし 胸部 : 呼吸音清 副雑音なし 陥没呼吸なし 腹部 : 平坦軟 腸雑音聴取せず 圧痛なし その他 : 皮膚やや乾燥 turgor低下なし 関節腫脹圧痛なし 皮疹なし 検査所見 【血算】 WBC 7710 /μL neu 51.9 % Hb 13.4 g/dl Plt 39.2×104 /µl 【生化学】 CPK 72 T-Bil 0.9 AST 38 ALT 32 LDH 335 γGTP 17 ALP 692 TP 7.6 Alb 4.4 IU/l mg/dl IU/l IU/l IU/l IU/l IU/l g/dl g/dl BUN 14.2 mg/dl Cre 0.5mg/dl Na 130 mEq/l K 4.3 mEq/l Cl 93 mEq/l Ca 8.9 mg/dl Glu 142 mg/dl CRP 0.1 mg/dl インフルエンザ迅速 インセイ 胸部レントゲン(立位P→A) 頭部CT 診断 症候性てんかん (脳腫瘍性) 経過 20時前後 3分間持続の強直性けいれん 20:20 20:40 20:55 21:50 23:30 当院救急搬入 頭部CT施行 グリセオール10% 200mlDiv ミダゾラム0.1mg/kg/hにて開始 他院へ救急転院搬送 Clinical Question 症例①と症例②において 精査は必要であったか 症例①; 1歳6か月女児 複雑型熱性けいれん 症例②; 8歳男児 初発有熱時けいれん Clinical Question 症例①と症例②において 精査は必要であったか 症例①; 1歳6か月女児 複雑型熱性けいれん 症例②; 8歳男児 初発有熱時けいれん 熱性けいれん定義 1;生後6~60か月までの乳幼児に起こる 2;通常38℃以上の発熱に伴う発作性疾患 (けいれん性、非けいれん性を含む) 中枢神経感染症、代謝異常、その他明らか な発作の原因がみられない 3;てんかん既往のあるものは除外される 熱性けいれん定義 1;生後6~60か月までの乳幼児に起こる 2;通常38℃以上の発熱に伴う発作性疾患 (けいれん性、非けいれん性を含む) 中枢神経感染症、代謝異常、その他明らか な発作の原因がみられない 熱性けいれんの初発年齢が 生後6か月未満であることはまれ 3;てんかん既往のあるものは除外される →他疾患の鑑別が重要 単純型/複雑型けいれん 以下3項目中1つ以上“複雑型熱性けいれん”と定義 いずれにも該当しないものを“単純型熱性けいれん” 1)焦点発作(部分発作)の要素 ・体の一部分に優位にみられる焦点性運動発作 ・半身けいれんや眼球偏位など左右差のある発作 ・一点凝視や動作停止のみの意識障害 (けいれんを伴わない場合あり) 2)15分以上持続する発作 3)一発熱機会内の24時間以内に複数回反復する発作 複雑型は髄液検査必須?? 6~18か月の初回単純性熱性けいれん704例中271例 (38%)で髄液検査が施行され、細菌性髄膜炎の症 例はなかった Kimia A 他 ,Pediatrics2009;123:6-12 複雑型熱性けいれん526例のうち髄液検査が340例 (64%)に施行され3例が細菌性髄膜炎と診断された (2例は傾眠傾向、反応性の低下、呼吸抑制、大泉 門膨隆、項部硬直を認めたと報告されている) Kimia A 他 ,Pediatrics 2010;126 62-69 複雑型は髄液検査必須?? 6~18か月の初回単純性熱性けいれん704例中271例 (38%)で髄液検査が施行され、細菌性髄膜炎の症 例はなかった Kimia A 他 ,Pediatrics2009;123:6-12 複雑型熱性けいれん526例のうち髄液検査が340例 (64%)に施行され3例が細菌性髄膜炎と診断された (2例は傾眠傾向、反応性の低下、呼吸抑制、大泉 門膨隆、項部硬直を認めたと報告されている) 複雑型が過大評価され Kimia A 他 ,Pediatrics 2010;126 62-69 過剰に検査されている傾向にある!! 複雑型熱性けいれんって?? 複雑型は てんかん発症関連因子の一つ にすぎない 複雑型熱性けいれんって?? 複雑型は てんかん発症関連因子の一つ にすぎない 熱性けいれん既往と てんかん発症関連因子 一般人口におけるてんかん発症率:0.5~1.0% てんかん発症関連因子 1) 熱性けいれん発症前の神経学的異常 2) 両親・同胞におけるてんかん家族歴 3) 4) 複雑型熱性けいれん (焦点性/15分以上/一発熱機会内の再発) 短時間の発熱-発作間隔(1時間以内) 発症率 0因子:1% (熱性けいれん全体の60%) 1因子:2% (全体の34%) 2~3因子:10% (全体の6%) Clinical Question 症例①と症例②において 精査は必要であったか 症例①; 1歳6か月女児 複雑型熱性けいれん 症例②; 8歳男児 初発有熱時けいれん 年長児の有熱時けいれん 1)学童期の初発有熱時けいれん 2)乳幼児期に熱性けいれんを発症し 学童期に至った場合 1)と2)比較した際に無熱時発作の 発症率や最終発作の年齢等の予後に差が ないと報告されている 学童期にみられる有熱性けいれんの検討,小児臨床1999;52:79-83 年長児の有熱時けいれん 1)学童期の初発有熱時けいれん 2)乳幼児期に熱性けいれんを発症し 学童期に至った場合 1)と2)比較した際に無熱時発作の 発症率や最終発作の年齢等の予後に差が 学童期の初発例、再発例のいずれの場合も ないと報告されている 発症年齢にかかわらず通常の熱性けいれん 学童期にみられる有熱性けいれんの検討,小児臨床1999;52:79-83 とみなして差し支えない 結局どんな時に 精査するべき?? 髄液検査推奨 1)髄膜刺激症状や細菌性髄膜炎を疑う症状 経過がある症例では施行するべき 2)Hibワクチンや肺炎球菌ワクチン未接種 の6~12か月の症例ではoptionとして検討 3)熱性けいれん発症前に抗菌薬が投与され る症例では細菌性髄膜炎の症状がマスク される可能性があるためoptionとして検討 熱性けいれん診療ガイドライン2015;日本小児神経学会 5歳未満侵襲性細菌感染症発症率(Hibワクチン普及前後) 2008~2010 2012 2013 平均発症率 発症率 発症率 発症率 7.7 3.3 0.6 0.2 Hib性非髄膜炎 5.1 3.0 0.9 0.2 Hib性髄膜炎 2011 庵原俊昭;平成25年度総括分担研究報告書(10道県における調査) 小児侵襲性肺炎球菌感染症発症率(肺炎球菌ワクチン普及前後) 2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 2013年 菌血症 30 46 41 30 19 16 肺炎 24 20 18 8 10 4 髄膜炎 6 8 10 2 3 4 罹患率 21.3% 26.1% 24.6% 13.8% 11.8% 9.3% ishiwadaN,etVaccine2014;32:5425-31 *共に2011年より助成開始、2013年より定期接種開始 5歳未満侵襲性細菌感染症発症率(Hibワクチン普及前後) 2008~2010 2012 2013 平均発症率 発症率 発症率 発症率 7.7 3.3 0.6 0.2 Hib性非髄膜炎 5.1 3.0 0.9 0.2 Hib性髄膜炎 2011 庵原俊昭;平成25年度総括分担研究報告書(10道県における調査) 小児侵襲性肺炎球菌感染症発症率(肺炎球菌ワクチン普及前後) 2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 2013年 菌血症 30 46 41 30 19 16 肺炎 24 20 18 8 10 4 髄膜炎 6 8 10 2 3 4 罹患率 21.3% 26.1% 24.6% 13.8% 11.8% 9.3% ishiwadaN,etVaccine2014;32:5425-31 *共に2011年より助成開始、2013年より定期接種開始 5歳未満侵襲性細菌感染症発症率(Hibワクチン普及前後) 2008~2010 2012 2013 平均発症率 発症率 発症率 発症率 7.7 3.3 0.6 0.2 Hib性非髄膜炎 5.1 3.0 0.9 0.2 Hib性髄膜炎 2011 庵原俊昭;平成25年度総括分担研究報告書(10道県における調査) Hibワクチン接種、肺炎球菌ワクチン 接種歴は必ず聴取すべき! 2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 菌血症未接種なら髄液検査を検討!! 30 46 41 30 19 小児侵襲性肺炎球菌感染症発症率(肺炎球菌ワクチン普及前後) 2013年 16 肺炎 24 20 18 8 10 4 髄膜炎 6 8 10 2 3 4 罹患率 21.3% 26.1% 24.6% 13.8% 11.8% 9.3% ishiwadaN,etVaccine2014;32:5425-31 *共に2011年より助成開始、2013年より定期接種開始 有熱時発作患者に 頭部画像検査は必要か 初回複雑型熱性けいれん71例に頭部 CT/MRIを施行したが治療介入を要する ような異常所見を認めた症例は一例も なかった (Teng他;Pediatrics2006;117:3004-8) 複雑型熱性けいれんにて臨床的に問題 となる異常所見を認めたものは268例中 4例であった。上記症例は眼振、麻痺、 意識障害を認めていた。 (Kimia他;Pediatr Emer Care 2012;28:316-21) 有熱時発作患者に 頭部画像検査は必要か 初回複雑型熱性けいれん71例に頭部 CT/MRIを施行したが治療介入を要す るような異常所見を認めた症例は一例 もなかった (Teng他;Pediatrics2006;117:3004-8) 複雑型熱性けいれんにて臨床的に問題 となる異常所見を認めたものは268例 複雑型熱性けいれんでも 中4例であった。上記症例は眼振、麻 異常神経学的所見を欠く場合には 痺、意識障害を認めていた。 頭部CT/MRIが有用とは言いがたい!! (Kimia他;Pediatr Emer Care 2012;28:316-21) Clinical Question 症例①と症例②において 精査は必要であったか 症例①; 1歳6か月女児 複雑型熱性けいれん 症例②; 8歳男児 初発有熱時けいれん Clinical Question 症例①と症例②において 精査は必要であったか 症例①; 1歳6か月女児 初診時は不要! 複雑型熱性けいれん 症例②; 8歳男児 年長児初発けいれんのみでは不要! 初発有熱時けいれん 項部硬直・意識障害あり必要! Take Home messages ・複雑性熱性けいれん を恐れるな! ・結局は身体所見が最重要!! 御静聴 ありがとうございました!