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青年期における攻撃性について: 第二の個体化過程と対
Kobe University Repository : Kernel
Title
青年期における攻撃性について : 第二の個体化過程と対
人葛藤場面における他者の意図の判断から(On the
relation between adolescent aggression, secondindividuation process, and negative intent
interpretations in interpersonal conflict situations)
Author(s)
紺, 真理 / 相澤, 直樹
Citation
神戸大学大学院人間発達環境学研究科研究紀要,5(1):918
Issue date
2011-09
Resource Type
Departmental Bulletin Paper / 紀要論文
Resource Version
publisher
DOI
URL
http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/81003434
Create Date: 2017-03-31
(9)
神戸大学大学院人間発達環境学研究科 研究紀要第5巻第1号 2011
Bulletin of Graduate School of Human Development and Environment Kobe University, Vol5 No.1 2011.
研究論文
青年期における攻撃性について
―第二の個体化過程と対人葛藤場面における他者の意図の判断から―
On the relation between adolescent aggression, second-individuation process,
and negative intent interpretations in interpersonal conflict situations
紺 真 理 * 相 澤 直 樹 **
Mari KON* Naoki AIZAWA**
要約:本研究では,青年期の自他に向かう攻撃性と第二の個体化,ならびに,対人葛藤場面における他者の意図の判断との関
係を検討した。攻撃性質問紙(安立,2001),第二の個体化尺度(佐古,2007),および,場面想定法による対人葛藤場面にお
ける他者の意図の判断測定法(相澤,2010,2011)を含む調査質問紙を一般青年男女に実施した。得られた396名のデータによ
り,攻撃性について第二の個体化,および,対人葛藤場面における他者の意図の判断との関連を相関分析と重回帰分析により
検討した。その結果,攻撃性と第二の個体化との関連については,親との葛藤的な関係が自他への攻撃性を高めるとともに,
個体化の確立がそれらを抑制する傾向にあることが示唆された。一方,対人葛藤場面における判断との関連では,対人挑発場
面における怒りの情緒反応と対象攻撃行動,ならびに,対人疎外場面における嫌悪判断・不快と自責感の間では仮説通りの正
の関連を示す結果が得られた。しかし,対人挑発場面における敵意帰属と攻撃性に正の関連がみられなかった点,ならびに,
対人疎外場面における嫌悪判断・不快が他者に向かう攻撃性とも一部で正の関連を示した点では仮説とは一致しない結果とな
り,今後の検討が必要な問題であると考察された。
キーワード:攻撃性,第二の個体化過程,意図帰属
Dodge & Coie,1987)。さらに,山崎(1999)の表出性攻撃(ex-
問題と目的
pressive aggression)と不表出性攻撃(inexpressive aggression)
の分類もそれにあたる。ここで,表出性攻撃とは,怒り感情を時
近年では,「キレる」行動や「リストカット」行動などを中心に
間をおかずに言語的あるいは身体的に表出することであり,不表
青年の衝動行為や攻撃行動の問題が注目されている。確かに,青
出攻撃とは,怒り感情を持ちながらも,その怒りの感情を表出せ
年期は種々の問題行動が多発する時期であるとされており,その
ずに心の中に抑制した状態を言い,敵意,恨み,ねたみ,猜疑心
背景として攻撃性の高まりが想定される。なかでも,他者に対す
などがこれに当たる。
る暴力や自らを直接傷つける行為は,人間の心身に直接的な危害
しかし,攻撃性を向けられる方向・対象は,他者や物といった
を引き起こす重大な問題である。そのため,青年の持つ攻撃性を
外界の対象ばかりでなく,自分自身にも向けられる(松木,1996)。
理解し検討することは重要であるといえる。
たとえば,自殺や自傷行為は自己破壊衝動の表れと解釈でき,摂
従来の研究は攻撃性をその性質や方法により分類しうるものと
食障害やアルコール依存は自分の身体に過剰な負荷をかけること
してきた。たとえば,直接的で具体的な攻撃行動である身体的攻
から,攻撃性が他者に向けられず,自分自身に向いた状態と考え
撃(physical aggression)と仲間関係や友人関係を介して相手を
られるだろう。
傷つける関係性攻撃(relational aggression)の区別,あるいは,
自傷行為は,自殺と違い,特に若年者層に多いとされ,思春期
何らかの脅威や危機に反応して生じる反応的攻撃(reactive ag-
の精神保健,健全育成における重要な問題の一つとなっている(門
gression)と目的達成の手段としての能動的攻撃(proactive ag-
本,2006)。自傷行為の中でも,手首自傷(リストカット)症候群
gression)の区別などが提起されている(Crick & Dodge,1994;
は,近年,思春期・青年期にあたる若者の間で急激な増加傾向に
*
**
平成21年度発達科学部卒業生(長岡京市役所勤務)
神戸大学大学院人間発達環境学研究科 准教授
(2011年4月15日 受付
2011年4月16日 受理)
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(10)
ある。一般大学生を対象とした調査においても,自傷行為の経験
を,「他者との距離を調節しつつ自己存在感覚を保つ,という相反
者は決して少なくないことが確認されている(角丸 ,2004; 角丸・
する二つの試み」と捉え,青年期の再接近期的葛藤に注目し,攻
山本・井上,2005)。以上のことから,青年期の攻撃性を検討する
撃性との関連を検討した。その結果,再接近期危機の葛藤である
には,自己への攻撃性も含めることが重要であると考えられる。
「対象希求」と「接近恐怖」の葛藤が強ければ,攻撃が破壊的な方
安立(2001)は,心理臨床における攻撃性の捉え方をベースと
向へ発現される傾向にあることを示した。
して,「攻撃には他者に向けられる場合の他,他者から攻撃される
さらに,安立(2003)は,依存と自立の二面性からみた攻撃性
ように体験される場合,自己に内攻した心の痛みとして体験され
観を唱えている。その中で,依存性と自立性という相反する二つ
る場合,および自己破壊行動として発現する場合がある」と述べ,
の心の動きが攻撃的エネルギーの発動と密接に関わっており,特
自己への攻撃性を含めて検討している。そして,攻撃性を広義に
に乳幼児期における二者関係の躓き(再接近期危機)を乗り越え
人間の持つ心のエネルギーとして「破壊的な力」としてだけでな
ていない場合,内界から突き上げる攻撃的エネルギーを1人で抱
く「能動的な力」として捉えるとともに,攻撃性の向けられる方
えるだけの心のエネルギーが育っておらず,問題行動や自己破壊
向性(自己/対象)
,表出の有無(表出傾向/保持傾向)の2次元
行動という形で攻撃性が発動されることが多いと指摘した。これ
から攻撃性を分類し,①能動性,②自己攻撃性-表出傾向,③自
らは,分離-個体化の未達成が攻撃性と関連していることを示唆
己攻撃性-保持傾向,④対象攻撃性-表出傾向,⑤対象攻撃性-
する指摘であると考えられる。
保持傾向の5要素から成るモデルを提示している。安立(2001)
また,以上のように青年期の攻撃性を第二の個体化の未達成に
の理論は,他者や外部へ向かう攻撃性だけでなく,自己へ向かう
よるものと仮定した場合,他者との関係性の中で攻撃性を理解す
攻撃性を直接表現されるものだけではなく,潜在的な状態も含め
ることが重要であることが理解される。他者に対する依存や承認
て幅広くとらえるものとして,青年期の攻撃性を検討するうえで
などのさまざまな欲求と,それに対する葛藤や失望などが複雑に
ふさわしいものと考えられる。
関わって対人関係が複雑化すると考えられる。そして,そのよう
一方,攻撃行動や攻撃性については,その研究領域や理論的立
な自他の感情が絡み合って錯綜した対人関係の中に,攻撃的感情
場によって,社会的機能説,内的衝動説,情緒発散説などの視点
や攻撃行動の発露が求められるのである。
から研究が行われている(大渕,1993)。また,攻撃行動には,個
上の問題と関連して,近年系統だった研究を報告しているのが
人的要因,社会的・状況的要因など,多くの要因の影響が想定さ
Dodge ら(Dodge, 1980; Crick & Dodge, 1994)の「敵意帰属バ
れている。ただし,青年期特有の攻撃性を検討するにあたっては,
イアス」研究である。敵意帰属バイアスとは,攻撃的な児童や青
この時期の発達段階との関連を視野に含めることが重要である。
少年に特徴的にみられる「対人挑発場面」の認知様式であり,他
青年期の攻撃性の高まりを理解する視点のひとつとして,第二の
者との関わりで否定的な出来事に遭遇した際,それを相手の「敵
個体化論があげられる。
意」に帰属しやすい傾向を指す。攻撃的な児童や青少年は,相手
第二の個体化過程(second-individuation process)は,対象関
の意図が曖昧な場合でもより頻繁に相手の敵意に帰属するため,
係論の流れをくむ Mahler, Pine, & Bergman(1975)の提唱した
対人挑発場面に接して報復的攻撃に向かいやすくなる。以上の敵
分離-個体化過程(separation-individuation)の考えをもとに,
意帰属研究は,今日では,データベースとしての潜在的知識構造
自我心理学者である Blos(1967)が,精神分析的な観点から青年
(記憶貯蔵,獲得されたルール,社会的スキーマ,社会的知識な
期の心性を理解し提唱した考えである。つまり,第二の個体化過
ど)とオンライン処理としての認知過程(手掛かりの処理,目標
程は,第一の個体化を精神内的なレベルで反復するものであり,
分類,反応決定など)との相互作用により,対人状況の表象化段
青年が幼児期の分離-個体化過程で内在化された対象である親か
階から行動の実行段階までを包括的にモデル化した「社会的情報
ら精神的に離脱し,現実的な対象との関係を確立し,個としての
処理モデル」に集大成されている(Crick & Dodge, 1994;吉澤,
自分を確立していく過程を指している。その中心的なテーマは,
2005)。
親からの心理的自立であり,その課題が達成するまで,親との依
以上の Dodge らの敵意帰属研究は,精神分析的な発達理論や分
存欲求と独立欲求の葛藤により青年は心身の状態が不安定になり
離-個体化理論を前提にするものではない。ただし,適切な外的
やすい。しかし,青年が家族以外の仲間や,同性の友人を新たな
情報を利用せず,自己シェマにより他者の意図を評価することが
対象として発見することによって仲間,友人との親密な関係を築
敵意帰属と攻撃性に結びつくことを示唆する研究報告がなされて
くことができるようになると,そのような不安定さは弱められ解
いる(Dodge & Tomlin, 1987)。このような自己の内的な状態を
消される。それにより,青年は社会の中に自己を位置づけ,社会
もとに対人関係を評価する傾向は,前掲の第二の分離-個体化に
の一員となることができるようになるとされる。
おける個体化以前の状態像と関連をもつ。つまり,敵意帰属とそ
前掲の安立(2001)は,Storr(1968)が「人類が直面しなけれ
れによる攻撃性の高まりは,思春期・青年期における第二の個体
ばならない最も困難な問題の1つは,他の人々と充分に親密な接
化過程の一側面として理解しうる可能性がある。
触を保ちながら,一方同時に自律性を保つという問題である」と
敵意帰属と攻撃性の関連については,すでに膨大な研究が蓄積
いう対人葛藤の内に攻撃発動の起源があると考えたように,他者
されている。その多くで,何らかの媒体を介して調査協力者に仮
との距離の調節困難が,攻撃性の表出と制御を困難にしていると
説的な対人挑発場面を提示し,その場面における他者の意図の認
した。また,乳幼児期の分離-個体化過程の一段階で他者との距
知を評価する場面想定法(hypothetical situation method)が用
離の取り方が問題となる再接近期的葛藤(Mahler et a1., 1975)
い ら れ て い る(Orobio de Castro, Veerman, Koops, Bosch, &
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Monshouwer, 2002)。そして,ピア・ノミネイト法による仲間間
から自立し,個としての自分を確立する時期である。Blos は青年
評定(Dodge, 1980; Dodge, Murphy, & Buchsbaum, 1984),な
期を第二の個体化と位置づけており,第二の個体化が達成できて
ら び に,教 師 な ど に よ る 他 者 評 定(Dodge & Newman, 1981;
いないと,攻撃性を含めた様々な問題が生じることを指摘してい
Dodge & Somberg, 1987),あるいは,非行行為などの実際的行
る。したがって,本研究では,攻撃性に影響を与える要因として
動(Dodge, Price, Bachorowski, & Newman, 1990)や質問紙や
第二の個体化を取り上げ,その関係について検討することを目的
アンケートなどの自己報告法(Epps & Kendall, 1995; Homant &
とする。第三に,青年期の自他への攻撃性を検討するに際しては,
Kennedy, 2003)など,多様な方法で評定された攻撃性や攻撃行
依存と独立の欲求などが錯綜した複雑な対人関係においてそれを
動との間に正の関連が示されている。以上のことにより敵意帰属
とらえる必要がある。この点については,すでに Dodge らによる
仮説の妥当性は一般にかなり強固なものと評価されている(Crick
敵意的帰属研究が他者の意図の偏った認知と攻撃性との関連を検
& Dodge, 1994)。
証している。しかし,自己への攻撃性を説明するにあたっては,
このように,攻撃性と他者の意図の認知に関係性があることが
相澤(2010, 2011)が提起する嫌悪判断の観点から検討する必要
先行研究から示されているが,こうした研究で扱われてきた攻撃
があるものと思われる。そこで,本研究では,攻撃性に影響を与
は,他者へ向けられた攻撃性であり,自己へ向けられた攻撃性と
える要因として敵意帰属と嫌悪判断の両者を取り上げ,その関係
の関連性を求めた研究はまだなされていない。しかし,自己への
について検討することを目指す。
攻撃性の視点から他者の意図の認知を考える際,従来までの他者
本研究で検証されるおもな仮説は以下のとおりである。
からの敵意や悪意を認知する認知の歪みが自己への攻撃性に繋が
仮説1:第二の個体化が達成できていないものは自他ともに方向
るとは考えにくく,敵意という視点だけでは不十分であると考え
づけられる攻撃性が高くなるであろう。なお,個体化のどのよう
られる。
な側面が攻撃性に関連しているかについては探索的に検討してい
以上のことと関連して,相澤(2010,2011)は,Dodge らの敵
く。
意帰属研究の妥当性を踏まえつつも,他者の意図として対人挑発
仮説2:対人挑発場面において他者の意図を敵意と判断し,怒り
場面のおける敵意のみが取り上げられている点に着目している。
の情緒反応を体験する傾向のあるものは他者への攻撃性が高くな
そのうえで,敵意以外にも対人葛藤をもたらすような他者の意図
り,また,対人疎外場面において他者の意図を嫌悪と判断し,不
の認知がありうるとして,「対人疎外場面」における「嫌悪判断」
快の情緒反応を体験する傾向にあるものは自己への攻撃性を高め
の概念を提起している。ここで,対人疎外場面とは,「何らかのか
るであろう。
たちで他者との結びつきが断たれる状況(例えば自分が電車の座
方法
席に座ったとき隣の人が立ち去ってしまうなど)」のことであり,
嫌悪判断とは「相手が自分のことを嫌って」,あるいは,「自分の
ことを避けるために」意図的にそのようなことをしたとみなすこ
1.調査協力者と調査期間
とを指す。相澤(2010)は,嫌悪判断を頻繁におこなう傾向にあ
4年制の国公立大学と私立大学に在籍する大学生439名を対象に
る人は,対人場面において不安を体験し回避的に振舞いやすいと
下記の心理尺度を含む質問紙を実施した。その中から回答に不備
している。
のなかった396名の大学生(男性175名,女性221名)を分析対象と
他者からの嫌悪を認知するということは,自身が嫌われている
した(有効回答率90.20%)。対象者の平均年齢は20.22歳(18~28
という認識をおこないやすく,自己否定や自責感に繋がりやすい
歳,SD=1.64)であった。調査期間は2009年11月上旬から12月上
と思われる。特に,青年期では,急激な身体的変化に伴い,自己
旬。講義時間を用いて調査用紙を一斉配布し,回答してもらった
洞察力が深まり自己の存在を確かめようとする自己意識が高まる
ほか,知人の協力を得て,直接または間接的に手渡して回収した。
時期であるので,自分に対する他人からの評価や対応にも敏感に
また,何部かは郵送で協力を依頼し回収した。
なる。他者から否定的に評価されることは自己評価に直結しやす
く,そのような否定的な自己を打ち消そうとする衝動が自己への
2.質問紙の構成
攻撃行動や攻撃感情の高まりをもたらすことが想定される。そし
以下の心理測定尺度,ならびに,場面想定法による他者の意図
て,それらのことが諸種の自己破壊的行動に結びつく可能性が考
の判断と情緒反応の測定を含む質問紙を調査協力者に実施した。
えられる。以上のことより,敵意帰属が他者への攻撃性を高める
①攻撃性質問紙(安立,2001)
のに対して,嫌悪判断は自己に対する攻撃性を高める結果となり
安立(2001)によって作成された「攻撃性質問紙」を用いた。
やすいものと推測される。
これは,①自己主張・適応行動などの能動性を測る「積極的行動」,
以上の考察を踏まえ,本研究では青年期の攻撃性について以下
②自己攻撃性(内包傾向)を測る「自責感」,③自己攻撃性(表出
の観点から検討することを目的とする。第一に,現代の青年の攻
傾向)を測る「自己破壊行動」,④対象攻撃性(内包傾向)を測る
撃性については専ら他者に向けられた攻撃性を扱う研究が主流で
「猜疑心」,⑤対象攻撃性(表出傾向)を測る「対象攻撃行動」の
あり,攻撃性の側面として自己に向けられた攻撃性は重要であり
5要素から成る質問紙であり,表出傾向については,実際に行動
ながらも,それに関する研究は大変少ない。そのため,本研究で
するかどうかを問うのではなく,あくまで欲求(“~したくなる”)
は攻撃性に他者へ方向づけられる攻撃性と自己へ方向づけられる
について問う項目となっている。「対象破壊行動」8項目,「積極
攻撃性を含め,検討することを目的とする。第二に,青年期は親
的行動」9項目,「自責感」7項目,「自己破壊行動」5項目,「猜
- -
11
(12)
疑心」4項目からなる33項目。それぞれについて“全く当てはま
造が得られた。5因子全体での寄与率は43.25%であった。以上の
らない”から“非常にあてはまる”の6段階で評定してもらった。
結果から,安立(2001)と同一の5下位尺度(対象攻撃行動,積
②第二の個体化尺度(佐古,2007)
極的行動,自責感,自己破壊行動,猜疑心)を構成した。因子間
佐古(2007)が作成した,Blos の提唱した第二の個体化過程の
相関と下位尺度間相関を Table1に示す。
概念に基づいて青年期の個体化を測定する「第二の個体化尺度」
また,各下位尺度について信頼性係数(α係数)を算出したと
を使用した。3つの下位尺度で構成され,「親との葛藤」12項目,
ころ,対象攻撃行動(8項目)で .830,積極的行動(9項目)
「親からの分離」7項目,「個体化」10項目からなる。29項目それ
で .838,自責感(7項目)で .782,自己破壊行動(5項目)で .709,
ぞれ“全く当てはまらない”から“非常にあてはまる”の7段階で
猜疑心(4項目)で .779,尺度全体(33項目)で .839となった。
評定してもらった。
自己破壊行動に関しては少し低い値であったが,項目の少なさを
③場面想定法による対人葛藤場面における他者の意図の判断測定法
考慮して許容しうる程度の値であると考えられた。以上のことに
場面想定法による対人葛藤場面における他者の意図の判断測定
より尺度全体,ならびに,下位尺度の等質性が確認されたものと
法(以下,意図判断測定法)の刺激場面として,相澤(2010)に
みなした。
より作成された対人挑発場面4場面と対人疎外場面3場面を用いた。
②第二の個体化尺度の検討
対人挑発場面は,他者の敵意的な意図によってもたらされたと判
第二の個体化尺度の29項目に対して因子分析(主因子法,プロ
断しやすく,対人疎外場面は,他者の嫌悪的な意図によってもた
マックス回転)を実施した。その結果,佐古(2007)と同一の3
らされたと判断しやすい場面となっている。以上の対人葛藤場面
因子構造が得られた。3因子全体での寄与率は40.73%であった。
7場面を質問紙を介して文章により調査協力者に提示し,「その場
以上の結果から,佐古(2007)と同じ3下位尺度(親との葛藤,
面が実際に生じたと想像するように」との教示のもと,対人挑発
個体化,親からの分離)を構成した。因子間相関と下位尺度間相
場面では①敵意帰属(相手の敵意により生じたと思うか),②非敵
関を Table2に示す。
意帰属(相手の行為を偶然だと思うか)に関する質問項目につい
各下位尺度のα係数は,親との葛藤(12項目)が .902,個体化
て,どの程度当てはまると思うかを“まったくそう思わない”か
(10項目)が .829,親からの分離(7項目)が .787と十分な値を
ら“きっとそうだと思う”までの7件法で回答を求め,あわせて,
示しており,尺度全体(29項目)は .843となった。以上のことに
③怒りの情緒的反応(どの程度怒りを感じるか)に関する質問項
よりおおむね尺度の信頼性が確認されたものとみなした。
目に対し“まったく感じない”から“非常に強く感じる”までの
③意図判断測定法の検討
7件法で回答を求めた。対人疎外場面については,①嫌悪判断(相
項目分析を行い,天井効果とフロアー効果を調べた結果,天井
手の嫌悪により生じたと思うか),②非嫌悪判断(相手の行為を偶
効果とフロアー効果は見られなかった。また,各質問項目につい
然だと思うか)に関する質問項目についてどの程度当てはまると
て,対人挑発場面と対人疎外場面の間の相関を確認したところ,
思うかを“まったくそう思わない”から“きっとそうだと思う”
ほとんど相関が見られなかったので,対人挑発場面と対人疎外場
までの7件法で回答を求め,あわせて,③不快の情緒反応(どの
面は別の場面として扱った。
程度嫌な気持を感じるか)による質問項目に対し“まったく感じ
対人挑発場面4場面における敵意帰属に関する質問項目間の相
ない”から“非常に強く感じる”までの7件法で回答を求めた。な
関を確認したところ,4項目は互いに正の相関関係を示した(r=.223
お,各場面の概略は以下のとおりである(( )内は場面の略称,
~.304)ので,4項目を合計したものを「敵意帰属得点」として
付録を参照)。
算出した(M=14.08,SD=4.41)。情緒的反応(怒り)においても
【対人挑発場面】
各質問項目間に正の相関がみられた(r=.341~.478)ことにより,
①自分が教室で読書をしているときに灯りを消される場面(灯
り)
4項目を合計したものを「怒り得点」として算出した(M=20.29,
SD=4.44)。一方で,非敵意帰属では r=.124~.263であり,一部に
②見知らぬ男性に路上で衝突される場面(衝突)
Table 1 攻撃性尺度の因子間相関(左下)と下位尺度間相関(右上)
③授業でプレゼンテーションを非難される場面(発表)
④タクシーに乗車拒否される場面(タクシー)
猜疑心
.491
-
.408 ***
.431 ***
自己破壊行動
.287
.377
-
.382 ***
.060
自責感
.105
.454
.411
-
-.142 **
積極的行動
.096
-.108
-.018
-.165
-
②電車内で隣の同世代の人に席を立たれる場面(電車)
③自己紹介中に席を立たれる場面(自己紹介)
自責感
積極的行動
.175 ***
.100 *
対象攻撃行動
-
【対人疎外場面】
①路上に屯する若者たちから笑い声が聞こえる場面(笑い声)
猜疑心
自己破壊行動
.321 ***
.435 ***
対象攻撃行動
-.056
***p<.001 **p<.01 *p<.05
結果
Table 2 第二の個体化尺度の因子間相関(左下)と下位尺度相関(右上)
1.各心理測定尺度の検討
①攻撃性質問紙の検討
攻撃性質問紙の33項目に対し因子分析(主因子法,プロマック
親との葛藤
個体化
親からの分離
ス回転)を実施した。その結果,安立(2001)と同一の5因子構
- -
12
親との葛藤
-.082
.159
個体化
-.073
.252
親からの分離
.203 ***
.301 ***
***p<.001
(13)
Table 3 意図判断測定法各得点間の相関
対人挑発場面
敵意帰属
怒り
嫌悪判断
不快
敵意帰属
-
攻撃性
対象攻撃行動 猜疑心 自己破壊行動
対人疎外場面
怒り
.367
-
Table 4 攻撃性尺度と第二の個体化尺度の相関
***
嫌悪判断
***
.349
.207 ***
-
不快
第二の個体化
親との葛藤
.229 ***
個体化 -.256 ***
***
.332
.377 ***
.777 ***
***
親からの分離
-.177 ***
自責感
.305 ***
-.259 ***
.213 ***
-.167 **
.145 **
-.365 ***
-.093
-.073
-.186 ***
***
p <.001
ほぼ無相関を示唆する値がみられた。非敵意帰属得点として合計
対象攻撃行動
外した。
関を確認したところ,3項目は互いに相関が認められた(r=.286
~.357)ので,3項目を合計したものを「嫌悪判断得点」とした
(M=10.44,SD=3.69)。また,不快の情緒的反応でも r=.330~.361
.123
.397
*
.130
**
***
**
p <.001 p <.01 *p <.05
Table 5 重回帰分析結果(基準変数:攻撃性,説明変数:第二の個体化)
することは不適切であると考えられたので,以下の分析からは除
対人疎外場面3場面における嫌悪判断に関する質問項目間の相
積極的行動
第二の個体化
親との葛藤
個体化
親からの分離
R
であり,各項目に関係が見られたので,3項目を合計したものを
.250 ***
-.187 ***
-.171 **
.135 ***
2
猜疑心
攻撃性
自己破壊行動
.308 *** .220 ***
-.209 *** -.127 *
-.092
-.079
.157 ***
自責感
積極的行動
.146 **
-.318 ***
-.120 *
.159 **
.417 ***
-.028
.074 ***
.160 ***
***
.182 ***
p <.001 p <.01 *p <.05
「不快得点」とした(M=11.42,SD=3.84)。一方で,非嫌悪判断に
**
おいては,相関係数が r=.208~.277の低い値にとどまったために
合計得点を算出することが困難であった。したがって,以下の分
積極的行動に対する正の係数が有意であり,自責感,猜疑心に対
析からは除外することとした。
する負の係数が有意であった。対象攻撃行動に対しても有意な負
上記により得られた場面想定法による各得点の相関係数を Table
の値が見られたが,値そのものは低いものであった。親からの分
3に示す。すべて正の相関を示す値となり,特に嫌悪判断得点と不
離においては,対象攻撃行動,自責感に対する負の標準偏回帰係
快得点の相関は .777とかなり高い値となった。これは嫌悪判断を
数が有意であったが,値は低いものであった。また,いずれの場
示す人は不快の情緒的反応を起こし,逆に,不快の情緒的反応を
合も決定係数(R2)は有意とはなったが低い値にとどまった。
示さない人は嫌悪判断を示さないという傾向が見られることを示
唆している。
3.対人葛藤場面における他者の意図の判断と攻撃性について
葛藤場面での判断・反応と攻撃性について相関係数を算出した
2.第二の個体化と攻撃性について
(Table 6)。他者の意図判断のうち,敵意帰属は,対象攻撃行動,
第二の個体化尺度と攻撃性について相関係数を算出した(Table
猜疑心との間で低い正の相関が見られた。嫌悪判断では,攻撃性
4)。
5下位尺度との間に有意な結果が得られ,対象攻撃行動,猜疑心,
第二の個体化尺度の下位尺度のうち,親との葛藤は,対象攻撃
自己破壊行動,自責感との間に有意な正の相関,積極的行動との
行動,猜疑心,自己破壊行動との間で弱い正の相関が見られた。
間に低い負の相関が見られた。
個体化では,積極的行動との間に中程度の正の相関,自責感との
情緒的反応のうち,怒りでは,対象攻撃行動との間に中程度の
間に中程度の負の相関,対象攻撃行動,猜疑心との間に弱い負の
正の相関が見られた。不快では,対象攻撃行動,猜疑心,自責感
相関が見られた。また,親からの分離では,対象攻撃行動,自責
との間に低い正の相関が見られ,積極的行動との間に低い負の相
感,積極的行動で有意な結果が得られたものの,ほとんど無相関
関が見られた。
を示唆する値であった。
相関分析より,攻撃性の強さに,葛藤場面での判断・反応が影
以上の結果より,攻撃性の強さに,第二の個体化の概念が影響
響することが考えられた。そこで,葛藤場面での判断・反応が攻
することが考えられた。そこで,第二の個体化が攻撃性に及ぼす
Table 6 攻撃性尺度と意図判断測定法各得点との相関
影響について検討するため,第二の個体化(親との葛藤,個体化,
攻撃性
親からの分離)を説明変数,攻撃性の下位尺度(対象攻撃行動,
猜疑心,自己破壊行動,自責感,積極的行動)を基準変数として
強制投入法による重回帰分析を行った。相関分析の結果では,「親
からの分離」と攻撃性の間にはほとんど関連が見られなかったが,
全くの無相関ではないため,やはり何らかの影響はあることが考
えられ,他の下位尺度と同様に説明変数とした。重回帰分析の結
果を Table5に示す。
対人挑発場面
敵意帰属
怒り
対人疎外場面
嫌悪判断
親との葛藤においては,対象攻撃行動,猜疑心,自己破壊行動
に対する正の標準偏回帰係数が有意であった。個体化においては,
- -
13
不快
対象攻撃行動
猜疑心
.314 ***
.410 ***
.240 ***
.130 **
.135 **
.101 *
.125 *
.028
-.069
-.006
.342 ***
.302 ***
.207 ***
.347 ***
-.205 ***
***
***
***
-.214 ***
.336
.262
自己破壊行動
.173
自責感
**
.314
***
積極的行動
p <.001 **p <.01 *p <.05
(14)
Table 7 重回帰分析結果(基準変数:攻撃性,説明変数:意図判断)
敵意帰属
怒り
嫌悪判断・不快
R
2
対象攻撃行動 猜疑心
.125 *
.152 **
***
-.002
.294
.245 ***
.223 ***
.240 ***
.109
***
頼できていないことを示す猜疑心と関係が見られたと考えられる。
攻撃性
自己破壊行動 自責感
.065
.026
.024
-.097
.170 **
.371 ***
.045 ***
積極的行動
.009
.073
-.241 ***
.131 ***
***
感の問題が強く関わっていると思われる。したがって,他者を信
.054 ***
**
このことから,保持される他者攻撃性と表出される自己攻撃性と
の間に相関が見られたことは妥当な結果であると思われた。
しかし,一方で,建設的攻撃性と考えられる積極的行動と破壊
的攻撃性と考えられる他の4つの下位尺度との間にはほとんど相
関が見られず,関連がないことが明らかにされた。したがって,
*
p <.001 p <.01 p <.05
この2つの攻撃性は別個の心理であり,積極的行動(建設的攻撃
性)が高いからといって,破壊的攻撃性が低くなるわけではなく,
撃性に及ぼす影響について検討するため,葛藤場面での判断・反
破壊的攻撃性が高いからといって積極的行動(建設的攻撃性)が
応を説明変数,攻撃性(対象攻撃行動,猜疑心,自己破壊行動,
低くなるというわけではないという可能性が示唆された。この点
自責感,積極的行動)を基準変数とした強制投入法による重回帰
については今後の検討が必要である。
分析を行うこととした。ただし,嫌悪判断と不快の間には極めて
高い相関(r=.777,p<.001)が見られ,多重共線性が現れる懸念
2.第二の個体化と攻撃性の関連について
があった。そこで,嫌悪判断と不快の両得点を加算し「嫌悪判断・
相関分析の結果から,第二の分離個体化の側面がどれほど攻撃
不快得点」としてひとつにまとめ,3変数(敵意帰属,怒り,嫌
性に関わっているかが確認された。これを考慮すると,それぞれ
悪判断・不快)の説明変数による重回帰分析を行った(Table 7)。
の側面がどのように攻撃性の形成に関わっているのかを検討する
その結果,対象攻撃行動については,怒りと嫌悪判断・不快か
必要があるだろう。そのため,第二の個体化尺度の下位尺度を説
ら有意な正の標準偏回帰係数がみられた。敵意帰属からの係数も
明変数,攻撃性の5下位尺度を基準変数として強制投入法による
有意となったが,値そのものは小さかった。猜疑心へは敵意帰属
重回帰分析を行った結果についてみてみる。
と嫌悪判断・不快からの標準偏回帰係数が有意となったが,前者
まず,攻撃性の下位尺度ごとに見ていくと,対象攻撃行動につ
に関してはほぼ無関連を示唆する値であった。自己破壊行動に対
いては,親との葛藤が対象攻撃行動へ正の影響を与え,個体化,
しては,いずれも無関連を示唆する値にとどまった。自責感に対
親からの分離が負の影響を与えていた。それぞれの標準偏回帰係
しては,嫌悪判断・不快からの係数のみが有意となり,値そのも
数の値をみたところ,最も大きいのは親との葛藤の正の影響であ
のは中程度の正の関連を示唆するものとなった。積極的行動につ
る。このことから,親との関係が不安定で,親との葛藤を抱える
いても有意な係数がみられたのは嫌悪判断・不快のみであったが,
ことが,他者を攻撃する対象攻撃行動を促進することが示唆され
こちらは弱い負の影響を示唆する値にとどまった。いずれの基準
た。次に大きいのは,個体化と,それに続いて親からの分離の負
変数においても決定係数は有意とはなったが,値そのものは小さ
の影響であった。しかし,値は低いものにとどまっており,対象
かった。
攻撃行動に与える影響は小さいものである。特に,親からの分離
に関しては,相関分析においても,その関連があまりないことが
考察
示唆されていたが,自己を確立していようが,親から分離できて
いようが,対象攻撃行動の抑制には弱い影響しか与えていないも
1.攻撃性について
のであると考えられる。
まず,攻撃性質問紙の5つの下位尺度の相関について,破壊的
次に,猜疑心については,親との葛藤が猜疑心へ正の影響を与
攻撃性と考えられる,対象破壊行動,猜疑心,自己破壊行動,自
え,個体化が負の影響を与えていた。それぞれの標準偏回帰係数
責感との間には低い相関(r=.175,p<.001)から中程度の相関
の値をみたところ,最も大きいのは親との葛藤の正の影響である。
(r=.435,p<.001)が見られた。このことは,破壊的攻撃性の4つ
このことから,親との関係が不安定で,親との葛藤を抱えること
の下位尺度は相互に関係しあっていることを示している。
が,他者から攻撃される恐れ,他者に対する懐疑的感情である猜
福島(1971)は,攻撃を向ける方向について,「強い攻撃性の外
疑心を促進することが示唆された。次に大きいのは個体化の負の
界への発散がブロックされると,その攻撃性が自分自身に向かう」
影響であり,自己を確立できていることが猜疑心を抑制している
と述べている。また,自傷行為の視点においては,自己破壊行為
ことが示唆された。ここで,親との葛藤が最も猜疑心に負の影響
の裏には,対象に対する強い攻撃性が潜んでおり,間接的な他者
を与えていたことについて少し考えてみたい。猜疑心は他者に対
攻撃という側面が存在する(谷口,1994)という指摘がされてい
する恐れや懐疑であり,対人信頼感が欠如していることの現れで
る。したがって,他者への攻撃性が強いものでも,その発散を抑
あると思われる。対人信頼感は,乳幼児期の母子間の相互関係を
制する要因がある場合においては,その内包された攻撃性が自己
通して基本的信頼感として発生し,生涯にわたる信頼と不信の過
へと向かう危険をはらんでいるのではないかと思われる。そのた
程を経て,成熟した信頼感へと発達していくものである。親との
め,自己への攻撃と他者への攻撃性が相互に相関をもったと考え
間に葛藤が強く存在するということは,親への不信を何度も経験
られる。また,猜疑心と自己破壊行動との間でも中程度の相関が
することであり,信頼感の欠如に繋がると考えられる。したがっ
見られた。自己破壊行動はいじめや喧嘩,家族の問題,孤独など
て,親との葛藤を感じることが猜疑心を高める負の影響を与えて
の人間関係における悩みで多くみられることから,他者への信頼
いるのではないだろうか。
- -
14
(15)
自己破壊行動については,親との葛藤が自己破壊行動へ正の影
考えづらい。親からの分離における葛藤が最も経験されると考え
響を与え,個体化が負の影響を与えていた。それぞれの標準偏回
られるのは,青年期前期から中期であるとされており,今回の研
帰係数の値をみたところ,最も大きいのは親との葛藤の正の影響
究では青年期後期にあたる大学生を対象としていることも影響し
である。したがって,親との葛藤を抱えていることが,自己に向
ているのではないかと思われる。したがって,この点については
けられる破壊的で情動的な行動である自己破壊行動を促進すると
今後も調査対象を変えて検討していく必要があるだろう。
考えられる。また,個体化の標準偏回帰係数はかなり値が低く,
仮説1において,第二の個体化の未達成が自他へ向かう破壊的
自己破壊行動にはほとんど影響を与えていないと考えられる。個
攻撃性を高めるとの推測をおこなった。本研究の結果から,第二
体化は相関分析においても,その関連があまりないことが示唆さ
の個体化の下位側面である親との葛藤が強いと,自他へ向かう破
れていたが,自己を確立できていることが,自己破壊行動を抑制
壊的な攻撃性と猜疑心が高まるとともに,個体化の達成が破壊的
する直接的な要因にはならないことが示唆された。自己破壊行動
な攻撃性や自責感を抑制し,建設的な攻撃性を促進するとの関連
は衝動的なものであり,いじめや喧嘩,家族の問題といった人間
が示唆された。以上のことより仮説1はおおむね指示されたと言
関係における悩みを持った時に死や自傷への意識が多くみられる
える。
(角丸他,2005)ことから,対人葛藤が中心であると考えられる。
したがって,自己が確立できているかどうかからの影響が見られ
3.葛藤場面での判断・反応と攻撃性の関連について
ず,親との葛藤を感じることが自己破壊行動へ影響が見られたこ
葛藤場面における他者の意図判断とそれに伴う感情が,個人の
とは妥当な結果だと言えよう。
攻撃性にどのように影響しているかを検討するために,葛藤場面
自責感については,親との葛藤が自責感へ正の影響,個体化,
での判断測定法の下位得点を説明変数,攻撃性の5下位尺度を基
親からの分離が負の影響を与えていた。それぞれの標準偏回帰係
準変数として強制投入法による重回帰分析を行った結果について
数の値をみたところ,最も大きいのは個体化の負の影響である。
みてみる。
このことから,自己を確立できていることが自己否定感や罪悪感
まず,対象攻撃行動についてみておくと,敵意帰属,怒り,嫌
といった自己に向けられる否定的感情である自責感を抑制してい
悪判断・不快からの標準偏回帰係数が有意な正の値を示した。た
ることが示唆された。これは常識的に考えて整合性のある結果だ
だし,怒りと嫌悪判断・不快については,正の関連を積極的に支
と考えられよう。また,親との葛藤,親からの分離の標準偏回帰
持する値が得られたが,敵意帰属からの値は非常に低くほぼ無関
係数はかなり低く,自責感にはほとんど影響を与えていないと考
連を示唆するものとなった。以上の結果は,第一に怒りと対象攻
えられる。
撃行動の関連については仮説2を支持する。しかし,敵意帰属と
最後に,積極的行動については,親との葛藤,個体化が積極的
攻撃行動との間に正の関連がみられなかった点,ならびに,嫌悪
行動へ正の影響を与えていた。個体化の標準偏回帰係数が最も大
判断と攻撃行動との間に正の関連がみられた点において,仮説2
きく,自己を確立できていることが,自尊心を持ち外界への適応
に反する結果である。
を発動させる行動である積極的行動を促進していることが示唆さ
対象攻撃行動と敵意帰属については,繰り返し敵意帰属と攻撃
れた。しかし,親との葛藤では,相関分析においても,その関連
性の関連を検証してきた先行研究の成果と矛盾する(Crick &
があまりないことが示唆されていたが,標準偏回帰係数は低く,
Dodge, 1994; Orobio de Castro et al., 2002) 。また,今回のもの
積極的行動にはほとんど影響を与えていないと考えられた。積極
とほぼ同様の対人挑発場面を用いて Buss-Perry 攻撃性質問紙
的行動は,周囲に影響を受けずに自分の考えをつき進めていける
(BAQ)との間に正の相関を検証した相澤(2011)の研究とも一
行動といえよう。それに対し,個体化は,人に頼らず自分の力で
致しない。ただし,今回用いた攻撃性質問紙のこの下位尺度の項
物事を決定し自己を確立することであり,個体化が達成できてい
目内容を詳細に検討すると,「腹が立つ相手には嫌みや皮肉を言っ
ることが積極的行動を促進することは妥当であるといえる。
てやりたいと思う」や「特定の誰かが気に入らなくて反抗的な態
以上のことより,攻撃性全体の傾向を見ていくと,親との葛藤
度をとることがある」などのように比較的苛立ちや不快感などの
は,対象攻撃行動,猜疑心,自己破壊行動に正の影響を与えてお
情緒反応を含む内容のものが多い。以上の尺度の特徴が,敵意帰
り,親との葛藤が強いことが,破壊的攻撃性の形成を促進する影
属よりも怒りの情緒反応と対象攻撃行動との関連を強めた可能性
響を与えていることが示された。また,個体化は,対象攻撃行動,
が考えられる。この点については,今後他の攻撃性尺度との関連
猜疑心,自責感に負の影響,積極的行動に正の影響を与えており,
を含めて詳細に検討する必要がある。
個としての自己が確立されていると,対象攻撃行動,猜疑心,自
一方で,嫌悪判断・不快と対象攻撃行動との間に正の関連がみ
責感といった破壊的攻撃性を抑制し,積極的行動といった建設的
られた。嫌悪判断は自己への攻撃性を高めると推測されており,
この点では仮説の範疇を超える結果である。しかし,前掲の相澤
攻撃性を高める傾向にあることがわかる。
なお,第二の個体化の一側面である親からの分離は,対象攻撃
(2011)の研究においても,嫌悪判断は BAQ の一部の下位尺度と
行動,自責感で有意な関連を示したが,値は低いものとなってお
正の関連がみられた。したがって,嫌悪判断と攻撃性の関連は再
りほとんど影響が見られなかった。このことは,親からの分離の
現性のある可能性がある。このことは,嫌悪判断が何らかのかた
達成の度合いは攻撃性に直接影響を与えていないことを示してい
ちで攻撃的行動や攻撃的感情の高まりに結びつく可能性を示唆す
る。しかし,親からの分離によって引き起こされる葛藤や不安は
る。
第二の個体化の重要な側面であり,破壊的な攻撃性と無関係とは
猜疑心に対しては,敵意帰属と嫌悪判断・嫌悪との間に有意な
- -
15
(16)
標準偏回帰係数がみられた。ただし,前者については値が小さく,
属の正の効果を示唆する結果が得られず,むしろ,嫌悪判断・不
ほとんど無関連を示唆するものであった。それに対して,後者は
快からの効果が主に有意となった点は仮説2に一致しない結果で
弱いながらも正の効果を与えていることが示唆された。猜疑心は,
あった。以上の点については今後より詳細な検討が必要である。
対象攻撃性が表出されずに保持されたものとしての「他者から攻
まとめと今後の課題
撃される恐れや,他者に対する懐疑的感情」を測定する(安立,
2001)。したがって,他者への攻撃性に相当するため,上記の結果
は本研究の仮説1に反するものである。
本研究では,攻撃性の形成に影響をあたえている要因として第
ただし,この定義上からも,また,尺度の具体的な項目内容か
二の個体化,他者の意図の判断と情緒反応との関連を検討した。
らも,嫌悪判断との正の関連にあることは容易に推察される。他
まず,第二の個体化と攻撃性の関連を検討した結果,第二の分離
者を恐れ不信に思う心理は,他者からの嫌悪や忌避を予期する心
個体化の未達成が攻撃性形成に影響を与えていることが示唆され
理に近しいと考えられるからである。むしろ,上記の関連は,嫌
た。また,他者の行為の意図判断とそれに伴う情緒的反応の視点
悪判断が攻撃性に結びつくひとつのパターンを表現しているのか
から攻撃性との関連を検討し,対人葛藤場面における認知と情緒
もしれない。つまり,「他者から嫌われている,避けられている」
反応のあり方が自他に向かう攻撃性に一部関連していることが示
という認知から「他者が恐ろしい,信じられない」との気持に結
された。
びつき,その心理的負担の解消として他者に対する攻撃行動や攻
今後の課題としては,第二の個体化との関連から考えると,青
撃感情の高まりが生じるとの流れである。以上の問題については,
年期の個体化は中学生から大学生にかけて達成されていき,皆川
今後より詳細な攻撃性尺度との関連を通じて検討する必要がある。 (1980)によると,幼少期において安定している両親への依存関係
自己破壊行動については,嫌悪判断・不快との間に有意な正の
を少しずつ軽減し,依存愛情対象に別れを告げて,新たな家族外
値がみられた。しかし,数値自体は小さいものであり,ほぼ無関
の愛情対象を見いだす準備をしつつ,自らの道を歩みだす過程で
連を示唆すると評価される。その他に有意な関連がみられなかっ
あるように,親子関係と友人関係の2つの視点を含めて検討して
た。以上の結果は仮説1に反するものである。この点については,
いく必要があるだろう。また,本研究の調査対象者は大学生であっ
敵意帰属と対象攻撃行動の関連との違いが関係しているものと思
たが,今後は,自己と攻撃の関係がより重要な問題として指摘さ
われる。つまり,対人挑発場面の発生を相手の敵意によるものと
れている中学生,高校生に対しても調査を行っていく必要がある
帰属した場合,その解決手法として他者に攻撃性を向けることは
と考えられる。
一定の効果があると期待される。したがって,敵意帰属は比較的
また,他者の意図判断との関連から考えると,場面の影響,調
直接的に他者への攻撃行動に結びつきやすいと考えられる。しか
査協力者のサンプリングなどについて十分に調整し,さらなる検
し,対人疎外場面の発生を自己に対する相手の嫌悪によると解釈
討が必要であることが示唆された。さらに,対人葛藤場面におけ
した場合には,自己破壊的行動は一時的な苛立ちや不満の解消は
る内的状態の変化は,実際と場面想定時における推測では異なる
なっても,合理的な解決に結びつくことは期待できない。したがっ
可能性が考えられる。特に,場面想定法では,状況の具体性に限
て,嫌悪判断や不快の情緒反応と自己破壊的行動との間に積極的
界があると同時に曖昧さが存在し,場面をシュミレーションする
な関連を支持する結果が得られにくかった可能性が考えられる。
際に調査協力者の持っている知識によって不足な情報が補填され
自責感については,嫌悪判断・不快との間に中程度の正の効果
ると考えられ,判断や反応に個人差があらわれやすいものだった
を示唆する値が得られた。この自責感は,自己へ向かう攻撃性の
と思われる。したがって,本研究では,文章によって提示したが,
保持されたものとして「自己否定感,罪責感といった自己に向け
より日常に近い状況において実験的に検討することも今後の課題
られる否定的感情」を測定するものである。したがって,上記の
として求められる。
結果は,対人疎外場面で自己が嫌われたり避けられたりしている
また,全般的な結果についてはいずれの重回帰分析においても,
と認知しやすい人は,そのような自己否定感情を抱きやすいこと
重決定係数は有意であったものの,低い値にとどまり十分な値と
を示唆している。以上の関連は十分に予測しうるものである。一
は言えなかった。今回の研究は,攻撃性を説明する包括的なモデ
方,敵意帰属,ならびに,怒りとの間には有意な値は検証されな
ルを検討することよりも,第二の個体化,ならびに,対人葛藤場
かった。以上の結果は仮説2を支持する。
面における他者の意図の判断という特定の要因との関連を検討す
最後に積極的行動については,嫌悪判断・不快との間に有意な
ることを目指した。そのため,説明変数の数,ないしは,種類が
負の値がえられた。積極的行動は,攻撃性の能動的な力とされ「自
少なく,このことが説明率の低さにつながったものと思われる。
尊心を持ち外界への適応を発動させる行動」と定義される(安立,
今後は,今回の研究の結果を踏まえたうえで,そのほか関連が予
2001)。嫌悪判断は,対人場面において不安を惹起し回避的傾向を
測される変数も含めて攻撃性との関連を検討していくことで,説
高めるものと考えられる。したがって,積極的行動を抑制する傾
明率を高めていくことが求められる。
向にあることは十分に理解できる。仮説そのものには直接関連は
ないものの,嫌悪判断の構成概念上妥当な結果であるといえる。
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≪付録≫場面想定法による他者の意図の判断と情緒反応測定例(対人挑発場面・灯り)
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