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無料体験冊子 - LEC東京リーガルマインド

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無料体験冊子 - LEC東京リーガルマインド
LEC・新司法試験合格答案ストラテジー講座・公法系[憲法]
LEC
新司法試験
論文対策
合格答案ストラテジー講座
合格答案作成マニュアル1
公法系・憲法
~問題文の読み方,誘導への乗り方~
無料体験冊子
LEC・新司法試験合格答案ストラテジー講座・公法系[憲法]
LEC・新司法試験合格答案ストラテジー講座・公法系[憲法]
公法系
憲法(1~5回)では、以下の旧司法試験の過去問を使用します。
ご自身の論文過去問集などを準備されると学習効果が高まります。(問題文
は板書として配布されますのでなくても学習に支障はございません。)
① S59-1
② S60-1
③ S62-1
④ H4-1
⑤ H6-1
⑥ H8-1
⑦ H10-1
⑧ H13-1
⑨ H14-1
⑩ H15-1
⑪ S57-2
⑫ H5-2
⑬ H6-2
⑭ H7-2
⑮ H9-2
⑯ H11-2
⑰ H12-2
⑱ H15-2
1
無断複製・頒布を禁じます
LEC・新司法試験合格答案ストラテジー講座・公法系[憲法]
【はじめに】
この講座・テキストは、新司法試験・論文式試験に合格はしたいのだけれでも、
ロースクールの授業だけでは、、、
① 問題文の読み方が分からない。聞かれていることが、ごちゃごちゃになってし
まう。
② 答案練習会にいっても、なかなか合格点が取れない。点が伸びない。
③ 答案の書き方が全く分からない。習ってない。
④ 毎回時間切れ・途中答案になってしまう。時間が足りない。
⑤ そもそも、問題提起で詰まってしまう。書き出しが分からない。
⑥ あてはめってなんですか?
⑦ 規範は必要かどうかわからない。どこに書くの?
⑧ 問題文の事実はどうやって使うの?ただ書き写せばいいの?
⑨ 返ってきた成績と自分の手ごたえが、全く違う。
⑩ とにかく、不安だ。でも絶対に受かりたい。
といった、受験生(主に未修者)のアンケート(ニーズ)に答えたものとなってお
り、論文の苦手な受験生、特に『未修者』にとっては、答案の作成の『お作法』を学
ぶことで、一気に実力の伸びるきっかけとなるものである。
答案練習の前後に本テキストを読み返して、何度も復習し、実力アップをし、また、
試験直前にもう一度読み返して、絶対に最終合格を勝ち取ってほしい。
答案ルール1(シークレット・シークレット1)
①
②
③
④
⑤
無断複製・頒布を禁じます
2
LEC・新司法試験合格答案ストラテジー講座・公法系[憲法]
【憲法】
UNIT1
テーマ1
法令違憲と適用違憲
新司法試験の憲法の答案を作成するに当たって,第一に注意しなければならないのは,法
令違憲と適用違憲の区別です。ほぼ毎年(2006年度はなし),この2つの区別を書き分
けることが要求されています。
2008年度に,以下のような採点実感・考査委員からのヒアリングが公表されたことによっ
て,受験生の中にも,これだけは注意しよう,という認識が共有されるようになりました。
【ヒアリングに注意!!】
「今回の憲法の問題は,適用違憲,法令違憲が問題となってくるが,法令違憲と適用
違憲のそれぞれの概念の理解ができていないという答案が多かった。これはかなり基
本的な概念であるにもかかわらず,例えば,問題に挙がっている個別的な事情,事実
(LEC注:Aの表現内容が死刑問題や戦争への認識を深めることを目的としている
点や注意書きをサイト内に載せている点)だけを取り上げて法令違憲だという論述を
することは,本当に基本的な概念を理解できているのか疑問に思わざるを得ない。」
(2008年度 公法系ヒアリング3頁)
「今回の設問も,法令違憲と適用違憲(処分違憲)とを区別して論ずべきであるが,
法令違憲と適用違憲(処分違憲)の違いを意識して論じている答案は少なかった。一
応区別しているが内容的に適切でないものなど,違憲判断の方法に関する学習が不十
分と思われるものが多かった。」
(2008年度 採点実感)
「法令違憲を論じているはずなのに,その理由として,Aの目的や注意書き添付と
いった個別具体的行為を理由に違憲の判断を導くものが圧倒的に多く,実際には適用
違憲(処分違憲)の論述をしていた。法令自体の問題点を論ずべき法令違憲(当該処
分の違憲性から過度の広汎性等の理由で法令自体の違憲性へと進むアプローチもあ
る),当該処分(適用)の問題点を論ずる適用違憲(処分違憲)の基本的相違を正確
に理解する必要がある。」
(2008年度 採点実感)
「イ 法令違憲では,ウェブサイト全体をフィルタリング対象にするという広汎さが
明らかに問題になるのに,この点の検討を省いている答案がかなりあった。同様に,
Aが自己のサイトで注意喚起していることも適用審査において明らかに問題とすべ
きであるが,書いていない答案が目立った。
ウ Aが注意を促す文章を掲げていたという点を,適用違憲(処分違憲)を念頭に置
いて適切に拾い上げて論述している答案は少なかった。触れていても,問題文でヒン
トを出しているにもかかわらず,これを法令違憲の根拠として用いるものが多かっ
た。」
(2008年度 採点実感)
3
無断複製・頒布を禁じます
LEC・新司法試験合格答案ストラテジー講座・公法系[憲法]
その結果,2009年度の採点実感では,「内容面でも,例えば,まず法令違憲の主張を行い,
それが認められない場合でも適用違憲(処分違憲)を論じるというように,両者の関係の理
解が適切と思われるものが増えるなど,違憲判断の方法に関する理解ができてきているよう
に思われた。」というコメントが出されています。法令違憲と適用違憲の区別は,現在では多
くの受験生が出来ているので,この部分でミスをしてしまうと,致命傷となりかねません。
法令違憲と適用違憲との違いを意識してもらうために,練習問題を2つ,用意しました。
「当てはめ」で用いるべき事情(当該法令ないし処分が違憲であると主張するための具体的
事実)が異なってくる,という点に注意して,練習問題を解いていきましょう。
UNIT1
まとめ
法令違憲
↓
適用違憲(処分の違憲)
の2段階で考える
無断複製・頒布を禁じます
4
LEC・新司法試験合格答案ストラテジー講座・公法系[憲法]
UNIT2
練習問題1
以下の設例を読み,問いに答えなさい。なお,設例は現行の法令等を一部改変して作成した架空
のものである。
Xは,Y市で病院を経営する医療法人であるが,病院名を「○○乳腺病院」へと変更することを
内容とする定款変更の認可を申請した。しかし,Y市は,以下の理由により,不認可処分を行った。
Xは,この不認可処分の取消を求めて訴えを提起した。
○ 医療法A条によれば,医療機関が広告することができるのは,同法B条に列記された診療科名
に限られる。それ以外の,診療科名又は診療科名と紛らわしい文言については,これを「病院の
名称」としても用いることは許されない。
「乳腺」の名称は医療法によって広告が認められている
診療科名に該当しない。
「乳腺」は,身体の部位を指すものとして,医療法が広告を禁ずる「診療
科名又は診療科名に紛らわしい文言」に当たる。
○
「乳腺」が診療科名として採用されなかったのは,医道審議会が平成8年に厚生大臣(当時)に
宛てて,
「乳房部疾患の医療に取り組んでいる外科,婦人科等との整理・区分が必ずしも十分でな
く,また,乳房部疾患を専門的にみる診療体制が十分整っている診療分野と考え難い」との意見
書を提出したためである。
小問1
小問2
Xは,どのような憲法上の主張をすると考えられるか。簡潔に述べなさい。
(35点)
この問題に関する,あなた自身の考え方を述べなさい。
(65点)
(慶應義塾大法科大学院・2008年度既修者入試)
(具体的な論述の流れについて)
小問1では,Xの立場から,Y市の不認可処分が違憲であることを主張します。「診療科名に紛
らわしい文言」という規制が漠然として不明確である,という主張も理論的には考えられます。し
かし,規制対象が医師という専門家であり,萎縮効果の危険性が小さいことから,この主張は書か
なくてもよいでしょう(2009年度新司法試験と同じ問題意識)
。
不認可処分そのものの違憲性を主張する前提として,医療法が,広告の際に使用する診療科名を
限定しており,さらに,「病院の名称」についても規制を設けている点を法令違憲として論じるこ
とが重要です。Xの主張としては,広告文言がB条に列記された診療科名に限定される点で,消極
的表現の自由の侵害(一定の表現活動の強制)に当たると主張するのが適当です。これを主張する
ことで,法令そのものが違憲となるので,当然に処分も違憲となりますが,「乳腺」は患者(一般
人)にとっても,その部位・範囲が比較的明らかであることを指摘して,患者が混乱することは無
く,必要最小限の規制を超えている,と主張することもできます。
小問2では,営利的表現の自由であることをしっかりと検討し,中間的な審査基準を採用すべき
です。そして,医療法が,広告規制と病院名称の規制を使い分けていることから,法令としては合
憲とすべきでしょう。その上で,不認可処分の合憲性について,提出された意見書で述べられてい
る,「乳腺」を診療科名から除外した理由の合理性を検討することになります。結論は,合憲・違
憲いずれもあり得ますが,違憲とする場合には,平成8年当時と現在とでは立法事実に違いがある,
ということを強調する必要があります。
5
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LEC・新司法試験合格答案ストラテジー講座・公法系[憲法]
実際に書いてみよう1
UNIT2 小問1について
第1
一
小問1について・・・■
法令違憲について・・・■
1 本件では、
■1ナンバリングに注意!!
■1法令違憲と適用違憲の違い
が分かっているとPRするため
に、明確に書くのもOK!
不認可処分の根拠となる
は,
「
で
」との名称変更が認められていない。
■本問では具体的に何が制約さ
れているのか。
↓
の違憲性を論じる。
そこで,かかる
■具体的な法令の名前を挙げる。
↓
まず,病院名を「○○乳腺病院」と変更することは,病
院経営の一環としてなすものであり,
に当たるものである。
いわゆる
■具体的な人権を挙げる。
↓
ここで,営利的表現も重要な生活情報としての意味を持
つ
消費者等の
を保障すべく,表現の自由とし
て保障されるものというべきである(
条
項)
。
■反対から考える
条文も忘れずに。
↓
そうすると,上記の医療法の規定は,B条に列記された診療
科名に広告文言を限定することでXの表現活動として一定内容
の表明を強制するものであり,Xの表現の自由は強く制約され
ている。
2
もっとも,表現の自由も「
」
(
条後
段)により,必要な範囲で制約を受けるものである。
⑴
■人権の制約根拠
この点,表現の自由は,
■その価値を考えてみてくださ
い。
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6
LEC・新司法試験合格答案ストラテジー講座・公法系[憲法]
,その制約は最小限の範囲に限られるべきである。
↓
そこで,表現の自由に対する制約は,①規制目的が必
要不可欠なやむにやまれぬ利益であり,②規制手段が目
的達成のための必要最小限度のもののみが許容されると
解すべきである。
⑵
これを本件医療法の規定についてみると,規制目的は,
患者が不適切な広告を目にすることで混乱することを防
止し,適切な医療を受けるようにする点にあり,必要不
可欠なやむにやまれぬ利益である。
しかし,かかる目的達成のためには,患者に混乱を与
えるおそれの高い名称の広告のみを禁じれば十分であっ
て,列記した診療科名に限定することは,必要最小限の
ものとはいえない。
⑵
■規範をCHECK
■あてはめの相場
よって,本件規定は憲法21条1項に反する。
3
また,仮に当該規定が合憲であるとしても,
「乳腺」とい
う言葉は広く知られており,その部位・範囲は比較的明確
であるから,
「乳腺病院」という名称は,外科や婦人科と比
べ,その分野での医療を受けたい患者側にとって混乱を与
えるものではなく,適切な医療を受けることはできる。よっ
て,
「乳腺病院」との名称変更を禁ずる処分は,必要最小限
のものとはいえず,本件処分は違憲である。
■仮に法令が合憲だとしても、
処
分は違憲だという流れ。
■小問2についても、
答案構成だ
けでよいので、
実際に書いてみて
ください。
7
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LEC・新司法試験合格答案ストラテジー講座・公法系[憲法]
答 案 例
第1
1
小問1について
本件における不認可処分の根拠となる医療法A条,B条
では,
「乳腺病院」との名称変更が認められていない。そこ
で,かかる医療法の違憲性を論じる。
まず,病院名を「○○乳腺病院」と変更することは,病
院経営の一環としてなすものであり,いわゆる営利的表現
に当たるものである。ここで,営利的表現も重要な生活情
報としての意味を持ちうるものであるから,消費者等の知
る権利を保障すべく,表現の自由として保障されるものと
いうべきである(21条1項)
。
そうすると,上記の医療法の規定は,B条に列記された
診療科名に広告文言を限定することでXの表現活動として
一定内容の表明を強制するものであり,Xの表現の自由は
強く制約されている。
2 もっとも,表現の自由も「公共の福祉」
(13条後段)に
より,必要な範囲で制約を受けるものである。
⑴ この点,表現の自由は,表現を通じて個人の人格形成
発展に直接かかわる重要な権利であり,その制約は最小
限の範囲に限られるべきである。
そこで,表現の自由に対する制約は,①規制目的が必
要不可欠なやむにやまれぬ利益であり,②規制手段が目
的達成のための必要最小限度のもののみが許容されると
解すべきである。
これを本件医療法の規定についてみると,規制目的は,
患者が不適切な広告を目にすることで混乱することを防
止し,適切な医療を受けるようにする点にあり,必要不
可欠なやむにやまれぬ利益である。
しかし,かかる目的達成のためには,患者に混乱を与
えるおそれの高い名称の広告のみを禁じれば十分であっ
て,列記した診療科名に限定することは,必要最小限の
ものとはいえない。
⑶ よって,本件規定は憲法21条1項に反する。
3 また,仮に当該規定が合憲であるとしても,
「乳腺」とい
う言葉は広く知られており,その部位・範囲は比較的明確
であるから,
「乳腺病院」という名称は,外科や婦人科と比
べ,その分野での医療を受けたい患者側にとって混乱を与
えるものではなく,適切な医療を受けることはできる。よっ
て,
「乳腺病院」との名称変更を禁ずる処分は,必要最小限
のものとはいえず,本件処分は違憲である。
第2 小問2について
1 まず,
「○○乳腺病院」への名称変更は,Xの活動に密接
に関わる情報発信である。また,営利的表現と他の表現の
区別はあいまいであり,営利的表現というだけで保障の枠
外に置くべきではない。よって,本件の名称変更は表現の
●何の違憲性を論じるかを明確
にする。
●権利制約については厚く論じ
る必要がある。
●「明白かつ現在の危険の基準」
は本件では適さない。
目的の必
要不可欠性と,
必要最小限度を
厳格に要求する基準が適当で
あろう。
⑵
無断複製・頒布を禁じます
8
●一定の表現内容を強制するこ
との問題点を指摘すれば,
Xの
主張としては十分である。
LEC・新司法試験合格答案ストラテジー講座・公法系[憲法]
自由として保障されるため,その制約が問題となる。
では,制約の合憲性をどう判断すべきか。
⑴ この点,Xの「○○乳腺病院」との名称変更は,Xの
自己実現の価値を有するものであり,また,患者の側に
情報を提供する意味でも重要な意味を持つ。しかし,営
利的表現は,政治的意思決定に関与するという自己統治
の価値は希薄であり,通常の表現の自由に比べその保障
の程度は低いものといえる。
そこで,①規制目的が重要であり,②規制手段が目的
との実質的な関連性を有する場合,表現の自由に対する
制約が認められるというべきである。
⑵ これを本件についてみると,まず,規定目的は,前述
のように,患者に適切な医療を受けさせる点にあり,そ
の重要性が認められる。そして,規制手段として,広告
規制と病院名に対する規制を分けている。患者に対する
影響が大きい広告については,一定の診療科名に限定す
ることにも合理性は認められ,目的と規制手段との間に
実質的な関連性を認めることができる。
⑶ よって,本件医療法の規定は憲法21条1項に反しな
い。
3 では,「乳腺」を病院の名称として用いることも禁じた
処分はどうか。
2
この点,平成8年における意見書では,①乳房部疾患の
医療に取り組む外科等との区別が不十分,②乳房部疾患を
専門的にみる診療体制が整っていない,との理由で「乳腺」
が診療科名から除外されている。
①について,「乳腺」などの身体の部位を指すものをむ
やみに診療科と認めては,その部分を扱う他の診療科との
整理が不明瞭となり,患者側が混乱するおそれがある。ま
た,②について,少なくとも平成8年の時点では乳房部疾
患の専門的医療体制が不十分であったものと認められる。
そうすると,その後の立法事実の変化が特に認められな
い本件では,「乳腺」を診療科名から除外することにも合
理性が認められる。よって,
「乳腺病院」という名称を禁
止した処分は,上記目的との実質的な関連性が認められ
る。
よって,本件不認可処分は,この点についても憲法21
条1項に反しない。
4 以上より,医療法A条,B条の規定,及びこれに基づく
本件処分はいずれも合憲である。
以 上
9
●営利的表現の自由を違憲審査
基準の緩和の方向で使う。
●適用(処分)違憲に関して,意
見書を活用して,
あてはめを厚
く書くべきである。
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LEC・新司法試験合格答案ストラテジー講座・公法系[憲法]
UNIT3
練習問題2
学校教育法等の規定によれば,私立の幼稚園の設置には都道府県知事の認可を受けなければなら
ないとされている。
学校法人Aは,X県Y市に幼稚園を設置する計画を立て,X県知事に対してその認可を申請した。
X県知事は,幼稚園が新設されると周辺の幼稚園との間で過当競争が生じて経営基盤が不安定にな
り,そのため,教育水準の低下を招き,また,既存の幼稚園が休廃園に追い込まれて入園希望児及
びその保護者の選択の幅を狭めるおそれがあるとして,学校法人Aの計画を認可しない旨の処分を
した。
この事例における憲法上の問題点について論ぜよ。
(旧司法試験・2000 年度・第1問)
(具体的な論述の流れについて)
本問でも,法令違憲と適用(処分)違憲の書き分けが大事です。①学校教育法等の規定により定
められている認可制=法令違憲の対象,②X県知事による本件不認可処分=適用違憲の対象,とい
うことになります。
そして,違憲審査基準へあてはめるべき事情が,法令違憲と適用違憲とで異なることに注意しま
しょう。例えば,本件で挙げられている不認可処分の理由である,「幼稚園が新設されると周辺の
幼稚園との間で過当競争が生じて経営基盤が不安定になり,そのため,教育水準の低下を招き,ま
た,既存の幼稚園が休廃園に追い込まれて入園希望児及びその保護者の選択の幅を狭めるおそれが
ある」といった事情は,X県知事がAに不認可処分をするにあたって考慮した個別的な事情ですの
で,適用違憲で問題となる事情です。
法令違憲においては,学校教育法の規制目的が問題になります。しかし,問題文そのものには規
制目的(立法目的)が書かれていないので,自分なりに規制目的を説明する必要があります。この
ように,本件では,認可制そのものに関しての情報が少なく,そして,認可制そのものを違憲であ
ると結論付けるのはあまり現実的ではないと考えられます。
これに対し,不認可処分については,具体的な処分理由が問題文に書かれています。したがって,
法令違憲と適用違憲とを分けた上で,全体の論述としては,本件不認可処分の違憲性を中心に論じ
ることになります。
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10
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実際に書いてみよう2
UNIT3 22条+αの規範定立まで
第1
本件では,X県知事が学校教育法等の認可制に基づき,Aの幼
稚園設置につき,不認可処分をしている。これにより,Aは幼稚
園を経営し,幼児を教育することができなくなっている。
第2 そこで,学校教育法等の幼稚園設置の認可制及び本件不認可処
分は,
の自由を
侵害し、違憲といえないだろうか。
↓
1 この点,Aは自然人ではなく,法人に過ぎないが,人権の性質
上可能な限り,法人にも人権の保障が及ぶと解する。なぜなら,
法人は一個の社会的単位として社会において重要な役割を果た
しているといえるからである。
↓
としての側面があるところ,
2 そして,幼稚園経営には,
営業の自由は選択した
1項により保障される。
を遂行する自由として,
■オウムの力
■ 具体的 に侵害 される自
由を指摘
■論文ルール
加点式
法人の人権享有主体性
■憲法の条文を
条
● 一定の 教育理 念に基づ
く教育が幼児に対して
も考えられる。
■ 人権を 2本立 てる方法
も→守りの方法
さらに,26条1項・・・省略
3
したがって,学校教育法等の認可制及び本件不認可処分は,2
2条1項及び26条1項により保障される幼稚園経営の自由を
制約しているといえる。
↓
4 もっとも,幼稚園経営の自由も絶対無制約ではなく,
■人権の制約根拠
(12条後段・13条後段)による制
約を受ける。
そこで,いかなる基準で違憲性を判断すべきかが問題となる。
⑴
⑵
この点,本件で制約される権利は幼稚園経営としての
的自由としての側面が強いことからすれ
ば,民主政の過程により回復が可能な権利であるから,違憲
性の判断は緩やかな基準により判断されるべきといえる。
↓
そして,
目的規制については裁判所の判断に
馴染みやすいことから比較的厳格な基準で,他方,積極目的
規制については裁判所の判断に馴染みにくいことから,緩や
かな基準で判断すべきとも考えられる(目的二分論)
。
11
■二重の基準論
表現>経済的
■規制目的二分論
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LEC・新司法試験合格答案ストラテジー講座・公法系[憲法]
↓
もっとも,本件で制約の対象となっている権利は,26
条1項によっても保障される複合的権利である。また,本
件の認可制度及び処分の目的は教育水準の維持にあると考
えられるが,かかる目的は積極・消極いずれの目的ともい
えない。したがって,本件での違憲性の判断基準は,目的
二分論に拠らずに,
⑶
①
,
②
⑷
を考慮して審査基準を決定すべきである。
↓
本問では,①規制態様は幼稚園の設置自体を禁ずる参入
規制であり非常に強い規制といえる。そして,②幼稚園の
設置は営業の自由にとどまらず,自己の教育理念にした
がって児童を教育するという精神的自由としての側面をも
有しているといえる。
そこで,規制の違憲性の判断については厳格な合理性の基
準をもって判断すべきである。
具体的には,
①
であり,
②
を有する場合に,規制は合憲であると判断する。
以下,学校教育法等の幼稚園設置の認可制及び本件不認可
処分の違憲性を順に検討する。
第3 学校教育法等の幼稚園設置の認可制について
↓合憲
第4 本件不認可処分について
違憲
(それぞれ、あてはめの練習もしてみてください)
以
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12
上
■規制目的二分論を取らな
い考え方
LEC・新司法試験合格答案ストラテジー講座・公法系[憲法]
答案例
第1
本件では,X県知事が学校教育法等の認可制に基づき,Aの幼
稚園設置につき,不認可処分をしている。これにより,Aは幼稚
園を経営し,幼児を教育することができなくなっている。
第2 そこで,学校教育法等の幼稚園設置の認可制及び本件不認可処
分は,Aの幼稚園経営,幼児教育に関する自由を侵害し,違憲と
いえないだろうか。
1 この点まず,Aは自然人ではなく,法人に過ぎないが,人権の
性質上可能な限り,法人にも人権の保障が及ぶと解する。なぜな
ら,法人は一個の社会的単位として社会において重要な役割を果
たしているといえるからである。
2 そして,幼稚園経営には,営業としての側面があるところ,営
業の自由は選択した職業を遂行する自由として,22条1項によ
り保障される。
さらに,幼稚園経営には幼児の教育としての側面もあるとこ
ろ,教育の自由は国民の教育を受ける権利を教師の側からとらえ
たものとして,26条1項により保障されるようにも思える。
もっとも,Aは,現実に教育する主体たる教師ではなく,法人
に過ぎないため,あくまで22条1項による保障を中心として2
6条1項による保障は副次的なものと解すべきである。
3 したがって,学校教育法等の認可制及び本件不認可処分は,2
2条1項及び26条1項により保障される幼稚園経営の自由を
制約しているといえる。
もっとも,幼稚園経営の自由も絶対無制約ではなく,「公共の
福祉」
(12条後段・13条後段)による制約を受ける。
そこで,いかなる基準で違憲性を判断すべきかが問題となる。
⑴ この点,本件で制約される権利は幼稚園経営としての経済的
自由としての側面が強いことからすれば,民主政の過程により
回復が可能な権利であるから,違憲性の判断は緩やかな基準に
より判断されるべきといえる。
⑵ そして,消極目的規制については裁判所の判断に馴染みやす
いことから比較的厳格な基準で,他方,積極目的規制について
は裁判所の判断に馴染みにくいことから,緩やかな基準で判断
すべきとも考えられる(目的二分論)
。
⑶ もっとも,本件で制約の対象となっている権利は,26条1
項によっても保障される複合的権利である。また,本件の認可
制度及び処分の目的は教育水準の維持にあると考えられるが,
かかる目的は積極・消極いずれの目的ともいえない。したがっ
て,本件での違憲性の判断基準は,目的二分論に拠らずに,①
規制態様,②規制される経済活動の性質を考慮して審査基準を
決定すべきである。
⑷ 本問では,①規制態様は幼稚園の設置自体を禁ずる参入規制
であり非常に強い規制といえる。そして,②幼稚園の設置は営
業の自由にとどまらず,自己の教育理念にしたがって児童を教
育するという精神的自由としての側面をも有しているといえ
● 一定の 教育理 念に基づ
く教育が幼児に対して
も考えられる。
4
13
● 経済的 自由で あっても
中間的な審査基準を用
いるべき場合が多い。
無断複製・頒布を禁じます
LEC・新司法試験合格答案ストラテジー講座・公法系[憲法]
る。
そこで,規制の違憲性の判断については厳格な合理性の基
準をもって判断すべきである。具体的には,①規制目的が重
要であり,②目的が規制手段と実質的な関連性を有する場合
に,規制は合憲であると判断する。
以下,学校教育法等の幼稚園設置の認可制及び本件不認可
処分の違憲性を順に検討する。
第3 学校教育法等の幼稚園設置の認可制について
1 まず,本件制度の立法目的としては園児の安全確保・園児の
人格形成にとって妥当ではない施設の設置を防ぐということが
想定できる。
そして,これらの目的は,国民の教育を受ける権利について
全国的に一定の水準を確保するための条件整備が国家の責務で
ある(26条1項)ことからすれば重要な目的といえる(要件
①)
。
2 さらに,これらの目的を達成するために,幼稚園を経営する
資質を欠く者による設置を不認可とすることは,目的との関係
で,実質的関連性を有する手段であるといえる(要件②)
。
3 よって,学校教育法等の幼稚園設置の認可制は合憲である。
第4 本件不認可処分について
1 まず,本件不認可処分の目的は,幼稚園の過当競争による教
育水準の低下の防止及び既存の幼稚園の休廃園により入園児と
保護者の選択の幅が狭まることの防止にある。これらの目的を
達成することは,幼児の人格形成に資するもので重要であると
いえる(要件①)
。
2 次に手段についてみると,確かに,幼稚園は近隣の児童しか
通ってこないのが通常であるため,幼稚園の新設は競争につな
がりやすく,価格競争力をつけるべく人件費削減などをして教
育水準が下がるおそれもあるので,新設を抑えることと目的の
関連性は認められるようにも思える。
しかし,他との差別化を図るための競争が質の向上につなが
ることも多い以上,目的と手段との間に実質的関連性あるとは
いえない。
また,既存の幼稚園を守るために競争を抑制し,新規参入を
禁止してしまえば,かえって入園児と保護者の選択の幅を狭め
ることになる。したがって,単に過当競争が生じるということ
をもって不認可処分をするのは目的と手段との間に実質的な関
連性があるとはいえない。
3 よって,本件不認可処分は,22条1項及び26条1項に違
反し,違憲である。
以
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14
上
●競争は価格競争だけに限
られない。
中身を向上させ
る差別化戦略もある。
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UNIT4
テーマ2
内容に着目した規制が登場する場面について
2008年度の新司法試験は,インターネットのフィルタリングが義務付けられた結果,平和
問題や死刑存廃問題に関する情報として「戦場における死傷者の無残な画像,拷問を受ける
人々の画像,公開処刑の画像等」を掲載しているサイトが有害ウェブサイトとして指定され
てしまった,という事案が問われました。
この問題は,岐阜県青少年保護育成条例事件をベースに考えるべきであった,との指摘が
2008年度の採点実感でなされています。そもそも,本問の中心的問題が「青少年保護という
見地からの表現内容の規制」にあった,という点を読み取ることが出来なかった受験生も存
在したようです。
【ヒアリングに注意!!】
「ア 「インターネット規制だから手段規制である」とする答案があった。もしそのような考
え方をすれば,印刷メディアにかかわる規制も手段規制になってしまう。そのような把握が誤
りであることは,明らかである。伝達手段としてのインターネットの特質と印刷や放送の特質
との相違をどのように考えるか,という問題は別途あるが,残虐性に着目した本問の規制は内
容規制である。
」
(2008年度 採点実感)
また,表現内容に着目した規制であることに気付いたものの,表現行為に対する事前抑制
に当たるとして「検閲」を論じている答案も多く,この点で評価を大きく下げてしまった人
もいました。有害ウェブサイトとして指定された,というだけでは,直接的には「発表の禁
止」という効果は生じません。仮に,知る権利の保障も含めた形で「検閲」概念を捉え,受
領行為の規制に着目するとしても,18歳以上であれば,フィルタリング・ソフトの解除は容
易に行えるので,本問において「検閲」をメイン論点のような形で冒頭に論じることは,セ
ンスが良くないと評価される恐れがあります。
【ヒアリングに注意!!】
「今年の問題でも,検閲に当たるかどうかということ(既存の概念の下では検閲に当たるとい
うことにはならないのであるが)をとにかく最初に主張するという答案が多く見られ,この点
は,首をひねらざるを得ない部分であった。今回の事例について,表現の自由を規制するから
といって,いわば条件反射的に「検閲」だという主張を提起するとすれば誤りであり,問題文
をよく読み,「検閲」に関する判例,そして主要な学説を思い起こし,冷静に考えてみる必要
がある。
また,最終的に検閲性を否定している場合でも,実際の答案に記載された理由を見てみると,
その概念の不正確な理解が目に付いた。例えば,「インターネットのみの規制であって印刷物
での発表はできるから検閲ではない。
」という理由や,
「法律に基づいているから,行政権によ
る事前抑制にはならない。」という理由を書いているものがあった。既存の概念の下で検討を
する際には,おかしなことを書いていないか注意すべきであると思う。」(2008年度 採点実
感)
内容規制に関しては,2006年度にも出題されたところですが,表現の自由に関する論点と
15
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しては,内容規制と内容中立規制の区別をどのように考えるのか,という問題が重要です。
そこで,この概念の理解を深めるための練習問題を用意しました。
UNIT5
練習問題
X市の条例は,①小学校の周辺500メートル範囲内に成人向けの映画を上映する施設をつくるこ
とを禁止する,②市長が,小中学校の通学路上に設置されたビラや立て看板の内容が児童を性的に
虐待するもの又は著しく性的感情を刺激するものと認める場合には,それを直ちに撤去することが
できる,としている。この条例の目的は青少年に対する性犯罪を防止すること,青少年の健全な育
成を図ることにあるとされている。この条例に含まれる憲法上の問題点を指摘し,論じなさい。
(一橋大法科大学院・2008年度既修者入試・第1問)
(具体的な論述の流れについて)
1 ①について
⑴
成人向け映画を上映する施設をつくる利益と表現の自由
成人向け映画を上映しようとする者は,その映画を上映する施設をつくる利益を有します。こ
の映画を上映する施設をつくるという利益は,施設建設によって初めて可能となります。すなわ
ち,施設をつくることによって成人向けの映画上映という表現活動を自由に行うことができます。
映画施設建設の利益は,表現の自由と密接な関係にあるといえ,その意味で表現の自由によって
保障された人権です。
⑵
X市条例の合憲性判定基準
表現の自由といえども,公共の福祉(13後)による制限を受けます。X市の条例は,小学校の
周辺500メートルの範囲内に成人向けの映画を上映する施設をつくることを禁止しているので
あって,成人向けの映画それ自体の上映を禁止しているものではありません。そうすると,表現
活動それ自体を禁止する内容規制ではなく,表現活動の時・場所・手段に対する内容中立規制に
すぎません。
内容中立的規制であるとすれば,その合憲性判定基準もLRAの基準(①目的が重要で,②手
段は他のより緩やかな方法によって目的を達成できれば合憲とはいえない基準)と解すべきとす
る見解があります(芦部先生が主張されていました)
。
これに対して,本件条例は,成人向けの映画を上映する施設をつくることができなければ,そ
もそも映画を上映することができなくなるという点で,表現の自由に対する強度の規制と解する
こともできます。そうすると,本件条例の合憲性判定基準は,より厳しい基準(必要不可欠な公
共的利益の基準,①当該規制の目的がやむにやまれぬ必要不可欠な公共的利益であり,②手段は
立法目的の達成に必要最小限度のものである場合には,当該規制は合憲であるとする基準)を適
用すべきということになります。
本件条例の合憲性
⑶
ア
目的
本件条例の目的は,本件条例の目的の一つには,Ⓐ青少年に対する性犯罪を防止することが
あります。青少年が性犯罪の被害にあえば,心に深い傷を負い,成育の障害となることは疑い
ありません。とすると,条例により地域社会が青少年を性犯罪から保護することは,やむにや
まれぬ必要不可欠な公共的利益を有するものといえます。
また,本件条例の目的のもう一つには,Ⓑ青少年の健全な育成を図ることがあります。批判
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能力を有していない段階で青少年が成人向け映画に触れることで歪んだ人格形成がなされて
しまい,将来的に暴力的・破壊的衝動をコントロールできない大人となってしまうおそれが多
分に存在します。とすると,パターナリスティックの観点からもかかる立法目的もやむにやま
れぬ必要不可欠な公共的利益を有するものといえます。
手段
イ
映画館の建設を許可したとしても,露骨な性表現の広告の掲載禁止という別の手段を採れば,
未成年者に及ぼす悪影響を防止できることから,映画館の建設禁止という強力な規制を採らな
くても,他のより緩やかな手段によって条例の目的を達成することができます。
そうだとすれば,本件条例①の規制は成人向け映画館を上映しようとする者の表現の自由に
対する必要最小限度の規制とはいえません。
以上により,本件条例①は,成人向け映画を上映する者の表現の自由を侵害し違憲となります。
2
②について
②の問題点は,規制の対象である「児童を性的に虐待するもの又は著しく性的感情を刺激するも
の」という意味の内容が不明確であることから,本件規制措置が漠然不明確故に無効になるのでな
いかという点にあり,この点について検討します。
人権カタログのなかで優越的地位を有する表現の自由に対して,曖昧・不明確な法律等によって
規制を加えると,表現の自由に対する萎縮的効果を生ずるので,法文上不明確な法律等は原則とし
て無効になります。そして,法文の内容が不明確であるかどうかの基準は,
「通常の判断能力を有す
る一般人の理解において,具体的場合に当該行為がその適用を受けるものかどうかの判断を可能な
らしめるような基準が読みとれるかどうかによって決定される」(最判昭50.9.10)という基準を採
用すべきです。
本件条例は,「児童を性的に虐待するもの又は著しく性的感情を刺激するもの」としていますが,
どういう内容の場合,児童を性的に虐待するものなのか,また,著しく性的感情を刺激するものな
のか,これらを具体的に指し示した基準を何ら記載していません。これでは,通常の判断能力を有
する一般人の理解では,その判断が区々となり,どのような場合に撤去の対象となるビラ等にあた
るか判断することが著しく困難であるといわざるを得ません。
そうすると,本件条例の規定は,不明確であるといえ,ビラや立て看板の設置者の表現の自由を
侵害し違憲無効といえます。
17
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実際に書いてみよう3
第1
1
UNIT5
条例①の問題につき
条例①の問題について
成人向け映画を上映する施設をつくる利益と表現の自由
を上映しようとす
まず、X市で
る場合,
を作る必要性
→成人向け映画を上映する施
設をつくる利益が表現の自由
によって保障されるか否かを
検討する→サブタイトルをつ
けることで採点官に予測可能
性を示す。
↓
(∵映画施設の建設によって初めて,その場所で成人向
け映画を上映することが可能となり,成人向け映画上映と
いう表現活動を自由に行なうことができるから。
)
↓
映画施設の建設は、
(21条1項)
→不可欠の前提や表裏の関係と
いった、パーツを埋める作業。
と
な関係であるといえ,その意味で表現
の自由によって保障された人権である。
2
X市条例の合憲性判定基準
もっとも,
→サブタイトルを!!
→制約根拠
↓
X市の条例によれば,
→具体的に何が制約されている
のか考えてみよう。
を禁止している。
↓
この規制は,形式的に見れば,
→本当に内容中立規制なのか考
えてみよう。
形式的にみると、
である。
↓
しかし,実質的に見れば、
実質的にみると、
規制といえる。
↓
そうすると,本件条例の合憲性判定基準は,
→規範定立
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18
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あるとする基準を採用すべきと解する。
本件条例の合憲性
⑴
目的
3
(2)
あてはめも考えてみましょう。
手段審査
以上より,本件条例①は,成人向け映画を上映する者の表
現の自由を侵害し違憲となる。
第2 条例②の問題点
省略
条例②についても考えてみてください
19
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答案例
第1
1
条例①の問題
成人向け映画を上映する施設をつくる利益と表現の自由
X市で成人向け映画を上映しようとする場合,その映画
を上映するための施設をつくることが必要となる。表現行
為の前提として施設建設が必要であり,映画施設の建設に
よって初めて,その場所で成人向け映画を上映することが
可能となり,成人向け映画上映という表現活動を自由に行
なうことができる。そうすると,映画施設建設の利益は,
表現の自由(21条1項)と密接な関係にあるといえ,そ
の意味で表現の自由によって保障された人権である。
2 X市条例の合憲性判定基準
もっとも,表現の自由といえども公共の福祉による制限
を受ける(13条後段)
。
X市の条例によれば,小学校の周辺500メートル範囲内に
成人向け映画を上映する施設をつくることを禁止してい
る。この規制は,形式的に見れば,成人向け映画そのもの
の上映を禁止している内容規制ではなく,成人向け映画上
映という表現活動がもたらす弊害を除去するために,映画
施設建設禁止という場所的規制であり内容中立規制であ
る。しかし,その規制態様により,成人向け映画を上映す
る施設を建てることができなくなり必然的に映画を上映す
ることができなくなるという点で,実質的には表現の自由
そのものに対する強度の規制といえる。
そうすると,本件条例の合憲性判定基準は,厳格なもの,
すなわち①当該規制の目的がやむにやまれぬ必要不可欠な
公共的利益であり,②手段は立法目的の達成に是非とも必
要な最小限度のものである場合には,当該規制は合憲であ
るとする基準を採用すべきと解する。
3 本件条例の合憲性
⑴ 目的
本件条例の目的の一つには,Ⓐ青少年に対する性犯罪
を防止することがある。青少年が性犯罪の被害にあえば,
心に深い傷を負い,成育の障害となることは疑いない。
とすると,条例により地域社会が青少年を性犯罪から保
護することは,やむにやまれぬ必要不可欠な公共的利益
を有するものといえる。
また,本件条例の目的のもう一つには,Ⓑ青少年の健
全な育成を図ることがある。批判能力を有していない段
階で青少年が成人向け映画に触れることで歪んだ人格が
形成され,将来的に暴力的・破壊的衝動をコントロール
できない大人となってしまうおそれが多分に存在する。
とすると,パターナリスティックの観点からかかる立法
目的もやむにやまれぬ必要不可欠な公共的利益を有す
る。
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20
●成人向け映画を上映する施設
をつくる利益が表現の自由に
よって保障されるか否かを検
討する。
●本件条例の規制の内容につい
て触れる。
●内容中立規制であるが,
厳格な
違憲審査基準を定立した。
●本問の目的の認定は,
やむにや
まれぬものかを検討するもの
であり,
踏み込んだ認定が必要
になると考えられる。
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⑵
手段審査
映画館の建設を禁止しなかったとしても,露骨な性表
現の広告を掲載することを行政指導などによって規制す
ることができれば,未成年者に及ぼす悪影響を防止でき,
上記ⒶⒷの目的を達成できる。そうすると,成人向け映
画館の建設禁止という強力な規制手段を採らなくとも,
他のより緩やかな手段によって条例の目的を達成するこ
とができる。
そうだとすれば,本件条例①の規制は成人向け映画館
を上映しようとする者の表現の自由に対する必要最小限
度の規制とはいえない。
以上より,本件条例①は,成人向け映画を上映する者の表
現の自由を侵害し違憲となる。
第2 条例②の問題点
条例②は,規制対象である「児童を性的に虐待するもの又
は著しく性的感情を刺激するもの」という意味の内容が不明
確であることから,表現の自由を侵害しないか問題となる。
表現の自由の優越的地位に鑑みると,あいまい不明確な法
律等によって規制を加えると,表現の自由に対する萎縮的効
果を生ずるので,法文上不明確な法律等は原則として無効に
なる。そして,法文の内容が不明確であるかどうかの基準は,
通常の判断能力を有する一般人の理解において,具体的場合
に当該行為がその適用を受けるものかどうかの判断を可能な
らしめるような基準が読みとれるかどうかによって決定され
ると解する。
本件条例は,「児童を性的に虐待するもの又は著しく性的
感情を刺激するもの」としているが,どういう内容の場合,
児童を性的に虐待するものなのか,また,著しく性的感情を
刺激するものなのか,これを具体的に指し示した基準を何ら
記載していない。これでは,通常の判断能力を有する一般人
の理解の下で,その判断が区々となり,どのような場合に撤
去の対象となるビラ等にあたるのかこれを判断することが著
しく困難といわざるを得ない。
そうすると,本件条例の規定は,不明確であるといえ,ビ
ラや立て看板の設置者の表現の自由を侵害し違憲違法とな
る。
以 上
21
●表現の自由に対する規制立法
の内容が明確であるか否か,
検
討する。
●徳島市公安条例事件の規範は
正確に表現できるようにして
おく。
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◆ 岐阜県青少年保護育成条例事件(最判平元.9.19)
事案: 知事が有害図書の指定をし,指定を受けた有害図書を自販機に収納することを禁
止する条例が 21 条 1 項に違反しないかが争われた事案。
判旨: 「本条例の定めるような有害図書が一般に思慮分別の未熟な青少年の性に関する
価値観に悪影響を及ぼし,性的な逸脱行為や残虐な行為を容認する風潮の助長につ
ながるものであって,青少年の健全な育成に有害であることは,社会共通の認識に
なっている。さらに,自販機による有害図書の販売は,売手と対面しないため心理
的に購入が容易であること,昼夜を問わず購入ができること,購入意欲を刺激しや
すいことなどの点において,書店等における販売よりもその弊害が一段と大きい。
しかも,自販機業者において有害図書の指定がなされるまでの間に当該図書の販売
を済ませることが可能であり,このような脱法的行為に有効に対処するためには,
本条例 6 条 2 項による指定方式も必要であり,かつ,合理的である。それゆえ,有
害図書の自販機への収納禁止は,青少年に対する関係において 21 条 1 項に違反しな
いことはもとより,成人に対する関係においても,有害図書の流通を幾分制約する
ことにはなるが,青少年の健全な育成を阻害する有害環境を浄化するための規制に
伴う必要やむをえない制約であり,21 条 1 項に違反しない。」
*1
本判決は,自販機への収納禁止規定は,成人との関係で,有害図書の流通を
幾分制約することにはなっても,青少年保護を目的とする有害環境規制に伴う
必要やむを得ないものだとして,これを合憲とした。
これに対しては,①一般の流通ルートには乗らず,自販機以外の他の販売方
法のみでは販売目的が達せられないため,実質的には発表禁止の効果をもつこ
と,②包括規定であるため萎縮効果が大であること,③青少年保護が目的であっ
てもかなり厳しく成人の知る自由を制限することなどを理由に,この種の事前
抑制は許されないとの批判がある。
*2
本判決においては,
「有害図書」指定基準の明確性の有無も,表現の自由との
関係で問題となる。
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22
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関連論点
表現行為に対する規制(内容規制と内容中立規制)
A
第1 問題の所在
X市の条例は,小学校の周辺500メートルの範囲内に成人向けの映画を上映する施設をつくるこ
とを禁止しているのであって,成人向けの映画それ自体の上映を禁止しているものではない。そう
すると,表現活動それ自体を禁止する内容規制ではなく,表現活動の時・場所・手段に対する内容
中立規制にすぎない。これに対して,本件条例は,成人向けの映画を上映する施設をつくることが
できなければ,そもそも映画を上映することができなくなるという点で,表現の自由に対する強度
の規制と解することもできる。本問では内容規制なのか,内容中立規制なのかが,その区別をすべ
きかと関連して問題となる。
第2 学説
1
肯定説(二元説)
内容規制と内容中立規制とを区別し,後者は前者に比して,より緩やかな違憲審査基準に服する
とする(具体的には,内容規制の場合は,制約目的として「切実な公益」と,「その目的ぴったり
に仕立てられた手段」が必要であるが,内容中立規制の場合は,規制目的として「切実な目的」よ
り緩やかな「重要な利益」と,目的と手段の「実質的関連性」および表現の代替手段が十分存在す
ることという要件を充たせばよい)。
(理由)
① 表現の内容を理由に規制を許すと,規制者が自己に不都合な内容の表現を規制する危険が
増大する。ゆえに,真に規制が必要なのかどうかを厳格に審査する必要がある。
内容中立規制の場合は,規制者が自己に不都合な内容の表現をねらい打ちにする危険性は
②
相対的に低く,公益のために必要な規制である可能性が高い。また,内容中立規制の場合に
は,通常,他の方法での表現が可能である(表現の代替手段の存在)。
(批判)
文面上は内容中立規制であっても,実際には特定内容の表現を規制することが狙いである場
合に,適切な対応ができない。例えば,ビラ貼りの規制は,表現手段としてビラ貼りを多用す
る人々により大きな影響を与え,結果として,ビラ貼り以外に表現手段を持たない少数派の
人々が表現する内容を差別的に扱う効果をもつ。
否定説(芦部)
2
内容中立規制にも原則としてLRAの基準のような,裁判所の実質的な審査を可能にする,内容
規制にほぼ準ずる基準を用いることが必要である。
(理由)
① 内容中立規制と内容規制が明確に区別できない場合もある。
②
内容中立規制も,規制態様によっては表現の自由の保障を脅かすおそれがあるという点で
は,内容規制とほとんど同様であるにもかかわらず,内容中立規制に厳格度の弱い基準を適
用するならば,二重の基準の理論の意義が失われる。
23
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LEC・新司法試験合格答案ストラテジー講座・公法系[憲法]
<違憲審査基準における学説と判例理論の対比>
<精神的自由>
A
<経済的自由>
<精神的自由>
事前抑制
A
過度広汎規制
B
C
事前抑制
過度広汎規制
表現内容の規制
表現の時・所・方法
の規制
<経済的自由>
D
消極目的規制
B
内容規制
C
内容中立規制
=間接・付随規制
E
D
消極目的規制
E
積極目的規制
積極目的規制
芦部先生による基準の分類図(学説)
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芦部先生による基準の分類図(判例)
24
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UNIT6
テーマ3
表現の自由がメインテーマとなった場合の注意点
新司法試験では,精神的自由権が侵害される事案が出題されることが多くあります。しか
し,旧司法試験のように,「その事案で侵害されている権利が,憲法の保障する『表現の自
由』の保障に含まれることを認定→表現の自由の優越的地位(二重の基準)→厳格な違憲審
査基準を定立→事案へのあてはめ→違憲という結論を述べる」という,パターン化した答案
作成を行うと,低い評価にとどまってしまうので,注意が必要です。
「具体的な事案に配慮せずに,すぐに違憲審査基準の選択を行い,かつ,いったん決めた
違憲審査基準から自動的に結論が出る」という,いわゆる「自動販売機」的な答案スタイル
は,以下のように,採点官(考査委員)から厳しく批判されています。
【ヒアリングに注意!!】
「きちんと出題者の意図をとらえて問題点を分析,把握して記述している答案は少ないという
印象であったように思われる。
また,悲観的になったとか,残念であったという印象を述べた委員のコメントを見ると,問
題点を事実に照らしてきちんと把握できていない,例えば,本問におけるたばこに対する警告
表示がどういう自由権を制約するのかきちんと分析しないまま非常に表面的な記載で終わっ
ているものが多いとか,大きな論点である消極的表現の自由には触れているものの,その内容
をきちんと把握しないまま記述しているものが多いといった指摘がなされている。
こういった意見をまとめてみると,今回の出題は,豊富な資料を提供して事実の分析を求め,
憲法規範の的確な理解のもとに,何が問題となるのかを把握し,その問題に関係する事実を資
料から抽出した上で,複眼的な立場から憲法規範を当てはめることが出来るかどうかを問う問
題であったが,こういった事実の分析や抽出が十分出来ておらず,表現の自由の問題のようだ
ということから,すぐ合憲性判断の基準といった解釈についての記述に飛んでしまう答案が多
く,採点者から見ると,法律実務に重要な事実の分析や抽出が抜けているという印象を受けた
のではないかと思われる。
消極的表現の自由が問題なのであれば,たばこに対する警告表示を義務付けることがどうい
う意味で消極的表現の自由の問題になるのかをきちんと説明した上でないと次のステップに
本当は移れないはずなのに,そこを飛ばしてしまう答案が多かったということであろう。」
(2006年度 ヒアリング4頁)
ここでも,資料が与えられている意味をしっかりと考えることが要求されます。例えば,
2006年度の場合,それぞれの資料には以下のような意味付けがありました。
<資料1>
規制目的は,①未成年者の喫煙防止に限られない。②成人も含めた全員が「タバコの
健康に及ぼす危険性に関する十分な知識」を踏まえて,喫煙するか否かを選択できるよ
うにすること,③受動喫煙の害を排除・減少させること,そして,ひいては④喫煙によっ
て生じる社会的費用の抑制までもが規制目的となっている。
警告文表示に関して,一般警告文と特別警告文,という2種類が規定されている。い
ずれも,太い黒枠で囲むことと,表示面の50%以上の面積を占めることが要求されて
いる。成分表示についても,記載が強制されている。
25
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国(厚生労働大臣)は,①会社・販売業者等に対して報告を求めること,②製造所・
営業所・事務所等に立ち入り,帳簿等を検査し,関係者に質問すること,③記載条項に
違反したたばこの回収・廃棄を命じること,そして,違反者に対しては,④営業の停止
命令を下す権限までも定められている。
さらに,①の報告,②の立ち入り検査・質問において,拒否したり,虚偽の報告をし
たりした場合には罰則規定もある。営業停止命令違反には罰金100万円の罰則が定め
られている。
<資料2>
包装紙において,成分表示・一般警告文・特別警告文がどの程度の面積を占めるのか,
具体的にイメージできるようにした。①単なる表現行為の規制ではなく,特定内容の表
現活動を強制される,という本問の特殊性と,②この警告文表示による営業活動への支
障がかなり大きいもので,販売にマイナスの影響があること,の2つに受験生に気付か
せる意味がある。
<資料3>
設問1では,たばこ会社T社の訴訟代理人として提起すべき2つの訴え(損害回復を
求める請求)と,憲法上の主張が要求されている。
「経過措置が無かった」という事情と,「当社の見解と異なる警告文の掲載を義務付
けられることは耐えられない」という原告の気持ち,の2つを相談要旨から読み取って,
必ず答案内で触れるべきである。
<資料4>
資料4が与えられていることは,本問の特徴を決定付けている。仮に,資料4が存在
しなかった場合,たばこ会社が包装紙において行なう表現が,純粋な表現行為(精神的
自由)であるか,それとも,営業の自由(経済的自由)にすぎないのか,中間的なもの
(営利的表現の自由)か,という「権利の性質」に関する議論と,それに伴って,違憲
審査基準をどの程度厳格にするか,という部分に重点を置いて答案作成することになる。
しかし,資料4において,詳細に,立法事実に関する情報が与えられているので,規制
目的(4つ)の重要性・必要不可欠性を丁寧に論じるべきである。
なお,2006年度は,小問1で規制の違憲性を主張する原告の立場から,小問2で国の立場
から,そして,小問3で,憲法上の争点についての「あなたの考え」を述べることが要求さ
れました。
しかし,3者の立場すべてをフルボリュームで論述することは,1問2時間の試験時間で
は時間的にタイトすぎる,との批判もあり,2007年度以降は,相手方(国ないし自治体)か
らの反論はコンパクトに述べれば十分,とされました。設問文が「教団側の主張に対する市
側の反論を想定した上で」(2007年度),「Aの主張に対する検察官の主張を想定しつつ」
(2008年度)といった問い方となっています。
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26
LEC・新司法試験合格答案ストラテジー講座・公法系[憲法]
【ヒアリングに注意!!】
「昨年の出題形式は,原告の訴訟代理人,国側の訴訟代理人,それから回答者の三つの立場,
三様の立場からそれぞれ論述させる出題形式になっていた。こういった出題形式は,実務家と
なるための試験にふさわしいものと考えているが,昨年のような形で出題すると,それぞれ三
様の立場で,いわばフルスケールで論述をしなければいけないようになってしまう。例えば,
国側の主張に沿ったような考え方を自分も採るという場合には,どうしても重複した部分が出
てくる可能性があり,それをどこまで書き込むかということもあるが,書き方によっては受験
生の負担も大きくなってしまうのではないかと考えた。そして,もう少し簡略にというか,コ
ンパクトな形にした方がいいのではないかということを,考査委員の中で議論した。
それで,今年は,教団の訴訟代理人の主張についてはフルスケールで述べさせることを前提
にして,教団と反対側になる主張については,自分の見解を展開することを前提として踏まえ
ればよいという形にし,そこはよりコンパクトで,ポイントを絞った形で記載してもいいとい
う形にした」
(2007年公法系ヒアリング1頁)
「問題の形式に応じて答える必要がある。問われているのは,弁護人,それに対して想定され
る検察官の主張と自説であり,まずは,弁護人の立場にたった論述が必要である。設問2で,
検察官の主張又は自説の一方しか書かれていないのは不十分であり,誰の見解を述べているの
か判然としないものは不適切である。設問1で挙げた論点について設問2で全く触れないもの
も,不適切である。」
(2008年採点実感)
「出題では,X側の「主張」を述べた上で,Y側の「大学の処分を正当化する主張」を想定し
ながら,
「あなた自身の結論及び理由」を記載することが求められている。この点について,X
側の主張,Y側の反論,自分の見解のそれぞれを独立して書き分ける必要があると思い込んで
いる答案や,最初にXの主張において,Y側の反論を先取りした主張や理由も含めて記載し,
Y側の主張として同様のことを書き,更に「見解」も同じように3回同内容を繰り返すものが
あった。想定されるY側の主張は,必ずしもそれを独立に詳論する必要はなく,「自身の結論及
び理由」の中で,一体として議論に組み込んで示せば足りる。
また,Xの「主張」に対しておよそ通らないようなY側の主張を持ち出し,それを「見解」
の部分であっさり否定するといったものも見られた。
なお,Xの弁護士としては,Xの立場に立ってどれだけ的確な主張を行うことができるかが
問われるが,この点に関する論述の優劣がそのまま答案全体の出来を左右しているようにも思
われた。
」
(2009年採点実感)
この採点実感・ヒアリングから,「原告側訴訟代理人の主張」と「あなた自身の見解」に
ついてはフルスケールでの記述が求められ,相手方の反論は「自身の結論及び理由」を述べ
る中で要点をコンパクトに指摘すれば十分であることが分かります。
2006年度は,表現の自由のうち,営利的表現の自由(特に,たばこを原因とする健康被害
を警告する文言の表示を義務付けることと,たばこ会社側の表現の自由・営業の自由との対
立)という特殊類型がテーマとなりました。
表現の自由の中で,特別な考慮が必要となる「集会・結社の自由」及び「差別的表現の自
由」の2つをテーマとした練習問題を解いていきましょう。
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UNIT7
練習問題1
以下の事例に含まれる憲法上の問題点について,論じなさい。
20XX年の日本経済は未曽有の危機にあり,失業率は30%を超え,全国各地で様々なテロ活
動が展開されていた。そうした中で,日本国憲法の擁護を掲げる政党Xが総選挙において勝利し,
政党Xの党首Aは内閣総理大臣となった。Aは,テロが頻発する危機の時代にあって,自由と民主
主義を根幹とする日本国憲法を擁護するために,そうした価値を有する憲法に敵対するような行動
をしていると考えられる諸団体について調査し,毎年1回その調査内容を「憲法擁護報告書」とし
てまとめ,公表することを義務づける「憲法擁護庁設置法案」を提出した。
法案によれば,この「憲法擁護庁」の調査活動は,刑事訴訟法その他の現行法規を遵守した形で
行われるが,調査の結果,自由と民主主義を根幹とする日本国憲法に敵対すると見なされた諸団体
は,告知と聴聞の機会を与えられた上で,「憲法擁護報告書」において「憲法敵対団体」として認
定され,広く公表されることになる。ただし法案によれば,
「憲法擁護報告書」において,
「憲法敵
対団体」と認定されても,当該団体が解散を命じられたり,その集会が禁止されたりすることはな
く,また当該団体に所属していることを理由に構成員が処罰されたりすることはないとされてい
る。
(具体的な論述の流れについて)
本問では,憲法擁護庁設置法案の合憲性が問題です。適用違憲は問題とならず,法令違憲のレベ
ルで,目的・手段審査を行えば十分です。
この法案によれば,日本国憲法に敵対すると見なされた諸団体は,「憲法擁護報告書」において
「憲法敵対団体」として認定され,広く公表されることになります。ただし,当該団体が解散を命
じられたり,その集会が禁止されたりすることはなく,また当該団体に所属していることを理由に
構成員が処罰されたりすることはありません。団体に課される不利益は,表面上は,「憲法敵対団
体」として公表がなされることにとどまります。とすると,法的効果そのものによって,当該団体
の結社の自由が侵害されるとはいえません。そこで,この公表が当該団体に与える影響を具体的に
検討した上で,権利侵害を認定する必要があります。これが本事案の特殊性です。本問を解答する
に際しては,まず,「憲法敵対団体」として公表されることによって,当該団体の活動にどのよう
な影響・支障が生じるかを検討しなければ,どのような人権がどのように侵害されているのかを明
らかにすることができません。
上記のような公表がなされた場合,当該団体にどのような影響・支障が生じるかを検討すると,
テロ活動が活発化し,日本国憲法の擁護を掲げる政党Xが総選挙において勝利するような社会的状
況にあっては,多くの国民が日本国憲法の有する価値を極めて重要視しているはずです。このよう
な状況下で「憲法敵対団体」として公表されれば,当該団体は,多くの国民が重要視する価値を破
壊する者として敵視されることになり,ひいては,当該団体の活動にも大きな支障が生じることに
なります。このように具体的に論じていくことで初めて,憲法擁護庁設置法案が,当該団体の団体
として活動する自由である結社の自由(憲法21条1項)を侵害するのではないか,という問題提起
が可能になります。
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実際に書いてみよう
第1
1
問題となる人権,違憲審査基準
本問法案は「憲法敵対団体」と認定された団体の表現活
動の自由(
)
及び
団体の構成員の思想良心の自由(
か。
↓
●この書き出しは唐突な印象。
本問法案が定める効果は,
「憲
法敵対団体」
として公表するだ
けであることを冒頭で論じる
べき。
)を侵害しない
まず,団体にも性質上可能な限り、
、
、
↓
もっとも,表現活動の自由も人権相互の矛盾衝突を調
整する原理である「公共の福祉」
↓
■団体・法人
いちおう触れる。
憲法が徹底的な価値相対主
義を想定していること、
および
どのような場合に、
絶対的に保
障されるか、
考えてみてくださ
い。
⑵
では,本問法案は「公共の福祉」による制約であり合憲
といえるか,審査基準が問題となる。
第2
■理由+基準を考えてみてくだ
さい。
事案への当てはめ
29
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第3
結論
したがって,本問法案は21条1項,19条に反する。
以上
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解答例
第1
1
問題となる人権,違憲審査基準
本問法案は「憲法敵対団体」と認定された団体の表現活
動の自由(21条1項)及び団体の構成員の思想良心の自
由(19条)を侵害しないか。
⑴ まず,団体にも性質上可能な限り人権が適用されるも
のと解されるところ,団体の表現活動の自由(21条1
項)は人権の性質上法人にも保障される。もっとも,表
現活動の自由も人権相互の矛盾衝突を調整する原理であ
る「公共の福祉」
(12条,13条)による内在的制約を
受ける。
また,憲法は徹底した価値相対主義を採用しているも
のと考えられるところ,憲法に敵対するような価値観を
有することも思想良心の自由(19条)によって保障さ
れると考える。このような思想良心の自由は内心にとど
まるかぎり無制約であるが,外部的行為を伴う場合には
「公共の福祉」
(12条,13条)による内在的制約を受
ける。
⑵ では,本問法案は「公共の福祉」による制約であり合憲
といえるか,審査基準が問題となる。
思うに,表現活動の自由が侵害されると民主政の過程で
是正することは困難である。また,思想良心の自由は精神
●この書き出しは唐突な印象。
本問法案が定める効果は,
「憲
法敵対団体」
として公表するだ
けであることを冒頭で論じる
べき。
●憲法に「敵対」するか否かを判
定する過程で,
当該団体に所属
する構成員の内心に対する調
査を必然的に伴うので,
思想良
心の自由に対する侵害もなり
得る。
的自由権の中核をなしており,個人の内面の人格的存在と
密接に結びつくものである。
それゆえ,これらの自由を制約する規制の合憲性は経済
的自由権に比べて厳格に判断すべきであり,①目的が必要
不可欠か②目的達成のための手段が必要最小限度かで判断
すべきと考える。
第2 事案への当てはめ
1 本問についてみると,本問法案の目的はテロが頻発する
危機の時代において自由と民主主義を根幹とする日本国憲
法を擁護することにあり,その①目的は必要不可欠といえ
る。
2 では目的達成のための手段は必要最小限度といえるか。
たしかに,調査活動は現行法規を遵守した形で行われ,
敵対するとみなされた団体には告知と聴聞の機会が与えら
れ,認定されたとしても解散を命じられたり集会が禁止さ
れたりすることはなく,当該団体に所属していることを理
由に構成委員が処罰されたりすることはないことからすれ
ば,②目的達成のための手段も必要最小限度とも思える。
しかし,
「憲法敵対団体」に認定され広く公表されれば,
そのイメージからテロ組織と誤解されるおそれがあり,そ
のようなイメージを回避すべく,団体の活動が萎縮的にな
31
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るおそれがある。これでは価値相対主義を徹底した憲法の
趣旨に反する。
また,事実上権力の側から憲法を擁護することを強制す
ることにもなりかねず,99条が国民に憲法尊重擁護義務
をあえて課さなかった趣旨に反する。
さらに,本法案において憲法敵対団体の認定などを行う
のは憲法擁護庁という行政機関であるから,政府与党の意
向によりさまざまな団体に憲法に敵対するものとの一方的
なレッテル貼りが行われたり,政府与党の推奨する特定の
憲法解釈の強制が行われる危険性もある。
3 それゆえ,②目的達成のための手段として必要最小限度
といえず,本問法案は「公共の福祉」による制約とはいえ
ない。
第3 結論
したがって,本問法案は21条1項,19条に反する。
以 上
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32
●「闘う民主制」は,わが国の憲
法とは適合しない,
と言われる
根拠として,
憲法尊重擁護義務
が国民には課されていないこ
と,がよく挙げられる。
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UNIT8
練習問題2
以下の⑴⑵の法律が規定されたとして,各法律の合憲性について論ぜよ。
⑴ 「自己の政治上の主義と相容れないことのゆえをもって,人を殺すこと(これをテロ行為と呼ぶ)
をせん動した者は,50万円以下の罰金に処する。ここに,せん動とは,『特定の行為を実行させ
る目的をもって文書若しくは図画又は言動により,人に対し,その行為を実行する決意を生ぜしめ
又はすでに生じている決意を助長させるような勢いのある刺激を与えること』をいう」
⑵ 「ハンセン病患者一般に対する差別,偏見,侮辱ないし蔑視を内容とする表現行為をなした者は,
50万円以下の罰金に処する」(なお,ハンセン病は隔離が必要な疾患ではなく,らい予防法の定
める隔離は不要であることが明らかになっていたにもかかわらず,国は長年にわたり,隔離を継続
していた。
)
(具体的な論述の流れについて)
本問は,小問⑴と⑵とで比較をしてもらうことが出題趣旨となっています。
小問⑴では,せん動された人が実際にテロ行為(これ自体は,明らかに犯罪)に及ぶか否かに関
わらず,せん動がなされた時点でそのせん動行為を処罰する法律の合憲性が問題となっており,
「明白かつ現在の危険」の基準を用いることのできる典型例です。体制に反対する言論が安易に取
締りの対象となっている場合には違憲性の推定が及びます。これが,「明白かつ現在の危険」の基
準の前提です。
小問⑵では,差別的表現を処罰する法律の合憲性が問題となっています。ここでは,国家が自ら
の体制維持を目的として表現の選別をする,という「権力の濫用」という側面がありません。この
法律の目的は,何ら規制しない状態で放置してしまうと迫害されてしまう,弱い立場にある者を保
護する点にあります。差別的表現といえども,表現の自由の保障の範囲には含まれますが,いわゆ
る「思想の自由市場」(対抗言論での自由競争)に委ねることはできず,差別的表現に対する保障
の程度は弱くなります。
なお,何をもって「差別」というかを認定する過程で国家権力が介入している場合には,当該規
制対象が本当に「差別」的表現なのか,という検討が必要となりますが,本問では,明らかに差別
的表現に当たるとしてよいです。
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UNIT8
第1
実際に書いてみよう! 小問(2)について
小問⑴について
省略
小問⑵について
本小問で禁止されている表現は,ハンセン病患者一般に対する
第2
1
的表現であるが,
このような
表現も憲法21条の表現の自由
を保障を受けるものと解する。
なぜなら,差別的表現に該当するか否かの限界は
で
あり,これに21条の保障が及ばないとすると,差別的表現の概
念の決め方によっては,本来憲法上保障されるべき表現まで憲法
の保障の外におかれてしまうおそれがあるからである。
2
もっとも,差別的表現に21条の保障が及ぶとしても絶対無制
限ではない(
)
。
制約根拠
そこで,規制が「公共の福祉」による制約として合憲といえ
るか。差別的表現を規制する法律の合憲性判定基準が問題とな
る。
この点,差別的表現の規制は,表現内容に着目した規制といえ
るので,
基準を考えてみよう
しかし,差別的表現にさらされるのは差別や偏見にさらされて
きた集団であって,差別的表現によって重大かつ回復困難な痛手
を被る。また,そもそも差別や偏見が存する場合に,一般的啓発
や教育または,対抗言論によっては,少数者集団に生ずる害悪を
十分に除去しえない。
実質的に考えてみよう
そこで,差別的表現についての規制立法については合憲性判断
基準を緩和し,
により判断すべきである。
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3
これを本小問についてみるに,
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解答例
第1
1
小問⑴について
本小問の法律は,「自己の政治上の主義と相容れないことのゆ
えをもって,人を殺すことをせん動」する行為を禁止している。
かかる規定は,表現の自由(21条1項)を侵害し違憲ではない
か。
2 この点,表現の自由は21条で保障されるとしても,絶対無制
約のものではなく,「公共の福祉」(13条)による制約を受け
る。
3 そこで,本小問規制はかかる「公共の福祉」による制約として
合憲といえるか,表現の自由を規制する立法の合憲性判定基準が
問題になる。
⑴ 思うに,表現の自由に対する制約が許されるか否かについて
は,経済的自由権に比べて厳格に審査すべきである(二重の基
準論)
。なぜなら,①かかる表現の自由が不当に制限されると,
民主政の過程自体に瑕疵が生じるため,もはや民主政の過程で
自己修正することは困難となり,裁判所による修正が必要とな
るし,②また,裁判所としても,かかる表現の自由に対する憲
法判断は,能力的に十分になしうるからである。
⑵ そして,同じく表現の自由に対する制約であっても,表現内
容に関係なく,表現の時・場所・方法に着目して規制がなされ
る場合(内容中立規制)に比べて,表現内容自体に着目してな
される規制(内容規制)の合憲性は,より厳格に判断すべきで
ある。なぜなら,内容規制は表現内容に着目した規制であるの
で,権力による恣意的な規制がなされるおそれが強く,また,
表現方法を問わず,一切その内容の表現ができなくなるので,
規制として強力であるからである。
そこで,内容規制が許されるには,①ある表現行為が近い将
来,ある実質的害悪をひき起こす蓋然性が明白であること,②
その実質的害悪が極めて重大であり,その重大な害悪の発生が
時間的に切迫していること,③当該規制手段が右害悪を避ける
のに必要不可欠であること,という厳格な要件を充たす場合に
はじめて当該内容規制が許されると解する(明白かつ現在の危
険の基準)
。
4 上記の基準を本小問についてあてはめて検討する。
確かに,凶悪なテロ行為が増大した今日において国民の生命・
身体を守るにはテロ行為の回避は不可欠である。
しかし,テロ行為をせん動する行為がなされたとしても,必ず
しもテロ行為が起きるとは限らないので,国民生活に害悪が発生
する蓋然性が明白であるとはいえない(①)
。また,テロ行為が
起きた場合の国民生活に対する害悪は重大であるとしても,その
害悪が時間的に切迫しているとはいえない(②)。さらに,テロ
行為を防止し国民生活の平穏を維持するためには,テロ活動に対
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36
● 本件で 規制さ れる表現
は,「政治上の主義と相
容れないことのゆえを
もって」人を殺すことを
せん動する内容なので,
政治的な主張が含まれ
ていると考えてよい。
● 明白か つ現在 の危険の
基準は,正確に書くと,
この答案のように,長い
文章となる。
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する警備を強化することこそ有益な手段であり,刑罰をもって
当該表現行為を規制することは,必要不可欠な手段とはいえな
い(③)
。
よって,本小問の法律は,21条1項に反し違憲である。
第2 小問⑵について
1 本小問で禁止されている表現は,ハンセン病患者一般に対す
る差別的表現であるが,このような差別的表現も憲法21条の
表現の自由を保障を受けるものと解する。なぜなら,差別的表
現に該当するか否かの限界は不明確であり,これに21条の保
障が及ばないとすると,差別的表現の概念の決め方によっては,
本来憲法上保障されるべき表現まで憲法の保障の外におかれて
しまうおそれがあるからである。
2 もっとも,差別的表現に21条の保障が及ぶとしても絶対無
制限ではない(13条)
。そこで,規制が「公共の福祉」による
制約として合憲といえるか。差別的表現を規制する法律の合憲
性判定基準が問題となる。
この点,差別的表現の規制は,表現内容に着目した規制とい
えるので,小問⑴と同様に明白かつ現在の危険の基準が妥当す
るとも思える。
しかし,差別的表現にさらされるのは差別や偏見にさらされ
てきた集団であって,差別的表現によって重大かつ回復困難な
痛手を被る。また,そもそも差別や偏見が存する場合に,一般
的啓発や教育または,対抗言論によっては,少数者集団に生ず
る害悪を十分に除去しえない。
そこで,差別的表現についての規制立法については合憲性判
断基準を緩和し,LRAの基準(①立法目的の重要性,及び②
立法目的を達成するためのより制限的でない他の選びうる手段
が存在するか否か)により判断すべきである。
3 これを本小問についてみるに,立法目的は,隔離の必要がな
いにもかかわらず,長年にわたり隔離されることにより生じた
ハンセン病患者に対する差別・偏見を除去する点にあり,立法
目的は重要といえる(①)
。
次に,50万円以下の罰金という刑罰は,その金額において
名誉毀損罪(刑法230条1項)と同じであり,これより低い
額の罰金刑では,ハンセン病患者に対する差別・偏見の除去と
いう目的の達成が困難といえる。よって,当該手段に比べ,よ
り制限的でない他の手段は存在しないというべきである(②)
。
よって,本小問の法律は,表現の自由を侵害するものとはい
えず,合憲である。
以 上
37
●小問⑴と比較していく姿
勢が出ている。
●問題文に現れている,
ハン
セン病患者の置かれた状
況をうまく活用している。
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UNIT9
テーマ4
違憲審査基準の「言い回し」
違憲審査基準は,厳格度を異にする3つの基準を用いるというのが有力説です。以下では,
芦部信喜『憲法』
[第 4 版]
,高橋和之『立憲主義と日本国憲法』を参考に紹介します。
<違憲審査基準>
① 厳格審査基準
目的は必要不可欠な「やむにやまれぬ利益」で,手段は
その目的を達成するための必要最小限度のものに限定
される旨を要求する基準
②
厳格な合理性の基準
目的が重要であり,手段が目的と実質的な関連性を
有することを要求する基準
③
合理性の基準(明白性の原則)
目的が正当であり,手段が目的と合理的
関連性を有することを要求する基準
※ 「合理性の基準」は,立法府の下した判断に合理性があるということを前
提としている(合憲性の推定)ので,規制が著しく不合理であることの明白
である場合に限って違憲とすることと同じであり,その意味で「明白性の基
準」ともいわれる。
【ヒアリングに注意!!】
「⑸ 審査基準について
ア
審査基準の内容を正確に理解することが,必要不可欠である。中間審査基準におけ
る目的審査で「正当な目的」とするのは誤りである。中間審査基準では,「重要な目
的」であることが求められる。合理性の基準で求められる「正当な目的」の意味・
内容を正確に理解してほしい。
<中略>
ウ
審査基準論を展開するが,なぜその審査基準を採用するのか,また,本件の事案に
適用した場合にどうなるのか,について丁寧に論ずる必要がある。
エ 「厳格な審査が求められる」と一般的な言い回しをしながら,直ちに「厳格審査の
基準」あるいは「中間審査の基準」と書くことには,問題がある。合理性の基準よ
りも審査の厳格度が高められるものには,
「厳格審査の基準」と「中間審査の基準」
とがあるので,なぜ,どちらの基準を選択するのかについて,説明が必要である。
オ
審査基準が定められたとしても,それで答えが決まるわけではない。必要不可欠の
(重要な,あるいは正当な)目的といえるのか,厳密に定められた手段といえるの
か,目的と手段の実質的(あるいは合理的)関連性の有無,規制手段の相当性,規
制手段の実効性等はどうなのかについて,事案の内容に即して個別的・具体的に検
討することが必要である。
」
(2008年採点実感)
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38
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以上の基準は,あくまで参考となる基準であり,これらの規範を参考に事案に応じて柔軟
に使いこなすことも必要です。例えば,適用違憲の場合に上記の規範がうまく機能しない場
合も多く,違憲審査基準の設定には工夫が必要な場合もあります。
また,「表現の自由なので厳格審査基準」と単純に決めつけてはいけません。新司法試験の
場合には,何らかの事案の特殊性があります。その特殊性を踏まえて,違憲審査基準をどの
ように修正するか,がポイントとなります。なお,
「修正」である以上,原則的な審査基準に
ついてまず説明した上で。
「なぜ」修正が必要なのかを述べる,という「原則→修正」パター
ンの論述を心がけましょう。
【ヒアリングに注意!!】
「イ 本問は,表現の自由の制約に関する一般的な審査基準を修正する必要があるのかど
うかを問うものである。一般的審査基準を明らかにすることなくアプリオリに修正が必要
であるとしていきなり修正基準を記述したり,修正の必要性に触れずに一般的審査基準を
既に修正基準の内容で記述しているものが相当数見られた。しかし,本件の事案分析を踏
まえてもなお,厳格審査の基準であるのか,それとも審査基準が緩和されるのか等につい
て,論ずる必要がある。
」
(2008年採点実感)
「基準,あるいは規範というものを,余りにも硬直的に捉えているということがある。事
案がある規範に合わないような場合に,それでもその規範を形式的に当てはめていいのか
どうか,修正がきくか,修正をするとしてどういう修正が妥当かを考えなくてはならない
はずである」
(2009年公法系ヒアリング3頁)
。
以下,違憲審査基準の「原則→修正」を検討するための練習問題を用意しました。いずれ
も,最近の法科大学院の既修者コース入試の論文問題です。そして,掲載している答案は合
格者の再現答案です。教授陣が,どのような能力を持った人を法科大学院で教育しようとし
ているか,に着目しながら,答案例の検討をしていきましょう。
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UNIT10
練習問題1
公立A中学校の教師Xは,自己の信仰する宗教のシンボルの紋章を胸につけて登校し,教壇に立
って授業を行っていた。これを知ったA中学校校長Yは,Xが宗教上のシンボルを授業中生徒の目
につくところに着用して授業を行うことは,学校内で宗教活動を行うことを意味し,それは宗教的
中立性の原則に反するものであるとして,紋章を外して授業を行うように指示した。しかし,自己
の信仰に忠実なXは,その指示に従わずにいたため,懲戒処分を受けた。
以上の事例に含まれる憲法上の論点について説明し,Xに対して懲戒処分を行ったことの当否に
ついて論じなさい。
(早稲田大法科大学院・2010年度既修者入試)
(具体的な論述の流れについて)
本問では,Xが授業中に宗教上のシンボルを着用する行為が,憲法上の人権として保障されるのか
がそもそも問題となります。仮に,Xが中学校の敷地内で,自分の教え子(中学生)に対して,自己
の信仰する宗教への入信を呼び掛けるという布教活動を行っていた場合には,憲法20条1項の定める
信教の自由で保障される行為であることは明らかです(その代わり,校長Yが主張する宗教的中立性
の原則=政教分離原則から,Xの懲戒処分は正当化されますが)
。これに対して,宗教上のシンボル着
用は,宗教的意義が薄いようにも感じられるので,どのような点で信教の自由につながるのか,具体
的に論証する必要があります。
その上で,本件では,校長Yが主張する「宗教的中立性の原則=政教分離原則」によって宗教上のシ
ンボル着用は制限されるのか,という「信教の自由vs政教分離原則」という問題意識が登場します。
この論点の論じ方は,3つあります。1つ目は,政教分離原則違反を独立では扱わず,信教の自由に
対する制約の違憲審査基準を定立する際に,①公立中学校の教師であること及び②宗教的中立性の原
則を指摘して,少し緩やかな意見審査基準を定立することで事案の特殊性に配慮する書き方です。2
つ目は,政教分離原則違反であるか否かを独立の項目とする書き方です。冒頭で目的効果基準を立て
て,授業中のシンボル着用を仮に認めたとしても政教分離原則には違反しない,という結論をまず述
べます。その上で,信教の自由に対する制約の違憲審査基準を定立し,事案を当てはめます。
最後に,校長には学校内での教師の行動を管理する権限があるので,校長の裁量権の問題として,本
件懲戒処分が裁量権の逸脱・濫用に当たるかを中心に論じる書き方があります。この場合,仮にシン
ボル着用を認めた場合に宗教的中立性を害するのか,は裁量権の逸脱・濫用の検討の中で考慮します。
<早稲田大学発表の「出題の趣旨」>
憲法では,他の科目と同様であるが,事例のなかから論点を抽出し,事例のなかから合憲・違憲の論
拠となる事実や論理をつかみだして,それを論理的・説得的に展開することが求められる。重要なポイ
ントとしては,①どのような人権の制限か,②誰の人権が制限されているか,③人権規制の態様はどの
ようなものか,④規制の目的はどのようなものか,⑤規制の程度は目的と釣り合っているか,⑥規制に
よる不利益はどのようなものか,などがあげられる。また,憲法の事例問題の出題には,必ず事例に特
有の特殊な要素があるので,それをしっかりと見抜いて議論を展開することが重要である。
事例問題の論述では,いわゆる教科書的なことを長々と書くべきではない。当該事例の問題点に即し
て,分析・検討・評価を自己の文章で論述することが求められる。事例の解決のための論理が説得的に
論じられているかどうかが最も重要な評価基準であるからである(教科書的な叙述をだらだら書いても,
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LEC・新司法試験合格答案ストラテジー講座・公法系[憲法]
採点者は評価しない)。人権の一般的特質や違憲審査基準などは簡潔にまとめ(とはいえ,違憲審査基
準等について論及することは必要),事例のなかにある重要なポイントを論理化した自己の論理と結論
を展開すべきである。
問題では,①教師の信教の自由に基づく行為に対する職業上の義務からの制約の合憲性,②教師の行
為が教育公務員として政教分離原則(宗教的中立性原則)に違反しないか,が問題となる。①について
は,信教の自由は本来厚く保護されるべきであって,厳格な審査基準が求められるが,しかし,職場・
学校での宗教活動には調整が必要ではないか,その調整をどのように考えるか,がとくに問題になる。
②では,教師の行為が政教分離原則違反かどうかを考える前提として,教師の身分の特殊性や政教分離
違反の審査基準が問題となる。さらには,①と②の関係,教師の宗教的自由と政教分離違反との関係が
問題になる。論点は多く,相互に矛盾した要素が含まれているので,それをどのように全体として論理
的に説明するかが,答案の成否の鍵となる。
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