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評価法の精緻化と対応策の構築
S-8-1(7)-i 課題名 S-8-1(7) 温 暖 化 の健 康 影 響 -評 価 法 の精 緻 化 と対 応 策 の構 築 - 課題代表者名 本 田 靖 (筑 波 大 学 体 育 系 ) 研究実施期間 平 成 22~26年 度 累計予算額 97,556千 円 (うち26年 度 17,059千 円 )、ただし26年 度 に3,991千 円 返 納 予 算 額 は、間 接 経 費 を含 む。 本 研 究 のキーワード 熱 関 連 死 亡 、至 適 気 温 、distributed lag non-linear model、自 動 的 適 応 、介 入 研 究 、費 用 効 果 分 析 、脆 弱 集 団 、行 動 変 容 研究体制 (1)温 暖 化 死 亡 影 響 モデルの精 緻 化 ・簡 易 化 (国 立 大 学 法 人 筑 波 大 学 ) (2)熱 波 警 報 対 策 システムの構 築 及 びその有 効 性 と経 済 性 の評 価 (国 立 大 学 法 人 筑 波 大 学 ) 研究協力機関 長 崎 大 学 、大 阪 府 立 大 学 、国 立 環 境 研 究 所 研究概要 1.はじめに(研 究 背 景 等 ) 気 温 の上 昇 の直 接 的 な影 響 として、気 温 上 昇 のために熱 中 症 をはじめ、様 々な疾 患 で死 亡 する人 が増 加 す る。わが国 においても、環 境 省 、地 方 自 治 体 などの対 応 、マスコミによる情 報 提 供 などが行 われてはいるものの、 最 近 でも気 温 が高 い日 には熱 中 症 などによる死 亡 数 が多 数 発 生 したという報 道 が毎 年 繰 り返 されている。この ような熱 関 連 死 亡 に対 する地 球 温 暖 化 の影 響 がどの程 度 であるかは世 界 的 にも大 きな関 心 事 である。しかしな がら、熱 関 連 死 亡 の影 響 は気 候 によって異 なるために、予 測 が困 難 で、IPCCの第 4次 報 告 書 においても、全 球 の将 来 予 測 は行 われていなかった。この、気 候 によって影 響 が異 なるという点 に関 して、既 にS-4研 究 において、 図 1(7)-1示 した至 適 気 温 を気 候 から推 測 する理 論 を発 見 し、各 地 域 の将 来 の気 温 分 布 と年 間 死 亡 数 のみを用 いて全 球 規 模 で熱 関 連 死 亡 数 の予 測 を可 能 にするモデルを世 界 に先 駆 けて開 発 済 みであった。しかし、図 1(7)-1の超 過 死 亡 を予 測 するために、本 来 であれば非 線 形 のモデルを用 いるべきであるのに、図 1(7)-2のように 非 常 に粗 い推 定 にとどまっていた。その欠 点 を克 服 し、更 に持 ち越 し効 果 (ある日 の高 気 温 の影 響 が翌 日 以 降 も残 ること)を組 み込 めるような手 法 、distributed lag non-linear modelが提 案 され、非 線 形 のリスク関 数 構 築 の 道 が開 けてきた。 図 1(7)-1. 熱 関 連 超 過 死 亡 と至 適 気 温 図 1(7)-2. S-4でのリスク関 数 S-8-1(7)-ii 一 方 、温 暖 化 でより深 刻 となる熱 関 連 死 亡 への適 応 策 として、 熱 波 警 報 システムがある。海 外 においては都 市 レベルでの介 入 例 がいくつか認 められるものの、わが国 では介 入 研 究 が行 われておらず、環 境 省 やマスコミか らの一 方 通 行 の情 報 提 供 にとどまっていた。地 方 自 治 体 も、独 自 の取 り組 みが行 われてきてはいるが、経 済 的 な視 点 からの評 価 報 告 は皆 無 であった。 2.研 究 開 発 目 的 上 記 のS-4で発 見 した理 論 が、多 くの地 域 で実 際 に適 用 可 能 なのかを確 認 し、その理 論 をもとにわが国 にお ける約 40年 間 の死 亡 ・気 象 データを用 いることで高 気 温 の日 が少 ないことによる統 計 的 不 安 定 性 を克 服 し、 distributed lag non-linear modelを用 いて持 ち越 し効 果 を組 み入 れた非 線 形 のリスク関 数 を構 築 することで、 S-4の方 法 よりも精 緻 に全 球 を対 象 とした熱 関 連 死 亡 の将 来 予 測 を 可 能 にする。 将 来 予 測 については、社 会 経 済 シナリオに従 って決 定 される人 口 、死 亡 率 などをもとに、将 来 の状 況 を想 定 す ることになる。その状 況 で気 候 が現 在 のままの場 合 の熱 関 連 死 亡 数 と大 循 環 モデルに従 って気 温 が上 昇 した場 合 の熱 関 連 死 亡 数 の差 、「気 候 変 化 で引 き起 こされる熱 関 連 死 亡 数 」を予 測 する。なお、北 海 道 から沖 縄 県 ま で、特 に意 図 的 な熱 波 への適 応 は行 われてこなかったが、暖 かい気 候 の地 域 ほど至 適 気 温 が高 くなっている。こ れを自 動 的 適 応 と呼 ぶ。この自 動 的 適 応 の影 響 も将 来 予 測 に組 み込 む。 熱 波 警 報 システムに関 しては、まず市 町 村 で行 われている対 策 の現 状 、冷 房 機 器 に関 する高 齢 者 の居 住 環 境 、暑 熱 への対 処 行 動 に関 する情 報 を収 集 して、問 題 点 を抽 出 する。その問 題 点 を克 服 できる熱 波 警 報 システ ム構 築 を行 う。システムは、ターゲットとなる脆 弱 高 齢 者 が実 際 に行 動 変 容 をおこせるよう、単 純 で忘 れにくいも のにする。実 際 に地 方 自 治 体 で介 入 研 究 を稼 働 させ、その効 果 を費 用 効 果 分 析 によって経 済 学 的 に評 価 する。 3.研 究 開 発 の方 法 (1)温 暖 化 死 亡 影 響 モデルの精 緻 化 ・簡 易 化 まず、ヨーロッパ、北 米 のデータを用 いて、S-4で発 見 した理 論 が広 く成 り立 つことを確 かめた。 熱 関 連 死 亡 数 を求 めるためには、まず気 温 の関 数 としてリスクを表 すリスク関 数 の構 築 が必 要 である。わが国 47都 道 府 県 、約 40年 間 のデータを用 い、distributed lag non-linear modelによって、日 最 高 気 温 ー至 適 気 温 とそ の持 ち越 し効 果 の影 響 を、3次 自 然 スプラインで回 帰 し、非 線 形 のリスク関 数 を作 成 した。 将 来 の影 響 予 測 に関 しては、1961年 から1990年 の気 候 をベースラインとした。社 会 経 済 シナリオとしてはSRES A1Bを用 い、5つの大 循 環 モデルによって2030年 、2050年 の気 候 を推 測 した。この推 測 によって全 球 を0.5度 ごと に区 分 したグリッドごとに日 最 高 気 温 分 布 の推 測 値 が得 られるので、それぞれのグリッドについて SRES A1Bシナ リオに従 った時 の死 亡 数 から、上 記 リスク関 数 を適 用 して熱 関 連 死 亡 数 を計 算 した。 (2)熱 波 警 報 対 策 システムの構 築 及 びその有 効 性 と経 済 性 の評 価 現 状 の把 握 のために、全 市 町 村 に調 査 票 を送 付 してこれまでに実 施 した熱 中 症 予 防 対 策 に 関 する調 査 を行 い、また大 都 市 に居 住 する高 齢 者 の居 住 環 境 (冷 房 装 置 の設 置 状 況 を含 む)及 び熱 波 の際 の対 処 行 動 に関 す るweb調 査 を行 った。 上 記 の調 査 からの問 題 点 なども踏 まえ、医 療 を受 けていない一 般 高 齢 者 を対 象 とした熱 中 症 予 防 介 入 試 験 を 長 崎 県 五 島 市 と埼 玉 県 三 郷 市 で実 施 した。五 島 市 では、温 度 計 およびペットボトルの水 送 付 群 と対 照 群 で熱 中 症 予 防 行 動 の変 容 に相 違 があったかを評 価 するとともに、費 用 効 果 分 析 を行 った。 4.結 果 及 び考 察 (1)温 暖 化 死 亡 影 響 モデルの精 緻 化 ・簡 易 化 得 られたリスク関 数 を、図 1(7)-3に示 す。ある地 域 で日 最 高 気 温 が至 適 気 温 を約 7度 超 過 すると、リスクが1.1 倍 になっている。このリスク関 数 を元 に、将 来 の65歳 以 上 地 域 別 熱 関 連 死 亡 数 (5つの大 循 環 モデルによる推 定 値 の平 均 )を求 めた結 果 を図 1(7)-4に示 す。青 が2030年 、赤 が2050年 を表 す。 S-8-1(7)-iii 図 1(7)-3. 熱 関 連 死 亡 のリスク関 数 図 1(7)-4. 地 域 別 の熱 関 連 超 過 死 亡 数 この図 に用 いられた地 域 の説 明 を以 下 に示 す。先 進 国 でもかなりの超 過 死 亡 がおこることが観 察 されている が、この点 は影 響 のほとんどが発 展 途 上 国 に限 られる低 栄 養 、下 痢 性 疾 患 、マラリアといった他 の主 要 な健 康 影 響 と大 きく異 なる点 である。 (2)熱 波 警 報 対 策 システムの構 築 及 びその有 効 性 と経 済 性 の評 価 各 市 町 村 においては、イベントなどでの注 意 喚 起 は行 われていたが、個 別 な介 入 は少 なかった。また、効 果 の 影 響 を評 価 している市 町 村 も少 なく、経 済 評 価 を行 っている市 町 村 は皆 無 であった。 高 齢 者 のいる世 帯 のエアコン設 置 率 は、世 帯 で見 ると関 東 以 南 では90%を超 える。しかし就 寝 中 の部 屋 の設 置 率 は7割 前 後 である。高 齢 者 の熱 中 症 発 生 は夜 間 にもかなりの割 合 で発 生 していることを考 えると問 題 である。 介 入 調 査 の結 果 、五 島 市 では介 入 によってより高 い割 合 の住 民 で行 動 変 容 が起 こった。しかしながら、熱 中 症 予 防 介 入 の費 用 と効 果 を分 析 すると、図 1(7)-5(左 :増 分 費 用 効 果 比 、右 :1死 亡 回 避 費 用 )のようになった。増 分 費 用 効 果 比 は、費 用 対 効 果 判 断 のための閾 値 (500万 円 /年 )を大 きく上 回 り、介 入 の普 及 は費 用 対 効 果 に 優 れないことが示 唆 された。さらに、1死 亡 回 避 費 用 の検 討 でも、熱 中 症 死 亡 リスクの回 避 への支 払 意 思 額 に基 づく統 計 的 生 命 価 値 (2億 2,742万 円 )及 び国 土 交 通 省 の公 共 事 業 評 価 で用 いられる値 ( 2億 2,607万 円 )と比 較 すると、大 きく上 回 った。 100 万円/年 億円 400 40 300 30 200 20 100 10 0 20 40 60 80 100 % 0 20 40 60 80 100 % 図 1(7)-5. 五 島 市 に お け る 介 入 の 費 用 効 果 分 析 結 果 。 注 :横 軸 は 超 過 死 亡 の う ち 介 入 で 予 防 で き た 割 合 を 示 す 。 S-8-1(7)-iv 5.本 研 究 により得 られた主 な成 果 (1)科 学 的 意 義 S-4で得 られていた、それぞれの地 域 の日 最 高 気 温 の84パーセンタイル値 で至 適 気 温 が近 似 できるという理 論 は、日 本 の47都 道 府 県 の知 見 に基 づくものであったが、それがアジアの韓 国 、台 湾 のみならず、ヨーロッパ、北 米 においても成 り立 つことが確 認 された。このことにより、全 球 を対 象 として、大 循 環 モデルを用 いて将 来 の気 温 分 布 がわかれば熱 関 連 死 亡 の将 来 予 測 が可 能 となった。また、熱 の影 響 は、高 気 温 の日 のみでなく、翌 日 以 降 にも及 ぶが、その影 響 も取 り入 れた、非 線 形 回 帰 モデルによって、精 緻 な影 響 予 測 が可 能 となった。 これまでにわが国 では行 われてこなかった、地 域 集 団 を対 象 とした費 用 効 果 分 析 を含 む熱 中 症 予 防 介 入 調 査 を始 めて実 施 した。その結 果 、ペットボトル送 付 などの介 入 により対 処 行 動 を起 こさせる効 果 があることは明 ら かになったものの、費 用 対 効 果 で考 えると問 題 があることが判 明 した。 (2)環 境 政 策 への貢 献 環 境 省 の日 本 における気 候 変 動 による影 響 に関 する評 価 報 告 書 において、本 研 究 成 果 である熱 関 連 死 亡 モ デルの試 算 結 果 が用 いられた。地 方 自 治 体 においても、簡 易 に将 来 推 計 できるシステムが S-8によって構 築 され たことから、長 野 県 の気 候 変 動 影 響 評 価 においても、本 研 究 成 果 である熱 関 連 死 亡 モデルが用 いられた。 介 入 研 究 に関 しては、それ自 体 が地 方 自 治 体 の環 境 政 策 の一 つと考 えられる。五 島 市 、三 郷 市 での調 査 実 施 後 、研 究 成 果 の報 告 に伺 い、市 の保 健 担 当 職 員 の方 々との意 見 交 換 を行 った。これにより、両 市 の今 後 の 対 策 に役 立 てていただくことが期 待 される。 <行 政 が既 に活 用 した成 果 > 介 入 研 究 は、それ自 体 が地 方 自 治 体 の環 境 政 策 の一 つと考 えられる。五 島 市 、三 郷 市 での調 査 実 施 後 、研 究 成 果 の報 告 に伺 い、市 の保 健 担 当 職 員 の方 々との意 見 交 換 を行 った。これにより、両 市 の今 後 の対 策 に役 立 てていただくことが期 待 される。 <行 政 が活 用 することが見 込 まれる成 果 > 現 在 、世 界 的 に見 ても、全 球 を対 象 にして熱 関 連 死 亡 の将 来 予 測 が可 能 なモデルは他 にないため、本 研 究 成 果 である熱 関 連 死 亡 モデルが、EUやOECDでも用 いられ、近 いうちに公 表 予 定 である。これらを通 じて、COPなど にも影 響 が及 ぶものと考 えられる。 長 崎 県 からも本 研 究 成 果 を用 いた将 来 予 測 が行 われ、近 いうちに公 表 予 定 である。 介 入 研 究 では、経 済 的 な評 価 も組 み込 んでいた。自 治 体 が同 様 の介 入 を行 う際 に、単 に介 入 を行 うのみでなく、その経 済 的 な側 面 も評 価 できることから、この介 入 方 法 が地 方 自 治 体 に利 用 されることが見 込 まれる。 6.研 究 成 果 の主 な発 表 状 況 (1)主 な誌 上 発 表 <査 読 付 き論 文 > 1) M. KONDO, Y. HONDA and M. ONO: Environ Health Prev Med 16,5,279 -80 (2011). "Growing concern about heatstroke this summer in Japan after Fukushima nuclear disaster." 2) K. SUGIMOTO, V LIKHVAR, I OKUBO, I JIN and Y. HONDA: Japanese Journal of Health and Human Ecology 78,1, 16-26 (2012). "Analysis of relation between temperature and mortality i n three cities in China by using lag model: A comparison of Harbin, Nanjing and Guangzhou." 3) Y. HONDA, M. KONDO, G. MCGREGOR, H. KIM, Y. GUO, Y. HIJIOKA, M. YOSHIKAWA, K. OKA, S. TAKANO, S. HALES and RS. KOVATS: Environmental Health and Preventive Medicine 19,1,56-63 (2014). "Heat-related mortality risk model for climate change impact projection.” 4) M.KAYABA, T. IHARA, H. KUSAKA, S. IIZUKA, K. MIYAMOTO and Y. HONDA: Sleep Medicine 15,5,556-564 (2014). "Association between sleep and residential environments in the summertime in Japan." 5) N. TAKAHASHI, R. NAKAO, K. UEDA, M. ONO, M. KONDO, Y. HONDA and M. HASHIZUME: Int. J. Environ. Res. Public Health 12,3, 3188 -3214 (2015). "Community Trial on Heat Related-Illness Prevention Behaviors and Knowledge for the Elderly ." 6) A. GASPARRINI, M. HASHIZUME, E. LAVIGNE, A. ZANOBETTI, J. SCHWARTZ, A. TOBIAS, S. TONG, J. ROCKLÖV, B. FORSBERG, M. LEONE, M. DE SARIO, ML. BELL, Y. GUO, C. WU, H. KAN, S. YI, M. S-8-1(7)-v COELHO, PH. SALDIVA, Y. HONDA, H. KIM and B. ARMSTRONG: The Lancet (2015) . "Mortality risk attributable to high and low ambient temperature: A multi -country study." (in press, S-8謝 辞 あり) 7) A. GASPARRINI, Y. GUO, M. HASHIZUME, P. KINNEY, EP. PETKOVA, E. LAVIGNE, A. ZANOBETTI, J. SCHWARTZ, A. TOBIAS, M. LEONE, S. TONG, Y. HONDA, H. KI M and B. ARMSTRONG: Environmental Health Perspectives (2015). "Temporal Variation in Heat-Mortality Associations: A Multi -Country Study." (in press, S-8謝 辞 あり) (2)主 な口 頭 発 表 (学 会 等 ) 1) Y. HONDA: International Workshop on Urban Climate Projection for Better Adaptation Plan, Tsukuba, Japan, 2010. (Invited Speech) "Climate change and human health: A model based on Asian experience." 2) Y. HONDA: Twenty-second Meeting of International Society for Environmental Epidemiology, Seoul, Korea, 2010. "Adaptation to climate change a t population level in Japan." 3) Y. HONDA: Second Regional Consultation Meeting on Economics of Climate Change and Low Carbon Growth Strategies in Northeast Asia, Ulaanbaatar, Mongolia, 2010. (Held by Asian Development Bank, invited speech) "Regional Assessment and Future Climate Change Impact on Health." 4) Y. HONDA, K. SUGIMOTO, K. UEDA, M. ONO: Twenty -third Conference of the International Society for Environmental Epidemiology, Barcelona, Spain, 2011. "Influenza epidemic and meteorological factors in 47 prefec tures in Japan." 5) Y. HONDA, M. ONO: Nineteenth International Congress of biometeorology, Auckland, New Zealand, 2011. "Relation between ambient temperature and mortality among children in Tokyo, Japan." 6) Y. HONDA, K. SUGIMOTO, K. NAKAZAWA, Y. GUO, H. KIM: Tw enty fourth Conference of the International Society for Environmental Epidemiology, Columbia, USA, 2012. "Seasonal Trend of Mortality and Influenza Epidemic in Tokyo." 7) 古 尾 谷 法 子 ,橋 爪 真 弘 ,中 尾 理 恵 子 ,上 田 佳 代 ,近 藤 正 英 ,小 野 雅 司 ,本 田 靖 :第 71回 日 本 公 衆 衛 生 学 会 (2012) 「長 崎 県 五 島 市 に おける熱 中 症 予 防 ランダム化 地 域 比 較 介 入 研 究 」 8) Y. HONDA, M. KONDO, E. MINAKUCHI, M. KAYABA, K. NAKAZAWA, K. SUGIMOTO, Y. KIM, H. KIM, Y. GUO, M. HASHIZUME: Twenty fifth Conference of the International Society for Environmental Epidemiology, Basel, Switzerland, August, 2013. "Effect of absolute humidity on heat-mortality relation in Japan." 9) Y. HONDA, M. HASHIZUME, H. KIM, H. KAN, Y. GUO, K. UEDA, M. BELL: Twenty-sixth Conference of the International Society for Environmental Epidemiology, Seattle, USA, 2014. "Relation of external causes with temperature and climate." 10) 萱 場 桃 子 ,近 藤 正 英 ,本 田 靖 :第 84回 日 本 衛 生 学 会 総 会 (2014) 「埼 玉 県 A市 における高 齢 者 の熱 中 症 予 防 に向 けた介 入 の試 み 第 一 報 」 11) 本 田 靖 :第 79回 日 本 民 族 衛 生 学 会 総 会 (2014)(学 会 長 講 演 ) 「地 球 温 暖 化 の健 康 影 響 」 7.研 究 者 略 歴 課 題 代 表 者 :本 田 靖 東 京 大 学 医 学 部 卒 業 、博 士 (医 学 )、現 在 、筑 波 大 学 体 育 系 教 授 研究分担者 1) 近 藤 正 英 東 京 大 学 医 学 部 卒 業 、現 在 、筑 波 大 学 医 学 医 療 系 准 教 授 S-8-1(7)-1 S-8-1 我が国全体への温暖化影響の信頼性の高い定量的評価に関する研究 (7)温暖化の健康影響-評価法の精緻化と対応策の構築① 温暖化死亡影響モデルの精緻化・簡易化 国立大学法人筑波大学 体育系 本田 靖 医学医療系 近藤正英 平成22(開始年度)~26年度累計予算額:41,370千円 ただし1-(7)全体で平成26年度に3,991千円返納 (うち、平成26年度予算額:返納前で6,886千円) 予算額は、間接経費を含む。 [要旨] 地球温暖化による熱関連死亡は、欧州における2003年の熱波などで多くの犠牲者を出したこと から示されるように、先進国においても大きな問題である。この熱関連死亡について、前研究で あるS-4において、わが国47都道府県のデータを元に、その地域における気温分布に基づいて将来 予測ができるモデルを開発した。しかし、全世界への適用可能性については不明であり 、また影 響も気温を大きく区分して平均的なリスクを用いており 、精緻ではなかった。また、持ち越し効 果(ある日の値高気温が次の日以降にも影響を与えること)も 考慮していなかった。本研究では、 distributed lag non-linear modelという、非線形に影響を推測するモデルを導入して持ち越し 効果を組み込んだ上で、気温を連続変数としてリスクを推定することが可能となった 。また、適 用可能性に関しても、ヨーロッパ、北米、アジアの検討によって、少なくとも寒冷な地域から亜 熱帯まではモデル適用が可能であることを示した 。熱帯地域での適用可能性は依然強い証拠はな いが、もともと気温分布の幅が小さいため、将来推計に与える影響は大きくないと考えられた 。 この精緻化したモデルによって、全球に適用可能なリスク関数(気温ごとにリスクを推定するも の)を構築した。このモデルは現時点で、全球に適用できる唯一のモデルとして、世界保健機関 の温暖化の健康影響予測の一つとして報告書の一章として掲載され 、現在はEUやOECDでもこのモ デルに基づく予測が行われている。なお、死亡リスクが最低となる気温は 、温暖な地域ほど高い が、温暖化によって、特別な政策的対応を行わなくても死亡リスクが最低となる気温が上昇する ことが明らかとなったため、この「自動的適応」についてもモデルに組み込み 、この適応による 影響の幅を検討した。一方で、上記リスク関数は、都道府県、あるいは市町村においても、簡単 に将来の熱関連死亡の予測が可能となった。今後、地方自治体による独自の影響評価 、行動計画 の基礎資料作成に貢献できるものと考えられる。 [キーワード] 至適気温、熱関連死亡、持ち越し効果、distributed lag non-linear model、自動的適応 S-8-1(7)-2 1.はじめに 地球温暖化による熱関連死亡は、近年わが国でも毎年のように夏になると報道されているし、 欧州における2003年の熱波などで多くの犠牲者を出したことから示されるように、先進国におい ても大きな問題である。一方で、途上国では死亡統計が必ずしも精度よく収集されていないこと などから、その影響を評価することが困難であるという問題もある。 この熱関連死亡は、図1(7)①-1の斜線部分で表される。ある気温で死亡リスクが最低になるこ とから、その気温(至適気温)を超えた時に、その最低の死亡リスクよりも高いリスクが観察さ れるので、そのリスクの差をもって超過死亡と考え、この超過死亡の部分を熱関連死亡と呼んで いる。 前研究であるS-4において、わが国47都道府県のデータを元に、その地域における気温分布に基 づいて、この熱関連死亡の将来予測ができるモデルを開発した。すなわち、都道府県ごとの日最 高気温と死亡リスクとの関連を曲線回帰すると、至適気温は概ねその都道府県の日最高気温の 84 パーセンタイル値となっていることから、至適気温を将来気候の日最高気温分布から推定できる、 ということを発見した。しかし、韓国、台湾の数都市でもこの関係は成り立っていたものの、 全 世界への適用可能性については不明であり、また影響も 図1(7)①-2に見られるように、気温を 粗 く区分して平均的なリスクを用いており、精緻ではなかった。また、持ち越し効果(ある日の値 高気温が次の日以降にも影響を与えること)も考慮していなかった。 これらの問題点を克服すべく、最新の知見を応用して、熱関連死亡の将来予測を 精緻なものと すること、また、精緻化はするものの、その結果を応用して自治体で将来予測をする場合にも簡 単に用いることができるよう簡易化を行うことを本研究の目的とした。 図 1(7)①-1 熱関連死亡、すなわち暑熱による超過死亡の模式図 相対リスク S-8-1(7)-3 日最高気温- 至適気温 (℃) 図 1(7)①-2 S-4 で用いられたリスク関数 2.研究開発目的 本研究では、S-4で発見した理論が、多くの地域で実際に適用可能なのかを確認し、 S-4の方法 よりも精緻な方法によって全球を対象とした熱関連死亡の将来予測を行うことを目的とする。 3.研究開発方法 詳細はHondaら(2014)[引用文献1]に発表した。要点を以下に述べる。 (1) S-4以前は不可能であった全球の熱関連死亡将来予測について、 S-4によって日最高気温の84 パーセンタイル値によって至適気温が推定できるという関連が、ヨーロッパ、北米でも認められ るかを確認する。ヨーロッパの都市としてバルセロナ、パリ、ローマを用い、北米の都市として は、人口の多い20都市を選んだ(表1(7)①-1参照)。 (2) 持ち越し効果を組み込んだ上で非線形に影響を推測するモデル、distributed lag non-linear modelを導入して、気温を連続変数としてリスクを推定する(すなわちリスク関数を作成する)こ とによって精緻化すると共に、多くの地域のデータを用いてその適用可能性を確認する。 この予 測モデルでは、S-4の時に行ったようなリスクの点推定のみでなく、 95%信頼区間も同時に計算し ているため、リスク関数の不確実性 の評価も可能である。 また、S-4の理論によって上記至適気温と比較してリスクを評価する際に 47都道府県のデータ (しかも約40年間という長期間)を用いることで統計的不確実性を大幅に縮小することを可能と した。 気温の影響とその持ち越し効果を2次元のマトリクスで推定するが、そのマトリクスを crossbasisという言葉で表現すると、用いたモデルは以下で表される。 S-8-1(7)-4 y i ~ crossbasis{Tmax i ) - OT} ここでy i は日レベルで表した時刻 i におけるリスクで、quesi-Poisson分布に従うと仮定した。Tmax i は時刻 i における日最高気温、OTは至適気温である。持ち越し効果は15日までとした。非線形の関 係を表すために、気温、持ち越し効果共に自由度 6の3次の自然スプラインを用いた。途上国では、 得られる変数が少ないため、このように非常に単純なモデルを用いた。 (3) リスク関数を用いて、IPCCの将来シナリオ、SRESのうちA1Bを用い、その人口、死亡数の将来 予測と複数の大循環モデル(全球を対象とした将来気候の物理シミュレーションモデル) を用い て将来の熱関連死亡を予測した。なお、WHOのプロジェクトとして、同じ死亡を2種類計測するこ とを防ぐため、このリスク推計は65歳以上に限って行った。 なお、通常死亡数の予測は年間死亡数として計算される。この年間死亡数から至適気温におけ る死亡数を計算する必要がある。その作業は以下のように行った。 インフルエンザの影響が少ない、日最高気温が 75パーセンタイル値から85パーセンタイル値に 含まれる日の平均死亡数を基準とし、日別の死亡数をその基準で割ることで相対リスクを計算す る。グラフから得られる至適気温における相対リスクを RM OT 、観察期間の平均相対リスクをRM av と すると、年間死亡数を年間の日数、365.25で割ると、日平均死亡数となるので、 至適気温における死亡数 = 年間死亡数 / 365.25 * RM OT / RM av という式から至適気温での死亡数が求められる 。このときに用いたRM OT /RM av を死亡リスク比と呼ぶ。 日本の47都道府県では、その平均が0.88、標準偏差が0.014であった。 表1(7)①-1に各都市の至適気温、日最高気温の84パーセンタイル値、死亡リスク比を示す。モデ ルの単純さから考えれば、至適気温は84パーセンタイル値によって十分な推定が可能であると考 えられた。84パーセンタイル値が体温を超えるようなSan Bernardino、Phoenixでもこの推定が可 能であったことは興味深い。死亡リスク比は、日 本の平均値、0.88よりはやや高いものの、やは り近い値が得られているし、これら諸国の都市は全数調査でもないので、これらの平均よりはむ しろ日本全体を用いた47都道府県の平均値を用いて将来推計に用いることにした。 将来の熱関連死亡数は、年間死亡数を365.25で割り、死亡リスク比を乗ずることで得られる。 将来影響の比較のために、1961-1990年の気候をベースラインとして設定した。準拠したのは Climate Research Unit, University of East Anglia, United Kingdom (CRU)によって補正され たUS National Centers for Environmental Prediction (NCEP) のデータ[引用文献2]、通称NCC データと呼ばれるものである。大循環モデルとしては、 BCM2、EGMAM1、EGMAM2、EGMAM3、 IPCM4 を用いてモデルによる不確実性の評価ができるようにした。 なお、将来の熱関連死亡として、SRES A1Bに従って気候が変化した場合の影響と、社会経済状 況はSRES A1Bだが気候は現状のままという仮想現実における影響の両方を計算し、その差をもっ て「気候変動による影響」と定義した[引用文献3]。 S-8-1(7)-5 表1(7)①-1 アジア、ヨーロッパ、北米の都市における至適気温、 日最高気温の 84p * 、死亡リスク比 ** (Hondaら(2014)より転載) 国 注: 都市 至適気温 84p 死亡リスク比 * 84パーセンタイル値 **至適気温での死亡リスク/日平均リスク a 対象は全年齢階級 b 最も高い日最高気温(高気温ほどリスクが低いという単調な関係が認められた た S-8-1(7)-6 め、経験された気温のうち、最低リスクを示す気温を用いた )。 (4) 将来の熱関連死亡に対して、大気汚染が影響を与えることが懸念されるため、物理気 候モデ ルを用いたオゾン濃度の将来予測を行い、その影響を評価した。 まず、気象モデルの検証および将来予測として、 2001 年夏季(6~8 月)の東日本域および西 日本域を対象に気象モデルWRFを用いて気象シミュレーションを実施し、気象モデルの再現性を検 証した。次に、大循環モデル(MIROC5、MRI-CGCM3、GFDL CM3、HadGEM2-ES)による将来予測結果 を気象モデルに取り込み、東日本域および西日本域の温暖化後の気象場を推計した。 大気質モデルの検証および将来予測として、2001 年夏季(6~8 月)の東日本域および西日本 域を対象に大気質モデルCMAQを用いて大気質シミュレーションを実施し、大気質モデルの再現性 を検証した。次に、温暖化後の気象場を用い 、将来の汚染物質の排出量の変化率を考慮して 、東 日本域および西日本域の将来のO3 濃度を推計した。将来の排出量は、RCP8.5 およびRCP2.6 シナ リオに基づき、将来の排出量の変化率を検討した 。その際、排出量現状維持と排出量変化の2 種 類の将来予測を行った。排出量現状維持ケースでは、温暖化の影響による O3 濃度の変化を把握 するために、人為起源の排出量を現状と同じに設定した。ただし、植物由来の 揮発性有機化合物 排出量は対象時刻の気温および日射量により標準排出量を補正するため、温暖化を考慮した場合、 排出量現状維持ケースでも補正後の排出量は変化する。排出量変化ケースでは、将来の排出量変 化を考慮するために、RCP8.5 またはRCP2.6の実験期間の中間年付近(2090 年)の排出量と2000 年 の排出量の比を用いて、現状の排出量を補正し、将来の排出量を推定した。東 アジア域の排出量 変化率算出にはRCP シナリオのAsia の排出量変化を、日本周辺の排出量変化率算出には RCP シナ リオのOECD90 の排出量変化を用いた。 4.結果及び考察 図1(7)①-3に日最高気温が至適気温よりも15℃高い場合の持ち越しリスクを示す。ある日の高 相対リスク 気温の影響は、このように当日の影響が最大で、急激に減少する。 日最高気温-至適気温=15(℃) 影響持ち越し日数 図1(7)①-3 持ち越し効果のリスク 今回、熱関連死亡の影響を評価するに当たっては、この持ち越し効果を合計してリスクを評価 した。そのリスク関数を図1(7)①-4に示す。至適気温において死亡リスクが最低となるため、そ S-8-1(7)-7 のリスクを基準として、気温が至適気温よりも上昇した場合のリスクを示している。網掛け部分 は95%信頼区間である。 図1(7)①-4 熱関連死亡のリスク関数 このリスク関数を用いて将来予測を行った 結果を、表(7)①-2に示したWHO region別に示したも のが表(7)①-3である。これはBCM2の例であるが、他の大循環モデルを用いた場合でも、地域の相 対的な影響は類似している。 S-8-1(7)-8 表1(7)①-2 WHO regions 略号 WHO region名 S-8-1(7)-9 表1(7)①-3 BCM2、SRES A1Bでの気候変化による死亡数の増加 注:50% adaptationとは、全く適応が起こらなかった場合(現時点での気温分布の 84パーセンタ イル値)と温暖化した気候における気温分布の 84パーセンタイル値、すなわち100%適応の中点を 至適気温とした場合を意味する。 上記WHO regionをまとめ、世界全体と先進国について、WHOのレポートにある他の健康影響と追 加的死亡数を比較したものを図1(7)①-5に示す。このように、主要な健康影響のうち、低栄養、 マラリア、下痢性疾患に関しては、先進国では問題とならないが、 熱関連死亡は先進国でも大き な影響を及ぼすという意味で特殊であることが明らかとなった。 なお、デング熱は死亡影響でみ ると影響が小さい。しかし昨年以降わが国でも国内での感染例が発生し、そのために大きな社会 的影響を被ったことを考えれば、影響が小さいとは考えられない。 S-8-1(7)-10 世界全体 先進国 12000 100000 90000 80000 70000 60000 50000 40000 30000 20000 10000 0 10000 8000 6000 4000 2000 0 低栄養 マラリア デング 下痢性疾患 熱関連 低栄養 マラリア デング 下痢性疾患 熱関連 図1(7)①-5 原因別の気候変化による追加的死亡数 注:熱関連死亡以外はS-8の成果ではない。 地域での将来予測のために 、簡易化したことで S-8の経済班などとも連携が円滑に進められた。 ここでは一例として都道府県レベルの将来予測の結果を示す。 図(7)①-6は、大循環モデルMRIと MIROCを用いた場合の熱関連死亡数である。 MRI MIROC 図1(7)①-6 熱関連死亡数の都道府県別将来予測 S-8-1(7)-11 最後に、オゾン濃度の将来予測結果を図 1(7)①-7、図 1(7)①-8 に示す。排出量が変化しない とした場合には、オゾン濃度がやや上昇する地域が認められるが、より現実に近い排出量変化モ デルでは、日本全体でオゾン濃度は減少することが明らかとなった。 S-8 開始時点では、気温の 上昇と大気汚染の複合曝露による影響が懸念されたために詳細な将来予測の検討を行ったのであ るが、ここで示されたように、日本においてオゾン濃度は減少することが考えられることに加え、 熱関連影響と大気汚染の同時評価の場合、大気汚染の評価には熱の影響が大きいために熱を考慮 しないとリスク推定が困難であるのに対し、熱関連評価に及ぼす大 気汚染の影響は大きくないと 考えられた。本研究においても、図 1(7)①-9 に示すように気温とオゾン濃度を組み込んだモデル を開発したが、オゾン影響の信頼区間が広いこともあり、基本的な将来影響は気温のみのモデル で行うことに決定した。 図1(7)①-7 夏季平均のオゾン濃度日最高値と現状との差(東アジア域、RCP8.5、排出量維持) S-8-1(7)-12 図1(7)①-8 夏季平均のオゾン濃度日最高値と現状との差(東アジア域、RCP8.5、排出量変化) 相対リスク 相対リスク S-8-1(7)-13 日最高気温 - 至適気温(℃) 日平均オゾン濃度(ppb) 図1(7)①-9 気温とオゾンを同時評価した場合のリスク関数 5.本研究により得られた成果 (1)科学的意義 これまで、熱関連死亡を予測するために必要な至適気温について、気候によって異なることは わかっていたが、それがそれぞれの地域の日最高気温の 84パーセンタイル値で近似できることを S-4で明らかにした。その関連は日本の47都道府県の知見に基づくものであったが、それがアジア の韓国、台湾のみならず、ヨーロッパ、北米においても成り立つことが確認された。このことに より、全球を対象として、大循環モデルを用いて将来の気温分布がわかれば熱関連死亡の将来予 測が可能となった。 また、熱の影響は、高気温の日のみでなく、翌日以降にも及ぶが、その影響も取り入れた、非 線形回帰モデルによって、精緻な影響予測が可能となった。 (2)環境政策への貢献 <行政が既に活用した成果> 環境省の日本における気候変動による影響に関する評価報告書において、 本研究成果である熱 関連死亡モデルの試算結果が用いられた。 地方自治体においても、簡易に将来推計できるシステムが S-8によって構築されたことから、長 野県における気候変動の影響評価においても、本研究成果である熱関連死亡モデルが用いられた。 <行政が活用することが見込まれる成果> 現在、世界的に見ても、全球を対象にして熱関連死亡の将来予測が可能なモデルは他にないた め、本研究成果である熱関連死亡モデルが、EUやOECDでも用いられ、近いうちに公表予定である。 これらを通じて、COPなどにも影響が及ぶものと考えられる。 長崎県からも本研究成果を用いた将来予測が行われ、近いうちに公表予定である。 S-8-1(7)-14 6.国際共同研究等の状況 (1) 世界保健機関による気候変動の健康影響評価プロジェクト 成果にも内容を示したように、世界保健機関の報告書として公表されている。 URL:http://apps.who.int/iris/bitstream/10665/134014/1/9789241507691_eng.pdf?ua=1 この報告書はWHOが主導し、数年間にわたる複数機関の共同研究の結果として発行されたもので ある。 2014年の報告書発行をもってこのプロジェクトは終了した。しかし、上記プロジェクトのリー ダーの一人、London School of Hygiene and Tropical MedicineのDr. Sari Kovatsは、国立環境 研究所の高橋潔主任研究員のグループともこのプロジェクトを通じて共同研究を開始しており、 本田も含め、ヨーロッパで進行中のIMPRESSIONS (http://www.eci.ox.ac.uk/research/biodiversity/impressions.php)というプロジェクトに研 究成果を供給するなど、交流は続いている。 (2) Global Research Laboratory(GRL = 気候変動と大気汚染の健康影響に関する共同研究) ソウル国立大学のHo Kim教授が代表研究者であり、日本からは筆者の本田が、台湾からは国立 台湾大学のLeon Guo教授がカウンターパートとして参加している。 グループメンバーとしては他 にYale UniversityのMichelle Bell教授、中国Fudan UniversityのHaidong Kan教授が参加して いる。 (3) Multi-countriy collaborative study (=MCC) London School of Hygiene and Tropical MedicineのDr. Antonio Gasparriniの主催するヨー ロッパを主体とした気温と死亡との関連に関する共同研究グループが MCCである。 上記GRLとMCCグループとは、2013年頃からグループ同士の共同研究を開始した。このため、現 在では合併した大共同研究グループが世界の研究をリードしている。この共同研究から、昨年度 はEpidemiologyといった専門誌成果が掲載されたのみならず、以下の研究成果にもあるように 一 般医学誌のThe Lancetにも論文が受理された。発行は今後半年以内の予定である。 7.研究成果の発表状況 (1)誌上発表 <論文(査読あり)> 1) M. KONDO, Y. HONDA and M. ONO: Environ Health Prev Med 16 ,5,5279-280 (2011) "Growing concern about heatstroke this summer in Japan after Fukushima nuclear disaster." 2) K. SUGIMOTO, V. LIKHVAR, I. OKUBO, I. JIN and Y. HONDA: Japanese Journal of Health and Human Ecology 78,1, 16-26 (2012) "Analysis of relation between temperature and mortality in three cities in China by using lag model: A comparison of Harbin, Nanjing and Guangzhou." 3) Y. HONDA, M. KONDO, RS. KOVATS, S. HALES, H. KIM and Y. GUO: Impacts World 2 013 Conference Proceedings, Potsdam, 275-281 (2013) "Will the Global Warming Alleviate Cold-related Mortality?" S-8-1(7)-15 4) Y. HONDA, M. KONDO, G. MCGREGOR, H. KIM, Y. GUO, Y. HIJIOKA, M. YOSHIKAWA, K. OKA, S. TAKANO, S. HALES and RS. KOVATS: Environmental Health and Preventive Medicine 19,1,56-63 (2014) "Heat-related mortality risk model for climate change impact projection." 5) A. GASPARRINI, M. HASHIZUME, E. LAVIGNE, A. ZANOBETTI, J. SCHWARTZ, A. TOBIAS, S. TONG, J. ROCKLÖV, B. FORSBERG, M. LEONE, M. DE SARIO, ML. BELL, Y. GUO, C. WU, H. KAN, S. YI, M. COELHO, PH. SALDIVA, Y. HONDA, H. KIM and B. ARMSTRONG: The Lancet (2015) "Mortality risk attributable to high and low ambient temperature: A multi -country study." (in press, S-8謝辞あり) 6) A. GASPARRINI, Y. GUO, M. HASHIZUME, P. KINNEY, EP. PETKOVA, E. LAVIGNE, A. ZANOBETTI, J. SCHWARTZ, A. TOBIAS, M. LEONE, S. TONG, Y. HONDA, H. KIM and B. ARMSTRONG: Environmental Health Perspectives (2015) "Temporal Variation in Heat-Mortality Associations: A Multi-Country Study." (in press, S-8謝辞あり) <その他誌上発表(査読なし)> 1) JD. FORD, L. BERRANG-FORD eds.: Climate Change Adaptation in Developed Nations - From Theory to Practice, Springer 189-204 (2011) "Chapter 13. Adaptation to the heat-related health impact of climate change in Japan. (Authors: Y. HONDA, M. ONO and KL. EBI)" 2) 田中充,白井信雄編:気候変動に適応する社会、技報堂出版、 120-123(2013) 「第4章 3) 4.3熱中症から身を守るまちづくり(執筆担当:本田靖)」 CD BUTLER ed.: Climate Change and Global Health, CAB International, 54 -64 (2014) "Chapter 6. Climate Extremes, Disasters and Health. (Authors: Y. HONDA , T. OKI and S. KANAE)" 4) RS. KOVATS, S. HALES and S. LLOYD eds.: Quantitative risk assessment of the effects of climate change on selected causes of death, 2030s and 2050s, World Health Organization, 17-25 (2014) "Chapter 2 Heat-related mortality (Authors: Y. HONDA, M. KONDO, G. MCGREGOR, H. KIM, Y. GUO, S. HALES and RS. KOVATS)" (2)口頭発表(学会等) 1) Y. HONDA: International Workshop on Urban Climate Projection for Better Adaptation Plan, Tsukuba, Japan, 2010. (Invited Speech) "Climate change and human health: A model based on Asian experience." 2) Y. HONDA: Twenty-second Meeting of International Society for Environmental Epidemiology, Seoul, Korea, 2010. "Adaptation to climate change at population level in Japan." 3) 本田靖,杉本和俊,小野雅司:第75回日本民族衛生学会総会(2010) S-8-1(7)-16 「温暖化の健康影響 -暑熱の直接影響による超過死亡推定の精度向上-」 4) 杉本 和俊,本田靖:第75回日本民族衛生学会総会(2010) 「中国3都市における気温と死亡率のラグモデルを使用した解析―哈爾浜 (Harbin), 南京 (Nanjing),広州(Guangzhou)での比較―」 5) HONDA Y: Second Regional Consultation Meeting on Economics of Climate Change and Low Carbon Growth Strategies in Northeast Asia, Ulaanbaatar, Mongolia, 2010. (Held by Asian Development Bank, invited speech) "Regional Assessment and Future Climate Change Impact on Health." 6) Y. HONDA: Advanced Training Workshop on Southeast Asia Regional Health Impacts and Adaptation under Climate Change, Tainan, Taiwan, 2010. (Invited speech) "Climate Change: Health-related extreme temperature issues and adaptation." 7) Y. HONDA: BAMIS Satellite International Forum, Tsukuba, Japan, 2011 (Invited speech) "Global warming and health problem." 8) Y. HONDA: GRL International symposium on climate change and health, Seoul, Korea, 2011.(Designated speech) "Method for projecting climate change impact due to direct heat effect." 9) Y. HONDA: Climate Change and Health Forum, Seoul, Korea, 2011. (Invited speech) "Ambient heat effect on health in Japan." 10) 本田 靖:日本ヒートアイランド学会第6回全国大会( 2011) 「2011年夏の電力危機に対するヒートアイランド研究の役割」 11) Y. HONDA, K. SUGIMOTO, K. UEDA, M. ONO: Twenty-third Conference of the International Society for Environmental Epidemiology, Barcelona, Spain, 2011. 12) "Influenza epidemic and meteorological factors in 47 prefectures in Japan." 13) 本田 靖,小野雅司,杉本和俊,水口恵美子,萱場桃子,近藤正英:第 76回日本民族衛生学 会総会(2011) 「東京における気温と死亡の関連について」 14) Y. HONDA, M. ONO: Nineteenth International Congress of biometeorology, Auckland, New Zealand, 2011. "Relation between ambient temperature and mortality among children in Tokyo, Japan." 15) Y. HONDA: The 3rd Symposium for the Global Research Laboratory[GRL] Program of Korea, Seoul, Korea, 2012. "Climate Change and Health." 16) Y. HONDA: Perspectives in Environmental Health & Toxicology (Joint International Conference by KSOT and KSEH), Seoul, Korea, 2012. "Climate change impact on health: New estimations." 17) J. EUM, H. CHEONG, M. HA, H. KIM, J. PARK, Y. HONDA, K. INAPE: Twenty fourth Conference of the International Society for Environmental Epidemiology, Columbia, USA, 2012. "The Effect of Climate Variability on Diarrheal Illness in Papua New Guinea." 18) Y. HONDA, K. SUGIMOTO, K. NAKAZAWA, Y. GUO, H. KIM: Twenty fourth Conference of the S-8-1(7)-17 International Society for Environmental Epidemiology, Columbia, USA, 2012. "Seasonal Trend of Mortality and Influenza Epidemic in Tokyo." 19) Y. LIM, H. KIM, Y. HONDA, Y. GUO, B. CHEN: Twenty fourth Conference of the International Society for Environmental Epidemiology, Columbia, US A, 2012. "Temperature Effects on Mortality in 15 Asian Cities." 20) C. KIM, Y. LIM, Y. HONDA, M. KIM, Y. YI, H. KIM: Twenty fourth Conference of the International Society for Environmental Epidemiology, Columbia, USA, 2012. "Investigating Heat Effect in Temperature-Mortality Association Study -Attributable deaths in Seoul, South Korea 2000 to 2009." 21) Y. HONDA: Pacific Regional Climate Change and Health Symposium, Nadi, Fiji, 2012.(Invited speech) "The role of governments and the IPCC in managing climate change and health issues." 22) 本田 靖,水口 恵美子,萱場 桃子,杉本 和俊,中澤 浩一,近藤 正英,上田 佳代,小野 雅 司:第77回日本民族衛生学会総会(2012) 「2010 年における熱関連死亡」 23) Y. HONDA: GRL International Symposium, Seoul, Korea, 2013. "Projection of heat-related mortality." 24) Y. CHUNG, Y. LIM, Y. HONDA, Y. GUO, M. HASHIZUME, B. CHEN, H. KIM: Twenty fifth Conference of the International Society for Environmental Epidemiology, Basel, Switzerland, 2013. "Time-varying high temperature effects on mortality for 15 cities in East Asia." 25) Y. KIM, H. KIM, Y. HONDA, Y. GUO, B. CHEN, Y. LIM, N. KIM: Twenty fifth Conference of the International Society for Environmental Epidemiology, Basel, Switzerland, 2013. "Suicide and Ambient temperature in East Asia." 26) J. KIM, H. CHEONG, H. KIM, Y. HONDA, M. HA, M. HASHIZUME, K. INAPE: Twenty fifth Conference of the International Society for Environmental Epidemiology, Basel, Switzerland, 2013. "The Impact of Local and Oceanic Climate Variability on the Incidence of Childhood Pneumonia in Papua New Guinea." 27) Y. KIM, H. KIM, H. CHEONG, M. HASHIZUME, Y. HONDA, J. KIM, C. KIM, J. EUM, C. IMAI: Twenty fifth Conference of the International Society for Environmental Epidemiology, Basel, Switzerland, August, 2013. "Comparative study of the relationship between regional climate factors and local weather in Western Pacific countries." 28) Y. HONDA, M. KONDO, E. MINAKUCHI, M. KAYABA, K. NAKAZAWA, K. SUGIMOTO, Y. KIM, H. KIM, Y. GUO, M. HASHIZUME: Twenty fifth Conference of the International Societ y for Environmental Epidemiology, Basel, Switzerland, 2013. "Effect of absolute humidity on heat-mortality relation in Japan." 29) Y. LIM, Y. HONDA, Y. GUO, B. CHEN, Y. HONG, S. YI, H. KIM, N. KIM: Twenty fifth Conference of the International Society for Environmental Epidemiology, Basel, Switzerland, 2013. S-8-1(7)-18 "Population adaptation to heat waves and cold spells in East Asia." 30) I. OHN, Y. YI, Y. LIM, Y. HONDA, Y. GUO, B. CHEN, H. KIM: Twenty fifth Conference of the International Society for Environmental Epidemiology, Basel, Switzerland, 2013. "The effect of temperature change on mortality in 3 East Asian cities." 31) C. IMAI, M. HASHIZUME, H. CHEONG, H. KIM, Y. HONDA, J. EUM, C. KIM, J. KIM, Y. KIM, T. FENGTHONG: Twenty fifth Conference of the International Socie ty for Environmental Epidemiology, Basel, Switzerland, 2013. "The impacts of global and local climates on dengue fever in Lao PDR and Cambodia." 32) S. KIM, Y. LIM, Y. HONDA, M. HASHIZUME: Twenty fifth Conference of the International Society for Environmental Epidemiology, Basel, Switzerland, 2013. "Does temperature modify the association between air pollution and mortality? A multicity meta-analysis study." 33) C. KIM, H. KIM, H. CHEONG, M. HASHIZUME, Y. HONDA, J. KIM, Y. KIM, J. EUM, C. IMAI, B. BADRAH: Twenty fifth Conference of the International Society for Environmental Epidemiology, Basel, Switzerland, 2013. "Global climate change and waterborne diseases in Mongolia." 34) J. EUM, H. CHEONG, M. HA, H. KIM, Y. HONDA, M. HASHIZUME, J. KIM, C. KIM, Y. KIM, K. INAPE, C. IMAI: Twenty fifth Conference of the International Society for Environmental Epidemiology, Basel, Switzerland, August, 2013. "Impact of climate variability on the low birth weight in Papua New Guinea." 35) 本田 靖,水口恵美子,萱場桃子,杉本和俊,中澤浩一,近藤正英,上田佳代,小野雅司:第 78回日本民族衛生学会総会(2013) 「地球温暖化に伴う熱関連死亡の適応パターン -平坦化型適応はおこっているか-」 36) Y. HONDA: JSPS-AASPP/GRENE Joint International Symposium on Water and Health in Urban Area, Hue City, Vietnam, (Invited speech) "Climate change impact on health and its adaptation." 37) 本田 靖,近藤正英,橋爪真弘:第84回日本衛生学会総会(2014) 「呼吸器疾患死亡はインフルエンザ流行の代理変数となるか?」 38) Y. HONDA, M. HASHIZUME, H. KIM, H. KAN, Y. GUO, K. UEDA, M. BELL: Twenty -sixth Conference of the International Society for Environmental Epid emiology, Seattle, USA, 2014. "Relation of external causes with temperature and climate." 39) X. SEPOSO, Y. HONDA: Twenty-sixth Conference of the International Society for Environmental Epidemiology, Seattle, USA, 2014. "A Distributed Lag Non-Linear Time Series Analysis of the Relationship between Temperature and Mortality in the National Capital Region in the Philippines, 2006 -2010" 40) 本田靖:第79回日本民族衛生学会総会(2014)(学会長講演) 「地球温暖化の健康影響」 41) 階堂武郎,鈴木幸子,本田靖,本城綾子,前倉亮治:第 79回日本民族衛生学会総会(2014) 「呼吸器疾患患者の増悪およびQOL低下に関連する気象要因」 S-8-1(7)-19 42) 本田靖:日本リスク研究学会第27回大会(2014)(招待講演) 「温暖化の健康リスク - 世界保健機関の報告から」 43) 本田 靖:土木学会第42回環境システムシンポジウム(2014)(招待講演) 「健康影響と適応策」 (3)出願特許 特に記載すべき事項はない。 (4)「国民との科学・技術対話」の実施 本田 靖.温暖化の健康影響について 将来の安全・安心な社会をめざして にどう対応できるのか? S-8-1(7)の成果.気候変動に関する対話シンポジウム 第二部分科会③気候変動と自治体:地方自治体は気候変動 東京,10月,2011.(パネリストとして発表) (5)マスコミ等への公表・報道等 特に記載すべき事項はない。 (6)その他 2012年日本民族衛生学会最優秀論文賞を以下の論文が受賞した。 Sugimoto K, Likhvar V, Okubo I, Jin I, Honda Y. Analysis of relation between temperature and mortality in three cities in China by using lag model: A comparison of Harbin, Nanjing and Guangzhou. Japanese Journal of Health and Human Ecology, 78(1); 16 -26: 2012. 8.引用文献 1) Y. HONDA, M. KONDO, G. MCGREGOR, H. KIM, Y. GUO, Y. HIJIOKA, M. YOSHIKAWA, K. OKA, S. TAKANO, S. HALES and RS. KOVATS: Environmental Health and Preventive Medicine 19,1,56 -63 (2014) "Heat-related mortality risk model for climate change impact projection." 2) T. NGO-DUC: Journal of Geophysical Research, 110, D06116 (2005) "A 53-year forcing data set for land surface models." 3) RS. KOVATS, S. HALES, S. LLOYD eds.: Quantitative risk assessment of the effects of climate change on selected causes of death, 2030s and 2050s, World Heal th Organization, 17-25 (2014) "Chapter 2 Heat-related mortality. (Authors: Y. HONDA, M. KONDO, G. MCGREGOR, H. KIM, Y. GUO, S. HALES and RS. KOVATS)" S-8-1(7)-20 S-8-1 我が国全体への温暖化影響の信頼性の高い定量的評価に関する研究 (7)温暖化の健康影響-評価法の精緻化と対応策の構築② 熱波警報対策システムの構築及びその有効性と経済性の評価 国立大学法人筑波大学 医学医療系 近藤正英 体育系 本田 靖 平成22(開始年度)~26年度累計予算額:56,186千円 ただし1-(7)全体で平成26年度に3,991千円返納 (うち、平成26年度予算額:返納前で10,173千円) 予算額は、間接経費を含む。 [要旨] 近年、テレビでも新聞でも熱中症対策について取り上げられてはいるものの、やはり夏になる たびに熱中症が大きく取り上げられている。 この状況を改善するため、現状把握のために通常脆 弱集団と考えられている65歳以上の高齢者に対して、冷房器具の設置など 現状に関する調査を行 った。その結果、関東以南では世帯のエアコン普及率が9割以上であるとはいえ、寝室にはエアコ ンのない世帯も3割近くあるため、注意が必要であることが明らかとなった。また、市町村を対象 とした熱中症対策に関する調査では、個別の対応ではなく、イベントや広報誌など、集団を一括 した注意喚起が大半であること、経済評価は全く行われていないことが明らかとなった。これら の点も踏まえ、従来の熱中症対策の問題点は、以下の3点であると考えられた。(1) ターゲット が絞られていない、(2) 気象予報は測候所のある場所に対して行われるため、その 地域には、必 ずその気温よりも高い世帯と低い世帯が存在するため、警報を 発令する気温を何度に設定しても 偽陰性と偽陽性が生じてしまう、(3) 知識が行動変容に結びついていない、(4) 対策は取ってい るものの、政策に必要な経済的な観点がかけている。これらの問題点を克服すべく新たな熱波警 報システムを構築した。すなわち、対象は医療を受けていない高齢者とすること、測候所の気温 を用いることによる偽陽性と偽陰性を防ぐため、各世帯で気温を測定し、その気温に従って行動 すること、飲水は過度にならない程度に気温にかかわらず習慣化することを徹底する。 そのシス テムを組み込んだ介入研究を長崎県五島市と埼玉県三郷市で行い、 その効果を行動変容によって 評価した。五島市においては対象地区を3区分し、温度計と水のペットボトルを送付するという介 入を行い、行動変容が認められた。しかしながら 費用効果的には優れないことが判明したので、 中でも脆弱な集団に対象を絞るなどの対策が必要であると考えられた。 [キーワード] 熱波警報システム、脆弱集団、行動変容、費用効果分析 S-8-1(7)-21 1.はじめに 地球温暖化によって気温の高い日が増加すると予測されている。前プロジェクト、S-4では健康 影響が起こるような高気温の日に、その情報を伝えることで被害を防ぐために熱波情報システム を構築し、いくつかの地方自治体で住民に熱波の情報を提供することが可能となった。しかしな がら、それでも毎年のように熱中症患者多発がニュースで報道されている。この原因としては、 情報が届いていない、あるいは届いても行動変容に結びついていない、ということが考えられる。 まず、対象集団で考えると、熱波の影響を受けて熱中症を発症したり死亡したりする脆弱な集団 としては高齢者が最も多い。高齢者は、パソコンや携帯電話、スマートフォンなどのデジタル機 器を使えないことも多く、認知障害のために対応が取れないこともある。よって、熱波対策の情 報が脆弱集団である高齢者に届き、行動変容を起こさせるような熱波警報システムを構築するこ とが必要となる。また、熱波警報システムの有効性評価も必要である。このような問題意識から、 高齢者に情報が届き、行動変容が起きるような熱波警報システムの構築およびその有効性評価を 目的として本研究を開始した。 2.研究開発目的 脆弱集団である高齢者の熱中症を防ぐことが可能な介入方法を開発し、実際に地域の集団でそ の費用効果分析を行うことを目的とする。 3.研究開発方法 (1)高齢者の暑熱環境調査 2010年に、大都市圏として東京23区、地方都市として札幌市、仙台市、さいたま市、千葉市、 神戸市、北九州市、長崎市において65歳以上高齢者の居住環境、特に冷房機器の設置状況及び使 用状況をウェブ調査した。その後、2011年3月に福島第一原子力発電所事故が発生し、節電対策が 冷房装置使用の行動に影響を与えたことが推測されたため、 2011年夏の冷房装置使用状況を、上 記の集団について追跡調査した。 (2)市区町村における熱中症対策の全国実態調査 2012年1月に全国の1742市区町村を対象に熱中症対策の実態調査を郵送法にて行った。2009年か ら2011年に行った対策や2012年に予定している対策について尋ねた。 (3)五島市介入調査 最初に、次の三郷市介入調査も含めた共通の熱波警報システムについて概説する。 上記2種類の調査で、脆弱集団である高齢者の実態および対策の問題点が明らかとなった中で、 まずは対象集団の設定を行った。一般の人口集団は図 1(7)②-1に示すように、S-4で構築された熱 波情報システムを含む環境省からの情報、通常のマスコミからの情報を活用して、自力で対応で きる群と、自力対応はできないが、医療を受けているために、医療スタッフによる対応が期待で きる群では、介入の意義は大きくない。残りの、医療は受けていない が情報がうまく受け取れて いない、あるいは情報は入っていても行動に結びつかない高齢者が対象となる。この定義では、 脆弱高齢者の生理機能は、若年者よりも衰えているとはいえ、異常でないことが期待できる。す なわち、心肺機能、腎機能のレベルとして、水中毒を起こすような大量の飲水をしない限り、大 きな問題が無いことが期待できる。 S-8-1(7)-22 図1(7)②-1. 一般集団の内訳シェーマ 次は、介入の内容である。従来の熱波警報システムの問題点は、気象予測を測候所のある地点 に対して行うために、システムに含まれる地域の住民に取ってみると、図 1(7)②-2、 1(7)②-3に 示すように、false positive(偽陽性)、false negative (偽陰性)が生じてしまうことである。 図1(7)②-2. 測候所の気温と地域家屋の気温分布との関係。 この問題を解決するために、本研究における介入では、各家屋の気温測定が可能な温度計(あ るいは湿球黒球温度を推定できる熱中症指数 計)を配布し、各自の室内音に基づく判断を行うこ とで偽陰性、偽陽性を減少させることとした。また、上に説明したように、対象集団は通常やや 多い程度の飲水では問題を起こさないため、false positiveによる飲水は問題にならない。この ことから、水中毒にならないレベルの目安としてタンブラーを配布し、気温にかかわらずこまめ に飲水することを推奨した。高齢者で懸念される認知障害に関しても、伝えるメッセージを夏の 間常にこまめに水を飲むこと、部屋の温度計を確認して適切な冷房を行うことの二つに絞り、持 続的な実行を容易にした。 ここからは五島市における介入研究の経済評価に関する説明を行う。 ランダム化地域比較介入 S-8-1(7)-23 研究に費やされた人材、財・サービスの資源量を特定する。介入研究では 3地域を介入群A、介入 群B、対照群として比較をしているため、特定した資源量から、 2つの介入を他市区町村へ普及す る際に伴うと考えられる資源量を推量する。そして、資源量を機会費用の観点から貨幣価値換算 する。さらに、普及先として想定する市区町村の人口などの外形を標準化した形で結果を提示す る。 なお、介入調査の概要を図1(7)②-3に示した。 【介入】 研究デザイン: ランダム化地域比較介入試験 (3か月間) 研究場所: 長崎県五島市 介入期間: 2012年6月~9月 対象者: 福江島に在住する65歳から84歳までの高齢者1,524人 (各群508人を住民基本台帳から無作為) 介入内容: 介入群A (三井楽・玉之浦) ①E-むらネット(光回線を用いた音声告知端末)により各家庭に熱中症の注 意喚起を放送する。②環境省が作成している熱中症予防に関するパンフレッ トの配布。 介入群B (富江・岐宿) ①E-むらネット(光回線を用いた音声告知端末)により各家庭に熱中症の注 意喚起を放送する。②環境省が作成している熱中症予防に関するパンフレッ トの配布。③宅配業者により500mLのペットボトル水2本に熱中症に関するメ ッセージをつけて配布する(5週間)④冷えタオルの配布 対照群(福江) 熱中症の注意喚起は、以下の気象条件が満たされた時、五島市役所より E-む らネットを通じて放送された。 1.当日の黒球湿球温度(WBGT)が28℃以上と予想された時 2.気象庁により当日の最高気温が31℃以上になると予想された時 図 1(7)②-3 介入調査の概要。 (4)三郷市介入調査 NPO法人ほっとサロンいきいきに依頼して、124世帯への介入調査を行った。対象者を7月介入群 と8月介入群に分け、介入群には自宅における熱中症指数(=湿球黒球温度推定値)に基づいて対 処行動をとること、タンブラーを用いて水をこまめに摂取することを呼びかけた。 日誌は一週間 分を一冊にまとめ、配布と回収のために担当ボランティアが週に 1度自宅を訪問した。対象者には、 調査前に対象者用調査票、また6月、7月、8月の3回、世帯用調査票を配布した。また、質問票で の冷房機器の使用状況の確認のため、室内に温度計を設置して気温の連続測定も行った。 4.結果及び考察 (1)高齢者の暑熱環境調査 2010年の調査において、回答者数は大都市3,410名、地方都市3,107名(うち男では回答者本人 S-8-1(7)-24 が65歳以上の割合が東京で46%、地方都市で36%、女では東京で28%、地方都市で14%)であった。 起きて活動している時に過ごす部屋にエアコンが設置されている割合は、札幌市が非常に低く 18%、 ついで仙台市が73%で、他の都市は9割前後であった。しかしながら、表1(7)②-1に示すように、 寝室への設置は、札幌市ではわずか3.4%にすぎず、仙台市でも36%程度であった。他の都市でもせ いぜい6,7割であった。また、せっかく寝室にエアコンを設置してあっても、 1割以上の世帯で就 寝時にエアコンを使用しないことが明らかとなった。 2011年には、2010年と比べて夏季にエアコ ンを常に使用する者が減少し、部屋に設置されていても使用しない者が増加した。 以上のことから、関東以南では90%以上の世帯でエアコンが設置されているものの、高齢者の熱 中症発生が多いと考えられる夜間に関しては、寝室への設置がせいぜい 7割であることから、高気 温になった場合の高リスク集団はかなり大きいと言わざるを得ない。今後、脆弱集団を中心に、 寝室への設置を推進する必要があるものと考えられる。 表1(7)②-1. 都市別のエアコン設置状況 (2)市区町村における熱中症対策の全国実態調査 629市区町村から回答を得て回収率は36.1%であった。 過去3年間の実績では熱中症対策を行った自治体の割合が 44.9%から85.3%へ増加していたが、 2012年の予定は2011年の実績より小さく54.2%となっていた。 自治体の対策実施に影響を及ぼした可能性のある要因について影響の有無を尋ねた結果、 2010 年の夏季に自治体が調査を強いられた年金の不正受給に係わるいわゆる「消えた高齢者」問題の 影響はほとんどみられなかったが、2011年の東日本大震災に関しては約16%の自治体で影響があっ たとの回答があった。 対象者の年次推移に関しては図1(7)②-4に見られるように、半数以上が 全市民対象であり、脆 弱集団である高齢者対象のものは12%にとどまって、増加の傾向も認められなかった。 S-8-1(7)-25 図1(7)②-4. 対策対象者の年次推移 対策の内容としても、配付資料、イベント、放送などのメディアによる注意喚起が多く、訪問 やグッズの配布など、実際の介入などは非常に少なかった。 対策の効果として、熱中症の搬送数が減少した、熱中症への意識が高まった、といった回答も 見られたが、大半は効果の評価を行っていなかった。費用対効果をみたものは皆無であった。 (3)五島市介入調査 五島市での研究参加者が、どのようにして熱中症関連の情報を収集しているかを図 1(7)②-5に 示す。やはりテレビが情報収集源としては圧倒的に大きな割合を占めるが、 e-むらネットも20% 程度と大きな割合となっている。それに対し、インターネットを使用する高齢者は五島市ではま だまだ少数派のようである。このような地域においては、 ウェブサイトなどのインターネット情 報はほとんど役に立たないことが明らかとなった。 介入によって起こった行動変容の例として、エアコンの使用時間の推移を図 1(7)②-6に示す。 このように、対照群においても若干の行動変容は認められ、これは通常の暑さへの対応やマスメ ディアなどからの情報によって起こったものと考えられる。介入群は、それ以上に行動変容が起 こっている。 S-8-1(7)-26 図1(7)②-5. 熱中症情報収集方法に関連する対象者の行動特性。 図1(7)②-6. 介入による行動の変化。Cグループが対照群で、Aグループが既存の施設による介入、 Bグループはそれに温度計とペットボトルによる水の送付を加えた介入を行った群 S-8-1(7)-27 表1(7)②-2は研究に費やされた人材の資源量を時系列でまとめたものである。ただし、3名から なる研究チ-ムの五島市への旅程は除いた。準備期間は 3群に共通する業務が多く、介入期間では 介入の強度により介入群Bに伴う業務が多い。 表1(7)②-2. 研究に費やされた人材の資源量 表1 研究に費やされた人材の資源量 業務量(人・時間) 研究 市 民生 社協 内製作業 時期 主な業務内容 チーム 職員 委員 職員 補助者 準備期間 打合せ、資材作成、民生委 188 25.5 151 2 80 (3~6月) 員への説明、業者手配など 介入期間 モニタリング、民生委員によ 63 3,350 0 0 (7~9月) る訪問、熱中症情報配信、水 739.5 配送など フィード モニタリングまとめ、市、民生 166 6 65 2 0 バック 委員、社協へ 表1(7)②-3は財・サービスの項目を時系列でまとめたものである。金額で示したものはフィール ドでの当時の市場価格に基づいている。自家用車移動は 20円/kmとした。 表1(7)②-3. 研究に費やされた財・サービスの資源量 表2 研究に費やされた財・サービスの資源量 時期 財・サービス(資源量) 準備期間 配布用温度計シール(介入群A,B:17万円)、配布用クールタオル(介入 (3~6月) 群A,B:17万円)、配布用水(介入群B:25万円)、調査票印刷(介入群 A,B、対照群:22万円)、その他消耗品(2万円)、研究チーム自家用車 移動(30km/月:0.18万円) 介入期間 水ボトルへのラベル貼り・配送などの役務(介入群B:186万円)、調査票 (7~9月) 等郵送代(介入群A,B、対照群:52万円)、調査票印刷(介入群A,B、対 照群:22万円)、研究チーム自家用車移動(30km/月:0.18万円)、民生 委員自家用車移動(1km/時:6.7万円) フィード データ入力役務(介入群A,B、対照群:35万円)、研究チーム自家用車 バック 移動(30km:0.06万円) 表1(7)②-4はこれらの結果から、2つの介入を市区町村が事業として行う場合の共通費用と対象 者1人当たりの費用を推算したものである。ここで民生委員の協力の確保などの準備は、共通費用 と見なした。研究チームの役割については保健師 1人が実施を担うこととし、研究活動分と見なす 準備期間の業務量を50%除外した。調査票については介入としての効果とモニタリングとしての 意義を考慮に入れ除外しなかった。賃金は、人事院による国家公務員給与実態調査結果、最低賃 金、フィールドでの支給実額などから仮定した。保健師1,500円/時、市職員・社協職員1,250円/ 時、民生委員・内製作業補助者800円/時とした。 表1(7)②-4. 介入を市町村が事業として行う場合の共通費用と対象者 1にあたりの費用 表3 介入を市区町村が事業として行う場合の共通費用と対象者1人当たりの費用 共通費用 対象者1人当たりの費用 介入A 40万円 4,300円 介入B 40万円 11,000円 S-8-1(7)-28 65歳から84歳までの高齢者が介入群A地区(人口4,674人、面積102.24km2)とB地区(人口8,925、 面積134.80km2)ではそれぞれ1,526人と2,639人であるので、地区で全員を対象とした場合の総費 用はおおよそ700万円と2,900万円と概算できる。 全国民の人口構成では人口10万人当たりの65歳から84歳までの高齢者はおよそ2万人になるの で、目安としては人口10万人の市区町村で2つの介入を実施した場合の費用は8,640万円と2億2千 万円と概算できる。 長崎県五島市における熱中症予防介入の費用モデリングを行い、共通費用を除いた対象者 1人当 たりの費用を推算した。1人当たりの費用は、インフラストラクチャーとして既存の音声告知端末 による注意喚起を主体にした介入では4,300円、熱中症に関するメッセージをつけた水ボトルの繰 り返し配布を加えた介入では11,000円程度と見込まれた。 これらの値の解釈としては、まず、機会費用は市区町村の歳出額と一致しない点に留意しなけ ればならない。事業化した場合の予算額としては低い額になると考えられる。 絶対額の評価は難しいが、高齢者を対象とした予防接種と比較すると、インフルエンザワクチ ンの接種費用は概ね4,300円に近く、肺炎球菌ワクチンの接種費用は概ね 11,000円に近い。健康問 題としてプライオリティや介入の有効性を考慮に入れず、額だけをみれば地域での介入として検 討対象になる範囲であろうと考えられる。 エアコンの使用による死亡リスクの低下効果を 0~100%の幅を持たせて増分費用効果比の幅を 推定した。さらに、S-8の経済班によって、熱中症予防に関する統計的生命価値が計測されている ため、1死亡回避の費用も推定した。図1(7)②-7がその結果である。わが国において、介入によっ て超過死亡の何パーセントが予防できるかは明らかになっていないため、横軸にはその割合を 0% (まったく予防できなかった場合)から100%(すべて予防できた場合)までとって推定している。 メッセージとともに、物理的にペットボトルを届けることで 、行動変容に対する効果は認められ たものの、死亡を0に出来たとしても、増分費用効果比は4,400万円/年、1死亡回避費用は4.3億円 と推定された。 増分費用効果比は、費用対効果判断のための閾値(500万円/年)を大きく上回り、介入の普 及 は費用対効果に優れないことが示唆された。さらに、1死亡回避費用の検討でも、熱中症死亡リス クの回避への支払意思額に基づく統計的生命価値( 2億2,742万円)及び国土交通省の公共事業評 価で用いられる値(2億2,607万円)と比較すると、大きく上回った。この介入の普及への資源投 入を正当化するためには、対象者をリスクのより高い集団に絞るなどの方策が考えられる 。なお、 研究資源の問題もあり、救急搬送の費用が組み込まれていないなど 、厳密な評価を行うだけの情 報がないため、今後さらなる研究が必要である。 S-8-1(7)-29 100 万円/年 億円 400 40 300 30 200 20 100 10 0 20 40 60 80 100 % 0 20 40 60 80 100 % 図1(7)②-7. 熱中症予防介入の費用と効果 (左:増分費用効果比、右:1死亡回避費用) 本研究は介入の他自治体への移植・普及を念頭に置いて進めたが、大きな限界がある。第一に 直接的には音声告知端末に準じたインフラストラクチャーを備えている自治体でなければ告知メ ディアを導入する費用を検討に含めなければならないが、含められていない。第二に人材として 民生委員を活用しているが民生委員の数には限りがあり、地域でのスケールアップには限界があ る。また、民生委員の多くは65歳から84歳までの高齢者として対象者に当たってしまうことも容 易に想像できる。第三に地理的特性や規模の経済といった考慮に入れてしかるべき事項について の検討が不十分である。 (4)三郷市介入調査 大量の質問票、環境計測データを入手したため、データ整備に時間を要し、現時点では詳細な 解析を行うに至っていない。しかし、表1(7)②-5に示すように、7月介入群と8月介入群(7月には 7月介入群の対照群となる)とで介入前の行動パターンが異なっていた。性、年齢、 世帯構成、入 居年数、居住階数、住居の種類、電気代に関しては両群で相違は見られず、理由は不明であるが、 今後の解析は困難が予想される。 なお、昨年度の段階で明らかになった点として重要な点は、エアコン未設置の世帯がある地域 に集積していたことである。上記五島市の調査でも明らかになったように、対策によっては費用 効果的に優れないため、対象集団を絞る必要があるが、このようなエアコン未設置の脆弱集団を 事前に把握しておき、集中的に介入を行うことが費用対効果の改善に有効であると考えられる。 表1(7)②-5. 三郷市介入調査前後のエアコン使用行動変化 室温を確認してエア コンを使用する人の 割合 (日中) 室温を確認してエア コンを使用する人の 割合 (夜間) 昨年63%(介入前) ↓ 7月74% ↓ 8月84% 昨年61%(介入前) ↓ 7月63% ↓ 8月69% 昨年41%(介入前) ↓ 7月70% ↓ 8月77% 昨年33%(介入前) ↓ 7月62% ↓ 8月67% S-8-1(7)-30 5.本研究により得られた成果 (1)科学的意義 これまでにわが国では行われてこなかった、地域集団を対象とした費用効果分析を含む熱中症 予防介入調査を始めて実施した。その結果、ペットボトル送付などの介入により対処行動を起こ させる効果があることは明らかになったものの費用対効果で考えると問題があることが判明した。 (2)環境政策への貢献 <行政が既に活用した成果> 研究そのものが地方自治体の環境政策の一つと考えられる。 五島市、三郷市での調査実施後、 研究成果の報告に伺い、市の保健担当職員の方々との意見交換を行った。これにより、両市の今 後の対策に役立てていただくことが期待される。 <行政が活用することが見込まれる成果> 介入と共に、経済的な評価も可能な形のシステムを構築した ので、自治体が同様の介入を行う 際に、単に介入を行うのみでなく、 その経済的な側面も評価できることから、この介入方法が地 方自治体に利用されることが見込まれる。 6.国際共同研究等の状況 GRL(ソウル国立大学のHo Kim教授との共同研究) 介入研究、費用対効果分析などについて話し合いを初め、 S-8は終了しているが、2015年6月に 経済分析を含む気候変動、大気汚染の健康影響・対策に関するシンポジウムを開催予定である。 7.研究成果の発表状況 (1)誌上発表 <論文(査読あり)> 1) M. KONDO, M. ONO, K. NAKAZAWA, M. KAYABA, E. MINAKUCHI, K. SUGIMOTO and Y. HONDA: Environ Health Prev Med 18,3,251-257 (2013) "Population at high-risk of indoor heatstroke: the usage of cooling appliances among urban elderlies in Japan." 2) 萱場桃子,中澤浩一,近藤正英,小野 雅司,水口恵美子,杉本和俊,本田靖:民族衛生 79、 2、47-53(2013) 「夏期における高齢者の夜間のエアコン使用に関する研究」 3) M. KAYABA, T. IHARA, H. KUSAKA, S. IIZUKA, K. MIYAMOTO and Y. HONDA: Sleep Medicine 15,5, 556-564 (2014) "Association between sleep and residential environments in the summertime in Japan. " 4) 水口恵美子,中澤浩一,萱場桃子,近藤正英,本田靖:日本生気象学会誌 50、1、9-21(2014) 「夏季における高齢者の冷房装置使用の調査: 2010–2011 の比較」 5) N. TAKAHASHI, R. NAKAO, K. UEDA, M. ONO, M. KONDO, Y. HONDA and M. HASHIZUME: Int. J. S-8-1(7)-31 Environ. Res. Public Health 12,3, 3188-3214 (2015) "Community Trial on Heat Related-Illness Prevention Behaviors and Knowledge for the Elderly." <その他誌上発表(査読なし)> 1) JD. FORD, L. BERRANG-FORD eds.: Climate Change Adaptation in Developed Nations - From Theory to Practice, Springer 189-204 (2011) "Chapter 13. Adaptation to the heat-related health impact of climate change in Japan. (Authors: Y. HONDA, M. ONO and KL. EBI)" 2) 田中充,白井信雄編:気候変動に適応する社会、技報堂出版、 120-123(2013) 「第4章 4.3熱中症から身を守るまちづくり(執筆担当:本田靖)」 (2)口頭発表(学会等) 1) 近藤正英,本田 靖,小野雅司,萱場桃子,水口恵美子,杉本和俊:第 76回日本民族衛生学 会総会(2011) 「高齢者の居住温熱環境について」 2) 本田 靖(パネリストとして発表):気候変動に関する対話シンポジウム な社会をめざして きるのか? 第二部分科会③気候変動と自治体:地方自治体は気候変動にどう対応で (2011) 「温暖化の健康影響について 3) 将来の安全・安心 S-8-1(7)の成果.」 M. KIM, M. YOU, H. KIM, Y. LIM, C. KIM, Y. HONDA, Y. GUO: Twenty fourth Conference of the International Society for Environmental Epidemiology, Columbia, USA, 2012. "Role of Public Awareness in Health-protective Behaviors to Reduce Heat Waves Risk." 4) 近藤正英,中澤浩一,水口恵美子,萱場桃子,西山千加保,橋爪真弘,本田靖:第 77回日本 民族衛生学会総会(2012) 「市区町村における熱中症対策の全国実態調査」 5) 萱場桃子,岩山海渡, 緒形ひとみ, 瀬谷友美, 佐藤誠, 徳山薫平, 本田靖:第77回日本民族 衛生学会総会(2012) 「フィールド調査における客観的な睡眠評価指標の検討 -マット式睡眠計測機器と睡眠ポ リグラフ検査の判定結果の比較-」 6) 古尾谷法子、橋爪真弘、 中尾理恵子、上田佳代、近藤正英、小野雅司、本田靖:第 27回日本 国際保健医療学会(2012) 「熱中症予 防情報の家庭配信による行動意識変容-長崎県五島市における介入研究-」 7) 古尾谷法子,橋爪真弘, 中尾理恵子,上田佳代,近藤正英,小野雅司,本田靖:第 71回日本 公衆衛生学会(2012) 「長崎県五島市に おける熱中症予防ランダム化地域比較介入研究」 8) 萱場桃子, 飯塚悟, 日下博幸, 井原智彦, 宮本賢二, 本田靖:第23回日本疫学会学術総会 (2013) 「夏期の睡眠状況と睡眠に影響を及ぼす要因-岐阜県多治見市における質問紙調査の結果」 S-8-1(7)-32 9) 上田佳代,小野雅司,本田靖,橋爪真弘,山本太郎:第 83回日本衛生学会学術総会( 2013) 「夏季における気温と室内温度との関係:空調使用の影響」 10) E. MINAKUCHI, K. NAKAZAWA, M. KAYABA, M. KONDO, Y. HONDA: Twenty fifth Conference of the International Society for Environmental Epidemiology, Basel, Switzerland, 2013. "Change of cooling appliance usage of elderlies: Before and after the Fukushima nuclear power plant accident." 11) 近藤正英,古尾谷法子,星淑玲,中尾理恵子,上田佳代,小野雅司,本田 靖,橋爪真弘:第 78回日本民族衛生学会総会(2013) 「長崎県五島市における熱中症予防介入の費用モデリング」 12) 萱場桃子, 近藤 正英, 橋爪真弘, 古尾谷法子, 本田靖:第24回日本疫学会総会(2014) 「埼玉県A市における高齢者の熱中症予防行動と居住環境」 13) 萱場桃子,近藤正英,本田 靖:第84回日本衛生学会総会(2014) 「埼玉県A市における高齢者の熱中症予防に向けた介入の試み 第一報」 14) 萱場桃子, 本田靖:第84回日本衛生学会総会(2014) 「夏季の朝日が差し込む時刻と起床時刻との関連」 15) M. KAYABA, T. IHARA, H. KUSAKA, S. IIZUKA, K. MIYAMOTO, Y. HONDA: The IEA World Congress of Epidemiology 2014, Anchorage, USA, 2014. "Measuring the prevalence of difficulty initiating sleep and difficulty maintaining sleep in the summertime using Pittsburgh Sleep Quality Index and their association with air conditioner installation." 16) 近藤正英,高橋法子,星淑玲,中尾理恵子,上田佳代,小野雅司,本田靖,橋爪真弘:第79 回日本民族衛生学会総会(2014) 「地域における熱中症予防介入の費用対効果」 (3)出願特許 特に記載すべき事項はない。 (4)「国民との科学・技術対話」の実施 特に記載すべき事項はない。 (5)マスコミ等への公表・報道等 特に記載すべき事項はない。 (6)その他 特に記載すべき事項はない。 8.引用文献 特に記載すべき事項はない。 S-8-1(7)-33 Health Effect of Climate Change - Refinement of the Evaluation Methods and Establishment of Adaptation Strategy Principal Investigator: Yasushi HONDA Institution: Faculty of Health and Sport Sciences, University of Tsukuba 1-1-1 Tennoudai, Tsukuba-City, Ibaraki 305-8577, JAPAN Tel: +81-29-853-2627 / Fax: +81-29-853-3255 E-mail: [email protected] Cooperated by: Faculty of Medicine, University of Tsukuba [Abstract] Key Words: prevention heat-related mortality, optimum temperature, cost-effectiveness, heatstroke (1) We previously developed a model for projection of heat-related mortality attributable to climate change. The objective of this study is to improve the fit and precision of and examine the robustness of the model, and make the model easy for local government officials to apply. The heat-related excess mortality was defined as follows: The temperature–mortality relation forms a V-shaped curve, and the temperature at which mortality becomes lowest is called the optimum temperature (OT). The difference in mortality between the OT and a temperature beyond the OT is the excess mortality. To develop the model for projection, we used Japanese 47-prefecture data from 1972 to 2008. Using a distributed lag nonlinear model (two-dimensional nonparametric regression of temperature and its lag effect), we included the lag effect of temperature up to 15 days, and created a risk function curve on which the projection is based. In the p rojection, we used 1961–1990 temperature as the baseline, and temperatures in the 2030s and 2050s were projected using five global circulation model, SRES A1B scenario, and WHO-provided annual mortality. Here, we used the "counterfactual method" to evaluat e the climate change impact; For example, baseline temperature and 2030 mortality were used to determine the baseline excess, and compared with the 2030 excess, for which we used 2030 temperature and 2030 mortality. In terms of adaptation to warmer climate , we assumed 0 % adaptation when the OT as of the current climate is used and 100 % adaptation when the OT as of the future climate is used. The midpoint of the OTs of the two types of adaptation was set to be the OT for 50 % adaptation. The heat-related excess mortality for 2030 and 2050 were large in China and India. Unique feature of heat-related excess mortality due to climate change is that developed countries as well as developing countries will be substantially affected, whereas other health impacts are expected to be S-8-1(7)-34 restricted to developing countries. (2) Considering that there has been no economical evaluation of heatstroke prevention system, we conducted intervention studies to prevent heatstroke with built -in economical evaluation unit. Our intervention to urge people to check the temperature of their own houses and drink sufficient amount of water all through summer, targeted to "healthy" elderly revealed that the behavioral changes occurred, but sending PET bottles of water was not cost-effective.