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最低賃金と経済成長に 関する実証分析 - 神戸大学大学院経済学研究科
最低賃金と経済成長に 関する実証分析 神戸大学 経済学研究科 松林研究室 劉靭 2016/1/19 目次 1 はじめに ........................................................................................................................ 1 1.1 研究背景、意義 ............................................................................................................ 1 1.2 相関定義 ........................................................................................................................ 1 1.2.1 最低賃金 ................................................................................................................ 1 1.2.2 経済影響 ............................................................................................................. 2 1.3 研究内容、研究方法 .................................................................................................... 2 1.3.1 研究内容 ................................................................................................................ 2 1.3.2 研究方法 ................................................................................................................ 4 2、先行研究サーベイ ...................................................................................................... 5 2.1 最低賃金に関する理論とその発展 ............................................................................ 5 2.1.1 最低賃金の完全競争モデル ................................................................................ 5 2.1.2 最低賃金の独占モデル ........................................................................................ 6 2.1.3 最低賃金の効率賃金モデル ............................................................................... 8 2.1.4 雇い主の反応モデル ........................................................................................... 8 2.1.5 内生貨幣供給下の IS-LM·AS-AD モデル ......................................................... 9 2.2 最低賃金に関する実証研究 ...................................................................................... 10 3最低賃金制度の発展と現状 ....................................................................................... 12 3.1 最低賃金の由来 .......................................................................................................... 12 3.2 日本における最低賃金の発展 .................................................................................. 14 3.3 最低賃金の基準と現状 .............................................................................................. 16 3.3.1 海外における最低賃金の現状分析 .................................................................. 16 4データとモデル .......................................................................................................... 25 4.1 データの出所 ............................................................................................................. 25 4.2 計量モデル .................................................................................................................. 25 4.2.1 既往研究 .............................................................................................................. 25 4.2.2 計量モデル ......................................................................................................... 26 4.3 データ分析 ................................................................................................................. 28 5、最低賃金が経済への影響の実証分析 ...................................................................... 29 5.1 パネルデータモデルによる全国分析 ..................................................................... 29 II 5.2 GMM による全国分析 ................................................................................................ 31 5.3 県内総生産別分析 ................................................................................................... 32 5.4 最低賃金と失業率、消費、民間企業資本ストックとの関係検証 ................... 33 6、結論と展望 ............................................................................................................... 34 6.1 結論 .............................................................................................................................. 34 6.1.1 現段階では日本の最低賃金水準が低い ......................................................... 34 6.1.2 平均賃金に最低賃金が占める割合が低い ..................................................... 34 6.1.3 最低賃金の経済への影響はマイナス ............................................................. 34 6.2 政策アドバイス .......................................................................................................... 35 6.2.1 適切に最低賃金水準を引き上げる .................................................................. 35 6.2.2 最低賃金の改定が慎重に行わなければならない ......................................... 35 6.2.3 最低賃金制度に代わる政策の検討 ................................................................. 35 謝辞 ................................................................................................................................ 36 参考文献 ......................................................................................................................... 37 III 1 はじめに 1.1 研究背景、意義 19 世紀末ニュージーランド政府が厚生政策の一つとして最低賃金制度を公表して 以来、それに関する論争は続けてきた。その中、最低賃金制度が経済成長にもたらす 影響に巡る論議は未だに果てが見えない。昭和 34 年から最低賃金制度が日本におい て適用されている一方、国内の学者にも厳しく批判してきた。 平成 25 年、厚生労働省の国民生活基礎調査によると、日本の相対貧困率は約 16% であり、多くの人が最低賃金制度に恵まれている。また、調査研究によると相対貧困 率は昭和 63 年に 13.2%、平成 12 年に 15.3%、平成 24 年に 16.1%で増える傾向があ る。故に貧困層の福利厚生と国の経済成長の関係を解明するのが重大な意義があると 思う。 金融危機の影響が徐々消えていて、ショックから立ち直す姿勢を取る日本は経済発 展につれて、社会格差を縮むために、最低賃金基準を上げ続けてきた。2008 年後、日 本各県が最低賃金の引き上げに力入れ、それまで倍ぐらいのペースで最低賃金基準を 上げてきた。その中に東京、神奈川をはじめの首都圏各県の上げ幅が一番著しくであ った。とはいえ、最低賃金と平均賃金の比は依然として先進国の中で低い水準である。 一方、ブラジルでは 2003 年に最低賃金の引き上げが行われ、これにより大量の現 金が貧困層に流された。その結果として、3 割を占めたブラジル貧困層が 1 割台まで 減り、約 2 億人の国民が買い物を始め、2010 年では GDP が 7.5%の成長が果たした。 上記を背景において、筆者は最低賃金と経済成長の関係を解明する研究が必要だと 考える。日本は今まで最低賃金と経済成長に関する研究が少ないの、それを補充し、 さらにこれから実行する賃金政策に科学的な根拠を提供できればと存じたい。 1.2 相関定義 1.2.1 最低賃金 最低賃金の本質は労働価格の下限額であり、「国あるいは地方政府の規定による労 1 働者に対して最低限支払わなければならない賃金だ」1と定義されている。資本主義 制度下での最低賃金に対してマルクスは「単純労働において生産費は労働者の生活を 維持する費用であり、この費用の対価は賃金で、この基準で決められた賃金は最低賃 金と呼ばれる」と定義した。日本の場合、昭和 34 年に公表された『最低賃金法』で は最低賃金に関して「賃金の低廉な労働者について、事業若しくは職業の種類又は地 域に応じ、賃金の最低額を保障することにより、労働条件の改善を図り、もって、労 働者の生活の安定、労働力の質的向上及び事業の公正な競争の確保に資するとともに、 国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする法律である」2と定義されている。 本稿において最低賃金とは日本政府が定める賃金の最低基準のことで、企業と労働組 合の交渉で決められた最低賃金は対象外とする。 1.2.2 経済影響 経済成長とは一定期間における国民経済の規模が拡大する速度であり、 経済成長の要因として、1)労働力(人口増加)、2)機械・工場などの資本ストッ ク(蓄積) 、3)技術進歩、の 3 つが挙げられる3。その成長率は、技術進歩率(全要 素生産性上昇率)と資本の成長率と労働の成長率に分解できる4。本稿で言及する経 済影響とは最低賃金の変化による経済の成長(衰退)のことである。 1.3 研究内容、研究方法 1.3.1 研究内容 本稿は日本の 47 の都道府県を対象にして、 最低賃金と経済成長の関係を研究する。 さらに 47 都道府県を県内総生産ランキングで二組を分けて、それぞれの最低賃金と 経済成長の関係を研究する。そこで、二組の結果は一致するかを分析する。一致であ れば最低賃金と経済成長の関係が地域及び経済構成に影響されてなく、相違の場合は 最低賃金と経済成長の関係が地域と経済構成に影響ある。最後に最低賃金が経済を影 1 2 ウィキペディア ウィキペディア 3 小塩、日本経済新聞社 4 原田 2 図 1-1 論文のフレーム • 一、はじめに:①研究背景と意義➁相関概念の定義➂研究方法 • 二、先行研究サーベイ • 三、最低賃金の発展と現状研究:最低賃金の歴史を踏まえて、 その現在の実施標準を分析する • 四、データとモデル:データの特徴を分析する上、計量モデル を構築する • 五、最低賃金の経済への影響を実証分析 • 六、結果をまとめて、その上に政策面にアドバイスする 問題提起 理論分析 実証分析 政策アドバイ ス 響する波及経路を解明したいと思う。本稿のあらましは図 1-1 で示している。 本稿は6章に分けられている: 第 1 章、はじめに。最低賃金の日本経済への影響を研究する背景と意義を示す。最 低賃金の経済影響に巡る論争は続けてきた中、日本の相対貧困人口の増加と、各県が それぞれの基準で最低賃金を引き上げるのが本稿の背景であった。研究目的はこれか ら実行する賃金政策に科学的な根拠の提供である。さらに、本稿で言及する概念を定 義する。 第 2 章、 先行研究サーベイ。 最低賃金に関する国内外の理論又は実証研究を分析し、 本研究の基礎を固める。 第 3 章、国内外の最低賃金制度の実施状況について分析する。 第 4 章、本稿で扱うデータとモデルを紹介する。特にパネルデータ分析について説 明する。 第 5 章、計量モデルを用いて日本の最低賃金の経済影響を分析する。日本 47 の都 道府県を対象に実証研究を行う。その結果を分析し、説明する。 第 6 章、結論と政策アドバイス。研究の結論をまとめる、それに基づいて日本の最 3 低賃金政策に科学的根拠のあるアドバイスをする。 1.3.2 研究方法 一、理論分析:国内外の最低賃金に関する理論と実証研究をまとめて、分析する。 二、実証分析:パネルデータモデルと一般化積率法(GMM)。本稿においてパネル データモデルと一般化積率法を用いて最低賃金の経済への影響を研究する。 4 2、先行研究サーベイ 2.1 最低賃金に関する理論とその発展 最低賃金制度を最初に提出したのがニュージーランドだった。19 世紀末のニュージ ーランド政府は産業争いを防止、仲裁するために定めた国民厚生政策である。その後、 欧米諸国において最低賃金制度が段々応用され、第二次世界大戦後、一部の途上国も この制度を取り組んできた。今、最低賃金制度は各国において普及され、労働保障制 度の一つとして実施している。 最低賃金制度が提出して以来、経済学界では論争を起こし、関心を集められている。 その制度の普及につれて論争は消えるどころか、激しくなってきた。本稿は最低賃金 制度に関する理論を整理し実証分析をすることで、最低賃金と経済との関係を研究す る。 2.1.1 最低賃金の完全競争モデル 最低賃金と雇用に関する最も単純なモデルは労働市場の完全競争を前提条件にす るモデルである。最低賃金は政府側に定められたもので、競争市場の均衡点が対応す る賃金より高い水準にある。図 2-1 で示しているように、競争的賃金は Wm に対して、 政府は最低賃金を W*にした。W*は Wm より高い水準にある。この場合、雇用人数は E* から Emまで減少する。完全競争型の労働市場において、最低賃金制度の存在が雇用 にマイナスな影響をもたらした。これが新古典派経済学の「最低賃金引き上げの雇用 に対する悪影響」説の理論的基礎である。 5 図 2-1 最低賃金の完全競争モデル (WC) W* Wm (LD) Em E* 2.1.2 最低賃金の独占モデル 最低賃金の独占モデルは Stigler に 1946 年に考案され、最低賃金制度に関する理 論の中に認められているモデルである。Stigler 氏の考えによると、外来の干渉がな い限り、労働市場は買い手独占である。この場合、企業は元来、利潤大化のために雇 用量を抑制することで賃金を競争均衡よりも低い水準に設定し、労働力の雇用にかか るコストは常に労働力の供給価格より高く、雇用人数は労働力の限界コストと限界収 益の交点に等しい、図 2-2 の点 E₀に対応する。つまり、社会全体的にみれば賃金水準、 雇用量とも過少の状況である。この場合、雇用された労働力人数は E₀で、賃金水準は W₀である。もしここで政府側が最低賃金制度を導入したら、市場を独占した買い手が プライスディカーの立場となる。最低賃金制度下で買い手が雇用する労働力人数を Wm にして、W₀<Wm≦W₁(W₁は競争的賃金水準)の場合、買い手の雇用人数が増える。た だし Wm=W₁の場合、雇用人数は競争市場での雇用人数と等しい。しかし、低賃金水準 が更に競争均衡水準を超えて上昇してしまえば雇用は減少することには注意する必 要がある。いわゆる Wm<W₀の場合は最低賃金制度の導入は雇用人数の減少につながる。 6 図 2-2 最低賃金の独占モデル 出所:姚、王『最低工资对就业影响的理论研究』 もう一歩具体的に、企業が労働力を差別化する独占企業と差別化しない独占企業に 分かれて分析してみる。企業が労働力に対して賃金で差別化するかどうかは分類の根 拠である。差別化のない企業では、新入社員の賃金を引き上げる同時に同レベルのス キルを持つすべての社員の賃金を引き上げる。この場合、労働力の限界コストが労働 力の平均コストより高くなり、企業側に対して労働力の限界コストは労働市場の供給 価格より高い、図 2-2 で示しているように。一方、差別のある独占企業では今より高 い賃金で新社員を雇用しても、既に雇用した労働力の賃金が変わらない。この場合、 労働の供給曲線、企業の限界コスト曲線が同じとなり、新入社員の賃金を増えても、 雇用量に対して影響はなかった。 また、Stigler は「最低賃金政策で雇用量を増やすために、三つの条件を満たさな ければならない」と指摘した。その一、最低賃金水準が妥当でなければならない(例 えば高すぎると雇用量が減る) 。その二、最低賃金水準が職業によって変わっていく、 つまり、業界ごとに最低賃金を決定する。その三、最低賃金が固定してはいけない、 時代につれて変化していき、経済成長とともに発展しなければならない。 Stigler の理論に基づいて、Charle and Maurice が独占の数学モデルを構築した。 このモデルは生産要素(労働力)が買い手独占の場合、最低賃金制度がコスト、産出 7 及び労働力の雇用量に与える影響を考察する。そして、「独占市場において最低賃金 制度が雇用量を増やす」という結論を出た。 上記の二つの理論が示したように、労働市場の形態によって最低賃金が雇用に与え る影響が違う。さらに、独占市場において最低賃金の影響が曖昧で、水準が高すぎる と雇用量を減らすことに対し、妥当な水準であれば雇用量を増やし、産出にもプラス の影響を示した。 2.1.3 最低賃金の効率賃金モデル 効率性賃金とは、労働者の生産性を高め、怠慢を抑制するために競争均衡よりも高 い水準で支払われる賃金を意味する。Rebitzer and Taylor は、大企業で労働者の生 産性を完全にモニターできないため、雇用者の数はおのずと制限される場合を考えた。 低賃金導入でこれまでよりも高い賃金を払う場合、解雇された場合の雇用者の失う利 益が大きくなり、生産性上昇が期待され、企業は雇用量を増加させることを示した。 2.1.4 雇い主の反応モデル もし最低賃金が 5%上昇するなら、最低賃金労働者の賃金が 5%引き上げなければ ならない。これが企業にとって、最低賃金労働者を雇用コストが 5%上昇すると意味 している。これで、理論上企業全体の労働力コストの増分は、最低賃金上昇による最 低賃金労働者を雇用するコストの増分と、最低賃金労働者がすべての労働者に占める 割合で決まる。しかし、実際に企業の労働力コストが賃金以外もある。たとえば、労 働者のトレーニング費用、通勤手当を始めとする諸手当及び有給休暇など福利厚生制 度が挙げられる。この場合は、雇い主は最低賃金の上昇に対し、労働者の福利厚生を 減少することでコストを減らせる。これで、コストの増分の一部、或いは全部を相殺 でき、最低賃金の上昇が雇用量を減らせなくて済む。 2.1.1から2.1.4までは最低賃金と雇用の関係を解明するモデルを紹介した。では、 最低賃金の変動はどういうルートを経由して経済に影響を与えたのか。 Aaronson, Agarwal, and French(2011)は「if minimum wage increases raise the earnings of lower-skilled workers who keep their jobs, and these workers have higher marginal propensities to consume than capital owners or low-skilled 8 workers who lose their jobs, minimum wage hikes could increase GDP.」最低賃 金の上昇が経済に成長させる可能性があると指摘した。それに関しては、丁と山崎は 内生貨幣供給下のIS-LM·AS-ADモデルを構築して説明した。 2.1.5 内生貨幣供給下の IS-LM·AS-AD モデル 最低賃金と経済成長を新たな視点から分析する丁と山崎は「最低賃金の引き上げが 貨幣供給を増加させる」と指摘し、内生的貨幣供給に基づくマクロ経済モデルで分析 した。 「最低賃金の引き上げによって AS 曲線を上方に移動するものの、経済主体の長期 期待を改善するので、AD 曲線はさらに大きく上方に移る。 」 「これで、物価国民所得の 増加へとつながる。したがって、最低賃金の引き上げは材市場、貨幣市場、総需要に よい影響を与える。 」と結論を示した。 図 2-3 内生貨幣供給下の IS-LM·AS-AD モデル 出所:丁、山崎「最低賃金制度と経済成長――内生的貨幣供給理論に基づいて分析」より 9 2.2 最低賃金に関する実証研究 上記最低賃金に関する理論研究から見れば、理論上、最低賃金が経済への影響、ま たは雇用への影響は不確定であることが分かる。故に、海外の経済学者たちが大量な 実証分析を行ってきた、それを通じて最低賃金からもたらす影響を解明しようとして いる。 支持派:イギリス経済学者の Richard(1996)は実証研究で「最低賃金の引き上げ はイギリスの失業率を 1992 年の 10.6%から 1994 年の 9.2%まで減少した」と指摘し た。Card、Kate、Krueger(1994)は古典派と反対結論を出し、 「最低賃金の引き上げ は雇用を増加させ、経済によい影響」と指摘した。また、Currie and Fallick(1996) は「最低賃金の引き上げは、賃金水準が新旧最低賃金の間にある人の雇用を減少する が、賃金水準が新設の最低賃金より高い人の失業率を減少し、全体的から見れば失業 率を減少させる。」と指摘した。 中立派:、Abowd, Kramarz, Margolis and Phillipon (2000)は、1982~1989 年の フランスのパネル・データを使って、最低賃金以下の賃金を払える契約ができる 24 歳を少し超えた年代で最低賃金の負の影響がも大きい(25~30 歳男性で雇用弾性値‐ 4.6)、24 歳以下では雇用への効果はより小さくなっていくと同時に有意でないことを 示した。5Stwart(2004)は「最低賃金と雇用に関するすべての実証研究の結果は正 の相関でありながら有意水準以下である」と指摘した。また、Joseph(2014)はアメ リカ 1979-2012 年のデータを使って Difference-in-difference モデルを分析し、最 低賃金と経済成長にはマイナスな相関(-0.031)が存在するが有意ではないと結論付 けた。同じく、Yi Huang, Prakash Loungani, and Gewei Wang は 2014 年で「最低賃 金と雇用及び経済成長との長期的効果を評価できない(cannot evaluate)」と報告 した。 反対派:Neumark, Schweitzer and Wascher (2004)は、1979~1997 年のアメリカ のパネル・データを使用し、当初の最低賃金の 1 から 1.3 倍の賃金を得ていた者の労 働時間の弾性値は‐0.3 とかなり明確なマイナス効果を得た。6Aaronson and French (2007)は「最低賃金の引き上げは労働力コストと産出物価格を増やし、同時に収益 と雇用量を減らす」と指摘し、Neumark and Wascher(2008)は研究を一歩進んで、 5 鶴(2013) 6鶴(2013) 10 GDP にもマイナスな影響を示した。 Neumark and Wascher (2007)によれば、「サーベイした最低賃金の雇用への影響を 分析した文献 102 にのうち、雇用への正の効果(または効果なし)を見出した研究は 8 つと両手で数える程度であるにもかかわらず、強調され過ぎていることを指摘して いる。既存の研究の紹介のされ方も、1、2つの正の効果の分析といくつかの負の効 果の分析の紹介に止まり、両サイドの研究が等しくバランスのとれたような印象を与 えているためである。実際は、雇用への負の影響を見出した研究が圧倒(全体の 2/3 程度、信頼性の高い研究 33 のうち 28(85%))であることは留意する必要がある」 。7 7鶴(2013) 11 3最低賃金制度の発展と現状 本章では、最低賃金制度に着目し、発展歴史を踏まえ、さらに国際的な比較を通じ て、各国における最低賃金の特徴、経済への影響を考えてみたい。 3.1 最低賃金の由来 産業トラブルを解決するために、1894 年、ニュージーランド政府が『産業調停仲裁 法』を可決した、裁判所に最低賃金を決める権利を付与し、それで産業トラブルの解 決や、妥当な雇用関係を図ろうとしている。その後、労働者の基本的権益を保障する ために、ニュージーランドの近隣であるオーストラリアは最低賃金制度を実行し始め た。1909 年、全面的な考査研究を通じて、イギリスも最低賃金制度を取り入れた。そ の狙いはオーストラリアと同じだが、応用の範囲は限られていて、4 つの産業にしか 通用しなかった。それから、1918 年になってどんどん産業を取り組み、1926 年まで、 40 の産業は適用対象となった。その後ほかの欧州諸国もイギリスの後に従った。フラ ンス、ノルウェー、オーストリア、ドイツ、スペインはそれぞれ 1915 年、1918 年、 1919 年、1926 年と 1934 年に最低賃金制度を実施し始めた。ただし、これら欧州諸国 の共通点として、世帯主としての労働者しか適用できなかった。それに対して、アメ リカのマサチューセッツ州とカナダのエールポット州では、青年また婦人を対象の最 低賃金制度が実施された。本土に最低賃金制度が適用してから、植民地主義の国家は その植民地にまで最低賃金制度を普及させた。例えばイギリスは 1927 年にスリラン カ、20 世紀 30 年代にアフリカに最低賃金制度を普及させた。第二次世界大戦後、発 展途上国の諸国も最低賃金法を取り入れ始めた。その末、約百年の発展を経った今は、 世界上のほぼすべての先進国と途上国には最低賃金制度が実施されている。 最低賃金制度の発展経路を振り替えてみると、第二次世界大戦の前に、諸国が実施 した最低賃金制度は大多数、臨時的な措置である。このような最低賃金制度は科学的 な検証がない。それで適用範囲は小さく、設定された最低賃金も適切でない状況はし ばしばある。20 世紀 30 年代末期から第二次世界大戦、そして特に第二次世界大戦後 には、ほぼすべての資本主義国家が検証の上最低賃金法を制定した。そのおかげで、 最低賃金制度の適用範囲が広がってきた。第二次世界大戦後、最低賃金制度は新たな 12 表 3-1 国 各国の最低賃金調整頻度 調整頻度 年 に 一 回 以 上 の 場 合 オーストリア、ブラジル、ベルギー、チリ、フランス、ルク もある センブルク、アルゼンチン、ウルグアイ、オランダなど 年に一度 イギリス、日本、メキシコ、スペイン、ポルトガル、コスタ リカ、イラン、ペルー、トルコなど 二、三年に一度 アメリカ、カナダなど ランダム 多数の発展途上国 特徴として、最低賃金水準の調整頻度が大きくなった。今世界各国の最低賃金の調整 頻度は表 3-1 で示している。 20 世紀 80 年代と 90 年代には、世の中に最低賃金制度が疑問視されていた。世界各 国は次々と最低賃金制度の普及が後回しにされた。この時期、世界経済が不景気の中 で、各国が最低賃金制度の実行に慎重な姿勢を取った。当時の経済学者の中では、最 低賃金制度の導入あるいは調整が社会全体の雇用量の減少に導く、それに、経済の衰 退期で一層効果があると考えるのは主流だった。故に 20 世紀 80 年代後には、欧米諸 国が最低賃金制度に対して軽視であり、その調整頻度と調整金額が小さくなる傾向で ある。1983 年から 1993 年までの間はアメリカが最低賃金制度を導入して以来、調整 頻度と調整金額が一番小さい 10 年であり、平均的に二年間で 2.0%を引き上げ、4 年 ごとに一度調整する方針を取っていた。一方、同時期のイギリスは最低賃金制度の適 用範囲を縮小する方針を取り、イギリス政府は 1986 年、1992 年、1993 年に次々と適 用範囲から 18-23 歳の青年、農業従業者、16-38 歳の労働者、記者及び電信業従業 者を除外した。 20 世紀 90 年代中葉、最低賃金が雇用への影響について新たな理論が提出され、最 低賃金が妥当な範囲内での引き上げは雇用に悪影響が与えないと実証分析で証明し た学者は次々と現れた。その理論と実証研究に従い、いくつかの国が最低賃金を引き 上げ始めた。例えば 1996 年、アメリカ大統領であるクリントンは最低賃金の引き上 げを公表時に「研究によりと最低賃金の適切な増加は失業に導かない、経済好況の場 13 合はなおさらである」という発言があった。イギリス政府は 1998 年公表した LPC(Low Pay Commission、イギリス最低賃金委員会)の報告では「今まで、低水準の賃金を維 持するのが雇用にプラスな影響があることは証明されていない。逆に、最低賃金制度 を実施するこの 4 年間の経験から見て、最低賃金水準の引き上げは国の経済発展に悪 影響なく、国民の収入を増やし、より多くの労働者がその利益を受けるだろう」と指 摘した。 最低賃金制度の発展経路から見れば、最低賃金という概念は 20 世紀初期で提出さ れたが、20 世紀 80 年代、90 年代にはいったん発展を停滞したことがある。その原因 は最低賃金制度が経済の発展を滞り、雇用量に悪影響を与えると認識したからだ。20 世紀 90 年代以後、経済学の研究が進み、最低賃金制度が貧困人口を削減できると見 なし、再び政府側に重視された。 3.2 日本における最低賃金の発展 本節では先行研究を参考しながら日本の最低賃金の歴史的展開を見てみよう。浦川 の研究によると日本の最低賃金制度の発展は 6 段階に分けられている。 「その第一は昭和 22 年の「労働基準法」制定にいたるまでの最低賃金制度創設の ための準備期であり、昭和 34 年「最低賃金法」制定までが第 2 期といえる。第 3 期 は「最低賃金法」による業者間協定方式を中心とする時期である。昭和 43 年、「最 低賃金法」が改正され、最低賃金の決定方式が審議会方式中心へと移行して第 4 期へ と入り、昭和 45 年の中央最低賃金審議会の「今後における最低賃金制度のあり方に ついての答申以後が第 5 期、昭和 56 年の中央最低賃金審議会の「最低賃金額の決定 の前提となる基本的事項に関する考え方について」の答申以後が第 6 期とみることが できる。」 上記の分類を踏まえて、大橋(2009)の研究を参考しながら、具体的な流れを紹介 してみたい。 「1947 年に労働基準法が制定され、そこで最低賃金に関する規定が設けられてい たが、 具体的な措置として最低賃金法が制定されたのは 1959 年のことである。 ただ し、それ以前にも最低賃金らしきものは存在した。それは 1956 年に静岡県労働基準局 14 長の指導のもとに静岡缶詰協会の会員事業 所が缶詰調理工の初任給協定を締結した ことから始まった。これは事業者団体による自主的な最低賃金に関する協定であり、 何ら法的な拘束力をもっていない。 また労働組合がその決定に参加していないから、 ドイツやイタリアなどの労働協約方式でもない。 単なる業者間協定による最低賃金 である。この最低賃金は旧労働省の積極的な推進により各地で締結され、最低賃金法 が制定される 1959 年の 4 月までに 127 件になったとされる。この業者間協定方式が法 制化されることになった背景には、輸出の急増によってアメリカを中心に諸外国から ソーシャル・ダンピングとの批判が日本に向けられ、ガット加入への障害になってい たこと、及び国内的には本格的な高度成長期の到来を前に繊維や金属・機械などの低 賃金業種で若年者の初任給が上昇しそれをカルテルにより阻止しようとする意図が あったとされる。 制定された最低賃金法には労働協約や審議会方式を可能にする条 項もあったが、 現実には 「業者間協定にもとづく最低賃金」 を中心にしながら、併 せて 「業者間協定にもとづく地域的最低賃金」 も普及した。 しかし高度成長のもと で最低賃金の普及状況に産業間及び地域間で不均衡が生まれ、 さらに協定最低賃金 の水準の低さからその実効性の欠如が批判されるようになった。 そこで法成立 後に 設置された中央最低賃金審議会 (公労使各 7 名) が 1964 年に「最低賃金の対象業種 および最低賃金額の目安について」 の答申を出し、 地域別及び業種別 (3 地域 2 業 種別) に最低賃金の具体 的な目安を示した。 ただし、2 年後の 1966 年には業種区分 が廃止され、 地域別の目安のみが示されるようになった。 さらに審議会により業者 間協定方式から審議会方式への移行が主張された結果、1968 年には法改正によって 審議会方式が基準とされ、 業者間協定方式は廃止された。 こうした動きを後押しし たのは、 労働者の代表が関与しない業者間協定方式では ILO 条約を批准できないと いう事情であった。 1971 年にようやく最低賃金に関する ILO 条約 (第 26 条及び第 131 号) の批准が行われた。 この 年は同時に法第 16 条「最低賃金審議会の調査審議 に基づく最低賃金」 のもとで地域別最低賃金の 審議が地方で始まった年でもある。 その後、 労働省の「最低賃金の年次推進計画」のもとに県全域 の労働者を対象にして それは急速に発展した。 他方、 法第 11 条「労働協約に基づく地域的最低賃金」によ る方式は、 企業別組合をベースにする労 使関係のもとでは普及せず, むしろ審議会 方式に よる産業別最低賃金が業種をおおくくりにした形で進展した。 現在の日本の 最低賃金制度の骨格が出来上がったのは、1978 年に目安制度が導入され、地域別最 15 低賃金の引き上げ額について中央最低賃金審議会が地方の審議会に対して目安を提 示した時期である。 都道府県を A、 B、 C、 D の四つのクラスに分類し、それぞれ について引き上げ額の目安を示すというものである。 ただし、公労使の三者が合意で きたのは最初の 3 年間のみで 1981 年以降は公益見解として引き上げ額が地方に示さ れ、 労使はそれぞれの不満を意見書によって表明している。 他方、 産業別最低賃金 の性格も変化し、地域別最低賃金より高い水準を必要とする小くくりの産業に限定す べきとの観点から、1982 年には新 産業別最低賃金への転換がさらに 2007 年の憲法 改正では派遣労働者をも対象にした特定最低賃金 となった。 2007 年の法改正の重 要なポイントは、地域別最低賃金について第 9 条で労働者の生計費を考慮するに当 たっては、「生活保護に係る施策との整合性に配慮するものとする」とされたことであ る。 これは「最低賃金制度のあり方に関する研究会報 告書」 厚生労働省 (2005)で、特 に 18~19 歳単身者の最低賃金の水準が生活保護支給額を下回る地域すらあるとさ れ、 健康で文化的な最低限度の生計費の保障という観点から、また就労に対するイ ンセンティブという観点から問題があるという議論を踏まえたものである。 前者の 観点はいいであるが、後者には些か疑問が残る。 というのは、生活保護を受給するに は今では厳しい資力調査をパスした上で、 貯蓄や有価証券、 住宅、 車などの保有 に制限が課され、 不便な生活を強いられるために、 最低賃金での労働と生活保護受 給とは実際には代替的とは言えないからである。 」 3.3 最低賃金の基準と現状 3.3.1 海外における最低賃金の現状分析 国際労働機関(International Labour Organization)は最低賃金については「賃 金給付額の下限」と説明し、利益分配が不平等の中で労働者の権益を保護するための 存在である。今は、最低賃金制度は一つの政策手段として世界各国に使われている。 国際労働機関の加盟国の中、90%の国にはこういう政策が実施されている。 最低賃金を国際的に比較するためには、カイツ(Kaitz)指標が使われている。カ イツ指標は: 16 f (WM/W )S ただし、fi は業界 i の就業比率、WM は最低賃金額、Wi は業界 i の平均賃金(時給) 、 Si は業界 i で最低賃金受給者の割合である。 表 3-2 で示しているように、EU 諸国は最低賃金の規模はアメリカより多いが、1993 年から 2005 年までの変化幅はほぼ 5%以内である。一方、日本のカイツ指標は欧米諸 国より大幅に低い水準にあり、欧米諸国より日本の最低賃金制度はまだまだ規模が小 さいことが分かる。 カイツ指標のほかに、国際労働機関は二つの指標を使われている。一つは平均賃金 に最低賃金が占める割合で、最低賃金制度を通じて所得分配の不平等を解消する、国 の努力さを判断する指標である。もう一つは一人当たり GDP に最低賃金の占める割合 で、最低賃金の変化と労働生産性の変化を示す指標である。 国際労働機関が 2001 年から 2007 年に加盟国を対象にした調査研究によると、近年、 表 3-2 最低賃金の国際比較 最低賃金(円) カイツ指標 1993 年 カイツ指標 2005 年 2005 年 EU 諸国 Non-EU フランス 170520 0.50 0.55 スペイン 88340 0.32 0.42 オランダ 178220 0.55 0.52 ポルトガル 61180 0.45 0.44 ベルキー 172760 0.60 0.56 アイルランド 181020 0.55 0.60 イギリス 177660 0.40 0.42 アメリカ 89095 0.39 0.37 スイス -- 0.52 -- 日本 115045 -- 0.29 *欧州諸国の最低賃金はフルタイム労働者に適用されるものであり、月ベースで表示されるために、 アメリカと日本の最低賃金の算出には、時給に 173 時間をかけた。 また為替レートは、当時と今日では 大幅に異なるが、とりあえず、 1 ユーロを 140 円、 1 ドルを 100 円 として算出した8。 出所:1993 年のカイツ指標は、 Dolado et al (1996)、また 2005 年のは European Foundation for the improvement of Living and Working Condition (Minimum wages in Europe: Background paper、 2007) 、日本のデータは大橋(2009)を再掲したものである。 8 大橋(2009) 17 最低賃金水準が上昇している。調査対象国の 70%は実質最低賃金水準を引き上げ、そ の引き上げの平均値は 5.7%である。その他に、最低賃金受給者の購買力は大幅に増 え、先進国と途上国はそれぞれ 3.8%と 6.5%増えた。先進国の代表としてイギリス のデータを見てみよう。20 世紀 80 年代に産業別の最低賃金制度を取り消し、1999 年 に新たな最低賃金制度を実施した。その後、イギリスの実質最低賃金は年間 3.5%の スピードで上昇している。イギリスの他に、スペインの最低賃金水準も速いスピード で増え続けている。途上国も同じく、特に中国、ブラジル、南アフリカには上がり一 方である。 だが、最低賃金水準が増えていない国もいくつある、例えばオランダはほぼ停滞状 態で、アメリカは場合、2001 年に比べ 2007 年は 17%低くなった。グルジアは年間約 6%で下げつつある。 全体から見れば、世界中の多くの国は最低賃金水準がを引き上げている、停滞状態 と減少するのはわずか一部の国しかない。 その他の研究によると、世界中の最低賃金が平均賃金に占める割合も少しずつ増え ている。 (2000‐2002 年が 37%で、2004-2007 年が 39%) 。一方、最低賃金が一人当 たり GDP の割合は、先進国には安定で、世界平均から見ると減少している(68%から 60%に)、その原因は発展途上国は平均労働生産性が上がっているが、それに対して 最低賃金の増加は遅れている。 その他に、各国の最低賃金水準も大きく違いがある。先進国のフランスは平均賃金 の 50%で最低賃金水準を決まり、先進国にでもトップ水準である。イギリスとスペイ ンは平均賃金の 35%。 表 3-3 最低賃金の国際比較 国 2001-2007 年最低賃金の 2000-2002 年平均賃金に 2004-2007 年平均賃金に 実質上り幅(%) 最低賃金の占める割合 最低賃金の占める割合 先進国 3.8 0.39 0.39 途上国 6.5 0.36 0.4 計 5.7 0.37 0.39 18 3.3.2 日本における最低賃金の現状 表 3-4 先進国における平均賃金に最低賃金の占める割合 国 最低賃金/平均賃金 1993 年 1997 年 フランス 0.50 0.52 ルクセンブルク 0.56 0.55 オランダ 0.55 0.45 ポルトガル 0.45 0.45 スペイン 0.32 0.35 アメリカ 0.39 0.39 ベルギー -- 0.43 カナダ -- 0.41 イギリス -- 0.41 日本 -- 0.25 出所:データの一部は安(2007)『最低工资经济效应分析与其统计测算方法思考』より、筆者作成 日本は最低賃金法に基づいて、県単位で最低賃金を改定する。改定額は数円から十 数円までそれぞれである。それに対して、2015 年飲食店アルバイトの大量離職事件は ある程度、日本の最低賃金の現状で反映している。毎年最低賃金を引き上げる一方、 労働者の実質賃金が増えているのか、企業はきちんと最低賃金水準で給料を払ってい るのか、などの問題が人々の関心を集めている。 先進国の平均賃金に最低賃金が占める割合は 0.4 から 0.5 である。それに対し、日 本は 0.25 であった。 日本各県の 10 年間(平成 13 年から平成 24 年)の最低賃金の推移は次の表で示し ている。 19 表 3-5 平成 13 年 日本各県における最低賃金の推移 平成 14 年 平成 15 年 平成 16 年 平成 17 年 平成 18 年 北海道 637 637 637 638 641 644 青森 604 605 605 606 608 610 岩手 604 605 605 606 608 610 宮城 617 617 617 619 623 628 秋田 604 605 605 606 608 610 山形 604 605 606 607 610 613 福島 610 610 610 611 614 618 茨城 646 647 647 648 651 655 栃木 648 648 648 649 652 657 群馬 644 644 644 645 649 654 埼玉 677 678 678 679 682 687 千葉 676 677 677 678 682 687 東京 708 708 708 710 714 719 神奈川 706 706 707 708 712 717 新潟 641 641 641 642 645 648 富山 644 644 644 644 648 652 石川 645 645 645 646 649 652 福井 642 642 642 643 645 649 山梨 647 647 647 648 651 655 長野 646 646 646 647 650 655 岐阜 668 668 668 669 671 675 静岡 671 671 671 673 677 682 愛知 681 681 681 683 688 694 三重 667 667 667 668 671 675 滋賀 651 651 651 652 657 662 京都 677 677 677 678 682 686 大阪 703 703 703 704 708 712 兵庫 675 675 675 676 679 683 奈良 647 647 647 648 652 656 和歌山 645 645 645 645 649 652 鳥取 609 610 610 611 612 614 島根 608 609 609 610 612 614 岡山 640 640 640 641 644 648 広島 643 644 644 645 649 654 山口 637 637 637 638 642 646 徳島 611 611 611 612 615 617 香川 618 618 619 620 625 629 愛媛 611 611 611 612 614 616 高知 610 611 611 611 613 615 20 再 掲 福岡 643 643 644 645 648 652 佐賀 604 605 605 606 608 611 長崎 604 605 605 606 608 611 熊本 605 606 606 607 609 612 大分 605 606 606 607 610 613 宮崎 604 605 605 606 608 611 鹿児島 604 605 605 606 608 611 沖縄 604 604 605 606 608 610 出所:データは各県の労働局、厚生省ウェブサイトより *アンダーバーの付くデータは変動のない年である アンダーバーを付いた部分は、アジア金融危機の余波で平成 13 年から平成 15 年ま での三年間には、各県はほぼ最低賃金水準を引き上げなく、引き続き前年度の最低賃 金水準を適用していた。平成 16 年になってから各県が毎年最低賃金額を引き上げる ようになってきた。 平成 26 年では最低賃金の一番高い県は東京で、888 円/時間。一番低い県は高知で、 677 円/時間。一時間に 211 円の差が出ている。13 年前の平成 13 年(東京 708 円/時 間、高知 610 円/時間で、差が 98 円)より格差が二倍以上の拡大がみられる。 表 3-6 全国最低賃金の特徴 単位:円 年(平成) 最低賃金の加重平均 中央値 レンジ 13 -- 642 104 14 -- 642 104 15 -- 642 103 16 -- 643 104 17 668 645 106 18 673 649 109 19 687 659 121 20 703 670 139 21 713 674 162 22 730 684 189 23 737 685 192 24 749 691 198 25 764 703 215 26 780 718 221 出所:データは各県の労働局、厚生省ウェブサイトより、筆者が作成 21 表 3-5、3-6 を見ると、平成 18 年から日本各県の最低賃金の名目額が著しく引き上 げられている。平成 26 年時点では、日本の加重平均賃金は 780 円/時間となり、中央 値は 718 円/時間まで上がった。それに日本全体から見てみると、最低賃金のレンジ (最大値-最小値)が平成 13 年の一時間に 104 円差から平成 26 年の一時間に 211 円 差まで、地域の格差が拡大している。 表 3-6 の時系列データから見れば、日本各県の最低賃金格差が拡大しているが、表 3-7 の 2014 年のクロスセクションデータから、1 組と 2 組とは大きな差が見えなかっ た。 表 3-7 最低賃金の特徴 経済区分の地域別 1組 2組 関東地方、近畿地方が主とした 1 京都府、新潟県をはじめの1府 都 1 府1道 34 県 平均値 792 704 中央値 787 702 最大値 888 789 最小値 727 677 レンジ 161 112 地域 *平成 13 年-26 年各地域の平均値で算出 *組み分けは県内総生産ランキングで、全国平均以上なら 1 組、それ以外は 2 組 出所:データは各県の労働局、厚生省ウェブサイトより、筆者が作成 22 表 3-8 最低賃金水準と平均賃金に占める割合(2012 年と 2014 年) 地域 最低賃金水準 2012 平均賃金に占める割合 2014 2012 2014 北海道 719 748 36% 37% 青森 654 679 31% 36% 岩手 653 678 30% 33% 宮城 685 710 32% 33% 秋田 654 679 31% 35% 山形 654 680 32% 31% 福島 664 689 31% 33% 茨城 699 729 30% 33% 栃木 705 733 31% 32% 群馬 696 721 30% 34% 埼玉 771 802 34% 35% 千葉 756 798 32% 34% 東京 850 888 35% 36% 神奈川 849 887 34% 36% 新潟 689 715 34% 38% 富山 700 729 33% 34% 石川 693 718 31% 36% 福井 690 716 34% 36% 山梨 695 721 30% 33% 長野 700 728 29% 32% 岐阜 713 738 34% 36% 静岡 735 765 33% 35% 愛知 758 800 34% 37% 三重 724 753 32% 35% 滋賀 716 740 31% 34% 京都 759 789 37% 38% 大阪 800 838 37% 40% 兵庫 749 776 34% 35% 奈良 699 724 32% 34% 和歌山 690 715 35% 35% 鳥取 653 677 30% 35% 島根 652 679 39% 32% 岡山 691 719 33% 36% 広島 719 750 34% 36% 山口 690 715 32% 34% 徳島 654 679 32% 33% 香川 674 702 33% 35% 愛媛 654 680 31% 33% 高知 652 677 32% 36% 23 福岡 701 727 35% 36% 佐賀 653 678 32% 33% 長崎 653 677 33% 35% 熊本 653 677 30% 34% 大分 653 677 33% 34% 宮崎 653 677 33% 35% 鹿児島 654 678 32% 33% 沖縄 653 677 34% 37% 出所:データは各県の労働局、厚生省ウェブサイトより、筆者が作成 表 3-8 では、各県の最低賃金と平均賃金の割合を示している。そこで、結果を表 3-9 でまとめると 表 3-9 全国及び組別の平均賃金に最低賃金の占める割合 全国 1組 2組 地域数(県) 47 12 35 平均値 35% 36% 34% 中央値 35% 36% 34% 最大値 40% 40% 38% 最小値 31% 33% 31% レンジ 8% 7% 7% *平成 26 年のデータで算出 *組み分けは県内総生産ランキングで、全国平均以上なら 1 組、それ以外は 2 組 出所:データは各県の労働局、厚生省ウェブサイトより、筆者が作成 表 3-8 と表 3-9 から、最低賃金の名目額の増加につれて、平均賃金との比がすべて の県における上り一方である。47 都道府県では平均賃金に最低賃金が占める割合は 30%から 40%の間であり、経済状況と関わらず組内平均値は 35%前後。表 3-4 が示 しているように、世界中におけるこの比率は 0.4~0.5 である。それより日本各県が まだまだ低い水準にあると言える。 24 4データとモデル 4.1 データの出所 本稿は日本の 47 都道府県の平成 13 年(2001 年)から平成 24 年(2012 年)の 12 年間マクロパネルデータを用いて分析を行う。テータは主に各県毎年公表する統計年 鑑と日本厚生省、総務省の統計から。出所の詳細は表 4-1 で示している。 表 4-1 データの名称、期間及び出所 データ 変数名 期間(平成) 実質一人当たり GDP real GDP per capita 13-24 『県民経済計算』 実質最低賃金 real MW 1-26 各県の労働局、厚生省 WEB 実質政府資本スト real gov capital stock 13-21 内閣府『資本ストック推 ック 出所 計』 民間企業資本スト ln ック sector 消費 real capital stock private consumption 13-21 内閣府『県民経済計算』 13-24 総務省統計局『家計調査』 失業率 unemployment rate 9-26 『労働力調査』 15~64 歳人口比率 prime age rate 1-25 統計局『人口推計』 進学率 educontinunce rate 10-25 文部科学省『学校基本調 査』 被保護率 pubassistance rate 1-26 『日本の統計』 4.2 計量モデル 4.2.1 既往研究 本稿で用いるパネルデータモデルの統計学上の起源はR.A.Fisherの一連の研究に おける分散分析であり、分散分析はある外的のショックの与えられたグループの行動 を、ショックを与えられなかったグループと比較して、その影響や効果の大きさを明 らかにするために用いられる手法である9。本稿が扱う経済については、様々なショ ックや影響が連続的起きていることと踏まえると、こうした手法が利用できるものと 9小池・平井・佐藤(2012) 25 考える。本稿の計量モデルの参考文献として、安(2005)、Aaronson, Agarwal, and French(2011)、 YI(2014) 、JOSEPH(2014)を挙げることができる。 4.2.2 計量モデル 本稿は主にパネルデータ分析の固定効果モデルを用いて最低賃金の経済への影響 を研究する。 パネルデータ分析には図 4-2 のように複数の分析手法がある中で、固定効果モデル が支持されているのは、経済主体の異質を考慮して、モデルの傾きは同一であるが定 数項がそれぞれの主体で異なると仮定しているためである。つまり、分析の対象とな る経済主体それぞれの個別効果を推定したい場合に優位性があるためである10。本稿 においても、47 都道府県のごとの異質性を考え入れ、固定効果モデルを採用すること にした。 通常の重回帰モデルの拡張として、固定効果を導入した式は以下のように定義す る: y = α + βX + μ 図 4-2 (i =1 ,···,N; t =1 ,···,T) パネルデータ分析手法の概要 出所:小池・平井・佐藤(2012) 「高速道路整備による地域の人口及び経済変化に関する事後分析――固 定効果モデルによるパネルデータ分析」より 10小池・平井・佐藤(2012) 26 ただし、i、t は主体及び時間を表す。誤差項 {μ } は古典的な仮定をみたすとす る。β は通常の回帰モデルの場合と同様に、未知の係数ベクトルである。{X } は説 明変数で p×1 確率ベクトルであり、誤差項 {μ } との独立性(狭義外生性:strict exogeneity)が仮定される。α は,主体 i に特有の個別効果(individual effect) と呼ばれる量であり、定数のパラメータであると仮定する。この場合のモデルを固定 効果モデル(Fixed effect model)という。 次に、主体 i に関して時間平均をとる y = α + βX + μ となり、さらに、時間とともに変化しない固定効果を引くことで消去すると次のよ うになる: y − y = β(X − X ) + (μ − μ ) ここで、最小自乗推定すれば、最良不偏推定量βを得ることができる11。 最低賃金と経済成長には相関があって Y=f(MW) と表現できる。 JOSEPH(2014)は最低賃金と経済成長を説明するには、式の右側に最低賃金と独立 だが、最低賃金政策の判断を影響できる変数を入れた方がいいと指摘した。 故に、説明式を Y=f(MW, SOG, UNE, AGE, EDU, ASI) とする。 本稿では最低賃金の経済への影響を以下のようなモデルを用いて分析する。 lnY = α + β# lnMW + β$ lnSOG + β% UNE + β& AGE + β' EDU + β( ASI + μ ただし、Y は実質一人当たり GDP で、MW は実質最低賃金(円/時間) 、SOG は政府 資本ストックである。UNE は失業率、AGE は 15 歳から 64 歳の人口の割合、EDU は進学 率、ASI は被保護率である。さらに主体(県)は i、時間(年)はt、μは誤差項であ る。 式の両方に対数を取ることで、最低賃金が 1%上昇すると経済に何パーセントの影 響を得るかが分かる。 11 田中 27 その他に、先行研究では前期の経済状況は今期の経済に影響があると指摘された。 故に、前期の GDP を一回ラグして説明変数として分析してみる。この場合、推計式は lnY = α + )* ln+, ./# + β# lnMW + β$ lnSOG + β% UNE + β& AGE + β' EDU + β( ASI +μ となり、ダイナミックモデルである。 こうした理由から、Arellano and bond の一般化積率法(GMM)が利用される。GMM は、系列相関および不均一分散性がある場合、ないしは予測誤差が誤差項に含まれる 場合に、その誤差項の構造を特定化せずにパラメータを推計する方法である。 4.3 データ分析 本節では計量モデルに基づいて、本研究で使うデータを紹介する。 平成 13 年から 24 年の 12 年間を選ぶのは、アジア金融の影響を受け、平成 13,14, 15 の三年間に大多数の県では最低賃金を引き上げなかった。その後金融危機の影響が だんだん消え、毎年で最低賃金を調整するようになった。データの詳細は表 4-3 で示 す。 表 4-3 データの特徴 Variable Obs Mean Std. Dev. Min Max Ln_real GDP per capita 564 15.0953 0.1662101 14.72179 15.88262 Ln_real MW 564 6.490441 0.0638023 6.403574 6.745236 Ln_real gov capital stock 423 25.00384 0.9031933 23.4061 27.74122 unemployment rate 564 4.385638 1.02973 2.2 8.4 prime age rate 564 63.49645 2.794581 57.3 71.9 educontinunce rate 564 47.56755 7.497871 31 66.9 pubassistance rate 564 1.073954 0.6170336 0.19 3.42 *一人当たり GDP、最低賃金、政府資本ストックは GDP デフレータで割て、実質値を算出した。 28 5、最低賃金が経済への影響の実証分析 5.1 パネルデータモデルによる全国分析 まず、全国 47 都道府県の平成 13 年から 24 年のデータを分析してみる。 表 5-1 最低賃金と経済成長のパネルデータ分析 全国 Real GDP per Capita Fixed effects Model (1) Ln_real MW (2) random effects models (3) (4) (5) -0.158*** -0.267*** -0.112** -0.292*** (0.052) (0.051) (0.075) (0.080) Ln_real MWt-1 (6) -0.345*** -0.337*** (0.090) (0.080) Ln_real gov capital 0.139*** 0.101** 0.106*** 0.088*** stock (0.035) (0.043) (0.020) (0.021) unemployment rate prime age rate -0.026*** -0.031*** -0.031*** -0.027*** -0.032*** -0.032*** (0.002) (0.002) (0.002) (0.002) (0.002) (0.002) 0.002 0.002 0.004 0.006*** 0.002 0.005 (0.025) (0.003) (0.004) (0.002) (0.003) (0.003) -0.001 0.002** 0.002** -0.000 0.002** 0.002*** (0.001) (0.001) 0.001 (0.001) (0.001) (0.001) -0.006 -0.027* -0.011 -0.07 -0.029** -0.017 (0.009) (0.015) (0.018) (0.009) (0.014) (0.016) 16.117*** 13.295*** 14.619*** 15.559*** 14.269*** 14.804*** (0.451) (1.164) (1.437) (0.432) (0.701) (0.756) N 564 423 376 564 432 376 R-sq 0.401 0.490 0.542 0.396 0.489 0.542 Prob>chi2 0.003 0.017 0.382 0.000 0.000 0.000 educontinunce rate pubassistance rate _cons Prob>chibar2 注:括弧内は標準誤差である。数値後の*は有意水準を表す。*は 10%、**は 5%、***は 1%で ある。 29 (1)~(3)は固定効果モデルで分析、(4)~(6)は変量効果モデルでの分 析である。 (1)、 (4)において同年の GDP と最低賃金データを使い、さらに失業率、 15~64 歳人口比率、被保護率及び進学率を説明変数にする分析である。 (2)、 (5) はその政府資本ストックを加えた。ここで、日本における最低賃金の引き上げは基本 的に 10 月前後で行われるので、 (3)、 (6)では最低賃金の一回ラグの MWt-1 を使っ て分析してみた。結果から見れば、一回ラグした最低賃金データを使った方が決定係 数が高い。 Hausman 検定と T 検定によると、(1)、(2)、(6)組の分析が他の組より正 しいである。その結果はいずれも最低賃金と経済にマイナスの関係を持っていて、 99%の有意水準で最低賃金が 1%上昇するごとに経済が 0.1%から 0.3%衰退するこ とを示している。 その他に、政府資本ストックと進学率は経済にプラスな、失業率は経済にマイナス な影響をもたらすことが証明されている。 先行研究で前期の経済状況は今期の経済に影響があると指摘された。故に、前期の GDP を一回ラグして GMM を用いて分析してみる。 30 5.2 GMM による全国分析 表 5-2 最低賃金と経済成長の実証分析 GMM 全国 Real GDP per Capita GMM lnMWt -0.549*** (0.030) lnMWt-1 -0.482*** (0.036) lnGDP_pert-1 0.168*** -0.049* (0.033) (0.036) lngovernment capital stock 0.027 0.031** (0.022) (0.015) -0.035 -0.034*** (0.001) (0.001) -0.002 -0.003* (0.002) (0.002) 0.002*** 0.000** (0.001) (0.000) public assistance rate 0.008 -0.016 (0.010) (0.012) _cons 13.250*** 16.370*** (0.545) (0.647) N 329 329 Prob>chi2 0.260 0.2611 unemployment rate prime age rate educontinunce rate 注:括弧内は標準誤差である。数値後の*は有意水準を表す。*は 10%、**は 5%、***は 1%で ある。 lnGDP_pert-1 の係数は有意水準 90%で-0.049 である。GDP が長期にわたって収斂で あることを示している。lnMWt は-0.549 で、lnMWt-1 は-0.482 で有意水準が 99%で、最 低賃金の上昇が経済に悪影響をもたらすことを示し、全国分析と同じ結果である。 31 5.3 県内総生産別分析 表 5-3 最低賃金と経済成長の実証分析 県内総生産別 Real GDP per Capita 1 組(12 県) lnMWt-1 random 2 組(35 県)fixed -0.341* -0.410** (0.178) (0.102) 0.213*** 0.055 (0.053) (0.046) -0.032*** -0.030*** (0.004) (0.003) -0.004 0.003 (0.007) (0.004) 0.002 0.002** (0.002) (0.001) 0.094* 0.003 (0.044) (0.019) 11.759*** 14.550*** (1.149) (1.042) N 96 280 R-sq 0.613 0.536 lngovernment capital stock unemployment rate prime age rate educontinunce rate public assistance rate _cons Prob>chi2 Prob>chibar2 0.000 0.000 注:括弧内は標準誤差である。数値後の*は有意水準を表す。*は 10%、**は 5%、***は 1%で ある。表には検定を通じた或いは決定係数が高い回帰結果だけ取り入れている。 前期の最低賃金水準の係数は 1 組が-0.410、2 組が-0.341、いずれも有意な結果で ある。経済に最低賃金が負の相関を示している。2 組(県内総生産下位県)の係数は 1 組(県内総生産上位県)及び日本全国(表 5-1(6))より小さいことは、2 組の方 が最低賃金が経済への影響を受けやすいを示している。つまり、最低賃金と経済成長 の関係が地域と経済構成に影響ある。 理論上、最低賃金の上昇が経済成長に導く経路を第 2 章で説明した。しかし上記の 実証分析では、最低賃金の上昇が経済に悪影響を与えていることを証明され、理論と 反対な結果が示されている。次の分析でその原因を説明する。 32 5.4 最低賃金と失業率、消費、民間企業資本ストックとの関係検証 表 5-4 最低賃金が失業率、消費、企業資本ストックへの影響 unemployment rate lnMW Prob>chi2 Prob>chibar2 consumption ln real capital stock private sector Fixed Random GMM Fixed Random (1) (2) (3) (4) (5) -1.913*** -1.905*** -0.271** 0.880*** 0.882*** (0.287) (0.284) (0.108) (0.023) (0.024) 0.3417 -- 0.8158 0.0000 0.000 注:括弧内は標準誤差である。数値後の*は有意水準を表す。*は 10%、**は 5%、***は 1%で ある。(3)はパネルデータ分析では多重共線性のため、GMM に。 hausman 検定と T 検定及び sargan 検定を通じた(2) (3) (5)の方がほかの回帰 分析より正しい。それは最低賃金が失業率と消費にマイナス、企業資本ストックにプ ラスな影響を与えることを示す。これではっきり分かるように、最低賃金の上昇につ れて、企業の雇用量が多く減少してしまい、失業による社会全体の GDP が減る。同時 に、企業側が人的コストが高いため、設備投資を増加し、資本集約型企業に変わる。 一方、仕事の保有者の賃金が上昇するが、消費に回る分は失業による損失に埋められ ない。それは最低賃金の上昇が経済衰退に招く原因だと考える。 33 6、結論と展望 6.1 結論 6.1.1 現段階では日本の最低賃金水準が低い 本稿第 3 章と第 4 章における日本 47 都道府県の最低賃金水準の統計及び世界各国 の比較から見れば、日本の最低賃金はまだはるかに他の先進国より低い水準にあり、 大都市での生活を維持し難いと分かる。そこで、デリバティブ問題として、子供の教 育問題が生まれてきた。少子化が進む現在日本には、最低賃金で生活する人は自分で 子育てするのが難しい、それで日本の将来の労働力がさらに減少させ、日本の労働力 不足問題をさらに深刻にするだろう。 6.1.2 平均賃金に最低賃金が占める割合が低い 平均賃金に最低賃金が占める割合が労働力の収入格差が示す。第 3 章の統計ではっ きり分かるように、日本の平均賃金に最低賃金が占める割合が、近年連続の最低賃金 水準改定で上昇しているが、先進国の 0.4-0.6 よりはまだまだ低い水準である。しか し、その割合が上昇していることは日本の収入格差が縮んでくることと見って、他の 先進国に追いかける将来が期待できるだろう。 一方、地域別の最低賃金格差が拡大している。それで地域発展の不均衡と導き、重 要視しなくてはならない。 6.1.3 最低賃金の経済への影響はマイナス 本稿の第五章では、日本全国、及びクループ分けて最低賃金の経済への影響を実証 分析した。いずれの分析が最低賃金の経済への影響がマイナスで、有意の結果が出た。 最低賃金水準が 1%上昇ごとに、経済が 0.1%から 0.5%衰退すると示している。 その他、経済別地域の分析では、地域によって係数が大きく違うということは、最 低賃金と経済成長の関係が地域と経済構成に影響されることを示す。 34 6.2 政策アドバイス 6.2.1 適切に最低賃金水準を引き上げる 先行研究の結論と本研究の分析から見れば、日本現在の最低賃金水準が引き続き引 き上げる余地はあると筆者が考える、特に 1 組(県内総生産上位の地域)。第 3 章の 分析を通じて、経済力の高い 1 組は 2 組より最低賃金水準が高いが、平均賃金に占め る割合が同じであると分かる。地域によって生活コストが違うことを考え入れ、1 組 の地域における最低賃金の比較的高い県でも最低賃金水準を引き上げることが可能 だと考える。 6.2.2 最低賃金の改定が慎重に行わなければならない Bell(1995)はメキシコにおける製造業を対象した実証分析には「最低賃金が平均 賃金の 13%前後であるなら、最低賃金の上昇は失業に導かない、一方、その比率は 53%でしたら、最低賃金の雇用弾力は約-2%」と指摘した。本研究では、最低賃金の 上昇が雇用、消費、及び経済に悪影響を与えると証明した。最低賃金が低すぎると、 労働力の保障とならない、その反面、高すぎると雇用と経済に悪影響を与える。故に 最低賃金の改定が慎重に行わなければならない。 6.2.3 最低賃金制度に代わる政策の検討 最低賃金を引き上げると、低賃金労働者の雇用をかえって減らす。しかし、低賃金 労働者の生活を支え、貧困人口を減らすことは政府にとって大切な目標である。そこ で、どのように彼らの生活を支えるのだろうか、最低賃金引き上げが雇用を減らすと いう副作用を持つのは、その政策が企業の負担を大きくなったからである。ここで、 マイナスな取得税政策のように、ある水準以上の収入を持つ国民からの税を財源とし、 貧困世代への所得再分配が望ましい。ただし、単に所得が少ないほど政府から多く金 をもらえるなら、貧困層の労働意欲が低いから、一定の所得まで労働所得が増えるほ ど、補助金が増えるのような政策は日本の経済回復に必要な打開策である12じゃない かと筆者が考える。 12 川口(2012) 35 謝辞 本修士論文は、筆者が神戸大学大学院経済学研究科経済学専攻博士前期課程スキル アッププログラム在学中に松林研究室において行った研究をまとめたものです。本研 究に関して終始ご指導ご鞭撻を頂きました本学松林洋一教授に心より感謝致します。 また、本論文をご精読頂き有用なコメントを頂きました萩原泰治教授に深謝致します。 本論文の執筆にあたっては、GMM の運用及び STATA での使い方については、松林研 究室博士後期課程在学の JEEBAN さんに大変ご指導をいただきました。心より感謝し ております。 最後になりますが、論文について貴重な意見をくださった研究室の先輩の皆様に心 より感謝しております。ありがとうございました。 36 参考文献 1、大橋 勇雄 「日本の最低賃金制度について――欧米の実態と論議を踏まえて」 『日本労働研究雑誌』2009 NO.593 2、鶴 光太郎「最低賃金の労働市場・経済への影響――諸外国の研究から得られる 鳥瞰図的な視点」『RIETI Discussion Paper Series』13-J-008 3、小塩隆士『高校生のための経済学入門』 『筑摩書房ちくま新書』2002 年 141 頁 4、日本経済新聞社編 『やさしい経済学』 日本経済新聞社『日経ビジネス人文庫』、 2001 年、25 頁。 5、原田泰 『コンパクト日本経済論(コンパクト経済学ライブラリ) 』 新世社、2009 年、28 頁。 6、小池 淳司・平井 健二・佐藤 啓輔 「高速道路整備による地域の人口及び経 済変化に関する事後分析――固定効果モデルによるパネルデータ分析」『土木学会論 文集』2012 7、丁 VOL68 P388-399 遠一、山崎 好谷 「最低賃金制度と経済成長――内生的貨幣供給理論に基 づいて分析」 『福岡大学経済学論叢』b54(3/4), 257-274, 2010-03 8、安 寧々「最低工资经济效应分析与其统计测算方法思考」『暨南大学博士论文集』 2007 9、敦賀 貴之・武藤 一郎「ニューケインジアン・フィリップス曲線に関する 実証 研究の動向について」IMES Discussion Paper Series 2007-J-23 10、川口 大司 「最低賃金の引き上げは貧困対策として有効か?」『THE KEIZAI SEMINAR』2012.6 11、马克思·恩格斯 『马克思恩格斯选集』第一卷 北京人民出版社 1. Ashenfelter.R,Smith.1979. “Compliance with the Minimum Wage Law” The Journal of Political Economy,Vol.87,No.2,pp.333-350. 2.Dolado, J., F. Kramarz, S. Machin, A. Manning, D. Margolis and C. Teulings (1996) “Impact of Minimum Wages in Europe” Economic Policy, Vol. 23, October, 37 pp. 319-372. 3. Burkhauser.R.V;Kenneth A.Couch;David C.Wittenburg. 2000. “A Reassessment of the New Economics of the Minimum Wage Literature with Monthly Data from the Current Population Survey”Journal of Labor Economics,Vol.18,No.4,pp.653-680. 4. Card.D. 1992. “Using Regional Variation in Wage to Measure the Effects of the Federal Minimum Wage” Industrial and Labor Relations Review, Vol.46, No.1, pp22-37. 5.Card.D, A.B.Krueger.1994. “Minimum Wages and Employment: A Case Study of the Fast-Food Industry in New Jersey and Pennsylvania.”The Amercian Economic Review.Vol.84,No.5,pp.72-93. 6.Card. D, A. B. 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