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第2回目のスライド

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第2回目のスライド
物理学概論B
No. 2
熱力学とは
熱に関する現象をあつかう分野
日常の様々な場所で熱が関わる現象を目にしている
熱を理解することは身の周りの現象を理解するために不可欠
蒸気機関にはじまる,動力機械の原理を理解するためにも熱の理解
が必要
蒸気機関:熱によって発生させた水蒸気の力を利用してモノを動
かす
熱力学は蒸気機関の発明直後に,その改良を強い動機として発展
熱力学の歴史
1592年 ガリレオの温度計
1662年 ボイルの法則
1742年 セルシウスの温度計
1760 熱平衡,熱量,熱容量
(ブラック)
1738年 流体力学に基づく気体運
動の理解(ベルヌーイ)
1802年 シャルルの法則
絶対温度
1811年 分子論 (アヴォガドロ)
1732年 蒸気機関の発明
(ニューコメン)
1787 カロリック説
(ラボアジエ) 熱=物質?
否定
1798年 ランフォードに
よる摩擦熱の実験
1843年 ジュールの実験
熱と仕事の等価性
1847 熱力学第1法則
(ヘルムホルツ)
1772年 ワットの蒸気機関
1859年 マクスウェル分布
1877年 気体分子運動論
(ボルツマン)
1848年 熱力学的温度
(ケルヴィン)
1877年 エントロピーの微視的意味づけ
(ボルツマン)
1823 カルノーサイクル
1850年 クラウジウスの原理
(熱力学第二法則)
1851年トムソンの原理
(熱力学第二法則)
1865年 エンロピー(クラウジウス)
統計力学へ
微視的と巨視的
系: 観察の対象として注目する部分
(例 実験装置の中,エンジンの中の気体,…)
系の見方として次の2つの見方がある
微視的(microscopic)
系を構成する粒子(原子や分子)に注目し,それらに作用する力や,
この粒子達の運動を調べることで,系の性質を明らかにする
巨視的(macroscopic)
系がどんな粒子から構成されているかは気にしない。圧力・体積・
温度といった,系全体の特徴を表す量(状態量という)に注目しつ
つ,系の性質を調べる。 熱力学はこちらのアプローチをとる
巨視的と微視的
ひとかたまりの鉄があったとする
微視的な見方
鉄の原子というのは,どんな粒であるか?
鉄の原子がどんなふうに並んで結晶を作っているか?
鉄原子から何個の電子がとびだして,どのように動きまわっているか?
…
巨視的な見方
この塊の大きさ(体積)はどれくらいか?
塊自体がどれくらい熱いもしくは冷いか?
この塊を温めたらどれくらい膨張するか?
…
アヴォガドロ数
我々の周りの物質は全て,分子や原子といった粒の集合体である
12gの炭素(C12)にはアヴォガドロ定数と等しい数の原子が含まれる
NAと等しい数の構成粒子(原子,分子,イオン…)からなる物質
の量を1molとする
この授業では,物質の量を表すのに, 物質量(mol数)を用いることにする
ところで…
6 1023個の粒の運動を調べるためには,それぞれの粒の座標と速
度が分からなければならない。
1個の粒に対して:(x,y,z)(vx,vy,vz) ←6個の量の変化を調べる
36 1023個のパラメータを調べる必要がある!!(ほとんど不可能)
熱力学とは
対象(系)を巨視的に観察し,巨視的な情報を用いて状態を記述する。また,
状態の変化を調べることで,そこに出入りする熱の性質を明らかにしていく
微視的な性質(粒子の種類,粒子の相互作用の種類等)によらない議論ができ
るので,非常に普遍的な法則を得ることができる。
熱力学の法則は,系の詳細によらない。相手が気体でも液体でも固体でも,
またどんな物質であっても,原理的には同じ議論が可能。
この授業では,具体的な事例をあつかうときは気体をあつかうことが多い。
状態変化が起こしやすい
色々な解析が簡単
気体の種類によらないあつかいが近似的に可能
熱と温度
熱と温度
熱と温度は別物である!
この2つを混同する人が多いので注意が必要
日常生活では2つを区別せずに使っていることが多い
例「風邪をひいて熱が高い」
物理の専門用語としては,全く別のものなので,きちんと区別すること
温度とは系(物体)の寒暖の度合いを数値化したもの。系の状態を特徴
づける巨視的な量(状態量)のひとつ
熱は,物体に出入りして,物体の状態に変化をもたらすもの。正体は
エネルギーの流れ。
単位も違う。温度の単位はK(ケルビン),熱の単位はJ(ジュール)
温度
寒暖の度合いを表す物理量
どうやってこれを数値化するか?
(改めて考えてみると,結構難しい問題)
多くの物体が持つ性質に注目する
多くの物体は,温めると膨張し,冷やすと収縮する
物体の体積を用いて寒暖の度合いを数値化できる!
例: ある状態のときに1m3の物体を温めたら,体積が1.5m3になった
→温度が1.5倍になった
しかし,物体ごとに体積の膨張の仕方は異なるので,これでは他の物
体と温度の比較をすることが難しい…
もう少し真面目に温度について考える必要がある
熱平衡状態
熱平衡状態(単に平衡状態とよぶことも)とは?
系を一定の環境のもとに長時間放置したときに系が最終的に到達する状態
一見,系に変化が起きていないように見える状態のこと。
(系を拡大して,ミクロな状態を見ると,分子や原子は激しく動きまわっ
ている)
例: なべに水を入れて火にかける
→水はなべの中で対流をおこし,水面からは水が蒸発している。
これは非平衡状態とよばれる状態
魔法ビンにお湯を注いで,ある程度置いておく
→お湯はある一定不変の状態になり,外から攪乱しなければ状態が変化し
ない
これが熱平衡状態
最後に実現する状態は,最初のお湯の注ぎ方によらない
熱平衡状態
それぞれが熱平衡状態にある2つの物体A,Bを接触させる
A
B
一方の物体は温められ,一方は冷やされる
しばらくすると,2つの物体の間に寒暖の度合いの差がなくなって,
AとBをあわせた全体が平衡状態になる
このとき,AとBはは互いに熱平衡であるという。
互いに熱平衡にある系の間には,共通な性質が存在する
「温度」と定義する
つまり,互いに熱平衡にある物体の温度は互いに等しい
平衡状態でない系に対しては,温度が定義できない!
熱力学第0法則
普遍的な「温度」を定義するための土台となる法則
経験則を法則化したもの
系Aと系B,系Bと系Cがそれぞれ熱平衡状態であるとき,系Aと系Cは
互いに熱平衡状態にある。
A
B
C
A,B,Cの温度が全て等しいことが保証される
(AとCを直接接触させる必要はない)
BはAとCが同じ温度であることを示す役割を果たしている。
つまり,Bが温度計として機能している
「温度計」を一つ用意しておけば,この温度計の体積を
用いて色々な系の温度を共通の指標で表すことができる
経験温度
温度を温度計の体積で表したもの
摂氏温度(セルシウス温度)
(1)ガラス管に水銀を入れたもの(温度計)を用意する。
(2)1気圧のもとで,水と氷が熱平衡になっている系を用意し,これに温度計
を接触させて熱平衡にする。このときの水銀柱の上端に0℃の目盛を打つ
(3)1気圧のもとで,沸騰している水と温度計を熱平衡にし,このときの水銀
柱の上端の位置に100℃の目盛を打つ
(4)0℃と100℃を100等分した1目盛分を1℃として,ガラス管に目盛を打つ
100℃
0℃
水と氷
沸騰した水
100等分する
経験温度の問題点
同じことを水銀ではなく,アルコールを用いてやるとどうなるか?
水銀温度計を使って測った場合でも,アルコール温度計を使って測った場
合でも,0℃と100℃の2つの温度については同じ温度と思ってよい
水銀温度計で60℃を示す物体Aと,アルコール温度計で60℃を示す物体B
は互いに熱平衡(同じ温度)になっているといえるか?
No
経験温度で温度を決めると,使用する物質を細かく指定した「標準温度
計」を用意して,温度目盛を作成する必要がある
実際は,利用する物質の種類に無関係な温度スケール(熱力学的絶対温度)
を考えることができる(6ー7回目くらいの授業でやる予定)ので,「標準温
度計」のようなものを用意する必要はない。
(経験的)絶対温度
ひとまずは,摂氏温度より少しだけ普遍的な,気体温度計を考える。
気体は,一定気圧のもとでは,種類によらずに概ね次のような性質を
示すことが知られている (シャルルの法則/ゲイリュサックの法則)
✓
◆
✓
V (✓[ C]) ' V (0 C) 1 +
273.15
θ℃のときの体積
このとき,深刻な問題が生じる
0℃のときの体積
-273.15℃で気体の体積が0になる!
(これ以上低い温度に対する目盛がない)
温度には下限がある
-273.15℃を0として目盛をとりなおした温度を絶対温度という
T [K] = ✓[ C] + 273.15 単位はK(ケルビン)を使う
熱力学では,基本的に摂氏温度ではなく絶対温度を用いるので注意!
実は,こうやって決めた経験的絶対温度と熱力学的絶対温度は一致する
熱について
それぞれが熱平衡状態にある2つの物体A,Bを接触させるとき,温度が
高い方から温度が低い方へと「熱」が移動する。
厳密にいうと,AとBの間や,それらの外の世界との間に仕事のやりとりが
あった場合には,こうなるとは限らない
TH
TL
TH
TH>TLとする
TL
必ず高温から低温に熱が移動
T
同じ温度になる
熱
T
熱容量と比熱
熱: 物体(系)に対して出入りして,物体(系)の温度を変化させるはたらきを
するもの。実はエネルギーの移動形態の一つ(後述)。単位はJ(ジュール)を
用いる。
以前は,calという単位も用いられていた。1calは,15℃の水1gの温度を1℃上昇させる
のに必要な熱。現在ではcalの使用は推奨されない。
温度を上げるとき(T0→T1)も,下げるとき(T1→T0)も同じ量の熱が出入りする
熱容量: 物体(系)の温度を1K変化させる際に出入りする熱量。単位はJ/K。
熱容量は,対象の物体(系)の性質を表す物理量ではあるが,その物体(系)の材質の
性質を表す物理量ではない。
(系のサイズを大きくすると,熱容量も大きくなる)
熱容量と比熱
比熱: 1gの物体の温度を1K変化させる際に出入りする熱量。
単位はJ/(g・K)
比熱は,物体(系)の材質固有の性質をあらわす。
例えば銅の比熱は,銅の量に関係なく0.379 J/(g・K)。水の比熱は約4.2J/(g・K)。
厳密にいうと,熱容量や比熱は,物体に対して熱をどのように加えるかに
よって値が変わる。単に「熱容量」や「比熱」と言った場合は,体積を一
定にして熱を加えた場合の熱容量(定積熱容量)や比熱(定積比熱)を指す。
1molあたりの比熱をモル比熱(定積モル比熱)という。単位はJ/(mol・K)
固体元素の定積モル比熱は元素によらずほぼ一定で,CV 24.9 J/(mol・K)
である(デューロン=プティの法則)。
熱の測り方
簡単な熱量計の基本的なアイデア
1. 性質(比熱)のよく分かっている物質を用意する(例えば水)
2. この物質を大量に集めたものの中で,何か反応を起こさせる
3. 反応が起きる前と,反応が終わってじゅうぶん時間が経ったあと
の温度をそれぞれ測る。
4. 温度変化,比熱,質量が分かれば,どれだけの熱が発生したかが
分かる
熱
何らかの
反応
反応をとりかこんでいる物体の温度が変化する
反応の際に発生した熱が分かる
熱をやりとりさせる具体的な方法によらずに,温度変化に必要な熱は一意
に決まるという前提に基づいいている
例題
熱容量と比熱
質量m[g]の物体Aがある。この物体は分子量Mの物質でできている。
物体Aの熱容量をCA,物体Aの材質である物質の比熱をcm,モル比熱をcと
する。cmおよび,cをCA,m, Mで表せ。
また,物体Aの温度をΔT [K]だけ変化させるに必要な熱Qを求めよ。
解答
熱容量がCA, 質量がm[g]だから,cm=CA/mである。分子量がMであると
は,1molの質量がM[g]という意味であるから,Aに含まれるこの物質の
物質量n[mol]は,
n=m/M.
ゆえに,
c=CA/n=CAM/m.
温度をΔT [K]だけ変化させるに必要な熱Qは,
Q=CA ΔT.
温度差のある物体の接触
熱容量CA,温度TAの系Aと,熱容量CB,温度TBの系Bがある。AとBを接触させ
て(混ぜあわせて)しばらく放置しておくと,AとB全体の温度がT ʼ’になった。T ʼ’
はいくらか?
TA
TB
熱はAからBに流れる。
TA>TBとする。
Aについて: TA→T (温度が下がる)
Aが熱として失ったエネルギーは QA=CA(TA-T )
Bについて: TB→T (温度が上がる)
Bが熱として得たエネルギーは QB=CB(T -TB)
Aが失った熱がそのままBに流れこんだとすると QA=QB
T について解くと
C A TA + C B T B
T =
CA + CB
0
TB>TAでも答は同じ形になる
熱について
熱の本質について「カロリック」という考え方がかつて存在した。
熱というのは,ある種の原子のようなものであり,物質の中に蓄えら
れている
この考え方は,ランフォードやジュールによって完全に否定された考
え方だが,様々な場面で,これに似た考え方をすることがある。
例えば「温度が高い物体」=「熱をたくさん持っている」と考えたく
なるが,これはカロリック説の亡霊のようなものである。
熱は物体の状態を特徴づける量(物体に蓄えられている量)ではない!!
前頁であつかった,2物体の接触の際の熱のやりとりの解き方も,
「Aから出ていった熱をBがそのまま受けとった」
と考えるあたりに,カロリック説の名残があるかもしれない。
物理学の発展の歴史を紐解くと,このカロリックのように,「かつては実
在と考えられたが,後に否定された考え方」というのがいくつも存在する
ということが分かる。
例: フロギストロン(燃素), エーテル,磁荷,…
ケルビン
本名はウィリアム・トムソン。アイルランド生まれ
10歳で大学に入学して,22歳でグラスゴー大学教授。
ケルビンというのは爵位(男爵)の称号。ケルビン男爵
ちなみに,このケルビンはグラスゴー大学構内を流れ
る小川の名前からとられた。
「19世紀の物理学に残った2つの暗雲(エーテル問題と,
エネルギー等分配)」の講演でも有名。
主な業績
ジュール・トムソン効果
圧力の低いところに気体を噴出すると温度が下がり,圧力の高
いところに気体を噴出すると温度が上がる現象
熱力学的絶対温度の導入 (だから単位がK)
熱力学第2法則の定式化
等々
分子発見への道程
分子の発見
A. ラボアジエ J. プルースト
1743-1794
1754-1826
wikipediaより wikipediaより
1661年: ボイルによる元素の定義
「元素」=「実験によって,それ以上単純なものに分けられないもの」
1774年: ラボアジエによる質量保存の法則の発見
「物質が化合・分解しても物質全体の質量和は変わらない」
1799年:プルーストによる定比例の法則の発見
「化学反応の際,関係する物質の質量比は常に一定である」
化学反応=基本粒子の組み換え?
1803年: ドルトンによる倍数比例の法則の発見
「A,B2つの元素からなる2種類以上の化合物X,Yがあるとき(例えば一酸
化炭素と二酸化炭素),Aの一定量に対してX,Yに含まれるBの量は簡単
な整数比になる。」
分子の発見
J. ドルトン
1766-1844
wikipediaより
ドルトンの原子説
「単体も化合物も全ては原子からできている。それぞれの元素の原子は固
有の大きさ・質量・形をもっていて,それ以上分割できない。化合物は原
子がいくつか結合したものであり,物質の変化は原子の組替えによる。」
ドルトンの原子説は倍比例の法則を実にうまく説明した
しかし,新たな困難に直面することになる
分子の発見
J. ゲイ=リュサック
1778-1850
wikipediaより
1805年: ゲイ=リュサックによる気体反応の法則
「気体同士の反応では反応の関係する気体の体積について,同温・同圧の
もとでは簡単な整数比が成り立つ」
例:水素+酸素→水蒸気
原子が割れてしまう!
+
原子説の破綻
水素
酸素
水蒸気
ボイルの法則から,同温・同圧・同体積中の気体の粒子の数は
同一を考えられる。
アヴォガドロ仮説(分子説)へ
分子の発見
1811年: アヴォガドロによる分子説
「同温,同圧,同体積の気体はその種類に関係なく,同数の分子を含む」
例:水素+酸素→水蒸気
+
水素
酸素
水蒸気
これによって,気体反応の法則もうまく説明できた
それでもなお,分子の存在は仮説でしかなかった
分子の発見
L.ボルツマン
1844-1906
wikipediaより
18年代後半: ボルツマンらによって,気体分子運動論が発展
気体分子の力学的ふるまいから,気体の状態変化を説明する試み
しかし,実は熱力学の完成度があまりにも高いために分子の存在
はなかなか受けいれられなかった。
知覚も実証もされない分子や原子は科学的ではないという考え
(単なる作業仮説にすぎない)
対立
分子や原子は実在である
1897年: J. J. トムソンによる電子の発見
分子・原子が実在する蓋然性が増していく
分子の発見
J. ペラン A. アインシュタイン
1870-1942
1879-1955
wikipediaより wikipediaより
ブラウン運動
液体中の微粒子が不規則に運動する現象。植物学者ブラウンが
1827年頃に発見。
原因は長らく不明だった
1905年:アインシュタインが「ブラウン運動は液体の分子の不規則な
衝突が原因である」という仮説を発表。
1908年:J. ペランがブラウン運動に関する精密な実験を行い,アイ
ンシュタインが解析の結果導いた予言が正しいことを確認した。
分子の存在が確立
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