かわら版 - 中東調査会

かわら版
―北アフリカ地域ニュース―
エジプト：ムバーラク大統領の辞任と国内外の反応
2011 年 2 月 14 日
No.25
研究員 江崎 智絵
タハリール広場での民衆蜂起の開始から 18 日目、ムバーラク大統領が辞任した。タン
ターウィー国防相が議長を務める軍の最高評議会に国内外の諸問題に関する全権限が委譲
された。
1. ムバーラク大統領の辞任と政府の動き
2011 年 2 月 10 日、ムバーラク大統領は、国民に向けた演説を行い、平和裡な権限移行の
実施を約束すると共に、人々の要求に真摯に応える用意があることを確認する一方、外国勢
力の指図は受けないことを明らかにした。しかし、同大統領の辞任を求めていたタハリール
広場の反体制派は、演説内容に不満を表明した。
2 月 11 日、スレイマーン副大統領は、声明を出し、ムバーラク大統領が辞任することを発
表し、タンターウィー国防相が議長を務める軍の最高評議会に国家の諸問題に関する全権限
が委譲されたとした。民衆蜂起の発生から 18 日目のことであり、これをもってエジプトで
の民衆蜂起が「人々の革命」
（2 月 12 日付アッシャルクルアウサト紙）と評されるようにな
った。ムバーラク元大統領は、シャルムエルシェイクに向かった模様。
2 月 13 日、軍の最高評議会は、憲法を停止し、議会を解散すると共に、新憲法制定のため
の委員会を結成するとの声明を出した。同日、シャフィーク首相は、記者会見を行い、政府
が取組むべき優先課題が全土での治安の回復、汚職の一掃、人々の権利回復にあると述べた。
また、同首相は、軍がスレイマーン副大統領の任務についても決定することを明らかにした。
さらに、同首相は、ムバーラク元大統領がシャルムッシェイクに滞在していることを確認し
た。しかし、一部のメデイアが報じたように、ムバーラク元大統領が自宅監禁下にあるか否
かは不明。
軍の最高評議会は、ムバーラク大統領の辞任直後から声明を出し、人民主権や民主国家の
実現に向け対処していくとの立場を示すとともに、自由な選挙が実施されるまでの期間もし
くは今後 6 カ月間、同評議会が全権限を有することを確認してきた。しかし、反体制派が求
めている政権移行のための明確なタイムテーブルは提示されていない。また、軍は、イスラ
エルとのキャンプ・デービッド合意を含む諸条約・協定を尊重することを確認した。軍関係
者によれば、本 2 月 14 日に発出予定の新たな声明では、国民に日常生活への復帰を促すと
共に、職能組合による会合が禁止される見通し。
2. ムバーラク大統領の辞任に対する国内外の反応
（1）エジプト国内
2 月 11 日、タンターウィー国防相は、大統領府を車内から視察し、ムバーラク大統領の辞
任を受けて集まった市民の状況を確認した。
イスラエルのイディオト・アハロノト紙やエルサレム・ポスト紙は、2 月 13 日付エジプト
のアフバール紙を引用し、ムバーラク元大統領の 2 人の息子の長男アラーが大統領の辞任に
ついて次男ガマールを非難したと報じた（注．同元大統領の子供は上記 2 名のみ）
。アラー
は、ガマールが自身のビジネス上の取り巻きを政治的な要職に就けたことが大統領に汚職の
イメージを付与し、国民の反感を招き、今回の事態に繋がったとした。また、アラーは、ム
バーラク大統領が辞任前に行った 10 日の演説において、民生に関する権限をスレイマーン
副大統領に、治安権限を軍に委譲するとの当初予定されていた原稿が破棄されたことに対し
ても激怒した。
（2）米国の反応
オバマ大統領は、ホワイトハウスで演説し、ムバーラク大統領が辞任によって変化を求め
る国民の要求に応えたとし、今後は、軍が戒厳令の解除、憲法の改正等国民の目にも明らか
な政権移行を実施するであろうと述べた。また、同大統領は、米国がエジプトのパートナー
であり続けるとも明言した。
3. ムバーラク元大統領及び同親族の財産をめぐる動き
2 月 11 日、スイス当局は、ムバーラク大統領の辞任発表を受け、同国銀行に預けられてい
る同人の資産を全面的に凍結することを発表した。また、英国の金融当局は、エジプト政府
の公式な要請があれば、英国におけるムバーラク元大統領の全財産を押収する用意があるこ
とを明らかにした。
2 月 12 日付英国テレグラフ紙は、ムバーラク元大統領が民衆蜂起の開始から辞任を表明す
るまでの 18 日間に、スイスの銀行等に預けていた自身及び親族の財産を追跡不可能な口座
へと移動させた可能性があると報じた。ムバーラク元大統領は、チュニジアのベン・アリ元
大統領の資産が凍結された件に教訓を得ていたようで、それらの財産は、同元大統領がすで
に投資を行っていた湾岸諸国に移される模様。
先週（2 月 6 日からの週）には、元副外相の Ibrahim Yousri を始めとする 20 名の弁護士
がエジプトの検事総長に対し、ムバーラム大統領及び親族が国有財産を盗んだとして、同人
らに対する裁判を申請していた。
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