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香港遠赤外線協会用教科書

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香港遠赤外線協会用教科書
香港遠赤外線協会用教科書
工学博士
高嶋廣夫
Hiroo TAKASHIMA Ph.D.Eng.
1.はじめに
2.遠赤外線の技術史
3.遠赤外線の概要
4.遠赤外線の工学
5.遠赤外線の科学
6.遠赤外線の利用
7.あとがき
1.はじめに
アフリカの中央東部で誕生した人間は直
2.遠赤外線の技術史
2.1遠赤外線活用の始まり
立姿勢を生活の中に取に入れ火を操ること
1973 年に起きたエネルギ-ショックは
を会得した。それ以後、人間は熱エネルギ
世界を震撼させた。それを契機として省エ
-を上手に活用してきたが、それが知能の
ネルギ-がグロ-バルに叫ばれるようにな
発達に貢献し、やがて万物の霊長の地位を
った。そこで注目されたのが遠赤外線の利
得たのである。17世紀、英国で始まった
用技術である。著者も日本の国策としての
産業革命は科学技術の急速な発展を遂げ、
ム-ンライト計画に参画し、遠赤外線技術
それ以来、熱エネルギ-の使用は加速度的
の高揚に努めた。一応の成果を挙げること
に増加した。その熱エネルギ-源の大半は
ができて遠赤外線技術は省エネルギ-を果
石炭、石油、天然ガスなどの化石エネルギ
たす技法として脚光を浴びたのである。
-であって燃焼によって放出される炭酸ガ
このようにエネルギ-ショックは世界の
スや有害廃棄ガスは大気汚染を招き産業の
情勢を大きく揺さ振る出来事であったが、
発展につれて増加の一途を辿っている。昨
日本ではエネルギ-の節約を産業界に課し
今では地球生命の危惧であるとさえ囁かれ
て回避した。その対策は極めてスム-ズに
る事態となった。石油などの地下資源は、
運んだので、うまくクリア-できた。その
いずれ尽きる。それが故に代替エネルギ-
ようなことで暫くすると遠赤外線は省エネ
源の開発が進んでいるが、まだまだ先のこ
ルギ-の役目から漸次、疎遠になってしま
とになるだろう。その間のエネルギ-安全
った感がある。まさに「喉もと過ぎれば熱
保証として省エネルギ-は極めて大切であ
さを忘れる」に通ずるものがあった。
る。それと共に21世紀は地球環境保全と
そんな遠赤外線技術はブ-ムの初期は省
人間性が尊重される世紀であるから遠赤外
エネルギ-への活用として脚光を浴びたの
線の有効利用は人類の生活に大きく貢献す
であったが世間の関心が薄らいでいく中で
るものと堅く信ずるものである。
息を繋いでいったのが生活、バイオ分野へ
の活用であった。それを日本では遠赤外線
なる。それは人間性の尊重、地球環境の保
第2ブ-ムと呼んだものである。
持等21世紀の幕開けに相応しい産業ジャ
ンルに発展する可能性は大きい。そんな情
2.2.遠赤外線放射体はセラミックスで
勢でも、やはりセラミックスは、いろいろ
日本で遠赤外線ブ-ムが始まって30年の
な特性を持つ放射体ができて特性と効果と
時の流れは時代の変遷と共に基幹産業に関
の間の関連性を考えることが容易であるた
わる素材分野においても、大きく様変わり
め遠赤外線放射体と言えばセラミックスと、
した。古代から今に続いて存在する木材、
その有用性は確立している。
岩石、鉄鋼等に加えて、いち早くプラスチ
ック時代が始まり、続いてセラミック時代、
2.3.関連する分野の勃興:小さなエネ
電子時代へと移り変わっていった。その技
ルギ-活用分野
術手法も動力として扱うマクロな技術から
そんな背景の中で遠赤外線効果にオーバ
ミクロな技術、今ではナノ技術へと日進月
ーラップするように生まれてきたのがマイ
歩の、めまぐるしい進展を見せ、更にピコ
ナスイオン効果、光触媒効果等の新技術分
技術に突入するのも間近であると思われて
野がある。今では遠赤外線分野、波動効果
いる。
分野、マイナスイオン効果分野、光触媒効
遠赤外線分野では当初、セラミックエイ
果分野と、それぞれ個々の産業分野として
ジに便乗するが如く、セラミックスが有用
位置付けられている。確かに分野を分けて
な熱伝播媒体として登場した。それは多種
おくことはユ-ザ-にとっては、理解し易
多様な遠赤外線特性が得られ耐蝕、耐熱、
いに違いない。けれども目的も効能も、お
耐熱衝撃等、種々な機能への適用が容易な
互いに重複していることが多いのであるか
ことから遠赤外線放射素材の範疇を占有し
ら、それらを連携した範疇に納めておくこ
た。けれども、その後人体や動植物の生理・
とは昨今の産業分野として得策なことだろ
生体への適用と活用分野が膨らむにつれて
う。それらを纏めて「小さなエネルギ-の
素材も多様化し、使用温度も生体活動に寄
活用」というジャンルに包含することもで
与している常温程度へと移っていった。そ
きる。このような小さなエネルギ-の有効
のような背景から低温活用遠赤外線、ある
利用は人間生活にとって不可欠のことであ
いは非加熱遠赤外線と称する分野が生まれ
る。四季の気候による温度変化、衣服の保
たのである。つまり遠赤外線放射素材によ
温効果等は人間が意識して熱を加えること
るエネルギ-伝播の活用は省エネルギ-の
はない。でも常温であっても300゚Kの温度を
ような大きなエネルギ-を扱う分野から動
持っていて異なる物質間では保有エネルギ
植物における生体の活性化に関与するよう
-の違いは、あるのだから、その授受関係
な小さなエネルギ-への適用へと観点が移
の解析と有用性への振る舞を整理しておく
っていった。小さなエネルギ-は、まさに
ことは非常に大切なことだろう。また人間
生体の振る舞いに関与するエネルギ-であ
生活の向上と健康管理、安全に寄与する暖
って新境地の開拓へと歩みを進めたことに
房、風呂、調理などは、ある程度の加熱操
作を必要とするが、過多の加熱によって焦
それを全面的に否定できない面もある。物
げを作る、燃焼する、というような細胞組
が出来て消費者の手に渡るまでの過程を泉
織を炭化や酸化物にしない程度の温度であ
から発した水が川から海に流れ込むことに
るから動力源となる「大きなエネルギ-」
例えてみる。消費者は海である。海は価値
とは別に、それらも「小さなエネルギ-」
高い物を願望する感性がある。でも川から
の範疇に入れておくことがよいだろう。さ
流れてきたものの真の価値を確かめる技量
らにマイナスイオン効果、光触媒効果等も、
は乏しいと思わなければならない。したが
電荷の移動、つまり環境においては有機物
って泉から川を構成するメ-カ-は海の感
の分解、生体においては酸化、還元作用で
性を、よく理解して、それに答えることが
あって、それらも正に物質を構成する原子
道義だろう。それは価値高いものを創造し、
間や分子間の電荷や結合状態を変化させる
きれいな水として海に流す。それを義務と
微弱なエネルギ-の移動であるから、それ
思わなければならない。
らも小さなエネルギ-の振る舞いの中に纏
めておくことができる。そのような訳で2
3.遠赤外線の概要
1世紀の未来産業思考の一翼を担うものの
3.1.
一つに「小さなエネルギ-」の活用分野が
あると思う。
熱とは
万物はエネルギ-の塊である。宇宙の誕
生さえ極度に凝縮されたエネルギ-の塊が
ビッグバンによって散らばった結果である
2.4.遠赤外線と、そのシェアの確立
とされる。
その小さなエネルギ-の活用を扱う市場
そのように考えると太陽も地球も総てエ
もユ-ザ-があってこそ成り立つと言うこ
ネルギ-の塊と言えるが、宇宙の空間、つ
とは摂理であって、ユ-ザ-の願望に答え
まり真空は何であろうか。それは、正のエ
る価値ある物を世に出すことが新たな産業
ネルギ-と負のエネルギ-が打ち消し合っ
を起こす筋道であり、義務でもある。でも
た「無」であると言うのが常識だろう。で
現代世相において、それが、うまく機能し
も宇宙の成因を考える学問からは、その真
ているか疑わしいことも否めない。そこを
空も真空のエネルギ-と言う物質であると
考えてみたい。それには価値判断が正当で
する説が先端物理学の話題となっている。
なければならないが、メカニズムの解析に
それによれば真空中で光が伝わるのも、電
難しさもあって業界では消費者の理解が得
波が伝わるのも真空のエネルギ-を介して
られるような説明に四苦八苦な面もある。
行われると言う。
でも、そこを成さねばならない。それには
熱は人間が古代から生活に用いているが、
誠意ある物作りを志し、自信をもって啓蒙
その全容を究めるのは甚だ難しい。「熱と
する努力を疎んじてはならない。
は、温度とは何だろうか?」と、はた、と
昨今では、種々のベンチャー企業が現れ
壁に突き当たってしまう。
る。その中には商品としての品質に疑いの
人間において視覚が感じるエネルギ-区
持たれる物も横行していると言われるが、
分を色と言う。その色は紫、緑、黄、橙、
赤のように表現する。同じ電磁波である赤
熱は等価関係であることで分かる。物質が
外線も近赤外線、中間赤外線、遠赤外線、
異なれば、その組織・構造、つまり原子や
超遠赤外線のような区分があるが、その表
分子の配列が違うので運動エネルギ-の形
現には曖昧なところがある。そのような区
態も1つとして同じ物は、あり得ない。物
分が何を意味するのか、その挙動を筋立て
理学では、そこを物質の比熱あるいは熱容
て考えることが赤外線利用において大切で
量の違いとして説明している。
ある。
視覚におけるモノクロの「明るい、暗い」
物質の違いは熱の保有形態も異なると言
う原理から、それぞれの物質のエネルギ-
に対比する熱での表現は温度が高いとか低
素性を見極めてみる。物質間に出入りする
いとか言う。でも、それはモノクロ表現で
エネルギ-量が熱であり、温度は、その物
あって視覚でのカラ-と同じように温度も、
質の保有するエネルギ-が移動しない平衡
どの波長帯のエネルギ-であるか、あたか
状態時の量の目安であるから、二つの異な
も視覚のようにカラ-で考えなければなら
る物質で同じ温度が測定されたとしても、
ない。何度℃と言っても、どのようなカラ
おのおのが保有するエネルギ-量は異なり、
-の温度であるか、そこを考えることが極
エネルギ-保有量を同じにすれば温度が違
めて大切である。
うことになる。つまり異なった物質には、
それぞれの固有の比熱があることで、それ
が分かる。このように物質を構成する原子
間、分子間の運動が熱であるから異なる物
質間の熱移動の様子を温度の高低だけで観
察することはできず物質の組成及び組織・
構造に依存するエネルギ-プロファイルと
言う因子に加えて考えれば真のエネルギ-
移動の振る舞いが解明されるのである。
3.3.熱の伝播
原子間を運動させる力を伝達するエネル
図3-1 熱とは何だろうか
ギ-が熱である。このように考えると熱を
扱うのは物理学の範疇とされていて化学の
3.2. 物質と熱
熱は高温度であれ、低温度であれ、原子
間あるいは分子間の運動に関わるエネルギ
範疇である物質の組織構造と、その変化と
の間に深い関係があることは案外、等閑に
されてきた感がある。
-であるから絶対零度でない限り運動があ
赤外線は0.76μmから1000μmの間の電磁
り、熱が生じていることになる。温度が高
波と物理学では定義しているが、理化学事
くなることは漸次、運動が活発になったこ
典(日本:岩波書店)によれば、その波長
とであるから物質を構成する原子間運動と
が0.76μmから2.5μmまでを近赤外線、それ
のためにセラミック材質は極めて優れてい
る。また、セラミックスは、いろいろな放
射特性のものを作ることができるので遠赤
外線放射材料と言えば、セラミックスで作
ったものと言うのが常識だろう。
赤外線放射体は、いろいろな特性のもの
があるが大別して、黒体に近い特性を持つ
放射体を著者は高効率赤外線放射体と呼ん
だ。それに対して短波長の放射率は低いが
図3-2 熱の伝播
波長3μm付近から高くなり5μmから以
遠では1に近い放射率となるものを遠赤外
より25μmまでを中間赤外線、それ以遠を遠
線放射体と呼ぶことにした。また、アルミ
赤外線としている。その由来をエネルギ-
ニウムやステンレス等の金属は黒体の放射
を持った物質から放射されるエネルギ-の
特性に対比して短波長から長波長に至るま
形態として、それぞれ電子スペクトル、振
で放射率が低いので、それを低効率赤外線
動スペクトル、回転スペクトルと説明して
放射体と呼ぶことにした。
いる。つまり物質を構成する原子間の遷移
4.1.1.セラミック赤外線放射体
によるエネルギ-が電子スペクトルであっ
当初、日本では遠赤外線放射体材質とし
て、それが近赤外線と呼ばれる領域である。
てジルコニア(ZrO2)、チタニア(TiO2)、アル
原子間の振動運動が中間赤外線、回転運動
ミナ(Al2O3)等のセラミックスが用いられた。
が遠赤外線と呼ばれている。でも、はっき
それらの赤外線放射スペクトルを測定して
りとした境界があるわけではない。紫から
みると近赤外線域は放射率が低いが波長4
赤まである可視光線でも、例えば緑と黄、
μm付近より遠赤外線側にかけて放射率が
黄と橙などの境は、はっきりしていないの
高くなる特性をもつものであった。つまり、
と同じである。熱の移動は周知のように伝
波長の長い遠赤外線域に選択放射する特性
導、対流、放射の3つの形態があるが、そ
である。このようなセラミックスは遠赤外
れらは総て原子間や分子間に運動エネルギ
線放射体として、よいものであると思うが
-を伝達させる作用であって熱を授受する、
耐熱衝撃性を備えた物が、より適している
それぞれの物質間の組織構造に深い関係が
と考える。それにはコ-ジライトやβスポ
ある。そこを遠赤外線技術では重視したい。
ジュ-メン、それにチタン酸アルミニウム
を主体としたセラミックスは遠赤外線放射
4.遠赤外線の工学
体的特性をもっている。ここでは廉価性と
4.1.セラミック遠赤外線放射体の作り
製造の容易さからコ-ジライト質とβスポ
方
ジュ-メン質の放射体としての材質製造法
赤外線放射体は加熱して用いることが多
いので耐火性に強いことが大切である。そ
を述べておく。
(1) コ-ジライト質素材
コ-ジライト(2MgO・2Al2O3・5SiO2)はセ
アルミナ22%を調合して1400℃程度
ラミックスのなかで古くから低熱膨張性で
で焼成すればよい。また完全なコ-ジライ
あるため耐熱衝撃性が強いセラミックスと
トの合成とは、ならないがアルミナを用い
して使われている材質である。
ずに長石を加えると残留珪石や、それが転
セラミックスは金属と比較して著しく熱
移した耐熱衝撃性で有害となるクリストバ
伝導性が悪いため急激な温度変化があると
ライトやトリジマイトの発生を防ぐことが
表面と内部で大きな容量変化が起き、その
できて実用的である。その素材の線熱膨張
応力によって破壊する。セラミックス材質
係数は、ほぼ2.5x10-6/℃で遠赤外線放射用
において熱伝導性、機械的強度の向上は困
材質として充分活用できる耐熱衝撃性をも
難なことが多い弱点があるため熱衝撃の強
っている。
いセラミック赤外線放射体を作ろうとすれ
(2)βスポジュ-メン質素材
ば、とくに熱膨張の小さな材質を選ばなけ
コ-ジライトセラミックスは線熱膨張係
ればならない。そのための材質としてコ-
数を2.0x10-6/℃以下にすることはできな
ジライトは容易な製造性と廉価性で重宝な
いが、リチウムを導入したセラミックスは
材質である。
線熱膨張係数を零近くまで下げることがで
コ-ジライトを製造するにはタルク(3M
きる。その作り方は、天然原料としてのペ
gO・4SiO2・H2O)30%、粘土(Al2O3・2SiO2・
タライトに成形可能な粘土を20%~30%配
H2O)70%を配合して1300℃程度で焼
合して1200℃~1250℃で焼成すれ
成すればできる。それを化学式で表せば2(3
ばよい。この時の線熱膨張係数は約1.0x10-6
MgO・4SiO2・H2O)+6(Al2O3・2SiO2・2H2O)=3(2
/℃程度である。
MgO・2Al2O3・5SiO2)+5SiO2+14H2Oとなる。
(3)遷移元素複合酸化物を加えて高効率
この場合、コ-ジライト組成は2MgO・2Al2
赤外線放射体にする
O3・5SiO2であるからSiO2が余分となる。その
コ-ジライト質素材もβスポジュ-メン
遊離した珪酸は、時によってクリストバラ
質素材も不純物の少ない原料を用いれば白
イトやトリジマイトに転移することがあっ
色のセラミックとなる。それらは概ね赤外
て、それらは熱膨張が大きく、せっかく低
線短波長域は放射率の低い遠赤外線的放射
熱膨張のコ-ジライトの特徴を阻害するこ
特性を有するので長波長域に有効性を求め
とになる。したがってアルミナ(Al2O3)を
る被加熱体へのエネルギ-供給体としては
添加して4(3MgO・4SiO2・H2O)+7(Al2O3・2SiO
優れた材質となる。
2・2H2O)+5Al2O3=6(2MgO・2Al2O3・5SiO2)+18
それに対して、より放射能率を高くする
H2 Oのような熱反応をさせれば遊離珪酸は
には短波長域の放射率を高くする必要があ
生じない。またマグネサイト(MgCO3)を
る。そのためには遷移元素の複合酸化物を
添加した3MgO・4SiO2・H2O)+8(Al2O3・2SiO
加えることが最も経済的である。その複合
2・2H2O)+5MgCO3=4(2MgO・2Al2O3・5SiO2)+1
遷移元素酸化物の1例を示す。2酸化マン
7H2O+5CO2のような方法もある。
ガン60%、酸化鉄20%、酸化コバルト
一般的にはタルク43%、粘土35%、
10%、酸化銅10%を1200℃で仮焼
し、粉砕し、低熱膨張性セラミックスに加
うに異なる。その時、高効率赤外線放射体
えればよい。
の放射量は132.12w/hr(放射比30.75%)、遠
4.1.2.赤外線放射体の特性
赤外線放射体では116.21w/hr(放射比29.0
コ-ジライトに遷移金属複合酸化物を加
5%)、低効率赤外線放射体では55.87w/hr(放
えた高効率赤外線放射体、コ-ジライト質
射比13.97%)となる。その時の全赤外線放
遠赤外線放射体及び金属表面低効率赤外線
射率は高効率赤外線放射体で0.865、遠赤外
放射体の分光赤外線放射率曲線を図4-1
線放射体で0.728、低効率赤外線放射体で0.1
2
に示す。図4-2は、表面積144cm の、
89となる。放射以外のエネルギ-は対流と
それぞれの放射体に400w/hrの電力を供
伝導に費やされる。対流と伝導による熱エ
給したときの各放射体の表面温度と、その
ネルギ-も利用の仕方によっては有効に働
分光赤外線放射発散度曲線を示す。
くのであるが対流も伝導も未利用熱として
の損失が多い。それに対して放射熱は熱媒
体に奪われる損出を少なくできて省エネル
ギ-として最も有効な熱伝播方法であると
言える。
5.遠赤外線の科学
5.1 赤外線放射スペクトルの測定
遠赤外線放射体の特性を知ることの基本
は分光赤外線放射率曲線である。どんな放
図4-1
高効率赤外線放射体、遠赤外線
射波長でも最も放射強度の高いものを黒体
放射体及び低効率赤外線放射体の分光赤外
と言うが、それは仮想物体である。それに
線放射率曲線
近い特性のものを人為的に作ったものが黒
体炉である。放射体の分光赤外線放射率曲
線を得るには図5-1のような装置を用い
て対比側に黒体炉を試料側に同一温度の試
料を置いて、その間の放射特性を比較すれ
ば測定できる。この装置を用いて珪石とア
ルミナの分光赤外線放射率を測定してみる
と図5-2のような曲線が得られる。この
図4-2
高効率赤外線放射体、遠赤外線
ような曲線は黒体の分光赤外線曲線との比
放射体及び低効率赤外線放射体の分光赤外
較曲線であって、その物質固有のものであ
線放射発散度曲線
るから測定温度が何度であっても同じ曲線
が得られる。でも温度が低いと信号が弱く、
各放射体は400w/hrの一定の電力を供
測定し難くなる。また迷光による妨害信号
給しても放射体の種類によって放射エネル
が混入し易く精度が低くなる。したがって
ギ-量と放射体の表面温度は図4-1のよ
200℃~500℃程度が測定容易な温度
率曲線から放射体の、いろいろな温度の時
のリアルな放射プロファイルが求められ、
それが赤外線放射体の特性を知るに最も相
応しいデ-タ-となる。
5.2. 遠赤外線分野での赤外線波長の呼
称区分
遠赤外線波長の呼称区分は明確ではない
図5-1
分光赤外線放射率測定装置
が著者は放射体と被放射体の間の赤外線エ
ネルギ-の授受関係を重視して波長 4μm
を近赤外線と遠赤外線の境とすることを提
唱した。その理由は熱エネルギ-授受にお
いて気体、例えば水蒸気(H2O)の基準振
動は 2.74μmであって、それは物質の熱に
関与するエネルギ-中心としては最下端波
2
波数(cm )(波長(μm))
図5-2
材質の分光赤外線放射率曲線
長に近い。しかし赤外線放射体の多くは個
形体であるから発せられる電磁波は連続ス
ペクトルでウィ-ンの変移側に従い保有温
度が高くなるにつれて可視光線の領域に及
んでいく。高効率赤外線放射体を800℃程度
に加熱したとき、その中心波長は2.7μmで
近赤外線域にある。でも赤く発光している
のは熱に関与しない無駄な光が放射してい
るから熱効率は、それだけ低くなる。でも
エネルギ-効率に無駄があっても水分子に
働く放射エネルギ-の比率としては多いこ
図5-3
材質の分光赤外線放射発散度曲
線
とになる。水を含まない多くの無機固体物
質は3~4μm以遠の赤外線をよく吸収す
るので、その時は遠赤外線放射体と呼ばれ
だろう。放射体の使用温度での特性を正し
る放射体の方が熱効率は高くなる。
く知るには、その温度での分光赤外線発散
度曲線を求めればよい。それは分光赤外線
5.3.燃焼している炭の放射エネルギ-
放射率曲線を求めた時と同じように黒体の
分布割合
分光赤外線発散度曲線との分光強度比率で
日本では硬い備長炭と呼ばれる良質な炭
得られる。それを図5-3に示す。この分
がある。それを燃焼したときの実態を調べ
光赤外線放射発散度曲線は分光赤外線放射
てみよう。硬い備長炭は短波長から長波長
に至るまで放射率が高く、ほぼリニア-で
844%である。それが赤く発光しているエネ
ある。炭が燃焼しているとき赤色に発光し
ルギ-量であって熱としては無駄なエネル
ているので、その推定燃焼温度を800℃と仮
ギ-である。近赤外線域は47.458%で水分子
定する。その時の分光赤外線放射発散度曲
に大きく関与するエネルギ-である。遠赤
線から放射の最高強度を示す中心波長域は
外線域は固形物質に関与するエネルギ-帯
2.7μm付近と求められる。そんな備長炭の
で物質にエネルギ-を選択吸収させるに都
エネルギ-放射の性質を波長区分に分けた
合のよいエネルギ-帯といえるが39.697%
数値化によって黒体と比較してみる。図5.
である。
4.に、それを示してみた。燃焼している
炭は紅い色をしている。それは可視光線が
5.4.セラミクス材質の赤外線放射特性
放射されていることで約13%である。光
どんな物体も加熱すれば、そこから赤外
は熱にあまり関係のない波長域であるから
線が放射される。でも物質が違えば一つと
暖かさには、あまり関係がないので暖をと
して同じ放射特性はあり得ない。セラミッ
るには無駄なエネルギ-と言える。
クスで、いろいろな放射特性を持つ遠赤外
線放射体が作れるが、その一例を図5-5
の分光赤外線放射率曲線で示す。図で(1)
は高効率赤外線放射体、(2)は遠赤外線
放射体、(3)は低効率赤外線放射体であ
る。
図5-4
燃焼している炭の放射エネルギ
-分布割合
原子間の運動を促す近赤外線は暖かさに
大きな影響がある波長域であって特に体中
水分に大きな影響を及ぼす。燃焼している
図5-5
高効率赤外線放射体、遠赤外線
備長炭では約47%を占めている。遠赤外
放射体、低効率赤外線放射体の分光赤外線
線域は約40%であって、それは皮膚・筋
放射率曲線
肉など体中組織に直接、影響を及ぼす重要
なエネルギ-帯である。このように可視光
それらを500℃、300℃、100℃
域から遠赤外線域に至る放射全域で放射率
と放射体の表面温度を変化させたとき半球
0.9以上の備長炭は高効率赤外線放射体と言
面分光赤外線放射発散度は図5-6のよう
える。燃焼している備長炭は紅く発光して
になる。このように全赤外線域で放射率の
いるが、その可視光域の放射量の割合は12.
高い(1)のようなものは高温でも低温で
も全赤外線放射率は高い。逆に(3)のよ
だろう。しかも人間の体温は36℃
うなものは、どんな温度でも低い。しかし
(2)のような遠赤外線放射体は高温では
全赤外線放射率が低いが温度が低くなるに
つれて(1)とあまり変わらなくなる。そ
のようなことが遠赤外線放射体の特徴と
図5-7
3種の放射体の温度と全放射率
の変化
~37℃であるから図5-7をみれば、そ
の体温では全赤外線放射率は黒人でも、黄
色人でも、白人でも1に近いことになる。
しかし、あり得ないことであるが仮に身体
の表面が500℃であったら、どうだろう
か。人種によって放射率や吸収率に差が生
ずることになる。
このように物質と全赤外線放射率及び吸
図5-6 3種放射体の温度と特性変化
収率の関係を考える場合、物質と放射率の
2次元的な考えに加えて温度の因子を加え
言える。図5-7に、この3種の赤外線放
た3次元的思考をすることが大切である。
射体の高温から低温に至る全赤外線放射率
が変化する様子を示した。物体と全赤外線
6.遠赤外線の利用
放射率は温度によって一定ではなく変化す
6.1.食品調理への利用
る。生理・生体的な分野や医学分野で皮膚
人類が最初に用いた熱利用は調理であっ
の全赤外線放射率は1に近いと言われ吸収
た。でも有史前から現在までに大変な様変
率も同じとされる。そのような説では白人、
わりがあった。その中で薪を燃やして作る
黄色人、黒人と人種の違いがあっても赤外
熱は対流熱が主であって、その熱は周囲に
線に対する振る舞いは考慮する必要はない
飛散することが多くて損失が大きい。
ことになる。つまり、どんな人種でも図5
肉や魚を焼くと言う調理には放射熱が効
-6の(3)のような低効率赤外線放射体
果的である。煮物には先ず鍋に熱を伝え水
的な皮膚をもつ人はいない。強いて言えば
を介して食べ物に伝えられるが、放射、伝
(1)か(2)のような特性を持っている
導、対流が複雑に絡みあって調理効果が生
ずる。
合がよいと思ったからである。授熱体の構
6.1.1.ステ-キを焼く
造はニクロム線を内蔵したセラミクスの板
さて、日本で遠赤外線ブ-ムが起こって
である。授熱体として授けるエネルギ-プ
間もない頃、あるテレビ局でステ-キを焼
ロファイルを変えるためコ-ジライトセラ
くのに金属のフライパンと陶磁器の鍋では、
ミクスそのもの(遠赤外授熱体)と、いろ
どちらが美味しく焼けるか!と言う番組に
いろな遷移元素を加えた釉を施したセラミ
出演したときであった。双方の鍋に手掌ほ
クス(高効率赤外線授熱体)および銀ペ
どの肉を置き下からガス火で焼くのである。
実際は金属フライパンの方が早く焼けた。
でも鍋に接触している側は真っ黒焦げであ
るのに反対側は、まだ、血が残っているく
らいであった。一方、陶器鍋の方の肉は接
触面が少し焦げたぐらいでも上まで熱が、
よく透っていて血が残っているようなこと
はなかった。肉を美味く焼くには温度調節
が難しい。でも、それだけのことだろうか!
と疑問に思ったのである。ひょっとしたら
図6-1熱伝導効果の実験方法
肉と2種の鍋との間には熱の伝わり方、特
にエネルギ-プロファイルの違いが影響し
-ストを塗布した表面を持つセラミクス
ているのではないかと思った。つまり授熱
(低効率赤外線授熱体)の3種である。そ
側のエネルギ-特性が肉の熱伝導特性に関
れらの授熱体に一定のエネルギ-を供給し
係すると考えたのである。
て温めテフロンに接したときテフロン内部
このように考えてくると異種物質間で熱
では熱伝導に違いが生ずるか否かを調べて
エネルギ-が伝播するとき双方の原子・分
みたのである。実験は図6-1に示すよう
子の運動プロファイルの相性によって熱伝
な方法で行った。この場合、授熱体と受熱
達の様子が違ってくると考えられる。そん
体が接する面は完全に密着していたとは言
なことでステ-キを焼く場合も受熱体はビ
えず厳密には、その間の隙間は放射として
-フと一定であるが授熱体のエネルギ-プ
の熱伝播があることになる。したがって完
ロファイルの違いによってビ-フに与える
全な熱伝導の実験かと言えば不安もある。
熱伝播の様子が変わると考えてみた。
授熱体の授エネルギ-プロファイルは赤
そんなことを確かめたいと著者はシュミ
外線放射プロファイルで推定できる。つま
レ-ションをしてみた。肉で行うのはデー
り物質のエネルギ-吸収と放射は等価であ
タが取り難い。そこで受熱体としてテフロ
るというキルヒホフの法則が、それを示し
ンを肉の代わりに選んだ。その理由は繰り
ている。したがって用いた3種の授熱体の
返して実験してもテフロンは熱に安定で変
授エネルギ-プロファイルを分光赤外線放
質し難く精度のよいデ-タ-を得るのに都
射率曲線で、それに当てた。受熱体の受エ
ネルギ-プロファイルも同じように考え
体が、ほぼ、同じような温度上昇を示し低
効率赤外線授熱体は低く推移した。さらに
c点では高効率赤外線授熱体と低効率赤外
線授熱体は、ほぼ同じ温度上昇を示すよう
図6-3
授熱体の特性が異なるとテフロ
ンの熱伝導の様子が違う
図6-2
授熱体とテフロンの吸収特性
に推移したが遠赤外授熱体のみ、高い温度
てテフロンの吸収エネルギ-プロファイル
上昇を示したのである。そこに大きな意味
を図6-2に示しておく。このように授熱
がある。それは各授熱体の内部に保有され
体および受熱体の内部特性は赤外線放射プ
ているエネルギ-量は同じであっても、そ
ロファイルで表しても矛盾は無いと考えて
の分子運動等のプロファイルの違うことが
よい。結果は如何であったか。それを図6
テフロンの分子運動に影響を及ぼしたので
-3に示す。
ある。そんなことからステ-キの焼け具合
授熱エネルギ-のプロファイルの異なる
を検討することができないだろうか?
つ
高効率赤外線授熱体、遠赤外授熱体、低効
まり金属フライパンは肉の接した面を高温
率赤外線授熱体に一定の電力を供給し、そ
度にして黒焦げを作りやすいが熱の通りは
れらを受熱体のテフロンに接したとき図6
よくない。それに較べて陶器鍋は加熱が
-1のa,b,c点での温度が時間と共に変
少々遅くても熱の通りがよいと、そんなこ
化する様子を示してみた。a点では低効率赤
とが焼き物料理の秘訣に繋がると考えるの
外線授熱体が最も温度が高く推移し、つづ
である。
いて遠赤外授熱体、最も低く推移したのが
6.1.2. パンをト-ストする
高効率赤外線授熱体であった。接触面近傍
のb点では遠赤外授熱体、高効率赤外線授熱
昔、パンのト-ストには雲母板を2枚重
ねた間にニクロム線を張ったト-スタ-が
あったが表面だけが黒焦げになることが多
かった。現在の遠赤外線ト-スタ-は表面
と内部との温度差を少なくし、大変具合よ
くト-ストができる。私はテフロンの伝導
特性評価に使用した高効率赤外線放射体、
遠赤外線放射体、低効率赤外線放射体を用
いてト-スト効果の実験をしてみた。その
様子を図6-4に示す。各放射体の供給エ
ネルギ-は400W/hrと一定にした。そのとき
の表面温度は高効率赤外線放射体が375℃、
遠赤外線放射体は395℃、低効率赤外線放射
体は495℃であった。そのときの放射特性を
図6-5に示す。
図6-5
パント-スト時の各放射体の
放射特性
図6-4 パント-スト実験の様子
各放射体に供給したエネルギ-が放射エ
図6-6 パンの赤外線吸収スペクトル
ネルギ-となってパン方向に向かう量は高
効率赤外線放射体で126W、遠赤外線放射体
で125W、低効率赤外線放射体で52Wとなる。
トされていなかった。
このような結果を解析してみよう。パン
パンの赤外線吸収スペクトルを図6-6に
をト-ストするに効率向上の条件は放射体
示しておく。さて、ト-ストの具合は如何
の全放射量と放射プロファイルがパンの吸
であったか、それを図6-7に示す。通電
収プロファイルと相性がよければ、うまく
して3分後に高効率赤外線放射体は程良い
ト-ストできる。用いた3種の放射体は同
具合にト-ストした。そのとき遠赤外線放
一エネルギ-を供給したにもかかわらず、
射体では多少黄色く焦げ目がついた程度で
表面温度と放射プロファイル及び放射量が
低効率赤外線放射体では、まだ殆どト-ス
異なった。その様子を図6-8示す。図で
高効率赤外線放射体は表面温度が375℃、遠
赤外線放射体は395℃で、あまり違わない。
放射エネル-量も126W、124Wと、これも、
あまり変わらない。でも図6-7のように
ト-スト具合は大きく違う。そこを検証す
ることで赤外線のプロフアイルと加熱効果
との間の関係を解明することができる。
放射体の表面温度、放射エネルギ-量が
高効率赤外線放射体と遠赤外線放射体で、
あまり違わないのに高効率赤外線放射体の
方が、焦げが多いのはパンの脱水が多いこ
とによるのである。
図6-8で上段の高効率赤外線放射体で
は放射特性カ-ブ内に具合良くパン吸収特
性が納まる。しかし遠赤外線放射体ではパ
ンが水分を蒸発させるために要求するエネ
ルギ-帯は放射特性カ-ブから、はみだし
てしまう。したがってパンに水分を揮発さ
せるための充分なエネルギ-を与えること
ができず効率が低い。そのことが焦げ目の
図6-7 パント-スト具合
付きを悪くしている。
6.1.3 魚を焼く、乾燥椎茸を作る
ガス火で、うまく鮎の塩焼きをつくるの
は難しい。ガス火では高温の燃焼ガスの熱
が鮎に接触して尾のような薄い部分などは
形がなくなるくらいに焦げてしまう。けれ
ども厚い部分は、まだ生焼けのことがある。
見た目もよく自信をもって食前に出せるよ
うにガス火で焼くには苦労すると言う。そ
こで料理屋に耐熱衝撃性陶器の覆いを奨め
てみた。この場合、鮎全体に程良く熱を与
えることができ具合よく焼くことができた。
更に汚れた覆いは直ちに水をかけて洗うこ
とができ、大変便利だと言われた。それ以
来、肉や魚を焼くのに熱媒体として高効率
赤外線陶器が広く用いられるようになった。
図6-8 各放射体とパント-ストの相性
鰯の干物と乾燥椎茸を作る実験をしてみ
た。方法はパンをト-ストした実験と同じ
である。図6-9は鰯の干物の結果で図6
-10は乾燥椎茸の結果である。この場合
左が高効率赤外線放射体、中が遠赤外線放
射体、右が低効率赤外線放射体で、この場
合も明らかに高効率紅外線放射体の方が、
図6-11椎茸の乾燥実験
図6-9 鰯干物の結果
図6-10椎茸乾燥の結果
図6-12耐熱衝撃性鍋と調理器
効率が高く、次いで遠赤外線放射体で低効
図6-13は高効率赤外線放射体で作っ
率赤外線放射体は全く効果が低かったので
た表面積1232cm 2 のパネルヒ-タ-
ある。
を電力で温め放射分と、それ以外の伝導分、
図6-11は椎茸の乾燥実験の様
子の様子で、図6-12は耐熱衝撃性陶器
対流分に奪われたエネルギ-との間の関係
鍋と調理器の写真である。
を示してみたものである。横軸に放射体の
表面温度、縦軸に積算エネルギ-量として、
6.2.赤外線放射体からの上手な熱利用
各温度でプロットしていくとx印で示した
私達の日常生活で放射、伝導、対流の熱伝
線のようになる。つまり放射体の持つエネ
播がある中で上手に熱利用するには3つの
ルギ-が全部赤外線放射となった場合の理
伝播プロセスのよいところを使い分けるこ
論的エネルギ-放射量を示した曲線である。
とであるが、その中で放射熱利用は媒体に
しかし実際に放射体に供給した電力エネル
奪われるエネルギ-が少なく効率的である。
ギ-は○印で示した線のような量であった。
放射体の方が有利なことが多い。
また同
一放射特性を持つ放射体であっても対流分
を、より少なくできる形状や設置方法を考
えるとよい。つまり平板放射体であれば、
放射面を上に向けるより縦にして少しでも
上昇気流によって起こる対流分をすくなく
することである。
6.3.日光浴の暖かさ
太陽光は地球上の生物に多くの恵みを与
図6-13
放射体の表面温度と消費エネ
ルギ-との間の関係
えてくれる。それは光と赤外線である。そ
の太陽光の放射エネルギ-のプロファイル
を眺めてみよう。それを図6-14に示す。
それは何を意味するのか、つまり放射以
太陽光は地上に達するまでに大気による
外の熱伝播である対流分と伝導分である。
吸収があって、このような整然としたプロ
したがって○印の線は真の放射エネルギ-
ファイルではないが、おおよその特性を知
に対流分と伝導分が加算されたエネルギ-
るには充分である。図6-15は、その太
量である。図6-13の理論放射エネルギ
陽光の放射エネルギ-の分布割合を示した
-量と供給電力量との比率から紅外線放射
ものである。その内、人体に害がある放射
分と、その他の熱伝播エネルギ-分との割
線が17%で、光が38%、あまり熱に大
合を求めてみると表面温度が100℃で放
きな効果のない近赤外線が40%もあるが
射分が64%、対流と伝導分を合わせて3
原子間、分子間の熱に関係する近赤外線は
8%となる。150℃では放射分67%、
4%に過ぎず、遠赤外線に至っては1%に
その他の熱伝播分33%、200℃では放
過ぎない。
射分70%、その他の熱伝播分は30%と
ガラス窓越しの日光浴は心地よいもので
なった。つまり温度が高くなるにつれて若
ある。では、どんなエネルギ-が暖かさを
干放射分の比率が高くなる。
与えてくれるだろうか!
このようなことを考慮して高効率赤外線
ガラスは赤外線
を透過しないと言われる。でも図6-16
放射体と遠赤外線放射体では一般に、どち
らが赤外線放射体として有利か考えてみる。
遠赤外線放射体は高効率赤外線放射体と同
一供給エネルギ-量を与えたときに同一エ
ネルギ-を放射させるには表面温度を高く
するか、表面積を広くしなければならなか
った。そのどちらも対流分を増す条件にな
るので汎用的な使用目的には高効率赤外線
図6-14 太陽光の放射プロファイル
い。人間は寒い所、暑い所と体調を、その
居住地に合わせる知恵があって地球上の何
処でも住むことができる。そんな芸当が出
来るのは人間だけであって、そこが万物の
霊長と言われる所以だろう。寒いところで
は暖房が必要である。それを得るには熱伝
導で直接、暖かいものに触れる方法もある
が通常は空気を温め、その対流熱や赤外線
放射による熱伝播を受けて暖をとる方法が
図6-15
太陽光の放射エネルギ-分布
割合
ある。これから、その効果や特徴を考えて
みようと思う。
6.4.1. 赤外線による暖房効果
ように普通の窓ガラスでも波長3μm辺り
ガス燃料を上手に赤外線に変換して有効
までは良く透す。それから漸次透過効率は
熱利用を果たしたものにシュバンク方式の
降下するが5μmあたりまでの赤外線は透
ガスバ-ナ-がある。戦後、間もなく日本
過すると考えてよい。このように考えてみ
にも伝えられ、その技術は燃焼熱を赤外線
ると人体が暖かく感ずる赤外線波長帯は3
放射熱に変換して効率を高めることであっ
μmから5μmあたりであることになる。
て、目を見張るものがあった。そのバ-ナ
-は図6-17のような無数の細い孔のあ
る焼き物で効率よくガスを燃焼させ、その
熱を焼きものに伝えて、そこからの放射熱
を利用するものである。また電力を熱源に
した放射体からの赤外線放射熱を利用する
方法もシュバンク方式のガス燃焼バ-ナ-
と共に一般的な赤外線加熱の方法として普
及した。このように電熱を効率の良い赤外
線に変換して暖を取る方法は著者が業界に
遠赤外線利用を薦めた初期に成果をあげた。
その時の製品を今でも、重宝に使っている。
図6-16
窓ガラスはどんな赤外線を透
過するだろうか
それは図4-1に示した高効率赤外線特性
の放射体を表面に持つパネルを約600w/hrの
電力で加熱するもので、放射面積は300cm2、
6.4.暖房
表面温度は約300℃であった。それを机の下
地球上の生物は気温、気候など生存に適
に置いておけば、冬の寒い時でも充分に暖
する環境雰囲気の居住場所を、よりよく選
をとることができる。図6-18が、それ
択していて何処でもよいと言うわけではな
である。人間が暖かく感ずるのは表皮近く
図6-17 シュバンク型ガスバ-ナ-
図6-19
高効率赤外線放射体(表面温
度300℃)と皮膚とのエネルギ-授受関
係
外線であるため、それが300℃の表面温度を
もつパネルの放射プロファイルと、どのよ
うな相性になるか更に放射量と吸収量を数
値的に近赤外線域と遠赤外線域に分けて調
べてみた。仮に放射体の表面温度を300℃に
した場合、全赤外線域は放射量が5.739 x 1
図6-18 遠赤外線電気スト-ブ
03w/hrで吸収量は2.356 x 103/hrである。近
赤外線域は放射量が0.715 x 103/hr、吸収量
の、温寒神経であろう。この場合、皮膚が
は0.294 x 103/hr、遠赤外線域は放射量が5.
先ず赤外線を受けるのであるから効果の検
024 x 103 /hrで吸収量が2.06 x 103 /hrであ
討に図中の放射体の分光赤外線放射発散度
った。この場合は用いた放射体は高効率赤
曲線の面積を皮膚の吸収強度曲線の面積で
外線放射体であるから。その結果は、どち
除して、その値を暖房効果の適合性と考え
らの波長域も相性率は0.4程度であって、そ
てみた。勿論、それは定性的に効果の目安
れは皮膚が要求する2つの吸収プロファイ
を示すに他ならないのであるが、かなりの
ルを、うまくカバ-できているのである。
精度で効果判断のデ-タ-になる。それを
でも4μm付近で皮膚の吸収率は、よくない
図6-19に示す。この図を見ると放射体
が放射体の強い放射強度で、それが補われ
では5μmにピ-クがある。暖房には、その
ていることだろう。そんなことから放射熱
当たりの波長域が心地よいものと思われる。
を暖房に用いる時、どんなプロファイルの
赤外線を採用したらよいのか思いが馳せる。
6.4.2
人体はどのように暖かさを感
ずるか
皮膚が強く受ける波長域は図6-19で
分かるように3μm、6μm、13μm付近の赤
それには、先ず人間の生体を眺めてみなけ
ればならない。つまり皮膚と筋肉、それに
体中水分の赤外線を吸収する挙動であろう。
それらと授熱体の赤外線プロファイルとの
間の適合性を図ることが効果的と思われる。
性の放射体が効果的であるか調べてみた。
でも人間には個性的な感性があって普遍的
用いた授熱体、つまり放射体は高効率赤
な効果を知るには全く難しいものがある。
外線放射体、近赤外線放射体、遠赤外線放
官能調査で近赤外線成分はヒリヒリ感ずる
射体、低効率赤外線放射体である。それら
とか、遠赤外線成分は「まろやか」な暖か
が人体を暖める効果を検討してみるのであ
さと分析した報告もあるが、そこらは、こ
るが人間は衣服を纏っているから暖房には
れから、とくと検証しなければならない論
授熱側の赤外線プロファイルを調べるだけ
理であろう。
でなく皮膚や筋肉の赤外線吸収の様子と共
6.4.3 衣服と赤外線吸収
に衣服との相性も考えなければならない。
地球は水の星と言われ、それを基に生物
したがって、ここでの検討対称物として3
が発生した。そして人間は万物の霊長と言
種の授熱体と皮膚、木綿、水との相性を調
われるまでに進化した。その人間の体は70%
べることにしたのである。図6-20は用
が水分であると言われる。したがって赤外
いた放射体の分光赤外線放射率曲線である。
線エネルギ-のプロファイルと、その量は
人間の生活と人体の生理・生体的現象に計
り知れない影響があるだろう。そこで水の
振る舞いとエネルギ-プロファイルの関係
をみてみよう。
水は波長2.74μm(波数:3652cm-1)に基本
吸収帯があって、次が6.27μm(1597cm-1 )
である。この二つの波長中心が生活や生体
現象と如何なる関係にあるか、そこを究め
ることは極めて大切なことである。波長2.7
4μmは人間生活において湯沸かしや調理
図6-20
など温度を上げるのに関係するH-O-Hの伸
射率曲線
縮振動による波長中心であって、6.27μmは
塊の水分子が切断されて細かくなるときに
必要とする波長中心である。そのようなこ
とから暖房には水の熱的振る舞いに大いに
関係する波長3μmあたりの赤外線放射を
重視しなければならない。その波長域は世
間で呼ばれている遠赤外線域と言うより近
赤外線の波長域であって暖房には、その波
長域を除外できないことを示唆するのであ
る。そこで著者はエネルギ-保有特性の異
なる4種の放射体を用意して、どのような特
(皮膚)
用いた放射体の分光赤外線放
(水)
の評価をする手法を考えたのである。実際
には授け側の分光赤外線放射率曲線から、
その利用温度での分光赤外線放射発散度曲
線を作り、その温度での受け側の分光赤外
線吸収度曲線との比率をもって授け側と受
け側の適合性とした。
赤外線は電磁波であって物質は、それを
吸収して熱になる。エネルギ-の総量=吸
収+反射+透過であるから、そのうち反射
は表面で跳ね返されて全く熱効果に関与し
(木綿)
ない。透過は人体の厚い組織の中を通るう
ちに、どこかで吸収されることだろう。し
たがって全く無駄なエネルギ-ではないと
思う。でも直接、熱になるのが吸収である
から放射体の放射スペクトルと物質の吸収
スペクトルとの間の関係を検討することで
暖かさの効果を調べることができる。この
ような手法はエネルギ-授受関係で複雑な
メカニズムに影響されて絶対的な効果を知
図6-21
皮膚、水、木綿の赤外線吸収
スペクトル
ることは困難である。でも対象物にとって、
どんなプロファイルの授エネルギ-体が効
果的であるか、また利用手法の選択にも大
図6-21は人間の皮膚、水、木綿の分
きな示唆を与えてくれることになる。その
光赤外線吸収特性である。衣服を纏った人
ことを当分野の業界に強く薦めたいと考え
間が外部からのエネルギ-を受けて暖かく
ている。
感ずるメカニズムを解明するのは大変難し
図6-22は高効率赤外線放射体と人間
い。でも現代世相を鑑み、その手がかりだ
の皮膚との間の赤外線エネルギ-の授受関
けでも掴んでおきたい。それには各放射体
係を定性的ではあるが検討するために放射
の温度と皮膚、水、木綿との間のエネルギ
体の温度を500℃、300℃、100℃に設定した
-授受関係を検討すればよいと考えた。以
ときの関係を示したものである。図6-2
下、エネルギ-の授受関係は授ける側と受
3は遠赤外線放射体と皮膚、図6-24は
ける側のエネルギ-プロファイルの適合性
近赤外線放射体と皮膚との間の授受関係を
に左右されるのは明らかであることから、
示してみたものである。図6-25は低効
その表面温度に依存する授け側のエネルギ
率赤外線放射体と皮膚との間の授受関係を
-プロファイルが受け側の吸収プロファイ
示した。それらの放射体の効果を較べてみ
ルに、どれだけ適合するかを検討して効果
ると高効率赤外線放射体では、どんな使用
(500℃)
はみ出し程度は小さくなる。したがって低
温度になれにつれて、効率は放射プロファ
イル曲線の内に納まることになって、殆ど
高効率赤外線放射体と同等の適合度になる。
(500℃)
(300℃)
(300℃)
(100℃)
(100℃)
図6-22
高効率赤外線放射体と皮膚と
の間の適合性
温度でも皮膚の要求する赤外線吸収スペク
トルが、うまく放射スペクトルの内に納ま
っていて3者の放射体のうち如何なる場合
図2-23
も最も効率の良いことが分かる。遠赤外線
の適合性
遠赤外線放射体と皮膚との間
放射体では500℃で皮膚の水分の吸収帯が
大きくはみ出している。そのことは皮膚に
皮膚と近赤外線放射体の関係は、高い放
含まれる水分の要求するエネルギ-を充分
射温度では比較的効率を高くすることがで
に賄いきれないので高効率赤外線放射体よ
きるが温度が低くなると短波長域の皮膚組
り低くなることが分かる。500℃、300℃、1
織の要求するエネルギ-量が、はみ出して
00℃と放射体の温度が低くなるにつれて、
しまう。そのことは近赤外線放射体では使
(500)℃
分が70%もあり、また衣服を纏っているの
で、それらのことも考慮しなければならな
い。しかも外部から入射されるエネルギ-
は衣服の赤外線の表面反射、透過、吸収、
再放射、体内への熱伝導、それに内部の筋
肉や骨など人体の組織・構造の振る舞い、
体感効果も因子に加えなければならず真の
暖房効果を究めるには他分野の知識も結集
(300℃)
した総合判断が不可欠である。でも定性的
ではあるが水と木綿についても皮膚と同じ
ようにデ-タ-を処理して総合暖房の効果
への検討資料として提起してみる。そのた
めの結果を図6-25に纏めて示した。縦
軸は適合度であって、それは受熱体が吸収
するエネルギ-の絶対量ではないが、それ
が高いほど授受関係の相性の良いことを示
(100℃)
している。このように暖房には使用条件に
応じて、どの種の放射体を何度の表面温度
で用いるたら効果的か賢い器具デザインを
考えることである。図6-22で人間が赤
外線サウナに入浴するときのように赤外線
を先ず皮膚から吸収するとすれば高効率赤
外線放射体を500℃程度に加熱したものが
最も効果的で、また省エネルギ-的である
と言える。放射温度が低くなるにつれて右
図6-24
近赤外線放射体と皮膚との間
の適合性
下がりであることは漸次、効率も低下する
ことになる。けれども逆に光が発するよう
用温度が低くなるにつれて長波長域の要
な高い温度では熱効率に関係の薄い放射エ
求するエネルギ-を賄いきれないから効率
ネルギ-が多くなるので省エネルギ-的で
は低下することになる。その様子は遠赤外
はない。
線放射体と相対する現象と言える。低効率
遠赤外線放射体では高い温度で効果が高
赤外線放射体の図6-24を観察すれば相
効率赤外線放射体より劣る。けれども温度
性として全く論外であることが分かる。
が低くなるにつれて高効率赤外線放射体の
ところで図6-22,図6-23,図6
適合度に接近し100℃では、ほぼ同等になる。
-24で人体の表面、つまり皮膚と各種赤
更に低い温度、仮に50℃、40℃ともなれば
外線放射体との関係が分かったが人体は水
適合度は更に向上すると思えるがエネルギ
線発生素材の検討、吟味、評価の資料にで
きることは間違いない。
近赤外線放射体は高い温度では遠赤外線
放射と、ほぼ同等であるが温度が低くなる
と適合性は低下するので暖房には適さない
ことになる。ここに用いた近赤外線放射体
はステンレススチ-ルを化学・熱処理した
もので、その時、処理が進んでしまうと表
面が黒くなって、その時は高効率赤外線放
射体と同じようなスペクトルになる。でも
処理の程度と方法によっては、このような
近赤外線放射体的特性が得られる。
暖房には、いろいろな方法があるが人体
は暖房と言う手段では直接、加熱された物
体に触れて暖をとることは炬燵ぐらいで少
ない。多くは大なり小なり放射熱が関与す
る。焚き火の暖でも燃焼ガスは対流熱とな
って伝播するが人体が、それに触れること
はない。炎色に輝いて見えるのは炎のなか
に含まれている微細な固形炭素が熱せられ
てエネルギ-を放射しているためで、それ
によって暖かく感ずるのである。また焚き
火で、できた赤く輝く燃焼中の炭は800℃程
度で、そこからの放射熱によって暖かく感
ずるエネルギ-量は多い。このように焚き
火の暖は、その多くが放射熱で得られてい
ると考えて異論はない。そんなことで有用
な放射暖房器具を作ることが嘱望されてき
た。そこで著者は赤外線放射体で暖房器具
図6-25
各赤外線放射体の温度と皮膚、
水、木綿との間の適合性
を作ることを業界に薦めた。そのための素
材は図4-1に示した高効率赤外線放射体
であった。それを用いた暖房器はエネルギ
-の絶対量が極めて少なくなるので体感に
-を途中媒体の空気に与える量が少なく直
おける優位性を言うのは問題になると思え
接、身体に到達して衣服や手足、顔などを
る。けれども、このような特性は注目すべ
温め効率と心地よさに優れている。熱源は
きことで、とくに常温近い温度での遠赤外
ガスの燃焼熱、電熱等、何であってもよい。
要は発生したエネルギ-が吸収されやすい
放射エネルギ-に変換されていることであ
る。
このところ著者は住まい近くのスーパ-
銭湯巡りをする。そこで採用されている遠
赤外線サウナの放射体は著者が薦める高効
率赤外線放射体を用いているのが殆どであ
る。浴室内温度は80℃を指していた。この
ように業界も人体に熱エネルギ-を与える
のに高効率赤外線放射体の効率がよいこと
を会得しているのである。
6.5.空気浴サウナ、赤外線サウナ、砂
風呂、岩盤熱浴
人間は身体を清潔にするため湯風呂を使
う。でも欧米、南アジアなど外地では、シ
ャワ-のみで湯船のようなタブを備えてい
ないホテルが以外と多い。そんなとき東ア
ジア人や日本人は物足りなさを感じてしま
図 6-26 砂風呂と岩盤浴
う。そのように心地よい適温の湯風呂は一
日の疲れを癒す最良の手段だろう。湯風呂
ら真水の風呂とは効能に違いがあることだ
には真水を沸かしたものと温泉がある。
ろう。風呂には湯風呂の他、身体を温め、
日本は温泉国であるが世界の温泉分布を
汗を流す目的に、空気浴サウナ、遠赤外線
見てみると環太平洋からヒマラヤ、中近東
サウナ、砂風呂、温熱岩盤サウナなどがあ
を通って地中海から北欧、アイスランドと
る。それらは身体に熱を与えることで血管
地殻プレ-ト境界部に多く分布している。
を拡げ、血流をよくし、老廃物を排泄する
東アジア諸国にもある。その中で著者はタ
など、健康保持に役立てられている。でも、
イ国北部のチェンマイ近くにある温泉に入
それらの風呂は互いに保有するエネルギ-
浴したことがある。そこを流れる小川は湯
プロファイルと伝達のメカニズムが異なる
の華があって亜硫酸ガスの強い臭いを放つ
ので効果も様々である。ここでは、そんな
湯気を立てていた。そこでは日本の箱根の
ことを考えてみよう。
大涌谷のように温泉茹卵を売っていること
6.5.1.
から、かなり高温の泉源であることが分か
ウナ
空気浴サウナと遠赤外線サ
普通の湯風呂は比熱が1cal g-1(4.186 J g
る。また韓国の日本海に面した沿海地で海
水の風呂に入浴したことがあった。それは
-1
食塩のような塩化物が溶けているのだか
風呂は、およそ 42℃~43℃程度である。そ
)と例外的に大きい。その水を温めた湯
れに対して空気浴サウナは湯より遙かに高
る。照射される波長域は、ほぼ6μmに中心
温度の100℃程度が適温とされる。その違い
があって遠赤外線域と呼ばれる波長帯であ
を考えてみる。空気は水と比較すると熱容
るが、それは筋肉細胞が要求するに適した
量が小さいので体内の水分や筋肉を温める
波長帯であって身体の水分に直接働く波長
に必要とするエネルギ-は高い温度で賄け
帯ではない。でも筋肉に速やかに作動する
ればならない。空気は酸素が1/4で窒素が3/4
波長域の赤外線は筋肉細胞の働きを活性化
の割合で、その1molは29.4 l の体積を持っ
するのに適しているから、汗に伴って老廃
ていて比熱は約0.5、熱容量は2.272 Jである。
物の排泄を多くすると言う説もある。もし、
熱容量は湯の6.5%しかない。今、湯の温度
そうだとしたら主に筋肉に働く選択的エネ
を43℃としたとき、体温を36.5℃として、そ
ルギ-を与えることに遠赤外線サウナの特
の差を6.5℃とする。そのとき水と空気の熱
徴があるだろう。300℃の高効率赤外線放射
容量差の比率の15.4に6.5℃を乗ずると100.
体の放射プロファイルと皮膚の吸収プロフ
1℃となって空気浴サウナの実際の温度に
ァイルとの間の関係を示した図6-22図
近い値になる。こんなことで湯風呂と空気
と同じように300℃の赤外線放射体と皮膚
浴サウナの適温を考察してみた。
との授受関係を示した図6-23を見てみ
遠赤外線サウナは身体に伝える熱作用が
よう。それを波長領域別に分けて、その授
空気浴サウナとは、まったく違う。つまり
受関係を比較してみた。全体の放射量は高
発熱体からの放射エネルギ-の多くが空気
効率赤外線放射体と遠赤外線放射体では高
を素通りして身体に達するので空気浴サウ
効率赤外線放射体の方が大きいが、仮に両
ナのような空気の熱容量や比熱は、ほとん
放射体を300℃と一定の温度に設定した場
ど関係がない。それより赤外線エネルギ-
合で高効率赤外線放射体の放射量と皮膚の
のプロファイルが身体に与える影響に注目
吸収量の比をとってみると近赤外線域(0.7
したい。遠赤外線サウナは放射体を300℃程
μm ~4μm)では2.336w/m2(48.921%)で,遠
度で用いている。そのとき放射体の種類に
赤外線域(4μm)では2.439w/m2 (51.078%)で
よって放射エネルギ-のプロファイルは違
ある。それに対して遠赤外線放射体では近
うが、凡そ、その波長は6μmである。空気
赤外線域で0.782w/m2(24.84%)、遠赤外線域
を透過する赤外線であるが部屋の周囲も温
で2.365e/m2(75.151%)あって身体中水分の2.
まって、そこから空気へ伝導し、また対流
7μmを中心とした主吸収帯に対しては高効
によってサウナ室の雰囲気温度は40℃程度
率赤外線放射体の方が効果的に作用するこ
になることが多い。でも空気浴サウナに較
とが分かる。水分より皮膚や筋肉には5.5μ
べて、かなり温度が低いにもかかわらず激
mあたりを中心とした波長域に直接働くエ
しい発汗があることは空気の接触による体
ネルギ-帯があるので、その域の選択放射
内への加熱ではなく放射エネルギ-が直接、
の多い遠赤外線放射体の方が効果的である
身体に吸収されて暖かさを感じさせ、それ
と言える。放射体の表面温度300℃では高効
による発汗である。そのとき赤外線のプロ
率赤外線の方が全体の放射量が多いが遠赤
ファイルが大いに関係するものと考えられ
外線放射体で同じ量を放射させるためには
20℃上げて320℃にすればよい。そのとき近
2.74μmを中心とした波長帯であって身体
赤外線域で比率が僅かに下がり遠赤外線域
に伝えるエネルギ-も、その大半は、いわ
で上がるが、あまり差はない。そのように
ゆる短波長帯エネルギ-である。図で分か
遠赤外線サウナで身体に影響する放射プロ
るように6.27μmの波長帯を伝える能力は
ファイルが高効率赤外線放射体と遠赤外線
小さい。その湯に対して砂の授熱プロファ
放射体では異なる。著者は医学・生体的な
イルを比較してみると砂は珪酸塩鉱物であ
ことは門外漢で分からないが、赤外線放射
るから短波長エネルギ-より長波長のエネ
体による身体の加温と特色ある効果など生
ルギ-を伝える能力が高い。このように湯
理・生体的に、どんな振動プロファイルの
風呂では身体の中の水分に直接、働くエネ
特性を持つ授エネルギ-体が適するか種類
ルギ-は高いと言えるが筋肉に直接、与え
を選択すべきだろう。熱効率、ユ-ザ-の
るエネルギ-は小さいことになる。砂では
印象と経済的配慮もあって、スーパー銭湯
長波長域エネルギ-の保有量が多く、また、
等で用いられている遠赤外線サウナは高効
6.27μm の水分子のクラスタ-を小さくす
率赤外線放射体を用いているところが多い
る波長域(振動数域)の成分も供給エネル
が真の遠赤外線効果を醸し出すには遠赤外
ギ-の中に多く含まれていて、そのことが
線放射体を放射エレメントにした方が合理
体感や生理・生体的効果に良い影響を及ぼ
的だと考える。
すものと思われる。そこが湯風呂と砂風呂
6.5.2. 湯風呂と砂風呂
との間の人体に与える影響力の違いだろう。
日本では砂風呂で有名なのは指宿温泉で
では実際の砂風呂の効果を著者自身の体
あるが、その砂風呂と湯風呂では生理・生
験を述べてみる。この時は砂ではなく、小
態的効果に違いがあると言われる。如何な
豆粒ぐらいの丸いセラミックボ-ルであっ
ることか考えてみたい。砂は日本の東海地
た。砂を高温の湯を通して 50℃に温め、頭
方の海岸のものであるが砂の保有するエネ
だけ出して潜り込むのである。湯だと50℃
ルギ-プロファイルと湯のプロファイルの
では温度が高すぎて入れないが、この場合
違いをみてみよう。それを図6-27に示
は入れるのである。ものすごい発汗で約15
す。つまり湯では保有するエネルギ-帯が
分の入浴で800gの体重減があった。つまり8
00ccの汗が出たことになる。入浴後の感じは
湯の風呂とは違う。身体の軽さを感じた。
それに血行が良くなってコレステロ-ル値
が低下し老廃物が汗と共に排泄されたこと
が確かめられた。コップ一杯の水を飲んで
入浴に臨んだのであるが喉が渇いた。入浴
後、その渇きを潤すためコップの水を2,
3杯、立て続けに飲まなければならなかっ
図6-27
ファイル
砂と湯の保有エネルギ-プロ
た。
砂風呂の効果は確かに湯風呂とは違う。
どうしてだろうか。湯では熱容量が例外的
に大きく比熱が1で、1cal/grである。その熱
が満遍なく身体に接触して伝導熱として体
内に伝える。セラミクスや砂の比熱は約0.2
で水の1/5である。そして粒であるから身体
への接触面積は湯より少なく空間もある。
そんなことが湯の43℃に対して砂では50℃
が適温となる理由だろう。それと共に身体
に与えるエネルギ-プロファイルが関係し
ていると思える。医学、生体学は門外漢の
著者であるから効果の「こじつけ」と非難
されるかもしれないが、そこを考えてみる。
図6-22に示した皮膚の吸収特性を5
0℃の砂と皮膚との間のエネルギ-授受関
係と43℃の湯との関係を図6-28に示す。
このように砂の授エネルギ-プロファイル
は皮膚の吸収プロファイルを、余裕を持っ
図6-28 砂と湯エネルギ-授受関係
て覆ってしまい、授エネルギ-効率の高い
ことが分かる。湯では皮膚の吸収プロファ
遠赤外線の効率は低いと言える。
イルに対して授エネルギ-プロファイルは
6.5.3. 風呂の効果
波長域全体をみて、小さく、効率の悪いこ
ここで、更に砂風呂と湯風呂の人体にお
とが分かる。このようにエネルギ-プロフ
ける効果及び、いろいろな風呂の効果を考
ァイルの特徴を比較して、その間の因果関
えてみよう。砂風呂と湯風呂熱伝達特性の
係を調べれば効果の程が明確にできる。そ
違いを図6-29と図6-30に円グラフ
れをエネルギ-プロファイル別、つまり波
で示してみた。それによって砂風呂と湯風
長域別に調べてみた。50℃の砂では近赤外
呂のでは身体に与えるエネルギ-プロファ
線域(0.7μm~4μm)の授エネルギ-量が1.0
イルが違うことが分かる。そのことは効果
2
55w/m で、そのとき皮膚の吸収量は0.831w/
2
m であるから、その比は1.269(37.779%)とな
2
の違いの解明に多大の示唆を与えてくれる。
いろいろな風呂は身体を温める、清潔に
る。遠赤外線域(4μm以遠)では2.090w/m で、
すると言うことと共に生体組織の活性化と
比は2.090(62.22%)であるから遠赤外線域の
生理を整える目的がある。それには様式の
効率の良いことが分かる。それに対して4
異なる風呂の特徴が利用されている。これ
2
3℃の湯では近赤外線域が0.664w/m (62.28
2
まで、いろいろな風呂の形式が身体に与え
8%)で、遠赤外線域が3.392w/m (37.121%)で
る熱エネルギ-の授受関係を基に、そのメ
あるから近赤外線域の効率は遠外線域の効
カニズムを述べてきたが、その効果の程は
率より高い。直接、身体の組織に与える
如何なるものであろうか考えてみよう。
内老化物や不要で成分を排泄する。
人体の細胞液は主に0.9%の塩化ナトリウ
ムを含む、いわゆる生理食塩水である。そ
れが体液の、ほぼ浸透圧と考えられるだろ
う。したがって真水の湯風呂は浸透圧が体
内より低いから体液成分は風呂に溶け出す
ことになる。また著者の少々不潔、不衛生
図6-29 砂と皮膚との間の熱伝導特性
な体験であって申し訳ないが、これも実験
であるから、やってみた。そのことを述べ
てみる。つまり、真水の家庭用湯風呂で湯
換えをせずに10日程、毎日、家族共々入浴
してみた。3日程は、まあまあ清い湯にみえ
た。4日ぐらいから少しずつ白濁してくる。
細菌が繁殖し始めたと思った。でも我慢し
て10日ぐらい入浴したときステンレスの浴
図6-30
湯と皮膚との間の熱伝導特性
槽の壁に粒々が付いてきた。でも、それは
細菌ではない。何かが結晶として沈着して
湯風呂と一口に言っても真水を沸かした
きたと考えたのである。おそらく体内組織
風呂があれば温泉のように、いろいろな溶
から浸透圧によって排泄されたコレステロ
解成分を含んだ風呂もある。温泉は、その
-ルなどの体脂肪だろう。そんなことから
泉質を身体に気持ちよく熱を与えると共に
真水の湯風呂でも体中老廃物は入浴によっ
溶解している成分が身体に与える影響の良
て排泄されると思うのである。
さを謳うことが多い。したがって、日本の
温泉では溶けている成分の浸透圧で体内
温泉では温泉法によって必ず溶解成分と、
と湯との間に成分交換が行われる。そのこ
その効果が掲げてあるのである。温泉の種
とが真水の湯風呂とは違う。そんなことが
類は、その溶解成分で分類されている。主
泉質の違いと効果を考えるキイポイントに
要な分類は塩化物泉、炭酸水素泉、硫酸塩
なるだろう。温泉の加温による一般的適応
+
-
泉である。塩化物泉は塩(Na ,Cl )、塩化土
類((Ca
2+
,Mg
2+
),Cl2
2-
)などが溶解している
+
+
2-
温泉で炭酸水素泉は重曹(Na ,H ),CO3 、重
炭酸土類(Ca
2+
,Mg
2+
),CO3-等が溶解してい
2+
2-
る。硫黄塩泉は芒硝(2Na ,SO4 )石膏類
2+
2+
2-
2+
2-
(Ca ,Mg ),SO4 、緑磐(Fe ,SO4 )、明礬
3+
(3Al ,2SO4
2-
)等が溶けている温泉である。
効果は神経痛、筋肉痛、関節痛、運動麻痺、
打ち身、慢性消化器病、痔疾、冷え性、疲
労回復などで、それらは血流がよくなるこ
とによって細胞組織の新陳代謝向上による
効果とされている。溶解成分の体内浸透の
効果は切り傷、火傷、慢性皮膚炎症などが
主な適応症とされている。硫黄泉などは糖
それらの溶解物は、その浸透圧で細胞内に
尿病、高血圧症、動脈硬化症などの効果が
湯に溶解している成分を摂取する。また体
あるとされる。
空気浴サウナ、遠赤外線サウナ、砂風呂
点もある。赤外線による熱伝播の効率は、
は浸透圧による成分交換はないから汗と共
対象物にもよるが内部への直接浸透は少な
に老廃物の排泄が効果としての特徴だろう。
いから塊の乾燥には不都合である。とは言
そんな時、与えられるエネルギ-の量とエ
え薄い物の乾燥には効果的で洗濯ものを室
ネルギ-プロファイルが身体に、どの様な
内で乾燥するときなどには適するだろう。
影響を与えるかが大切な要因となる。空気
物が赤外線によって加熱されるのは、そ
が保有するエネルギ-は近赤外線的エネル
れを構成する物質の分子運動に寄与する電
ギ-プロファイルであるから、それは体中
磁波が、うまく吸収された時であって、そ
水分に与えるエネルギ-の比率が多い。そ
のメカニズムに適合しない赤外線は表面で
れに対して遠赤外線サウナは放射体の種類
反射されたり、透過したりして役に立たな
や温度によって、いろいろエネルギ-プロ
い。したがって被乾燥体に吸収されやすい
ファイルに調節できる。つまり高効率赤外
プロファイルの赤外線を照射することが大
線放射体を500℃程度にすれば波長約3.5μ
切で、そこに心掛ければ成果が上がる。
mの近赤外線域放射プロファイルが得られ3
00℃では約5μmの遠赤外線放射プロファイ
6.6.1 乾燥実験の手順
ルとなって体中水分より、むしろ筋肉細胞
洗濯物など布地の乾燥効果は暖房の項で
に多く吸収されるエネルギ-となる。その
述べた木綿と赤外線プロファイルでの考察
時、供給エネルギ-を同じにするとすれば
と同じであるから、ここでは赤外線による
放射面積を広くすればよい。遠赤外線放射
乾燥現象を硬質陶器タイルの締め焼き素地
体では元来、遠赤外線域に中心を持つ放射
を乾燥することを例として考えてみる。こ
プロファイルを持っているから放射温度を
こでも放射体と乾燥体との間のエネルギ-
高くしても遠赤外線プロファイルの特性を
授受関係のメカニズムを考えれば、その効
持つ放射エネルギ-が得られ易い。
果が分かる。
砂風呂は砂が保有するエネルギ-プロフ
図6-31は乾燥実験に用いた放射体3
ァイルで、その強度中心が遠赤外線域にあ
種の分光赤外線放射率曲線で図6-32は
るため近赤外線域に中心を持つ湯風呂の体
湿った被乾燥体の赤外線吸収スペクトルを
中水分に、より多くのエネルギ-を与える
示したものである。乾燥であるから水に関
ことと異なって筋肉細胞に直接与えるエネ
係する赤外線域に注意してみよう。つまり
ルギ-が多い。したがって入浴による汗は
水のH2O分子のH-O-Hの原子間伸縮振動に
筋肉細胞からの老廃物の排泄が前述のよう
関する波数域は3652cm-1に中心があって波
に他の風呂より多いと言うデ-タ-がある。
長表示では2.74μmである。それにH-Hの水
素結合が切断する波数域が1595cm-1で波長
6.6 赤外線乾燥
熱の伝播形態には伝導と対流および放射
がある。その中で放射は途中の媒体による
損出が無視できるので効率がよい。でも欠
域では6.27μmにある。この2カ所の赤外線
吸収強度が小さくなることによって乾燥が
進んだことが分かるのである。
図6-31を見て乾燥が進んだ時、水分
図6-33
乾燥実験に用いた各種放射体
の使用時の放射特性
図6-31
乾燥実験に用いた各種赤外線
放射体の分光赤外線放射率曲線
図6-34 実験装置
図6-32 被乾燥帯の赤外線吸収特性
定電力を供給した。この場合は529.3w/hrで
が減れば波長2.7μmと6μm付近に中心をも
あった。放射体(1)は放射率が短波長から長
つ谷ピ-クは小さくなる。乾燥には、この
波長にわたって高く、またリニア-であっ
2カ所の吸収域に強い放射強度を持つ赤外
て、そのようなものを高効率赤外線放射体
線を照射することか効果的であるが。放射
と呼ぶことにする。放射体(2)は、短波長域
体のもつ全エネルギ-を、その2カ所に集
は放射率が低いが3μm付近以遠では漸次
中させる技術は今のところ無い。それが、
高くなる。そんなプロファイルを持つ授熱
できたとしても特別な装置になり実用的と
体を遠赤外線放射体とする。放射体(3)は赤
は行かないだろう。したがって、ここでは
外線域全般にわたって放射率が低いので、
3種のセラミック赤外線放射体を用いてど
それを低効率赤外線放射体と呼ぶことにす
の放射体が乾燥効果が高いかを調べてみる。
る。
エネルギ-源は電熱であるが赤外線放射
放射体はシースヒーターであるが(1)は2
媒体としては図6-31に示した3種のセ
本用いて、その表面積は179cm2であった。
ラミクスを用いた。その時の放射特性を図
それに529.3w/hrの電力を供給すると表面温
6-33に示す。乾燥実験の装置を図6-
度は約500℃となった。(2)や(3)の放射体も、
34に示したが、そのとき3種の放射体と
なるべく、それに近い温度にしようと心掛
も供給されるエネルギ-は定電力装置で一
けた。そのために(1)より放射率の低い(2)は
内部に熱が隠ってしまうので温度を同じぐ
らいにすれば放射面積を広くしなければな
らない。したがってシースヒーターを3本
にした。すると表面積は269cm2となり表面
温度は415℃となった。更に放射率の低い(3)
はシースヒーター4本を用いて表面積358c
m2で540℃であった。それらの放射体の効率
は湿った被乾燥体との間のエネルギ-授受
関係の適合性で決まる。それを示したのが
図6-36の上図である。(1)は高効率赤外
図6-36 各種赤外線放射体の乾燥効果
線放射体、(2)は遠赤外線放射体、(3)は低効
率紅放射体の各放射体に電力529.3w/hrを供
この図から3種の放射体の乾燥効果が検討
給したときの放射エネルギ-プロファイル
できる。図6-35で高効率赤外線放射体
を示し、湿った硬質陶器素地の赤外線吸収
(1)は放射量が多く被乾燥体のエネルギ-を
スペクトルと、どのようなエネルギ-授受
授ける能力は抜群である。それに対して(2)
関係にあるかを示した。
の遠赤外線放射体は放射量が少なく、しか
も、その中心波長は長波長方向に移行して
いる。そのため吸収体の水の波長帯は放射
曲線から、はみ出してしまう。そのことは
水の吸収帯に充分なエネルギ-を授けるこ
とができず、それが高効率赤外線放射体(1)
図6-35
放射体と乾燥体との間のエネ
ルギ-授受関係
より乾燥効率の低い一つ理由となる。低効
率赤外線(3)は、どうだろうか。(1)に較べて
放射量が極めて少ないが中心波長は(1)と、
それは勿論、定性的、比較関係を検討す
ほぼ同じであるから水の吸収帯関係は(2)よ
るために図示したものであって完全に定量
り高い、そのかわり乾燥体が強く要求する
的なものとは言えないが、どのような放射
4μm付近より以遠のエネルギ-帯への供
体が乾燥に適するか、それを比較検討する
給量は減り赤外線波長域全体の授受関係は、
には充分である。
むしろ(2)より低下した。そのことが(3)放射
さて乾燥効果の違いは図6-36に示す
体の最も乾燥効率の悪い理由となる。
ように歴然と違う。そのメカニズムを、こ
そんなことが異なる特性を持つ放射体に
こで考えてみよう。図6-35は被乾燥体
同一エネルギ-を加えても被加熱体を暖め
が充分に含水しているときで水が蒸発する
る効果に違いが生ずる理由となる。実際に、
と放射体と乾燥体の関係は乾燥初期から時
その効果の違いは図6-36のように明確
間が経過するにつれて漸次、水分に関係す
に現れている。例えば乾燥を始めてから1
る2.7μmと6μmピ-ク高度が低下して行く。
2分経過した時点の、それぞれの放射体の
効果、つまり水の蒸発による重量減は高効
外線放射率(ε)が低くなるにつれて表に示
率赤外線放射体(1)で7.6%、遠赤外線放射体
されているように放射面積を広くしなくて
(2)では5.6%、低効率赤外線放射体で4.9%で
はならない。
ある。効率の比率で示せば(1)を1.00とすると
表6-1 各放射体の乾燥特性の比較
(2)では0.74、(3)では0.64である。20分経過
時では(1)で12.4%%:1.00、(2)では11.0%:0.
89、(3)では9.8%:0.78であった。
これらのデ-タ-は実験工学の立場から
考察したものであるが、それでも効果の検
証と実情に応じた指針が得られることは大
きい。しかし物を加熱するとき、今まで考
けれども放射量は(1)の高効率赤外線放射
察したように放射と吸収の相互関係が大切
体でエネルギ-供給量に対して65.5%、(2)
であるが対流分も無関係ではない。また赤
の遠赤外線放射体は50.78%、(3)の低効率赤
外線によって温まった被乾燥体は、それ自
外線放射体は47.16%となる。その違いは(3)
身の内部伝導による熱拡散があるので水の
のように放射率の低下と放射面積が広くな
吸収帯だけに注目するわけにもいかない。
るにつれ熱伝播として損失の高い対流分が
もっと時間とともに変化する熱エネルギ-
多くなることによるのであって乾燥効果は
伝播のメカニズムを、とくと追跡し、それ
対流より放射の方が高いことを裏付けてい
らを検証デ-タ-に加えなくてはならない。
る。したがって乾燥効果は、まず放射量/
また一定エネルギ-を各放射体に与えてい
供給量に比例し、次にエネルギ-授受関係
るのであるからエネルギ-保存の法則によ
の相性となるだろう。そこを調べることが
って放射以外のエネルギ-は対流と伝導で
極めて大切である。表6-1で放射量/吸
あることは言うまでもない。それらも乾燥
収量は高効率赤外線放射体を1.00として遠
に寄与しているが、実際、乾燥には放射が
赤外線放射体では0.775、低効率赤外線放射
最も効果的であることは、これまでの考察
体では、0.720である。それらの間の差分率
のように明確である。
では高/遠=22.5%、遠/低=5.60%である
から乾燥効果は前述の通り、高(1)、>遠(2)、
6.6.2 乾燥効果の検証
>低(3)の順であるのは理解できる。けれど
今まで赤外線放射特性の異なる3種の放
も遠/低の差は比較的小さいが図6-36
射体が硬質陶器素地の乾燥に及ぼす効果を
のように乾燥効果の差は、それ以上に大き
赤外線放射発散度曲線と吸収スペクトルの
い。そのことが放射体と被放射体の相性と
適合性として考察してきたが、ここで、そ
言うことになる。更に図6-36を、よく
れぞれの関係を表にして更に詳しく調べて
見てみると乾燥が進むにつれて、その差は
みることにする。例えば表6-1の一定供
広がっている。それが授受関係の相性であ
給エネルギ-で放射体の温度を、ほぼ同じ
って極めて大切なことである。それは図6
ぐらいにするためには、その温度での全赤
-35で、そのエネルギ-授受関係を調べ
てみれば分かることであるが表6-1でも、
囲気で乾燥を行いたいと言うときだろう。
それを調べてみよう。
でも物を乾燥する多くは洗濯ものを干すよ
ここで加熱力とは放射量/吸収量のこと
うに蒸発した水蒸気が速やかに取り除かれ
で、その値が大きい程乾燥に寄与するエネ
るような解放された装置の方が効果的だろ
ルギ-が高い。したがって、ここでも高(1)、
う。そんなことに赤外線放射エネルギ-で
>遠(2)、>低(3)であることは、よく理解で
の乾燥と言う仕組みが有効となるのである。
きる。
このようにして乾燥効果を解析してきた
加熱が進んだときは、どうだろうか。い
がエネルギ-の授受関係は、いろいろ複雑
ずれもカッコの中のように加熱力は高くな
な因子やデ-タ-の測定方法等が絡んで正
っているが、その上昇割合の差がそれぞれ
確な定量的デ-タ-を得るのは難しい。特
異なる。つまり高(1)では0.36倍、遠(2)では0.
に授エネルギ-体の半球面赤外線放射発散
28倍、(3)では0.26倍である。水の蒸発が進む
度と受エネルギ-体の吸収特性の関係で処
につれて乾燥体へのエネルギ-の寄与率は
理することは、あくまで定性的な方向性を
更に高(1)>遠(2)>低(3)の順となる。特に(2)
示す解析法であることを、ここに、ことわ
と(3)を比較すると(2)の方が、差が大きいの
っておきたい。でも、この考え方の整合性
で、その間には時間経過とともに加熱力に
は高いと思うのである。人間生活において
差が生じたことを意味するのである。つま
乾燥は洗濯物などのように日向に出して自
り放射量としては、ほぼ同じぐらいであっ
然に乾燥することが多いだろう。それには
ても乾燥体の水分が蒸発するにつれてエネ
気温の低い冬より高い夏の方が有利である。
ルギ-の授受関係は漸次、遠赤外線放射体
つまり温度が高い程水分は、その分子運動
(2)の方が乾燥体との適合性がよくなるので
が活発になって水蒸気となり飛散しやすく
ある。ここにエネルギ-授受関係の相性が
なるためである。それに大気は水蒸気が常
遠赤外線利用において最も大切であること
に含まれていて雨の日など水蒸気分圧が飽
を強く啓蒙したいのである。
和量に近くる。そんなとき、夏であっても
このように物を赤外線放射体で乾燥する
充分な乾燥は難しい。そのように乾燥は温
とき熱伝播方式のなかで放射が最も効果的
度と水蒸気分圧が関係するので乾燥物の周
で、それを第一に考えなければならないが
りの大気は速やかに取り除く必要がある。
次に放射特性と吸収特性との関係、つまり
そんな条件を人工的に作るとすれば囲いを
相性を合わせれば乾燥効果は更に向上する
有する乾燥器と異なってオ-プンシステム
と言うのが理屈である。しかし赤外線乾燥
ができる赤外線乾燥は誠に合理的だと言え
には薄い物の方が扱いやすい。また密閉し
る。要は乾燥物の温度を高めるため、よく
た装置ではなく解放された装置で効果が発
適合するプロファイル、特に水の主エネル
揮されるのである。世間では、しばしば、
ギ-吸収波長2.74μmの電磁波を多く含む
そこを履き違えていることが多い。乾燥は
赤外線を照射することが効果的である。そ
昔から乾燥機と言う器の中で行うことが多
れに空気の流通をよくすることである。
いが、そんなときは器の中でクリ-ンな雰
1938年フオ-ド社は自動車の塗装の乾燥
焼き付けに赤外線を用いたと言われ、それ
それは当たり前のことであって長い目でみ
が工業的利用の最初であった。日本におい
ればバイオテクノロジ-や生体への有用な
ても、いち早く採用されて街の自動車板金
効果に結びつくことは必ずあると言える。
工場も赤外線電球を並べた乾燥風景は、お
なじみであった。このように乾燥とは水や
7.1
塗料のソルベントを蒸発させることである
ルギ-利用
常温・生活温度を中心にしたエネ
から、それに適合する赤外線が効率がよい
現実にもどって万物を構成している無機
ことになる。それに乾燥体の組織に効果の
物、有機物、総てのもの、更に生物・生命
高い赤外線も乾燥物全体を温めることに寄
現象も行き着くところはエネルギ-の成せ
与していて、その熱は間接的に蒸発成分に
る技であると思う。その小さなエネルギ-
伝播する。このように複雑な乾燥のメカニ
の塊が、今、話題のクオ-クだろう。生命
ズムではあるが乾燥物の総合赤外線吸収プ
体に至っては本能・理性・感情も究極的に
ロファイルと放射体のプロファイルとの間
源を辿れば、ただのエネルギ-の移動、つ
の適合性を考えれば、どんなプロファイル
まり、その伝達様式の組み合わせが成すこ
の放射体が、どのようなものの乾燥に適す
とであると言う表現に到達する。互いに、
るか見当はつくものである。
そのエネルギ-のコンバ-トと共に万物は
変化と個性のある営みを行っているのであ
7.バイオテクノロジ-、生体科学と
しての遠赤外線効果を考える
る。
絶対零度は、そのエネルギ-のコンバ-
トが停止している状態にすぎない。われわ
遠赤外線の利用が叫ばれてから久しくな
れ人間は常温で生活しているが。それも30
ったが当初の熱利用分野とは別な感覚を呼
0゚Kのエネルギ-の飛び交う雰囲気の中に
び起こす非加熱遠赤外線分野というジャン
ある。赤外線のようなエネルギ-形態で考
ルが勃興した。つまり加熱しない常温での
えてみても僅かな変化で寒い、暑いと感ず
放射エネルギ-が人体の生理・生体、ある
る。それを脳に伝達するのも信号としての
いは植物の生長などのバイオテクノロジ-
エネルギ-が司るっているし、それらの授
に利用ができる、と言うものであって、そ
受にはエネルギ-のプロファイルが関係し
れが世を風靡し、遠赤外線産業の主体とさ
ていることになる。それは互いに相性もあ
えなった。それらの中には効果の検証が不
って誠に複雑、微妙なものと言わざるをえ
十分なものもあったことは否めない。でも
ず神秘なこととしか言いようのないことも
非加熱遠赤外線効果と言うことを頭から否
ある。しかし微妙な変化と言えるが瞬時に
定してはいけない。それは常温でもケルビ
感ずることができれば有用か、無益か判断
ン零度から数えれば300゚Kの温度雰囲気に
し易い。でも長期にわたることになれば検
あるので、物質が異なれば比熱が違うよう
証するチャンスを逃すこともある。そんな
に保有エネルギ-の量と形態に違いがあり、
ことで、今のところ、その真偽を正しく説
授受関係においても互いに特徴が生ずる。
明できる検証は見あたらないようである。
そこが遠赤外線分野を少なからず混乱させ
で扱われてきた。したがって化学的な物質
ていることだろう。けれども、それを解く
の組織・構造との間の関係を蔑ろに仕勝ち
2
鍵はアインシュタインのE=mc の中に総て
であった。遠赤外線も自然科学の範疇であ
が秘められているのかもしれない。
ることに鑑み物理学、化学とセクショナリ
今、遠赤外線利用分野では常温雰囲気の
中の異物質間でエネルギ-の授受が有るか
2
ズムにとらわれず包含した観点に立つべき
であると思うのである。
無いか論議されている。E=mc が完全に成立
赤外線は 0.76μmから 1000μmの電磁波
し、そのエネルギ-移動のメカニズムと扱
であるとされる。理化学辞典(岩波書店)
う技術が確立したならば、それが遠赤外線
によれば 0.7μmから2.5μmまでを近赤外
の常温効果を解く鍵となって、やがて人類
線、それより25μmまでを中間赤外線、それ
の福祉に繋げることができるかもしれない。
以遠を遠赤外線と言っている。また、その
けれども、それが直ちにできるわけではな
分別の由来も記されていて、それぞれ電磁
い。人間は英才と言われるような飛び抜け
波分光学的及び分子構造量子論的に電子ス
た能力を発揮する人がいるが、まだまだ愚
ペクトル、振動スペクトル、回転スペクト
かで理不尽な行動をとることがあるからで
ルと説明されている。つまり物質を構成す
ある。とはいえ偉人のアインシュタインが
る原子間の電子の遷移に関与するのが電子
唱えた相対性理論と量子論との間にさえ物
スペクトルであり、原子間の運動に関係す
質間に関わる重力に矛盾があることが現代
るのが赤外線スペクトルである。その間に
物理学の焦点になっている。その間を纏め
スペクトルとしてはっきりした境界がある
る統一理論が無いものかと素粒子を結びつ
わけではない。可視光線でも紫から赤まで
ける紐理論が提唱されている。しかし、そ
あるが青と黄では明らかに区別できる。し
れが成功したとしても、今、直ちに人間生
かし橙と赤の境は、と言えば分からないの
活に中に有用に取り入れられる見通しは立
と同じである。でも発生の仕組みの違いが
たない。けれども総てはエネルギ-の塊と
波長範囲を定めることは確かである。万人
言う概念が統一理論の有力な道具であるこ
が納得する確固たる説明のないままである
とは間違いない。
が我々の遠赤外線分野で普遍的に言われて
著者が永年、仕事としてきた遠赤外線利
いる赤外線の効果を考えなければならない。
用分野でも遠赤外線とは何であるか、当世
のこの分野の業界でも議論が絶えず混乱を
7.2.遠赤外線は植物の生長を促す
招いていた。各分野で勝手な判断もあって
著者が本格的に遠赤外線分野に携わった
視点も狭すぎる節もある。元来、赤外線と
のは日本の国策としてのム-ンライト計画
呼ばれるエネルギ-は1800年、F.W.Herchel
に参加したときであった。このように赤外
が可視光線スペクトルの赤の端より長波長
線とはエネルギ-伝播媒体としての一つの
側に熱効果を起こす電磁波があることを発
形態で特に長波長域での省エネルギ-効果
見し、1835年、A.Ampe're が、それは電磁波
を確立することであった。赤外線による熱
あることを示して以来、分光物理学の分野
伝播は対流や伝導と異なって途中媒体に奪
われるエネルギ-が少なく、また遠赤外線
の指導に赴いたときであった。遠赤外線を
域は物質に吸収されやすいので省エネルギ
担当している大学教授の実験室には水を張
-に大変役に立つことを明確にした。しか
ったコップ程のガラス容器の上に玉葱が乗
し1973年に起こったエネルギ-ショックの
っかっていた。一つは只の水、一つは遠赤
対応がスム-ズに行われたためか、しばら
外線の効果があると世間で言う麦飯石が底
くすると省エネルギ-としての遠赤外線技
に沈めてあった。もう一つは遠赤外線の効
術は萎んでしまった感がある。それから30
果があると教授自身が自慢するセリサイト
年経過したが昨今、地球にやさしい環境作
鉱物が入っていた。それぞれのコップの上
りがクロ-ズアップしている時、有限な化
に乗っかった玉葱の根は水中に長く伸びて
石燃料を節約して環境保全に努めることが
いたが、このように水耕状態の違う三つの
世界世論として叫ばれている。そんな所に
玉葱の成長ぶりは図7-1のように確かに
遠赤外線技術の出番は、失われていないが、
差があるのである。
熱利用分野とは別に非加熱赤外線利用と言
うべき分野がブ-ムとなってきた。つまり、
非加熱常温での植物の生長や人体の生理成
長に及ぼす遠赤外線効果等バイオテクノロ
ジ-への利用が世を風靡し、ブ-ムとなっ
たが、その多くは効果の検証が不充分で商
売戦術が先行した感は払拭できない。だが、
それを頭から否定してはいけない。つまり
万物が地球上で生命を営んでいる常温でも
図7-1 玉葱の水耕生育
ケルビン零度から数えれば300度の温度エ
ネルギ-の雰囲気にあるので異なった物質
そのとき水耕を始めて約一ヶ月経過した
間では多少なりとも互いにエネルギ-プロ
ときであった。水だけのものは青い葱葉部
ファイル変換はあり得ることになるが、確
が5cmほど伸びてはいたが勢いはなく水は
かな証拠は掴み難い。でも時々、何か効果
若干濁っていた。つまり微生物・細菌が繁
のあるような現象が見つかることもある。
殖しているようであった。それに較べてセ
要は普遍的で有用な現象が確実に存在する
リサイト鉱物が入っているのは、よく伸び
ことが大切で、それが遠赤赤外線効果か、
て30cmにもなっていた。麦飯石は10cm程、
あるいは他の作用によるものか、その検証
成長しているがセリサイトの入っているも
は、ゆっくりと確かめることにしても一向
のと較べれば、その差は歴然としているの
にかまわないことだろう。それらを纏めて
である。そこで日本に帰ってから普通の葱
小さなエネルギ-の移動メカニズムと効果
株で早速、実験してみた。図7-2が、そ
と言う位置づけをしたいと著者は思ってい
れである。
る。
著者が15年ほど前に韓国へ遠赤外線効果
時は初夏であったが図の左は容器の中に
セリサイト鉱物の粒が入っている。右は、
長石は(K2O・Na2O)・Al2O3・6SiO2で、白雲
母は1/2K2O・3Al2O3・6SiO2・2H2Oで示され
るようにK+を含んでいて、それが水耕栽培
をするとき極、少量が溶けるのである。そ
のときカリウムイオンは植物にとって窒素、
燐と共に栄養素の一つであるから、それが
図7-2 葱の水耕生育
玉葱や葱切り株の効果に繋がったのかもし
れないと思っている。
ただの井戸水だけである。このように明ら
生け花の寿命を延ばすのに2価鉄イオン
かにセリサイトが入っているものの方が、
(Fe2+)の還元力が成長を促し、活力を与
よく成長した。何故だろうか。世間で言わ
えると言われている。K+も同じような仕組
れる遠赤外線効果だろうか、考えてみる必
みで効果を生んでいるものと考えても矛盾
要がある。
はないと思う。
セリサイトは鼠色で、麦飯石は黄土色で
10年ほど前の正月であった。日本の島根
あって淡いが色が違い、その組織・構造も
県の浜田へ技術指導に赴いたとき、昼食の
異なるが同じ珪酸塩鉱物であることから短
ためにレストランに入った。蒸留瓶のよう
波長域は放射率が低く4μm付近以遠では高
な硝子製の容器の上で見事なヒアシンスが
い、いわゆる遠赤外線放射体特性を持って
水耕栽培で咲いていた。二つあって、その
いて、よく似ている。しかし同じような遠
一つには只の水道水、他の一つはセラミッ
赤外線特性を持ちながらセリサイト鉱物と
クスで処理された水が入っていた。セラミ
麦飯石とでは玉葱の生長効果に違いがある
ックス処理水を用いた方は花茎が15cm程に
ことを、どのように理解すればよいか迷う
伸びていてピンク色の華麗な花弁は見事で
のである。率直に言って、よく分からない
あった。只の水道水のほうは10cm程で、ほ
がセリサイト鉱物を構成している成分と、
ぼ同じように咲いていたが勢いの違いは誰
その組織・構造かもしれないと思うのであ
でも気がつくのであった。そこで開花した
る。そこで韓国産セリサイト鉱物の化学分
過程を店の主人に聞いてみると処理水を用
析値を調べてみた。またX線回折で白雲母、
いた方が10日ほど早く花芽が出て、花の付
長石、珪石、それに少量の粘土で構成され
きも勢いもよいとのことであった。主人は
た鉱物であること同定した。表7-1は、
遠赤外線効果と言う「ふれ込み」で購入し
その鉱物の化学分析値と推定鉱物組成を示
たそうであるが、念のため効能書きを見せ
したものである。
てもらった。それには「この魔法のセラミ
表7-1 セリサイト鉱物の組成
クスは遠赤外線と還元力が効果となる」と
書いてあった。この場合、遠赤外線効果は
「ちょっと、どうかな」と思うが還元力効
果は注目に値すると思うのである。水道水
に投入される消毒剤は発生期の塩素が生じ、
その強い酸化力は殺菌・抗菌にはなるが植
びているのは、やはり含まれている鉄は2
物の生長にはよくないように、植物には還
価鉄イオン(Fe2+)であることになる。こ
元性が大切である。
の段戸山岩石の化学分析値と推定鉱物組成
セラミックスを眺めてみた。色は黒褐色
も表7-2に示しておく。また、段戸山岩
である。著者はセラミックの研究も専門と
石を砕いて花瓶に入れておけば切り花は生
しているから、それが、どんな物であるか、
き生きと長持ちすると言う。
おおよその見当はつく。つまり2価鉄イオ
表7-2段戸山岩石の組成
2+
3+
ン(Fe )と3価鉄イオン(Fe )が共存するセ
ラミックスであると思う。Fe2+は酸化性の
水道水を還元しセラミックスから僅かに溶
け出すカリ、ソ-ダ等のカチオンも還元作
用があるから、それらの効果がヒアシンス
の水耕生長に良い影響を及ぼしたのだろう。
ある時、日本の愛知県東三河の段戸山で
それも岩石から溶け出すK+やNa+のような
イオンとFe2+イオンによるのかもしれない。
産する岩石で硝子コップを作ってみたら、
そのコップはビ-ルの味が「まろやか」に
7.4.植物の生長に役立つ小さなエネル
なると言うのを持ち込まれた。持参された
ギ-
コップで、早速、ためしてみた。普通のコ
植物の生長には電磁波エネルギ-が要る。
ップと並べてビ-ルを注ぐと持参されたコ
そのエネルギ-は人間が動力に用いるエネ
ップは細かい泡が長く立つのである。著者
ルギ-を大きなエネルギ-とすれば小さな
は、お酒音痴だから、どちらが美味しいか、
エネルギ-と、誠に勝手であるが言うこと
よく分からないが持参されたコップのビ-
にしておこう。
ルは、むしろ「なるく」なったような気が
植物の葉は緑色が多い。それは太陽光と
した。それは泡立ちにあると思う。ビ-ル
空気中の炭酸ガスによる同化作用で葉緑素
に溶けている炭酸ガスの「ピリッ」とした
が合成されるからである。また冬は生長が
感じが泡立ちによって抜けてしまったから
鈍く春から夏にかけて活発になるのである。
だろう。比較コップは著者が日常、使用し
それには季節による光の強さと共に温度の
ているものであったから内面に油の皮膜に
周期的な変化に適合する熱エネルギ-が必
覆われていることだろう、そのときは泡立
要であるが、エネルギ-のプロファイルが
ちが抑制されるので比較コップとしては不
関係していることも明らかである。
適当であったかもしれない。しかし一応、
日本の愛知県岡崎市にある基礎生物研究
段戸山の岩石を調べてみた。見た目は暗緑
所では人工光をプリズムで分光して、どん
色の淡い色であるが花崗岩のような斑紋状
なプロファイルの光が植物の生長に作用し
でなく比較的一様な組織である。それは深
ているか調べている。その結果、青から緑、
成岩でなく噴出岩に近い石英斑岩、あるい
黄にかけての光より赤と紫が強く関与して
は蛇紋岩と呼ばれるものだろう。緑色を帯
いることが確認できた。葉が緑であること
は、その光を反射しているからであって同
生長がよかった。つまりフィットクロムの
化作用に強い関係はないことになる。その
影響があると思える。
ように考えると植物の生育について門外漢
1960年頃であった。日本の愛知県渥
の著者は、よく分からないが紅目樫の新芽
美半島で野菜や切り花をビニ-ルハウスで
は赤い。したがって、むしろ緑や黄の光エ
栽培している農家から相談を受けた。一見、
ネルギ-を摂取して同化作用を起こしてい
同じようにみえる透明なプラスチック幕で
るだろうかと、思えるのである。
覆われた2つのハウスで、ハウス栽培をし
日本の愛知県渥美半島での菊の栽培は秋
ているが、一つは、よく育つが、他の一つ
の夜に電灯の光を当てて開花を遅らせ冬場
の方は、どうも思わしくない。それぞれの
に出荷する栽培法が盛んである。いわゆる
ハウスに用いたプラスチック幕の種類が違
電照菊である。それによって菊は秋の到来
うからだと思われたようであった。見た目
を半年も忘れてしまって冬に開花するので
は同じようなプラスチックシ-トであって
ある。この現象を植物分野では光周性と呼
も何かが違う。著者は可視光の透過スペク
んで農業栽培の重要な技術になっている。
トルを測定したが違いはなく、どうしてだ
光周性に強く関与する光プロファイルも赤
ろうかと悩んだのであったが、今、考えて
であることも分かった。
みると、植物のフィットクロム現象に関係
赤外線はどうだろうか。光周性に関わる
する赤外線と紫外線の透過スペクトルを調
赤に近い近赤外線は光周性作用の逆の働き
べなかったのは手落ちであったと思う。今
をすることも分かっている。このように植
は、そこが成長に影響したのではないかと
物は光から赤外線に至る電磁波のプロファ
考えている。
イルを生体現象に選択して取り入れている
このように生物の生体現象に電磁波エネ
ことは明らかで、それを植物のフィットク
ルギ-のプロファイルが深く関係すること
ロム現象と言っている。
は疑う余地はない。ミトコンドリアはエネ
波長3μmあたりから以遠の赤外線エネル
ルギ-をATPの形として蓄積するのであ
ギ-は原子間や分子間を運動させるいわゆ
るが、そのATPの生産にはどんなプロフ
る熱エネルギ-帯であるから光のような化
ァイルエネルギ-が必要なのか興味がわく。
学作用を促すエネルギ-に対比すれば水や
ATPは光が関係しない生体現象であるか
養分を運ぶ、いわゆる生命を活性化させる
ら波長の長い、つまり遠赤外線エネルギ-
エネルギ-だろう。人間は、それを温室栽
であると思われるのである。
培と言う手法を採っている。この場合も適
切なフィットクロム現象を見つけることも
7.5.地球温暖化防止と遠赤外線
賢い温室栽培に繋がることだろう。実験的
世は21世紀に入った。戦後の20世紀
に温室を作り、そこに中心波長が5μm付近
後半は人類を物量的に潤し、生活を豊かに
の赤外線発生パネルヒ-タ-を置いてみた。
すると言うことを大儀名文に掲げたアメリ
部屋全体の雰囲気温度を高くするようなも
カ主導の市場経済に世界が振り回された感
のではなかったがヒ-タ-に近い所の方が、
があって生産も加速度的に増えた。けれど
も地球人口は四半世紀で40億から60億に達
加熱技術が省エネルギ-に効果的であるこ
し、今なお増え続けているから生産は追い
とをグロ-バルに認識したい。
つかない。そんな世情が資源を使い果たし、
深刻な環境破壊が迫っている。でも地球人
8.あとがき
口の1/3は、いまだに飢えていて豊かになっ
現在、省エネルギ-に関する対策がグロ
たのは一握りの先進国と言われる国々に過
-バルにクロ-ズアップされている。それ
ぎない。
は枯渇する石油など地下資源の節約と炭酸
食料さえ賄いきれない状態にある途上国
ガスなどによる地球環境の汚染防止等であ
では我々も先進国並みの生活をと、要求す
る。その対策に赤外線による熱伝播を活用
る。それは人道上当然だとしても餓死者の
することは大変、意義のあることと注目さ
でない地球人口は80億が限度と言われてい
れる。それと共に健康保守や生理・生体の
て、このままの増加率で推移すると80億は、
管理に遠赤外線の活用は効力があり、その
あと20年程で訪れることになるから人類の
ために生活に関わる小さなエネルギ-の挙
行く末は心細い。
動を明確にして有用活用の原理の確立を図
人類の生活は衣食住であるが、それを賄
らなければならない。
うにエネルギ-が不可欠である。それは、
本書に記載したデ-タ-の殆どは著者自
ややもすれば環境破壊に繋がりかねないの
身の実験によるものであって、その効果の
でクリ-ンなエネルギ-の開発と省エネル
メカニズムを確かめ、検証したものである
ギ-が世界世論で大きな声となっている。
から赤外線の利用について、それなりに読
そんな中、1997年12月、日本を議長国とし
者を説得できるものと思っている。
て環境問題国際会議、俗に言う地球温暖化
防止京都会議が行われた。先進国、発展途
上国等、それぞれの国情によって摩擦もあ
ったが日本は炭酸ガスの6%削減を約束して、
なんとかメンツを施したようである。そこ
で日本政府は早速、1998年度の環境対策費
として70億円の予算を提示した。それは前
年の20倍であった。でも金を投じても手法
を確立しなくてはどうにもならない。では、
どうしたらよいだろうか。産業界にエネル
ギ-の節約を課すこともあるだろう。低燃
費型自動車、燃料電池、風力発電、太陽光
発電等、クリ-ンなエネルギ-開発や利用
が注目されているが迅速には捗らず、とり
あえず化石燃料の使用を減らす省エネルギ
-が緊急な課題だろう。その一つに赤外線
本書が香港遠赤外線協会の力添えになれ
ばと念願するものである。
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