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循環系応答に対する骨格筋からの求心性入力による 抑制作用 Inhibitory

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循環系応答に対する骨格筋からの求心性入力による 抑制作用 Inhibitory
博士(人間科学)学位論文
循環系応答に対する骨格筋からの求心性入力による
抑制作用
Inhibitory effects on cardiovascular responses via
afferent input from skeletal muscle
2007年1月
早稲田大学大学院
時澤
人間科学研究科
健
Tokizawa, Ken
研究指導教員:
村岡
功
教授
目次
第1章.緒言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1~3
第2章.文献考証 ・・・・・・・・・・・・・・・・・
4~10
2-1.ヒトにおける研究・・・・・・・ 4~8
2-2.動物における研究・・・・・・・ 8~10
第3章.下腿の筋機械受容器の活性化が前腕筋虚血中の循環系応
答に及ぼす影響 ・・・・・・・・・・・・
11~18
3-1.緒言・・・・・・・11
3-2.方法・・・・・・・12~13 (Figure3-1)
3-3.結果・・・・・・・13~16 (Figure3-2, 3-3, 3-4, 3-5)
3-4.考察・・・・・・・16~18
第4章.下腿の筋代謝受容器の活性化が前腕筋虚血中の循環系応
答に及ぼす影響・・・・・・・・・・・・・
19~27
4-1.緒言・・・・・・・19~20
4-2.方法・・・・・・・20~21 (Figure4-1)
4-3.結果・・・・・・・22~24 (Figure4-2, 4-3, 4-4)
4-4.考察・・・・・・・25~27
第5章.下腿の血管機械受容器の活性化が前腕筋虚血中の循環系
応答に及ぼす影響・・・・・・・・・・・・
28~35
5-1.緒言・・・・・・・28
5-2.方法・・・・・・・28~30 (Figure5-1)
5-3.結果・・・・・・・30~32 (Figure5-2, 5-3, 5-4)
5-4.考察・・・・・・・33~35
第6章.総合論議 ・・・・・・・・・・・・・・・
謝辞
36~38
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
引用文献
・・・・・・・・・・・・・・・
39
40~45
第1章:研究背景および目的
多細胞生物であるヒトの細胞は,外界から酸素や栄養を直接取り入れることができない.した
がって,酸素を取り入れる肺,そして肺から細胞へとつなぐ心臓と血管からなる循環系を発達さ
せ,その働きを用いることとなる.循環系が正常に働くためには,多くの組織の中でどの部位が
酸素を必要としているのか,またどれだけの酸素を必要としているのかという情報を正確に把握
することが必要であり,各組織からの情報の受容とそれに応じた出力系が不可欠である.このフ
ィードバックシステムには,感覚系,中枢神経系,そして末梢神経系が協同して行うこととなる.
安静から運動という変化に伴い,循環系は急激な適応が必要とされる.わずか数リットルとい
う限られた血液で高まる酸素需要を満たすために,心臓から拍出する血液の量を増やし,血圧を
上昇させ,そして活動している骨格筋への血流量を増やす.このとき,活動していない組織では
血流量を減らす.身体活動を適切に,または最大限に発現するためには不可欠な応答である.こ
のような循環系応答を支配する出力系は自律神経であり,主に交感神経活動の亢進によって引き
起こされる.
出力系である交感神経活動を亢進させるメカニズムは 3 つある.1 つは,筋収縮を発現させる
運動指令が,高位の運動野から脊髄 α 運動ニューロンへ下降する際に心血管中枢に入力する経路
である.これは,“セントラルコマンド”と呼ばれ,運動の発現に対して時間の遅れのないフィー
ドフォーワード調節である.2 つ目は,中心循環である頚動脈または心臓に近い部分の動脈や静
脈に存在する圧受容器からの入力のフィードバック調節である.動脈圧を感知するものは“動脈圧
受容器反射”,静脈圧を感知するものは“心肺圧受容器反射”と呼ばれる.3 つ目は,骨格筋内に存
在する感覚受容器からの入力のフィードバック調節である.感覚受容器としては,代謝的な変化
を感知する“筋代謝受容器”および機械的な変化を感知する“筋機械受容器”が,これまでに挙げら
れている.この経路からの入力が唯一,末梢組織の酸素需要を把握する情報源となり得,“運動昇
圧反射”と呼ばれている.それぞれ 3 つの入力は延髄の心血管中枢で統合され,その結果として自
律神経活動,さらに循環系応答が決定される.圧受容器反射および運動昇圧反射は,それぞれ中
心循環および末梢循環における感覚系を介したフィードバックメカニズムである.
身体活動能力を最大限に発揮するためには,循環系応答を亢進させることが重要であるが,一
方で過剰な応答は生体に悪影響を及ぼすことにもなる.特に,過度の血圧上昇は血管に対して大
きな負荷となり,脳や心臓での組織の損傷をまねきかねない.このような場合に,中心循環およ
び末梢循環からの感覚系を介したフィードバック調節は,過剰反応を抑えるシステムとしても働
1
く.このうち,中心循環をモニターする圧受容器反射の働きについては盛んに研究がなされ,特
に頚動脈の圧を人工的に上昇させたときの,自律神経活動および循環系応答に対する抑制作用が
検証されている.一方,末梢循環をモニターする運動昇圧反射については,その名が示すとおり,
昇圧の作用,つまり循環系応答が亢進する部分にのみ注目が集められ,抑制作用については十分
な検証がなされていない.
Ray ら(1994)は,掌握運動後に活動筋への血流を遮断することで筋代謝受容器の活性化を促し,
筋交感神経活動を亢進させた状況下で,対側で低強度の掌握運動を行うと,筋交感神経活動が弱
められることを報告した.対側の掌握運動を加えても血圧は変化していないことから,動脈圧受
容器反射は関与していないと考えられる.また,追加実験としてリドカインを用いて対側の前腕
からの求心性入力を遮断すると,筋交感神経活動は弱められないことを確認し,セントラルコマ
ンドの関与がないことも示した.そこで彼らは,対側の低強度の掌握運動による筋機械受容器か
らの入力が,筋交感神経活動を弱めたと結論づけている.このような末梢からの求心性情報が持
つ抑制作用は,現在のところこの報告に留められているが,この Ray らの実験モデルにおいて,
求心性入力を付加した条件に抑制作用の存在が浮き彫りにされた要因があると考えられる.
安静状態で下肢全体に外的な圧を加えて,筋機械受容器からの入力を促進させると血圧は上昇
する(Williamson et al. 1994a).また,活動筋に対して外的な圧を加えるというモデルを用いて,筋
機械受容器からの入力を促進させると,血圧および筋交感神経活動はさらに亢進する(McClain et
al. 1994).このことから,筋機械受容器からの入力が単一で引き起こされた場合,また血圧や筋
...........
交感神経活動が亢進した状況下で,筋機械受容器からの入力が同一の活動体肢において加えられ
た場合,出力系は亢進する.したがって,Ray ら(1994)が報告した筋交感神経活動の抑制作用は,
.........
出力系が亢進した状況下で,筋機械受容器からの入力が異なる活動体肢から加えられたというこ
とが重要であると示唆される.このことは,静的掌握運動によって亢進される筋交感神経活動は,
片腕で行われたときの変化量を左右で足したものより,両腕で行われたときの変化量の方が小さ
く,この関係は血圧と心拍数の応答でも同様であるとする結果から,“抑制的な相互作用
(inhibitory interaction) ”を示唆した Seals(1989a)の仮説を説明するメカニズムとも考えられる.
本研究では,Ray ら(1994) の交感神経活動の抑制効果の実験モデルをもとに,末梢からの求心
性入力による循環系応答に及ぼす抑制作用を明らかにすることを目的として行った.異なる体肢
から求心性入力を引き起こし,そのとき循環系は加算的に応答するのか,抑制的に応答するのか
を検証した.また上肢と下肢の組み合わせが関連するのか,感覚受容器の種類は関連するのかに
ついても,各実験に分けて検証した.
2
まず実験 1 では,Ray らの実験モデルでは右前腕で運動後筋虚血を施した状況下で,対側の左
前腕において筋機械受容器からの入力を加えるというモデルであったが,本研究では右前腕で運
動後筋虚血を施した状況下で,右下腿から筋機械受容器からの入力を加えることで,異なる体肢
からの入力が循環系応答に対して抑制作用を持つか否か,また上肢と下肢の組み合わせでも抑制
作用は引き起こされるのかについて検証した.続く実験 2 では,下腿から筋代謝受容器の入力を
引き起こしたときの応答を検証し,感覚受容器の種類が関連するのか否かを明らかにした.さら
に実験 3 では,近年,骨格筋内の 3 つ目の感覚受容器として注目されている,末梢血液量の増加
に伴う骨格筋内の静脈の伸展を感知する“血管機械受容器” (Haouzi et al. 1999)を対象として,血
管機械受容器の活性化を下腿からの求心性入力として引き起こした際に,循環系応答の抑制作用
が引き起こされるか否かを検証した.
3
第2章:文献考証
本研究では,末梢からの求心性入力によって循環系応答を調節するメカニズムについて検討し
た.そこで本章では,関連する先行研究をヒトと動物を対象とした実験に分け,ヒト実験では求
心性入力と出力としての循環系応答がどういった関連性をもって調節がなされているかを中心と
し,動物実験においては入力と出力の間のプロセスに関する知見を中心として述べた.
2-1. ヒトにおける研究
a. 基礎研究
末梢からの求心性入力が循環系調節に関与しているということは古くから考えられていたが,
この仮説をはじめて実験によって提示したのは Alam & Smirk(1937)である.彼らは,運動後に活動
体肢の近位部に阻血を施し,活動筋内に血液を留める方法でその仮説を立証した.この方法を用
いることによって,セントラルコマンドが働いていない状況下で,骨格筋内に代謝産物を蓄積さ
せることが可能となる.その結果,運動によって上昇した血圧が阻血をすることによって運動後
にも高値を維持し続け,阻血を開放すると安静値まで低下した.このことから,活動筋内の代謝
的な変化が循環系応答と関連していることが示唆された.また,Hultman & Sjoholm(1982)は,電気
刺激による筋収縮によって随意運動と同程度の血圧および心拍数の上昇が引き起こされることを
示した.この結果も,セントラルコマンドが関与しない状況下で,末梢からの求心性入力が循環
系応答の亢進を引き起こすことを示している.さらに,末梢からの求心性入力が関与することを
支持する研究として,活動筋から循環中枢への求心性入力を遮断する方法が挙げられる.Mitchell
ら(1989)は,活動筋に対して硬膜外麻酔により感覚神経を遮断すると昇圧反応が弱められること
を報告した.また Lind ら(1968)は,片側脊髄損傷患者において、健常側の筋収縮では血圧の上昇
が見られるが,損傷側の筋収縮では血圧の上昇が引き起こされないことを報告した.
以上の基礎的な研究によって,末梢からの求心性入力が循環系調節に関与することが明らかと
なり,後にその詳細なメカニズムについて検証されるようになった.運動時の循環系調節は,運
動に伴って急速に高まる代謝に見合う酸素をどのように運搬するかが重要な要因の 1 つとなるが,
末梢からの入力によってなされる調節は,末梢組織の酸素需要を満たすよう循環系を適応させる
フィードバック機構であると考えられる.
4
b. 筋交感神経活動
基礎的な研究においては,血圧や心拍数,あるいは末梢血流などの効果器反応による研究が中
心であったが,研究手法の開発に伴い,効果器を支配する出力系の交感神経活動の解析が導入さ
れてきた.初期においては,交感神経終末から分泌される血中のノルエピネフリンやカテコール
アミンの解析が用いられていたが,血中への漏出までに遅延があり,一部組織で再吸収されると
いう短所があった.その後 1980 年代から,交感神経活動の直接記録法である Microneurography
が応用され始め,運動時循環の末梢神経調節研究で広く活用されるようになった.この方法は,
針電極を下肢では脛骨・腓骨神経,上肢では正中・橈骨神経のどちらかの非活動肢に刺入して,筋
の交感神経活動を測定する.
その最初の報告であるといえる Mark ら(1985)の研究は,30%MVC での静的掌握運動を 2 分間行
い,運動終了直前に活動筋への血流を遮断し運動後筋虚血を引き起こした際に,脛骨神経におい
て筋交感神経活動を観察するというものであった.その結果,運動により亢進された筋交感神経
活動が,運動後筋虚血中にも維持し続けることが確認された.このことは,Alam & Smirk(1937)
が提唱した末梢からのフィードバック説の出力系を直接的に示したものであるといえる.この他
にも,筋交感神経活動は運動開始から遅れて高まり,運動終了後や筋虚血解除後にはすみやかに
安静値に回復するということが,この研究から明らかとなった.
静的および動的筋収縮中には,筋交感神経活動の反応様式に若干の差異がみられるが,いずれ
の運動でも運動強度が高まるか,活動筋が疲労した際には筋交感神経活動が亢進することは多く
の研究が支持している.血圧や末梢循環との関連をみると,静的掌握運動中に下腿の筋交感神経
活動は亢進するが,同時に下腿の血流量は減少し,血圧は上昇する(Seals 1989b; Saito et al. 1990).
筋交感神経活動の亢進は,非活動筋と同様に活動筋に対しても働くが,活動筋では代謝性の血管
拡張作用が働くため,活動筋の血流量と筋交感神経活動の関係性は見られない.しかしながら,
非活動筋の血流量および血管抵抗と筋交感神経活動の間には,高い相関性が認められている(Seals
1989b).
c. 筋代謝受容器
Alam & Smirk(1937)が用いた運動後に活動肢に対して阻血する方法は,筋代謝受容器からの入力
を検証するモデルとしてその後広く用いられている.Alam & Smirk は血圧の上昇のみを確認した
が,その後の研究によって,運動後筋虚血によって引き起こされる筋代謝受容器からの入力の働
きについて以下のことが明らかとなっている.
5
血圧の上昇は,心拍出量と血管抵抗の増加によって引き起こされるが,運動後筋虚血中に心拍
出量が増加するか否かということについては意見が分かれている.サイクリング運動直後に動脈
阻血を施し,下肢の筋虚血を引き起こした際の心拍出量を,二酸化炭素再呼吸法を用いて測定す
ると,心拍出量は安静値と変わらない(Bonde-Petersen et al. 1978).しかしながら,サイクリング
運動終了 30 秒前から動脈阻血を施し,より筋代謝受容器からの入力を活性化させると,運動後筋
虚血中に心拍出量は有意に増加する(Bonde-Petersen et al. 1978).一方で,30%MVC での静的掌握
運動後に動脈阻血を施し,心エコー法で心拍出量を測定した研究では,前腕筋虚血中に心拍出量
の増加は認められていない(Bastos et al. 2000).最近では Crisafulli ら(2003)が,30%MVC での動的
掌握運動後に筋虚血を施した際に,インピーダンス法を用いて測定した結果,心拍出量が有意に
増加することを報告した.運動後筋虚血を用いた数多くの研究結果から,心拍数が運動後筋虚血
中に安静値まで回復することは確実であるため,1 回拍出量が増加するか否かということが問題
となるであろう.今後,筋代謝受容器からの入力の活性化レベルによって,1 回拍出量がどのよ
うに変化するのかを検討する必要があると考えられる.一方,末梢血管抵抗が運動後筋虚血中に
増加することは,一致した見解が得られている.静的掌握運動後の筋虚血中には,非活動筋の前
腕および下腿の血管抵抗は増加する(Sinoway et al. 1989; Duprez et al. 1989).したがって,運動後
筋虚血による筋代謝受容器からの求心性入力によって筋交感神経活動が亢進し(Mark et al. 1985),
非活動部位の血管収縮を引き起こし,その結果として血圧の上昇が引き起こされているものと考
えられる.
活動筋内の代謝産物の中で,何が筋代謝受容器からの入力を引き起こす源となっているかは,
現在も議論の対象となっている(Kaufman 2003).特に,乳酸がその役割を担っているかどうかとい
うことに関しては,意見が分かれている.活動筋内のアシドーシスの程度を,核磁気共鳴分光装
置を用いて pH を測定し,血圧の上昇または筋交感神経活動の亢進との関連性を検討した研究で
は,pH の低下と血圧および筋交感神経活動の増加の間に相関関係が認められている(Victor et al.
1988).つまり,活動筋内の乳酸の蓄積が,筋代謝受容器からの入力の活性化の引き金になってい
ることを示唆している.さらに,筋型ホスホリラーゼ欠損によって筋収縮に伴う乳酸の蓄積を生
じない McArdle 患者に,静的な掌握運動を行わせても筋交感神経活動が亢進しないことが報告さ
れている(Pryor et al. 1990).McArdle 患者は,どのような刺激に対しても筋交感神経活動が亢進し
ないわけではなく,Valsalva 法や Cold pressor test に対しては,健常者と同様に筋交感神経活動の
亢進が引き起こされる(Pryor et al. 1990).したがって,筋代謝受容器からの入力には,乳酸が重
要な役割を担っているという説を支持する.
6
しかしながら,Vissing ら(1998; 2001)は,McArdle 患者を用いて筋収縮を引き起こしたところ,
アシドーシスが引き起こされていないにも関わらず,筋交感神経活動が亢進されることを確認し
た.つまり,これまでの仮説を否定し,乳酸の蓄積が筋代謝受容器からの入力を活性化させる必
須条件ではないこと示唆した.最近になって,McArdle 患者を用いた上記 2 グループとは異なる
グループの Fadel ら(2003)が,被験者数を増やし運動強度や運動時間を様々な組み合わせで行って,
先行研究の欠点を補って検討したが抜本的な解決には至っていない.あるメカニズムが欠損した
場合,別のメカニズムが補っているという可能性や,アシドーシスであることが別の代謝産物の
活性を促進している可能性など,様々な点を考慮した上で今後の研究が期待される.
d. 筋機械受容器
筋収縮による筋の歪みや伸張,および筋内圧の上昇といった筋内の機械的な刺激が循環系応答
にどのような影響を及ぼすかについては,体肢に対して外的な圧を加える方法と,不随意の運動
を行う方法で検証されている.前者の方法は筋内圧を上昇させるモデルであり,仰臥位での安静
時に下半身陽圧やカフによって下肢全体に外的な圧を加えると,血圧は有意に上昇することが報
告されている(Shi et al. 1993; Williamson et al. 1994a; Nishiyasu et al. 2001).また,運動時に活動筋
に対して外的な圧を加えても,対照試行と比較して血圧は有意に上昇し,筋交感神経活動は有意
に亢進する(McClain et al. 1994; Williamson et al. 1994b; Nishiyasu et al. 2001; Gallagher et al. 2001).
下肢では 30~60mmHg 以上の圧で血圧の上昇が見られるが,上肢では 110mmHg 以上とその閾値
が高い.心拍数に与える影響は,外的な圧では認められていない.一方,不随意の運動を行う方
法では,受動的にサイクリング運動を行わせると,血圧と心拍数がともに有意に増加する(Nobrega
& Araujo 1993; Nobrega et al. 1994).また,受動的に足背屈を行い持続的な下腿の伸展を引き起こ
すと,座位では血圧と心拍数の有意な上昇は見られないものの(Baum et al. 1995),仰臥位では伸
展開始直後に有意な心拍数の上昇が認められている(Gladwell & Coote, 2002).
e. 血管機械受容器
今のところ,循環系応答に血管機械受容器からの入力が関わっているか否かは明らかではない.
しかし,調節系で密接な関係のある呼吸調節において,その関係性が近年示唆されている.Haouzi
ら(2001)は,血管機械受容器を活性化させるために,下肢の近位部に 100mmHg のカフ圧を加え静
脈のみの血流遮断を行った.安静時には換気応答に影響がなかったものの,サイクリング運動後
の回復期に行うと,静脈阻血をしない対照条件と比較して,換気量は有意に高い応答を示した.
7
またカフ圧を 300mmHg とし動脈阻血を施すと,対照条件と比較して換気量は有意に低い応答を
示した.静脈阻血では下肢へ流入する血液は遮断されず,下肢に血液が貯留する状況であり,伸
展性の高い静脈は膨満することとなる.一方で動脈阻血では,下肢へ血液は出入りすることがで
きず下肢内では血液の流れは止まり,血管への機械的な刺激はゼロに近くなる.このような血流
動態の違いが換気応答に関連したと,動物実験で直接的に静脈の圧を変動させた結果をもとに
Haouzi ら(2004)は示唆している.
2-2. 動物における研究
ヒトと同様に,ネコ,イヌ,ラットを用いた動物実験においても,末梢からの求心性入力が循
環系調節に関わっていることが明らかとなっている.ヒトの実験モデルと同様に,阻血下の筋収
縮では昇圧反応が亢進し,求心性神経の遮断によって昇圧反応が消失する(Coote et al. 1971).
McCloskey & Mitchell(1972)は,骨格筋からの求心性神経のうち,groupⅢ-Ⅳを選択的に遮断する
と昇圧反応は引き起こされず,groupⅠ-Ⅱを遮断しても昇圧反応は引き起こされることを報告し
た.このことから,骨格筋に自由神経終末を持つ groupⅢ-Ⅳが,入力経路を担っていることが示
唆された.この研究のように,動物実験ではヒトで検証することが困難な詳しいメカニズムにま
で踏み込むことが可能となる.特に,求心性神経の特性や中枢神経系の働きなどは,動物実験に
よる知見から多くのことがわかってきている.以下にその詳細を述べる.
a. groupⅢ-Ⅳの発火特性
groupⅢは伝導速度が 2.5~30 m/sec の細い有髄線維であり,groupⅣは伝導速度が 2.5 m/sec 以
下の無髄線維である.両者ともに自由終末の形態で存在している.その割合をネコの後肢筋で調
べた報告によると,3 分の 1 が groupⅢであり 3 分の 2 が groupⅣである(Stacey 1969).
groupⅢは,1960 年に Paintal がイヌの後肢筋に圧を加えることでその存在を発見した.その後
の研究によって,groupⅢの発火特性に関して以下のようなことが明らかとなっている.1)間欠
的または持続的な筋収縮によって約半数が反応する(Paintal 1960; Ellaway et al. 1982),2)強い疼
痛作用をもつブラジキニンを動脈へ注入することによって約半数が反応する (Kumazawa &
Mizumura 1977; Mense 1977),3)外的な圧を筋に加えることによって多数が発火する(Paintal 1960;
Kumazawa & Mizumura 1977),4)腱の伸展によっては一致した見解は得られておらず,ほとんど
反応が見られない場合(Paintal 1960),中程度の反応が見られる場合(Kaufman et al. 1983; Mense &
Stahnke 1983),そして強い反応が見られる場合(Abrahams et al. 1984)とある.以上のように,代謝
8
的な刺激と機械的な刺激の両方に対して発火することから,groupⅢは多様な様式変化(polymodal)
特性を持っていることが考えられている(Kumazawa & Mizumura 1977).しかしながら,運動時には
おもに機械的な刺激を感知する特性を持っているようである.例えば,強縮性の筋収縮では開始
直後に最も強く反応し,反応時間は収縮開始後 200msec 以内と速く(Kaufman et al. 1983),間欠的
な筋収縮では収縮刺激と groupⅢの発火が同期する(Mense & Stahnke 1983; Kaufman et al. 1984a).
また,筋収縮に伴う筋の張力が高まるにつれて発火頻度が増加し(Kaufman et al. 1983; Mense &
Stahnke 1983),活動筋が疲労してくるにつれて発火頻度は減少する(Kaufman et al. 1983).一方で,
groupⅢは筋収縮に伴う代謝産物の刺激によっても発火する.例えば,ブラジキニン(Kumazawa &
Mizumura 1977; Mense 1977),カリウム(Hnik et al. 1969; Kumazawa & Mizumura 1977; Mense 1977),
アラキドン酸(Rotto & Kaufman 1988),トロンボキサン A2(Kenagy et al. 1997),乳酸(Rotto & Kaufman
1988)が挙げられる.活動筋が疲労したときの二次的な反応は,これらの代謝産物による影響が考
えられている.
groupⅣは,多くの点で groupⅢの発火特性とは異なっている.まず,筋収縮に対して groupⅢ
のように収縮開始直後から発火せず,5~30 秒の遅れを生じる(Kaufman et al. 1983; Mense &
Stahnke 1983).しかし,わずかながら筋収縮開始直後に発火することから,機械的な感作を持つ
可能性も考えられている.代謝産物をより多く蓄積する虚血下の筋収縮では,虚血下ではない筋
収縮時と比べてより多く groupⅣは発火することから(Mense & Stahnke 1983; Kaufman et al. 1984b),
虚血下運動によるによる昇圧反応は groupⅣによるものであると考えられる.反対に,腱の伸展
による機械的な刺激には反応しない(Kniffki et al. 1978; Mense & Stahnke 1983).groupⅣを刺激する
代謝産物は groupⅢと同じであることが報告されており,ブラジキニン(Mense & Schmidt 1974;
Mense 1977),カリウム(Hnik et al. 1969; Mense 1977),乳酸(Graham et al. 1986),アラキドン酸(Rotto
& Kaufman 1988)は,少なくとも半数の groupⅣを刺激する.また,プロスタグランジン E2 とトロ
ンボキサン A2 も約半数を刺激する(Mense 1981).
近年になって,代謝的な刺激や機械的な刺激以外に,末梢血管,特に静脈の伸展が groupⅢ-Ⅳ
を刺激することが報告されている(Haouzi et al. 1999).血管拡張物質であるパパベリンやイソプロ
テレノールを動脈内に注入する方法と,静脈阻血によって血液を貯留させる方法を用いて,骨格
筋内の血液量を増やして末梢血管の伸展を引き起こすと,1~3 割の groupⅢ-Ⅳが発火する.末梢
血管の伸展は,運動時の活動筋血流量の増加によって引き起こされる刺激と考えられ,代謝的ま
たは機械的刺激と同様に循環系調節において何らかの影響を及ぼすものと考えられる.
9
b. 脊髄後角
骨格筋で代謝的または機械的な刺激を感知した groupⅢ-Ⅳは,脊髄後角に最初のシナプス接続
をする.頸髄では,脊髄後角における 6 つの層のうち laminaeⅠに groupⅢからの入力がなされ,
laminaeⅡに groupⅣからの入力がなされることが報告されている(Hendry et al. 1999).一方,後肢
筋からの入力を受け取る腰髄では,groupⅢ-Ⅳは laminaeⅠ-Ⅴに終末することが報告されている
(Kaufman & Forster 1996).この経路における神経伝達物質としては,サブスタンス P,ソマトス
タチン,グルタミンが候補として挙げられている(Wilson & Hand 1997).
c. 延髄腹外側野
延髄腹外側野が循環系調節において重要な役割をしていることは,麻酔下動物において破壊あ
るいはこの部位のニューロン活動を抑制すると,脊髄切断時にみられるのと同様な顕著な血圧低
下が生じることによって明らかとなった.Iwamoto ら(1985)は,ネコを用いて活動筋からの入力を
引き起こす際に,異なったレベルで除脳をして比較した結果,反射は延髄において調節されてい
ることを示した.さらに,Bauer ら(1990)は,筋収縮に対して延髄腹外側野のニューロンが発火し,
発火と心調律が同期することを報告した.骨格筋から groupⅢ-Ⅳを介して延髄後角に接続した後,
延髄腹外側部に入力することは以上の研究により明らかとなったが,入力された後の処理につい
てはいまだ不明な点が多く,今後の研究が期待される.
d. 弧束核
延髄腹外側野はおなじ延髄に存在する弧束核からの入力を受け取り,またそれぞれの細胞体は
相互に神経支配をもっている(Ciriello et al. 1986).したがって,活動筋からの反射において弧束核
が重要な部位である可能性が示唆された.近年になって,その可能性を支持する報告がいくつか
なされている.Toney & Mifflin(2000)は,ラットを用いて骨格筋に機械的および代謝的刺激を引き
起こすと,それと同期して弧束核のニューロンが発火することを示した.さらに Potts ら(1999)
は,骨格筋内の受容器を刺激することによって,弧束核内のサブスタンス P の濃度が上昇するこ
とを報告している.
10
第3章:下腿の筋機械受容器の活性化が前腕筋虚血中の循環系応答に及ぼす影響
3-1.緒言
運動に伴い血圧と心拍数は増加し,非活動組織では血管収縮が引き起こされる.この調節には
2 つの神経性メカニズムが関与している.1 つはセントラルコマンドと呼ばれる,大脳運動野から
延髄循環中枢へ下行してくる入力である(Eldridge et al. 1985).2 つ目は,活動筋内の代謝的および
機械的変化を求心性神経の groupⅢおよびⅣが感知し,循環中枢へ伝える入力である(Rowell &
O’Leary 1990).
複数の体肢で運動を行ったときの循環系応答の亢進の大きさは,単一の体肢で行われたときの
循環系応答の単純な加算応答とはならない(Bevegard et al. 1966; Savard et al. 1989; Stenberg et al.
1967).筋交感神経活動の応答においても,同様の関係性が認められる(Seals 1989).したがって,
複数体肢運動時の循環系応答は,
“抑制的な相互作用 (inhibitory interaction)”が引き起こされてい
る可能性がある(Seals 1989).しかし,そのメカニズムについては明らかにされていない.
Ray ら(1994)は,一方の腕で掌握運動後に筋虚血を引き起こして筋交感神経活動を亢進させた状
態で,他方の腕で低強度の動的な掌握運動を行うと,筋交感神経活動が弱められることを報告し
ている.ここで,低強度の動的な掌握運動のみを行うと,筋交感神経活動に変化は見られない.
このことから Ray らは,筋虚血に伴う筋代謝受容器の活性化による筋交感神経活動の増加が,他
方の体肢の筋機械受容器の活性化によって弱められたと推察した.したがって,複数体肢運動時
の抑制的な相互作用に,異なる体肢の活動筋からの求心性入力が関与している可能性が考えられ
る.
Ray らは筋機械受容器の影響を検証する手段として,薬理的に活動筋の感覚神経を遮断する方
法を用いている.感覚神経を遮断するとセントラルコマンドしか関与しないが,遮断しないとセ
ントラルコマンドと筋機械受容器が関与し,両者の応答を比較することができる.これに対し本
研究では,受動的に筋を伸展させ筋機械受容器を活性化させる方法を用いることとした(Baum et al.
1995; Gladwell & Coote 2002).セントラルコマンドが関与せず,筋機械受容器だけを活性化させる
ことができる.また,Ray らが上肢の右左から入力を引き起こしたのに対して,上肢と下肢の組
み合わせでも抑制作用が引き起こされるかを検証するために,受動的伸展は下腿で引き起こすも
のとした.
本実験の目的は,下肢の筋機械受容器の活性化が,上肢の筋代謝受容器の活性化による前腕血
管収縮に対して抑制的に働くか否かを検証することである.掌握運動後筋虚血時の非活動肢の血
11
管コンダクタンスの低下は,下腿で筋伸展を行うと消失すると仮説を立てた.
3-2.方法
a. 被験者
7 名の健常成人男性が実験に参加した.ヘルシンキ宣言に則り,倫理委員会の承認を得た.被
験者の平均年齢,身長,体重は 24.1±1.4 歳,170.7±3.9 cm,70.6±9.6 kg(平均±標準偏差)で
あり,書面にて実験参加の同意を得た.
b. 実験プロトコル
本実験に先立ち,右手の最大握力を,ハンドエルゴメータを用いて測定した.3 回の最大努力
での発揮張力における平均値を,最大随意筋収縮(MVC)とした.また,掌握運動に十分に慣れて
もらうため,本実験の運動プロトコルで数回練習を行った.本実験は 2 日に分けて,Control 試行
と Stretch 試行をそれぞれランダムに行った(Figure3-1).両試行ともに仰臥位姿勢で 20 分程度安
静にした後に安静値測定を実施し,引き続き 2 分間の掌握運動および 2 分間の運動後筋虚血を行
った.Stretch 試行においては,下肢において筋への機械的な刺激を施す目的で,下腿伸展を運動
後筋虚血中に 2 分間施した.下腿伸展は右脚を用い,足関節が 90 度の状態から,被験者が痛みを
感じる手前まで受動的に足背屈をさせ(足関節;72.3±4.4 度),その状態を維持させた.掌握運動
は,負荷を 30%MVC(16.6±2.1 kg)とし,右手を用いた静的な運動とした.運動後筋虚血は右上
腕部にカフを取り付け,掌握運動終了 10 秒前に 200mmHg の圧を加えて阻血するものとした.上
記 2 試行とは別の日に,下腿伸展のみを 2 分間施す試行を行った.
a) control trial
Forearm blood flow
Electrocardiogram
Blood pressure
HG (static, 30%MVC)
Rotate (stretch trial)
PEMI (200mmHg)
4
2
0
(min)
b) stretch trial
Cuff
Foot plate
triceps surae stretch
HG (static, 30%MVC)
0
Handergometer
PEMI (200mmHg)
4
2
(min)
Figure3-1 A schematic representation of the experimental setup and paradigm. Two trials were
performed in a supine position. HG, handgrip; PEMI, post-exercise muscle ischemia; MVC,
maximal voluntary contraction.
12
c. 測定項目
血圧の測定には血圧モニター(2300-Finapres, Ohmeda)を用い,心臓レベルに固定した左手の第
三指にフィンガーカフを装着して実施した.心拍数は胸部双極誘導法によって得られた心電図記
録(OEC-8108, 日本光電)より測定した.Control 試行と Stretch 試行において,平均血圧と心拍数
は,30 秒毎に直前の 10 秒間の値を平均して表すものとした.下腿伸展のみを行う試行ではこれ
に加えて,下腿伸展開始直後の値を 5 拍毎に平均して 15 拍目まで表した.左前腕部の血流量の測
定には,ストレインゲイジプレチスモグラフィ(EC-5R, Hokanson)を用いて算出した(Whitney
1953).ストレインゲイジを左前腕部の周径囲の最も長い部分に巻き付け,静脈阻血はカフを左上
腕部に取り付け 60 mmHg の圧を加えて行った.安静値測定は 3 回行い,平均値をその値とした.
掌握運動中と運動後筋虚血中においては 30 秒毎に測定した.前腕血管コンダクタンスは,上記測
定より得られた前腕血流量を平均血圧で除することによって算出した.
4 名の被験者に追加測定として,下腿伸展時の腓腹筋および外側広筋における筋放電量を測定
した.皿電極を用いた表面筋電図を,生体アンプ(AB-621G,日本光電)で増幅し,Maclab
(ADInstruments, Castle Hill)にてデータを収集した.
d. 統計
安静時,掌握運動中,および運動後筋虚血中における平均血圧,心拍数,前腕血流量および前
腕血管コンダクタンスのデータは,時間と各試行の二要因とその交互要因による二元配置の分散
分析を行った後に,Post hoc test として,同一時間における群間の差異について,Fisher の最小有
意差法による多重比較を行った.全ての検定において危険率が 5%未満をもって有意とした.各デ
ータは平均値±標準誤差で表した.
3-3.結果
Figure3-2 に,受動的な下腿伸展のみを行った場合の腓腹筋および外側広筋の筋電図波形を示
した.すべての被験者において,両筋ともに筋活動は検出されなかった.Figure3-3 に下腿伸展の
みを 2 分間行った試行における平均血圧,心拍数,前腕血流量,および前腕血管コンダクタンス
を,安静値からの変化量で示した.平均血圧,前腕血流量,および前腕血管コンダクタンスにお
いては,2 分間の下腿伸展によって有意な変化はみられなかった.一方,心拍数においては,下
腿伸展開始直後に有意に増加した.しかしながら,30 秒以降は安静値に対して有意な増加はみら
れなかった.
13
A
passive stretch
1
10%MVC
1
( 2 min )
(V) 0
(mV)
01:21.7
01:36.7
00:19.9
00:21.7
00:36.7
03:30.0
03:45.0
03:59.9
1
02:59.9
03:14.9
-1
1
02:15.0
02:30.0
02:45.0
-1
01:45.0
02:00.0
B
0
(V) 0
(mV)
Figure3-2 Typical EMG recordings of medial
gastrocnemius (A) and vastus lateralis muscles
(B) during passive triceps surae stretch in one
subject. The right side shows recordings of
voluntary calf contraction of 10%MVC as
reference.
0
01:21.7
01:36.7
00:19.9
00:21.7
00:36.7
03:30.0
03:45.0
03:59.9
02:59.9
03:14.9
02:15.0
02:30.0
02:45.0
-1
01:45.0
02:00.0
-1
2
⊿FBF (ml/100ml/min)
⊿MAP (mmHg)
8
6
4
2
0
-2
-4
1
0
-1
-2
5b
10b 15b 30s 60s 90s 120s
30s
60s
90s
( Time-seconds )
120s
30s
60s
90s
( Time-seconds )
120s
( Time point )
0.01
8
*
*
*
4
2
0
-2
0.005
⊿FVC (units)
⊿HR (bpm)
6
0
-0.005
-0.01
-0.015
-4
-0.02
5b
10b 15b 30s 60s 90s 120s
( Time point )
Figure3-3 Changes from baseline in mean arterial pressure (MAP), heart rate (HR), forearm
blood flow (FBF), and forearm vascular conductance (FVC) during triceps surae stretch. MAP
and HR are represented in each of five beats (5b, 10b, 15b) immediately following triceps surae
stretch, and at each 30 sec during triceps surae stretch. *P<0.05 from baseline.
14
平均血圧と心拍数において,掌握運動中および運動後筋虚血中のどの期間においても,Control
試行と Stretch 試行の間に有意な差は見られなかった(Figure3-4).平均血圧は,両試行ともに運動
開始とともに上昇し,運動開始1分後から安静値に対して有意に高値を示し,運動後筋虚血中に
も有意に高値を維持し続けた.心拍数は,両試行ともに運動に伴い上昇したが,安静値に対して
有意な上昇は認められなかった.
Figure3-5 に Control 試行と Stretch 試行における前腕血流量と前腕血管コンダクタンスの結果
を示した.掌握運動中には両変数ともに,試行間および安静値からの変化に有意な差は認められ
なかった.運動後筋虚血中,Control 試行においては前腕血流量の有意な減少(運動開始 3.5 分目
を除く;P=0.09)と,前腕血管コンダクタンスの有意な減少が認められた.これに対して,Stretch
試行の運動後筋虚血中には Control 試行のような応答を示さず,Control 試行に対して前腕血流量
は有意に高値を示し,前腕血管コンダクタンスも有意に高値を示した
control
stretch
MAP (mmHg)
130
120
110
100
90
80
baseline
rest
○
■
1
2
3
HG
PEMI
HG
PEMI + stretch
4 (min)
HR (bpm)
80
75
70
65
60
55
baseline
rest
○
■
1
2
3
HG
PEMI
HG
PEMI + stretch
4 (min)
15
Figure3-4 Changes in mean arterial pressure
(MAP) and heart rate (HR) during handgrip
(HG) and post-exercise muscle ischemia
(PEMI) in each control (〇) and stretch (■)
trial. There were no significant differences
between trials.
FBF (ml/100ml/min)
control
stretch
8
7
#
6
#
#
*
*
#
5
4
3
2
baseline
rest
○
■
1
2
*
4 (min)
3
HG
PEMI
HG
PEMI + stretch
FVC (units)
0.07
0.06
#
#
#
#
0.05
0.04
0.03
*
0.02
baseline
rest
○
■
1
2
*
*
3
HG
PEMI
HG
PEMI + stretch
*
4 (min)
Figure3-5 Changes in forearm blood flow
(FBF) and forearm vascular conductance
(FVC)
during
handgrip
(HG)
and
post-exercise muscle ischemia (PEMI) in
each control ( 〇 ) and stretch (■) trial.
Significant differences, shown by post hoc
tests, are designated as * P < 0.05 vs. baseline,
and # P < 0.05 vs. control.
3-4.考察
本実験の主な知見は,Control 試行でみられた運動後筋虚血中の前腕血管コンダクタンスの減少
が,下腿伸展を引き起こすことによって消失したことである.この結果は,下腿伸展に伴う筋機
械受容器からの入力の活性化が,前腕の筋代謝受容器からの入力に伴う非活動筋の血管収縮作用
を弱めたことを示唆している.
本実験は,異なる体肢からの筋代謝受容器の入力と筋機械受容器の入力の相互作用が,非活動
肢の血管コンダクタンスに及ぼす影響を検討することを目的として行った.選択的に筋代謝受容
器と筋機械受容器を刺激するために,運動後筋虚血と下腿伸展を用いた.運動後筋虚血は,活動
後の体肢内に代謝産物を留めるモデルであり(Alam & Smirk 1937),セントラルコマンドや筋機械受
容器からの入力が働かない状況下で,筋代謝受容器からの入力のみを引き起こす.Control 試行に
おいて,運動後筋虚血中に平均血圧が有意に増加し,前腕血流量と前腕血管コンダクタンスが有
意に減少したことは先行研究と一致するものであり,筋代謝受容器からの入力が十分に活性化さ
れたことを示している.また,このとき筋交感神経活動は亢進しているものと考えられる(Mark et
16
al. 1985).Baum ら(1995)は,座位で受動的に下腿伸展を引き起こすと,血圧および心拍数は有意
に上昇しないものの,伸展開始直後の血圧上昇は随意下腿筋収縮の応答と同程度であることを報
告している.また Gladwell & Coote (2002)は,仰臥位で受動的に足背屈させ下腿伸展を引き起こす
と,伸展開始直後に心拍数が有意に上昇したことを示した.結果は一致していないものの,両研
究ともに筋機械受容器の選択的な活性化が生じていることを示唆している.下腿伸展のみを行っ
た本実験においても,伸展開始直後に有意な心拍数の増加が確認された.また伸展時に筋放電は
検出されなかったことから,筋収縮由来の循環系応答は引き起こされていないと考えられる.し
たがって,本研究で用いた下腿伸展も,筋機械受容器からの入力を引き起こしているものと思わ
れる.
Ray ら(1994)は,運動後筋虚血中に対側で低強度の掌握運動を行うと,運動後筋虚血によって亢
進された筋交感神経活動が有意に減少することを報告した.Ray らの研究において,運動後筋虚
血中に掌握運動を加えても血圧に変化が見られなかったことから,動脈圧受容器反射の影響につ
いては可能性が低い.また彼らは,リドカインを用いて対側の掌握運動によって引き起こされる
求心性の入力を遮断すると,筋交感神経活動は変化しないことを確認しており,セントラルコマ
ンドの関与についても可能性は低い.したがって,筋代謝受容器の活性化による筋交感神経活動
の亢進が,筋機械受容器の活性化によって弱められたと,彼らは結論している.本実験において,
運動後筋虚血中に下腿伸展を加えても血圧に変化は見られず,動脈圧受容器反射の前腕血管コン
ダクタンスへの影響は少ないものと考えられる.また下腿伸展は受動的動作であり,セントラル
コマンドの可能性も低い.したがって,下腿伸展による前腕血管コンダクタンスの増加は,筋機
械受容器の活性化によって筋交感神経活動が減少したことで引き起こされたものと推察される.
筋交感神経活動が弱められるという Ray ら(1994)の報告とは対照的に,筋機械受容器からの入力
は筋交感神経活動を亢進させることが報告されている.McClain ら(1994)は,40%MVC での掌握運
動中の前腕に 110mmHg の外的な圧を加えると,対照試行と比較して筋交感神経活動が亢進するこ
とを示した.運動終了後に外的な圧を解除し運動後筋虚血を行った際には,対照試行との間に筋
交感神経活動の亢進は認められなかった.したがって,運動中に外的な圧を加えたことで,代謝
産物の蓄積が促進された可能性は低いため,外的な圧による筋機械受容器の活性化によって,筋
交感神経活動の亢進が引き起こされたことを彼らは示唆している.McLain ら(1994)が,活動中の
筋内の筋機械受容器からの入力を引き起こしたのに対して,Ray ら(1994)は活動中の筋とは異なる
体肢から筋機械受容器からの入力を引き起こしている.本実験においても,筋機械受容器への刺
激は運動後筋虚血を施した筋とは異なる体肢で引き起こされ,前腕血管コンダクタンスの減少が
17
弱められた.したがって,筋交感神経活動および非活動肢の血管コンダクタンスに及ぼす筋機械
受容器の活性化による抑制作用には,複数の体肢から入力が引き起こされていることに関連して
いることが考えられる.
本実験において,下腿伸展のみを行った試行で心拍数の増加が見られたのは,伸展開始直後だ
けであった.しかしながら,運動後筋虚血中に下腿伸展によって引き起こされた血管収縮作用の
減弱は,2 分間持続して引き起こされた.この違いに関するメカニズムについては憶測の域を超
えないが,交感神経活動の組織間の不均一性(Dampney 1994)および心臓への交感神経と迷走神経
の調節の違い(Murata & Matsukawa 2001)が関与しているかもしれない.また精神ストレスの影響が
挙げられ,下腿伸展を行う際に被験者に対して精神的な負荷をもたらしたかもしれない.各循環
系応答の不一致に関しては,前腕血管コンダクタンスが増加したにも関わらず,平均血圧が変化
しなかったことも挙げられる.前腕以外の組織において血管コンダクタンスが減少しているか,
前腕の血管コンダクタンスの変化が全身の血管床に占める割合からすると小さいものであったと
いう可能性が理由として考えられる.
交感神経性の調節以外にも,ずり応力やコリン作動性神経が前腕血管コンダクタンスの変化を
引き起こしたメカニズムとして挙げられる.超音波ドップラー法にて血流速度を算出していない
が,下腿伸展を行っても平均血圧は変化していないため,血管コンダクタンスに影響を及ぼすほ
どのずり応力の変化は生じていないものと考えられる.またコリン作動性神経に関しては,未だ
直接的な確認はとられていないものの,アトロピンによる神経遮断によって血管拡張が消失する
という知見が得られている(Sanders et al. 1989).本研究で確認された血管コンダクタンスの増加メ
カニズムについては,薬理的介入や交感神経記録などさらなる検討が必要とされる.最後に,受
動的な下腿伸展によって,筋以外の組織にも機械的刺激をもたらした可能性は拭えない.例えば,
血管や関節にも求心性神経が張り巡らされており,そこからの入力も前腕血管コンダクタンスの
変化に関与したかもしれない.
結論として,下腿伸展を運動後筋虚血中に施すと,非活動肢の前腕血管コンダクタンスの減少
が消失した.このことは,前腕の筋代謝受容器が活性化している状況下において,下腿の筋機械
受容器の活性化は,前腕血管コンダクタンスの減少に対して抑制的に働くことを示唆している.
18
第4章:下腿の筋代謝受容器の活性化が前腕筋虚血中の循環系応答に及ぼす影響
4-1.緒言
運動昇圧反射は,求心性神経の groupⅢおよびⅣを介し延髄の循環中枢で統合されるフィードバ
ックメカニズムであり,交感神経系を賦活させ,血圧と心拍数の増加および非活動組織での血管
収縮を引き起こす(Mitchell et al. 1983).代謝的および機械的な刺激が,求心性神経の groupⅢおよ
びⅣを活性化させる(Kumazawa & Mizumura 1977; Kaufman & Rybicki 1987).
代謝的刺激および機械的刺激を選択的に引き起こしたとき,循環系はそれぞれに異なる応答を
示すようである.受動的な筋伸展による機械的刺激は,血圧には効果がないものの心拍数の有意
な増加がみられる(Gladwell & Coote 2002; Gladwell et al. 2005).一方,運動後筋虚血による代謝的
刺激では,血圧,非活動肢の血管抵抗,および筋交感神経活動の有意な増加が見られるが,心拍
数はほとんど変化しない(Alam & Smirk, 1937; Mark et al. 1985; Rusch et al. 1981).これら先行研究
においては,いずれも刺激は単一筋群に対して引き起こされているが,複数の体肢に刺激が施さ
れたとき,どのように循環系応答が調節されるのか明らかにされていない.
複数の体肢で運動を行ったときの循環系応答の亢進の大きさは,単一の体肢で行われたときの
循環系応答の単純な加算応答とはならない(Bevegard et al. 1966; Savard et al. 1989; Stenberg et al.
1967).筋交感神経活動の応答においても,同様の関係性が認められる(Seals 1989a).大筋群を用
いた動的運動の場合では,腕運動に脚運動を加えると血圧が減少することも報告されている
(Secher et al. 1977; Volianitis & Secher, 2002; Volianitis et al. 2003, 2004).したがって,複数体肢運
動時の循環系応答では,
“抑制的な相互作用 (inhibitory interaction)”が引き起こされている可能性
がある(Seals 1989a).
Ray ら(1994)は,一方の腕で掌握運動後に筋虚血を引き起こして筋交感神経活動を亢進させた状
態で,他方の腕で低強度の動的な掌握運動を行うと,筋交感神経活動が弱められることを報告し
ている.彼らは,筋虚血に伴う筋代謝受容器の活性化による筋交感神経活動の増加が,他方の体
肢の筋機械受容器の活性化によって弱められたと推察した.また実験 1 において,筋虚血に伴う
筋代謝受容器の活性化による非活動肢の血管収縮が,下肢の筋伸展による筋機械受容器の活性化
によって弱められることを確認した.しかし,これらの応答が,複数の体肢からの求心性入力の
活性化によるものであるか,筋機械受容器のみに特異的に引きこされるものであるのか,明らか
ではない.筋代謝受容器の活性化によっても,抑制的応答が引き起こされるかのか否かはわかっ
ていない.そこで本研究では,下腿での筋代謝受容器の活性化が,前腕の運動後筋虚血後の非活
19
動肢血管収縮を弱めるか否かを検証することを目的とする.
4-2.方法
a. 被験者
8名の健常成人男性が実験に参加した.ヘルシンキ宣言に則り,倫理委員会の承認を得た.被験
者の平均年齢,身長,体重は 24.4 ± 1.8 歳,172.1 ± 3.7 cm,70.4 ± 9.1 kg(平均±標準偏差)
であり,書面にて実験参加の同意を得た.
b. 実験プロトコル
本実験に先立ち,右手の最大握力および右足の足背屈の最大張力を,ハンドエルゴメータおよ
びサイベックス(CybexⅡ+, Lumex Inc.)をそれぞれ用いて測定した.3 回の最大努力の発揮張力にお
ける平均値を,最大随意筋収縮(MVC)とした.また本実験で行う運動を数回練習し,十分に慣れ
させた.
本実験は 3 つの試行を同じ日にランダムに行った.試行間は 15 分以上あけるものとした.主試
行は Control 試行と Combined 試行であった(Figure4-1).Control 試行は 2 分間の掌握運動と 3 分間
の前腕の運動後虚血であり,Combined 試行は掌握運動と足背屈運動を同時に 2 分間行った後,前
腕と下腿の運動後虚血を 2 分間施し(図中 phase A),その後下腿の阻血は解放し前腕の筋虚血をさ
らに 1 分間続けた(図中 phase B).phase A では,前腕と下腿の筋代謝受容器を同時に活性化させ,
phase B では下腿の筋代謝受容器の影響をみるために活性化を取り除き,前腕の筋代謝受容器のみ
を活性化させる.下腿の筋代謝受容器の活性化を確認するために,足背屈運動のみと下腿の運動
後筋虚血のみを行う試行を行う.
Calf
• Control trial
Arm
Exercise
Calf
Exercise
Arm
Exercise
Metaboreceptor
Metaboreceptor
• Combined trial
0
Metaboreceptor
2
5 (min)
4
A
B
Figure4-1 Schematic representation of experimental paradigm in the control and combined
trials. During phase A (2─4 min), the purpose of comparing “Arm-Metaboreceptor” of control
with “Arm & Calf-Metaboreceptor” of combined is to examine the influence of lower limb
metaboreceptor activation. During phase B (4─5 min), the purpose of comparing
“Arm-Metaboreceptor” of control with “Arm-Metaboreceptor” of combined is to examine the
influence of removal of lower limb metaboreceptor.
20
掌握運動は,右手を用いた静的な筋収縮とし,強度は 30%MVC とした.錘(14.1 ± 0.3 kg)を付
けたチェーンを 2cm 引き上げ,それを維持するものとする.前腕の運動後筋虚血は右上腕部にカ
フを取り付け,掌握運動終了 10 秒前に 250mmHg の圧を加えて阻血するものとした.足背屈運動
は,負荷を 30%MVC(10.3 ± 1.0 Nm)とし,右足を用いた静的な筋収縮とした.被験者はオシロス
コープ(DCS7020, Kenwood)に表示された発揮張力を目標の基線に合わせるよう力発揮を行う.足
関節と膝関節は 90 度屈曲位および股関節は 45 度の屈曲位とし,足はフットプレートに乗せスト
ラップで固定した.下腿の運動後虚血は,右大腿の遠位部にカフを取り付け,足背屈運動終了 10
秒前に 250 mmHg の圧を加えて阻血するものとした.すべての試行は仰臥位姿勢で行われた.
c. 測定項目
血圧の測定には血圧モニター(2300-Finapres, Ohmeda)を用い,心臓レベルに固定した左手の第三
指にフィンガーカフを装着して実施した.心拍数は胸部双極誘導法によって得られた心電図記録
(OEC-8108, 日本光電)より測定した.左前腕部の血流量の測定には,ストレインゲイジプレチス
モグラフィ(EC-5R, Hokanson)を用いて算出した(Whitney 1953).ストレインゲイジを左前腕部の周
径囲の最も長い部分に巻き付け,静脈阻血はカフを左上腕部に取り付け 60 mmHg の圧を加えて行
った.安静値測定には,仰臥位姿勢で被験者の十分な安静後 3 回行い,平均値をその値とした.
掌握運動中および運動後筋虚血中においては 30 秒毎に測定した.前腕血管コンダクタンスは,上
記測定より得られた前腕血流量を平均血圧で除することによって算出した.
3 名の被験者に追加測定として,Control 試行および Combined 試行における非活動肢の橈側
手根屈筋の筋放電量を測定した.皿電極を用いた表面筋電図を,生体アンプ(AB-621G,日本光電)
で増幅し,Maclab (ADInstruments, Castle Hill)にてデータを収集した.同時に,前腕の皮膚血流量
をレーザードップラー流量計(ALF21, Advance)にて測定した.プローブは前腕の周径囲の最も長
い部分に取り付けた.
d. 統計
安静時,掌握運動中,および運動後筋虚血中における平均血圧,心拍数,前腕血流量および前
腕血管コンダクタンスのデータは,時間と各試行の二要因とその交互要因による二元配置の分散
分析を行った後に,Post hoc test として,同一時間における群間の差異について,Fisher の最小有
意差法による多重比較を行った.全ての検定において危険率が 5%未満をもって有意とした.各デ
ータは平均値±標準誤差で表した.
21
4-3.結果
Figure4-2 に,足背屈運動および下腿の運動後筋虚血中の平均血圧,心拍数,前腕血流量,およ
び前腕血管コンダクタンスを示した.運動後虚血中に,平均血圧は有意に上昇し,前腕血流量お
よび前腕血管コンダクタンスは有意に減少した(前腕血流量の 2.5 分目;P = 0.07 および 4.0 分目;
P = 0.15 を除く).下腿阻血の解放後は,それぞれ安静値に戻った.
A
C
*
120
*
*
*
6
** *
FBF (ml・100ml-1・min-1)
MAP (mmHg)
140
100
80
5
4
3
* *
2
1
rest
1
2
3
4
rest
5
1
2
3
4
(min)
DF
DF
calf-PEMI
calf-PEMI
D
0.06
80
* **
70
0.05
*
FVC (units)
HR (beats・min-1)
B
5
(min)
60
0.04
0.03
*
0.02
50
0.01
rest
1
2
3
4
rest
5
(min)
1
2
** *
*
3
4
5
(min)
Figure4-2 Mean arterial pressure (MAP; A), heart rate (HR; B), forearm blood flow (FBF;
C), and forearm vascular conductance (FVC; D) in the only DF trial. DF, dorsiflexion; PEMI,
postexercise muscle ischaemia. Values are means ± SE. * Different (P < 0.05) from rest.
22
Control 試行および Combined 試行における平均血圧と心拍数を Figure4-3 に示した.平均血圧は,
両試行ともに運動中および運動後虚血中において有意に上昇した.試行間には有意な差は認めら
れなかった.心拍数は,運動中に両試行ともに有意に上昇し,運動後虚血中には安静値に戻った.
Control 試行と比較して,Combined 試行で有意に高値を示した.
MAP (mmHg)
A
140
120
100
80
rest
HR (beats・min-1)
B
1
○
HG
▲
HG+DF
2
3
4
5 (min)
arm-PEMI
arm+calf-PEMI
arm-PEMI
80
70
Figure4-3 Mean arterial pressure (MAP; A)
and heart rate (HR; B) in each control and
combined trial. HG, handgrip; DF,
dorsiflexion; PEMI, postexercise muscle
ischaemia. Values are means ± SE. #
Different (P < 0.05) from control trial.
#
60
50
rest
1
2
3
4
5 (min)
23
Figure4-4 に,Control 試行および Combined 試行における前腕血流量と前腕血管コンダクタンス
の結果を示した.Control 試行において,運動中および前腕の運動後虚血中に前腕血流量および前
腕血管コンダクタンスは有意に減少した.一方,Combined 試行においては,運動中および前腕と
下腿の運動後虚血中に前腕血流量は安静値から変化はなく,運動開始後 1 分目以降から前腕と下
腿の運動後虚血中(2-4 分目)まで,Control 試行に対して有意に高値を示した.Combined 試行に
おける前腕のみの運動後虚血中(4-5 分目)には,前腕血流量は安静値に戻り(4.5 分目, P < 0.05;
5.0 分目, P = 0.14),試行間に有意な差は見られなかった.前腕血管コンダクタンスにおいては,
Combined 試行の運動後虚血中に有意に減少したが,前腕と下腿の運動後筋虚血中(2-4 分目)に
Control 試行に対して有意に高値を示した(2.0 および 2.5 分目は除く, それぞれ P = 0.07).しかし,
前腕のみの運動後虚血中(4-5 分目)には試行間に有意な差は認められなかった.
追加試行で行われた Control 試行と Combined 試行において,非活動肢の前腕の橈側手根屈筋の
SkinBF
FBF (ml・100ml-1・min-1)
A
(ml・100ml-1・min-1)
筋活動は認められず,皮膚血流量の変化も見られなかった(Figure4-4).
control
combined
4
3
2
1
0
5
rest
#
4
1
control
2
3
4
combined
(min)
5
# # # # # #
3
2
1
rest
B
○
HG
▲
HG+DF
2
3
4
5 (min)
arm-PEMI
arm+calf-PEMI
arm-PEMI
0.05
0.04
FVC (units)
1
#
# # #
#
0.03
0.02
0.01
rest
1
2
3
4
5 (min)
24
Figure4-4 Forearm blood flow (FBF; A) and
forearm vascular conductance (FVC; B) in each
control and combined trial. Top right panel
shows skin blood flow in the nonexercised
forearm in each control and combined trial. HG,
handgrip; DF, dorsiflexion; PEMI, postexercise
muscle ischaemia. Values are means ± SE. #
Different (P < 0.05) from control trial.
4-4.考察
本実験の主な知見は,前腕の運動後筋虚血でみられた前腕血管コンダクタンスの減少が,下腿
の運動後筋虚血を同時に行うことによって消失し,その後下腿虚血を開放すると前腕血管コンダ
クタンスの減少が再び引き起こされたことである.この結果は,下腿の筋代謝受容器の活性化が
非活動肢の血管収縮作用を弱めることを示唆するものである.
運動中,延髄の循環中枢は高次の運動野からの入力(セントラルコマンド)と活動筋からの入力
を受容し,それを統合した後に適切な遠心性の神経出力をなす.セントラルコマンドと活動筋か
らの入力が同時に引き起こされた場合,循環系応答はそれぞれの加算的応答とはならず,抑制的
な応答になることが知られている(Rybicki et al. 1989; Waldrop et al. 1986).さらに,運動が複数の
体肢で行われた場合,それぞれの体肢における活動筋からの入力の相互作用も抑制的応答に関係
しているかもしれない.
運動後筋虚血は,運動により産生された代謝産物を外的な圧によって体肢内に留めるモデルで
あり,セントラルコマンドと筋機械受容器が関与せず,筋代謝受容器のみが活性化する(Alam &
Smirk 1937).本実験の Control 試行における前腕の運動後筋虚血中および足背屈運動のみの試行
における下腿の運動後虚血中に,平均血圧は有意に上昇し,前腕血流量および前腕血管コンダク
タンスは有意に減少した.このことは,前腕と下腿のそれぞれの筋虚血モデルは,筋代謝受容器
を十分に活性化させたものであると考えられる.先行研究によると,筋交感神経活動もそれぞれ
の筋虚血で活性化されている(Saito 1995).しかしながら,Combined 試行における前腕と下腿の
同時筋虚血中,前腕血流量は安静値から変化せず,前腕血管コンダクタンスは Control 試行と比較
して有意に高値を示した.さらにその後の 4-5 分目の筋虚血中,Combined 試行において下腿の
筋虚血を解放し前腕の筋虚血のみにすると,前腕血流量は有意に減少した.4-5 分目の筋虚血中
には,Control 試行と Combined 試行の間に,前腕血流量と前腕血管コンダクタンスの有意な差は
認められなかった.つまり,抑制されていた前腕血流量と前腕血管コンダクタンスの減少は,下
腿筋虚血の解放によって消失した.足背屈運動のみの試行において,下腿の運動後虚血を解放す
ると,血圧,前腕血流量,および前腕血管コンダクタンスはそれぞれ安静値に速やかに戻ったこ
とから,解放後に筋代謝受容器の活性化はすぐに消失したものと予想される.これらの一連の結
果は,下腿の筋代謝受容器の活性化は,前腕の筋代謝受容器の活性化で引き起こされた非活動肢
の血管収縮を弱めることを示唆している.
循環系調節において,活動筋からのフィードバックメカニズムと同様に,中心循環からのフィ
ードバックメカニズムである動脈圧受容器反射および心肺圧受容器反射も,重要な役割を果たし
25
ている.運動後虚血の 2-4 分目において,平均血圧は Control 試行より Combined 試行の方で高
い傾向にあった.統計的に有意ではなかったものの,この血圧の差が動脈圧受容器反射を介して
前腕血管応答に変化をもたらした可能性がある.また心肺圧受容器反射は,前腕血管応答に大き
な影響力を持つ.本実験では中心静脈圧を測定していないため,心肺圧受容器反射が Control 試行
と Combined 試行の応答の差を生じさせた要因として排除することはできない.足背屈運動のみの
試行において,下腿の運動後虚血中に心拍数は有意に上昇した.また,前腕と下腿の筋虚血では,
前腕のみの筋虚血と比べて心拍数は有意に高値を示した.これらの結果は,下腿の筋虚血によっ
て静脈還流が減り,心肺圧受容器が脱活性化されることを示している.心肺圧受容器の脱活性化
は前腕血管コンダクタンスを減少させ(Johnson et al. 1974),動脈圧受容器反射の機能には影響を
及ぼさないことから(Potts et al. 1995),Combined 試行における前腕血管応答の変化の主要なメカ
ニズムではないと考えられる.
運動中において,Combined 試行ではセントラルコマンドと活動筋からの入力は Control 試行と
比較して大きいため,その出力として循環系応答は Combined 試行の方で大きくなると予想される.
しかし,心拍数は Combined 試行の方で大きかったものの,平均血圧は両試行において同じ応答で
あった.先行研究において,腕運動に脚運動を加えると平均血圧は減少し,心拍数は上昇するこ
とが報告されている(Secher et al. 1977; Volianitis & Secher 2002; Volianitis et al. 2003, 2004).この
ような血圧と心拍数の異なった応答のメカニズムについては,交感神経活動の組織間の不均一性
(Dampney 1994)や心臓の交感神経と迷走神経の活動の差(Murata & Matsukawa 2001)が関与してい
るかもしれない.
骨格筋組織と皮膚組織の交感神経性の血流調節はそれぞれに異なる(Silber et al. 1998; Vissing et
al. 1991).静脈閉塞プレチスモグラフィで測定した前腕血流量は,骨格筋と皮膚の両方の血流を
含んでいるが,レーザードップラー法で測定された皮膚血流量は,Control 試行および Combined
試行で変化は見られなかった.したがって,Combined 試行で見られた前腕血管収縮の抑制は,骨
格筋血流量の変化による貢献が大きいかもしれない.
本実験では,Combined 試行で見られた前腕血管収縮の抑制メカニズムについて検証していない.
前腕血流量は非活動肢で測定され,運動中および運動後筋虚血中に筋活動が検出されなかったこ
とから,前腕の筋収縮に関連した血流変化ではないと考えられる.さらに,活動筋で生じた代謝
産物は阻血をしているため全身循環には乗らず,この影響もないものと考えられる.したがって,
交感神経活動の減弱,局所的な血管拡張作用,およびずり応力が可能性として考えられる.直接
的な交感神経活動の測定および薬理的な介入により,今後解決すべき問題である.
26
予想外の結果として,足背屈運動のみの試行において,下腿の運動後筋虚血中に心拍数が増加
したことが挙げられる.下腿の筋虚血は,前腕と比べてより大きな血管床が阻血されることとな
り,阻血下の体肢の血管コンダクタンスの減少は大きく,静脈還流量も大きい.また,カフ圧に
よる阻血で圧迫される組織も広く,外圧による筋機械受容器の活性化の影響が関与する可能性が
高い.これらの要因が心拍数の増加を引き起こしたかもしれない.
結論として,前腕と下腿の筋虚血を同時に引き起こすと,前腕の筋虚血で見られた非活動肢の
血管収縮が弱められた.このことは,下腿の筋代謝受容器の活性化は,前腕の筋代謝受容器の活
性化による非活動肢の前腕血管収縮を弱めることを示唆している.
27
第5章:下腿の血管機械受容器の活性化が前腕筋虚血中の循環系応答に及ぼす影響
5-1.緒言
骨格筋からの求心性神経を介したフィードバックメカニズムは,呼吸循環系調節において重要
である.求心性神経の groupⅢおよびⅣに対し代謝的および機械的刺激を与えると,血圧および筋
交感神経活動の増加が引き起こされる(Rowell & O’Leary 1990).動物実験において,体肢に対し
て動脈阻血を施すと換気量が減少し,静脈阻血を施すと換気量が増加することが報告されている
(Haouzi et al. 1995; Huszczuk et al. 1993).求心性神経の groupⅢおよびⅣの数 10%は,骨格筋内の
静脈の膨満の刺激に対して活性化される(Haouzi et al. 1999).このことから,末梢の静脈系におけ
る血液量の変化が求心性神経の groupⅢおよびⅣを介して,換気応答に影響を及ぼしているとの仮
説が提示されている(Haouzi et al. 2001).この仮説は循環系調節にも当てはまると予想されるが,
未だ検討されていない.
Ray ら(1994)は,一方の腕で掌握運動後に筋虚血を引き起こして筋交感神経活動を亢進させた状
態で,他方の腕で低強度の動的な掌握運動を行うと,筋交感神経活動が弱められることを報告し
ている.ここで,低強度の動的な掌握運動のみを行うと,筋交感神経活動に変化は見られない.
このことから Ray らは,筋虚血に伴う筋代謝受容器の活性化による筋交感神経活動の増加が,他
方の体肢の筋機械受容器の活性化によって弱められたと推察した.もし末梢の静脈系における血
液量の変化が求心性神経の groupⅢおよびⅣを活性化させるならば,静脈阻血は掌握運動後の筋交
感神経活動の亢進を弱めるものと予想される.
本研究では,末梢の静脈系における血液量の増加が循環系応答に与える影響を検証することを
目的とした.そのため,静脈阻血を下肢に施した状況下で掌握運動および運動後筋虚血を行い,
そのときの非活動肢の前腕血流量および前腕血管コンダクタンスを測定した.運動後筋虚血中の
前腕血管収縮は,静脈阻血によって弱められると仮説を立てた.
5-2.方法
a. 被験者
7 名の健常成人男性が実験に参加した.ヘルシンキ宣言に則り,倫理委員会の承認を得た.被
験者の平均年齢,身長,体重は 23.9 ± 1.4 歳,170.7 ± 3.3 cm,67.8 ± 9.1 kg(平均±標準偏差)
であり,書面にて実験参加の同意を得た.
28
b. 実験プロトコル
本実験に先立ち,右手の最大握力を,ハンドエルゴメータを用いて測定した.3 回の最大努力
での発揮張力における平均値を,最大随意筋収縮(MVC)とした.本実験は 2 日に分けて,Control
試行と VO(;venous occlusion)試行をそれぞれランダムに行った.両試行ともに仰臥位にて安静値の
測定の後,さらに 15 分間の安静期間,引き続き 2 分間の掌握運動および 2 分間の運動後筋虚血を
行った(Figure5-1).安静値測定以後の姿勢は,仰臥位姿勢から下腿を寝台の端から下ろし膝関節
を 90 度屈曲させ,足を床につけない状態とした.掌握運動は,負荷を 40%MVC(20.4±2.8 kg)と
し,右手を用いた間欠的な運動とした.収縮と弛緩のサイクルは 4 秒と 2 秒とし,メトロノーム
の音にあわせて行うよう指示した.運動後筋虚血は右上腕部にカフを取り付け,掌握運動の最後
の収縮期間に 200mmHg の圧を加えて阻血するものとした.静脈阻血は,運動開始 15 分前から両
大腿下部に取り付けたカフに 100 mmHg の圧を加え,安静時から掌握運動中および運動後筋虚血
中と引き続いて施した.
baseline
REST
HG
PEMI
(40%MVC)
(200mmHg)
0
-15
2
4 (min)
Control trial :
supine
VO trial
:
Cuff
Figure5-1 A schematic representation of the experimental paradigm in study 2. Two trials
were performed by subjects lying in a supine position with the knee joint flexed to 90º. Thigh
cuffs were inflated to 100 mmHg in the VO (Venous Occlusion) trial. HG, handgrip; PEMI,
post-exercise muscle ischemia; MVC, maximal voluntary contraction.
c. 測定項目
血圧の測定には血圧モニター(2300-Finapres, Ohmeda)を用い,心臓レベルに固定した左手の第
三指にフィンガーカフを装着して実施した.心拍数は胸部双極誘導法によって得られた心電図記
録(OEC-8108, 日本光電)より測定した.左前腕部の血流量の測定には,ストレインゲイジプレチ
スモグラフィ EC-5R, Hokanson を用いて算出した.ストレインゲイジを左前腕部の周径囲の最も
長い部分に巻き付け,静脈阻血はカフを左上腕部に取り付け 60 mmHg の圧を加えて行った.安静
値測定は,仰臥位姿勢で被験者の十分な安静後に 3 回行い,平均値をその値とした.また 15 分間
29
の安静期間においては 5 分毎に測定し,その後の掌握運動中と運動後筋虚血中においては 30 秒毎
に測定した.前腕血管コンダクタンスは,上記測定より得られた前腕血流量を平均血圧で除する
ことによって算出した.
運動プロトコルとは別の日に,上記 2 試行における下腿体積の変化率をストレインゲイジプレ
チスモグラフィ(EC-5R, Hokanson)を用いて測定した(Whitney 1953).仰臥位姿勢において,スト
レインゲイジのキャリブレーションを行った後,仰臥位姿勢から下腿を寝台の端から下ろし膝関
節を 90 度屈曲させる場合(Control 試行)とその姿勢で大腿下部に静脈阻血を加える場合(VO 試行)
で,それぞれ 19 分間の下腿体積の変化率を測定した.
d. 統計
安静時,掌握運動中,および運動後筋虚血中における平均血圧,心拍数,前腕血流量および前
腕血管コンダクタンスのデータは,時間と各試行の二要因とその交互要因による二元配置の分散
分析を行った後に,Post hoc test として,同一時間における群間の差異について,Fisher の最小有
意差法による多重比較を行った.全ての検定において危険率が 5%未満をもって有意とした.各デ
ータは平均値±標準誤差で表した.
5-3.結果
VO 試行における下腿体積の変化率は時間に伴って増加し,Control 試行と比較して 19 分目に
5.8±0.9 %増加した(Figure5-2).運動開始前 2 分間,掌握運動中,および運動後筋虚血中の間に,
下腿体積の変化率に有意な差は見られなかった.
(%)
control
VO
12
10
Figure5-2 Changes in calf volume in each
control (○) and VO (▲) trial for 19 min. The
calves were lowered in the vertical plane
maximally over the edge of the table without
(control trial) or with venous occlusion (VO trial).
HG, handgrip; PEMI, post-exercise muscle
ischemia.
8
6
4
2
0
0
5
10
REST
15
17
HG
19 (min)
PEMI
30
平均血圧と心拍数において,安静時,掌握運動中,および運動後筋虚血中のどの期間において
も,Control 試行と VO 試行の間に有意な差は見られなかった(Figure5-3).掌握運動中には両試行
ともに平均血圧と心拍数は有意に上昇し,平均血圧については運動後筋虚血中にも有意に高値を
維持した.
MAP (mmHg)
130
control
VO
120
110
100
90
80
baseline
-15
-10
-5
0
REST
1
2
HG
3
4 (min)
PEMI
90
HR (bpm)
80
70
60
50
40
baseline
-15
-10
REST
-5
0
1
HG
2
3
4 (min)
PEMI
31
Figure5-3 Changes in mean arterial pressure
(MAP) and heart rate (HR) during REST,
handgrip (HG), and post-exercise muscle
ischemia (PEMI) in each control (〇) and
VO (▲) trial. There were no significant
differences between trials.
Figure5-4 に両試行における前腕血流量と前腕血管コンダクタンスの結果を示した.15 分間の安
静時には,両変数ともに有意な変化は見られず,試行間にも有意な差は認められなかった.掌握
運動中,VO 試行における前腕血流量は,運動開始 30 秒目に安静値と比較して有意な高値を示し
た.試行間の有意な差は,両変数ともに掌握運動中には認められなかった.運動後筋虚血中,Control
試行においては前腕血流量の有意な減少と,前腕血管コンダクタンスの有意な減少が認められた.
これに対して,VO 試行の運動後筋虚血中には Control 試行のような応答を示さず,Control 試行
FBF (ml/100g/min)
に対して前腕血流量は有意に高値を示し,前腕血管コンダクタンスも有意に高値を示した
7
control
VO
*
6
#
# #
5
#
4
3
2
* * * *
1
0
baseline
-15
-10
-5
0
REST
1
2
HG
3
4 (min)
PEMI
Figure5-4 Changes in forearm blood flow
(FBF) and forearm vascular conductance
(FVC) during REST, handgrip (HG), and
post-exercise muscle ischemia (PEMI) in
each control ( 〇 ) and VO (▲) trial.
Significant differences, shown by post hoc
tests, are designated as * P < 0.05 vs.
baseline, and # P < 0.05 vs. control.
0.07
FVC (units)
0.06
# #
0.05
#
0.04
0.03
0.02
* * * *
0.01
baseline
-15
-10
REST
-5
0
1
HG
2
3
4 (min)
PEMI
32
5-4.考察
本実験の主な知見は,Control 試行でみられた運動後筋虚血中の前腕血管コンダクタンスの減少
が,下肢へ静脈阻血を施すことによって消失したことである.この結果は,下腿血液量の増加が
非活動肢の血管収縮作用を弱めることを示唆するものである.
運動後筋虚血は,運動により産生された代謝産物を外的な圧によって体肢内に留めるモデルで
あり,Alam & Smirk(1937)が初めてこのモデルを用い検討した.その後の研究によって,運動後筋
虚血中には筋代謝受容器からの入力が活性化することにより,筋交感神経活動が活性化され(Mark
et al. 1985),非活動筋の血管収縮作用を引き起こすことが報告されている(Duprez et al. 1989;
Sinoway et al. 1989).本実験において,Control 試行ではこれまでの先行研究と一致し,運動後筋
虚血中には平均血圧は有意に上昇し,前腕血流量と前腕血管コンダクタンスは有意に減少した.
したがって,本研究で用いた運動後筋虚血のモデルにおいても,筋代謝受容器からの入力は十分
に活性化されているものと思われる.しかしながら,静脈阻血を施すと運動後筋虚血中の前腕血
流量と前腕血管コンダクタンスの減少は消失した.
運動後筋虚血中の平均血圧は両試行間で有意差はなく,また前腕血流量は非活動肢で測定され
たことから,前腕血管コンダクタンスは局所的な調節によるものではなく,筋交感神経活動によ
って調節されているものと考えられる.運動後筋虚血中の筋交感神経活動は,骨格筋の感覚受容
器からの入力と動脈圧・心肺圧受容器からの入力によって調節されている(Rowell & O’Leary 1990).
下肢全体への外的な圧によって筋機械受容器からの入力が活性化され,有意な血圧の上昇が引き
起こされるが,カフを用いて外的な圧を大腿部のみに与えた場合には,循環系応答への影響は認
められていない(Williamson et al. 1994).本実験おいても,大腿下部への外的な圧であったことか
ら,静脈阻血試行において前腕血管コンダクタンスの減少が見られなかったことに,カフによる
筋機械受容器からの入力は関与していないと思われる.筋代謝受容器からの入力に関しては,両
試行で同程度に働いていたものと考えられる.また,本実験において,両試行間に平均血圧の有
意な差は認められなかったことから,動脈圧受容器からの入力も関与していない.
静脈阻血試行において,有意ではないものの Control 試行と比べて,心拍数は増加傾向を示した.
この反応は静脈阻血による静脈還流量の減少に起因している可能性がある.したがって,VO 試行
において,心肺圧受容器への脱刺激が引き起こされた可能性は完全に排除することできないが,
以下の 2 つの理由から,運動後筋虚血中に前腕血管コンダクタンスが減少しなかったことに関与
した主な要因ではないと考えられる.第 1 に,下半身陰圧負荷や姿勢変化によって静脈還流量を
減らし中心静脈圧を低下させると,前腕血管抵抗は増加する(Bevegard et al. 1977).しかしながら,
33
VO 試行では運動後筋虚血中の血管収縮作用は弱められた.第 2 に,下半身陰圧負荷による心肺圧
受容器脱刺激時に掌握運動と運動後筋虚血を行っても,筋交感神経活動と非活動肢の前腕血管抵
抗には,心肺圧受容器からの入力の加算的な効果は見られないことが報告されている(Sanders et
al. 1988; Seals 1988; Scherrer et al. 1988; Arrowood et al. 1993).
換気調節に末梢組織の血液量の変化が関与するとの仮説(Haouzi et al. 2001)は,ヒトと動物の両
方の研究においてその可能性が示唆されている.ヒトにおいては,サイクリング運動終了直後で
ある回復期に大腿上部へ動脈阻血を施すと,下肢内に代謝的な刺激が生じているにも関わらず,
対照条件と比較して換気はより早く回復する(Rowell et al. 1976; Innes et al. 1989; Haouzi et al.
1993).動物実験においては,下肢へ流入する血管内にバルーンのついたカテーテルを留置し,膨
満操作によって動脈阻血と静脈阻血を施した結果,動脈阻血によって換気の低下,静脈阻血によ
って換気の亢進が確認されている(Huszczuk et al. 1993; Haouzi et al. 1995).また,静脈阻血に伴
う静脈の血管拡張刺激によって,求心性神経の groupⅢ-Ⅳの発火頻度が増加すること(Haouzi et al.
1999),そして細静脈付近に groupⅢ-Ⅳの何割かが神経終末を持つことが報告されている(Stacey
1969).以上の結果から,groupⅢ-Ⅳが末梢の還流状態を静脈の血管拡張の程度によって感知し,
それが換気応答とリンクすることが考えられている(Haouzi et al. 2001).出力経路は異なるものの,
groupⅢ-Ⅳによる求心性入力は循環系調節においても関与する.それゆえ,本実験において,運
動後筋虚血中の前腕血管コンダクタンスの減少が静脈阻血によって弱められたことは,下肢の静
脈における血管拡張に起因している可能性が考えられる.
掌握運動中において,静脈阻血が循環系応答に与える影響は認められなかった.運動後筋虚血
中とは異なり,運動中にはセントラルコマンドや筋機械受容器からの入力が働く.筋代謝受容器
からの入力の活性化に伴う血管収縮作用がセントラルコマンドによって弱められることや
(Sinoway & Prophet 1990),筋交感神経活動が筋機械受容器からの入力によって弱められることが
報告されている(Ray et al. 1994).これらの要因によって,掌握運動中には静脈阻血の影響は相殺
されたのかもしれない.静脈阻血試行において,運動後筋虚血中に前腕血管コンダクタンスが減
少しなかったにも関わらず,平均血圧の減少は認められなかった.これは,他の血管床での血管
収縮が生じた結果であるか,この前腕血管コンダクタンスの低下が,血圧の変化に影響するほど
の十分な変化ではなかった可能性が考えられる.
本実験では,体肢内の血液量を増加させるモデルとして静脈阻血を用いた.しかしながら,静
脈阻血による下腿体積の増加が,血液の貯留による血管への刺激となったのか,細胞外液の増加
に貢献したのかを明確に区別することはできない.末梢静脈圧が静脈阻血のカフ圧と一致するこ
34
とが報告されているが(Halliwill et al. 1999),ヒトにおいて細胞外液量を定量化することは困難で
ある.活動肢に対して静脈阻血を施すと運動中の循環系応答に影響を及ぼすことが報告されてお
り,細胞外液量の増加がその要因であることが示唆されている(Baum et al. 1990,1993; McClain et al.
1993; Mostoufi-Moab et al. 2000).しかしながら,本研究では活動肢ではなく非活動肢に静脈阻血
を施したため,細胞外液量の関与については憶測の域を出ない.また,本実験において精神スト
レスの影響を定量化することも困難である.精神ストレスは前腕血流量の増加を引き起こす
(Halliwill et al. 1997).運動後筋虚血中にはセントラルコマンドの影響が取り除かれたことによっ
て,静脈阻血の存在をよりはっきりと被験者に意識させた可能性も考えられる.最後に,VO 試行
において心肺圧受容器からの入力がどの程度関与したかということは今後の課題である.静脈阻
血は静脈還流量の減少を引き起こすことが考えられるが,本実験において直接的に中心静脈圧を
測定していない.以上の問題点を解決するためには,中心循環および交感神経性の出力の指標を
さらに測定する必要があると思われる.
結論として,本実験では静脈阻血を下肢に施すことによって,運動後筋虚血中における非活動
肢の前腕血管コンダクタンスの減少が消失した.この結果は,下腿血液量の増加が,筋代謝受容
器からの入力の活性化による非活動肢の血管収縮作用を弱めたものと考えられる.
35
第6章:総合討議
6-1.実験のまとめ
本研究の目的は,末梢からの求心性入力による循環系応答への抑制作用を明らかにすることで
あった.前腕から求心性入力を引き起こす場合と,前腕と下腿から同時に求心性入力を引き起こ
す場合とで,それぞれの循環系応答を比較した.求心性入力を引き起こす末梢への刺激を変え,3
つの実験を行った.以下に各実験のまとめおよびシェーマ(Figure6-1)を示す.
実験 1:前腕から筋虚血による筋代謝受容器からの入力,下腿から筋伸展による筋機械受容器
からの入力を,それぞれ求心性入力として引き起こした.その結果,前腕の筋代謝受容器からの
入力の活性化による非活動肢の血管コンダクタンスの減少が,下腿の筋機械受容器からの入力の
活性化によって消失した.
実験 2:前腕から筋虚血による筋代謝受容器からの入力,下腿から筋虚血による筋代謝受容器
からの入力を,それぞれ求心性入力として引き起こした.その結果,前腕の筋代謝受容器からの
入力の活性化による非活動肢の血管コンダクタンスの減少が,下腿の筋代謝受容器からの入力の
活性化によって消失した.
実験 3:前腕から筋虚血による筋代謝受容器からの入力,下腿から静脈阻血による血管機械受
容器からの入力を,それぞれ求心性入力として引き起こした.その結果,前腕の筋代謝受容器か
らの入力の活性化による非活動肢の血管コンダクタンスの減少が,下腿の血管機械受容器からの
入力の活性化によって消失した.
以上の結果から,複数の体肢から求心性入力が引き起こされると,非活動筋における血管収縮
の亢進に対して抑制的に働くことが明らかになった.また,求心性入力を引き起こす末梢への刺
激の種類は関係なく,どの感覚受容器も抑制作用をもつ求心性入力であることが明らかになった.
前腕
延髄
末梢血管
求心性入力
Figure6-1
非活動筋
前腕からの求心性入力のみでは,非活動筋におい
前腕入力→血管収縮
て血管収縮を引き起こした.一方,前腕に加えて
前腕+下腿入力→血管収縮なし
下腿からも求心性入力を引き起こすと,非活動筋
における血管収縮は消失した.下腿から求心性入
下腿
a. 筋機械受容器
b. 筋代謝受容器
c. 血管機械受容器
力を引き起こすどの感覚受容器についても,血管
収縮の抑制を引き起こした.
36
6-2.抑制作用のメカニズム
末梢からの求心性入力によって循環系応答を調節するメカニズムは“運動昇圧反射 (exercise
pressor reflex)”と呼ばれているとおり,入力がなされるとそれに応じて循環系応答を亢進させる
働きをもつことが,これまでの研究により明らかとされてきた.これは活動筋の酸素需要を満た
すために,灌流圧および灌流量を上昇させて供給を促進させる合目的的な応答であると考えられ
る.しかしながら,本研究では末梢からの求心性入力によって非活動筋の血管収縮作用が弱めら
れるという,反対に応答を減少させる働きが見られた.
末梢からの求心性入力がなぜ応答を弱めるかということは憶測の域を出ないが,過度の亢進応
答を防ぐ恒常性維持の働きであるかもしれない.複数の体肢から求心性入力がある場合,それに
応じて出力を亢進しようとすると,過度の血圧上昇は血管に対して大きな負荷となり,末梢組織
の過度の血管収縮は虚血を招く.そのような応答は生体に対して悪影響を及ぼすと考えられ,中
心循環からの求心性入力と同様に,末梢からの求心性入力も防御体制としての働きをもつと推察
される.また,活動筋への酸素供給を灌流圧の上昇によって補うのではなく,血管拡張を引き起
こすことで補おうとする働きの結果であるかもしれない.運動中に非活動組織で血管収縮が引き
起こされるのは,活動組織へ十分な血流を確保すると同時に,活動組織の血管拡張に伴う血圧の
低下を防ぐためでもある.血圧が十分に上昇した状況下で血管コンダクタンスの減少が弱められ
ていることを考えると,血圧の低下がある程度引き起こされても支障がない範囲で血管拡張を引
き起こし,新たに酸素供給が必要な骨格筋へ血流を確保しようとする合目的的な働きである可能
性が考えられる.血圧に変化が見られなかったことを考えると,骨格筋以外の組織での血管収縮
が促進されていることが予想される.実験 3 において,静脈阻血によって下腿の血管へ機械的な
刺激を与えた場合には,別の点で生体にとって合目的的な作用であるかもしれない.ある一部の
組織へ過剰に血液が送られている場合,限られた血液を全身に配分するために,血管収縮作用を
弱めて他の組織へ血液を確保しようという働きであると考えられるからである.
どのようなメカニズムで抑制作用が働くかということについても憶測の域を出ない.末梢から
の求心性入力は求心性神経の groupⅢ-Ⅳを介して延髄に伝わるが,前腕と下腿からの入力はそれ
ぞれ胸髄と腰髄に最初のシナプス接続をした後に,延髄へと上行する.したがって,前腕と下腿
の情報は脊髄レベルでは交わらず,延髄で統合されることとなる.延髄内では,延髄腹外側野お
よび弧束核を中心とした神経ネットワークの中で,抑制性ニューロンや神経閉塞が関わり,最終
的に出力として交感神経活動を減弱させ,循環系応答に対して抑制作用を引き起こすものと予想
される.
37
6-3.感覚受容器の種類
近年,骨格筋内の感覚受容器の働きは,心疾患や加齢,運動不足によって変容することが報告
されている.心疾患患者は,健常者と比較して筋代謝受容器による循環系応答の亢進が小さく,
筋機械受容器による循環系応答の亢進が増大することから,心機能の低下によって各受容器の感
受性の変化が引き起こされる可能性が示唆されている(Sinoway & Li 2005).また,ラットに筋萎縮
を引き起こすと,萎縮筋での筋機械受容器の活性化による循環系応答の亢進は増大することが報
告されており(Hayashi et al. 2005),加齢や運動不足によって筋機械受容器の感受性は低下するこ
とが示唆される.このような選択的な受容器感受性の変容は,本研究で示された末梢からの求心
性入力による抑制作用にも関与する可能性を示唆する.高齢者または心疾患患者を対象として,
本研究の実験モデルを行い検討することで明らかになるであろう.心疾患患者において観察され
たように,ひとつの受容器の感受性が低下する一方で,ほかの受容器の感受性増大によって,結
果的に運動時の循環系応答としては変わらないことも考えられる.
6-4.今後の課題
今後の課題として,上記に挙げた,抑制作用を支配するメカニズムの解明,高齢者および心疾
患患者を対象とした検討,さらに運動条件以外の循環系応答亢進時にも末梢からの求心性入力は
抑制作用として働くのか否かについても検討が必要である.暑熱・寒冷刺激や,精神ストレス負
荷によっても循環系応答は亢進するが,そのときに運動による末梢からの求心性入力は亢進応答
を抑制する働きを持つのか興味深い点である.末梢からの求心性入力による循環系の抑制応答は,
これまでにほとんど報告されていない事象であり,生理学的な意義を含めさらなる研究が必要と
いえる.
38
謝辞
本論文の作成にあたり,本学スポーツ科学学術院の村岡功教授には,真摯なるご指導を賜りま
したことに,ここに深く感謝の意を申し上げます.ならびに,本学スポーツ科学学術院の中村好
男教授にも,ご指導を頂きましたことに,深く感謝の意を申し上げます.
本学スポーツ科学学術院・運動生理学研究室の先輩,同級生,後輩に多大なるご協力を頂きまし
た.特に,水野正樹博士には,実験計画から論文作成まで懇切なるご指導を頂きました.ここに
感謝の意を表します.
最後に,ボランティアとして被験者に協力していただいた皆様に,心から感謝申し上げます.
39
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