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金融のグローバル化について

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金融のグローバル化について
平 成 27 年 度 証 券 ゼ ミ ナ ー ル 大 会
5
金融のグローバル化について
10
第四テーマ
15
金融のグローバル化について
A ブロック
神奈川大学
20
25
菅野ゼミ
目次
はじめに
5
1.
金融のグローバル化
1- 1. 金 融 の グ ロ ー バ ル 化 と は
1- 2. 金 融 シ ス テ ム 及 び 金 融 規 制 の 変 遷
2.
10
グローバル化によってもたらせるメリット
2- 1. 我 が 国 に お け る 金 融 シ ス テ ム の 遷 移
2- 2. グ ロ ー バ ル 化 に お け る 金 融 市 場 の 拡 大
2- 3. 先 進 国 経 済 と 新 興 国 経 済 の 比 較
2- 4. グ ロ ー バ ル 化 と 経 済 成 長 率 の 関 係
15
3.
グローバル化によってもたらされるデメリット
3- 1. サ ブ プ ラ イ ム ロ ー ン 問 題 の 発 生 と 概 要
3- 2. リ ー マ ン ・ シ ョ ッ ク へ の 発 展
3- 3. ア メ リ カ 政 府 に よ る 対 応
3- 4. 世 界 へ の 影 響
20
3- 5. グ ロ ー バ ル 化 の 弊 害
4.
25
望ましい金融システムのあり方
4- 1.
金融システムを安定させる取り組み
4- 2.
現代の国際金融システムの主要課題と各国の取り組み
4- 3.
システミックリスク発生の防止策
4- 4.
IMF に よ る セ ー フ テ ィ ネ ッ ト の 整 備
おわりに
30
2
はじめに
ここ数十年来、金融イノベーションの一層の深化や金融の自由化と相俟っ
5
て、金融市場のグローバル化が急速に進展している。金融グローバル化は、
イノベーションや自由化によって促された面があるが、逆にグローバル化に
伴う豊富な資金フローがイノベーションや自由化をさらに進めるインセンテ
ィ ブ と し て 働 い て い る 。こ の よ う に 、金 融 の グ ロ ー バ ル 化 、イ ノ ベ ー シ ョ ン 、
自由化は、互いに作用しあうことで進行してきた。本稿では、そもそも金融
10
のグローバル化とはなにか、なぜ起きてしまうのか、金融のグローバル化の
利点と弊害、今後望ましい金融システムの在り方に焦点を当てる。まず、金
融のグローバル化とは何かということとその発生した原因を研究、理解し、
さらに金融危機との関わりや金融システムがどのように移り変わってきたか
を調査する。そして、そのシステムのメリットとデメリットを把握すること
15
で、今後どのような金融システムが望ましいのかを考察し、導き出すことが
本稿の目的である。そこで、第1章では金融のグローバル化とは何かを定義
し、時代による移り変わりとその背景、また、過去に起きた金融危機をもと
に、どのような関わり方をしてきたかを述べる。第2章ではグローバル化に
よってもたらされるメリットを先進国と新興国の視点での考察。第 3 章では
20
進みすぎたグローバル化によって発生した弊害を述べる。そして最後に第 4
章では、前述したことを踏まえて今後望ましい金融システムの在り方につい
て考察した。
25
1. 金 融 の グ ロ ー バ ル 化 と は 何 か
第1章では金融のグローバル化の定義とそのシステムの変遷、過去に起きた
金融危機をもとにした原因と結果から、どのような関係性があるのかを見てい
30
く。
3
1-1.金 融 の グ ロ ー バ ル 化 と は
昨今の金融市場は過去に類を見ないほどの目覚ましいスピードで拡大しつつ
あ る 。そ れ は 、金 融 の グ ロ ー バ ル 化 が 大 き く 関 わ っ て お り 、農 業 や 工 業 な ど 様 々
5
な分野でグローバル化という言葉が使われているが、その中でも金融の分野は
世 間 か ら の 印 象 こ そ 薄 い が 、大 き な 発 展 を 遂 げ て い る 。し か し 、
「金融のグロー
バル化」という言葉はよく使われてはいるものの、人によって意味の捉え方が
異なっているため定義自体は曖昧なものになっている。そのため本稿では「各
国 の 金 融 市 場 が 一 体 と な っ て 1 つ の 市 場 を 形 成 す る こ と を 指 す 。」と い う こ と を
10
金融のグローバル化の定義とする。金融のグローバル化自体は過去数十年にわ
たり進んできたが、昨今の「グローバル化」と呼ばれるような国際金融市場の
最近の動きは、かつてとは異なるいくつかの顕著な特徴を持っている。第1に
挙げられる特徴は、国境をまたいだ資金フローの量のきわめて急速な拡大であ
る 。 IMF( International Monetary Fund ) の 調 査 に よ る と 、 対 外 直 接 投 資 、
15
他 国 の 債 券 ・ 株 式 の 購 入 と い っ た 国 際 資 本 移 動 の 額 は 、 2000年 代 前 半 に は 20
年 前 に 比 べ て 10倍 近 く に ま で 膨 ら ん で い る 。こ う し た 国 際 資 本 移 動 の 活 発 化 は 、
金融機関を通じた海外との決済件数の増加でもみてとれるだろう。例えば、私
た ち の 国 の 銀 行 か ら SWIFTと 呼 ば れ る 通 信 ネ ッ ト ワ ー ク を 通 じ て 海 外 送 金 を
行 っ た 件 数 は 、 5 ~ 6 年 前 に 比 べ て も 3倍 弱 に ま で 増 加 し た 。 ま た 、 先 進 工 業
20
国 の 対 外 資 産 と 負 債 の 合 計 額 の GDP比 率 は 、1970年 当 時 は 50% 程 度 で あ っ た が 、
近 年 で は 300% を 優 に 越 え て お り 、こ の う ち 1990年 代 入 り 後 の 上 昇 幅 が 200% 以
上に達している。これは、いかにこの間のグローバル化の進展が速かったかを
物語っている。
第2の特徴は、プレーヤーの多様化である。従来からの多国
籍 企 業 や 金 融 機 関 の 活 動 に 加 え 、 90年 代 に は ヘ ッ ジ ・ フ ァ ン ド が 登 場 し た 。 さ
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らに最近では、国境を越えて未公開企業への投資を行い、その企業の成長・再
生を支援するプライベート・エクイティ・ファンドや、オイルマネーや外貨準
備を運用する政府系ファンド、いわゆるソブリン・ウェルス・ファンドのプレ
ゼンスが顕著になり始めている。ちなみに、従来はホームバイアスが強く外貨
建て資産をほとんど持っていなかった日本の家計も、国際金融市場の新しいプ
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レーヤーといえるかもしれない。例えば、外貨建公募投信は、ここ2~3年で
4
急 増 し 、 最 近 で は 35兆 円 と 、 日 本 の 対 外 資 産 の 1 割 弱 の 規 模 に 及 ん で い る 。 こ
のように、日本の家計も、いわゆるキャリー・トレードの担い手の1つとして
国 際 金 融 市 場 の 動 向 に 大 き な 影 響 を 与 え て い る と い え る だ ろ う 。第 3 の 特 徴 は 、
資金フローの対象や手段の多様化である。すなわち、先進工業国から発展途上
5
国 へ の 資 金 の 流 れ に 加 え て 、 BRICsを は じ め と し た エ マ ー ジ ン グ 諸 国 や 産 油 国
から、豊富な資金が先進工業国へ流入するなど、より多元的で双方向のものと
なっている。また、資金フローの多様化は、債券や株といった従来の金融商品
に 加 え て 、先 物 、オ プ シ ョ ン な ど の 金 融 派 生 商 品 、あ る い は CDO、CLOと い っ
た 証 券 化 商 品 な ど の 投 資 ビ ー ク ル の 拡 が り と い う 形 で も 進 行 し て い ま す 。近 年 、
10
ヘッジ・ファンドが原油や非鉄金属といったコモディティ市場でより活発な投
資を行うようになってきたのも、こうした傾向のひとつと捉えることができる
だろう。これらが昨今のグローバル化によく見られる特徴としてあげられる。
1-2.金 融 シ ス テ ム 及 び 金 融 規 制 の 変 遷
15
日本の金融システムは時代が進むにつれて、その時々の欠点を補うように、
また、規制に対する縛られ具合によって変化していった。いま、日本の金融シ
ステムは戦後の高度経済成長を支えた「規制に支えられた金融システム」から
21世 紀 の 「 グ ロ ー バ ル ス タ ン ダ ー ド ・ シ ス テ ム 」 へ の 変 換 が 求 め ら れ て い る 。
しかし、システム転換自体はこれが初めてではなく以前から行われていた。
20
近代的な経済・社会システムを目指した明治維新以来、日本の金融システムは
非 常 に 大 き な い く つ か の 変 換 を 経 験 し て き て い る 。そ れ は 以 下 の 4つ の 段 階 に 区
分 す る こ と が で き る だ ろ う 。そ れ は 、(1)明 治 維 新 (1868年 )か ら 1940年 頃 ま で の
「 未 成 熟 な 金 融 シ ス テ ム 」の 時 代 (2)戦 時 中・終 戦 直 後 期 の「 国 家 の 統 制・規 制
下 の 金 融 シ ス テ ム 」 の 時 代 (3)戦 後 の 高 度 経 済 成 長 期 の 「 日 本 型 金 融 シ ス テ ム =
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規 制 に 支 え ら れ た 金 融 シ ス テ ム 」 の 時 代 。 (4) 「 ビ ッ グ ・ バ ン (競 争 原 理 )に 基
づ く 21世 紀 の 金 融 シ ス テ ム 」の 時 代 の 4つ で あ る 。そ れ ぞ れ の シ ス テ ム に つ い て
だ が 、ま ず( 1)の シ ス テ ム は 1929年 の 世 界 大 恐 慌 が あ っ た 時 代 に 用 い ら れ て い
た も の で 、 1927年 に 制 定 さ れ た 銀 行 法 を 軸 に し た も の だ っ た 。 こ の 頃 、 世 界 的
に「 市 場 原 理 」が 支 配 し た 自 由 競 争 の 時 代 で あ っ た た め 、法 律 や 制 度 は 未 整 備 ・
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未熟であった。戦前の「市場原理」の経済には、不良債権の発生や銀行の経営
5
破綻、金融不安がつきものであった。当時、銀行の株主は、株を買うために銀
行借り入れをしていたので、高い配当を要求した。また、銀行の預金獲得競争
は激しく、預金金利は高騰した。大蔵省は銀行経営健全化のために各銀行に対
して、減配をすすめ、預金利子協定の遵守なども通告していた。そんな中に制
5
定された銀行法の目的は「金融機関の育成」と「金融システムの安定性」のた
めであった。銀行法は「法三章」的なおおまかな規定であり、当局による裁量
的 な 行 政 指 導 (護 送 船 団 行 政 )へ の 道 を 聞 い た 。し か し 、現 在 の 私 た ち か ら 見 て 、
システムがしっかり稼働しているかどうかというところに焦点を当てると、や
は り 未 成 熟 な も の と 言 わ ざ る を 得 な い 。次 に( 2)の シ ス テ ム は 戦 時 中 ~ 戦 後 直
10
後あたりで用いられていた。この頃、昭和金融危機で、金融規制が導入された
が 、 1938年 の 国 家 総 動 員 法 以 降 、経 済 は 計 画 経 済 化 さ れ 、徐 々 に 規 制・統 制 が
強 化 さ れ た 。そ し て 、こ の 時 の 金 融 シ ス テ ム は 、次 の よ う な 特 徴 を 持 つ 。ま ず 1
つ 目 が 銀 行 経 由 の 資 金 配 分 を 重 視 し て い る こ と (間 接 金 融 重 視 )、2つ 目 が 軍 需 産
業 へ の 協 調 融 資 が あ る こ と (メ イ ン・バ ン ク の 形 成 )、3つ 目 が 起 債 条 件 の 厳 格 化
15
に よ る 直 接 金 融 の 比 重 が 低 下 し て い た こ と 、4つ 目 が 価 格 統 制 、金 利 統 制 が 行 わ
れ た こ と (国 債 消 化 の た め )、 5つ 目 は 行 政 指 導 が 強 化 さ れ た こ と 。以 上 5つ の 点
がこの時代のシステムにみられる特徴としてあげられる。そして、これらはい
ずれも、戦後の金融システムの主要な規制や構造に結びついているといる。次
に ( 3) の シ ス テ ム は 戦 後 の 高 度 経 済 成 長 を 支 え た 日 本 型 金 融 シ ス テ ム で あ り 、
20
1940年 ~ 1950年 ご ろ の 間 に 形 成 さ れ た 。 こ の シ ス テ ム は 様 々 な 規 制 が あ り 、 そ
れ に よ っ て 成 立 し た も の で あ り 、 4つ の 特 徴 を 持 つ 。 そ の 1つ 目 の 特 徴 は 先 に 述
べ た 通 り「 様 々 な 規 制 」で あ る 。金 利 は 規 制 さ れ て お り 、信 託 業 務 や 銀 行 業 務 、
保険業務、証券業務といったすべての金融機関の業務はそれぞれの金融機関の
種類ごとに各々の規制をかけられていた。さらに、外国との資本取引も厳しく
25
制 限 さ れ て お り 、あ ま り 自 由 は き か な か っ た 。2つ 目 の 特 徴 は 、
「間接金融方式」
と「メイン・バンク制」である。間接金融方式とは、「お金を借りたい人」と
「お金を貸したい人」の間に第三者が存在する取引である。金融機関が(預金
者に代わって)リスク(損益が発生する可能性)を負担するため、預金者は自
分自身で元金が割れるリスクを負担しなくて済むほか、銀行が貸し付けた企業
30
が仮に倒産しても、銀行が破綻しない限り資金の安全性は確保されるなどのメ
6
リットを持つ。この頃、大蔵省が証券業務よりも銀行の貸出業務を重視する方
針を取っていたため、企業の資金調達をする方法が主に銀行借り入れによって
おこなわれていた。したがって、銀行が債権者として持っている力が強く、企
業の株式を保有したり、役員を派遣して企業の経営状況や財務情勢を監視した
5
りすることで,企業を支配していた。これが「メイン・バンク制」であり、日
本 的 な コ ー ポ レ ー ト ガ バ ナ ン ス の 問 題 点 で も あ る 。3つ 目 の 特 徴 は「 大 き な 公 的
金融部門の比率」である。財政投融資制度は第二の財政とも呼ばれていた。財
政投融資制度とは大蔵省の資金運用部が特殊法人に対して資金を融資する制度
で あ る 。こ の 制 度 の も と 、社 会 資 本 を 充 実 さ せ る た め に 、郵 便 貯 金 や 簡 易 保 険 、
10
厚生年金等の資金が、財投機関である公的金融機関や住宅公団、国民住宅金庫
な ど の 機 関 に 配 分 さ れ た 後 、 投 資 さ れ て い た 。 4つ 目 の 特 徴 は 「 護 送 船 団 行 政 」
と 「 裁 量 的 検 査 ・ 監 督 体 制 (金 融 行 政 )」 で あ る 。 こ れ は 、 業 界 を 保 護 す る よ う
な行政であり、安定的なシステムの維持を目的としていた。この「日本型金融
システム」は企業に対してコストの安い資金を供給することで、日本の高度経
15
済成長を金融の面から支えており、銀行が倒産することのない安定した金融シ
ステムであった。行政の関与という観点からであれば、民間を預金吸収競争に
駆り立てるのと同時に資本の蓄積に貢献していた。これは、銀行を預金量によ
ってランクを付け、それに応じた日銀の対市中信用額のランクを付ける方式を
取ることによってできることであった。このような行政の関与の仕方は、民間
20
にレントを発生させるものであったため一定の評価はできるだろう。しかし、
銀 行 に よ る「 rentseeking」な 行 動 を 生 み だ し て し ま っ た の と 同 時 に 、他 行 の 行
動に過剰に反応する横並び経営を定着させてしまった。これは、預金を集める
ためには店舗の拡充は重要であったが、大蔵省による店舗規制は厳しかったた
めである。この期は、政府の規制が民間金融部門にレントをもたらしたことに
25
よ っ て 、 経 済 成 長 に 役 立 っ た と い え る だ ろ う 。 最 後 に ( 4) の シ ス テ ム は 1980
年 代 ~ 2000年 代 に か け て 用 い ら れ た シ ス テ ム で 、 自 由 化 や 国 際 化 が 始 ま っ た こ
と が 主 な 特 徴 と な る も の で あ る 。 1980年 に 起 き た 外 国 為 替 及 び 外 国 貿 易 法 の 全
面改正により「内外市場分断規制」を大幅に緩和された。しかし、これは欧米
の 水 準 か ら す る と 、 と て も 中 途 半 端 な も の で あ っ た た め 、 1983年 11月 、 当 時 の
30
米国大統領であったレーガン大統領の訪日に際して設置された日米円ドル委員
7
会をきっかけに、アメリカは自国の金融市場に近づけるために、さらなる自由
化・国際化を進めるよう求めた。このように、この頃の自由化・国際化は外圧
の 影 響 が と て も 大 き か っ た 。1984年 5月 に「 日 米 円・ド ル 委 員 会 報 告 」を 発 表 し
た後、大蔵省は「金融の自由化および円の国際化の展望」を発表した。この2
5
つに沿うような形で日本の自由化・国際化は進んでいった。この期のもう一つ
の特徴として、金融構造が徐々に変化していく一方で、銀行の経営方針はこの
変化に十分には適応することができなかった点である。企業の資金調達が多様
化 し 、企 業 は 積 極 的 に 証 券 市 場 や 海 外 の 市 場 で 資 金 調 達 を し た 。し か し こ れ は 、
企業の銀行貸出に対する資金需要を減退させる結果となってしまった。銀行は
10
相変わらず企業への貸出を重視していたため、資金運用のルートを新しく開拓
することが出来なかった。結果としてバブル現象を引き起こしてしまい、その
引き金となったのは、余った資金はノンバンクを通しての不動産融資に向けら
れたことであった。また、日本の銀行は、預金や貸出といった数量重視の経営
から抜け出すことは出来なかった。この数量重視の経営スタイルを継続してし
15
ま っ た が た め に 、資 本 収 益 率 は 低 く 、金 融 商 品 開 発 の 技 術 力 も 極 め て 弱 か っ た 。
こ れ に 加 え て 、 「 経 営 者 の モ ラ ル 」の 問 題 も あ っ た 。護 送 船 団 行 政 の 中 で 、数
量重視の経営によって得られた高収益に慣れてしまっていたため、浮利を求め
るようなり、そこには本当の意味での効率的な経営による収益を求める姿勢が
みられなかった。その結果、粗雑な審査による貸出と情報の非公開によって、
20
責任を先送りする銀行経営者が多数現れてしまった。このようなモラルなき経
営やバブルというものは資本主義市場経済において数多く内在している。そし
てそれがシステムを不安定にし、また非効率なものへと向かってしまう。すな
わち、システムの安定化にはある種の規制が必要である。この期の金融システ
ムでは、民間部門に対して行政の関与によるレントはなにもなくなっていた。
25
その代わりに、強い横並び意識を植え付けてしまい、大蔵省や日銀の監督・政
策当局、さらには民間金融機関においても、金融環境の変化に対して真剣に対
応することはなかった。
30
2.グ ロ ー バ ル 化 に よ っ て も た ら せ る メ リ ッ ト
8
2-1.我 が 国 に お け る 金 融 シ ス テ ム の 遷 移
我 が 国 で は 1980 年 代 よ り 、経 済 の 自 由 化 が 始 ま り 、1990 年 代 に 急 激 な 進 展
を遂げ、金融システムは大きな発展を遂げた。高度経済成長期まで金融制度は
5
国民の貯蓄を生産設備等、資本財に効率よく配分し、金利規制・為替管理・銀
行・証券・保険など、業務分野規制という金融規制が敷かれていた。その他多
くの規制・政府の保護等の敷かれていた体制を「護送船団方式」と呼ぶ。
金融の自由化により、金融規制の緩和あるいは廃止され、金融市場にも競争
原 理 が 導 入 さ れ た 。1992 年 、金 融 制 度 改 革 法 に よ り 、子 会 社 の 異 業 務 へ の 相 互
10
参 入 が 認 め ら れ た 。ま た 、1994 年 、金 利 の 自 由 化 が ほ ぼ 完 全 に 実 現 し た 。1996
年、
「 日 本 版 金 融 ビ ッ グ バ ン 」と 呼 ば れ る 制 度 改 革 に よ り 、徹 底 し た 自 由 化 と 国
際的に透明性の高い金融市場の形成が行われた。この自由化では、政府の監督
による金融業界の横並びである「護送船団方式」を改めて、多くの規制が解除
された。これによって、外貨取引の自由化と金融持株会社が解禁された。これ
15
に 続 き 、 1998 年 6 月 に 金 融 シ ス テ ム 改 革 法 の 成 立 、 同 年 7 月 に 自 動 車 、 火 災
等 の 損 害 保 険 の 保 険 料 率 自 由 化 、 同 年 12 月 に 銀 行 窓 口 で の 投 資 信 託 の 窓 口 販
売 化 、 1999 年 10 月 に 、 株 式 委 託 手 数 料 の 完 全 自 由 化 が 実 現 さ れ た 。
我 が 国 の 金 融 改 革 の 背 景 に は 、1990 年 台 初 頭 の バ ブ ル 経 済 の 崩 壊 に よ る「 失
わ れ た 10 年 」 と 呼 ば れ る 不 況 を 経 験 し 金 融 機 関 は 膨 大 な 不 良 債 権 の 処 理 に 追
20
われ、財務の健全化が求められたからである。
ま た 国 際 的 に BIS 規 制( バ ー ゼ ル Ⅰ )に よ る 自 己 資 本 維 持 に よ る 財 務 の 健 全
化 が 求 め ら れ る よ う に な り 、 我 が 国 に お い て も 1988 年 よ り 移 行 措 置 が 適 用 さ
れ 、1993 年 3 月 末 基 準 よ り 本 格 適 用 さ れ た 。財 務 の 健 全 化 は 自 己 資 本 で 対 処 す
るという方向に向かっていった。
25
2-2.グ ロ ー バ ル 化 に お け る 金 融 市 場 の 拡 大
世界経済の成長には、経済活動を支える十分な資金が円滑に流れることは必
要 不 可 欠 で あ る 。 IT バ ブ ル 崩 壊 後 の 調 整 が 一 巡 し た 2003 年 以 降 、 資 金 供 給 の
担い手としての新興国の台頭と、新たな金融技術による信用リスクの効率的な
30
分散等を通じた活発な信用創造によって、グローバルな資金フローは顕著に拡
9
大した。これらの要因により世界経済は安定した発展を遂げたと考えられる。
グローバル化による金融市場の拡大により、新興国からの資金フローの仕組
みに変化が生じた。新興国からの資金フローにおいて、政府所有の投資ファン
ドであるソブリン・ウェルス・ファンドの活用されるようになり、これは、新
5
興国からの資金フローの多様化をもたらすとともに、金融資本市場における安
定 し た 資 金 供 給 が 期 待 さ れ る と い っ た も の あ る 。一 方 、2007 年 夏 に サ ブ プ ラ イ
ム住宅ローン問題が発生すると、新たな金融技術の下で普及した金融資本取引
に お い て リ ス ク 評 価 の 緩 み 等 が 指 摘 さ れ る よ う に な っ た 。こ の よ う な 状 況 下 で 、
投資家や金融機関における新たな金融技術に対するリスク評価の見直しが進み、
10
高リスクな金融資本取引を控える動きが広がり、資産価格の調整と金融機関等
の損失拡大を受けて信用収縮懸念が高まっていった。
2-3.先 進 国 経 済 と 新 興 国 経 済 の 比 較
15
先進国の経常収支と、新興国の経常収支を比較するため、例として、先進国
ではドイツ、新興国ではインドを例として挙げ比較する。
グラフ1
ド イ ツ の 経 常 収 支 の 推 移 ( 1980~ 2015 年 )
20
9)世 界 経 済 の ネ タ 帳
10
5
グラフ 2
イ ン ド の 経 常 収 支 の 推 移 ( 1980~ 2015 年 )
10) 世 界 経 済 の ネ タ 帳
ま ず ド イ ツ の デ ー タ を 見 て み る と 2000 年 代 に 入 る ま で 経 常 収 支 は マ イ ナ ス
で あ る が 、 グ ロ ー バ ル 化 が 発 展 し た 2000 年 代 以 降 急 速 に 成 長 し 続 け 、 金 融 危
10
機のタイミングで少し停滞しているが、その後も持ち直し成長し続けている。
2000 年 代 以 降 の 上 昇 率 を 考 え る と 、グ ロ ー バ ル 化 に よ る 貿 易・資 金 フ ロ ー の 拡
大が上昇に影響していると考えられる。
次 に イ ン ド の デ ー タ に 目 を 向 け て み る 。 こ ち ら も 2000 年 代 ま で マ イ ナ ス の
状 態 が 横 一 線 で あ る が 、 グ ロ ー バ ル 化 が 始 ま っ た 2000 年 代 以 降 に プ ラ ス に 上
15
昇している。しかし金融危機のタイミングで金融危機のタイミングで減少し、
下 が り 続 け て い る 。グ ロ ー バ ル 化 に よ る 貿 易 の 拡 大 等 に よ り 、2000 年 代 に 入 る
と経常収支は上昇していることが分かる。
ここで、なぜドイツとインドで金融危機以降の推移に差があるのかを考察す
る。大きな要因として、政府による財政政策等の対応の差が大きな要因である
11
と考える。ドイツの場合、もともと先進国であったため、財政政策や規制策な
どが整備されており、金融危機が発生した場合でもリスクを最小限にする対応
が な さ れ た の だ と 考 え る 。し か し 、2000 年 代 以 前 の 発 展 途 上 国 で あ っ た イ ン ド
に目を向けると、グローバル化による貿易の拡大等により、経常収支の上昇は
5
見込まれたが、金融危機が発生した時に経済成長が先進国との取引が大きな要
因であったため、金融危機の発端が先進国であるアメリカであり、その打撃を
受け経常収支は下がり続けた。またそのような状況に陥った時の対応策が先進
国程整備されていなかったため、ドイツと比較するとこのような結果になった
と考えられる。
10
以上のことから、金融危機後の対応策の差により金融危機以降の経常収支は
先 進 国 、 新 興 国 で 大 き く 差 が つ い て い る が 、 グ ロ ー バ ル 化 が 発 展 し た 2000 年
代から経常収支がどちらも上昇していることを考えると、グローバル化が、経
済成長につながっていると考えられる。次項では経済成長率に着眼し考える。
15
2-4.グ ロ ー バ ル 化 と 経 済 成 長 率 の 関 係
新興国経済では、グローバル化により経済成長率が飛躍的に上昇した。グロ
ーバル化が進むことによって、貿易や投資の拡大により国際競争が激しくなる
につれて、産業構造の変化や、生産性の向上が経済成長の要因の一つとなって
いることが考えられる。新興国の内、資源国(一次産品輸出比率の高い国)で
20
は 、2000 年 代 に 資 源 国 ブ ー ム と 呼 ば れ る 急 成 長 が 見 ら れ た が 、こ の ブ ー ム の 背
景にはグローバル化の影響があり、グローバル化によって、資源価格の上昇に
よる輸出拡大と、投資の増加があったからである。つまりグローバル化の推進
により、新興国、特に資源国ではこれまでより、貿易が盛んになったため、国
の経済成長につなげることに成長したのだ。
25
しかし、グローバル化を進めることにより必ずしも経済発展が望めるという
わけではない。資源国ブームにより急激な成長を遂げたが、グローバル化によ
っ て 発 生 し た 金 融 危 機 に よ り 、成 長 率 は 上 昇 で は な く 、低 下 し て い る の で あ る 。
30
12
グ ラ フ 3 世 界 の 実 質 経 済 成 長 率 : 2000 年 以 降 、 新 興 国 が 先 進 国 を 大 幅 に 上
回る
(8 内 閣 府
5
こ の グ ラ フ か ら 分 か る よ う に 2000 年 代 に 入 る に つ れ て 、 新 興 ・ 途 上 国 の 経
済 成 長 率 は 上 昇 し て い る 。し か し 、2010 年 手 前 で 、急 激 に 成 長 率 は 低 下 し て い
る 。2007 年 か ら 2008 年 に 発 生 し た 、サ ブ プ ラ イ ム ロ ー ン 問 題 と リ ー マ ン ・ シ
ョックという世界金融危機の影響である。これまで順調に貿易を続け経済成長
率が上昇し続けていたが、グローバル化によって複雑に拡大してしまった金融
10
危機の影響で、これまでのような貿易が行えず、成長率は急激な低下をしてし
まったのである。
ここで、先進国の経済成長率に目を向けてみる。グラフから分かる通り、新
興国ほど成長率に波はなく、安定しているが新興国同様、世界金融危機のタイ
ミングで、急激に低下している。これは金融危機発生の原因となった、アメリ
15
カの経済状況の悪化が経済成長率の低下に起因していると考えられる。アメリ
カの経済状況の悪化に伴い、多くの先進国、新興国に大打撃を与えた。特に先
進国経済へのダメージは甚大であり、グラフの先進国の経済成長率の大幅な低
下から読み取ることができる。
以上のことからグローバル化により、国際貿易が盛んになり、経済成長を見
13
込めたが、グローバル化によって金融危機が世界的な問題に発展してしまい、
その影響を受け経済成長率が低下してしまっていることが分かる。このグロー
バル化の弊害が、次節のグローバル化のデメリットにつながる。
5
3.グ ロ ー バ ル 化 に よ っ て も た ら さ れ る デ メ リ ッ ト
グローバル化を推し進め、得られるメリットは大きかったが、得られるもの
はメリットばかりではない。グローバル化が拡大し、各国の繋がりが多くなっ
た分、金融危機におちいった際、複雑な問題になったのである。本節では、近
10
年で代表的な世界金融危機であるサブプライムローン問題・リーマン・ショッ
クに着眼しまとめる。
3-1.サ ブ プ ラ イ ム ロ ー ン 問 題 の 発 生 と 概 要
サ ブ プ ラ イ ム ロ ー ン 問 題 は 突 然 発 生 し た 問 題 で は な い 。遡 る と 、1990 年 代 末
15
ア メ リ カ で は 、ア ジ ア NIES(韓 国 ・シ ン ガ ポ ー ル ・香 港 ・台 湾 )や 中 東 諸 国 、あ
るいは中国が、アメリカの経常収支赤字をファイナンスする形で、上記の国の
余剰マネーがアメリカに流入し、住宅収支に充てられアメリカでは住宅ブーム
が発生しこれが背景となった。
アメリカでの住宅ブームにはアジャスタブル・レート・モーゲージという、
20
一定期間経過後に一定期間経過後に金利が大きく跳ね上がるタイプの住宅ロー
ン で あ り 、こ れ が 、2004 年 か ら 2006 年 に か け て 上 昇 し 、住 宅 価 格 の 上 昇 を 前
提とした借換えやキャッシュアウトが活用されていたことも問題の発生の一因
と言える。
図 1 商品別住宅ローンの特性
25
融資目的
政府機関積 ジャンボ
住宅購入
39%
46%
キャッシュアウト
59%
23%
借換え
2%
31%
(1
ALT-A
サブプライム
46%
40%
36%
53%
18%
7%
入門金融リスク資本と統合リスク管理
図 1 か ら サ ブ プ ラ イ ム ロ ー ン の 場 合 、新 規 の 住 宅 購 入 目 的 が 40% で あ っ た の
14
に 対 し 、キ ャ ッ シ ュ ア ウ ト 目 的 は そ れ を 上 回 る 53% で あ り 、借 入 資 金 を 生 活 費
等に回すという仕組みで消費の拡大につながった。同時に証券化技術の進展に
よ り 、 サ ブ プ ラ イ ム ロ ー ン を 担 保 と し た RMBS や 、 さ ら に そ れ を 証 券 化 し た
ABS-CDO が 開 発 さ れ 、 政 界 中 の 金 融 機 関 や 投 資 家 に 販 売 さ れ た 。 こ れ ら が 住
5
宅価格の上昇を招き、アメリカの住宅市場はバブルに達した。
住 宅 ロ ー ン で バ ブ ル に 達 し た ア メ リ カ で あ っ た が 、 住 宅 価 格 は 2006 年 に ピ
ークとなっており、住宅価格の借換えまたはキャッシュアウトはうまくいかな
く な っ た 。そ の 結 果 、2007 年 夏 頃 よ り 、サ ブ プ ラ イ ム ロ ー ン を 中 心 と し て 、住
宅ローンの返済を渋る割合が増加した。これにより、欧米の金融機関の損失と
10
なり、サブプライムローン問題に発展した。当初この問題は、アメリカ国内の
住 宅 ロ ー ン や 一 部 の 市 場 に と ど ま っ て い た が 、RMBS や ABS-CDO と い っ た 金
融 商 品 の 流 動 性 が 欠 如 し 、そ れ ら の 価 格 が 下 落 し た 。こ れ に よ り 、2008 年 4 月
に サ ブ プ ラ イ ム ロ ー ン 大 手 の ニ ュ ー セ ン チ ュ リ ー 銀 行 が 破 綻 、全 米 第 5 位 で あ
っ た 投 資 銀 行( 証 券 会 社 )の ベ ア ー・ス タ ー ン ズ の 経 営 危 機 が 明 ら か に な っ て 、
15
5 月 30 日 に JP モ ル ガ ン ・ チ ュ ー ス に 買 収 さ れ 、 そ の 後 9 月 に フ ァ ニ ー ・ メ イ
(連邦担当公庫)とフレディマック(連邦住宅金融抵当金庫)が実質的に破綻
した。
3-2.リ ー マ ン ・ シ ョ ッ ク へ の 発 展
20
サブプライムローン問題を契機に発生した米国バブルの崩壊は更なる金融危
機へと発展した。金融危機の発端は、アメリカのサブプライム住宅ローン問題
であったが、その根本的な原因は、グローバル・インバランス(世界的な経常
収支の不均衡)の拡大等のマクロ経済的な要因を背景に、金融機関の不適切な
リスク管理や高いレバレッジといった金融部門に起因する問題にあったと考え
25
ら れ る 。 こ の 金 融 危 機 は 、 2008 年 9 月 15 日 、 全 米 第 4 位 の 投 資 銀 行 ( 投 資 会
社 ) で あ っ た リ ー マ ン ・ ブ ラ ザ ー ズ が 、 連 邦 倒 産 法 第 11 章 の い わ い る チ ャ プ
ター・イレブンの適用を連邦裁判所に申請し倒産し、いわいるリーマン・ショ
ックへと発展した。アメリカの金融資本市場では、リーマン・ブラザーズの破
綻を契機に、金融機関の財務状況への懸念が高まり、カウンターパーティ・リ
30
スクが顕在化するとともに、金融市場における流動性が著しく低下するなど、
15
金融市場が機能不全に陥った。アメリカでは、伝統的な銀行の場合、連邦預金
保 険 公 社( FDIC)や 連 銀 に よ り 、破 綻 か ら 救 済 し て く れ る 制 度 が あ る が 、リ ー
マン・ブラザーズをはじめとした、先に述べたベアー・スターンズ等の投資銀
行への救済策や規制策を投じる権限がなかったのである。これにより大手銀行
5
の相次ぐ倒産につながってしまった。
この問題がグローバル化の影響により、信用収縮は世界中に拡大し、リーマ
ン・ショックと呼ばれる世界的な金融危機が発生してしまったのである。
3-3.ア メ リ カ 政 府 に よ る 対 応
10
ア メ リ カ 政 府 は 、2007 年 8 月 31 日 に 連 邦 住 宅 局( FHA)に よ る 、住 宅 ロ ー
ンの融資保険制度の拡充などを柱とした住宅保有者に対する支援策をたてた。
同 年 9 月 19 日 に は 連 邦 住 宅 企 業 監 督 局( OFHEO)が 、政 府 系 住 宅 金 融 公 社 フ
ァ ー メ イ( 連 邦 住 宅 抵 当 公 社 )、フ レ デ ィ マ ッ ク( 連 邦 住 宅 貸 付 抵 当 公 社 )に 対
し 、年 間 2% ペ ー ス で 住 宅 ロ ー ン 買 い 取 り 可 能 額 を 引 き 上 げ る 方 針 を 決 定 し た 。
15
ま た 、 同 年 12 月 6 日 、 ブ ッ シ ュ 大 統 領 は 、 住 宅 保 有 者 支 援 策 と し て 、 最 大
120 万 人 を 対 象 に 他 の ロ ー ン へ の 借 り 換 え ま た は 、 5 年 間 の 金 利 凍 結 等 に 金 融
機 関 と 共 同 で 取 り 組 む 政 策 を 発 表 し た 。翌 年 1 月 18 日 に は 、総 額 1680 億 ド ル
に上る緊急経済対策を発表した。この対策は、個人向けの戻し減税及び企業の
設備投資を促す優遇税制を柱として消費喚起と雇用創出を狙ったものであった。
20
3-4.世 界 へ の 影 響
グローバル化により問題は複雑に拡大されていた。金融危機はアメリカ国内
にとどまらず世界中に拡大した。
25
3-4-1.フ ラ ン ス へ の 影 響
2007 年 8 月 に 欧 州 へ と 広 が る 。フ ラ ン ス 銀 の 行 の 最 大 手 で あ る BNP パ リ バ
がサブプライム証券化商品に投資した傘下のファンドの資産を凍結し、個人投
資家の解約請求を応じなかったことから大問題となった。これをパリバショッ
クと呼び、問題の拡大を恐れた欧州中央銀行は大量の資金供給を行い、市場の
30
安定化を図った。
16
3-4-2.ド イ ツ へ の 影 響
2007 年 8 月 ド イ ツ で も 、 ド イ ツ 中 堅 銀 行 で あ る IKB 産 業 銀 行 が サ ブ プ ラ イ
ム関連の損失を発表し、政府系金融機関の資金支援を余儀なくされた。また住
5
宅ローン 2 位であるドイツの不動産金融大手、ハイポ・リアル・エステートが
経 営 危 機 に 陥 り 、ド イ ツ 政 府 に よ る 500 億 ユ ー ロ の 緊 急 救 済 資 金 の 提 供 が 行 わ
れ た 。ハ イ ポ の 経 営 危 機 は 金 融 シ ス テ ム の 危 機 に 発 展 す る 可 能 性 が あ っ た た め 、
政府による救済が不可欠であった。
10
3-4-3.イ ギ リ ス へ の 影 響
2008 年 9 月 13 日 、当 時 急 成 長 中 で あ っ た 英 国 住 宅 金 融 部 門 で 第 5 位 で あ っ
た ノ ー ザ ン ・ ロ ッ ク 銀 行 が 中 央 銀 行 で あ る イ ン グ ラ ン ド 銀 行 ( BOE) が サ ブ プ
ライムローン問題のあおりを受け資金繰りに行き詰まり緊急融資を依頼した。
こ れ が 引 き 金 と な り 、 ノ ー ザ ン ・ ロ ッ ク 銀 行 75 店 舗 の 前 に 預 金 者 が 長 蛇 の 列
15
を な し 、 推 定 40 億 ド ル の 現 金 が 引 き 下 ろ さ れ る 取 り 付 け 騒 ぎ が 発 生 し た 。 こ
れ に よ り ノ ー ザ ン ・ ロ ッ ク の 株 価 は 急 落 し た 。 同 年 9 月 18 日 に 英 銀 大 手 の ロ
イ ズ TSB が 住 宅 融 資 最 大 手 の 英 銀 HBOS を 122 ポ ン ド で 買 収 し た こ と に 始 ま
り、各国の金融機関が資本不足に陥った。リーマン・ブラザーズの破綻から始
まった金融危機は世界的に影響を与え、欧米民間銀行を中心に、剃る資金調達
20
が困難となった。
3-4-4.日 本 へ の 影 響
我が国へのサブプライム関連の損失は欧米に比べると限定的であった。しか
し 、2007 年 夏 以 降 、ア メ リ カ の 景 気 が 悪 化 し た た め 、ア メ リ カ 向 け の 輸 出 が 減
25
少し、貿易関係で日本の経済に影響をもたらした。また金融機関にも影響はあ
り 、 2008 年 10 月 に 大 和 生 命 が 破 綻 。 ま た 10 月 以 降 急 激 な 株 安 と な り 、 保 有
株式含み損の増加を通じ、銀行の自己資本比率や保険会社のソルベンシーマー
ジン比率の低下という形で我が国の金融システムに打撃を与えた。
30
17
3-5.グ ロ ー バ ル 化 の 弊 害
グローバル化の推進によって、前節からもわかるように、先進国・新興国ど
ちらも経済成長につながった。しかし、グローバル化を推し進めすぎ、国家間
5
の関わりが深くなることはメリットばかりではなかったことが、金融危機の経
験から分かる。一国の住宅ローン問題により発生した金融危機がグローバル化
の推進で多くの国に発展してしまい、世界規模の金融危機に発展してしまった
のである。
10
4.望 ま し い 金 融 シ ス テ ム の あ り 方
4-1.
金融システムを安定させる取り組み
金 融 機 関 は 、資 金 や 証 券 の 受 け 渡 し を 行 う「 決 済 機 能 」を 担 っ て い る 。ま た 、
15
受け入れた預金をもとに、貸出や証券の購入などを行い、資金やリスクを配分
する「金融仲介機能」を果たしている。このように重要な役割を果たしている
金融機関の経営が健全に行われていることは、金融システムの安定のための重
要な条件の一つである。
日本銀行は、銀行や証券会社など、日本銀行の取引先に対して、業務運営の
20
実態や各種リスクの管理状況、自己資本の充実度や収益力についての実態把握
を行うための調査を行い、経営の健全性の維持・向上を促している。調査の手
法としては、取引先へ立入って調査を行う考査と、立入りを伴わない調査(面
談や電話によるヒアリングや提出資料の分析など)であるオフサイト・モニタ
リングがある。
25
考査は、オフサイト・モニタリングとともに、日本銀行が、当座預金取引の
相手方である金融機関(取引先金融機関)の業務および財産の状況を把握する
ために行う活動の 1 つである。具体的には、取引先金融機関に実際に立ち入っ
て、経営実態の把握や各種のリスク管理体制の点検を、詳細かつ網羅的に行っ
ている。
30
また考査では、その結果を基に、必要に応じ、当該取引先に対してリスク管
18
理体制の改善などを促している。
日 本 銀 行 法 第 44 条 で は 、 日 本 銀 行 が 金 融 シ ス テ ム の 安 定 確 保 の た め の 業 務
を適切に運営する観点から、取引先金融機関と考査に関する契約を締結するこ
とができる旨が定められており、日本銀行は、この規定に基づき、取引先金融
5
機関との間で契約を締結し、考査を行っている。
オフサイト・モニタリングは考査と同様、日本銀行が当座預金取引の相手方
である金融機関(取引先金融機関)の業務および財産の状況を把握するために
行う活動の 1 つである。具体的には、金融機関の役職員との面談や電話でのヒ
アリング、金融機関から提出を受けた各種経営資料の分析などを日常的かつ継
10
続的に行うことを通じて、金融機関の資金繰り、当面の業務運営、収益状況と
いった経営動向について、幅広くかつタイムリーに把握している。取引先への
立入調査を行わない点で、考査とは異なる。
日本銀行では、こうして得られた情報に基づき、個々の金融機関が抱えるリ
ス ク の 動 向 等 を 踏 ま え て 必 要 な 助 言 を 行 う と と も に 、個 々 の 金 融 機 関 の 行 動( 貸
15
出や有価証券投資、資金調達、資本調達、オフバランス取引に関する運営スタ
ンス等)が、全体としてその時々の金融情勢や金融システムにどのような影響
を与えるかをマクロ・プルーデンスの視点に立って分析・評価している。
国際的に見ると、国際金融市場の動向や金融システムに内在するリスクをモ
ニタリングしているほか、市場動向を把握するための各種統計を作成・公表し
20
ている。
ま た 、 各 国 の 政 府 や 中 央 銀 行 と 、 G20 や G7、BIS 総 裁 会 議 、 EMEAP、 金 融
安定理事会などの国際会議の場において、その時々の国際金融市場や金融機関
の活動の状況に関する情報や意見を交換しているほか、提言のとりまとめにも
貢献している。
25
このほか、国際的なルール作りの場に参加し、安定性と効率性を備えた国際
金融市場を実現するためのルール作りに寄与している。
4-2.現 代 の 国 際 金 融 シ ス テ ム の 主 要 課 題 と 各 国 の 取 り 組 み
現在国際金融システムについて、以下のような問題点が挙げられている。
30
・透明性の向上・国際的スタンダード
19
投資家の合理的な判断形成を助け、各国政府の責任ある政策実行を促し、ま
た 、IMF 等 の サ ー ベ イ ラ ン ス 強 化 に 資 す る 等 の 観 点 か ら 、各 国 政 府 、金 融 機 関 、
一般企業、国際金融機関における透明性の向上が必要とされている。国際的に
は、透明性、ガバナンス等の改善のため、国際的スタンダードの整備を促進す
5
る動きが見られる。具体的には、各国が民間セクターのコーポレートガバナン
スや会計基準を含めた透明性に関する基準の策定及び遵守にコミットすること
や 、 IMF の SDDS(特 別 デ ー タ 公 表 基 準 )の 強 化 、 特 に 、 外 準 の 内 訳 等 の よ り 詳
細 な 公 表 に 合 意 し た こ と 、IMF の 財 政 透 明 性 に 関 す る 原 則 及 び そ の 実 施 の た め
の マ ニ ュ ア ル の 作 成 、IMF の 金 融・金 融 監 督 政 策 の 透 明 性 に 関 す る 原 則 の 検 討
10
な ど が あ り 、関 係 国 際 機 関 の 取 り 組 み と し て 、 OECD で は コ ー ポ レ ー ト ガ バ ナ
ン ス に 関 す る 基 準 を 閣 僚 理 に 提 出 、IASC (国 際 会 計 基 準 委 員 会 )で は 1 月 に 包 括
的会計基準を事実上完成、バーゼル銀行監督委員会では自己資本規制基準改訂
の 作 業 、 そ の 他 、 IOSCO( 証 券 監 督 者 国 際 機 構 )、 IAIS( 保 険 監 督 者 国 際 機 構 )
等でも、スタンダードの強化等に取り組んでいる。また、このような取り組み
15
に 対 し て の 日 本 の 主 張 が 反 映 さ れ て い る も の と し て 、IMF の 透 明 性 の 向 上 に 関
し 、事 務 局 ペ ー パ ー 等 の 公 開 等 に つ い て の 進 展 を 歓 迎 す る こ と や 、IMF の 業 務
と 政 策 に 関 す る 情 報 公 開 や 事 後 評 価 を 通 じ て IMF 自 身 が 透 明 性 向 上 に 寄 与 し
て い く こ と の 重 要 性 を 再 確 認 さ せ た こ と 。特 に 、 IMF が 業 務 、プ ロ グ ラ ム 、政
策、及び手続きの効率性について組織的な内部及び外部評価の継続することを
20
要 請 し た こ と が あ げ ら れ る 。 (本 年 4 月 G7・ 暫 定 委 員 会 )
・金融監督
先進国における貸し手側金融機関の監督システムの強化や、新興市場諸国に
おける借り手側金融機関の監督システムの強化・改革が必要とされる。国際的
な動きとしては、先進国におけるプルーデンシャル規制の強化や、新興市場諸
25
国におけるプルーデンシャル規制及び金融システムを更に強化した。ここで反
映 さ れ た 日 本 の 主 張 は 、 ヘ ッ ジ ・ フ ァ ン ド 等 高 レ バ レ ッ ジ 機 関 ( Highly
Leveraged Institutions= HLIs ) に 投 融 資 を 行 っ て い る 金 融 機 関 の リ ス ク 管 理
体 制 を 強 化 す る 方 法 ( 間 接 規 制 ) の 検 討 の 後 、 99 年 1 月 バ ー ゼ ル 銀 行 監 督 委
「 HLIs と 銀 行 取 引 に 関 す る 報 告 書 」 発 出 さ せ た こ と 、 よ り 広 い 文 脈 で 、 ヘ ッ
30
ジ・ファンド等自身による更なる報告及び情報開示が必要あるいは実現可能な
20
の か ど う か を 含 め て 、 金 融 監 督 の フ レ ー ム ワ ー ク に 対 す る HLIs 及 び オ フ シ ョ
ア セ ン タ ー の 活 動 か ら 生 じ る 影 響 に 関 し て の 検 討 、 G7 主 導 で の 金 融 安 定 化 フ
ォ ー ラ ム の 開 催 (各 国 大 蔵 省 、中 央 銀 行 、金 融 監 督 当 局 の 代 表 及 び 関 連 す る 国 際
機関が出席) があげられる。
5
(注 )
同 フ ォ ー ラ ム に は 、 1HLIs、 2 オ フ シ ョ ア セ ン タ ー 、 3 短 期 資 本 移 動 の
国際金融の安定性への影響、を研究するための 3 つの作業部会が設立された。
・国際的な資本移動への対応
一昨年来の新興市場諸国における危機の一因は、短期資金の急速な流出入に
あ っ た こ と か ら 、短 期 的 あ る い は 投 機 的 な 資 本 移 動 へ の 対 応 を 図 る こ と と し た 。
10
国際的な考えとしては、資本流入、特に短期資本に対する規制の導入は一時的
には流入量を減少させ、より根本的な政策実施のためのブリージングスペース
を与えうるが、いずれその効果は落ちてくるものであり代替手段とはなりえな
いことや、資本流出を防ぐための規制は広範なものとならざるを得ず、それは
結 局 ロ ー ル オ ー バ ー 率 や new money の 流 入 の 減 少 に 結 び つ く こ と か ら 、 危 機
15
の際に、一時的に資本流出の再規制を実施することは疑問とされている。この
対応に際して、日本は、攪乱的な資本流入を防ぐための措置はマーケットフレ
ンドリーである限りより一般的に正当化されるべきであるという意見や、危機
においては、居住者に対する資本流出規制の再導入などの方策も、オプション
の一つとなりうるのではないか、という事を主張していたが、実際に反映され
20
たのは、各国の資本自由化・資本規制の経験に関する分析、及び資本自由化の
適切な速度及び順序についての検討することや、新興市場国の資本自由化はよ
く 順 序 立 っ た 方 法 で 、各 国 ご と に そ れ ぞ れ に 適 応 し た も の で 進 め る べ き で あ り 、
ここで言う順序よくというのは、金融セクターの強化や貿易の自由化等の他の
政策を前提にするという意味でも、また、資本流出入のカテゴリーごとの自由
25
化 の 順 序 と い う こ と で も 必 要 (特 に 、 短 期 資 本 の 流 入 の 自 由 化 に は 慎 重 さ が 必
要 )で あ る と し た こ と 、資 本 移 動 、特 に 短 期 資 本 移 動 の モ ニ タ リ ン グ の 強 化 が 必
要 。投 資 家 側 (ヘ ッ ジ フ ァ ン ド 等 )の モ ニ タ リ ン グ 強 化 も 必 要 で あ る と し た こ と 、
資本移動を防ぐために、整合的な金融政策・為替制度が重要としたこと、資本
規制は一般に価格を活用したもの、一時的また広範に課されるほど有効である
30
と い う 考 え な ど が あ り 、具 体 的 進 展 と し て は 、98 年 秋 の 暫 定 委 コ ミ ュ ニ ケ に は
21
日 本 等 の 強 い 要 請 も あ っ て IMF 理 事 会 で の 検 討 が 明 記 さ れ 、本 年 3 月 の 理 事 会
で の 包 括 的 な 分 析・理 論 に 続 い て 、4 月 の 暫 定 委 コ ミ ュ ニ ケ に お い て も IMF が
今後引き続き分析・検討していくことが合意されたことがあげられる。
・為替レジーム
5
主 要 通 貨 間 に お い て 、為 替 変 動 の 安 定 化 を 図 っ て い く こ と が 必 要 で は な い か 、
また、新興市場諸国においてマクロ政策と整合的な適切な為替制度を選択する
ことが危機防止のためには不可欠であるとされている。この場における日本の
主張は、先進国においても変動相場制移行後の為替相場のずれなどは実物経済
に非常に大きな影響を与えており、為替相場の安定に向けた何らかの取り組み
10
を検討する必要があるということと、新興市場国においてはその通貨を緊密な
相互依存関係にある先進国の通貨バスケットにペグし、実質実効為替レート、
国際収支の動向等に応じてペグを単純な公式ではなく、ケースバイケースで検
討し、調整することもひとつの方法であるというものである。そして、実際に
国際的に反映されたものは、主要通貨間の為替レートがファンダメンタルズと
15
整 合 的 に な る よ う 、 G7 間 の 強 い 協 力 を 維 持 す る 必 要 性 や 、 新 興 市 場 諸 国 に お
いて持続可能な為替制度の維持に必要な要素を検討する必要性、望ましい為替
制度は国によって異なり得る。また、どのような為替制度も規律のある政策及
び堅固な金融システムによって支えられなければならないとするものである。
・暫定委・開発委の改革
20
IFIs(国 際 金 融 機 関 )の 業 務 に 対 し て 出 資 国 の 政 治 的 意 思 を 一 層 反 映 さ せ る こ
と で 、IFIs の 責 任 を 強 化 す る 必 要 が あ っ た 。こ の 改 革 に 対 し 、IMF 暫 定 委 員 会 、
IMF・ 世 銀 の 合 同 開 発 委 員 会 を 強 化 し 、 仏 は 暫 定 委 の 評 議 会 化 が 最 善 で あ る と
主張したことや、暫定委員会を含む機構改革の方策についての更なる検討。特
に暫定委員会と合同開発委員会の業務の重複を削減しつつ、情報の共有を改善
25
する必要性、暫定委代理会合の定例化が日本の主張で反映されたものである。
・ IMF の サ ー ベ イ ラ ン ス 強 化 ・ プ ロ グ ラ ム 及 び 手 続 き の 改 善
IMF の サ ー ベ イ ラ ン ス 強 化 や IMF プ ロ グ ラ ム 及 び 手 続 き の 改 善 が 、 今 日 の
通 貨 ・ 金 融 危 機 の 予 防 ・ 解 決 に 不 可 欠 と さ れ る 。 こ れ に 対 し 、 日 本 は 、 IMF の
サ ー ベ イ ラ ン ス (一 般 的 な 経 済 政 策 協 議 )及 び プ ロ グ ラ ム (資 金 供 与 に あ た っ て
30
の 政 策 協 議 )を よ り 的 確 な も の と す る た め 、財 政・金 融 の マ ク ロ 経 済 政 策 に 加 え 、
22
国際的な資本移動への対応、為替政策、実体経済の把 握の強化、の 3 点に重点
的 に 取 り 組 む べ き で あ り 、ま た 、他 方 、構 造 政 策 に 対 す る IMF の 関 与 を 限 定 す
る こ と の 必 要 性 や 、IMF プ ロ グ ラ ム の 内 容 の 見 直 し に あ た っ て は 、危 機 時 に 安
定の回復だけでなく経済の過度の収縮・コンフィデンスの更なる低下を回避す
5
るような財政・金融政策のあり方、危機の予防・解決のための民間の関与のさ
せ 方 、等 を 中 心 に 再 検 討 の 必 要 性 、 IMF の 手 続 き の 見 直 し に あ た っ て は 、 IMF
のアカウンタビリティの改善、理事会の関与の向上の観点から、事務局が各国
と交渉を始める前を含めプログラム策定のすべての段階で理事会が事務局に対
してプログラムのデザインについて関与できるようにする、理事会である国の
10
サーベイランス及びプログラムを議論する際には当該国の政府当局者自身を招
いて議論に参加させる、サーベイランス及びプログラム双方についての全ての
事務局ペーパーの自発的な公表を促進する、暫定委員会直属の事後評価組織を
作 る こ と を 主 張 し た 。実 際 に 国 際 的 に 反 映 し た も の は 、IMF の 透 明 性 及 び ア カ
ウンタビリティ、融資方針や融資条件の修正、及び改善されたコンディショナ
15
リ テ ィ を 含 め 、IMF の 有 効 性 を 改 善 す る た め の 幅 広 い 範 囲 の 改 革 を 支 持 す る こ
とを合意としたこと、実際のアジア向けプログラムも以前の反省を踏まえた改
善、更に、本年 4 月の暫定委員会は日本等の主張も受けて理事会に対し、アジ
ア 金 融 危 機 時 の IMF の 支 援 プ ロ グ ラ ム に 関 し て 理 事 会 が 行 っ た 有 益 な レ ビ ュ
ーを踏まえ、世界経済の変化、特に国境を越えた急激で大規模な資本移動が起
20
こ り 得 る 状 況 を よ り 的 確 に 反 映 す る よ う に 、IMF の サ ー ベ イ ラ ン ス 及 び プ ロ グ
ラ ム を 一 層 改 善 す る 方 法 を 議 論 す る こ と を 要 請 し た こ と 、既 に IMF 事 務 局 ペ ー
パーの公表問題については、サーベイランスに関するペーパーを当該国が自発
的に公表するパイロット・プロジェクトに着手するようにしたことなどがあげ
ら れ る 。 具 体 的 な 進 展 と し て は 、 昨 年 12 月 に は 日 本 等 の 要 請 も あ っ て 、 ア ジ
25
ア 通 貨 危 機 に お け る IMF プ ロ グ ラ ム を 評 価 す る 理 事 会 が 開 か れ 、成 長 見 通 し の
誤りがより深刻な事態を招いた、財政政策は当初引締め過ぎた、構造政策の実
施については一層の配慮が必要、等の反省点が議論され、本年 1 月にはペーパ
ー も 公 表 さ れ た 。 更 に 本 年 3 月 の マ ニ ラ ・ フ レ ー ム ワ ー ク 会 合 (メ ル ボ ル ン )で
も 、ア ジ ア 太 平 洋 諸 国 ・ IMF 等 の 参 加 者 に よ り 活 発 な 議 論 が 行 わ れ た こ と で あ
30
る。
23
(注 )
日 本 は 4 月 の 暫 定 委 員 会 に お い て 、こ の パ イ ロ ッ ト・プ ロ ジ ェ ク ト の パ
イロット国となる意図を表明。
・国際的資金供給機能の強化
危 機 の 予 防・ 解 決 に あ た っ て は 、IMF を 中 心 と す る 国 際 的 な 資 金 供 給 機 能 を
5
強 化 す る こ と も 必 要 と さ れ た 。こ れ に 対 す る 日 本 の 主 張 は 、IMF が 危 機 時 に 動
員 で き る 資 金 の 規 模 を 十 分 に 拡 大 す る た め 、IMF が 市 場 か ら 資 金 調 達 す る こ と
も 検 討 す べ き と す る こ と や 、 各 国 の 外 準 強 化 の た め に 、 IMF が 新 規 に SDR の
一 般 配 分 を 行 う こ と 、IMF の 役 割 と 機 能 を 補 完 す る た め の 、地 域 内 で 相 互 に 通
貨支援を行うメカニズムも長期的な検討課題とすべきであるというものである。
10
そ し て 実 際 に は 、 第 11 次 増 資 が 発 効 (99 年 1 月 22 日 ; IMF の 資 金 規 模 が 45%
増 加 し 、 2120 億 SDR に 。 日 本 は 出 資 シ ェ ア 6.28%で 単 独 2 位 。 ) さ れ た こ と
や 、 NAB(New Arrangement to Borrow) が 発 効 (98 年 11 月 17 日 ; 総 額 340 億
SDR。従 来 の GAB に 比 べ 金 額 で 2 倍 、参 加 国 は 11 ヶ 国 か ら 25 ヶ 国・地 域 ) さ
れ た こ と 、 IMF の 予 防 的 ク レ ジ ッ ト ・ ラ イ ン (CCL)の 創 設 (1999 年 4 月 ) な ど
15
が国際的に反映された主張である。
(注 ) 日 本 は 、IMF に よ る 日 頃 の サ ー ベ イ ラ ン ス の 結 果 が 良 好 な 国 が 、通 貨 危 機
の伝播や投機的資金のアタックなどの要因で危機に陥った場合、一度に大量の
短 期 資 金 を 貸 し 付 け ら れ る よ う な 新 融 資 制 度 を IMF 内 に 設 け る こ と を 提 案 し
て き た が 、 CCL の 創 設 は そ の 趣 旨 と 軌 を 一 に す る も の 。
20
・民間関与
危機に際し民間債権者に対し適切な負担を求める仕組みを構築することは、
危機の予防・解決にあたって喫緊の課題であった。国際的に現在検討されてい
る 民 間 関 与 強 化 策 と し て 、IMF の 支 援 策 の 合 意 に あ た り 、民 間 部 門 の 融 資 残 高
の維持や借換えを条件とすることや、民間銀行と危機の際に発動するクレジッ
25
ト・ラインを締結すること、インターバンク・ローンに危機の際に返済期限を
延長することができるコールオプションを付すこと、より秩序ある債務整理の
ア レ ン ジ メ ン ト の た め に 、 集 団 行 動 に 関 す る 条 項 (Collective action clauses) を
債 券 発 行 時 の 契 約 に 盛 り 込 む こ と 、IMF の 承 認 の 下 に 対 外 債 務 の 一 時 的 モ ラ ト
リ ア ム を 導 入 す る こ と 、IMF が 債 務 履 行 遅 滞 国 へ 貸 付 を 行 う と い う ポ リ シ ー を
30
推進すること、短期債務の過度の累積の回避、民間セクターの対外債務に関す
24
るモニタリングシステムの構築、民間資本金融市場との効果的な対話の維持な
どがある。
・社会的弱者対策
金融危機の際の社会的弱者への影響を最小化する必要があり、国際的な取り
5
組みとしては、世銀において社会政策に関する基準を作成や、公共支出に関す
る 作 業 に 向 け た 、 世 銀 と IMF の 間 の 協 力 関 係 の 強 化 な ど が あ げ ら れ る 。 ま た 、
この取り組みに対する日本の主張が反映されたものとして、危機時の調整プロ
グラムにおいて、社会の最も脆弱な層への影響に対する配慮を強化する措置を
促進することがあげられる。
10
4-3.シ ス テ ミ ッ ク リ ス ク 発 生 の 防 止 策
4-3-1.シ ス テ ミ ッ ク リ ス ク の 概 要
今後の金融システムの在り方として、安定性を向上させていくことが重要だ
と考える。そして、その安定を脅かす事柄のうち金融危機についてと改善策を
15
提示する。
金融危機において最大の特徴であるのは、住宅ローンの行き過ぎた証券化、
仕組みが複雑で不透明なデリバティブの急増、レバレッジの上昇、リスク管理
の失敗など、こういった要因が重層的に重なったことによって、金融システム
全体の危機である、システミックリスクが発生した点である。システミックリ
20
スクの発生を防止することが重要である。
システミックリスクとは、システムの一部分が崩壊するのではなく、システ
ム全体が崩壊するリスクあるいはその可能性を意味している。個別の金融機関
の支払不能等や、特定の市場または決済システム等の機能不全が、他の金融機
関、他の市場に波及するリスクのことを言う。最初の歪みから発生した小さな
25
危機は、銀行や金融市場へと伝播し、それが一国さらには世界中に波及すると
いう形態である。さらにそこから金融セクターと実物セクターのフィードバッ
ク・メカニズムを通じて、生産や貿易などの実体経済にも悪影響を及ぼすもの
である。
金融システムにおいては、個々の金融機関等が、各種取引や決済ネットワー
30
クにおける資金決済を通じて相互に網の目のように結ばれている。このため、
25
一箇所で起きた支払不能等の影響が、決済システムや市場を通じて、またたく
間に波及していく危険性がある。
システミックリスクは、銀行の為替決済リスクの顕現化に端を発し、世界金
融危機以前は、ある銀行の破綻が、他の多くの銀行の預金取り付け騒ぎに伸展
5
するという、銀行特有の一面に着目したものであった。しかしながら、世界金
融危機を世紀として、実体経済と金融システムの相互関連による新たなタイプ
のシステミックリスクが顕現化した。
シ ス テ ミ ッ ク リ ス ク の 定 義 は 様 々 あ る が 、 IMF、 FSB お よ び BIS が G20 首
脳会合に競争で報告した「金融機関のシステム上の重要性を評価するガイドラ
10
イン」では、金融システム全体あるいは一部の障害により顕現化し、実体経済
に深刻な負の結果をもたらす潜在性を保有する、金融サービスのフローを途絶
するリスクであるとしている。この定義は、システミックイベントおよびシス
テミック危機に関して、次の 3 つの特徴がある。
第 1 の特徴は、外部不経済によって引き起こされる可能性がある点である。
15
一例として、金融機関が金融システム上、リスクテイクした結果が、その金融
機関で完結されない場合が挙げられる。
第 2 の 特 徴 が 、金 融 サ ー ビ ス の 提 供 に 関 係 の あ る も の だ け を シ ス テ ミ ッ ク イ
ベントと特定する点である。したがって、システミックリスク管理では、必ず
しも資産価格バブルのようなものを取り扱う必要がないかもしれない。
20
第 3 の特徴は、ショックが金融セクターで起こったか、実体経済で起こった
かに関係なく、システミックイベントが、実体経済にかなりのスピルオーバー
効果をもたらすという点である。したがって、あるイベントがシステミックで
あ る と 、金 融 サ ー ビ ス・活 動 を 中 断 さ せ 、実 体 経 済 に 損 害 を 与 え る こ と に な る 。
金 融 シ ス テ ム は 、常 に 急 速 に 発 展 し て い る の で 、シ ス テ ミ ッ ク リ ス ク の G20 の
25
定義は、金融資本市場のインフラストラクチャーの潜在的な変化に適応するう
え で 十 分 な 柔 軟 性 が 必 要 で あ る 。事 実 、シ ス テ ミ ッ ク リ ス ク の G20 の 定 義 は 世
界金融機中に経験したいくつかのイベントに適応するものである。
4-3-2.各 国 へ の セ ー フ テ ィ ネ ッ ト の 整 備 の 重 要 性
30
システミックリスクの防止策と拡大化の防止策について説明する。
26
防止策、拡大化させない政策として、金融セーフティネットの整備されてい
ない国に、これらを整備し、各国のセーフティネットをグローバルに繋げるこ
とによって、防止するという案を提示する。
セーフティネットとは、万が一金融機関が破綻した場合に、預金者等の保護
5
や資金決済の履行の確保を図ることによって、信用秩序を維持することを目的
としている。
こ う し た セ ー フ テ ィ ネ ッ ト の 存 在 は 、金 融 経 済 シ ス テ ム に 対 す る 信 頼 を 高 め 、
危機発生の恐れを抑制する効果も有している。例えば、アジア地域での対応策
としては、ある国が短期流動性不足に陥った場合のバックストップとして、A
10
SEANおよび日本・中国・韓国との間でチェンマイ・イニシアティブの拡充
が図られてきている。
アジアで活動する企業や金融機関の行動変化は、セーフティネットに求めら
れ る 役 割 に も 影 響 を 及 ぼ す 。ア ジ ア が 輸 出 の た め の 生 産 基 地 と し て の み な ら ず 、
一大消費地としての役割も果たすようになるなかで、グローバルに事業を展開
15
する企業がアジアへ進出し、そのビジネスを現地化させる動きが一段と進展し
て い る 。例 え ば 、日 本 企 業 も 、拡 大 し つ つ あ る ア ジ ア の 内 需 を 深 耕 す る た め に 、
製造業が現地生産を拡大させている。また、小売業や他のサービス業など幅広
い業種において、現地消費者をターゲットとした進出が進んでいる。こうした
動きを受けて、邦銀のアジアビジネスにおいても、一段の現地化を進めること
20
が 課 題 と さ れ て い る 。 ア ジ ア へ 展 開 し て い る 企 業 で は 、各 国 に お け る 現 地 通 貨
の安定的な確保も課題となっている。そのためには、銀行からの資金供給体制
がしっかりと整えられることが重要である。国内金融市場の発展を通じて、銀
行は資金流動性へのアクセスを確保することができ、銀行の企業に対する資金
供給を強化することにも繋がっていくのである。こうした動きは、国内金融シ
25
ステムの安定化に寄与するだけでなく、グローバル企業のさらなる進出、ビジ
ネスの現地化を促すという好循環を生み出してゆくと考えられる。各国の中央
銀行にとっては、資金調達体制がしっかりと整えられ、厚みのあるインターバ
ンク市場が発展した、健全な銀行システムを育成することが課題となる。しか
し、現地通貨の流動性に関しては、資金取引市場や有担保の資金調達手段の発
30
展状況に応じて、国ごとに状況が異なっているのが現状である。成長過程にあ
27
るアジアの金融市場でのバックストップの一つとして、日本銀行は、アジア各
国の中央銀行との間でクロスボーダー担保取極を結んでいる。すでにタイ中央
銀行との間でも、日本国債や円現金を担保として金融機関がタイ・バーツの供
給を受けられる枠組みを構築済みである。域内セーフティネットの運営に当た
5
っては、地域の金融経済情勢をきめ細かく把握し、各国間でタイムリーに情報
を共有することが重要となっていく。各国におけるマクロ経済政策運営や直面
する課題を日頃から共有しておくだけでなく、国際金融市場に急激な変化が生
じる場合には、速やかな情報共有と迅速なアクションをとる体制を整えておく
ことも必要だ。日本銀行は、こうした協力体制の強化を図るため、タイ中央銀
10
行をはじめアジア各国の中央銀行と協力して、EMEAP(東アジア・オセア
ニア中央銀行役員会議)の運営等にも積極的に貢献している。
ここで一例として、アメリカとドイツのセーフティネットの整備について解
説する。
『 ア メ リ カ の セ ー フ テ ィ ネ ッ ト は 、 1980 年 代 の 金 融 危 機 の 帰 結 と し て 発 生
15
し た 基 金 の 枯 渇 を 受 け 、再 編 成 を 余 儀 な く さ れ た 。FDIC は 再 編 成 さ れ 、下 部
機 構 と し て 2 つ の 保 険 基 金 を 持 つ こ と に な っ た 。 従 来 の FDIC の 基 金 は 銀 行
保 険 基 金 ( Bank Insurance Fund: BIF ) に 引 き 継 が れ る と と も に 、 財 政 的 に
破 綻 し た FSLIC が 清 算 さ れ 、 そ れ に 代 わ っ て FDIC 内 に 貯 蓄 金 融 機 関 を 対
象 と し た 貯 蓄 組 合 保 険 基 金 ( SAIF) が 創 設 さ れ た 。 FDIC の 下 で 二 つ の 保 険
20
基 金 の 運 営・会 計 は 別 々 に 管 理 さ れ て い る 20。
預金保険機構のガバナンス構
造 も 改 革 さ れ た 。 FDIC 理 事 会 メ ン バ ー の 数 が 、 こ れ ま で の 3 名 か ら 5 名
に 増 員 さ れ 、新 し い 5 名 の メ ン バ ー は 、従 来 か ら の 通 貨 監 督 官 の 他 に 、OTS 長
官 、及 び 大 統 領 が 上 院 の 助 言 と 同 意 に よ り 任 命 す る 、任 期 6 年 間 の 理 事 3 名
(従来は 2 名)で構成された。 大統領はこれら任命理事 3 名のうちから、
25
理事会議長と副議長をやはり上院の助言と同意によって任命することとなった。
預金保険の財源は保険料で賄うことを原則とし、加盟機関の保険料率は大幅に
引上げられることになった。ただし、一律に引上げられるのではなくて、金融
機 関 の「 健 全 度 」に 応 じ て 異 な る 預 金 保 険 料 率 を 適 用 す る と い う「 可 変 保 険 料
率 」の 制 度 が 導 入 さ れ た 。こ れ は 金 融 機 関 に 対 し て 経 営 を 健 全 化 さ せ る 誘 引 を
30
与 え る と と も に 、不 健 全 な 金 融 機 関 の フ リ ー・ラ イ デ ィ ン グ を 防 止 す る こ と で 、
28
加盟金融機関間の公平性を保つための措置であった。 ただし、 預金保険基金
の 所 要 準 備 は 、 付 保 対 象 と な る 預 金 総 額 の 1.25% と 設 定 さ れ た た め 財 政 資 金
の導入が不可避となった。その結果、保険料収入と所要準備額との差額は財務
省 が 補 填 し た 。 FDICIA に よ り FDIC の 借 入 上 限 額 は 50 億 ド ル か ら 300
5
億 ド ル へ と 引 上 げ ら れ た 。ま た こ の 300 億 ド ル と は 別 に 、連 邦 資 金 調 達 銀 行
( FFB) か ら 450 億 ド ル ま で 借 入 れ ら れ る こ と と な っ た 21。 こ の よ う な 資 金
手 当 て を 通 じ て 、 SAIF は 実 際 の 破 綻 処 理 も 含 め て 、 1993 年 以 降 活 動 を 開 始
することとなった。 その一方で、破綻金融機関の系列金融機関に対しては、
FDIC の 保 険 損 失 を 共 同 で 埋 め 合 わ せ る 義 務 が あ る こ と を 定 め た 。 FDIC は 、
10
資 金 援 助 を 行 っ た 場 合 、対 象 と な っ た 預 金 金 融 機 関 と 同 一 の 親 会 社 に よ っ て 支
配されている金融機関に対して支出の返還を求めることができるようになった。
次 に ド イ ツ で は 、 1950 年 代 末 か ら 70 年 代 初 頭 に 進 ん だ 自 由 化 で 創 出 さ れ
た 競 争 的 な 市 場 を 背 景 と し て 、当 時 、 競 争 条 件 の 平 等 化 が 必 要 に 思 わ れ て い た 。
課税の平等は当局主導で処理できるが、問題は平等かつ十分な預金保護の制度
15
の 形 成 で あ っ た 。 と い う の も 、地 域 金 融 機 関 の 預 金 保 護 制 度 で は 、大 銀 行 と の
競争条件を優位にする自発的な制 度として構築されていたからである。既に
1930 年 に は 、信 用 組 合 の う ち 庶 民 銀 行 が 、地 域 的 な ギ ャ ラ ン テ ィ ー 連 合 を 設 立
し 、そ れ が 全 国 的 な 発 展 を 見 せ て い た 。貯 蓄 銀 行 の セ ク タ ー で も 、1969 年 に 信
用 組 合 と 同 様 の 制 度 を 形 成 し て い た 。 し か し な が ら 、信 用 銀 行 の 集 う 全 国 銀 行
20
連 合 で は 、 確 か に 1963 年 、「 消 防 基 金 (Feuerwehrfonds)」 と 呼 ば れ る 共 同 基
金を設けはしたものの、これが当局から見ると他の二金融セクターと比べて不
十分なものであった。そこでキージンガー大連立政権は、銀行は強制的に連帯
(再 編 )す る か 、預 金 保 険 制 度 を 設 立 す る か の ど ち ら か で あ る と 主 張 し た 。 「 ア
メ リ カ の よ う な 強 権 的 な 預 金 保 険 制 度 」 を 忌 避 し た 全 国 銀 行 連 合 は 、 1969 年
25
には、全国銀行連合監査連合を設立して民間主導の金融検査を開始し、共同基
金による預金保護限度を 2 万マルクまで引上げかつ保護範囲を拡大した。こ
うして民間が独自の預金保険制度を設けたため、政府は、預金保険制度の充実
か ら い っ た ん 手 を 引 き 、自 己 資 本 規 制 を 整 備 す る よ う に な っ た 。 私 立 銀 行 の 預
金 保 護 制 度 を 襲 っ た 最 大 の 試 練 が 、ヘ ル シ ュ タ ッ ト 危 機 で あ っ た 。I.D.Herstatt
30
銀行株式合資会社が債務超過に陥り、支払い困難となって金融制度全体に一時
29
的 な 信 用 危 機 が 生 じ た の だ 。こ の 危 機 は 、連 合 会 員 に よ る 資 金 調 達 で 克 服 さ れ
た 。 し か し 、 対 策 と し て 、 15 の 大 銀 行 ・ 地 方 銀 行 ・ 個 人 銀 行 家 に よ る 貸 付 保
証 の 制 度 で あ る 流 動 性 コ ン ソ ー シ ャ 」が 作 ら れ た 。1974 年 9 月 に は 、連 銀 と そ
の 他 の 銀 行 を 入 れ た 恒 久 的 な 事 業 体 と し て 、リ コ バ ン ク が 設 立 さ れ た 。 こ う し
5
て現在にもつながる民間金融機関、当局、及び中央銀行の役割分担ができた。
民 間 銀 行 の 基 金 は 、 自 己 資 本 (当 時 は Tier1)の 30%ま で の 預 金 を 保 護 す る 。 そ
して当局は、危機の際に個別行のモラトリウムを発し保護されない大口預金者
や銀行の取立権を禁じる。付保預金はただちに引出しうるものとし、全銀連の
預 金 保 護 基 金 が 加 盟 銀 行 及 び リ コ バ ン ク を 利 用 し て 流 動 性 を 調 達 す る 。』( 米 独
10
の 金 融 自 由 化 と セ ー フ テ ィ ネ ッ ト の 展 開 ・ 山 村 延 郎 /松 田 岳 ・ P53,54)
このように、各国でセーフティネットの整備が進んできている。しかし、こ
うした金融セーフティネットの整備は重要であるが、単に拡大・強化していけ
ば良いというものではない。長い目でみた金融システムの安定・維持を考える
と、多くの面でバランスを確保していく必要があるだろう。
15
その中でも各国間のバランス、協調性が重要だと考える。金融のグローバル
化が進み、各国の金融機関の相互連関性も高まってきており、個人の金融資産
をみても、外貨預金や外債をはじめ、海外の金融資産のウェイトが高まってい
る。こうした中で、金融セーフティネット整備の面でもクロスボーダーの視点
を 意 識 す る 必 要 性 が 一 段 と 高 ま っ て き て い る 。例 と し て 、預 金 保 険 の 分 野 で は 、
20
欧 州 に お い て 2008 年 秋 に 預 金 保 険 の 保 護 上 限 の 格 差 を き っ か け と し て 大 規 模
な 預 金 シ フ ト が 生 じ た 。ま た ア ジ ア 諸 国 で は 、自 国 の 金 融 機 関 の 国 際 的 な 競 争
条件の維持を理由に預金保険の保護上限を引き上げる動きもみられた。こうし
た事例は、預金保険制度の設計においても、各国間の協調の重要性が高まって
いることを示している。
25
このように、徐々にセーフティネットが整備されつつあるが、まだ全世界と
いうには足りない。全ての国に、セーフティネットが整備され、それらが繋が
ることによって、リスクの回避や危機に陥ってしまった場合でも、各国が協力
することによって、ダメージを軽減できるのではないだろうか。
30
4-4.IMF に よ る セ ー フ テ ィ ネ ッ ト の 整 備
30
4-4-1.IMF の 概 要
IMF が 担 う 第 一 の 責 務 は 国 際 通 貨 制 度 の 安 定 性 の 確 保 で あ る 。国 際 通 貨 制 度
とは、世界の国々が相互に取引を行なう上で不可欠な、為替レート制度、及び
多国間決済制度を指す。
5
加盟国が国際収支上の問題を是正するための余地を持つことができるよう、
IMF は 加 盟 国 に 対 し 金 融 支 援 を 行 う 。当 該 国 の 当 局 は 、IMF と の 密 接 な 協 力 の
下 、IMF が 金 融 支 援 す る 調 整 プ ロ グ ラ ム の 計 画 立 案 を 行 い 、こ れ ら プ ロ グ ラ ム
の効果的な実施に基づき金融支援の継続の可否が判断される。金の売却に伴う
想定外の利益を活用し、融資利用限度を 2 倍とするとともに、世界の貧困国に
10
つ い て は そ の 融 資 を 拡 充 し 、 2016 年 末 ま で 無 金 利 と し て い る 。
さらに、技術支援や研修は、租税政策や租税管理、支出管理、金融・為替政
策 、銀 行・金 融 シ ス テ ム の 監 督 と 規 制 、法 的 な 枠 組 み や 統 計 な ど を 含 む 分 野 で 、
加盟国による効果的な政策の立案と政策実施能力の強化を支援している。
15
4-4-2.セ ー フ テ ィ ネ ッ ト の 各 国 へ の 整 備
第 3 節で提示した、全世界にセーフティネットを整備するということは、容
易 で は な い 。 そ こ で 、 IMF に よ る セ ー フ テ ィ ネ ッ ト の 整 備 を 提 案 す る 。
2008 年 に 世 界 経 済 危 機 が 発 生 し た 当 初 か ら 、 IMF は あ ら ゆ る 手 段 を 取 り
188 の 加 盟 国 を 支 援 し て い る 。強 化 さ れ た 融 資 能 力 を 駆 使 し 、国 際 社 会 で の 様 々
20
な経験に基づき政策助言を行うとともに、加盟国のニーズにより良い対応がで
きるよう様々な改革を行っている。
例 と し て 、危 機 に 対 す る 防 火 壁 を 構 築 。 世 界 金 融 危 機 に よ り 打 撃 を 受 け た 加
盟国の拡大を続ける資金調達ニーズに対応するとともに、世界の経済および金
融 の 安 定 性 の 強 化 を 支 え る た め に 、世 界 危 機 の 発 生 当 初 よ り IMF は 、融 資 能 力
25
の 大 幅 強 化 に 取 り 組 ん で い る 。IMF の 主 要 な 原 資 で あ る 加 盟 国 が 振 り 込 む ク ォ
ー タ( 出 資 割 当 額 )の 増 額 へ の コ ミ ッ ト メ ン ト を 取 り 付 け る と と も に 、加 盟 国
と の 間 で の 大 規 模 な 借 入 取 極 を 確 保 す る な ど の 手 段 が 講 じ ら れ た 。さ ら に 、IMF
の 分 析 及 び 政 策 助 言 の 強 化 も 行 っ て い る 。 危 機 の 変 化 と と も に 、世 界 的 視 野 や
過 去 の 危 機 の 経 験 を 反 映 し た IMF の モ ニ タ リ ン グ や 見 通 し 、リ ス ク 分 析 や 政 策
30
助 言 に 対 す る 需 要 が 高 ま っ て い ま す 。IMF は 、先 進 並 び に 新 興 市 場 国 ・ 地 域 か
31
ら 成 る 20 カ 国 グ ル ー プ( G20)と 協 力 す る な ど 、国 際 金 融 シ ス テ ム の 改 革 の た
め に 危 機 か ら の 教 訓 を 導 き 出 す と い う 取 り 組 み に 貢 献 し て い る 。 そ し て 、 IMF
の ガ バ ナ ン ス 改 革 で あ る 。 2008 年 4 月 と 2010 年 11 月 、IMF は 新 興 国 の 重 要
性 が 増 し て い る こ と か ら 、IMF の 正 当 性 の 強 化 を 目 指 し た 広 範 な ガ バ ナ ン ス 改
5
革を承認した。後者の改革は発効には至っていませんが、実現した場合小国の
途 上 国 の IMF で の 影 響 力 も 確 保 さ れ る 。
こういった政策・支援と共に、加盟国でセーフティネット等の制度のない国
への整備も行うのを提案する。
10
おわりに
金融のグローバル化には先進国・新興国どちらも経済成長に繋がるという利
点がある。しかし、グローバル化を推し進めすぎ、国家間の関わりが深くなる
15
ことはメリットばかりではなく、金融危機等の大きな問題を発生させることも
ある。こういった問題を少しでも取り除き、さらに経済発展を進めていくため
に、今回提示してセーフティネットの整備等、多くの取り組みをこれからも進
めていかなければならない。
20
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14.財 務 省 『 国 際 金 融 シ ス テ ム 改 革 の 主 要 課 題 』
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15.財 務 省 『 IMF の 概 要 』
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16.国 際 通 貨 基 金 『 IMF の 概 要 』
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17.国 際 通 貨 基 金 『 世 界 経 済 危 機 へ の IMF の 対 応 』
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18. 山 村 延 郎 ・ 松 田 岳 『 米 独 の 金 融 自 由 化 と セ ー フ テ ィ ネ ッ ト の 展 開 』
http://www.fsa.go.jp/frtc/nenpou/2004/04.pdf ( 最 終 ア ク セ ス 2015/11/1)
34
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