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レーザー計測による山間部の地形調査について
レーザー計測による山間部の地形調査について たけうち よしのり 四国地方整備局 土佐国道事務所 調査第二課 調査第一係 武内 慶了 はじめに 近年、普及してきた航空機搭載型レーザー計測は、樹林の隙間を通過して地形が計測可能 なため、等高線精度が格段に向上している。今回、一般国道 33 号の越知町∼吾川村間にお いて道路設計の基礎資料作成にレーザー計測を適用した結果、標高点精度が 5cm、等高線精 度が 27cm となり、国土交通省公共測量作業規程に定められる精度を十分に満たした。また、 この成果が微地形をも表現していることを利用し、レーザー計測を用いた新しい道路設計手 法やその他利活用方法について考察を行なった。 1. 国道 33 号道路整備への新技術導入 1.1 背景と目的 一般国道 33 号は、地域間交流の強化や事前通行規制区間の解消を目的に、高規格道路を 補完し、地域連携の強化を図る地域高規格道路が計画されている。今回レーザー計測を実施 した区間は、現道の利活用、及び抽出された最適ルートやトンネル坑口に対する安全性、落 石・地すべりによる対策工等を幅広く検討する必要がある。そこで、新たにレーザー計測に よる微地形分析を行ない、現道・計画路線の坑口周辺一帯における三次元データ取得及び等 高線図を作成した。 1.2 レーザー計測の実施 GPS レーザー計測を実施した区間は、高知県高岡 郡 越 知 町 越 知 丙 ∼ 吾 川 郡 吾 川 村 橘( 延 長 26.9km)である。この区間においてヘリコプタ IMU ー搭載型レーザー計測装置を使用し、現道およ GPS び計画道路の詳細な地形的要因を把握、地図縮 尺 1/1,000 の等高線図を作成した。レーザー計 測の概要を図-1 に示す。 図-1 航空機搭載型レーザー計測の概要 1.3 地形調査結果 レーザー計測(計測間隔 0.5m)と空中写真測量(縮尺 1/2,500)でそれぞれ作成した地形 図(等高線 1m 間隔)を比較し図-2 に示す。現地写真と比較し、起伏状況が詳細に表現でき ていることから、レーザー計測の優位性が定性的に理解できる。 GPS Sattelite GPS Sattelite GPS Sattelite GPS Sattelite Z X Y φ ω κ Z X Y 図-2 等高線図による地形評価(左:空中写真測量、中央:レーザー測量、右:現地写真) レーザー計測の結果を陰影図表現したものを図-3 に示す。従来の地形図に比べると地形起伏に加え微 地形までが表現され、岩石等の起伏形状も表現され ている。これにより、地形形状や岩石等の危険物要 因の判断が容易となり、道路設計におけるルートの 選定、土砂災害対策工の設計、あるいは安全性検討 などがより効率的に行えることが期待できる。 検証点数 最大値 標準偏差 ①緩傾斜の谷 25 0.73 0.26 ②緩傾斜の尾根 14 0.33 0.16 水準測量標高値との差[m] レーザー計測標高平均値と 2.レーザー計測技術の評価 レーザー計測の結果に対して精度検証等、多方面 からの評価を行なう。 図-3 レーザー計測で得られた陰影図 2.1 平坦地による標高精度検証 0.20 レーザー計測による標高の計測精度を検証 0.10 するため、道路面などの平坦地を使用して検 0.00 証を行なった。6m 四方に当たったレーザー –0.10 計測データを平均し、国家水準点から水準測 –0.20 量によって得た標高との比較を 15 箇所で行 50 100 150 200 250 水準測量標高値 [m] なった。結果を図-4 に示す。全体での平均値 図-4 平坦地における標高精度検証結果 が-1.5cm、絶対最大値が-9.0cm、標準偏差が 5.1 cm となり、作業規程に定められた標高点精度 33cm(縮尺 1/1,000)を十分に満たした。 2.2 斜面での等高線精度検証 レーザー計測による等高線精度を検証するため、樹木に覆われた斜面において水準測量に よる断面図を作成し、その断面から一定間隔での較差を算出し標準偏差を求めた。その結果 を表-1 に示す。これより、作業規程の規定する等高線精度 0.5m(縮尺 1/1,000)を満たした。 表-1 斜面での等高線精度検証結果[m] ③急傾斜の谷 20 0.30 0.18 1.0 ④急傾斜の尾根 23 -1.19 0.39 全体 82 -1.19 0.27 :針葉樹 レーザー通過率 2.3 植生通過率 :広葉樹 0.8 植生の密生度によって、レーザー光線が地表 0.6 面に到達する通過率は異なる。針葉樹林帯 10 0.4 箇所、広葉樹林帯 9 箇所において、レーザー光 0.2 線の通過率を算出した。計測時期は、落葉期の 0.0 0 20 40 60 80 2004 年 1 月である。結果を図-5 に示す。針葉 3 平均樹木高 /樹木密度 [m / 本 ] 樹について、樹高/樹木密度によらずレーザー通 図-5 樹高/樹木密度と通過率の関係 過率は 20%前後を保つ。広葉樹について、樹高 /密度が同等でも、幼木の存在等によりレーザー通過率のばらつきが大きいが、レーザー通過 率は 10%程度以上が確保されている。但し上記数値は、冬季であり、樹木の下に草が生い茂 っておらず、山が荒れてツタ等が絡まっていない条件下での値と考えられる。以上より、植 生分布地域における測量においてレーザー計測が有効であることがわかった。 2.4 レーザー計測技術の評価 前述までの結果や文献調査等により、航空機搭載型レーザー計測は、樹林に覆われた山間 地の地形調査には有効であり、検討ルートの増加など、道路設計への活用が期待できること が明らかになった。また、幅広い工程にわたってデジタル処理が可能なことから、今後も工 期短縮やコスト縮減が期待できる。道路設計の視点から、現行の地形調査手法である空中写 真測量とレーザー計測の特性を比較し、表-2 に示す。 表-2 道路設計のためのレーザー計測と空中写真測量の特性比較(注:参考文献 1)に加筆) 特徴 樹林下の地形計測 微地形の把握 樹林下の地物抽出 総合的な地物の抽出 計測/撮影条件 自動化の可能性 限界縮尺 安 全 性(現地調査) 検討可能ルート数 工期短縮 原価低減 レーザー計測 ◎ ◎ ○ ○ 落葉期 大 1/1,000 ◎ 10 以上 ◎ ◎ 空中写真測量 × × × ◎ 晴天 小 1/1,000∼1/2,500 ○ 3以上 △ × 3.レーザー計測技術の活用 3.1 新しい道路設計手法の提案 3.1.1 予備設計までのレーザーデータの活用 道路設計において、初期の測量から予備設計 までの工程に着目する。通常、概略設計を行な う際、まず 1/2,500∼1/5,000 の精度で空中写真 測量を実施し、ルート選定する。次に 1/1,000 の精度で空中写真測量を実施し、線形を確定す る。この間に2回測量を行なう必要がある。一 図-6 CAD ソフトによる道路設計の三次元化 方でレーザー計測は 1/1,000 の精度を保つ。 1/2,500∼1/5,000 の精度を必要とする概略設計にレーザー計測データを用いれば、予備設計 までに行なう測量が 1 度になるため、工期短縮に貢献するとともに、コスト縮減に寄与する ことが期待される。 3.1.2 調査・設計等への成果の活用と工期短縮・コスト縮減 レーザー計測の成果(等高線図や陰影図)は、高精度に微地形を解析可能である。これよ り地形判読や地質調査等に用いる資料として、非常に有効なツールであると考えられる。一 方で、地形調査にレーザー計測データを用いた、CAD ソフトによる道路設計(図-6)も促進 されつつある。これより土量・法面等の概算数量が即座に把握でき、高密度・高精度地形情 報により、確実なルート選定が可能になる。従来の「検討ルート数」と「設計作業の迅速性」 の反比例関係が覆され、ルート決定がより高度なものになると考えられる。 次に、レーザー計測三次元データと CAD ソフトを用いた場合に短縮されるコスト・工期 を試算した。結果を表-3、表-4 に示す。まず、検討したレーザー計測による道路設計の経済 性を評価するため、10km 区間で地形調査に掛かる必要経費を試算した。概略設計時の検討 ルート数は便宜上3とした。結果、レーザー計測による方法が約 10%有利であった。 表-3 経済性評価(検討区間 10km で試算) [単位:万円] ① ② ③ ④ ⑤ 現行手法 空中写真測量1/2,500 概略設計(ルート選定) 空中写真測量1/1,000 ― 予備設計(線形の確定) 合 計 850 850 1,030 ― 2,000 4,730 提案手法 レーザー計測0.5m,等高線2m間隔 概略設計(ルート選定) 等 高 線 1m 間隔 空中写真測量1/1,000平面 予備設計(線形の確定) 合 計 870 720 230 420 2,000 4,240 備考 10km 2 10km 3km 2 3km 2 10km 表-4 工期評価(検討区間 10km で試算) [単位:ヶ月] 経済性とともに、短 工程 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 縮され得る工期につい 現 空中写真測量1/2,500 行 概略設計(ルート選定) て試算した。これより、 手 空中写真測量1/1,000 法 予備設計(線形の確定) 提案する手法では、必 レーザー計測0.5m,等高線2m 提 要な測量が1度で済む 概略設計(ルート選定) 案 等高線1m間隔 ことが大きな要因とな 手 空中写真測量1/1,000平面 法 予備設計(線形の確定) り、初期の測量から予 備設計(線形の確定)までに工期が約 18%短縮され得ることがわかった。 3.2 各種施策へのレーザーデータの活用 レーザー計測データは高密度・高精度な三次元情報であり、住民説明や日常点検への活用 など、これまで検討はされてきたが実用が困難であった各種施策の実現も期待できる。 公共事業を進めるにあたっては、安全対策だけではなく「美しい国土づくり」のために景 観評価や地域住民とのアカウンタビリティなどを取り入れた多角的な評価が求められている。 レーザー計測の成果は三次元数値を活用し、設計 CAD を使った道路設計を行ない、鳥瞰図、 走行シミュレーション等でわかりやすい地域住民への説明が可能となる。 現行の二次元地図データによる GIS では充分な管理は困難であるが、レーザー計測で得ら れた標高データを用いて三次元的に管理することにより、地滑りや落石危険箇所等の高度な 管理が期待できる。 4.今後の課題 本論は、道路計画策定に新たな方向性を示す一考察であるが、レーザー計測技術は通過率 が不十分な箇所への対処や、データ交換の標準化、成果レベルに関する基準の統一等、改善 すべき点も少なくない。今後も考えられる課題を抽出するとともに解決を重ね、積極的にレ ーザー計測技術を事業に活用していくメリットは大きいと考える。 参考文献:1)下井田実,有澤俊治,黒田竜二,津留宏介,板屋勇,藤原輝芳:砂防調査における航空写真測量と航 空レーザー測量の比較検証,月刊『測量』平成 13 年 6 月号