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算数・数学能力の達成度を測る手法と観点について

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算数・数学能力の達成度を測る手法と観点について
東京大学寄附講座:2005 年 12 月 8 日
算数・数学能力の達成度を測る手法と観点について
-日本と諸外国を比較して-
長崎栄三(国立教育政策研究所)
1.算数・数学能力の達成度にかかわる調査の概要........................................................................................ 2
(1)算数・数学能力の達成度にかかわるわが国と諸外国の大規模な調査 ..................................................... 2
①教育課程実施状況調査 .......................................................................................................................... 2
②国際数学・理科教育動向調査 2003 年調査(TIMSS2003 年調査) ....................................................... 2
③生徒の学習到達度調査 2003 年調査(PISA2003 年調査) .................................................................... 3
(2)項目反応理論による算数達成度の調査 .................................................................................................. 3
①算数達成度比較調査 .............................................................................................................................. 3
(3)新しい算数・数学能力の達成度の測定を目指した調査 .......................................................................... 3
①基礎学力調査 ........................................................................................................................................ 4
②算数・数学と社会のつながりに関する調査 ........................................................................................... 6
③高等学校科学教育調査の教養調査 ......................................................................................................... 7
2.諸調査の手法や観点の比較 ....................................................................................................................... 9
(1)調査目的:達成度か教育課程か............................................................................................................. 9
(2)調査対象の抽出法:無作為かそうではないか........................................................................................ 9
(3)調査問題の分類法 ................................................................................................................................. 9
(4)調査問題の解答形式 ............................................................................................................................ 11
(5)調査問題の配置 ................................................................................................................................... 11
(6)データの統計処理 ............................................................................................................................... 12
(7)児童・生徒の得点による水準分けとそれぞれの水準の特徴 ................................................................. 12
(8)データの公開 ...................................................................................................................................... 14
3.算数・数学能力の達成度の測定に関する課題 ......................................................................................... 14
(1)測定の前提.......................................................................................................................................... 14
①達成度の捉え方 ................................................................................................................................... 14
②教育課程との関係 ............................................................................................................................... 15
③社会的・家庭的要因との関係................................................................................................................ 15
(2)測定にかかわる方法論 ........................................................................................................................ 15
①達成度への接近の仕方 ........................................................................................................................ 15
②達成度の経年比較の仕方 ..................................................................................................................... 15
③達成度の水準 ...................................................................................................................................... 15
(3)測定にかかわる諸事項 ........................................................................................................................ 16
①達成度の測定の役割 ............................................................................................................................ 16
②達成度の調査の影響 ............................................................................................................................ 16
③調査問題の利用 ................................................................................................................................... 16
(4)算数・数学教育の測定に対する立場の再論 ......................................................................................... 16
参考文献........................................................................................................................................................ 17
付録1.戦後の算数・数学教育の教育課程と大規模調査研究.......................................................................... 20
付録2.国立教育政策研究所教育課程研究センター『教育課程実施状況調査報告書』の数学問題................. 21
付録3.イギリスのナショナル・テストについて ........................................................................................... 27
資料4.一般教育証明書(GCSE)のための数学の規準 ............................................................................... 30
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東京大学大学院教育学研究科 教育測定
カリキュラム開発(ベネッセコーポレーション)講座
公開研究会
2005/12/08 長崎榮三先生
1.算数・数学能力の達成度にかかわる調査の概要
ここでは,本稿で対象とする算数・数学能力の達成度を測ることに関連した 7 つの調査を概観
する。これらの調査は,筆者が何らかの形で実際にかかわっているものである。以下では,7 つ
の調査を,その規模,手法などで,3 つにグループ化してある。
(1)算数・数学能力の達成度にかかわるわが国と諸外国の大規模な調査
わが国の児童・生徒の算数・数学能力の達成度の縮図を描くために,調査対象が無作為に抽出
され,抽出誤差が前もって考慮されており,しかも,調査問題が教育目標に照らして妥当だと思
われるものである。このような調査は,わが国に現在 3 つあると思われる。
(配布資料『PISA2003
年調査・TIMSS2003 年調査 算数・数学に関する評価・分析レポート』参照)
①教育課程実施状況調査
国立教育政策研究所教育課程研究センターは,2002 年,2004 年に「教育課程実施状況調査」
を実施した。これは,1956 年から 1966 年まで続いた文部省「全国学力調査」
,1981・82 年,1994・
95 年の文部省「教育課程実施状況調査」に続くものである。
国立教育政策研究所教育課程研究センターによる「教育課程実施状況調査」は,調査対象が小
学校 5 年から中学校 3 年,高等学校 3 年であり,調査教科は国語,社会,算数・数学,理科,英
語である。高等学校 3 年の数学は必修科目の「数学Ⅰ」である。
調査構成は,教科・科目の問題,児童・生徒質問紙,教師質問紙からなっており,教科・科目
の問題は,教科の内容領域・分野と評価の観点によって分類されている。
調査対象の児童・生徒は,
「層化 2 段階無作為クラスター抽出法」によって 1 問題当たり 1 万 6
千名が抽出されるように設計されている。
分析は,通過率(正答者数と準正答者数の合計の割合)・反応率を用いて行われた。ただし,問
題と質問紙項目の関係については,異なる問題冊子の得点を平均 500 点,標準偏差 100 点で標準
化した標準化得点を用いた。経年比較の場合だけ,ジャック・ナイフ法によって通過率の標準誤
差を算出している。
②国際数学・理科教育動向調査 2003 年調査(TIMSS2003 年調査)
国際教育到達度評価学会(IEA)は,2003 年に「国際数学・理科教育動向調査 2003 年調査
(TIMSS2003)
」を実施した。これは,第 1 回国際数学教育調査(1964 年実施:FIMS)
,第 2
回国際数学教育調査(1980-81 年実施:SIMS),第 3 回国際数学・理科教育調査(1995 年実施:
TIMSS)
,第 3 回国際数学・理科教育調査第 2 段階調査(1999 年実施:TIMSS-R,後に TIMSS1999
と改称)に続くものである。
「国際数学・理科教育動向調査 2003 年調査」は,調査対象が小学校 4 年と中学校 2 年であり,
調査内容は算数・数学と理科である。
調査構成は,算数・数学・理科の問題,児童・生徒質問紙,教師質問紙,学校質問紙からなって
おり,算数・数学・理科の問題は,内容領域と認知的領域によって分類されている。
調査対象の児童・生徒は,層化 2 段階抽出法によってそれぞれ約 150 校,約 3500 名が抽出さ
れるように設計されている。
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公開研究会
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分析は,項目反応理論(2 パラメータ・3 パラメータ・モデル, 拡張部分的反応モデル)を用い
た算数・数学得点と正答率・反応率などを用いて行われている。標準誤差は,ジャック・ナイフ法
で算出されている。
③生徒の学習到達度調査 2003 年調査(PISA2003 年調査)
経済開発協力機構(OECD)は,2003 年に「生徒の学習到達度調査 2003 年調査(PISA2003)」
を実施した。これは,生徒の学習到達度調査 2000 年調査(PISA2000)に続くものである。
「生徒の学習到達度調査 2003 年調査」は,調査対象が義務教育終了時の 15 歳児(わが国では
高等学校 1 年生)であり,調査内容は数学的リテラシー,読解力(リーディング・リテラシー)
,
科学的リテラシー,問題解決能力である。
調査構成は,リテラシー・能力の問題,生徒質問紙からなっており,リテラシーの問題は,内
容または構成,プロセス,状況の 3 つによって分類されている。
調査対象の生徒は,「二段階層化比例クラスター抽出法」によって 150 学科が無作為抽出され,
各学科から 35 名が無作為抽出されるように設計されている。
分析は,項目反応理論(ラッシュ・モデル)を用いたリテラシー得点と正答率・反応率などを用
いて行われている。標準誤差は,BRR(Balanced Repeated Replication)法で算出されている。
(2)項目反応理論による算数達成度の調査
わが国の算数数学教育研究において,調査対象は無作為ではないがある程度の規模を持たせ,
調査問題は教育目標に照らして妥当と思われるものを選択して,項目反応理論を適用したもので
ある。わが国の算数数学教育研究における項目反応理論の適用の可能性を探るとともに,教科教
育におけるその有用性を広めようとしたものである。
(配布資料『算数達成度の項目反応理論によ
る比較分析』参照)
。
①算数達成度比較調査
国立教育政策研究所の 2 名の研究員は,2004 年に「算数達成度比較調査」を実施した。
「算数達成度比較調査」は,調査対象が小学校 6 年であり,調査内容は算数である。平成 3 年
2 月に行った小学校第 6 学年の児童を対象とした算数の「基礎学力調査」の結果と,同学年の児
童を対象として平成 16 年 2 月に行った「算数達成度比較調査」の結果を,項目反応理論(IRT)
を用いて分析した。調査対象は両調査とも,全国の 10 地域各 4 校の小学校,合計 40 校であり,
各学校の 1 学級の児童が調査を受けた。調査対象児童数は,2 セットの算数問題に,それぞれ約
600 名から 700 名が答えた。両調査には,複数の同一の問題(共通項目)が含まれており,IRT
を用いて調査項目を同一尺度上に目盛りづけした。
(3)新しい算数・数学能力の達成度の測定を目指した調査
算数・数学教育における評価の研究において,算数・数学能力についての新しい考え方を組み
込もうとしたものである。以下の 3 つの研究については,若干詳しく述べる。
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2005/12/08 長崎榮三先生
①基礎学力調査
国立教育研究所の研究員を中心とする研究メンバーは,1990 年から 1992 年にかけて「基礎学
力調査」を実施した。
「基礎学力調査」は,調査対象が小学校 6 年,中学校 2 年,高等学校 1 年であり,調査内容は
国語,社会,算数・数学,理科,英語の基礎学力である。調査構成は,各教科の基礎学力に関する
問題,児童・生徒質問紙,教師質問紙からなっていた。調査は,10 地域から小中学校各 40 校,
高等学校 19 校を選び行われた。
算数・数学の基礎学力は,「学校及び社会において事象を数学的に処理するのに必要不可欠で,
しかも,新しいことに対処できるような発展性を包含している能力」として規定され,行動類型・
数学内容・数学過程から「3 次元の枠組み」で具体化された。
それらは次の通りであった。
「行動類型」:算数・数学の教育目標を行動化して類型化したもので,知識・理解・思考・技能・
態度の5領域からなる。
「数学内容」:算数・数学の内容を数学的にまとめたもので,数式的・図形的・関係的の3領域か
らなる。
「数学過程」
:数学の過程を活動的にまとめたもので,数学化・数学的処理・数学的検証の3領域
からなる。
1)第1の次元:行動類型
算数の教育目標では,知識や技能が偏重されているといわれる。一方で,数学的な考え方や発
展的な見方などは基礎学力よりも高次なものであると考えがちである。
本研究では,この両者とも含めて考える。そこで,このことを明確にするために,次のように
算数の教育目標を行動化して類型化した「行動類型」を考え,それらを,知識,理解,思考,技
能,態度の5つに分けて考える。前者の3つは,認知面であり,後の2つはそれぞれ技能面,情
意面である。
知識(認知面)
:意味がわかっていて,必要に応じて適用できるように記憶されている内容のこ
とであり,例えば記号・用語の知識,計算手続きの知識などがある。
理解(認知面)
:全体と部分の関係や従属関係など,個々の内容の背後にある内部的な関係を把
握した状態であり,例えば,意味・概念・原理・法則の理解などがある。
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思考(認知面)
:新しい問題場面において,既有の知識・原理を使ってこれを解決したり,解釈
したりする能力である。例えば,問題や性質の発見・解釈などがある。
技能(技能面)
:知識・理解が一定の目的を達するのにうまく適合するように形式化された行動
様式であり,例えば,計算技能,作図技能などがある。
態度(情意面)
:見方や考え方の傾向であって,自分の行動に対してして指示力をもつ情意的側
面である。例えば,統合的・発展的な見方を持とうとしているかなどである。
2)第2の次元:数学内容
算数・数学の内容については,いろいろな領域の分類の仕方があるが,内容を小中高一貫して
考えることができるようにするために,数式的内容,図形的内容,関係的内容の3つに大きく分
けて考えた。関係的内容とは,数式的内容や図形的内容に含めにくい集合や関数や確率などの内
容を総称したものである。それぞれの算数・数学での内容は,およそ,次のように対応するもの
とする。
数式的内容:数と計算,数と式。
図形的内容:図形,図形の計量,三角比。
関係的内容:測定,比・比例,関数,統計,確率。
3)第3の次元:数学過程
算数・数学の内容を理解し,そのよさが分かるということは,子どもを取りまく自然や社会の
中にうめこまれた算数・数学の規則や関係を見いだしたり,学習した算数・数学の考えを実社会
に応用するという動的な活動を含むべきである。また,問題を解いて終わりというのではなく,
求めた答えが問題にあっているのかどうか確かめて初めて問題が解けたといえるのである。
そ
こで,このような数学の過程に目を向け,それを,次のように,数学化,数学的処理,数学的検
証の3つの段階に分けて考えることにする。
数学化:事象を算数・数学の対象とする。つまり,数学的構造に乗せる過程であり例えば,仮
説や予想の設定,関数の設定,文字での表現,演算の決定,日常事象への応用などと言われてい
るものである。次の二つの場面がある。
(その1)生の事象を算数・数学の舞台に乗せる場面。一般には,この過程を狭義の意味での数
学化と呼ぶ。他教科と内容が重複したり算数・数学以外の知識が必要である。小学校の算数では
このような場面が設定されやすいが,中学・高校の数学ではほとんどなくなる。
(その2)すでに数学化された問題をその解決に都合のよいようにほかの数学的構造を持つ問題
に変換する場面。算数でいえば,整数で成り立つ性質が小数にも成り立つと考えることはこの一
例である。学習の始めは,いつもこのようなことを意識する場面がくるはずである。学習後には
それらは,数学的処理の場面となる。
数学的処理:数学的構造のもとでの数学的操作を施す場面であり,例えば,計算や操作の実行,
論理的な推論,公理の選択などと言われているものである。次の二つの場面がある。
(その1)個々の計算の実行や命題を証明する場面。算数の授業では分数の四則や比の値を求め
るなど,ほとんどがこの場面である。
(その2)個々の知識をまとめて,数学理論に体系化する場面。現代数学では,公理化に当たる。
ただしふつうは,算数はもちろん高校の数学までには含まれていない。
数学的検証:数学的処理が妥当であったかどうかを確かめる場面であり,例えば,計算結果の
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確かめ,解の吟味,解とデータとの突き合わせなどと言われているものである。次の二つの場面
がある。
(その1)数学的処理の結果がもとの現実的な事象や問題に適合しているかどうかを検証する場
面。ここでは,現実問題の知識が必要となるので,この検証は,算数の授業では敬遠されること
が多い。
(その2)数学的処理の過程が間違っていなかったかを検証する場面。算数では,計算した結果
や考え方が正しいかを確かめることなどである。
②算数・数学と社会のつながりに関する調査
国立教育政策研究所の研究員を中心とする研究メンバーは,2000 年に「算数・数学と社会のつ
ながりに関する調査」を実施した。
「算数・数学と社会のつながりに関する調査」は,調査対象が小学校 4 年から高等学校 2 年ま
でであり,調査内容は「児童・生徒の算数・数学と社会をつなげる力」である。調査は,9都県の
小中高校,各9校,合計 27 校において行われた。
「児童・生徒の算数・数学と社会をつなげる力」は,次の5つの領域として構造化された。
A.社会における量・形についての感覚
B.社会の問題を数学的に解決する力
C.社会において数学でコミュニケーションする力
D.近似的に扱う力
E.算数・数学と社会・文化のつながりに関する意識・態度
それぞれの内容は,次の通りである。
A.社会における量・形についての感覚
A01.長さの感覚
A02.広さの感覚
A03.かさの感覚
A04.重さの感覚
A05.角度の感覚
A06.時間の感覚
A07.速さの感覚
A08.形の感覚
B.社会の問題を数学的に解決する力
B1.社会の現象を数学の対象に変える
B11.仮定をおく B12.変数を取り出す B13.変数を制御する B14.仮説を立てる
B2.対象を数学的に処理する
B21.表・式・グラフ・図等で表現する
B22.操作を実行する
B3.社会に照らして修正する
B31.予測・推測をする
B32.検証する
C.社会において数学でコミュニケーションする力
C01.数学的表現から現象を読み取る,伝える
C02.数学を使った日常文を読み取る
D.近似的に扱う力
D01.近似的に式を立てる
D02.近似的に読み取る
E.算数・数学と社会・文化のつながりに関する意識・態度
E01.算数・数学に対する意識
E02.算数・数学の表現方法に対する意識
E03.算数・数学的処理に対する意識
E04.算数・数学における協同的な学習に対する
E05.算数・数学における応用的な態度 E06.算数・数学における発展的な態度
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③高等学校科学教育調査の教養調査
国立教育政策研究所の研究員を中心とする研究メンバーは,2000 年に「高等学校科学教育調査」
を実施した。
「高等学校科学教育調査」は,調査内容は理科と数学である。調査対象は全国の高等学校の全
日制の全学科から層化 2 段階無作為抽出された 85 学科の 4205 名の高等学校 3 年生である。対象
は,高等学校 3 年生全体の集団(一般生徒)と高等学校 3 年生の中の理数系の生徒の集団(理数
生徒)である。数学と理科の調査問題は,1995 年に行われた第 3 回国際数学・理科教育調査
(TIMSS)の高等学校最終学年用の問題と同じであり,一般生徒用の数学教養問題と理科教養問
題,理数生徒用の上級数学と物理からなっている。この調査問題は,高等学校 3 年生全体の調査
時点での数学や理科の学力を明らかにするだけではなく,約 20 年前の第 2 回国際数学・理科教育
調査の結果との比較や,時期のずれはあるが第 3 回国際数学・理科教育調査の諸外国の結果との
比較もできるようになっていた。このほか,生徒質問紙による調査も同時に行なった。
数学教養・理科教養調査とは,一般的な数学や理科の知識や数学や理科の原理の理解を調べるも
のである。
数学の問題には,数感覚(分数,百分率を含む)
,比例,代数的感覚,測定,見積り,資料の表
現・整理が含まれている。いくつかの問題では推論や社会的有用性が強調されている。問題の一般
的な選択規準としては,実生活の場面から生じる問題であり,したがって文脈に沿った問題であ
るということである。数学教養・理科教養調査は IEA の国際調査においては新しい試みであり,
次のような説明がなされていた(Orpwood & Garden,1998, pp.10-12)
。
TIMSS のほかの研究や他の IEA の研究とは異なり,数学・理科教養調査(mathematics and
science literacy study)は,教育課程に基づいたものではない。つまり,これは,ある学年やあ
る年齢集団で指導されたり学習されたりしたことを測定しようとするものではない。そうではな
く,最終学年の生徒が,最近の学習範囲にかかわらず,数学・理科で学習したことで保有してい
ることについての調査である。これらの生徒は,最終学年で数学・理科を学んでいるかもしれな
いし,学んでいないかもしれない。彼らは,自分達を数学・理科を専門的に学んでいると見なし
ているかもしれないし,他教科を専門的に学んでいると見なしているかもしれないし,また,ど
れも専門的に学んでいないと見なしているかもしれない。また,彼らは,数学・理科に関係した
職業や高等教育に入ろうとしているかもしれないし,そのような意志はないかもしれない。それ
にもかかわらず,彼らすべては,学校生活のある時期には数学・理科を学んでおり,そして,彼
らすべては,科学技術にますます影響される世界に入っていく。したがって,TIMSS における教
養調査の役割は,学校を卒業する生徒が教えられた数学・理科を思い出すことができるかどうか,
したがって,この知識を,学校を超えた生活の挑戦に応用できるかどうかを,尋ねることにある。
TIMSS の4つの主な研究課題の中では,教養調査は,第3の課題に最も強く焦点を当てており,
すなわち,生徒の達成度に関係している。特に,第2章で示すように,教養調査が主としてかか
わっているのは,数学・理科の「概念的学習の残余」であり,社会的文脈における概念的学習で
ある生徒の推論力や応用力である。第4の研究課題,カリキュラムと社会的・教育的文脈の関係,
もまた,教養調査の文脈においては重要である。教養調査の本質にふさわしく,第4の研究課題
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は,数学・理科の教養の達成度と数学・理科の指導・学習のための各国の準備の全体的な特徴の
間の関係を探求することになる。特に興味があるのは,ある国の母集団3の専門的に学んでいる
生徒の達成度と,同じ国の教養の達成度との関係である。
教養調査はその他の2つの研究課題にはあまり関係していない。これらの課題は,教養調査の
発展を知らせてはくれるが。教養研究は,特別な意図したカリキュラム(第1の研究課題)に基
づいてはいなかった。というのは,調査対象のすべての生徒が必ずしも数学や理科を学んでいる
わけではないからであった。しかしながら,母集団2で集められたデータや教育課程分析研究を
通して,母集団3の生徒の教育の初期段階の意図したカリキュラムを見積もることができた。同
様に,第2の研究課題が調べた実際の指導は,教養調査にとって必要不可欠なものではなかった。
しかしながら,各国の母集団2のデータは,母集団3の生徒が初期に経験した数学・理科の背景
的な指導を明らかにすることができる。
教養調査(つまり,学校を卒業する生徒がどのような数学・理科を保有し,その知識を応用で
きるかということ)によって提起された問題への答えは,研究者や教師だけが興味を持っている
のではない。多くの国において,重大な経済・社会政策の論争は,人口全体にとっての数学・理
科の重要性を前提としている。
数学・理科教養調査の第1回計画会合は,1991 年 4 月にパリで開かれた。その会合の報告書は,
次のように宣言している。
いくつかの国々では,政治・実業界の指導者は,学校で十分な数学・理科を学んでいる生
徒があまりにも少ないということを心配している。特に,彼らは,国を経済的に競争力があ
るようにするような工場や実験室に配置するのに必要な数学・理科がなくて,中等学校を卒
業する生徒があまりにも多いと信じている。どんな能力を持っている生徒がどのくらい必要
であるかということはほとんどの人は言うことはできないが,世界中の政治的指導者は,そ
の教育制度はその国に役立っていないという助言を常に受け取っている。
学校は,専門化された大学のコースに能力のある生徒を供給するのに加えて,職業におけ
る技術に対処し,(そして,その変化を素早く学び),環境を気にかけ,安全に生活をし仕事
をすることができる中等学校卒業生を作ることを期待されている。そのために(推論を進め
ると)
,できるだけ多くの生徒が,もっと多くの中等数学・理科を学んでいるべきである。
学校数学・理科の計画と国家的・個人的な経済的幸福の関係についての信念は,政策的文書に
おいて強固に確立されている。しかし,このことを支持したり拒否したりする実証的な証拠はほ
とんどない。TIMSS 数学・理科教養調査は,生徒が学校を出て世界に向かう時に,数学・理科教
育から何を保有しているかという質問に答えるのに貢献するように計画された。
(Orpwood,G & Garden,R,A,.(1998)Assessing Mathematics and Science Literacy.TIMSS
Monograph No.4.Pacific Educational Press.pp.10-12)
このような数学教養・理科教養のように「概念学習の残余」という考え方は,
「内容を超えて」と
して,OECD・PISA 調査に引き継がれていく。
数学教養は,「内容領域」
,
「行動的期待」,
「認知的要求」からなっている。
内容領域は,「数学・理科・教養」,「科学的推論・社会的有用性」からなる。
行動的期待は,
「表すこと」,「同等物を認めること」,「決まり切った手順を行うこと」,「も
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っと複雑な手順を使うこと」,「問題や場面を定式化したり明確にすること」,「方略を発展さ
せること」,「解くこと」,「予測すること」,「推測すること」,「表現を関係付けること」
からなる。
認知的要求は,「知識・手順」,「推論・問題解決」からなる。
2.諸調査の手法や観点の比較
これまで述べてきた調査をその手法や観点から比較を行う。なお,比較のために,英米の全国
調査,すなわち,イギリスのナショナル・テスト(付録参照),アメリカの NAEP(配布資料『算
数達成度の項目反応理論による比較分析』参照)も適時取り上げる。
(1)調査目的:達成度か教育課程か
算数・数学教育においては,算数・数学能力の達成度の調査は,一般的には教育評価のために
行われるが,ここの児童・生徒の達成度そのものを評価する場合と,達成度の測定を通して教育
課程を評価する場合がある。後者の場合には,調査内容の履修を考慮するかどうかが問題となる。
履修を考慮している調査には,教育課程実施状況調査があり,考慮していない調査には,
TIMSS2003 年調査,PISA2003 年調査がある。
さらに,諸外国の全国的な調査では,前者の例として,イギリスのナショナル・テスト,後者
の例として,アメリカの NAEP がある。
(2)調査対象の抽出法:無作為かそうではないか
算数・数学教育の研究調査では,一般には小規模であり,しかも,無作為抽出あることはほと
んどない。それに対して,現在,わが国で行われている大規模な調査,教育課程実施状況調査,
TIMSS2003 年調査,PISA2003 年調査は,いずれも層化二段階無作為抽出である。
なお,イギリスのナショナル・テストは全数調査であり,アメリカの NAEP は無作為抽出調査
である。
(3)調査問題の分類法
算数・数学の問題の分類は,調査の特徴を端的に表すものである。問題の分類の枠組みを通し
て,調査が想定している算数・数学能力が浮かび上がるからである。それぞれの調査が,それぞ
れの枠組みを工夫しているが,概ね同じような方向にある。特徴的なのは,PISA2003 年調査の
「数学が用いられる状況」であろう。
①教育課程実施状況調査
分類は,「内容領域」と「評価の観点」からなっている。
内容領域については,算数は,
「数と計算」,
「量と測定」,
「図形」,
「数量関係」からなり,数
学は,
「数と式」
,「図形」
,
「数量関係」からなる。
評価の観点については,算数は,
「算数への関心・意欲・態度」,
「数学的な考え方」,
「数量や図
形についての表現・処理」
,
「数量や図形についての知識・理解」からなり,数学は,
「数学への関
心・意欲・態度」,「数学的な見方や考え方」,「数学的な表現・処理」,「数量や図形についての知
識・理解」からなる。
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②国際数学・理科教育動向調査 2003 年調査(TIMSS2003 年調査)
分類は,
「内容領域」と「認知的領域」からなる。
内容領域は,算数・数学で共通であり,
「数」
,
「代数」
(小学校は,きまりと関係),
「測定」,
「幾
何」,「資料の表現・分析,確率」からなる。
認知的領域は,
「事実や手順を知ること」,
「概念を用いること」,
「決まりきった問題を解くこと」,
「推論を行うこと」からなる。
(詳しくは,『PISA2003 年調査・TIMSS2003 年調査 算数・数学
に関する評価・分析レポート』参照)
③生徒の学習到達度調査 2003 年調査(PISA2003 年調査)
分類は,「数学的な内容」
,
「数学的プロセス」,
「数学が用いられる状況」からなる。
数学的な内容は,「量」,
「空間と形」,
「変化と関係」
,「不確実性」(統計を含む)の 4 領域から
なる。
数学的プロセスは,
「再現」,
「関連付け」,
「熟考」の 3 つの能力クラスターからなる。これらの
認知活動に包含される数学的能力として,
「思考と推論」,
「論証」,
「コミュニケーション」,
「モデ
ル化」,「問題設定と問題解決」,「表現」,「記号言語,公式言語,技術的言語,演算を使用するこ
と」,「支援手段と道具の使用」
,を挙げている。
数学が用いられる状況は,私的,教育的,職業的,公共的,科学的の 5 文脈からなる。
(詳しく
は,『PISA2003 年調査・TIMSS2003 年調査 算数・数学に関する評価・分析レポート』参照)
④算数達成度比較調査
ここで使われた問題は,①教育課程実施状況調査,⑤基礎学力調査,の問題であるので,それ
らの枠組みと同じである。
⑤基礎学力調査
分類は,「行動類型」
,「数学内容」,「数学過程」からなる。
行動類型は,算数・数学の教育目標を行動化して類型化したもので,知識・理解・思考・技能・
態度の5領域からなる。
数学内容は,算数・数学の内容を数学的にまとめたもので,数式的・図形的・関係的の3領域か
らなる。
数学過程は,数学の過程を活動的にまとめたもので,数学化・数学的処理・数学的検証の3領
域からなる。(詳しくは1(3)①)
⑥算数・数学と社会のつながりに関する調査
分類は,
「A.社会における量・形についての感覚」
,
「B.社会の問題を数学的に解決する力」,
「C.社会において数学でコミュニケーションする力」,「D.近似的に扱う力」,「E.算数・数
学と社会・文化のつながりに関する意識・態度」からなる。
(詳しくは1(3)②)
⑦高等学校科学教育調査の教養調査
分類は,
「内容領域」,
「行動的期待」,「認知的要求」からなる。
内容領域は,「数学・理科・教養」,「科学的推論・社会的有用性」からなる。
行動的期待は,
「表すこと」,「同等物を認めること」,「決まり切った手順を行うこと」,「も
っと複雑な手順を使うこと」,「問題や場面を定式化したり明確にすること」,「方略を発展さ
せること」,「解くこと」,「予測すること」,「推測すること」,「表現を関係付けること」
からなる。
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認知的要求は,「知識・手順」,「推論・問題解決」からなる。
⑧ナショナル・テストの数学
ナショナル・テストはナショナル・カリキュラムの領域に準拠している。
⑨NAEP の数学
NAEP の 2003 年の数学枠組みは,
「構成要素」,
「数学的能力」,「数学力」からなる。
構成要素は,
「数の感覚,性質,および演算」
,
「測定」,
「幾何および空間的感覚」,
「データ分析,
統計,および確率」,
「代数と関数」からなる。
数学的能力は,
「概念的理解」,「手続き的知識」,「問題解決」からなる。
数学力は,
「推論」,
「コミュニケーション」,「つながり」からなる。
なお,これらの枠組みは,全米算数数学教師協会(NCTM)のカリキュラムと評価のスタンダー
ドの枠組みに準拠したものとなっている。
(4)調査問題の解答形式
現在では,ほとんどの算数・数学の調査が,選択肢から選んで答える形式,短い答えを書く形
式,考え方や解き方を書く形式の 3 種類の形式からなっている。最近は,特に,表現力・論理的
思考力の観点から,考え方や解き方を書く形式が重用される傾向があるが,採点との兼ね合いが
ある。
教育課程実施状況調査の算数・数学問題は,学習指導要領の質の高さに応じて,PISA2003 年調
査や TIMSS2003 年調査よりも数学的に質の高い問題が出されている。しかも,PISA 調査のよう
に文章が長い問題や,自由記述の問題も出されている。これらのことはもっと評価されても良い
と思われる。若干の違いは,文脈をどのように取り込むかであろう。
なお,これまでの調査の中では,基礎学力調査,算数・数学と社会のつながりに関する調査は,
選択肢形式だけである。また,IEA の第 2 回国際数学教育調査(1980 年,81 年実施)も選択肢
形式だけであった。
なお,基礎学力調査の問題は,英訳されて,NAEP の問題と比較されている(NCES. (1997)
“Essential Skills in mathematics, A Comparative Analysis of American and Japanese
Assessments of Eight-Grade” . Department of Education)
。そして,選択肢形式でも,理解や問
題 解 決 な ど で は 挑 戦 的 な 問 題 は 可 能 で あ る と 評 価 さ れ て い る ( National Research
Council.(2001)”Adding It Up, Helping Children learn Mathematics. NRC)
。選択肢形式でも,
理解や思考については十分問えることを示していると言えよう。
(5)調査問題の配置
問題の配置は,項目反応理論を使うかどうかで,大きく異なっている。
教育課程実施状況調査では,問題数を増やすが,項目反応理論は使わないので,小中学校の場
合,各学年各教科で問題冊子 3 冊の問題はすべて異なる(高等学校は 2 冊子)。算数・数学ではそ
れぞれに。約 20 問の問題が含まれており,児童・生徒はいずれかの問題冊子を行う。
TIMSS2003 年調査では,問題数を増やし,しかも,項目反応理論を使うために同一問題を入
れるために複雑な配置になっている。TIMSS2003 年調査では,いくつかの問題をブロックごと
に分け,ブロックをいくつか集めて問題冊子をいくつか作り,それらを児童・生徒に順に配ると
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いう,マトリックス・サンプリング法(matrix-sampling technique)が取られている。PISA2003
年調査も同様である。
(5)採点方法
現在では,考え方や解き方を書く形式を使うために,採点方法の書式(ルーブリック)が作成
されている。教育課程実施状況調査(解答類型)は,1 桁の類型番号であるが,TIMSS2003 年調
査(コード),PISA2003 年調査(採点基準)は,一般には 2 桁であり,十の位が正答,部分正答,
誤答等を表し,一の位が種類を表している。
(6)データの統計処理
教育課程実施状況調査は,得点と質問紙項目の関連に関してのみ平均と標準偏差をもとに標準
化得点を算出しているが,TIMSS2003 年調査,PISA2003 年調査は,項目反応理論によって得点
を算出している。したがって,後者は,得点の標準誤差が算出されている。
標準誤差については,教育課程実施状況調査については過去との比較に必要な場合のみ,通過
率についてジャック・ナイフ法で算出している。TIMSS2003 年調査はジャック・ナイフ法,
PISA2003 年調査は BRR 法で,得点や正答率・反応率の標準誤差を算出している。
また,TIMSS2003 年調査,PISA2003 年調査は,調査への不参加が生じた場合には,重みを付
けてそれらを含めた推定値を算出しているが,教育課程実施状況調査では,それらを欠損値とし
て除いている。
なお,質問紙調査に関連することであるが,PISA2003 年調査は,社会的要因等の多くの要因
を取り込んだ分析を行っている。また,アメリカの NAEP も社会的要因を入れた分析を行ってい
る。わが国の国内の大規模調査では,このような社会的要因は取り込まれていない。
(7)児童・生徒の得点による水準分けとそれぞれの水準の特徴
児童・生徒の得点による水準分けは,TIMSS2003 年調査,PISA2003 年調査では行われている
が,教育課程実施状況調査では行われていない。TIMSS2003 年調査,PISA2003 年調査の場合に
は,児童・生徒の得点水準によって,児童・生徒を水準ごとに分け,それぞれの水準の児童・生
徒ができる問題によって,それぞれの水準の特徴を明らかにしている。
TIMSS2003 年調査は,得点(IRT による)の平均(500 点)
,標準偏差(100 点)をもとに,
400 点以上,475 点以上,550 点以上,625 点以上,という 75 点刻みの水準を用いた。
選択肢の場合には,当該水準(境界値)の得点の±5 点の幅にいる児童・生徒の正答率が 65%
以上で,その下の水準(境界値)の得点の±5 点の幅にいる児童・生徒の正答率が 50%未満の問
題を,当該水準の児童・生徒ができる問題とした。ただし,記述式の場合には,50%以上という
基準であった。
このような手順によって,より高い水準(625 点),高い水準(550 点),中程度の水準(475
点),低い水準(400 点)に分けられ,例えば,より高い水準(625 点)の特徴として,「情報を
整理し,一般化を行い,決まりきった問題では解けない問題を解き,資料から結論を導き正当化
できる」としている。
PISA2003 年調査は,得点(IRT による)をもとに,レベル 6(669 点以上)
,レベル 5(607
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点以上 669 点未満)
,レベル 4(545 点以上 607 点未満),レベル 3(483 点以上 545 点未満),レ
ベル 2(421 点以上 483 点未満),レベル 1(358 点以上 421 点未満),レベル 1 未満(358 点未
満)という 62 点刻みの水準を用いた。
このうち,例えば,レベル 6 は「複雑な問題場面において探究やモデル化を基に,情報を概念化し
一般化し利用することができる」,レベル 4 は「複雑だが具体的な場面で,明示されたモデルを効果的に
使うことができる」,レベル 2 は「直接的な推論を行うだけの文脈において,場面を解釈し認識できる」,レ
ベル 1 は「情報がすべて与えられ問いも明確な見慣れた場面で,問いに答えることができる」。なお,義
務教育段階終了時としては,レベル 2 以上が期待されている。
そして,それぞれの数学的能力では,それぞれ 6 段階が見出されている(Technical Report,
pp.262-263)
。
思考と推論
1.直接的な指示に従い,明白な行動を取る。
2.直接的な推論や文字通りの解釈を行う。
3.継続的な決定を行い,解釈し,異なる情報源から推論する。
4.柔軟な思考やある種の直観を用いる。
5.上手に発展させられた思考・推論技能を使う。
6.高度な数学的な思考・推論技能を使う。
コミュニケーション能力
1.明白な指示に従う。
2.情報を引き出し,文字通りの解釈を行う。
3.解釈を支持する短いコミュニケーションを行う。
4.説明や議論を,構成し,コミュニケーションをする。
5.解釈や推論を,定式化し,コミュニケーションをする。
6.精確なコミュニケーションを定式化する。
モデル化
1.簡単な与えられたモデルを適用する。
2.基礎的な与えられたモデルを認識し,適用し,解釈する。
3.異なる表現モデルを利用する。
4.明白なモデルで,関係した制約や仮定を持って,作業をする。
5.複雑なモデルを開発し,それで作業をする。モデル化の過程や成果を熟考する。
6.複雑な数学的過程や関係のモデルを概念化し,それで作業する。モデル化の成果を熟考
し,一般化し,説明する。
問題設定と問題解決
1.直接的で明白な問題を取り扱う。
2.直接的な推測を使う。
3.簡単な問題解決方略を使う。
4.制約や仮定を持って作業する。
5.適切な問題解決方略を選択し,比較し,評価する。
6.複雑な問題解決場面を探究し,モデル化を行う。
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表現
1.熟知した直接的な情報を取り扱う。
2.簡単な表現から情報を引き出す。
3.異なる表現を解釈し使う。
4.異なる表現を選択し総合し,それらを実世界の場面に結びつける。
5.適切に結びつけられた表現を方略的に使う。
6.異なる情報や表現を結びつけ,それらの間を柔軟に往き来する。
記号言語,公式言語,技術的言語,演算を使用すること
1.決まりきった手順を適用すること。
2.基礎的なアルゴリズム,公式,手順,約束を用いること。
3.記号的な表現で作業をすること。
4.記号的・形式的な特徴づけを使うこと。
5.記号的・形式的な数学的操作や関係の熟達
アメリカの NAEP は,基本(Basic),熟達(Proficient),上級(Advanced)に水準分けをし
ており,イギリスのナショナル・カリキュラムは,等級に振り分けている。
(8)データの公開
教育課程実施状況調査,TIMSS2003 年調査,PISA2003 年調査のいずれもが,データを公開し
ている。それぞれのサイトに入ると,データの取得方法が明記されている。
教育課程実施状況調査:http://www.nier.go.jp/homepage/kyoutsuu/index.html
TIMSS2003 年調査:http://timss.bc.edu/timss2003i/userguide.html
PISA2003 年調査:
http://www.pisa.oecd.org/pages/0,2987,en_32252351_32235731_1_1_1_1_1,00.html
後者 2 者は,直接データをダウンロードできるが,前者は担当部署に申し込む。なお,これら
のサイトから,テクニカル・レポートなどもダウンロードできる。
3.算数・数学能力の達成度の測定に関する課題
わが国の算数・数学能力の達成度の測定は,教育課程実施状況調査に見る限り,調査対象の無作
為抽出では国際的な基準を満たし,調査問題の質では優れていると言えよう。しかし,国際的な
他の調査研究に比すると,達成度に関わる諸要因の取り込み,達成度の尺度化,欠損値の処理な
ど全体の構成からすると多くの課題を抱えていると言えよう。
ここでは,これまでの筆者の算数・数学教育の研究者という立場から,わが国の算数・数学能力
の測定に関する私なりの課題を挙げることにする。
(1)測定の前提
①達成度の捉え方
算数・数学能力(または,算数・数学の学力)の捉え方は,教育において多様である。その多様
性は,測定という面から見ると,達成度(学力)を数値化することに対する立場がある。
さらに,仮に教科の達成度(学力)の数値化を認めるとしても,教科の達成度(学力)を 1 次
元と捉えるか,多次元と捉えるかということが次に出てくる。このようなことについて,テスト
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論の方では議論がなされていると思うが,教科の方でほとんど議論されていない。例えば,評価
の 4 つの観点で調べようとしていることは,それぞれの観点を一緒に処理したときに 1 次元に並
ぶものと考えているのであろうか。また,項目反応理論では学力を 1 次元に考えるが,それがわ
が国ではどのよう受け入れられるのであろう。
②教育課程との関係
達成度の測定は,特定の教育課程の履修を前提とする場合としない場合がある。教育課程実施
状況調査,ナショナル・テストは前者であり,PISA2003 年調査,NAEP の調査は後者であった。
なお,NAEP が特定の教育課程を前提としないのは,アメリカが連邦制度によるからである。ア
メリカの教育研究者が,NAEP では教育課程の改訂にあまり役立たないと言うような趣旨のこと
を言っていたのを耳にしたことがある。
全国的な大規模な調査研究の意義は,全国水準の教育課程を評価することが第一義であると思
われる。特定の教育課程を前提とすると,履修が問われ,また,学校や教師の指導法との関連も
問われる。このような状況で,経年比較をすることを考えると,例えば,項目反応理論を入れよ
うとするとどのようになるのであろうか。
③社会的・家庭的要因との関係
達成度の改善を図る場合には,当然,諸要因を考慮する必要がある。そして,これまでの経験
から,達成度には,学校要因だけではなく,家庭・社会要因が大きく関わること示唆されている。
しかしながら,わが国では,このような要因を取り込んだ大規模調査ができないようである。
教育をより大きな視野から考える必要もあろう。
(2)測定にかかわる方法論
①達成度への接近の仕方
PISA 調査では,前もって,「評価の枠組み」が作られ,調査後には,生徒の反応を基に「レベ
ル」が設けられている。前者は数学教育者の接近の仕方であり,数学という文化から教育の目標
を引き出したものと考えられるであろう。それに対して,後者は心理測定学者の接近の仕方であ
り個々の人間の反応から一般的な何かを見出そうとするものであろう。後者の例としては,ブル
ーム博士の教育目標の分類学や先日の龍岡博士の「TIMSS-R の成績分析」の「内容特性・過程特
性・技能(問題タイプ)特性」ではないかと思う。これまでのところ,後者の型の研究は,わが
国ではほとんど行われていないようである。
②達成度の経年比較の仕方
わが国の縮図を描くものとしての,算数・数学能力の達成度の長期にわたる経年比較は見当た
らない。昭和 30 年代から 40 年代にかけての全国学力調査の後遺症であろう。今後,教育目標に
照らして妥当な問題を用いて,算数・数学能力(だけではなく,その他の教科が目指す能力も)
恒常的に評価していく体制が必要であろう。
その際,経年比較のためには,どの程度の規模で,どのように標本を特定すればよいのか。ま
た,どのように分析するのかを考える必要があろう。問題作成には数学教育研究者は応えられる
が,その他の運営については数学教育研究者の能力を超えたものであろう。
③達成度の水準
国際調査や英米の調査や試験では,児童・生徒の得点をもとに,児童・生徒をいくつかの能力水
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準に分けている。わが国でも大規模な模擬テストでは行われているようである。しかし,一般に
は,あまり広まっていない。それは,一つには,わが国の教育が,概念の理解に重点があり,能
力の獲得にあまり傾いていないことが考えられる。そして,わが国の算数・数学教育では,皆が数
学的な考え方を身につけるという,総合的な教育を前提としてきたせいもあろう。
ところが,最近,習熟度学習が小学校低学年から導入されるようになってきている。このこと
によって,かえって水準が固定されてしまうのではないであろうか。
(3)測定にかかわる諸事項
①達成度の測定の役割
現在,日本全国で「学力向上」のもとに調査が行われている。調査をすれば学力が上がるとか,
調査の点数を上げることが学力向上となっている感がある。学力がペーパーテストの点数で測ら
れるとする限り,このことに疑問を呈するのは難しいようである。まして,一般の人は,このこ
とに疑問を感じていないようである。
測定学者,測定方法利用者,測定結果受益者がばらばらのようである。教育における達成度の
測定の役割をきちんと述べる人がいないようである。
②達成度の調査の影響
上でも述べたが,調査または試験を積極的に行えば学力が上がると思われているようである。
実際にそうなのであろうか。
PISA2003 年調査では,外的動機や内的動機に関わるものが調べられているが,明確な結果は
出ていないようである。調査や試験の学習に対する影響などをきちんと調べる必要があると思わ
れるのだが。
③調査問題の利用
調査問題に適当な指標,例えば,領域,能力,困難度などが付されたものが多く蓄積され,教
育関係者が自由に使えるとよい。コンピュータの発達で可能になっていると思われる。多分,多
くの人がそう思っていると思われるのだが。
(4)算数・数学教育の測定に対する立場の再論
算数・数学教育論における測定と心理測定論における測定の差異は,測定と指導の距離にあろ
う。算数・数学教育においては,測定と指導は密接につながっており,測定・評価の目標は,指
導の目標となっている。そこで,測定・評価によって,目標が達成されていないことが見出され
ると,その目標を達成すべき教育内容や指導法の研究に重点が移る。
例えば,昭和 40 年代以降に国立教育研究所では,国際調査などの結果を受けて,下記のような,
いくつかの指導法の研究を行ってきた。
島田茂編著『算数・数学科のオープンエンド・アプローチ』みずうみ書房,1977.
竹内芳男・澤田利夫編著『問題から問題へ』東洋館,1984.
長崎栄三編著『算数・数学と社会・文化のつながり』明治図書,2001.
「オープンエンド・アプローチ」という指導法の開発の発端は,1970 年代に「高次目標」の評
価を目指した研究にあった。当時,高次目標の評価に眼が向けられたのは,第 1 回国際数学教育
調査(1964 年実施)において,わが国の数学成績の高い生徒は数学を固定した知識と見る傾向が
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あることが見出されたからである。そこで,数学的な考え方などの高次目標を評価する方法を研
究を始めたが,その過程で,高次目標の達成は,高次目標を目指した指導において可能となると
いうことから,高次目標の指導が研究対象となっていった。
(高次目標という言葉は,第 1 回国際
数学教育調査で使われたが,現在の算数・数学教育では使われていない。)
このような意味では,算数・数学教育における測定・評価研究は,測定・評価から,目標・内
容・指導へと移っていくものであろう。一方で,心理測定の研究者は,算数・数学の内容よりも心
理とその測定に関心があろう。そうだとすると,算数・数学能力の達成度の測定に関する研究を
進めるには,算数・数学教育の研究者と心理測定の研究者の共同が欠かせないであろう。今回の「算
数達成度比較調査」は小さいものではあるが,そのような方向性を示唆したものと考えている。
子どもたちが算数・数学をより楽しめるように,このような研究ができることを願っている。
参考文献
【全体】
算数・数学に関する調査研究グループ(2005)
『PISA2003 年調査・TIMSS2003 年調査 算数・
数学に関する評価・分析レポート』国立教育政策研究所科研研究資料.
【教育課程実施状況調査】
国立教育政策研究所教育課程研究センター(2003)
『平成 13 年度小中学校教育課程実施状況調
査報告書 小学校算数』東洋館出版社.
国立教育政策研究所教育課程研究センター(2003)
『平成 13 年度小中学校教育課程実施状況調
査報告書 中学校数学』ぎょうせい.
国立教育政策研究所教育課程研究センター(2004)
『平成 14 年度高等学校教育課程実施状況調
査報告書 数学』実教出版
国立教育政策研究所教育課程研究センター(2005)
『平成 13 年度小中学校教育課程実施状況調
査データ分析に関する報告書』http://www.nier.go.jp/kaihatsu/13KOUKAI/index.htm
国立教育政策研究所教育課程研究センター(2005)
『平成 15 年度小・中学校教育課程実施状況
調査』http://www.nier.go.jp/kaihatsu/katei_h15/index.htm
【国際数学・理科教育動向調査】
国立教育研究所編(1967)『国際数学教育調査-IEA日本国内委員会報告書-』国立教育研
究所.
国立教育研究所編(1981)『中学・高校生の数学の成績』第一法規.
国立教育研究所編(1982)『中学・高校生の数学成績と諸条件』第一法規.
国立教育研究所編(1983)『中学生の数学成績と教師の指導法』第一法規.
国立教育研究所編(1991)『数学教育の国際比較-第2回国際数学教育調査最終報告-』第一
法規.
国立教育研究所編(1996)『小・中学生の算数・数学,理科の成績-第 3 回国際数学・理科教
育調査国内中間報告書-』東洋館出版社.
国立教育研究所編(1997)『中学校の数学教育・理科教育の国際比較-第 3 回国際数学・理科
教育調査報告書-』東洋館出版社.
国立教育研究所編(1998)『小学校の算数教育・理科教育の国際比較-第 3 回国際数学・理科
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教育調査最終報告書-』東洋館出版社.
国立教育政策研究所編(2001)
『数学教育・理科教育の国際比較-第 3 回国際数学・理科教育
調査第 2 段階調査報告書-』ぎょうせい.
国立教育政策研究所編(2005)
『TIMSS2003 算数・数学教育の国際比較-国際数学・理科教育
動向調査の 2003 年調査報告書-』ぎょうせい.
IEA. TIMSS2003 Technical Report.
【生徒の学習到達度調査】
国立教育政策研究所編(2002)『生きるための知識と技能
(PISA)
OECD 生徒の学習到達度調査
2000 年調査国際結果報告書』ぎょうせい.
国立教育政策研究所監訳(2004)
『PISA2003 年調査 評価の枠組み OECD 生徒の学習到達
度調査』ぎょうせい.
国立教育政策研究所編(2004)『生きるための知識と技能②
(PISA)
OECD 生徒の学習到達度調査
2003 年調査国際結果報告書』ぎょうせい
OECD. PISA2003 Technical Report.
【算数達成度比較調査】
長崎栄三編著(2004)『算数達成度の項目反応理論による比較分析』国立教育政策研究所科研
報告書.
萩原康仁,長崎栄三(2005)
「多段項目反応モデルを用いた算数達成度調査結果の分析」
『日本
テスト学会誌』Vol.1, No.1.pp.103-116.
【基礎学力調査】
国立教育研究所編(1992)『特別研究「基礎学力」調査報告書-第一次報告書(平成 2 年度調
査)』国立教育研究所.
国立教育研究所編(1993)『特別研究「基礎学力」調査報告書-第二次報告書(平成 3 年度調
査)』国立教育研究所.
長崎栄三ほか 5 名(1993)
「算数科における基礎学力についての考察」日本数学教育学会誌『算
数教育』第 75 巻第 12 号.pp.31-39.
中島健三・清水静海・瀬沼花子・長崎栄三編著(1995)『算数の基礎学力をどうとらえるか』
東洋館出版社.
【算数・数学と社会のつながりに関する調査】
長崎栄三編著(2001)『児童・生徒の算数・数学と社会をつなげる力に関する発達的研究(改
訂版)
』国立教育政策研究所科研報告書.
長崎栄三・西村圭一・島田功・牧野宏・島崎晃(2004)「算数と社会をつなげる力に関する研
究」日本数学教育学会学会誌『算数教育』第 86 巻第8号.pp.3-13.
長崎栄三・西村圭一・島田功・牧野宏・島崎晃(2004)「算数と社会をつなげる力に関する研
究」日本数学教育学会学会誌『算数教育』第 86 巻第8号.pp.3-13.
【高等学校科学教育調査】
長崎栄三編著(2003)
『高等学校の理科教育と数学教育』国立教育政策研究所科研報告書.
長崎栄三(2003)
「我が国の高等学校 3 年生の数学の学力に関する諸問題」日本数学教育学会
誌『数学教育』第 85 巻第 3 号.pp.2-11.
18
東京大学大学院教育学研究科 教育測定
カリキュラム開発(ベネッセコーポレーション)講座
公開研究会
2005/12/08 長崎榮三先生
【その他】
長崎栄三,国宗進,藤田太郎,ジュリア・ウィットバーン(2003)「イギリスの最近の数学教
育の動向」
『世界の高等学校の数学教育』国立教育政策研究所科研報告書.
長崎栄三(2004)
「アメリカの全米教育進歩評価(NAEP)について」
『算数達成度の項目反応
理論による比較分析』国立教育政策研究所科研報告書.
埼玉県入間地区算数数学教育研究会(2005)『入間の算数数学学力調査 50 号記念誌』
19
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カリキュラム開発(ベネッセコーポレーション)講座
公開研究会
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付録1.戦後の算数・数学教育の教育課程と大規模調査研究
表
西暦
1951
1952
1953
1954
1956
1959
1961
1962
1963
1964
1965
1966
1975
1976
1977
1980
1981
1982
1991
1992
1994
1995
1999
2000
2002
2003
2004
2005
元号
昭和 26
昭和 27
昭和 28
昭和 28
昭和 29
昭和 31
昭和 34
昭和 36
昭和 37
昭和 38
昭和 39
昭和 39
昭和 40
昭和 41
昭和 50
昭和 50
昭和 51
昭和 52
昭和 55
昭和 56
昭和 56
昭和 57
平成3
平成4
平成6
平成7
平成7
平成 11
平成 12
平成 12
平成 14
平成 15
平成 15
平成 16
平成 17
平成 17
戦後の算数・数学教育の教育課程と大規模調査研究
大 規 模 調 査
日本教育学会学力調査
国立教育研究所学力水準調査
国立教育研究所学力水準調査
日本教職員組合算数・数学学力調査
国立教育研究所学力水準調査
文部省全国学力調査
文部省全国学力調査
文部省全国学力調査
文部省全国学力調査
文部省全国学力調査
文部省全国学力調査
IEA第1回国際数学教育調査
文部省全国学力調査
文部省全国学力調査
国立教育研究所学習到達度調査
日本教職員組合学力実態調査
国立教育研究所学習能力習得状況調査
国立教育研究所学習能力習得状況調査
IEA第2回国際数学教育調査
IEA第2回国際数学教育調査
文部省小学校教育課程実施状況調査
文部省中学校教育課程実施状況調査
国立教育研究所基礎学力調査
国立教育研究所基礎学力調査
文部省小学校教育課程実施状況調査
文部省中学校教育課程実施状況調査
IEA第3回国際数学・理科教育調査
IEA第3回国際数学・理科教育調査―第 2 段階調査―
OECD・生徒の学習到達度調査(PISA2000)
国立教育研究所高校科学教育調査
国立教育政策研究所教育課程実施状況調査
IEA国際数学・理科教育動向調査(TIMSS2003)
OECD・生徒の学習到達度調査(PISA2003)
国立教育政策研究所教育課程実施状況調査
国立教育政策研究所特定課題調査
国立教育政策研究所教育課程実施状況調査
20
小学校
6
6
6
6
6
6
6
5・6
5・6
5
6
5
6
中学校
3
3
3
3
3
3
3
2・3
2・3
2・3
2・3
2・3
2・3
1・3
3
1
2
3
高校
3・4
3・4
3・4
3
2
2
3
1
5・6
6
1・2・3
2
1
5・6
3・4
1・2・3
1・2
2
5・6
4
1・2・3
2
5・6
5・6
1・2・3
1・2・3
1
3
3
1
3
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付録2.国立教育政策研究所教育課程研究センター『教育課程実施状況調査報告書』の数学問題
平成 5 年度,平成 13 年度の問題から。
• 数学の知識として覚
えておくこと:平方根
• 数学の本質
として理解し
ておくこと:円
周角の定理
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• 本質とし
て理解す
ること:三
平方の定
理
• 数学の
表現方
法
• :グラフ
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• 数学の本
質として
理解して
おくこと:
文字式
• 数学の定
式化:式
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数学の関心・意欲・態度として持つことが期待されること
平成 5 年度:自動車の制動距離,三角形,電卓,問題作り
平成 13 年度:田んぼ,富士山
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付録3.イギリスのナショナル・テストについて
ここでは,
『世界の高等学校の数学教育 Ⅱ』
(国立教育政策研究所科研成果報告書.2003)の
「イギリスの最近の数学教育の動向」
(258-268 頁)のうちから,ナショナル・テストの部分を採
録し,若干の補足をする。
この記録は,2002 年 2 月 26 日に,長崎栄三(国立教育政策研究所)
,国宗進(静岡大学)
,藤
田太郎(サウサンプトン大学),ジュリア・ウィットバーン(国立経済社会研究所)の 4 名が,資
格・教育課程機関(Qualifications and Curriculum Authority:QCA)を訪問し,QCA 担当者の
インタビューを藤田がまとめたものである。
1.ナショナル・テストの正式名称
ナショナル・テストの正式名称として使っているのは,「End of Key Stage Test」であり,そ
のうち,QCA が作成するのは KS1-KS3 のテストの 3 種類である。KS4 は,GCSE 試験で代替す
る。これらのテストについてまとめると,表 1 の通りである。
表1 ナショナル・テストの学校段階・学年・年齢
キーステージ
KS4
KS3
KS2
KS1
学校段階
中等学校
初等学校
学年(Year)(年齢)
第 10~11 学年(14~16 歳)
第 7~ 9 学年 (11~14 歳)
第 3~ 6 学年 ( 7~11 歳)
第 1~ 2 学年 ( 5~ 7 歳)
全国的なテスト
GCSE 試験(16 歳)
全国テスト(14 歳)
全国テスト(11 歳)
全国テスト( 7 歳)
2.ナショナル・テストにかかる総費用
ナショナル・テストの運営等にかかる総費用は,1300000 ポンド(=2 億 6 千万円相当)である。
なお,これには,オプショナル・テストやテスト結果の解析の費用等も含まれている。
3.ナショナル・テストの中心となるスタッフ
1回の1つのナショナル・テストには,22 人(事務,テスト作成者,統計処理,事前テスト(プ
レテスト)
,テスト警備)の職員がかかわっている。
4.テスト作成サイクル
ナショナル・テストのテスト問題を作成するには,2 年 3 か月程をかけている。例えば 2003 年
テストの場合,2001 年 1 月より始めて,2003 年 3~4 月頃に全ての行程が終了する。
主な日程は,次の通りである。
(1)テスト問題の第1次案作成。
(2)会議(ここで問題の難易度,用語などについての議論がなされる)
。
(3)テスト評議グループ(Test Review Group,教師,大学教官,数学者,Ofsted)
。
(4)教師パネル(Teacher Panel,教師のアドバイスグループ)による問題項目へのコメント。
(5)第1次事前テストの問題項目の決定(400%の問題数)
。
(6)
第1次事前テストを 1 月に実施(無作為抽出によって選ばれた 400-500 人程の生徒が対象)
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この第1次事前テストでは,問題がいかに生徒に分かりやすく書かれているかというこ
と,また何%の生徒が各問題を解くことが出来るのかということなどに関することに重
点を置く。その後,大体のレベルの目安を決める。
(7)第2次事前テストを Key Stage の終わりの同じ時期 5 月に実施する(200%の問題数)
。
第 2 次事前テストでは,問題セットを決めることが目標である。
(8)統計結果。
テスト評議グループからの意見なども考慮する。
(9)ナショナル・テスト(最終案)の作成。
5.テスト問題作成に関する困難点
特に文脈重視のテスト問題の作成が難しい。つまり子供がこのような問題を理解し取り組むこ
とが出来るかという事。事前テストで最も重要視される。これまでの経験では,ロケットを用い
た問題が特に難しかったようである(理由は不明)
。また問題によっては計算の能力を評価したい
のか,形・空間に関する能力を評価したいのかが不明確になる場合ある,従って各テスト問題が
生徒の何を評価したいのかということに対して,特に注意を払う必要がある。その他,選択問題,
文脈問題においてもそれぞれ何を評価したいのか,明確にしておく必要がある。また,どの時期
にテストをしても同じ結果が出てくるのか,こういった点にも配慮する。日本でもナショナル・
テストの可能性を模索していると言うが,なぜテストをするのか,テストを通して何を評価した
いのかということを明確にしておくことが重要であろう。
また,事前テストやナショナル・テストの分析には様々な統計モデルが使われている。例えば
KS2 では項目反応理論など。
6.特別なニーズが必要な生徒への対処
テストを幾つかの Agency へ送り,それぞれの Agency が特別なニーズに会わせてテストの修
正を行う。例えば,文字や絵を大きくする,カセットテープ(暗算用)の音量やスピードを変え
るなど。場合によっては問題の修正も行う。学校がそれぞれ生徒の状況に合わせてこのように修
正された特別バージョンを注文することが出来る。また学校側が他の言語に翻訳することも可能
である(許可が必要),また身体面でのハンデがある生徒に対しては,援助者がその生徒の代わり
に解答を書くことも可能である。なお,全ての生徒がこのテストを受けなければならないわけで
はないということに注意しておくべきである。
7.テスト採点について(問題点も含む)
テストの採点は採点者として雇われた教師などによって行われる(1993 年には KS3 テスト採
点のボイコットが教師の間で起こった)。通常,チーフ採点者やシニア採点者などの経験がある採
点者が他の採点者を管理する。テスト終了後,テストは郵便局と警備グループの責任のもと,
Marking Agency に送られ,更に採点者へと送られる。採点者はテストの採点と共にフィードバ
ックも提供する。QCA は,テスト問題,結果,生徒のエラー,解析結果などが含まれる CD ロム
を発行する。但し,CD ロムを使う為にはパスワードが必要であり,代理業者に 25 ポンド(約 5000
円)を払わなければならない。
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8.テスト結果の比較について
3 年前までは代理グループがテスト採点を行っており
(KS1 と KS3 は国立教育研究所(NFER)
,
KS2 はリーズ大学),結果の分析の為にそれぞれのグループは違った統計モデルを使用していた。
KS1,KS3 は等パーセンタイル等化法(equipercentile equating method:訳注 2 つのテストに
おいて,それぞれのパーセンタイル順位が等しければ,そこで表せる得点を等しくする。等しく
する得点はどちらのテストでもよい),KS2 は項目反応理論。特に KS1,KS3 では事前テストの
影響がナショナル・テストに出にくいために等パーセンタイル等化法を用いた直接比較が容易で
あった(KS1 ではテストの重要性を認識するには生徒が幼すぎるため,また KS3 では GCSE が
すぐ後に控えているため,それ程重要視されていなかった)
。しかし現在では次第にナショナル・
テストの重要性への認識が社会的に高まり,事前テストの影響がナショナル・テストに一層出や
すくなり,様々な統計モデルの組み合わせによりテストの結果分析が行われている(例えば KS2
では項目反応理論が第 2 次事前テストの結果分析に,その他は直接得点等化が用いられる。但し
KS1 では上記の理由から事前テストにアンカーテスト(固定問題)は含まない)。アンカー(固
定)テストとして 34 問題,これは一般に公表はされない。アンカーテストの問題の改訂は行うが,
大 き く 変 え る こ と は し な い )。 但 し , 項 目 反 応 理 論 は , 局 所 的 に 独 立 で あ る こ と ( Local
independent)と単一次元(Uni-dimensional)であるという仮定を前提としているため,ある年
とある年の事前テストを比較したとき,あまりに大きく結果が違っていた場合は問題である。
KS2 のテスト結果と KS3 のテストに等化関係をつけるのが特に難しい。例えば,KS2 終了時
(11 歳)のレベル 5 と KS3 終了時(14 歳)のレベル 5 は同じと言えるだろうか?経験も問題形
式も違っているだろう。時には KS3 の生徒が KS2 の問題が解けないこともある。こういった点
にどのように取り組んでいくかは今後の課題である。
将来の KS1 テストの方法は現在 2 つの案が考えられている。1 つは全ての生徒がレベル 2 のテ
ストを受け,その後成績上位の一部の児童に対してレベル 3 のテストを課すという方法,もう 1
つはレベル 2 とレベル 3 のテストを受ける児童を教師が判断により振り分けるというもの。前者
ではテストが多すぎて児童の負担大きくなるのではないかという懸念,また後者ではレベルを振
り分ける教師の負担が大きくなるのではないかという懸念があり,まだ決定されていない。
事前テストの影響を避けるために様々な工夫も試みている。例えばウェールズと協力して,そ
れぞれイングランドでは 2002 年事前テストペーパー1 と 2003 年事前テストペーパー2 を,ウェ
ールズでは 2002 年事前テストペーパー2 と 2003 年事前テストペーパー1 を使用するという方法
を試みた。
オプショナル・テストも行う(Y3, 4, 5)。事前テストでは 2 バージョンを作成し,30 問中 6 問
を共通問題にして,IRT のパラメータとして使う。
9.レベル設定の基準
特に決まった基準があるわけではない。ナショナル・カリキュラムの到達目標や過去の経験な
どから判断する。アンゴフ法(Angoff method)なども用いられる。
ナショナル・テストの前にレベル振り分けの得点(cut score)を決定する。
事前テストではどの程度の費用,時間,仕事(採点,分析等)が掛かるのか,こういった点に
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も配慮する。
10.問題の公開
問題はすべて公開している。そして,毎回新しい問題である。ただし,同じ文脈を使わないと
いうことではない。
補足
1.このテストの名称は,
「National Curriculum Test」,または,
「Standard Attainment Tests
(SAT’s)とも呼ばれている。
2.2002 年のキーステージごとの数学の問題は,表 2 の通りである。学年が上がるほどに,テス
トの種類が児童・生徒の能力に応じて分化している。また,テストには,電卓が使用できるも
のと使用できないものとに分かれている。さらに,口頭試問用の問題(Mental arithmetic
test)も含まれている。
これらの問題は,QCA から購入することも,また,別の団体のホームページから見ることも
できる。
キースタージ
Key stage 1
Key stage 2
Key stage 3
表 2 2002 年のナショナル・テストの数学の問題セット
段階
テスト・テスト問題
頁数
Mathematics
25p
Test A(Calculator not allowed)
18
Level 3-5
Test B(Calculator allowed)
19
Level 6
Extension test C(Calculator allowed)
15
Mental arithmetic test
--Paper A(Calculator not allowed)
20
Tier 3-5
Paper B(Calculator allowed)
26
Paper A(Calculator not allowed)
23
Tier 4-6
Paper B(Calculator allowed)
27
Paper A(Calculator not allowed)
23
Tier 5-7
Paper B(Calculator allowed)
27
Paper A(Calculator not allowed)
24
Tier 6-8
Paper B(Calculator allowed)
23
EP
Extension paper
13
Test A
--Mental
Test B
--arithmetic
Test B
---
問題数
34 items
24
22
15
20
20
17
19
21
16
21
18
18
5
30
30
30
時間
--45 m
45 m
30 m
--60 m
60 m
60 m
60 m
60 m
60 m
60 m
60 m
60 m
-------
資料4.一般教育証明書(GCSE)のための数学の規準
1.序
1.1
この規準は,数学の GCSE の試験細目(specification)の教科に特有な重要事項を決めるも
のである。試験細目は,数学のための国家教育課程(national curriculum)の規程の適切な
必要事項や,共通(Common)と GCSE 規準に含まれる規程当局の一般的な必要事項を満
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たさなければならない。
1.2
国家教育課程の適切な規程の数学の必要事項を満たす試験細目は,「数学(Mathematics)
」
という標題にしなければならない。
1.3
数学という教科の重要な要素を含むどのような試験細目も,これらの規準の関連する部分と
一貫していなければならない。
2.目的
2.1
すべての試験細目の目的は,国家教育課程の必要事項と一貫していなければならない。
3.試験細目の内容
3.1
試験細目は,イングランド・ウェールズ・北アイルランドの国家教育課程の規程の学習計画
(programme of study)の関連部分を扱わなければならない。
3.2
試験細目は,それぞれの層(tier)で扱われる国家教育課程の関連部分の内容を明確にしな
ければならない。
4.重要技能(key skill)
4.1
数学の GCSE 試験細目は,次に挙げる重要技能を評価するための証拠を伸ばし作り出して
いくための機会を与えるべきである。
・ 数の応用
・ コミュニケーション
・ 情報技術
・ 自己の学習や成果の改善
・ 問題解決
・ 他者と一緒の作業
5.評価目標
5.1
試験細目は,次の評価目標にある知識,理解,技能を示すように,志願者に要求しなければ
ならない。
A01 数学の利用・応用
A02 数と代数
A03 形,空間,測定
A04 資料の扱い
5.2
評価目標 A01 は,その他の評価目標によって与えられる文脈の中で評価されなければなら
ない。
6.評価の枠組みと評価方法
6.1
5 で与えられた評価目標の重みは,次の通りである。
A01 外部評価 10%,内部評価 10%
A02 外部評価 40%
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A03 外部評価 20%
A04 外部評価 10%,内部評価 10%
各層での数と代数の間の単位(credit)の分割は,学習計画の関連部分の分割に一致してい
なければならない。代数の操作には,適切な重みが与えられなければならない。
6.2
それぞれの評価の枠組みは,コース評価の枠組みの終わりで 80%の重みを持ち,段階評価
の枠組みで最低 50%の重みを持つ,最終試験を含まなければならない。
6.3
内部評価に割当てられた重みは,どのような評価の枠組みにおいても 20%でなければなら
ない。内部評価は,A04 を評価する資料の扱いに関するプロジェクト学習と,A02 か A03
の文脈で A01 を評価する活動を少なくとも1つ,含まなければならない。
6.4
評価のそれぞれの枠組みは,志願者が電卓を使わなくてもよい試験用紙で 40%の重みを持
ったものと,志願者が電卓の効果的な利用を求められる試験用紙で 40%の重みを持ったも
のを,含まなければならない。
6.5
多段階の問題で即座に答えが求まらない問題を十分に含むべきである。
6.6
書かれた答えを要求する外部評価の部分は,3 層の評価を持たなければならない。
・ 等級 G~D を与える基礎層
・ 等級 E~B を与える中間層
・ 等級 C~A*を与える上級層
6.7
上級層と中間層の試験用紙は,それらの層で可能な等級にわたって釣り合いの取れた評価と
ならなければならない。基礎層においては,約 3 分の 1 の得点は等級 G の内容に割当てら
れ,残りの得点は他の等級に平等に割り当てられるべきである。
7.等級の説明
7.1
等級の説明は,特定の等級が与えられた志願者によって示されそうな達成度の基準を一般的
に示すものである。この説明は,試験細目の中の内容に関係して解釈されなければならない。
それらは,内容を規定することを考えてはいない。与えられる等級は,実際は,志願者が評
価目標全体を満たす程度に依存するであろう。評価における志願者の達成のある側面の不足
は,他の側面でのよりよい達成と引き換えてもよいであろう。
7.2 等級 F
課題をやり通し数学の問題を解くために,志願者は,必要な情報を見出し得て,そして,それ
らの結果が妥当かどうかを考えて,その結果をチェックする。志願者は,場面を,記号や言葉や
図を使って数学的に述べることによって,その場面の理解を示す。彼らは,自分自身の簡単な結
論を引き出し,その推論の説明を与える。
志願者は,位取りの理解を使って,整数の乗除や,小数の 10,100,1000 による乗除を行なう。
彼らは,文脈の中で,負の数を順序付け,加減を行なう。彼らは,小数第 2 位までの小数の四則
を使う。彼らは,共通因数を約すことによって最も簡単な形に約分をし,比や正比例を含んだ簡
単な問題を解く。彼らは,必要ならば電卓を使って,量や測定の分数や百分率の計算を行う。志
願者は,3 位数かける 2 位数の乗法や 3 位数わる 2 位数の除法を含む問題を解くための電卓を使
わない適切な方法を理解し使う。電卓のあるなしにかかわらずに問題を解くときに,志願者は,
文脈の知識や数の大きさを参照したり,逆算を使ったり,近似を使って見積ったりすることによ
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って,結果の妥当性をチェックする。彼らは,記号的な形式で作ったり,表現したり,1,2の演
算を含む簡単な公式を使う。
模型を作ったり,絵をかいたり,形を使ったりするときに,志願者は,実用に合う精確さで,
角を測ったりかいたりし,そして,角に結びついた言葉を使う。彼らは,三角形に角の和や1点
における角の和を知っている。彼らは,2次元の形の線対称をすべて見出す。彼らは,いまだに
日常的に使われているヤード・ポンド法の単位と等しいメートル法のおよその値を知っており,
1つのメートル法の単位をヤード・ポンド法に変換する。志願者は,長方形や直角三角形の面積
を計算し,直方体の体積を計算する。
志願者は,離散資料の平均値を理解し使う。彼らは,範囲と,最頻値か中央値は平均値のいず
れか1つを使って,簡単な分布を比較する。彼らは,円グラフを含む,グラフや図を解釈し,結
論を引き出す。彼らは,0から1の確率尺度を理解し使う。志願者は,同様に確からしい事象や
適切な実験的な証拠に基づいた方法を選び使って確率の見積りをして正当化する。彼らは,異な
った事象が一つの実験を繰り返すことから生じるかもしれないことを理解する。
7.3 等級 C
志願者に提示された問題や文脈から出発して,志願者は,十分な解を作り出すために使われた
数学を洗練し拡張する。彼らは,自分が選択した数学的表現の理由を与え,彼らが選択した特徴
を説明する。志願者は,彼らの一般化,論議や解答の正当化を行い,その問題の数学的構造への
洞察を示す。彼らは,数学的な説明と実験的な証拠の間の際を理解する。
見積りをするときに,志願者は,有効数字 1 桁に丸め,暗算で乗除を行う。彼らは,どんな大
きさの数でもそれらの乗除を含む数値的な問題を,電卓を効果的に適切に利用して解く。彼らは,
0 から 1 の間の数による乗除の影響を理解する。彼らは,分数,小数,百分率の間の相等を理解
し使い,そして,適切な状況で比を使って計算する。彼らは,比例的な変化を理解し使う。志願
者は,規則性が 2 次の数列の第 2 項や第n項を見出し記号で述べる。彼らは,
(x+n)の形式の
式の乗法を行い,そして,彼らは,それに対応する 2 次式を簡単にする。彼らは,試行改良法に
よって,簡単な多項式方程式を解き,そして,数直線を使って不等式を表す。彼らは,整数係数
の 1 次方程式を立て,解く。彼らは,簡単な代数的公式,方程式,文字式を操作する。志願者は,
2 元 1 次連立方程式を代数的方法やグラフ的方法を使って解く。
志願者は,多角形の角や線対称の性質や,交線や平行線の性質を使って問題を解く。彼らは,2
次元の問題を解くときに,ピタゴラスの定理を理解し適用する。志願者は,円の面積や周の長さ
を求める。彼らは,平面図形や直三角錐の長さ,面積,体積を計算する。志願者は,正整数また
は分数の縮尺で図形を拡大・縮小する。彼らは,測定の精確さを理解し,最も近い整数に丸めた
測定値は,いずれかの方向に半分までは不正確かもしれないということを認める。彼らは,速度
のような合成された測定値を理解し使う。
志願者は,度数図を作成し解釈する。彼らは,仮説を立て検証する。彼らは,階級を決め,グ
ループ化された資料の平均値,中央値や範囲を見積り,彼らの探求の筋道に最も適した統計値を
選ぶ。彼らは,分布を比較し推論をするために,適切に,結び付けられた度数多角形とともに代
表値と範囲を使う。彼らは,散布図に最も適合した直線を見て考えて引く。志願者は,確率の見
積りとして相対度数を理解し,実験の結果を比較するためにこれを使う。
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東京大学大学院教育学研究科 教育測定
カリキュラム開発(ベネッセコーポレーション)講座
公開研究会
2005/12/08 長崎榮三先生
7.4 等級A
等級A
志願者は,数学それ自身の中で探求している時や,課題を分析するために数学を使っている時
に,彼らがする選択のための理由を与える。これらの理由は,探求の特別な筋道や手順がなぜ取
られ,ほかがなぜ退けられたのかを説明する。志願者は,彼らが知っている数学を,よく知った
文脈やよく知らない文脈において,応用する。志願者は,説得するための筋道つけられた議論を
提出するときに,数学的な言葉や記号を効果的に使う。彼らの報告は,数学的な正当化を含む。
それは,多くの側面や変数を含む問題への解を説明する。
志願者は,有理数と無理数を理解し,使う。彼らは,区間の境界を決める。志願者は,正比例
と反比例を理解し使う。彼らは,代数的公式,方程式,不等式,文字式を操作し,共通因数を見
つけ,2つの 1 次式の乗法を行う。代数式を簡単にする時に,負の数や分数の指数の規則を使う。
近似的に資料をつなげる公式を見出す時に,志願者は,記号形式で一般法則を表現する。彼らは,
グラフの交点や傾きを使って問題を解く。
志願者は,任意の角度について,正弦関数,余弦関数,正接関数のグラフを描き,これらの関
数に基づいてグラフを作成し解釈する。志願者は,2次元や3次元の問題を解くときに,任意の
大きさの角度の正弦,余弦,正接やピタゴラスの定理を使う。彼らは,形式的な幾何の証明にお
いて三角形の合同条件を使う。彼らは,円弧の長さや扇形の面積の計算をし,円柱の表面積や円
錐や球の体積を計算する。
志願者は,ヒストグラムを解釈し作成する。彼らは,標本抽出の異なった方法や異なった標本
の大きさが,引き出された結果の信頼性にどのように影響するかを理解する。彼らは,母集団を
探求するために,標本や方法を選び正当化する。彼らは,独立事象や排反事象に関連した確率は
どのような時どのように使うかを理解する。
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