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アメリカにおけるヒスパニック系移民の変化

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アメリカにおけるヒスパニック系移民の変化
2004年度夏学期高山ゼミ発表
文科Ⅱ類1年 420347D 高嵜太輔
Email: [email protected]
6 月 22 日発表予定
アメリカにおけるヒスパニック系移民の変化
1.
記事の要約
Into the suburbs The Economist March 13th 2004
アメリカでは近年、かつての移民と異なり大都市を避けて郊外へと流入する移民が増加し
ている。彼らの中心は、多くが英語を使用できる合法的な入国者からなる上流層と、反対
に、多くが英語に不自由で非合法的な入国者からなる下流層に大別される。現在では後者
を代表するメキシコ人を中心とした日雇い労働者層の増大が顕著となっている。この移民
の動きの変化は郊外に社会福祉の変化、貧困、教育現場の変革の必要性など様々な新しい
展開をもたらした。移民の問題が全国的なものとなったことから国家による移民への支援
策が求められているが、政府は支出を抑える方向にあり、今日の新たな移民たちは彼らの
先達者同様自身の力によりアメリカでやっていかなければならないだろう。
2.
論点
アメリカではヒスパニック系移民1の増加が大統領選挙に与える影響などの点からも注目さ
れるようになっているが、記事にもあるように依然として多くの問題を抱える集団でもあ
り、その居住地が全国に分散するようになったことで新たな対応が求められるようになっ
て来ている。ヒスパニック系移民の抱える問題の多くは主に彼らの教育水準の低さに起因
していると考えられる。そこで今回の発表では教育を軸に彼らの抱える問題について考え
て行きたいと思う。
3.
ヒスパニック系移民の動向
ヒスパニック系移民人口の推移2
1
現在のアメリカで最大の「外国語系」エスニック集団であり、アメリカ社会の大きな問題を生
んでいるのがヒスパニック系アメリカ人(Hispanic Americans ; Hispanics)である。ヒスパニック
系とはスペイン語を母国語とする集団で、メキシコ系、プエルトリコ系、キューバ系、中央・南
アメリカ系などが含まれる。(明石、飯野, 1997 p.208)
2
近年のヒスパニック系移民の増加により、アメリカの国勢調査において新たにヒスパニックの
出生国別移民人口:1981 年∼2001 年(単位 1,000 人)
Country of birth
1961-1970
1971-1980
1981-1990
1991-2000
2000
2001
All countries
3,321.7
4,453.3
7,338.1
9,095.4
849.8
1,064.3
North America
1,351.1
1,645.0
3,125.0
3,917.4
344.8
407.9
119.2
137.6
16.2
21.9
1,653.3
2,251.4
173.9
206.4
Caribbean
892.7
996.1
88.2
103.5
Cuba
159.2
180.9
20.8
27.7
Dominican Republic
251.8
340.9
17.5
21.3
Haiti
140.2
181.8
22.4
27.1
Jamaica
213.8
173.5
16.0
15.4
Trinidad and Tobago
39.5
63.3
6.7
6.7
Canada
Mexico
443.3
637.2
(出所:U.S. Census Bureau, Statistical Abstract of United States, 2003)
3-2. 移住の要因
●19世紀
・テキサス分離
・米墨戦争
・ゴールドラッシュ
・鉱山ブーム
→メキシコとアメリカを隔てる経済的・社会的・地理的障害は大きく、移民としての
移動はまだ少なかった。3
●20世紀前半
・アメリカ南西部での労働力不足
・鉄道の完成綿花栽培の拡大
・メキシコ国内の政治紛争
→メキシコ人移民は1924年の移民法の影響を受けなかったこともあり多くのメキ
シコ人が流入したが、メキシコからの移民の多くは定住することを目的とはせず、
メキシコとアメリカを往復する者が多い。また、移民としての手続きをせずに往復
する者(非合法出入国者)も多かった。
項目が設置された。
3
明石、飯野,1997,p.213
●第二次大戦中
・ブラセロ計画4の実施
→ブラセロ計画の結果、ブラセロとしてアメリカへ入国を希望する者(労働予備軍)
が多かったため、アメリカ政府とメキシコ政府の間での労働力の搾取を防ぐための
種々の取り決めにも関わらず、ブラセロのみならず、既にアメリカに定着していた
メキシコ系アメリカ人の賃金までもが改善されずに残った。5
・非合法移民の増加6
● 1950年代以降
・農業労働者から都市労働者へ
・1965年、移民法の改正による移民の大幅な増加7
3-3. ヒスパニック系移民がアメリカに流入する理由
・歴史的に一貫して“職がある”ということが第一の理由
・アメリカとメキシコの賃金格差
4.
教育と雇用
4-1. ヒスパニック系人口の雇用状況:2002 年
Hispanic,
Mexican
(単位 1,000 人)
Puerto Rican
Cuban
total
16 歳以上の 25,963
Central and south Other
American
Hispanic
16,420
2,484
1,141
4,147
1,771
市民数
労働力人口
17,943
11,542
1,546
635
3,024
1,196
就労者人口
16,590
10,673
1,401
592
2,817
1,107
失業者人口
1,353
869
145
43
208
88
4
戦時の労働力不足を補うために緊急政策として 1942 年にアメリカ政府によって始められ、
1964 年まで継続された。延べ500万人を上回るメキシコ人契約農業労働者を南西部の農村に
導入した。(庄司,1995,p.188)
5
これにより、メキシコ系アメリカ人の貧困が定着(明石、飯野,1997,p.217)
6
移民としての条件を充たさなかった多くのメキシコ人が正規の書類を持たずにアメリカに入
国した。(明石、飯野,1997,p.217)
7
合法的な移民の他に、相当数の密入国者(うち80∼90%がメキシコ人という報告があ
る。(庄司,1995,p.181))
7.5
失業率
7.5
9.4
6.7
6.9
7.4
(出所:U.S. Census Bureau, Statistical Abstract of United States, 2003)
参考:白人と黒人の失業率(2002 年)
白人:5.1
黒人:10.2
→7.5%というヒスパニック系の失業率は黒人のそれに対しては大分低く出ているが、非合
法的な移民の数を考えるとこの数値がどこまで信用に足るのかは疑問である。ただし、
非合法的移民が(おそらく)考慮されていない数値においてすら白人のそれに比べて十
分に高い数値を示していると言える。
4-2.
アメリカ国内における雇用の変化
→教育レベルの違いによる賃金格差の拡大8
→ヒスパニック間でも中流層と下流層への分化が見られる9。
4-3. 教育水準10
◆高校卒業以上
◆学士取得者以上
ヒスパニック全体:57.0%
ヒスパニック全体:11.1%
メキシコ人
:50.6%
メキシコ人
:7.6%
白人
:84.8%
白人
:27.2%
黒人
:78.7%
黒人
:17.0%
→ヒスパニック系の就学率はきわめて低く、特にメキシコ人のそれはヒスパニック系
の中でも低い数値を示す。
4-4. 言語上の問題
・二世、三世ではスペイン語を話せない者の割合も増加11
例)メキシコ系の家庭におけるスペイン語使用状況12
1 世:84%
2 世:15%
3 世: 4%
→しかし、ドロップアウト率は依然として高く13、教育環境の整備は不十分。
8
高山与志子, 2001, p.5
1990 年の Census では、医者、弁護士、教員、牧師などの専門職、公務員、管理職などが増加
し、メキシコ系の管理・専門職の割合は 12%に上がった。(庄司,1995,p.189)
10
U.S. Census Bureau, Statistical Abstract of United States, 2003
11
The Economist Apr 29th 2004
12
(庄司,1995,p.183)
9
5. ヒスパニック系移民の今後
・現在も続く移民の増加
→影響力は更に増大
・階層の分化の進展
・政治的影響力の弱さ14
→組織だった投票をしないため、政治家があまりいない
例)Stockton 人口の約 3 分の 1 を占めるが、州議会にはラテン系の議員はいない15
・メキシコ政府の新たな動き
→アメリカへ移民したメキシコ人を通してアメリカへの影響力を得る16
6.
私見
ヒスパニック系移民の増加は現在も進行中であり、アメリカの総人口に占めるヒスパニ
ック系の割合も着実に増すことが予想される。黒人を抜いて最大のマイノリティ集団とな
る彼らを“アメリカ国民”として積極的に受容していくことが求められている。そのためには
ドロップアウト率の抑制など教育環境を整えることで、彼らを下流層に停滞させないこと
が最低限必要である。
ヒスパニック系移民も 2 世、3 世となるにつれてアメリカ文化と一体化し、就学率が上昇
してきたといっても、依然としてその半数ほどが高校以下の教育しか受けていない。これ
は出身国の低水準な教育しか受けていない新たな移民が次々と流入してくることに起因し
ている。そこで、低水準の教育しか受けずに流入してくる移民にたいして一定の教育を与
え、国内労働力の質を高める一種の“ローカルな”教育17が必要になってくるのだと考える。
アメリカ政府はこれまで数々の移民法により移民の数を制限するなどして移民政策とし
てきたように思われる。しかし、賃金格差が5∼10倍ともいわれる現実を前にすると、
抽象的な概念でしかない“国境”の果たしうる役割は限られてしまう。今回の発表記事では
“移民自身の力で”といった結び方をしていたが、やはり州を越えた問題となった今こそ国家
レベルでの移民政策が必要であると思う。
7.
参考文献
・明石紀雄,飯野正子
13
1997 『エスニック・アメリカ[新版]』
1988 年のドロップアウト率(16-24 歳で高校を卒業していない者の比率)は 36%であり、こ
れは白人のほぼ 3 倍、黒人の 2.3 倍である。(庄司,1995,p.184)
14
Smith, C,R. 2003, pp.728-731
15
The Economist Apr 29th 2004
16
Smith, C,R. 2003, p.731
17
高山博, 2003, pp.163-164
・庄司啓一
1995 『リストラクチャリングとヒスパニック』エスニック状況の現在(4)
日本国際問題研究所
・高山与志子 2001 『レイバー・デバイド』 日本経済新聞社
・高山博 2003 『<知>とグローバル化』 勁草書房
・The Economist, “Just like the rest of us,” April 29th 2004
・Smith, C, R. 2003 “Diasporic memberships in historical perspective: comparative insights from the
Mexican, Italian and Polish cases. International migration review.
WEB
・NAFTA http://www.nafta-sec-alena.org/DefaultSite/ (2003 年 6 月 22 日現在)
・U.S. Census Bureau
http://www.census.gov/ (2003 年 6 月 22 日現在)
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