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新収蔵品展 - 福岡市美術館
新収蔵品展 購入の部 びゃくれんしゃ ず ■白蓮社図 絹本着色・掛幅装 中国・明時代後期 ろ ざんじゅうはちこうけん ず え おん 白蓮社図は、廬山十八高賢図ともいわれ、元興元年(402)に慧遠が 廬山で同志の僧俗と共に西方往生を誓って念仏結社・白蓮社を起し、こ 寄贈の部 会期: 2014年6月10日(火)~10月5日(日) 前期: 6月10日(火)~ 8 月3日(日) 後期: 8月 5 日(火)~10月5日(日) 会場: 古美術企画展示室 り こう の結社の上首18人を中心にとり上げて描いた図で、北宋の画家・李 公 栗田功氏寄贈 東京の古美術商・栗田功氏より一括寄贈いただいた総数277 件に及ぶコレクションで、大きくインダス土器関係(224件)、 ガンダーラ彫刻(25件)、中国古陶磁(28件)に分けられます。 インダス土器とは、パキスタンのバローチスターン丘陵一帯 りん 麟に始まるといわれます。以後明代の作品を中心に画幅・画巻・壁画な で出土するインダス文明期(前3千年紀中葉~前2千年紀前半) ど多様な形式で多くの作品が制作されました。一方、日本の浄土教美術 およびそれ以前(先インダス文明期)の土器のことです。当コ は、阿弥陀浄土図、来迎図などが主で、この白蓮社図は、殆ど行われて レクションでは「ナール式」や「クッリ式」 (表紙写真)と呼 おらず、現在確認できる作例は、本図を含め3件しかありません。 ばれる各時期の代表的形式の土器を中心とし、動植物文、幾何 本図は精緻な描写の明代模本で、日本に数少ない白蓮社図として重要 学文などの文様が良好に残るものが多く集められています。太 な作品です。明代後期以降、江南では数多くの白蓮社図が流通し、その きゅうえい ■インダス土器/ガンダーラ彫刻/中国陶磁他 277件 古の文明が今に伝える洗練された器形と文様の美しさに驚かさ ぶんちょうめい 「元中記」 (宋 多くは明代の仇英筆の伝承を持ち、画面上部には文徴明筆の れます。 代・李沖元が書いた蓮社図の絵解説明)を付すのが通例で、何れも蘇州 ガンダーラ彫刻25件の内容は、ガンダーラ地方(現在のパ おうばく で制作されています。本図は「元中記」に代わって中国からの渡来黄檗 キスタン北西部からアフガニスタン東部にかけての地域)で3 僧・高泉の賛があるのが特徴で、高泉が萬福寺5代住持を継ぐ前の伏見 ~ 5世紀頃の制作とみられる、ストゥッコ(漆喰)製、粘土製、 佛國寺時代、延宝4年(1676)から元禄4年(1691)頃の着賛と見ら 石製の彫像およびその頭部部分を中心とします。ストゥッコの れます。 作品群は、仏、菩薩、人物等バラエティに富んでいますが、こ れらは当初ストゥーパ(仏塔)などの建築物の表面を浮彫状に ■青銅弥勒菩薩頭部 荘厳した仏伝(ブッダ釈尊の伝記)場面を構成していたもので アンコール時代 10世紀前半 す。 中国古陶磁28件の大部分を占めるのは、三国~六朝時代(3 現在のカンボジアを中心とする領域で9 ~ 15世紀に展開したアン コール王朝。その前期に制作された青銅鋳造の菩薩像の頭部です。出 もとどり かんたい 土・発見場所は不明。円筒形の髻に冠帯を着けた形態はアンコール時代 のヒンドゥー神像に一般的なものですが、本作品のように髻の正面にス ひょう じ ~ 5世紀頃)に焼かれた初期青磁です。中国では紀元前より、 植物の灰を水に溶いた灰釉を掛けた陶器が焼かれていました コブウシ文壺〈クッリ式土器〉 インダス文明期 前2200-前2000年頃 栗田功氏寄贈 が、製陶技術の発達によって、3世紀頃から硬質で釉調の安定 した文字通り青磁というべき磁器が完成しました。これらは中 こ えっ しゅう 一般にマイトレーヤ(弥勒菩薩) トゥーパとみられる標幟を表すものは、 国浙江省の越州窯を中心に焼かれたため、日本では「古越州」 こ えつ じ または「古越磁」と呼ばれます。初期発達段階ならではの失透 の像に比定されます。 髻の髪束を花弁状に垂らす表現は、プレ・アンコール期8世紀頃から 見られる特徴で、本頭部像のそれは整然としている点に形式化が認めら れます。冠帯は、中央に菱花文を連ね、その上下の縁取り部分には文様 を施さない、9世紀第4四半期のプレア・コー様式と10世紀第1四半期 のバケン様式の彫像にみられる基本的な形式です。 面貌は威厳をたたえ、 くちひげ あごひげ 弓形に繋がる眉、鋭く開いた眼、髭や鬚、耳の形状も、同時期の彫像様 福岡市美術館では昨年度(2013年度)、332件(寄贈330件、購入2件) もの沢山の古美術資料が新たに収蔵されました。その内容は、先史時代 せんがい の土器、ガンダーラの仏教彫刻、仙厓の作品、明時代の絵画、アンコー ■ガンダーラ彫刻 8件 しました。それら新収蔵品をお披露目する本展。展示スペースに限りが ル彫刻など多岐にわたり、当館のコレクションは質・量ともに一層充実 森田一喜朗氏遺贈 あるため全てを陳列することは出来ませんが、一括寄贈コレクションを 福岡の医師・森田一喜朗氏(故人)のご遺贈になるガンダー 式の特徴を備えています。 中心に一部展示替えをしながら少しでも多くご覧に入れます。本リーフ 彫刻の優れた造形を伝える希少な作品のひとつです。 最後に、 貴重な美術品を福岡市美術館へご寄贈いただきました方々に、 同時代の類例は非常に少ない中で本頭部像は、当時のアンコール青銅 した釉調には深みがあり、独特の味わいが魅力を放っています。 レットでは、それら新収蔵品の全容について概述いたします。 心より感謝を申し上げます。 [学芸員 後藤 恒] ラ彫刻コレクションです。うち7件が石造品で、1件がストゥッ コ製品になります。 石造品の主体をなすのは、当初ストゥーパ(仏塔)などの建 造物の表面を荘厳していた浮彫作品で、ブッダを中心とした三 尊像・五尊像や、ブッダの物語の一場面の部分とみられる群像 を表した作品があります。このうちの五尊像(写真)には、中 福岡市美術館 解説第219号 古美術 尊のブッダ像の台座部に、古代の西北インドを中心に用いられ ていたカローシュティー文字で「ヴァラの寄進」と解読される 銘文が刻まれています。寄進者名とみられる「ヴァラ」については不明で、 初期から廻船問屋を営み、江戸時代後期か 究・開発を継続してこられました。これら16件は、同氏が表具裂として活用 もなうガンダーラの浮彫は非常に珍しく、仏塔や寺院の建造に際して、この 代の博多の景観を受け継いできたものとし パレンバンの印金絞り、インド更紗にパレンバンで印金を施したもの、インド 刻銘の時代も多少下がる可能性も指摘されていますが、こうした寄進銘をと らは酒造業にも参入。その酒蔵は、明治時 ような仏像が単なる荘厳物ではなく、寄進の対象としても扱われていたこと て、平成23年に国の登録有形文化財となっ を物語る貴重な遺品です。他にも当コレクションの石造品には、ガンダーラ ています。 地方に仏教美術が花開く前の先駆的な彫刻遺例として知られる「化粧皿」と 今回ご寄贈いただいたコレクション(博 しょうふく じ 多百年蔵コレクション)は、博多聖福寺第 呼ばれる作品や、ストゥーパ(仏塔)型に彫成した舎利容器など、珍しい作 せん がい ぎ ぼん 123世・仙 厓 義 梵(1750 ~ 1837)の書 品が含まれています。 もう1件のストゥッコのガルーダ頭部は、その形態からして、破風形の浮 画を中心とした同家伝来の作品で、特に「福 くちばしがある以外は、目、耳、もみあげなど人面で表わされており、その 子行列の大黒が落馬してしまったたことを まつ ばや 彫パネルの軒先部分を荘厳した物の断片とみられます。 これも珍しい遺品で、 しょうけい か のうたんゆう そ 仙厓作品の他には、祥啓、狩野探幽、曽 が しょうはく 我蕭白といった、室町~江戸時代にかけて 活躍した絵師の作品も含まれ、いずれも博 多を代表する商家に伝来した質の高いコレ クションです。 ■寿老と亀図 福岡市美術館のボランティアとして長年活躍されてきた青野恭子氏からご 寄贈いただいた、ガンダーラ様式のブッダ像の頭部で、夫君・正男氏(故人) の収集品です。 櫛目状に整然と刻まれた形式的な頭髪の表現などに、ガンダーラ後期の地 方作に特有の造形が見られます。頭髪から左顔面にかけての広い範囲に見ら れる失透したオリーブ色の沈着物は「パティーナ」と呼ばれ、長く土中に埋 もれた石像が偶発的に土の成分と化学変化を起こして生じるものです。眉、 目、鼻、口の一部に、黒色の錬り物による後世の補修が加えられています。 ■仙厓作品他 24件 石蔵利光氏寄贈 いし くら しゅ ぞう はか た ひゃく ねん ぐら 「石蔵酒造 博多百年蔵」で知られる石蔵家は、家伝によれば筑前藩主黒 田家の播磨時代からの御用商人で、黒田家とともに福岡に入国し、江戸時代 松永安左エ門翁の孫である、安一郎氏からのご寄贈品。「黄林閣蔵品帳」(前 期は当館松永記念館室「耳庵と茶道具展」にて展示し、後期は本展にて展示)は、 松永翁の戦前の所蔵品を記録した台帳で、書画、花入、茶碗、茶入など、種類 別に所蔵品の名称、旧蔵者、作品の覚えなどを記しています。筆者は複数の手 があるようですが、基本的に松永翁自ら記入しています。当館には『松永耳庵 買物控 大正10年1月より昭和12年12月まで 松永記念館』と題する、松永 翁の作品収集の時系列の記録の複写が収蔵されていますが、本蔵品帳はその続 編ともいうべき機能もはたし、戦前の所蔵品の全体像を知る上で貴重な資料で 飾らない日常の姿や気迫のこもった表情を切り取ったシリーズが代表作として 東京の古美術商「翠竹堂」店主・末松直介氏(故人)のご遺贈になる作品で、 筑前藩主黒田家の御用絵師尾形家の第8代である洞霄(愛遠・1791~1863) が寿老と亀を描き、仙厓義梵(1750 ~ 1837)が「寡欲則心身安 神安則必 壽」と賛をしています。仙厓は、聖福寺住持時代に尾形家と交渉をもち、同家 が所蔵している数多くの粉本類を自らの手本として画の研鑽を積んだ形跡があ り、本作品は、両者の具体的な交流を物語るものとして貴重です。仙厓の用い ている印章からして、文化年間(1804-1818)頃の作と思われます。 さら さ ■インド更紗他 16件 知られます。本作もその一枚。プリントを張ったパネルの裏面に「杉山吉良」 と署名があり、オリジナルプリントであることがわかります。今後、当館の松 永記念館室で展示活用したいと思います。 ■陶片資料 インドシナ半島の諸窯、唐津焼他 尾﨑直人氏寄贈 福岡市美術館の元学芸課長・尾﨑直人氏が調査研究活動の一環で収集された 古陶磁の陶片資料で、総数約2300片をご寄贈いただきました。タイが殆どを 占め、一部にカンボジア、唐津が含まれます。 半田達二氏遺贈 特にタイの陶片は、タイを代表する窯業地シーサッチャナーライ、スコータ イの他、それらとの影響関係が指摘されるタイ北部のサンカンペン、カロン、 半田達二氏(故人)は古美術作 パーンなど、13 ~ 16世紀の諸窯址の陶片が出土場所の情報とともに広く網 品の修復家で、修復技術の開発と 羅されています。こうした陶片資料は、伝世するインドシナ半島陶磁の具体的 ともに表具裂の研究を熱心に行っ な産地や時代を調査する上でとても重要な資料です。当館には本多コレクショ ておられました。染織作品の修復 ンを始め、インドシナ半島陶磁の充実した収蔵品があり、当館における古美術 においても、該当作品にあわせて コレクションの一柱をなしています。今後、そうした古陶磁の調査研究はもと 布を制作させたり、布や糸も草木 個々の作品に相応しい素材の研 き ら ■杉山吉良 松永安左エ門肖像 した松永翁の肖像です。杉山氏の肖像写真の作品においては、松永安左エ門の 翠竹堂 末松直介氏遺贈 染めを行って色を調整するなど、 おうりんかく 安一郎氏ご寄贈のもう一品は、写真家・杉山吉良氏(1910-1988)が撮影 紙本墨画・掛軸装 青野恭子氏寄贈 広がることになりました。 す。 どうしょう 尾形洞霄・画 仙厓義梵・賛 ガンダーラ 3 ~ 5世紀頃 また当館にはペルシャ向けの更紗は所蔵がなく、今回のご寄贈で収蔵品の幅が 松永安一郎氏寄贈 です。 ■石造ブッダ頭部 ンドネシア染織のクスマ・コレクションと合わせての展示企画が見込まれます。 受けて仙厓が作画した機知に富んだもので を持ち、70歳代の基準的な作として貴重 石造仏五尊像 「ヴァラの寄進」銘 ガンダーラ 3 ~ 4世紀頃 ルシャと考えられる更紗からなります。インドネシア関連のものは、当館のイ ■黄林閣蔵品帳 あり、同家と仙厓の交流を示す歴史的意味 仙厓筆 福神図(前期展示) 絹本墨画・掛幅装 74.0×33.0cm の印金、インドの絹のサリー、ペルシャあるいはインドで制作された更紗、ペ 神図」 (前期展示)は、石蔵家の前で松 囃 し 人間的な造形は、原初的なガルーダ像の姿を想わせます。 するために収集保存されていたもの。インドネシアのジャワ更紗(バティック)、 より、展示企画等にあたっても活用機会が見込まれます。 岩山獅子文様更紗(後期展示) インドネシア 19-20世紀