Comments
Description
Transcript
「たべもののたび」一一健康教育と理科教育のティーム
鳴門教育大学研究紀要 (生活・健康編) 第 19巻 2004 「たべもののたび」一一健康教育と理科教育のティーム・ティーチング * 村田勝夫¥喜多雅 竹内理恵*¥木下光 一 一 ー * * (キーワード:健康教育,ティーム・ティーチング,食物の消化) 養護教諭にとって勤務校の児童ならびに職員の健康管 1時間の学習では「からだのせいけつ J として,体の汚 0年に 理に注意を払うことが主要な職務であるが,平成 1 れやすいところや性器の清潔の大切さについて指導を 3年以上の経験をもっ養 行った。その際,自分の体の中から毎日出ている,小便 護教諭が教科「保健」を担当する教諭または講師になり や大便が本当に自分には関係ないものかどうかという疑 得る制度が誕生した。この制度は 問をもっ子どもが見られた。そこで竹内は児童に先ず生 教育職員免許法改訂が行われ 養護教諭がもってい る専門的な知識や技能を教科の指導に活用しようという き物(いきもの)の排植物を調べさせ,生き物は食べる 趣旨である。宍戸の編著による報告によれば 1) 各学校 から排植物をすることに気づかせ の状況に応じて(保健室の機能に支障を招かないように 得て,各自の排便の状態を観察・記録させて自分の排便 留意しながら)実施されているようである。附属小学校 に対する関心を持たせようと考えた。 では平成 13年度から第 1学年の特別活動(学級活動) における保健指導の時間の中で 児童がワークシート上に書きとどめた生き物の排池物 養護教諭による「たべ についての記載例を示す。 もののたびJ という健康教育の授業が行われている。 うんちするものあつまれ 日本の小学校児おける健康教育については,すでに滝 -うさぎ -どうぶつ ・ろば. 沢 2)による報告がある。また九州地区健康教授学研究会 において, しばしば小・中・高における学校の健康教育 -いぬ の実践例が報告されているが 3) エイズ教育や性教育, 寒さに負けない健康・体力づくり 次に保護者の協力を ・むし -ペンギン ・にわとり ・ライオン ・かめ ・ハムスター ・きんぎょ ・あらいぐま・かえる ・かたつむり・ハト ・すずめ .ぞう 給食児童を通した健 康教育などの例が多い。また平成 13年には第 13回目の 次に児童の排便状態を観察するカードを示す。 健康教授学研究会が聞かれ,健康をテーマ にした総合的な学習指導の工夫を通した健 康教育が報告されている 4)。本稿の目的に 近い実践例として 第 4回九州地区健康教 授学研究会において「排池やトイレの衛生 意識を育てる実践活動」が古賀町青柳小学 校によって報告されているヘ 本教育実践の目的は 児童が排植物に対 し て 従 来 か ら 抱 い て い る 汚 く て 臭 いJ うんちしらべ しらべた日 きょううんち はでましたか いつでまし たか のだからという理由で 小便(おしつこ) や大便(うんち)は汚いものと,思っている と考えられる。「たべもののたび」は 2時 間の学習として計画されているが,最初の 本 I~rb 門教育大学i'I然系埋科講昨 l ' l ¥ f j門教育大 i ' {, ' [ :校教育ア部附!属小ア校 (すい) -でた -でなかった )か~ ¥ -あさ -ひる -よる ー ぺ 大 小 と ち ろ さ き ゃ ぺ い と ち ろゃ 1 , ¥ うんちがでた あとはどん なきもちがし ましたか -でた -でなかった ( )かい -あさ -ひる -よる -ばなな どんなうんち がでましたか の食物の消化と行方J の理解である。 子どもたちは,臭いし,体に不必要なも │31日 れい なんかいで ( ましたか イメージ感覚の刷新と,理科教員との ティーム・ティーチングによる「体の中で 1年 ( ) く み ( ) な ま え ( よる,おうちの人といっしょにかきましょう。 11日 (もく) -でた -でなかった ( ) かl ¥ -あさ -ひる -よる │2日 (き /v) -でた -でなかった ( )かい -あさ -ひる -よる │3日 (ど) -でた -でなかった ( )かい -あさ -ひる -よる 14日 (にち) -でた -でなかった ( )かい -あさ -ひる -よる 村田勝夫・喜多雅一・竹内理恵・木下光二 1年生の児童は,食べ物や飲み物が消化されて,大便 や小便になることが,ある程度理解している。しかし食 べ物が口から入り どのような経路と諸器官の働きで消 化されて出てくるかは 部分的な理解に止まっているよ 1年生に人体構造と消化の仕 うである。そこで竹内は 組みを理解してもらうためにエフロン状の食育教材「何 でも食べる元気なまあちゃん」を用い,授業を進めた。 その例を写真 1に示した。 写真 2 理科教員からの説明に聞き入る児童 養護教諭は教室担任の木下と協議を行い,以下に示す 「たべもののたび」の指導案を立てた。これは第 1学年 の特別活動(学級活動)として 2時間の学習計画が立てら れたものである。その後半部に理科教員をゲスト・ティー チャーとして迎え,補足説明を加えながら授業を行った。 第 1学 年 特 別 活 動 ( 学 級 活 動 ) 指 導 案 写真長い小腸」の説明に聞き入る児童 この食育教材のエプロンは ことがある教材なので 本時の学習 附属幼稚園でも使われた ( 1 ) 目 標 附属幼稚園を卒園した児童に うんちは全く不必要なものではなく,大切な役目が よっては,記憶をたどりながら養護教諭からの詳しい消 あることに気づくとともに 化器官の働きについて熱心に耳を傾けていた。食べ物の とする意欲がもてるようにする。 流れと胃,小腸,大腸,直腸,虹門の位置や順路が,児 ( 2 ) 展 開 いて家の人と 5日間観察させ これをクラスで集計する。 すでに養護教諭からエプロン教材で排便の状態観察の大 切さを指導されているので 家での排便観察も抵抗なく 行われたといわれている。 竹内は,児童に排便とその形状観察の大切さを教える だけでなく,さらに児童に人間を含めた生き物の排植物 が微生物によって分解され地球上で循環する事の大切さ を知ってもらおうと 理科教員をゲスト・ティーチャー とする試みを行った。 理科教員の村田は 黒板による説明で 児童にも理解できるように絵図と 時代とともに変遷した便所の形態や 排植物がどのようにして微生物の分解を受け,それが循 環して究極には植物に還元する「旅」についてお話しし た。その時の様子を写真 2に示した。 ちのド んべ一 う調カ 児童の毎日の排便とその 資料 ドがに 健康教育として大切なのは 形状である。上記に示したような排便の調査カードを用 一ちう カんよ 多くの児童が驚嘆の意を示していた。 教師の支援 べうる 調なき ちんで んど表 う'発 のてか。 分見たす 自を出促 る。幾重にも折り込まれている小腸の長さには,写真か たしうを しるし果 習き出結 にの思べる 時ちを調す 前んみち表 うくん発 旺門から排便されるプラスチック製のバナナの登場であ 学でいの 学習活動 かったのは,エプロンに畳み込まれている長い小腸や, 。 童にとって明確になったようである。とりわけ関心が高 らも伺えるように 規則正しい排便をしよう 2 友だちのうんち O自分の経験を思い出した の出る様子やおな り,友だちの発表や保健 室に来る子どもの様子を かが痛くなった人 の状態を聞き,う 聞いたりして,うんちが 規則正しくでることが, んちと体の調子に ついて考える。 体の調子を整えるために 大切なことに気づくよう にする。 3 昔のことや,生 0理科教員のお話から,昔 は人のうんちゃおしっこ 物についてくわし を畑にまいて作物を育て く知っている理科 る肥料にしていたことや, 教員から,体から 自然の中ではうんちゃ生 出たうんちが,そ き物の死体,枯れ葉など れからどうなるの が,植物を生長させる肥 か,お話を聞く。 料になっていることが分 かるようにする。 4 これまで学んで Oうんちは汚い,捨ててし│ワーク まうだけのものではなく 1 .シート きて,分かつたこ 大切な役目があることに とや思ったことを 気づき,これからの生活 ワークシートに記 に生かせるようにする。 入し,まとめをす る 。 -2- 「たべもののたび」 健康教育と理科教育のティーム・ティーチング 下に示すが,いずれの項目も授業後に改善が見られた。 本授業に対する児童の感想 0めいろみたいなトンネルです。うんちくんもがんばっ ているんだなあ。からだの中がみえないのがちょっと 3つの質問 ざんねんです。 ( 1 ) いつも体の清潔に Oうんちはたいせつだとわかったり うんちがでるとき もちがいいことがわかりました。わかってよかったで ぐるぐるまわってうんちも 質問 やくたつのですね。はなやくさや木,ぜんぶのひりよ うにうんちがまわるのは Oわかったことは とてもやくにたちますね。 うんちはあさするのがいいのがわ かった。 Oわたしは,たべもののたびのべんきょうをして,うん ( 1 ) ( 2 ) ちゃたべものは, ぐるぐるまわってふしぎだなあとお もいました。もっとくわしく「からだのことをしりた いなあ」とおもいました。 0わたしは,うんちしらべをして,うんちは, こんなな よいと思いますか。 ( 3 ) うんちは大切なものだと思いますか。 す。それとうんちしらべはたのしかったです。 Oとてもながいたびをして 気をつけていますか。 ( 2 ) うんちはきちんと出た方が ( 3 ) 気をつけて 少し気をつ あまり気を 気をつけて いる。 けている。 つけていな いない。 い 。 事前 20人 1 5人 4人 0人 事後 3 1人 7人 1人 O人 事前 36人 2人 l人 0人 事後 38人 1人 0人 0人 事前 30人 4人 0人 5人 事後 35人 3人 0人 1人 以上の授業から,竹内は次のように考えた。第 1学年 がいたびをするなんて,おもわなかったです。また, の児童は,好奇心が強く,自分たちの身近な生活の中で ほけんのせんせいとべんきょうをして,もっといろい 体の清潔や排便について ろなことをしりたいです。 ことができた。また保護者の協力を得て,排便調べに取 Oうんちがぐるぐるまわっているのと,小さくなって木 のえいようになることがわかった。 0わたしはせんせいのはなしで わかったことがありま す。それは,うんちがどうなるかということです。う 興味を持って学習に取り組む り組めたことも大変よかった。ただ内容が少し難しかっ た点が問題だ、ったこと,快便の大切さと快適さをもう少 し訴える授業にしていきたい。 理科教員のねらいは 養護教員とのティーム・ティー んちがはなのひりようになるということが,びっくり チングにより,体の仕組みゃ食べ物の消化などが児童に しました。 理解され,最後に地球における物質の循環という話まで Oすごいことをおそわったことが とくに たくさんありました。 到達できれば,ある程度の目標が達成されたと思われる。 うんちがさいごにどうなるのかのはなしで, 小さくなって木のえいようになるのが,すごかった。 文 献 ぼくは,すこしたくましくなったかなあー, とおもい ました。 1)宍戸洲美『養護教諭の役割と教育実践~ ,学事出版株 児童の感想を読んでみる限りは,養護教諭が意図した ことが児童にも反映しているものと思われる。また「体 2 )滝沢武久市本の小学校における健康教育J,健康心 ll ,No.2,( 1994),pp 47-5 3 . 理・教育学研究, Vo. を清潔に保つこと」と「快便の意義」について授業の事 3) h t t p : / / t s m a i n J u k u o k a e d u . a c . j p / r c p c ! k : e n k o _ r . h t m l 前と事後についてアンケート調査をした。その結果を以 4) h t t p : / / t s m a i n. f u k u o k a e d u . a cj .p / r c p c /he a l t h O O p r o. h t m l 式会社, 2000, pp135-140 ITabemononoT a b i(Tra v e l i n gRouteo fD i g e s t e dF o o d ) JTeamT e a c h i n go fH e a l t hE d u c a t i o nandS c i e n c eE d u c a t i o n K a t s u oMURATA*, 乱1 a s a k a z uKITA*, R i eTAKEUCHI**andM i t s u j iKINOSHITA** An u r s i n gt e a c h e randas c i e n c et e a c h e rc a r r i e do u tteamt e a c h i n go fh e a l t hands c i e n c ee d u c a t i o n .Th en u r s i n gt e a c h e r h a sas p e c i a la c t i v i t yo fh e a l t he d u c a t i o ni nf i r s tg r a d eo fFuzokuElementarySchoo l .Aimoft h ea c t i v i t yi st oa l t e rt h e i ra t t i t u d e ( r e c e p t i v i t yt obed i r t y )a g a i n s tf e c e s .Then u r s i n gt e a c h e rs t r e s s e si m p o r t a n c et ochecks h a p eoft h e i rf e c e sf o rh e a l t h .Boysand eyd i s c u s s e dons h a p eo ff e c e sandh e a l t hon g i r l scheckeds h a p eo ft h e i rf e c e sf o rf i v ed a y sw i t ht h e i rp a r e n t sa tt h e i rhome.Th t h eb a s eo ft h e i rr e s u l t s .I nc o n n e c t i o nw i t ht h i st h es c i e n c et e a c h e rt e l l ss u b s e q u e n t 1 ya b o u tc i r c u l a t i o no fo r g a n i cm a t t e r si n n a t u r e .A f t e rt h i sa c t i v i t y ,i twasc o n f i r m e dt h a tt h e i ra t t i t u d echangedt ob e t t e r . K a t s u oMURATA,N a r u t oU n i v e r s i t yo fE d u c a t i o n *M a s a k a z uKITA,N a r u t oU n i v e r s i t yo fE d u c a t i o n R i eTAKEUCHI,N a r u t oU n i v e r s i t yo fEdu c a t i o nF u z o k uE l e m e n t a r yS c h o o l M i t s u j iKINOSHITA,N a r u t oU n i v e r s i t yo fE d u c a t i o nF u z o k uE l e m e n t a r yS c h o o l 本 日 日 4-