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財団法人 花園病院
東京家政大学附属 臨床相談センター紀要 第 11 集 卒業生の近況報告 財団法人 花園病院 渡邊 私は、平成 20 年 3 月に東京家政大学大学院を 卒業し、医療、教育、福祉という多領域の現場で 真伊 発達障害と様々な疾患をもった患者さんが受診 されています。 非常勤の心理士として 1 年間経験の場を持たせ また、当院には、常勤の心理士が 3 名所属して ていただきました。その後、財団法人花園病院の います。外来・病棟担当に 1 名、精神デイケア担 常勤として勤務しています。この度、卒業生の近 当に 2 名が配置されています。現在、私は外来・ 況報告という貴重な機会をいただきましたので、 病棟担当をさせていただいていますが、その主な 当院での心理士の業務内容と、卒業してからの現 仕事内容は、心理査定と心理面接です。心理査定 在までを振り返りながら臨床 3 年目の心理士と は、医師の依頼を受け、知能検査(WAIS-Ⅲ、田 して考えていることを述べさせていただきたい 中ビネー知能検査)、投影法検査(ロールシャッ と思います。 ハテスト、絵画描画法テスト)、各種質問紙(文 私の勤務している財団法人花園病院は、山梨県 章完成法、東大式エゴグラム、ミネソタ多面人格 甲府市にある単科の精神科病院であり、外来施設、 目録など)を目的に合わせたテストバッテリーを 入院施設から構成されています。現在の許可病床 組んで実施しています。目的は診断のための病態 数は、234 床(精神科療養病棟、精神科一般病棟、 水準の把握や鑑別診断、精神保健福祉手帳や自立 特殊疾患療養病棟)であり、精神科大規模デイケ 支援診断書作成のための心理的所見、今後の治療 ア、グループホーム、福祉ホーム B 型も併設され 方針や心理的要因についてアセスメントと様々 ています。 「精神障害者とともに創造する医療共 です。心理面接は外来・病棟の患者さんを対象に、 同社会の構築」という開設当時の理念の下に「ど 1 回 30~50 分の枠で実施しています。心理検査 のような障害者も自由で、幸福な、活き活きとし と同様に、医師からの依頼が必要になりますが、 た生活を送ることができる社会」をつくる基点と 患者さんの病状や医師の治療方針により心理士 なる病院を目指しています。医療が病院という限 に求められることが異なります。例えば、受容的、 られた場所で行われるだけでなく、地域全体を治 支持的な関わりを求められる場合もあれば、それ 療の場ととらえ、地域に密着した開かれた精神科 に加えて内省、洞察を促すことを求められる場合 病院として発展していくため精神医療に努めて もあります。他にも、対人関係を円滑にするため います。病院スタッフは、医師、看護師、作業療 のソーシャルスキルの獲得や、病識が欠如してい 法士、ソーシャルワーカー、薬剤師、心理士と多 る患者さんには疾病教育を行っています。 種職で協同しています。治療を受けている入院患 心理査定、心理面接が主の仕事であると述べま 者さんは、統合失調症が多くをしめますが、外来 したが、他にも医療観察法のスタッフとしての仕 患者は、気分障害、神経症、パーソナリティ障害、 事も兼務しています。当院は医療観察法の指定医 -77- 財団法人 花園病院 療機関(鑑定機関、通院医療機関)となっていま とが大切であると理解するようになりました。多 す。心神喪失の状態で重大な他害行為を行った対 種職へ理解や尊敬を持つことで信頼関係が築け 象者への医療及び観察をするスタッフは、医師、 ることを学びました。スタッフ間の関係性の変化 看護師、作業療法士、ケースワーカー、臨床心理 したことで、業務においても肩のちからが抜けて 技術者から成り立っています。心理士の仕事は、 いきました。心境の変化の背景には、臨床 3 年目 鑑定期間中、通院医療期間中の心理検査、通院期 の心理士として未熟な部分がよく分かるように 間中の心理面接や訪問です。 なったことも挙げられます。自分自身を見つめる 以上が私の仕事内容になりますが、卒業してか ことで、今できることを丁寧に真摯に行っていく ら現在までを振り返りながら日々感じているこ ことが大切であると意識が変化していきました。 とを述べさせていただきたいと思います。当院の このように意識を変えることで、働き方も変化 心理士としての勤務は 2 年目になりますが、勤務 していきました。院生時代から恩師である先生に、 当初は心理士としてどのように動いたらよいか 心理士のコミュニケーション能力の重要性を教 ということに困惑していました。医療の現場で心 えていただきましたが、身をもってその大切さを 理士は何ができるのか、何を必要をされているの 体験しています。心理士として待つという姿勢も かという問いかけから始まりました。今でもその 大切ですが、受け身だけの心理士では医療現場の 問いかけは常にあり続けるのですが、当初と現在 業務は難しいと感じます。例えば、心理面接も心 ではその意識が異なるように感じます。どのよう 理検査も当院では医師の依頼が必要であると述 に変化したかというと、当初は患者さんに対して べましたが、医師の依頼を待つばかりではなく、 「自分 1 人で患者さんをなんとかしなくてはい 心理士から医師へ働きかけを行い心理検査や心 けない」という意識が強かったように思います。 理面接へ繋げていくことが大切であると感じて 心理士という専門性を過度に意識しすぎたこと います。 や責任感を感じて、柔軟な考えや身動きが取れな 外来、病棟の全患者さんを対象に心理士が 1 人 かったと振り返ります。現在の心境の変化として で配置されているため、心理的サポートが必要な は、多種職チームの中で 1 人の心理士として動け 患者さんの全てを把握することが難しいという るようになってきたと思います。以前は、外来・ のが現状です。その際、多種職で協同することに 病棟担当は 1 人でこなさなくてはいけないとい より各専門家による多角的な視点や情報が得ら う孤立感があったようにも思います。医師、看護 れると実感しています。看護師やソーシャルワー 師、作業療法士、ケースワーカーという専門家の カーからの情報提供により心理的な関わりを求 各々の視点があり、心理士として見立てが違うこ められることもあります。これも、チーム間もよ とがあることは当然です。しかし勤務当初は、チ る信頼関係から始まるように思います。 ームとして同じ視点でなければいけないと考え 臨床 3 年目となり、今できることの全てで患者 ていました。つまり、心理士としての見立てや専 さんに真摯に向き合いたいと思うように意識が 門性を主張することができずにいました。現在で 変化していきました。そのように視点を変えるこ は、視点が違うことが多種職チームの醍醐味であ とで、過度の力が抜け、自由さと柔軟さで動ける ると理解し、互いの視点の違いを生かしていくこ ようになりました。現場では、多くのケースを受 -78- 渡邊 真伊 け持つ機会に恵まれ、時に壁にぶち当ることもあ いますが、患者さんから学ばせていただくことが りました。その際、院生時代に先生方が教えてく 沢山あります。患者さんの生きてきた背景から 1 ださった臨床心理士の中核となる言葉が思い出 人の人間を理解していく時、対人援助とは何か、 されます。先生方の言葉を思い出すことで、初心 臨床心理とは何か、しいては自分とは何かという に戻ることができました。その中でも、私の心に 限りない問いかけは続きます。臨床 3 年目という 常に響いているのは「臨床心理学は、一生涯勉強 等身大の自分と向き合いながら、日々勉強、成長 である」という言葉です。現場では、常に出会い していきたいと思います。新たな決意を胸に、卒 があり、常に勉強であるということです。ケース 業生の近況報告とさせていただきます。 では、心理士という治療者として患者さんに出会 -79-