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嶺南家畜保健衛生センター TEL、FAX 0770(45)0190 <受胎率向上
嶺南家畜保健衛生センター TEL、FAX 0770(45)0190 平成 17 年 3 月号 No.9 HACCP とは、危害分析、重要管理点、管理基準、モニタリング、改善措置、検証、記 録という 7 つの原則から成り立つ食品衛生管理システムです。HACCP は主に食品製造会 社で採用されていますが、フードチェーン(食糧生産現場は、いろいろな産業チャンネル を通じて消費者、市民に一本の鎖でつながっている。 )という概念が確立されてから、食糧 の生産段階でも取り入れようという気運が高まっています。 農場で HACCP を取り入れて公に認定を受けることは、実際には、なかなか難しいかも しれません。しかし HACCP の原則を日常の管理に活用することは、衛生管理の改善、効 率化、衛生水準の向上が図れ、ひいては事故の低減、乳量・乳質の向上に繋がると考えま す。 乳牛の飼養環境に“安楽性”という言葉が使われた当初は、 「多くの資金を投入してまで、 家畜に安楽性を確保するメリットはあるのか。 」と言われたようですが、現在では牛の安楽 性(カウコンフォート)を追求することは経済活動そのものと考えられています。同じよ うに農場 HACCP は経済行為そのものであると考えます。 また、 生産した畜産物に対して、 HACCP の記録に基づき、安全性を証明できる、説明が果たせるということは、消費者の ニーズである安全・安心につながります。単なる食糧生産から脱却し、消費者から信頼さ れる安全性を追及した経営に転換するという認識に立つことが重要です。 家畜保健衛生所が酪農家の方々に配付した「乳用牛における家畜衛生管理マニュアル」 は、農場で HACCP を円滑に導入するための標準作業手順書です。少しでも多くの項目を 実践されることを希望します。 <受胎率向上作戦、若狭牛の哺育・育成作戦> 先月までは、牛の消化のしくみについて、やや総論的な話をしてきました。早速、泌 乳ステージ、発育ステージにあった飼料給与の話に入りたいところですが、飼料設計・ 給与法を合理的で正確なものにコントロールするためには、“飼料計算の方法”を理解 しておく必要があります。今月は“飼料計算の仕方と考え方”について話を進めていき ます。 ∼飼料計算の仕方と考え方∼ 牛は、摂取した栄養によって、生命を維持し、成長し、増体し、泌乳し、繁殖を行い ます。そのために必要となる適正な栄養分を含んだ食餌メニューは、以下の順序で算出 します。 ① 養分要求量を求める。 乳牛であれば、各個体の体重・産乳量を、肉用牛であれば、体重と目標とする 1 日増 体量(DG)を把握・決定し、飼養標準により、養分の必要量を求めます。乳牛の場 合の体重は、実体重ではなく、BCS3.0 に補正したフレームサイズ体重を使用しま す。多頭飼育・群飼育の場合は平均体重・乳量をどこに設定するかが重要となります。 ② 給与する粗飼料の種類と量を生産および入手の実情に即してきめる。 正常なルーメンの発酵をさせるには、粗飼料による乾物量を十分に確保する必要があ ります。 ③ 不足する養分量と給与濃厚飼料中の養分含量を求める(①−②)。 不足する養分は、濃厚飼料で与えることになります。そして、適正に濃厚飼料を給与 するために、給与する風乾量と不足養分量から、濃厚飼料中に含ませるべき養分含量 を求めます。 ④ 給与する濃厚飼料の配合割合を決定し、目的とするDCP、TDNの必要量を満た すことを図る。 この場合不足養分量の栄養率(TDN/DCP−1)を計算しておくと便利です。 それでは、以下に例を挙げて具体的に説明します。 ∼計算例∼ ∼体重 550 ㎏の乳牛が、乳脂率 3.5%の牛乳を 1 日 20 ㎏生産している場合、どのよう に飼料を与えたらよいか。∼ まず、この乳牛に必要な養分量は以下のように計算されます。 DM DCP TDN 維持要求量 7.0kg 310g 4.3kg 45×20 305×20 産乳要求量 =900g =6.1kg 合計 7.0kg 1,210g 10.4kg そこで、例えば基礎飼料となる粗飼料にイタリアンライグラス乾草(DM 84.9%、D CP 5.6%、TDN 53.4%、出穂期)を選択した場合に、その与えるべき量と、養分量は 次のようになります。 7kg×100/84.9≒8.24kg・・・原物として与えるべき量 8.24kg×0.056= 461g・・・・給与したDCP量 8.24kg×0.534=4.4kg・・・・給与したTDN量 これを整理してみると、以下のようになります。 風乾量 DCP TDN Kg* g Kg 養分要求量 1,210 10.4 16.5 461 4.4 粗飼料中養分 8.24 749 6.0 8.26 不足分 9.1 72.7 濃厚飼料中(%) *風乾量は、体重の 3%食べるものと仮定(550kg×0.03) なお、給与する濃厚飼料中に含ませるべき養分含量は、次のようにして求めました。 DCP・・・749÷8,260×100≒9.1(%) TDN・・・6.0÷8.26×100≒72.7(%) すなわち、このような養分含量の配合飼料を作成し、風乾量で 8.26kg 給与すれば、こ の牛にとって必要な乾物量と栄養成分を満たすことができます。 つぎに、配合飼料に使う原料の割合を決定していくことになります。その場合、栄養 率(NR:TDN/DCP−1)を利用すると考えやすくなります。今回、設計する飼料の栄 養率は、7(72.7÷9.1−1)となります。そこで、NRが7よりも小さい飼料と大きい 飼料を選択して配合具合を決定することになります。 今回、配合に用いる原料のNRは、乳配が 4.7、トウモロコシ圧片が 10.7、ビール粕 入り混合飼料が 2.7 であるので、配合ができるということになります。配合例を以下に 示しました。 配合飼料の原料 割合(%) DCP(%) TDN(%) 乳牛用配合飼料 80 …×13.0=10.4 …×74.0=59.2 10 トウモロコシ圧片 …× 6.8= 0.68 …×79.8= 7.98 10 ビール粕入り混合飼料 …×14.1= 1.41 …×52.1= 5.21 合計 100 12.5 72.4 なお、この表のビール粕入り混合飼料の配合割合 10%とは、風乾換算での量です。 ビール粕入り混合飼料のDM%は、72.1 でしたので、原物重量としての添加割合は、 10×90/72.1=12.5%となります。 (一般の風乾濃厚飼料のDM%を 90%とした。 ) 設計した飼料を給与した時の充足率(過不足の具合)を以下の表にまとめました。 風乾量 kg DCP g TDN kg 養分要求量 16.5 1,210 10.4 8.24 461 4.4 粗飼料中養分 8.26 …×12.5%=1,033 …×72.4%=6.0 配合飼料中養分 16.5 1,494 10.4 給与量合計 養分充足率 % 1,494/1,210×100 10.4/10.4×100 100 ≒123% =100% 養分要求量に対し、TDNはなるべく、過不足がないようにしなければいけません。D CPは給与する飼料の組み合わせ、特に良質粗飼料を多く与える場合に過剰になりがち ですが、飼料の組み合わせ給与量が経営的に有利と判断される場合は、要求量の 1.5 倍 程度になってもやむを得ません。 このような手法で、カルシウムやリン、ビタミン A などについても要求量を給与飼料 中に確保します。DIP、UIP、NFCについても、飼料中含量さえ分かれば、同様 に算出できます。いずれにしても、飼料の配合を設計するときには、牛が食べることが できる飼料の範囲内に、必要とする養分を盛り込むことが必要です。 ★NRC飼養標準にしろ、日本飼養標準にしろ大切なことは、推奨値を出すに至った根 拠と前提条件の考え方です。そこがいいかげんであると推奨値どおりにやってもよい結 果が得られません。また、牛の状態や環境は日々変動し変化しています。最後はやはり、 牛の状態をよく観察して給与量、内容を調整していくことが必要です。 ∼皆さんは、軒下に繋がれた犬が雪の上で座っている様子を見たことがありませんか。 彼らは、軒下でコンクリートのところに居るよりも、雪の上のほうが暖かいことを知っ ています。冬の日のコンクリートはそれ程、体温を奪うものです。もうお分かりかと思 いますが、動物のちょっとした仕草を参考にして、子牛の管理に結びつけて欲しいと思 います。子牛は寒さに極めて敏感です。子牛の体格当たりの皮膚量は成牛の 3.5 倍あり ます。それは子牛が親牛に比べ 3.5 倍体熱を放散することを意味しています。換気と吹 きさらしを混同してはいけません。敷料はオガクズを撒いた上に十分な量の乾草が必要 です。子牛の発育は、その農場の衛生管理、飼養管理技術のバロメーターです。∼ <河合 隆一郎>