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青山学院大学文学部教育学 科昭和大学医学部小児科
子どもを守るために 何が出来るか 青山学院大学文学部教育学 科昭和大学医学部小児科 目次 なぜ虐待防止が必要か 子ども虐待の基礎知識 虐待の精神面への影響 虐待の早期発見のポイント 事例提示 まとめ なぜ虐待防止が必要か(1) 虐待は身近な問題である。 1)文部科学省の調査で虐待が新たに発見される 子どもの割合は0.15%/年 しかし、このデーターは蓄積される。 単純計算で18倍→2.7%≒中学生の不登校率 2)虐待児のいた保育園の割合 19% 加害者は7割以上が母親 なぜ虐待防止が必要か(2) 虐待は見逃されている。 1)性的虐待 小学校6年生の女子。約16%大人から性的な嫌が らせを受けたことがあると答える。 2)ネグレクト 心理的虐待 domestic violence 実態がつかみにくい。 3)見た目では決して判断できない。 祖父(医師)から20年性的虐待の事例 保育士、教師、弁護士、警察官の事例も存在 なぜ虐待防止が必要か(3) 虐待は身体的な問題だけではない。 「可愛そう」ではすまされない様々な影響がある。 1)子どもの知的発達→学校、集団生活に問題 2)子どもの精神発達→人格形成に問題 3)反社会的なリスクファクター→社会に影響 4)世代間伝達→将来に負の遺産を残す なぜ虐待防止が必要か(4) 卒業までの教育の現場で学ぶ機会が少ない。 特に医療関連と学校では少ない。 我が国の医学部での虐待の講義時間は6年 間で1時間以下(児童精神医学の一部分として 組み込まれている)。 一方で責任は規定されている。 児童虐待防止等に関する法律で、「早期発 見に努めなければならない。」 なぜ虐待防止が必要か(5);社会的影響 文部科学省の調査 各調査資料における被虐待児の割合 薬物乱用で補導された子どもの50% 犯罪の検挙45% 窃盗37%、暴力52% 少年院在院の72% 非行相談の約3割 ただしこれは、後方視的な調査である。 基礎知識1 法律上の4分類+1 身体的虐待 ネグレクト(養育の拒否・怠慢) 性的虐待 心理的虐待 DVの目撃(心理的虐待の1概念 に加える) 基礎知識(2) 児童虐待の防止等に関する法律 第1期:平成12年11月施行 →児童虐待が法律上定義された (戦前にもあったが・・・) →3年後に見直しを規定が盛り込まれる。 第2期:平成16年10月改定から現在 →保護者だけでなく同居人によるものも虐待で ある →DV(ドメスティックバイオレンス)の目撃も 心理的虐待 →「虐待と思われる」段階から通告OK ※通告は、個人情報漏洩にはならない(法律で規定)。 ※関係機関に守秘義務をかけることによって 情報交換を行うことができる。 基礎知識(3) 虐待はどこで発見されるか? 家族親族 医療 医療機関 機関 学校 民生委員 児童館等 子ども 警察 保育園 保健所 近隣知人 子どもがかかわるすべての場所で発見の可能性がある。 基本的な考え方Ⅰ-主訴にとらわれない 虐待=abuse (ab+use) →保護者の監護権の不適切な使用(濫用) →親の意図に関係なし →子どもの状態から判断することが重要 訴えではなく、子どもの状態からの判断が重 要 →子どもは「自分がやられた」とは言わない 基本的な考え方Ⅱ-古くて新しい問題 氷山の一角が表面(問題)化 新しい問題ではなく、社会問題化されたこと によって可視化されたことも大きい。 家族という特別な空間の中で発生 「加害⇔被害」という視点だけではなく、「家 族の機能不全」という視点を持つことが必要。 基本的な考え方Ⅲーどう援助していくの か? ひとつの機関だけで抱え込まないこと ひとつの機関の「できること」や「できないこ と」を関係者が理解することが大切。児童相談 所が万能なわけではない。 →過剰な期待は過剰な幻滅へ至る。 →ネットワークを組んで援助していくこと →「医療機関としては何ができるか」という視点 ※病院内にいるソーシャルワーカーを巻き込む 虐待の精神面の問題 1)愛着の障害 2)トラウマ 一回だけの大きな外傷体験としてのトラウマと 比べて、否認や解離が目立つ。 3)自己感の問題 自己感情の低下 自己調節機能の低下 4)世代間伝達 精神面の問題;反応性愛着障害 1)その年齢で期待される社会性の発達の障害。 追視しない、抱っこされることに抵抗 凍り付いたような視線。 2)文部科学省の報告:キレる子どもの科学的研究。 情動は生まれてから5歳までに原型が形成される 子どもが安定した自己を形成するには、他者、特 に保護者の役割が必要。つまり虐待が重大課題。 3)動物実験:生後母子分離したラット。攻撃性が増 す。ストレス脆弱性および遺伝子発現変動が 確認された。 精神面の問題;虐待にみられるトラウマ 繰り返される(日常的) 人間関係の信頼を崩す 本来自分を守ってくれる大人からの体験 自分だけ(兄弟は含むことが多い)に選択 的におこる トラウマを癒す場が欠如している 小児早期から→発達の影響が大きい。 精神面の問題;複雑型PTSD 典型的なPTSD(再体験、回避、覚醒亢進が 主要症状)と比べてより複雑。 否認、解離などの症状 現実に再体験し続ける。回避できる環境にな い。覚醒亢進が続く。 虐待の子どもにみられる多動、衝動性は PTSDの覚醒亢進に類似する。 →ADHD like syndrome 精神面の問題;自己感の問題 自己の連続性 その場その場を切り抜けるのに精一杯で、意 識、記憶、知覚が統合する機能が破綻しなが ら自我が形成される。解離が出現 自己調節能力 常に臨戦態勢、cortisolの過剰反応 →PTSDに類似した病体 自己評価の低下。悪いのは自分だと思う。 精神面の問題;虐待の世代間伝達 虐待を受けてた子どもが、親になり自身の子どもに 虐待を加えること。 暴力と愛情の混沌状態の学習: 加害者は抑制のない暴力の爆発が静まると後悔 し、愛情深い優しい態度で被害者に接する。 親になった時に、我が子に対して暴力という表 現形態での愛情で接するようになる。 自尊心の回復; 自分自身への罪意識→成人になり、抑うつ状態、 劣等感、自尊感情の低さの原因。 育児で、抑圧されていた怒りが甦生し、自身の子 を虐待することで、自尊心の回復がはかられる。 虐待の早期発見のポイント 疑いを持つこと 何か心配な子どもを見たらその可能性を排除しない。 不可解な外傷は病歴をよく確認する。 乳児の頭部外傷の原因は虐待が最も多い。 幼児期に多動や逸脱行動を呈する子どもは、生育歴 を特に慎重に聴取すること。 診療科間の連携 診断・治療;放射線科、脳外科、皮膚科、整形外科、耳 鼻科、眼科、泌尿器科、婦人科、などすべての科 親(家族)の対応;産婦人科、精神科、内科 被虐待児にみられる具体的な症状や行動面の問題 1)不衛生、不適切な衣類 2)医療・歯科治療を受けていない 3)大人に近づくことを尻込みする、異常な警戒感、表情を 伺う。 4)他の要因では説明できない学業不振、緘黙 5)家に帰りたがらない、家出、放浪、徘徊 6)万引き、窃盗、金品の持ち出し、放火 7)盗み食いなど食行動の異常、 8)いじめ(被害者、加害者の両方) 9)異常に素直、頑張りすぎ、大人びた行動、 一方で、攻撃的であったり年齢不相応の子どもぽい行動 10)多動、過度の乱暴、注意を引く行動 11)自傷行為や自殺企図 12)アルコールやその他の薬物への依存 11)性的行動化 早期発見のポイント 学童期にみられる虐待の影響 1 2 3 4 5 6 7 学業;読解力、文章表現、計算力の低下など トラウマ 典型的なPTSDの症状は少なく、 否認や解離が多い。 対人関係の問題 虐待的人間関係の再現性 感情や感覚の調節障害 パニック 見捨てられ体験や自傷行為 自己および他者イメージの問題 悪い自己と他者への基本的不信感 さまざまな逸脱行動 人格形成の歪み 将来、解離性同一症障害の危険性 早期発見のポイント 性的虐待を受けた子どもの症状 1,年齢不相応な性的言動・行動化 2,自尊感情の低下「自分を汚いと感じる」 3,回避症状;特に裸になることに抵抗を示す 4,愛着と性の混同 5,解離症状 6,転換症状 7,ファンタジー傾向 8,友達関係の問題、孤立、寡黙 9,過覚醒 10、その他のさまざまな逸脱行為など まとめ:虐待には家族支援が必要 子ども:身体・精神面の障害 母親の育児困難 両親の問題 社会的:先ほどの調査 家庭で:自傷、自殺企図、抑うつ、 父親の育児への理解のなさ・DV 一家系で何人もの加害者と被害者 孤立、人間不信の陥っている。 これからの虐待防止は (JaSPCAN) 子どもの心身の回復ができれば、早期発見は もっと進む。 子どものケア・治療し、親の子育てを援助する 受け皿を増やし、子どもと親を守り育てる、「社 会」を気づくことが不可欠 力で押さえる対応は少なくして、共感と信頼の 虐待防止システム構築を目指す。 なぜ、少子化にもかかわらず育児困難が増加 科学研究も必要である。