...

対マヒ者における駆動式歩行補助装具を用いたトレッドミルトレーニング

by user

on
Category: Documents
31

views

Report

Comments

Transcript

対マヒ者における駆動式歩行補助装具を用いたトレッドミルトレーニング
対マヒ者における駆動式歩行補助装具を用いたトレッドミルトレーニング
(Journal of Rehabilitation Research and Development 2000 年 11 月/12 月号 Vol.37 No.6)
Gery Colombo MS, Matthias Joerg MS, Reinhard Schreier BME, Volker Dietz MD
(チューリッヒ、バルグリスト大学病院対マヒセンター ParaCare 及びスタエファ、Hocoma 医学工学社)
*
こ の デ ー タ は ス イ ス KTI ( No.40051.1 ) と ス イ ス 国 営 財 団 Swiss National Foundation
(No.31-53526.98)からの助成金で実施した研究に基づくものである。本研究は、スイスのホコマ
(Hocoma)医学工学社、スイス連邦政府技術研究所 Swiss Federal Institute of Technology、ドイ
ツのウッドウェイ Woodway 社の協力で行われた。
*
こ の 資 料 の 連 絡 先 お よ び コ ピ ー の 依 頼 先 : Gery Colombo, MS, ParaCare, Instsitute for
Rehabilitation and Research, University Hospital Balgrist, Forchstrasse 340, CH- 8008 Zurich,
Switzerland
抄
メールアドレス:[email protected].
録
近年の研究により一定のトレッドミル・トレーニングは不全脊髄損傷の被験者の歩行能力を改
善させる可能性があることが確認された。患者の歩行訓練の初期段階において、トレッドミル上
の歩行訓練中は理学療法士の介助が必要である。理学療法士の体力と経験を要するため、トレッ
ドミル・トレーニングには限界がある。駆動式歩行補助装具(driven gait orthosis:DGO)が
開発されたことにより、トレッドミル上で生理的歩行が可能となった。使用する装具は患者のサ
イズによって調節できる。膝・股関節にあわせる駆動部分はポジション・コントローラーによっ
て制御される。DGO の使用により、麻痺レベルや痙性の程度が異なる各患者は、30 分以上のト
レーニングを行うことおよび生理的歩行パターンを得ることができる。
〔キーワード〕 両足歩行訓練(bipedal)
、駆動式歩行補助装具(driven gait orthosis)
、歩行(gait)
、
装具(orthosis)
、対マヒ(paraplegia)
、
(動力歩行外骨格)powered walking exoskeleton、
トレッドミル・トレーニング(treadmill training)
緒
言
慢性脊髄損傷のネコにおいて、トレッドミル・トレーニング中に体重の負荷を部分的に軽減し、
足の筋肉活性化を適切に行うと、歩行運動を誘発することが可能である(1)。運動能力にとって、
トレッドミル・トレーニングは有効であることを記載しているものがある(2)。ネコにおける効
果と同様に、不全対マヒ者においても、トレッドミル上で体重の一部を減負荷することにより、
歩行運動を誘発するトレーニングをすることができる(3)。
1
実際に不全対マヒ者に関する近年の研究では、筋電図(EMG)により訓練中に足の伸筋で活
動が著しく増加することを認め、運動機能の改善に結びつく効果があることを示している(4,5)。
完全対マヒ者においては、運動能力の改善は見られなかったが、トレッドミル・トレーニング中
に歩行パターンを誘発し、EMG が足の伸筋の活動増加を示したため、トレッドミル・トレーニ
ングは、完全対マヒ者にも有効であることが実証されている(4,5)。また、不全対マヒ者(3,6,7)お
よび片マヒ者(8)において、歩行訓練をした実験群は、歩行訓練をしない対照群に比べ、可動性
の改善度が高く、歩行訓練の有効性が十分に確認されている。
患者が自力で足を動かせない場合、受傷後、4∼6週間でトレッドミル・トレーニングを始め
るのが通常である。患者はトレッドミル・トレーニングの際、体重の負荷を部分的に軽減するた
めにハーネスで固定される。現在、トレーニングの最初の段階では、患者の両側に理学療法士が
1 名ずつ座り、生理学的な方法で患者のリハビリ訓練を介助する必要がある。この方法により、
患者はトレッドミル上で歩行が可能になる。このような運動は足の筋肉の活動パターンと関連づ
けられる。この活動パターンは最適求心性入力(appropriate afferent input)により活性化さ
れた脊髄の運動中枢によって引き起こされると思われる。トレッドミル上で歩行を介助すること
はきわめて重要と思われる。再現性があり、リズミカルで、生理学的な方法で歩行訓練を行なっ
てこそ、脊髄に対する最適求心性インプットは達成される。最適求心性インプットは、脊髄の運
動中枢を刺激し、随意的に動かせない足の筋肉を活性化するために必要である。
理学療法士にとってトレッドミ・トレーニングの患者を歩行させる作業は人間工学的に見て好
ましくなく、骨の折れることである。そのため訓練の期間は比較的短く、患者に過度の痙性をみ
とめる場合は訓練を行うことができない。他の問題としては、理学療法士はそれぞれの患者に応
じて異なるリハビリのやり方をしなければならず、また、同じ療法士でも日によってやり方が違
ってくる。したがって、徒手による介助では、運動中枢に対する最適求心性入力を再現性のある
方法で提供できず、患者は最良の成果を得ることができない。
患者に対してはトレッドミルトレーニング法を改善する目的で、理学療法士に対しては作業負
担を軽減する目的で、私たちは歩行駆動装具(DGO)を開発した。DGO を使うことにより、歩
行が不可能な患者は機械による歩行訓練を行うことができる。
この機械による訓練は今までの徒手による訓練と比べて、多くの利点がある。ひとつには、
DGO は理学療法士の肉体的能力より力があるため、患者は受傷後の早い段階からリハビリが始
められる。また、DGO によって長時間の訓練ができるようになる。つまり作業負担を軽減され
たため、理学療法士はより長い時間の指導を行なうことが可能になり、それぞれの患者の必要性
に応じて、より適した歩行パターンを個別に提供することができる。したがって、より生理学的
で再現性のある方法が得られる。また、DGO は研究目的の点で利点がある。異なる歩行パラメ
ータおよびリハビリ運動の介助の度合いを測定するのが可能である(例、調節強度)
。したがっ
2
て、訓練効果という点においてパラメータの影響を研究することができる。また、治療に要する
理学療法士は1名でよいため、DGO を使用することによって訓練費用を削減することができる。
過去にいくつかの研究グループが DGO の開発を行ってきた。1972 年、Hughes が空気圧式
の駆動外骨格の計画を作成した(9)。後に、Seireg と Grundman(10)、Miyamoto ら(11)が水圧
移動システムを発表した。Rabischong ら(12)、Ruthenberg ら(13)は直流モーターを使った最初
の装具を開発した。これらすべての動力装具は、平衡介助をすることなく、傾斜バランスをとる
ための介助なしに平面で患者を動かせるように開発された。これらの装具は体のバランスをとる
ことができないため、松葉つえや平行棒のサポートが必要である。
方
法
過去3年の間に、チューリッヒのバルグリスト大学病院パラケア ParaCare リハビリセンター
で、対マヒ者の歩行訓練に用いる DGO が開発された。患者には、この装具をストラップで胸、
腰および脚の周りに締めて装着することができる。図1および図2は、それぞれ写真と略図によ
り患者に対する歩行訓練中の DGO を示したものである。トレッドミル(ドイツ、Woodway
GmbH「LOKO スペッシャル」
)での歩行障害者の訓練を可能とするためには、いくつかの問題
を考慮に入れなければならない。
個々の患者に対する DGO の調節
DGO は、個々の患者の訓練に応じて個別に適用されなければならない。したがって、DGO
は各被験者の身体構造に合うよう調節可能なものでなければならず、個別の患者に対する装具の
最適装着を可能とするよう、いくつかのパラメーターは変更できるようにしなければならない
(図3)
。股関節部装具の幅(図3矢印1)はスピンドルで調節でき、スピンドルは両脚を動か
し開かせる。患者の胸部周囲に装着されるバンドは背後のパッドに取り付け、このバンドも垂直
および水平に位置することができる(図3矢印2および3)。装具の大腿部および脛部も変える
ことができる。
両脚は相互に押し込み連結される長方形の菅で構成され、ボルトで異なる位置に固定すること
ができる(図3矢印4および5)。最後に、脚のブレースの位置(図3矢印6および7)および
脚のブレースの大きさ(図3矢印8)も、個人のニーズに合わせて調節することができる。脚の
ブレースは、脚の装具に固定される垂直の管に連結される。管は脚の装具の前後の方向に動かし、
小さいレバーで最適な位置に締め付けることができる。同様に、ブレースは管の反対側の側面中
間で最適な位置に固定される。一方のブレースだけが患者の脚に合わない場合には、その一方だ
けを大きなブレースや小さなブレースに容易に取り替えることができる。
褥瘡を防止するために、患者に巻くストラップはすべて幅が広く柔かいものとする。患者と装
具との間の接触場所、すなわちストラップが DGO に固定される場所には、柔らかいパッドが褥
瘡の生じる可能性を減らすために取り付けられる。
3
バランス・コントロール
患者の中には体幹(胴体)の安定しない人もいるので、上体は訓練中、垂直方向に安定してい
なければならない。この安定は、回転パラレログラムにより DGO をトレッドミルの手すりに接
続することで得られる(図2および図4)。この方法によって、DGO は垂直方向にのみ動き、
片側に傾くことが防止される。また、パラレログラムは DGO をトレッドミルの上方の一定の位
置に維持し、トレッドミルのベルトの動きにより生じる後退運動が起きないようにする。それで
も、この仕組みは歩行中に生じる身体の上方および下方への動きを可能にする。
パラレログラムの仕組みには長所がいくつかある。先ず、両脚の動きは矢状面でコントロール
するだけでいいので、DGO のコントロールが簡単になる。またこの仕組みでは、患者は自分で
垂直に上体を維持する必要がないので理学療法士が四肢マヒ者の訓練を行うことを可能とする。
さらに、パラレログラム(図4)にはガススプリングが取り付けられ、パラレログラムを支え
上げることにより装具の全体重量の補償を行う。このようにして、患者は装具の重量(21kg)
に耐える要がなく、装具がずり落ちるのを少なくすることができる。
駆動力
脊髄に対する最適求心性入力を生成するために、DGO を使っての歩行運動はできる限り平常
の歩行と同じでなければならない。そのように患者の両脚を動かすことできるためには、膝関節
と股関節の駆動装具は痙性の筋肉過重緊張があっても両脚を動かすほど強力でなければならな
い。同時に、装具は取り扱い易いものでなければならず、したがって駆動装置は大きすぎても重
すぎてもいけない。
すでに他の動力装具について報告したとおり(12)、足関節を動かすのに必要なトルクは、装具
が身体に前方推進力をつけようとするものであるならば、股関節と膝関節に必要とされるトルク
よりも強くなければならない。それ故、足関節の能動駆動装置を省略し、動くトレッドミルを利
用した。トレッドミルはスタンスの段階(立脚期)中に脚の運動をコントロールし、スウィング
(遊脚期)段階の足関節の背屈は受動足部リフターを用いることで得られる。
骨盤部継手と膝継手は精密ボールねじを有する特注の駆動装置(ドイツ・Steinmeyer GmbH
「KGT1234」
)により駆動される。ボールねじのナットは直流モーターにより歯付きベルト(ス
イス・Interelectric AG, MaxonTM「RE40」
)を通して駆動され、150 ワットの公称機械力を伝
える。モーターは約 180 ミリニュートンメーター(mNm)の最高トルクで長期間使用すること
ができる。短期の反復的ピークについては最高1Nmのトルクを得ることができる。
膝継手と骨盤部継手に変換して(異なる形状寸法)
、それぞれ平均 30Nm、50Nm のトルクを
得ることができる。最大で、膝継手には 160Nm、骨盤部継手には 280Nm が可能である。装置
の機械レイアウトは、最高時速3km の歩行速度(90 拍/カダンス)で、モーターの勧奨速度特
性から最適の利益を得るように設計されている。帯域幅(PD 制御器)は少なくとも 1 ヘルツで
あり、これで平常の歩行には十分である。
4
実験装置を用いて、Ruthenberg とその研究チーム
(13)は、患者の脚を動かすのに必要な骨盤
部継手におけるトルクを測定した。研究結果から、最高で体重 1kg につき1Nm のモーメント
が骨盤部継手に必要であると推定することができる。この研究では平均モーメントは示されてい
ないが、約 35Nm であると推定することができる。DGO に使用した駆動装置は大部分の患者に
適した歩行パターンを生むのに足りるほど強力であるように設計された。
DGO の制御装置
DGO の制御装置は図 5 に示した。この装置は 3 つの主要なハードウェア部分、すなわちホス
トパソコン、ターゲットパソコンおよび電流制御器から構成されている。訓練を担当する理学療
法士はラブビューLabView にプログラムされた(ホストパソコンで起動する)ユーザーインタ
ーフェースを通して DGO を制御する。LabView はデータベースと DGO へのインターフェース
から成る。ユーザーインターフェースについては、あとの所で詳しく述べる。
いろいろ異なる歩行パターンを有する患者を訓練できるように、DGO の 4 つの駆動式継手は
すべて別々に制御することができる。それ故、個別の位置制御ループが各駆動装置に実装されて
いる。このループは市販の電流制御器から作られ、これもまた位置制御器の出力で給電される。
位置制御器は第 2 のパソコン(ターゲットパソコン)で起動するリアルタイム・システム(リアル
リンク RealLink)に実装されている。各関節の実際角度は電位差計で測定され、相当値は AD 変
換器(アナログ信号からデジタル信号への変換器)を通してリアルシステムに送られる。ホスト
パソコンとターゲットパソコンは、シリアルバス(RS232)により相互に情報を送る。理学療法
士はユーザーインターフェースにより DGO 速度を変えることができる。所定の速度はターゲッ
トパソコンに伝送され、ターゲットパソコンはそのように歩行パターンを調節し、もうひとつの
シリアルポートによりトレッドミルの望ましい速度を設定する。
ユーザーインターフェース
DGO は理学療法士が操作しなければならない。したがって、ユーザーインターフェースは
操作しやすいものでなければならない。また DGO の取り扱いはかなり複雑であるので、患者に
誤って装着すると患者の脚を傷めるかもしれない。我々は、手順の各段階がプログラムの各シー
ケンスに特定されるようユーザーインターフェースをプログラムしたので、理学療法士は操作を
始める前に各段階を確認しなければならない。
ユーザーインターフェースの重要部分は実装されるデータベースである。データベースはいろ
いろな調節のセッティングのみならず患者の個人データを保存するために使用される。調節のセ
ッティングは日々の訓練中における DGO 取扱時間を節約するために、また各患者の成績を向上
させるために重要である。新しい患者に DGO を調節するには、通例 15 分ほどかかる。患者の
関節と装具がぴったり合っていることと患者の皮膚を圧迫しすぎる DGO の部分がないことと
を確認しなければならない。患者が次の歩行訓練コースを行なうときには、調節のセッティング
5
はデータベースからロードしなおすことができ、装具は患者の個人値に事前設定することができ
る。この手順により、患者は3∼5分以内に訓錬を受ける準備ができる。追加の修正をしなけれ
ばならない場合には、新しい値は各訓練コースの終了時にデータベースに保存することができる。
生理学的歩行パターンの適用
DGO は対マヒ者の歩行訓練を行うために開発された。それ故、主要な重点は脊髄に対する最
適求心性入力を生成することであった。これは生理学的に下肢を動かすこと、すなわち健常被験
者の記録から得られた関節運動を課すことによってのみ達成できる。
DGO の最初の試験は健常被験者から得た股関節および膝関節のパターンを使用して行われた
(出所: Winter 14)。この方法によって、患者が体重の 40 パーセント以上減負荷される限り適切
な結果が得られた。脚に対する体重の負荷がこの水準を超えると、スウィングする脚はスウィン
グ段階の間にトレッドミルベルトにしばしば接触した。この結果つまずくことさえあった。それ
故、プログラムされた関節の角度は、曲線に対してスウィング中に足間距離(Foot clearance: FC)
が大きくなるように変えなければならなかった。このような運動の曲線は健常被験者が装具をつ
けて歩行している間に DGO の角度を測定することにより得られた。この方法により、歩行中の
装具の制約を考慮に入れた歩行パターンが得られた(例えば体重移動や腰の傾斜がないなど)
。
被験者は3cm の高さの障害物の上を越えて歩いていた。これらの記録のため、駆動装置は関節
の摩擦を最小限に減らすよう取り除かれた。
図6は股関節と膝関節に対する3つの平均関節屈曲角度曲線、すなわち Winter(14)からの被験
者の関節角度(正常)
、DGO をつけて正常に歩行する健常被験者の角度、DGO で FC を大きく
するために障害物の上を越えて歩行する健常被験者の角度(FC のある DGO)を示したもので
ある。一般的に、3つの曲線は同じように見える。3つの条件の偏差は被験者間偏差を超えない。
FC の大きい歩行中に、股関節の曲線はスウィング段階の終わりに大きな屈曲を示している。こ
の標準化された歩行パターンを使って、これまですべての患者を訓練することができた。異なる
角度の偏差は面荷によるものであり、小さいものであった。
DGO の取扱い
DGO は2つの回転手すり棒が垂直に位置するようにパラレログラム上に持ち上げることがで
きる。パロレログラムは、固定具(図4)に連結され、一方の側に水平に回転することができる。
それ故、装置全体がトレッドミルを離れてスウィングできる。患者を装具に入れるためには、先
ずトレッドミルトレーニング用のハーネスを使用する。次いで患者が座ったままの状態で車いす
を傾斜台からトレッドミルに押し上げ、トレッドミル上で患者は懸吊装置により車いすから吊る
し上げてから降ろされる。DGO はトレッドミルの後方に移動され患者の背後から降ろされる。
ブレースはすべて前が開いており、ストラップにより脚の周りを締めることができる。
6
ブレースを適正な位置に調節している間、患者はまだ完全に免荷されていない。足部リフター
が使用された後、体重の支持は減少し訓練を開始することができる。
現在、4名の患者が DGO を使って訓練を受けている。個別に調節した運動を確保するため、
最初の試験の後に、4名の患者全員に装置の修正を施さなければならなかった。第1回の訓練コ
ース後、セッティングはデータベースに保存された。次の訓練コースでは、保存された調節デー
タを再生し、いかなる再調整もしないで平常どおり歩行訓練を行うことができた。患者は男性3
名、女性1名である。患者の年齢、身長体重は表1のとおりである。
表1
被験者
患者の背景データ
年齢(歳)
身長(cm)
体重(kg)
患者 1 男
42
175
60
患者 2 男
43
195
80
患者 3 男
70
185
78
患者 4 女
24
168
65
DGO は患者の四肢に直接に作用を及ぼす強力な機械である。したがって、リスク分析が行わ
れ、患者が負傷しないよう適当な予防策が取られた。この予防策については、本論文では詳述し
ていない。
結
果
現在までに、DGO は数名の患者にしか用いられていない。しかし、その結果は望ましいもの
であった。患者は徒手による訓練と DGO による訓練とを交互に受けた。療法士による徒手によ
る訓練は 10 分から 15 分だけで終了するのに対し、DGO による訓練は 60 分まで延長することが
できた。訓練の持続を断念した要素は、徒手による訓練の場合は理学療法士の疲労であったのに
対し、DGO による訓練の場合は患者の疲労であった。
DGO による訓練において深刻な問題を訴えた患者はいなかった。反対に、彼らは正のフィー
ドバックを示した。DGO による訓練の主な利点は、訓練時間の延長、再現性、生理学的歩行パ
ターン、そしてより速い歩行の可能性にある。2 名の患者に生じた唯一の問題は、足の止め具を
最適の状態に調節しなかったことによる皮膚の問題であった。この問題は、次の訓練コース時に
留め具の位置を直すことで簡単に修正することができた。訓練を受けた患者は四肢マヒ(不全 C
4)で、体幹(胴体)が不安定であるため、徒手での訓練が困難であった。
7
徒手による訓練では体重の 50%の免荷が必要であったが、DGO による訓練では、25%の免
荷で行えるようになった。固定法と歩行動作がさらに改善され、個別対応が可能になれば、更に
大幅な免荷率の減少も可能に違いない。
徒手訓練の間、トレッドミルの速度は、約 1.5km/時であった。患者を全介助しなければなら
ないため、理学療法士は、それ以上速い速度には耐えることが出来なかった。DGO により、最
初から速度を2km/時に上げることが容易にできた。操作により3km/時の速度さえも可能と思
われる。
DGO の細部は多少の改善が依然として必要である。最大の問題は、装具への患者の固定であ
る。DGO は、4 名の患者および数名の健常被験者の身体に良く適合した。しかし問題は、患者
被験者で訓練中に装具が僅かに動いてしまうことであった。身体の周りを軟らかいストラップで
固定するために、完全に動かない装着は困難である。最初の使用時、患者は装具の中で僅かに動
いていた。装具が約1∼2cm 足部に滑り落ちていたのである。これが原因で、患者と装具の結
合部位がずれてしまったため、歩行訓練中に足部の動きが変化し、つまずいてしまった。この場
合、装具を再調整する必要があった。この様に装具が滑り落ちてしまう理由は、フットリフター
がすねにある留め具の2つのうち上にあるものを引っ張るためである。将来的にこの問題は
DGO を直接トレッドミルのハーネスに連結させることで解決できると思われる。ハーネスは身
体の上部の周囲に装着するので、よりよい固定がなされるであろう。
考
察
一部免荷による徒手でのトレッドミルトレーニングは、歩行不能な患者を訓練するためのリハ
ビリテーションにおいて広く受け入れられたアプローチであり、標準的理学療法に比べていくつ
かの利点があることが説明されている(3)。そしてまた、片マヒ者にとって、このアプローチは
ますます利用されている(8)。体重の部分的減負荷により(通例 50%迄)、患者は訓練時に、平衡
を保つ必要がない代わりに、下肢動作に集中することができる。これは通常の平面で歩行するこ
とに比べ、より速い速度で患者が歩行することを可能にするのである。トレッドミルを用いた補
助訓練と体重支持の組み合わせにより、歩行能力が十分でないために通常の歩行訓練を行うこと
ができないような患者も訓練が可能になる。不全脊髄損傷の患者の割合は増加してきており、歩
行能力の一部を回復する潜在性のある患者数も増加傾向にある。
DGO が開発されるまで、歩行訓練の長時間持続が困難であった要素の1つは理学療法士の能
力であった。なぜならば痙直性マヒ者における下肢動作の補助は大変体力を消耗することがあり、
それにより実施時間を制限せざるをえない。このために、徒手による訓練では、長時間の歩行訓
練を行うことが困難であり、最良の結果を得ることができない。新しく開発された DGO により、
トレッドミル・トレーニングの効果を更に上げることが可能になった。また、理学療法士の作業
負担を減らすことができるであろう。無理な体勢で仕事をしなければならないために訓練後に背
8
部の痛みに悩まされる理学療法士が多い。また、DGO を使用しない場合、歩行訓練を行うには、
通常、2 名の理学療法士が必要となる。
DGO の最初の試みは、対マヒ者に対し機械による歩行訓練が行えることを示している。誘発
された歩行パターンは、いくつかの観点において健常被験者と同様のものが得られた。患者が歩
行運動経験を得るために訓練が必要であることを考えると、DGO による訓練は成功を約束して
いるようである。
将来的指針
トレッドミル・トレーニングの主要な目的は、再び歩くことを患者に「教える」ことである。
DGO は患者自身(随意的、すなわち脊髄パターン発生器)によって生み出された弱い動作を促
進するよう援助すべきである。このため、DGO の適応コントローラーが開発中である。訓練中、
患者によって生み出された歩行動作を認識する目的で、DGO と患肢との間に生じる力を測定す
るための、力センサーが DGO に組み込まれる予定である。この測定値により、患者によって生
み出された動作に対し、ある程度まで、指定の歩行パターンを適合させることが可能になる。生
理的歩行パターンは、個人や患者の実際のニーズに応じて、訓練中に調節されるようになる。
様々な患者のグループに対し長時間安全に訓練が行えるように、DGO の機械部分をすべて改
善する計画である。DGO の特許申請中であり、また、このシステムを商品化する計画も進めら
れている(スイス、 Hocoma GmbH, Medical Engineering)
。
結
論
DGO により、トレッドミル上で、生理学的歩行範囲内の歩行パターンを発生させ、対マヒ者
の下肢の運動を訓練することができる。したがって、機械による訓練により生成された求心性入
力は、徒手による訓練時と少なくとも同程度の有効性を期待できる。機械による訓練の主な利点
は明確である。第一に、運動の再現性であり、訓練プログラムを最適化するために異なる歩行パ
ラメーター(速度、歩幅、振幅)の影響をテストすることは可能であろう。いったん各歩行パラメ
ーターの最適な曲線が見つかれば、DGO は常にそれらを再現することができる。一方、理学療
法士は、最適な訓練を行うことができるまで、DGO 操作法について通常、比較的長い時間の練
習が必要である。しかし機器による訓練中でも理学療法士は、歩行経過を監視して訓練の有効性
を確保し、かつ訓練を管理するために引き続き必要とされる。第2に、DGO により、歩行訓練
時間を延長することができ、歩行速度を速めることができる。
対マヒ者への更なる集中的な訓練を行うことで、徒手による訓練に比べ、歩行能力の結果と成
果の向上が可能であることが期待される。また、理学療法士は、比較的長時間、歩行訓練という
単調な仕事を規定どおり行っているのだが、このような作業をしている理学療法士に代わり機械
で訓練を行うのは理にかなっていると思われる。これは、本来、機械がすべき仕事であり、特に、
理学療法士の仕事として考えた場合、魅力的でも人間工学的でもないのである。
9
歩行はかなり複雑な動作であり、DGO の現在のバージョンでは完全な生理的歩行を再現する
ことができない。しかし、今後、技術が進歩し、徒手介助よりも優れた最適なアプローチを得る
ことが可能となるであろう。
〔文献〕
1.
Grillner S. Control of locomotion in bipeds, tetrapods and fish. In: Brookhart M,
Mountcastle V, editors. Handbook of physiology. Washington, DC: American
Physiological Society 1981. p. 1179-235.
2.
Barbeau H, Rossignol S. Recovery of locomotion after chronic spinalization in the adult
cat. Brain Res 1987;412:84-95.
3.
Barbeau H, Ladouceur M, Norman KE, Pepin A, Leroux A. Walking after spinal cord
injury: evaluation, treatment, and functional recovery. Arch Phys Med Rehab
1999;80:225-35.
4.
Dietz V, Colombo G, Jensen L, Baumgartner L. Locomotor capacity of spinal cord in
paraplegic patients. Ann Neurol 1995;37:574-82.
5.
Dietz V, Colombo G, Jensen L. Locomotor activity in spinal man. Lancet
1994;344:1260-3.
6.
Wernig A, Muller S, Nanassy A, Cagol E. Laufband therapy based on 'rules of spinal
locomotion' is effective in spinal cord injured persons. Eur J Neurosci 1995;7:823-9.
7.
Wernig A, Muller S. Laufband locomotion with body weight support improved walking
in persons with severe spinal cord injuries. Paraplegia 1992;30:229-38.
8.
Hesse S, Konrad M, Uhlenbrock D. Treadmill walking with partial body weight
support versus floor walking in hemiparetic subjects. Arch Phys Med Rehab
1999;80:421-7.
9.
Hughes J. Powered lower limb orthotics in paraplegia. Paraplegia 1972;9:191-3.
10. Seireg A, Grundman J. Design of a multi-task exoskeleton walking device. In: Ghista D,
editor. Biomechanics of medical devices. New York: Marcel Dekker; 1981. p. 569-639.
11. Miyamoto H, Israel I, Miyamoto H, Mori S, Sano A, Sakurai Y. Approach to a powered
orthosis for paralyzed lower limbs. In: ICAR 85; 1985. p. 451-8.
12. Rabischong E, Sgarbi F, Rabischong P, Detriche J, Pinguet N, Riwan A. Control and
command of a six degrees of freedom active electrical orthosis for paraplegic patient.
In: IEEE International Workshop on Intelligent Robots and Systems. 1990. p. 987-91.
13. Ruthenberg BJ, Wasylewski NA, Beard JE. An experimental device for investigating
the force and power requirements of a powered gait orthosis. J Rehabil Res Dev
1997;34:203-13.
14. Winter DA. The biomechanics and motor control of human gait: normal, elderly and
pathological. 2nd ed. Waterloo: University of Waterloo Press; 1991.
10
図1 トレッドミルトレーニング中の NGO 装着不全対マヒ者の写真
図2 トレッドミルトレーニング中の NGO 装着患者の略図
患者は懸吊装置を使ってハーネスで一部減負荷されている。
図2 釣合いの錘、ウインチ、パロレログラム、 DGO、ハーネス
フットリフター、トレッドミル
11
図3 個人のニーズに合わせた DGO の調節
1
2
3
4
5
6
7
8
腰幅
背後パッドの垂直位置
背後パッドの水平位置
腿の長さ
脛の長さ
脚ブレースの中央・側面位置
脚ブレースの前後位置
脚ブレースの大きさ
図4 パラレログラムとその取り付け
図4 DGO コネクター
パラレログラム
パラレログラムの取り付け
ガススプリング
12
図5 DGO 制御設備
ホスト PC
ユーザーインターフェース
患者データベース
(LabView)
セラピスト
DGO インターフェース
ターゲット PC リアルタイムシステム
RS232
(RealLink)
A
A/D
歩行パターン
位置制御装置
D/A RS232
AO
電流制御器
トレッドミル速度
DGO モーター
関節角度
角度計
13
図6 健常被験者の3つの異なる歩行条件に対する
腰関節および膝関節の屈折角度曲線
DGO なしのトレッドミル歩行(平常)
、
受動 DGO 歩行および FC のある受動 DGO 歩行。
図6
股関節角度
正常
DGO
FC のある DGO
関節角度(度)
ストライドの割合(%)
正常
DGO
FC のある DGO
膝角度
関節角度(度)
ストライドの割合(%)
● 翻訳者3名・・・新谷進、関根孝江、渡辺華織
14
Fly UP