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ル・コルビュジエの都市と自然の思想に関する一考察 La Ville radieuse
ル・コルビュジエの都市と自然の思想に関する一考察 ── La Ville radieuse を通して── 建築学専攻 田路研究室 岡野孝則 序 本論の構成を以下に示す。第1章にて,ル・コルビュジエの都 01 背景と目的 市計画の活動を概観する。第2章にて,ル・コルビュジエの自然 ル・コルビュジエ(Le Corbusier, 1887-1965)は,近代建築と 観の形成を明らかにする。1920年代の著作をもとに,第1節で ともに,都市計画において大きな影響を与えた。1922年のサロ は,自然観の基底を確認し,第2節では,1920年代の自然観を ン・ドートンヌに「300万人の現代都市(Ville contemporaine de 明らかにする。第3章にて,『ユルバニスム』にみる「自然」の trois millions d habitants)」(以下「現代都市」と表記する)を出 思想と『輝く都市』にみる「自然」の思想との相違を明らかにす 展,1930年にブリュッセルで開かれた第三回CIAMにて「輝く都 ることで,『輝く都市』における都市思想を浮かび上がらせる。 市(Ville radieuse)」を発表し,ル・コルビュジエは,近代の都 第4章にて,『輝く都市』『プレシジョン』を通して,前章にて 市計画の基礎を築いた。一方で,1929年の南米,1931年のアル 抽出される「自然」の思想のうち,「性格」「蛇行」という概念 ジェへの二つの旅は,ル・コルビュジエに「新しい発見」をもた に注目することで,南米とアルジェの都市計画における都市思想 らした。南米とアルジェの都市計画において,直線的な都市モデ を明らかにする。第5章にて,二つの都市思想と三つの都市計画 ルとは対照的に曲線の形態が出現した。「ル・コルビュジエに何 とのあいだの関係性を考察する。そして,ル・コルビュジエがい が起こったのか?」そして,1935年に La Ville radieuse を著し かなる都市計画を志向したのかを考察する。 た。この著作は,ル・コルビュジエの都市計画に関する大著であ るが,「輝く都市」と,南米やアルジェの都市計画との関係性を 第1章 ル・コルビュジエの都市計画の活動 容易に読み解くことはできない。ル・コルビュジエはいかなる都 11 二つの都市モデル 市計画を志向したのか。本研究の目的は,南米とアルジェの都市 ル・コルビュジエは,都市計画の研究から原理的な都市モデル 計画における思想の内実を明らかにし,ル・コルビュジエの言説 を導き出した。それが「現代都市」と「輝く都市」である。本節 のうちに,都市思想の一端を読み取ることである。とくに,ル・ では,二つの都市モデルを概観する。 コルビュジエが南米やアルジェという非西欧で感得した「自然」 111 「現代都市」 に着目し,彼の自然観の転回を明らかにすることで,都市思想を ル・コルビュジエは,1922年のサロン・ドートンヌに「現代都 考察する。本研究は,ル・コルビュジエの都市思想の新たな側面 市」を出展した。「現代都市」はそれぞれの都市の問題に解決を を浮かび上がらせることに,意義を見出すものである。 もたらすのではなく,「基本原理」を表象する都市モデルとして 02 既往研究と位置づけ 構想された。そして,1925年の国際装飾芸術展にてパリの「ヴォ ル・コルビュジエの都市計画や思想形成に関する既往論考は, アザン計画」を発表した。「ヴォアザン計画」は「現代都市」の 建築に関するものほど多くない。八束はじめは,ル・コルビュジ 原理をパリに適用させたもので エを地域主義者として捉えることを試みている。1929年の南米旅 あった。ルーヴル宮殿などの歴史 行,1931年のアルジェ訪問の二つの旅が,ル・コルビュジエに 的建造物は残されている。「ヴォ とっての「地域主義的展開」への回心のきっかけを与えたと考え アザン計画」もパリの都市の問題 られるとして,自然の地形という「風景=地域主義」の発見は, に解決をもたらすのではなく, アルジェ訪問に先立つ南米旅行,ムンダネウム,若年の「東方旅 「基本原理」によって秩序だてら 行」と遡ることのできる生涯のライトモチーフであると述べてい れたパリを顕示することが企図さ る。ノーマ・エヴァンソンは,ル・コルビュジエの都市計画を包 れていた。 括的に論述している。ル・コルビュジエのデザインは,形式的な 112 「輝く都市」 fig.1「現代都市」 図式以上のものであり,それらは努力の重要性を示す模範であっ ル・コルビュジエは,1931年の第三回CIAMで「輝く都市」を たと述べている。また,南米やアルジェの都市計画の形態の特異 発表した。「これまでの研究の論理的帰結」であり「人間性の問 性に言及する既往論考は見受けられるが,「輝く都市」との連関 いとなった」と述べられ,「輝く都市」は都市計画の研究の成果 からその内実を明らかにしているものはない。本研究は,ル・コ として普遍的な都市モデルへと昇華したものであるといえる。そ ルビュジエの自然観の転回に着目し,南米とアルジェの都市計画 して,1935年に出版された『輝く都市』にて結実した。この著 における「自然」の思想を明らかにすることで,彼の都市思想の 作のなかで,太陽,緑,空間の「自然の条件」,住居,仕事,心 一端を読み取ることに,独自性を見出すものである。 身の鍛錬,交通の「四つの機能」などのアテネ憲章で提唱された 03 対象と方法 近代の都市計画の「基本原理」が述べら 本研究は,「輝く都市」と,南米とアルジェの都市計画に関す れている。このことから,「輝く都市」は る著作をもとに考察される。ル・コルビュジエの都市思想に関す ル・コルビュジエの都市計画の理論的な基 る主要な一次資料を以下に挙げる。 礎をなしていると考えられる。また,『輝 • • La Ville radieuse , 1935(『輝く都市』と表記)[VR]と略記 く都市』は近代の都市計画に大きな影響 Précisions sur un état présent de l architecture et de l urban- を与えたものとして重要であるといえる。 isme , 1930(『プレシジョン』と表記)[PR]と略記 • Urbanisme , 1925(『ユルバニスム』と表記) そして,ル・コルビュジエは,1930年代 には実践的な都市計画に取り組み,それ これらの主要な一次資料をもとに,ル・コルビュジエの都市思想 らの都市計画を「輝く都市」の実践に位 を明らかにする。 置づけていた。 fig.2「輝く都市」 12 1930年代以降の都市計画 221 自然と人間 ル・コルビュジエは,1929年に南米を訪問し,南米の都市の 芸術における自然と人間の関わり合いを考察する。自然に存在 エスキスを描き出した。また,1931年にアルジェを訪問し,オ する「普遍的法則」を導き出し,自然と人間が一致する体系が必 ビュ計画を提案した。そのさい,二つの旅にて自然に感銘を受け 要であると述べる。普遍的法則は秩序に成り立ち,自然と人間と ていた。そして,ル・コルビュジエは,数多の実践的な都市計画 の共通地平に体系,つまり秩序を築き上げることで,人間は調和 に取り組み続けた。しかし,ほとんどすべての計画が実現には至 を感じるのである。そして,芸術が自然の秩序を現前させるので らなかった。1951∼52年のチャンディガールの都市計画が唯一 ある。また,人間は幾何学によって自然の普遍的法則を認識する の実現であるとされる。ル・コルビュジエは,基本的にはすでに と述べる。これは人間の「幾何学精神」とされる。そして,「幾 あったマスター・プランを踏襲し,議事堂や総合庁舎,最高裁判 何学精神」によって芸術的欲求も変化したと述べる。幾何学は芸 所などの建築とモニュメントをデザインした。既往論考において 術の造形的な構成要素でなければならないのである。文献4)5)6) チャンディガールの都市計画は「近代都市計画が生み出したいか 222 自然と幾何学 なる都市空間とも似ていない」とされ,「輝く都市」の系譜とは 異なると考えられる。 自然と幾何学の関係性を考察する。幾何学は自然に潜在する秩 序を描き出すと述べる。人間は秩序を作り出すために,先験的に ル・コルビュジエの都市計画のなかで,南米とアルジェの都市 幾何学を創造してきたのである。また,人間は幾何学に表現され 計画の形態の特異性はきわだっているといえる。ジャン・ピエー た自然を美しいと感じると述べる。芸術は幾何学でなければなら ル・ジョルダーニは,『ル・コルビュジエ事典』にて,1929年の ないのである。ここにル・コルビュジエの幾何学の美学を看取で 南米,1931年のアルジェの二つの都市計画は,最も目覚ましく きる。そして,人間の秩序への欲求から自然に「幾何学精神」を かつ例外的な研究であり,彼の造形探究の再生を成就させたと述 投射させることで科学は進歩し,近代科学から発展した機械主義 べている。本研究においても,ル・コルビュジエの造形の創造性 も幾何学に成り立つと述べる。機械主義は自然の秩序を表象して という視座から,彼の都市思想を考察していく。 いるといえる。そして,幾何学を媒介に,建築も機械主義に導か 小結 れるのである。文献4)5)6)7)8) 二つの都市モデルが彼の都市計画の理論的な基礎をなしていた 223 建築と機械 といえる。そして,南米やアルジェの都市計画の形態の特異性は 建築と機械主義の関係性を考察する。建築は地域に固有な文化 彼の造形の創造性に起因していた。また,南米やアルジェにて, によって「首尾一貫した配列システムを創出する」とされ,機械 「自然」に感銘を受けていたことも看過されてはならない。 時代において,建築のシステムは規格化による大量生産となると 述べる。建築は規格化によって秩序だてられる。そして,規格化 第2章 ル・コルビュジエの自然観の形成 本章では,「自然」の思想に着目し,ル・コルビュジエの自然 の経済性や合理性は幾何学によって実現されるので,建築も「幾 何学的現象」となるのである。機械主義の「幾何学精神」を通し 観の形成を明らかにする。 て,建築の規格化が志向されたといえる。文献4)5)7) 21 自然観の基底 小結 本節では,ル・コルビュジエの自然観の基底に大きな影響を与 ル・コルビュジエは,自然と人間との関わり合いを問うことを えたとされるレプラトニエとラスキンの思想を確認する。 芸術の根幹にすえていたといえよう。芸術によって自然と人間と 211 シャルル・レプラトニエ の共通地平に秩序が生み出される世界を志向していた。そして, レプラトニエは,自然にたいして崇高な信仰心をもち,自然に 自然の秩序を現前させるものが幾何学であった。機械時代におい 倣えという教えを説いた。それは,自然の形を生み出す生命力を て,幾何学の芸術,そして幾何学の建築を創造することで,世界 理解することで,自然の法則を導き出すことであった。そして, を秩序だてることを企図していたといえよう。 自然への深い洞察から,自然の生命力を描き出す装飾芸術を創造 することを提唱した。また,「家をやり直そう」と述べ,石彫や 第3章 二つの著作にみる「自然」の思想 製陶などのさまざまな装飾技術を習得させた。レプラトニエは, 本章では,『ユルバニスム』と『輝く都市』にみる「自然」の 生活全体に関わるものとしての家を創造する総合芸術を志向して 思想における相違を明らかにすることで,『輝く都市』における いた。文献5) 都市思想を浮かび上がらせる。 212 ジョン・ラスキン 32 『ユルバニスム』にみる「自然」の思想 ラスキンは,機械によって生産された装飾に溢れた物質主義的 本節では,「自然」の思想との連関から,『ユルバニスム』に な時代を非難した。そして,人間の感覚的かつ自然的な手による おける都市思想を読み解く。 装飾芸術を提唱した。ル・コルビュジエは,ラスキンを愛読し, 321 秩序としての幾何学 青年期にはラスキンに鼓舞されたと述べている。青年期のル・コ 都市と幾何学の関係性を考察する。「都市は純粋な幾何学であ ルビュジエの作品には装飾の有機的な形態がデザインされている る」と述べる。都市は幾何学によって自然と人間の共通地平に秩 ことからも,レプラトニエやラスキンが提唱する装飾芸術に傾倒 序を築き上げ,人間の精神のなかに永続していく芸術作品である していたといえる。そして,青年期のル・コルビュジエは,自然 べきである。そして,都市は直線と直角に成り立つと述べる。直 への純粋な眼差しから,自然と人間を同位相におき,いわば自然 線は都市の街路,直角は都市の空間をそれぞれ秩序だてるのであ と人間との共通地平を見ていた。文献5) る。このことから,都市の秩序は,芸術的な秩序と功利的な秩序 22 1920年代の著作にみる自然観 という両義的なものとして把握されているといえよう。しかし, 本節では,1920年代の著作を通して,青年期をへて形成された ル・コルビュジエの自然観を明らかにする。 その根底には,芸術的欲求に応える「幾何学精神」があったと考 えられる。 322 秩序としての自然 34 二つの著作における相違 都市と自然の関係性を考察する。人間は秩序のために「自然の 「自然」の思想という視点から,二つの著作における相違を明 本質」に関わり合うと述べる。自然の本質に関わり合うとはどの らかにする。二つの著作を比較することで,次の二つの相違を指 ようなことか。都市において木,つまり自然は人間の快適さのた 摘できる。 めにあると述べる。自然は都市と人間のあいだを「共通の尺度」 • によって媒介する「比例中項」である。すなわち,都市に「人間 して,『輝く都市』において「自然の法則」と調和させるよう 的な共通寸法」の自然を挿入することで,人間は肉体的・精神的 に快適さを感じるのである。そして,都市の風景は,建築の「幾 何学的な要素」と自然の「絵画的な要素」の出会いによって変化 に富み豊かになるのである。このことから,自然は,人間の快適 さを満たすための実利的な存在かつ都市の風景に豊かさを生み出 すための美的な存在であるといえる。そして,自然の比例中項と 『ユルバニスム』において自然を秩序だてるという態度にたい に「人間の法則」を導き出すという態度を看取できた。 • 『輝く都市』にて,「見る」という態度から,「性格」を創造 すること,「蛇行の法則」から解決策を導き出すこと,という 新たな概念が抽出できた。 小結 ル・コルビュジエは,自然と人間との関わり合いのなかで都市 いう性質に自然の本質を見ていたといえよう。 を創造することを志向していた。しかし,二つの著作に相違が見 33 『輝く都市』にみる「自然」の思想 出されたことには,南米での体験から感得したものが大きいと考 本節では,「自然」の思想との連関から,『輝く都市』におけ えられる。ル・コルビュジエは,「見る」という態度から,「性 る都市思想を読み解く。 格」を創造すること,「蛇行の法則」から解決策を導き出すこと 331 法則としての幾何学 という「自然」の思想を形成していたといえよう。 「人間の法則」への眼差しについて考察する。ル・コルビュジ エは,1929年に南米にて建築と都市計画に関する10回の講演を 行なった。そのさいに,飛行機で空を旅し南米の大地を眺めた。 第4章 南米とアルジェの都市計画における「自然」の思想 本章では,前章にて抽出された概念をもとに,南米とアルジェ そして,南米の町の形成から法則を見出した。それがクアドラと の都市計画における都市思想を明らかにする。 いう幾何学である。クアドラは生活単位に基礎をおいた110メー 41 二つの都市計画 トル四方の区画であり,開拓や制御に適した都市単位と,人間の 身体寸法に成り立つ。ル・コルビュジエは,クアドラの幾何学に 本節では,二つの都市計画の計画内容を概観する。 (以下,詳述略) 「人間の真理」を看取したのである。そして,「人間は自然の法 則にもとづいて創られてきた」と述べる。「自然の法則」と「人 間の法則」における本源的な関係性を見出していた。すなわち, 人間は「自然の法則」を「人間の環境」に適用するために「人間 の法則」を創造するのである。幾何学とは「人間の法則」のこと fig.3 南米の都市計画 であるといえる。そして,人間は「自然の法則」と調和するため に幾何学によって都市を創造するといえる。このことから,都市 において自然と人間との関わり合いを問うなかで,ル・コルビュ ジエの自然への態度に転回が起こっていたと考えられる。 332 法則としての自然 「自然の法則」への眼差しについて考察する。ル・コルビュジ エは,南米の空の旅によって「鳥の目」という新たな見方を獲得 した。この体験から,目で「見る」という知覚の基礎的な方法を 感得していた。そして,「見る」ことで,自然の「性格」を見出 した。「性格」とは「自然の法則」の秩序を構成すると述べる。 人間は「性格」を創造しなければならない。なぜならば,人間が fig.4 アルジェの都市計画 42 「見る」という態度 ル・コルビュジエは「見る」ことについて次のように述べる。 私は見るという条件を満たしたときにのみそこに存在している のである。[PR-7] 創造する「性格」と自然の「性格」との「相互作用」によって, 都市計画において「見る」ことが重視されていたことがわかる。 交響曲を奏でる,すなわち自然と人間のあいだに調和を生み出す 本節では,「性格」「蛇行の法則」という概念との連関から,南 からである。ル・コルビュジエは,都市計画において「性格」を 米とアルジェの都市計画における都市思想を考察する。 創造することを志向していたといえる。 421 「性格」への眼差し また,ル・コルビュジエは,南米の空の旅によって「蛇行」と 「性格」を創造することについて考察する。ル・コルビュジエ いう「自然の法則」を見出した。大きな川は障害の存在によって は,南米の風景に感銘を受け,そのさいに空と大地の境界をなす 「蛇行」を生じる。「蛇行」を繰り返しながら,どんどん下流に 地平線を見ていた。地平線という情景に喚起されているのであっ 流れていく。そして,「蛇行」は奇跡的に打破される。ル・コル た。そして,地平線が光の列をなす光景から都市計画にたいして ビュジエは,「蛇行」という驚くべき現象に感銘を受けているの 示唆されていた。ル・コルビュジエは都市計画における水平線に である。この現象は「蛇行の法則」とされる。そして,「蛇行の ついて次のように述べている。 法則」が都市計画の解決策と重ね合わされる。すなわち,障害で ある機械主義自体が都市計画の解決策となるのである。ル・コル 広々とした水平線を眺める人の目は気高いのです(中略)これ は都市計画家の省察です。[PR-235] ビュジエは,「蛇行の法則」という「自然の法則」から解決策と 都市計画において水平線を創造することに至ったのである。そし いう「人間の法則」を創造することを志向していたといえる。 て,リオ・デ・ジャネイロの都市計画において,自然の地形と建 築の水平線が調和するような都市の 小結 光景を描き出した。ル・コルビュジエ ル・コルビュジエは,「見る」という態度から,「性格」「蛇 は,「見る」ことで,自然の「性格」 行の法則」を見出し,水平線と曲線の形態として描き出した。そ を見出し,都市の「性格」を創造し して,南米とアルジェの都市計画において,建築と自然とが調和 たのである。そして,自然の「性格」 する都市の風景を創造することを志向していたといえる。 と都市の「性格」とが相互作用に よって調和を生み出すことを企図して fig.5「性格」への眼差し いた。 第5章 二つの都市思想と三つの都市計画 本章では,二つの著作における都市思想と三つの都市計画との 422 「蛇行」という方法 あいだの関係性を考察する。自然と幾何学は,著作のなかでどの 「蛇行の法則」の解決策について考察する。「蛇行」は「大地 ように語られ,都市計画としてどのように描かれたのか。 の根元的真理」を現前していると述べ,「蛇行」の現象から人間 『ユルバニスム』のなかで語られた都市思想は,「現代都市」 の世界における奇跡的にみえる解決策として「蛇行の法則」を導 によって都市像として描き出されていた。都市は幾何学を構成し き出したのである。都市計画の解決策として「蛇行の法則」はど 自然も幾何学によって秩序だてられていた。そして,幾何学の都 のように援用されるのか。南米とアルジェの都市計画において, 市のなかで,幾何学的な建築と絵画的な自然とが調和することに 「蛇行」のように湾曲した平面計画がなされている。曲線の形態 よって,豊かな都市の風景が生み出されていた。 について説明している。第一に,地形に沿って構造物を伸ばすこ 『輝く都市』のなかで語られた都市思想は,「輝く都市」に とで,より広大な地平線を眺められるため,第二に,地形の起伏 よって記号的なシステムとして描き出されていた。都市は生物学 の最も低い地点を結んでいくことで,曲線の形態となるとしてい 的に機能するものとして幾何学を構成し,自然も記号として表れ る。そして,第三に,次のように述べている。 ていた。そして,都市の全体性は機能的なダイアグラムとなり, 創造性を受け入れようと招いている景観を生かすため。水平線 に応えることがさらに遠くへ運んでくれることになる(中略) 再び自然的な場所,風景となる。 [VR-237] 線という人間の普遍的な幾何学と,曲線の形態という自然の偶然 的な形を構成していた。そして,その都市像は「自然の法則」と な創造性への衝動に応えた成果なの 「人間の法則」が統合されたものであった。また,ル・コルビュ である。そして,曲線の形態の都市は のである。 『輝く都市』のなかで語られた都市思想は,南米とアルジェの 都市計画によって都市像として描き出されていた。都市は,水平 曲線の形態は,風景に呼応するよう 「再び自然的な場所,風景となる」 都市の実像を表すものではなかった。 ジエの自然観の転回は,自然の「偶然性」への眼差しによるもの fig.6「蛇行」という方法 43 都市と自然との関わり合い であった。 結 都市の風景について考察する。ル・コルビュジエは南米の都市 像を喚起しながら次のように述べている。 本研究にて見出された,ル・コルビュジエの芸術思想,および 都市思想の特質は,自然と人間,そして都市と自然との関わり合 建築?自然?定期船が入港し,新たな水平の都市を見る。それ は敷地をなおさら崇高にする。さあ,この広い一筋の光につい て考えてみよ,今夜にでも…。[VR-224] いへの問いであった。 ル・コルビュジエは,つねに人間を根幹にすえていた。自然へ の深い眼差しから,幾何学によって秩序を描き出すことで,自然 と人間との共通地平に秩序を築き上げることを命題に,芸術を創 造していた。幾何学とは,人間が「自然の法則」から導き出した 「人間の法則」であった。普遍的な「人間の法則」として幾何学 fig.7 都市の風景 水平線に沿って,一筋の光がつらなる都市の情景が映っていた。 そのとき,建築と自然の境界が溶け合い,建築と自然が混然一体 となるような都市の風景を創造することを志向していた。 そして,都市と自然との関わり合いのなかで,ル・コルビュジ エがいかなる都市計画を志向していたのかを考察する。『輝く都 市』のなかで,作品,人間,自然,という三者の関わり合いにつ いて図式を描いている。自然には「普遍性」と「偶然性」が存在 する。人間は自然を「受信」し,人間の創造,つまり芸術作品を に成り立つ芸術を創造することを志向していた。 そして,ル・コルビュジエは,南米の雄大な自然から「見る」 という態度を感得していた。「見る」ことで,自然の「普遍性」 「偶然性」を見出し,「性格」は水平線として,「蛇行」は曲線 の形態として描き出されていた。都市において,水平線は自然の 「性格」との相互作用によって調和を生み出すもの,曲線の形態 は自然の風景にたいして応答するものであった。そして,建築と 自然が溶け合い,一体となった都市の風景を創造することを志向 していた。 「啓示」するのである。そして,「普遍性」は「性格」,「偶然 性」は「蛇行の法則」に対応すると考えられる。ル・コルビュジ エは,「見る」ことで「普遍性」と 「偶然性」を見出し,「性格」として 水平線,「蛇行」として曲線の形態を 描き出した。そして,建築と自然とが 調和し,一体となった都市の風景を 創造することを志向していた。 fig.8 作品,人間,自然 主要参考文献 1) La Ville radieuse , l Architecture d Aujourd hui, 1935 2) Urbanisme , G. Crès et Cie, 1925 3) Précisions sur un état présent de l architecture et de l urbanisme , G. Crès et Cie, 1930 4) Vers une architecture , G. Crès et Cie, 1923 5) L Art décoratif d aujourd hui , G. Crès et Cie, 1925 6) La Peinture moderne , G. Crès et Cie, 1925 7) Almanach d Architecture moderne , G. Crès et Cie, 1926 8) Une maison, un palais , G. Crès et Cie, 1928