Comments
Description
Transcript
Sustainability Science Consortium
Sustainability Science Consortium 持続型社会構築のビジョン 「里地・里山と豊かな暮らし」 武内 和彦 国際連合大学(UNU) 副学長 東京大学サステイナビリティ学連携研究機構(IR3S) 副機構長 東京大学大学院 農学生命科学研究科教授 サステイナビリティ・サイエンス・コンソーシアム(SSC) 理事 平成22年12月17日(金) 18時40分~20時40分 ITビジネスプラザ武蔵 6階 講演会場 Sustainability Science Consortium 持続可能な社会の構築へのビジョン 低炭素社会、循環型社会、自然 共生社会の3社会像の融合によ る持続型社会づくりが必要 日本は循環型社会形成に関して 世界をリード(3Rイニシアティブ) 今後は、低炭素社会と自然共生 社会で世界をリードしていくべき エネルギー・資源・生態系の調和 による3社会像の融合が重要 自然共生社会の実現へのアプ ローチとして、SATOYAMAイニ シアティブを提案 持続型社会では、3つの社会像を統合して、人 間活動による影響が地球環境の復元能力を超 えないようにすることが重要ある また、人間が生きていくための基盤となる地球 生態系を守りながら、エネルギーや物質の流れ を自然界の流れに近づけていく必要がある 2 国土・都市計画の大転換期 21世紀の日本の国土・都市計画は20世 紀後半のそれと全くちがう 戦後国土・都市計画の前提条件は急速 な経済成長と都市化の進行 21世紀日本は急激な人口減少と高齢化 の時代を迎える 都市の縮退、農村の再編を視野に入れ た国土・都市計画が不可欠 食料自給率40%,木材自給率20%に落 ち込んだ日本の農林業を根本的に見直 す 過疎化・高齢化の進む日本の農山村の 活性化と持続性の対策 エネルギー・資源・生態系を中心とする 「地域循環・共生圏」の再構築 Sustainability Science Consortium 千万人 16 千万人 4.0 14 3.5 12 3.0 10 2.5 8 2.0 6 1.5 総 数 総 数(推計) 65歳以上人口 65歳以上人口(推計) 4 2 0 1940 1960 1980 2000 2020 2040 1.0 0.5 0.0 2060 我が国の人口減少と高齢化の進行 (総務省統計局、国立社会保障・ 人口問題研究所資料より作成。 推定人口は中位推計) 3 Sustainability Science Consortium 人と自然の係わりの産物としての里山 里山は人と自然が係わった典型的なランドスケープ 地学的自然のうえに人為の影響を受けた生物的自然が成立 人為が氷河期に広がった生物相(遺存種)の保全に貢献 燃料革命や肥料革命は里山における管理行為の低下を招く 里山の保全のためには適正な人為の継続が必要 里山の維持管理 皆伐管理されたコナラ林(東京都町田市) 皆伐後2年目のコナラ林 皆伐後5年目に択伐(もや分け) されたコナラ林 4 日本の里地・里山の特徴 Sustainability Science Consortium Food, medicinal plants fodder Seed bed materials Livestock Manure Seed bed N Ash Woodland 0 500 m Cropland Houses (Modified after Inui, 1996) 1974年1月 東京都町田市小山田地区 林地、草地、畑、水田、集落、ため池などからなるモザイク状の土地利用パターン 林地における定期的な伐採や農業活動など、人間活動により維持されてきた自然 落ち葉の堆肥利用、家で使用する薪炭材の林地からの採取など、異なる土地利用 の間に関係がある 5 Sustainability Science Consortium 里地・里山が育む生物多様性 Gray-faced Buzzard サシバ カタクリ (Erythronium japonicum ) Woodland Paddy field (Azuma,2003) 定期的な森林伐採により、落葉広葉樹林が維持され、春植物の生育環 境が形成 林地の管理放棄は、林床の環境変化をもたらし、これらの二次自然に 生育する植物の生育地を脅かす サシバのような複数の異なる環境が必要な種の生息地を提供 6 Sustainability Science Consortium COP10とSATOYAMAイニシアティブ 2010年10月生物多様性条約第10回 締約国会議(COP10)開催 日本政府・環境省は「SATOYAMAイ ニシアチブ」を展開 里地里山という日本の伝統的な人 間・自然関係を世界に発信 伝統的な里地里山は実は崩壊の危 機を迎えている 薪炭林や農用林の機能はなくなり、 耕作放棄地が増加している このような風景を世界に誇るものとし て発信できるのか? http://www.mecsumai.com/topics/index/addr1/13/addr2/116/page/3 (環境省HPより) 7 Sustainability Science Consortium ダイナミックな概念としての里地・里山 里山は江戸時代や明治初期には 過度の利用で禿山に いまは放棄され二次的自然の豊 かさが失われつつある 里地・里山は人間・自然関係のダ イナミズムで捉えられるべき 両者の関係は常に変化する可能 性を秘めている 私たちの意思表明としての里地・ 里山の方向性を示す必要がある そのことでSATOYAMAイニシア ティブを世界に発信しうる http://www.mecsumai.com/topics/index/addr1/13/addr2/116/page/3 「信濃善光寺道の田園景観」 水本邦彦(2003)『草山が語る近世』 山川出版社,99pp.より 8 日本の里山・里海評価(JSSA) • • Sustainability Science Consortium ミレニアム生態系評価(MA)の概念的枞組みを 適用した、日本の里山・里海の生態系と人間 の福利の相互作用についての評価 石川県から日本全国の評価へと展開(2007~ 2010年) JSSAユーザー・ミーティング (2007年3月8日、横浜) 評議会の設立: 石川県知事が評議会メンバーに参加 CBD/COP9 JSSAサイドイベント(2009年5月28 日、ドイツ・ボン) 石川県知事がパネリストとして参加 Sustainability Science Consortium 今後の里地・里山管理の方向性 国土に賦存するバイオマスの利用を 徹底的に進めバイオマス循環社会を 形成 里山のバイオマス活用は、日本におけ る低炭素社会づくりにも貢献する 低炭素社会、循環型社会、自然共生 社会の融合による持続型社会への途 資源・エネルギーの場としての里山再 生は、トータルなランドスケープとして の里山の保全にも貢献する 大部分の里山を復活させるには、社 会の仕組みを大きく変えるような新た な取り組みが不可欠 低炭素 社会 循環型 社会 自然共生 社会 バイオマス 里山 持続型社会 10 Sustainability Science Consortium 里地・里山と地域循環圏 里地里山地域循環圏 <追加的効果> ◎森林・林業の再興 ◎雇用促進 ◎観光作業 ◎経済活性化 大都市/中小都市 農山村 林地残材 堆肥 市民コミュニティ エネルギー 農業 堆肥化 林業 漁業 チップ化 発電施設 エネルギー 魚あら 飼料化 農業残渣 畜産業 飼料 メタン発酵 市民コミュニティ 大都市/中小都市 家畜排せつ物 住民参加によるコミュ ニティ拠点の活性化、 各拠点間の連携を強 力に推進 自治会 コミュニティ基盤 農家 林業家 漁業家 畜産農家 学校 商店街 自治体 農協 林業組合 漁協 農事法人 等 自治会 学校 商店街 (環境省検討会資料) 11 Sustainability Science Consortium 里地・里山の再生と新たなコモンズの創造 多様な主体が国土管理に携わる仕 組みづくり(所有と利用の分離) 公と私との中間的な領域にその活動 を広げる「新たなコモンズ」の提唱が 必要 高齢化時代の新しいライフスタイル の普及と農村定住の促進 組織的・企業的な農林水産業の多 角的経営と若い担い手の確保 国土管理の担い手の国際化と農村 地域における国際交流の促進 17世紀における共有地の地図 (相模原市立博物館2004) 豊岡市におけるコウノトリの 野生復帰の試み(豊岡市提供) 12 Sustainability Science Consortium 生物多様性と農業 生物多様性の高い農業の価値 農業と生物多様性が共存する自然共生社会づく りに貢献 遺伝資源や伝統的知識の活用で地域の固有性 を高める 地域の人々に、豊かで健康な暮らしを提供する 食の安全性や、地産地消の推進につながる グリーンツーリズムなど関連産業の振興にも貢献 Sustainability Science Consortium 文化の多様性と近代化による画一化 生物多様性から見た文明と文化 生物多様性は文化の豊かさをも たらす 伝統的な智慧が持続可能性につ ながる 近代化がもたらしたもの いかに伝統的な智慧と近代的な 知識を融合させるか Product Photo by ICRA by Prof. Xiang Yueping of Yunnan Academy of Social Science 14 Sustainability Science Consortium Sustainability Science Consortium 生物多様性と人間生活の豊かさ グローバル化のなかの地域の アイデンティティ 多様であることこそが価値の創 造につながる 生態系の多様性をいかした 地域づくり 普遍性と固有性の同時追求が 必要 もう一つの豊かさの追求 Photo by Okuro パパイヤ http://www.mecsumai.com/topics/index/addr1/13/addr2/116/page/3 キマメ (樹豆) コーヒーの木 Ricci, M. S. F. and Neves, M. C. P. (eds.) Cultivo do Café Organico. Embraba Agrobiologia-RJ. 2006. 15 Sustainability Science Consortium 社会生態学的生産ランドスケープ 二次的自然地域 (Biocultural Landscapes) 「互いに影響を与えあう自然のプロセスと人間活動の融合したものとして 形成されたランドスケープ」(Hiwasaki and Arico, 2007) 社会生態学的生産ランドスケープ (Socio-Ecological Production Landscapes) 「生物の多様性を維持しつつ人間の福利に資する様々な生態系サービスを 産み出す社会・生態学的システムによって、形成・維持されている 動的かつ複合的なランドスケープ」 里山里海ランドスケープ (Satoyama and Satoumi Landscapes) 「社会と生態系の複合システムからなる動的な(モザイク状 の)ランドスケープであり,人間の福利に資する様々な 生態系サービスを産み出す」 (Japan SGA, 2010) 16 Sustainability Science Consortium 世界の伝統的土地利用システム 国 ローカル名 特徴 韓国 マウル マウルスプ 稲魚農業 マウル:背後の山、集落、道、農地、小川と池からな る空間 クブン‐タルン 移動耕作システム プカランガン (ホームガーデン) 家屋の周囲に農作物、果樹や有用樹木を栽培し家 畜を飼育する土地利用システム デヘサ まばらな樹木のある草地における放牧システム フランス テロワール 地域の生物物理的・人的要因に影響され、文化的特 徴、生産に関する知識や方法が蓄積されてきた地理 的空間。個性と典型性ある優れた生産物を産出する。 ザンビア, マラウイ, モザンビーク チテメネ 焼畑システム。広い範囲から枝のみ伐採し、狭い範 囲に集めて焼き耕作を行う。 中国 インドネシア スペイン 水田における稲作と漁業の両立 17 Sustainability Science Consortium 地球的重要農業遺産システム(GIAHS) 定義 “コミュニティや人々による巧みでダイナミックな環境 への適応と、持続的な発展に対する要望と願望から生じ る、生物多様性が高い、卓越した土地利用システムおよ びランドスケープ(FAO) “ 目的 (仮訳) GIAHSに内包される世界的に重要な農業における生物多様性のダイナミック な保全と順応的管理を推進する 18 能登と佐渡をGIAHSサイトに トキの野生復帰を契機に有機農業 を奨励 生き物の棲みやすい環境づくりを通 じて生物多様性が回復 低農薬のコメがブランド化し、高付加 価値で販売が可能に 多くの訪問者が訪れるようになり地 域の活性化にもつながる 地域の人々が失いつつある地域の 誇りを取り戻すことに Sustainability Science Consortium Sustainability Science Consortium SATOYAMAイニシアティブの行動指針 多様な生態系 サービスの安定な 享受のための 知恵の結集 伝統的智慧と 近代科学の融合 20 新たなコモンズ (共同管理のしくみ) の構築 Sustainability Science Consortium SATOYAMAイニシアチブの5つの視点 地域社会・経済への貢献 環境容量・自然復元力の 範囲内での利用 自然資源の循環利用 多様な主体の参加と協働 による自然資源管理 地域の伝統的文化 の評価 21 里山知事サミット(COP10) Sustainability Science Consortium 22 SATOYAMAイニシアティブ国際 パートナーシップ発足式(COP10) Sustainability Science Consortium 23 Sustainability Science Consortium 24 前ページまで 講演資料:持続型社会構築のビジョン「里地・里山と豊かな暮らし」 次 ページ以降 ○ 2010年(平成22年)12月19日(日曜日) 北國新聞・・・・1頁 能登の里山里海 世界農業遺産に/県と国連大が推薦/国内第1号 ○ セミナー写真 4枚(頁) 武内先生 会場の様子 中村先生 武内先生